(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241216BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241216BHJP
B41J 2/155 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/14 201
B41J2/18
B41J2/155
(21)【出願番号】P 2020156221
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】駒宮 友美
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-131892(JP,A)
【文献】特開2020-168746(JP,A)
【文献】米国特許第5574486(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に液体を吐出する複数の吐出口と、前記吐出口毎に配され、吐出される液体を加熱する複数の加熱素子と、を備える素子基板と、
前記素子基板と接合され、前記複数の加熱素子それぞれに液体を供給する複数の個別供給流路と前記複数の個別供給流路と連通した共通供給流路と、前記複数の加熱素子それぞれを経由した液体を回収する複数の個別回収流路と前記複数の個別回収流路と連通した共通回収流路と、を備える流路部材と、
を有する液体吐出ヘッドにおいて、
前記吐出口が開口する側からみたときに、前記共通供給流路および前記共通回収流路は、前記流路部材の長手方向に沿って形成されており、前記共通供給流路の少なくとも一部と前記共通回収流路の少なくとも一部は、互いに重なっており、前記素子基板側から前記共通供給流路、前記共通回収流路の順に配されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記吐出口が開口する側からみたときに、前記
共通供給流路の断面の重心と、前記
共通回収流路の断面の重心が一致している請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口が開口する側からみたときに、前記
共通供給流路と前記
共通回収流路とがすべて重なっている請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記
共通回収流路の断面積は、前記
共通供給流路の断面積よりも小さい請求項1ないし2のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記個別供給流路および前記個別回収流路は、第1流路部材に形成されており、
前記共通供給流路および前記共通回収流路は、第2流路部材に形成されており、
前記流路部材は、前記第1流路部材と前記第2流路部材とが積層されて形成されている請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記加熱素子は、液体を加熱して前記吐出口から液体を吐出するための圧力を発生する圧力発生素子である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記加熱素子は、液体を加熱して前記吐出口から液体を吐出するための圧力を発生する圧力発生素子とは別の、液体を加熱するサブヒータである請求項1ないし5のいずれか1
項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記加熱素子は、液体を加熱して前記吐出口から液体を吐出するための圧力を発生する圧力発生素子と、前記圧力発生素子とは別の液体を加熱するサブヒータと、である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記記録媒体の搬送方向に交差する方向における前記記録媒体の一端から他端に亘って前記複数の吐出口が配列されるページワイド型の液体吐出ヘッドである請求項1ないし8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
紙等の記録媒体に液体を吐出する液体吐出装置として、例えば、インクジェットプリンターが挙げられる。インクジェットプリンターは、液体を吐出する部分である液体吐出ヘッドを備えている。液体吐出ヘッドには、液体を吐出するための吐出口や、吐出口から液体を吐出するための圧力を発生させる圧力発生素子、圧力発生素子により生じた圧力が作用する圧力室等が設けられている。
【0003】
吐出口から液体を吐出する動作を行う際には、液体の粘度が所望の範囲内にあることが望ましく、液体の粘度が所望の範囲外である場合には、吐出性能が低下する恐れがある。特許文献1には、液体を加熱して液体の粘度を制御する加熱素子が圧力室の近傍に設けられた液体吐出ヘッドが開示されている。これは、発泡させない程度に加熱素子を駆動させて液体を加熱することで、液体の温度を調節し、粘度の制御を行うものである。さらに、特許文献1に記載の液体吐出ヘッドは、吐出口からの液体の蒸発により生じる液体の粘度の増加を抑制するため、圧力室から液体を回収するための回収流路を設け、圧力室の上流と下流とで液体を循環させることができる流路構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、液体の粘度を制御するための加熱素子が圧力室の近傍に設けられていると、圧力室よりも下流の流路である回収流路には、加熱素子により温められた液体が流動することとなる。そのため、圧力室よりも上流の流路である、液体を圧力室に供給するための供給流路を流動する液体の温度よりも、回収流路を流動する液体の温度の方が高くなる。