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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】衛生マスク用シート
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
A41D13/11 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021012297
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115631
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
(72)【発明者】
【氏名】茂木 知之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅隆
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-246995(JP,A)
【文献】特開平7-100316(JP,A)
【文献】特開平9-192248(JP,A)
【文献】特開平6-192951(JP,A)
【文献】特開2009-121014(JP,A)
【文献】特開2008-248460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク本体が、少なくとも人の口及び鼻を覆う衛生マスク用シートを備え、
前記衛生マスク用シートが、
少なくとも一方向に伸縮性を有し、
前記一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長した際に、前記一方向と直交する軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率が10%以内であ
平均繊維径が50nm以上3000nm以下の繊維で構成されるフィルタ不織布を含む、
衛生マスク。
【請求項2】
前記衛生マスク用シートが前記軸方向には伸縮性を示さない請求項1記載の衛生マスク。
【請求項3】
マスク本体が、少なくとも人の口及び鼻を覆う衛生マスク用シートを備え、
前記衛生マスク用シートが、少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シートの表面に、該基材シートよりも引張弾性率が高い、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布が積層されたものであり、
前記凹凸不織布は、平均繊維径が50nm以上3000nm以下の繊維で構成されるフィルタ不織布を含む、
衛生マスク。
【請求項4】
前記凹凸不織布の前記凸部の延出方向と直交する方向に前記衛生マスク用シートを伸長させた場合に、前記凸部が引き伸ばされ、前記凹凸不織布に引張荷重がかかる際に引張弾性率が100%以上変化する変曲点を有する、請求項3記載の衛生マスク。
【請求項5】
前記変曲点に到達する前の前記引張弾性率の極大値E1に対する、前記変曲点以降の前記引張弾性率の極大値E2の変化率(E2/E1×100)が200%以上である、請求項記載の衛生マスク。
【請求項6】
前記凹凸不織布において、隣り合う前記凸部同士の間隔が1mm以上6mm以下である、請求項3~のいずれか1項に記載の衛生マスク。
【請求項7】
マスク本体と、該マスク本体に着脱可能なフィルタシートとを備え、
前記フィルタシートが、
少なくとも一方向に伸縮性を有する衛生マスク用シートであって、
前記一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長した際に、前記一方向と直交する軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率が10%以内である、衛生マスク用シートか、
又は、
少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シートの表面に、該基材シートよりも引張弾性率が高い、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布が積層されている、衛生マスク用シート
を備える、衛生マスク。
【請求項8】
少なくとも一方向に伸縮性を有する衛生マスク用シートであって、
前記一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長した際に、前記一方向と直交する軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率が10%以内である、衛生マスク用シートか、
又は、
少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シートの表面に、該基材シートよりも引張弾性率が高い、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布が積層されている、衛生マスク用シート
を、衛生マスクにおけるマスク本体に着脱可能なフィルタシートとして用いる、衛生マスク用シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛生マスク用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生マスクは、人の口や鼻を覆い、空気中の粒子(例えば埃、塵、花粉、ウイルスを含む飛沫)の外部からの侵入を防ぐ目的で使用される。該衛生マスクの使用目的には、ウイルス等を含む飛沫が口や鼻から外部へ拡散することを防止することも含まれる。
このような衛生マスクについて、これまで様々な技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、弾性シートと該弾性シートの外側表面に固着されたフィルタリングウェブとを含むフェイスマスクが記載されている。前記フィルタリングウェブは、フェイスマスクの縦方向に平行な折り目を有し、フェイスマスクの使用時に拡張可能にされた垂直プリーツを備える。
また特許文献2には、谷部及び峰部を備えた波形濾過構造と弾性ブリッジフィラメントとを備えたマスク本体が記載されている。該マスク本体において、前記弾性ブリッジフィラメントを波形濾過構造の複数の峰部を橋渡すようにして配することによって、前記峰部の局所的な変形を抑える技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-527500号公報
【文献】特表2018-500467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、従来の衛生マスクは、使用時において肌との間に隙間が生じることがあり、フィット性の点において更なる向上が望まれている。
このフィット性の向上のため、伸縮性を有する衛生マスクがある。しかし、伸縮に伴って衛生マスクの形状が変形する場合があり、かえってフィット性を損ねかねない。特に、衛生マスクが着用者の口から耳に向かう方向に伸縮性を備えている衛生マスクでは、着用者の鼻、口及び顎を繋ぐ方向に沿う衛生マスクの幅が縮まるなどの変形が生じやすくなる。衛生マスクの変形は、着用者の鼻や口に対する保護面積の縮小に繋がり、衛生マスクに備わる空気中の粒子等に対する捕集機能の十分な発現という観点から改善の余地がある。
また、伸縮に伴う衛生マスクの変形は、衛生マスクの捕集機能を実現するフィルタ構造に変化をもたらしかねない。そのため、衛生マスクを伸縮させた引張前後においても、前記捕集性が変わらず高く維持されることが強く望まれる。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、伸縮性を有しながら同時に引張の前後を通じて空気中の粒子等に対する高い捕集性を維持することを可能にする、衛生マスク用シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも一方向に伸縮性を有する衛生マスク用シートであって、前記一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長した際に、前記一方向と直交する軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率が10%以内である、衛生マスク用シートを提供する。
【0007】
また本発明は、少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シートの表面に、該基材シートよりも引張弾性率が高い、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布が積層されている衛生マスク用シートを提供する。
【0008】
さらに本発明は、少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シートの表面に、該基材シートよりも引張弾性率が高い、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布が積層されている衛生マスク用シートの製造方法であって、前記基材シートを、その伸縮方向に沿って破断伸長率の40%以上99%以下に伸長させた状態で、前記凹凸不織布が凹凸賦形される前の平坦な原料不織布を積層する工程と、前記原料不織布の前記凹部となる箇所に対し、前記基材シートと前記原料不織布とを一体化する接合部を前記伸縮方向に直交する方向に沿って形成する工程と、前記基材シートを自然状態に戻すことで前記原料不織布を収縮させ、前記凸部と凹部とが交互に畝溝状に形成された凹凸不織布を前記基材シートの表面に形成する工程とを有する、衛生マスク用シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の衛生マスク用シートは、伸縮性を有しながら同時に引張の前後を通じて空気中の粒子等に対する高い捕集性を維持することを可能にする。
