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  • 特許-ミラーおよび望遠鏡 図1
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  • 特許-ミラーおよび望遠鏡 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】ミラーおよび望遠鏡
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/183 20210101AFI20241216BHJP
   G02B 5/09 20060101ALI20241216BHJP
   G02B 7/192 20210101ALI20241216BHJP
   G02B 23/02 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G02B7/183
G02B5/09
G02B7/192
G02B23/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020131778
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028405
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 政生
(72)【発明者】
【氏名】池田 優二
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034757(JP,A)
【文献】特開平01-259604(JP,A)
【文献】特開昭61-200705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104428647(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101655287(CN,A)
【文献】特開2005-234344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/00
G02B 7/18-7/24
G02B 5/09
G02B 23/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射部材が配置された表面と、裏面と、前記表面と前記裏面とを接続する側面とを備え、前記裏面に凹部と前記凹部を囲んで前記側面を構成するリブ部を備える複数の本体部材と、
前記本体部材の前記裏面側に配置され、前記リブ部同士を固定する固定部材と、
を備えるミラーであって、
記リブ部は、隣接する他の前記本体部材と近接する第1部分を有し、前記第1部分の裏面同士が前記固定部材で固定されており、
接する前記第1部分同士の各対向面は、前記固定部材の固定面を有しておらず
前記第1部分同士は、ギャップを介して非接触で近接している、
ミラー。
【請求項2】
前記第1部分の裏面の算術平均粗さRaが0.04μm以下である、請求項1に記載のミラー。
【請求項3】
外径が円形または多角形状を有し、
前記本体部材と前記固定部材は、熱膨張係数が、±10×10-6/K以下の低熱膨張セラミックスからなり、前記ギャップの間隔は前記ミラーの外形寸法(円形の場合は直径、多角形状の場合は最大幅)の1/800以下である、請求項1または2に記載のミラー。
【請求項4】
前記ギャップの間隔は、前記ミラーの外形寸法の1/1000以下である、請求項に記載のミラー。
【請求項5】
前記ギャップの間隔は、前記ミラーの外形寸法の1/10000以上である、請求項に記載のミラー。
【請求項6】
前記本体部材と前記固定部材は、コージェライトセラミックスからなる、請求項3から5のいずれかに記載のミラー。
【請求項7】
前記固定部材は、前記ミラーの厚み方向における前記第1部分の厚みよりも薄い板状部材である、請求項1からのいずれかに記載のミラー。
【請求項8】
前記第1部分の裏面と前記固定部材とが締結部材で前記ミラーの厚み方向に締結固定されている、請求項1からのいずれかに記載のミラー。
【請求項9】
前記側面を形成する前記リブ部は、前記ミラーの外形を形成する第2部分、および前記ミラーの内形を形成する第3部分の少なくともいずれかを有する、請求項1からのいずれかに記載のミラー。
【請求項10】
前記表面と前記第1部分の前記側面は、算術平均粗さRaが0.2μmよりも小さい、請求項1から9のいずれかに記載のミラー。
【請求項11】
前記第1部分の前記側面の算術平均粗さRaは、前記表面の算術平均粗さRaよりも小さい、請求項10に記載のミラー。
【請求項12】
前記第2部分、前記第3部分の前記側面の算術平均粗さRaが0.2μm以上である、請求項に記載のミラー。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の前記ミラーを備えた望遠鏡。
【請求項14】