これにより、回収流路および供給流路を有する流路部材において、供給流路周りの温度よりも回収流路周りの温度の方が高くなり、流路部材内で温度の偏り(温度勾配)が生じる。なお、このような温度勾配は、液体の粘度を制御するための加熱素子が設けられておらずとも、圧力発生素子として液体を膜沸騰させるための加熱素子が圧力室に設けられている場合には、同様に生じる。そのため、回収流路と供給流路が記録媒体の搬送方向に並んで配置されていると、流路部材内での温度勾配により流路部材が記録媒体の搬送方向に変形することがあり、記録品位に影響が及ぶことがあった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、流路部材が記録媒体の搬送方向に変形することを抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、記録媒体に液体を吐出する複数の吐出口と、前記吐出口毎に配され、吐出される液体を加熱する複数の加熱素子と、を備える素子基板と、
前記素子基板と接合され、前記複数の加熱素子それぞれに液体を供給する複数の個別供給流路と前記複数の個別供給流路と連通した共通供給流路と、前記複数の加熱素子それぞれを経由した液体を回収する複数の個別回収流路と前記複数の個別回収流路と連通した共通回収流路と、を備える流路部材と、を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記吐出口が開口する側からみたときに、前記共通供給流路および前記共通回収流路は、前記流路部材の長手方向に沿って形成されており、前記共通供給流路の少なくとも一部と前記共通回収流路の少なくとも一部は、互いに重なっており、前記素子基板側から前記共通供給流路、前記共通回収流路の順に配されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、流路部材が記録媒体の搬送方向に変形することを抑制することができる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図6】比較例における流路部材の内部構造を示す概略図。
【
図9】第2の実施形態における第2流路部材の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態の例について説明する。なお、流路部材の変形は、流路部材が長いほど大きくなりやすい傾向がある。そのため、本発明は、所謂シリアルタイプの液体吐出ヘッドの流路部材よりも長い流路部材を有している、紙等の記録媒体の記録幅に対応した、所謂ページワイド型ヘッドに特に好適に用いることができる。ページワイド型ヘッドとは、記録媒体の搬送方向に交差する方向における記録媒体の一端から他端に亘って複数の吐出口が配列されるヘッドである。以下、ページワイド型ヘッドを例に説明を行う。
【0011】
(記録装置)
記録装置について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、液体吐出ヘッド3を搭載した記録装置1000の一例を示す模式図である。
図1に示す記録装置1000は、液体吐出ヘッド3から中間転写体(中間転写ドラム)1007に液体を吐出して画像パターン(印字パターン)を中間転写体1007に形成した後に、その画像パターンを記録媒体2に転写する。記録装置1000では、少なくともCMYKの4種類のインクに夫々対応した4つの単色用の液体吐出ヘッド3が、中間転写体1007に沿って円弧状に配置されている。これによって中間転写体1007上にフルカラー記録が行われ、その記録画像パターンは、中間転写体1007上で適切に乾燥される。その後、記録画像パターンは、転写ローラー1008により、中間転写体1007上から記録媒体2に転写される。このとき、記録媒体2が紙搬送ローラー1009により搬送されながら、転写が行われる。
【0012】
なお、
図1に示す記録装置1000は、中間転写体1007を用いて記録を行う記録装置であるが、本発明の液体吐出ヘッドを搭載する記録装置はこれに限られない。即ち、中間転写体1007を用いずに、液体吐出ヘッド3から直接的に記録媒体2に液体を吐出して記録を行う記録装置であってもよい。
【0013】
(液体の経路)
液体の経路について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、記録装置1000の液体の流動経路を示す模式図である。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構は、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力変動が、所望の設定圧を中心として一定範囲内で収まるよう制御する機構(所謂「背圧レギュレーター」と同作用の機構部品)である。そのため、液体吐出ヘッド3により記録を行う際の記録Dutyの変化によって液体の流量に変動が生じても、自身の上流側(液体吐出ユニット300側)の圧力変動を、予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定にするように作動する。また、第2循環ポンプ1004は、負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用する。第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002は、液体吐出ヘッド3の上流側に配置され、負圧制御ユニット230は、液体吐出ヘッド3に配置されている。