本発明の衛生マスク用シートの製造方法によれば、上記の衛生マスク用シートを好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)は粒子の捕集率を測定する装置を示した分解斜視図であり、(B)及び(C)は(A)に示す装置における上部側の治具及び下部側の治具の断面斜視図である。
図2】本発明に係る衛生マスク用シートの好ましい実施形態の一例を示す斜視図である。
図3図2に示す衛生マスク用シートの伸縮状態の挙動の一例を模式的に示した斜視図であり、(A)図は収縮状態を示し、(B)図は伸長状態を示す。
図4図2に示す衛生マスク用シートを長手方向に伸長させた場合の、応力ひずみ曲線の一例を示す説明図である。
図5】(A)は、図2に示す衛生マスク用シートの断面図であり、(B)は(A)図の衛生マスク用シートの変形例を示す断面図である。
図6】(A)及び(B)は、衛生マスク用シートの平面投影視での単位面積当たりの凹凸不織布の表面積の比率を測定する方法を示す説明図である。
図7】凹凸不織布と基材シートとの接合点の配置形態の一例を示した斜視図である。
図8】基材シートとして用いられる伸縮性シートの一例を示す一部切欠斜視図である。
図9図8に示す伸縮性シートにおける噛み込み延伸部を示す平面図である。
図10】伸縮性シートの別の一例を示す平面図である。
図11図2に示す衛生マスク用シートの製造方法の一例を示す説明図である。
図12】実施例及び比較例の引張試験結果を示すグラフである。
図13図12に示す試験結果の一部を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。本発明は、衛生マスクに用いられるシート材料(以下、衛生マスク用シートという。)に関する。本明細書において「衛生マスク」とは、呼吸のために人の顔面に着用されて、空気を人の呼吸器官に吸い込む前に濾過し、人が吐く息及び飛沫を外部に排出する前に濾過する部材のことである。そのため、本発明に係る衛生マスク用シートは、好適には、少なくとも人の口及び鼻を覆うに足る寸法及び形状を有する。
【0012】
本発明の衛生マスク用シートは、少なくとも一方向に伸縮性を有する。本発明の衛生マスク用シートは、前記一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長した際に、上記一方向と直交する軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率(50%伸長時の幅収縮率)が10%以内である。
上記の収縮率は下記式(S1)によって定義される。
収縮率(%)=[{(伸長前の軸方向の長さ)-(伸長後の軸方向の長さ)}/(伸長前の軸方向の長さ)]×100(%) ・・・・(S1)
【0013】
これにより、本発明の衛生マスク用シートは、伸縮性を有する一方向に対し、これと直交する方向には収縮し難い構造を有している。すなわち、前記一方向に引っ張って伸長させたとしても、これに直交する方向の幅縮みの発生が抑制されて、型崩れが生じ難く、シート面の保形性に優れる。
【0014】
上記の伸縮性を有する「一方向」は、好ましくは、衛生マスクにおける着用者の口と左右の耳とを繋ぐ方向、すなわち衛生マスクにおける横方向として設定される方向である。これに直交する「軸方向」は、好ましくは、衛生マスクに適用した場合に着用者の鼻、口及び顎を覆うことになる、衛生マスクの保護領域の縦の中心軸となる方向である。
上記の方向とする場合、本発明の衛生マスク用シートから得られる衛生マスクは、着用者の口と左右の耳とを繋ぐ横方向に伸縮性を備え、伸長時に、着用者の鼻、口及び顎を覆う縦方向に対する幅縮みが抑制される。これにより、得られる衛生マスクは着用者の顔へのフィット性が高く隙間の発生が抑えられる。これと同時に、鼻や口に対する保護面積を十分確保でき、衛生マスクが備える空気中の粒子等に対する捕集機能の十分な発現が可能になる。
【0015】
本発明の衛生マスク用シートは、シート面内において、一方向にのみ伸縮性を有する場合に限らず、これと交差する他の方向にも伸縮性を有するものであってもよく、該一方向を含む複数の方向に伸縮性を有するものであってもよい。シート面内の複数方向において伸縮性がある場合、最も破断伸びが長い方向を、伸縮性を有する「一方向」と定め、これを衛生マスクにおける横方向と設定し、これに直交する方向を軸方向とする。典型的には、本発明の衛生マスク用シートが長手方向と短手方向とを有し、長手方向が伸縮性を有する「一方向」である場合、長手方向を衛生マスクにおける横方向とし、短手方向を衛生マスクにおける縦方向とする。
以下に示す実施形態においては、衛生マスク用シート10における長手方向を前述の伸縮性を有する一方向とし、短手方向を軸方向として説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、伸縮性を有する一方向及びこれに直交する軸方向をシート面内において適宜設定することができる。
【0016】
(収縮率の測定方法)
上記の収縮率は、以下の方法により伸長前後の軸方向の幅を測定し、得られる測定値を前述の式(S1)に当てはめて算出することができる。
まず、衛生マスク用シートを、自然状態において、伸縮性を有する一方向に50mm、軸方向に25mmの大きさに試験片を切り出す。衛生マスクから試験片を切り出して評価する場合、マスクの縦方向(鼻から顎にかけての方向)、横方向(口から耳にかけての方向)等、最も伸びる方向を引っ張り方向として評価する。
引張試験機に、標点間距離が40mmになるように試験片をセットする。例えば、引張試験機の上部の試験片チャックに試験片の上端側を5mm、下部の試験片チャックに下端側を5mm把持し、標点間距離が40mmになるようにセットする。なお、セットする際、試験片の伸縮性を有する一方向を試験片チャック間の方向とする。
引張試験機には、通常の引張試験機を用いることができる。試験は、温度23℃、湿度50%RHにて行う。
引張速度は100mm/minに設定する。
引張試験を開始し、標点間距離が60mmになった際(伸縮性を有する一方向に50%伸張した際)に、最も試験片の軸方向の幅が狭くなった位置の試験片幅を測定する。測定手段としては、長さが測定できるものであれば制限なく用いることができる。例えば、物差しを用いる。
測定の結果、上記式により求めた収縮率が10%以下であれば、収縮率の基準を満たしていると判定される。
【0017】
本発明の衛生マスク用シートにおいて、伸縮に伴う幅縮みの抑制とシート面の保形性向上の観点から、伸縮性を有する一方向に50%伸張したした際の軸方向の幅が最も狭くなった位置の収縮率は8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
本発明の衛生マスク用シートにおける軸方向の収縮率は小さい程好ましく、その下限は0%である。
【0018】
本発明の衛生マスク用シートは、上記の幅縮みの抑制とシート面の保形性の観点から、伸縮性を有する一方向に50%伸張したした際において軸方向には収縮しないことが好ましい。すなわち、伸縮性を有する一方向に50%伸張したした際において軸方向に非収縮性であることが好ましい。
【0019】
本明細書において「伸縮性」とは、一方向に初期長さより該初期長さの50%の長さだけ長く伸長させた後に、一方向に引っ張る力を除くことによって初期長さよりも10%長い長さ以下に収縮する性質を意味する。言い換えれば、初期長さを100とした場合に、該基準長さ100に対し、シートを長さ150になるまで一方向に伸長させた後に、その力を除することで長さ100以上110以下まで戻る性質をいう。「非伸縮性」とは、150の長さまで伸長させることができないか、伸長できても力を除したときに100以上110以下の長さまで戻らない性質を言う。
【0020】
本発明の衛生マスク用シートは、衛生マスクを形成する素材として、空気中の粒子等に対する高い捕集率を有する。高い捕集率を備えるフィルタ構造として、本発明の衛生マスク用シートは、繊維のネットワーク構造を備えた繊維シート若しくはポリウレタン材料を用いた多孔シート、又はこれらの組み合わせを有することが好ましい。本発明の衛生マスク用シートは単層からなってもよく、複数層からなってもよい。本発明の衛生マスク用シートが上記の繊維シートを含む場合、例えば繊維の太さを細くし、これにより繊維間距離を短くすることが有利である。
前記繊維シートにおける繊維のネットワーク構造は、繊維同士の絡合若しくは接合又はこれらの組み合わせにより形成され、これによりシートとしての形状が維持される。このような繊維シートは、繊維間距離を短くしたり、粒子の通過経路を複雑化したりして前述の濾過のための空気の微粒子等に対する捕集率を向上させることができる。
前記多孔シートは、ポリウレタン材料からなる気泡構造により前述の濾過のための空気の微粒子等に対する捕集率を向上させることができる。
本発明の衛生マスク用シートにおける空気の濾過作用は、シートを構成する繊維又はポリウレタン材料によって画成される空間を空気が通過するときに、空気中の異物の通過を阻止することによって発現する。
【0021】
繊維シートとしては、衛生マスクにおいて通常用い得る種々のものを採用でき、例えば不織布が挙げられる。
不織布としては、本発明の衛生マスク用シートの前述の特性を損なわない限り、種々のものを用いることができる。例えば、メルトブローン法により得られた不織布(メルトブローン不織布)、エレクトロスピニング法により得られた不織布(エレクトロスピニング不織布)、スパンボンド法により得られた不織布(スパンボンド不織布)、エアスルー法に製造された不織布(エアスルー不織布)、スパンレース法により製造された不織布(スパンレース不織布)、若しくはニードルパンチ法により製造された不織布(ニードルパンチ不織布)、又はこれらの不織布のうちの2種以上の不織布の積層体、若しくはこれらの不織布とそれ以外の不織布やその他の材料との積層体などが挙げられる。その中でもスパンボンド不織布やニードルパンチ不織布等が好ましい。これらスパンボンド不織布やニードルパンチ不織布は、他の種類の不織布よりも強度が高かったり、クッション性が高く、本発明の衛生マスク用シートの強度を高める保護材として特に好ましい。また、前記不織布は、後述のように弾性体を含むものであってもよい。
