(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置および車両の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 10/20 20060101AFI20241216BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20241216BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241216BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20241216BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20241216BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20241216BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20241216BHJP
B60W 50/029 20120101ALI20241216BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B60W10/00 132
B60T7/12 D
B60W10/00 134
B60W10/00 148
B60W10/04
B60W10/18
B60W10/20
B60W30/045
B60W30/10
B60W50/029
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2020171772
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 陽介
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232676(JP,A)
【文献】特開2016-068705(JP,A)
【文献】特開2016-068704(JP,A)
【文献】特開平05-058322(JP,A)
【文献】特開2020-104540(JP,A)
【文献】特開2007-038798(JP,A)
【文献】特開2011-218988(JP,A)
【文献】特開2017-132388(JP,A)
【文献】特開2020-019456(JP,A)
【文献】特開2018-161917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/20
B60T 7/12
B60W 10/04
B60W 10/00
B60W 10/18
B60W 30/045
B60W 30/10
B60W 50/029
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に動力を伝達する駆動装置、車輪の舵角を制御する転舵装置、および車輪に制動力を付与する制動装置を制御する車両の制御装置であって、
前記転舵装置は、前記車輪のうち前輪の舵角を制御する前輪転舵装置と、前記車輪のうち後輪の舵角を制御する後輪転舵装置と、を含んでおり、
前記前輪転舵装置および前記後輪転舵装置のうち、一方の装置が第1転舵装置であり、他方の装置が第2転舵装置であり、
前記制御装置は、
前記
前輪転舵装置の異常
および前記後輪転舵装置の異常を検出する異常検出部と、
走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる自動旋回制御を実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記
前輪転舵装置の異常
および前記後輪転舵装置の異常が検出されていない場合には、前記転舵装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行し、
前記
前輪転舵装置の異常
および前記後輪転舵装置の異常が検出されている場合には、
正常に作動する前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方を前記転舵装置に替えて作動させる
第1代替装置として、
前記
第1代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合の前記
第1代替装置への負荷
の予測値である第1予測値として、前記走行経路および車速に基づいて前記第1代替装置の作動時間を算出して、
前記第1代替装置を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を第1許容上限値として設定して、
前記第1予測値が前記第1許容上限値以下である場合には、前記
第1代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行
し、
前記制御部は、
前記第2転舵装置の異常が検出されていない一方で前記第1転舵装置の異常が検出されている場合に、前記第1転舵装置および前記第2転舵装置のうち前記第2転舵装置のみを制御することによって前記自動旋回制御を実行した際に前記走行経路上の目標地点に前記車両を到達させることができるか否かを判定し、
前記目標地点に前記車両を到達させることができないと判定した場合には、
正常に作動する前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方の装置である作動装置と、前記第2転舵装置とを、前記第1転舵装置の替わりに作動させる第2代替装置として、
前記第2代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合における前記作動装置への負荷の予測値である第2予測値として、前記走行経路および車速に基づいて前記作動装置の作動時間を算出して、
前記作動装置を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を第2許容上限値として設定して、
前記第2予測値が前記第2許容上限値以下である場合に、前記第2代替装置を制御することによって当該自動旋回制御を実行する一方、
前記目標地点に前記車両を到達させることができると判定した場合には、
前記第2転舵装置を前記第1転舵装置の替わりに作動させる第3代替装置として、
前記第3代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1予測値が前記第1許容上限値よりも大きいこと、および、前
記第2予測値が前記第2許容上限値よりも大きいことのうち、少なくとも1つが成立している場合には、
前記車両を路肩に寄せるように移動させてから前記車両を停止させる
請求項