【0014】
第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧することが好ましい。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。
【0015】
負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、高圧設定側(Hと記載、
図4(b))、低圧側(Lと記載、
図4(b))はそれぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、および共通回収流路212に接続されている。2つの負圧調整機構により共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くすることで、共通供給流路211から個別供給流路213a及び各素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へと流れるインク流れが発生する(矢印)。
【0016】
負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物がヘッドへ流入する懸念が少ない。また、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が少なくて済む。その理由は次の通りである。記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211及び共通回収流路212内の流量の合計をAとする。Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整を行う場合に、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な、最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口(不図示)からインクを吐出する場合(全吐時)の吐出流量をFと定義する。そうすると、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量は流量Aである。そして、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は流量Fとなる。そうすると、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値はA又はFの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、必要供給量の最大値(A又はF)は小さくなる。そのため、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができ、記録装置本体のコストを低減できるという利点がある。この利点は、A又はFの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
【0017】
第1の機能により、第1循環ポンプ1001、1002の下流側または第2循環ポンプ1004の上流側の流路に、過剰または過小な圧力が掛かることを抑制することができる。例えば、第1循環ポンプ1001、1002の機能に支障が発生した場合、過剰な流量や圧力が液体吐出ヘッド3に加わる場合がある。それにより液体吐出ヘッド3の吐出口から液体の漏洩が生じたり、液体吐出ヘッド3内の各接合部に破断が生じたりするおそれがある。しかし、第1循環ポンプ1001、1002にバイパス弁が追加されている場合、過剰な圧力が発生した場合でも、バイパス弁1010が開くことで各循環ポンプ上流側へと液体経路が開放されるため、上記のようなトラブルを抑制できる。
【0018】
また、第2の機能により、循環駆動停止時には、第1循環ポンプ1001、1002及び第2循環ポンプ1004の停止後に、本体側からの制御信号に基づいて、速やかに全てのバイパス弁1010を開放する。これにより、液体吐出ヘッド3の下流部(負圧制御ユニット230~第2循環ポンプ1004の間)の高負圧(例えば、数~数十kPa)を短時間に開放することができる。循環ポンプとしてダイヤフラムポンプなど容積型ポンプを使用した場合には、通常、ポンプ内に逆止弁が内蔵されている。しかしながら、バイパス弁を開くことで、下流側のバッファタンク1003側からも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放を行える。上流側からだけでも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放は行えるが、液体吐出ヘッドの上流側流路と液体吐出ヘッド内流路には圧力損失がある。そのため、圧力開放に時間が掛かり、過渡的に液体吐出ヘッド3内の共通流路内の圧力が下がり過ぎて、吐出口のメニスカスが破壊される恐れがある。液体吐出ヘッド3の下流側のバイパス弁1010を開くことで、液体吐出ヘッドの下流側の圧力解放が促進されるため、吐出口のメニスカス破壊のリスクが軽減される。
【0019】
図2においては、インク等の液体をメインタンク1006と液体吐出ヘッド3との間で循環させる形態の記録装置を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、インクを循環させずに、液体吐出ヘッドの上流側と下流側にそれぞれタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことにより、インクを流動させる形態であってもよい。