これらの不織布を構成する樹脂は、繊維形成能を有するものである限りその種類に特に制限はない。例えばポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂を用いることができる。また、後述する衛生マスクの接合点21など種々の融着部分を形成する観点から、熱可塑性繊維を含むことが好ましい。
【0022】
本発明の衛生マスク用シートが前述の繊維シートや多孔シートを含む場合、軸方向の収縮率を抑えたものであることから、繊維のネットワーク構造や気泡構造の変形や潰れが生じ難い。これにより、本発明の衛生マスク用シートを伸縮させるための引張前後において、内部のフィルタ構造が保持され、前述の捕集性が高く維持され得る。
また、軸方向の収縮率が抑えられることによって、意図せぬ衛生マスク形状の変形による顔面の被覆範囲が小さく変化してしまったり、衛生マスクと肌の密着性に変化が生じてしまうことを抑制することができる。
【0023】
このような本発明の衛生マスク用シートは、空気中の粒子等に対する高い捕集率を示すものとして、粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上であることが好ましい。
粒径1μm超の粒子の捕集率が85%以上であることにより、埃、塵、花粉、ウイルスを含む飛沫等を人が吸引することを効果的に抑制することができる。同時に、本発明の衛生マスク用シートは、上記の高い捕集率を有することにより、人が吐く息及び飛沫を外部へ拡散させることを効果的に抑制することができる。上記の効果を一層高める観点から、前記捕集率は88%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
上記の粒子の捕集率はその値が高いほど捕集性能が高いことを示し、100%以下が現実的である。
【0024】
(粒径1μm超の粒子の捕集率の測定方法)
ハンドヘルド型気中パーティクルカウンター(ベックマン・コールター株式会社製の「MET ONE HHPC6+」)を用いて、該カウンターの測定端子を評価対象のシートで塞ぐように該シートを固定する。この際、測定端子とシートの隙間から空気が漏れないように密着させて塞ぐ必要があり、図1(A)~(C)に示すような専用治具を用いて測定する。同図に示す治具は、治具601及び治具602を有する。治具601と治具602との間にはゴムパッキン603が配置され、ゴムパッキン603と治具601との間に、測定対象となるシート100が配置される。治具601は中央に空気の吸入口601Aを有する。吸入口601Aは、測定端子と同じ径を有し、治具601の上面から下面に亘る貫通孔である。治具602は中央に測定端子の挿入口602Aを有する。測定端子の挿入口602Aは、治具602の下面から上面に亘る貫通孔である。
この治具601及び602を用い、25℃、50%RHにおける大気中の粒子(粒子径1.0μm以上)を対象として、シート100を通過した粒子個数P1を測定する。これとは別に、シート100を配さない状態で、粒子個数P2を測定する。測定された各粒子個数P1及びP2から微粒子の捕集率(%)を以下の式(S2)に基づいて算出する。微粒子の捕集率はその値が高いほど、マスク用シートによる微粒子の捕集性能が高いことを意味する。測定に用いるシートのサイズは40mm×40mmとし、10枚のシートについてそれぞれ捕集率を測定し、それら測定値の平均値を捕集率とする。
微粒子捕集率(%)=100(%)×(P2-P1)/P2 ・・・(S2)
【0025】
次に、本発明の衛生マスク用シートのシート構造の好ましい実施形態について説明する。
【0026】
図2に示される衛生マスク用シート10(以下、シート10ともいう)は、自然状態において、凸部1と凹部2とが交互に畝溝状に複数配された凹凸不織布8と、少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シート9とを有する。凹凸不織布8は、基材シート9よりも引張弾性率が高くされており、基材シート9の表面に積層されている。この引張弾性率における引張の方向は、基材シート9の伸縮方向である。畝溝状の凹凸不織布8において、凸部1と凹部2とが交互に配される方向は、基材シート9の伸縮方向であることが好ましく、衛生マスク用シート10の長手方向Xであることが好ましい。この点に関する具体的構成については後述する。
ここで「自然状態」とは、本発明の衛生マスク用シートに伸長力を加えずに、シート面を広げて静置した状態を意味する。上記の引張弾性率は、後述する方法により測定することができる。
【0027】
凹凸不織布8が溝畝状の凹凸構造をとることで、引張により凹凸形状がまっすぐな状態に変形するまで、基材シート9が伸長しても、凹凸不織布8は基材シート9と同様には引き延ばされず、衛生マスク用シート10全体として、伸縮方向に直交する軸方向の幅縮みが抑制される。
【0028】
(引張弾性率の測定方法)
凹凸不織布8、基材シート9及びこれらを合わせた衛生マスク用シート10の引張弾性率はそれぞれ、以下の方法により得られる応力―ひずみ線図より算出することができる。
前述の(収縮率の測定方法)に記載の方法と同様にして引張試験を開始し、荷重が急激に低下する破断点に到達するまで引張試験を行う。
なお、応力並びに、ひずみは以下の式から計算する。
応力(kPa)= 引張荷重(N)/試験片の軸方向幅(mm)/試験片厚さ(mm)×1000・・・・(σ1)
ひずみ(%)= 引張った距離(mm)/標点間距離(mm」・・・・(ε1)
ここで、引張弾性率は応力―ひずみ線図の接線の勾配で表され、ひずみ0.5%間隔における2点間を結ぶ直線の勾配とから算出する。
具体的には、破断点まで、ひずみを5%毎に応力―ひずみ線図の傾きを算出する。
引張弾性率(MPa)=(σ2-σ1)/(ε2-ε1)
その後、引張弾性率―ひずみ線図から得られるピーク位置の引張弾性率を応力-ひずみ線図から得られる引張弾性率とする。
【0029】
本実施形態の衛生マスク用シート10は、凹凸不織布8が配される第1面1Sと基材シート9が配される第2面1Rとを有し、平面視において、長手方向Xと該長手方向Xに直交する短手方向Yとを有する。衛生マスク用シート10の第1面1Sにおいて、凹凸不織布8の凸部1は、自然状態において厚み方向外方に突出している。
【0030】
基材シート9は長手方向Xに伸縮性を有する。すなわち、長手方向Xが前述の伸縮性を有する一方向であり、短手方向Yが前述の軸方向である。
伸縮性を示す長手方向Xは、衛生マスクにおける着用者の口から左右の耳へと向かう横方向に向けられることが好ましい。短手方向Yは、衛生マスクにおける着用者の鼻、口元、顎を結ぶ正中線に沿う縦方向に向けられることが好ましい。
【0031】
凹凸不織布8おいては、衛生マスク用シート10の自然状態において、凸部1及び凹部2がそれぞれ短手方向Yに連続して延出し、長手方向Xに交互に複数配置されている。これにより、衛生マスク用シート10は第1面1Sに畝溝状の凹凸構造を備える。
凸部1及び凹部2がそれぞれ、基材シート9の伸縮方向に対して直交する方向に連続して配されている。これにより、長手方向Xの引張により凹凸形状がまっすぐな状態に変形するまで、基材シート9が伸長しても、凹凸不織布8は基材シート9と同様には引き延ばされず、軸方向の幅縮みが抑制されるという前述の作用がより明確になる(図3(A)及び(B))。
また、基材シート9が後述の伸縮性シート96である場合、長手方向Xに沿って配置された複数の弾性フィラメント95が互いに交差することなく短手方向Yに離間して配置されているため、弾性フィラメントを長手方向に伸長しても隣接する弾性フィラメントを短手方向に引き寄せる力が働きにくく上記の軸方向の幅縮みの抑制作用が更に強められる。
その結果、衛生マスク用シート10の短手方向Yの形状が保持されやすくされ、基材シート9の伸縮性により衛生マスク用シート10が伸長した際に、短手方向Yの幅縮みが抑制される(図3(A)及び(B))。これにより、前述の、軸方向における抑制された収縮率となる。また、前記収縮率の抑制により、衛生マスク用シート10を用いた衛生マスクにおいて、意図せぬ変形が抑えられ、顔面被覆面積を適正に保持でき、衛生マスクと肌との密着性を適正に保持することができる。
また、凹凸不織布8は、長手方向Xに凸部1と凹部2とが交互に配されることにより、長手方向Xに伸長し得る起伏構造を備える(図3(A)及び(B))。そのため、基材シート9の伸縮性で衛生マスク用シート10が長手方向に伸長する際、凹凸不織布8は、畝溝の起伏が引き延ばされる挙動を示し、内部構造に負荷を与えない。これにより、衛生マスク用シート10は、前述の捕集率を実現するフィルタ構造(例えば、繊維のネットワーク構造、ポリウレタン材料による気泡構造)の変形が防止され、捕集機能自体が変わらず維持され得る。なお、図3(A)及び(B)おいて、伸長による凹凸の変化をより明確に示すため、凸部1の高さを若干強調して模式的に示している。
【0032】
凹凸不織布8において、凸部1が短手方向Yに延出する形態として、図2に示すように連続的である場合に限らず、間欠的であってもよい。凸部1の延出する方向は、短手方向Yと完全に平行である場合に限らず、上記の幅縮みの抑制作用を阻害しない範囲で、短手方向Yと多少の角度を有する方向であってもよい。この場合、凸部1の延出方向と短手方向Yとの交差角度は、0°以上であり、45°以下が好ましく、30°以下がより好ましい。凸部1の延出する形態は、直線状に限らず、曲線状又は蛇行状であってもよい。
