(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 23/10 20230101AFI20241216BHJP
G06T 7/90 20170101ALI20241216BHJP
【FI】
H04N23/10
G06T7/90 A
(21)【出願番号】P 2020153585
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆広
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-216409(JP,A)
【文献】特開2015-111822(JP,A)
【文献】特開2004-321793(JP,A)
【文献】特開2006-254309(JP,A)
【文献】特開2006-050536(JP,A)
【文献】特開2020-088800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 23/10
G06T 1/00
G06T 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の色を評価するための画像処理装置であって、
前記対象物と、反射率が互いに異なる色票群と、を同一画角内に含めて撮像を行って得られる画像データを取得する取得手段と、
前記画像データに基づいて、
前記色票群に含まれる色票に対応する画素の画素値が飽和しているか否かを判定し、判定した結果に基づいて、前記撮像の際の露出条件における基準白色の値を推定するための色票を選択する選択手段と、
前記選択された色票に対応する画素の画素値に基づいて、前記基準白色の値を推定する推定手段と、
前記画像データと、前記推定された基準白色の値と、に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記取得手段は、前記画像データから、前記対象物における対象の領域に含まれる画素の画素値と、前記色票群に含まれる各色票に対応する画素の画素値と、を取得し、
前記推定手段は、前記色票群に含まれる各色票に対応する画素の画素値に基づいて、前記基準白色の値を推定し、
前記算出手段は、前記対象物における対象の領域に含まれる画素の画素値と、前記推定された基準白色の値と、に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記選択手段は、前記色票群に含まれる色票に対応する画素の画素値が飽和しているか否かの判定を、反射率が高い色票から順に行うことを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記取得手段は、前記撮像の際の露出条件を表す露出情報を取得し、
前記算出手段は、前記露出情報に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出することを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記取得手段は、適正露出に対応する露出情報を取得し、
前記算出手段は、前記撮像の際の露出条件を表す露出情報と、前記適正露出に対応する露出情報と、に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出することを特徴とする請求項
4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記撮像の際の露出条件は、前記適正露出に対してオーバーな露出条件であることを特徴とする請求項
5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記対象物における対象の領域と前記色票群とについての指示入力を受け付けるための表示を行うように表示手段を制御する表示制御手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記推定手段は、前記撮像を行う撮像装置の色特性に基づいて、前記基準白色の値を推定することを特徴とする請求項1乃至請求項
7の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
コンピュータを請求項1乃至請求項
8のいずれか一項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【請求項10】
対象物の色を評価するための画像処理方法であって、
前記対象物と、反射率が互いに異なる色票群と、を同一画角内に含めて撮像を行って得られる画像データを取得する取得ステップと、
前記画像データに基づいて、
前記色票群に含まれる色票に対応する画素の画素値が飽和しているか否かを判定し、判定した結果に基づいて、前記撮像の際の露出条件における基準白色の値を推定するための色票を選択する選択ステップと、
前記選択された色票に対応する画素の画素値に基づいて、前記基準白色の値を推定する推定ステップと、
