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特許7604163無線伝送システム、制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】無線伝送システム、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20241216BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20241216BHJP
   H01F 38/18 20060101ALI20241216BHJP
   H04B 5/24 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/26 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/43 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/45 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/48 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/70 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/72 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/73 20240101ALI20241216BHJP
   H04B 5/75 20240101ALI20241216BHJP
【FI】
H04L25/02 303Z
H01F38/14
H01F38/18 C
H04B5/24
H04B5/26
H04B5/43
H04B5/45
H04B5/48
H04B5/70
H04B5/72
H04B5/73
H04B5/75
H04L25/02 V
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020173313
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064593
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】江口 正
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-048068(JP,A)
【文献】特開平07-141079(JP,A)
【文献】国際公開第2019/099853(WO,A1)
【文献】特開2005-312000(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012622(WO,A1)
【文献】特開平04-045505(JP,A)
【文献】特開2003-169002(JP,A)
【文献】特開2018-117293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0119576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
H01F 38/14
H01F 38/18
H04B 5/24
H04B 5/26
H04B 5/43
H04B 5/45
H04B 5/48
H04B 5/70
H04B 5/72
H04B 5/73
H04B 5/75
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線伝送システムであって、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラのギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有し、
前記第2の伝送路カプラは、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させ、
前記第1の信号の信号幅は、前記第1の伝送路カプラに入力される入力信号の立ち上がりエッジと、前記第1の伝送路カプラに接続された終端構造から出力される出力信号の立ち上がりエッジとの差以上であることを特徴とする無線伝送システム。
【請求項2】
前記第1の伝送路カプラは、環状に配置されることを特徴とする請求項1に記載の無線伝送システム。
【請求項3】
前記第2の伝送路カプラは、円弧の大きさが180度以上200度以下となることを特徴とする請求項1に記載の無線伝送システム。
【請求項4】
前記第2の伝送路カプラは、前記第2の伝送路カプラに接続されているLPF(Low Pass Filter)をさらに有し、
前記第2の伝送路カプラは、円弧の大きさが160度以上180度未満であることを特徴とする請求項1に記載の無線伝送システム
【請求項5】
