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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】非ラメラ液晶形成脂質を含む外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/14 20170101AFI20241216BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20241216BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20241216BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241216BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241216BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241216BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241216BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20241216BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241216BHJP
   A61P 17/00 20060101ALN20241216BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20241216BHJP
   A61P 37/08 20060101ALN20241216BHJP
【FI】
A61K47/14
A61K9/70 401
A61K9/12
A61K45/00
A61K47/38
A61K47/44
A61K47/10
A61K8/37
A61Q19/00
A61P17/00
A61P25/00
A61P37/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020541328
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035419
(87)【国際公開番号】W WO2020050423
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018168365
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514157456
【氏名又は名称】株式会社ファルネックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉林 堅次
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 浩明
(72)【発明者】
【氏名】土黒 一郎
(72)【発明者】
【氏名】田能村 昌久
(72)【発明者】
【氏名】森 紗也香
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-017318(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043731(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104840(WO,A1)
【文献】特表平11-513393(JP,A)
【文献】Drug Development and Industrial Pharmacy, 2002, Vol.28 No.9, p.1155-1162
【文献】第30回日本DDS学会学術集会プログラム予稿集, 2014, p.171(1-F-16)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00
A61K 9/00
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ラメラ液晶形成脂質と薬物とを含む、粘膜適用(経口投与によるものを除く)のための外用剤であって、
非ラメラ液晶形成脂質が、下記一般式(III)で表される両親媒性化合物又はその塩である、外用剤。
【化1】
(式中、X及びYは一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数を表し、mは1又は2を表し、Rグリセロールから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す)
【請求項2】
非ラメラ液晶形成脂質が、モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロールである、請求項に記載の外用剤。
【請求項3】
非ラメラ液晶形成脂質が、モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールである、請求項に記載の外用剤。
【請求項4】
非ラメラ液晶形成脂質が外用剤中で液晶を形成していない、請求項1~のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項5】
水溶性高分子及び/又は油分をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項6】
水溶性高分子であるヒドロキシプロピルセルロースを含む、請求項に記載の外用剤。
【請求項7】
エタノールをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項8】
非ラメラ液晶形成脂質と薬物とを含む、粘膜適用(経口投与によるものを除く)のための外用剤であって、
非ラメラ液晶形成脂質が、下記一般式(III):
【化2】
(式中、X及びYは一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数を表し、mは1又は2を表し、Rグリセロールから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す)
で表される両親媒性化合物又はその塩であり、
前記非ラメラ液晶形成脂質と前記薬物とを含む微粒子を含む、外用剤。
【請求項9】
界面活性剤をさらに含む、請求項に記載の外用剤。
【請求項10】
脳内への薬物送達用の、請求項又はに記載の外用剤。
【請求項11】
エタノールをさらに含む、請求項10のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項12】
非ラメラ液晶形成脂質が、モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロールである、請求項11のいずれか1項に記載の外用剤。
【請求項13】
非ラメラ液晶形成脂質が、モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールである、請求項11のいずれか1項に記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ラメラ液晶形成脂質を含む外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚に貼付して用いる経皮吸収型製剤は、投与の簡便性や徐放性等の利点を有しており、様々な薬物について局所投与だけでなく全身投与のために使用されることも増加している。しかし皮膚は生体バリアとして物質透過を制限する機能を有しているため、経皮吸収型製剤における薬物吸収性は基本的に低いことが知られている。そこで、薬物皮膚透過を促進するため、経皮吸収型製剤には様々な経皮吸収促進剤が使用されているが、得られている経皮吸収促進効果は必ずしも十分ではない。
【0003】
リポソームなどのリオトロピック液晶は、生体模倣性薬物送達システム(DDS)キャリアとして、DDS概念の提唱時期より有用性が数多く報告されている。近年では、リオトロピック液晶の1種である非ラメラ液晶(NLLC)について、従来のDDSキャリアと比して、高い薬物含有率、調製容易性、さらには高分子医薬における高い安定性などの利点を有することが報告されている。
【0004】
様々な液晶形成化合物が化粧品分野、医薬品分野などで様々な用途に利用されている。近年、低温(6℃未満)においても高い安定性を示すキュービック液晶を形成可能な脂質化合物が開発され、徐放性製剤におけるその液晶の利用についても報告された(特許文献1)。しかしこれらの脂質化合物は粘度が高く、細い注射針(例えば30ゲージ)を通すことができないため、注射剤には使用しにくい。そこで、非ラメラ液晶を安定に形成する、より低粘度の脂質化合物が注射剤の基剤として開発された(特許文献2)。特許文献3は、この低粘度な脂質化合物が形成する液晶を含む皮膚外用剤を開示しているが、その主たる剤形はローションや乳液であり、皮膚保持性は高くない。また特許文献3は、その外用剤の皮膚以外の組織への適用についても記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/043705号
【文献】国際公開第2011/078383号
【文献】特開2012-17318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生体表面上に良好に保持され、かつ薬物透過性を増大させることができる外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、非ラメラ液晶形成脂質を用いてテープ剤などの貼付剤、エアゾール剤、液晶前駆体製剤等の製剤を製造した結果、生体表面での良好な製剤保持性と薬物透過性の増大とを実現できること、またそのような製剤が皮膚適用だけでなく粘膜適用にも適していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 非ラメラ液晶形成脂質と、薬物とを含む、外用剤。
[2] 下記一般式(I)で表される両親媒性化合物又はその塩である、上記[1]に記載の外用剤。
【化1】
(式中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数を表し、mは1又は2を表し、
は一重結合又は二重結合を表し、Rは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表す)
[3] 前記式中のRがグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基が除かれた親水性基を表す、上記[2]に記載の外用剤。
[4] 非ラメラ液晶形成脂質が、モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロール、又はモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の外用剤。
[5] 非ラメラ液晶形成脂質が、グリセリルモノオレート又はフィタントリオールである、上記[1]に記載の外用剤。
[6] 貼付剤の剤形に製剤化されている、上記[1]~[5]のいずれかに記載の外用剤。
[7] 貼付剤がテープ剤である、上記[6]に記載の外用剤。
[8] 粘着剤を70w/w%以上含む、上記[6]又は[7]に記載の外用剤。
[9] エアゾール剤の剤形に製剤化されている、上記[1]~[5]のいずれかに記載の外用剤。
[10] 非ラメラ液晶形成脂質が外用剤中で液晶を形成していない、上記[1]~[9]のいずれかに記載の外用剤。
[11] 粘膜適用のための、上記[1]~[10]のいずれかに記載の外用剤。
[12] 水溶性高分子及び/又は油分をさらに含む、上記[1]~[11]のいずれかに記載の外用剤。
[13] 水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースである、上記[12]に記載の外用剤。
[14] エタノールをさらに含む、上記[1]~[13]のいずれかに記載の外用剤。
[15] 前記非ラメラ液晶形成脂質と前記薬物とを含む微粒子を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の外用剤。
[16] 脳内への薬物送達用の、上記[1]~[15]のいずれかに記載の外用剤。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-168365号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生体表面上に良好に保持され、かつ薬物皮膚透過性を増大させることができる外用剤を提供できる。また本発明によれば、粘膜に適用して高い薬物粘膜透過性をもたらすことができる外用剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、偏光顕微鏡観察画像を示す写真である。A:製剤No.1、B:製剤No.2、C:製剤No.3、D:製剤No.4、E:製剤No.5、F:製剤No.19、G:製剤No.25、H:製剤No.26。
図2図2は、小角X線回折の結果を示す図である。A:製剤No.1、B:製剤No.2、C:製剤No.3、D:製剤No.13、E:製剤No.25、F:製剤No.26、G:製剤No.27。
図3図3は、小角X線回折の結果を示す図である。A:製剤No.37、B:製剤No.45、C:製剤No.46、D:製剤No.47、E:製剤No.48、F:製剤No.49。
図4図4は、縦型拡散セルの構造の概略図である。
図5図5は、液晶前駆体製剤からのFL-Naの皮膚透過挙動を示す図である。
図6図6は、小角X線回折の結果を示す図である。A:製剤No.52(水添加)、B:製剤No.53(水添加)、C:製剤No.56(水添加)、D:製剤No.57(水添加)、E:製剤No.56(水添加なし)。
図7図7は、スプレー剤からのFL-Naの皮膚透過挙動を示す図である。各値は平均±標準誤差(S.E.)である。
図8図8は、ライナー上での粘着層の展延を示す概略図である。矢印は粘着層の展延方向を示す。
図9図9は、テープ製剤の粘着層表面の位相像を示す写真である。A:製剤No.73、観察視野1μm x 1μm。B:製剤No.63、観察視野1μm x 1μm。C:製剤No.73、観察視野0.5μm x 0.5μm。D:製剤No.63、観察視野0.5μm x 0.5μm。
図10図10は横型拡散セルの構造の概略図である。
図11図11はテープ製剤からのFL-Naの放出挙動を示す図である。
図12図12はテープ製剤からのFL-Naの皮膚透過挙動を示す図である。
図13図13は、小角X線回折の結果を示す図である。A:製剤No.75、B:製剤No.76、C:製剤No.77。
図14図14は、適用後8時間における各製剤からのトラニラストの放出挙動を示す図である。各値は平均±標準誤差(S.E.)を表す。白抜き四角は製剤No.75、黒塗り四角は製剤No.76、白抜き三角は製剤No.78を示す。
図15図15は、鼻腔内投与後8時間における血漿中のトラニラスト濃度の推移を示す図である。各値は平均±標準誤差(S.E.)を表す。白抜き四角は製剤No.75、黒塗り四角は製剤No.76、白抜き丸は製剤No.77、白抜き三角は製剤No.78を示す。
図16図16は、鼻腔内投与後8時間における脳内のトラニラスト濃度の推移を示す図である。各値は平均±標準誤差(S.E.)を表す。白抜き四角は製剤No.75、黒塗り四角は製剤No.76、白抜き丸は製剤No.77、白抜き三角は製剤No.78を示す。
図17図17は、鼻腔内投与2、4、及び8時間後の脳内の異なる領域におけるトラニラスト濃度を示す図である。A:中脳、B:皮質、C:小脳、D:海馬。
図18図18は、鼻腔内投与2、4、及び8時間後の脳内の異なる領域におけるトラニラスト濃度を示す図である。A:脊髄、B:嗅球。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、非ラメラ液晶形成脂質と薬物とを含む外用剤に関する。本発明において、外用剤とは薬物を投与する目的で生体表面(皮膚又は粘膜など)に適用するための医薬を指す。かかる外用剤は、医薬組成物であり得る。本発明に係る外用剤は、生体表面付着性であり、生体表面で安定的に保持されることが好ましい。本発明に係る外用剤が生体表面に適用されると、外用剤中の非ラメラ液晶形成脂質により形成された液晶から薬物が放出され、その薬物は皮膚や粘膜等を効率良く透過して体内に吸収される(投与される)。本発明に係る外用剤は、薬物の皮膚や粘膜等の透過を顕著に促進することができる。
【0013】
1.非ラメラ液晶形成脂質
本発明では非ラメラ液晶を形成できる脂質(非ラメラ液晶形成脂質)を液晶形成脂質として用いることができる。本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質は、好ましくは、低分子の両親媒性化合物である。ここで「低分子」とは、約20~10,000の分子量を有することを意味する。本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質の分子量は、好ましくは50~5,000、より好ましくは100~2,500、さらに好ましくは200~1,000である。
【0014】
一実施形態では、下記一般式(I)で表される両親媒性化合物又はその塩を非ラメラ液晶形成脂質として用いることができる。
【0015】
【化2】
一般式(I)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表す。一般式(I)中、nは0~2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。一般式(I)で表される両親媒性化合物において、nとmの組み合わせは、n=0、m=1;n=0、m=2;n=1、m=1;n=1、m=2;n=2、m=1;又はn=2、m=2のいずれであってもよい。
【0016】
式中の:
は一重結合又は二重結合を表す。
【0017】
一般式(I)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表し、以下に限定するものではないが、例えば、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基が挙げられる。一般式(I)中のRは、グリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、又はキシロースから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基であることがより好ましく、グリセロールから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基であることが特に好ましい。なお、グリセリン酸から1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基は、グリセリン酸のカルボキシル基に含まれるOH(水酸基)が除かれた基であってもよい。
