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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】バイオマス樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241216BHJP
   C08L 1/28 20060101ALI20241216BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241216BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C08L101/00 ZAB
C08L1/28
C08K7/02
C08L67/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020060037
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155665
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-516246(JP,A)
【文献】特開2002-275379(JP,A)
【文献】特開2020-033531(JP,A)
【文献】特開2011-127075(JP,A)
【文献】特開2020-015242(JP,A)
【文献】特開平07-109339(JP,A)
【文献】特開平10-298435(JP,A)
【文献】特表2017-508639(JP,A)
【文献】特開2011-225847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14101/00
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス樹脂、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及びセルロースナノファイバーを含有するバイオマス樹脂組成物であって、前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記セルロースナノファイバーの含有量が1~10質量%である、バイオマス樹脂組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルエチルセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の重量平均分子量が5000~5000000である、請求項1又は2に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物は、2gに対して水を添加した100mLの水溶液とした際の粘度が2~6000mPa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項5】
前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の含有量が2~50質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項6】
前記バイオマス樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマス樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項7】
前記バイオマス樹脂が、ポリ乳酸である、請求項1~6のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項8】
前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記バイオマス樹脂の含有量が20~97質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項9】
前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、バイオマス比率が99質量%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項10】
前記セルロースナノファイバーの平均直径が3~1000nmである、請求項1~9のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物の製造方法であって、
(B1)前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及び前記セルロースナノファイバーを極性溶媒の存在下で混合する工程、及び
(B2)工程(B1)で得られた混合物及び前記バイオマス樹脂を混練する工程
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記工程(B2)の前に、前記工程(B1)で得られた混合物を用いて、前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の存在下に前記セルロースナノファイバーを解繊する工程を備える、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー消費、化石資源の利用、二酸化炭素排出等の削減(低炭素化)や軽量化といった観点から、バイオマス資源が注目されている。また、マイクロプラスチックの問題から、生分解性材料も注目されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、バイオマス材料及び生分解性材料は強度及び耐熱性に劣る材料が多い。例えば、バイオマス樹脂の代表格である、乳酸を重合することでプラスチックとして合成されるポリ乳酸であっても、非バイオマス樹脂であるABS樹脂と比較すると強度に劣り、また、耐熱性も低いプラスチックであるため、ガラス繊維等の強化剤とともに使用することが前提となっている(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
強度、耐熱性等が劣るバイオマスプラスチックについては、フィラーを入れて強化が試みられているが、特許文献1のようにガラス繊維を入れた場合には比重が重くなりバイオマス材料の特性を生かすことができない。
【0005】
このため、天然材料をフィラーとして用いてバイオマス比率を上げて軽量化することが考えられる。強度を維持するためには、バイオマスの前処理及び非バイオマス系の添加剤の添加が行われることが一般的であるが、生分解性やバイオガス精製の観点では、構成成分が100質量%バイオマス材料であることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-198820号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】生分解性プラスチックの課題と将来展望;三菱総研技術レポート(2019)
