(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】印刷用和紙
(51)【国際特許分類】
D21H 15/02 20060101AFI20241216BHJP
D21H 19/34 20060101ALI20241216BHJP
D21H 17/25 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
D21H15/02
D21H19/34
D21H17/25
(21)【出願番号】P 2020155620
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】P 2019169747
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307016180
【氏名又は名称】地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100130410
【氏名又は名称】茅原 裕二
(72)【発明者】
【氏名】寺田 直文
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216851(JP,A)
【文献】特開平05-163698(JP,A)
【文献】特開平03-167387(JP,A)
【文献】特開2018-087256(JP,A)
【文献】特開2005-299069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 15/02
D21H 19/34
D21H 17/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類からなる植物性繊維パルプを使用した印刷用和紙であって、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してカチオン混合剤を適量な濃度添加し均一に混合する第1の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してキチンナノファイバーを適量な濃度添加し均一に混合する第2の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対して顔料を適量な濃度添加し均一に混合する第3の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してアニオン定着剤を適量な濃度添加し均一に混合する第4の工程と、
前記第1の工程乃至前記第4の工程を経て製造されたことを特徴とする印刷用和紙。
【請求項2】
楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類からなる植物性繊維パルプを使用して印刷用和紙を製造する印刷用和紙の製造方法であって、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してカチオン混合剤を適量な濃度添加し均一に混合する第1の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してキチンナノファイバーを適量な濃度添加し均一に混合する第2の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対して顔料を適量な濃度添加し均一に混合する第3の工程と、
前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してアニオン定着剤を適量な濃度添加し均一に混合する第4の工程と、
を含むことを特徴とする印刷用和紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、和紙の風合い、肌触りを残しつつ印刷適性にも優れた印刷用和紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインクジェットプリンターなどで写真を印刷する用紙として、光沢紙、マット紙、絹目紙などがある。
【0003】
光沢紙とは、表面に光沢があり、ツルツルとした肌触りで一般的な写真用紙として使用されている。光沢紙で写真プリントをした場合、インクのにじみが少なく、カラーの発色が良いのが特徴であり、鮮やかな印象の写真に仕上げたい場合に適した写真用紙である。
【0004】
マット紙とは、表面に光沢がなく、しっとりとした質感の写真用紙であり、主に、落ち着いた雰囲気やクラシカルな印象に仕上げたい時に使用される。
【0005】
絹目紙とは、表面がまるで絹織物のようなサラサラとした肌触りの写真用紙であり、マット紙と同様に、表面は光沢感を抑えたタイプで、きめの細かい微粒面となっており、主に、落ち着いた雰囲気や上品さを出したい時に使用される。
【0006】
このように、写真を印刷する用紙には種々のものがあり、使用する用紙によって写真の表現も変わってくることから、用紙メーカーにおいては様々なユーザのニーズに応えられるよう日々開発を重ねている。
【0007】