【0018】
なお本発明において、一般式(I)中の表記:
は当該両親媒性化合物が幾何異性体のE体(シス体)若しくはZ体(トランス体)又はそれらの混合物であることを意味する。この表記の意味は後述の一般式(II)及び(III)においても同様である。
【0019】
一般式(I)で表される両親媒性化合物の例としては、下記一般式(II)で表される両親媒性化合物が挙げられる。
【0020】
【化3】
一般式(II)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数(0、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。
【0021】
一般式(II)中のRはグリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基を表す。Rの好ましい例はグリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基であり、さらに好ましくはグリセロールから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基である。グリセリン酸から1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基は、グリセリン酸のカルボキシル基に含まれるOH(水酸基)が除かれた基であってもよい。
【0022】
一般式(I)で表される両親媒性化合物の別の例としては、下記一般式(III)で表される両親媒性化合物が挙げられる。
【0023】
【化4】
一般式(III)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。
【0024】
一般式(III)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表し、以下に限定するものではないが、例えば、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基が挙げられる。Rの好ましい例はグリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基であり、さらに好ましくはグリセロールから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基である。グリセリン酸から1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基は、グリセリン酸のカルボキシル基に含まれるOH(水酸基)が除かれた基であってもよい。
【0025】
一般式(I)で表される両親媒性化合物のさらに別の例としては、下記一般式(IV)で表される両親媒性化合物が挙げられる。
【0026】
【化5】
一般式(IV)中、X及びYはそれぞれ水素原子を表すか又は一緒になって酸素原子を表し、nは0~2の整数(好ましくは、1又は2)を表し、mは1又は2を表す。
【0027】
一般式(IV)中のRは2つ以上の水酸基を有する親水性基を表し、以下に限定するものではないが、例えば、グリセロール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、トリグリセロール、キシロース、ソルビトール、アスコルビン酸、グルコース、ガラクトース、マンノース、ジペンタエリスリトール、マルトース、マンニトール、及びキシリトールからなる群から選択されるいずれか1から1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基が挙げられる。Rの好ましい例はグリセロール、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセロール、グリセリン酸、及びキシロースからなる群から選択されるいずれか1つから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基であり、さらに好ましくはグリセロールから1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基である。グリセリン酸から1つの水酸基(OH)が除かれた親水性基は、グリセリン酸のカルボキシル基に含まれるOH(水酸基)が除かれた基であってもよい。
【0028】
一般式(I)で表される両親媒性化合物の好ましい例として、
モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロール、
モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカノイル)グリセロール、
モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4,8,12-トリエノイル)グリセロール、
モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロール、
モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカノイル)グリセロール、及び
モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエノイル)グリセロール
が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
さらに好ましい例として、モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロール、及びモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロールが挙げられる。
【0030】
本発明で用いる一般式(I)で表される両親媒性化合物は、広範な環境条件下で高い安定性を示す。例えば、一般式(I)で表される両親媒性化合物は疎水性基としてイソプレノイド鎖を有することを特徴とし、疎水性基としてオレイン酸などの直鎖脂肪鎖を有する両親媒性化合物とは異なり、加水分解に対する耐性が高く、酸化安定性も比較的高い。一般式(I)で表される両親媒性化合物はまた、液晶を取り得る温度領域が広く、クラフト温度が低く、低温(6℃以下、好ましくは0℃又はそれ以下)でも安定して液晶を形成することができる。
【0031】
また本発明で用いる一般式(I)で表される両親媒性化合物は、それ自体が低い粘度を示す。具体的には、一般式(I)で表される両親媒性化合物自体が、25℃での測定値で好ましくは15.0Pa・s以下、より好ましくは11.0Pa・s以下、さらに好ましくは6.0Pa・s以下の粘度を有する。この粘度は、例えば、粘度・粘弾性測定装置(Gemini II、マルバーン社)を使用し、温度25℃にて測定することができる。
【0032】
本発明に係る外用剤は、一般式(I)で表される両親媒性化合物の塩を含んでもよい。本発明に係る一般式(I)で表される両親媒性化合物の塩は、任意の塩であってよく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属などの塩が挙げられるが、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。本発明の一般式(I)で表される両親媒性化合物の塩は、製薬上許容される塩であってよいし、化粧料製造上許容される塩であってもよい。
【0033】
本発明は、一般式(I)で表される両親媒性化合物又はその塩を用いる外用剤に限定されず、任意の他の非ラメラ液晶形成脂質を用いることもできる。
【0034】
本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質は、例えば、グリセリン脂肪酸モノエステルであってもよい。グリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸としては、炭素数8~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が好ましい。グリセリン脂肪酸モノエステルの他の例としては、グリセリルモノオレート(GMO;別名モノオレインとも称される)、グリセリルモノイソステアレート、グリセリルモノエライジレート等が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは非ラメラ液晶形成脂質として、グリセリンモノアルキルエーテルを用いてもよい。グリセリンモノアルキルエーテルとしては、具体的には、グリセリンモノオレイルエーテル(別名オレイルグリセリルとも称される)、グリセリンモノイソステアリルエーテル(別名イソステアリルグリセリルとも称される)、グリセリンモノエライジルエーテル等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、別の非ラメラ液晶形成脂質として、フィタントリオール(PHY)等を用いることもできる。
【0035】
本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質は、混合することにより非ラメラ液晶を形成する2種以上の脂質の組み合わせや、油分等の成分との組み合わせで非ラメラ液晶を形成する脂質も包含する。このような非ラメラ液晶形成脂質は当業者に知られている。
【0036】
本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質に、油分等の1種類以上の所定の成分を加えることにより、形成される液晶構造を変化させることができる場合がある。外用剤が非ラメラ液晶形成脂質とそのような成分とを含み、当該成分を含まない場合と比較して液晶構造が変化する場合であっても、液晶構造の変化後も非ラメラ液晶を形成する限り、その外用剤及びそれに用いられる非ラメラ液晶形成脂質は、本発明における「外用剤」及び「非ラメラ液晶形成脂質」の範囲にそれぞれ含まれるものとする。
【0037】
本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質は、水性媒体(水相)中で非ラメラ液晶を形成することができる。なお発明に関して、非ラメラ液晶形成脂質を含む水性媒体を「非ラメラ液晶形成脂質/水系」又は「両親媒性化合物/水系」と称することがある。
【0038】
本発明に係る外用剤に含まれる非ラメラ液晶形成脂質は、外用剤中で非ラメラ液晶を形成しているか、又は、生体表面に適用された際に周囲の水の存在により生体表面上で非ラメラ液晶を形成するか、又は生体表面に適用された際に揮発成分(エタノールのような溶剤、噴射剤など)が揮発することにより生体表面上で非ラメラ液晶を形成する。本発明に係る外用剤に含まれる非ラメラ液晶形成脂質が形成する非ラメラ液晶は、疎水基を外側に向けて配向したII型(油中水型)の液晶であることが好ましく、キュービック液晶、逆ヘキサゴナル液晶、又はそれらの混合系であることがより好ましいが、これらに限定されない。
【0039】
非ラメラ液晶形成脂質によって形成される液晶構造の解析は、偏光顕微鏡による観察やエックス線小角散乱(SAXS)測定などの常法により行うことができる。
【0040】
例えば、液晶形成を確認するために、エックス線小角散乱(SAXS)法により、各種の液晶構造を有することを調べてもよい。通常は、まず、所定の濃度の非ラメラ液晶形成脂質/水系サンプルを例えば石英製エックス線キャピラリーチューブに入れた後、キャピラリーを酸素バーナーで封じ、SAXS測定に供すればよい。
【0041】
SAXS測定の結果、それぞれの液晶構造に特有の以下の散乱ピークの比(ピーク間隔)を示すかどうかを確認することにより、液晶形成の確認を行うことができる。
Pn3mキュービック液晶の比:
√2:√3:√4:√6:√8:√9:√10: ,,,,
Ia3dキュービック液晶の比:
√3:√4:√7:√8:√10:√11: ,,,,
Im3mキュービック液晶の比:
√2:√4:√6:√8:√10:√12:√14: ,,,,
Fd3mキュービック液晶の比:
√3:√8:√11:√12:√16:√19:√24:√27: ,,,,
逆ヘキサゴナル液晶に特有の比:
1:√3:2: ,,,,
当業者に周知の方法に従って、SAXSデータからピークの値を算出し、さらにそれらの逆数の比を求めれば容易に空間群と格子定数を決めることができる。
【0042】
本発明の外用剤に用いる一般式(I)で表される両親媒性化合物は、後述の実施例の記載を参照して、又は国際公開WO2014/178256に記載された合成法に従って合成することができる。あるいは、一般式(III)で表される両親媒性化合物は、例えば、国際公開WO2011/078383に記載された合成法に従って合成することができる。さらに、一般式(IV)で表される両親媒性化合物は、例えば、国際公開WO2006/043705に記載された合成法に従って合成することができる。
【0043】
合成された化合物については、NMR測定等の常法により、目的の化合物が得られたことを確認しておくことが好ましい。
【0044】
また、様々な他の非ラメラ液晶脂質が商業的に入手可能である。グリセリルモノオレート(GMO)やフィタントリオール(PHY)は、東京化成工業株式会社、花王株式会社、理研ビタミン株式会社(いずれも日本)等から商業的に入手可能である。オレイルグリセリルは、例えば、商品名NIKKOLセラキスアルコールVとして日光ケミカルズ株式会社(日本)から商業的に入手可能である。イソステアリルグリセリルは、例えば、商品名ペネトールGE-ISとして花王株式会社(日本)から商業的に入手可能である。
【0045】
本発明に係る外用剤は、非ラメラ液晶形成脂質を有効量で含む。本発明に係る外用剤に含まれる非ラメラ液晶形成脂質の量は、以下に限定するものではないが、外用剤の総重量に対して、通常は0.1w/w%以上、0.5w/w%以上、例えば、3w/w%以上、5w/w%以上、0.5~99.8w/w%、1~99.5w/w%、5~99w/w%、10~99.8w/w%、40~99.8w/w%、60w/w%以上、70w/w%以上、60~99.8w/w%、65~99.8w/w%、68~99w/w%、70~99.5w/w%、70~90w/w%、10~30w/w%、10~25w/w%、13~15w/w%、3~20w/w%、3~15w/w%、3~10w/w%、又は5~9w/w%であってよい。
【0046】
ここでいう「外用剤の総重量」は、外用剤として用いられる、非ラメラ液晶形成脂質と薬物を少なくとも含む組成物(好ましくは、混合又は分散組成物)の総重量を指し、その組成物を載せる支持体やその組成物を収容する容器などの他の構成部材の重量は「総重量」には含まない。
【0047】
2.薬物
本発明に係る外用剤に配合される薬物は、その外用剤を生体表面に適用することにより、生体表面に放出され、皮膚や粘膜などを透過して体内に吸収される。薬物は、生体に投与すべき任意の物質(有効成分)であってよい。但し薬物は、非ラメラ液晶形成脂質それ自体ではない。薬物は、有機化合物であっても無機化合物であってもよい。薬物は、水溶性薬物であっても脂溶性(親油性、水不溶性又は水難溶性)薬物であってもよい。薬物は、生理活性物質であってよい。薬物は、例えば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸等であってよいが、これらに限定されない。薬物は、例えば、抗がん剤、免疫抑制剤、鎮痛剤(例えば、非オピオイド鎮痛薬、モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬)、抗炎症剤、抗アレルギー剤(トラニラストなど)、ステロイド薬(トリアムシノロンアセトニドなど)、抗肥満薬、抗糖尿病薬、抗生剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、血管拡張薬、麻酔薬、禁煙補助薬(ニコチンなど)、抗精神病薬、血圧降下剤、強心剤、β遮断剤、抗貧血剤、抗高脂血症剤、気管支拡張剤、認知症治療薬、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳血管障害、又は脳腫瘍などに対する脳・中枢神経系疾患治療薬、慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療薬、緑内障治療薬、白内障治療薬、加齢黄斑変性治療薬、過活動膀胱治療薬、注意欠陥/多動性障害治療薬、ホルモン剤、ワクチンなどであってよいが、これらに限定されない。
【0048】
3.外用剤の剤形及び組成
本発明に係る外用剤は、全身投与用であっても、局所投与用であってもよい。本発明に係る外用剤は、任意の剤形に製剤化されてもよい。本発明に係る外用剤は、以下に限定されないが、貼付剤、例えば、テープ剤(プラスター剤とも称される)、パップ剤など;スプレー剤、例えば、エアゾール剤、ポンプスプレー剤(手動式又は動力式噴霧)など;軟膏剤、クリーム剤、口腔剤、経鼻剤、坐剤、膣剤等の剤形を有していてもよい。スプレー剤とは、手動、動力、噴射剤(ガス)又は他の任意の手段によって圧力をかけることにより、薬物を噴出させる剤形の医薬製剤を指す。本発明に係る外用剤は、非ラメラ液晶形成脂質と薬物とを含む微粒子(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子)を含んでもよい。本発明に係る外用剤は、分散体(dispersion)であってもよく、例えば、当該微粒子(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子)の分散液を含んでもよい。本発明は、本発明に係る外用剤を含むこれらの任意の剤形の製剤も提供する。
【0049】
本発明に係る外用剤は、生体表面、好ましくは皮膚(皮膚表面)に適用するためのものであってよい。あるいは本発明に係る外用剤は、粘膜(粘膜表面)に適用するためのものであってよい。本発明に係る外用剤は、薬物の皮膚又は粘膜の透過を促進することができる。本発明に係る外用剤は、皮膚適用だけでなく、粘膜適用にも好適である。