1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
車両の車輪に動力を伝達する駆動装置、車輪の舵角を制御する転舵装置、および車輪に制動力を付与する制動装置を制御する機能と、
前記転舵装置の異常を検出する機能と、
走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる自動旋回制御を実行する機能と、をコンピュータに実行させる車両の制御プログラムであって、
前記転舵装置は、前記車輪のうち前輪の舵角を制御する前輪転舵装置と、前記車輪のうち後輪の舵角を制御する後輪転舵装置と、を含んでおり、
前記前輪転舵装置および前記後輪転舵装置のうち、一方の装置が第1転舵装置であり、他方の装置が第2転舵装置であり、
前記転舵装置の異常を検出する機能は、前記前輪転舵装置の異常を検出する機能と、前記後輪転舵装置の異常を検出する機能と、を含み、
前記自動旋回制御を実行する機能では、
前記
前輪転舵装置の異常
および前記後輪転舵装置の異常が検出されていない場合には、前記転舵装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行し、
前記
前輪転舵装置の異常
および前記後輪転舵装置の異常が検出されている場合には、
正常に作動する前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方を前記転舵装置に替えて作動させる
第1代替装置として、
前記
第1代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合の前記第1代替装置への負荷を予測値
である第1予測値として、前記走行経路および車速に基づいて前記第1代替装置の作動時間を算出して、
前記第1代替装置を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を第1許容上限値として設定して、
前記第1予測値が前記第1許容上限値以下であるときには、前記
第1代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行し、
前記第2転舵装置の異常が検出されていない一方で前記第1転舵装置の異常が検出されている場合に、前記第1転舵装置および前記第2転舵装置のうち前記第2転舵装置のみを制御することによって前記自動旋回制御を実行した際に前記走行経路上の目標地点に前記車両を到達させることができるか否かを判定し、
前記目標地点に前記車両を到達させることができないと判定した場合には、
正常に作動する前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方の装置である作動装置と、前記第2転舵装置とを、前記第1転舵装置の替わりに作動させる第2代替装置として、
前記第2代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合における前記作動装置への負荷の予測値である第2予測値として、前記走行経路および車速に基づいて前記作動装置の作動時間を算出して、
前記作動装置を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を第2許容上限値として設定して、
前記第2予測値が前記第2許容上限値以下である場合に、前記第2代替装置を制御することによって当該自動旋回制御を実行する一方、
前記目標地点に前記車両を到達させることができると判定した場合には、
前記第2転舵装置を前記第1転舵装置の替わりに作動させる第3代替装置として、
前記第3代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する
車両の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を自動で旋回させる車両の制御装置および車両の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動で操舵を行う車両の制御装置が開示されている。特許文献1に開示されている制御装置では、車輪の舵角を変更する転舵装置に異常があるときに他の装置を代替として使用して自動操舵を継続するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている制御装置のように、異常が生じた転舵装置の代替として他の装置を作動させることによって自動操舵を継続するようにした場合には、他の装置の作動が長く継続される等の要因によって他の装置にかかる負荷が高くなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車両の車輪に動力を伝達する駆動装置、車輪の舵角を制御する転舵装置、および車輪に制動力を付与する制動装置を制御する車両の制御装置であって、前記転舵装置の異常を検出する異常検出部と、走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる自動旋回制御を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記転舵装置の異常が検出されていない場合には、前記転舵装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行し、前記転舵装置の異常が検出されている場合には、前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方を前記転舵装置に替えて作動させる代替装置として、前記代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合の前記代替装置への負荷を予測値として算出して、前記代替装置に対して許容できる負荷の値の集合である許容領域に前記予測値が含まれているときには、前記代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する。
【0006】
上記構成によれば、転舵装置に異常が発生しているとき、制動装置を作動させて自動旋回制御を継続することができる。制動装置を代替として自動旋回制御を継続する場合には、制動装置への負荷が許容領域を超えない範囲で制動装置が作動することになる。これによって、制動装置に過度に大きな負荷がかかることがない。また、この結果として、制動装置を代替とすることによって自動旋回を継続する場合に、制動装置の性能が低下することなく制動力を車輪に付与することができる。
【0007】
