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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】繊維製品の賦香方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/00 20060101AFI20241216BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241216BHJP
   D06M 13/228 20060101ALI20241216BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20241216BHJP
【FI】
D06M13/00
C11B9/00 V
C11B9/00 K
C11B9/00 S
C11B9/00 C
C11B9/00 D
C11B9/00 T
C11B9/00 N
D06M13/228
D06M101:06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020139637
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035371
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】澤田 純矢
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 幸子
(72)【発明者】
【氏名】土岐 直俊
(72)【発明者】
【氏名】徳永 珠美
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163714(JP,A)
【文献】特開2010-285737(JP,A)
【文献】特開2013-231242(JP,A)
【文献】特開2018-003187(JP,A)
【文献】特開2008-223156(JP,A)
【文献】特開2006-124884(JP,A)
【文献】特開2011-137252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
C11B1/00-15/00、C11C1/00-5/02
D06M 101/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)及び工程(II)を含む、木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法。
工程(I):下記(A)成分を含有する水性組成物を、木綿繊維を含む繊維製品に接触させる工程。
工程(II):工程(I)で処理した繊維製品を、60℃以上100℃未満の気体で熱処理する乾燥工程。
(A)成分:下記香料化合物(A1)から選ばれる香料化合物を、少なくとも8種類含み、香料化合物(A1)中、下記香料化合物(a1)を単独又は2種以上含む香料組成物であって、香料化合物(A1)の含有量が香料組成物中、10質量%以上65質量%以下である香料組成物。
(A1)γ-ウンデカラクトン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、ダマセノン、δ-ダマスコン、α-メチル-β-(p-t-ブチルフェニル)-プロピオンアルデヒド、β-イオノン、ミルラアルデヒド、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、シトロネロール、ゲラニオール、α-イオノン、パチョリアルコール、6,7-ジヒドロ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-4(5H)-インダノン、メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、プロピオン酸アリルシクロヘキシル、酪酸ジメチルベンジルカルビニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、サリチル酸アミル、γ-メチルイオノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、ネロリンヤラヤラ、フェニルヘキサノール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、ドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト〔2,1-b〕フラン、γ-ノナラクトン、メチルβ-ナフチルケトン、オイゲノール、リラール、酢酸ジメチルベンジルカルビニル、イソ-ダマスコン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、γ-デカラクトン、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド、7-メチル-3,5-ジヒドロ-2H-ベンゾジオキセピノン、トリシクロデシニルアセテート、トリシクロデシニルプロピオネート、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル
(a1)γ-ウンデカラクトン、ダマセノン、δ-ダマスコン、β-イオノン、ミルラアルデヒド、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、シトロネロール、ゲラニオール、α-イオノン、パチョリアルコール、6,7-ジヒドロ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-4(5H)-インダノン、メチルジヒドロジャスモネート、プロピオン酸アリルシクロヘキシル、プロピオン酸トリシクロデセニル、γ-メチルイオノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、ドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト〔2,1-b〕フラン、γ-ノナラクトン、リラール、イソ-ダマスコン、γ-デカラクトン、トリシクロデシニルアセテート、トリシクロデシニルプロピオネート、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル
【請求項2】
(A)成分が、更にlogKowが3.00以上5.00以下、且つ25℃における蒸気圧が3.69Paを超え1000Pa以下の香料化合物(A2)を含む、請求項1に記載の木綿を含む繊維製品の賦香方法。
【請求項3】
(A)成分の香料組成物中、香料化合物(A1)と香料化合物(A2)の合計の割合が、20質量%以上85質量%以下である、請求項に記載の木綿を含む繊維製品の賦香方法。
【請求項4】
工程(II)が衣類乾燥機を使用した乾燥工程である、請求項1~の何れか1項に記載の木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法。
【請求項5】
工程(I)が、水性組成物に繊維製品を浸漬させる工程である、請求項1~の何れか1項に記載の木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法。
【請求項6】
工程(I)が、水性組成物を、繊維製品に塗布又は噴霧する工程である、請求項1~の何れか1項に記載の木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、洗濯時や衣類乾燥時、及び衣類を着用する時の香りに対する消費者の関心は高まっており、香りに関連する内容を訴求した液体柔軟剤や香り付け剤の市場は著しく伸長している。香りを感じる場面の中でも衣類の着用時の香りは特に関心が高く、衣類を着用している際に一日中香りを実感させることを可能にする機能性材料、及びそれらを含有する繊維製品処理剤の開発が活発に行われている。
【0003】
一方で、女性の社会進出等を背景とし家事に対する負荷は増加傾向にある。そのため、家事にかかる負荷を軽減させる方法が近年注目を集めており、洗濯においては、乾燥機に対する関心が高まりつつある。しかし、乾燥機の使用による衣類の香り立ちは、熱により香料が揮散しやすいため香りの持続性が低下することが知られている。
【0004】
香りの持続性を向上させる従来技術として、香料のマイクロカプセル化や香料を前駆体化して配合する試みがなされている。香料のマイクロカプセルは、芯物質の香料を壁材で包んだ粒子状物質であり、その役割は芯物質の香料を保護し、カプセルに物理的な力が加わった際にカプセルの壁が破れて芯物質の香料を放出するものである。
このようなマイクロカプセルとして特許文献1には、芯物質として引火点が50~130℃の範囲内の香料組成物を含有するカプセル化香料が記載されている。また特許文献1には、高揮発性香料等の揮発成分と、それよりも高融点で相溶性がある添加剤を含有するマイクロカプセルが記載されている。また、特許文献2には、香料化合物のケイ酸エステル化合物及び特定香料を含有し、布地上の香料の寿命を改善する繊維製品処理剤組成物が開示されている。また特許文献3にはケイ酸エステル化合物と特定の高残香性香料を含有する柔軟剤用香料組成物が開示されている。
【0005】
他にも特許文献4には乾燥機使用時の香りの持続性を向上させるために低水分レベルの香料送達組成物を使用する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-249326号公報
【文献】特開2009-256818号公報
【文献】特開2011-063674号公報
【文献】特表2012-514687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、香りの嗜好性は多岐に渡っており、持続的に繊維製品から芳香させるための技術はいくらか提案されているが、繊維製品処理剤に添加した香料の繊維製品への吸着は難しく、繊維製品表面に留まるため、匂いは直ぐに空気中に拡散してしまう。基剤によっては乾燥中になくなってしまう。
また香料のマイクロカプセル化や香料の前駆体化は香りの実効感発現に優れるが使用できる香料種には制限があるため、より多くの嗜好性を満たすためには限界があることが課題である。そのため、香料のマイクロカプセル化や香料の前駆体化に依存しないフリーな香料を用い良好な香り立ちを実現することが望ましい。
またケイ酸エステル化合物を用いた芳香技術は、アルコール系香料に制限されるため、他の香料成分では成立しない。また香りが制限され、広がりが感じにくい。
更に繊維製品処理剤を長期保存することで、繊維製品処理剤に添加した香料の水中での分散性が低下するため、賦香性が著しく低下する。
また香料を吸着させた繊維製品に乾燥機を使用して乾燥させる場合、熱によりカプセルや香料前駆体が崩壊もしくは分解しやすく、香料も揮散しやすいため香りの持続性は低下する。また、香りの嗜好性は多岐に渡っており、香料のマイクロカプセル化や香料の前駆体化は発香できる香料種には制限があるため、より多くの嗜好性を満たすためには限界があることが課題である。
【0008】
本発明は、従来技術とは異なった切り口の技術であって、処理された繊維製品の着用時に、特には処理された繊維製品が発汗等で、水で湿潤した際に良好な香り立ちを示す、木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、特定の群から選ばれた香料化合物を特定量含む香料組成物を含有する水性組成物を、木綿繊維を含む繊維製品に接触させた後、特定の気体温度でしかも加熱して乾燥することで、繊維製品に香料組成物を留めることが出来ることを見出し、そして当該繊維が吸湿すると、著しく香り強度が向上することを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、下記工程(I)及び工程(II)を含む、木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法に関する。
工程(I):下記(A)成分を含有する水性組成物を、木綿繊維を含む繊維製品に接触させる工程。
工程(II):工程(I)で処理した繊維製品を、60℃以上100℃未満の気体で熱処理する乾燥工程。