【0050】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、水性媒体を含んでもよい。水性媒体としては、以下に限定するものではないが、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水などの水;生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝液やトリス塩酸緩衝液などの緩衝液等であってよい。水性媒体は、生理学的に許容される水又は水溶液であることが好ましい。水性媒体は、例えば薬物などの外用剤の成分を溶解、分散、又は懸濁等により含んでいるものであってもよい。
【0051】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、水溶性高分子を含んでもよい。水溶性高分子としては、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カーボポール、カラギーナン、キトサン、コンドロイチン酸塩、キサンタンガム、ヒアルロン酸塩(ヒアルロン酸ナトリウムなど)、アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウムなど)、ゼラチン、デキストラン等が挙げられるが、これらに限定されない。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)としては、例えば、日本曹達株式会社(日本)から市販されている、HPC-SSL(分子量40,000程度、粘度2~2.9mPa・s)、HPC-SL(分子量100,000程度、粘度3~5.9mPa・s)、HPC-L(分子量140,000程度、粘度6~10mPa・s)、HPC-M(分子量620,000程度、粘度150~400mPa・s)、及びHPC-H(分子量910,000程度、粘度1000~4000mPa・s)の、5種類のグレードのHPCが挙げられる。一実施形態では、ヒドロキシプロピルセルロースは、分子量1000,000以下、又は800,000以下、例えば10,000~700,000又は10,000~80,000のものであってもよい。
【0052】
本発明に係る外用剤に含まれる薬物の量は、以下に限定するものではないが、外用剤の総重量に対して、典型的には、0.0001w/w%以上、例えば、0.0001~10w/w%、0.0005~5w/w%、0.0005~1w/w%、0.001~5w/w%、0.001~1w/w%、0.001~0.1w/w%、0.001~0.05w/w%、0.001~0.01w/w%、0.01~5w/w%、0.01~1w/w%、0.01~0.1w/w%、0.05~1w/w%、又は0.1~0.5w/w%であってよい。「外用剤の総重量」の意味は上記のとおりである。なお本発明に関して、w/w%は、重量/重量%を意味し、質量/質量%と互換的に用いられる。
【0053】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、油分を含んでもよい。油分としては、以下に限定するものではないが、例えば、炭化水素油、エステル油、及び植物油や動物油などの油脂、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸などの高級脂肪酸、脂溶性ビタミン等が挙げられる。油分の具体的な例としては、例えば、スクアレン、スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ヒマシ油、オリーブ油、トコフェロール、及び酢酸トコフェロール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本発明の外用剤は、他の成分として、界面活性剤を含んでもよい。本発明で用いる界面活性剤の例として、親水性のエチレンオキシドと疎水性のプロピレンオキシドのブロック共重合体(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油をはじめとする、非イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、分子量が1000以上(より好ましくは、5000以上)のものがより好ましい。エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体としては、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(120)ポリオキシプロピレン(40)グリコールなどが挙げられる。これらエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体は、プルロニック(R)、ポロキサマー(R)、ユニルーブ(R)、プロノン(R)などの様々な名称で市販されている。界面活性剤の特に好ましい例として、ポリオキシエチレン(200)ポリオキシプロピレン(70)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(別名:プルロニック(R)F127;ユニルーブ70DP-950B、ポロキサマー(R)407)等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、本発明において、本発明で用いる非ラメラ液晶形成脂質は界面活性剤の範囲に含めないものとする。本発明の外用剤はこのような界面活性剤を1種又は2種以上含んでもよい。
【0055】
本発明の外用剤は界面活性剤を、外用剤の総重量に対して、典型的には、0.001w/w%以上、例えば、0.01w/w%以上、好ましくは0.05w/w%以上、より好ましくは0.1w/w%以上、例えば0.01~10w/w%、0.1~5w/w%、0.3w/w%以上、0.3~2w/w%、0.3~1.5w/w%、0.3~1w/w%、又は0.55~0.9w/w%含んでもよい。
【0056】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、エタノール(本発明に関して、特に記載しない限り、無水エタノールを指す)を含んでもよい。なお、エタノール(無水エタノール)は水性媒体ではない。
【0057】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ブチレングリコール等の製薬上許容される水溶性有機化合物を含んでもよい。
【0058】
本発明に係る外用剤は、他の成分として、製薬上許容される他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、担体、賦形剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤、着色剤、着香剤、pH調整剤、分散剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本発明に係る外用剤中では、非ラメラ液晶形成脂質は、液晶(特に、非ラメラ液晶)を形成していてもよいが、形成していなくてもよい。非ラメラ液晶形成脂質が外用剤中で液晶を形成していない場合、その外用剤は液晶前駆体製剤とも称される。水性媒体を含まないか又は十分な量を含まない本発明に係る外用剤中では、非ラメラ液晶形成脂質は液晶を形成しないので、当該外用剤は液晶前駆体製剤である。
【0060】
本発明に係る外用剤を、生体表面、好ましくは皮膚又は粘膜に適用することにより、外用剤に含まれる薬物を生体に投与することができる。本発明は、本発明に係る外用剤を、生体表面、好ましくは皮膚又は粘膜に適用することを含む、薬物送達方法又は薬物投与方法も提供する。本発明に係る外用剤の適用対象は、特に限定されないが、典型的には動物であり、好ましくは、ヒト等の霊長類、家畜、イヌ、ネコ、ウサギ等の愛玩動物、実験動物等を含む哺乳動物や鳥類である。
以下、好ましい剤形の外用剤についてさらに詳しく説明する。
【0061】
4.貼付剤
本発明に係る外用剤は、貼付剤の剤形に製剤化されていてもよい。本発明は、本発明に係る外用剤を含む貼付剤も提供する。本発明において貼付剤とは、皮膚又は粘膜に付着させて用いる、薬物の経皮又は経粘膜吸収を目的とした医薬製剤を指す。貼付剤は局所作用型であっても全身作用型であってもよい。貼付剤は粘着層を有する。貼付剤の粘着層は粘着剤(より好ましくは、脂溶性粘着剤)を含む組成物であることが好ましく、粘着剤に加えて非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含むことが好ましい。貼付剤(patches)としては、以下に限定するものではないが、テープ剤(プラスター剤とも称される)、パップ剤(cataplasms)などが挙げられる。
【0062】
テープ剤は感圧粘着剤を基剤として用いた粘着層を有する製剤である。その粘着層は、感圧粘着剤、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物であることが好ましい。一実施形態では、テープ剤は、感圧粘着剤、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む粘着層と、支持体とを備える。好ましい一実施形態では、テープ剤は、感圧粘着剤、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む粘着層と、ライナー(剥離シート)と、支持体とを備えたいわゆるマトリックス型製剤である。テープ剤に用いられる感圧粘着剤は脂溶性高分子であることが好ましい。感圧粘着剤としては、以下に限定されるものではないが、アクリル系、ウレタン系、ゴム系、又はシリコン系粘着剤が挙げられる。アクリル系粘着剤としては、以下に限定するものではないが、DURO-TAK(R)(ヘンケル社)、例えばDURO-TAK(R)387-2516が挙げられる。
【0063】
支持体は、貼付剤に使用可能な任意の形状であってよいが、好ましくはシート状基材である。支持体としては、例えば、公知の支持体を用いることができる。支持体は、例えば、貼付剤の支持体として適している任意の材料であってよく、例えば、重合体フィルム等のフィルム、不織布又は織布などの布、紙等であってよい。支持体は、例えば、ポリエステル、ポリエチレン(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリウレタン、ポリアミド等から構成されるものであってもよい。支持体の厚みは、以下に限定されないが、一般的には5μm~500μm、好ましくは10~300μm、例えば10~200μm、10~100μm、25~100μm、50μm~300μm又は60μm~200μmである。
【0064】
剥離シートとしては、貼付剤に使用可能な任意のものを用いることができ、例えば公知の剥離フィルムを用いることができる。剥離シートは、例えば、粘着層との接触面にフッ素樹脂、シリコーン樹脂等の層を有する、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の重合体フィルム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、若しくは紙等、又はそれらの複数材料を使用したラミネートフィルム等から構成されるものであってもよい。剥離シートの厚みは、以下に限定されないが、一般的には5~500μm、好ましくは10~300μm、例えば10~200μm、25~100μm、50μm~300μm、又は60μm~200μmである。
【0065】
貼付剤における粘着層の厚みは、以下に限定されないが、一般的には5μm~1mm、好ましくは5~500μm、例えば5~200μm、10~100μm、又は20~50μmである。
【0066】
非ラメラ液晶形成脂質、及び薬物については上述されたとおりである。
【0067】
一実施形態では、貼付剤、例えばテープ剤の粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質の量は、液晶を形成可能な量であることが好ましい。非ラメラ液晶形成脂質については上述されたとおりである。より具体的には、粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、通常は0.1w/w%以上、好ましくは5w/w%以上、例えば、1~20w/w%、1~10w/w%、5~20w/w%、5~10w/w%、10~30w/w%、10~25w/w%、又は13~15w/w%である。
【0068】
粘着層中の薬物の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、通常は0.0001w/w%以上、好ましくは0.0005~5w/w%、より好ましくは0.001~5w/w%、例えば0.001~1w/w%、0.01~1w/w%、0.05~1w/w%、又は0.1~0.5w/w%である。
【0069】
粘着層中の粘着剤(例えば、感圧粘着剤)の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して典型的には70w/w%以上、好ましくは75w/w%以上、より好ましくは75~90w/w%、75~85w/w%、80~95w/w%、又は85~95w/w%、85~90w/w%、例えば80w/w%又は90w/w%である。
【0070】
一実施形態では、貼付剤、例えばテープ剤の粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と粘着剤の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、それぞれ、1~20w/w%、75~90w/w%であってよい。別の実施形態では、貼付剤、例えばテープ剤の粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と粘着剤の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、それぞれ、1~10w/w%、85~95w/w%であってよい。別の実施形態では、貼付剤、例えばテープ剤の粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と粘着剤の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、それぞれ、10~15w/w%、75~85w/w%であってよい。別の実施形態では、貼付剤、例えばテープ剤の粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と粘着剤の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、それぞれ、13~15w/w%、75~85w/w%であってよい。
【0071】
貼付剤、例えばテープ剤の粘着層は、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物と共に、水性媒体(例えば、水)を含むことが好ましい。水性媒体を含むことにより、貼付剤中で非ラメラ液晶形成脂質が液晶を形成し、薬物が液晶に内包される。水性媒体については上述されたとおりである。あるいは、貼付剤自体は水性媒体を含まなくてもよく、その場合、貼付剤が生体表面に適用された際に周囲の水の存在により生体表面上で非ラメラ液晶形成脂質が液晶を形成し、薬物がその液晶に内包されてもよい。一実施形態では、水性媒体は、薬物又は他の成分を含む液として粘着層組成物に配合されてもよい。粘着層中の水性媒体の量は、以下に限定されるものではないが、粘着層の総重量に対して、通常は0.1w/w%以上、好ましくは0.5w/w%以上、より好ましくは1w/w%以上、例えば、5w/w%以上、3~30w/w%、5~10w/w%、10~30w/w%、10~25w/w%、又は13~15w/w%である。一実施形態では、粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と水性媒体の重量比は、好ましくは1:5~5:1であってよく、例えば1:1~10:1、1:1~5:1、1:1~3:1、1.5:1~10:1、2:1~5:1であってよく、好ましい例では2:1~3:1である。粘着層中の非ラメラ液晶形成脂質と粘着剤の重量比は、例えば1:2~1:20であってよく、好ましくは1:2~1:15、1:3~1:10、1:3~1:8、又は1:5~1:7である。
【0072】
粘着層は、他の成分をさらに含んでもよい。他の成分については、本発明に係る外用剤に関して上述したとおりである。
【0073】
貼付剤、例えばテープ剤の製造は、当業者に公知の技術を用いて行えばよい。一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、及び水性媒体、並びに場合により他の成分を均一に混合することにより液晶ゲルを調製した後、粘着剤を混合して粘着層組成物を調製し、その粘着層組成物をライナー上に展延し、粘着層を乾燥させ、粘着層を支持体に圧着させて固定し、必要に応じて一定のサイズに切り出すことにより、貼付剤、例えばテープ剤を製造することができる。あるいは、貼付剤、例えばテープ剤は、上記のようにして液晶ゲルを調製した後、粘着剤を混合して粘着層組成物を調製し、その粘着層組成物を支持体上に塗布し、粘着層を乾燥させた後、粘着層にライナーを貼り合わせ、必要に応じて一定のサイズに切り出すことにより、製造してもよい。貼付剤、例えばテープ剤は、患部への貼付に適したサイズ及び/又は形状で作製されていてもよいし、所定のサイズ及び/又は形状で作製され、使用時に適切なサイズ及び/又は形状に切断して用いるものであってもよい。
【0074】
このような貼付剤、例えばテープ剤においては、非ラメラ液晶形成脂質により形成された液晶に薬物が取り込まれ、貼付剤が皮膚や粘膜などの生体表面に適用されると、皮膚や粘膜における薬物透過性を増大させるように機能する。
【0075】
本発明に係る貼付剤、例えばテープ剤を、対象(例えば、哺乳動物)の生体表面、好ましくは皮膚又は粘膜に適用(貼付)することにより、貼付剤に含まれる薬物を、経皮又は経粘膜的に、対象に投与することができる。対象については上述のとおりである。本発明はこのような薬物の投与方法又は送達方法も提供する。
【0076】
5.エアゾール剤
本発明に係る外用剤は、エアゾール剤の剤形に製剤化されていてもよい。本発明は、本発明に係る外用剤を含むエアゾール剤も提供する。本発明においてエアゾール剤とは、同一容器内に薬物とともに充填した噴射剤の圧力により薬物を噴出させる剤形の医薬製剤を指す。エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤からなる。噴射剤の例としては、液化ガス及び/又は圧縮ガスが挙げられる。液化ガスとしては、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)等が挙げられる。圧縮ガスとしては、二酸化炭素、窒素、空気等が挙げられる。本発明に係るエアゾール剤においては、噴射剤として液化ガスがより好ましく、LPGがさらに好ましい。
