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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】香料組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241216BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20241216BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20241216BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241216BHJP
   C11D 9/02 20060101ALI20241216BHJP
   C11D 9/44 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q13/00 101
A61Q19/10
C11B9/00 Z
C11D9/02
C11D9/44
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020119956
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016945
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 薫
(72)【発明者】
【氏名】宮下 哲郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/029753(WO,A1)
【文献】特開2012-051845(JP,A)
【文献】特開2010-221626(JP,A)
【文献】特開2010-089089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
C11D 1/00 - 19/00
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数8~22の飽和脂肪酸塩の脂肪酸臭を低減する脂肪酸臭抑制用香料組成物であって、ゼラニウムと、ラベンダー、ラバンジンもしくはローズマリーとを含む組み合わせ、またはセダーリーフと、ラベンダーもしくはローズマリーとを含む組み合わせの天然香料を含有することを特徴とする脂肪酸臭抑制香料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料組成物に関する。更に詳しくは、高級脂肪酸塩を含む洗浄剤組成物が有する特有の臭気を感じさせることなく、さらには特定の天然香料組み合わせにより良好な香り立ちを呈することを可能とする脂肪酸臭抑制香料組成物、および脂肪酸臭抑制香料組成物を含有することを特徴とする皮膚洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品などの分野においては、製品を製造する際に好ましくない臭気を様々な香料を用いてマスキングすることは汎用の技術として、広く一般に適用されている(非特許文献1~2参照)。
【0003】
上記マスキングの技術は、シャンプーやボディソープなどの洗浄剤組成物の分野にも応用され、商品の原料臭低減や嗜好性向上において大きな役割を担っている。
特に、皮膚洗浄剤の主成分として用いられている高級脂肪酸塩は特有の脂肪酸臭を有することから、洗浄剤として用いる際には香料を用いて該臭気をマスキングすることが一般的である(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、近年の消費者のナチュラル志向の高まりを受け、天然香料のみからなる脂肪酸臭抑制香料組成物、および当該香料組成物を含有する皮膚洗浄剤組成物が求められるなか、脂肪酸臭を天然香料のみにてマスキングし、かつ良好な香り立ちを呈することを可能とする技術は研究途上であり、今後の技術開発が期待される分野であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-183797
【文献】特開平6-279791
【非特許文献】
【0006】
【文献】周知慣用技術集「香料」第I部香料一般、日本国特許庁、1999年1月29日発行、230-250頁
【文献】周知慣用技術集「香料」第III部香粧品用香料、日本国特許庁、2001年6月15日発行、532-535頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、高級脂肪酸塩に起因する脂肪酸臭をマスキングするとともに、良好な香り立ちに加え、洗浄中における良好な香りの持続性を有する天然香料のみからなる香料組成物、および当該香料組成物を含有することを特徴とする皮膚洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題点を鋭意研究した結果、(A)フウロソウ科またはヒノキ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上、および(B)シソ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上を組み合わせた場合に、高級脂肪酸塩臭に対し優れたマスキング効果を示すとともに、良好な香り立ちを呈することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、(A)フウロソウ科またはヒノキ科の植物から抽出される天然香料、および(B)シソ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上を含有する脂肪酸臭抑制香料組成物、ならびに脂肪酸と上記天然香料を含有する皮膚洗浄剤組成物に関する。更には該脂肪酸が好ましくは炭素数8~22の飽和の脂肪酸である皮膚洗浄剤組成物である。
