(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】電気化学的還元方法と触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/72 20060101AFI20241216BHJP
C25B 3/03 20210101ALI20241216BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20241216BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241216BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241216BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20241216BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20241216BHJP
B01J 37/08 20060101ALN20241216BHJP
B01J 37/18 20060101ALN20241216BHJP
【FI】
B01J23/72 M ZAB
C25B3/03
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B11/052
C25B11/077
C25B11/091
B01J37/08
B01J37/18
(21)【出願番号】P 2023503881
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008712
(87)【国際公開番号】W WO2022186232
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-31
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けた CO2循環システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】山内 美穂
(72)【発明者】
【氏名】安齊 亮彦
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-188961(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0256124(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104549368(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102274729(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110508282(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0117577(US,A1)
【文献】YUAN, J. et al.,Catalysts,2018年,Vol.8,171, <DOI:10.3390/catal8040171>
【文献】CHENG, G. et al.,Materials Research Bulletin,2020年04月19日,Vol.129,110891, <DOI:10.1016/j.materresbull.2020.110891>
【文献】IBRAHIM, M. M. et al.,Applied Surface Science,2019年02月20日,Vol.479,pp.953-962,<DOI:10.1016/j.apsusc.2019.02.196>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C25B 3/03
C25B 3/26
C25B 9/00
C25B 11/00 - 11/097
CAplus/REGISTRY(STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tiを含む酸化物
とCuを含有
し、X線光電子分光法(XPS)で測定したXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVである触媒に、
pH5~15の溶液と、CO
2と、を接触させた状態で、
前記CO
2を電気化学的に還元し、
前記Tiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップが3eV以下である、電気化学的還元方法。
【請求項2】
Tiを含む酸化物と、前記Tiを含有する酸化物の表面付近で孤立して分散しているCuと、を含有し、X線光電子分光法(XPS)で測定したXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVである、CO
2
の電気化学的還元反応用の触媒。
【請求項3】
Tiを含む酸化物を含有する触媒に、
pH5~15の溶液と、CO
2
と、を接触させた状態で、
前記CO
2
を電気化学的に還元し、
前記触媒がCuを含有し、
X線光電子分光法(XPS)で測定した前記触媒のXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVである、電気化学的還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的還元方法と触媒に関する。
本願は、2021年3月2日に、米国に仮出願されたUS63/155,309号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
再生可能な電力を利用してCO2から燃料や化学原料を生成するCO2の電気化学的還元反応(以下、ECO2Rと称する場合がある)は、低炭素型材料合成プロセスとしてだけではなく、太陽光や風力といった間欠的な再生可能エネルギーの新規貯蔵法としても注目されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、Cuを添加したCeO2触媒によって、CO2をCH4に還元する電気化学的還元方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Yifei Wang, Zheng Chen, Peng Han, Yonghua Du, Zhengxiang Gu,Xin Xu, and Gengfeng Zheng, Single-Atomic Cu with Multiple Oxygen Vacancies on Ceria for Electrocatalytic CO2 Reduction to CH4, ACS Catalysis 2018, 8, 7113-7119.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1の方法では、CH4生成の選択率およびCH4の生成速度(電流密度)が十分ではなかった。現在、非特許文献1の方法よりもCH4生成の選択率および電流密度の向上が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みなされた発明であり、CO2の電気化学的還元反応において、CH4生成の選択率を改善した電気化学的還元方法と触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様に係る電気化学的還元方法は、Tiを含む酸化物を含有する触媒に、pH5~15の溶液と、CO2と、を接触させた状態で、前記CO2を電気化学的に還元し、前記Tiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップが3eV以下である。
【0008】
(2)上記(1)に記載の電気化学的還元方法は、
前記CO2を電気化学的に還元することで、メタンを生成してもよい。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)に記載の電気化学的還元方法は、前記触媒における前記Tiを含む酸化物の含有量が10wt%以上であってもよい。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の電気化学的還元方法は、前記触媒がCuを含有してもよい。
【0012】
