(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20241216BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2020103521
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】小松 望
(72)【発明者】
【氏名】橋本 武
(72)【発明者】
【氏名】菅野 伊知朗
(72)【発明者】
【氏名】小野▲崎▼ 祐斗
(72)【発明者】
【氏名】椎野 萌
(72)【発明者】
【氏名】浜 雅之
(72)【発明者】
【氏名】藤川 博之
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-191514(JP,A)
【文献】特開2019-074713(JP,A)
【文献】特開2018-084612(JP,A)
【文献】特開2020-016716(JP,A)
【文献】特開2018-005225(JP,A)
【文献】特開2017-207679(JP,A)
【文献】特開2017-107170(JP,A)
【文献】特開2017-107167(JP,A)
【文献】特開2017-003915(JP,A)
【文献】特開2009-210913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、炭化水素ワックスを含有するトナー粒子を含むトナーであって、
該結晶性ポリエステル樹脂が、1,12-ドデカンジオールとセバシン酸との縮重合物であり、
該トナーは示差走査熱量測定(DSC)において、
I:昇温速度10℃/分で20℃から180℃まで加熱するステップ
II:ステップIののち、降温速度10℃/分で20℃まで冷却するステップ
で測定した際、ステップIIにおいて観測されるワックスに由来するピークのピーク温度(℃)をT2w、発熱量(J/g)をH2w、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク温度(℃)をT2c、発熱量(J/g)をH2cとしたとき、以下の関係を満たすトナー。
9≦T2w-T2c≦15
2.1≦H2w/H2c≦
3.8
【請求項2】
前記炭化水素ワックスがフィッシャートロプシュワックスである請求項
1に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式、静電記録方式、静電印刷方式、トナージェット方式などの画像形成方法に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のフルカラー複写機が広く普及するに従い、高速印刷化や省エネルギー対応への要求が更に高まっている。高速印刷対応のため、トナーをより低い温度で定着させ定着工程での生産性向上させる技術が検討されている。さらに、印刷物そのものが商品となる商業印刷分野においては、生産性だけでなくより高画質、高安定な画像がこれまで以上に強く望まれている。
低温定着性と画像耐久性を両立させるため、結晶性樹脂を使用したトナーが提案されている(特許文献1)。特定の吸熱・発熱ピークを有する結晶性樹脂を用いることで上記課題を解決している。しかしながら、画像冷却時における結晶性樹脂と離型剤の凝固温度の違いから、特に高速印刷時においては、離型効果が不十分となり、定着画像表面が荒れることにより画像グロスが不均一になることがある。
そのため、高速印刷時においても良好な分離性と画像グロス均一性に優れたトナーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の課題を解決したトナーを提供することにある。具体的には、高速印刷時においても良好な分離性と画像グロス均一性に優れたトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、炭化水素ワックスを含有するトナー粒子を含むトナーであって、
該結晶性ポリエステル樹脂が、1,12-ドデカンジオールとセバシン酸との縮重合物であり、
該トナーは示差走査熱量測定(DSC)において、
I:昇温速度10℃/分で20℃から180℃まで加熱するステップ
II:ステップIののち、降温速度10℃/分で20℃まで冷却するステップ
で測定した際、ステップIIにおいて観測されるワックスに由来するピークのピーク温度(℃)をT2w、発熱量(J/g)をH2w、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク温度(℃)をT2c、発熱量(J/g)をH2cとしたとき、以下の関係を満たすことを特徴とするトナーである。
9≦T2w-T2c≦15
2.1≦H2w/H2c≦3.8
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高速印刷時においても良好な分離性と画像グロス均一性に優れたトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において、数値範囲を表す「○○以上××以下」や「○○~××」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限および上限を含む数値範囲を意味する。
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
【0009】
本発明のトナーは、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、炭化水素ワックスを含有するトナー粒子を含むトナーであって、該トナーは示差走査熱量測定(DSC)において、
I:昇温速度10℃/分で20℃から180℃まで加熱するステップ
II:ステップIののち、降温速度10℃/分で20℃まで冷却するステップ
で測定した際、ステップIIにおいて観測されるワックスに由来するピークのピーク温度(℃)をT2w、発熱量(J/g)をH2w、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク温度(℃)をT2c、発熱量(J/g)をH2cとしたとき、以下の関係を満たすことを特徴とする。
8≦T2w-T2c
0.8≦H2w/H2c≦8.0
【0010】
本発明のトナーは、高速印刷時においても良好な分離性と画像グロス均一性に優れたトナーであるため、安定して高品位な画像を出力できる。
【0011】
上記課題を解決するに至った理由に関して、本発明者らは以下のように推測している。
【0012】
高速印刷時においても良好な分離性を得るためには、定着分離時の画像表面が、定着部材との間に十分な離型性を有することが必要である。そのためには、溶融時に離型効果を有する成分が画像表面に存在することが重要である。一般に、離型効果を有する成分としては、結晶性を有し、溶融状態で粘度が低いものが離型剤として有効である。