【文献】PIONEER R&D Vol.16 No.1,33-39(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、セルロースは、植物細胞の細胞壁及び植物繊維の主成分であり、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子であるため、環境負荷が小さい。このセルロースで構成されたセルロース繊維は、基本となる単位である幅3~4nmのシングルセルロースナノファイバーが束となって細胞壁中での基本単位である幅10~20nmのセルロースナノファイバーを構成し、それがさらに太さ数10μm束となった構造となっている。セルロースナノファイバーは原料となるパルプやセルロースパウダーにヘミセルロース、場合によってはリグニンを含むため、セルロースナノファイバーがそれらの成分を伴うことが多いが、全質量に対してセルロース含有率は85質量%より大きい。
【0009】
近年、セルロースナノファイバーは、高弾性率、高強度、低線膨張係数、ガスバリア性等優れた特性を有することがわかり、且つ、ガラス繊維、炭素繊維、無機フィラー等と比較して軽量であるため、樹脂強化材、塗料添加剤、フィルム、増粘剤等様々な用途を想定して研究開発がなされている。
【0010】
セルロースナノファイバーの製造方法としては、高圧分散装置、グラインダー等を用いた機械的に解繊する方法、パルプをカチオン化剤で化学的に親水化した後に混練機等を用いて機械的に簡易に解繊する方法、TEMPO触媒等を用いて部分的に酸化させて化学的に解繊し易くする方法等が挙げられる。
【0011】
ところで、セルロースナノファイバーは単独で使用することは少なく、有機成分や有機溶媒と組合せて使用することも多いが、セルロースはグルコース分子の水酸基を多数有しているため強い親水性となり、細い径に解繊するほど水酸基同士の水素結合により強く凝集しやすく、疎水性である有機物との親和性に欠ける等の欠点があった。つまり、水中では安定に存在するが、水を多く含んだ状態のままでは疎水性の高分子や加水分解性の高分子との複合(特に溶融混練)が行いにくく、乾燥すると凝集して高分子中で異物となり特性を低下させるため、高分子中でセルロースナノファイバーの保有する特性を発揮させることが難しいという問題点があった。
【0012】
セルロースナノファイバーを疎水化する方法も検討されているが、化学的にセルロースナノファイバーの水酸基に疎水基を置換させる方法が殆どである。その場合、コストがかかることと、水酸基の一部が置換されるにとどまるため、水素結合による凝集を抑えきれない等の問題点が残る。また、疎水化させるほど置換基が嵩高くなり、セルロースに対する質量比率が増し、強度を損なう傾向がある。
【0013】
これらは、通常のセルロース繊維でも同様の課題があるが、特に質量に対して多くの水酸基が表面に露出しているセルロースナノファイバーで顕著に現れる課題である。
【0014】
そこで、本発明は、非バイオマスのフィラーを添加せずとも透明性、強度及び耐熱性に優れるバイオマス樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、バイオマス樹脂とヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物とを含むことにより、非バイオマスのフィラーを添加せずとも透明性、強度及び耐熱性に優れるバイオマス樹脂組成物が得られることを見出した。また、このバイオマス樹脂組成物にセルロースナノファイバーを含ませた場合にも、上記した課題に反して、強度を維持することができることを見出した。そして、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0016】
項1.バイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物を含有する、バイオマス樹脂組成物。
【0017】
項2.前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物がヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルエチルセルロースよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0018】
項3.前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の重量平均分子量が5000~5000000である、項1又は2に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0019】
項4.前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物2gに対して水を添加した100mLの水溶液とした際の粘度が2~6000mPa・sである、項1~3のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0020】
項5.前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の含有量が2~50質量%である、項1~4のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0021】
項6.前記バイオマス樹脂が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリエチレン、ポリプロピレン及びこれらの共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のバイオマス樹脂である、項1~5のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0022】
項7.前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記バイオマス樹脂の含有量が20~97質量%である、項1~6のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0023】
項8.前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、バイオマス比率が99質量%以上である、項1~7のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0024】
項9.さらに、セルロースナノファイバーを含有する、項1~8のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0025】
項10.前記セルロースナノファイバーの平均直径が3~1000nmである、項9に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0026】
項11.前記バイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、前記セルロースナノファイバーの含有量が1~30質量%である、項9又は10に記載のバイオマス樹脂組成物。
【0027】
項12.項1~11のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物の製造方法であって、
(A1)前記バイオマス樹脂及び前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物を混練する工程