【0077】
本発明に係るエアゾール剤は、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤が容器に充填されたものであることが好ましい。非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物は液体であることが好ましく、水性であることが好ましい。言い換えると、エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、及び噴射剤に加えて、水性媒体を含むことが好ましい。水性媒体を含むことにより、非ラメラ液晶形成脂質が液晶を形成し、薬物がその液晶内に内包される。あるいは、エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、水性媒体を含まなくてもよいが、その場合、外用剤中の非ラメラ液晶形成脂質は適用部位に存在する水性媒体(例えば、体内の水分、又は添加された水などの外来水分)により非ラメラ液晶を形成し、薬物がその液晶内に内包される。本発明に係るエアゾール剤が生体表面に適用されると、エアゾール剤中の揮発成分(エタノールのような溶剤、噴射剤など)が揮発し、生体表面上で非ラメラ液晶が形成され得る。本発明に係るエアゾール剤において、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤は、容器内で混合されていてもよいし、複数の相に分離していてもよい。非ラメラ液晶形成脂質、薬物、水性媒体については上述されたとおりである。
【0078】
一実施形態では、エアゾール剤に用いる非ラメラ液晶形成脂質の量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤を合計した総重量(外用剤の総重量;以下同様)に対して、通常は0.1w/w%以上、好ましくは0.5w/w%以上、より好ましくは1w/w%以上、例えば1~40w/w%、3w/w%以上、3~40w/w%、3~20w/w%、3~15w/w%、3~10w/w%、10~30w/w%、又は5~9w/w%である。
【0079】
一実施形態では、エアゾール剤に用いる薬物の量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填されたエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤を合計した総重量に対して、通常は0.0001w/w%以上、好ましくは0.0005~5w/w%、例えば、0.0005~1w/w%、0.001~5w/w%、0.001~10w/w%、0.001~1w/w%、0.001~0.1w/w%、0.001~0.05w/w%、0.001~0.01w/w%、0.01~0.1w/w%、0.1~3w/w%、又は0.1~1w/w%である。
【0080】
一実施形態では、エアゾール剤に用いる噴射剤の量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填されたエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤を合計した総重量に対して、通常は40w/w%以上、好ましくは50w/w%以上、例えば、50~90w/w%、50~85w/w%、50~80w/w%、60~85w/w%、60~80w/w%、60~70w/w%、又は65~75w/w%である。
【0081】
一実施形態では、エアゾール剤に用いる水性媒体の量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対して、通常は0.1w/w%以上、好ましくは0.5w/w%以上、より好ましくは1w/w%以上、例えば3w/w%以上、5w/w%以上、0.1~30w/w%、1~30w/w%、3~30w/w%、3~20w/w%、3~15w/w%、1~10w/w%、3~10w/w%、5~10w/w%、又は5~9w/w%である。
【0082】
一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質と水性媒体の重量比は、好ましくは1:5~5:1、1:2~2:1、1:1.5~1.5:1であってよく、例えば1:1.3~1.3:1、1:1.1~1.1:1であってよく、好ましい一例では1:1である。あるいは、非ラメラ液晶形成脂質と水性媒体の重量比は、1:1~10:1、又は1.5:1~5:1、例えば、1:1、1.5:1、2:1、3:1、4:1、又は5:1であってもよい。
【0083】
エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、界面活性剤をさらに含んでもよいが、含まなくてもよい。一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物が界面活性剤を含む。界面活性剤については上述されたとおりである。エアゾール剤に用いる界面活性剤の好ましい例として、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(別名:プルロニック(R)F127が挙げられるが、これに限定されない。一実施形態では、エアゾール剤に用いる界面活性剤の量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対して、通常は0.01w/w%以上、好ましくは0.05w/w%以上、より好ましくは0.1w/w%以上、例えば0.05w/w%~15w/w%、0.1~5w/w%、0.3w/w%以上、0.3~10w/w%、0.3~2w/w%、0.3~1.5w/w%、0.3~1w/w%、又は0.55~0.9w/w%である。
【0084】
一実施形態では、エアゾール剤における非ラメラ液晶形成脂質と界面活性剤の重量比は、好ましくは3:1~20:1、又は5:1~20:1であってよく、例えば、3:1~11:1、7:1~17:1、又は8:1~15:1、8:1~13:1、9:1~11:1であってよく、好ましい一例では10:1である。
【0085】
エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、エタノールをさらに含むことが好ましい。非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物がエタノールを含む。エタノールを配合することにより、薬物皮膚透過性がさらに増大する。
【0086】
一実施形態では、エアゾール剤に用いるエタノールの量は、以下に限定されるものではないが、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対して、1w/w%以上であってよく、好ましくは3w/w%以上、例えば、5w/w%以上、7w/w%以上、1~30w/w%、1~20w/w%、5~60w/w%、5~30w/w%、5~25w/w%、7~20w/w%、10~20w/w%、13~50w/w%、13~20w/w%、又は15~18w/w%である。
【0087】
一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物の総重量(噴射剤を含まない)に対するエタノールの量は、以下に限定するものではないが、例えば、20~60w/w%、又は30~50w/w%であってよい。
【0088】
一実施形態では、エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、薬物と、非ラメラ液晶形成脂質(例えば、一般式(I)で表される両親媒性化合物又はグリセリン脂肪酸モノエステル、好ましくは、モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロール、又はモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロール)と、界面活性剤(好ましくは、プルロニック(R)F127)と、エタノールと、噴射剤(好ましくは、LPG)とを含んでもよい。この場合、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対するエタノールの量は、上記のとおりであってよいが、好ましくは、5~25w/w%、13~20w/w%、又は15~18w/w%である。この場合、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対する噴射剤の量は、好ましくは50~85w/w%、60~80w/w%、又は60~70w/w%である。一実施形態では、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対するエタノールの量を5~25w/w%とし、噴射剤の量を60~80w/w%としてもよい。一実施形態では、容器に充填したエアゾール原料の総重量、典型的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物と噴射剤の重量の合計に対するエタノールの量を15~18w/w%とし、噴射剤の量を60~70w/w%としてもよい。
【0089】
エアゾール剤の剤形に製剤化された本発明に係る外用剤は、他の成分をさらに含んでもよい。そのような他の成分は、基本的には、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含む組成物中に含まれる。他の成分については、本発明に係る外用剤に関して上述したとおりである。
【0090】
エアゾール剤の製造は、当業者に公知の技術を用いて行えばよい。一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、水性媒体、並びに場合により界面活性剤及び他の成分を、均一に混合し、さらに必要に応じて、エタノールを添加して混合することにより組成物を調製し、エアゾール原液として容器に入れ、次いでガス充填バルブなどを用いて当該容器に噴射剤を充填することにより、エアゾール剤を製造することができる。別の実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、並びに場合により界面活性剤及び他の成分を、均一に混合し、さらに必要に応じて、エタノールを添加して混合することにより組成物を調製し、エアゾール原液としてもよい。
【0091】
このようなエアゾール剤を用いた噴霧により、生体表面の適用部位に安定的に形成・付着した、薬物を内包した液晶は、優れた薬物透過性をもたらす。
【0092】
本発明に係るエアゾール剤を、対象(例えば、哺乳動物)の生体表面、好ましくは皮膚又は粘膜に適用(噴霧)することにより、エアゾール剤に含まれる薬物を、経皮又は経粘膜的に、対象に投与することができる。対象については上述のとおりである。本発明はこのような薬物の投与方法又は送達方法も提供する。
【0093】
6.液晶前駆体製剤
本発明に係る外用剤は、その外用剤中では非ラメラ液晶形成脂質が液晶(非ラメラ液晶)を形成していないものであってもよい。本発明に係る外用剤が、水性媒体を含まないか又は非ラメラ液晶形成脂質が液晶を形成するのに十分な量で水性媒体を含まない場合、非ラメラ液晶形成脂質はその外用剤中で液晶を形成しない。しかしながら、そのような外用剤を水の存在下で生体表面に適用すると、非ラメラ液晶形成脂質は生体表面上で液晶を形成し、生体表面に安定的に付着する。本発明は、非ラメラ液晶形成脂質が液晶を形成していない本発明に係る外用剤、すなわち液晶前駆体製剤も提供する。
【0094】
液晶前駆体製剤である本願発明に係る外用剤は、好ましくは、非ラメラ液晶形成脂質及び薬物を含み、一方で水性媒体を含まないか又は十分な量を含まない組成物である。非ラメラ液晶形成脂質、薬物、及び水性媒体については上述されたとおりである。
【0095】
一実施形態では、液晶前駆体製剤に用いる非ラメラ液晶形成脂質の量は、以下に限定されるものではないが、液晶前駆体製剤(外用剤)の総重量に対して、10w/w%以上であってよく、好ましくは30w/w%以上若しくは50w/w%以上、より好ましくは60w/w%以上、例えば70w/w%以上、50~99.8w/w%以上、60~99.8w/w%以上、65~99.8w/w%、65~99.5w/w%、68~99w/w%、70~99.5w/w%、又は50~90w/w%若しくは70~90w/w%である。
【0096】
一実施形態では、液晶前駆体製剤に用いる薬物の量は、以下に限定されるものではないが、液晶前駆体製剤(外用剤)の総重量に対して、通常は0.0001w/w%以上、好ましくは0.0001~10w/w%、例えば、0.0005~5w/w%、0.0005~1w/w%、0.001~5w/w%、0.001~1w/w%、又は0.001~0.1w/w%である。
【0097】
液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、好ましくは、水溶性高分子をさらに含む。水溶性高分子については上述されたとおりである。水溶性高分子の好ましい例として、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、例えば、HPC-SSL、HPC-SL、HPC-L、HPC-M、及びHPC-Hが挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
一実施形態では、液晶前駆体製剤中の水溶性高分子の量は、以下に限定されるものではないが、液晶前駆体製剤(外用剤)の総重量に対して、0.01w/w%以上であってよく、好ましくは0.1w/w%以上、例えば0.1~10w/w%、1~5w/w%、又は0.5~2w/w%である。
【0099】
液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、エタノールをさらに含んでもよいし、含まなくてもよい。一実施形態では、液晶前駆体製剤中のエタノールの量は、以下に限定されるものではないが、液晶前駆体製剤(外用剤)の総重量に対して、1w/w%以上であってよく、好ましくは4w/w%以上、例えば5~40w/w%、5~30w/w%、10~30w/w%である。
【0100】
液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、油分をさらに含んでもよいし、含まなくてもよい。油分については上述されたとおりである。油分の好ましい例として、スクアレン、スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、トコフェロール等が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、液晶前駆体製剤中の油分の量は、以下に限定されるものではないが、液晶前駆体製剤(外用剤)の総重量に対して、0.01w/w%以上であってよく、例えば0.01~60w/w%、0.1~40w/w%、1~30w/w%、1~10w/w%、又は1~8w/w%である。
【0101】
一実施形態では、液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、薬物と、非ラメラ液晶形成脂質(例えば、一般式(I)で表される両親媒性化合物又はグリセリン脂肪酸モノエステル、好ましくは、モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロール、又はモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロール)と、水溶性高分子(好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース)と、エタノールとを含んでもよい。
【0102】
液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、他の成分をさらに含んでもよい。他の成分については、本発明に係る外用剤に関して上述したとおりである。
【0103】
液晶前駆体製剤の製造は、当業者に公知の技術を用いて行えばよい。液晶前駆体製剤は、上記の原料をよく混合することにより、製造することができる。一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質に、水溶性高分子、エタノール、並びに場合により油分等をよく混合し、そこに薬物を添加してよく混合することにより、液晶前駆体製剤を製造することができる。あるいは、薬物、エタノール、並びに場合により水溶性高分子、及び油分等をよく混合し、そこに非ラメラ液晶形成脂質を添加して混合することにより、液晶前駆体製剤を製造することもできる。また単に、非ラメラ液晶形成脂質、薬剤、水溶性高分子、油分等をよく混合することにより、液晶前駆体製剤を製造してもよい。
【0104】
このような液晶前駆体製剤は、生体表面に適用された際、水の存在下で、薬物を内包した液晶を形成し、適用部位に安定的に付着し、優れた薬物透過性をもたらす。
【0105】
本発明に係る液晶前駆体製剤は、皮膚に適用することもできるが、粘膜に適用することがより好ましい。本発明に係る液晶前駆体製剤を粘膜に適用することにより、非ラメラ液晶形成脂質が生体由来の水と接触し、粘膜表面で非ラメラ液晶形成脂質による液晶(非ラメラ液晶)の自己形成が起こる。これにより、薬物を内包した液晶が粘膜に安定的に付着し、優れた薬物粘膜透過性をもたらす。したがって本発明は、皮膚適用製剤だけでなく、粘膜適用製剤も提供する。液晶前駆体製剤である本発明に係る外用剤は、粘膜適用のために特に好ましい。
【0106】
本発明に係る液晶前駆体製剤を、対象(例えば、哺乳動物)の生体表面、好ましくは粘膜又は皮膚に適用(例えば、噴霧、塗布、滴下など)することにより、液晶前駆体製剤に含まれる薬物を、経粘膜的又は経皮に、対象に投与することができる。本発明に係る液晶前駆体製剤を皮膚に適用する場合には、予め水性媒体で濡れた皮膚に適用するか又は皮膚への製剤適用後に水性媒体を製剤に添加することが好ましい。対象及び水性媒体については上述のとおりである。本発明はこのような薬物の投与方法又は送達方法も提供する。
【0107】
7.微粒子を含有する外用剤
本発明は、上記非ラメラ液晶形成脂質と上記薬物とを含む微粒子を含む外用剤も提供する。本発明に係る外用剤は、分散液(エマルション)などの分散体であってもよい。本発明に係る外用剤は、非ラメラ液晶形成脂質と薬物とを含む微粒子の分散体、例えば分散液(微粒子分散液)を含んでもよい。分散体、例えば分散液は、分散媒、例えば、水などの水性媒体中に、上記非ラメラ液晶形成脂質及び上記薬物を含み、さらに界面活性剤などの分散化剤を含むことが好ましい。分散体、例えば分散液は、場合によりエタノールなどの溶剤、及び/又は油分をさらに含んでもよい。