前記画像データと、前記推定された基準白色の値と、に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出する算出ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー画像の色を変換するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラが物体の色の検査に用いられることが多くなってきている。例えば、検査対象物の撮像画像における画素値を、予め作成しておいたカラープロファイルと基準白色の値とを用いて変換し、対象物の色を評価する技術がある。このような色の検査技術においては、カラープロファイルを作成するために行った撮像の際の露出条件と、検査対象物を撮像する際の露出条件と、を一致させる必要がある。そのため、検査を行う際の照明環境に基づいて適正な露出条件を設定し、設定した適正な露出条件に露出条件を統一させてから撮像を行うのが一般的である。
【0003】
しかしながら、検査対象物が黒やネイビーなどの暗い色である場合、設定した適正な露出条件における撮像では光量が足りずに画素値のSN比が悪くなってしまい、正確な色の検査ができない場合がある。これに対して、特許文献1は、測定対象の物体と白色板とを異なる露出条件において撮像し、露出条件の差に基づいて白色板の撮像画像における画素値を補正する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、検査対象物の撮像と基準白色用の撮像とを別々に行う必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、検査対象物が暗い色の場合であっても、検査対象物の撮像と基準白色用の撮像とを別々に行うことなく、検査対象物の色評価用の色値を得るための画像処理を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る画像処理装置は、対象物の色を評価するための画像処理装置であって、前記対象物と、反射率が互いに異なる色票群と、を同一画角内に含めて撮像を行って得られる画像データを取得する取得手段と、前記画像データに基づいて、前記色票群に含まれる色票に対応する画素の画素値が飽和しているか否かを判定し、判定した結果に基づいて、前記撮像の際の露出条件における基準白色の値を推定するための色票を選択する選択手段と、前記選択された色票に対応する画素の画素値に基づいて、前記基準白色の値を推定する推定手段と、前記画像データと、前記推定された基準白色の値と、に基づいて、前記対象物の色を評価するための色値を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、検査対象物が暗い色の場合であっても、検査対象物の撮像と基準白色用の撮像とを別々に行うことなく、検査対象物の色評価用の色値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】画像処理装置のハードウェア構成を示すブロック図
【
図3】画像処理装置における処理を示すフローチャート
【
図8】基準白色の値を推定する処理の概要を説明するための図
【
図9】基準白色の値を推定する処理を示すフローチャート
【
図10】CIE三刺激値を算出する処理の概要を説明するための図
【
図11】CIE三刺激値を算出する処理を示すフローチャート
【
図13】基準白色の値を推定する処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の実施形態は本発明を必ずしも限定するものではない。また、本実施形態において説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態においては、検査対象物と基準白色用の色票群とを同一画角内に含めて撮像を行い、画素値が飽和しているか否かに応じて色票群から色票を選択し、選択した色票に対応する画素値を基に基準白色の値を推定する。尚、本実施形態における検査対象物は暗い色の物体である。暗い色の例としては、黒やネイビーなどの色の塗装が施された金属を、照明から入射した光の正反射方向と異なる方向で観察する場合の色が挙げられる。
【0012】
<画像処理装置のハードウェア構成>
本実施形態における画像処理装置1のハードウェア構成について、
図1を参照して説明する。画像処理装置1は、CPU101、RAM102、HDD103、汎用インタフェース(I/F)104、メインバス109を備える。汎用I/F104は、デジタルカメラなどの撮像装置105、マウスやキーボードなどの入力装置106、メモリーカードなどの外部メモリ107、モニタ108をメインバス109に接続するためのインタフェースである。
【0013】
以下においては、CPU101がHDD103に格納された各種ソフトウェア(コンピュータプログラム)を動作させることにより実現する各種処理について述べる。まず、CPU101はHDD103に格納されている画像処理アプリケーションを起動し、RAM102に展開するとともに、モニタ108にユーザインタフェース(UI)を表示する。続いて、HDD103や外部メモリ107に格納されている各種データ、撮像装置105において生成された画像データ、入力装置106を介したユーザ指示などがRAM102に転送される。さらに、画像処理アプリケーション内の処理に従って、RAM102に格納されている画像データに対してCPU101からの指令に基づき各種演算が行われる。演算結果は、モニタ108に表示されたり、HDD103や外部メモリ107に格納されたりする。
【0014】
<画像処理装置の論理構成>
図2は、画像処理装置1の論理構成を示すブロック図である。画像処理装置1は、CPU101がHDD103に格納されたプログラムをRAM103をワークメモリとして実行することによって、