【0033】
第1面1S及び第2面1Rのどちらの面を衛生マスクにおける肌当接面としてもよい。
衛生マスク用シート10の凸部1が突出する第1面1Sを衛生マスクにおける肌当接面とする場合、凹凸不織布8が衛生マスク用シート10の最表層に配され、該最表層を前記肌対向面とすることが好ましい。この場合、衛生マスク用シート10を衛生マスクに適用したときに、シートと肌との接触面積を低減でき、肌との摩擦性を低減して優しい装着感を付与することができる。
また、衛生マスク用シート10の第2面1Rを衛生マスクにおける肌当接面とする場合、基材シート9が衛生マスク用シート10の最表層に配され、該最表層を前記肌対向面とすることが好ましい。この場合、衛生マスク用シート10をマスクに適用したときに、外部空気が凹凸の隙間から侵入する可能性をより抑制することができる。
【0034】
凹凸不織布8は、平均繊維径が50nm以上3000nm以下の繊維で構成されるフィルタ不織布Aを含むことが好ましい。これにより、捕集率を高めることができる。図2に示す例においては、凹凸不織布8がフィルタ不織布Aのみから構成されている。
【0035】
凹凸不織布8が上記のフィルタ不織布Aであることで、繊維のネットワーク構造において、繊維間の目(離間距離)が極細(例えばナノメートルオーダー)の濾過層となり得る。これにより本発明の衛生マスク用シートは、高い捕集性を実現することができる。例えば一般的に3μm以上5μm以下の粒径を有するとされる花粉や飛沫、更にはこれらよりも粒径の小さい粒子(例えばウイルスそのもの等)をより効果的に捕集することが可能となる。また、フィルタ不織布Aが極細の繊維からなることで繊維間の目をより小さくでき、より薄い衛生マスク用シートで高い捕集性を実現することが可能となる。そして衛生マスク用シートの厚さが薄くなることで通気しやすくなるとともに柔軟性の高いものとなり、優しい肌触りと肌面への良好なフィット性とを更に高めることができる。
この観点から、フィルタ不織布Aの平均繊維径は、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下が更に好ましい。
また、フィルタ不織布Aの平均繊維径は、通気性を適度に確保して衛生マスク用シートの使用者が呼吸を楽に行いやすくする観点から、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、200nm以上が更に好ましい。
【0036】
フィルタ不織布Aは、密度が0.05g/cm以上であることが好ましい。これにより衛生マスク用シート10は、花粉や飛沫、更にはこれらよりも粒径の小さい粒子等をより効果的に捕集することが可能となるとともに、フィルタ不織布Aの強度を向上することができる。
この観点から、フィルタ不織布Aの密度は、0.1g/cm以上がより好ましく、0.15g/cm以上が更に好ましい。
また、フィルタ不織布Aの密度は、通気性を適度に確保して衛生マスク用シートの使用者が呼吸を楽に行いやすくしたり、圧縮弾性の低減及び柔らかい肌触りを実現したりする観点から、0.6g/cm以下が好ましく、0.55g/cm以下がより好ましく、0.5g/cm以下が更に好ましい。
【0037】
フィルタ不織布Aの平均繊維径及び密度は、次の方法により測定することができる。
【0038】
(フィルタ不織布Aの平均繊維径)
フィルタ不織布Aの平均繊維径は、繊維長さ方向に直交する繊維断面における最大差し渡し長さを、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。具体的な手順は以下のとおりである。
衛生マスク用シートを丁寧に剥がして何層構成になっているかを確認した上で、繊維径が最も細い層(濾過材として機能する層)を測定対象の繊維層とする。SEM観察による二次元画像から、繊維の塊、繊維どうしの交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取る。測定した繊維径の頻度分布(ヒストグラム)から累積頻度が全体の50%となるメジアン繊維径を求め、これを、測定対象の繊維層を構成する繊維の平均繊維径とする。
【0039】
(フィルタ不織布Aの密度の測定方法)
フィルタ不織布Aの密度は、以下の方法で測定することができる。具体的には、不織布構造体を外力のかからない自然状態に静置し、フェザー安全剃刀株式会社製の片刃(品番FAS-10)を使用して不織構造体を切断し、不織構造体の断面を形成する。
続いて、日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡(型番JCM-5100)、並びにマイクロスコープ等を使用して、切り出した断面を拡大観察する。拡大観察した断面を画像データや印刷物とし、無荷重でのフィルタ不織布Aの厚みを測定する。不織構造体の表面に不可避的に存在している毛羽立った繊維は、測定対象から除外する。不織構造体の厚みは、上述の方法によって拡大観察した画像における厚みの平均値とする。なお、上記の「フィルタ不織布Aの厚み」は、凹凸の起伏高さ(フィルタ不織布Aの第1面1S側と第2面1R側との間の厚み方向の見かけ厚み)ではなく、凹凸の起伏に沿う繊維層自体の厚みを意味する。
その後、自然状態に静置した不織構造体を所定の面積(例えば2cm×2cm)となるように切断して、フィルタ不織布A以外の繊維層を除去し、フィルタ不織布Aの質量と後述の(S0に対するS1の比の測定方法)に記載の方法で測定される凹凸の表面積S1を計測し、質量を面積で除することで坪量を算出する。その後、坪量を厚みで除して、密度を算出する。なお上記の、切断する「所定の面積」は、凹凸の起伏に沿った面積(又は凹凸をフラットに伸ばした状態での面積)を意味する。
【0040】
フィルタ不織布Aは、一定以上の坪量を有することが、前述の捕集率を高める観点から好ましい。前述の捕集率を高め、濾過性能を均一にする観点から、フィルタ不織布Aの坪量は、2g/m以上が好ましく、2.5g/m以上がより好ましく、3g/m以上が更に好ましい。
また通気抵抗を下げ、シートを薄くして剛性の低減及び使用感を改善し、コストも低減させる観点から、フィルタ不織布Aの坪量は、15g/m以下が好ましく、10g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。
フィルタ不織布Aの坪量がこのような範囲にあることによって、粒子等の高い捕集性能と柔らかい肌触りとを安定的に発現でき、通気性も良好で且つ薄型にすることに起因する使用感の向上も達成することができる。
【0041】
(坪量の測定方法)
フィルタ不織布Aの坪量は、前述の(フィルタ不織布Aの密度の測定方法)で算出される。
【0042】
フィルタ不織布Aは、エレクトロスピニング(電界紡糸)法によって製造された繊維層であることが好ましい(以下、このようなフィルタ不織布Aをエレクトロスピニング不織布ともいう)。エレクトロスピニング(電界紡糸)法は、繊維形成能を有する樹脂の溶液又は溶融液を帯電させて電界中に吐出し、該電界によって吐出液を引き延ばすことで繊維を形成し、該繊維を捕集体上に堆積させることでフィルタ不織布Aを製造することができる。
この製法では、吐出された樹脂の溶液又は溶融液が電界中のクーロン力で延伸されることによって、従来のエアー等による力学的な延伸では実現できない、ナノメートルオーダーの極細の繊維が得られる。この点、従来の不織布の製法、例えばメルトブローン法では、吐出した溶融樹脂を高温気体の吹き付けによって延伸して繊維を形成しており、マイクロメートルオーダーの繊維が限界である。
したがって、上記の繊維層は、エレクトロスピニング法により、従来のメルトブローン法では得られない桁違いの、ナノメートルオーダーの極細の繊維の集合層となる。
【0043】
また、このようなエレクトロスピング繊維層は、前述の粒子等に対する高い捕集性に必要な密度を有しながら、メルトブローン法により製造された不織布(以下、メルトブローン不織布ともいう)よりも密度が適度に抑えられ、柔軟性に富んだものとなる。これは、両者の製法の違いによる。エレクトロスピニング法では、クーロン力によって直径数ナノメートルの極細繊維を得ることができるため、メルトブローン法における高温気体の吹き付けによる紡糸に比べて、繊維が切れずに長繊維が形成される。また、電界におけるクーロン力で吐出された溶液は延伸されるとともに溶媒が瞬時に蒸発し、原料は凝固しながらナノファイバが形成される。そのためエレクトロスピニング繊維層は、長繊維同士が融着していないことが多く、繊維同士の絡まりによって形成されるため繊維同士の動きが阻害されず高い柔軟性が得られる。これに対し、メルトブローン法により製造された不織布(以下、メルトブローン不織布ともいう)では、高温気体の吹き付けで繊維が切れ、溶融したまま繊維が積層、融着されている。そのためメルトブローン不織布は、エレクトロスピング繊維層よりも厚み方向の嵩が潰れるとともに繊維同士の動きが阻害されて剛性が相対的に高くなる。
このようにエレクトロスピング繊維層は、繊維の状態がメルトブローン不織布と異なり比較的嵩が得られやすく、柔軟性に富んだものとなる。
このようなフィルタ不織布Aを凹凸不織布8として含んだ本実施形態の衛生マスク用シート10は、前述の高い捕集性を維持しながら、より一層柔らかい肌触りが得られる。
【0044】
本実施形態の衛生マスク用シート10がフィルタ不織布Aからなる凹凸不織布8を有することによって、濾過機能の有効面積を増加させて、前述の捕集率を更に高くすることができる。
同時に、フィルタ不織布Aは、前述のように極細繊維からなる非常に柔らかい層であり、凹凸不織布8とすることで柔らかいまま嵩高くなってクッション性が高まる。また、フィルタ不織布Aは、凹凸不織布8とすることで、押圧や引っ張りに対する耐性が高くなり嵩高さが保持されやすい。これにより、衛生マスク用シート10は、前述の高い捕集性と同時に、柔らかい肌触りが更に高められる。
