(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/08 20060101AFI20241216BHJP
G03G 9/093 20060101ALI20241216BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G03G9/08
G03G9/093
G03G9/087
(21)【出願番号】P 2020175016
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 沙羅
(72)【発明者】
【氏名】小▲崎▼ 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】桂 大侍
(72)【発明者】
【氏名】文田 英和
(72)【発明者】
【氏名】甲斐野 俊也
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-012943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08
G03G 9/093
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー母粒子及び該トナー母粒子の表面に存在する複数の凸部Xを有するトナー粒子を有するトナーであって、
該凸部Xが、有機ケイ素重合体を含有し、
該トナーの走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面観察において、
該凸部Xの該トナー母粒子との連続した界面における最大の線分を凸幅wとし、該凸幅wの法線方向の該凸部Xの最大長を凸高さHとし、該複数の凸部Xのうち、該凸高さHが40nm以上である凸部Xを凸部Yとしたとき、
該凸高さHの該凸幅wに対する比の値(H/w)が0.33以上0.80以下となる該凸部Yの個数割合P(H/w)が、該凸部Yの全体に対して70個数%以上であり、
該トナーの水洗法における該凸部Xの移行率が、水洗前の該凸部Xの全体の
7個数%以上20個数%以下であり、
該水洗法によって水中に移行した該凸部Xの個数平均粒径D1が、30nm以上300nm以下である
ことを特徴とするトナー。
【請求項2】
前記トナーの前記走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面観察によって観察される前記凸部Xの数が、トナー粒子1粒子あたり10個以上である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記水洗法によって水中に移行した前記凸部Xの個数平均粒径D1が、50nm以上300nm以下であり、
前記水洗法を実施した後のトナーを、もう一度水洗した際に水中に移行する前記凸部Xの個数平均粒径D2との比D1/D2が、1.0以上5.0以下である
請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記水洗法によって水中に移行した前記凸部Xのフロー式画像解析法におけるアスペクト比が、0.3以上0.8以下であり、
前記水洗法によって水中に移行した前記凸部Xのフロー式画像解析法における平均円形度が、0.70以上0.90以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法の如き画像形成方法に使用されるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置には高画質化、長寿命化、小型化などが求められており、これらに対応する為に、トナーに対しても種々の性能の向上が求められている。
【0003】
電子写真画像形成装置の小型化の観点から、電子写真画像形成装置を構成する様々なユニットの小型化が試みられてきた。特にトナーの転写性を向上させれば、感光体ドラム上の転写残トナーを回収する廃トナー容器を小型化できるため、様々なトナーの転写性を向上させる試みが、なされてきている。
【0004】
転写工程では、感光体ドラム上に現像されたトナーが紙などのメディアに転写される。トナーの転写性を向上させるためには、感光体ドラムからトナーを離れ易くするため、感光体ドラムとトナー間の付着力を下げることが重要である。感光ドラムとトナー間の付着力を下げる手段として、外添剤をトナー粒子表面に付着させることが挙げられる。特に、大粒径の球状外添剤の添加によるスペーサー効果によって、感光ドラムとトナー間の物理的な付着力を引き下げ、転写効率を向上させる手法が知られている。しかし、この手法は転写効率を向上する方法として有効な技術ではあるが、長期にわたる画像出力によって、球状大粒径外添剤は、トナー粒子表面において移動・脱離又は埋没することによって、スペーサーとして機能できなくなる。そのため、この手法は、期待された転写効率向上の効果を安定して得ることが難しかった。
【0005】
そこで、大粒径外添剤をトナー粒子表面に半埋没させて大粒径外添剤の移動・脱離を抑制する手法が提案されている(特許文献1参照)。この手法では、大粒径外添剤のトナー粒子表面からの移動・脱離は抑制することはできるが、埋没が加速されてしまうという課題があった。
【0006】
一方、半球形状の大粒径外添剤を用いることで、大粒径外添剤のトナー粒子表面における脱離・埋没を抑制する手法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この手法では均一のトナー粒子表面へ大粒径外添剤を固着させることが困難なため、さらなる長寿命化に対応した、転写効率向上の効果を維持することが困難であった。
【0007】
そこで、大粒径外添剤とシランカップリング剤を併用する手法が提案されている(特許文献3参照)。この手法により、シランカップリング剤により大粒径外添剤をトナー粒子表面に固定化しつつ、トナー粒子表面の粗さを制御することが可能となった。その結果、大粒径外添剤のトナー粒子表面における移動・脱離又は埋没を抑制することができ、長期に渡り高い転写性を発現させることができるようになってきた。
【0008】