【0013】
本発明のトナーは、炭化水素ワックスと結晶性ポリエステル樹脂を含有する。これらの成分は、溶融時にどちらも画像表面に存在することができる。複数の異なる材料が同時に溶融し、かつそれらが完全に相溶せずに一部またはすべてが分離して存在する場合、材料の違いによる粘度差が生じて界面ができる。また、より粘度が低く、疎水性の高い材料が画像表面に析出してくるため、溶融状態で離型剤が表面に存在し、結晶性ポリエステルがその下層にある積層状態を形成する。その結果、その境界面が分離界面の起点となりやすい。本発明のトナーは、粘度差があるワックスと結晶性ポリエステル樹脂を含有するため、上記の理由から、溶融時の分離性が優れるものと推測している。
【0014】
しかしながら、単純に複数の離型剤を有しているだけでは、画像グロス均一性の点で課題が残る。印刷物の画像グロスは、画像表面の平滑性に影響され、その平滑性にバラつきがあると画像グロスが不均一となりやすい。画像の平滑性は、主に定着工程における「分離性」と、画像が冷却され、溶融状態のトナーが固まる際の「固まり方」で決定される。本発明のトナーの分離性は、前述のとおり複数の離型剤を有するため優れている。さらに本発明のトナーは、炭化水素ワックスと結晶性ポリエステル樹脂の凝固点を特定の範囲にすることで、より画像表面の平滑性が保たれ、グロスの均一性に優れることが判明した。本発明のトナーは、溶融状態から冷却され凝固時、初めにワックスが凝固し、次いで結晶性ポリエステル樹脂が凝固する。結晶性ポリエステル樹脂は、溶融状態のままワックスが凝固した際に生じた隙間を埋めたのち、凝固することで画像表面の平滑性を高めることができた。
【0015】
上記の理由により、本発明のトナーは、良好な分離性と画像グロス均一性を両立できたと考える。
【0016】
本発明のトナーは、定着工程において溶融された際、離型剤である炭化水素ワックスと、結晶性ポリエステル樹脂とがそれぞれ分離した状態で存在することが重要である。それは、示差走査熱量測定(DSC)において、加熱後に冷却する過程においてワックスに由来するピークと結晶性ポリエステルに由来するピークがそれぞれ存在することで達成できる。結晶性ポリエステル樹脂やワックスが非晶性ポリエステルに相溶したり、ワックスと結晶性ポリエステル樹脂とが相溶したりすると、DSCにおいて冷却時におけるピークが観測されず本発明の効果が発現されない。ワックスに由来するピークと結晶性ポリエステルに由来するピークをそれぞれ存在させるためには、後述するような非晶性ポリエステル、結晶性ポリエステル、炭化水素ワックスの種類や存在量等を適切なものにすることで達成することができる。
【0017】
本発明においては、ワックスに由来するピークのピーク温度(℃)T2wと、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク温度(℃)T2cの関係が、8≦T2w-T2cであり、好ましくは9≦T2w-T2c≦20であり、さらに好ましくは9≦T2w-T2c≦15である。
【0018】
T2w-T2c<8の場合、ワックスと結晶性ポリエステル樹脂の凝固温度が近くなり、ワックスが凝固した際に生じた隙間を結晶性ポリエステル樹脂で十分に埋めることができなくなり、画像平滑性が低くなり、画像グロスが不均一となる場合がある。
【0019】
本発明においては、ワックスに由来するピークの発熱量(J/g)H2wと、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク発熱量(J/g)H2cの関係が、0.8≦H2w/H2c≦8.0である。また、好ましくは1.0≦H2w/H2c≦6.0であり、さらに好ましくは1.2≦H2w/H2c≦4.0である。
【0020】
0.8>H2w/H2cの場合、溶融状態における粘度がより低いワックスの存在比率が相対的に小さくなり、分離性が悪化する場合がある。また、ワックスが凝固した際に生じる隙間が多くなりすぎ、画像平滑性が低下する場合がある。
【0021】
H2w/H2c>8.0の場合、ワックスの存在比率が大きくなり過ぎ、上層(画像の最表層面)が厚くなりすぎる、または下層(結晶性ポリエステル樹脂)が薄すぎて界面の面積が少なくなるため、境界面による分離性向上効果が低下する場合がある。
【0022】
T2w-T2cの値は、使用するワックスや結晶性ポリエステル樹脂の種類、非晶性ポリエステル樹脂の種類等を変えることで制御することができる。
【0023】
H2w/H2cの値は、使用するワックスや結晶性ポリエステル樹脂の種類や存在量、非晶性ポリエステル樹脂の種類等により制御することができる。
【0024】
なお、ワックスまたは結晶性ポリエステル樹脂単独でDSC測定した際、冷却時に現れる発熱ピークのピーク温度、発熱量とは必ずしも一致しないことが多い。これは、トナーは他の材料との複合物であるため、周囲の材料の存在、それらとの相溶性の程度等により影響されるためである。例えば、トナー中で非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが完全に相溶する場合、結晶性ポリエステル樹脂単独のDSCでは冷却時に発熱ピークが観測されるのに対し、トナーのDSCでは冷却時に発熱ピークは観測されない。
【0025】
本発明において、好ましいトナーの構成を以下に詳述する。
【0026】
[結着樹脂]
本発明のトナーは、結着樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を含有する。
【0027】
非晶性ポリエステル樹脂は、低温定着性と帯電性の両立の観点で好ましい。耐久安定後の濃度安定性の観点から、全結着樹脂中の非晶性ポリエステル樹脂の含有率が50質量%以上100質量%以下であり、好ましくは70質量%以上100質量%以下である。
【0028】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に用いられるモノマーとしては、多価アルコール(2価もしくは3価以上のアルコール)と、多価カルボン酸(2価もしくは3価以上のカルボン酸)、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとが用いられる。ここで、分岐ポリマーを作製する場合には、結着樹脂の分子内において部分架橋することが有効であり、そのためには、3価以上の多官能化合物を使用することが好ましい。従って、原料モノマーとして、3価以上のカルボン酸、その酸無水物又はその低級アルキルエステル、及び/又は3価以上のアルコールを含むことが好ましい。
【0029】
多価アルコールモノマーとしては、以下の多価アルコールモノマーを使用することができる。