例えば、平均二次粒子径が1~10μmの無機微粒子を含有する最上層を設けることによりマット感(表面の光沢性を抑えられた)を発現した記録媒体(特許文献1)がある。さらに、この記録媒体では、手触り感が十分ではないとして、マット感を有し、かつ、表面の手触り感に優れた記録媒体(特許文献2)もあり、ユーザの様々なニーズに応える用紙が日々出現している。
【0008】
このようなユーザのニーズの中に、近年、一般ユーザや写真家等のプロユーザから、インクジェットプリンターで和紙に写真を印刷したいとのニーズがある。写真を和紙に印刷すると、モノクロのグラデーションの表現や暖色の発色に独特の魅力が出ることなどがその理由である。印刷の観点から見た和紙は、印刷特性に必要なインクの吸液性は高いという利点をもつが、その一方、和紙を印刷用紙に利用するには次の3つの問題を複合的に解決する必要がある。1つ目は、和紙は表面に凹凸があり空隙が大きいため、インクドット形成不良が多く発生するという問題である。2つ目は、和紙は繊維が長く繊維間の結合力が弱いため、繊維の毛羽立ち、滲みが多く発生するという問題である。3つ目は、発色度合いを良くするためには、顔料インクが表層に留まることが必要であるが、和紙は、吸液性が高くインクが紙の表層に留まらず奥に浸透するため、発色度合を示す分光反射率は低下してしまうといった問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-231295号公報
【文献】特開2019-81325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、和紙の風合い、肌触りを残しつつ印刷適性にも優れた印刷用和紙及び印刷用和紙の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明に係る印刷用和紙は、楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類からなる植物性繊維パルプを使用した印刷用和紙であって、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してカチオン混合剤を適量な濃度添加し均一に混合する第1の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してキチンナノファイバーを適量な濃度添加し均一に混合する第2の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対して顔料を適量な濃度添加し均一に混合する第3の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してアニオン定着剤を適量な濃度添加し均一に混合する第4の工程と、前記第1の工程乃至前記第4の工程を経て製造されたことを特徴とする。
【0012】
日本工業規格(JIS)によれば、紙とは「植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したもの」と定義されており、この紙には、大きく分類すると洋紙と和紙があり、本発明は後者に関する発明である。
【0013】
洋紙とは、概略すれば、短い繊維を敷き詰めて構成された紙であり、そもそも印刷するために開発された紙であると言えることから、印刷適性が最優先に考えられ現在まで様々な改良・開発が行われている。一方、和紙とは、長い繊維を絡めて構成された紙であり、その構成から、顕微鏡等で見ると繊維が確認できる、繊維の凹凸があり触った時に確認できるといった、いわゆる和紙の風合いや肌触りといった洋紙にはない特徴があるが、その一方、そもそも印刷するために生まれたものではないことから、印刷用紙として用いた場合には上述したような問題が生ずる。すなわち、和紙の印刷適性を向上させると、上述したような和紙の風合いや肌触りが損なわれる可能性が高く、和紙の風合いや肌触りを維持することと、印刷適性を向上させることとは相容れない要求なのである。
【0014】
前記の課題を解決するために、本発明に係る印刷用和紙の製造方法は、楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類からなる植物性繊維パルプを使用して印刷用和紙を製造する印刷用和紙の製造方法であって、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してカチオン混合剤を適量な濃度添加し均一に混合する第1の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してキチンナノファイバーを適量な濃度添加し均一に混合する第2の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対して顔料を適量な濃度添加し均一に混合する第3の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してアニオン定着剤を適量な濃度添加し均一に混合する第4の工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、印刷用和紙及び印刷用和紙の製造方法において、楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類からなる植物性繊維パルプを使用し、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してカチオン混合剤を適量な濃度添加し均一に混合する第1の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してキチンナノファイバーを適量な濃度添加し均一に混合する第2の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対して顔料を適量な濃度添加し均一に混合する第3の工程と、前記植物性繊維パルプの乾燥重量に対してアニオン定着剤を適量な濃度添加し均一に混合する第4の工程と、前記第1の工程乃至前記第4の工程を経て印刷用和紙を製造した。