更なる技術として、転写バイアスを下げても優れた転写性を維持することができれば、電源ユニットの小型化ができるため、更なる電子写真画像形成装置の小型化につなげることができる。そこで、低転写バイアスでも良い転写性を維持可能なトナーが求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特願2009-36980号公報
【文献】特許第5223382号報
【文献】特開2017-138462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は上記課題を解決するトナーを提供することにある。
具体的には、耐久を通じて、転写バイアスが低くても優れた転写性を維持可能なトナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、トナー母粒子及び該トナー母粒子の表面に存在する複数の凸部Xを有するトナー粒子を有するトナーであって、
該凸部Xが、有機ケイ素重合体を含有し、
該トナーの走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面観察において、
該凸部Xの該トナー母粒子との連続した界面における最大の線分を凸幅wとし、該凸幅wの法線方向の該凸部Xの最大長を凸高さHとし、該複数の凸部Xのうち、該凸高さHが40nm以上である凸部Xを凸部Yとしたとき、
該凸高さHの該凸幅wに対する比の値(H/w)が0.33以上0.80以下となる該凸部Yの個数割合P(H/w)が、該凸部Yの全体に対して70個数%以上であり、
該トナーの水洗法における該凸部Xの移行率が、水洗前の該凸部Xの全体の5個数%以上20個数%以下であり、
該水洗法によって水中に移行した該凸部Xの個数平均粒径D1が、30nm以上300nm以下であることを特徴とするトナーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転写バイアスが低くても高い転写性を発現しかつ、耐久を通じてトナーが変化しにくく、高い転写性を維持することが可能なトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のトナーのSTEMによる断面観察の一例の模式図である。
【
図2】本発明のトナーに関する凸形状計測の一例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
転写効率を向上させるためには、感光体ドラム(以下、単に「ドラム」とも呼ぶ。)とトナーとの付着力を低下させることが有効である。そのため、トナーの粒子の表面の構造を制御することが重要であり、前述した従来技術により転写性は向上してきている。しかし、更なる電子写真画像形成装置の小型化が求められている近年は、転写バイアスを下げても良好な転写性を維持する技術が求められている。そこで転写バイアスを下げた時にも優れた転写性を維持させるための技術について、本発明者らは検討を行った。
【0015】
転写時前のトナーとドラムの関係は、トナーがドラムに電気的、物理的に付着している状態にある。この状態に転写バイアスをかけることによって、トナーを電気的に転写メディアに引き寄せて転写が行われる。従って、転写バイアスが低いと、トナーと感光体との引力に負けてトナーが移動できずに転写残トナーが多くなってしまう。大粒径外添剤などの従来技術は、物理的な付着力を低減することに着目したものが多かったが、電気的な付着力までも低減させることは困難であった。その理由は、電気的な付着力を生み出しているのはトナーが帯電していることに因るものであるが、転写の前工程でトナーをドラム上に現像するためにはトナーを帯電させることが必須なためである。また、現像工程を通過した後に都合良く帯電を減衰させることは従来技術では困難であった。従って、トナーをドラム上に現像する際には高い帯電量を保持し、ドラム上に現像された後にその帯電を減衰させる技術を生むことができれば、従来は達成が困難であった低転写バイアスでの転写を達成できると考えた。
【0016】
本発明者らはドラム上でトナーの帯電を減衰させるための技術について検討を行うにあたり、様々な物質の帯電序列に注目して検討を行った。その結果、トナーよりも帯電量の高い粒子をドラム上に存在させた状態で転写を行うことにより、トナーは、転写バイアスを下げても良い転写性を維持し得ることを見出した。特に、特定の粒径の有機ケイ素重合体の粒子をドラム上に存在させた状態で転写を行うことが特に効果が大きかった。
【0017】
この機構は、以下の様に考えている。有機ケイ素重合体の帯電序列はテフロン(登録商標)に勝るほど、マイナス側に帯電し易い性質を持っている。これをトナーと別に添加してトナーと擦れる状況にした場合には、有機ケイ素重合体粒子の方がマイナスに帯電しやすいため、トナーの帯電性が低下する方向となる。トナーの本来有する帯電性を低下させることが、トナーとドラムとの電気的な付着力を低下させ、トナーは、帯電バイアスを下げても良好な転写性を維持することができたと考えている。
【0018】
ここで、ドラム上に有機ケイ素重合体を存在させるための手段が必要である。この手段として、ドラムに移行しやすい有機ケイ素重合体をトナー母粒子の表面に存在させておき、現像時にドラムに移行させることを考えた。こうすることにより、有機ケイ素重合体が優れた帯電特性と転写特性の両方に寄与し得ると考えた。つまり、有機ケイ素重合体は、テフロン(登録商標)に勝るほどの負帯電性を有するため、現像時に、トナー母粒子の表面に存在させておけば、トナーの良好な帯電特性に寄与させることができる。そして、ドラムに現像された後には有機ケイ素重合体をドラム側に移行させれば、有機ケイ素重合体を、トナーの良好な転写特性に寄与させることができる。すなわち、ドラムに移行しやすい有機ケイ素重合体をトナー母粒子の表面に存在させておけば、この両方の効果を達成できると考えた。従来は、トナー母粒子の表面に存在する外添剤などを、如何にトナーから外れないようにするか、という観点の技術がメインであったため、敢えて積極的にトナー母粒子の表面の材料や外添剤などをドラムに移行させる検討は行われていなかった。
【0019】
