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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20241216BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241216BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20241216BHJP
   B65H 43/08 20060101ALI20241216BHJP
   B65H 43/06 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G03G15/20 530
G03G15/20 555
G03G15/00 303
B65H5/06 M
B65H43/08
G03G15/00 455
B65H43/06
G03G15/00 460
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020147943
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042535
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 正信
(72)【発明者】
【氏名】北川 応樹
(72)【発明者】
【氏名】覚張 光一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寛人
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-156852(JP,A)
【文献】特開2014-034459(JP,A)
【文献】特開2013-120221(JP,A)
【文献】特開2017-054042(JP,A)
【文献】特開2018-180233(JP,A)
【文献】特開2018-115073(JP,A)
【文献】特開2016-060606(JP,A)
【文献】特開2005-077613(JP,A)
【文献】特開2017-207648(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0009271(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/02
5/06
5/22
7/00-7/20
29/12-29/24
29/32
43/00-43/08
G03G 13/00
13/20
13/34-15/00
15/20
15/36
21/00-21/02
21/14-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材にトナー像を形成する画像形成部と、
前記記録材にトナー像を定着する定着部材と、前記定着部材と当接し、記録材を挟持搬送する第一ニップ部を形成する加圧部材と、を有する定着装置と、
前記定着部材を回転させるための第一駆動部と、
記録材の搬送方向において前記第一ニップ部の下流に設けられ、前記第一ニップ部の次に記録材を挟持搬送する第二ニップ部であって、前記第一ニップ部との間の距離が搬送する記録材の長さよりも短い前記第二ニップ部を形成する搬送部と、
前記搬送部を回転させるための第二駆動部と、
記録材を搬送する搬送モードを実行可能な制御部と、を備え、
前記搬送モードでは、記録材が前記第一ニップ部と前記第二ニップ部とに挟持されている期間があり、前記期間は、記録材の先端が前記第二ニップ部を通過する期間を含む第一期間と前記第一期間の後の第二期間とを有し、
前記制御部は、前記搬送モードを実行する場合に、
前記第一期間では、前記搬送部の周速を前記定着部材の周速よりも大きくするように、前記第一駆動部と前記第二駆動部との少なくとも一方を制御し、
前記第二期間では、前記搬送部の周速を前記定着部材の周速よりも小さくするように、前記第一駆動部と前記第二駆動部との少なくとも一方を制御する、
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記搬送方向において、前記第二ニップ部の上流端と前記第一ニップ部の下流端とを結んだ線は、前記第一ニップ部の上流端と下流端とを結んだ線よりも前記定着部材側にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記搬送モードにおいて、前記記録材の先端が前記第二ニップ部に達した後から所定タイミングに達する前まで、前記搬送部の周速度は前記定着部材の周速度よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記搬送モードにおいて、記録材の後端が前記第一ニップ部を通過した後で、記録材の後端が前記第二ニップ部を通過する前の所定タイミングから記録材の後端が前記第二ニップ部を通過するまで、前記搬送部の周速度は前記定着部材の周速度よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記画像形成部は、
前記画像形成部に形成されたトナー像を記録材に転写する転写ニップ部を形成する転写部材と、
前記搬送方向において前記転写ニップ部の下流、且つ、前記第一ニップ部の上流に設けられ、記録材の後端部が前記転写ニップ部を通過したことを検出する搬送検出部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記搬送方向において、前記第一ニップ部と前記第二ニップ部との間の距離は、搬送可能な最小サイズの記録材の長さよりも短い、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記搬送モードの実行を選択可能な操作部を備え、
前記制御部は、前記操作部により前記搬送モードの実行が選択された場合に前記搬送モードを実行する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
湿度を検出する湿度検出部を備え、
前記制御部は、画像形成ジョブ時に、前記湿度検出部の検出結果に基づいて前記搬送モードを自動的に実行する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記制御部は、画像形成ジョブ時に、記録材に関する情報を取得し、前記記録材に関する情報に基づいて前記搬送モードを自動的に実行する、
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記記録材に関する情報は、記録材の坪量であり、
前記制御部は、画像形成ジョブ時に、記録材の坪量が所定値よりも大きい場合に前記搬送モードを実行する、