【0108】
本発明において「微粒子」とは、1mm未満の平均粒子径を有する粒子を指す。本発明に係る「微粒子」は、マイクロ粒子又はナノ粒子であってよい。本発明において「マイクロ粒子」とは、1μm以上で1mm未満の平均粒子径を有する粒子を指す。本発明において「ナノ粒子」とは、1nm以上で1μm未満の平均粒子径を有する粒子を指す。本発明において「分散体」とは、任意の分散媒中に微粒子を分散状態で含むものを指す。本発明において「微粒子分散液」とは、微粒子を分散状態で含む液体媒体(例えば、水、又は生理食塩水などの生理学的に許容される水溶液のような水性媒体)を指す。「マイクロ粒子分散液」及び「ナノ粒子分散液」とは、それぞれ、マイクロ粒子又はナノ粒子を分散状態で含む液体媒体(例えば、水、又は生理食塩水などの生理学的に許容される水溶液のような水性媒体)を指す。本発明に係る微粒子、例えばマイクロ粒子又はナノ粒子は、非ラメラ液晶形成脂質を主成分として構成され、その内部に薬物を含むことができる。微粒子、例えばマイクロ粒子又はナノ粒子は、液晶相を分散させることによって調製することができる。一実施形態では、微粒子、例えばマイクロ粒子又はナノ粒子は、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、水性媒体、界面活性剤などの分散化剤、及び必要に応じて他の成分を含む懸濁液を高圧分散、超音波処理等により分散させることによって得られた分散液(エマルション)として調製することができる。
【0109】
微粒子の調製に用いる非ラメラ液晶形成脂質は、上記の任意の非ラメラ液晶形成脂質であってよい。一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質は、一般式(I)で表される両親媒性化合物であってよく、例えばモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールであってよい。別の実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質は、グリセリン脂肪酸モノエステル、例えばグリセリルモノオレートであってよい。
【0110】
微粒子は、上記の任意の薬物を含むことができるが、一実施形態では脂溶性(親油性)薬物であり得る。
【0111】
本発明に係る「微粒子」は、以下に限定するものではないが、好ましくは1nm以上1mm未満、例えば、1nm~500μm、10nm~500μm、50nm~500μm、10nm~1μm、又は50nm~50μmの平均粒子径を有するものであってよい。本発明に係るナノ粒子は、以下に限定するものではないが、好ましくは1nm~500nm、例えば、50nm~500nm、100nm~400nm、又は100nm~300nmの平均粒子径を有するものであってよい。
【0112】
上記の微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液は、非ラメラ液晶形成脂質と薬物に加えて、上記の任意の他の成分を含むことができる。一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液は、上記の任意の界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール(別名:プルロニック(R)F127)などの、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体を含むことも好ましい。一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液は、エタノールなどの溶剤を含んでもよい。一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液は、界面活性剤とエタノールを含んでもよい。一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液は、上記の油分、上記の水溶性有機化合物、及び/又は製薬上許容される他の添加剤を含んでもよい。
【0113】
一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液における非ラメラ液晶形成脂質と分散化剤の重量比は、以下に限定するものではないが、好ましくは非ラメラ液晶形成脂質:分散化剤=1:1~100:1、例えば3:1~50:1、3:1~10:1、5:1~40:1、10:1~30:1、10:1~25:1、又は15:1~25:1であってよい。
【0114】
一実施形態では、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液にエタノールなどの溶剤を用いる場合、非ラメラ液晶形成脂質に対するエタノールなどの溶剤の重量比は、以下に限定するものではないが、好ましくは非ラメラ液晶形成脂質:溶剤(例えば、エタノール)=1:10~10:1、例えば1:1~10:1、1.5:1~5:1、2:1~10:1、又は5:1~10:1であってよい。
【0115】
一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、分散化剤(界面活性剤など)、及び溶剤(エタノールなど)の量は、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液の総重量に対し、例えば、それぞれ、1~40w/w%、0.001~10w/w%、0.05~15w/w%、及び1~30w/w%であってよい。別の実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、分散化剤(界面活性剤など)、及び溶剤(エタノールなど)の量は、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液の総重量に対し、例えば、それぞれ、10~30w/w%、0.1~3w/w%、0.3~10w/w%、及び1~20w/w%であってよい。
【0116】
一実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、及び分散化剤(界面活性剤など)の量は、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液の総重量に対し、例えば、それぞれ、1~40w/w%、0.001~10w/w%、及び0.05~15w/w%であってよい。別の実施形態では、非ラメラ液晶形成脂質、薬物、及び分散化剤(界面活性剤など)の量は、微粒子分散体、例えばナノ粒子分散液などの微粒子分散液の総重量に対し、例えば、それぞれ、10~30w/w%、0.1~3w/w%、及び0.3~10w/w%であってよい。
【0117】
上記の微粒子又は微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤は、上記の任意の剤形であってよい。一実施形態では、微粒子又は微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤は、対象(例えば、哺乳動物)の生体表面、好ましくは皮膚又は粘膜に適用するためのものであってよい。一実施形態では、微粒子又は微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤は、粘膜(粘膜表面)に適用するためのものであってよく、例えば、経鼻剤であってよい。別の実施形態では、微粒子分散体又は微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤は、エアゾール剤等のスプレー剤であってもよい。
【0118】
8.脳内送達
本発明に係る外用剤は、特に、脳内への薬物送達用に有利に用いることができる。一実施形態では、脳内への薬物送達用の本発明に係る外用剤は、上記の微粒子又は微粒子分散体を含む外用剤であってもよい。一実施形態では、粘膜(粘膜表面)に適用するための本発明に係る外用剤、例えば経鼻剤である本発明に係る外用剤は、脳内への薬物送達のために特に好適である。そのような本発明に係る外用剤は、上記の微粒子又は微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤であってもよいし、上記の貼付剤、エアゾール剤、又は液晶前駆体製剤であってもよい。本発明に係る外用剤は、経皮投与又は経粘膜投与、例えば鼻腔内投与により、薬物を脳内に効率良く送達することができる。本発明に係る外用剤は、脳内(特に、嗅球、皮質、脳幹、小脳、中脳、及び/又は海馬を含む)への薬物送達効率を大きく改善することができる。
【0119】
したがって本発明は、本発明に係る外用剤を、ヒトなどの上記の任意の対象に、経皮投与又は経粘膜投与、例えば鼻腔内投与することを含む、薬物を脳内に送達する方法も提供する。経皮投与は、以下に限定されないが、貼付剤、スプレー剤(エアゾール剤など)、軟膏剤、又はクリーム剤などを用いて行ってもよい。経粘膜投与は、貼付剤、スプレー剤(エアゾール剤など)、経鼻剤、口腔剤、坐剤、又は膣剤などを用いて行ってもよい。
【0120】
脳内への薬物送達のための本発明に係る外用剤の投与量は、薬物に応じて、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、本発明に係る外用剤の1回の投与量は、対象の体重1kg当たり、1ng~10g、例えば10ng~100mgであってよい。例えば、微粒子分散体を含む本発明に係る外用剤の1回の投与量は、対象の体重1kg当たり、微粒子分散体の量で好ましくは1μL~500μL、例えば10μL~100μLであってよい。
【0121】
脳内への薬物送達用の外用剤に含める薬物は、脳内への送達が望まれる任意の薬物であってよく、有機化合物であっても無機化合物であってもよいし、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸等であってもよい。薬物は上記の薬物から選択してもよい。薬物としては、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳血管障害、脳腫瘍などに対する脳・中枢神経系疾患治療薬、抗精神病薬、麻酔薬などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例
【0122】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
[実施例1] モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールの合成
【化6】
【0124】
グリセロール0.65g(7.1mmol)及び炭酸カリウム0.59g(4.3mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(3.5mL)溶液に、80℃で5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エン酸メチル(テトラヒドロファルネシル酢酸メチル)1.0g(3.5mmol)をゆっくり滴下した。100℃で18時間撹拌した後、反応液に1M塩酸を添加し、エーテルで抽出した。抽出液を飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン混液)で精製することにより、表題の化合物を無色透明液体として得た。
【0125】
得られた化合物について、H-NMR測定及び粘度測定を行った結果は以下の通りである。
【0126】
H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.80-0.90(m,9H),1.00-1.70(m,15H),1.97(td,J=7.8,17.0Hz,2H),2.13(t,J=6.1Hz,1H,OH),2.25-2.45(m,4H),2.55(d,J=5.2Hz,1H,OH),3.50-4.00(m,3H),4.10-4.25(m,2H),5.08(t,J=6.7Hz,1H) 粘度:0.48Pa・s(せん断速度92 1/s)
合成されたモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4-エノイル)グリセロールを、C17MGE、又はC17グリセリンエステルとも称する。
【0127】
[実施例2] モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカノイル)グリセロールの合成
【化7】
【0128】
5,9,13-トリメチルテトラデカン酸メチル50.3g(177mmol)に2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール70g(0.53mol)と炭酸カリウム36.7g(266mmol)を添加し、200~250mmHgの減圧下、85℃で3時間撹拌した。この間、反応で生じたメタノールは留去した。得られた反応溶液を減圧濃縮(50℃→210℃、1.4kPa→0.38kPa)した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、5,9,13-トリメチルテトラデカン酸(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル43.0g(収率63%)を得た。
【0129】
5,9,13-トリメチルテトラデカン酸(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル32.7g(85.0mmol)のテトラヒドロフラン(340mL)溶液に、室温で3M塩酸85mLを添加し、同一温度で5時間撹拌した。この反応溶液を酢酸エチル(300mL)、飽和重曹水(400mL)に加えて分液した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル)で精製することにより、表題の化合物28.7g(収率98%)を無色透明液体として得た。得られた化合物についてH-NMRを測定した結果は以下の通りである。
【0130】
H-NMRスペクトル(270MHz,CDCl,TMS)δ:0.7-0.9(m,12H),0.95-1.45(m,16H),1.45-1.75(m,3H),2.34 (t, J=7.4Hz, 2H),3.60(dd,J=5.8,11.5Hz,1H),3.70(dd,J=4.0,11.5Hz,1H),3.94(m,1H),4.15(dd,J=5.9,11.7Hz,1H),4.21(dd,J=4.7,11.7Hz,1H)
合成されたモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカノイル)グリセロールを、飽和C17グリセリンエステルとも称する。
【0131】
[実施例3] モノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4,8,12-トリエノイル)グリセロールの合成
【化8】
【0132】
200~250mmHgの減圧下、グリセロール9.2g(0.10mol)及び炭酸カリウム0.28g(2.0mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(20mL)溶液に、85℃で5,9,13-トリメチルテトラデカ-4,8,12-トリエン酸メチル(ファルネシル酢酸メチル)13.9g(50.0mmol)を徐々に滴下し、同一温度で3時間撹拌した。この間、反応で生じたメタノールは留去した。得られた反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,150mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=100:0~0:100)で精製することにより、表題の化合物8.22g(収率49%)を無色透明液体として得た。得られた化合物についてH-NMR測定及び粘度測定を行った結果は以下の通りである。
【0133】
H-NMRスペクトル(270MHz,CDCl,TMS)δ:1.5-1.8(m,12H),1.9-2.1(m,8H),2.1(brs,1H,OH),2.25-2.45(m,4H),2.56(brs,1H,OH),3.59(dd,J=5.6,11.2Hz,1H),3.68(dd,J=3.6,11.2Hz,1H),3.92(m,1H),4.14(dd,J=6.0,11.6Hz,1H),4.21(dd,J=4.8,11.6Hz,1H),5.02-5.16(m,3H)
粘度:0.26Pa・s(せん断速度92 1/s)
合成されたモノO-(5,9,13-トリメチルテトラデカ-4,8,12-トリエノイル)グリセロールを、ファルネシル酢酸グリセリルとも称する。
【0134】
[実施例4] モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロールの合成
【化9】
【0135】
60~70mmHgの減圧かつ窒素気流下、グリセロール23.5g(255mmol)及び炭酸カリウム0.55g(4.0mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(48mL)溶液に、80℃で5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エン酸メチル28.2g(80.0mmol)を徐々に滴下し、同一温度で3時間撹拌した。得られた反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,200mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=100:0~30:70)で精製することにより、表題の化合物13.3g(収率40%)を微黄色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りである。
【0136】
H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.80-0.95(m,12H),1.00-1.70(m,22H),1.85-2.15(m,2H),2.15-2.55(m,4H),3.53-3.78(m,3H),3.80-4.00(m,1H),4.10-4.25(m,2H),5.08(dd,J=6.9Hz,J=6.9Hz,1H)
合成されたモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロールを、C22MGE、又はC22グリセリンエステルとも称する。