また、凹凸不織布8の凹凸構造が空気の通過する有効面積を増やすことに繋がり、空気の圧力損失の低下を可能にする。従来、一般的にはシートの平均繊維径の細径化や密度等の上昇により前記捕集率を向上させると空気のシート通過性が低下しやすく、両性能の同時向上は難しい。これに対し、本実施形態の衛生マスク用シート10は、フィルタ不織布Aを凹凸不織布8にしたことで、前記捕集率及び通気性の両方を同時に向上させることができる。これにより、本実施形態の衛生マスク用シート10は、衛生マスクにおける粒子等に対する濾過機能を高め、同時に呼吸のし易さを高めることができる。
更に、衛生マスク用シート10は、衛生マスクに適用して顔に装着した場合、主として凹凸不織布8の凸部1のみで肌と当接し、接触面積が低減する。そのため、肌との擦れが低減し、衛生マスクの装着感が高められる。
【0045】
本実施形態の衛生マスク用シート10において、凹凸不織布8の凸部1の延出方向(短手方向Y)と直交する方向(長手方向X)に伸長させた場合に、凸部1が引き伸ばされ、凹凸不織布8に引張荷重がかかる際に引張弾性率が100%以上変化する変曲点Pを有することが好ましい。
この変曲点Pとは、図4に示すように、応力(σ)ひずみ(ε)曲線の傾きが、急激に変化する点であり、伸縮性を有する基材シート9の応力が支配的な領域TRから凹凸不織布8の応力が支配的な領域TFに変化する点と定義することができる。変曲点Pは、引張弾性率100%以上の急激な変化として定義する。なお。図4に示す応力(σ)ひずみ(ε)曲線は、変曲点Pを理解するための例示であり、これに限定されるものではない。本実施形態においては、上記の引張弾性率の要件を満して、変曲点Pを境に応力が急激に上昇する様々な伸縮挙動を広く含みえる。また、応力軸およびひずみ軸の単位はそれぞれ任意単位である。
一般的な伸縮性を有するシートにおける応力-ひずみ曲線から得られる傾き(引張弾性率)は引張開始直後が一番高く、その後塑性変形に伴い傾きは緩やかになる。これに対し、本実施形態の衛生マスク用シート10は前述のような構造を有して、引張弾性率が変曲点Pを境に急激に変化する。そのため、引張弾性率-ひずみ曲線において、引張弾性率に2つ以上のピークがあることが好ましい。
【0046】
(引張弾性率の変化率の測定方法)
上記引張弾性率が変化する変曲点Pを有する場合、変曲点Pに到達する前の応力―ひずみ線図と、変曲点P以降の応力―ひずみ線図に分けて、それぞれ上述した方法で引張弾性率を算出する。ここで、変曲点Pに到達する前の応力―ひずみ線図から得られる引張弾性率の極大値E1と、変曲点P以降の応力―ひずみ線図から得らえる引張弾性率の極大値E2から、引張弾性率の変化率を算出する。
引張弾性率の変化率(%)=E2/E1×100
【0047】
本実施形態の衛生マスク用シート10の引張弾性率の変化率は、200%以上であることが好ましい。なお、ここでの引張方向は、凹凸不織布8の凸部1の延出方向(短手方向Y)と直交する方向(長手方向X)である。
前記引張弾性率の変化率が200%以上であることにより、引張弾性率の変化が明確となり、過度な伸長をとどまらせる通知機能が優位に働くこととなる。
前記引張弾性率の変化率は、引張弾性率の変化を明確とする観点から、500%以上がより好ましく、1000%以上が更に好ましい。
【0048】
このような引張弾性率の急激な変化があることにより、例えば基材シート9の伸長の限界を使用者が体感できる、もしくは、凹凸不織布8の凹凸構造が引き伸ばされて凹凸不織布8の繊維構造が壊れる限界を使用者が体感できる等の利用範囲を的確に認識することができる。いわば衛生マスク用シート10は、過度な伸長を留まらせる通知機能を備えていると言え、これにより前述の捕集率を適切に発現させる適切な使用を使用者に促し得る。
【0049】
本発明の衛生マスク用シート10は、基材シート9の引張弾性率EAに対する、凹凸不織布8の引張弾性率EBの比EB/EAが2以上であることが好ましい。なお、ここでの引張方向は、凹凸不織布8の凸部1の延出方向(短手方向Y)と直交する方向(長手方向X)である。
前記比EB/EAが2以上であることにより、引張弾性率の変化が明確となり、過度な伸長をとどまらせる通知機能が優位に働くこととなる。
前記比EB/EAは、引張弾性率の変化を明確とする観点から、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。
【0050】
本実施形態の衛生マスク用シート10は自然状態において、隣り合う凸部1、1同士の間隔(凸部間隔)が1mm以上6mm以下であることが好ましい。この凸部間隔は、衛生マスク用シート10の自然状態での平面視において、隣接する凸部13の中心間距離を意味し、凸部1の中心は、凸部1の頂部における中心地点を意味する。
上記の凸部間隔が1mm以上であることにより、凸部1の形状安定性が高まる。その結果、衛生マスク用シート10の繰り返しの使用や長時間の使用においても、前述の粒子等に対する高い捕集性と柔らかい肌触りとの両立をより長く持続させることができる。
上記の凸部間隔が6mm以下であることにより、凹凸により構成される表面積を効率的に大きくして、通気抵抗を効果的に小さくすることができて呼吸が楽になる。また、肌との接触面積を低減し、肌との擦れが大幅に低減することができるとともに、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感を更に高めることができる。
前記凸部間隔は、上記の観点から、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。
前記凸部間隔は、上記の観点から、5mm以下がより好ましく、4mm以下が更に好ましい。
【0051】
次に、凹凸不織布8の構造の好ましい形態について説明する。
【0052】
凹凸不織布8は、図2に示すように、第1面1Sの反対面である第2面1Rにも、自然状態において厚み方向外方に突出する複数の凸部3と、複数の凸部3に挟まれた凹部4とを有することが好ましい。この第2面1Rにおいても、凸部3及び凹部4が短手方向Yに延出し、長手方向Xに交互に複数配置されることが好ましい。この場合、第2面1Rにおける凹部4は第1面1Sにおける凸部1に対応しており、凸部1と凹部4とが表裏の関係にある。第2面1Rにおける凸部3は第1面1Sにおける凹部2に対応しており、凹部2と凸部3とが表裏の関係にある。このような配置関係において、第1面1Sの凸部1及び第2面1Rの凸部3はそれぞれ内部が中空にされる。これにより、凹凸不織布8は両面が凹凸のトタンのような波板形状を有する。
【0053】
凹凸不織布8において、第1面1Sの凸部1及び第2面1Rの凸部3の少なくとも一方が中空であることで、厚み方向に外力が加わった場合に、凸部が外力に対する緩衝作用を発現して高いクッション感を呈するという利点がある。加えて、凸部が横から外力を受けたときに凸部がしなやかに変形しやすくなるので、肌との擦れが低減されるという利点もある。また、凸部1の内部が中実になっている場合と比較して、通気抵抗の上昇を効果的に抑制できるという利点もある。
【0054】
前述の「中空」とは、凸部1及び凸部3の内部において実質的に繊維で満たされていない空間であり、具体的には、繊維密度が5本/mm未満であることを意味する。「中実」とは、凸部1の第2面1R側の内部が実質的に繊維で満たされていることをいい、具体的には、繊維密度が5本/mm以上であることを意味する。
【0055】
(中空であるか否かの確認方法)
凹凸不織布8を測定対象の凸部の頂部を通るように厚み方向に切断する。SEMを使用して切断面を拡大観察し、一定面積の切断面内の切断されている繊維の断面を数える。拡大観察は、繊維断面が30本から60本程度計測できる倍率(150倍以上500倍以下)に調節する。次に、1mm当たりの繊維の断面数に換算し、これを繊維密度(本/mm)とする。3カ所の測定結果を平均して、そのサンプルの繊維密度とする。なお、上記SEMとしては、種々の装置を用いることができる。例えば、日本電子株式会社製のJCM-5100(商品名)などが挙げられる。
【0056】
衛生マスク用シート10を構成する凹凸不織布8の凹凸構造は、本発明の衛生マスク用シートにおける前述の効果を損なわない限り、前述したものに限らず、様々な形態を取り得る。例えば、凹凸不織布8の変形例として、第2面1Rが平坦になっていてもよい。また、凸部1が中実であってもよい。
【0057】
衛生マスク用シート10において、第1面1Sにおける凸部1の高さは自然状態において次のようにすることが好ましい。ここで言う「凸部1の高さ」とは、衛生マスク用シート10の第2面1Rを下にして水平面に静置してその側面を見たときに、図5(A)に示すように、凸部1の頂部と、該凸部1に隣接する凹部2の底部における第1面1S側の表面との間の厚み方向における高低差Eを意味する。このときの厚み方向は、衛生マスク用シート10を静置した前記水平面に対する鉛直方向を意味する。
第1面1Sにおける凸部1の高さは自然状態において、1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。このような高低差は、通常のエンボスによるものよりも遥かに大きなものとなる。これにより、凸部1における衛生マスク用シート10のクッション性が高まり、柔らかい肌触りを更に向上させることができる。
また、第1面1Sにおける凸部1の高さは自然状態において、4mm以下が好ましく、3.5mm以下がより好ましく、3mm以下が更に好ましい。これにより、凸部1の形状安定性が高まる。その結果、衛生マスク用シート10の繰り返しの使用や長時間の使用においても、前述の粒子等に対する高い捕集性と実現しながら、長手方向Xの伸長時における直交する短手方向Yの収縮率をより低くすることを可能にする。
【0058】
凹凸不織布8において、第2面1Rが凹凸構造を有する場合、第1面1Sにおける上記の凸部1の高さの要件は、第2面1Rにおいても満たされることが好ましい。前記凸部1の高さの要件は、第1面1S及び第2面1Rの両面で満たされることで、上記の効果が更に高められる。