ことを特徴とする請求項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記制御部は、画像形成ジョブ時に、前記記録材が前記第一ニップ部と前記第二ニップ部の間でループしないように記録材を搬送させる別の搬送モードを実行可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記搬送モードと前記搬送モードとは別の搬送モードとを含む複数のモードのうち、前記制御部が実行するモードを設定する指示を入力可能な操作部を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項13】
前記定着部材はフィルムであり、
前記フィルムを加熱する面状ヒータを備え、
前記面状ヒータは、前記フィルムを介して前記加圧部材を加圧して、前記第一ニップ部を形成する、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリあるいは複合機など、電子写真技術を用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いた画像形成装置は、未定着のトナー像が形成された記録材に熱と圧力を加えることにより、記録材にトナー像を定着させる定着装置を備えている。定着装置として、無端状の定着フィルムと、定着フィルムの外周面に当接して定着フィルムと圧接される加圧ローラと、定着フィルムを加熱するヒータと、を備えた加圧加熱方式のものが提案されている(特許文献1)。定着フィルムは未定着のトナー像が形成される記録材の一面側に配置され、加圧ローラは記録材の反対面側に配置されている。この定着装置では、未定着のトナー像が形成された記録材が定着フィルムと加圧ローラとの間に形成される定着ニップ部を通過する際に、記録材に対し熱と圧力が加えられることにより、トナー像が記録材に定着される。そして、記録材の搬送方向において定着装置の下流には、一対の搬送ローラを有する搬送装置が設けられている。一対の搬送ローラは、定着装置を通過した記録材を挟持して搬送する搬送ニップ部を形成するように、互いに当接している。
【0003】
ところで、記録材が定着装置を通過する際に、記録材の後端部が定着フィルム側に移動して定着フィルムに近づくことがあった。その際に、記録材の後端部が定着フィルムに近づき過ぎると、記録材と定着フィルムとの電位差に起因して、例えばトナー像定着のためにマイナスに帯電された定着フィルムの表面の一部で放電が生じ(所謂、火花放電)、放電が生じた箇所はプラスに転じる。そうなると、連続して搬送される次の記録材が定着ニップ部を通過する際に、プラスに転じた箇所では記録材のトナーが定着フィルムへ移動して定着フィルムに付着するので、これが画像乱れなどを生じさせる原因となる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の装置では、定着フィルム又は加圧ローラに対し、定着フィルムに付着したトナーを引き離すバイアス電圧を印加できるようにしている。また、定着ニップ部を通過する記録材に向けエアを吹き付けて、記録材の後端部が定着フィルム側に移動するのを抑制する装置が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-221983号公報
【文献】特開2015-4833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の装置では、定着フィルム又は加圧ローラに対してトナーを引き離すバイアス電圧を印加する電源や、記録材に気体を吹き付けるエア送風部などを別途設ける必要があり、装置の構成が複雑であるし、またコストがかかっていた。それ故、最近では装置の小型化や低コスト化などの観点から、採用が難しくなっている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、記録材が定着装置を通過する際に、記録材の後端部が定着フィルム側に移動するのを、簡易な構成で抑制することができるようにした画像形成装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る画像形成装置は、記録材にトナー像を形成する画像形成部と、前記記録材にトナー像を定着する定着部材と、前記定着部材と当接し、記録材を挟持搬送する第一ニップ部を形成する加圧部材と、を有する定着装置と、前記定着部材を回転させるための第一駆動部と、記録材の搬送方向において前記第一ニップ部の下流に設けられ、前記第一ニップ部の次に記録材を挟持搬送する第二ニップ部であって、前記第一ニップ部との間の距離が搬送する記録材の長さよりも短い前記第二ニップ部を形成する搬送部と、前記搬送部を回転させるための第二駆動部と、記録材を搬送する搬送モードを実行可能な制御部と、を備え、前記搬送モードでは、記録材が前記第一ニップ部と前記第二ニップ部とに挟持されている期間があり、前記期間は、記録材の先端が前記第二ニップ部を通過する期間を含む第一期間と前記第一期間の後の第二期間とを有し、前記制御部は、前記搬送モードを実行する場合に、前記第一期間では、前記搬送部の周速を前記定着部材の周速よりも大きくするように、前記第一駆動部と前記第二駆動部との少なくとも一方を制御し、前記第二期間では、前記搬送部の周速を前記定着部材の周速よりも小さくするように、前記第一駆動部と前記第二駆動部との少なくとも一方を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録材が定着手段を通過する際に、記録材の後端部が、トナー像が形成される記録材の一面側に配置された第一回転体側に移動するのを、簡易な構成で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の画像形成装置の構成を示す概略図。
図2】第位置実施形態の定着装置と搬送装置とを示す概略図。
図3】制御部について説明する制御ブロック図。
図4】第一実施形態の搬送速度制御処理を示すフローチャート。
図5】第一実施形態における、記録材1枚当たりの搬送速度制御のタイミングチャート。
図6】第一実施形態における、記録材の搬送態様を示す図。
図7】従来例における、記録材1枚当たりの搬送速度制御を示すタイミングチャート。
図8】従来例における、記録材の搬送態様を示す図。
図9】第二実施形態の定着装置と移動機構により移動可能な搬送装置とを示す概略図。
図10】第三実施形態の定着装置と搬送装置と補助搬送装置とを示す概略図。
図11】第三実施形態における記録材1枚当たりの搬送速度制御のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一実施形態>
以下、本実施形態について説明する。まず、本実施形態の画像形成装置の構成について、図1を用いて説明する。図1に示す画像形成装置1は、中間転写ベルト8に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PM、PC、PKを複数備えた中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0012】
[画像形成装置]