【0020】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド3について、
図3ないし
図5を参照しながら説明する。
図3(a)は、液体吐出ヘッド3の斜視図である。
図3(b)は、液体吐出ヘッド3の分解斜視図(シールド板132は不図示)である。
図4(a)は、液体吐出ヘッドの側面図である。
図4(b)は、液体吐出ヘッド3の内部の液体の流れを示す模式図である。
図4(b)に示す液体の循環の流れは、
図2に示した循環の経路と回路的には同じであるが、
図4(b)においては、実際の液体吐出ヘッド3の各構成部品内での液体の流れを示している。なお、理解を容易にするため、一部の構成は簡略化している。
【0021】
液体吐出ヘッド3は、吐出口13から液体を吐出する素子基板10と、素子基板10に液体を供給しかつ回収する流路を有する流路部材210と、を有している。液体吐出ヘッド3は、液体吐出ヘッド3の長手方向に直線状(インライン)に配列される36個の素子基板10を備える、所謂ページワイド型ヘッドである。素子基板10には、吐出口13から液体を吐出するための圧力を発生する圧力発生素子5(
図5)および圧力室7の液体の温度を調節するために液体を加熱する加熱素子15が形成されている。加熱素子15により圧力室7内の液体が加熱され、吐出に適切な粘度に調整される。液体吐出ヘッド3は、液体吐出ヘッド3の外部から信号を受信するための信号入力端子91や電力を受信するための電力供給端子92、液体吐出ヘッド3の側面を保護するシールド板132などを有している。
【0022】
液体吐出ヘッド3は、流路部材210を構成する第2の流路部材60によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。液体吐出ユニット支持部81は第2の流路部材60の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット300は記録装置1000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド3の位置決めを行う。負圧制御ユニット230を備える液体供給ユニット220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。2つの負圧制御ユニット230は、それぞれ異なる、相対的に高低の負圧で圧力を制御するように設定されている。
【0023】
次に、液体吐出ユニット300の流路部材210の詳細について説明する。流路部材210は、第1の流路部材50、第2の流路部材60を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材210の第2の流路部材60は、内部に共通供給流路211及び共通回収流路212が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2の流路部材60の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはステンレス(SUS)やTi、アルミナなどを好ましく用いることができる。
【0024】
第1の流路部材50は、各素子基板10に対応した複数の部材を隣接して配列することで構成したものである。このような構成とすることで、複数の素子基板10を第1の流路部材50に配置することができ、液体吐出ヘッド3の長さを記録媒体の幅に対応させることが出来る。例えば、B2サイズおよびそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用できる。第1の流路部材50の個別供給流路213aおよび個別回収流路213bは素子基板10と流体的に連通している。
【0025】
素子基板10には、各吐出口13に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口13を通過して、環流できるようになっている。また、共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。そのため、その差圧によって、共通供給流路211から素子基板10の吐出口13を通過して共通回収流路212へとインクが流れる。
【0026】
長尺状の第2の流路部材60内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる一組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。共通供給流路211を流動する液体の流動方向と共通回収流路212を流動する液体の流動方向は互いに対向しており、夫々の流路の上流側にはフィルタ221が設けられ、液体接続部111等から侵入する異物を捕集する。このように共通供給流路211及び共通回収流路212には互いに対向する方向に液体を流すことにより、共通供給流路211と共通回収流路212の間で熱交換が促進されて、液体吐出ヘッド3内の長手方向における温度勾配が軽減される点で好ましい。なお、
図2においては説明を簡略化するために共通供給流路211と共通回収流路212との流れを同じ方向で示している。
【0027】
共通供給流路211及び共通回収流路212の下流側には、それぞれ負圧制御ユニット230が接続される。また、共通供給流路211の途中には複数の個別供給流路213aへの分岐部があり、共通回収流路212の途中には複数の個別回収流路213bへの分岐部がある。個別供給流路213a及び個別回収流路213bは複数の第1の流路部材50内に形成されている。
【0028】