(5)上記(4)に記載の電気化学的還元方法は、X線光電子分光法(XPS)で測定した前記触媒のXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、931eV~933eVの間にある前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVであってもよい。
【0013】
(6)上記(5)に記載の電気化学的還元方法は、前記触媒のCuの含有量が0.001wt%~90wt%であってもよい。
【0014】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の電気化学的還元方法は、前記Tiを含む酸化物がTiO2であってもよい。
【0015】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の電気化学的還元方法は、前記触媒の紫外・可視吸収スペクトルにおいて、波長400nmの強度I400と波長600nmの強度I600との比I400/I600が0.5~3であってもよい。
【0016】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の電気化学的還元方法は、X線光電子分光法(XPS)で測定した前記触媒のXPSスペクトルにおいて、528eV~532eVの間にピークがあり、528eV~532eVの間にある前記ピークの半値幅が1.2eV~1.55eVであってもよい。
【0017】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の電気化学的還元方法は、X線光電子分光法(XPS)で測定した前記触媒のXPSスペクトルにおいて、457eV~460eVの間にピークがあり、457eV~460eVの間にある前記ピークの半値幅が1.1eV~1.5eVであってもよい。
【0018】
(11)本発明の一態様に係る触媒は、Tiを含む酸化物と、前記Tiを含有する酸化物中で孤立しているCuと、を含有する。
【0019】
(12)上記(11)に記載の触媒は、前記Tiを含む酸化物の含有量が10wt%以上であってもよい。
【0020】
(13)上記(11)または(12)に記載の触媒は、前記Tiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップが3eV以下であってもよい。
【0021】
(14)上記(11)~(13)のいずれか1つに記載の触媒は、前記Cuの含有量が0.001wt%~90wt%であってもよい。
【0022】
(15)上記(11)~(14)のいずれか1つに記載の触媒は、前記Tiを含む酸化物がTiO2であってもよい。
【0023】
(16)上記(11)~(15)のいずれか1つに記載の触媒は、前記触媒の紫外・可視吸収スペクトルにおいて、波長400nmの強度I400と波長600nmの強度I600との比I400/I600が0.5~3であってもよい。
【0024】
(17)上記(11)~(16)のいずれか1つに記載の触媒は、X線光電子分光法(XPS)で測定したXPSスペクトルにおいて、528eV~532eVの間にピークがあり、の間にある前記ピークの半値幅が1.2eV~1.55eVであってもよい。
【0025】
(18)上記(11)~(17)のいずれか1つに記載の触媒は、X線光電子分光法(XPS)で測定したXPSスペクトルにおいて、457eV~460eVの間にピークがあり、457eV~460eVの間にある前記ピークの半値幅が1.1eV~1.5eVであってもよい。
【0026】
(19)上記(11)~(18)のいずれか1つに記載の触媒は、X線光電子分光法(XPS)で測定したXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、931eV~933eVの間にある前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVであってもよい。
【0027】
(20)本発明の一態様に係る触媒の製造方法は、原料を混合して、密閉容器に入れ、前記密閉容器の表面温度が加熱温度となるまで加熱した後、前記加熱温度を10分以上保持して前駆体を作製し、作製した前記前駆体を焼成温度で1分以上焼成して触媒を製造し、前記原料がチタン原料と銅原料とを含み、前記前駆体を焼成するときのH
2
濃度が0.5vol%以上である。
【0028】
(21)上記(20)に記載の触媒の製造方法は、前記チタン原料がチタン(IV)テトラブトキシドであってもよい。
【0029】
(22)上記(20)または(21)に記載の触媒の製造方法は、前記銅原料が酢酸銅(II)であってもよい。
【0030】
(23)上記(20)~(22)のいずれか1つに記載の触媒の製造方法は、前記加熱温度が60℃~280℃であってもよい。
【0031】
(24)上記(20)~(23)のいずれか1つに記載の触媒の製造方法は、前記焼成温度が100℃~800℃であってもよい。
【0032】
(25)上記(20)~(24)のいずれか1つに記載の触媒の製造方法は、前記密閉容器の中の前記チタン原料に含まれるチタンと、前記銅原料に含まれるCuと、の重量比(Ti:Cu)が1:99~99.99:0.01であってもよい。
【0033】
(26)上記(20)~(25)のいずれか1つに記載の触媒の製造方法は、前記前駆体を焼成するときの雰囲気が大気であってもよい。
【0035】
(27)上記(20)~(26)のいずれか1つに記載の触媒の製造方法は、前記前駆体を焼成するときの前記H2濃度が100vol%であってもよい。
(28)本発明の一態様に係る電気化学的還元方法は、Tiを含む酸化物を含有する触媒に、pH5~15の溶液と、CO
2
と、を接触させた状態で、前記CO
2
を電気化学的に還元し、前記触媒がCuを含有し、X線光電子分光法(XPS)で測定した前記触媒のXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、931eV~933eVの間にある前記ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVである。
(29)本発明の一態様に係る電気化学的還元方法は、Tiを含む酸化物を含有する触媒に、pH5~15の溶液と、CO
2
と、を接触させた状態で、前記CO
2
を電気化学的に還元し、前記触媒の紫外・可視吸収スペクトルにおいて、波長400nmの強度I
400
と波長600nmの強度I
600
との比I
400
/I
600
が0.5~3である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の上記態様によれば、CO2の電気化学的還元反応において、CH4生成の選択率を改善した電気化学的還元方法と触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施形態に係る電気化学的還元装置の模式図である。
【
図2】触媒の出発組成とEDSで測定されたCuの組成比との関係を示す図である。
【
図3】大気下で加熱処理して得られた触媒、アナターゼTiO
2、およびブルッカイトTiO
2のXRDパターンである。
【
図4】水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒、アナターゼTiO
2、ブルッカイトTiO
2およびCuのXRDパターンである。
【
図5】Cu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のO1sXPSスペクトルである。
【
図6】Cu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のTi2p
3/2XPSスペクトルである。
【
図7】Cu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のCu2p
3/2XPSスペクトルである。
【
図8】Cu含有量を変えて大気下で加熱処理して得られた触媒の紫外・可視吸収(UV-Vis)スペクトルである。
【
図9】Cu含有量を変えて水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒の紫外・可視吸収スペクトルである。
【
図10】TiO
2-airを水素処理した触媒とそれを再度酸化したサンプル触媒の紫外・可視吸収スペクトルである。
【
図11】Cu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のC1SのXPSスペクトルである。
【