【0030】
2価のアルコール成分としては、例えば以下のものが挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、また式(A)で表わされるビスフェノール及びその誘導体。
【0031】
【化1】
(式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x及びyはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0以上10以下である。)
【0032】
式(B)で示されるジオール類;
【0033】
【0034】
3価以上のアルコール成分としては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。これらのうち、好ましくはグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが用いられる。これらの2価のアルコール及び3価以上のアルコールは、単独であるいは複数を併用して用いることができる。
【0035】
多価カルボン酸モノマーとしては、以下の多価カルボン酸モノマーを使用することができる。
【0036】
2価のカルボン酸成分としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-オクチルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸、これらの酸の無水物及びこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。これらのうち、これらのうち、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、n-ドデセニルコハク酸が好ましく用いられる。
【0037】
3価以上のカルボン酸、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとしては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸、これらの酸無水物又はこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。これらのうち、特に1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、すなわちトリメリット酸又はその誘導体が安価で、反応制御が容易であるため、好ましく用いられる。これらの2価のカルボン酸等及び3価以上のカルボン酸は、単独であるいは複数を併用して用いることがでる。
【0038】
ポリエステル樹脂の合成方法については、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、前述のアルコールモノマー及びカルボン酸モノマーを同時に仕込み、エステル化反応またはエステル交換反応、及び縮合反応を経て重合し、ポリエステル樹脂を製造する。また、重合温度は、特に制限されないが、180℃以上290℃以下の範囲が好ましい。ポリエステルユニットの重合に際しては、例えば、チタン系触媒、スズ系触媒、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム等の重合触媒を用いることができる。特に、本発明の非晶性ポリエステル樹脂は、スズ系触媒を使用して重合されたポリエステル樹脂であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明のトナーに使用される非晶性ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分の主成分は、芳香族ジオールであることが好ましく、芳香族ジオールは、80mol%以上100mol%以下の割合で含有することが好ましく、90mol%以上100mol%以下の割合で含有することがより好ましい。さらに、芳香族ジオールは、上記式(A)で表わされるビスフェノール及びその誘導体であることが好ましく、エチレンオキサイド付加物に由来するアルコール成分を30mol%以上含有することがより好ましい。より好ましくは50mol%以上である。上記構成であると、トナー溶融時に炭化水素ワックスと結晶性ポリエステル樹脂の画像表面における存在状態を前述した特定範囲にコントロールしやすくなる。
【0040】
また、本発明のトナーに使用される非晶性ポリエステル樹脂を構成する酸成分の主成分は芳香族の2価または3価のカルボン酸であることが好ましく、芳香族の2価または3価のカルボン酸は、80mol%以上100mol%以下の割合で含有されることが好ましい。より好ましくは90mol%以上100mol%以下である。
【0041】
また、本発明のトナーに使用される非晶性ポリエステル樹脂を構成する酸成分のうち、脂肪族ジカルボン酸の占める割合は10mol%以下であることが、結晶性ポリエステル樹脂のH2c、T2cの値を本発明の範囲内に制御しやすい点で好ましい。より好ましくは5mol%以下である。
【0042】
これらの結着樹脂は単独で用いても良いが複数の異なる樹脂を用いることもできる。特に、軟化点の異なる2種類以上の樹脂を組み合わせることでトナーの粘弾特性を調整でき、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立することが比較的容易になる点で好ましい。
【0043】
これらの結着樹脂の軟化点は、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立の観点から70℃以上180℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは、80℃以上160℃以下である。
【0044】
[結晶性ポリエステル樹脂]
本発明のトナーは、結晶性ポリエステル樹脂を含有する。
【0045】
結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.5質量部以上15.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましい。
【0046】
結晶性ポリエステル樹脂の含有量が上述の範囲であると、良好な分離性と画像グロス均一性に優れる。結晶性ポリエステル樹脂の含有量が0.5質量部より少ない場合、ワックスが凝固した際に生じた隙間を結晶性ポリエステル樹脂で十分に埋めることができなくなり、画像平滑性が低くなり、画像グロスが不均一となる場合がある。結晶性ポリエステル樹脂の含有量が15.0質量部を超える場合、トナー粒子中に結晶性ポリエステル樹脂を微分散させにくくなる傾向に有り、帯電安定性低下してしまう可能性がある。