撮像素子を、さらに備え、
前記ギャップの間隔は、前記望遠鏡に付随の前記撮像素子の解像度以下である、請求項13に記載の望遠鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミラーおよび該ミラーを用いた望遠鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
地上、または宇宙空間で使用される天体望遠鏡等の光学機器は、観測対象の光を集光し、導くためのミラーを備えている。天体望遠鏡等に用いられるミラーは、より微弱な天体光を捉えるため、またより高解像度の天体画像を得るために大口径化が求められてきた。ミラーの大きさは例えば1m以上であるが、このような一体的な大型ミラーは高価であり、開発期間も長くなる。ミラーは一般に脆性材料で製作されるため、製作工程におけるハンドリングミスなどによって破損が発生しやすく、そのリカバリーに多くのリソースを要するという問題もある。こうした欠点を避けるため、複数個の小型ミラーを理想的な光学面に沿うように配置し、あたかも一枚ミラーを形成するセグメントミラーと呼ばれる方式がある。地上大望遠鏡であるケック望遠鏡や次世代宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブ望遠鏡などにその技術が使われている。
【0003】
ところがセグメントミラーにも課題がある。一般に用いられているセグメントミラーには個々のミラーのアライメントを可能にするために、隣り合う個々のミラー間には空隙が設けられている。ところが、そのような空隙は望遠鏡で得られる回折像(点像分布関数)を複雑するため解像度の劣化を招き、また空隙から発生する熱輻射によって赤外線像の感度を著しく低下させる。そこで、例えば、特許文献1には、低熱膨張セラミックスからなる複数の部材を接触固定させて、空隙をなくした分割ミラーが開示されている。この空隙をもたない分割ミラーによってセグメントミラーの欠点は解消されたものの、地上や宇宙空間で用いられる望遠鏡ミラーは、温度変化や振動などを受けるため、個々のミラーの熱応力や振動変位による各ミラーの接触、干渉による面形状変形や位置ずれ(アライメントエラー)が生じることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-34757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、温度変化や振動による変形や位置ずれの少ない分割ミラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のミラーは、反射部材が配置された表面と、裏面と、前記表面と前記裏面とを接続する側面とを備え、前記裏面に凹部と前記凹部を囲んで前記側面を構成するリブ部を備える複数の本体部材と、前記本体部材の前記裏面側に配置され、前記リブ部同士を固定する固定部材とを備えるミラーであって、隣接する前記本体部材の前記側面同士は、ギャップを介して近接している。
【発明の効果】
【0007】
本開示のミラーは、温度変化や振動による変形が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態のミラーの表面の概略図である。
図2】一実施形態のミラーの裏面の概略図である。
図3】他の実施形態のミラーの概略図である。
図4】他の実施形態のミラーの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ミラーおよび望遠鏡>
本開示のミラーの実施形態について、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0010】
本実施形態のミラー10は、図1および図2に示すように、表面1aと、その裏面1bと、表面1aと裏面1bとを接続する側面1cとを有する複数の本体部材1を備える。表面1aに反射部材(不図示)が配置され、複数の本体部材1で一体のミラー10を構成する。
【0011】
裏面1bには凹部2と、凹部2を取り囲むリブ部3とを有し、リブ部3が側面1cを構成する。このような凹部2とリブ部3とを有することで、ミラー10は必要な機械的強度を有しながら、軽量化することができ、人工衛星等に搭載する宇宙望遠鏡用ミラーなどに適したものとなる。
【0012】
ミラー10の隣接する本体部材1の側面1c同士は、接触しておらず、ギャップ14を介して近接している。本体部材1の裏面1b側に板状の固定部材(板状部材)11が配置され、リブ部3同士を連結固定する。
【0013】
ミラー10は、温度変化や振動など、比較的過酷な環境下で使用されることがある。例えば、宇宙で使用される望遠鏡用のミラー10は、打ち上げの際、温度変化や振動を受ける。本体部材1同士が接触固定されていると、温度変化による膨張や振動によって本体部材1同士に過剰な応力が加わり、位置ずれ、変形を起こしやすい。しかし、宇宙空間に打ち上げた後の再調整は非常に困難である。そこで、本体部材1同士を非接触とし、ギャップ14を設けることで、温度変化や振動を受ける環境においても、本体部材1同士の接触を避けることができ、接触による変形や位置ずれを低減することができる。