これにより、和紙の風合いや肌触りがある、印刷適性にも優れている、といった相容れない要求の双方を満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】内添和紙と楮和紙の分光反射率の比較を表す図。
【
図2】外添和紙と楮和紙の分光反射率の比較を表す図。
【
図5】内添和紙のFE-SEM(日立ハイテクサイエンス製)による表面拡大観察画像。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について以下に詳細に説明する。
【0023】
本実施形態における印刷用和紙は、和紙で使用される植物性繊維パルプである、楮パルプ、雁皮パルプ、三椏パルプ、マニラ麻又は木材パルプのいずれか1種類又は複数種類を用いて、以下に記載される製造方法、すなわち、内添法、外添法によって作製した。なお、本実施形態においては、単繊維径(D)が2~1,000nmの天然物由来ナノファイバーとして、カニ殻から得られるキチンを更に湿式叩解又はウォータージェットで湿式粉砕して得られるキチンナノファイバーを使用し、このキチンナノファイバーを植物性繊維パルプ全量に対して、0.01~50質量%含有させた。
【0024】
<内添法>
イオン吸着等で植物性繊維パルプにあらかじめキチンナノファイバーを付着させたものを抄紙する方法であり、具体的には以下のような方法により印刷用和紙を製造した。
・工程1:パルプ離解又は叩解
上述する植物性繊維パルプの1種又は複数種を一般的な適量の水に分散させ離解機又はビーダー等で抄紙機に抄紙可能なところまで叩解する。
・工程2:カチオン定着剤混合
植物性繊維パルプの乾燥重量に対して適量な濃度添加し均一に混合する。
・工程3:キチンナノファイバー混合
水溶液にあらかじめ希釈し植物性繊維パルプの乾燥重量に対して適量な濃度添加し均一に混合する。
・工程4:顔料混合
水溶液にあらかじめ希釈し植物性繊維パルプの乾燥重量に対して適量な濃度添加し均一に混合する。
・工程5:アニオン定着剤混合
植物性繊維パルプの乾燥重量に対して適量な濃度添加し均一に混合する。
・工程6:シート作成
工程1~工程5までを行った原料を一般的な抄紙方法で抄紙する。
製造したシートの坪量は15g/m2~150g/m2の範囲で、さらに望ましくは30g/m2~80g/m2が良いが特に限定するものではない。
また、工程2、工程5で用いた植物性繊維パルプに制御的にイオン定着を促進させる薬剤を用いないで定着させる内添法でも良い。工程2、工程5がない場合は、植物性繊維パルプがもともと持つ弱い表面イオンによる吸着や、ナノファイバー等がもつ弱い相互作用による吸着のみで定着させる方法である。
【0025】
<外添法>
和紙の面の片面あるいは両面にキチンナノファイバーを塗布する方法であり、具体的には以下のような方法により印刷用和紙を製造した。
・工程1:塗工
楮和紙(45g/m2)に水溶性キチンナノファイバー、填料(高比表面積ケイ酸 顔料)を混合して表面に一般的な塗工方法により塗工する。
・工程2:トップコート塗工
一般的な水溶性高分子を適量な濃度に溶解調整し一般的な塗工方法により塗工する。
・工程3:シート乾燥
ドラムドライヤー等の一般的なシート乾燥方法で乾燥させる。
ただし、含有した填料の含有量が少ない場合は特に用いなくてもよい。
【0026】
上記内添法及び外添法によって製造された印刷用和紙の印刷適性を調べるために、分光反射率を以下の条件で測定した。なお、比較として用いたのは、楮和紙である。
<プリント条件>
・使用したプリンター:キャノン製顔料インクプリンターPro2000
・カラーチャート:黒赤青黄色
<分光反射率の測定条件>
・使用した分光測色計:コニカ・ミノルタ社製CM3700d
・モード:反射率
・測定波長:400-700nm
・処理法:正反射光処理(SCI処理)
・ターゲットマスク:Φ25.4mm
【0027】
以上のようなプリント条件及び測定条件により、内添法によって製造された印刷用和紙(以下「内添和紙」と言う)、外添法によって製造された印刷用和紙(以下「外添和紙」と言う)および楮和紙の測定結果を
図1、2に示す。
【0028】
<内添和紙の印刷適性>
図1を参照すると、楮和紙と比較して原色の3成分(赤、黄、青色)は、すべて内添和紙の分光反射率が高くなっており色鮮やかさが改善されていた(分光反射率が高いと色が鮮やか)。各原色の分光反射率の上昇率は、赤色の分光反射率(660nm)の時、楮和紙の約50%と比較して⇒約76%(26%Up)、黄色(560nm)の分光反射率は、約53%⇒約78%(25%Up)に上昇した。また、青色は(460nm)、楮和紙の31%と比較して⇒37%に上昇(5%Up)した。黒色の発色はあまり改善しなかった。この結果より、黒色の発色は従来の楮和紙に比べて改善されなかったものの、他の色においては、改善がみられ明らかに印刷適性は向上している。