図2に示す論理構成として機能する。尚、以下に示す処理の全てが必ずしもCPU101によって実行される必要はなく、処理の一部または全てがCPU101以外の一つまたは複数の処理回路によって行われるように画像処理装置1が構成されていてもよい。
【0015】
画像処理装置1は、表示制御部201、取得部202、色票選択部203、白色推定部204、評価値算出部205、出力部206を有する。表示制御部201は、モニタ108にユーザからの指示入力を受け付けるためのUIを表示する。本実施形態において表示されるUIの例を
図4に示す。指定領域401は、検査対象物と基準白色用の色票群とを同一画角内に含めて撮像して得られる画像データをユーザが指定するための領域である。画像表示領域402には、ユーザによって指定された画像データが表す画像が表示される。指定領域403は、ユーザが検査対象の領域を指定するための領域である。指定領域404は、ユーザが色票群を指定するための領域である。色値表示領域405には、ユーザにより指定された検査対象の領域に対応する色値が表示される。開始ボタン406は、ユーザの指示入力に応じて、検査対象物の色評価用の色値を算出する処理を開始するためのボタンである。終了ボタン407は、ユーザの指示入力に応じて、処理の終了に関する動作を実行するためのボタンである。
【0016】
取得部202は、ユーザによって指定された画像データが表す画像から、検査対象の領域に対応する画素値と、色票群に対応する画素値と、を取得する。また、取得部202は、撮像の際の露出条件を表す露出情報を取得する。本実施形態においては、上述したように、検査対象物と基準白色用の色票群とを同一画角内に含めて撮像を行う。また、本実施形態における色票群に含まれる色票は、無彩色のグレイ色票である。本実施形態におけるグレイ色票群の例を
図5に示す。
図5(a)に示すように、グレイ色票群は色票501から色票508までの8種のグレイ色票から構成される。
図5(b)に示すように、グレイ色票の分光反射率は、概ね100%から30%までの10%刻みとなっている。色票選択部203は、取得部202が取得した色票群に対応する画素値に基づいて、基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する。白色推定部204は、選択された色票に対応する画素値に基づいて、基準白色の値を推定する。評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値と露出情報と基準白色の値とに基づいて、検査対象の領域に対応する色値(評価値)を算出する。出力部206は、算出された検査対象の領域に対応する色値を出力する。本実施形態における出力部206は、検査対象の領域に対応する色値を色値表示領域405に表示する。
【0017】
<画像処理装置における処理>
図3は、画像処理装置における処理を示すフローチャートである。
図3のフローチャートが示す処理は、ユーザによって入力装置106を介して指示が入力され、CPU101が入力された指示を受け付けることにより開始する。以下、各ステップ(工程)は符号の前にSをつけて表す。
【0018】
S301において、表示制御部201は、モニタ108にユーザからの指示入力を受け付けるためのUIを表示する。具体的には、表示制御部201は、指定領域401において画像データの指定を受け付けると、指定された画像データが表す画像を画像表示領域402に表示する。表示制御部201は、指定領域403及び指定領域404において検査対象の領域及び色票群の指定を受け付け、開始ボタン406が押下されると、処理をS302に進める。
【0019】
S302において、取得部202は、ユーザによって指定された画像データに対応する露出条件を表す露出情報を取得する。露出情報は、シャッタースピード(TV)、絞り(AV)、感度(ISO)を含み、画像データのexif情報から取得することができる。以下、S302において取得するシャッタースピードをTVimg、絞りをAVimg、感度をISOimgとする。
【0020】
S303において、取得部202は、ユーザによって指定された画像データが表す画像から、検査対象の領域に対応する画素値を取得する。検査対象の領域が複数の画素を含む場合は、取得部202は、検査対象の領域に対応する画素値群を取得し、画素値群の平均値を算出する。以下、画素値群の平均値を検査対象の領域に対応する画素値として扱う。尚、ユーザによって指定された画像データが表す画像の画素値は、RGB値(R,G,B)である。以下において、検査対象の領域に対応する画素値をRGB値(Rimg,Gimg,Bimg)とする。
【0021】
S304において、取得部202は、ユーザによって指定された画像データが表す画像から、色票群に対応する画素値を取得する。具体的には、取得部202は、指定領域404において8種のグレイ色票それぞれが個別に指定されている場合は、それぞれの画素値(又は画素値群の平均値)を取得する。取得部202は、指定領域404においてグレイ色票群がまとめて指定されている場合は、公知の方法により算出した各グレイ色票の位置に基づいて、それぞれの画素値(又は画素値群の平均値)を取得する。
【0022】