【0014】
本開示の望遠鏡(不図示)は、ミラー10を備える。
【0015】
ミラー10の直径は、例えば300mm以上であり、1m以上であってもよい。ミラー10が複数の本体部材1で構成されていることで、ミラー10の大型化が可能である。また、本体部材1に破損が生じた際、その破損が生じた本体部材1のみを取り外して交換することができる。
【0016】
本実施形態では、ミラー10の外形状が円形である例を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、多角形状であってもよい。ミラー10は平面鏡であっても曲率を有する曲面鏡、さらには自由曲面であってもよい。
【0017】
ギャップ14の間隔は、ミラー10の外形寸法(円形であれば直径、多角形等であれば最大幅)の1/800以下であることが好ましい。ミラー10で反射した光はレンズなどの光学系を経由して撮像素子などの受光素子に到達する。撮像素子の画素数が800×800個であれば、撮像される画像の解像度は画像寸法の1/800である。一般に、望遠鏡に付随の受光素子の解像度は1/800以下なので、ギャップ14の間隔がミラー10の外形寸法の1/800以下であれば、ギャップ14のない一体のミラーとして認識される。さらに高解像度の受光素子と組み合わせて使用するときは、ギャップ14の間隔をさらに小さくするとよい。例えば、解像度が1/1000(画素数が1M)の受光素子であれば、ギャップの14の間隔をミラー10の外形寸法の1/1000、解像度が1/20
00(画素数が4M)の受光素子であれば、ギャップの14の間隔をミラー10の外形寸法の1/2000とすればよい。ギャップ14の間隔は、反射面の面内で均一であると製造が容易である。ギャップ14の間隔は画像の解像度(ミラー10の径/素子の解像度)より小さければ、観測対象の光の波長より大きくてもよい。
【0018】
なお、後述のように、ギャップ14の間隔は、ミラー10の直径の1/10000以上、さらに好ましくは1/5000以上が好ましい。
【0019】
側面1cを形成するリブ部3は、隣接する他の本体部材1と近接する第1部分(径部分)3aと、ミラー10の外形を形成する第2部分(外形部分)3bとを有している。さらに、図1のように、入・出射する光の光路を形成する第3部分(内形部分)3cを有していてもよい。
【0020】
図1図2では、リブ部3が、同心円弧状の第2部分3bと第3部分3cと、それぞれの円弧の半径の差に相当する長さを持つ直線状の2つの第1部分3aで構成された例を示しているが、これに限定されるものではなく、第2部分3bと第3部分3cとは直線状(例えば、円の弦状)であってもよい。複数の多角形状の本体部材1をハニカム状に配置してミラー10を構成してもよい。第1部分3aがミラー10の径方向の直線状であれば、同形状、例えば、等分割した扇形の第1部分3aの集合体で円形を構成することができるので、外形が円形のミラー10の作製が容易である。また、組み立て、温度変化等で生じる応力を等方的に分散することができる。
【0021】
図1図2では、本体部材1が6個である例を示しているが、これに限定されるものではなく、本体部材1の個数は2個以上であればよい。図3では、さらに大型のミラー10を想定した、内周側に6個、外周側に6個の12個の本体部材1からなるミラー10の例を示す。この場合、内周側の本体部材1Aと外周側の本体部材1Bとの間にもギャップ14が設けられる。すなわち、内周側の本体部材1Aのリブ部3は第1部分3aと第3部分3cとからなり、外周側の本体部材1Bのリブ部3は第1部分3aと第2部分3bとからなる。後述するように、ギャップ14は各本体部材1の間に金属板等を配置して組み立てることで形成できる。図3に示すミラー10は、内周側の本体部材1A間のギャップ14と外周側の本体部材1B間のギャップ14とが同一直線状に配置されているので組み立てが容易であり、容易にギャップ14の空間精度を達成することができる。また、内周側の本体部材1Aと外周側の本体部材1Bとを組み立てた状態で、第1部分3aを研磨することもでき、ギャップ14の精度を向上しやすい。内周側の本体部材1Aと外周側の本体部材1Bとの間のギャップ14も、直線状であれば組み立てが容易で精度が向上しやすい。
【0022】
本体部材1のようなブロック状の部材の各面を研磨すると、各面の接続部にだれ(ロールオフ)が生じる。だれは特に角で大きくなる。複数のギャップ14の交点に隣接する本体部材1の数が多いと、交点にだれの大きい角が集まるため、ギャップ14の幅は設計値よりも大きくなりやすい。そのため、ギャップ14の交点に隣接する本体部材1の数は少ない方が好ましく、特に3以下であるとよい。図4に、内周側の本体部材1Aと外周側の本体部材1Bとを有するミラー10において、交点に隣接する本体部材1の数を3以下とした例を示す。