画像形成装置1は、図示を省略したが、装置本体に接続された原稿読取装置あるいは装置本体に対し通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ等の外部機器からの画像情報に応じて、記録材Sに画像を形成する装置である。記録材Sとしては、普通紙、厚紙、ラフ紙、凹凸紙、コート紙等の用紙、プラスチックフィルム、布など、といった様々な種類の記録材材が挙げられる。なお、本実施形態の場合、画像形成部PY~PK、一次転写ローラ6Y~6K、中間転写ベルト8、二次転写内ローラ13、二次転写外ローラ14などにより、記録材Sの一面側にトナー像を形成する画像形成手段としての画像形成ユニット300が構成される。
【0013】
記録材Sの搬送プロセスとして、例えば記録材Sはカセット15内に積載されており、給紙ローラ16により画像形成タイミングに合わせて1枚ずつ搬送パス17に供給される。あるいは、不図示の手差しトレイに積載された記録材Sが1枚ずつ搬送パス17に給紙される。記録材Sは搬送パス17の途中に配置されたレジストレーションローラ18へ搬送され、レジストレーションローラ18により記録材Sの斜行補正やタイミング補正が行われた後、二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、対向する二次転写内ローラ13と二次転写外ローラ14とにより形成される転写ニップ部である。二次転写部T2では、転写部材としての二次転写外ローラ14に不図示の高圧電源により二次転写電圧が印加されることで、トナー像が中間転写ベルト8から記録材Sへ二次転写される。
【0014】
上記した二次転写部T2までの記録材Sの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られてくる画像の画像形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部PY、PM、PC、PKについて説明する。ただし、画像形成部PY、PM、PC、PKは、現像装置5Y、5M、5C、5Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外、ほぼ同一に構成される。そこで、以下では代表してイエローの画像形成部PYを例に説明し、その他の画像形成部PM、PC、PKについては説明を省略する。
【0015】
画像形成部PYは、主に感光ドラム2Y、帯電装置3Y、露光装置4Y、及び現像装置5Y等から構成される。不図示のモータにより回転される感光ドラム2Yは、帯電装置3Yにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置4Yによって静電潜像が形成される。次に、感光ドラム2Y上に形成された静電潜像は、現像装置5Yにより現像剤を用いてトナー像に現像される。その後、画像形成部PYと中間転写ベルト8を挟んで対向配置される一次転写ローラ6Yにより所定の加圧力及び一次転写バイアスが与えられて、感光ドラム2Y上に形成されたトナー像が中間転写ベルト8へ一次転写される。像担持体としての中間転写ベルト8は、トナー像を担持して回転する。
【0016】
中間転写ベルト8は、張架ローラ7、二次転写内ローラ13、及びテンションローラ10に張架され、矢印R2方向へと移動するように駆動される。本実施形態の場合、張架ローラ7は中間転写ベルト8を駆動する駆動ローラを兼ねている。上述の画像形成部PY~PKにより処理される各色の作像プロセスは、中間転写ベルト8上に一次転写された移動方向上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト8に形成され、二次転写部T2へと搬送される。
【0017】
以上、それぞれ説明した搬送プロセス及び画像形成プロセスをもって、二次転写部T2において記録材Sとフルカラートナー像のタイミングが一致し、中間転写ベルト8から記録材Sにトナー像が二次転写される。その後、トナー像が転写された記録材Sは定着装置100へ搬送されて、定着装置100により熱と圧力が加えられることにより、トナー像が記録材Sに定着される(加圧加熱方式)。定着装置100によりトナー像が定着された記録材Sは、搬送装置150により排出ローラ対20へ向けて搬送され、排出ローラ対20により機外に設けられた排出トレイ21へ排出される。排出トレイ21には、排出された記録材Sが積載される。
【0018】
[定着装置]
次に、加圧加熱方式の定着装置100について、図2を用いて説明する。図2に示すように、定着装置100は、定着フィルムユニット101と、加圧ローラ120とを備えている。本実施形態の場合、定着フィルムユニット101は加圧ローラ120側へ向け移動可能に設けられている。定着フィルムユニット101は、定着フィルム102、ヒータホルダ103、ステイ104、ヒータ105、温度センサ106を有している。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、上流とは記録材Sの搬送方向(矢印X方向)の上流を指し、下流とは記録材Sの搬送方向の下流を指す。
【0019】
[定着フィルム]
第一回転体としての定着フィルム102は、可撓性を有する無端状のベルト部材である(エンドレスベルト)。定着フィルム102は、基材上に弾性層が形成され、さらに弾性層の上に離形層が形成されたものである。基材は、例えばステンレスを厚さ「30~35μm」の円筒状に形成した金属製フィルムなどである。弾性層は例えば厚さ「200μm」のシリコーンゴム層であり、離形層は例えば厚さ「30μm」のパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂チューブである。そして、定着フィルム102の内周面には潤滑剤としてグリスが塗布されている。これは、定着フィルム102の内周面と、定着フィルム102の内周面に当接する後述のヒータホルダ103やヒータ105との摺動性を向上させるためである。なお、定着フィルム102の基材としては、ステンレス以外にもニッケル、銅、アルミニウム等の金属材料で形成した合金などを用いてもよいし、あるいはポリイミド等の耐熱樹脂などを用いてもよい。
【0020】
[ステイ]
ステイ104は剛性の高い板金などで形成され、定着フィルム102の内側に非回転に配置されている。ステイ104は、不図示の加圧機構により所定の押圧力(例えば、90~320N)で加圧ローラ120側に押圧されている。これにより、定着フィルム102と加圧ローラ120とが互いに圧接され、熱と圧力を加えながら記録材Sを挟持搬送する定着ニップ部N1が形成される。本実施形態の場合、定着ニップ部N1は記録材Sの搬送方向(矢印X方向)において、その長さ(搬送方向長さ)が「約5.5~6.5mm」に形成されている。
【0021】
[ヒータホルダ]