S305において、色票選択部203は、S304において取得された色票群に対応する画素値に基づいて、基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する。基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する処理の詳細については後述する。S306において、白色推定部204は、選択された色票に対応する画素値に基づいて、基準白色の値を推定する。基準白色の値を推定する処理の詳細については後述する。S307において、評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値と露出情報と基準白色の値とに基づいて、検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値を算出する。検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値を算出する処理の詳細については後述する。
【0023】
S308において、評価値算出部205は、検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値に基づいて、検査対象の領域に対応する評価値を算出する。本実施形態における評価値はCIELAB値(L*,a*,b*)である。具体的には、評価値算出部205は、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、式(5)に従って、CIE三刺激値をCIELAB値(L*,a*,b*)に変換する。ここで、検査対象の領域に対応するCIE三刺激値を(X,Y,Z)とし、基準白色のCIE三刺激値を(XW,YW,ZW)とする。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
S309において、出力部206は、検査対象の領域に対応するCIELAB値(L*,a*,b*)を色値表示領域405に表示する。
【0030】
<基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する処理>
まず、基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する処理の概要について説明する。S305において、色票選択部203は、グレイ色票群から、撮像画像において画素値が飽和していないグレイ色票を選択する。画素値の飽和について
図6を用いて説明する。デジタルカメラのイメージセンサは、入射光量に応じた電荷を蓄積する光電変換素子において光電変換を行う。そのため、入射光量に対して概ね線形に画素値が記録される。しかしながら、イメージセンサのダイナミックレンジを超える光を受光すると、入射光量に対する画素値の線形性が保たれなくなる。これに対して、イメージセンサに入射される光量を露出設定によって調整し、上述した線形性が保たれるように撮像を行うことが一般的に行われる。
図6に適正露出に対応する撮像特性を示す。
【0031】
暗い色の検査対象物を撮像する場合は、画素値のSN比が悪くならないように適正露出ではなくオーバー露出で撮像を行うため、撮像シーン内の明るい領域(輝度が高い領域)に対応する画素値が飽和する。
図6にオーバー露出に対応する撮像特性を示す。本実施形態のように、暗い色の検査対象物と基準白色用の色票とを同一画角内に含めて撮像する場合、暗い色の検査対象物に適した露出条件において撮像を行うため、基準白色用の色票に対応する画素値が飽和してしまう。そこで、本実施形態においては、暗い色の検査対象物に適した露出条件において撮像を行って得られる画像において、画素値が飽和していないグレイ色票を選択し、選択したグレイ色票を基に基準白色の値を推定する。
【0032】
図7は、基準白色の値を推定するために用いる色票を選択する処理を示すフローチャートである。S701において、色票選択部203は、グレイ色票のカウンタiを1に設定する。本実施形態においてはグレイ色票の数が8であるため、カウンタの最大値は8である。また、分光反射率が高いグレイ色票から順に番号付けされているものとする。
【0033】
S702において、色票選択部203は、i番目のグレイ色票に対応する画素値を取得する。S703において、色票選択部203は、S702において取得したi番目のグレイ色票に対応する画素値が飽和しているか否かを判定する。例えば、撮像画像の画素値が8bitで記録されている場合は、R,G,Bそれぞれのチャネルの最大信号値は255である。よって、255の信号値に対応するシーン輝度よりも大きいシーン輝度の領域を暗い色の検査対象物に適した露出条件において撮像すると画素値が飽和する。色票選択部203は、グレイ色票に対応する画素値における各チャネルの値が255であるか否かを判定する。色票選択部203は、少なくとも1つのチャネルの値が255である場合、そのグレイ色票に対応する画素値が飽和していると判定する。画素値が飽和している場合はS705に進み、画素値が飽和していない場合はS704に進む。
【0034】
S704において、色票選択部203は、グレイ色票の番号iとその画素値とをメモリに格納してS305の処理を終了する。S705において、色票選択部203は、カウンタiに対する判定を行う。色票選択部203は、i=8の場合に、全てのグレイ色票に対応する画素値が飽和していることになるため、S707に進み、エラー情報をメモリに格納してS305の処理を終了する。色票選択部203は、i≠8の場合に、次のグレイ色票に対する判定を行うために、S706に進み、カウンタiを更新してS702に戻る。