【0023】
本体部材1は、第1リブ部3aの裏面側に非貫通穴8を有する。非貫通穴8は、裏面1bに開口して表面1aに向かう方向に形成され、内部にねじ溝が形成される。板状部材11は、本体部材1の非貫通穴8に対応する貫通穴12を有しており、非貫通穴8と貫通穴12とが連通するように、本体部材1に接している。そして、貫通穴12および非貫通穴8に挿入された締結部材13により、隣り合う本体部材1同士を締結固定する。締結部材13とは、例えば、ボルト等のことである。本体部材1(第1部分3a)の裏面1bと固
定部材11とを、ミラー10の厚み方向(表面1aから裏面1bに向かう方向)に締結固定することで、熱膨張や振動による本体部材1同士の機械的干渉が生じにくくなる。締結部材13の材質は、本体部材1と熱膨張係数の差が小さいことが好ましく、例えばミラー部材に低膨張ガラス、低膨張ガラスセラミックス、低膨張セラミックスを用いている場合はFe-Ni合金などの熱膨張係数の比較的小さい金属が好適である。締結部材13の個数は、板状部材11と本体部材1とが安定して固定される個数であれば何個でも構わない。
【0024】
本体部材1および板状部材11がセラミックスからなっていると、機械的強度が高く、かつ、耐熱性が高いミラー10となる。セラミックスは、例えば、コージェライト質セラミックス、酸化アルミニウム質セラミックス、酸化ジルコニウム質セラミックス、窒化珪素質セラミックス、窒化アルミニウム質セラミックス、炭化珪素質セラミックスまたはムライト質セラミックス等である。
【0025】
特に、本体部材1および板状部材11が、使用環境の温度範囲で熱膨張係数が±10×10-6/K以下、好ましくは±1×10-6/K以下の低熱膨張セラミックスであれば、温度変化による変形が少なく、本体部材1同士が接触しにくいので、温度変化が大きい環境下での信頼性が高くなる。低熱膨張セラミックスは、コージェライト質セラミックスが好適である。コージェライト質セラミックスは、低比重で熱膨張係数が小さいので、ミラー10の軽量化が図れる。コージェライト質セラミックスの熱膨張係数は、例えば0.02×10-6/K(@22℃)である。
【0026】
コージェライト質セラミックスとは、セラミックスを構成する全成分100質量%のうち、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)を80質量%以上含有するものである。本体部材1の材質は、以下の方法により確認することができる。CuのKα線を用いたX線回折装置(XRD)により、2θ=8~100°(2θは、回折角度である。)の範囲でX線回折測定を行ない、リートベルト解析プログラムRIETANを用いて求めたコージェライトの含有量が80質量%以上であればコージェライト質セラミックスである。
【0027】
ギャップ14の間隔は、ミラー10の直径の1/10000以上、さらに好ましくは1/5000以上であれば、温度変化や振動を受けても本体部材1同士の接触が低減でき、ミラー10の変形を低減することができる。
【0028】
ミラー10において、本体部材1の表面1aの算術平均粗さRa、および二乗平均平方根粗さRqは、反射率と解像度を維持するためには観測対象の光の波長に対して十分小さくする必要がある。観測対象の光が可視光や赤外光である場合、表面1aの算術平均粗さRaは0.2μmより小さいとよい。また、これにより、表面1aからのパーティクルの発生が低減される。例えば、表面1aの算術平均粗さRaは20nm以下、二乗平均平方根粗さRqは10nm以下である。
【0029】
リブ部3で構成される側面1cのうち、第1部分3aの側面は、表面1aの反射面として使用される有効領域に接続するともに、ギャップ14を介して他の本体部材1と対向する面である。第1部分3aの側面の算術平均粗さRaは0.2μmより小さいとよい。これにより、表面1aの有効領域へのパーティクルの混入が低減される。さらに、第1部分3aの側面の算術平均粗さRaが表面1aの算術平均粗さRaよりも小さいことが好ましい。例えば、第1部分3aの側面の算術平均粗さRaを10nm以下とする。これにより、ギャップ14を高精度に形成することができる。
【0030】
リブ部3で構成される側面1cのうち、第2部分3bと第3部分3cの側面は、表面1
aの外周部と内周部に接続する面である。表面1aの外周部と内周部は、鏡として使用されない領域とすることが可能なので、第2部分3bと第3部分3cの側面は非鏡面(算術平均粗さRaが0.2μm以上の面)でも構わない。第2部分3bと第3部分3cの側面を算術平均粗さRaが0.2μm以上、例えば0.8μmとすることで、加工が容易となり製造コストを低減できる。
【0031】
リブ部3の裏面1bのうち、第1部分3aの裏面は、板状部材11と接触固定される面である。第1部分3aの裏面の算術平均粗さRaが0.04μm以下であると、本体部材1の裏面1bと板状固定部材11との接触が良好となり、各本体部材1の表面1aの集合により構成される反射面の面精度が向上する。