ヒータホルダ103は、例えば耐熱性と断熱性が共に高い樹脂製の部材などで形成され、ステイ104と同様に、定着フィルム102の内側に非回転に配置されている。ヒータホルダ103は、加熱手段としてのヒータ105を保持するとともに定着フィルム102をガイドする。ヒータホルダ103は、ヒータ105が定着フィルム102の内周面に当接して定着フィルム102を加熱できるように、ステイ104と反対側(つまり定着ニップ部N1側)でヒータ105を保持している。これにより、記録材Sが定着ニップ部N1を通過する際に、ヒータ105の熱が定着フィルム102を介して記録材Sに伝導して、トナー像が記録材Sに定着される。ヒータ105は、例えば低熱容量のセラミックヒータである。
【0022】
定着フィルム102の内周面に当接するヒータ105の表面側には、摺擦層として例えば厚さ10μm程度のポリイミド層が形成されている。ヒータ105にポリイミド層を形成することにより、定着フィルム102とヒータ105との摺擦抵抗を低減でき、もって定着フィルム102を回転させるための駆動トルクの低減や定着フィルム102の摺擦による磨耗の低減を図ることができる。なお、本実施形態の場合、ヒータ105の搬送方向長さが「約8.75mm」に対し、定着フィルム102の内周面とヒータ105とが摺擦する搬送方向長さは「約3~4mm」程度に設定した。
【0023】
[温度センサ]
本実施形態では定着フィルム102の温度を管理するために、ヒータ105の温度を検出する温度センサ106が設けられている。本実施形態では、例えばサーミスタセンサなどの接触型の温度センサ106を採用している。ただし、温度センサ106は、非接触型でもよい。温度センサ106は、感熱部がヒータ105の定着フィルム102とは反対側の裏面に接触するように、ヒータホルダ103内に配置されている。なお、温度センサ106は1個に限られず、定着フィルム102の幅方向(加圧ローラ120の回転軸線方向)に亘って複数個が配置されていてもよい。
【0024】
[加圧ローラ]
第二回転体としての加圧ローラ120は、装置本体に回転可能に支持されている。この加圧ローラ120は、定着フィルム102と圧接するように設けられている。加圧ローラ120は、例えばステンレスの芯金121の外周に、厚さ「約3.5mm」のシリコーンゴム等の弾性層122、さらに弾性層122の外周に厚さ「約45~65μm」のPTFE、PFA、FEP等のフッ素樹脂からなる離型層123を有する。なお、加圧ローラ120のアスカ―C硬度は、例えば「約60度」である。
【0025】
上述したように、定着フィルム102と加圧ローラ120とが互いに圧接されることにより、定着ニップ部N1が形成される。それ故、駆動モータ124により加圧ローラ120が回転されると、定着ニップ部N1で生じる摩擦力によって、加圧ローラ120の回転力が定着フィルム102に伝達される。こうして、定着フィルム102は加圧ローラ120により回転駆動される(所謂、加圧ローラ駆動方式)。記録材Sは、これら回転する加圧ローラ120と定着フィルム102とにより形成される定着ニップ部N1で挟持搬送される。
【0026】
上記した定着装置100では、ヒータ105の温度が目標温度に調整された状態で、記録材Sが定着ニップ部N1に案内される。記録材Sは、画像形成ユニット300(図1参照)によりトナー像が形成された一面側を定着フィルム102側に向けて、定着ニップ部N1に侵入する。記録材Sが定着ニップ部N1を通過する際に、ヒータ105の熱が定着フィルム102を介して記録材Sに加えられて、トナー像が記録材Sに定着される。
【0027】
なお、定着装置100は、例えば定着ニップ部N1の最上流部が二次転写部T2の最下流部から「約90mm」離れた位置に位置するように、二次転写部T2の下流に配置されている。本実施形態の場合、記録材Sの後端部(上流側端部)が二次転写部T2を通過する前に、記録材Sの先端部(下流側端部)が定着ニップ部N1に到達する。また、本実施形態では、記録材Sが二次転写部T2を通過したか否かを検出するために、記録材Sの後端部を検出可能な二転後センサ191が、二次転写外ローラ14の下流且つ定着装置100の上流に配置されている。
【0028】
[搬送装置]
次に、搬送装置150について、図2を用いて説明する。搬送手段としての搬送装置150は搬送方向(矢印X方向)において定着装置100の下流に設けられ、回転可能な一対の搬送ローラ151、152を有している。搬送回転体としての搬送ローラ151、152は互いに当接し、記録材Sを挟持搬送する搬送ニップ部N2を形成している。本実施形態では、駆動モータ153によって搬送ローラ151が回転され、搬送ローラ151の回転に従って搬送ローラ152が従動回転する。記録材Sは、これら回転する搬送ローラ151、152により形成される搬送ニップ部N2により挟持搬送される。
【0029】
搬送装置150は定着装置100の下流に、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過する前に記録材Sを挟持して搬送可能な位置に、定着装置100と間隔を空けて配置されている。言い換えるならば、記録材Sの先端部が搬送ニップ部N2の最上流部に到達した時点で、記録材Sの後端部は未だ定着ニップ部N1に挟持搬送された状態にある。即ち、本実施形態では、搬送中の記録材Sが、定着装置100(詳しくは定着ニップ部N1)と搬送装置150(詳しくは搬送ニップ部N2)の両方に挟持された状態を取り得る。例えば、搬送ニップ部N2の最上流部が定着ニップ部N1の最下流部から「約50mm」離れた位置に位置するように、搬送装置150は定着装置100の下流に配置される。
【0030】
また、図2において、点線aは定着装置100の定着ニップ部N1を通る直線を示し、点線bは定着ニップ部N1の最下流部と搬送ニップ部N2の最上流部を結ぶ直線を示す。図2に示すように、搬送装置150は、一対の搬送ローラ151、152の回転軸線方向から視て、点線bが点線aよりも定着フィルム102側に位置するように配置されている。つまり、搬送ニップ部N2が定着ニップ部N1よりも定着フィルム102側に位置するように、搬送装置150は定着装置100に対し相対的に位置づけられている。
【0031】
<制御部>
図1に示すように、画像形成装置1は制御部500を備えている。制御部500について、図1を参照しながら図3を用いて説明する。なお、制御部500は、図示した以外にも例えば画像形成ユニット300の各構成要素を駆動する各種モータや電圧を印加する各種電源などが接続される。しかし、ここでは発明の本旨でないので、それらの図示及び説明を省略する。
【0032】
制御手段としての制御部500は、画像形成動作などの画像形成装置1の各種制御を行うものであり、例えばCPU(Central Processing Unit)501と、メモリ502とを有する。メモリ502はROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などにより構成され、画像形成装置1を制御する各種プログラムや各種データ等が記憶されている。CPU501は、メモリ502に記憶されている例えば画像形成ジョブ(不図示)や搬送速度制御(後述する図4参照)を実行可能であり、記録材Sに画像形成を行うよう画像形成装置1を動作させ得る。なお、メモリ502は各種プログラムの実行に伴う演算処理結果などを一時的に記憶し得る。