図12】触媒のCu出発組成とEDSで測定されたC K線の強度との関係を示す図である。
【
図13】Cu含有量を変えて水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒の高角度暗視野走査透過電子顕微鏡像である。
【
図14】Cu含有量とメタン生成の部分電流密度との関係を示す図である。
【
図15】5Cu-TiO
2-Hおよび50wt%Nafion(登録商標)触媒を用いた場合の生成物と電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
<電気化学的還元装置>
以下、図面を参照して、実施形態に係る電気化学的還元方法に用いる電気化学的還元装置100について説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0039】
図1は、本実施形態に係る電気化学的還元装置100の模式図である。電気化学還元装置100は、アノード10、セパレータ15、カソード20および電源140を備える。電源140はアノード10とカソード20と電気的に接続される。本実施形態の電気化学還元装置100は、さらに、第1流路板30、第2流路板31、第3流路板32、第4流路板33、第1流路構造体50、第2流路構造体60、および第3流路構造体70を備える。また、本実施形態の電気化学還元装置100は、さらに、第1溶液送出部151、廃液回収部152、第2溶液送出部161、液体生成物回収部162、気体送出部171、気体生成物回収部172を備える。以下、各部について説明する。
【0040】
(アノード)
アノード10は、第1流路板30とガス排出部材40との間に配置される。アノード10は、第1流入口51からアノード室53に流入した後述する第1電解液を酸化して、酸素、水素イオンなどを生成する。第1電解液を酸化して生成された生成物のうち、第1電解液に溶解した物質は第1流出口52を通り、排出される。また、気体状の生成物、例えばO2は、アノード10から、ガス排出部材40の開口部41を通り、排出される。
アノード10は、例えば、多孔質材である。アノード10の材質は、例えば、ニッケル、チタン、鉄等の金属、またはこれらの金属を含有する合金である。アノード10の具体例としては、例えばニッケルフォームである。
【0041】
アノード10は、第1電解液の酸化を促進する触媒(酸化触媒)を備えていてもよい。酸化触媒としては、例えば、白金、イリジウム、コバルト、鉄などが挙げられる。
【0042】
(ガス排出部材)
電気化学還元装置100において、ガス排出部材40は、アノード10と蓋部材45の間に配置される。アノード10とガス排出部材40との間には、別途流路板などが配置されてもよい。ガス排出部材40はアノード10の酸化反応で生じた気体状の生成物を排出するための開口部41を備えてもよい。ガス排出部材40は開口部41を備えなくてもよい。アノード10上で起こる酸化反応で生じた気体生成物(酸素)は、開口部41あるいは第1流出口52から電解液とともに排出される。
【0043】
(蓋部材)
電気化学還元装置100において、蓋部材45は、ガス排出部材40に接して配置される。
【0044】
(第1流路板)
第1流路板30は、第1流路構造体50とアノード10との間に配置される。第1流路板30には、第1電解液とアノード10とが接触できるように開口部30aが設けられている。第1流路板30の材質は、化学的に安定で、絶縁性を有していれば特に限定されない。第1流路板30の材質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ガラスなどが挙げられる。
【0045】
(第1流路構造体50)
電気化学還元装置100では、第1流路構造体50は、第1流路板30と第2流路板31との間、または、第1流路板30とセパレータ15との間に配置される。第1流路構造体50は第1流入口51、第1流出口52、アノード室53、および流路54を備える。第1流路構造体50は、アノード10と第1電解液とを接触させるための開口部50aを備える。また、第1流路構造体50は、セパレータ15と第1電解液とを接触させるための開口部50bを備える。
【0046】
第1溶液送出部151から第1電解液は、第1流入口51に送られる。第1流入口51に入った第1電解液は、流路54に入り、アノード室53に送られる。アノード室53において、アノード10の酸化反応が進行し、反応後の第1電解液が第1流出口52から廃液回収部152に排出される。第1溶液送出部151は、例えば、第1電解液を貯めるタンクとポンプ、流量を制御する流量制御部などから構成される。
【0047】
(第2流路板)
第2流路板31は、セパレータ15と第1流路構造体50との間に配置される。第2流路板31の材質は、化学的に安定で、絶縁性を有していれば特に限定されない。第2流路板31の材質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ガラスなどが挙げられる。第2流路板31は、セパレータ15と第1電解液とを接触させる開口部31aを備える。電気化学還元装置100は、第2流路板31を取り付けなくても機能するが、液漏れを簡便に防ぐためには設置することが望ましい。
【0048】
(セパレータ)
セパレータ15は、アノード10とカソード20との間に配置される。本実施形態では、第2流路板31と第3流路板32との間に配置されている。セパレータ15により、アノード10とカソード20とを分離し、かつ、アノード10とカソード20との間で一部のイオンを移動させることができる。セパレータ15は、アノード10とカソード20とを分離し、かつ、アノード10とカソード20との間で一部のイオンを移動させることができれば、特に限定されない。セパレータ15としては例えば、イオン交換膜が挙げられる。イオン交換膜としては、例えば、スルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体であるナフィオン(登録商標)膜、1-メチルイミダゾールで官能基化したスチレンと塩化ビニルベンジルの共重合体であるSustainion(登録商標) X37-50 Grade RT Membraneなどが挙げられる。
【0049】
(第3流路板)
第3流路板32は、セパレータ15と第2流路構造体60との間に配置される。第3流路板32の材質は、化学的に安定で、絶縁性を有していれば特に限定されない。第3流路板32の材質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ガラスなどが挙げられる。第3流路板32は、セパレータ15と第1電解液とを接触させる開口部32aを備える。電気化学還元装置100は、第3流路板32を取り付けなくても機能するが、液漏れを簡便に防ぐためには設置することが望ましい。
【0050】
(第2流路構造体)
第2流路構造体60は、第3流路板32と第4流路板33、あるいはセパレータ15と第4流路板33との間に配置される。第2流路構造体60は、第2流入口61、第2流出口62、カソード室63、および流路64を備える。流路64において、後述する第2電解液が流れる。第2流路構造体60は、セパレータ15と第2電解液とを接触させるための開口部60aを備える。また、第2流路構造体60は、カソード20と第2電解液とを接触させるための開口部60bを備える。
【0051】
第2溶液送出部161から第2電解液は、第2流入口61に送られる。第2流入口61に入った第2電解液は流路64に入り、カソード室63に送られる。カソード室63において、カソード20の還元反応が進行し、カソード20の還元反応性で生成された生成物を含有する第2電解液が第2流出口62から排出される。排出された第2電解液は、液体生成物回収部162に送られる。液体生成物回収部162においてカソード20の還元反応で生成された生成物が回収される。第2溶液送出部161は、例えば、第2電解液を貯めるタンクとポンプ、流量を制御する流量制御部などから構成される。
【0052】
(第4流路板33)
第4流路板33は、カソード20と第2流路構造体60との間に配置される。第4流路板33の材質は、化学的に安定で、絶縁性を有していれば特に限定されない。第4流路板33の材質としては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ガラスなどが挙げられる。第4流路板33は、カソード20と第2電解液とを接触させる開口部33aを備える。
【0053】
(カソード)
カソード20は、第3流路構造体70と第4流路板33との間に配置される。カソード20は、基板21と触媒層22とを備える。