【0029】
<外添和紙の印刷適性>
図2を参照すると、楮和紙と比較して原色の3成分(赤、黄、青色)は、赤色(660nm)は約50%⇒約66%(16%Up)、黄色(560nm)の分光反射率は約52%⇒約71%(19%Up)に上昇した。青色(460nm)は、楮和紙の30%⇒36%に上昇(6%Up)した。黒色の発色はあまり改善しなかった。この結果より、黒色の発色は従来の楮和紙に比べて改善されなかったものの、他の色においては、改善がみられ明らかに印刷適性は向上している。
【0030】
以上の測定結果より、内添和紙にしても外添和紙にしても、従来の楮和紙に比べて明らかに印刷適性の向上が見られた。
【0031】
次に、このように印刷適性の向上が見られた内添和紙及び外添和紙について、和紙の風合い、肌触りが残っているか否かを、その表面の状態を観察することにより調べその結果を、
図3乃至5に示す。
【0032】
図3、4は、デジタルマイクロスコープによる各用紙の表面の拡大観察画像(200倍)であって、同一の画像(本実施形態においては花の画像)を印刷し任意に3カ所選んで測定した。
図3が外添和紙の拡大観察画像、
図4がキャノン製のインクジェット専用紙の拡大観察画像である。この画像を比較すると、
図4の画像では繊維の重なりや表面の凹凸が確認できず無機系のものが敷き詰められている状態が観察されたが、外添和紙においては、繊維の重なり、表面の凹凸がはっきりと観察された。この結果から、外添和紙においては、上述のとおり従来の和紙よりも印刷適性の向上を得られつつ、和紙の風合い、肌触りを維持していることが分かる。
【0033】
図5は、日立ハイテク製の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)による内添和紙の表面の拡大観察画像(1万倍)である。この画像を見ると、植物性繊維パルプ(パルプ繊維)の空隙の間にキチンナノファイバーの繊維(キチンNF繊維)がはっきりと観察されている。特に、丸で記した箇所には、キチンナノファイバーが絡みついたパルプの重なりが観察された。この結果から、内添和紙においても、上述のとおり従来の和紙よりも印刷適性の向上を得られつつ、和紙の風合い、肌触りを維持していることが分かる。
【0034】
以上より、内添法は、抄紙前の楮繊維や麻系の繊維等にナノファイバーと酸化チタンかシリカとの複合化物を内添抄紙することにより、測色計で測定される色鮮やかさの指標になる分光反射率が向上する条件を確立した。外添法は、和紙にナノファイバーとナノケイ酸フィラーの複合化物を外添コートすることにより、測色計で測定される色鮮やかさの指標になる分光反射率が向上する条件を確立した。これらのことにより、和紙の繊維を用いて内添法や外添法により抄紙または和紙をコーティングすることで、和紙の特徴である繊維の表面の凹凸を損なうことなく各原色の分光反射率を低いもので5%高いもので26%向上(インクの発色性を向上)させた印刷用和紙が得られた。
【0035】
なお、本実施形態においては、天然物由来ナノファイバーとしてキチンナノファイバーを使用したが、他に、セルロースナノファイバーやキトサンナノファイバーも適用可能であることから、これら実施例についても検証を行なったので以下に比較例とともに記載する。
【0036】
<実施例1>
内添法によってキチンナノファイバーを付着させて作製したシートであり、具体的には下記方法により印刷用和紙を製造した。
・工程1:パルプ離解又は叩解
麻繊維パルプ60Kgを水に分散させビーダーで抄紙機に抄紙可能なところまで叩解し2%原料パルプ(以下原料パルプとする)を調整する。
・工程2:カチオン定着剤混合
カチオン定着剤10%ファイレックスR104溶液cを調整し、原料パルプに2L添加し、均一に混合する。
・工程3:キチンナノファイバー混合
2%キチンナノファイバー水溶液((株)スギノマシン製)を工程1~2で調整した原料パルプに1L添加し均一に混合する。
・工程4:顔料混合
1%レオロシール(トクヤマ製)水溶液を工程1~3で調整した原料パルプに1L添加し均一に混合する。
・工程5:アニオン定着剤混合
アニオン定着剤10%ファイレックスM溶液(明成化学工業(株)製)を調整し、工程1~4で調整した原料パルプに2L添加し、均一に混合する。
・工程6:シート作製
工程1~工程5までを行った原料パルプを一般的な抄紙方法で抄紙し、シートの坪量は50g/m2に調整した印刷用和紙(実施例1)を作製した。
【0037】
<実施例2>
上記実施例1の工程3を2%キトサンナノファイバー((株)スギノマシン製)に変更する以外は実施例1と同様の条件でシートの坪量は50g/m2に調整した印刷用和紙(実施例2)を作製した。
【0038】
<比較例1>
上記実施例1の工程1で使用する植物性繊維パルプを楮繊維パルプに変更した以外は実施例1と同様の条件でシートの坪量は50g/m2に調整した楮和紙(比較例1)を作製した。
【0039】
<比較例2>
上記実施例1の工程1と工程6(工程2~5は行わない)の条件でシートの坪量は50g/m2に調整した麻和紙(比較例2)を作製した。