本発明のトナーは、トナー母粒子及びトナー母粒子の表面に存在する複数の凸部Xを有するトナー粒子を有するトナーであり、凸部Xが有機ケイ素重合体を含有するトナーである。これにより、良好な帯電特性と、流動性向上による転写性向上の効果を得ることができる。
【0020】
更に、本発明のトナー粒子は、トナー母粒子の表面に存在する有機ケイ素重合体を含有する複数の凸部Xを有しており、該トナーのSTEMによる断面観察によって、該凸部Xの該トナー母粒子との連続した界面における最大の線分を凸幅wとし、該凸幅wの法線方向の該凸部Xの最大長を凸高さHとし、該複数の凸部Xのうち、該凸高さHが40nm以上である凸部Xを凸部Yとしたとき、該凸高さHの該凸幅wに対する比の値(H/w)が、0.33以上0.80以下となる前記凸部Yの個数割合P(H/w)が、該凸部Yの全体に対して70個数%以上である。
【0021】
これは、凸部Xによってトナー母粒子の表面とドラムとの間にスペーサー効果が生じることでトナーとドラム間の付着力が下がり、転写性を良化できると考えている。一方、凸高さHが高くなってくるとトナー粒子の表面に、力がかかりやすくなるが、本発明の該凸部Xはトナー母粒子の表面に面接触していることを特徴としており、面接触することにより、該凸部Xの有機ケイ素重合体のトナー母粒子への埋没に対する抑制効果が顕著に期待できる。面接触の程度を表すために、トナーのSTEMによる断面観察を行った。
図1にSTEM像を示す。1がSTEM像であり、トナー粒子約1/4程度が分かる像であり、2はトナー母粒子、3はトナー母粒子の表面、4が凸部Xであり、5が凸部Yである。
図2にトナー粒子表面の該凸部Xの一例を示す。6は凸幅wであり、7は凸高さHである。該凸高さHの該凸幅wに対する比の値(H/w)が、0.33以上0.80以下の凸形状であれば、埋没し難いことを見出した。すなわち、有機ケイ素化合物の凸部が
図2のごとき凸形状であれば、埋没し難いことが分かった。また、該凸高さHが40nm以上である前記凸部Yにおいて、該凸高さHの該凸幅wに対する比の値(H/w)が0.33以上0.80以下となる該凸部の個数割合P(H/w)が該凸部Yの全体に対して70個数%以上であれば、本発明のトナーが、長寿命化に耐えうる優れた転写性を発現する要件であることを見出した。
【0022】
更に、本発明のトナーは、トナーの水洗法における該凸部Xの移行率が、水洗前の該凸部Xの全体の5個数%以上20個数%以下であることが必要である。更に、水洗法によって水中に移行した該凸部Xの個数平均粒径D1が、30nm以上300nm以下であることが必要である。移行率が5個数%以上であることにより、トナー母粒子の表面に存在する有機ケイ素重合体がドラム側に移行することで、トナーは、転写バイアスを下げても優れた転写性を維持することが可能となる。一方、20個数%以下であれば耐久中に必要な数の有機ケイ素重合体の粒子をドラム側に供給することが可能となるため、耐久を通して優れた転写性を維持することが可能となる。凸部Xの個数平均粒径D1は30nm以上であることで、トナーから独立して摩擦帯電できるため、トナーの帯電性を落とすことが可能になり転写バイアスを下げた場合においても、トナーは、優れた転写性を維持することが可能となる。一方、粒径が大きすぎると流動性が下がってくるため、300nm以下であることが優れた転写性のためには好ましい。
【0023】
より好ましい場合は、個数平均粒径D1が50nm以上300nm以下であり、前記水洗法を実施した後のトナーを、もう一度水洗した際に水中に移行する前記凸部Xの個数平均粒径D2との比D1/D2が、1.0以上5.0以下であることが好ましい。個数平均粒径D1がこの粒径であればドラム上にもトナー上にも両方にスペーサーが設けられることになるため、特に優れた転写性が得られる。また、D1/D2が1.0以上5.0以下ということが意味することは、粒径の大きな有機ケイ素重合体粒子の方がドラム側に移行するということである。ドラム側に移行する有機ケイ素重合体の方の粒径が小さい場合には、粒子がトナー粒子の凸部Xの間に埋まってしまってトナーと擦れることが不十分になってしまう場合がある。D1/D2が1.0以上であることにより、トナーと有機ケイ素重合体粒子が十分に擦れることができるため好ましい。一方、D1/D2が大きすぎると流動性が下がってくるため、D1/D2が5.0以下であることが優れた転写性のためには好ましい。
【0024】
本発明のトナーには、下記式(1)で表される構造を有する有機ケイ素重合体が好ましく用いられる。
【数1】
(式中、Rは炭素数1以上6以下のアルキル基又はフェニル基を示す。)
【0025】
式(1)の構造を有する有機ケイ素重合体において、Si原子の4個の原子価のうち1個はRと、残り3個はO原子と結合している。O原子は、原子価2個がいずれもSiと結合している状態、つまり、シロキサン結合(Si-O-Si)を構成する。有機ケイ素重合体としてのSi原子とO原子を考えると、Si原子2個でO原子3個を有することになるため、-SiO3/2と表現される。この有機ケイ素重合体の-SiO3/2構造は、多数のシロキサン結合で構成されるシリカ(SiO2)と類似の性質を有することが考えられる。
【0026】
式(1)で表される部分構造において、Rは炭素数1以上6以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1以上3以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0027】
炭素数が1以上3以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましく例示できる。さらに好ましくは、Rはメチル基である。
【0028】
有機ケイ素重合体は、下記式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物の縮重合物であることが好ましい。
【数2】
(式(Z)中、R
1は、炭素数1以上6以下の炭化水素基(好ましくはアルキル基)を表し、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基を表す。)
【0029】