【0054】
基板21は、第3流路構造体70から送られた後述するCO2含有ガスを透過する機能および導電性を有する。基板21は、多孔質であることが好ましい。基板21としては、カーボンペーパー、カーボンクロスなどが挙げられる。
【0055】
触媒層22は、基板21上に設けられ、第2電解液と接する。触媒層22において、アノード10から供給されたイオン、第3流路構造体70から供給されたCO2含有ガスとから、CO2の還元反応を行う。CO2の還元反応は、基板21と触媒層22との境界近傍で起こり、メタンなどの気体状のガス生成物は、第3流出口72から排出され、第2電解液中に溶解した生成物は、第2流出口62から排出される。
【0056】
触媒層22は、触媒を含有する。触媒の含有量は、触媒層22の全質量に対し、1wt%以上であることが好ましい。より好ましくは触媒の含有量は10wt%以上である。さらに好ましくは触媒の含有量は、50wt%以上である。触媒の含有量は、99wt%以下であることが好ましい。より好ましくは、触媒の含有量は80wt%以下である。
【0057】
触媒層22中触媒は、Tiを含む酸化物を含有する。Tiを含む酸化物を含有することで、メタン生成の選択率を向上することができる。
【0058】
触媒中のTiを含む酸化物は、TiO2であることが好ましい。TiO2は水素との化学的な相互作用を示す化合物である。TiO2は、水素ガスと反応させることで可視光吸収を示すようになるので、水素雰囲気下での加熱処理などによって触媒の伝導度を向上することができる。
【0059】
Tiを含む酸化物の含有量は、触媒の全質量に対して、2wt%以上であることが好ましい。より好ましいTiを含む酸化物の含有量は5wt%以上である。さらに好ましくは、Tiを含む酸化物の含有量は、10wt%以上である。特に好ましくは、Tiを含む酸化物の含有量は、90wt%以上である。Cuを含有しなくてもよいのでTiを含む酸化物の含有量の上限は100wt%であってもよい。Tiを含む酸化物の含有量は99.999wt%以下であることが好ましい。
【0060】
Tiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップが3eV以下であることが好ましい。より好ましくは、バンドギャップは2.5ev以下である。
【0061】
Tiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップの測定方法を以下に説明する。ここでは、触媒の紫外・可視光スペクトルを測定し、得られたスペクトルから求めた触媒のバンドギャップの値をTiを含む酸化物の少なくとも一部のバンドギャップの値とみなす。触媒のバンドギャップはTaucプロットにより算出した。TaucプロットはTauc、Davis、Mottらによって提案された関係式(1)の吸光係数αの代わりにKubelka-Munk変換したスペクトルの縦軸の値F(R∞)で置き換えた式(2)に基づいている。
(hνα)1/n=A(hν-Eg) (1)
(hνF(R∞))1/n=A(hν-Eg) (2)
ここで,h:プランク定数、ν:振動数、α:吸光係数、Eg:バンドギャップ、A:比例定数を意味する。nは試料の遷移の種類によって決まり、直接許容遷移の場合はn=1/2、直接禁制遷移の場合はn=3/2、間接許容遷移の場合はn=2、間接禁制遷移の場合はn=3とする。アナターゼ型TiO2は間接遷移型半導体であるため,n=1/2とする。Kubelka-Munk変換したスペクトルをもとに横軸hν、縦軸hνF(R∞))1/2のグラフ上に(hν,hνF(R∞))1/2)の値をプロットすると、吸収端付近の吸収曲線は直線的になり、この付近に重なるように接線を引き横軸との交点を求めると、バンドギャップが求めることができる。
【0062】
触媒は、さらにCuを含有することが好ましい。Cuを含有することで、メタン生成の選択率を向上することができる。Cuの含有量としては、触媒全質量に対して、0.001wt%以上であることが好ましい。より好ましくはCuの含有量は、1wt%以上である。さらに好ましくはCuの含有量は3wt%以上である。Cuの含有量は、90wt%以下であることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは、20wt%以下である。さらに好ましくは、Cuの含有量は10wt%以下である。特に好ましくは、Cuの含有量は7wt%以下である。
【0063】
触媒の紫外・可視吸収スペクトルにおいて、波長400nmの強度I400と波長600nmの強度I600との比I400/I600が0.5~3であることが好ましい。比I400/I600が0.5~3であると、TiO2の表面近傍の格子内に水素が取り込まれる。水素がTiO2の表面近傍に存在することで、Cu上で起こる還元反応中にTiO2界面から水素を効率よく供給することができる。これによって、よりメタン生成の選択率を向上することができる。
【0064】
比I400/I600は、以下の方法で測定することができる。触媒の紫外・可視吸収スペクトルを測定する。得られた紫外・可視吸収スペクトルをKubelka-Munk関数で変換して得られたスペクトルにおいて、波長400nmの強度I400と波長600nmの強度I600とから比I400/I600を計算する。
【0065】
触媒のX線光電子分光法(XPS)で測定されたスペクトル(以下、XPSスペクトルと称する場合がある)において、528eV~532eVの間にピーク(O1sに帰属されるO1sピーク)があり、528eV~532eVの間にある当該ピークの半値幅が1.2eV~1.55eVであることが好ましい。半値幅は半値全幅(FWHM)をいう。これによって、酸素欠陥サイト生成による触媒の劣化を防止することができる。また、酸素欠陥サイトを生成することなく、新しく水素サイトがTiO2格子に形成されたことがわかる。このように水素サイトの導入により、バンド内部に新しい状態が生じるため、触媒表面のTiを含有する酸化物のバンドギャップの縮小による伝導性を向上することができる。また、導入されたCO2の水素化における水素源としても機能する。これによって、還元反応の速度を向上することができる。
【0066】
触媒のXPSスペクトルにおいて、457eV~460eVの間にピーク(Ti2p3/2に帰属されるTi2p3/2ピーク)があり、457eV~460eVの間にある当該ピークの半値幅が水素処理を行った場合でも1.1eV~1.5eVになることが望ましい。ピークトップが458.6eVのピークはTi4+に帰属されるピークである。457eV~460eVの間にピークがあり、当該ピークの半値幅が1.1eV~1.5eVであることは、酸素欠陥が生じていないことを意味する。これによって、劣化の原因となる酸素欠陥サイトの生成がなくとも、伝導性が改善されることによって、還元反応の速度を向上することができる。
【0067】
触媒のXPSスペクトルにおいて、931eV~933eVの間にピークがあり、931eV~933eVの間にある当該ピークの半値幅が1.4eV~1.9であることが好ましい。931eV~933eVの間にあるピークは、Cu0に由来するピークである。なお、ここで、931eV~933eVの間にピークが有るとは、ピークトップ(強度が最大値となる値)が931eV~933eVの間にあることを意味する。他のピークも同様である。931eV~933eVの間にピークがあり、当該ピークの半値幅が1.4eV~1.9eVである場合、触媒表面のCuがCu0として存在している。これによって、触媒の活性が向上する。
【0068】
触媒のXPSスペクトルの測定方法は、以下の方法で行う。試料をスポットサイズ100μm、積算回数(O1s 10回、Ti2P3/2 10回、Cu2p3/2 40回)、Al Kα線を使用して測定した。半値幅は、ガウス関数とローレンツ関数の混合関数でフィッティングを行うことで求めた。
【0069】
触媒層22は、さらにバインダを含有していてもよい。バインダとしては特に限定されないが、例えば、電解質高分子が好ましい。電解質高分子としては、スルホ化されたテトラフルオロエチレンを基にしたフッ素樹脂の共重合体であるナフィオン(登録商標)などが挙げられる。バインダの含有量は、例えば10wt%~50wt%である。
【0070】
触媒層22は、さらにアセチレンブラック、カーボンナノチューブなどの導電助剤を含有してもよい。
【0071】
(第3流路構造体)