【0033】
制御部500には入出力インタフェースを介して、操作部400が接続されている。操作部400は、ユーザによる画像形成ジョブなどの各種プログラムの入力(開始指示など)や各種データの入力などを受け付ける、例えば操作パネルなどである。ユーザは操作部400を用いて、例えば記録材Sに関する情報として記録材Sの種類やサイズを入力したり、画像形成ジョブの開始を指示したりすることができる。また、後述する搬送速度制御(搬送モード)の実行が選択可能であってもよい。
【0034】
画像形成ジョブとは、記録材Sに画像形成するプリント信号に基づいて、画像形成動作を開始してから画像形成動作を完了するまでの一連の動作のことである。即ち、画像形成を行うにあたり必要となる予備動作(所謂、前回転)を開始してから、画像形成工程を経て、画像形成を終了するにあたり必要となる予備動作(所謂、後回転)が完了するまでの一連の動作のことである。具体的には、プリント信号を受けた(画像形成ジョブの入力)後の前回転時(画像形成前の準備動作)から、後回転(画像形成後の動作)までのことを指し、画像形成期間、紙間を含む。
【0035】
また、制御部500には入出力インタフェースを介して、上述した駆動モータ124や駆動モータ153、二転後センサ191、ヒータ105、温度センサ106、温湿度センサ250などが接続されている。制御部500は温度センサ106の検出結果に基づいてヒータ105を制御することにより、画像形成ジョブ時における定着フィルム102の表面温度を所定温度に維持し得る。湿度検出手段としての温湿度センサ250は画像形成装置1が設置されている場所の温度と湿度とを検出可能であり、制御部500は温湿度センサ250の検出結果を取得し得る。
【0036】
制御部500は、第一駆動手段としての駆動モータ124を制御して加圧ローラ120の周速を変更し得る。これにより、定着装置100による記録材Sの搬送速度(便宜上、定着搬送速度(第一搬送速度)と呼ぶ)が調整される。また、制御部500は、第二駆動手段としての駆動モータ153を制御して搬送ローラ151の周速を変更し得る。これにより、搬送装置150による記録材Sの搬送速度(便宜上、後搬送速度(第二搬送速度)と呼ぶ)が調整される。つまり、制御部500は、定着装置100と搬送装置150とにおいて記録材Sの搬送速度を異ならせることができる。制御部500は、搬送検出手段としての二転後センサ191の検出結果に基づいて、二次転写部T2~搬送装置150における搬送中の記録材Sの位置を特定でき、これに応じて定着装置100と搬送装置150それぞれの記録材Sの搬送速度を調整し得る。こうした記録材Sの搬送速度の調整により、定着装置100~搬送装置150間における搬送中の記録材Sの姿勢(搬送態様)が変わる。
【0037】
ところで、搬送ニップ部N2が定着ニップ部N1よりも定着フィルム102側に位置している場合(図2参照)に顕著であるが、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過する際に、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づくように移動することがある。そのときに、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づき過ぎると、定着フィルム102の表面の一部で火花放電が生じる。火花放電が生じると、連続して搬送される次の記録材Sが定着ニップ部N1を通過する際に、記録材Sのトナーが定着フィルム102に付着して画像乱れを生じさせ得る。
【0038】
上記問題に鑑み、本実施形態では、記録材Sの後端部と定着フィルム102との間で火花放電を生じさせないために、定着装置100と搬送装置150それぞれの記録材Sの搬送速度を調整して、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づくのを抑制する。以下、これを実現する第一実施形態の搬送速度制御処理(搬送モード)について、図2及び図3を参照しながら図4乃至図6を用いて説明する。
【0039】
<搬送速度制御処理>
図4は、第一実施形態の搬送速度制御処理を示すフローチャートである。本実施形態の搬送速度制御処理は、画像形成ジョブの開始指示の入力に応じて、制御部500により画像形成ジョブ時に実行される。
【0040】
図4に示すように、制御部500は、加圧ローラ120の周速と搬送ローラ151の周速とが、それぞれ画像形成ユニット300(図1参照)のプロセススピードに応じた異なる初期速度になるように、駆動モータ124と駆動モータ153を制御する(S1)。このとき、制御部500は、記録材Sの先端部が定着ニップ部N1に到達する前に、定着装置100の定着搬送速度に比べて、搬送装置150の後搬送速度を速くするように、駆動モータ124と駆動モータ153とを制御する。つまり、定着装置100の定着搬送速度をVf、搬送装置150の後搬送速度をVeとした場合に、その相対速度差ΔV(Ve‐Vf)が0より大きくなるようにしている(ΔV>0)。
【0041】
その後、制御部500は、二転後センサ191の検出結果に基づいて、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過したか否かを判定する(S2)。ここでは、二転後センサ191により記録材Sの後端部が検出されることに応じて、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過したと看做す。記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過していない場合(S2のNO)、制御部500は、定着装置100の定着搬送速度に比べて、搬送装置150の後搬送速度が速い状態を維持する(ΔV>0)。
【0042】
記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過した場合(S2のYES)、制御部500は加圧ローラ120の周速を増速する一方で、搬送ローラ151の周速を減速するように、駆動モータ124と駆動モータ153とを制御する(S3)。このとき、制御部500は、定着装置100の定着搬送速度に比べて、搬送装置150の後搬送速度を遅くする。つまり、定着装置100の定着搬送速度Vfと搬送装置150の後搬送速度Veの相対速度差ΔVが0より小さくなるようにしている(ΔV<0)。
【0043】
そして、制御部500は、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過したか否かを判定する(S4)。なお、制御部500は、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過したか否かを、例えば二転後センサ191の検出結果(記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過した時間)と、記録材Sの搬送方向長さ、定着装置100の定着搬送速度とから判定できる。