(A)成分:下記香料化合物(A1)から選ばれる香料化合物を、少なくとも5種類含む香料組成物であって、香料化合物(A1)の含有量が香料組成物中、5質量%以上65%質量以下である香料組成物。
(A1)γ-ウンデカラクトン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、ダマセノン、δ-ダマスコン、α-メチル-β-(p-t-ブチルフェニル)-プロピオンアルデヒド、β-イオノン、ミルラアルデヒド、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、シトロネロール、ゲラニオール、α-イオノン、パチョリアルコール、6,7-ジヒドロ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-4(5H)-インダノン、メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、プロピオン酸アリルシクロヘキシル、酪酸ジメチルベンジルカルビニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、サリチル酸アミル、γ-メチルイオノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、ネロリンヤラヤラ、フェニルヘキサノール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、ドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト〔2,1-b〕フラン、γ-ノナラクトン、メチルβ-ナフチルケトン、オイゲノール、リラール、酢酸ジメチルベンジルカルビニル、イソ-ダマスコン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、γ-デカラクトン、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド、7-メチル-3,5-ジヒドロ-2H-ベンゾジオキセピノン、トリシクロデシニルアセテート、トリシクロデシニルプロピオネート、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理された繊維製品の着用時に、特には処理された繊維製品が発汗等で、水で湿潤した際に良好な香り立ちを示し、複数の香料を同等に使用できることから、バリエーションに富む香りの広がりが感じられる、木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の賦香方法によって得られた木綿繊維を含む繊維製品は、水分により湿潤状態となると乾燥時と比較して著しく香り強度が向上する。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。本発明者は、(A)成分の香料組成物を構成する特定の香料化合物が、繊維製品の木綿繊維の内部に浸透し易いことを見出し、そして意外にも加熱することで更に木綿繊維を構成するフィブリルの束の間に入って行き易いことを見出した。その結果、香料の揮散が抑制され、吸湿によって水に置換されることで芳香するものと推察される。
【0013】
[木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法]
本発明の木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法は、工程(I)及び工程(II)を含む。
工程(I)で処理した繊維製品に工程(II)を適用することで、繊維製品の吸湿時ないし湿潤時に強く芳香する性質を付与することが出来る。
以下、本発明の木綿繊維を含む繊維製品の賦香方法を、本発明の方法という。本発明の方法という場合、特記しない限りこの方法を指すものとする。
【0014】
<工程(I)>
本発明の工程(I)は、(A)成分を含有する水性組成物を、木綿繊維を含む繊維製品に接触させる工程である。
【0015】
木綿繊維を含む繊維製品に水性組成物を接触させる方法は一般的に知られている方法で行うことができる。具体的には以下の2つの方法を上げることができる。1つ目は水性組成物に繊維製品を浸漬させる方法であり(以下、方法(i)という場合もある)、浸漬させる場合は洗面器やタライ等の容器に入れて浸漬させてもよく、洗濯槽内で行ってもよい。2つ目は水性組成物を当該繊維製品に塗布又は噴霧(“スプレー”という場合もある)する方法である(以下、方法(ii)という場合もある)。いずれの方法においても処理対象の繊維製品は処理前から湿潤していてもよく、乾燥した状態のものを接触させてもよい。湿潤している場合は、余分な水を除外するために脱水操作をしたものに適用してもよく、既に繊維製品が水媒体に浸漬されている場合は、本発明の水性組成物の水分量を低減させた濃縮水性組成物を、前記水媒体に1ml以上50ml以下の割合で、後述する繊維製品との接触時に好ましい香料組成物濃度になるように設計して添加してもよい。濃縮水性組成物は、水をほとんど含まないものであってもよく、有機溶媒に香料組成物が分散した状態のものであってもよい。濃縮水性組成物は、従来の繊維製品用処理剤組成物としての使用方法であり、繊維製品処理剤組成物であってもよく、詳しくは後述する。
【0016】
繊維製品と本発明の水性組成物を接触させる場合の方法として前記した1つ目の方法と2つ目の方法があるが、その時の水性組成物中の(A)成分の濃度は、0.5ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。また繊維製品に接触させる水性組成物の量は、繊維製品1kgあたりに対する(A)成分の量が15mg以上750mg以下に相当する量に調節することが好ましい。繊維製品1kgあたりの(A)成分の量は、香りを実感するために下限値以上であることが好ましく、処理後の臭いが強すぎないために上限値以下であることが好ましい。
【0017】
方法(i)の場合は、濃縮水性組成物を、水を溜めた容器に添加することで、本発明の水性組成物を調製する。1つ目の方法の場合の水性組成物中の(A)成分の濃度は、好ましくは1ppm以上、より好ましくは3ppm以上、そして、好ましくは80ppm以下、より好ましくは20ppm以下である。
方法(ii)の場合は、本発明の水性組成物そのものを、繊維製品に塗布又は噴霧すればよい。2つ目の方法の場合の水性組成物中の(A)成分の濃度は、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上、そして、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下である。
【0018】
方法(i)の場合、接触させる繊維製品と本発明の水性組成物の割合は、洗濯機等を用いた場合、繊維製品1kgあたり、好ましくは5L以上、より好ましくは10L以上、更に好ましくは12L以上、そして、好ましくは30L以下、より好ましくは25L以下、更に好ましくは20L以下である。
方法(ii)の場合、接触させる繊維製品と本発明の水性組成物の割合は、繊維製品1kgあたり、好ましくは100ml以上、より好ましくは200ml以上、そして、好ましくは1000ml以下、より好ましくは750ml以下である。なお上記割合は、1mlを1gに換算した質量としてもよい。
【0019】
工程(I)において、本発明の水性組成物の温度が、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、そして、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは30℃以下で繊維製品と接触させることが好ましい。
【0020】
繊維製品と本発明の水性組成物の接触時間は、方法(i)の場合、香料の衣類への均一な吸着性の観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、そして、浸漬中の香料の揮散を抑制する観点から、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下である。
方法(i)の場合、工程(I)の後、脱水処理を行ってから、工程(II)に移行することが好ましい。
方法(ii)の場合、水性組成物を多量に接触させない限り脱水を行う必要はなく、工程(I)の直後に工程(II)に移行してよい。
【0021】
<水性組成物>
本発明の水性組成物は、(A)成分を含有する。
本発明における(A)成分は、下記香料化合物(A1)から選ばれる香料化合物を少なくとも5種類含む香料組成物である。
(A1)γ-ウンデカラクトン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、ダマセノン、δ-ダマスコン、α-メチル-β-(p-t-ブチルフェニル)-プロピオンアルデヒド、β-イオノン、ミルラアルデヒド、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、シトロネロール、ゲラニオール、α-イオノン、パチョリアルコール、6,7-ジヒドロ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-4(5H)-インダノン、メチルジヒドロジャスモネート、ヘキシルシンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、プロピオン酸アリルシクロヘキシル、酪酸ジメチルベンジルカルビニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、サリチル酸アミル、γ-メチルイオノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、ネロリンヤラヤラ、フェニルヘキサノール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、ドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト〔2,1-b〕フラン、γ-ノナラクトン、メチルβ-ナフチルケトン、オイゲノール、リラール、酢酸ジメチルベンジルカルビニル、イソ-ダマスコン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトニトリル、γ-デカラクトン、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド、7-メチル-3,5-ジヒドロ-2H-ベンゾジオキセピノン、トリシクロデシニルアセテート、トリシクロデシニルプロピオネート、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル
【0022】
本発明者らは、本発明の水性組成物が繊維製品と接触した際に、繊維への吸収に優れる香料を探索した結果、logKowが2.00以上5.00以下という水親和性を有し、且つ25℃の蒸気圧が0.01以上3.69以下である揮発が比較的低いという点で共通性を有する香料化合物が繊維内部に浸透し易いことを見出し、そのうち特に前記した香料化合物(A1)が有効であることを見出した。
【0023】
本発明において、logKow(logP)値とは、水と1-オクタノールに対する有機化合物の親和性を示す係数である。1-オクタノール/水分配係数logKowは、1-オクタノールと水の2液相平衡系における、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数値で示される。logKow(logP)値は、構造をフラグメント(原子/官能基)に分け、各原子団の値を合計して(構造補正係数を用いる場合もある)推定値を出す「フラグメント定数」法によって算出できる。本発明では、米国環境保護庁(EPA)から入手できる化学物質の物性推算ソフトウェアの1つであるEPI suite version4.11により計算したlogKow値を用いる。
【0024】
本発明において、25℃における蒸気圧とは、実測値又は沸点からの蒸気圧推定によって求めたものであり、化学物質が室温で固体である場合には融点から推定される。蒸気圧は、幾つかの公知の方法(Antoine法、Modified Grain法、Mackay法等)によって推定されるが、本発明においては、米国環境保護庁(EPA)から入手できる、EPI suiteに組み込まれているMPBPWINを用いて算出した値であって、Antoine法によって算出される値とGrain法によって算出される値の平均値が、「選択されている値(Selected VP)」として算出結果に表示されている場合は、その平均値を、特に「選択されている値(Selected VP)」としての表示がない場合は、Modified Grain法によって算出された値を用いる。