第3流路構造体70は、カソード20の基板21に接して配置される。第3流路構造体70は、基板21の触媒層22が設けられた面と反対の面に接している。第3流路構造体70は、第3流入口71、第3流出口72、ガス室73、およびガス流路74を備える。ガス流路74において、後述するCO2含有ガスが流れる。第3流路構造体70は、カソード20とCO2含有ガスとを接触させるための開口部70aを備える。
【0072】
CO2含有ガスは、気体送出部171から第3流入口71に送られる。第3流入口71に入ったCO2含有ガスは、ガス流路74に入り、ガス室73に送られる。ガス室73において、カソード20の還元反応が進行し、カソード20の還元反応で生成されたガス生成物を含有するCO2含有ガス(以下、生成ガスと称する場合がある)を第3流出口72から気体生成物回収部172に送る。
【0073】
以上、本実施形態に係る電気化学還元装置100について詳述した。本実施形態に係る電気化学還元装置100によれば、CO2の還元反応において、メタン生成の選択率を向上することができる。
【0074】
本実施形態の電気化学還元装置100では、参照電極を設けていなかったが、参照電極を設けてもよい。参照電極としては水銀-酸化水銀電極(Hg/HgO)などが挙げられる。
【0075】
本実施形態の電気化学還元装置100では、第1流路板30、第2流路板31、第3流路板32、第4流路板33を用いたが、各流路板は用いなくてもよい。
【0076】
ガス排出部材40には、開口部41が設けられていたがアノード10での酸化反応で生じたO2などの気体状の物質を除去できれば、開口部41は無くてもよい。
【0077】
<電気化学還元方法>
次に、本実施形態に係る電気化学還元方法について説明する。本実施形態に係る電気化学還元方法は、Tiを含む酸化物を含有する触媒に、pH5~15の溶液と、CO2と、を接触させた状態で、CO2を電気化学的に還元する。以下、電気化学還元装置100を用いた電気化学還元方法を行う方法を説明するが、本発明は、電気化学還元装置100を用いた方法に限定されない。
【0078】
本実施形態に係る電気化学還元方法は、第1電解液をアノード室53に送る第1電解液送出工程と、第2電解液をカソード室63に送る第2電解液送出工程と、CO2含有ガスをガス室73に送るCO2含有ガス送出工程と、CO2を電気化学的に還元する電気化学的還元工程と、を備える。本実施形態において、各工程は、例えば、並行して実施される。
【0079】
(第1電解液送出工程)
第1電解液送出工程では、第1溶液送出部151からアノード室53に第1電解液を送出する。また、アノード10で起こった酸化反応に伴う生成物を廃液回収部152に送る。
【0080】
第1電解液は、少なくとも水(H2O)を含有する電解液である。例えば、第1電解液としては、水酸化物イオン、カリウムイオン、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種以上を含有する電解液が挙げられる。電解質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0081】
第1電解液のpHはpH5~15である。第1電解液のpHは6以上であることが好ましい。第1電解液のpHが5~15であることで、アノード10での酸化反応を進行しやすくすることができる。
【0082】
第1電解液の流量は、アノード10の面積、アノード室53の体積に応じて適宜設定することができる。
【0083】
(第2電解液送出工程)
第2電解液送出工程では、第2溶液送出部161からカソード室63に第2電解液を送出する。また、カソード室63で起こった還元反応に伴う生成物を液体生成物回収部162に送る。
【0084】
第2電解液は、少なくとも水を含有する電解液である。例えば、第2電解液としては、水酸化物イオン、カリウムイオン、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、硝酸イオンからなる群から選択される少なくとも1種以上を含有する電解液が挙げられる。電解質としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0085】
第2電解液のpHはpH5~15である。第2電解液のpHは6以上であることが好ましい。第1電解液のpHが5~15であることで、アノード10での酸化反応を進行しやすくすることができる。第1電解液のpHと第2電解液のpHは同一であることが好ましい。
【0086】
第2電解液の流量は、カソード20の面積、カソード室63の体積に応じて適宜設定することができる。第2電解液の流量は、0.5ml min-1~7ml min-1である。
【0087】
(CO2含有ガス送出工程)
CO2含有ガス送出工程では、気体送出部171からガス室73にCO2含有ガスを送出する。また、カソード室63で起こった還元反応に伴う気体状の生成物(ガス生成物)を気体生成物回収部172に送る。
【0088】
CO2含有ガス中のCO2濃度はCO2含有ガスの全体積に対して10vol%以上であることが好ましい。より好ましくは、CO2含有ガス中のCO2濃度は、50vol%以上である。さらに好ましくは、CO2含有ガス中のCO2濃度は、90vol%以上である。CO2濃度の上限は、100vol%である。
【0089】
CO2含有ガス中の流量は、カソード20の面積、カソード室63の体積に応じて適宜設定することができる。CO2含有ガスの流量は、例えば、1~15sccmである。
【0090】
(電気化学的還元工程)
電気化学的還元工程では、CO2を電気化学的に還元する。具体的には、電源140からアノード10とカソード20との間に電圧を印加して電流を供給する。アノード10とカソード20との間に電流を流すとアノード10付近で酸化反応が進行し、カソード20付近で還元反応が進行する。以下の反応では、メタン(CH4)を例に挙げて説明するが、電気化学的還元工程では、他にC2H4,COなどが生成されてもよい。アノード10とカソード20との反応に分けて説明する。
【0091】
アノード10とカソード20との間に電源140から電流が供給されると、アノード10と接触した第1電解液との間で水の酸化反応が生じる。具体的には、pHが7以下の場合は、下記の式(3)に示すように、第1電解液中に含まれる水が酸化されて酸素と水素イオンとが生じる。
2H2O→4H++O2+4e-・・・(3)
pHが7超の場合は、下記の式(4)に示すように、第1電解液中に含まれるOH-が酸化されて酸素と水が生じる。
4OH-→O2+2H2O+4e―・・・(4)
【0092】
pHが7以下の場合は、アノード10で生成されたH+は、第1電解液、セパレータ15、第2電解液を移動し、カソード20の触媒層22に到達する。電源140から供給される電流(e-)とカソード20の触媒層22に到達したH+とによって、CO2の電気化学的な還元反応が進行する。具体的には、下記の式(5)に示すように、ガス室73からカソード20に供給されたCO2含有ガス中のCO2が還元されたCH4になる。すなわち、CO2を電気化学的に還元することでCH4を生成する。
CO2+8H++8e-→CH4+2H2O・・・(5)
pHが7超の場合は、下記の式(6)に示すように、第1電解液中に含まれるCO2が還元され、H2Oと反応して、CH4とOH-が生じる。生成したOH-はセパレータを通ってアノードに運ばれる。
CO2+6H2O + 8e-→CH4+8OH-・・・(6)
【0093】
上記のカソード20での反応は、触媒層22の触媒上で反応が進行する。即ち、触媒層22の触媒に、pH5~15の溶液と、CO2と、を接触させた状態で、CO2は電気化学的に還元される。
【0094】
アノード10とカソード20との間に印加する電圧は、例えば0V~-4.0Vである。より好ましくは、電圧は、-1.0V~-2.5Vである。電圧が-1.0V~-2.5Vであれば、よりエネルギー変換効率が高い状態でCO2の電気化学的な還元反応を進めることができる。
【0095】
以上、本実施形態に係る電気化学還元方法について説明した。本実施形態の電気化学還元方法によれば、CO2の電気化学的還元方法において、CH4生成の選択率を向上することができる。
【0096】
<触媒の製造方法>
次に、本実施形態に係る触媒の製造方法について説明する。本実施形態に係る触媒の製造方法は、原料を混合して、密閉容器に入れ、当該密閉容器の表面温度が加熱温度となるまで加熱した後、当該加熱温度を10分以上保持して前駆体を作製し、作製した前記前駆体を焼成温度で1分以上焼成して触媒を製造する。本実施形態では、ソルボサーマル法を用いた触媒を製造する。以下、本実施形態に係る触媒の製造方法について説明する。
【0097】
(原料)