【0010】
第一の発明は、(A)フウロソウ科またはヒノキ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上、および(B)シソ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上を含有することを特徴とする脂肪酸臭抑制香料組成物である。
【0011】
第二の発明は、(A)成分がゼラニウム、セダーリーフまたはサイプレスから抽出される天然香料である第一の発明に記載の脂肪酸臭抑制香料組成物である。
【0012】
第三の発明は、(B)成分がラベンダー、ラバンジン、ローズマリー、パチョリ、マジョラム、ペパーミント、およびセージからなる群から選択される1種または2種以上から抽出される天然香料である第一または第二の発明に記載の脂肪酸臭抑制香料組成物である。
【0013】
第四の発明は、第一乃至第三の発明のいずれかに記載の脂肪酸臭抑制香料組成物、および高級脂肪酸塩を含有する洗浄剤組成物である。
【0014】
第五の発明は、高級脂肪酸塩が炭素数8~22の飽和脂肪酸である第四の発明に記載の洗浄剤組成物である。
【0015】
第六の発明は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、洗浄剤組成物総量に対し0.01~1.0質量%である第四または第五の発明に記載の洗浄剤組成物である。
【0016】
第七の発明は、(B)成分に対する(A)成分の質量比(A)/(B)が0.5以上2以下である第四乃至第六の発明のいずれかに記載の洗浄剤組成物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高級脂肪酸を含む洗浄剤組成物が有する特有の脂肪酸臭を、天然香料のみでマスキングするとともに、良好な香り立ちを呈することを可能とする香料組成物を提供するとともに、当該香料組成物を含有することを特徴する洗浄剤組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物に含有される天然香料とは、例えば植物の葉、花、樹皮、根、小枝、果実、果皮、種実などの植物原料を圧搾、水蒸気蒸留などを行って得られる天然精油、またこれらの原料を有機溶媒で抽出して得られるエキストラクト類、更にこの抽出液から溶媒を除去して得られるオレオレジン、レジノイド類、果汁その他の搾汁液などを濃縮、水蒸気蒸留などを行う際に得られる回収香及び例えば、柑橘油等を含水アルコールで抽出して得られるエッセンス類等を指すものである。
【0020】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物に含有される成分(A)フウロソウ科の植物から抽出される天然香料は、フウロソウ科由来の天然精油の全草または花を圧搾、溶剤抽出又は水蒸気蒸留することにより得ることができる。市販されているものを使用することもでき、例えば、小川香料株式会社のゼラニウムオイル(Geranium Oil)を使用することができる。
【0021】
フウロソウ科の植物としては以下に限定されるものではないが、ゼラニウム、レモンゼラニウムが挙げられる。これらの中でも、皮膚洗浄剤のマスキングの観点からは、特にゼラニウムが好ましい。
【0022】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物に含有される成分(A)ヒノキ科の植物から抽出される天然香料としては、ヒノキ科由来の天然精油を挙げることができ、該天然精油はヒノキ科の植物の全草または花を圧搾、溶剤抽出又は水蒸気蒸留することにより得ることができる。また、市販されているものを使用することもでる。
【0023】
ヒノキ科の植物としては以下に限定されるものではないが、セダーリーフ、サイプレス、ヒバ、セダーウッドが挙げられる。これらの中でも、皮膚洗浄剤のマスキングの観点からは、特にセダーリーフ、サイプレスが好ましい。
【0024】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物に含有される成分(B)シソ科の植物から抽出される天然香料 1種または2種以上は、シソ科由来の天然精油は植物の全草または花を圧搾、溶剤抽出又は水蒸気蒸留することにより得ることができる。市販されているものを使用することもでき、例えば、小川香料株式会社のラベンダーオイル(Lavender Oil)を使用することができる。
【0025】
シソ科の植物としては以下に限定されるものではないが、ラベンダー、ラバンジン、ローズマリー、パチョリ、マジョラム、ペパーミント、セージ、シソ、メリッサ、タイムが挙げられる。これらの中でも、皮膚洗浄剤の良好な香り立ちの観点からは、特にラベンダー、ラバンジン、ローズマリー、パチョリ、マジョラム、ペパーミント、セージが好ましい。
【0026】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物において、成分(A)と成分(B)の合計配合量は、
洗浄剤組成物総量に対し、好ましくは0.001~5.0質量%であり、より好ましくは0.01~1.0%である。0.005%以上であれば、良好なマスキング効果を十分に得ることができ好ましい。配合量が0.001質量%以上ではマスキング効果を呈し、使用時における嗜好性が良好あり、5.0質量%以下では天然精油の香気が強すぎず、使用時における嗜好性が損なわれない。
【0027】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物において、成分(A)の配合量と成分(B)の配合量の質量比(A)/(B)は、香り立ちの良好さの観点から、好ましくは0.1以上4.0以下、より好ましくは0.5以上2以下である。(A)/(B)が0.1以上では洗浄中における香り立ちの持続があり使用時における嗜好性が良好であり、4.0以下では渋みを呈するシソ科の植物の特有の香り立ちが得られ使用時における嗜好性の低下が起こらない。