香料化合物(A1)のlogKowと蒸気圧(Pa;25℃)の値を併せて表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
また前記の香料化合物(A1)の中でも、下記の香料化合物(a1)の香料化合物が好ましい。
(a1)γ-ウンデカラクトン、ダマセノン、δ-ダマスコン、β-イオノン、ミルラアルデヒド、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、シトロネロール、ゲラニオール、α-イオノン、パチョリアルコール、6,7-ジヒドロ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-4(5H)-インダノン、メチルジヒドロジャスモネート、プロピオン酸アリルシクロヘキシル、プロピオン酸トリシクロデセニル、γ-メチルイオノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、ドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト〔2,1-b〕フラン、γ-ノナラクトン、リラール、イソ-ダマスコン、γ-デカラクトン、トリシクロデシニルアセテート、トリシクロデシニルプロピオネート、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル、2-ペンチルオキシグリコール酸アリル
【0027】
香料化合物(a1)は、logKow及び蒸気圧の条件を満たす香料化合物(A1)の中でも、発汗時など水分を含んで繊維が膨潤した際の香り立ちの認知の易化の観点で、より好ましい。香料化合物(a1)は、いずれかを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
このうち(A)成分の香料組成物を調合する上で、香り認知の観点から、香料化合物(a1)で挙げられたγ-ウンデカラクトン、ダマセノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、δ-ダマスコン、イソ-ダマスコン、トリシクロデシニルアセテートトリシクロデシニルプロピオネート、エチルトリシクロ〔5.2.1.0-2,6〕デカン-2-カルボキシレート、γ-デカラクトン、2-ペンチルオキシグリコール酸アリルの中から少なくとも1種を必須成分として含有することがより好ましい。
【0028】
本発明の(A)成分の香料組成物は、前記した香料化合物(A1)から少なくとも5種類、好ましくは9種以上、より好ましくは10種以上の香料化合物を含む香料組成物であり、香料化合物(A1)の含有量が香料組成物中、5%質量以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは質量20%以上、そして、芳香バランスの観点から、65質量%以下、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0029】
また本発明の(A)成分の香料組成物は、logKowが3.00以上、且つ25℃における蒸気圧が3.69Paを超える香料化合物(A2)を併用することが好ましい。
香料化合物(A2)としては、例えば、リモネン、α-テルピネン、γ-テルピネン、酢酸シトロネリル、酢酸p,t-ブチルシクロヘキシル、酢酸o,t-ブチルシクロヘキシル、酢酸リナリル、ヘプタン酸アリル、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、リナロール、ノナナール、デカナール、酢酸ゲラニル、カプロン酸アリル、酢酸ターピニル、1,8-シネオール、シトロネリルニトリル、エチル 2-メチルバレレート、α-ピネン、β-ピネン、ヘキサン酸アリルが挙げられる。
【0030】
香料化合物(A2)のlogKowと蒸気圧(Pa;25℃)の値を併せて表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
香料化合物(A2)は、水を媒体として繊維を処理する場合、具体的には液体柔軟剤組成物として用いる場合において、繊維への吸着性、且つ乾燥するまでの間に繊維上に香料化合物を一定量残存させる観点から、logKowの値が3.00以上、また、親水性の高い繊維内部への浸透性の観点から、logKowの値が好ましくは5.00以下の香料化合物が好適である。
【0033】
香料化合物(A2)は、微量吸着させるだけでも香り認知に十分な気相濃度を担保できる揮発性が必要であることから、蒸気圧の値が3.69Paを超え、また、処理後から乾燥するまでの間における繊維上の香料化合物の残存性の観点から、蒸気圧の値が好ましくは1000Pa以下の香料化合物が好適である。
【0034】
香料化合物(A2)は、logKowの値が3.00以上、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上、そして、好ましくは5.00以下であり、蒸気圧の値は3.69Paを超え、そして、好ましくは1000Pa以下、より好ましくは500Pa以下、更に好ましくは250Pa以下である。
【0035】
香料化合物(A2)は、香り立ちが特徴的且つ揮発性が大きいことから、水性組成物の香り立ちや繊維処理直後の香り立ちに寄与度が高いものである。一方で、乾燥過程で繊維へ吸着した分の大半が揮散してしまうために、処理後の繊維の香り立ちへの寄与度は小さいが、これらの香料化合物は繊維の内部に微量存在しており、発汗時など水分を含んで繊維が膨潤状態になった際には揮散して香料化合物(A1)と調和して、より嗜好性の高い香りを感じることができる。
【0036】
(A)成分の香料組成物は、香料化合物(A1)、香料化合物(A2)以外の香料化合物として、香料化合物(A1)以外のlogKowが2.00以上5.00以下であり、且つ25℃における蒸気圧が0.01Pa以上3.63Pa以下の香料化合物を含有することができる。
【0037】
また(A)成分の香料組成物には香り創作の自由度を向上するという観点から、繊維製品処理剤に使用することが知られている化合物を含有することができる。香料化合物(A1)、(A2)以外の香料化合物としては、例えば、オクタナール、酢酸ヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸イソアミル、サリチル酸ヘキシル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸シクロヘキシル、サリチル酸シス-3-ヘキセニル、イソEスーパー、メチルアンスラニレート、エチレンブラシレート、アンブレットリド、バニリン、エチルバニリン、イソオイゲノール、ラズベリーケトン、クマリン、ヘリオトロピン、1- (スピロ〔4.5〕デカン-7-エン-7-イル)ペンタ-4-エン-1-オン、1-(スピロ〔4.5〕デカン-6-エン-7-イル)ペンタ-4-エン-1-オン、セドリルメチルエーテル、ジャバノール(ジボダン社製)、アセチルセドリン、トリプラール、エチルブチレート、エチル-2-メチルブチレート、2-(2-(4-メチル)-3-シクロヘキシニル-(1)プロピルシクロペンタノン、シクラメンアルデヒドが挙げられる。
【0038】
繊維が膨潤した際の香り立ちと繊維処理直後の香り立ちを両立させる観点から、(A)成分の香料組成物中の香料化合物(A1)と香料化合物(A2)の合計の割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上、そして、香りの嗜好性の観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0039】
香料化合物(A2)は、蒸気圧が高いため、香り認知に十分な気相濃度を担保するためには繊維上に微量の香料化合物(A2)が残存していればよい。
しかし、処理後から乾燥するまでの間に繊維上の多くの香料化合物が揮散してしまうことから、(A)成分の香料組成物は、香料化合物(A2)を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、また含水時の過度の香り立ちの防止及び香りの持続性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下含有する。
【0040】
(A)成分の香料組成物は、香料の業界で知られている希釈剤や保留剤という溶剤で希釈したものとして用いてもよい。
溶剤としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、フタル酸ジエチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ベンジル、クエン酸トリエチル、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、アジピン酸ジイソブチル、水添アビエチン酸メチル等が挙げられる。特に溶剤は高濃度の(A)成分を含む濃縮溶液を、水に溶かして水性組成物を調製する場合に、水に対して溶解ないし分散しやすい観点から配合することが好ましい。
しかしながら、本発明における香料組成物の配合量を計算する際には香料の希釈に使用される溶剤を含まず算出を行うが、溶剤を用いる場合、(A)成分と溶剤との合計に対する溶剤の割合は、(A)成分中、好ましくは0質量%以上20質量%以下である。なお、香料組成物(A)に含有されている溶剤の含有量は、本発明の水性組成物中では後述する(b)成分の濃度規定に含まれるものとする。
【0041】
本発明の水性組成物には、(A)成分以外に、マイクロカプセル化した香料粒子、特開2009-256818号公報に記載のケイ酸エステル香料を別途配合してもよい。これらの香料前駆体やマイクロカプセル香料は、本発明の(A)成分の濃度規定に含まれないものとする。
【0042】
本発明中の水性組成物は、水を含有することが好ましい。水は蒸留水又は脱イオン化した水が好ましい。本発明の水性組成物は、水を、容易な使用を行うための観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下含有する。
【0043】
本発明の水性組成物は、組成物自体の安定性の観点から、希釈する前の濃縮水性組成物(ここで濃縮水性組成物を繊維製品処理剤と称する場合もあり、これは柔軟剤等に代表される公知の繊維製品処理剤であってもよい)の安定性又は水溶解性の観点から、又は(A)成分からの付随成分として、水溶性有機溶剤(以下、(b)成分ともいう)を含有することができる。
なお本発明において、(b)成分の「水溶性」とは、100gの20℃の脱イオン水に対して20g以上溶解することをいう。また本発明において、「溶解」とは、分離や白濁が生じないことであり、具体的には、紫外可視分光光度計UV-2550(株式会社島津製作所製)を用いて、UV600nmの光透過率が85%以上のことをいう。
【0044】
(b)成分としては、具体的にはエタノール、イソプロパノール等の低級(炭素数2以上4以下)アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類(炭素数2以上12以下)、エチレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、プロピレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ジエチレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールのモノエチル又はモノブチルエーテル、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、フェノール性化合物のエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物、炭素数5以上8以下のアルキル基を有するモノアルキルモノグリセリルエーテル等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