本実施形態に係る触媒の製造方法において、原料は、チタン(Ti)を含有するチタン原料と銅(Cu)を含有する銅原料とを含む。
【0098】
チタン原料は、例えば、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)テトラブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、二ホウ化チタンなどが挙げられる。チタン原料としては、チタン(IV)テトラブトキシドが好ましい。
【0099】
銅原料は、例えば、酢酸銅(II)、ステアリン酸銅(II)、塩化銅(II)である。銅原料としては、酢酸銅(II)が好ましい。
【0100】
チタン原料に含まれるチタン(Ti)と、銅原料に含まれる銅(Cu)と、の重量比(Ti:Cu)が1:99~99.99:0.01であることが好ましい。より好ましくは、重量比(Ti:Cu)が10:90~99:1である。さらに好ましくは、重量比(Ti:Cu)が50:50~93:7である。重量比(Ti:Cu)が99:1~90:10であれば、Tiを含有する酸化物中でCuを効果的に孤立させることができるが、それ以外の重量比であっても孤立させることができれば、CH4を生成することはできる。Cu原子が孤立していない場合、2つのCOのC-C結合によりC2化合物が生成される割合が多くなる。Cuが孤立化することで、メタン生成の選択率を向上することができる。
【0101】
密閉容器の加熱温度は60℃~280℃であることが好ましい。60℃~280℃での温度範囲であれば、触媒の前駆体が収率高く製造することができる。加熱温度はより好ましくは180℃~220℃である。
【0102】
密閉容器の加熱温度到達後の保持時間は10分以上であることが好ましい。より好ましい保持時間は1時間以上である。保持時間を10分以上とすることで、触媒の前駆体の収率を高くすることができる。
【0103】
前駆体の焼成温度は、100℃~800℃であることが好ましい。焼成温度が100℃~800℃の範囲であることで、前駆体から触媒を製造することができる。焼成温度はより好ましくは300℃~500℃である。
【0104】
前記前駆体を焼成するときの雰囲気は特に限定されない。前駆体を焼成する際の雰囲気は、大気であってもよいし、水素雰囲気下であってもよい。本実施形態に係る触媒の製造方法では、水素雰囲気下で焼成することが好ましい。
【0105】
前記前駆体を焼成するときのH2濃度が0.5vol%以上であることが好ましい。より好ましく焼成する際のH2濃度が5vol%以上である。より好ましくはH2濃度が99.9vol%以上である。H2濃度の上限は100vol%である。H2濃度が1vol%以上であれば、触媒中のCuの少なくとも1部をCu0の状態にすることができる。また、TiO2の表面近傍の格子内に水素を取り込むことができ、メタン生成の選択率を向上することができる。
【0106】
<カソードの製造方法>
カソード20は、多孔質であり、導電性を有する基板21上に、触媒を含有する触媒層22を形成することで得られる。触媒層22を形成する方法は、特に限定されない。例えば、触媒を分散した分散液を基板21に塗布し乾燥することで触媒層22を基板21上に形成してもよい。
【0107】
分散液の塗布方法は特に限定されない。例えば、スプレーを用いて、分散液(触媒インク)を塗布してもよい。分散液には、バインダなどが含有されていてもよい。
【0108】
以上、本実施形態に係る電気化学還元方法、触媒、および触媒の製造方法について説明した。本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【実施例】
【0109】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0110】
(触媒の合成)
チタン(IV)テトラブトキシドをN,N-ジメチルホルムアミド(99.5%)30mL、2-プロパノール0.207mLおよび酢酸銅(II)、無水の混合物に素早く添加した。混合物が入ったPTFE容器をステンレス製のオートクレーブに移して密閉しオーブンに入れ200℃で20時間保持した。得られた固形物を7500rpmで10分間遠心分離を行った。得られた前駆体を分離した後、エタノール、アセトン、ヘキサンで数回洗浄した。その後、前駆体を真空下、室温で乾燥させた。最後に、前駆体を空気または水素気流中(60 ml min-1)で450℃で30分間加熱(加熱処理)して触媒(xCu-TiO2-y)を得た。なお、xCu-TiO2-yのxは触媒中のCuのドープ量(x wt.%)を示す。xCu-TiO2-yのyは加熱時の雰囲気を示す。ここでは、大気下で加熱した場合をy=airとし、H2雰囲気中で加熱した場合、y=Hとした。チタン(IV)テトラブトキシド1mLをN,N―ジメチルホルムアミド(99.5%)30mL、 2―プロパノール0.215 mLおよび目的の担持量相当の酢酸銅(II)(無水)の混合物に素早く添加した。1Cu―TiO2の調製には、6.64mgの酢酸銅(II)(無水)を用いた。また、同様に酢酸銅(II)を添加しない以外は、xCu-TiO2-yと同じ条件で合成し、TiO2-yを得た。TiO2-yのyは、加熱時の雰囲気を示す。ここでは、大気下で加熱した場合をy=airとし、H2雰囲気中で加熱した場合、y=Hとした。なお、チタン(IV)テトラブトキシド中のチタン(Ti)と、酢酸銅に含まれる銅(Cu)と、の重量比(Ti:Cu)は、100:0~90.5:9.5の範囲で調製した。
【0111】
(触媒の元素組成)
調製した触媒の元素組成は,JED-2300 (JEOL)を用いてエネルギー分散型X線分光法(EDS)で測定した。
【0112】
(触媒のXRDパターン)
触媒の粉末X線回折(XRD)パターンは、理研物質科学ビームライン BL44B2で取得した。
【0113】
(紫外・可視吸収スペクトル)
触媒の紫外・可視吸収スペクトルは,V-670 (JASCO)を用いて測定した。紫外・可視吸収スペクトルにおける反射強度を,Kubelka-Munk関数を用いて光吸収係数に対応する強度に変換した。
【0114】
(XPS)
触媒のX線光電子分光(XPS)スペクトルは、VersaProbeII (ULVAC-PHI)を用いて、Al Kα線を使用して行った。XPSスペクトルの結合エネルギーは、試料中の配位子の炭素原子のC1s結合エネルギーを284.5eVとし、補正した。
【0115】
(STEM)
触媒の走査透過電子顕微鏡(STEM)はJEM-ARM200F(JEOL)を用いて200kVで行った。
【0116】
(電極の作製)
カソード用のガス拡散電極(GDE)は、以下の方法で作製した。基板としてカーボンペーパー(Fuel Cell Store Sigracet 22 BB、マイクロポーラス層付き)を用いた。2-プロパノール200μL、水200μL、Nafion(登録商標)溶液(Sigma―Aldrich 527084)10μL、および上記で合成した触媒粉末1mgを混合した。混合物を、4mLスクリューバイアルに入れ15分間超音波分散させて、触媒インクを作製した。得られた触媒インクをカーボンペーパーにエアブラシで噴霧することで、カソードを作製した。
【0117】
(電気化学的CO
2還元反応)
電気化学的CO
2還元反応(ECO
2R)は、
図1に示す電気化学還元装置に参照電極(水銀-酸化水銀電極(Hg/HgO))を追加した三電極系の電気化学還元装置で行った。カソードは上記の方法で製造したカソードを用い、アノードにはニッケルフォームを用いた。電気化学還元装置内のカソードの電極面積は1cm
2とした。カソード室とアノード室の仕切りには、ナフィオン(登録商標)117陽イオン交換膜を使用した。
【0118】
1M KOH水溶液(pH13.8)を2台のポンプでカソード室に7 mL min-1、アノード室に1 mL min-1の速度でそれぞれ導入した。電気化学還元装置100のガス室には、純CO2ガスを15 mL min-1の流量で連続的に供給した。ECO2Rの活性はクロノポテンショメトリーによって評価した。カソードの電位は、以下の式(7)を用いて可逆水素電極(RHE)の値に変換した。ここで示した電圧はすべてiR補正なしのものである。
E(vs.RHE)=E(vs.Hg/HgO)+0.098V+0.0591V×pH・・・(7)
【0119】
(電気化学的CO2還元反応における生成物の分析)
電気化学的CO2還元反応で生成された気体生成物は、Molsieve 5AカラムとPlot Qカラムに熱伝導度検出器(TCD)を組み合わせたマイクロGC(Inficon Micro GC Fusion (登録商標))を用いて分析した。