【0137】
[実施例5] モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカノイル)グリセロールの合成
【化10】
【0138】
窒素雰囲気下、モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4-エノイル)グリセロール20.6g(50.0mmol)の酢酸エチル(62mL)溶液に5%パラジウム炭素2.5gを添加した。系内の窒素を水素で置換した後、常圧水素雰囲気下、室温で42時間撹拌した。系内の水素を窒素で置換した後、5%パラジウム炭素をろ別した。ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)で精製することにより、表題の化合物20.2g(収率98%)を無色透明液体として得た。得られた化合物について、H-NMR測定を行った結果は以下の通りである。
【0139】
H-NMRスペクトル(300MHz,CDCl,TMS)δ:0.7-0.9(m,15H),0.95-1.75(m,26H),2.13(t,J=6.0Hz,OH),2.34(t,J=7.7Hz,2H),2.56(d,J=5.1Hz,OH),3.55-3.75(m,2H),3.94(m,1H),4.15(dd,J=6.0,11.7Hz,1H),4.20(dd,J=4.7,11.7Hz,1H)
合成されたモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカノイル)グリセロールを、飽和C22グリセリンエステルとも称する。
【0140】
[実施例6] モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエノイル)グリセロールの合成
(1) 5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエン酸メチル(ゲラニルゲラニル酢酸メチル)の合成
窒素雰囲気下、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカ-1,6,10,14-テトラエン-3-オール(ゲラニルリナロール)58.1g(200mmol)、オルト酢酸トリメチル19mL(0.15mol)の溶液に、135℃でオルト酢酸トリメチル53mL(0.42mol)とn-ヘキサン酸5.0mL(40mmol)の溶液を8時間かけて滴下した。同一温度で6時間撹拌した後、さらにオルト酢酸トリメチル5.3mL(42mmol)とn-ヘキサン酸0.5mL(4mmol)の溶液を滴下し、さらに同一温度で2時間撹拌した。得られた反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(3:1,300mL)で希釈し、飽和重曹水(2回)、飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって、5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエン酸メチル(ゲラニルゲラニル酢酸メチル)67.24gを粗生成物の液体として得た。本粗生成物をそのまま次の反応に用いた。
【0141】
(2) モノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエノイル)グリセロールの合成
【化11】
【0142】
200~250mmHgの減圧下、グリセロール7.4g(80mmol)及び炭酸カリウム5.5g(40mmol)の乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(16mL)溶液に、85℃で5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエン酸メチル(ゲラニルゲラニル酢酸メチル)13.9g(40.0mmol)を徐々に滴下し、同一温度で6時間撹拌した。この間、反応で生じたメタノールは留去した。得られた反応溶液を酢酸エチル/ヘキサン混合溶媒(1:1,200mL)で希釈し、水、飽和重曹水、飽和食塩水(2回)で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。濾過後濃縮することによって得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=100:0~0:100)で精製することにより、表題の化合物5.44g(収率33%)を透明液体として得た。得られた化合物についてH-NMR測定及び粘度測定を行った結果は以下の通りである。
【0143】
H-NMRスペクトル(270MHz,CDCl,TMS)δ:1.55-1.72(m,15H),1.9-2.2(m,13H),2.27-2.45(m,4H),2.53(brs,1H,OH),3.59(dd,J=5.4,11.4Hz,1H),3.68(dd,J=3,11.4Hz,1H),3.92(m,1H),4.15(dd,J=6.0,11.6Hz,1H),4.21(dd,J=4.8,11.6Hz,1H),5.05-5.15(m,4H)
粘度:0.37Pa・s(せん断速度92 1/s)
合成されたモノO-(5,9,13,17-テトラメチルオクタデカ-4,8,12,16-テトラエノイル)グリセロールを、ゲラニルゲラニル酢酸グリセリルとも称する。
【0144】
[実施例7]液晶前駆体製剤の調製
1.試薬
ローダミンB(RB)及びトリアムシノロンアセトニド(TA)は、和光純薬工業株式会社(大阪、日本)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は日本曹達株式会社(東京、日本)より購入した。表1にTAの構造式及び物理化学的パラメータを示す。疎水性指標であるClogPはChem Draw Ultra 10.0(R)(PerkinElmer Informatics、Cambridge、MA、U.S.A.)を用いて算出した。
【0145】
【表1】
【0146】
HPCは1セルロース当たりの置換された水酸基(ヒドロキシプロポキシ基)の平均個数(置換度)に応じて粘度が増加することが知られており、置換度が0.2~0.4%のものが低置換度、53.4~77.5%のものが高置換度と呼ばれている。低置換度のSSL、SL、及びL、高置換度のM、及びHの、5種類のグレードのHPCを用いた。5種類のHPCの粘度(20℃、2%水溶液)はSSLで2~2.9mPa・s、SLで3~5.9mPa・s、Lで6~10mPa・s、Mで150~400mPa・s、Hで1000~4000mPa・sである。
【0147】
2.液晶前駆体製剤の調製(1)
薬物としてRB又はTAを含む製剤を、以下のようにして調製した。
まず、エタノールを入れたバイアル瓶にHPCを少量ずつ加えた。その後、バイアル瓶を60℃に設定した温浴へ入れ、一晩撹拌し、バイアル瓶中のHPCを完全に溶解させ、HPC含有エタノール溶液を得た。
【0148】
C17MGEと上記で得られたHPC含有エタノール溶液を7:3の重量比で混合し、1時間かけて十分に撹拌した。また、C17MGEとエタノールをバイアル瓶に加えて混合し、十分に撹拌し、HPCを含まない溶液も調製した。
【0149】
以上のようにして調製した溶液に、最終濃度が0.001%となるようRBを加えることによってRB含有製剤No.1~6を、最終濃度が0.1%となるようTAを加えることによってTA含有製剤No.7~12を調製した。なお、これらの製剤は、薬物を予めHPC含有エタノール溶液又はエタノールに加えてから、C17MGEと混合しても調製可能であった。
【0150】
また、エタノール非存在下で、C17MGEに薬物とHPCを加えて撹拌することによって、エタノールを含まないがC17MGEを含む製剤No.13~18を調製した。
【0151】
以上のようにして調製された製剤No.1~18は、水を含まない、液晶前駆体製剤である。
【0152】
さらに、比較対照として、C17MGEの代わりに用いる水を、エタノール、薬物、HPCとともに混合・撹拌することによって、C17MGEを含まない製剤No.19~23を調製した。また、TAの水溶液No.24を調製した。
調製した製剤No.1~24の組成比(重量比)を表2に示す。
【0153】
【表2】
【0154】
3.液晶前駆体製剤の調製(2)
前記2.のC17MGEの代わりに、グリセリルモノオレート(GMO)を用いて、表3の組成比(重量比)に従い、前記2.と同様の手順で、RB又はTAを含む製剤No.25~36を調製した。また、エタノール非存在下で、GMOに薬物とHPCを加えて加熱撹拌することによって、エタノールを含まないがGMOを含む製剤No.37、38を調製した。
【0155】
【表3】
【0156】
4.液晶前駆体製剤の調製(3)
油分(スクアレン)+C17MGE、C22MGE、又は油分(IPM又はトコフェロール)+C22MGEを用いて、表4の組成比(重量比)に従い、前記2.と同様の手順で、RB又はTA含有製剤No.39~49、及び79~81を調製した。
【0157】
【表4】
【0158】
[実施例8]製剤の特性試験
1.スプレー噴霧試験
実施例7で調製した製剤No.1~5、13、19~23、及び46を、5mLスプレーバイアル(No.2、株式会社マルエム、日本)に入れて、水で湿らしたキムワイプに対して、3cmの距離から鉛直下方に1回噴霧した。用いたスプレーバイアルは、精製水の場合、手動式の1プッシュでおよそ60μLを噴射できる。キムワイプ上に製剤が噴霧された面積(噴霧面積)の直径を測定した。スプレー噴霧可能であって、噴霧面積の直径が1cm以上であれば霧状噴霧、1cm未満であれば棒状噴霧と判定した。スプレーバイアルの噴射口から噴霧されなかった場合、噴霧不可と判定した。
【0159】
その結果、上記スプレーバイアルを用いた場合、いずれの製剤もスプレー噴霧可能であった。製剤No.1、19、20は霧状噴霧、製剤No.2~5、13、21~23、46は棒状噴霧であった。
【0160】
2.液晶構造形成試験
実施例2で調製した製剤No.1~5、19、25、及び26を、スプレー噴霧試験と同じ5mLスプレーバイアルを用い、ガラスボトムディッシュ(松浪硝子工業株式会社、日本)中に滴下した150μLの精製水に対して、ディッシュの底面より15cmの距離から鉛直下方に1回噴霧した。液晶形成の有無を判定するため、デジタルマイクロスコープVHX-5000(株式会社キーエンス、日本)を用いて、偏光顕微鏡モードでディッシュ内の水と接した製剤を観察した。
【0161】
図1に偏光顕微鏡による観察結果を示す。C17MGE又はGMOを含有する製剤No.1~5、25、26の全てで、液晶構造を示す偏光画像を確認できた(図1A~E、G、H)。一方、HPCを含有するがC17MGEを含まない製剤No.19では、液晶構造を示す偏光画像は認められなかった(図1F)。C17MGEを含有する製剤は、噴霧された水中で液晶構造を形成したことが示された。また、置換度のより低いHPCを使用した製剤ほど、はっきりとした偏光画像を確認できた。
【0162】
さらに、C17MGEとGMOに関して噴霧後から液晶形成(偏光画像の発現)までの時間を比較したところ、HPCを含まない条件ではC17MGE製剤No.1で5秒以内、GMO製剤No.25で10秒以内であり、また同じグレードSSLのHPCを配合した条件ではC17MGE製剤No.2で20秒以内、GMO製剤No.26で90秒以内であり、C17MGEを含む製剤(No.1、2)の液晶形成が有意に速かった。C17MGEとGMOのいずれを含む製剤も噴霧後速やかに粘膜表面に定着するが、C17MGEを含む製剤は、GMOを含む製剤と比べても、噴霧後より速やかに粘膜表面に定着しやすく、有効成分の放出・吸収促進効果もより得られやすいと考えられる。
【0163】
3.小角X線散乱回折
C17MGE又はC22MGEを含有する製剤No.1~3、13、45~49、及び、GMOを含有する製剤No.25~27、37を用いて上記の液晶構造形成試験を行った際、水に噴霧した製剤はゲル状物質となった。このゲル状物質について、小角X線散乱(SAXS)装置(リガク社製、Nano-Viewer)を用いて小角X線散乱回折測定を行い、非ラメラ液晶構造を判定した。
【0164】
製剤No.1、13、37、45~47を含むゲル状物質の小角X線散乱回折(図2A及びD、並びに図3A~D)では、少なくとも3本の散乱ピークが観測され、ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した。よって、これらの製剤は逆ヘキサゴナル液晶を形成することが確認された。
【0165】
また、製剤No.2、3、25~27を含むゲル状物質の小角X線散乱回折(図2B、C、及びE~G)では、少なくとも6本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶に特有の比√2:√3:√4:√8、及び、逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した。よって、これらの製剤を用いた場合には結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶が混合して形成することが確認された。
【0166】
製剤No.48、49を含むゲル状物質の小角X線散乱回折(図3E、F)では、少なくとも8本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Fd3mに属する逆キュービック液晶に特有の比√3:√8:√11:√12:√16:√19:√24:√27を示した。よって、これらの製剤は結晶学的空間群Fd3mに属する逆キュービック液晶を形成することが確認された。
【0167】
[実施例9]粘膜上における製剤保持試験
WBN/ILA-Ht系雄性ヘアレスラット(体重200~250g、8週齢)に三種混合麻酔(塩酸メデトミジン 0.15mg/kg、ミダゾラム 2mg/kg、酒石酸ブトルファノール 2.5mg/kg)を腹腔内投与し、背部皮膚を摘出した。このラット背部摘出皮膚(3cm x 3cm)の角層(角質層)をテープストリッピング処理で除去し、得られた角層剥離皮膚(表皮露出皮膚)を粘膜モデルとして用いた。
【0168】
アルミ箔で覆った板に固定した粘膜モデルに対して、実施例7で調製した製剤No.1~6、13~17、19~23、25~28、30、39~41、45、及び46を3cmの距離から鉛直下方にスプレーバイアルで1回噴霧した。噴霧直後、粘膜モデル上に付着した製剤の面積(=噴霧直後面積)を測定した。噴霧15秒後、水平から45°の角度に傾けた粘膜モデル上に37℃の水を流速200mL/分で連続して1時間流し、その後、粘膜モデル上に付着した製剤の面積(=水流試験後面積)を測定した。なお、噴霧直後面積及び水流試験後面積の測定には、手動XY測定システムVH-M100を備えた実体顕微鏡モードのデジタルマイクロスコープVHX-5000(株式会社キーエンス、日本)を用いた。
【0169】
水流試験後の製剤付着面積の減少率を下式に従って算出した。
減少率(%)=(水流試験後面積-噴霧直後面積)/噴霧直後面積×100
この減少率(%)が≦-50%の場合、製剤の検体が粘膜モデルから剥がれたと判断した。
【0170】
各製剤について水流試験を3回以上実施し、下記基準で4つのグループに分類することによって、各製剤の製剤保持性を判定した。
s:剥がれた検体なし
a:剥がれた検体の数が全検体数の40%以下
b:剥がれた検体の数が全検体数の40%超~70%未満
c:剥がれた検体の数が全検体数の70%以上
【0171】
比較のため、実施例7で調製した製剤の代わりに、市販の口腔粘膜付着製剤アフタッチ(R)(帝人ファーマ株式会社、日本)1錠、又は口腔粘膜軟膏製剤ケナログ(R)(ブリストル・マイヤーズスクイブ社、米国)60mgを、粘膜モデルにそれぞれ付着又は塗布して、同様に水流試験を行った。その結果を表5に示す。
【0172】
【表5】
【0173】
表5に示されるように、C17MGE又はC22MGEを用いた製剤は、1時間の水流試験後も良好に保持され、高い粘膜付着性を示した。特に、HPCとC17MGE又はC22MGEを含む製剤は、極めて高い粘膜付着性(保持性)を示し、市販の製剤と比べて高い粘膜付着性を有していた。なお、液晶形成脂質を用いないHPCを含むエタノール溶液は、水流試験で全て剥がれた。
【0174】
[実施例10]皮膚上における製剤保持試験
製剤No.2及び製剤No.46を用いて、粘膜モデル(角層剥離皮膚)の代わりにテープストリッピング処理前のラット背部摘出皮膚を皮膚モデルとして用いたこと以外は実施例9と同様にして、水流試験を行った。
【0175】
その結果、製剤No.2、及びNo.46は共に、水流試験を開始すると皮膚から一旦剥がれ落ちたものの、剥がれ落ちたゲルは皮膚に再付着し、定着した。製剤全体が水と接触することで、皮膚表面での再付着が促されたと考えられる。この結果は、本発明の製剤が、水分の少ない皮膚上(油性表面)では液晶を形成して生体付着性を発揮するまでは剥がれやすいが、水分が十分にある皮膚上では高い生体付着性を発揮できることを示唆する。
【0176】
[実施例11]In vitro放出性試験
図4に示した縦型拡散セル(セル容積:6.0mL、有効拡散面積:1.77cm;小林硝子株式会社)のレシーバーセルに20%エタノール水溶液6.0mLを加え、透析膜(セルロースチューブ24/32、和光純薬株式会社、日本)をセットした。透析膜上(ドナーセル側)に、人工唾液サリベート(R)(帝人ファーマ株式会社、日本)200μLを加えた後、製剤を適用して、製剤のin vitro放出性の試験を開始した。
【0177】
製剤としては、TA0.2mgを有効成分として含む、実施例7で調製した製剤No.7~12、18、24、31~36、38、79、80、及び81(各200mg)、ケナログ(R)軟膏製剤(200mg)、及びアフタッチ(R)製剤1錠を用いた。なお、ケナログ(R)軟膏製剤は、使用方法に準じて、透析膜上の人工唾液を拭き取った後に適用した。
【0178】
製剤からのTAの放出量を測定するため、経時的にレシーバーセル内の水溶液を500μLずつサンプリングし、その都度同量の20%エタノール水溶液を補充した。セル内は37℃に保ち、マグネティックスターラーでレシーバーセル内を常時撹拌した。試験の間、縦型拡散セルは、加湿器を用いて湿度90%以上の高湿度下に保った環境下に設置された。
【0179】
経時的に採取した各サンプル液に、アセトニトリルを1:1(v/v)の割合で加え、撹拌後、遠心分離(21,500×g、5分、4℃)して、上清を回収した。その上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定して、TA濃度を求めた。本測定に用いたHPLCシステム及び条件を表6及び表7に示す。