【0035】
このように処理を行うことにより、画素値が飽和していないグレイ色票の中で最も反射率が高いグレイ色票を選択することができる。最も反射率が高いグレイ色票を選択することにより、画素値が飽和していない、かつ、最もSN比が良いデータを用いて基準白色の値を推定することができる。
【0036】
<基準白色の値を推定する処理>
基準白色の値を推定する処理の概要について、
図8を用いて説明する。S306において、白色推定部204は、S305において選択されたグレイ色票に対応する画素値に基づいて、暗い色の検査対象物に適した露出条件における撮像に対応する基準白色の値を推定する。
図8に示すように、本実施形態における露出条件はいわゆるオーバー露出である。
図8の黒丸がグレイ色票群に含まれる各グレイ色票を示し、
図8の星が選択されるグレイ色票を示す。このオーバー露出において撮像されるグレイ色票群の中から、画素値が飽和していない、かつ、最も反射率が高いグレイ色票が選択される。白色推定部204は、選択されたグレイ色票に対応する画素値を基に、
図8の白丸に示す、基準白色の値を推定する。
【0037】
図9は、基準白色の値を推定する処理を示すフローチャートである。S901において、白色推定部204は、S305において選択されたグレイ色票の番号iとその画素値とを取得する。S902において、白色推定部204は、番号iのグレイ色票の分光反射率を取得する。本実施形態においては、S305においてi=4のグレイ色票が選択されたものとし、i=4のグレイ色票の分光反射率は、可視波長域全域において70%であるとして以下の処理を説明する。
【0038】
S903において、白色推定部204は、番号iのグレイ色票の分光反射率と基準白色の分光反射率との比を算出する。基準白色の分光反射率が可視波長域全域において100%であると仮定すると、算出される分光反射率の比ratioは、以下の式(6)のようになる。
【0039】
【0040】
S904において、白色推定部204は、分光反射率の比に基づいて、オーバー露出における撮像に対応する基準白色の値を以下の式(7)を用いて推定する。
【0041】
【0042】
ここで、R4,G4,B4はそれぞれi=4のグレイ色票の画素値であり、RW,GW,BWはそれぞれ基準白色の値である。
【0043】
<検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値を算出する処理>
検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値を算出する処理の概要について、
図10を用いて説明する。S307において、評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値と基準白色の値とをCIE三刺激値に変換する。具体的には、評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値(R
img,G
img,B
img)をCIE三刺激値(X,Y,Z)に変換し、基準白色の値(R
W,G
W,B
W)をCIE三刺激値(X
W,Y
W,Z
W)に変換する。
【0044】
本実施形態における露出条件は、画素値のSN比を考慮して、適正露出に対してオーバー露出である。しかしながら、RGB値からCIE三刺激値に変換するためのカラープロファイルは、様々な色の検査対象に対応するためにシーンに対して適正露出で作成されるのが一般的である。そのため、一般的なカラープロファイルを使用してCIE三刺激値を算出するためには、オーバー露出において撮像して得られる画像の画素値を適正露出相当の値に補正する補正処理を行う必要がある。この補正処理を
図10における点線矢印に示す。そこで、評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値と基準白色の値とを、オーバー露出と適正露出との差に応じて適正露出相当の値に変換する。さらに、評価値算出部205は、変換された値とカラープロファイルとを用いて、CIE三刺激値を算出する。
【0045】
図11は、検査対象の領域及び基準白色に対応するCIE三刺激値を算出する処理を示すフローチャートである。S1101において、評価値算出部205は、検査対象物及び色票群の撮像時の露出情報(TV
img、AV
img、ISO
img)を取得する。S1102において、評価値算出部205は、適正露出に対応する露出情報を取得する。適正露出は撮像時の照明環境によって決まり、適正露出に対応する露出情報は露出計を用いた測定により得られる。以下において、適正露出に対応する露出情報を、シャッタースピードTV
ref、絞りAV
ref、感度ISO
refとする。
【0046】
S1103において、評価値算出部205は、検査対象の領域に対応する画素値と基準白色の値とを補正するための露出補正係数を算出する。評価値算出部205は、シャッタースピード、絞り、感度それぞれに対応する露出補正係数(α,β,γ)を以下の式(8)、式(9)、式(10)に従って算出する。
【0047】
α=TVref/TVimg ・・・式(8)
β=(AVimg/AVref)2 ・・・式(9)
γ=ISOref/ISOimg ・・・式(10)