(b)成分としては、水性組成物中での(A)成分の溶解性担保の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノキシエタノール、エタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びエタノールから選ばれる1種以上がより好ましい。
【0045】
本発明の水性組成物は、(c)成分として、界面活性剤を含有することができる。
【0046】
(c)成分としては、下記一般式(c1)で表される4級アンモニウム塩化合物(以下、(c1)成分ともいう)が挙げられる。
【0047】
【化1】
【0048】
〔式中、R11c、R12c、R13cは、それぞれ独立して、炭素数16以上22以下の脂肪酸からOHを除いた残基(アシル基)、又は水素原子である。但し、R11c、R12c、R13cの少なくとも1つはアシル基である。R14cは炭素数1以上3以下のアルキル基であり、Xは陰イオンである。〕
【0049】
(c1)成分はトリエタノールアミン脂肪酸エステルの4級化物であることから、アシル化度が1、2又は3の3つの異なる4級化合物から構成されるものである。
(c1)成分の平均アシル化率は、組成物の保存安定性の観点及び残香持続性の観点から、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.95以下である。平均アシル化度は、脂肪酸とトリエタノールアミンとの反応比率及び4級化の際のアルキル化剤との反応比率や反応条件によって調製することができる。
【0050】
本発明では(c1)成分を構成するそれぞれの割合は以下の比率が好ましい。
アシル化度が1の化合物、すなわち一般式(c1)中のR11cがアシル基であり、R12c及びR13cが水素原子である化合物(c11)〔以下、(c11)成分という〕の割合は、一般式(c1)で表される4級アンモニウム塩の全量中、5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
アシル化度が2の化合物、すなわち一般式(c1)中のR11c及びR12cがアシル基であり、R13cが水素原子である化合物(c12)〔以下、(c12)成分という〕の割合は、一般式(c1)で表される4級アンモニウム塩の全量中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、そして、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
アシル化度が3の化合物、すなわち一般式(c1)中のR11c、R12c及びR13cがアシル基である化合物(c13)〔以下、(c13)成分という〕の割合は、一般式(c1)で表される4級アンモニウム塩の全量中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0051】
(c12)成分と(c13)成分は香料の繊維製品への吸着に有効な成分であるが、繊維製品処理剤組成物の保存安定性に影響を与える。そのために、(c1)成分は、(c11)成分を適度に残した組成であることが好ましい。更には、前記の割合を満たした上で、(c1)成分中の(c12)成分の含有量が(c13)成分よりも多いこと、より好ましくは(c12)成分の含有量(質量%)と(c13)成分の含有量(質量%)との差が、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上あることである。
【0052】
一般式(c1)中、R14cはメチル基又はエチル基が好ましい。
一般式(c1)中、Xは、クロロイオン等のハロゲンイオン、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸エステルイオン、炭素数1以上3以下のアルキル基が1個以上3個以下置換していてもよいベンゼンスルホン酸イオンから選ばれる陰イオンが好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸エステルイオンがより好ましく、メチル硫酸エステルイオン又はエチル硫酸エステルイオンがより好ましい。
【0053】
本発明に用いる(c1)成分は、脂肪酸とトリエタノールアミンを脱水エステル化反応させる方法(脱水エステル化法という)、又は脂肪酸低級アルキルエステル(低級アルキルはメチル基、エチル基、プロピル基)とトリエタノールアミンをエステル交換反応させる方法(エステル交換法という)により得られたエステル化反応物を、アルキル化剤で4級化反応させることで得ることができる。本発明の(c1)成分の(c11)成分~(c13)成分の割合を満たす混合物を得るには、例えば、脂肪酸又は脂肪酸低級アルキルエステル:トリエタノールアミンのモル比を、好ましくは1.3:1以上、より好ましくは1.5:1以上、そして、好ましくは2.0:1以下、より好ましくは1.95:1以下の比率で反応させたトリエタノールアミン脂肪酸エステルの混合物を4級化反応させることで得ることができる。
【0054】
なお、(c1)成分を得るのに選択水素化反応を行った場合には不飽和結合の幾何異性体の混合物が形成するが、本発明の(c1)成分では、シス/トランス(モル比)が、好ましくは25/75以上、より好ましくは50/50以上、そして、好ましくは100/0以下、より好ましくは95/5以下が好適である。
【0055】
脱水エステル化法においてはエステル化反応温度を140℃以上230℃以下で縮合水を除去しながら反応させることが好ましい。反応を促進させる目的から通常のエステル化触媒を用いても差し支えなく、例えば硫酸、燐酸などの無機酸、酸化錫、酸化亜鉛などの無機酸化物、テトラプロポキシチタンなどのアルコラートなどを選択することができる。反応の進行はJISK0070-1992に記載の方法で酸価(AV)及び鹸化価(SV)を測定することで確認を行い、好適にはAVが10mgKOH/g以下、好ましくは6mgKOH/g以下となった時、エステル化反応を終了する。得られるエステル化合物の混合物は、SVが好ましくは110mgKOH/g以上、より好ましくは130mgKOH/g以上、そして、好ましくは210mgKOH/g以下、より好ましくは190mgKOH/g以下である。
【0056】
エステル交換法においては、反応は、好ましくは50℃以上、より好ましくは100℃以上、そして、好ましくは150℃以下の温度で生成する低級アルコールを除去しながら行う。反応促進のために水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機アルカリや、メチラート、エチラートなどのアルコキシ触媒を用いることも可能である。反応の進行はガスクロマトグラフィーなどを用いて脂肪酸低級アルキルエステルの量を直接定量することが好適であり、未反応脂肪酸低級アルキルエステルが仕込みの脂肪酸低級アルキルエステルに対してガスクロマトグラフィーチャート上で10面積%以下、特に6面積%以下で反応を終了させることが好ましい。得られるエステル化合物の混合物は、SVが好ましくは110mgKOH/g以上、より好ましくは130mgKOH/g以上、そして、好ましくは210mgKOH/g以下、より好ましくは190mgKOH/g以下である。
【0057】
次にこのようにして得られたエステル化合物の4級化を行うが、4級化に用いられるアルキル化剤としては、メチルクロリド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等が好適である。アルキル化剤として、メチルクロリドを用いる場合には、特に溶媒を使用する必要はないが、溶媒を使用する場合は、エタノールやイソプロパノールなどの溶媒を、エステル化合物に対して10質量%以上50質量%以下程度混合した溶液をチタン製のオートクレーブなどの加圧反応器に仕込み、密封下30℃以上120℃以下の反応温度でメチルクロリドを圧入させて反応させる。このときメチルクロリドの一部が分解し塩酸が発生する場合があるため、アルカリ剤を少量加えることで反応が効率よく進むため好適である。メチルクロリドとエステル化合物とのモル比は、エステル化合物のアミノ基1当量に対してメチルクロリドを1倍当量以上1.5倍当量以下用いることが好適である。
【0058】
ジメチル硫酸及び/又はジエチル硫酸とエステル化合物との反応モル比は、エステル化合物のアミノ基1当量に対してジメチル硫酸及び/又はジエチル硫酸を好ましくは0.9倍当量以上、より好ましくは0.95倍当量以上、そして、好ましくは1.1倍当量以下、より好ましくは0.99倍当量以下用いる。
【0059】
本発明の水性組成物は、(c1)成分の製造時に生成されるその他反応生成物を含有してもよい。例えば、4級化されなかった未反応アミンとして、具体的には脂肪酸トリエステル構造体のアミンと脂肪酸ジエステル構造体のアミンがあり、製法によっては、脂肪酸トリエステル構造体のアミンと脂肪酸ジエステル構造体のアミンとを合計して、(c1)成分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下含む反応生成物が得られる。一方、脂肪酸モノエステル構造体のアミンは4級化し易いことから、通常、反応生成物中の含有量は(c1)成分100質量部に対して0.5質量部以下である。更には脂肪酸エステル化されなかったトリエタノールアミン及びトリエタノールアミンの4級化物は合計で(c1)成分100質量部に対して0.5質量部以上3質量部以下含有され、このうち90質量%以上は4級化物である。また未反応脂肪酸が含まれることもある。(c1)成分を含む反応生成物を用いる場合は、本発明の効果を損なわない限り、このような未反応成分や副反応成分が繊維製品処理剤組成物中に含まれていてもよい。
【0060】
(c1)成分として(c11)成分、(c12)成分及び(c13)成分を含む混合物を用いる場合、該混合物中の(c11)成分、(c12)成分、(c13)成分、アミン化合物の割合等は、高速液体クロマトグラフ(HPLCと言う場合もある)を用い、検出器として荷電荷粒子検出器(Charged Aerosol Detection、CADと言う場合もある)を使用して求めることができる。CADを用いた測定方法については「荷電化粒子検出器Corona CADの技術と応用」(福島ら Chromatography, Vol.32 No.3(2011))を参考にすることができる。
【0061】
本発明の(c1)成分は、アシル基を脂肪酸と見做した場合に、アシル基を構成する全脂肪酸中、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の割合が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である4級アンモニウム塩化合物[以下(c1-1)成分という]を必須成分として含有することが好ましい。
【0062】
(c1-1)成分は、アシル基を脂肪酸と見做した場合に、アシル基を構成している全脂肪酸中、オレイン酸の割合が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である4級アンモニウム塩化合物である。なお前記した(c1)成分として(c11)成分、(c12)成分及び(c13)成分を含む条件は(c1-1)成分でも同様である。
【0063】
(c1-1)成分のアシル基を構成する脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸以外に、ステアリン酸、パルミチン酸及びエライジン酸を挙げることができる。
【0064】
(c)成分としては、(c1)成分として(c1-1)成分を使用する場合、(c1-1)成分とアシル基を構成する脂肪酸の組成条件が異なる4級アンモニウム塩化合物(以下、(c1-2)成分ともいう)を用いることが好ましい。(c1-2)成分は、前記一般式(c1)で示される4級アンモニウム化合物であって、(c1-1)成分のアシル基を構成する脂肪酸組成が異なる以外は、同様にして得られる4級アンモニウム塩化合物が好ましい。具体的には、アシル基を脂肪酸と見做した場合に不飽和脂肪酸の割合が、アシル基を構成している全脂肪酸の50質量%以下、更に40質量%以下である4級アンモニウム塩化合物が好ましい。該4級アンモニウム塩化合物の不飽和脂肪酸の割合の下限値は、アシル基を構成している全脂肪酸の10質量%以上であってよい。