【0180】
【表6】
【0181】
【表7】
【0182】
表8には、TA濃度の測定値から算出された、セルの有効拡散面積(1.77cm)に基づく、製剤適用4時間後の単位有効放出面積当たりの累積TA放出量(μg/cm、3回以上の試験の平均値)、及び、ケナログ(R)軟膏製剤との相対放出量を示した。
【0183】
【表8】
【0184】
C17MGE、GMO、又はC22MGEを含む製剤は、市販のケナログ(R)軟膏製剤とほぼ同程度のTA放出性を示した。また、C17MGEを含む製剤において、HPCを含む製剤(No.8~12、18)はHPCを含まない製剤(No.7)に比べてTA放出性が高い傾向を示した。
【0185】
[実施例12]In vitro粘膜透過性試験
実施例11と同じ縦型拡散セル(セル容積:6.0mL、有効拡散面積:1.77cm)(図4)のレシーバーセルにpH6.75のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)6.0mLを加え、実施例11で用いた透析膜の代わりにハムスター口腔粘膜(シリアン系(雄性、8週令)、三協ラボサービス株式会社)をセットした。口腔粘膜上(ドナーセル側)に、人工唾液サリベート(R)(帝人ファーマ株式会社、日本)200μLを加えた後、製剤を適用して測定を開始した。
【0186】
製剤としては、TA0.2mgを有効成分として含む、実施例7で調製した製剤No.7、8、24、31~33、38、及び80(各200mg)、ケナログ(R)軟膏製剤(200mg)、及びアフタッチ(R)製剤1錠を用いた。なお、ケナログ(R)軟膏製剤は、使用方法に準じて、口腔粘膜上の人工唾液を拭き取った後に適用した。
【0187】
製剤からのTAの粘膜透過量を測定するため、経時的にレシーバーセル内の水溶液を500μLずつサンプリングし、その都度同量のPBSを補充した。セル内は37℃に保ち、マグネティックスターラーでレシーバーセル内を常時撹拌した。縦型拡散セルは、加湿器を用いて湿度90%以上の高湿度下に保った環境下に設置し、試験を行った。
【0188】
経時的に採取した各サンプル液に、アセトニトリルを1:1(v/v)の割合で加え、撹拌後、遠心分離(21,500×g、5分、4℃)して、上清を回収した。その上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定して、TA濃度を求めた。本測定に用いたHPLCシステム及び条件を表6及び表7に示す。
【0189】
図5に各評価製剤からのTAの粘膜透過挙動を示した。グラフの縦軸は、TA濃度の測定値から算出された、セルの有効拡散面積(1.77cm)に基づく単位有効透過面積当たりの累積TA粘膜透過量(μg/cm)の平均値(3回以上の試験の平均値)を示している。
【0190】
表9には、製剤適用4時間後及び8時間後の単位有効透過面積当たりの累積TA粘膜透過量、及びケナログ(R)軟膏製剤と比較した相対透過量を示した。
【0191】
【表9】
【0192】
製剤7、8、31~33、38、及び80はいずれも高い粘膜透過性を示した。特にC17MGE又はC22MGEとHPCとを含む製剤No.8及び80は、市販の粘膜適用製剤(アフタッチ(R)、ケナログ(R))と比較しても顕著に高い粘膜透過性を示し、有効成分の粘膜吸収性を大きく高めることが示された。
【0193】
また製剤No.8及び80における4時間後の相対透過量は、8時間後の相対透過量より多く、短い時間でより効果的に薬物を送達することができた。
【0194】
この結果から、本願発明の液晶形成脂質とHPCのような水溶性高分子とを含む製剤は、粘膜付着性や皮膚付着性が高いだけでなく、高い薬物粘膜透過性をもたらし薬物粘膜吸収性を顕著に高めることができることが示された。
【0195】
[実施例13]スプレー剤の調製
液晶形成脂質であるC17MGEと、プルロニックF-127を混合し、ボルテックスミキサーで5分間混合した。その後、濃度790μg/gのフルオロセインナトリウム(FL-Na)水溶液を添加し、高速ホモジナイザー(ポリトロンPT-3100、KINEMATICA社、スイス)を用いてホモジナイズ(8000rpm、5分)して、液晶ゲル(製剤No.58)を調製した。製剤No.58の組成における液晶形成脂質:プルロニックF-127:FL-Na水溶液=1:0.1:1(重量比)であった。製剤No.58中のFL-Na濃度は376μg/gである。
【0196】
製剤No.58にエタノールを製剤No.58:エタノール=1:0.5又は1:1(重量比)で添加し、ボルテックスミキサーで5分間混合して得られた溶液を手動式の5mLスプレーバイアル(No.2、株式会社マルエム、日本)に充填することにより、ポンプスプレー剤No.50及びNo.51をそれぞれ調製した。
【0197】
また、エアゾール用容器(株式会社ダイゾー、日本)に製剤No.50又は製剤No.51(溶液)を加え、液化石油ガス(LPG)充填用バルブを装着して当該容器に噴射剤であるLPGを充填することにより、エアゾール剤No.52及びNo.53を調製した。製剤No.52の組成における製剤No.50:LPG=1.5:4(重量比)である。製剤No.53の組成における製剤No.51:LPG=1:2(重量比)である。
【0198】
また、C17MGEの代わりにC22MGEを用いる点以外は、製剤No.50~53と同様の組成及び同様の方法で、スプレー剤No.54~57を調製した。
【0199】
なお、製剤No.50~57中のFL-Na濃度は、スプレー後にエタノールとLPGが全て揮発したときに製剤No.58と同じ376μg/gとなるように設定されている。
【0200】
比較対照として、FL-Na水溶液とエタノールを重量比1:1で混合した製剤No.59(FL-Na濃度376μg/g)、及び1mMのFL-Na水溶液である製剤No.60(FL-Na濃度376μg/g)を調製した。
製剤No.50~60の組成比(重量比)を表10に示す。
【0201】
【表10】
【0202】
[実施例14]スプレー剤の特性試験
1.スプレー噴霧試験
実施例13で調製したエアゾール剤No.52、53、56、57を、噴霧直前に5回振った後、ガラス表面に対して10cmの距離から鉛直下方に噴霧した。
【0203】
これらエアゾール剤について、1~5秒間にわたり1秒刻みで噴霧時間毎の噴霧量を算出した結果、1秒ごとの噴霧量(g/秒)は近似値を示し、製剤No.52で0.723g/秒、製剤No.53で0.868g/秒、製剤No.56で0.726g/秒、製剤No.57で0.711g/秒であった。
【0204】
製剤No.52、53、56、57はいずれも、非常に細かい霧状に噴霧された。それによって、エタノールが瞬時に揮発し、それぞれ1秒間噴霧して60秒後にガラス表面を45度に傾けても、噴霧された製剤はガラス表面上で流れ落ちずに定着した。
【0205】
一方、LPGを含まないポンプスプレー剤No.50、51、54、55を、それぞれ0.19g、0.29g、0.19g、0.24g噴霧した場合、60秒後にガラス表面を45度に傾けると、噴霧された4種類の製剤全てがガラス表面上で流れ落ちた。
【0206】
本発明のエアゾール剤は、噴霧直後も適用部位から流れ落ちず、極めて効果的に製剤を適用できることが示された。
【0207】
2.粒子径分布の測定
本発明のスプレー剤は、噴霧直後にナノ微粒子を形成することができる。
【0208】
スプレー剤No.50~57をそれぞれビーカーに1秒間噴霧して得られた組成物を蒸留水でおよそ1000倍希釈して測定サンプルとし、ゼータサイザーNano-ZS(マルバーン製)を使用して、動的光散乱法により、粒子径分布、及び粒子表面電荷を示すゼータ電位を測定した。
【0209】
表11に、3回測定の平均値として得られた平均粒子径(nm)(Z-Average)、PdI(多分散指数)、及びゼータ電位(mV)を示す。いずれも良好な状態のエマルションとなっていることが示された。
【0210】
【表11】
【0211】
3.小角X線回折
エアゾール剤No.52、53、56、57をそれぞれ遠沈管に3秒間噴霧した後、精製水5mLを加えて得られた組成物をマークチューブに封入し、小角X線散乱(SAXS)装置(リガク社製、Nano-Viewer)を用いて小角X線散乱回折測定を行い、非ラメラ液晶構造を判定した。
【0212】
製剤No.52、56、57を噴霧して得られた組成物の小角X線散乱回折(図6A、C、D)では、少なくとも3本の散乱ピークが観測され、ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した。よって、これらのサンプルは逆ヘキサゴナル液晶を形成していることが確認された。
【0213】
また、製剤No.53を噴霧して得られた組成物の小角X線散乱回折(図6B)では、少なくとも8本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶に特有の比√2:√3:√4:√8、及び逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した。よって、このサンプルは結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶が混合して形成していることが確認された。
【0214】
さらに、製剤No.56をシャーレに1秒間噴霧した後、約3分間放置して得られた白色サンプルをそのままピンホールスリットに埋め込んで、同様に小角X線散乱回折測定を行うことによって、非ラメラ液晶構造を判定した。その結果、少なくとも3本の散乱ピークが観測され、ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した(図6E)。よって、このサンプルは逆ヘキサゴナル液晶を形成していることが確認された。
【0215】
これらのエアゾール剤は、非ラメラ液晶構造を形成することができ、噴霧後に別途水を加えるか否かにかかわらず非ラメラ液晶構造を形成することが示された。
【0216】
[実施例15]In vitro皮膚透過性試験
WBN/ILA-Ht系雄性ヘアレスラット(体重200~250g、8週齢)に三種混合麻酔(塩酸メデトミジン 0.15mg/kg、ミダゾラム 2mg/kg、酒石酸ブトルファノール 2.5mg/kg)を腹腔内投与し、腹部皮膚を剃毛処理した後に正中線を挟んで左右合計4枚(各2cm x 2cm)を摘出し、それぞれ真皮側の皮下脂肪と血液をはさみで丁寧に除去することによって、ラット腹部皮膚を準備した。
【0217】
実施例11と同じ縦型拡散セル(セル容積:6.0mL、有効拡散面積:1.77cm)(図4)のレシーバーセルにpH7.4のリン酸緩衝液(PB)6.0mLを加え、実施例11で用いた透析膜の代わりに上記ラット腹部皮膚をセットした。角層上(ドナーセル側)に、PB1.0mLを加えて1時間水和した後、製剤を適用して測定を開始した。
【0218】
製剤としては、実施例13で調製した製剤No.50~53、及び56~60を用いた。製剤の適用量は、製剤No.50を0.218g(FL-Na 54μg含有)、No.51を0.290g(FL-Na 54μg含有)、No.52を1秒噴霧で0.723g(FL-Na 49μg含有)、No.53を1秒噴霧で0.868g(FL-Na 54μg含有)、No.56を1秒噴霧で0.726g(FL-Na 49μg含有)、No.57を1秒噴霧で0.711g(FL-Na 44μg含有)、No.58を0.145g(FL-Na 54μg含有)、No.59を1mL(FL-Na376μg含有)、No.60を1mL(FL-Na 376μg含有)であった。
【0219】
製剤からのFL-Naの皮膚透過量を測定するため、経時的にレシーバーセル内の水溶液を500μLずつサンプリングし、その都度同量のPBを補充した。セル内は32℃に保ち、マグネティックスターラーでレシーバーセル内を常時撹拌した。
【0220】
経時的に採取した各サンプル溶液を遠心分離(21,500×g、5分、4℃)した後、その上清を蛍光分光光度計(RF-5300PC:株式会社島津製作所、日本)で測定して(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)、サンプル溶液中のFL-Na濃度を求めた。
【0221】
図7に各製剤からのFL-Naの皮膚透過挙動を示した。グラフの縦軸は、FL-Na濃度の測定値から算出された、セルの有効拡散面積(1.77cm)に基づく単位有効透過面積当たりの累積FL-Na皮膚透過量(μg/cm)の平均値(3又は4回試験値の平均値)を示している。
【0222】
表12には、製剤適用の4時間後及び8時間後の単位有効透過面積当たりの累積FL-Na皮膚透過量、及び製剤No.60(対照)と比較した相対透過量を示した。
【0223】
【表12】
【0224】
スプレー剤No.50~53、56、及び57は、FL-Na水溶液(製剤No.60)、さらには液晶ゲル(製剤No.58)、50%エタノール水溶液(製剤No.59)と比較して、いずれも著しく高い皮膚透過性を示した。ポンプスプレー剤No.50、51の適用4時間後の累積FL-Na皮膚透過量は、製剤No.60と比べてそれぞれ27倍、184倍の高値を示した。さらに、エアゾール剤No.52、53、56、57の4時間後の累積FL-Na皮膚透過量は、製剤No.60と比べてそれぞれ104倍、345倍、33倍、138倍とさらに高値を示した。また、適用8時間後の累積FL-Na皮膚透過量も同様な傾向で高値を示した。
【0225】
エアゾール剤No.52、53、56、57は、実施例14に示したように噴霧直後も適用部位から流れ落ちず、LPGを含まないポンプスプレー剤No.50やNo.51よりも効果的に製剤を適用できることを合わせて考えると、さらに極めて有用な皮膚透過促進製剤として利用できることが示された。
【0226】
[実施例16]テープ製剤の調製
液晶形成脂質であるC17MGE、フィタントリオール(PHY、東京化成工業株式会社、日本)、又はC22MGEと、pH7.4のリン酸緩衝液(PB)にFL-Naを溶解したFL-Na水溶液とを、それぞれ重量比1:1、2:1、3:1でガスタイトシリンジ(MS-GAN025、株式会社伊藤製作所、日本)内に充填し、均一に混合して液晶ゲルを得た。FL-Na水溶液のFL-Na濃度は、後述する最終的な粘着層のFL-Na濃度が10 mMとなるように設定した。なお、PHYは常温で半固体のため、ホットスターラー(100 ℃、30分)で融解させた後に用いた。
【0227】
液晶ゲルにアクリル系粘着剤DURO-TAK(R)(387-2516、ヘンケル、ドイツ)を粘着層全体に対して重量比80%となるように加え、マグネティックスターラーを用いて混合した(500 rpm、5分)。この混合物をシリコーン加工されたポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムのライナー(フィルムバイナ(R)75E-0010 BD、藤森工業株式会社、日本)の左端(0%)に載せ、塗膜の厚さ1 mil(25.4 μm)に設定したNo.510ベーカー式フィルムアプリケーター(株式会社安田精機製作所、日本)を用いて、左端(0%)から右端(100%)に展延した(図8)。展延した粘着層は、温度20±2℃、湿度20±5%の室内で30分乾燥させ、さらに温度32℃、湿度20±2%のインキュベーター内で30分乾燥させた。乾燥後の粘着層に対して、SN-版画ゴムローラー3号(株式会社谷口松雄堂、日本)を用いて厚さ75μmのPETフィルム支持体(フィルムバイナ(R)、藤森工業株式会社、日本)を圧着させることで、テープ製剤(製剤No.61~69)を調製した。
製剤No.61~69の粘着層における最終的な組成比(重量比)を表13に示す。
【0228】
【表13】
【0229】
また、上記と同様の方法により、表14に示す組成比(重量比)に従い、液晶形成脂質(C17MGE)と重量比90%、70%、20%の上記アクリル系粘着剤(感圧接着剤)DURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.70~72、及び液晶形成脂質を配合せず重量比90%の上記アクリル系粘着剤DURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.73を調製した。
【0230】
【表14】
【0231】
[実施例17]テープ製剤の特性試験
1.画像解析
実施例16において粘着層の乾燥後、PETフィルム支持体の圧着前のテープ製剤No.61~73について、通常撮影と蛍光顕微鏡による画像解析を行った。
【0232】
通常撮影の画像は、デジタルカメラ(D5300、株式会社ニコン、日本)を用いて、20cm上方から各々のテープ製剤全体を撮影することによって得た。
【0233】
蛍光顕微鏡による画像は、蛍光顕微鏡(BZ-X700、株式会社キーエンス、日本)を用いて、テープ製剤の左端中央から25%(図8の地点1)、50%(図8の地点2)、75%(図8の地点3)の3点を撮影することによって得た。蛍光顕微鏡の撮影条件は、対物レンズ CFI Plan Apo λ 2x、蛍光フィルタ GFP(OP-87763 BZ-Xフィルタ)、励起波長470/40 nm、吸収波長525/50 nm、ダイクロイックミラー波長495 nm、ゲイン+6dBとした。なお、露光時間は液晶形成脂質を含有している製剤で1/175s、含有していない製剤では、1/5sとした。
【0234】
重量比80及び90%のDURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.61~70の粘着層は、いずれも均一に展延された。一方、重量比70%のDURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.71の粘着層は、製剤No.61~70と比べてやや均一性に劣っていた。さらに、重量比20%のDURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.72、及び液晶形成脂質を配合せず重量比90%のDURO-TAK(R)を配合したテープ製剤No.73の粘着層は、いずれも均一に展延されていなかった。
【0235】
この結果から、一定の重量比以上のDURO-TAK(R)(望ましくは70%以上、より望ましくは80%以上)と、本願発明の液晶形成脂質を配合することにより、均一なテープ製剤を調製できることが示された。
【0236】
2.粘着層の厚み
ハンドクリッパー(シネックスゲージ、株式会社テクロック、日本)を用いてテープ製剤全体の厚みを測定し、その測定値から、支持体(20μm)およびライナー(80μm)の厚みを引くことにより、テープ製剤の粘着層の厚みを算出した。
【0237】