【0044】
記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過していない場合(S4のNO)、制御部500は、定着装置100の定着搬送速度Vfに比べて、搬送装置150の後搬送速度Veが遅い状態を維持する(ΔV<0)。他方、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過した場合(S4のYES)、制御部500は駆動モータ153を制御して、一時的に搬送装置150の後搬送速度Veを初期速度よりも速い速度にする(S5)。つまり、定着装置100の定着搬送速度に比べて、搬送装置150の後搬送速度が速い状態であるが(ΔV>0)、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過していないときに比べると(S1参照)、その相対速度差ΔVが大きくされる。
【0045】
制御部500は一時的に後搬送速度Veを減速前よりも速い速度とした後、駆動モータ124を制御して定着装置100の定着搬送速度Vfを初期速度に戻し、駆動モータ153を制御して搬送装置150の後搬送速度Vcを初期速度に戻す(S6)。このようにして、1枚の記録材Sに対する搬送速度制御が行われる。そして、制御部500は実行中の画像形成ジョブを終了するか否かを判定する(S7)。画像形成ジョブを終了しない場合(S7のNO)、制御部500はステップS2の処理に戻って上記のステップS2~S7の処理を行うことで、後続する次の記録材Sに対する搬送速度制御を行う。画像形成ジョブを終了する場合(S7のYES)、後続する次の記録材Sがないので、制御部500は搬送速度制御処理を終了する。
【0046】
図4に示した本実施形態の搬送速度制御処理について、具体的に説明する。図5は本実施形態における記録材1枚当たりの搬送速度制御のタイミングチャートを示し、図6は本実施形態における記録材Sの搬送態様を示す。ここでは、画像形成ユニット300(図1参照)のプロセススピード(以下、PSと記載)を「300mm/sec」とした場合を例に説明する。なお、図5では、加圧ローラ120の周速を実線で示し、搬送ローラ151の周速を点線で示した。
【0047】
図5に示すように、加圧ローラ120は記録材Sの先端部が定着ニップ部N1に到達する前に、画像形成ユニット300のプロセススピードに応じて「300mm/sec(PS+0.0%)」の周速で回転される(S1参照)。他方、搬送ローラ151は記録材Sの先端部が定着ニップ部N1に到達する前に、画像形成ユニット300のプロセススピードに応じて、「305mm/sec(PS+1.5%)」の周速で回転される(S1参照)。つまり、定着装置100の定着搬送速度Vfと搬送装置150の後搬送速度Veとの相対速度差ΔV(Ve‐Vf)が0より大きい。こうすると、搬送中の記録材Sが定着フィルム102へ巻き付くのを抑制でき、また記録材Sが波うちながら搬送されるのを防止できる。記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過するまで(時刻t1)、定着装置100の定着搬送速度に比べて、搬送装置150の後搬送速度が速い状態に維持される(ΔV>0)。
【0048】
記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過したタイミング(時刻t1)、つまり二転後センサ191により記録材Sの後端部が検出されたタイミングで、加圧ローラ120は周速が「303mm/sec(PS+1.0%)」に増速される(S3参照)。同時に、搬送ローラ151は周速が「300mm/sec(PS+0.0%)」に減速される(S3参照)。即ち、定着装置100の定着搬送速度Vfに比べて、搬送装置150の後搬送速度Veを遅くして、相対速度差ΔVを0より小さくする(ΔV<0)。このとき、記録材Sは二次転写部T2に挟持されていないが、定着装置100(詳しくは定着ニップ部N1)と搬送装置150(詳しくは搬送ニップ部N2)の両方に挟持された状態になっている。
【0049】
その後、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過したら(時刻t2、S4参照)、記録材Sをはやく排出させるために、搬送ローラ151は一時的に周速が「450mm/sec(PS+50%)」まで増速される(S5参照)。そして、加圧ローラ120は周速が「300mm/sec(PS+0.0%)」に戻され、搬送ローラ151は周速が「305mm/sec(PS+1.5%)」に戻される(S6参照)。なお、このとき、次の記録材Sの先端部が定着ニップ部N1に到達する前に、それぞれの周速が上記の「初期速度」に戻される。
【0050】
このように、本実施形態では、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過する前に、搬送装置150の後搬送速度Veを定着装置100の定着搬送速度Vfに対して遅くする(ΔV<0)。そうすると、図6に示すように、記録材Sが定着装置100と搬送装置150の両方に挟持された状態で、定着装置100と搬送装置150の間で、記録材Sを加圧ローラ120側(第二回転体側)に湾曲させながら搬送することができる。こうして記録材Sを加圧ローラ120側に湾曲させながら搬送した場合には、記録材Sが定着ニップ部N1を通過した際に、記録材Sの後端部が定着フィルム102側(第一回転体側)に移動するのを抑制できる。
【0051】
搬送装置150の後搬送速度Veを定着装置100の定着搬送速度Vfに対して遅くするタイミングは、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過してから定着ニップ部N1を通過するまでに変更するのが望ましい(図5の時刻t1~時刻t2参照)。即ち、本実施形態では、搬送速度制御処理の実行時(搬送モード時)、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過するまでは「ΔV>0」とし、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過した後に「ΔV<0」としている。これは以下の理由による。
【0052】
即ち、図6に示すように、記録材Sを加圧ローラ120側に湾曲させるためには、相対速度差ΔVを0より小さくする必要がある(ΔV<0)。ここで、記録材Sの先端部が搬送ニップ部N2に到達した後、すぐに「ΔV<0」とすることも考えられる。しかし、そうした場合には、記録材Sが加圧ローラ120側に必要以上に大きく湾曲しやすくなり、搬送中の記録材Sが定着フィルム102へ巻き付いたり、また記録材Sが波うちながら搬送されたりする虞が生じ得る。また、記録材Sが二次転写部T2を通過している途中に「ΔV<0」とすると、二次転写部T2における記録材Sの挙動が変わり、画像不良が生じる虞がある。