無線伝送システムであって、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラの前記ギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有し、
前記第2の伝送路カプラが前記第1の伝送路カプラのギャップを跨ぐ際に生じる信号の切れ目の周波数成分を抑制し、前記第1の伝送路カプラに入力される信号の最大基本周波数を通過させる回路を有することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項6】
無線伝送システムであって、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続される第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続される第2の伝送路カプラと、を有し、
前記第2の伝送路カプラは、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させ、
前記第1の伝送路カプラの伝送遅延量から前記第1の信号の信号幅を引いた値が、前記第2の伝送路カプラから出力された信号を受信するディジタル回路の許容ジッタ量と略等しい、あるいは前記許容ジッタ量より小さくなるような大きさの前記第2の伝送路カプラを有することを特徴とする無線伝送システム。
【請求項7】
前記コンパレータは、入力された信号を波形整形することを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の無線伝送システム。
【請求項8】
前記コンパレータは、入力された信号が第1の閾値以上である場合と、入力された信号が第1の閾値と異なる第2の閾値以下である場合とで、出力を切り替えることで、波形整形を行うことを特徴とする請求項1からの何れか1項に記載の無線伝送システム。
【請求項9】
前記第2の伝送路カプラが前記第1の伝送路カプラの前記信号線の一端と他端のギャップを跨いで対向する場合、前記第2の伝送路カプラは、前記第1の伝送路カプラへの入力信号に対して遅延が無い信号と、前記第1の伝送路カプラへの入力信号に対して前記第1の伝送路カプラの伝送分の遅延を含む信号とが合成された信号を受信することを特徴とする請求項に記載の無線伝送システム。
【請求項10】
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラのギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有する無線伝送システムの制御方法であって、
前記第2の伝送路カプラが、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させる発生工程と、
前記発生工程において発生した前記第1の信号を前記コンパレータに入力する入力工程と、を有し、
前記第1の信号の信号幅は、前記第1の伝送路カプラに入力される入力信号の立ち上がりエッジと、前記第1の伝送路カプラに接続された終端構造から出力される出力信号の立ち上がりエッジとの差以上であることを特徴とする制御方法。
【請求項11】
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続される第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラのギャップを跨いで移動し、かつ前記第1の伝送路カプラのギャップを跨ぐ際に生じる信号の切れ目の周波数成分を抑制し、前記第1の伝送路カプラに入力される信号の最大基本周波数を通過させる回路を有する第2の伝送路カプラと、を有する、無線伝送システムの制御方法であって、
前記第2の伝送路カプラが、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させる発生工程と、
前記発生工程において発生した前記第1の信号を前記コンパレータに入力する入力工程と、を有することを特徴とする制御方法。
【請求項12】
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、
差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラのギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有する無線伝送システムの制御方法であって、
前記第2の伝送路カプラが、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させる発生工程と、
前記発生工程において発生した前記第1の信号を前記コンパレータに入力する入力工程と、を有し、
前記第1の伝送路カプラの伝送遅延量から前記第1の信号の信号幅を引いた値が、前記第2の伝送路カプラから出力された信号を受信するディジタル回路の許容ジッタ量と略等しい、あるいは前記許容ジッタ量より小さくなることを特徴とする制御方法。
【請求項13】