図4(b)にHとLで示した負圧制御ユニット230は、高圧側(H)と、低圧側(L)とのユニットである。それぞれの負圧制御ユニット230は、相対的に高(H)、低(L)の負圧で、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を制御するように設定された背圧型圧力調整機構である。共通供給流路211は負圧制御ユニット230(H)と接続され、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(L)と接続されており、それにより共通供給流路211と共通回収流路212との間には差圧が発生する。その差圧によって、液体が、共通供給流路211から個別供給流路213a、素子基板10、個別回収流路213bを順に通過して共通回収流路212へと流れる。素子基板10内の液体は、
図5に示す矢印8のように流れる。
【0029】
図5(a)は、素子基板10の上面図である。
図5(b)は、
図5(a)に示すB部の拡大図である。液体は、個別供給流路213aを通り、吐出口13に供給される。吐出口13の直下には、圧力発生素子5としての加熱素子(以下、本ヒータ5と称する)が形成されている。本ヒータ5を駆動することにより液体を膜沸騰させ、吐出口13から液体を吐出するための圧力を得る。吐出口13の近傍には、液体の粘度を制御するために液体を加熱する加熱素子15(以下、サブヒータと称する)が、吐出口の配列方向に沿って形成されている。サブヒータ15を駆動することにより、液体が加熱され、液体の粘度を制御することができる。
【0030】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について、
図6ないし
図8を参照しながら説明する。
図6(a)は、本実施形態の比較例における流路部材の内部構造を示す概略図であって、
図4(a)のG-G線の断面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す第2流路部材60を+Z方向から見た際の上面図であって、内部の流路が見えるように内部構造を図示している。
図7は、本実施形態の第2流路部材60の断面を示す概略図である。
図8は、
図7(a)に示す第2流路部材60の斜視図である。なお、
図6ないし
図8は、説明のため簡略化して図示している。
【0031】
前述の通り、本実施形態の液体吐出ヘッド3は、第2流路部材60中に共通供給流路211及び共通回収流路212が長手方向に渡って延在している。換言すれば、共通回収流路212及び共通回収流路212が流路部材の長手方向に沿って形成されている。共通回収流路212には加熱素子により所定温度に加熱された液体が、個別回収流路213bを経由して流れ込む。その結果、共通回収流路212内の液体温度は共通供給流路211内の液体温度よりも高くなり、第2流路部材60は共通回収流路側が相対的に高温に、共通供給流路側が相対的に低温になる。この温度勾配により、
図6(b)に示すように、共通回収流路212側が共通供給流路211側に比べて大きく熱膨張するので、記録媒体搬送方向の共通回収流路側に第2流路部材60がせり出すように撓む。このとき、液体の加熱温度が高い程、または、共通回収流路212に流れ込む液体の流量が大きい程、共通回収流路212が高温になるため撓み量は大きくなる。なお、このような撓みは、第2流路部材60の長さが長くなる程大きくなるため、記録媒体2の幅に対応した長さを備える、所謂、ページワイド型の液体吐出ヘッドにおいては、撓みがより顕著になる恐れがある。
【0032】
そこで、本発明においては、記録媒体の搬送方向への第2流路部材60の撓みを抑制するため、
図7に示す流路の構成とした。具体的には、吐出口が開口する側からみたときに、共通供給流路211の少なくとも一部と共通回収流路212の少なくとも一部が互いに重なるように共通供給流路211および共通回収流路212を配置する。このような構成により、記録媒体搬送方向への第2流路部材60の撓みを抑制する。なお、吐出口が開口する側からみたときとは、第2流路部材の共通供給流路211及び共通回収流路212等のヘッド内部の構造を透過してみたときのことを示す。共通供給流路211の少なくとも一部と共通回収流路212の少なくとも一部とが互いに重なるように共通供給流路211および共通回収流路212を配置すると、上述した温度勾配は、記録媒体搬送方向と交差する方向に生じる。これにより、記録媒体搬送方向に温度勾配が生じることを抑制することができるため、第2流路部材60が記録媒体搬送方向に撓むことを抑制することができる。
【0033】
より好ましくは、
図7(g)(h)(l)(m)に示すように、吐出口が開口する側からからみたときに、共通供給流路211の断面の重心Bと共通回収流路212の断面の重心B´の位置が一致するように、流路211と流路212を配置する。これにより、記録媒体搬送方向への温度分布を大幅に低減でき、記録媒体搬送方向への第2流路部材60の変形をより抑制することができる。なお、断面の重心とは、
図7に示す断面における流路の重心の記録媒体搬送方向における位置のことをいう。即ち、重心が一致するとは、一方の流路の記録媒体搬送方向における重心の位置と、他方の流路の記録媒体搬送方向における重心の位置とが一致していることをいう。また、重心の位置が一致しているとは、厳密な(完全な)一致のみを意味するものではなく、製品性能上許容される程度の誤差や製品製造時に生じ得る程度の誤差も含む意味である。また、重心の位置が一致している断面が少なくとも1箇所あればよいが、無作為に選定した10箇所における断面の重心の平均値が一致していると、流路全体としても温度分布が均一に近づいていることになるので、さらに好ましい。さらには、
図7(g)および