【0120】
電気化学的CO2還元反応で生成された液体生成物は、屈折率検出器(RID-10A, 島津製作所)付き高速液体クロマトグラフ(HPLC, LC-20AD, Shimadzu)で分析した。
【0121】
生成物のファラデー効率(FE)は、以下の式(8)で定義される。ここで、式(2)中のniは生成物iのモル数、式(8)中のziは生成物iの生成に必要な電子数を表す。CO、ギ酸、H2はzi=2、CH4はzi=8である。C2H4はzi=12であるC2H6はzi=14である。式(8)中のFはファラデー定数(96,485 C mol-1)である。式(8)中のQは、ECO2R中に流れた電荷量である。
【0122】
【0123】
なお、気体生成物の場合、niは下記(9)式に基づいて計算した。ここで、xiはガス生成物iの体積分率、P0は大気圧(1 atm)、νはCO2の流量(0.015 L min-1)、tは反応時間、Rは気体定数(0.08205 L・atm・mol-1K-1)、Tは298 Kである。
【0124】
【0125】
(触媒の元素比)
図2に得られたxCu-TiO
2サンプルに対するCuの出発組成とEDS測定で決定された元素組成の関係を示す。
図2の横軸は、合成出発時のCu含有量(wt%)を表し、
図2の縦軸は、合成後の触媒中のCu含有量(wt%)を示す。
図2に示すように、EDS測定で決定された元素組成は、出発組成比とよく一致しており、概ね目的量のCuが含有されていることが確認された。
【0126】
(触媒の構造)
図3に、大気下で加熱処理して得られた触媒(xCu-TiO
2-air)、アナターゼTiO
2、およびブルッカイトTiO
2のXRDパターンを示す。
図3の横軸は、2θ(degree)であり、縦軸は強度(a.u.)である。
図4に、水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒(xCu-TiO
2-air)、アナターゼTiO
2、ブルッカイトTiO
2、およびCuのXRDパターンを示す。
図4の横軸は、2θ(degree)であり、縦軸は強度(a.u.)である。
【0127】
図3および
図4に示すように、大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒は、アナターゼTiO
2とわずかにブルッカイトTiO
2からの回折線が観測された。
図4に示すように、水素雰囲気下で加熱して得られたCu-TiO
2-HではCuの含有量が5wt%以上の触媒においてCuからの回折が観察された。すなわちCuを5wt%以上含む触媒中では、Cuナノ粒子が存在することが明らかとなった。
【0128】
6配位のTi4+イオン(0.605 Å)とCu2+(0.73 Å)のイオン半径は異なり、Cu2+の方が大きいが、いずれの触媒においてもアナタースの回折ピーク位置のシフトは観察されなかった。このことから、触媒に導入したCuの大部分はTiO2の格子にドープされているのではなく、TiO2表面付近に分散していることが示唆された。
【0129】
(触媒のXPSスペクトル)
図5にCu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のO1sのXPSスペクトルを示す。
図5に示す通り、528eV~532eVの間にピークが確認された(O1sピーク)。
図5は、Cu0wt%のTiO
2(TiO
2)、Cu1wt%を添加した1Cu-TiO
2、Cu3wt%を添加した3Cu-TiO
2、Cu5wt%を添加した5Cu-TiO
2、Cu7wt%を添加した7Cu-TiO
2、およびCu10wt%を添加した10Cu-TiO
2のO1sのXPSスペクトルである。各XPSスペクトルの実線は、水素雰囲気下(H
2)で加熱処理したことを示し、各XPSスペクトルの破線は、大気下(air)で加熱処理したことを示す。
図5中の横軸は、結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は、規格化した強度(a.u.)を示す。また、得られたO1sピークに対しフィッティングを行い、O1sピークの半値全幅(FWHM)(単位eV)を得た。得られた結果を表1に示す。
図5および表1に示すように、O1sのXPSスペクトルは10Cu-TiO
2-air、10Cu-TiO
2-H
2を除き、ほぼ同じであった。このことは、熱処理の雰囲気やCuの含有量の違いによらずxCu-TiO
2-yの表面付近のO原子が同様の結合環境を有することが分かった。10Cu-TiO
2-airのスペクトルの違いはCu(II)種に起因するものであると考えられる。すなわち、Cu-TiO
2-airおよびCu-TiO
2-Hの表面には酸素欠陥が存在しないことが明らかとなった。
【0130】
【0131】
図6にCu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のTi2p
3/2XPSスペクトルを示す。
図6に示すように457eV~460eVの間にピーク(Ti2p
3/2ピーク)が確認された。
図6は、Cu0wt%のTiO
2(TiO
2)、Cu1wt%を添加した1Cu-TiO
2、Cu3wt%を添加した3Cu-TiO
2、Cu5wt%を添加した5Cu-TiO
2、Cu7wt%を添加した7Cu-TiO
2、およびCu10wt%を添加した10Cu-TiO
2のTi2p
3/2XPSスペクトルである。各XPSスペクトルの実線は、水素雰囲気下(H
2)で加熱処理したことを示し、各XPSスペクトルの破線は、大気下(air)で加熱処理したことを示す。
図6中の横軸は、結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は、規格化した強度(a.u.)を示す。また、得られたTi2p
3/2ピークに対しフィッティングを行い、得られたTi2p
3/2ピークの半値全幅(FWHM)(単位eV)を得た。得られた結果を表2に示す。
【0132】
【0133】
図6のxCu-TiO
2-yのTi 2p
3/2 XPSスペクトルに示されるように、大気下あるいは水素雰囲気下で加熱処理したいずれの触媒もTi
4+に帰属される458.6eVを中心とする対称的なピークを与えた。これは、典型的なTiO
2中のTi
4+-O結合のスペクトル形状を示す。触媒間で明らかな低エネルギー側へのピークシフトも見られなかった。そのため、加熱処理の雰囲気やCuの含有量の違いによらずxCu-TiO
2-yの表面付近のTiはTi
4+であり、酸素欠陥の導入がないことが裏付けられた。加えて、表2に示すように、水素処理を行ったほうが半値全幅が小さい傾向にあった。
【0134】
図7にCu含有量を変えて大気下または水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒のCu2p
3/2XPSスペクトルを示す。
図7に示す通り、931eV~933eVの間にピークが確認された(Cu2p
3/2ピーク)
図7は、Cu1wt%を添加した1Cu-TiO
2、Cu3wt%を添加した3Cu-TiO
2、Cu5wt%を添加した5Cu-TiO
2、Cu7wt%を添加した7Cu-TiO
2、およびCu10wt%を添加した10Cu-TiO
2のCu2p
3/2XPSスペクトルである。各XPSスペクトルの実線は、水素雰囲気下(H
2)で加熱処理したことを示し、各XPSスペクトルの破線は、大気下(air)で加熱処理したことを示す。
図7中の横軸は、結合エネルギー(eV)を示し、縦軸は、規格化した強度(a.u.)を示す。また、得られたCu2p
3/2ピークに対しフィッティングを行い、得られたCu2p
3/2ピークの半値全幅(FWHM)(単位eV)を得た。得られた結果を表3に示す。
【0135】
【0136】
図7のCu-TiO
2-airのスペクトルでは、933.6eVを中心とするCu2p
3/2のピークと高結合エネルギー側にショルダーピークを与えた。933.6eVのピークはCu(I)、高結合エネルギー側にショルダーピークはCu(II)に帰属される。xCu-TiO
2-airでは主にCu(I)とCu(II)の酸化物として、TiO
2表面に存在していることがわかった。表3に示す通り、Cu-TiO
2-airの半値全幅は、水素処理した場合よりも半値全幅が広い傾向にあった。なお、表3中の「-」は、Cu2p
3/2のピークを確認できなかったことを示す。
【0137】
図7のxCu-TiO
2-Hのスペクトルでは932.6eVを中心とするCu2p
3/2のピークを与えた。このピークはCu