【0028】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物の使用により、高級脂肪酸塩が有する脂肪酸臭の低減が可能となるが、特に炭素数8~22の飽和脂肪酸に対する脂肪酸臭低減効果は顕著に認められる。炭素数8~22の飽和脂肪酸の例として、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの単一の脂肪酸や、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、パーム油脂肪酸などから誘導される脂肪酸、又はそれらの混合物が挙げられる。また高級脂肪酸塩を構成する塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、低級アルカノールアミン塩などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物を添加することにより脂肪酸臭の抑制が可能な高級脂肪酸塩を具体的に例示すれば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチ
ン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、イソステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン、ミリスチン酸トリエタノールアミン、パルミチン酸トリエタノールアミン、ステアリン酸トリエタノールアミン、イソステアリン酸トリエタノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸ナトリウム、牛脂脂肪酸ナトリウム、ヒマシ油脂肪酸ナトリウム、オリーブ油脂肪酸ナトリウム、パーム油脂肪酸ナトリウム、パーム核油脂肪酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸カリウム、牛脂脂肪酸カリウム、ヒマシ油脂肪酸カリウム、オリーブ油脂肪酸カリウム、パーム油脂肪酸カリウム、パーム核油脂肪酸カリウム、ヤシ油脂肪酸トリエタノールアミン、牛脂脂肪酸トリエタノールアミン、ヒマシ油脂肪酸トリエタノールアミン、オリーブ油脂肪酸トリエタノールアミン、パーム油脂肪酸トリエタノールアミン、パーム核油脂肪酸トリエタノールアミン等が挙げられる。本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物を含む洗浄剤組成物には、これら高級脂肪酸塩を1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0030】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物は、高級脂肪酸塩を含有する皮膚化粧料、毛髪化粧料、トイレタリー製品などへの添加が可能である。
皮膚化粧料としては洗顔料、ボディシャンプーなどの身体洗浄剤、メイク製品、フェイスケア製品、ボディケア製品などを挙げることができ、毛髪化粧料としては、シャンプーなどの毛髪洗浄剤、リンス、コンディショナー、スタイリング剤などを挙げることができる。
【0031】
本発明の脂肪酸臭抑制香料組成物を含有する皮膚化粧料、毛髪化粧料、トイレタリー製品は、所望の剤型に応じて公知の製造技術、処方に基づき製造することができ、脂肪酸臭抑制香料組成物の効果を損なわない範囲で、必要に応じて界面活性剤、油脂類、炭化水素類、ロウ類、高分子化合物、粘度調整剤、防腐剤、キレート剤、安定化剤、顔料、香料などの成分を配合することができる。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例を例示することにより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。まず、実施例に用いた評価方法、及び評価基準を示す。
【0033】
香気の評価方法について以下に記載する。
【0034】
<瓶口及び洗浄中の香りの評価方法>
洗浄剤組成物の香りを瓶口及び洗浄中について、以下の評価基準に基づき専門パネラー10人により評価した。
【0035】
<評価基準>
1点:非常に強く脂肪酸臭が感じられる。
2点:強く脂肪酸臭が感じられる。
3点:脂肪酸臭が感じられる。
4点:脂肪酸臭が微かに感じられる。
5点:全く脂肪酸臭が感じられない。
【0036】
瓶口での香り:
洗浄剤組成物20g を、規格瓶(ED-40) に入れ、瓶口の香りを評価した。
【0037】
洗浄中の香り:
洗浄剤組成物3g を片方の手に取り、頬部を洗浄し、洗浄中の香りを評価した。
【0038】
<香り立ちの評価方法>
洗浄剤組成物の香り立ちについて、以下の評価基準に基づき専門パネラー10人により評価した。
【0039】
<評価基準>
1点:香らない。
2点:やや香る。
3点:香る。
4点:良く香る。
5点:非常に良く香る。
【0040】
香り立ち:
洗浄剤組成物3g を片方の手に取り、水道水を用いて希釈して泡立てた際の香り立ちならびに洗浄中の香り立ちを評価した。
【0041】
(香料組成物の調製)
表1に記載する香料組成物1~25を常法により調整し、得られた香料組成物を高級脂肪酸塩を含む洗浄剤組成物に添加し、表2に記載する実施例1~14および比較例1~7の洗浄剤組成物を得た。得られた洗浄剤組成物について脂肪酸臭および香り立ち評価を行い、その結果を表2及び3に併せて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
表2及び表3より明らかなように、実施例1~20の洗浄剤組成物は比較例1~15の組成物に比べていずれも優れた性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の洗浄剤組成物は、化粧料、医薬部外品として使用することができる。