図7(h)に示すように、吐出口13が開口する側からみたときに、共通供給流路211と共通回収流路212とが互いにすべて重なっていることが好ましい。このような構成にすることにより、記録媒体搬送方向への温度分布をさらに抑制することができ、第2流路部材60の撓みをさらに抑制することができる。
【0034】
また、本実施形態の構成にすることにより、第2流路部材中で液体の吐出方向に温度勾配が生じる。これにより、第2流路部材60が液体吐出方向に撓む可能性がある。しかしながら、液体吐出方向に第2流路部材60が撓む場合には、紙間距離が吐出口によってばらつくが、吐出口の記録媒体の搬送方向における位置がばらつくことは抑制されるため、記録品位に与える影響は小さくなる。
【0035】
また、
図7(n)に示すように、共通供給流路211と共通回収流路212とで、流路の断面積を変更させてもよい。流路の断面積を変更させる場合には、特に、共通回収流路212の断面積を共通供給流路211の断面積よりも小さくすることが好ましい。共通回収流路212の断面積を共通供給流路211の断面積よりも小さくすることで、第2流路部材60の共通回収流路212周りは、共通回収流路212を流動する液体から伝導する熱が小さくなる。これにより、共通回収流路212の断面積が共通供給流路211の断面積と同等程度の場合よりも、第2流路部材60に生じる温度勾配を小さくすることができるため、第2流路部材60の撓みをより抑制することができる。ここで、流路の断面積とは、無作為に選定した10箇所における断面積の平均値のことである。
【0036】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、
図9を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所については同一の符号を付し、説明は省略する。
図9は、本実施形態における第2流路部材60の構成を示す概略図である。
【0037】
第1の実施形態で示したように、共通供給流路211と共通回収流路212とが互いに重なるように液体の吐出方向に共通供給流路211および共通回収流路212を配置すると、液体の吐出方向に温度勾配が生じる。このため、液体の吐出方向に第2流路部材60が撓む可能性がある。そこで、より好ましくは、
図9に示すように、液体の吐出方向に向かって、共通回収流路212、共通供給流路211、素子基板10の順になるように、共通供給流路211および共通回収流路212を配置することである。素子基板10は、上述したように加熱素子を有するため、加熱素子の駆動により素子基板10の温度も上昇する。そのため、素子基板10の温度は、共通供給流路211周りの第2流路部材60の温度よりも高くなる。したがって、共通供給流路211、共通回収流路212および素子基板10のうち温度の高い2つが液体の吐出方向において第2流路部材60の一端側と他端側に配置されることとなる。このような構成にすることで、液体の吐出方向における第2流路部材60の温度勾配を低減することができる。即ち、一端側に素子基板10が、他端側に共通供給流路211がそれぞれ配置される場合よりも、液体の吐出方向において生じる温度勾配は小さくなる。これにより、液体の吐出方向における第2流路部材60の撓みを抑制することができる。
図9のような構成にすることにより、記録媒体の搬送方向における第2流路部材60の変形を抑制しつつ、液体の吐出方向における第2流路部材60の撓みも抑制することができる。
【0038】
共通供給流路211と共通回収流路212の位置は、流路の断面の重心の位置で判断する。即ち、前述した第2流路部材60の他端側に共通回収流路212を配置するとは以下のことをいう。共通回収流路212の断面の重心の液体吐出方向における位置の平均値が、共通供給流路211の断面の液体吐出方向における重心の位置の平均値よりも、他端側に近くなるような位置に配置することをいう。また、共通回収流路212の断面の重心の液体吐出方向における位置の平均値とは、共通回収流路212の無作為に選定した10箇所における断面の重心の液体吐出方向における位置をそれぞれ求め、その平均値とする。同様に、共通供給流路211の断面の重心の液体吐出方向における位置の平均値とは、共通供給流路211の無作為に選定した10箇所における断面の重心の液体吐出方向における位置をそれぞれ求め、その平均値とする。
【0039】
次に、上述した第1の実施形態および第2の実施形態における第2流路部材60の形成方法について説明する。
図10は、第2流路部材60の断面図であって、共通供給流路211、個別供給流路213a、共通回収流路212および個別回収流路213bを図示している。なお、説明のため簡略化して図示している。
【0040】
第2流路部材60は、複数の部材を接着剤や焼結等により接合することで形成されている。
図10中の一点鎖線は、部材の最低限必要な分割箇所であり、分割されている部材を接着や焼結などにより積層することで第2流路部材が形成される。液体吐出方向に共通供給流路211及び共通回収流路212が重なっているため、個別供給流路213a及び個別回収流路213bは、
図10(a)のように屈曲して形成される。個別供給流路213aに関しては
図10(a)のような屈曲流路でなく、
図10(e)のようにまっすぐ形成されてもよい。第2流路部材60は、
図10(a)のように液体吐出方向に複数の部材を積層させる方法であっても、
図10(b)のように記録媒体の搬送方向に複数の部材を積層させる方法であってもどちらでもよい。
【符号の説明】
【0041】
13 吐出口
5、6 加熱素子
10 素子基板
60 流路部材
2 記録媒体
211 供給流路
212 回収流路
3 液体吐出ヘッド