を備える、製造方法。
【0028】
項13.項9~11のいずれか1項に記載のバイオマス樹脂組成物の製造方法であって、
(B1)前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及び前記セルロースナノファイバーを極性溶媒の存在下で混合する工程、及び
(B2)工程(B1)で得られた混合物及び前記バイオマス樹脂を混練する工程
を備える、製造方法。
【0029】
項14.前記工程(B2)の前に、前記工程(B1)で得られた混合物を用いて、前記ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の存在下に前記セルロースナノファイバーを解繊する工程を備える、項13に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、非バイオマスのフィラーを添加せずとも透明性、強度及び耐熱性に優れるバイオマス樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実験例1において、実施例1~3及び比較例1の試験片の加熱前の様子(片側を固定している様子)を示す写真である。各試料は、左から、比較例1、実施例3、実施例3、実施例2及び実施例1である(実施例3のサンプルが2個ある)。
図2】実験例1において、加熱後の試験片の様子(変形量)を示す写真である。左から、比較例1、実施例1、実施例2、実施例3である。
図3】実験例5において、実施例5、6及び7の樹脂組成物に対して熱プレスを行ってシートを作製した際の透明性を示す外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0033】
本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0034】
本明細書において、「ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物」は、ヒドロキシアルキルセルロース化合物及びヒドロキシアルキルアルキルセルロース化合物の双方を包含する。
【0035】
本発明のバイオマス樹脂組成物は、バイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物を含有する。
【0036】
1.バイオマス樹脂
バイオマス樹脂は、バイオマス由来の樹脂であれば使用することができ、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリアミド4、ポリアミド11、バイオマスポリエチレン、バイオマスポリプロピレン、これらの共重合体等が挙げられる。酢酸セルロースのようにバイオマス材料を主成分に化学的変性を加えた樹脂であってもよい。これらのバイオマス樹脂は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なお、バイオマス樹脂としては、生分解性バイオマス樹脂であってもよいし、非生分解性バイオマス樹脂であってもよい。なかでも、透明性、強度及び耐熱性の観点から、生分解性バイオマス樹脂が好ましく、ポリ乳酸がより好ましい。
【0037】
ポリ乳酸は、乳酸のモノマー、二量体、オリゴマー等を重合又は共重合したものである。ポリ乳酸は、市販品又は常法により重合したものを用いることができ、重合方法については特に制限はない。
【0038】
ポリ乳酸としては、ポリL-乳酸(L-乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸)とポリ-D乳酸(D-乳酸を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸)とが挙げられるが、いずれも採用できる。一般的なポリ乳酸としては、L-乳酸とD-乳酸の共重合体であり、かつL-乳酸構造が主であることが多い。その場合はL-乳酸構造が多い方が好ましく、D-乳酸構造が少ない方が好ましい。透明性、強度、耐熱性等の観点から、全乳酸構造に対して、D-乳酸構造の比率は0~3mol%が好ましく、0~2mol%がより好ましく、0~1mol%がさらに好ましい。また、L-乳酸重合体とD-乳酸重合体の混合物であるステレオコンプレックスも樹脂の耐熱性が高いという観点では好ましい。
【0039】
2.ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物
本発明において使用するヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物としては、特に制限はなく、セルロースが有する水酸基の全部又は一部が2-ヒドロキシn-プロピル基で置換されたヒドロキシプロピルセルロース(HPC);セルロースが有する水酸基の全部又は一部が2-ヒドロキシエチル基で置換されたヒドロキシエチルセルロース(HEC);セルロースが有する水酸基の全部又は一部がメチル基及び2-ヒドロキシn-プロピル基で置換され、メチル基及び2-ヒドロキシn-プロピル基を少なくとも1つ有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);セルロースが有する水酸基の全部又は一部がメチル基及び2-ヒドロキシエチル基で置換され、メチル基及び2-ヒドロキシエチル基を少なくとも1つ有するヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)等が挙げられる。なお、これらを総称すると、水酸基の全部又は一部が2-ヒドロキシn-プロピル基、2-ヒドロキシエチル基、メチル基等の少なくとも1種で置換されたグルコースの単独重合体、又は水酸基の全部又は一部が2-ヒドロキシn-プロピル基、2-ヒドロキシエチル基、メチル基等の少なくとも1種で置換されたグルコースと、非置換グルコースとの共重合体を意味する。
【0040】
上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、これらヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物は、要求特性に応じて適宜選択することができる。
【0041】
ただし、セルロースが有する水酸基の全部又は一部がメチル基で置換されたメチルセルロースの場合は、変色するうえに強度が不十分となる。
【0042】
なかでも、強度及び耐熱性を重要視する場合は、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。また、透明性を重要視する場合は、ヒドロキシエチルセルロースが好ましい。
【0043】
ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物は、一般的には全ての水酸基が置換されていることが多く、この場合は水溶性であるが、透明性、強度及び耐熱性の観点からは、水酸基が置換されている数を少なく(つまり、水酸基の数を大きく)し、水に膨潤しやすく水溶性の低いヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物を使用することが好ましい。このような観点から、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物において、モル置換度(1グルコースあたりの置換された水酸基の平均数)は0.10~1.00が好ましく、0.15~0.50がより好ましい。例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとして信越化学工業(株)製のL-HPC等は、モル置換度が0.24~0.42程度(ヒドロキシプロポキシ基の割合が8~14モル%)であり、水に膨潤しやすく水溶性の低いヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物である。上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物のモル置換度は、H-NMRにより測定する。
【0044】
上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の重量平均分子量は、物性、製造の必要に応じて適宜選択することができる。なかでも、重量平均分子量が高いほど、得られる本発明のバイオマス樹脂組成物の強度及び耐熱性が向上しやすい。一方、重量平均分子量が低いほど、後述のセルロースナノファイバーと混合する場合には、取扱いが容易になりやすく、高粘度化しにくいためヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物をより高濃度で配合しやすくなり、結果的に強度及び耐熱性も向上しやすい。このため、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の重量平均分子量は、後述のセルロースナノファイバーを含ませない場合は高いほうが好ましいが、後述のセルロースナノファイバーを含ませる場合は、取扱い性、透明性、強度、耐熱性等の要求特性に応じて適宜選択することが好ましい。このような観点から、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の重量平均分子量は、後述のセルロースナノファイバーを含ませない場合は、5000~5000000が好ましく、100000~5000000がより好ましく、300000~5000000がさらに好ましい。また、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の分子量は、後述のセルロースナノファイバーを含ませる場合は、5000~5000000が好ましく、100000~4000000がより好ましく、500000~1000000がさらに好ましい。上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の分子量は、GPS法により測定する。
【0045】
上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の粘度は、物性、製造の必要に応じて適宜選択することができる。なかでも、粘度が高いほど、得られる本発明のバイオマス樹脂組成物の強度及び耐熱性が向上しやすい。一方、粘度が低いほど、後述のセルロースナノファイバーと混合する場合には、取扱いが容易になりやすく、高粘度化しにくいためヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物をより高濃度で配合しやすくなり、結果的に強度及び耐熱性も向上しやすい。このため、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の2質量%水溶液とした際の粘度は、後述のセルロースナノファイバーを含ませない場合は高いほうが好ましいが、後述のセルロースナノファイバーを含ませる場合は、取扱い性、透明性、強度、耐熱性等の要求特性に応じて適宜選択することが好ましい。このような観点から、2質量%水溶液とした際の粘度は、2~10000mPa・sが好ましく、6~8000mPa・sがより好ましく、10~6000mPa・sがさらに好ましい。上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の2質量%水溶液とした際の粘度は、B型粘度計により測定する。
【0046】
3.セルロースナノファイバー
本発明のバイオマス樹脂組成物では、上記のバイオマス樹脂とヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物とを含有することにより、強度及び耐熱性を向上させることができる。この本発明のバイオマス樹脂組成物には、弾性率やさらなる強度及び耐熱性の向上の観点から、セルロースナノファイバーを含ませることもできる。
【0047】
上記したように、セルロースナノファイバーは、グルコース分子の水酸基を多数有しているため強い親水性となり、細い径に解繊するほど水酸基同士の水素結合により強く凝集しやすく、疎水性である有機物との親和性に欠ける性質を有している。
【0048】
このため、上記のヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物が存在しない状態においては、水中では安定に存在するが、水を多く含んだ状態のままでは疎水性のバイオマス樹脂との複合(特に溶融混練)が行いにくく、乾燥すると凝集してバイオマス樹脂中で異物となり強度低下の一因となっていた。
【0049】
しかしながら、本発明においては、上記のヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の存在下でセルロースナノファイバーを含ませる場合には、セルロースナノファイバーが安定に存在する水を多く含んだ状態においても、疎水性のバイオマス樹脂との親和性が改善され、乾燥しても凝集を防止しやすくまた、変色を抑制しやすく透明性を維持しやすいとともに、強度及び耐熱性も維持しやすい。
【0050】
セルロースナノファイバーとしては、公知のものを広く採用することが可能であり、特に限定はない。また、植物由来セルロースナノファイバー、動物由来セルロースナノファイバー及びバクテリア由来セルロースナノファイバーのいずれも採用できる。これらのセルロースナノファイバーは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0051】
植物由来セルロースナノファイバーとしては、例えば、広葉樹(ユーカリ、ポプラ等)由来セルロースナノファイバー、針葉樹(マツ、モミ、スギ、ヒノキ等)由来セルロースナノファイバー、草本類(ワラ、バガス、ヨシ、ケナフ、アバカ、サイザル等)由来セルロースナノファイバー、種子毛繊維(コットン等)が挙げられる。原料となるパルプは、木材チップを機械的に処理した機械パルプであってもよく、木材チップから非セルロース成分を化学的に除去した化学パルプでもよく、さらに非セルロース成分を除去して精製した溶解パルプでもよい。
【0052】
その他、ホヤ等の動物由来のセルロースナノファイバー、ナタデココ等のバクテリア由来セルロースナノファイバー等も使用することができる。
【0053】
以上のセルロースナノファイバーは、必ずしも純粋なセルロース成分のみから構成される必要はなく、主成分たるセルロースに、非セルロース成分が付随していてもよい。もちろん、セルロースナノファイバーが純粋なセルロース成分のみにより構成されていてもよい。