【0065】
(c1-2)成分としては、前記一般式(c1)中のR11c、R12c及びR13cのアシル基を構成する脂肪酸が、牛脂、パーム油、ヒマワリ油、大豆油、ナタネ油、サフラワー油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油から選ばれる油脂をケン化して得られる脂肪酸組成のものが好適であり、特に柔軟性能の点から牛脂、パーム油及びヒマワリ油から得られる脂肪酸組成のものが良好である。また、これらは炭素-炭素不飽和結合を2つ以上有するアルケニル基を多量に含有するため、例えば特開平4-306296号公報に記載されているような晶析や、特開平6-41578号公報に記載されているようにメチルエステルを減圧蒸留する方法、あるいは特開平8-99036号公報に記載の選択水素化反応を行うことで炭素-炭素不飽和結合を2つ以上含有する脂肪酸の割合を制御する方法などにより製造することができる。例えば硬化牛脂は牛脂由来の脂肪酸を水素添加により飽和にしたものであり、一部を硬化させたものとして半硬化という表現をする場合もある。なお前記した(c1)成分として(c11)成分、(c12)成分及び(c13)成分を含む条件は(c1-2)成分でも同様である。
【0066】
(c)成分としては、(c1)成分以外の陽イオン性界面活性剤(以下、(c2)成分ともいう)を挙げることができる。
【0067】
(c2)成分の具体例としては、窒素原子に結合する基のうち、1つ又は2つが炭素数10以上22以下のアルキル基又はアルケニル基であり、残りがヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1以上4以下のアルキル基、ベンジル基、好ましくはメチル基である第3級アミン化合物及びその酸塩、並びに前記第3級アミン化合物の4級化物が挙げられる。これらの中でも、本発明の水性組成物に殺菌効果を付与する観点から、炭素数10以上22以下のアルキル基又はアルケニル基を1つ有し、ベンジル基を1つ有する陽イオン性界面活性剤が好ましい。
前記化合物の4級化に用いるアルキル化剤としては、(c1)成分において記載した化合物を用いることができる。
【0068】
(c2)成分としては、下記(I)~(IV)から選ばれる1種以上の陽イオン性界面活性剤が好ましく、更に(II)~(IV)から選ばれる陽イオン性界面活性剤が好ましい。
(I)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が10以上22以下のジ長鎖アルキル又はアルケニルジメチルアンモニウム塩[以下(c2-1)成分という]、
(II)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が10以上22以下のモノ長鎖アルキル又はアルケニルトリメチルアンモニウム塩、[以下(c2-2)成分という]
(III)アルキル基又はアルケニル基の炭素数が10以上22以下のモノ長鎖アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩[以下(c2-3)成分という]
(IV)式(c2-4)で示されるアミン化合物の酸塩[以下(c2-4)成分という]
【0069】
【化2】
【0070】
〔式中、R21cは炭素数13以上19以下のアルキル基又は炭素数13以上19以下のアルケニル基であり、R22cは炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、R23c、R24cはそれぞれ独立して炭素数1以上3以下のアルキル基である。〕
【0071】
前記一般式(c2-4)で示されるアミン化合物の酸塩の酸としては、無機酸又は有機酸が挙げられる。無機酸としては、塩酸、及び硫酸が挙げられる。有機酸としては、炭素数1以上3以下のアルキル硫酸、炭素数1以上10以下の1価又は多価のカルボン酸、及び炭素数1以上20以下の1価又は多価のスルホン酸が挙げられる。有機酸の具体例としては、メチル硫酸、エチル硫酸、p-トルエンスルホン酸、(o-、m-、p-)キシレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、グリコール酸、クエン酸、安息香酸、及びサリチル酸が挙げられる。
【0072】
(c2-4)成分としては、具体的には塩化ジデシルジメチルアンモニウム塩、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム塩、塩化ミリスチルトリメチルアンモニウム塩、及び塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルアミノプロピルステアリルアミド酸塩、ジメチルアミノプロピルパルミチルアミド酸塩を挙げることができる。
【0073】
(c)成分としては、非イオン性界面活性剤(以下、(c3)成分ともいう)を挙げることができる。
【0074】
(c3)成分としては、炭素数8以上20以下のアルキル基又はアルケニル基とオキシアルキレン基とを有する非イオン性界面活性剤が好ましく、下記一般式(c3)で表される非イオン性界面活性剤がより好ましい。
31c-A-〔(R32cO)-R33c (c3)
〔式中、R31cは、炭素数8以上、好ましくは10以上、そして、18以下、好ましくは16以下のアルキル基又はアルケニル基であり、R32cは、炭素数2又は3のアルキレン基、好ましくはエチレン基であり、R33cは、炭素数1以上3以下のアルキル基又は水素原子であり、xは2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、そして、100以下、好ましくは80以下、より好ましくは60以下の数であり、Aは-O-、-COO-、-CON<又は-N<であり、Aが-O-又は-COO-の場合yは1であり、Aが-CON<又は-N<の場合yは2である。〕
【0075】
一般式(c3)の化合物の具体例としては、以下の式(c3-1)~(c3-3)で表される化合物を挙げることができる。
31c-O-(CO)-H (c3-1)
〔式中、R31cは前記R31cと同義である。kは8以上、好ましくは10以上、そして、100以下、好ましくは60以下の数である。〕
31c-O-[(CO)(CO)]-H (c3-2)
〔式中、R31cは前記R31cと同義である。s及びtはそれぞれ独立に2以上、好ましくは5以上であり、そして、40以下の数であり、(CO)と(CO)はランダム又はブロック付加体であってもよい。(CO)と(CO)の結合順序を問わない。〕
【0076】
【化3】
【0077】
(式中、R31cは前記R31cと同義である。Aは-N<又は-CON<であり、u及びvはそれぞれ独立に0以上40以下の数であり、u+vは5以上60以下、好ましくは40以下の数である。R33cは、炭素数1以上3以下のアルキル基又は水素原子である。)
【0078】
本発明の水性組成物は、(c)成分として、(c1)成分、(c2)成分、及び(c3)成分から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0079】
本発明の水性組成物は、(d)成分として、香料化合物を内包したマイクロカプセル、又は香料前駆体を含有することができる。
(d)成分は、(A)成分と併用することで、従来よりも自由度の高い香料設計が可能となる。(d)成分には、徐放性香料として特開2014-125685号公報記載のケイ酸エステル化合物や特表平8-502522号公報記載のアルコール系香料化合物と、脂肪族モノカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸とのエステル化合物やカプセル香料として特開2015-200047号公報記載のマイクロカプセル香料を用いることができる。
【0080】
本発明の水性組成物は、(e)成分として、無機塩を含有することができる。
無機塩としては、保存安定性を向上させる観点から、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムから選ばれる1種以上が好ましい。
【0081】
本発明の水性組成物は、(f)成分として、水不溶性のシリコーン化合物を含有することができる。本明細書における(f)成分の「水不溶性」とは、20℃のイオン交換水1Lに溶解するシリコーン化合物の量が1g以下であることをいう。
(f)成分の具体例としては、ジメチルポリシロキサン、4級アンモニウム変性ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ジメチルポリシロキサン、アミド変性ジメチルポリシロキサン、エポキシ変性ジメチルポリシロキサン、カルボキシ変性ジメチルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、及びフッ素変性ジメチルポリシロキサン等のシリコーン化合物が挙げられる。
【0082】
(f)成分としては、重量平均分子量が好ましくは1千以上、より好ましくは3千以上、更に好ましくは5千以上であり、そして、好ましくは100万以下であり、25℃における粘度が好ましくは2mm/s以上、より好ましくは500mm/s以上、更に好ましくは1千mm/s以上であり、そして、好ましくは100万mm/s以下である、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ジメチルポリシロキサン、アミド変性ジメチルポリシロキサン、及びポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン及び/又はポリオキシプロピレン、好ましくはポリオキシエチレン)変性ジメチルポリシロキサンから選ばれる1種以上が好ましい。
なお、(f)成分における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0083】
アミノ変性ジメチルポリシロキサンのアミノ当量(アミノ当量とは窒素原子1個当たりの分子量)は、好ましくは1,500g/mol以上、より好ましくは2,500g/mol以上、更に好ましくは3,000g/mol以上、そして、好ましくは40,000g/mol以下、より好ましくは20,000g/mol以下、更に好ましくは10,000g/mol以下である。
【0084】
本発明の水性組成物は、(g)成分として、キレート剤を含有することができる。
キレート剤の具体例としては、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミン四酢酸、メチルグリシン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、L-グルタミン酸-N,N-二酢酸、N-2-ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、クエン酸、コハク酸、及びそれらの塩が挙げられる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩がより好ましい。
【0085】
本発明の水性組成物は、その他成分(以下、(h)成分ともいう)として、基材の劣化を抑制する観点から、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤を用いることができ、また、審美や長期保存時の着色を防ぐ観点から、繊維製品処理剤組成物において一般的に用いられる染料及び顔料を用いることもできる。更に、プロキセルの商品名で市販されている防菌、防黴剤を用いることもできる。また、安息香酸及びその塩も防菌、防黴剤として用いることもできる。
【0086】
本発明の工程(I)で使用する水性組成物は、本発明の本質部分である(A)成分としての香料組成物及び水の他に、前記したように(b)成分~(h)成分を含有することができる
【0087】
本発明の水性組成物において、(b)成分の含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは0.8ppm以上、より好ましくは2ppm以上、更に好ましくは3ppm以上、そして好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である。また本発明の水性組成物において、(b)成分の含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは30000ppm以上、より好ましくは40000ppm以上、更に好ましくは50000ppm以上、そして、好ましくは100000ppm以下、より好ましくは80000ppm以下、更に好ましくは70000ppm以下である。