【0032】
算術平均粗さRaは、JIS B 0601(1982)に準拠して測定することにより求めることができる。例えば、株式会社小坂研究所製の表面粗さ・輪郭形状測定機、SEF680を用い、測定条件としては、例えば、測定長さを2.5mm以上、カットオフ値を0.8mmとし、触針の走査速度を0.5mm/秒に設定すればよい。そして、測定対象面において、少なくとも5ヵ所以上測定し、その平均値を求めればよい。
【0033】
ミラー10において、複数の本体部材1の少なくとも1つは、図2に示すように、凹部2における厚み(表面1aから裏面1bに向かう方向の距離)が、反射面4の中央から離れる方向に段階的に薄くなっていてもよい。このような構成を満足するならば、反射面4の中央に近づく方向に段階的に薄くなる場合に比べて、ミラー10としての機械的強度が高く、かつ、ミラー10を軽量化することができる。ミラー10を構成する全ての本体部材1が上記構成であれば、ミラー10を大型化しても、ミラー10の重量増加をより抑制することができることは言うまでもない。
【0034】
ミラー10は、紫外光、可視光、赤外光を利用した光学機器だけでなく、電波(周波数が3THz以下の電磁波)を利用した電波望遠鏡などにも用いることができる。ミラー10は、宇宙、屋外など、温度変化または振動を受ける環境下で使用される環境で好適に使用される。
【0035】
<ミラーの製造方法>
以下、本開示のミラー10の製造方法について、本体部材1および板状部材11がコージェライト質セラミックスからなる場合を例に説明する。
【0036】
まず、炭酸マグネシウム粉末、酸化アルミニウム粉末および酸化珪素粉末を所定の割合となるように調合した混合粉末を仮焼合成して得られる合成コージェライト粉末を準備する。次に、この合成コージェライト粉末と焼結助剤粉末とを所定の割合で秤量し、1次原料とする。次に、この1次原料粉末を湿式混合した後、所定量のバインダを添加し、スラリーを得る。
【0037】
次に、このスラリーを噴霧造粒装置(スプレードライヤー)を用いて噴霧し、造粒することにより顆粒を得る。そして、得られた顆粒を用いて静水圧プレス成形(ラバープレス)または粉末プレス成形にて成形し、任意の形状となるように切削加工を施した成形体を得る。次に、この成形体を、焼成炉にて大気雰囲気中1300℃以上1450℃以下の最高温度で焼成することにより焼結体を得る。その後、必要に応じて、研削加工や研磨加工を焼結体に施すことで、表面1a、裏面1bおよび側面1cを有する、任意形状の本体部材1を得る。研削加工や研磨加工により、本体部材1の表面1a、裏面1bおよび側面1cは、所望の算術平均粗さRaとなるように加工し、本体部材1に非貫通穴8を形成する。また、貫通穴12を有する板状部材11は、上述した本体部材1と同様の製造方法で作製すればよい。
【0038】
次に、得られた本体部材1および板状部材11を、締結部材13を用いてそれぞれ締結固定する。この時、隣接する本体部材1間にギャップ14の間隔に相当する厚みの金属板を挿入して締結した後、金属板を抜き取ることでミラー10を得る。次に、本体部材1の表面1aをアルミニウム、銀、金もしくは誘電体多層膜などからなる反射部材で被覆する。反射部材は本体部材1の締結前に形成してもよいが、締結後に形成すれば、ギャップ制御用の金属板の挿入、抜き取り時に、反射部材に接触して反射部材が剥がれることがない。
【0039】
なお、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【実施例
【0040】
上記の方法で、熱膨張係数が0.02×10-6/K(@22℃)であるコージェライト質セラミックスで、図1図2に示すような6個の本体部材1を用いた、直径300mm、ギャップ14の間隔が0.15mmのミラー10を作製し、温度サイクル試験と振動試験とを続けて行って、試験前後のミラー10の反射面の形状を、レーザー干渉計を用いてミラー10からの反射光を受光部に集光して測定したところ、ギャップ14のない、一体のミラー10として認識された。測定波長は633nm、解像度は0.36mmである。温度サイクル試験は、70°から-40℃まで10サイクルの試験を実施し、振動試験は、ランダム波振動試験機を用い、振動数10~2000Hz、加速度10G(実効値)で実施した。これらは、人工衛星打ち上げの際の環境を想定した試験である。ギャップ14がない(本体部材1同士が接触している)比較例では、反射面の反り(最小二乗平面から最高点と最低点までの距離の和)は、試験前後で0.22μmから7.12μmに変化したのに対し、実施例では、反射面の反りは、試験前後で0.15μmから1.27μmへの変化に留まった。
【符号の説明】
【0041】
1 :本体部材
1a:表面
1b:裏面
1c:側面
2 :凹部
3 :リブ部
3a:第1部分
3b:第2部分
3c:第3部分
8 :非貫通穴
10:ミラー
11:固定部材(板状部材)
12:貫通穴
13:締結部材
14:ギャップ
図1
図2
図3
図4