【0054】
セルロースナノファイバーに付随する主な非セルロース成分については、特に限定はなく、バイオマス樹脂組成物の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、ヘミセルロース及びリグニンを挙げることができる。なお、ヘミセルロースが多いほどセルロースナノファイバー製造時に解繊されやすいが、得られるバイオマス樹脂組成物の強度及び耐熱性が低下しやすい。一方、リグニンが多いほどセルロースナノファイバー製造時に解繊されにくくなるが、バイオマス樹脂組成物の強度及び耐熱性は向上しやすい。
【0055】
また、セルロースナノファイバー中の純粋なセルロース成分比率に関しても、本発明のバイオマス樹脂組成物の用途に応じて、適宜設定することができる。例えば、本発明のバイオマス樹脂組成物が、バイオマス樹脂を強化している観点では、純粋なセルロース成分比率は、セルロース成分の有する強度特性を効果的に利用するためには、セルロースナノファイバーの総量を100質量%として、70~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましい。なお、本明細書において、セルロース比率とは、βグルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した純粋なセルロース成分の比率を意味する。
【0056】
セルロースナノファイバーに含まれるセルロースの重合度に関しても、本発明のバイオマス樹脂組成物の用途に応じ、適宜設定することができる。セルロースナノファイバーに含まれるセルロースの重合度が低い方が、セルロースナノファイバーが解繊されやすい傾向にある。一方で、セルロースナノファイバーに含まれるセルロースの重合度が高いほど、強度及び耐熱性を向上させやすい。このような観点から、セルロースナノファイバーに含まれるセルロースの重合度は、500~100000が好ましく、600~80000がより好ましい。
【0057】
セルロースナノファイバーに含まれるセルロース成分の結晶化度に関しても、低い方が解繊されやすい傾向にあるが、高い方が強度及び耐熱性を向上させやすい。このような観点から、セルロースナノファイバーに含まれるセルロース成分の結晶化度は60~99%が好ましく、70~98%以上がより好ましい。なお、セルロースの結晶構造は、I型、II型、III型及びIV型を挙げることができるが、なかでも、バイオマス樹脂の補強という観点からは、強度及び耐熱性の高いI型結晶構造のセルロースが好ましい。
【0058】
パルプに含まれるセルロース繊維は通常直径10~100μmであることが多いが、凝集防止、透明性、強度、耐熱性等の観点から、本発明で使用するセルロースナノファイバーはさらに微細化されていることが好ましく、具体的には、平均直径は3~1000nmが好ましく、4~100nmがより好ましい。なお、セルロースナノファイバーの平均直径は、ランダムに抽出した50本以上のセルロースナノファイバーをSEM観察して得られるメジアン径である。
【0059】
一般的に、セルロースナノファイバーは、長さ、結晶性及び重合度を損なわず理想的に微細化され、理想的に分散した場合に、得られるバイオマス樹脂組成物の強度及び耐熱性が向上しやすい。ただし、実際は細く長いセルロースナノファイバーほど凝集しやすく、バイオマス樹脂組成物の強度が向上しにくいことも想定される。また、ナノサイズまで微細化させることにより、ナノファイバーの長さ、結晶性、重合度の低下が発生する場合もあるため、適切な微細化の度合いは目的と微細化する手段によって適宜設定することが好ましい。なお、本発明によれば、上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物と共存していることにより、凝集しにくくしながら解繊することが可能であるため、過度に微細化しても凝集しにくく、透明性、強度及び耐熱性を向上させやすい。
【0060】
セルロースナノファイバーを微細化する方法については、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、高圧ホモジナイザー法、水中対抗衝突法、グラインダー法、ボールミル法、二軸混練法等の物理的方法でもよく、TEMPO触媒、リン酸、二塩基酸、硫酸、塩酸等を用いた化学的な方法でもよい。通常、物理的方法ではセルロースナノファイバーの平均直径は10~1000nmとなりやすいが、化学的方法ではさらに細い平均直径3~10nmのセルロースナノファイバーも得やすい。一方で、直径が細く、アスペクト比が大きいほど、得られるバイオマス樹脂組成物の高い強度等の物性を期待できるが、高粘度化して生産効率が低下したり、凝集したりして、高強度を向上させにくいこともあるため、適切な微細化の度合いは目的と微細化する手段によって適宜設定することが好ましい。なお、本発明によれば、上記したヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物と共存していることにより、凝集しにくくしながら解繊することが可能であるため、過度に微細化しても凝集しにくく、透明性、強度及び耐熱性を向上させやすい。
【0061】
4.バイオマス樹脂組成物
本発明のバイオマス樹脂組成物は、バイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、並びに必要に応じてセルロースナノファイバーを含有する。
【0062】
本発明のバイオマス樹脂組成物において、バイオマス樹脂の含有量は、透明性、強度、耐熱性、凝集防止等の観点から、本発明のバイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、20~97質量%が好ましく、35~94質量%がより好ましく、50~91質量%がさらに好ましい。
【0063】
本発明のバイオマス樹脂組成物において、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の含有量は、透明性、強度、耐熱性、凝集防止等の観点から、本発明のバイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、2~50質量%が好ましく、3~40質量%がより好ましく、4~30質量%がさらに好ましい。
【0064】
本発明のバイオマス樹脂組成物において、セルロースナノファイバーを含む場合、セルロースナノファイバーの含有量は、透明性、強度、耐熱性、凝集防止等の観点から、本発明のバイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0065】
なお、本発明のバイオマス樹脂組成物には、上記したバイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、並びに必要に応じてセルロースナノファイバーのみに限定されず、各種添加剤を含むこともできる。
【0066】
このような添加剤としては、例えば、フルオレン化合物を含むこともできる。フルオレン化合物を含むことで、耐熱性や強度を損ないにくく、セルロースナノファイバーの凝集を抑制しやすく、且つ疎水性を高めやすいことにより、分散性を向上させやすい。
【0067】