【0053】
この点に鑑み、本実施形態では、記録材Sの後端部が二次転写部T2~定着ニップ部N1を通過する間に、「ΔV<0」とするように制御する。言い換えるならば、本実施形態の搬送速度制御では、搬送装置150の後搬送速度Veと定着装置100の定着搬送速度Vfとが、記録材Sの先端部側の通過時に「ΔV>0」、記録材Sの後端部側の通過時に「ΔV<0」となるように調整される。これにより、記録材Sの巻き付きや波うちを防止しつつ、定着装置100と搬送装置150との間に記録材Sのループを形成することができる。記録材Sのループを形成することにより、上述のように、記録材Sが定着ニップ部N1を通過した際に、記録材Sの後端部が定着フィルム102側に移動するのを抑制できる。
【0054】
<従来例>
ここで、上述した本実施形態と比較するために従来例を示す。図7は従来例における記録材1枚当たりの搬送速度制御のタイミングチャートを示し、図8は従来例における記録材Sの搬送態様を示す。なお、図7では、加圧ローラ120の周速を実線で示し、搬送ローラ151の周速を点線で示した。
【0055】
図7に示すように、従来例では、相対速度差ΔVを0より小さくすることなく(ΔV<0)、相対速度差ΔVを0より大きい状態(ΔV>0)に維持するように、搬送装置150の後搬送速度Veと定着装置100の定着搬送速度Vfとが調整される。この例では、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過するまで(時刻t1)は本実施形態と同様に、加圧ローラ120が「300mm/sec(PS+0.0%)」の周速で、搬送ローラ151が「305mm/sec(PS+1.5%)」の周速で回転される。
【0056】
そして、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過すると(時刻t1)、加圧ローラ120の周速が維持されたまま、搬送ローラ151の周速が「309mm/sec(PS+3.0%)」に増速される。この場合、相対速度差ΔVは0より大きい状態(ΔV>0)である。その後、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過すると(時刻t2)、記録材Sをはやく排出させるために、搬送ローラ151の周速が「450mm/sec(PS+50%)」に増速される。このように、従来例の場合には、搬送装置150の後搬送速度Veと定着装置100の定着搬送速度Vfとが、記録材Sの搬送中、「ΔV>0」に維持するように調整される。図7に示したように、従来例の場合、加圧ローラ120が「300mm/sec(PS+0.0%)」の周速に維持されて、搬送ローラ151の周速が「300mm/sec」を下回らないように適宜変更される。
【0057】
従来例では、搬送装置150の後搬送速度Veが定着装置100の定着搬送速度Vfに対し常に速い(ΔV>0)ので、図8に示すように、記録材Sは定着ニップ部N1の最下流部と搬送ニップ部N2の最上流部を結ぶ直線(点線b)に沿って搬送される。こうした従来例では、搬送中に記録材Sにたるみが生じるのを防止でき、また記録材Sが波うちするのを防止できるという利点がある。しかし、後搬送速度Veが定着搬送速度Vfに対し速いまま、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過すると、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づき過ぎて、定着フィルム102の表面の一部で火花放電が生じ得る。
【0058】
以上のように、本実施形態では、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過する前に、搬送装置150の後搬送速度Veと定着装置100の定着搬送速度Vfとの相対速度差ΔVを0より小さくして(ΔV<0)、記録材Sを加圧ローラ120側に湾曲させる。つまり、記録材Sが定着装置100と搬送装置150の両方に挟持された状態で、定着装置100と搬送装置150の間で、記録材Sを加圧ローラ120側に湾曲させながら搬送させる。これにより、記録材Sが定着装置100を通過する際に、記録材Sの後端部が、トナー像が形成される記録材Sの一面側に配置された定着フィルム102側に移動するのを抑制することができる。したがって、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づき過ぎないので、定着フィルム102の表面の一部で火花放電が生じることがない。
【0059】
なお、上述した実施形態では、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過したタイミングで、定着装置100の定着搬送速度Vfを増速し、搬送装置150の後搬送速度Veを減速することで(図4のS3参照)、「ΔV<0」を実現したが、これに限らない。本発明の特徴は、定着搬送速度Vfと後搬送速度Veとの相対速度差(ΔV)を「ΔV<0」に調整することにあることから、以下の表1に示すような代替制御を採用して、相対速度差「ΔV<0」を実現してもよい。
【表1】
【0060】
例えば、代替制御1のように、定着搬送速度Vfは「300mm/sec(PS+0.0%)」(初期速度)を維持し、後搬送速度Veを「297mm/sec(PS-1.0%)」に減速することで、相対速度差「ΔV<0」を実現してもよい。また、代替制御2のように、後搬送速度Veは「305mm/sec(PS+1.5%)」(初期速度)に維持し、定着搬送速度Vfを「308mm/sec(PS+2.5%)」に増速することで、相対速度差「ΔV<0」を実現してもよい。なお、ここでは、相対速度差ΔVの大きさが同じであるもの(-1.0%)を例に示したが、これに限らず、相対速度差ΔVの大きさは違ってよい。相対速度差(ΔV)が大きいほうが小さいときに比べて、記録材Sの湾曲量(ループ量)をより大きくできる。
【0061】
また、本実施形態の場合、後搬送速度Veを定着搬送速度Vfに対して遅くするタイミングを、記録材Sの後端部が二次転写部T2を通過してから定着ニップ部N1を通過するまでの間でより遅くすれば、「ΔV<0」である時間が短くなる。「ΔV<0」である時間は短いほうが長いときに比べると、定着装置100と搬送装置150の間で湾曲させる記録材Sの湾曲量を小さくできる。したがって、上記した相対速度差ΔVの大きさだけでなく、後搬送速度Veや定着搬送速度Vfを切り替えて「ΔV<0」とするタイミングによって、記録材Sの湾曲量を調整できる。
【0062】
<第二実施形態>
次に、第二実施形態について、図1及び図3を参照しながら図9を用いて説明する。図9に示すように、上述した画像形成装置1において、搬送装置150が移動機構600によって、鉛直方向に移動可能に設けられている場合がある。この構成の場合、制御部500は上述した搬送モード時に、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過する前に、移動手段としての移動機構600によって搬送装置150を加圧ローラ120側(鉛直方向下向き)に向けて移動する。