【0047】
本発明において、結晶性樹脂とは、示差走査熱量測定(DSC)において吸熱ピークが観測される樹脂である。
【0048】
上記結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上の多価カルボン酸とジオールの反応により得ることができる。その中でも、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合して得られる樹脂であることが、結晶化度が高く、銅フタロシアニンと相互作用し易いために好ましい。また、本発明において結晶性ポリエステル樹脂は、1種類のみを用いても、複数種を併用してもよい。
【0049】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数2以上22以下の脂肪族ジオール及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有するアルコール成分と、炭素数2以上22以下の脂肪族ジカルボン酸及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合して得られる樹脂であることが好ましい。
【0050】
その中でも、上記結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数6以上14以下の脂肪族ジオール及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有するアルコール成分と、炭素数6以上14以下の脂肪族ジカルボン酸及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有するカルボン酸成分とを縮重合して得られる結晶性ポリエステル樹脂であることが、良好な分離性と画像グロス均一性の観点からより好ましい。
【0051】
上記炭素数2以上22以下(好ましくは炭素数6以上14以下)の脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、鎖状(好ましくは直鎖状)の脂肪族ジオールであることが、良好な分離性と画像グロス均一性を向上させる観点で最適である。
【0052】
例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタジエングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、及び1,14-テトラデカンジオールが挙げられる。
【0053】
これらの中でも、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、及び1,14-テトラデカンジオールなどのような直鎖脂肪族α,ω-ジオールが好ましく例示される。
【0054】
本発明において、誘導体としては、上記縮重合により同様の樹脂構造が得られるものであれば特に限定されない。例えば、上記ジオールをエステル化した誘導体が挙げられる。
【0055】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂を構成するアルコール成分において、上記炭素数2以上22以下(好ましくは炭素数6以上14以下)の脂肪族ジオール及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が、全アルコール成分に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0056】
本発明において、上記脂肪族ジオール以外の多価アルコールを用いることもできる。該多価アルコールのうち、上記脂肪族ジオール以外のジオールとしては、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、ポリオキシプロピレン化ビスフェノールAなどの芳香族アルコール;1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0057】
また、該多価アルコールのうち3価以上の多価アルコールとしては、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンなどの芳香族アルコール;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、及びトリメチロールプロパンなどの脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0058】
さらに、本発明において、結晶性ポリエステル樹脂の特性を損なわない程度に1価のアルコールを用いてもよい。該1価のアルコールとしては、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、n-ヘキサノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0059】
一方、上記炭素数2以上22以下(好ましくは炭素数6以上14以下)の脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、鎖状(好ましくは直鎖状)の脂肪族ジカルボン酸であるとよい。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸が挙げられる。これらの酸無水物又は低級アルキルエステルを加水分解したものなども含まれる。
【0060】
本発明において、誘導体としては、上記縮重合により同様の樹脂構造が得られるものであれば特に限定されない。例えば、上記ジカルボン酸成分の酸無水物、ジカルボン酸成分をメチルエステル化、エチルエステル化、又は酸クロライド化した誘導体が挙げられる。
【0061】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂を構成するカルボン酸成分において、上記炭素数2以上22以下(好ましくは炭素数6以上14以下)の脂肪族ジカルボン酸及びこれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が、全カルボン酸成分に対して、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0062】
本発明において、上記脂肪族ジカルボン酸以外の多価カルボン酸を用いることもできる。該多価カルボン酸のうち、上記脂肪族ジカルボン酸以外の2価のカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族カルボン酸;n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸などの脂肪族カルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸が挙げられ、これらの酸無水物又は低級アルキルエステルなども含まれる。