【0088】
本発明の水性組成物において、(c)成分の含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは10ppm以上、より好ましくは20ppm以上、更に好ましくは30ppm以上、そして、好ましくは800ppm以下、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。また本発明の水性組成物において、(c)成分の含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは100ppm以上、より好ましくは200ppm以上、更に好ましくは300ppm以上、そして、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。
【0089】
本発明の水性組成物において、(A)成分と(d)成分の合計含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは1ppm以上、より好ましくは2ppm以上、更に好ましくは4ppm以上、そして、前記組成物中に香料成分を安定に溶解させる目的から、好ましくは120ppm以下、より好ましくは60ppm以下、更に好ましくは20ppm以下である。また、本発明の水性組成物において、(A)成分と(d)成分の合計含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは150ppm以上、より好ましくは250ppm以上、更に好ましくは400ppm以上、そして、前記組成物中に香料成分を安定に溶解させる目的から、好ましくは1500ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは600ppm以下である。本発明の水性組成物が(d)成分を含有する場合、(d)成分の含有量と(A)成分の含有量との質量比(d)/(A)は、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは1以下である。
【0090】
本発明の水性組成物において、(e)成分の含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、更に好ましくは0.3ppm以上、そして、好ましくは20ppm以下、より好ましくは5ppm以下、更に好ましくは2ppm以下である。また本発明の水性組成物において、(e)成分の含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300ppm以上、更に好ましくは500ppm以上、そして、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下である。
【0091】
本発明の水性組成物において、(f)成分の含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.03ppm以上、更に好ましくは0.05ppm以上、そして、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下、更に好ましくは0.5ppm以下である。また本発明の水性組成物において、(f)成分の含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは1ppm以上、より好ましくは5ppm以上、更に好ましくは10ppm以上、そして、好ましくは100ppm以下、より好ましくは75ppm以下、更に好ましくは50ppm以下である。
【0092】
本発明の水性組成物において、(g)成分の含有量は、浸漬処理を行う場合、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.03ppm以上、更に好ましくは0.05ppm以上、そして、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.75ppm以下、更に好ましくは0.5ppm以下である。また本発明の水性組成物において、(g)成分の含有量は、塗布又は噴霧処理を行う場合、好ましくは10ppm以上、より好ましくは100ppm以上、更に好ましくは500ppm以上、そして、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下、更に好ましくは1500ppm以下である。
【0093】
本発明の水性組成物は、濃縮水性組成物を水で希釈することで調製することができる。本発明の濃縮水性組成物は公知の柔軟剤等の繊維製品処理剤組成物であってもよい。本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物中の(A)成分及び任意の(b)成分~(g)成分は以下の濃度であることが好ましい。
【0094】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(A)成分の含有量は、洗濯処理、乾燥後に残存する香料量の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1.0質量%以上、そして、保存安定性及び他の香料添加剤とのバランスの観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、より更に好ましくは1.8質量%以下である。
【0095】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(b)成分を含有する場合、(b)成分の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、そして、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0096】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(c)成分を含有する場合、(c)成分の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは17質量%以下である。
【0097】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(d)成分を含有する場合、(d)成分と(A)成分の合計含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.45質量%以上、そして、好ましくは7.5質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下である。本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(d)成分を含有する場合、(d)成分の含有量と(A)成分の含有量との質量比(d)/(A)の質量比は、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.02以上、更に好ましくは0.1以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは25以下、より更に好ましくは10以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは1以下である。
【0098】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(e)成分を含有する場合、(e)成分の含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.015質量%以上、そして、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以下である。
【0099】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(f)成分を含有する場合、(f)成分の含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.04質量%以下である。
【0100】
本発明の濃縮水性組成物又は繊維製品処理剤組成物において、(g)成分を含有する場合、(g)成分の含有量は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.04質量%以下である。
【0101】
工程(I)に用いる水性組成物は、前記したように、水性組成物から水を低減させた濃縮水性組成物を使用時に水に希釈したものを用いる方法と水性組成物自体を塗布ないし噴霧して直接繊維製品に用いる方法とがある。前記したように濃縮水性組成物は、一般的に知られている柔軟剤組成物、糊剤、スタイリング剤等の繊維製品処理剤組成物であってもよく、その他、特許等で公開され洗濯の仕上げに用いることが知られている、UVを妨げるUV抑制処理剤;蛍光染料等を付与する染料助剤;汚れをつきにくくする防汚剤;繊維に殺菌や殺ウイルスないし抗菌性ないし抗ウイルスを付与する殺菌・抗菌剤;花粉やPM2.5等のアレルゲンや煤塵の付着や発現を抑制するアレルゲン除去剤;繊維の賦香を主目的とした賦香剤等を挙げることができる。それらの組成物を希釈して使用する場合に本発明の(A)成分を用いて本効果を有する繊維製品に仕上げることができる。従ってこれらの処理剤を希釈する場合、前記した(b)~(h)成分以外の成分を本発明の水性組成物は含有してもよく、本効果を大きく損なわないように注意して成分を決めることができる。
【0102】
水性組成物自体を塗布ないし噴霧して直接繊維製品に用いる方法としては、一般的にそのような使い方が知られている繊維製品用の殺菌・抗菌剤や悪臭の消臭を目的とする消臭剤に本発明の水性組成物を利用してもよい。本発明は賦香剤としての使用もあるが、(A)成分、特に(A1)成分の香料化合物は、本発明の賦香方法において、乾燥時は芳香しない設計も可能であることから、消臭剤との併用は有効であり、他の香料を併用して芳香する場合であっても、悪臭を消臭する消臭剤であっても賦香能を備えた組成物であってもよい。また噴霧等することで処理する方法が知られている水性組成物として、花粉やPM2.5等のアレルゲンや煤塵の付着や発現を抑制するアレルゲン抑制剤;蚊・ダニ等の付着ないし接近を抑制する害虫類忌避剤;タバコ臭、体臭又は焼き肉などの食べ物臭の付着を抑制する特定臭気抑制剤;汚れ付着防止剤等を上げることができる。従ってこれらの処理剤を塗布ないし噴霧して使用する場合、前記した(b)~(h)成分以外の成分を本発明の水性組成物は含有してもよく、本効果を大きく損なわないように注意して成分を決めることができる。
【0103】
本発明の水性組成物は、柔軟剤等の仕上げ剤又は噴霧式の賦香剤もしくは噴霧式の消臭剤として使用することがより好ましい。その場合は、それぞれの効果を損なわない限り、各用途に使用することが知られている基材及び各種成分を含有することができる。
例えば噴霧式賦香剤もしくは噴霧式消臭剤には、油剤、ゲル化剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、紫外線吸収剤及び消臭基材等の成分を含有することができる。油剤としては炭化水素や脂肪族アルコール、アルコールの脂肪酸エステルを挙げることができる。少量の油剤の添加は噴霧粒子の粒子径を小さくする。ゲル化剤としては、ポリアクリル酸又はその架橋物等の高分子化合物等を挙げることができる。pH調整剤としては、クエン酸等の有機酸、塩酸などの無機酸や炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を使用することができる。酸化防止剤としてはBHT等の公知の芳香族化合物を挙げることができる。防腐剤としては製品名プロキセルとして防菌防カビ剤成分として市販されているものを用いることができる。紫外線吸収剤としては公知の化合物を用いることができる。消臭基材としては2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールやリン酸カリウム又はナトリウム等の緩衝能を用いた中和消臭基材を用いることができる。