製剤No.63、66、69の左端中央(図8)から25%(図8の地点1)、50%(図8の地点2)、75%(図8の地点)の3点における粘着層の厚みは、いずれも15±5μm(6回測定の平均値)であった。
よって、上記テープ製剤の粘着層の厚みは均一であることが確認された。
【0238】
3.位相像の解析
テープ製剤について、走査型プローブ顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所、日本)を用いて、観察視野1μm x 1μmと0.5μm x 0.5μmで形状観察を行った後、位相観察を行った。
【0239】
製剤No.63及び73について形状観察を行った結果、いずれもスムーズな表面形状が観察された。さらに、それらの製剤について位相観察を行った結果、図9に示したように、製剤No.73では位相像が観察されなかったのに対し、製剤No.63では特徴的な位相像が観察された。
【0240】
この結果から、液晶形成脂質の配合有無によって粘着層表面の物性が異なり、液晶形成脂質とDURO-TAK(R)を配合したテープ製剤は一定の規則性を有する構造体に特徴的な表面特性を有することが明らかとなった。
【0241】
[実施例18]In vitro放出性試験
図10に示した横型拡散セル(セル容積:3.0mL、有効拡散面積:0.95cm;小林硝子株式会社)のレシーバーセルにPB3.0mLを加え、ドナーセル側に製剤を貼付して、製剤のin vitro放出性の試験を開始した。製剤としては、製剤No.61~69、及び73を用いた。
【0242】
製剤からのFL-Naの放出量を測定するため、経時的にレシーバーセル内の水溶液を500μLずつサンプリングし、その都度同量のPBを補充した。セル内は32℃に保ち、マグネティックスターラーでレシーバーセル内を常時撹拌した。
【0243】
経時的に採取した各サンプル溶液を遠心分離(21,500×g、5分、4℃)した後、その上清を蛍光分光光度計(RF-5300PC:株式会社島津製作所、日本)で測定して(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)、サンプル溶液中のFL-Na濃度を求めた。
【0244】
図11に各製剤からのFL-Naの放出挙動を示した。グラフの縦軸は、FL-Na濃度の測定値から算出された、抽出試験に基づく累積FL-Na放出率(%)の平均値(3又は4回試験値の平均値)を示している。
【0245】
表15には、製剤適用1時間後及び4時間後の累積FL-Na放出率(%)を示した。 累積FL-Na放出率(%)は以下の式に従って算出した。
累積FL-Na放出率(%)=累積FL-Na放出量÷FL-Na適用量x100
【0246】
【表15】
【0247】
製剤No.61~69からは、いずれも経時的かつ速やかにFL-Naが放出された。特に、製剤No.62、63、65、66は、適用1時間後により高い累積放出率を示し、適用4時間後には100%近い放出率に達した。とりわけ、No.62及び63は、適用1時間後にはすでに100%近い放出率に達し、極めて速やかにFL-Naが放出された。
【0248】
一方、液晶形成脂質を配合しないテープ製剤No.73からは、徐々にFL-Naが放出され、適用4時間後に約25%の放出率に達して以降、FL-Naの放出は見られなかった。よって、液晶形成脂質を配合しなければ、内包した薬物を効率的に放出できないことが示された。
【0249】
[実施例19]In vitro皮膚透過性試験
実施例15に記載の方法に従い、縦型拡散セル(図4)にセットしたラット腹部皮膚の角層上(ドナーセル側)に、製剤として製剤No.61~69を貼付してin vitro皮膚透過性試験を実施した。また、比較対照として、FL-NaをPBに溶解した10 mMのFL-Na水溶液No.74を用いた。
【0250】
図12に各製剤からのFL-Naの皮膚透過挙動を示した。グラフの縦軸は、FL-Na濃度の測定値から算出された、抽出試験に基づく累積FL-Na皮膚透過率(%)の平均値(3または4回試験値の平均値)を示している。
【0251】
表16には、製剤適用1時間後及び4時間後の累積FL-Na皮膚透過率(%)を示した。累積FL-Na放出率(%)は以下の式に従って算出した。
累積FL-Na放出率(%)=累積FL-Na透過量÷FL-Na適用量x100
【0252】
【表16】
【0253】
テープ製剤No.61~69は、FL-Na水溶液No.74と比較して、いずれも皮膚透過性が顕著に向上した。PHYを含むテープ製剤No.64~66と比べてさえ、C17MGEを含む製剤No.61~63の皮膚透過性は非常に高かった。実施例18ではC17MGE又はC22MGEを含むテープ製剤とPHYを含むテープ製剤との間でIn vitro放出性に大きな差がなかったことを考えると、C17MGE又はC22MGEを含むテープ製剤が示した高い皮膚透過性は驚くべき結果であった。さらに、製剤No.62~63は、適用の4時間後及びそれ以降、製剤No.61と比較して、液晶形成脂質の含有割合から予想される以上に皮膚透過性が向上した(図12)。
【0254】
[実施例20]エマルションの調製
表17に示す配合比(重量比)に従って、液晶形成脂質であるC17MGE又はグリセリルモノオレート(GMO、リケマールXO-100、日油)、薬物としてのトラニラスト(東京化成工業株式会社、日本)、及びエタノール(No.76のみ)を混合した後、80℃の湯浴で溶解した。得られた脂質混合液に対して、プルロニック(R)F127(ユニルーブ(R)70DP-950B、日油、又はAldrich P2443)を精製水に溶解した水溶液を添加後、薬匙又はボルテックスミキサーで撹拌して、懸濁液とした。さらに、この懸濁液を超音波ホモジナイザー(Sonics Vibra-Cell VCX-750、Sonics & Materials, Inc.製)を用いて20%の振幅で5分間超音波処理することによって、微粒子を含有する白色のエマルションNo.75~77を調製した。これらエマルションは、それぞれ10gの量で調製した。なおトラニラストは抗アレルギー剤として知られているが、神経学的疾患に対する治療効果も調べられている(US 2011/0112187 A1)。
【0255】
なお、脂質20%のエマルションにおいて、C17MGEは1%量のプルロニック(R)F127で分散させることができたが、GMOは分散させることができなかった。そのため、GMOは5%量のプルロニック(R)F127で分散させた(No.77)。比較対照として、トラニラスト0.5%を生理食塩水に添加した製剤No.78を調製した(表17)。
【0256】
【表17】
【0257】
[実施例21]エマルションの物性評価
実施例20で調製したエマルションNo.75~77の粒子径分布と小角X線散乱回折、及びエマルションNo.75、76の粘度とトラニラストの内包効率を測定した。
【0258】
粒子径分布は、ゼータサイザーNano-ZS(マルバーン製)を使用して、動的光散乱法により測定した。測定サンプルは各エマルションを蒸留水で1000倍希釈することにより調製した。各測定サンプルについて、3回測定の平均値として得られた平均粒子径(nm)(Z-Average)、PdI(多分散指数)、及びゼータ電位(mV)を表18に示す。
【0259】
各エマルションは、いずれも実験を通して目視可能な凝集物がなく安定であった。このことは適度な平均粒子径、PdI、及びゼータ電位によって裏付けられた。
【0260】
小角X線散乱回折は、各エマルションをマークチューブに封入し、小角X線散乱(SAXS)装置(リガク社製,Nano-Viewer)を用いて測定した。
【0261】
エマルションNo.75の小角X線散乱回折(図13A)では、少なくとも3本の散乱ピークが観測され、ピークの比は逆ヘキサゴナル液晶に特有の比1:√3:2を示した。よって、本エマルションは逆ヘキサゴナル液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(ヘキサソーム)であることが示された。
【0262】
また、エマルションNo.76の小角X線散乱回折(図13B)では、少なくとも4本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶に特有の比√2:√3:√4:√8を示した。よって、本エマルションは結晶学的空間群Pn3mに属するキュービック液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(キューボソーム)であることが示された。
【0263】
また、エマルションNo.77の小角X線散乱回折(図13C)では、少なくとも3本の散乱ピークが観測され、ピークの比は結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶に特有の比√2:√4:√6を示した。よって、本エマルションは結晶学的空間群Im3mに属するキュービック液晶の微粒子が水相に分散した液晶エマルション(キューボソーム)であることが示された。
【0264】
粘度は、粘度計(RE215H;コーンロータ0.8°xR24、東機産業株式会社)を使用した。各エマルションについて、温度25℃、回転速度50rpmで測定した粘度(mPa・s)を表18に示す。これら粘度はいずれもスプレー可能な範囲内にあった。
【0265】
内包効率を算出するため、各エマルションを遠心分離(21,500×g、15分、4℃)した後、得られた上清を取り出し、アセトニトリルで10倍希釈して、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いてトラニラストを定量した。内包効率は以下の式に基づいて計算した。
【0266】
【数1】
【0267】
上記式中、%EE、TLtotal、TLfreeは、それぞれ、内包効率、エマルション中の総トラニラスト濃度、上清中のトラニラスト濃度を示す。
【0268】
表18に示すように、各エマルションの内包効率はいずれも高く、微粒子内部の液晶構造中へのトラニラストの高い取り込み能を示した。
【0269】
【表18】
【0270】
[実施例22]In vitro放出性試験
図4に示した縦型拡散セル(セル容積:6.0mL、有効拡散面積:1.77cm;小林硝子株式会社)のレシーバーセルにリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH7.4)6.0mLを加え、予め水和させた透析膜(分画分子量=12,000~14,000Da、三光純薬株式会社、日本)をセットした。透析膜上(ドナーセル側)に製剤を適用して、製剤のin vitro放出性の試験を開始した。製剤としては、エマルション製剤No.75、76、及び比較対照製剤No.78を1mLずつ用いた。
【0271】
製剤からのトラニラストの放出量を測定するため、経時的にレシーバーセル内の水溶液を500μLずつサンプリングし、その都度同量のPBSを補充した。セル内は32℃に保ち、マグネティックスターラーでレシーバーセル内を常時撹拌した。
【0272】
経時的に採取した各サンプル液に、アセトニトリルを1:1(v/v)の割合で加え、撹拌後、遠心分離(21,500×g、5分、4℃)して、上清を回収した。その上清10μLをLC/MS/MSシステムに注入して、トラニラストを定量した。
【0273】
本測定に用いたLC/MS/MSシステムは、システムコントローラ(CBM-20A、島津製作所)、ポンプ(LC-20AD、島津製作所)、オートサンプラー(SIL-20ACHT、島津製作所)、カラムオーブン(CTO-20A、島津製作所)、質量分析装置(4000QTRAP、エービー・サイエックス社)、および分析ソフトウェア(Analyst(登録商標)バージョン1.4.2、島津製作所)で構成されている。
【0274】
LC/MS/MSの測定条件は、以下の通りであった。カラム(Shodex ODP2HPG-2A 2.0mm×10mm、昭和電工株式会社)は40℃に保った。移動相はアセトニトリル:0.05%ギ酸含有5mM酢酸アンモニウム水溶液=80:20とした。流速は0.2mL/分で保持した。質量分析定量化を多重反応モニタリング(MRM)モードで実施し、衝突エネルギー36eVでm/z 328.0からm/z 191.2の遷移イオンをモニタリングした。
【0275】
図14に適用後8時間における各製剤からのトラニラストの放出挙動を示す。グラフの縦軸は、トラニラストの累積放出量(μmol/cm)の平均値(4回試験値の平均値)を示している。
【0276】
各製剤からのトラニラストの放出挙動は、Higuchiの式(Higuchi T., J.Pharm.Sci., 52, 1145-1148(1963))とよく相関した。図14から算出されるトラニラストの放出速度(μmol/cm/h0.5)は、製剤No.76で0.17と高値であり、No.75とNo.78でともに0.05であった。さらに、図14から算出される製剤適用8時間後の累積トラニラスト放出率(%)は、No.75、No.76、及びNo.78でそれぞれ1.82、3.67、2.35であった。液晶構造中に内包されたトラニラストを有する製剤No.75、No.76は、確かな放出性を示した。
【0277】
[実施例23]鼻腔内投与による薬物動態評価
Sprague-Dawleyラット(オス7週齢、体重230g±10g)を用いて製剤No.75~78の鼻腔内投与による薬物動態評価を実施した。まず、ラットに対し三種混合麻酔(塩酸メデトミジン 0.375mg/kg、酒石酸ブトルファノール 2.5mg/kg、ミダゾラム 2mg/kg)を腹腔内投与して全身麻酔を施行した。仰臥位に保ったラットの鼻孔にマイクロピペットの先端0.5cmを挿入し、製剤10μLを滴下することで鼻腔内投与を行った。
【0278】
所定の時点(投与の0.17、0.5、1、2、4、及び8時間後)でラットの頸静脈から約200μLの血液を採取し、直接ヘパリン添加チューブに移し、すぐに遠心分離(21,500×g、10分、4℃)して、血漿を得た。血液採取の都度、ラットに同量の生理食塩水を尾静脈から注入した。一部のラットでは、投与の2、4、又は8時間後、血液を採取してから、三種混合麻酔を腹腔内投与して全身麻酔し、冷PBSで心肺灌流を行い、ラットの全脳を摘出した。摘出した全脳は、氷上で特定の領域(嗅球、皮質、脳幹、小脳、中脳、海馬)に解剖した。犠牲にしたラットからは脊髄も採取した。採集した脳サンプルを秤量し、次いでハサミを用いて裁断し、アセトニトリル0.5mLを加え、ホモジナイザー(ポリトロンPT1200E、KINEMATICA社、スイス)を用いて12,000rpm、4℃で5分間ホモジナイズした。脳ホモジネートを遠心分離(21,500×g、5分、4℃)して、上清を回収した。血漿と脳ホモジネートから得た上清は分析まで-30℃に保った。
【0279】
血漿または脳ホモジネートから得た上清50μLに、アセトニトリルを1:1(v/v)の割合で加え、撹拌後、遠心分離(21,500×g、5分、4℃)して、上清を回収した。実施例22と同様の方法によって、得られた上清10μLをLC/MS/MSシステムに注入して、トラニラストを定量した。
【0280】
図15及び図16に各製剤の鼻腔内投与後8時間における血漿中及び脳内のトラニラスト濃度の推移を示した。グラフの縦軸は、トラニラスト濃度(ng/mL又はng/g)の平均値(3~5回試験値の平均値)を示している。
【0281】
図15図16に示された結果に基づき、各製剤の鼻腔内投与後8時間における血漿中及び脳内のトラニラストに関する薬物動態学的パラメータとして、最高濃度到達時間(Tmax)、最高濃度(Cmax)、及び薬物濃度-時間曲線下面積(AUC0-8)を求めた。これら数値を表19に示す。
【0282】
【表19】
【0283】
血漿中のTmaxは、エマルションNo.75~77、及び比較対照製剤No.78のいずれも鼻腔内投与後の初回採血時の0.17時間後であり、急速な全身吸収性を示した。脳内のTmaxは、比較対照製剤No.78では鼻腔内投与後の初回採血時の2時間後であったのに対し、エマルションNo.75~77ではいずれも鼻腔内投与8時間後以降であった。
【0284】
血漿中において、CmaxはC17MGEを用いたエマルションNo.75、76と比較対照製剤No.78で大差はなかったが、No.75、76のAUC0-8はNo.78と比較して3倍以上高値であった。また、脳内において、No.78と比較して、No.75、76のCmaxは約8倍高値であり、No.75、76のAUC0-8は約15倍高値であった。一方、GMOを用いたエマルションNo.77は、比較対照製剤No.78と比較して、血漿中においてCmaxとAUC0-8はいずれも下回ったものの、脳内においてCmax、AUC0-8ともに約5倍高値であった。
【0285】
以上のとおり、C17MGEを用いたエマルションNo.75、76では、血漿中、脳内ともに、高濃度でトラニラストが検出され、GMOを用いたエマルションNo.77で示された濃度を上回った。また、特に脳内のトラニラスト濃度が、エマルションNo.75、76において、No.78と比較して顕著に増加したことは注目に値する。よって、C17MGEを用いたエマルションは、鼻腔内投与による脳内への薬物送達において優れることが明らかとなった。
【0286】
図17及び図18に各製剤の鼻腔内投与2、4、及び8時間後の脳内の異なる領域におけるトラニラスト濃度を示した。グラフの縦軸は、トラニラスト濃度(ng/g)の平均値(3~5回試験値の平均値)を示している。
【0287】
エマルションNo.75~77、及び比較対照製剤No.78のいずれも、全ての脳領域において初回摘出時の2時間後からトラニラストの取り込みを示した。全ての脳領域のうち嗅球と脊髄におけるこれら製剤からのトラニラスト濃度は、他の脳領域と比較して概ね高かった(図17、18)。嗅球は鼻腔に隣接し、脊髄は全身経路の脳への入り口であることから、この結果からトラニラストの脳内移行が嗅覚経路と全身経路の両方を介して進行していることが示唆された。
【0288】
全ての脳領域におけるC17MGEを用いたエマルションNo.75、76からのトラニラスト濃度は、GMOを用いたエマルションNo.77や比較対照製剤No.78と比較して、鼻腔内投与後8時間にわたって概ね高く、鼻腔内投与8時間後で顕著に高かった(図17、18)。このことから、エマルションNo.75、76では、エマルションNo.77や比較対照製剤No.78より、高濃度のトラニラストが長時間にわたって脳領域全体に蓄積したことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0289】
本発明によれば、生体による薬物吸収性に優れた外用剤を提供することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
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