また、評価値算出部205は、露出補正係数(α,β,γ)を以下の式(11)に従って積算することにより、総合的な露出補正係数δを算出する。
【0048】
δ=α×β×γ 式(11)
ここで、露出補正係数を具体的な数値を用いて説明する。例えば、適正露出に対応するシャッタースピードTVrefが1/200、絞りAVrefがF8、感度ISOrefが200であるとする。これに対し、検査対象物及び色票群の撮像時のシャッタースピードTVimgが1/50、絞りAVimgがF8、感度ISOimgが200であるとし、適正露出よりもオーバー露出で撮像が行われたとする。この場合、式(11)に従って露出補正係数δを算出すると、露出補正係数δは1/4となる。以上のように、S1103においては、露出差に応じて露出補正係数が算出される。
【0049】
S1104において、評価値算出部205は、S1103において算出した露出補正係数δを用いて、検査対象の領域に対応する画素値と基準白色の値とを補正する。具体的には、評価値算出部205は、以下の式(12)、式(13)に従って、検査対象の領域に対応する画素値(Rimg,Gimg,Bimg)と基準白色の値(RW,GW,BW)とを補正する。
【0050】
【0051】
【0052】
ここで、(Rimg’,Gimg’,Bimg’)は、補正された、検査対象の領域に対応する画素値である。(RW’,GW’,BW’)は、補正された、基準白色の値である。
【0053】
S1105において、評価値算出部205は、S1104における補正により得られる(Rimg’,Gimg’,Bimg’)及び(RW’,GW’,BW’)を、CIE三刺激値に変換する。CIE三刺激値への変換には、適正な露出条件下で予め作成しておいたカラープロファイルが使用される。カラープロファイルには様々な形式があるが、本実施形態においては、カラープロファイルの形式を3×3のマトリクスであるとする。評価値算出部205は、以下の式(14)により、検査対象の領域に対応する画素値(Rimg’,Gimg’,Bimg’)をCIE三刺激値(X,Y,Z)に変換し、基準白色の値(RW’,GW’,BW’)をCIE三刺激値(XW,YW,ZW)に変換する。尚、m00からm22はカラープロファイルに記載されている9つのマトリクス係数である。
【0054】
【0055】
<第1実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態にける画像処理装置は、対象物の色を評価するための画像処理装置であって、対象物と、反射率が互いに異なる色票群と、を同一画角内に含めて撮像を行って得られる画像データを取得する。取得した画像データに基づいて、撮像の際の露出条件における基準白色の値を推定し、画像データと、推定した基準白色の値と、に基づいて、対象物の色を評価するための色値を算出する。これにより、検査対象物が暗い色の場合であっても、検査対象物の撮像と基準白色用の撮像とを別々に行うことなく、検査対象物の色評価用の色値を得ることができる。
【0056】
[第2実施形態]
第1実施形態においては、波長に対して反射率がほぼ一定なグレイ色票群を用いて基準白色の値を推定した。本実施形態においては、波長ごとに反射率が異なる色票群を用いて基準白色の値を推定する。尚、本実施形態における画像処理装置のハードウェア構成及び機能構成は第1実施形態のものと同等であるため、説明を省略する。以下において、本実施形態と第1実施形態とで異なるS306の処理を主に説明する。尚、第1実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して説明する。
【0057】
<基準白色の値を推定する処理>
基準白色の値を推定するための色票は、印刷に用いられる色材などに応じて分光的に反射率が一定にならない場合がある。本実施形態において用いられる色票群は、短波長側よりも長波長側で光の吸収率が高い色材を使用して作成された色票である。本実施形態における色票群の例を
図12に示す。
図12(a)に示すように、色票群は色票1201から色票1208までの8種の色票から構成される。
図12(b)に示すように、反射率が高い色票1201に比べて、反射率が低い色票1208は、短波長側に対して長波長側の反射率が相対的に低いことがわかる。以下において、色票の反射率が波長に対して一定でない場合の、基準白色の値の推定処理について説明する。
【0058】
図13は、基準白色の値を推定する処理を示すフローチャートである。S1301において、白色推定部204は、S305において選択された色票の番号iとその画素値とを取得する。S1302において、白色推定部204は、番号iの色票の分光反射率R(λ)を取得する。本実施形態においては、S305においてi=4の色票が選択されたものとし、i=4の色票の分光反射率をR
4(λ)とする。S1303において、白色推定部204は、撮像装置105の色特性を表す色特性情報を取得する。本実施形態における撮像装置105の色特性は、撮像装置105の内部に設置されているRGBのカラーフィルタ及びイメージセンサの分光特性である。撮像装置105に入射した光は、各カラーフィルタを介してイメージセンサにおいて受光され、色信号(すなわち画素値)に変換される。この光電変換における特性が概ね撮像装置105固有の色再現特性となる。
図14に、撮像装置105の色特性の例を示す。
図14(a)はカラーフィルタの分光特性(r(λ),g(λ),b(λ))の例を示し、