【0059】
(凸部1の頂部と、該凸部1に隣接する凹部2の底部における第1面1S側の表面との間の厚み方向における高低差Eの測定方法)
前述の高低差Eは次の方法で測定することができる。
まず、図5(A)に示すとおり、衛生マスク用シート10の表裏面間の厚みとしてT1を測定する。これは、衛生マスク用シート10の第2面1Rを水平面に静置した際の水平面の位置から凸部1の頂部までの鉛直方向の高さを言う。
次に凹部2の底部における第1面1S側の表面の高さとしてT2を測定する。これは、前述の水平面の位置から凹部2の底部における第1面1S側の表面までの鉛直方向の高さを言う。
上記の測定を基に、高低差EはT1-T2で算出できる。
具体的な測定方法としては、衛生マスク用シート10の厚み方向断面をマイクロスコープで拡大撮像し、画像処理から高低差E、換言すれば中空空間の高さEを直接測定すればよい。又は、レーザー変位計をマスク用シート10の上面から走査させてT1,T2を測定し、高低差Eを算出してもよい。なお、凹凸不織布8において、後述の保護シート81が積層されている場合(図5(B)参照)でも、高低差Eの定義は変わらないので、同様の方法で測定すればよい。
【0060】
衛生マスク用シート10の表裏面間の厚み(T1)は、気抵抗を効果的に小さくすることができて呼吸が楽になるとともに、凹凸不織布8によるクッション性の確保、及び柔らかい肌触りを保持する観点から、1mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。
また、衛生マスク用シート10の表裏面間の厚み(T1)は、衛生マスク用シート10の取り扱い性の向上、及び外観を向上する観点から、6mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、4mm以下が更に好ましい。
【0061】
また、衛生マスク用シート10の自然状態において、構成する凹凸不織布8の第1面1S側からの平面視した際の面積に関し、次のようにすることが好ましい。
すなわち、シート10を自然状態で静置し、第1面1S側を平面投影視したときの単位面積をS0とし、当該単位面積S0における凹凸の表面積をS1とする。このとき、凹凸不織布8の第1面1Sが凹凸構造を有することに起因して、S1の値はS0の値よりも大きくすることが好ましい。つまり、シート10の第1面1S側が凹凸構造を有することで、シート10の第1面1S側が凹凸構造を有さない場合に比べて空気が通過する有効面積が増加する。有効面積が増加することで前述の粒子等に対する濾過実行面積が増加し、前述の捕集率を高めやすくなる。
この観点から、シート10の自然状態において、平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)を1超とすることが好ましく、1.3以上とすることが更に好ましく、1.5以上とすることが一層好ましい。
また、凸部の形態安定性の観点から、シート10の自然状態において、平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率を3以下とすることが好ましく、2.8以下とすることが更に好ましく、2.5以下とすることが一層好ましい。
【0062】
凹凸不織布8において、第2面1Rが凹凸構造を有する場合、第1面1Sにおける上記の単位面積S0における凹凸の表面積S1の比率の要件は、第2面1Rにおいても満たされることが好ましい。前記単位面積S0における凹凸の表面積S1の比率の要件は、第1面1S及び第2面1Rの両面で満たされることで、上記の効果が更に高められる。
【0063】
(S0に対するS1の比の測定方法)
衛生マスク用シート10を構成する凹凸不織布8を自然状態にして、任意の面積S0’(例えば、10cm×10cm=100cm)に切り出す。切り出した凹凸不織布8を皺なく平坦な状態にしたときの面積S1’を測定し、以下の式からS0に対するS1の比率を算出する。
S1/S0=S1’/S0’
ただし、凹凸不織布8と基材シート9との接合状態によっては、層間剥離する際に凹凸不織布8が塑性変形を生じてしまう場合がある。そのような場合は図6(A)に示すように、凹凸不織布8と基材シート9とが離間している部分の凸部1において、基材シート9をカッター等で切断し、基材シート9を個々の独立した小片に分割すればよい。こうすることで、凹凸不織布8を平坦な状態に広げることが可能となるので(図6(B))、前記S1’が測定可能となる。
なお、凹凸不織布8が、後述するようにフィルタ不織布Aと保護シート81との積層体である場合は、これらを一体のものとして、上記と同様の方法で測定することができる。
【0064】
また、凹凸不織布8は、フィルタ不織布Aのみからなる場合に限らず、フィルタ不織布Aと他のシートとが積層体であってもよい。他のシートは1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。他のシートは、種々の素材のものを用いることができ、肌触りの観点から不織布であることが好ましい。該不織布としては、前述の通り種々のものを用いることができる。その中でも、本発明の衛生マスク用シートの強度確保やクッション性向上の観点から、スパンボンド不織布やニードルパンチ不織布が好ましい。
上記の他のシートは、衛生マスク用シート10を構成する凹凸不織布8における第1面1S及び第2面1Rのいずれに配されていてもよい。
このような凹凸不織布8の具体例として、図5(B)に示すものが挙げられる。
この具体例では、凹凸不織布8は、フィルタ不織布Aを第2面1Rに、前記他のシートとして保護シート81を第1面1Sに配置した構成を有する。フィルタ不織布A及び保護シート81が積層された状態で揃って凹凸形状にされている。
【0065】
図5(B)に示す凹凸不織布8において、保護シート81の凹凸形状は、フィルタ不織布Aの凹凸形状と相補形状になっていることが好ましく、保護シート81がフィルタ不織布Aに沿った形状を有することが好ましい。
保護シート81とフィルタ不織布Aとが密着して両者間に空隙が存在していないことが好ましい。
保護シート81とフィルタ不織布Aとは、繊維の絡合によって結合しているか、又は接着剤によって結合していることが好ましい。衛生マスク用シート10の風合いを低下させないようにする観点から、保護シート81とフィルタ不織布Aとは繊維の絡合によって結合していることが好ましい。
保護シート81における凸部はフィルタ不織布Aにおける凸部と同位置にあることが好ましい。同様に、保護シート81における凹部はフィルタ不織布Aにおける凹部と同位置にあることが好ましい。
【0066】
図5(B)に示す凹凸不織布8において、保護シート81の存在により、フィルタ不織布Aへの外力の直接的な印加が防御され得る。これにより、フィルタ不織布Aが破損等で性能が低減することを抑制できる。特に、凹凸フィルタ不織布8の第1面1Sが衛生マスクの肌当接面となる場合に効果的である。
【0067】
フィルタ不織布A及び保護シート81の積層に関し、予め製造しておいた保護シート81の一面に、紡糸した繊維を体積させてフィルタ不織布Aを得ることが生産性の観点から好ましい。例えば、予め製造しておいたスパンボンド不織布の原反の一面に、エレクトロスピニング法によって紡糸された繊維を堆積させて凹凸不織布8を製造することができる。これにより、保護シート81とフィルタ不織布Aとを繊維の絡合によって結合させることができる。
【0068】
凹凸不織布8において、前述の凸部1の高さ(T1-T2)、凸部1の凸部間隔及び平面投影視での単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)の要件は、フィルタ不織布Aと保護シート81との積層体として満されることが好ましい。
【0069】
凹凸不織布8において、保護シート81はフィルタ不織布Aを保護するだけでなく、フィルタ不織布Aの粒子等に対する捕集性能を補完する機能を担う。すなわち、保護シート81はフィルタ不織布Aの保護層として比較的太い繊維を有し、比較的大きな粒子が捕集される。そのため、フィルタ不織布Aはこれよりも粒径の小さい微粒子の捕集に特化することができ、結果として凹凸不織布8は濾過材としての寿命が延びることが期待できる。このように、保護シート81とフィルタ不織布Aとの間で捕集機能の分担を行う観点から、保護シート81の捕集率はフィルタ不織布Aの捕集率よりも低く、且つ、両捕集率間にある程度の相違があることが好ましい。
【0070】
凹凸不織布8は凹部2において基材シート9と接合されていることが好ましい。より具体的には、第1面1Sの凹部2の第2面1R側の表面と基材シート9が接合されていることが好ましい。この接合は、凹部2の延出方向に沿って形成されることが好ましい。
この接合には種々の方法をとることができ、例えば、エンボスによる融着や接着剤による接着が挙げられる。エンボスとしては、この種の物品において通常用いられる種々の方法を取り得る。例えば、熱エンボス、超音波エンボス等が挙げられる。また、エンボスは、凹凸不織布8と基材シート9との接地部分における点エンボスであることが好ましい。
このような接合により、凸部1がアーチ構造となり圧縮荷重に強くなる。すなわち、第1面1Sに加えられる圧縮荷重が、凸部1の頂部から裾野へと分岐して伝搬し、接合点で分散吸収される。加えて、凸部1間で窪んだ凹部2に接合点が配されて肌に触れ難くされ、またこれにより接合領域が抑制されていることで、凹凸不織布8の剛性が抑えられ、該凹凸不織布8によるクッション性が保持される。
加えて、凹部2の延出方向に沿って凹凸不織布8が基材シート9と接合されることで、長手方向Xの伸長時において凹部1の短手方向Yの形状がより保持されやすい。これに伴って、凸部1の短手方向Yの形状も保持されやすくなる。その結果、凸部1及び凹部2による支柱のような作用がより強く働き、衛生マスク用シート10の短手方向Yの幅が更に縮み難くなる。
【0071】