R1は炭素数1以上3以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0030】
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アセトキシ基、又は、アルコキシ基である(以下、反応基ともいう)。これらの反応基が加水分解、付加重合及び縮重合させて架橋構造を形成する。
【0031】
加水分解性が室温で穏やかであり、トナー母粒子の表面への析出性の観点から、炭素数1~3のアルコキシ基であることが好ましく、メトキシ基やエトキシ基であることがより好ましい。
【0032】
また、R2、R3及びR4の加水分解、付加重合及び縮合重合は、反応温度、反応時間、反応溶媒及びpHによって制御することができる。本発明に用いられる有機ケイ素重合体を得るには、上記に示す式(Z)中のR1を除く一分子中に3つの反応基(R2、R3及びR4)を有する有機ケイ素化合物(以下、三官能性シランともいう)を1種又は複数種を組み合わせて用いるとよい。
【0033】
上記式(Z)で表される化合物としては以下のものが挙げられる。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシメトキシシラン、メチルエトキシジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルメトキシジクロロシラン、メチルエトキシジクロロシラン、メチルジメトキシクロロシラン、メチルメトキシエトキシクロロシラン、メチルジエトキシクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルジアセトキシメトキシシラン、メチルジアセトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジメトキシシラン、メチルアセトキシメトキシエトキシシラン、メチルアセトキシジエトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルメトキシジヒドロキシシラン、メチルエトキシジヒドロキシシラン、メチルジメトキシヒドロキシシラン、メチルエトキシメトキシヒドロキシシラン、メチルジエトキシヒドロキシシランのような三官能性のメチルシラン。
エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリアセトキシシラン、エチルトリヒドロキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、プロピルトリアセトキシシラン、プロピルトリヒドロキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、ブチルトリアセトキシシラン、ブチルトリヒドロキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリクロロシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、ヘキシルトリヒドロキシシランのような三官能性のシラン。
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリクロロシラン、フェニルトリアセトキシシラン、フェニルトリヒドロキシシランのような三官能性のフェニルシラン。
【0034】
また、本発明の効果を損なわない程度に、式(Z)で表される構造を有する有機ケイ素化合物とともに、以下を併用して得られた有機ケイ素重合体を用いてもよい。一分子中に4つの反応基を有する有機ケイ素化合物(四官能性シラン)、一分子中に2つの反応基を有する有機ケイ素化合物(二官能性シラン)又は1つの反応基を有する有機ケイ素化合物(一官能性シラン)。例えば以下のようなものが挙げられる。
ジメチルジエトキシシラン、テトラエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリイソシアネートシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメトキシシラン、ビニルエトキシジメトキシシラン、ビニルエトキシジヒドロキシシラン、ビニルジメトキシヒドロキシシラン、ビニルエトキシメトキシヒドロキシシラン、ビニルジエトキシヒドロキシシラン、のような三官能性のビニルシラン。
【0035】
さらに、トナー粒子中の有機ケイ素重合体の含有量は1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0036】
上記本発明に係る特定の有機ケイ素重合体を含む凸部の形状(以下、単に「凸形状ともいう。」をトナー母粒子の表面に形成する好ましい手法として、水系媒体にトナー母粒子を分散しトナー母粒子分散液を得たところへ、有機ケイ素化合物を添加し凸形状を形成させトナー粒子分散液を得ることが好ましい。
【0037】
トナー母粒子分散液は固形分濃度を25質量%以上50質量%以下に調整することが好ましい。そして、トナー母粒子分散液の温度は35℃以上に調整しておくことが好ましい。また、該トナー母粒子分散液のpHは有機ケイ素化合物の縮合が進みにくいpHに調整することが好ましい。有機ケイ素化合物の縮合が進みにくいpHは物質によって異なるため、最も反応が進みにくいpHを中心として、±0.5以内が好ましい。
【0038】
一方、有機ケイ素化合物は加水分解処理を行ったものを用いることが好ましい。例えば、有機ケイ素化合物の前処理として別容器で加水分解しておく。加水分解の仕込み濃度は有機ケイ素化合物の量を100質量部とした場合、イオン交換水やRO水などイオン分を除去した水40質量部以上500質量部以下が好ましく、より好ましくは水100質量部以上400質量部以下である。加水分解の条件としては、好ましくはpHが、2.0以上7.0以下、温度が、15℃以上80℃以下、時間が、30分以上600分以下である。
【0039】