【0063】
特に、搬送ローラ151、152の回転軸線方向から視て、搬送ニップ部N2が定着ニップ部N1を通る直線(点線a)よりも定着フィルム102側に位置している場合に、記録材Sの後端部が定着ニップ部N1を通過するよりも先に、搬送装置150を加圧ローラ120側に向けて移動させる。そして、制御部500は、記録材Sの後端部が搬送装置150を通過した後に、移動機構600により搬送装置150を鉛直方向上向きに移動させ、元の位置に戻す。
【0064】
このように、搬送装置150を加圧ローラ120側に向けて移動させることで、相対速度差ΔVを調整するだけに比べて、記録材Sの湾曲量(ループ量)をより大きくでき、また短時間に記録材Sを湾曲させることができる。したがって、上記構成の場合でも、記録材Sが定着装置100を通過する際に、記録材Sの後端部が、トナー像が形成される記録材Sの一面側に配置された定着フィルム102側に移動するのを抑制できる。
【0065】
<第三実施形態>
次に、第三実施形態について説明する。図10に示すように、本実施形態の場合、記録材Sの搬送方向(矢印X方向)において定着装置100と搬送装置150の間に、記録材Sを挟持搬送する一対の補助ローラ161、162を有する補助搬送装置160が設けられている。補助搬送手段としての補助搬送装置160では、補助ローラ161が加圧ローラ120を駆動する駆動モータ124によって、所定の速度差で加圧ローラ120に連動して回転される。即ち、補助ローラ161と加圧ローラ120とは、不図示のギアによって駆動モータ124に連結されている。補助ローラ162は、補助ローラ161の回転に従って従動回転する。
【0066】
本実施形態の搬送速度制御について、図1図3図10を参照しながら図11を用いて説明をする。上述の第一実施形態と同様に、制御部500は記録材Sの後端部が二転後センサ191を通過したタイミングで、加圧ローラ120の周速を減速する一方で、搬送ローラ151の周速を増速するように、駆動モータ124と駆動モータ153とを制御する。具体的に、加圧ローラ120に関しては駆動モータ124によって周速を「309mm/sec(PS+3.0%)」に増速し、搬送ローラ151に関しては駆動モータ153によって周速を「300mm/sec(PS+0.0%)」に減速する。即ち、上述の第一実施形態に比較すると(303mm/sec(PS+1.0%))、加圧ローラ120の周速が速い。つまり、定着装置100の定着搬送速度Vfと搬送装置150の後搬送速度Veの相対速度差ΔV(Ve‐Vf)が0より大きくなるようにしているが(ΔV>0)、上述の第一実施形態に比較して相対速度差ΔVがより大きくなるようにしている。
【0067】
そして、本実施形態の場合、補助回転体としての補助ローラ161、162は互いに当接して記録材Sを搬送するニップ部N3を形成しているが、そのニップ部N3の圧力は搬送ニップ部N2の圧力よりも小さい。そのため、上述の第一実施形態に比較して相対速度差ΔVをより大きくすることで、搬送装置150と補助搬送装置160との間で記録材Sが湾曲して第一のループを形成する。また、第一のループの形成に応じて、補助搬送装置160と定着装置100との間でも記録材Sが湾曲して第二のループを形成する。このように、定着装置100と搬送装置150の間に補助搬送装置160があっても、定着装置100と補助搬送装置160の間で記録材Sを湾曲させることができる。したがって、上記構成の場合でも、記録材Sが定着装置100を通過する際に、記録材Sの後端部が、トナー像が形成される記録材Sの一面側に配置された定着フィルム102側に移動するのを抑制できる、という上述した第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0068】
<他の実施形態>
なお、上述した搬送速度制御は、ユーザが実行を選択した場合にのみ、画像形成ジョブ時に実行するようにしてよい。即ち、通常の搬送速度制御として画像形成ジョブ時に、上述した従来例で示したように、搬送装置150の後搬送速度Veが定着装置100の定着搬送速度Vfに対し常に速くすることで(ΔV>0)、記録材Sの巻き付きや波うちを防止させる。そして、記録材Sの後端部が定着フィルム102に近づくことによる放電に起因した画像不良が発生した際の回避モードとして、本実施形態の搬送速度制御の実行がユーザにより操作部400から選択されている場合にのみ、実行するようにしてよい。
【0069】
また、上記の放電に起因した画像不良は、低湿環境であるほど、また高抵抗かつ低水分量の記録材Sであるほど生じやすい。そのため、例えば温湿度センサ250の検出結果や記録材Sの種類に対応する坪量などに基づいて、放電が生じる可能性がある場合には、画像形成ジョブ時に本実施形態の搬送速度制御を自動的に実行するようにしてもよい。例えば、記録材の坪量が所定値よりも大きい場合に本実施形態の搬送速度制御を自動的に実行する。このように、搬送速度制御を自動的に実行できるようにすると、ユーザにストレスを与えることなく、記録材Sの巻き付きや波うちを防止することと、放電起因の画像不良の抑制とを両立することができる。
【0070】
なお、上述の実施形態では、加熱手段として定着フィルム102に当接させたヒータ105を例に示したが、これに限らず、定着フィルム102に当接させずに加熱可能なハロゲンランプ(ハロゲンヒータ)や赤外線ヒータなどであってもよい。
【0071】
なお、上述の実施形態では、各色の感光ドラム2Y~2Kから中間転写ベルト8に各色のトナー像を一次転写した後に、記録材Sに各色のトナー像を一括して二次転写する構成の画像形成装置1を例に説明したが、これに限らない。例えば、感光ドラム2Y~2Kから記録材Sにトナー像を直接転写する直接転写方式の画像形成装置であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…画像形成装置、8…像担持体(中間転写ベルト)、14…転写部材(二次転写外ローラ)、100…定着手段(定着装置)、102…第一回転体(定着フィルム)、105…加熱手段(ヒータ)、120…第二回転体(加圧ローラ)、124…第一駆動手段(駆動モータ)、150…搬送手段(搬送装置)、151(152)…搬送回転体(搬送ローラ)、153…第二駆動手段(駆動モータ)、160…補助搬送手段(補助搬送装置)、161(162)…補助回転体(補助ローラ)、191…搬送検出手段(二転後センサ)、250…湿度検出手段(温湿度センサ)、300…画像形成手段(画像形成ユニット)、400…操作部、500…制御手段(制御部)、600…移動手段(移動機構)、N1…定着ニップ部、N2…搬送ニップ部、S…記録材、T2…転写ニップ部(二次転写部)
図1
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