上記の作用をより効果的にする観点から、図7に示すように複数の接合点21を凹部2の延出する方向(短手方向Y)に沿って間欠的に複数列をなして配することが好ましい。
接合点21の形状は、典型的には円形である。しかし接合点21の形状はこれに限られず、円形以外の形状、例えば三角形、四角形及び六角形等の多角形、並びにその他の形状であってもよい。また、接合点21は、凹部2の延出する方向(短手方向Y)に沿った長さを有するものであてもよい。
このように間欠的に接合点21が短手方向Yに沿って配されることによって、衛生マスク用シート10を長手方向Xに伸長した場合であっても短手方向Yへの収縮が抑えられ、衛生マスク用シート20の短手方向Yの収縮率が10%以内となる。これによって、シート10からなる衛生マスクが、着用者の鼻、口元、顎を結ぶ正中線に沿う方向の領域及びその周辺の領域の広い面積を確実に覆うことができるようになる。
【0072】
一つの接合点列に着目したとき、凹部2の配されている方向に沿って隣り合う接合点21間の距離は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、一つの接合点列に着目したとき、該接合点列を構成する個々の接合点21の形状はすべて同じであってもよく、または異なる二種以上の形状の接合部を含んでいてもよい。
【0073】
次に、基材シート9の構造の好ましい形態について説明する。
【0074】
基材シート9の坪量は、基材シート9をより高強度のものとする観点から、フィルタ不織布Aの坪量よりも大きいことが好ましい。
基材シート9の坪量は、基材シート9の強度を向上し、衛生マスク用シートの保形性を確保する観点から、5g/m以上が好ましく、10g/m以上がより好ましく、15g/m以上が更に好ましい。
また、基材シート9の坪量は、基材シート9の剛性並びに通気抵抗を低下させ、衛生マスク用シート10及びこれを用いた衛生マスクの装着感を高める観点から、55g/m以下が好ましく、50g/m以下がより好ましく、45g/m以下が更に好ましい。
【0075】
基材シート9は、伸縮性を有するものとして、例えば伸縮性繊維からなる不織布、伸縮性繊維と非伸縮性繊維とからなる不織布、非伸縮性の不織布と弾性体(例えば弾性フィラメント)との複合不織布などが挙げられる。
【0076】
基材シート9として特に好ましく用いられる伸縮性シートは、弾性フィラメントを含む不織布であり、とりわけ好ましく用いられる伸縮性シートは、非伸縮性の不織布と弾性体(例えば弾性フィラメント)との複合不織布である。伸縮性シートは弾性フィラメント若しくは伸縮性繊維と非伸縮性繊維とが混綿されたものでもよい。いずれの場合にも、伸縮性シートは後述する延伸処理を施されていることが好ましい。
特に、図8に示すように、一対の非伸縮性の不織布94、94が弾性フィラメント95の融着により接合された複合不織布からなる伸縮性シート96が好ましい。
【0077】
弾性フィラメント95は、実質的に非伸長状態で、非弾性繊維を含む不織布94、94に接合されていることが好ましい。また、複数の弾性フィラメント95が一対の不織布94、94に接合されていることが好ましい。
複数の弾性フィラメント95は、互いに交差せずに長手方向Xに延びるように配列していることが好ましく、こうすることにより伸縮性シート96は長手方向Xに伸縮可能になる。また、長手方向Xに沿って配置された弾性フィラメント95が互いに交差することなく短手方向Yに離間して配置されおり、これにより弾性フィラメント95の伸長があっても不織布94の幅縮みが抑制される。これにより伸縮性シート96からなる基材シート9、及びこれを備えた衛生マスク用シート10は、弾性フィラメント95が延出する方向に伸長させたときに、該方向に直交する短手方向Yの幅が縮む幅縮みが生じにくい利点がある。この幅縮みの抑制には、前述の接合点列が短手方向Yに配列されていることが有利である。
各弾性フィラメント95は、互いに交差しない限り、直線状に延びていてもよく、蛇行しながら延びていてもよい。また、複数の弾性フィラメント95は、長手方向Xと直交する短手方向Yに間隔をあけて配置されていることが好ましい。
【0078】
伸縮性シート96を構成する1枚又は複数の不織布94はいずれも伸長可能であることが好ましい。1枚又は複数枚の不織布94は、典型的には実質的に非弾性の繊維を含んでなるものであり、実質的に非弾性である。
不織布94は、弾性フィラメント95の延出する長手方向Xと同方向に伸長可能となっていることが好ましい。
ここで「伸長可能」とは、(イ)不織布94の構成繊維自体が伸長する場合と、(ロ)構成繊維自体は伸長しなくても、交点において結合していた繊維同士が離れたり、繊維同士の結合等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたり、繊維のたるみが引き伸ばされたりして、不織布全体として伸長する場合とを包含する。
各不織布94は、弾性フィラメント95と接合される前の原反の状態で既に伸長可能になっていてもよい。弾性フィラメント95と接合される前の原反の状態では伸長可能ではないが、弾性フィラメント95と接合された後に伸長可能となるように加工が施されて、伸長可能になるものであってもよい。不織布94を伸長可能にするための具体的な方法としては、熱処理、ロール間延伸、歯溝やギアによるかみ込み延伸、テンターによる引張延伸などが挙げられる。弾性フィラメント95を不織布20に溶着させるときの該不織布94の搬送性が良好になる等の点から、該不織布94はその原反の状態では伸長可能でないことが好ましい。
【0079】
複数の弾性フィラメント95はそれぞれ、伸縮性シート96の全長にわたって実質的に連続していることが好ましい。各弾性フィラメント95は典型的には弾性樹脂を含んでいることが好ましい。
【0080】
弾性フィラメント95は、糸状の合成ゴムや天然ゴムであり得る。乾式紡糸(溶融紡糸)や、湿式紡糸によって得られたものであり得る。弾性フィラメント95は、これを一旦巻き取ることなしに直接溶融紡糸によって得られたものであることが好ましい。
弾性フィラメント95は、未延伸糸を延伸して得られたものであることが好ましい。
弾性フィラメント95は、弾性樹脂が溶融又は軟化した状態で延伸されて形成されたものであることが好ましい。これにより、弾性フィラメント95を、非伸長状態で不織布94に的確に接合させることができる。
延伸の具体的な操作としては、(a)弾性フィラメント95の原料となる樹脂を溶融紡糸して一旦未延伸糸を得、その未延伸糸の弾性フィラメントを再度加熱して軟化温度(ハードセグメントのガラス転移点温度Tg)以上の状態で延伸する操作や、(b)弾性フィラメント95の原料となる樹脂を溶融紡糸して得られた溶融状態の繊維を直接延伸する操作が挙げられる。弾性フィラメント95は、溶融紡糸して得られた溶融状態の繊維を直接延伸することにより得られることが、特に好ましい。
【0081】
各弾性フィラメント95は、その全長にわたって不織布94に接合されていることが好ましい。
「その全長にわたって接合されている」とは、弾性フィラメント95と接触しているすべての繊維(不織布94の構成繊維)が、該弾性フィラメント94と接合されていることを要しない。すなわち、意図的に形成された非接合部が存在しないような態様で、弾性フィラメント95と不織布94の構成繊維とが接合されていることを意味する。
弾性フィラメント95と不織布94との接合の様式としては、例えば溶着、接着剤による接着などが挙げられる。溶融紡糸により得られた弾性フィラメント95の固化前に、該弾性フィラメント95を不織布94に溶着させることも好ましい。この場合、不織布94と弾性フィラメント95とを接合させる前に、補助的な接合手段として接着剤を塗布することができる。各不織布94と弾性フィラメント95とを接合させた後に、補助的な接合手段として、熱処理(スチームジェット、ヒートエンボス)や、機械交絡(ニードルパンチ、スパンレース)などを行うこともできる。
不織布94と弾性フィラメント95との接合は、溶融又は軟化した状態の弾性フィラメント95が、不織布94と接触した状態で固化することのみによって達成されていること、すなわち接着剤を用いずに接合されていることが、伸縮性シート96の柔軟性の向上の点から好ましい。
【0082】
伸縮性シート96の伸縮性は、弾性フィラメント95の弾性に起因して発現する。伸縮性シート96を弾性フィラメント95の延出する方向と同方向に引き伸ばすと、弾性フィラメント95及び不織布94が伸長する。そして伸縮性シート96の引き伸ばしを解除すると、弾性フィラメント95が収縮し、その収縮に連れて不織布94が引き伸ばし前の状態に復帰する。
【0083】
このような伸縮性シート96は、典型的には、特開2008-179128号公報の段落[0055]~[0085]に記載の方法により製造することができる。具体的には、非伸縮性の一対の不織布94、94に溶融状態にある弾性フィラメント95を非伸長状態で接合して非伸長状態の複合材を作製する。該複合材を、互いに噛み合い可能な状態で対向配置された一対の歯溝ロール間に通過させることによって伸縮発現させる延伸処理を行って、伸縮性シート96が得られる。
【0084】
上記の歯溝等によるかみ込み延伸を行った伸縮性シート96として、図9に示すものが好ましい。
図9に示す伸縮性シート96は、非伸縮性の不織布94の短手方向Yに沿って噛み込み延伸部94Tを有し、該噛み込み延伸部94Tが長手方向Xに等間隔で複数配されている。歯溝加工部94Tは、噛み込み延伸により、不織布94の繊維の絡み合いを弱くして、伸縮しやすい部分となる。すなわち、歯溝加工部94Tでは、弾性フィラメント95の伸縮性が高くされながら、同時に弾性フィラメント95の伸縮性の不織布94に対する影響が低減されている。そのため、伸縮性シート96が長手方向Xに伸長する際、短手方向Yの幅縮みが尚更生じ難くなる。
【0085】