得られた有機ケイ素化合物の加水分解液とトナー母粒子分散液とを混合して、縮合に適したpH(好ましくは6.0以上12.0以下、又は1.0以上3.0以下、より好ましくは8.0以上12.0以下)に調整する。有機ケイ素化合物の加水分解液の量はトナー母粒子100質量部に対して有機ケイ素化合物が3.0質量部以上30.0質量部以下になるように調整することで、凸形状が形成されやすくなる。凸形状の形成において、縮合の温度は35℃以上で、時間は60分以上保持して行うことが好ましい。
【0040】
また、トナー粒子の表面の凸形状を制御する観点から、pHを2段階に分けて調整することが好ましい。一段階目のpHを調整する前の保持時間及び二段階目にpH調整する前の保持時間を適宜調整し有機ケイ素化合物を縮合することで、トナー粒子の表面における凸形状を制御できる。また、有機化合物の縮合温度を35℃以上80℃以下の範囲で調整すること及びpHの値によっても凸形状を制御できる。
【0041】
また、ドラム側に移行しやすい有機ケイ素重合体粒子をトナー母粒子の表面に形成させるための一例としては、前記凸形状を形成させた後、更にpHを上げてから有機ケイ素化合物を添加することでより好ましい凸形状を形成できる。pHは10.5以上にすることが好ましい。このpHにおいて、トナー母粒子分散液に有機ケイ素化合物を添加することにより、加水分解と縮合が一気に進みながらトナー母粒子の表面に有機ケイ素重合体が付着する。このようにしてトナー母粒子の表面に付着させた有機ケイ素重合体は比較的トナー母粒子への付着力が小さいため、ドラムに移行しやすい。
【0042】
また、トナーのSTEMによる断面観察によって観察される凸部Xの数が、トナー粒子1粒子あたり10個以上であることが好ましい。凸部Xの数が多いことにより、スペーサー効果や電気的な付着力を低減させる効果が十分に得られるため、低転写バイアスでの転写性が更に良好となる。凸部Xの数の制御方法は製造する時の有機ケイ素化合物の仕込み量やトナー母粒子分散液のpHなどによって制御することができる。凸部Xの数は300個以下であることが定着性の観点からは好ましい。
【0043】
更に、前記水洗法によって水中に移行した前記凸部Xのフロー式画像解析法におけるアスペクト比が0.3以上0.8以下であり、前記水洗法によって水中に移行した前記凸部Xのフロー式画像解析法における平均円形度が0.70以上0.90以下であることが好ましい。アスペクト比が0.8以下であることにより、ドラム上での転動が抑制されるのでトナーと凸部Xとが効率的に摩擦できるようになり、転写性が更に良好になる。一方、0.3以上であることにより流動性が保たれるため、転写性が更に良好になる。平均円形度は0.90以下であることにより、ドラム上での転動が抑制されるのでトナーと凸部Xとが効率的に摩擦できるようになり、転写性が更に良好になる。一方、0.70以上であることにより、流動性が保たれるため、転写性が更に良好になる。アスペクト比と平均円形度の制御方法は製造する時のトナー粒子分散液のpHや温度、時間、攪拌数などによって制御することができる。
【0044】
以下、本発明のトナーの具体的製造方法について説明するが、これらに限定されるわけではない。
【0045】
トナー母粒子の製造方法は公知の手段を用いることができ、混練粉砕法や湿式製造法を用いることができる。粒子径の均一化や形状制御性の観点からは湿式製造法を好ましく用いることができる。更に湿式製造法には懸濁重合法、溶解懸濁法、乳化重合凝集法、乳化凝集法などを挙げることができ、本発明においては懸濁重合法を好ましく用いることができる。懸濁重合法では、有機ケイ素重合体がトナー母粒子の表面に均一に析出し易く、トナー粒子の有機ケイ素重合体とトナー母粒子との接着性に優れる。このトナー粒子から得られたトナーは、環境安定性、帯電量反転成分抑制効果、及びそれらの耐久持続性が良好になる。以下、懸濁重合法について更に説明する。
【0046】
懸濁重合法は、結着樹脂を生成しうる重合性単量体、及び必要に応じて着色剤などの添加物を含有する重合性単量体組成物を水性媒体中で造粒し、重合性単量体組成物に含まれる重合性単量体を重合することにより、トナー母粒子を得る方法である。
【0047】
上記重合性単量体組成物には、必要に応じて離型剤、その他の樹脂を添加してもよい。また、重合工程終了後は、生成した粒子を洗浄、濾過により回収し、乾燥してトナー母粒子を得る。なお、上記重合工程の後半に昇温しても良い。更に未反応の重合性単量体又は副生成物を除去する為に、重合工程後半又は重合工程終了後に一部分散媒体を反応系から留去することも可能である。上記離型剤としては、以下のものが挙げられる。パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムの如き石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスの如き天然ワックス及びその誘導体、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸の如き脂肪酸、あるいはその化合物、酸アミドワックス、エステルワックス、ケトン、硬化ヒマシ油及びその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックス、シリコ-ン樹脂。なお、誘導体には酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。単独或いは混合して使用できる。
【0048】
上記その他の樹脂として、本発明の効果に影響を与えない範囲で、以下の樹脂を用いることができる。ポリスチレン、ポリビニルトルエンの如きスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリ酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体の如きスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル樹脂、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂。単独或いは混合して使用できる。
【0049】