【0063】
また、その他の多価カルボン酸において、3価以上の多価カルボン酸としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、及びピロメリット酸などの芳香族カルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパンなどの脂肪族カルボン酸が挙げられ、これらの酸無水物又は低級アルキルエステルなどの誘導体なども含まれる。
【0064】
さらに、本発明において、結晶性ポリエステル樹脂の特性を損なわない程度に1価のカルボン酸を用いてもよい。該1価のカルボン酸としては、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、サリチル酸、4-メチル安息香酸、3-メチル安息香酸、フェノキシ酢酸、ビフェニルカルボン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オクタン酸などが挙げられる。
【0065】
本発明において、結晶性ポリエステル樹脂は、通常のポリエステル合成法に従って製造することができる。例えば、上記カルボン酸成分とアルコール成分とをエステル化反応、又はエステル交換反応させた後、減圧下又は窒素ガスを導入して常法に従って縮重合反応させることで結晶性ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0066】
上記エステル化又はエステル交換反応は、必要に応じて硫酸、チタンブトキサイド、2-エチルヘキサン酸錫、ジブチルスズオキサイド、酢酸マンガン、及び酢酸マグネシウムなどの通常のエステル化触媒又はエステル交換触媒を用いて行うことができる。
【0067】
また、上記縮重合反応は、通常の重合触媒、例えばチタンブトキサイド、2-エチルヘキサン酸錫、ジブチルスズオキサイド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、及び二酸化ゲルマニウムなど公知の触媒を使用して行うことができる。重合温度、触媒量は特に限定されるものではなく、適宜に決めればよい。
【0068】
エステル化若しくはエステル交換反応、又は重縮合反応において、得られる結晶性ポリエステル樹脂の強度を上げるために全モノマーを一括に仕込むことや、低分子量成分を少なくするために2価のモノマーを先ず反応させた後、3価以上のモノマーを添加して反応させたりするなどの方法を用いてもよい。
【0069】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂は、アルコールユニット由来の炭素数とカルボン酸ユニット由来の炭素数の合計が、20以上30以下であることが好ましく、22以上26以下であることがより好ましい。炭素数の合計が上記範囲であると、トナー溶融時に画像表面への染み出し速度が適度となり、画像平滑性が高まり、画像グロスがさらに均一となる。
【0070】
本発明の結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwcは、非晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwaとしたときに、3≦Mwc/Mwaの関係を満たすことが好ましい。Mwc/Mwaがこの範囲であると、帯電安定性が向上しやすいため好ましい。より好ましくは4≦Mwc/Mwaである。なお、非晶性ポリエステル樹脂を複数使用する場合、最も含有量の多い非晶性ポリエステルの重量平均分子量とする。
【0071】
[ワックス]
本発明のトナーは、炭化水素ワックスを含有する。
【0072】
炭化水素ワックスは、一般的なエステルワックスと比べ結晶性ポリエステルと相溶しにくい性質があり、定着工程時に炭化水素ワックスと結晶性ポリエステルが溶融した積層構造をとることができ、本発明の効果を発現できる。
【0073】
炭化水素ワックスの例として、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アルキレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの如き炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスの如き炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物があげられる。
【0074】
これらのワックスの中でも、着色力と帯電性を向上させるという観点、さらに結晶性ポリエステルと相溶しにくく分離性が向上できる観点で、パラフィンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスが好ましく、フィッシャートロプシュワックスがさらに好ましい。
【0075】
本発明のトナーには、必要に応じて他のワックスを含有させることもできる。カルナバワックスの如き脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスの如き脂肪酸エステル類を一部又は全部を脱酸化したもの。さらに、以下のものが挙げられる。パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸の如き飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸の如き不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールの如き飽和アルコール類;ソルビトールの如き多価アルコール類;パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸の如き脂肪酸類と、ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールの如きアルコール類とのエステル類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドの如き脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドの如き飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’ジオレイルセバシン酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’ジステアリルイソフタル酸アミドの如き芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの如き脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸の如きビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリドの如き脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加によって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物。