0に帰属される。つまりxCu-TiO
2-Hでは主にCu
0としてTiO
2表面に存在していることがわかった。
【0138】
(触媒の紫外・可視吸収スペクトル)
図8は、Cu含有量を変えて大気下で加熱処理して得られた触媒の紫外・可視吸収スペクトルである。
図8の横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、光吸収係数に対応しており、反射率RをKubelka-Munk変換したもの(a.u.)である。
【0139】
図8に示すように、TiO
2-airは白色の粉末であり紫外域に強い吸収を示した。触媒のバンドギャップはTaucプロットにより算出した。TaucプロットはTauc、Davis、Mottらによって提案された上記式(1)の吸光係数αの代わりにKubelka-Munk変換したスペクトルの縦軸の値F(R∞)で置き換えた上式(2)に基づいている。
ここで, h:プランク定数、ν:振動数、α:吸光係数、Eg:バンドギャップ、A:比例定数でnは試料の遷移の種類によって決まり、直接許容遷移の場合はn=1/2、直接禁制遷移の場合はn=3/2、間接許容遷移の場合はn=2、間接禁制遷移の場合はn=3とする。アナターゼ型TiO
2は間接遷移型半導体であるため,n=1/2とする。Kubelka-Munk変換したスペクトルをもとに横軸hν、縦軸hνF(R∞))
1/2のグラフ上に(hν,hνF(R∞))
1/2)の値をプロットすると、 吸収端付近の吸収曲線は直線的になり、この付近に重なるように接線を引き横軸との交点を求めると、バンドギャップが求めることができる。Taucプロットにより算出した各触媒のバンドギャップの値を表4に示す。触媒学会の参照触媒JRC-TIO-7 (アナターゼ型酸化チタン)のバンドギャップ(3.24eV)よりも小さい。
【0140】
【表4】
Cuを添加した触媒xCu-TiO
2-airでは、Cuの含有量の増加に伴い吸収ピークが可視域にわずかにシフトしていることに加えて400nm~500nmと550nm~1500nmの間に吸収帯が現れた。400~500nmの最初の吸収帯は、TiO
2の価電子帯を形成するO2p軌道からTiO
2に付着したCu(II)状態への界面電荷移動に帰属し、550nm~1500nmの吸収帯はCu(II)のd-d遷移に帰属される。
この結果から、XPSの結果と同様にxCu-TiO
2-air上のCuはCu(II)として存在することがわかった。
【0141】
図9は、Cu含有量を変えて水素雰囲気下で加熱処理して得られた触媒の紫外・可視吸収スペクトルである。
図9の横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、光吸収係数に対応しており、反射率RをKubelka-Munk変換したもの(a.u.)である。水素雰囲気下の加熱処理によって得られたTiO
2-Hおよび1Cu-TiO
2-Hは濃い茶色の粉末であり、400nmから近赤外領域にわたって白色のTiO
2では観測されない特異な吸収が現れた。
図8および
図9から求めた400nmでの強度と波長600nmでの強度との比I
400/I
600を表5に示す。表5に示す通り、水素雰囲気下で加熱処理をした触媒の比I
400/I
600は大気下で加熱処理をした場合よりも値が低い傾向にあった。
【0142】
【0143】
TiO
2-H
2における光学特性の変化の起源を理解するために、TiO
2-airを水素処理したサンプルとそれを再度酸化したサンプルの紫外・可視吸収スペクトルを測定した(
図10)。
図10の横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、光吸収係数に対応しており、反射率RをKubelka-Munk変換したもの(a.u.)である。
図10のTiO
2-air-H
2は、TiO
2-airを水素雰囲気下で450°Cで30分間加熱した触媒を示し、TiO
2-air-H-airは、TiO
2-air-H
2を再度大気下で450°Cで30分間加熱した触媒である。
白色のTiO
2-airを水素処理して得たTiO
2-air-HもTiO
2-Hと同様に濃い茶色を呈し可視から近赤外領域にかけて吸収を示した。さらにこのTiO
2-air-Hを再び空気中で加熱したサンプルTiO
2-air-H-airは白色でTiO
2-airと同様のスペクトルを示し、可視から近赤外領域に吸収を示さなかった。したがってTiO
2-Hや1Cu-TiO
2-Hの吸収スペクトルで観測された特異な吸収は、水素がTiO
2表面近傍の格子内に取りこまれたことによって発現したことが示唆された。
【0144】
(C1s XPSスペクトル)
CがドープされたTiO
2も可視から近赤外領域に吸収を示す。TiO
2格子にドープされた可能性のある有機チタン原料由来の炭素を検出することを目的としてxCu-TiO
2-airおよびxCu-TiO
2-HのC 1s XPS測定した結果を
図11に示す。ドープされた炭素は、約281.8 eVに炭素イオンに帰属されるピークを示し、不純物由来のC1sのメインピークの結合エネルギー284.6 eV(C-C)のピークとは異なる。
図11に示すように、xCu-TiO
2-airおよびxCu-TiO
2-Hには、炭素イオンピーク(281.8eV)が存在せず、触媒間で目立った差異は見られなかった。そのため、xCu-TiO
2-Hの紫外・可視吸収スペクトルで観察された可視域の吸収がドープした炭素に由来するものではないことを確認した。
【0145】
加えて、SEM-EDS分析より、xCu-TiO
2-airおよびxCu-TiO
2-H中に検出されるC K線の強度にも目立った差異はみられなかった(
図12)ことから、xCu-TiO
2-Hの紫外・可視吸収スペクトルで観察された可視域の吸収が不純物炭素に由来するものではないことを確認した。水素雰囲気下の加熱処理によって得られたCuを3 wt%以上含有した3Cu-TiO
2-Hでは575nm~580nmにCuの表面プラズモン(SPR)に由来する吸収帯が現れた。XRD、XPSの結果からも示されたようにこれらの触媒上にはCuナノ粒子が形成されていることがわかった。
【0146】
(電子顕微鏡像)
図13に、Cu含有量を変えて水素雰囲気下で加熱処理して得られた高角度暗視野走査透過電子顕微鏡を示す。高角度暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)像からは、Cu種が高分散に担持されていることが確認された。
【0147】
(触媒活性)
図14にCu含有量とメタン生成の部分電流密度との関係を示す。
図14の横軸は、Cu含有量(wt%)を示し、縦軸はメタン生成に対する部分電流密度を示す(mAcm
-2)。CuなしでもCH
4を生成したが、Cuの担持によってCH
4生成に対する部分電流密度が大きく向上した。特に、水素処理した触媒xCu-TiO
2-HではxCu-TiO
2-airと比較して飛躍的に電流密度が向上した。Cuの含有量と水素雰囲気下での加熱処理により、触媒の活性が増大したと考えられる。
【0148】
5Cu-TiO
2-H触媒を用いてECO
2Rを行った際の生成物分布と、電流密度との関係を
図15に示す。
図15の横軸は電流密度(mAcm
-2)を示し、第1縦軸はファラデー効率(%)を示し、第2縦軸はIR free電圧(V vs RHE)を示す。
図15に示すように、5Cu-TiO
2-H触媒を用いた場合、CO
2還元生成物中のCH
4への選択性が90%であった。以上のことから、本開示の触媒はCO
2をCH
4へと選択的に還元できることがわかった。CH
4へのファラデー効率は50%、CH
4生成に対する部分電流密度は100 mA cm
-2であった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示の電気化学的還元方法、触媒および触媒の製造方法は、CO2の電気化学的還元反応において、CH4生成の選択率を改善できるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0150】
10 アノード、15 セパレータ、20 カソード、30 第1流路板、31 第2流路板、32 第3流路板、33 第4流路板、40 ガス排出部材、45
蓋部材、50 第1流路構造体、60 第2流路構造体、70 第3流路構造体、100 電気化学還元装置、140 電源、151 第1溶液送出部、152 廃液回収部、161 第2溶液送出部、162 液体生成物回収部、171 気体送出部、172 気体生成物回収部