上記課題を解決するための車両の制御プログラムは、車両の車輪に動力を伝達する駆動装置、車輪の舵角を制御する転舵装置、および車輪に制動力を付与する制動装置を制御する機能と、前記転舵装置の異常を検出する機能と、走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる自動旋回制御を実行する機能と、をコンピュータに実行させる車両の制御プログラムであって、前記自動旋回制御を実行する機能では、前記転舵装置の異常が検出されていない場合には、前記転舵装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行し、前記転舵装置の異常が検出されている場合には、前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方を前記転舵装置に替えて作動させる代替装置として、前記代替装置を作動させることによって前記自動旋回制御を実行すると仮定した場合の前記代替装置への負荷を予測値として算出して、前記代替装置に対して許容できる負荷の値の集合である許容領域に前記予測値が含まれているときには、前記代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】車両の制御装置の一実施形態と、同制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図。
【
図2】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図4】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両の制御装置の一実施形態である制御装置10について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1に示す制御装置10が制御対象とする車両は、前輪および後輪を操舵できる四輪操舵機構を備えている。車両は、四輪操舵機構を構成する前輪転舵装置91と後輪転舵装置92とを備えている。前輪転舵装置91は、車両の車輪のうち前輪の舵角を制御する装置である。後輪転舵装置92は、車両の車輪のうち後輪の舵角を制御する装置である。四輪操舵機構では、前輪の舵角と後輪の舵角とを各別に変更することができる。
【0010】
車両は、車輪に駆動力を伝達する駆動装置93を備えている。駆動装置93は、動力源としての内燃機関と、変速装置と、を備えている。駆動装置93は、デファレンシャルギヤのような動力伝達装置を含む。駆動装置93は、車輪のうち前輪に駆動力を伝達する。なお、駆動装置93が備える動力源は、内燃機関に限らない。たとえば、モータジェネレータを動力源として搭載していてもよい。駆動装置93としては、内燃機関とモータジェネレータとを動力源として備えているものを採用してもよい。また、駆動装置93は、後輪に駆動力を伝達するように構成されていてもよいし、前輪および後輪に駆動力を伝達するように構成されていてもよい。
【0011】
車両は、車輪に制動力を付与する制動装置94を備えている。制動装置94は、各車輪に対して付与する制動力をそれぞれ調整することができる。制動装置94は、たとえば、車輪と一体回転する回転体に摩擦材を押し付けることによって、摩擦材を押し付ける力に応じて車輪に制動力を付与する摩擦制動装置である。摩擦制動装置の一例は、液圧発生装置によって発生させた液圧に応じて摩擦材を回転体に押し付けることで車輪に制動力を付与することのできる制動装置である。摩擦制動装置は、電動モータの駆動によって摩擦材を回転体に押し付けることで車輪に制動力を付与することのできる制動装置でもよい。
【0012】
車両は、運転支援装置20を備えている。運転支援装置20は、車両の周囲の情報を取得するための取得装置を備えている。取得装置は、たとえばカメラやレーダー等によって構成されている。取得装置は、車両の周囲に位置する他の車両および障害物等に対する車両との相対距離を取得することができる。取得装置は、車両が走行する道路の形状を取得したり、車線を認識したりすることもできる。運転支援装置20は、車両を自動で運転させるための走行経路を、取得装置によって得られる情報を用いて設定する設定部を備えている。
【0013】
制御装置10は、機能部として、異常検出部11と、制御部12と、を備えている。異常検出部11は、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92の異常を検出するための異常検出処理を実行する機能を備えている。制御部12は、前輪転舵装置91、後輪転舵装置92、駆動装置93および制動装置94を制御する機能を備えている。なお、制御装置10は、CPUとROMとを備えている。制御装置10のROMには、CPUが各種の制御を実行するための各種のプログラムが記憶されている。
【0014】
異常検出部11は、異常検出処理では、たとえば、前輪転舵装置91を制御するために算出された制御量と実際の前輪の舵角とを用いる。異常検出部11は、制御量に対応する舵角と実際の舵角とが乖離している場合には、前輪転舵装置91に異常が発生していると判定する。同様に、異常検出部11は、後輪転舵装置92を制御するために算出された制御量に対応する舵角と、実際の後輪の舵角とが乖離している場合には、後輪転舵装置92に異常が発生していると判定する。異常検出部11は、所定の周期毎に異常検出処理を繰り返し実行する。
【0015】
制御部12は、前輪転舵装置91、後輪転舵装置92、駆動装置93および制動装置94を制御するための制御量を算出する制御量算出部13を備えている。制御部12は、制御量算出部13が算出した制御量に基づいて信号を生成して、信号を各装置に送信する。なお、前輪転舵装置91は、制御部12から送信された信号に基づいてアクチュエータを作動させるための前輪制御装置を備えている。後輪転舵装置92は、制御部12から送信された信号に基づいてアクチュエータを作動させるための後輪制御装置を備えている。駆動装置93は、制御部12から送信された信号に基づいて内燃機関の制御および変速機の制御等を行う動力制御装置を備えている。制動装置94は、制御部12から送信された信号に基づいてアクチュエータを作動させるための制動制御装置を備えている。
【0016】
制御部12は、車両の加減速および車両の操舵を自動制御する自動運転を実施することができる。たとえば、制御部12は、車両の運転者によって自動運転を開始するスイッチがオンにされた場合に自動運転を開始することができる。自動運転を開始すると、制御部12は、運転支援装置20に走行経路を設定させる。自動運転の実施中では、制御部12は、運転支援装置20が設定する走行経路に基づいて制御量算出部13に各制御量を算出させる。算出された制御量に基づいて車両が制御されることで、車両は、運転者による操作を伴うことなく走行する。以下では、車両の旋回を伴う自動制御を自動旋回制御と云う。
【0017】
制御部12は、自動旋回制御を実行する際に、前輪転舵装置91の状態および後輪転舵装置92の状態に応じて、作動させる装置を選択する処理を実行する。以下、
図2~