【0076】
該ワックスの含有量は、結着樹脂100.0質量部に対して、0.5質量部以上20.0質量部以下で使用されることが好ましい。さらに3.0質量部以上12.0質量部以下がより好ましい。また、トナーの着色力向上の観点から、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される昇温時の吸熱曲線において、温度30℃以上200℃以下の範囲に存在する最大吸熱ピークのピーク温度が、70℃以上110℃以下であることが好ましい。さらに、85℃以上100℃以下であることがより好ましい。
【0077】
[着色剤]
本発明のトナーのトナー粒子には、着色剤を含有させてもよい。着色剤としては、公知のイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤、ブラック着色剤を用いることができる。
【0078】
ブラック着色剤としては、例えば、カーボンブラックや、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤およびシアン着色剤を用いて黒色に調色したものなどが挙げられる。
【0079】
着色剤としては、顔料または染料を単独で使用してもよいし、染料と顔料とを併用してもよい。
【0080】
トナー粒子中の着色剤の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100.0質量部に対して、0.1質量部以上30.0質量部以下であることが好ましい。
【0081】
[磁性体]
本発明のトナーは、磁性トナーであっても非磁性トナーであってもよい。磁性トナーとして用いる場合、トナー粒子に含有させる磁性体として磁性酸化鉄を用いることが好ましい。磁性酸化鉄としては、例えば、マグネタイト、マグヘマタイト、フェライトなどが挙げられる。
【0082】
トナー粒子中の磁性体の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して、25質量部以上95質量部以下であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上45質量部以下である。
【0083】
[荷電制御剤]
本発明のトナーのトナー粒子には、荷電制御剤を含有させてもよい。荷電制御剤としては、ネガ系荷電制御剤およびポジ系荷電制御剤が挙げられる。
【0084】
ネガ系荷電制御剤としては、例えば、サリチル酸金属化合物、ナフトエ酸金属化合物、ジカルボン酸金属化合物、スルホン酸もしくはカルボン酸を側鎖に持つ高分子型化合物、スルホン酸塩もしくはスルホン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、カルボン酸塩もしくはカルボン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンなどが挙げられる。
【0085】
トナー粒子に荷電制御剤を含有させる場合、荷電制御剤は、トナー粒子に対して内添してもよいし、外添してもよい。
【0086】
トナー粒子中の荷電制御剤の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100.0質量部に対して、0.05質量部以上10.0質量部以下であることが好ましい。
【0087】
[外添剤]
本発明のトナーには、トナーの流動性の向上や摩擦帯電量の調整のために、さらに外添剤が添加されていてもよい。
【0088】
無機系外添剤としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン(チタニア)、チタン酸ストロンチウム、炭酸カルシウムなどの無機微粒子が好ましい。該無機微粒子は、シラン化合物、シリコーンオイル又はそれらの混合物の如き疎水化剤で疎水化処理されていることが好ましい。
【0089】
無機系外添剤以外としては、例えば、ビニル系樹脂、ポリエステル、シリコーン樹脂などの樹脂微粒子などが挙げられる。
【0090】
また、該外添剤は、トナー粒子100.0質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下使用されることが好ましい。
【0091】
これらの無機系微粒子や樹脂微粒子は、トナーの帯電性の制御や、流動性やクリーニングの助剤として機能する。
【0092】
[トナー粒子と外添剤との混合]
トナー粒子と外添剤との混合には、例えば、ヘンシェルミキサー、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ナウタミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業(株)製)などの公知の混合機を用いることができる。
【0093】
[キャリア]
本発明のトナーは、長期にわたり安定した画像が得られるという観点から、磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として用いることが好ましい。
【0094】
磁性キャリアとしては、例えば、表面を酸化した鉄粉もしくは未酸化の鉄粉、鉄、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、希土類のような金属粒子、もしくは、それらの合金粒子、酸化物粒子、フェライトなどの磁性体粒子、磁性体粒子と該磁性体粒子を分散した状態で保持する結着樹脂とを含有する磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)など、公知の磁性キャリアを用いることができる。
【0095】
[トナー粒子の製造方法]
本発明のトナー粒子は、溶融混練法、乳化凝集法、溶解懸濁法など、公知のトナー粒子の製造方法で製造することができる。
【0096】
次に、本発明に関わる各物性の測定方法について説明する。
【0097】
[ワックス及び結晶性ポリエステル樹脂のピーク温度及び発熱量の測定]
ワックス及び結晶性ポリエステル樹脂のピーク温度及び発熱量は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定する。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