上記懸濁重合法における重合性単量体として、以下に示すビニル系重合性単量体が好適に例示できる。スチレン;α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチル、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレンの如きスチレン誘導体;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、iso-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、iso-ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、n-アミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルフォスフェートエチルアクリレート、ジエチルフォスフェートエチルアクリレート、ジブチルフォスフェートエチルアクリレート、2-ベンゾイルオキシエチルアクリレートの如きアクリル系重合性単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、iso-プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、ジエチルフォスフェートエチルメタクリレート、ジブチルフォスフェートエチルメタクリレートの如きメタクリル系重合性単量体;メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、蟻酸ビニルの如きビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロピルケトン。
【0050】
これらのビニル重合体の中でも、スチレン重合体、スチレン-アクリル共重合体、又はスチレン-メタクリル共重合体が好ましい。
【0051】
また、重合性単量体の重合に際して、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、以下のものが挙げられる。2,2’-アゾビス-(2,4-ジバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルの如きアゾ系、又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドの如き過酸化物系重合開始剤。これらの重合開始剤は、重合性単量体100質量部に対して0.5質量%以上30.0質量%以下の添加が好ましく、単独でも又は併用してもよい。
【0052】
また、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、連鎖移動剤を添加してもよい。好ましい添加量としては、重合性単量体100重量部に対しての0.001質量%以上15.000質量%以下である。
【0053】
一方、トナー母粒子を構成する結着樹脂の分子量をコントロールする為に、重合性単量体の重合に際して、架橋剤として架橋性単量体を添加してもよい。架橋性単量体としては、以下のものが挙げられる。ジビニルベンゼン、ビス(4-アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#200、#400、#600の各ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエステル型ジアクリレート(MANDA 日本化薬)、及び以上のアクリレートをメタクリレートに変えたものが、挙げられる。
【0054】
多官能の架橋性単量体としては以下のものが挙げられる。ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート及びそのメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシ・ポリエトキシフェニル)プロパン、ジアクリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリールクロレンデートである。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.001質量%以上15.000質量%以下である。
【0055】
上記懸濁重合の際に用いられる媒体が水系媒体の場合には、重合性単量体組成物の粒子の分散安定剤として以下のものを使用することができる。リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタ珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ。また、有機系の分散剤としては、以下のものが挙げられる。ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン。
【0056】
また、市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤の利用も可能である。このような界面活性剤としては、以下のものが挙げられる。ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム。
【0057】
本発明のトナーに用いられる着色剤としては、特に限定されず公知のものを使用することが出来る。
【0058】
なお、着色剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して3.0質量部以上15.0質量部以下であることが好ましい。
【0059】
本発明のトナーには、トナー製造時に荷電制御剤を用いることができ、公知のものが使用できる。これらの荷電制御剤の添加量としては、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部以上10.00質量部以下であることが好ましい。
【0060】
本発明のトナーは、必要に応じて、トナー粒子に各種有機又は無機微粉体を外添しても良い。該有機又は無機微粉体は、トナー粒子に添加した時の耐久性から、トナー粒子の重量平均粒径の1/10以下の粒径であることが好ましい。
【0061】
有機又は無機微粉体としては、例えば、以下のようなものが用いられる。
(1)流動性付与剤:シリカ、アルミナ、酸化チタン、カーボンブラック及びフッ化カーボン。