図5を用いてこの処理について説明する。制御装置10が備えるROMには、
図2~
図5に示す処理を実行するためのプログラムである制御プログラムが記憶されている。
図2~
図5に示す処理は、ROMに記憶された制御プログラムをCPUが実行することによって実現される。
【0018】
図2は、制御部12が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、所定の周期毎に繰り返し実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制御部12は、自動運転の実施が可能か否かを判定する。ここでは、制御部12は、運転支援装置20によって走行経路が設定されている場合に自動運転が可能であると判定する。車両の運転者によって自動運転が要求されている場合に自動運転が可能であると判定することもできる。自動運転が可能ではない場合には(S101:NO)、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。一方、自動運転が可能である場合には(S101:YES)、制御部12は、処理をステップS102に移行する。
【0019】
ステップS102では、制御部12は、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に異常があるか否かを判定する。制御部12は、異常検出部11によって前輪転舵装置91の異常と後輪転舵装置92の異常とが検出されている場合に前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に異常があると判定する。前輪転舵装置91の異常と後輪転舵装置92の異常の両方が検出されていない場合には(S102:NO)、制御部12は、処理をステップS104に移行する。
【0020】
ステップS104では、制御部12は、前輪転舵装置91に異常があるか否かを判定する。前輪転舵装置91の異常が検出されていない場合には(S104:NO)、制御部12は、処理をステップS106に移行する。
【0021】
ステップS106では、制御部12は、後輪転舵装置92に異常があるか否かを判定する。後輪転舵装置92の異常が検出されていない場合には(S106:NO)、制御部12は、処理をステップS108に移行する。
【0022】
ステップS108では、制御部12は、前輪操舵および後輪操舵によって自動旋回制御を実行することを選択する。その後、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。この場合には、制御部12は、自動旋回制御において、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92を作動させることによって前輪の舵角と後輪の舵角とを制御して車両を旋回させる。
【0023】
一方、ステップS102の処理において前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に異常があると判定した場合には(S102:YES)、制御部12は、処理をステップS103に移行する。ステップS103では、制御部12は、制駆動系判定処理を実施する。制御部12は、制駆動系判定処理を終了した後、本処理ルーチンを終了する。
【0024】
図3を用いて、制御部12が実施する制駆動系判定処理について説明する。本処理ルーチンは、
図2におけるステップS103の処理によって実行される。制駆動系判定処理は、異常が検出されている前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて、駆動装置93および制動装置94を作動させるか否かを判定する処理である。前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて、駆動装置93および制動装置94を作動させると、左右の車輪の加減速を調整して旋回を補助することができる。また、制動装置94を作動させることによって車輪に制動力を付与することで車体の荷重を移動させることができる。こうした荷重移動を利用して車両の旋回を補助することもできる。車輪の加減速および車両の荷重移動を調整するために駆動装置93および制動装置94を制御することを制駆動力制御と云う。
【0025】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、制御部12は、制動装置94に過度に大きな負荷がかかるか否かを判定するための許容上限値を設定する。許容上限値は、制動装置94に対しての負荷が許容できるか否かのしきい値である。制御部12は、制動装置94を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を許容上限値として設定する。たとえば、摩擦制動装置の摩擦材の温度が過度に高くなると、発生させることのできる制動力が低下することがある。このため、制動装置94に対しての負荷を制動装置94の作動時間を指標として測ることができる。制御部12は、許容上限値を設定すると処理をステップS202に移行する。
【0026】
ステップS202では、制御部12は、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて駆動装置93および制動装置94を作動させることによって走行経路に従って車両を走行させると仮定した場合の、制動装置94への負荷を予測値として算出する。たとえば、制御部12は、走行経路および車速等に基づいて、制動装置94を作動させる時間を予測して予測値として算出する。制御部12は、予測値を算出すると、処理をステップS203に移行する。
【0027】
ステップS203では、制御部12は、予測値が許容上限値以下であるか否かを判定する。予測値が許容上限値以下である場合には(S203:YES)、制御部12は、処理をステップS204に移行する。
【0028】
ステップS204では、制御部12は、制駆動力制御による代替制御を実施することを選択する。その後、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。すなわち、自動旋回制御において、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させる。この結果として、自動旋回制御が実施される場合には、異常が検出されている前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替わって駆動装置93および制動装置94が作動されることによって車両が旋回される。具体的には、車輪の加減速および車両の荷重移動によって、走行経路に追従するように車両が制御される。
【0029】