少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シート9の別の具体例として、図10に示すものが挙げられる。
図10は、一方向のみならずシート面内のあらゆる方向に一様な伸縮性を示す、ポリウレタン材料を用いた多孔シート97を示している。この多孔シート97は、図10に示すように短手方向Yに収縮するのを防ぐ支持部材98をY方向に配している。支持部材98は長手方向Xに複数本を間欠的に配置することが好ましく、等間隔に配することがより好ましい。支持部材98としては、シート10を長手方向Xに引っ張ったときに、短手方向Yに伸縮性シート91が縮むのを阻害するものであれば、種々の素材のものを用いることができる。その中でも、比較的高い剛性を有し、ある程度の柔軟性を有することが好ましい。形状としては、棒状物が好ましい。例えば、軸剛性を有するものが挙げられる。
このような材料として、例えば、柔軟性を有する糸状又はリボン状の金属、プラスチック等をあげることができる。
【0086】
次に、本実施形態の衛生マスク用シート10の製造方法の好ましい一実施形態について説明する。
本実施形態の衛生マスク用シートの製造方法は、図11(A)~(C)に示すように、下記(I)~(III)の工程を有することが好ましい(以下、工程(I)、工程(II)、工程(III)ともいう)。
まず、(I)基材シート9を、その伸縮方向Xに沿って破断伸長率の40%以上99%以下に伸長させた状態で、凹凸不織布が凹凸賦形される前の平坦な原料不織布800を積層する工程を行う(図11(A))。
このとき、破断伸長率の40%以上99%以下に伸長させることにより、基材シート9を破断させることなく、凹凸不織布8の凹凸表面積を大きくすることができる。凹凸不織布8の凹凸表面積を大きくして通気抵抗を下げる観点から、前記破断伸長率の好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上に伸長させた状態で、凹凸不織布8が凹凸賦形される前の平坦な原料不織布800を積層する工程を行う。また、基材不織布の繊維構造を維持する観点から、前記破断伸長率は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下に伸長させた状態で、凹凸不織布8が凹凸賦形される前の平坦な原料不織布800を積層する工程を行う。
【0087】
<破断伸長率の測定方法>
上記の破断伸長率は、試験前の試料長さをL0、破断時の試料長さをLBとして、伸度(%)=100×(LB-L0)/L0で求めることができる。
具体的には、一般不織布試験方法JIS L1913に準拠して測定する。
測定条件は以下のとおり。
測定試料の把持長:40mm
クロスヘッドスピード:100mm/min
(歪レート:8.3×10-3/sec)
サンプル幅:25mm
温度23℃、相対湿度50%Rh
測定試料の把持長が40mm取れない場合は、できるだけ40mmに近い長さを取る。このときのクロスヘッドスピード;CHSPは歪レートを同じにする。また、サンプル幅も25mm取れない場合は、なるべく25mmに近い幅にする。
【0088】
次いで、(II)原料不織布800の凹部となる箇所802に対し、基材シート9と原料不織布800とを一体化する接合部を伸縮方向Xに直交する方向Yに沿って形成する工程を行う(図11(B))。
【0089】
次いで、(III)基材シート9を自然状態に戻すことで原料不織布800を収縮させ、凸部1と凹部2とが交互に畝溝状に形成された凹凸不織布8を基材シート9の表面に形成する工程を行う(図11(C))。
【0090】
これにより、少なくとも一方向に伸縮性を有する基材シート9の表面に、基材シート9よりも引張弾性率が高く、凸部と凹部とが交互に畝溝状に配された凹凸不織布8が積層されている、本実施形態の衛生マスク用シート10を好適に製造することができる。
【0091】
本発明の衛生マスク用シートは、前述の実施形態に示される積層構造に限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で、種々の積層構造を取り得る。
【0092】
このようにして得られた本発明の衛生マスク用シートは、それ自体が衛生マスクとして用いることができる。この衛生マスクとしては、顔を覆う衛生マスク本体と衛生マスク本体の装着状態を固定する耳掛け部とを本発明の衛生マスク用シートを用いて一体的に形成したものがある。また、マスク本体のみを本発明の衛生マスク用シートを用いて形成し、別部材(例えばゴム紐や伸縮性不織布など)からなる耳掛け部を取り付けたものがある。少なくともマスク本体が本発明の衛生マスク用シートを備えていることが好ましい。
【0093】
本発明の衛生マスク用シートは、衛生マスクそのものとして用いる以外に、衛生マスクに着脱可能なフィルタシートとして用いることができる。例えば、マスク本体とその内側に配されるフィルタシートとを備えた衛生マスクにおけるフィルタシートとして、本発明の衛生マスク用シートを用いることができる。このフィルタシートは、マスク本体と同様に立体形状を有することが好ましい。
【0094】
また、本発明の衛生マスク用シートが適用される衛生マスク及びフィルタシートを、立体的な形状としてもよく、平面視矩形であってもよい。更に、衛生マスク及びフィルタシートが横方向に延びる数個の襞を有していてもよい。
【実施例
【0095】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表1中における、「-」は、項目に該当する値を有さないこと等を意味する。
【0096】
(実施例1)
図11(A)~(C)に示す製造方法によって図2に示す、実施例1の衛生マスク用シート試料を作製した。
基材シート9は、図8に示す伸縮性シート96からなり、以下の方法で製造した。
平均繊維径が18μmで、坪量が18g/mである、ポリプロピレン(以下、PPともいう)樹脂からなるスパンボンド不織布を2枚用い、両不織布間に直径100μmの弾性フィラメントを複数本配置した。弾性フィラメントの全坪量は、9g/mであった。この積層シートを、一対の歯溝ロール間に通して伸縮性を発現させて伸縮性シート96を製造した。
凹凸不織布8は以下の方法で製造した。
平均繊維径が15μmで、坪量が18g/mである、PP樹脂からなるスパンボンド不織布を保護シートとして準備した。その後、本保護シート上にエレクトロスピニング法によって紡糸された繊維を堆積させて保護シート上にフィルタ不織布Aを積層し凹凸不織布の原料不織布800を準備した。
その後、図11(A)~(C)に示す方法に従い、伸縮性シート96を1.5倍に伸長させた状態下に、凹凸不織布の原料不織布800を重ね合わせて接合することで、衛生マスク用シート試料を製造した。なお、伸縮性シート96の破断伸長率は70%であり、伸縮性シート96を破断伸長率の71%に伸長させた状態で、凹凸不織布原反を積層並びに接合している。フィルタ不織布Aの平均繊維径、密度及び坪量は表1に示すとおりとした。また、凹凸不織布8の凸部高さ、凸部間隔、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)は、表1に示すとおりとした。
作製した衛生マスク用シートから、伸縮する一方向に50mm、軸方向に25mmの大きさのシートを切り抜いて、実施例1の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0097】
(実施例2)
伸縮性シートを1.3倍(破断伸長率の43%)に伸長させた状態下に、凹凸不織布の原料不織布800を重ね合わせて接合することで、衛生マスク用シートを製造した以外は実施例1と同様にして実施例2の衛生マスク用シート試料を制作した。なお、伸縮性シート96の破断伸長率は70%であり、伸縮性シート96を破断伸長率の43%に伸長させた状態で、凹凸不織布原反を積層並びに接合している。実施例2の衛生マスク用シート試料において、凹凸不織布8の凸部高さ、凸部間隔、単位面積S0当たりの凹凸の表面積S1の比率(S1/S0)は、表1に示すとおりとした。
【0098】
(比較例1)
衛生マスク用シートして、ユニ・チャーム超快適マスク(商品名、ユニ・チャーム株式会社製)から、伸縮する一方向に50mm、軸方向に25mmの大きさのシートを切り抜いて、比較例1の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0099】
(比較例2)
衛生マスク用シートとして、PITTA MASK(商品名、株式会社アラクス)から、伸縮する一方向に50mm、軸方向に25mmの大きさのシートを切り抜いて、比較例2の衛生マスク用シート試料を作製した。
【0100】
上記の各実施例及び比較例について、50%伸長時の幅方向の収縮率、引張弾性率E2、引張弾性率E1A、及び引張弾性率E2/引張弾性率E1Aの値を、前述の(収縮率の測定方法)及び(引張弾性率の測定方法)に基づいて測定した。また、実施例1、比較例1、比較例2の引張試験結果を図12に、図12の引張試験結果の横軸0~50mm、縦軸0~10Nの枠内の拡大図を図13に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1、図12図13に示すように、実施例は比較例と比較して引張弾性率に変曲点を有し、引張特性が顕著に変化していることに加え、50%伸長時の幅方向の収縮率も低くフィルタ不織布の構造変化が生じておらず捕集率に影響がないと類推できる。
【符号の説明】
【0103】
1 第1面の凸部
2 第1面の凹部
3 第2面の凸部
4 第2面の凹部
8 凹凸不織布
A フィルタ不織布
81 保護シート
9 基材シート
94 非伸縮性の不織布
95 弾性フィラメント
96 伸縮性シート
97 多孔シート
98 支持部材
21 接合点
10 衛生マスク用シート
1S 第1面
1R 第2面
800 凹凸不織布の原反不織布
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13