(2)研磨剤:金属酸化物(例えばチタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化クロム)、窒化物(例えば窒化ケイ素)、炭化物(例えば炭化ケイ素)、金属塩(例えば硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)。
(3)滑剤:フッ素系樹脂粉末(例えばフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン)、脂肪酸金属塩(例えばステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム)。
(4)荷電制御性粒子:金属酸化物(例えば酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ)、カーボンブラック。
【0062】
有機又は無機微粉体は、トナーの流動性の改良及びトナーの帯電均一化のために表面を処理することもできる。有機又は無機微粉体の疎水化処理の処理剤としては、未変性のシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、未変性のシリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラン化合物、シランカップリング剤、その他有機ケイ素化合物、有機チタン化合物が挙げられる。これらの処理剤は単独であるいは併用して用いても良い。
【0063】
以下、本発明に関係する各種測定方法を述べる。
<走査透過型電子顕微鏡(STEM)におけるトナーの断面の観察方法>
走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察されるトナーの断面は以下のようにして作製する。
以下、トナーの断面の作製手順を説明する。
まず、カバーガラス(松波硝子社、角カバーグラス;正方形No.1)上にトナーを一層となるように散布し、オスミウム・プラズマコーター(filgen社、OPC80T)を用いて、保護膜としてトナーにOs膜(5nm)及びナフタレン膜(20nm)を施す。
次に、PTFE製のチューブ(Φ1.5mm×Φ3mm×3mm)に光硬化性樹脂D800(日本電子社)を充填し、チューブの上に前記カバーガラスをトナーが光硬化性樹脂D800に接するような向きで静かに置く。この状態で光を照射して樹脂を硬化させた後、カバーガラスとチューブを取り除くことで、最表面にトナーが包埋された円柱型の樹脂を形成する。
超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により、切削速度0.6mm/sで、円柱型の樹脂の最表面からトナーの半径(例えば、重量平均粒径(D4)が8.0μmの場合は4.0μm)の長さだけ切削して、トナー中心部の断面を出す。
次に、膜厚100nmとなるように切削し、トナーの断面の薄片サンプルを作製する。このような手法で切削することで、トナー中心部の断面を得ることができる。
【0064】
STEMのプローブサイズは1nm、画像サイズ1024×1024pixelにて画像を取得した。また、明視野像のDetector ControlパネルのContrastを1425、Brightnessを3750、Image ControlパネルのContrastを0.0、Brightnessを0.5、Gammmaを1.00に調整して、画像を取得した。
画像倍率は100,000倍にて行い、
図1のようにトナー1粒子中の断面のうち周が4分の1から2分の1程度収まるように画像取得を行う。
得られた画像について、画像処理ソフト(イメージJ(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能))を用いて画像解析を行い、有機ケイ素重合体を含む凸部の計測を行う。画像解析はSTEM画像30箇所について行う。
【0065】
まず、ライン描画ツール(StraghtタブのSegmented lineを選択)にてトナー母粒子の周に沿った線を描く。有機ケイ素重合体の凸部がトナー母粒子に埋没しているような部分は、その埋没はないものとして滑らかに線をつなぐ。その線を基準に水平画像へ変換(EditタブのSelection選択し、propertiesにてline widthを500pixelに変更後、EditタブのSelectionを選択しStraghtenerを行う)を行う。
AnalyzeメニューのToolsからROI Managerを選択し、新規に開いたROI Managerウインドウ内のShow AllとLabelsにチェックを入れておく。続いて、ツールバーの直線ツール(Straight Line)を用い、
図2で示すように凸部の上記のトナー母粒子の周に沿った線から変換された直線を得る。その直線に直行し前記凸部の曲線と交わる最大高さHとなる直線を引く。その状態で、ROI ManagerウインドウのAddを選択する。次いで、前記Hと直交する最大幅wとなる直線を引き、Addを選択した後、ROI ManagerウインドウのMeasureを選択すると、解析が行われる。新規に開いたResultsウインドウから、H及びwに該当する長さ(Length)を取得し、H/wを算出する。
【0066】
この算出により、凸高さHが40nm以上である凸部YにおけるP(H/w)が0.33以上0.80以下となる凸部Yの個数を数えて、STEM画像30箇所の凸部Y全体(全個数)に対する個数割合を算出する。
断面観察によって観察される前記凸部Xの数を求める際は、画像倍率50000倍にてトナー1粒子が収まるように画像取得を行い、得られた画像凸部Xの数を数える。トナー30粒子について凸部Xの数を数えて平均した値を凸部Xの数とする。
【0067】
<走査型電子顕微鏡(SEM)観察方法>
SEM観察の方法は、以下の通り。日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡S-4800((株)日立ハイテクノロジーズ)にて撮影される画像を用いて行う。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