【0098】
具体的には、試料約5mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、以下の手順で測定を行う。昇温速度10℃/分で20℃から180℃まで加熱するステップ(ステップI)、続いて降温速度10℃/分で20℃まで冷却するステップ(ステップII)、続いて再び昇温速度10℃/分で20℃から180℃まで加熱するステップ(ステップIII)。ステップIIにおいて観測されるワックスに由来するピークのピーク温度(℃)をT2w、発熱量(J/g)をH2w、結晶性ポリエステル樹脂に由来するピーク温度(℃)をT2c、発熱量(J/g)をH2cとする。また、ステップIIIにおいて観察されるDSC曲線の最大の吸熱ピークを示す温度を、ワックス及び結晶性ポリエステル樹脂の最大吸熱ピークのピーク温度とする。
【0099】
なお、ワックスに由来するピークか、結晶性ポリエステルに由来するピークかを判断する方法としては、例えば以下の方法があげられる。トナーをヘキサン中に分散させワックスをヘキサンに溶解させたのちに、ヘキサン不溶分を抽出し乾固させたものをDSC測定する。トナーのDSCプロファイルと比較し、消失したピークをワックス由来のピークと判断することができる。
【0100】
<GPCによる樹脂の重量平均分子量測定>
非晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂のTHF可溶分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
【0101】
まず、室温で24時間かけて、トナーをテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マイショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。なお、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF-801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10mL
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F-850、F-450、F-288、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000、A-2500、A-1000、A-500」、東ソー社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
【0102】
[トナー粒子の重量平均粒径(D4)の測定]
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いて、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
【0103】
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
【0104】
尚、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
【0105】
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
【0106】
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0107】
具体的な測定法は以下の(1)~(7)の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、解析ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去する。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れ、この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を脱イオン水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量の脱イオン水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカー内に、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。尚なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
【実施例】
【0108】
以下、製造例及び実施例により本発明を説明する。実施例3~12は参考例である。
【0109】
<結着樹脂の製造例>
<非晶性ポリエステル樹脂A1の製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン:100.0mol%
・テレフタル酸:多価カルボン酸総モル数に対して80.0mol%
・無水トリメリット酸:多価カルボン酸総モル数に対して20.0mol%
上記モノマー材料を、冷却管、攪拌機、窒素導入管および熱電対を備える反応槽に投入した。そして、上記モノマー材料の総量100質量部に対して、触媒(エステル化触媒)として2-エチルヘキサン酸スズを1.5質量部添加した。次に、反応槽内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、2時間反応させた。
【0110】
さらに、反応槽内の圧力を8.3kPaに下げ、1時間維持した後、180まで冷却し、そのまま反応させ、ASTM D36-86に従って測定した軟化点が122℃に達したのを確認してから温度を下げて反応を止めた。
【0111】
得られた非晶性ポリエステル樹脂1の軟化点(Tm)は112℃であり、ガラス転移温度(Tg)は63℃であり、重量平均分子量Mwは5200であった。
【0112】
<非晶性ポリエステル樹脂A2の製造例>
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを、ポリオキシエチレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに変更したこと以外は、非晶性ポリエステル樹脂1と同様にして、非晶性ポリエステル樹脂2を製造した。得られた非晶性ポリエステル樹脂2の軟化点(Tm)は110℃であり、ガラス転移温度(Tg)は60℃であり、重量平均分子量Mwは5400であった。
【0113】
<結晶性ポリエステル樹脂B1の製造例>
・1,12-ドデカンジオール 100.0mol%