コンピュータに、請求項1から1の何れか1項に記載の制御方法で無線伝送システムを制御させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動可能な伝送路を含む無線伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットハンド部やネットワークカメラ等の回転可動部を有する機器を、ネットワーク等を介した通信によって制御する技術が発展している。このような回転可動部を有する機器は、その回転可動部を回転させる際にケーブルがシャフトに絡まる等の課題を解決するために、その回転部を介してデータ通信を行うことができるような構成とすることができる。
【0003】
特許文献1には、リング状の第1の伝送路の一方の端から電気信号を入力し、他方の端を終端し、これに対向する第2の伝送路から信号を検出する構成が記載されている。ここで、第1の伝送路において、第1の端から電気信号が入力されて第2の端に伝送される場合、第1の端と第2の端とにおいては、電気信号のタイミングにずれが生じる。すなわち、第2の端においては、第1の伝送路における伝送遅延によって、第1の端よりも遅れて電気信号が到来することとなる。このため、第2の伝送路では、第1の伝送路のどの部分から信号を受信するかに応じて、信号の受信タイミングがずれる。これに対して、特許文献1では、第2の伝送路に接続される可変遅延器を用いて、第2の伝送路の位置に応じた信号のタイミングのずれを補正する技術について開示されている。すなわち、第2の伝送路が第1の伝送路の第1の端の近くに存在する場合は、可変遅延器の遅延量が大きくされ、第2の伝送路が第1の伝送路の第2の端の近くに存在する場合は、その遅延量が少なくされるように補正される。
【0004】
しかしながら、特許文献1では、図6(a)のように、第1の伝送路101の信号を入力する第1の端Aと終端されている第2の端Bとの間隙(ギャップ)が小さい。このため、第2の伝送路111が、第1の伝送路101の第1の端A及び第2の端Bの両方と同時に対向しうる。図6(b)に第2の伝送路111(受信カプラ)で検出される入力信号のエッジ信号を示す。第2の伝送路111が第1の伝送路の第1の端Aと第2の端Bの上を移動するとき、図6(b)のように、第1の伝送路101の第1の端A及び第2の端Bのそれぞれからタイミングが異なる信号が合成される。そのため、第2の伝送路から出力される信号に時間的な“飛び”が生じ、この時間的な“飛び”がディジタル回路のジッタ許容量を超えると誤ったデータが出力されてしまう虞がある。
【0005】
このような問題に対し、特許文献2では、複数の送信側伝送路(送信カプラ)と受電側伝送路(受信カプラ)を適切に選択して切り替えることで、データの飛びを防ぎ、安定した通信を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-45505号公報
【文献】特開2015-202415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の方法では、入力チャネルの信号を、固定部分に対する前記回転部分の相対位置に依存して、遅延ユニットを介して、N+1個の伝送線路へとルーティングする必要がある。そのため、相対位置を検出する手段や、高速に入力信号を切り替える切り替え手段が必要となり、その構成は複雑なものとなる。
【0008】
上記を鑑み、本発明は、ギャップを有する第1の伝送路カプラと、該第1の伝送路と非接触で対向する第2の伝送路カプラとを用いて差動信号を伝送する場合に、簡易な構成で通信の不安定化を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鑑み、本発明に開示の無線伝送システムは、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラのギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有し、前記第2の伝送路カプラは、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させ、前記第1の信号の信号幅は、前記第1の伝送路カプラに入力される入力信号の立ち上がりエッジと、前記第1の伝送路カプラに接続された終端構造から出力される出力信号の立ち上がりエッジとの差以上であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に開示の別の側面の無線伝送システムは、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続され、前記信号線の一端と他端にギャップを有する第1の伝送路カプラと、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続され、前記第1の伝送路カプラの前記ギャップを跨いで移動する第2の伝送路カプラと、を有し、前記第2の伝送路カプラが前記第1の伝送路カプラのギャップを跨ぐ際に生じる信号の切れ目の周波数成分を抑制し、前記第1の伝送路カプラに入力される信号の最大基本周波数を通過させる回路を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