一方、ステップS203の処理において、予測値が許容上限値よりも大きい場合には(S203:NO)、制御部12は、処理をステップS205に移行する。ステップS205では、制御部12は、停車処理を開始する。停車処理は、車両を停止させて自動運転を終了させる処理である。停車処理の一例では、制御部12は、運転支援装置20からの情報に基づいて車両を路肩に寄せるように移動させてから車両を停止させる。このように停車処理では、他の車両にとって妨げとならない位置まで車両を走行させてから車両を停止させることができる。制御部12は、停車処理を実施すると本処理ルーチンを終了する。
【0030】
図2に戻り、ステップS104の処理において前輪転舵装置91の異常が検出されている場合には(S104:YES)、制御部12は、処理をステップS105に移行する。ステップS105では、制御部12は、後輪操舵判定処理を実施する。制御部12は、後輪操舵判定処理を実施した後、本処理ルーチンを終了する。
【0031】
図4を用いて、制御部12が実施する後輪操舵判定処理について説明する。本処理ルーチンは、
図2におけるステップS105の処理によって実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS301では、制御部12は、後輪操舵での旋回が可能であるか否かを判定する。ここでは、制御部12は、前輪の舵角を制御することなく後輪の舵角を制御することによって走行経路上の目標地点に車両を到達させることが可能であれば、後輪操舵での旋回が可能であると判定する。一方、後輪の舵角が最大となるように後輪転舵装置92を作動させたとしても車両の軌道が走行経路からずれて走行経路上の目標地点に車両を到達させることができない場合には、後輪操舵での旋回が可能ではないと判定する。
【0032】
後輪操舵での旋回が可能である場合には(S301:YES)、制御部12は、処理をステップS302に移行する。ステップS302では、制御部12は、後輪操舵による代替制御を実施することを選択する。すなわち、自動旋回制御において、異常が検出されている前輪転舵装置91に替わって後輪転舵装置92を代替装置として作動させる。この結果として、車両は、後輪の舵角が制御されることによって旋回する。後輪操舵による代替制御を実施することを選択すると、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。
【0033】
一方、後輪操舵での旋回が可能ではない場合には(S301:NO)、制御部12は、処理をステップS303に移行する。ステップS303では、制御部12は、制動装置94に過度に大きな負荷がかかるか否かを判定するための許容上限値を設定する。制御部12は、制動装置94を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を許容上限値として設定する。制御部12は、許容上限値を設定すると処理をステップS304に移行する。
【0034】
ステップS304では、制御部12は、後輪転舵装置92、駆動装置93および制動装置94を作動させることによって走行経路に従って車両を走行させると仮定した場合の、制動装置94への負荷を予測値として算出する。たとえば、制御部12は、走行経路および車速等に基づいて、制動装置94を作動させる時間を予測して予測値として算出する。制御部12は、予測値を算出すると、処理をステップS305に移行する。
【0035】
ステップS305では、制御部12は、予測値が許容上限値以下であるか否かを判定する。予測値が許容上限値以下である場合には(S305:YES)、制御部12は、処理をステップS306に移行する。
【0036】
ステップS306では、制御部12は、後輪操舵および制駆動力制御による代替制御を実施することを選択する。すなわち、自動旋回制御において、後輪転舵装置92、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させる。この結果として、自動旋回制御が実施される場合には、異常が検出されている前輪転舵装置91に替わって、後輪転舵装置92、駆動装置93および制動装置94が作動されることによって車両が旋回される。具体的には、後輪の舵角の制御に加えて車輪の加減速および車両の荷重移動によって、走行経路に追従するように車両が制御される。後輪操舵および制駆動力制御による代替制御を実施することを選択すると、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。
【0037】
一方、ステップS305の処理において、予測値が許容上限値よりも大きい場合には(S305:NO)、制御部12は、処理をステップS307に移行する。ステップS307では、制御部12は、停車処理を開始する。停車処理の内容は、ステップS205における停車処理と同様である。制御部12は、停車処理を実施すると本処理ルーチンを終了する。
【0038】
図2に戻り、ステップS106の処理において後輪転舵装置92に異常が検出されている場合には(S106:YES)、制御部12は、処理をステップS107に移行する。ステップS107では、制御部12は、前輪操舵判定処理を実施する。制御部12は、前輪操舵判定処理を実施した後、本処理ルーチンを終了する。
【0039】
図5を用いて、制御部12が実施する前輪操舵判定処理について説明する。本処理ルーチンは、
図2におけるステップS107の処理によって実行される。
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS401では、制御部12は、前輪操舵での旋回が可能であるか否かを判定する。ここでは、制御部12は、後輪の舵角を制御することなく前輪の舵角を制御することによって走行経路上の目標地点に車両を到達させることが可能であれば、前輪操舵での旋回が可能であると判定する。一方、前輪の舵角が最大となるように前輪転舵装置91を作動させたとしても車両の軌道が走行経路からずれて走行経路上の目標地点に車両を到達させることができない場合には、前輪操舵での旋回が可能ではないと判定する。
【0040】
前輪操舵での旋回が可能である場合には(S401:YES)、制御部12は、処理をステップS402に移行する。ステップS402では、制御部12は、前輪操舵による代替制御を実施することを選択する。すなわち、自動旋回制御において、異常が検出されている後輪転舵装置92に替わって前輪転舵装置91を代替装置として作動させる。この結果として、車両は、前輪の舵角が制御されることによって旋回する。前輪操舵による代替制御を実施することを選択すると、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。
【0041】