図14(b)はイメージセンサの分光特性s(λ)の例を示す。
【0059】
S1304において、白色推定部204は、S1302において取得した色票の分光反射率R4(λ)と撮像装置105の色特性との積分値を式(15)により算出する。
【0060】
【0061】
ここで、(r4、g4、b4)は、色票の分光反射率R4(λ)と撮像装置105の色特性との積分値である。(r4、g4、b4)は、可視光の波長域において分光的に放射輝度が一定な光源下で、色票を撮像装置105を用いて撮像した場合の画素値の推定値を示す。
【0062】
S1305において、白色推定部204は、S1304において算出した積分値と、基準白色に対応する積分値と、の比を算出する。まず、白色推定部204は、式(15)のR4(λ)を1に変更した式を用いて、基準白色に対応する積分値(rW,gW,bW)を算出する。次に、白色推定部204は、式(16)により、色票に対応する積分値(r4、g4、b4)と基準白色に対応する積分値(rW,gW,bW)とを用いて比率(ratior,ratiog,ratiob)を算出する。
【0063】
【0064】
S1306において、白色推定部204は、比率(ratior,ratiog,ratiob)に基づいて、オーバー露出における撮像に対応する基準白色の値を式(17)により推定する。
【0065】
【0066】
ここで、R4,G4,B4はそれぞれi=4の色票の画素値であり、RW,GW,BWはそれぞれ基準白色の値である。
【0067】
<第2実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態にける画像処理装置は、色票及び基準白色の分光反射率と撮像装置の色特性との積分値を用いて、基準白色の値を推定する。これにより、検査対象物が暗い色で、かつ、波長ごとに反射率が異なる色票群を用いる場合であっても、検査対象物の撮像と基準白色用の撮像とを別々に行うことなく、検査対象物の色評価用の色値を得ることができる。
【0068】
[その他の実施形態]
上述した実施形態における色票選択部203は、画素値が飽和しているか否かを、画素値が255(最大信号値)であるか否かで判定したが、他の方法で判定を行ってもよい。例えば、撮像装置によっては、実際に画素値が飽和するよりも低輝度で滑らかに画素値を飽和させる場合がある。この場合は、イメージセンサの特性に基づいて、線形性が保たれている画素値の範囲を基準に、画素値が飽和しているか否かを判定してもよい。
【0069】
上述した実施形態においては、適正露出に対応する露出情報を、露出計を用いた測定を予め行っておくことにより取得したが、公知の18%グレイカードを用いた測光により取得してもよい。
【0070】
上述した実施形態においては、カラープロファイルの形式を3×3のマトリクスであるとしたが、他の形式であってもよい。例えば、RGB値(R,G,B)とCIE三刺激値(X,Y,Z)との対応関係を保持するルックアップテーブル(LUT)をカラープロファイルとして用いてもよい。LUTは、全色の組み合わせについて対応関係を保持していてもよいし、代表的な色の組み合わせについてのみ対応関係を保持しておいてもよい。代表的な色の組み合わせについてのみ対応関係を保持する場合は、それ以外の色の対応関係を代表的な色の組み合わせの対応関係を基に補間演算によって導出する。
【0071】
上述した実施形態においては、色評価用の色値をCIELAB値としたが、例えば、CIELUV値やCIECAM値などの色値を用いてもよい。
【0072】
上述した実施形態においては、検査対象の領域における色値を評価値としたが、検査対象の領域を複数設定し、各領域間の色差を評価値としてもよい。この場合、モニタ108に表示されたUIの指定領域403において複数の領域が指定され、色値表示領域405に、指定された各領域のCIELAB値と領域間の色差とが表示される。例えば、2つの検査対象の領域それぞれのCIELAB値を(L*
1,a*
1,b*
1)及び(L*
2,a*
2,b*
2)とすると、式(18)により色差ΔEを算出することができる。
【0073】
【0074】
尚、式(17)に示すΔE以外にも、ΔE94や、ΔE2000などの色差を用いてもよい。また、評価値は色差ΔEに限られず、明度差ΔL、彩度差ΔC、色相差ΔHなどの色の要素ごとの差を評価値としてもよい。
【0075】
上述した実施形態においては、検査対象の領域における画素値群の平均値を検査対象の領域に対応する画素値としたが、平均値の算出を行わずに、検査対象の領域における各画素に対して上述した一連の処理を行い、画素単位で評価値を算出してもよい。この場合、評価値の数が膨大となるため、ラインプロファイルやカラーマップなどのグラフ表示により評価値を表示することが好ましい。
【0076】
上述した第2実施形態における白色推定部204は、基準白色の値を推定する処理において積分値の比を算出したが、検査対象物を撮像して得られる撮像データを用いる処理ではないため、S1302からS1305までの処理は予め行っておいてもよい。この場合、白色推定部204は、予め算出された積分値の比を取得することにより、S1301及びS1306のみを行って、基準白色の値を推定することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 画像処理装置
202 取得部
204 白色推定部
205 評価値算出部