【0040】
上述のようにして製造された印刷用和紙の分光反射率の測定結果を示したのが下記表1である。
<表1>
【0041】
表1を参照すると、実施例1の各色の分光反射率は、いずれの色において比較例1、2に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。
【0042】
また、製造された和紙の風合いの官能評価を、楮和紙の風合いと比較して変わらない場合は『◎』、若干変化が見られるが和紙の風合いはある場合『○』、風合いが減少した場合『△』、風合いが無くなった場合『×』として評価を行ったが、実施例1は、和紙の風合いの官能評価も『◎』であった。
【0043】
さらに、印刷特性を評価すべく、表面の毛羽立ち具合いに関しても、毛羽立ちがなく、さらに指等でこすった程度で毛羽立ちが出ない場合は『◎』、毛羽立ちがない場合『○』、若干毛羽立ちが見られる場合『△』、和紙のように毛羽立ちがある場合『×』として官能評価を行ったが、実施例1は、和紙の毛羽立ちの官能評価は『〇』であった。
【0044】
同様に実施例2に関しても比較例1、2と比較したところ、各色の分光反射率は、いずれの色において比較例1、2に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。
【0045】
また、実施例2に関しても、和紙の風合い及び毛羽立ちの官能評価を行なったが、実施例1と同様、『◎』、『〇』であった。
【0046】
次に、外添法によって製造された和紙についても比較検証を行なった。
【0047】
<実施例3>
外添法によってセルロースナノファイバーを付着させて作製したシートであり、具体的には下記方法により印刷用和紙を製造した。
・工程1:塗工
比較例1の方法で作製した楮和紙(50g/m2)に2%セルロースナノファイバー((株)スギノマシン製)をバーコーターにより塗布膜厚が10μmになるよう塗工する。
・工程2:トップコート塗工
実施例3はトップコートは行わなかった。
・工程3:シート乾燥
ドラムドライヤーで乾燥させて印刷用和紙(実施例3)を作製した。
【0048】
<実施例4>
・工程1:塗工
比較例1の方法で作製した楮和紙(50g/m2)に2%キトサンナノファイバー((株)スギノマシン製)をバーコーターにより塗布膜厚が10μmになるよう塗工する。
・工程2:トップコート塗工
実施例4はトップコートは行わなかった。
・工程3:シート乾燥
ドラムドライヤーで乾燥させて印刷用和紙(実施例4)を作製した。
【0049】
<実施例5>
・工程1:塗工
比較例1の方法で作製した楮和紙(50g/m2)に2%キチンナノファイバー((株)スギノマシン製)をバーコーターにより塗布膜厚が10μmになるよう塗工する。
・工程2:トップコート塗工
実施例4はトップコートは行わなかった。
・工程3:シート乾燥
ドラムドライヤーで乾燥させて印刷用和紙(実施例5)を作製した。
【0050】
<実施例6>
・工程1:塗工
比較例1の方法で作製した楮和紙(50g/m2)に2%キチンナノファイバー((株)スギノマシン製)と1%レオロシール(トクヤマ製)水溶液を1:1の割合で混合して得られた水溶液を和紙表面にバーコーターで塗布膜厚が10μmになるよう塗工する。
・工程2:トップコート塗工
0.01%ポリアクリルアミド水溶液(アルコックスK2、明成化学工業(株))をバーコーターで塗布膜厚が10μmになるよう塗工する。
・工程3:シート乾燥
ドラムドライヤーで乾燥させて印刷用和紙(実施例6)を作製した。
【0051】
上述のようにして製造された印刷用和紙の分光反射率の測定結果を示したのが下記表2である。
<表2>
【0052】
表2を参照すると、実施例3の各色の分光反射率は、いずれの色において比較例1(上記表1に記載のものと同一)に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。
【0053】
また、実施例3の和紙の風合いの官能評価は『〇』であり、表面毛羽立ちに関しては『◎』であった。
【0054】
同様に、表2を参照すると、実施例4の各色の分光反射率も、いずれの色において比較例1に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。また、実施例4の和紙の風合いの官能評価は『○』、表面毛羽立ちに関しては『◎』であった。
【0055】
同様に、表2を参照すると、実施例5の各色の分光反射率も、いずれの色において比較例1に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。また、実施例5の和紙の風合いの官能評価は『○』、表面毛羽立ちに関しては『◎』であった。
【0056】
同様に、表2を参照すると、実施例6の各色の分光反射率も、いずれの色において比較例1に比較して高くなっており、色鮮やかさが改善されて発色が良くなっていることが確認できる。また、実施例6の和紙の風合いの官能評価は『○』、表面毛羽立ちに関しては『◎』であった。
【0057】
以上のように、内添法及び外添法によってセルロースナノファイバーやキトサンナノファイバーを付着させて作製した場合においても、和紙の特徴である繊維の表面の凹凸を損なうことなく各原色の分光反射率を向上させた印刷用和紙が得られた。