に開示の別の側面の無線伝送システムは、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端に送信部、他端に終端構造が接続される第1の伝送路カプラと、差動信号を伝送する一対の信号線であり、各々の信号線の一端にコンパレータ、他端に終端構造が接続される第2の伝送路カプラと、を有し、前記第2の伝送路カプラは、前記第1の伝送路カプラに対する入力信号が、前記第1の伝送路カプラと前記第2の伝送路カプラとが電界および/または磁界結合を行う位置に伝送された際の前記入力信号の立ち上がりおよび立下りの時に第1の信号を発生させ、前記第1の伝送路カプラの伝送遅延量から前記第1の信号の信号幅を引いた値が、前記第2の伝送路カプラから出力された信号を受信するディジタル回路の許容ジッタ量と略等しい、あるいは前記許容ジッタ量より小さくなるような大きさの前記第2の伝送路カプラを有することを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ギャップを有する第1の伝送路カプラと、該第1の伝送路と非接触で対向する第2の伝送路カプラとを用いて差動信号を伝送する場合に、簡易な構成で通信の不安定化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態におけるシステム構成図を示した図である。
図2】第1の実施形態において受信カプラ111の大きさの決定に用いるタイミングチャートを示した図である。
図3】第1の実施形態における受信カプラ111が送信カプラ101上を一蹴した場合のタイミングチャートを示した図である。
図4】第2の実施形態におけるシステム構成図を示した図である。
図5】第2の実施形態における別のシステム構成図を示した図である。
図6】従来技術を説明するためのシステム構成図とタイミングチャートを示した図である。
図7】各実施形態に共通の原理を説明するシステム構成図を示した図である。
図8】各実施形態に共通の原理を説明するタイミングチャートを示した図である。
図9】各実施形態に共通の原理を説明する別のシステム構成図を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。
【0015】
まず、各実施形態に共通の原理について説明する。図7には、各実施形態に共通の原理について説明するためのシステム構成図を示した。伝送路カプラ101は、一対の信号線で構成される、差動信号の送信側の伝送路カプラであって、以降は送信カプラとよぶ。送信カプラ101に接続された信号源103(送信部)から送信されるデータは、信号源103に接続されている差動送信バッファ104を介することで、差動信号として送信カプラ101に入力される。送信カプラ101の信号源103と接続している方と逆の端は、伝送路の特性インピーダンスと略等しい抵抗102によって終端されている。
【0016】
伝送路カプラ111は、一対の信号線で構成される、差動信号の受信側の伝送路カプラであって、以降は受信カプラとよぶ。受信カプラ111は、送信カプラ101に沿って移動することができる。受信カプラ111は、送信カプラ101と電界および/または磁界の少なくとも一方の効果で結合される。信号源103から入力された入力信号は、送信カプラ101と受信カプラ111の電界および/または磁界結合を経て、受信カプラ111の一端からコンパレータ113に出力される。入力信号は、コンパレータ113によって波形整形され、受信信号として検出される。受信カプラ111の他方の端は、伝送路の特性インピーダンスと略等しい抵抗112で終端されている。
【0017】
送信カプラ101および受信カプラ111は方向性結合器として動作する。受信カプラ111において、送信カプラ101において信号源103と接続している方の端と同じ方の端部をカップルド端、もう一方の端をアイソレーション端と言う。
【0018】
図8には、各実施形態に共通の原理を説明するためのタイミングチャートを示した。図8の(A)には、信号源103から出力される信号、すなわち送信カプラに入力される信号を示した。また、図8の(B)には、送信カプラ101の、受信カプラ111と対向する位置における信号を示した。また、受信カプラ111のアイソレーション端を終端し、カップルド端から信号を出力する場合の、カップルド端から出力される信号を図8の(C)に示した。コンパレータ113が出力する信号を図8の(D)に示した。
【0019】
図8において送信カプラ101を伝播する信号、および受信カプラ111から検出される信号は差動信号であるが、ここでは説明の簡略化のために差動信号の差信号として示している。
【0020】
信号源103から出力された信号(A)は差動バッファ104を介して送信カプラ101に入力される。送信カプラ101上を伝播する信号は、基板上の伝送モードの速度で伝播し、送信カプラ101の特性インピーダンスと略等しい終端抵抗102に吸収される。ここで終端抵抗102が送信カプラ101の特性インピーダンスと完全に一致していれば、終端で伝播された信号は反射することなく終端抵抗102に吸収される。
【0021】