一方、前輪操舵での旋回が可能ではない場合には(S401:NO)、制御部12は、処理をステップS403に移行する。ステップS403では、制御部12は、制動装置94に過度に大きな負荷がかかるか否かを判定するための許容上限値を設定する。制御部12は、制動装置94を連続で作動させ続けることができる最長の作動時間を許容上限値として設定する。制御部12は、許容上限値を設定すると処理をステップS404に移行する。
【0042】
ステップS404では、制御部12は、前輪転舵装置91、駆動装置93および制動装置94を作動させることによって走行経路に従って車両を走行させると仮定した場合の、制動装置94への負荷を予測値として算出する。たとえば、制御部12は、走行経路および車速等に基づいて、制動装置94を作動させる時間を予測して予測値として算出する。制御部12は、予測値を算出すると、処理をステップS405に移行する。
【0043】
ステップS405では、制御部12は、予測値が許容上限値以下であるか否かを判定する。予測値が許容上限値以下である場合には(S405:YES)、制御部12は、処理をステップS406に移行する。
【0044】
ステップS406では、制御部12は、前輪操舵および制駆動力制御による代替制御を実施することを選択する。すなわち、自動旋回制御において、前輪転舵装置91、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させる。この結果として、自動旋回制御が実施される場合には、異常が検出されている後輪転舵装置92に替わって、前輪転舵装置91、駆動装置93および制動装置94が作動されることによって車両が旋回される。具体的には、前輪の舵角の制御に加えて車輪の加減速および車両の荷重移動によって、走行経路に追従するように車両が制御される。前輪操舵および制駆動力制御による代替制御を実施することを選択すると、制御部12は、本処理ルーチンを終了する。
【0045】
一方、ステップS405の処理において、予測値が許容上限値よりも大きい場合には(S405:NO)、制御部12は、処理をステップS407に移行する。ステップS407では、制御部12は、停車処理を開始する。停車処理の内容は、ステップS205における停車処理と同様である。制御部12は、停車処理を実施すると本処理ルーチンを終了する。
【0046】
本実施形態の作用および効果について説明する。
制御装置10によれば、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92が正常である場合には、前輪操舵および後輪操舵によって自動旋回制御が行われる(S108)。これによって、車両は、前輪の舵角の制御および後輪の舵角の制御によって旋回するように制御される。
【0047】
また、制御装置10によれば、前輪転舵装置91の異常および後輪転舵装置92の異常が検出されているときには(S102:YES)、駆動装置93および制動装置94を作動させることによって走行経路に従って車両を走行させると仮定した場合に、制動装置94に過度に大きな負荷がかかるか否かが判定される(S203)。
【0048】
そして、予測値が許容上限値以下であり、制動装置94にかかる負荷が過度に大きくないと判定した場合には(S203:YES)、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させる(S204)。これによって、たとえば、転舵装置に異常が発生していない場合と比較して舵角の変動範囲が狭い場合や、舵角を変更できないような場合でも、車輪の加減速および車両の荷重移動を制御することによって車両を旋回させることができる。すなわち、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に異常が発生していても、自動旋回制御を継続することができる。
【0049】
駆動装置93および制動装置94を代替装置として自動旋回制御を継続する場合には、制動装置94への負荷が許容上限値を超えない範囲で制動装置94が作動することになる。このため、制動装置94に過度に大きな負荷がかかることがない。すなわち、制動装置94を代替とすることによって自動旋回を継続する場合に、制動装置94の性能が低下することなく制動力を車輪に付与することができる。
【0050】
さらに制御装置10によれば、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92のうち一方の転舵装置に異常が検出されている場合には(S104:YESまたはS106:YES)、異常が検出されていない方の転舵装置の作動によって目標地点に到達できるか否かが判定される(S301、S401)。
【0051】
そして、異常が検出されていない方の転舵装置の作動によって目標地点に到達できる場合には(S301:YESまたはS401:YES)、異常が検出されていない方の転舵装置を作動させて自動旋回を継続することができる(S302、S402)。四輪の操舵による旋回に替えて前輪の操舵または後輪の操舵による旋回を行えるため、旋回のために制動装置94が作動されない。これによって、制動装置94の負荷増大を抑制できる。また、代替装置として駆動装置93または制動装置94の作動を旋回時に伴わないため、転舵装置に異常が発生していない場合の四輪の操舵による旋回を行う場合と比較して、旋回時に車両の速度が変化することを抑制できる。
【0052】
ここで、前輪または後輪を操舵することによる車両の旋回性能は、四輪を操舵することによる旋回性能とは異なる。このため、四輪を操舵することを前提として走行経路が設定されていると、異常が検出されていない方の転舵装置を作動させただけでは、車両の軌道と走行経路とにずれが生じるおそれがある。
【0053】
この点、制御装置10によれば、異常が検出されていない方の転舵装置を作動させるだけでは目標地点と車両の位置とのずれが生じる場合には(S301:NOまたはS401:NO)、異常が検出されていない方の転舵装置に加えて駆動装置93および制動装置94を作動させて自動旋回が継続される(S306、S406)。このため、異常が検出されていない方の転舵装置を作動することによる舵角の制御に加えて車輪の加減速および車両の荷重移動によって、走行経路に追従するように車両が制御される。さらに、異常が検出されていない方の転舵装置の作動によって前輪または後輪の舵角が変更されるため、前輪および後輪の舵角を変更することなく駆動装置93または制動装置94によって旋回を行わせる場合と比較して、代替装置として作動させる制動装置94にかかる負荷を軽減することができる。
【0054】
なお、異常が検出されていない方の転舵装置に加えて駆動装置93および制動装置94が作動される場合にも、制動装置94は、制動装置94への負荷が許容上限値を超えない範囲で作動される。このため、代替装置として制動装置94を作動させて自動旋回を継続しても制動装置94に過度に大きな負荷がかかることがない。
【0055】