・セバシン酸 100.0mol%
上記モノマー及び該モノマー総量に対して、0.2質量%のジブチル錫オキシドを窒素導入管、脱水管、攪拌装置及び熱電対を装備した10Lの四つ口フラスコに入れ、180℃で4時間反応させた後、10℃/1時間で200℃まで昇温、200℃で8時間保持した後、8.3kPaにて1時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂B1(B-1)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂B1の示差走査熱量測定(DSC)における吸熱ピークのピーク温度は、82℃であった。重量平均分子量Mwは22000であった。
【0114】
<結晶性ポリエステル樹脂B2~5の製造例>
アルコール成分、酸成分の種類を表1に記載の様に変更し、それ以外は、結晶性ポリエステルB1の製造例と同様にして結晶性ポリエステル樹脂B2~B5を得た。これらの結晶性ポリエステル樹脂の物性を表1に示す。
【0115】
<結晶性ポリエステル樹脂B6の製造例>
・1,10-ドデカンジオール 100.0mol%
・アジピン酸 100.0mol%
上記モノマー及び該モノマー総量に対して、2.0質量%のジブチル錫オキシドを窒素導入管、脱水管、攪拌装置及び熱電対を装備した10Lの四つ口フラスコに入れ、180℃で1時間反応させた後、10℃/1時間で200℃まで昇温、200℃で2時間保持した後、8.3kPaにて1時間反応させることにより、結晶性ポリエステル樹脂B6(B-6)を得た。得られた結晶性ポリエステル樹脂B6の示差走査熱量測定(DSC)における吸熱ピークのピーク温度は、68℃であった。重量平均分子量Mwは6000であった。
【0116】
【0117】
[実施例1]
<トナー1の製造例>
・非晶性ポリエステル樹脂A1:40.0質量部
・非晶性ポリエステル樹脂A2:60.0質量部
・結晶性ポリエステル樹脂B1:3.0質量部
・3,5-ジ-t-ブチルサリチル酸アルミニウム化合物:0.5質量部
・フィッシャートロプシュワックス(最大吸熱ピークのピーク温度:90℃):5.0質量部
・C.I.ピグメントブルー15:6.0質量部
上記原料をヘンシェルミキサー(商品名:FM75J型、三井三池化工機(株)製)を用いて、回転数20s-1および回転時間5分の条件で混合した後、温度125℃に設定した二軸混練機(商品名:PCM-30型、(株)池貝製)にて混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(商品名:T-250、ターボ工業(株)製)にて微粉砕した。さらに、回転型分級機(商品名:200TSP、ホソカワミクロン(株)製)を用い、分級を行い、トナー粒子1を得た。回転型分級機の運転条件は、分級ローター回転数を50.0s-1とした。
【0118】
得られたトナー粒子1の重量平均粒径(D4)は、6.2μmであった。
【0119】
得られたトナー粒子1の100.0質量部に、ヘキサメチルジシラザン20.0質量%で表面処理した一次平均粒子径15nmの疎水性シリカ微粒子1.0質量部、及び一次平均粒子径35nmのチタン酸ストロンチウム粒子を1.0質量部添加し、ヘンシェルミキサー(FM75J型、三井三池化工機(株)製)で回転数30s-1、回転時間5分で混合し、目開き54μmの超音波振動篩を通過させトナー1を得た。トナー1の物性を表3に示す。
【0120】
上記トナー1と磁性キャリアとを、トナーの濃度が9質量%になるように、V型混合機(商品名:V-10型、(株)徳寿製作所)を用い、0.5s-1および5分の条件で混合した。用いた磁性キャリアは、アクリル樹脂で表面被覆してなる磁性フェライトキャリア粒子(個数平均粒径:35μm)である。以上のようにして、二成分系現像剤1を得た。
【0121】
二成分系現像剤1を用い、後述する評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0122】
[実施例2~12、及び比較例1~2]
表2に記載の様に、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、ワックスを変更した以外は、実施例1と同様にして、トナー2~14を作製し、同様に二成分系現像剤2~14を作製した。さらに、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、トナー9~11に使用したワックスは吸熱ピーク温度が98℃のフィッシャートロプシュワックスであり、トナー12に使用したワックスは吸熱ピーク温度が78℃のパラフィンワックスである。
【0123】
【0124】
【0125】
[評価]
画像形成装置として、キヤノン(株)製のフルカラー複写機(商品名:imagePRESS C10000VP)の改造機を用い、シアンステーションの現像器に二成分系現像剤1を投入し、以下の方法で評価を行った。尚、試験環境は高温高湿環境下(30℃/80%RH)で行った。
【0126】
<評価1:定着分離性>
紙:CS-068(68g/m2)(キヤノンマーケティングジャパン株式会社より販売)
紙上のトナーの載り量:1.20mg/cm2(現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、及びレーザーパワーにより調整)
評価画像:上記A4用紙の長手方向に先端余白3mm空けて29cm×5cmの画像を配置
定着試験環境:温度30℃/湿度80%RH(以下「H/H」)
定着温度:120℃から170℃まで1℃刻みで通紙
プロセススピード:321mm/secに設定
上記評価画像を出力し、定着分離性を評価した。各定着温度で定着を行い、定着時に巻き付きが起こるかを目視で観測し、巻き付きが見られない上限の温度を定着分離可能温度とした。定着分離可能温度を下記の評価基準に従って評価した。
【0127】
(評価基準)
A:分離可能温度160℃以上
B:分離可能温度150℃以上160℃未満
C:分離可能温度140℃以上150℃未満
D:分離可能温度140℃未満
【0128】
<評価2:グロス均一性>
グロス均一性の評価は、評価1と同じプロセススピードにてA3サイズの紙(商品名:CF-C081、坪量:81.4g/m2、キヤノンマーケティングジャパン株式会社より販売)に、全面ベタ画像(画像濃度1.55)を3枚出力し、3枚目の画像を評価に用いた。光沢計を用いて60°の入射光に対する光沢度を測定した。出力画像のグロスを5点測定し、5点の最大値と最小値の差について以下の指標で判断した。光沢計は、ハンディ型光沢計(商品名:PG-I;日本電色工業(株)製)を用いた。
【0129】
(グロス均一性の評価基準)
A:2.0%未満
B:2.0%以上3.5%未満
C:3.5%以上5.0%未満
D:5.0%以上
【0130】