【0104】
本発明の水性組成物を、噴霧式賦香剤もしくは噴霧式消臭剤として使用する場合、水性組成物のpHは、20℃で、4.0以上9.5以下であることが好ましい。本発明の水性組成物のpHは、液相安定性の観点から、20℃で、より好ましくは4.5以上、更に好ましくは5.0以上、そして、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.5以下である。pHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。pHはJIS K 3362;2008の項目8.3に従って20℃において測定する。
【0105】
本発明の水性組成物を、柔軟剤として使用する場合は、前記した(c1)成分の界面活性剤を含有することが好ましく、その他に、グリセリン、ソルビトール及びペンタエリスルトール等の多価アルコール脂肪酸エステルとしての柔軟補助剤、クエン酸等の有機酸又はその塩、塩酸等の有機酸又はその塩、前記した酸化防止剤、前記した防腐剤、色素、並びに紫外線吸収剤を含むことができる。
【0106】
本発明の水性組成物を柔軟剤として使用する場合、水性組成物のpHは、20℃で、2.0以上4.0以下であることが好ましい。本発明の水性組成物のpHは、液相安定性の観点から、20℃で、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは2.7以上、そして、より好ましくは3.8以下、更に好ましくは3.5以下である。pHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。pHはJIS K 3362;2008の項目8.3に従って20℃において測定する。
【0107】
本発明の賦香方法の対象となる繊維製品としては、木綿繊維を含む繊維製品であって、木綿100%の繊維製品、及び、木綿繊維と他の繊維との混繊、混紡、交織、交撚等で混用して得られる紡績糸、織物、編物、不織布を挙げることができる。
具体的な他の繊維としては、苧麻、亜麻、パルプ、バクテリアセルロース繊維等の天然セルロース繊維、絹、羊毛等の天然タンパク繊維、ビスコース法レーヨン、銅アンモニア法レーヨン、溶剤紡糸法レーヨン等の再生セルロース繊維、アセテート、トリアセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成繊維から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
なお、繊維製品は、反応性染料、バット染料等による先染め、反染、プリント品であっても差し支えない。
他の繊維と混用する場合、吸湿時のにおい立ちする観点から、木綿繊維の含有率は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
本発明に使用される繊維製品としては、前記の木綿繊維や混用繊維を用いた織物、編物、不織布等の布帛及びそれを用いて得られたアンダーシャツ、Tシャツ、ワイシャツ、ブラウス、スラックス、帽子、ハンカチ、タオル、ニット、靴下、下着、タイツ、寝具等の製品が挙げられる。
【0108】
上述したように、本発明の水性組成物を繊維製品に接触させる方法としては、本発明の水性組成物を繊維製品に噴霧する方法、本発明の水性組成物を繊維製品に塗布する方法、又は本発明の濃縮水性組成物を水で希釈した水性組成物に繊維製品を浸漬させる方法などが挙げられる。
本発明の水性組成物を繊維製品に噴霧する場合は、公知のスプレーヤー付き容器に充填する方法が挙げられ、一般に知られている衣類に対する噴霧式賦香剤のように使用することができる。
工程(I)の処理は、洗濯機を用いておこなうことができる。例えば賦香剤として使用するような場合は、本発明の効果を損なわない限り、洗濯時の洗浄工程で洗剤を含有する環境下でおこなってもよく、洗浄工程を行う前に、洗剤と共に添加してもよく、或いは洗浄工程後のすすぎ前からすすぎ後の工程で添加してもよい。本発明では柔軟剤を添加するタイミングで繊維製品と接触させることが好ましく、具体的には洗浄工程後、1回以上のすすぎ工程の後に、本発明の水性組成物を添加して処理することが好ましい、その場合は既に繊維製品は水を含んだ状態になるため、溜め水の量を考慮して本発明の濃縮水性組成物が用いられるべきである。また前記したように濃縮水性組成物は柔軟剤組成物そのものであってもよい。
【0109】
本発明の水性組成物に繊維製品を浸漬する場合は、本発明の水性組成物に繊維製品を浸漬により接触させた後、必要ならば脱水機を用いて余分な水分及び成分を除去すればよい。
【0110】
本発明の水性組成物は、繊維製品用賦香剤組成物であってもよく、そのまま、あるいは希釈して繊維製品に適用される。本発明の繊維製品用賦香剤組成物は、水を含有することが好ましい。本発明の繊維製品用賦香剤組成物は、本発明の方法で述べた本発明の水性組成物であってよい。本発明の水性組成物で述べた事項は、本発明の繊維製品用賦香剤組成物に適用できる。
【0111】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で処理した繊維製品を60℃以上100℃未満の気体で熱処理する乾燥工程である。
前記したように、工程(I)の接触方法が浸漬による場合は、工程(I)の後に脱水工程を設けることが好ましい。脱水方法は、浸漬方法の場合、単純に網に乗せて水だけ落とす方法から、物理的脱水方法として、洗濯機を用いた回転による遠心脱水方法、繊維製品を手でねじって絞る脱水方法や2つ以上のローラーの間を通すことによるプレスによる脱水方法がある。本発明では工程(I)と工程(II)の間に行う脱水工程を工程(I’)という場合がある。工程(I)の接触方法が浸漬による場合、工程(II)の前の繊維製品中の水分量は繊維製品乾燥1kgあたり、0.6~0.7kg含んでいることが好ましい。なお工程(I)の接触方法が浸漬による場合、工程(I)の後、水や溶媒等を添加して水性組成物を希釈してもよいが、工程(II)に至るまで繊維製品に接触する水性組成物の溶液中の(A)成分濃度は、本発明の規定する範囲領域を出ないことが好ましい。
【0112】
工程(II)の重要な要件は、乾燥温度である。本発明の香料化合物(A1)は、木綿繊維を含む繊維製品に奥深く入り易い性質を持っているものであるが、工程(II)で加熱することにより香料化合物(A1)が繊維製品の内部へとより入り易いことを本発明者は見出した。加熱はアイロン等で繊維製品を加熱する方法よりも、60℃以上100℃未満の気体で繊維製品を熱処理するのがよい。気体温度は、60℃以上、好ましくは65℃以上、より好ましくは70℃以上、そして、100℃未満、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。気体は、通常は加熱した空気を接触させるが、窒素等の不燃性の気体であってもよく、スチーム(水蒸気)を含むものであってもよい。
【0113】
工程(II)の加熱処理で繊維製品を完全に乾燥させてもよく、乾燥工程の一部であってもよい。工程(II)で繊維製品を熱処理する時間は、好ましくは90分以上、より好ましくは100分以上、更に好ましくは120分以上、繊維製品に付着した香料が揮散しない観点から、好ましくは240分以下、より好ましくは210分以下、更に好ましくは180分以下である。
【0114】
工程(II)の加熱乾燥は、加熱乾燥機能を有する衣類洗濯機を用いることができる。例えば工程(I)が浸漬処理の場合、本発明の水性組成物と繊維製品とが接触する工程(I)を行った後、脱水工程(工程(I´))後、工程(II)の加熱乾燥工程に自動的に移行する機能を使ってもよい。また工程(I)を含む処理や洗濯を行った後に、衣類乾燥機を用いて工程(II)を行ってもよい。
衣類乾燥機はドラム式洗濯機及び縦型洗濯機及び独立衣類乾燥機が挙げられるが、乾燥機の種類は問わない。また、乾燥方式もヒートポンプ方式、ヒーター方式が挙げられるが、その方式は問わない。乾燥時の気体温度が60℃以上100℃未満の範囲になるような乾燥機を使用することができる。
工程(II)の後、室内乾燥や屋外乾燥してもよいが、屋外で乾燥させる場合は、直射日光を避けることが好ましい。
また工程(II)の後、アイロン処理でシワを伸ばしてもよいが、なるべく水やスプレー式糊剤等で湿潤させないことが好ましい。
【実施例
【0115】
実施例及び比較例で使用した成分を以下に示す。
<(A)成分>
(A)成分の香料組成物として、(a1-1)から(a1-15)の15種、(A’)成分((A)成分の比較成分)の香料組成物として (a2-1)~(a2-3)の3種の調合香料を調製した。香料組成物の詳細を表3A~表3Dに示す。
【0116】
【表3A】
【0117】
【表3B】
【0118】
【表3C】
【0119】
【表3D】
【0120】
<(b)成分>
(b-1):エチレングリコール
(b-2):プロピレングリコール
(b-3):フェノキシエタノール
【0121】
<(c)成分>
〔合成例c1-2:(c1-2)の製造〕
(c1)成分として一般式(c1)で示される4級アンモニウム塩化合物であってアシル基を構成する脂肪酸組成が(c1-2)成分の4級アンモニウム塩化合物を調製した。すなわちトリエタノールアミンと、後述する組成のRCOOHで表される脂肪酸を、反応モル比(脂肪酸/トリエタノールアミン)が1.65/1で、エステル化反応させ、一般式(c1)で表されるアミン化合物を含むエステル化反応物を得た。
エステル化反応物中には、未反応の脂肪酸(組成は後述の通り)が5質量%含まれていた。エステル化反応物中のアミン化合物のアミンに対して、メチル基が0.96等量となるように、ジメチル硫酸で4級化反応を行った後、エタノールを添加した。以上の様にして4級アンモニウム塩化合物[以下(c1-2)成分という]を含有する反応物を調製した。
【0122】
得られた反応物をHPLC法で各成分の組成比を分析し、臭化テトラオクチルアンモニウムを内部標準物質として使用し定量した結果、得られた反応物は、一般式(c1)で示される(c1-2)成分を75質量%、エタノール10質量%、未反応アミン(メチル硫酸塩として)12質量%、未反応脂肪酸2%、微量のトリエタノールアミン4級化物及びその他微量成分を含み、(c1-2)成分のうち一般式(c1)においてR11cがアシル基であり、R12c及びR13cが水素原子であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-2-1)という場合がある]が(c1-2)成分中28量%、一般式(c1)においてR11c及びR12cがアシル基であり、R13cが水素原子であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-2-2)という場合がある]が成分中56質量%、一般式(c1)においてR11c、R12c及びR13cがアシル基であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-2-3)という場合がある]が(c1-2)成分中16質量%であった。また4級化率は80質量%であった。
【0123】
なお(c1-2)成分を製造するための反応に用いたRCOOHの組成を以下に示す。
パルミチン酸:45質量%
ステアリン酸:25質量%
オレイン酸:27質量%
リノール酸:3質量%
前記組成は、原料に使用した脂肪酸をガスクロマトグラフィーで組成分析し、各脂肪酸の面積%を質量%とみなした。
なお配合表の数値は(c1-2)成分濃度に換算している。
【0124】
〔合成例c1-1:(c1-1)の製造〕
トリエタノールアミンと、後述するRCOOHで表される組成の脂肪酸を、反応モル比(脂肪酸/トリエタノールアミン)が1.87/1で、エステル化反応させ、一般式(c1)で表されるアミン化合物を含むエステル化反応物を得た。
エステル化反応物中には、未反応の脂肪酸(組成は後述の通り)が1質量%含まれていた。エステル化反応物中のアミン化合物のアミンに対して、メチル基が0.96等量となるように、ジメチル硫酸で4級化反応を行った後、エタノールを添加した。以上の様にして(c1)成分である一般式(c1)で示される4級アンモニウム塩化合物[以下(c1-1)成分という]を含有する反応物を調製した。
【0125】