このようなフルオレン化合物としては、例えば、9,9-ビス(グリシジルオキシフェニル)フルオレン類、9,9-ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン類等が挙げられ、9,9-ビス(グリシジルオキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-グリシジルオキシフェニル)フルオレン(BPFG)、9,9-ビス(4-グリシジルオキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCFG)等の9,9-ビス(モノグリシジルオキシフェニル)フルオレン類;9,9-ビス[3,4-ジ(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン(ビスカテコールフルオレンテトラグリシジルエーテル)等の9,9-ビス(ジグリシジルオキシフェニル)フルオレン類;9,9-ビス[3,4,5-トリ(グリシジルオキシ)フェニル]フルオレン等の9,9-ビス(トリグリシジルオキシフェニル)フルオレン類等が挙げられ、9,9-ビス(グリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(4-グリシジルオキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル)(BPEFG)、9,9-ビス(4-グリシジルオキシエトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCEFG)等の9,9-ビス(モノグリシジルオキシアルコキシフェニル)フルオレン類;これらに対応する9,9-ビス(ジ又はトリ(グリシジルオキシアルコキシ)フェニル)フルオレン類等が挙げられる。
【0068】
本発明のバイオマス樹脂組成物において、フルオレン化合物を含む場合、フルオレン化合物の含有量は、透明性、強度、耐熱性、凝集防止等の観点から、本発明のバイオマス樹脂組成物の総量を100質量%として、1~30質量%が好ましく、3~25質量%がより好ましく、5~20質量%がさらに好ましい。
【0069】
以上説明したような本発明のバイオマス樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるわけではないが、例えば、
(A1)バイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物を混練する工程
を備える製造方法により得ることができる。
【0070】
一方、本発明のバイオマス樹脂組成物にセルロースナノファイバーを含ませる場合は、凝集防止の観点からは、
(B1)ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及びセルロースナノファイバーを極性溶媒の存在下で混合する工程、及び
(B2)工程(B1)で得られた混合物及びバイオマス樹脂を混練する工程
を備える製造方法により得ることが好ましい。
【0071】
なお、本発明のバイオマス樹脂組成物にフルオレン化合物等の添加剤を含ませる場合は、工程(A1)及び工程(B1)において添加することが好ましい。
【0072】
バイオマス樹脂、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、セルロースナノファイバー及びフルオレン化合物は上記したものを採用することができる。好ましい条件についても同様である。
【0073】
また、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物は粉末であってもよいし、各種溶媒で湿潤した状態であってもよい。
【0074】
工程(B1)において、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及びセルロースナノファイバーを極性溶媒の存在下で混合する方法は特に制限されない。具体的には、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、セルロースナノファイバー及び極性溶媒を常法で混合することができる。
【0075】
この際使用できる極性溶媒としては、特に制限されず、水及び極性有機溶媒のいずれも採用できる。
【0076】
極性有機溶媒は、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及びセルロースナノファイバー、並びに必要に応じてフルオレン化合物と親和性が高いことが好ましい。ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、並びに必要に応じてセルロースナノファイバー及びフルオレン化合物との親和性の観点から、極性有機溶媒は、オキシアルキレン基、ケトン基、エステル基、スルフィニル基等を有することが好ましい。
【0077】
このような条件を満たす極性有機溶媒としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、環状ケトン基、環状エステル基、ジアルキルスルホキシド基等を含むことが好ましく、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル化合物、脂肪族環状ケトン化合物、酢酸アルキル化合物、プロピオン酸アルキル化合物、酪酸アルキル化合物等が好適である。ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酪酸ブチル、酪酸ペンチル、酪酸イソペンチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド等が特に好ましい。これらの極性有機溶媒は、単独で使用することもでき、2種以上を組合せて使用することもできる。ただし、極性有機溶媒はこれらに限定する必要はなく、使用するヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及びセルロースナノファイバー、並びに必要に応じてフルオレン化合物との親和性の観点で選択することが好ましい。
【0078】
工程(B1)では、上記のようにしてヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、セルロースナノファイバー及び極性溶媒を常法で混合した後、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物の存在下に前記セルロースナノファイバーを解繊することが好ましい。解繊の方法は特に制限されず、常法にしたがい行うことができる。
【0079】
工程(A1)及び(B2)において、混練方法は特に制限されず、乾式混練であってもよく、溶融混練であってもよい。特に、生産性、分散性、透明性、強度及び耐熱性の観点から溶融混練が好ましい。
【0080】
なお、工程(B2)では、工程(B1)で使用した極性溶媒(水又は極性有機溶媒)をそのまま使用して溶融混練を行うこともできる。ただし、水を使用する場合は、ポリ乳酸の加水分解を抑制しやすいように、真空で引いて溶融混練することが好ましい。
【0081】