この場合、受信カプラ111と対向する位置における送信カプラ101の信号は、入力信号から差動バッファ104の遅延と伝送遅延を足したΔt時間だけ遅れた信号(B)になる。
【0022】
受信カプラ111で検出される信号(C)は、信号(B)の立ち上がりに応じて立ち上がり、その後、送信カプラ101と受信カプラ111が電界および/または磁界結合している長さに略比例した時間分だけ立ち上がりが保持される。つまり受信カプラ111の長さに略比例した時間分だけ立ち上がりが保持される。ここでは、図7に示した受信カプラ111の長さL1に略比例した時間tonだけ信号の立ち上がりが保持される。その後、信号(C)はほぼ0になる。
【0023】
さらに信号(C)は、信号(B)の立ち下がりに応じて立ち下がり、同様に時間tonだけ立下りが保持される。その後、信号はほぼ0に戻る。
【0024】
波形整形回路113は受信カプラ111の出力信号から入力信号を復調する回路である。一般的に受信カプラ111の信号(C)(エッジ信号)が、プラスの閾値電圧Vth以上になった場合に“1”を、マイナスの閾値電圧-Vth以下になったときに“0”を出力するようにヒステリシスが設けられたコンパレータで構成される。以後113の波形整形回路をコンパレータ113と称する。
【0025】
なお、信号(C)には、送信カプラ101の特性インピーダンスと終端抵抗102のわずかなインピーダンスずれによる反射波や、受信カプラ111内の不整合による反射波等のノイズが生じる場合がある。しかしコンパレータ112は、これらのノイズ信号が上記閾値電圧(Vth,-Vth)以内であれば信号(C)の立ち上がり、立下りのみに応じて変化するため、信号(B)と同じ波形の信号(D)を復調することができる。
【0026】
なお、図7および図8では、長い伝送路を送信カプラ、長い伝送路に沿って移動する短い伝送路を受信カプラとしたが、これに限らない。方向性結合器は可逆性を有するため、図9に示したように、送信カプラ101と受信カプラ111を入れ替えても同様に成立する。なお、図9のシステム構成図に含まれる各構成要件は、図7のシステム構成図に含まれる各構成要件の、同じ付番がついているものにそれぞれ相当する。
【0027】
(第1の実施形態)
本実施形態にかかる無線伝送システムのシステム構成を図1に示した。本実施形態にかかる無線伝送システムでは、送信カプラ101が円周上に環状に配置され、受信カプラ11は送信カプラ101に沿って円周上を移動するように構成される。また、受信カプラ111はカップルド端から信号を出力する。
【0028】
回転体を有する機器に本実施形態にかかる無線伝送システムが配置される場合、回転体の回転軸を中心とした円周上に送信カプラ101が配置される。また、その送信カプラ101と対向し、かつ回転体の回転軸を中心とした円周上を移動するように受信カプラ111が配置される。受信カプラ111は、回転体の外部あるいは内部の何れに配置されてもよい。送信カプラ101と受信カプラ111とは、電界および/または磁界結合を介して信号を伝送する。なお図1では、送信カプラ101、受信カプラ111を支持する基板等の部材と、送信カプラ101、受信カプラ111をマイクロストリップラインやコプレーナラインのような差動の高周波伝送路とした場合のグランド導体を、説明の簡略化のため省いている。
【0029】
なお、図1では伝送路カプラ101が送信カプラ、伝送路カプラ111が受信カプラとしたが、これに限らず、伝送路カプラ101が受信カプラ、伝送路カプラ111が送信カプラであってもよい。
【0030】
送信カプラ101と受信カプラ111とは、同一の機器に含まれるように構成されてもよいし、別々の機器に含まれるように構成されてもよい。
【0031】
さらに受信カプラ111から得られる出力信号が所望の信号レベルより小さい場合、受信カプラ111とコンパレータ113の間に増幅器が挿入されていてもよい。
【0032】
送信カプラ101は、一対の導体で構成された伝送路であって、円周上に環状に配置されている。送信カプラ101には間隙(ギャップ)が存在し、一方の端には信号源103が、差動バッファ104を介して接続されている。また、送信カプラ101の他方の端には、終端抵抗102が接続されている。信号源103から出力された信号は、送信カプラ101を経由して終端抵抗102の方向へ伝送され、終端抵抗102に流れ込む。
【0033】
受信カプラ111は、送信カプラ101が配置された円周と同じ中心を有する円周上に、送信カプラ101に対向するように配置される。受信カプラ111も一対の導体で構成された伝送路で、送信カプラ101より短くなるように構成される。受信カプラ111は送信カプラ101と電界および/または磁界結合によって結合可能に配置され、送信カプラ101を流れる電気信号に基づいて信号を発生するように構成される。
【0034】
受信カプラ111のアイソレーション端は、終端抵抗112によって終端される。一方、受信カプラ111のカップルド端は、コンパレータ113に接続されている。コンパレータ113は受信カプラ111が受信した信号を波形整形し、接続されているディジタル回路114に送信する。
【0035】