さらに制御装置10では、予測値が許容上限値よりも大きい場合には(S203:NO、S305:NOまたはS405:NO)、停車処理が実施される(S205、S307、S407)。このため、制動装置94への負荷が許容上限値を超えて過度に大きくなるおそれがあるときには、制動装置94は、代替装置として選択されない。すなわち、制動装置94への負荷が許容上限値を超えるように制動装置94が作動されることがない。これによって、制動装置94にかかる負荷が過度に大きくなることを抑制でき、制動装置94の性能が低下することを抑制できる。また、停車処理では、車両を移動させてから車両を停止させるため、停止させた車両が他の車両等にとって妨げになることを抑制できる。
【0056】
上記「課題を解決するための手段」に記載した「前記代替装置に対して許容できる負荷の値の集合である許容領域」は、許容上限値以下の領域に対応する。「前記代替装置に対して許容できる負荷の値の集合である許容領域に前記予測値が含まれているときには、前記代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する」処理は、ステップS204の処理に対応する。
【0057】
また、前輪転舵装置91の異常および後輪転舵装置92の異常が検出されている場合に作動される制動装置94および駆動装置93は、第1代替装置である。
ステップS301またはステップS401の処理は、「前記前輪転舵装置および前記後輪転舵装置のうち一方の装置を第1転舵装置として他方の装置を第2転舵装置として」、「前記第2転舵装置の異常が検出されていない一方で前記第1転舵装置の異常が検出されている場合に、前記第1転舵装置および前記第2転舵装置のうち前記第2転舵装置のみを制御することによって前記自動旋回制御を実行した際に前記走行経路上の目標地点に前記車両を到達させることができるか否かを判定」する処理である。
【0058】
ステップS306またはステップS406の処理において選択された代替装置を作動させて自動旋回制御を実行する処理は、「前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方の装置と、前記第2転舵装置とを、前記第1転舵装置の替わりに作動させる第2代替装置として、該第2代替装置を制御することによって当該自動旋回制御を実行する」処理である。
【0059】
ステップS302またはステップS402の処理において選択された代替装置を作動させて自動旋回制御を実行する処理は、「前記第2転舵装置を前記第1転舵装置の替わりに作動させる第3代替装置として、該第3代替装置を制御することによって前記自動旋回制御を実行する」処理である。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態におけるステップS204の処理では、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92に替えて、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させるようにした。異常が発生している転舵装置において車輪の舵角の変更が少しでも可能であるならば、変更が可能な範囲で舵角を変更して、要求される舵角と実際の舵角との差を補うように代替装置を作動させることによって自動旋回制御を継続することもできる。
【0061】
ステップS302、S306、S402およびS406の処理においても同様に、異常が検出されている転舵装置を作動させてもよい。
・上記実施形態では、制動装置94への負荷に関して予測値が許容上限値以下であるか否かを判定した。これに替えて、駆動装置93への負荷に関して許容上限値を設定し、駆動装置93への負荷の予測値を算出して、予測値が許容上限値以下であるか否かを判定することもできる。駆動装置93の負荷は、内燃機関の回転数やトルク等を指標として測ることができる。
【0062】
・上記実施形態では、ステップS204の処理において、駆動装置93および制動装置94を代替装置として作動させることを選択して、車輪の加減速および車両の荷重移動を調整するように構成した。これに替えて、駆動装置93および制動装置94のうちの少なくとも一方を作動させることによって、車輪の加減速および車両の荷重移動を調整するようにしてもよい。代替装置に制動装置94が含まれない場合には、上記変更例のように駆動装置93への負荷を用いた判定を行うとよい。
【0063】
ステップS306の処理において、駆動装置93および制動装置94のうちの少なくとも一方と、後輪転舵装置92とを代替装置として作動させることを選択してもよい。
ステップS406の処理において、駆動装置93および制動装置94のうちの少なくとも一方と、前輪転舵装置91とを代替装置として作動させることを選択してもよい。
【0064】
・ステップS201の処理において設定する許容上限値は、次のように設定することもできる。摩擦制動装置における摩擦材に関して、制動力の低下が引き起こされにくい摩擦材の温度の範囲における最大値を許容上限値として設定する。なお、制動力と摩擦材の温度との関係は、摩擦材および回転体の材質に応じて異なる。
【0065】
上記構成のように許容上限値を設定した場合には、ステップS202の処理では、摩擦材の温度を予測値として算出する。摩擦材の温度は、温度センサによって検出することができる。または、車速の変動量および制動距離等に基づいて摩擦材の温度を算出することもできる。なお、摩擦材の温度に替えて回転体の温度を用いて許容上限値を設定してもよい。
【0066】
このように、制動装置94に対しての負荷は、制動装置94の作動時間を指標とすることに限らず算出することができる。
・ステップS303およびステップS403の処理において設定する許容上限値に関しても、上記変更例のように変更することができる。
【0067】
・ステップS201の処理において設定する許容上限値、ステップS303の処理において設定する許容上限値、およびステップS403の処理において設定する許容上限値は、等しい値でもよいし互いに異なる値でもよい。
【0068】
一例として、ステップS303の処理において設定する許容上限値およびステップS403の処理において設定する許容上限値を、ステップS201の処理において設定する許容上限値よりも大きくしてもよい。これによれば、一方の転舵装置が正常である場合には停車処理が実施されにくくなる。すなわち、自動旋回制御が継続されやすくなる。
【0069】
また、たとえば、車両が、後輪を操舵する場合よりも前輪を操舵する場合の方が旋回しやすい傾向であるとする。この場合には、前輪転舵装置91および制動装置94が代替装置とされるよりも、後輪転舵装置92および制動装置94が代替装置とされる方が、制動装置94にかかる負荷が大きくなりやすい。このような傾向に基づいて許容上限値の大きさを調整することもできる。
【0070】
・