また、溶融混練を採用する場合、使用する極性溶媒(水又は極性有機溶媒)が混練時にバイオマス樹脂及びヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、並びに必要に応じてセルロースナノファイバー及びフルオレン化合物の親和性を高めた後、極性溶媒(水又は極性有機溶媒)は除去されることが好ましい。この際の作業性に特に優れ、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物及び必要に応じてセルロースナノファイバーが特に凝集しにくく、有機溶媒を特に除去しやすい観点から、極性有機溶媒の沸点は50~250℃が好ましく、70~230℃がより好ましい。
【0082】
なお、使用するバイオマス樹脂が加水分解性又はアルコリシスを起こすポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を使用する場合は、極性有機溶媒としては、バイオマス樹脂との間で不要な反応を引き起こさないために、水酸基を有さないことが好ましい。
【実施例
【0083】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0084】
以下、実施例及び比較例において、各成分の混練は溶融混練によって行った。具体的には、80℃で24時間乾燥させたバイオマス樹脂と、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物等とを、二軸押出機((株)テクノベル製;スクリュー径15mmφ、スクリュープロセス長L/D=30)を用いて溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットは80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機((株)新興セルビック製;C,MOBILE-0813)を用いて、長さ75mm×平行部幅5mm×平行部長さ35mm×厚さ2mmのダンベル試験片に成形した。
【0085】
実施例1
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-SSL;重量平均分子量40000;2gに水を添加して100mL水溶液とした際の粘度2~2.9mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0086】
実施例2
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-SL;重量平均分子量100000;2gに水を添加して100mL水溶液とした際の粘度3~5.9mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0087】
実施例3
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-L;重量平均分子量140000;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度6~10mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0088】
実施例4
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-M;重量平均分子量700000;2質量%水溶液の粘度150~400mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0089】
実施例5
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-H;重量平均分子量1000000;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度1000~4000mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0090】
実施例6
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製の60SH-15;モル置換度メトキシ基1.9、ヒドロキシプロポキシ基0.25;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度15mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0091】
実施例7
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシエチルメチルセルロース(信越化学工業(株)製のSNB-60T;モル置換度メトキシ基1.5、ヒドロキシエトキシ基0.30;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度60000mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0092】
実施例8
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gとヒドロキシエチルセルロース(富士フイルム和光純薬(株)製の1級;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度200mPa・s)20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、透明な成形物が得られた。比較例1のポリ乳酸の場合と比較してもさらに透明な成形物が得られたので、ポリ乳酸とヒドロシキエチルセルロースとは相溶性に優れることが示唆されている。
【0093】
実施例9
パルプ(丸紅(株)製の広葉樹パルプ)200g、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-SSL;重量平均分子量40000;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度2~2.9mPa・s)100g及び水9700gを混合し、電動臼でパルプを解繊した。その結果、セルロースナノファイバー(平均直径50nm)及びヒドロシキプロピルセルロースを含む複合分散液が得られた。
【0094】
得られた複合分散液を80℃で減圧乾燥し、セルロースナノファイバーを66.7質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを33.3質量%含有する粉末を得た。
【0095】
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)170gと上記で得られた粉末30gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0096】
実施例10
パルプ(丸紅(株)製の広葉樹パルプ)200g、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製のHPC-SSL;重量平均分子量40000;2gに水を添加して100mLとした際の水溶液の粘度2~2.9mPa・s)100g、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテル100g及び水9600gを混合し、電動臼でパルプを解繊した。その結果、セルロースナノファイバー(平均直径50nm)、ヒドロシキプロピルセルロース及びビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルを含む複合分散液が得られた。