ここで、送信カプラ101のギャップは、受信カプラ111のサイズより小さくなるように構成される。受信カプラ111が、送信カプラ101のギャップを跨ぐように対向しているとき、受信カプラ111は送信カプラ101の2つの端部と同時に電界および/または磁界結合することになる。この場合、受信カプラ111は、送信カプラ101に入力される入力信号に対してほとんど遅延が無い信号と、入力信号に対して、送信カプラ101上の伝送のため遅延した信号との両方を受信することになる。受信カプラ111が受信する信号は、これら2つの信号を、受信カプラ111と、送信カプラ101の2つの端部の伝送路との結合する割合に従って合成した信号を受信する。
【0036】
図2には、受信カプラ111の大きさの決定に用いるタイミングチャートを示した。図2(a)には、上から順に、送信カプラ101の入力信号V(in)と、送信カプラ101の終端部において出力される信号V(term)と、受信カプラ111のカップルド端における出力信号の波形を、受信カプラ111の円弧の大きさ毎に示した。ここでは、受信カプラ111の円弧がそれぞれ160deg(degree、度)、170deg,180deg,190deg,200degのときの出力信号の波形を示した。受信カプラ111の円弧の大きさが、円周の180deg以上になると、受信カプラ111の出力信号の信号幅が、送信カプラ101の入力信号に対するV(term)の遅延時間より大きくなり、受信カプラ111の出力信号に切れ目が生じなくなる。
【0037】
なお、本実施例の受信カプラ111においては円弧の大きさが160deg以上180deg未満では、受信信号の切れ目が0.1nS(second)以下であるため、ほとんどのコンパレータは反応できないため、コンパレータ出力には切れ目が生じない。
【0038】
ここで、伝送する信号が例えば1Gbpsであれば、その最大基本周波数は500MHzである。一方、受信信号の切れ目が0.1nSであればその基本周波数成分は5GHzである。このような場合、信号の基本周波数を通過させ、切れ目の周波数成分を抑制するLPF(Low Pass Filter)を受信カプラ111とコンパレータ113の間に挿入すれば、切れ目があってもコンパレータ113の出力には切れ目が生じない。簡素化のため、LPFとして数pF程度のコンデンサを受信カプラ111の差動伝送路の出力間に並列に挿入し、信号をフィルタリングしてもよい。この場合、信号の切れ目は小さくなり、円弧の大きさが180deg以下であってもコンパレータ113の出力に切れ目が生じなくなる。同様にコンパレータ113の応答可能な最大周波数が信号の最大基本周波数より高く、切れ目の周波数成分より低ければコンパレータ113の出力に切れ目が生じない。
【0039】
なお、LPFの挿入や、コンパレータの最大応答周波数によっては信号に切れ目が生じなくなるが、受信カプラ111が送信カプラ101のギャップ上を移動するとき、受信信号の位相ずれは起きる。この位相ずれが受信カプラ111に接続されるディジタル回路114のジッタ許容量を超えないようにしなければならない。
【0040】
図2(b)には、受信カプラ111の円弧の大きさが円周の180degの場合のタイミングチャートを示した。上から順に、送信カプラ101に対する入力信号(A)と、送信カプラ101の終端部で出力される信号(B)と、受信カプラ111が出力する信号(C)と、コンパレータ113が出力する信号(D)のタイミングチャートとなっている。図2(b)に示したように、信号(A)に対する信号(B)の遅延量tdに対して、信号(C)の信号幅tonが略等しいため、信号(D)に切れ目がなくなっていることがわかる。これらの図より、受信カプラ111の大きさを適切に設定することで、コンパレータ113が出力する信号におけるデータの飛びが抑制されていることがわかる。
【0041】
図3には、受信カプラ111が送信カプラ101上を一周した場合のタイミングチャートを示した。図3(a)では受信カプラ111の円弧の大きさが150degの場合、図3(b)には受信カプラ111の円弧の大きさが180degの場合を示した。
【0042】
図3(a)および(b)では、上から順に、送信カプラ101に対する入力信号と、送信カプラ101の終端部において出力される信号と、送信カプラ101と受信カプラ111との相対角度毎の受信カプラ111の出力信号とを示している。
【0043】
図3(a)では、相対角度が-160deg,-130deg,-100deg,-70deg,-40deg,-10deg,10degの時の受信カプラ111の出力信号の波形を示した。この受信カプラ111は、送信カプラ101との相対角度が-130degのときに、送信カプラ101の終端部付近の信号を主に受信している。このとき、コンパレータ113の閾値電圧Vth,-Vthは、送信カプラ101の遅延した信号(終端部の信号)の影響を受けた立ち上がり時間および立下り時間において到達される。このため、コンパレータ113の出力は、送信カプラ101への入力信号より遅延された信号として出力される。
【0044】