得られた反応物をHPLC法で各成分の組成比を分析し、臭化テトラオクチルアンモニウムを内部標準物質として使用し定量した結果、得られた反応物は、(c1)成分である(c1-1)成分を66質量%、エタノール15質量%、未反応アミン塩(メチル硫酸塩として)17質量%、未反応脂肪酸1質量%、微量のトリエタノールアミン4級化物及びその他微量成分を含み、このうち一般式(c1)において、R11cがアシル基であり、R12c及びR13cが水素原子であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-1-1)という場合がある]が(c1-1)成分中22質量%、一般式(c1)において、R11c及びR12cがアシル基であり、R13cが水素原子であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-1-2)という場合がある]が(c1-1)成分中58質量%、一般式(c1)において、R11c、R12c及びR13cがアシル基であり、R14cがメチル基であって、Xがメチル硫酸である化合物[以下(c1-1-3)という場合がある]が(c1-1)成分中20質量%であった。また4級化率は80質量%であった。
【0126】
なお(c1-1)成分を製造するための反応に用いたRCOOHの組成を以下に示す。
オレイン酸:80質量%
リノール酸:10質量%
リノレン酸:2質量%
ステアリン酸:2質量%
パルミチン酸:6質量%
前記組成は、原料に使用した脂肪酸をガスクロマトグラフィーで組成分析し、各脂肪酸の面積%を質量%とみなした。
なお配合表の数値は(c1-1)成分濃度に換算している。
【0127】
(c3-1):ラウリルアルコールにエチレンオキサイドを平均30モル付加させた化合物、すなわち、一般式(c3-1)においてR31cが直鎖の炭素数12のアルキル基であって酸素原子と結合するR31cの炭素原子が第1級炭素原子であり、kが30である非イオン性界面活性剤
(c2-4):ジメチルアミノプロピルステアリルアミド酸塩
【0128】
<(d)成分>
(d1-1):Si(O-Geranyl)
なお、(d1-1)における「Geranyl」は、ゲラニオール(1級アリルアルコール性香料、logP2.4)から水酸基を1個除いた基を表す。
【0129】
前記(d1-1)は、下記合成例d1-1により合成した。
【0130】
(合成例d1-1:Si(O-Geranyl)の合成)
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン27.08g(0.13mol)、ゲラニオール72.30g(0.47mol)及び2.8質量%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.485mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら110~120℃で2時間撹拌した。
2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら117~120℃でさらに4時間撹拌した。4時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ゲラニオールのケイ酸エステル香料前駆体を含む76.92gの黄色油状物を得た。
【0131】
(d2-1):ラウリン酸とエチルバニリンとのエステル
【0132】
前記(d2-1)については、下記合成例d2-1により合成した。
【0133】
〔合成例d2-1:ラウリン酸とエチルバニリンとのエステルの製造〕
窒素雰囲気下、300mLの四つ口フラスコに、ラウリン酸クロリド8.95g(0.041mol)、ジクロロメタン40mLを入れ、0℃に冷却した。一方、100mLの滴下ロートに、エチルバニリン6.80g(0.041mol)、トリエチルアミン4.35g(0.043mol)、ジクロロメタン40mLを入れた。滴下ロートより反応温度が-5℃~0℃に保たれるようフラスコに40分かけて滴下を行った。滴下終了後、室温(25℃)で2時間撹拌を行った。フラスコに飽和塩化アンモニウム水溶液10mLを添加し、反応を停止した。ジエチルエーテル150mLを添加し、生成した白色固体をろ過で除去し、ろ液を分液ロートに移した。分液ロートにイオン交換水100mLを添加し、ジエチルエーテル50mLで水層から3回抽出を行った。抽出溶液を集め、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで溶液を乾燥した。溶媒を減圧除去後、淡黄色固体のラウリン酸とエチルバニリンとのエステル14.20g(収率99%)を得た。最終物はNMR及びIRを用いて目的の化合物が製造できているか確認された。
【0134】
(d3-1):下記製造例d3-1で得られた、香料含有マイクロカプセルスラリー
【0135】
〔製造例d3-1:(d3-1)の製造〕
ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体(デモールEP、固形分25%、花王株式会社)1.7gを塩酸で中和後、更にイオン交換水で希釈することにより、固形分3%、pH4.3の水溶液を得た。次に、前記ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体水溶液100gに、アルコール系香料化合物としてゲラニオール、ターピネオール及びテトラヒドロリナロールを香料1000質量部あたり、90質量部含有している表4の組成の(d3-1)用香料を36g加え、ホモミキサーを用いて乳化し、これを50℃に昇温した。次に、部分メチロール化メラミン樹脂(商品名Cymel385、固形分80%、Cytec Industries Inc製)を12g、イオン交換水35gを混合した水溶液を滴下した。これを50℃で2時間保持し、さらに70℃で1時間保持し、さらに80℃で3時間保持し、封入を完了させた。その後、放冷することによって、平均粒径7μm、有効分30質量%のマイクロカプセルスラリーを得た。
【0136】
【表4】
【0137】
<(e)成分>
(e-1):塩化カルシウム
【0138】
<(f)成分>
(f-1):下記合成例f-1で製造した、ジメチルポリシロキサンの水性エマルジョン
【0139】
[合成例f-1の製造]
平均付加モル数5モルのポリオキシエチレンラウリルエーテル5gを、ジメチルポリシロキサン(25℃における粘度500,000mm/s)300gに高せん断力をかけながら添加し、さらに10分間、高せん断力で攪拌し続けた。その後、イオン交換水を30g添加し、次に平均付加モル数2モルのポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム2g、平均付加モル数40モルのポリオキシエチレンミリスチルエーテル15gを加え、さらに高せん断力下、攪拌を30分間続け、その後、水を248g加えて攪拌し、ジメチルポリシロキサンの水性エマルジョン〔(f-1)〕を得た。(f-1)中の乳化粒子の体積平均粒径は500nmであった。また、(f-1)中のジメチルポリシロキサンの含有量は50質量%であった。体積平均粒径は水性エマルジョンをエタノール中に分散させ、電気泳動光散乱光度計(大塚電子(株)製、型式ELS-8000)を用いて、20℃で測定した。
【0140】
<(g)成分>
(g-1)成分:メチルグリシン二酢酸3ナトリウム
【0141】
<(h)成分>
(h-1)成分:プロキセルBDN(アーチ・ケミカル・ジャパン社製)
【0142】
<pH調整剤>
濃縮水性組成物のpHを調整するため、必要に応じて適宜、水酸化ナトリウム、クエン酸、塩酸を使用した。
【0143】
<実施例1、2及び比較例1>
〔濃縮水性組成物の調製〕
表5及び表6に示す配合組成となるように各成分を混合することにより、濃縮水性組成物を調製した。具体的には、以下の通りである。なお、表中の組成の質量%は、有効分の質量%である。
300mLビーカーに、濃縮水性組成物のできあがり量が200gとなるのに必要な量の85質量%に相当する量のイオン交換水と、(b)成分、(f)成分、(g)成分、(h)成分、必要に応じてpH調整剤とを入れ、ウォーターバスを用いてイオン交換水の温度を60±2℃に調温し混合液を調製した。なお、撹拌羽根としては、直径が5mmの撹拌棒の回転中心軸を基準として、長辺が90度方向になるように配置された撹拌羽根であって、羽根の数3枚、羽根の長辺/短辺=3cm/1.5cm、回転面に対して45度の角度で羽根が設置されたものを用いた。
60±2℃の温度に調温した混合液を、前記撹拌羽根で撹拌(300r/m)した。これに、65℃で加熱溶解させた(c)成分を3分間掛けて投入し、投入終了後、15分間撹拌した。
次に、5℃のウォーターバスを用いて、混合液の温度を30±2℃になるまで冷却した。これに、(A)成分又は(A’)成分、(e)成分、(d)成分を順次投入し、5分間撹拌した。更に、できあがり質量(200g)となるようにイオン交換水を加え、5分間撹拌して濃縮水性組成物を得た。
得られた濃縮水性組成物について可視光透過率を測定した。具体的には、測定セルとして光路長10mmのガラスセルを使用し、対照セルにイオン交換水を入れ、紫外可視分光光度計(島津製作所製のUV-2500PC)を用いて測定した。実施例及び比較例で得られた濃縮水性組成物の可視光線透過率(波長660nm)は、全て10%未満であり、乳濁型の濃縮水性組成物であった。
【0144】
<香り評価>
賦香処理方法
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王株式会社、アタック[粉末、2020年生産品])を用いてタオル(綿100%)10枚、キャミソール(綿60%PE40%)6枚、キャミソール(PE61%レーヨン36%ポリウレタン3%)6枚を株式会社日立製作所製全自動洗濯機NW-6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって過分の薬剤を除去した。1回ごとの洗浄条件は、洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L、水温20℃、洗浄10分、ためすすぎ2回、脱水6分とした。
【0145】
パナソニック株式会社製ドラム式洗濯機NA-VX9300Lに、上述の方法で洗濯したタオル(木綿100%)10枚、キャミソール(木綿60%PE40%)6枚、キャミソール(PE61%レーヨン36%ポリウレタン3%)6枚を入れて、濃縮水性組成物を29.5g(25g/肌着1.5kg)となるように投入し、お任せコースで柔軟処理を行った。なお、柔軟処理を行った際の濃縮水性組成物を水で希釈した水性組成物中の(A)成分の濃度は20ppmであった。柔軟処理後に洗濯物の各素材別に半分を取り出し、20℃40%RHの条件でハンガーにぶら下げて自然乾燥させ、残りは同洗濯機の乾燥お任せコースで乾燥を行った。乾燥時の気体温度は、65℃以上70℃以下であり、乾燥時間は2時間であった。乾燥機で乾燥させた後、20℃40%RHの条件でハンガーにぶら下げて自然乾燥させ、先の半分取り出して乾燥させていた洗濯物と同時期に取り込んだ。なお同洗濯機の乾燥お任せコースで乾燥を行わず取り出した衣類はハンガーにぶら下げて20℃40%RHの条件で18時間自然乾燥を行った。
【0146】
香りの実効感の評価
香りを評価する専門のパネラー5人で香りの評価を行った。前記賦香処理方法により乾燥機で乾燥させた工程を加えた木綿タオル、及び20℃40%RHで自然乾燥させた木綿タオルを、それぞれ水道水を充填したスプレーヤー付き容器を用いてスプレー処理することで10-20%o.w.fとなるように湿潤させた。湿潤させた後に5分静置した。その後、以下の尺度で、乾燥機で乾燥させた工程を加えた木綿タオルと20℃40%RHで自然乾燥させた木綿タオルの香り強度の評価を行い、5人の評価の平均値を評価結果とした。
<香りの強さの評価基準>
3:香りを感じる
2:弱く香りを感じる
1:微弱に香りを感じる
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
表4、表5の結果の通り、本願の実施例である(A)成分を含む水性組成物を用いて柔軟処理をした木綿タオルは、乾燥機で乾燥させる工程を加えることで、香り強度がさらに強くなることが分かる。一方、本願の比較例である(A’)成分を含む水性組成物を用いて柔軟処理した木綿タオルは、本願の実施例よりも香り強度が弱く、また乾燥機で乾燥させる工程を加えた場合、香り強度の増加は見られず、同等以下であることが分かる。