【0097】
得られた複合分散液を80℃で減圧乾燥し、セルロースナノファイバーを50.0質量%、ヒドロキシプロピルセルロースを25.0質量%、ビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルを25.0質量%含有する粉末を得た。
【0098】
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)160gと上記で得られた粉末40gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、半透明の成形物が得られた。
【0099】
比較例1
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)200gのみを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型し、ほぼ透明な成形物が得られた。
【0100】
比較例2
パルプ(丸紅(株)製の広葉樹パルプ)200g及び水9800gを混合し、電動臼でパルプを解繊した。その結果、セルロースナノファイバー(平均直径50nm)を含む分散液が得られた。
【0101】
得られた分散液を80℃で減圧乾燥し、乾燥セルロースナノファイバーの粉末を得た。
【0102】
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180gと上記で得られた粉末20gとを二軸混練機で混錬してペレットを作製した。得られたペレットを射出成型したが、セルロースナノファイバーが凝集し、不均一な成形物が得られた。セルロースナノファイバーは単体で乾燥させた場合は非常に凝集しやすく、異物として働き、ポリ乳酸のみの比較例1と比較して強度が低下したことが示唆される。
【0103】
実験例1
実施例1~3及び比較例1で得られた成形物(試験片)について、図1に示すように、試験片の片側(図1では上側)を固定し、80℃の電気炉に投入して11時間加熱した。なお、図1において、各試料は、左から、比較例1、実施例3、実施例3、実施例2及び実施例1である(図1には実施例3のサンプルが2個ある)。
【0104】
加熱後、試験片の変形量を測定した。結果を表1及び図2に示す。図2では、試験片は、左から、比較例1、実施例1、実施例2、実施例3である。比較例1と比較し、実施例1~3では変形量が小さく、耐熱性に優れることが理解できる。なお、成形後(加熱前)は半透明であった実施例1~3及びほぼ透明であった比較例1はいずれも、加熱によって結晶化が進行してほぼ不透明となっていた。
【0105】
【表1】
【0106】
実験例2
実施例5~8及び比較例1で得られた成形物(試験片)についても、実験例1と同様に、片側を固定した加熱による変形量を測定した。結果を表2に示す。比較例1と比較し、実施例5~8では変形量が小さく、耐熱性に優れることが理解できる。なお、成形後(加熱前)は半透明であった実施例5~7、透明であった実施例8及びほぼ透明であった比較例1はいずれも、加熱によって結晶化が進行してほぼ不透明となっていた。
【0107】
【表2】
【0108】
実験例3
実施例1~3及び比較例1で得られた成形物(試験片)について、まず、平面上で、80℃の電気炉に投入して3時間加熱した後、実験例1と同様に、片側を固定し、80℃の電気炉に投入して11時間加熱した。
【0109】
加熱後、試験片の変形量を測定した。結果を表3に示す。ここでも、比較例1と比較し、実施例1~3では変形量が極めて小さく、耐熱性に優れることが理解できる。特に、比較例1では、あらかじめ平面上で(重力で変形しない状態で)加熱することで結晶性を高めた場合においても、耐熱性は不十分であった。なお、成形後(加熱前)は半透明であった実施例1~3及びほぼ透明であった比較例1はいずれも、加熱によって結晶化が進行してほぼ不透明となっていた。
【0110】
【表3】
【0111】
実験例4
実施例5~7及び9~10、並びに比較例2について、試験速度10mm/分として、JISK7161-2:2014に準拠して引張強度を測定した。結果を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
その結果、ポリ乳酸にセルロースナノファイバーのみ比較例3と比較して、ポリ乳酸にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はヒドロシキエチルメチルセルロースを加えた実施例5~7や、ポリ乳酸にヒドロキシプロピルセルロース及びセルロースナノファイバーを加えた実施例9、ポリ乳酸にヒドロキシプロピルセルロース、セルロースナノファイバー及びビスフェノキシエタノールフルオレンジグリシジルエーテルを加えた実施例10の方が高強度であった。
【0114】
このことから、バイオマス樹脂であるポリ乳酸に対して、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物、及び必要に応じてセルロースナノファイバーを含ませることで、バイオマス樹脂であるポリ乳酸に対してセルロースナノファイバーのみを含ませる成形物と比較して、ポリ乳酸への分散性が高く、高強度となったことが示唆される。
【0115】
実験例5
実施例5、6及び7の樹脂組成物について、190℃で熱プレスを行い、約150μmのシートを作製し、透明性を目視で観察した。結果を図3に示す(フィルムの位置がわかるように点線のみ写真上に追加した)。
【0116】
このように、いずれの配合においても、ポリ乳酸と乾燥パウダーを混錬しているにもかかわらず、容易にほぼ透明なシートが得られた。実施例1~4より分子量が高いヒドロキシプロピルセルロースを用いた実施例5においてもほぼ透明であり、分子量が高いと推測できるヒドロキシエチルメチルセルロースを用いた実施例7はさらに透明性が高いことがわかった。
【0117】
比較例3
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180g及びカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(シグマアルドリッチ製;重量平均分子量250000)20gを二軸混練機で混錬してペレットを作製したが、樹脂が茶褐色不透明に変色し、脆い樹脂組成物となり、均一な樹脂組成物は得られなかった。
【0118】
比較例4
ポリ乳酸(ユニチカ(株)製のTE-2000)180g及びアルギン酸(富士フイルム和光純薬(株)製のアルギン酸(非膨潤性))20gを二軸混練機で混錬してペレットを作製したが、樹脂が茶褐色不透明に変色し、脆い樹脂組成物となり、均一な樹脂組成物は得られなかった。
【0119】
比較例3及び4の結果から、セルロース誘導体を含む多糖類であってもポリ乳酸と相溶性を有するとは限らないことが理解できる。このため、ヒドロキシアルキル(アルキル)セルロース化合物が特異的に、ポリ乳酸と非常に相溶性が高いことが示唆される。
図1
図2
図3