受信カプラ111は、送信カプラ101との相対角度が-100degのときは、送信カプラ101の信号が入力される方の端付近の信号を主に受信する。この場合、このときのコンパレータ113の出力は、送信カプラ101上を伝送することで遅延した信号(終端部の信号)の影響をほとんど受けずに出力される。このため、受信カプラ111と送信カプラ101との相対角度が-130degから-100degに変わった場合、コンパレータ113が出力する信号は、送信カプラ101上を伝送することで遅延した信号の影響を受ける信号から受けない信号に変わっていく。この場合、コンパレータ113が出力する信号の立ち上がりや立下りのタイミングについて飛びが起きる。
【0045】
なお、受信カプラ111が送信カプラ101に対して逆に回転した場合、受信カプラ111の送信カプラ101に対する相対角度が-100degから-130degに変わることになる。この場合、コンパレータ113が出力する信号は、送信カプラ101上を伝送することで遅延した信号の影響を受けない信号から受ける信号に変わっていくため、同様に立ち上がりや立下りのタイミングについて飛びが起きる。
【0046】
図3(b)では、相対角度が-190deg,-160deg,-130deg,-100deg,-70deg,-40deg,-10deg,10degの時の受信カプラ111の出力信号の波形を示した。図3(b)では、受信カプラ111と送信カプラ101との相対角度が-130degの場合と-100degの場合とで、閾値Vthおよび-Vthを超えるタイミングが略等しい。そのため、受信カプラ111と送信カプラ101との相対角度が-130degから-100degに変わる場合であっても、コンパレータ113が出力する信号の立ち上がりや立下りのタイミングについて飛びが発生しない。
【0047】
以上、受信カプラ111の大きさを、受信カプラ111が出力する信号の信号幅と、送信カプラ101への入力信号に対する終端での出力信号の遅延量と略等しくなるように構成することで、コンパレータが出力する信号の飛びを防ぐことができる。これにより、受信側でのデータの飛びを防ぐことができる。
【0048】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、図1に示したようなシステム構成を用いたが、これに限らず、別のシステム構成においても同様に受信カプラの大きさを決定してもよい。
【0049】
図4では、第1の実施形態とは異なる無線伝送システムのシステム構成図を示した。図4では、送信カプラ101は円柱の側面上に配置され、その外側に、送信カプラ101に対向するように受信カプラ111が配置される。このようなシステム構成の場合、受信カプラ111は、第1の実施形態と同様に、受信カプラ111の出力信号の信号幅と、送信カプラ101への入力信号に対する終端部での出力信号の遅延量とが略等しくなるような大きさを有する。これに限らず、受信カプラ111は、長時間信号を保持できるような大きさを有するカプラとして構成されてもよい。なお、図4に示したシステムは、円筒状に構成される伝送路カプラは、差動伝送路の長さが等しくなるため、第1の実施形態のシステムより差動伝送路の位相が揃いやすく、終端部での反射を小さくできる。
【0050】
図5には、第1の実施形態と異なる無線伝送システムの別のシステム構成図を示した。図5では図4のシステムとは異なり、受信カプラ111が、送信カプラ101に対して内側に配置されるように構成される。図4と同様に、受信カプラ111は、受信カプラ111の出力信号の信号幅と、送信カプラ101への入力信号に対する終端部での出力信号の遅延量とが略等しくなるような大きさを有する。これに限らず、受信カプラ111は、長時間信号を保持できるような大きさを有するカプラとして構成されてもよい。
【0051】
以上、第2の実施形態に示したようなシステム構成をとる場合も、第1の実施形態と同様に受信カプラ111の大きさを決定することで、データの飛びを抑制することができる。
【0052】
なお、実回路においては、ディジタル回路114は許容ジッタ量tjを有するため、受信カプラ111は許容ジッタ量tjより小さい飛びが生じるような大きさで構成されてもよい。すなわち、送信カプラ101への入力信号に対する終端部での出力信号の遅延量tdと、受信カプラ111の出力信号の信号幅tonに対して、tj<ton-tdであれば良い。
【0053】
また、第1の実施形態および第2の実施形態の何れに開示の無線伝送システムも、無線信号の通信に加えて、電力も伝送することができてもよい。
【0054】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC等)によっても実現可能である。また、そのプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して提供してもよい。
【符号の説明】
【0055】
101、111 伝送路カプラ
102、112 終端抵抗
103 信号源
104 差動送信バッファ
113 コンパレータ
114 ディジタル回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9