図4を用いて説明した後輪操舵判定処理において、ステップS303、S304、S305、S307の処理を省略してもよい。この場合には、制御部12は、後輪操舵での旋回が可能ではない場合には(S301:NO)、処理をステップS306に移行する。
【0071】
同様に、
図5を用いて説明した前輪操舵判定処理において、ステップS403、S404、S405、S407の処理を省略してもよい。
一方の転舵装置が正常に作動する場合には、当該転舵装置による舵角の制御と制駆動力制御による旋回を行ったとしても、制動装置94にかかる負荷が大きくなりにくい。このため、上記構成のように停車処理を実施するか否かを判定する処理および停車処理を省略しても、制動装置94の負荷が過度に大きくなりにくい。
【0072】
・上記実施形態では、許容上限値と予測値とを比較することによって制動装置94への負荷が大きくなるか否かを判定した。これに替えて、たとえば横軸に摩擦材の温度をとり、縦軸に制動装置94の作動時間をとった二次元のマップに基づいて、制動装置94への負荷が大きくなるか否かを判定してもよい。この場合には、当該マップにおいて温度の許容上限値以下であり時間の許容上限値以下である領域が、許容領域である。予測値が許容領域に含まれていないときには停車処理を実行することで、上記実施形態と同様に、自動旋回制御において制動装置94にかかる負荷が過度に大きくなることを抑制できる。
【0073】
・制動装置94としては、車輪に回生制動力を付与する回生制動装置を採用することもできる。回生制動装置を搭載する車両では、回生制動力の付与に伴って発生する電力がバッテリに充電される。こうした車両では、バッテリの残量が規定の値を超えるような電力が発生する場合には回生制動が規制されることがある。すなわち、回生制動装置への負荷が大きくなると回生制動が規制されることがある。このため、回生制動装置を代替装置として自動旋回制御を継続する場合には、回生制動装置への負荷が許容上限値を超えない範囲で回生制動装置が作動するようにすることで、上記実施形態のように、制動装置を代替とすることによって自動旋回を継続する場合に、制動装置の性能が低下することなく制動力を車輪に付与することができる。回生制動装置にかかる負荷の指標としては、回生制動装置の作動を継続する時間や、バッテリ残量等を用いることができる。
【0074】
・停車処理では、車両の周囲に障害物や他の車両が無いとき等には、車両を移動させることなく停止させることもできる。
・停車処理を実施することに替えて、以下に説明する抑制処理を実施するようにしてもよい。抑制処理は、自動旋回制御を実行する際に制動装置94への負荷が許容上限値を超えないように制動装置94によって発生させる制動力を小さく抑える処理である。たとえば、制動装置94を作動させる時間を短くしたり、回転体に摩擦材を押し付ける力を小さくしたりすることによって制動装置94への負荷を軽減することができる。停車処理の実施に替えて抑制処理の実施を採用した場合には、制動装置94への負荷を軽減しつつ自動旋回制御を継続することができる。
【0075】
・上記変更例における抑制処理を実施して自動旋回制御を継続してから、さらに停車処理を実施するようにしてもよい。たとえば、抑制処理を開始してから規定時間の経過後に停車処理を実施することができる。
【0076】
・上記実施形態では、前輪転舵装置91および後輪転舵装置92を備える車両を例示したが、車両が四輪操舵機構を備えていることは必須の要件ではない。たとえば前輪が操舵輪である車両に制御装置10を適用する場合には、前輪転舵装置に異常が生じている場合に制動装置94にかかる負荷が過度に大きくなることが予測される場合に停車処理を実行することで、上記実施形態と同様に、自動旋回制御において制動装置94にかかる負荷が過度に大きくなることを抑制できる。
【0077】
・上記実施形態では、車輪を四つ備える車両を例示したが、車輪の数はこれに限られるものではない。
・駆動装置93の動力源として、各車輪のホイールに駆動モータが設けられているインホイールモータを採用してもよい。駆動モータを制御することによって、各車輪の駆動力を各別に調整することができる。なお、インホイールモータは、回生制動装置として使用されてもよい。
【0078】
・上記実施形態では、各車輪に付与する制動力を各別に変更できる制動装置94を例示した。各車輪に付与する制動力を各別に変更できることは必須の構成ではないが、制動装置としては、少なくとも左右の車輪に付与する制動力を変更できることが好ましい。
【0079】
・制御装置10、前輪制御装置、後輪制御装置、駆動制御装置、制動制御装置および運転支援装置20の設定部は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0080】
・運転支援装置20の設定部が備える機能の一部またはすべてを制御装置10が備えていてもよい。
・前輪制御装置、後輪制御装置、駆動制御装置および制動制御装置が備える機能の一部またはすべてを制御装置10が備えていてもよい。
【0081】
上記実施形態および変更例から把握できる技術的思想について記載する。
1.車両の車輪に動力を伝達する駆動装置、車輪の舵角を制御する転舵装置、および車輪に制動力を付与する制動装置を備える車両を制御する車両の制御方法であって、
前記転舵装置の異常を検出する異常検出処理と、
走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる自動旋回処理と、を車両の制御装置に実行させるものであり、
前記自動旋回処理は、
前記転舵装置の異常が検出されていない場合に、前記転舵装置を制御することによって前記走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる第1自動旋回処理と、
前記転舵装置の異常が検出されている場合に、
前記制動装置および前記駆動装置のうちの少なくとも一方を前記転舵装置に替えて作動させる代替装置として、
前記代替装置を作動させることによって前記走行経路に従って前記車両を自動で旋回させると仮定した場合の前記代替装置への負荷を予測値として算出して、
前記代替装置に対して許容できる負荷の値の集合である許容領域に前記予測値が含まれているときには、前記代替装置を制御することによって前記走行経路に従って前記車両を自動で旋回させる第2自動旋回処理と、を含む車両の制御方法。
【0082】
2.前記予測値が前記許容領域に含まれていないときに前記車両を停止させる停車処理を実行させる上記記載の車両の制御方法。
3.前記予測値が前記許容領域に含まれていないときに前記車両を停止させる車両の制御プログラム。
【符号の説明】
【0083】
10…制御装置
11…異常検出部
12…制御部
13…制御量算出部
20…運転支援装置
91…前輪転舵装置
92…後輪転舵装置
93…駆動装置
94…制動装置