【0068】
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペースト(TED PELLA,Inc、Product No.16053,PELCO Colloidal Graphite,Isopropanol base)を薄く塗り、その上にトナーを吹き付ける。更にエアブローして、余分な該微粒子を試料台から除去した後、15mAで15秒間白金蒸着する。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを30mmに調節する。
【0069】
(2)S-4800観察条件設定
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PC-SEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行う。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開く。フラッシング強度が2であることを確認し、実行する。フラッシングによるエミッション電流が20~40μAであることを確認する。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入する。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させる。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[2.0kV]、エミッション電流を[10μA]に設定する。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[下(L)]を選択し、反射電子像を観察するモードにする。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[8.0mm]に設定する。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加する。
【0070】
(3)焦点調整
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を5000(5k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。
次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。この操作を更に2度繰り返し、ピントを合わせる。観察粒子の最大径の中点を測定画面の中央に合わせた状態でコントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を10000(10k)倍に設定する。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行う。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択する。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させる。
次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X,Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせる。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせる。その後、倍率を50000(50k)倍に設定し、上記と同様にフォーカスつまみ、STIGMA/ALIGNMENTつまみを使用して焦点調整を行い、再度オートフォーカスでピントを合わせる。この操作を再度繰り返し、ピントを合わせる。
【0071】
(4)画像保存
ABCモードで明るさ合わせを行い、サイズ640×480ピクセルで写真撮影して保存する。
得られたSEMの観察結果から、トナーの表面に存在する、上記観察粒子の最大径が20nm以上の該凸部500箇所の個数平均径(D1)の計算を画像処理ソフト(イメージJ)により行った。測定方法は以下の通りである。
【0072】
<水洗法による凸部Xの移行率の測定方法>
水洗前後のトナーのSEM観察を行って、水洗前の凸部Xの個数から水洗後に減った凸部の個数を数えて移行率を算出する。具体的には以下の通りである。
イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させ、ショ糖濃厚液を調製する。遠心分離用チューブ(容量50ml)に上記ショ糖濃厚液を31gと、コンタミノンN(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を6mL入れ分散液を作製する。この分散液にトナー1.0gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐす。
遠心分離用チューブをシェイカーにて350spm(strokes per min)、20分間振とうする。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(容量50mL)に入れ替えて、遠心分離機(H-9R 株式会社コクサン製)にて3500rpm、30分間の条件で分離する。トナーと水溶液が十分に分離されていることを目視で確認し、最上層に分離したトナーをスパチュラ等で採取する。採取したトナーを含む水溶液を減圧濾過器で濾過した後、乾燥機で1時間以上乾燥する。乾燥したトナーをスパチュラで解砕して水洗後サンプルを得る。そして、水洗前のサンプルと水洗後のサンプルそれぞれについて、前述した方法によるSEM観察を行う。得られたSEMの観察結果から、トナー表面に存在する凸部Xの個数を画像処理ソフト(イメージJ)により、画像中の凸部とトナー母粒子を二値化により、色分けして個数を数える。この操作を複数行い、トナーの粒子100個の平均値を求めることで、凸部Xの個数N(水洗前の凸部X全体(全個数))を算出する。同様の方法で水洗後の凸部の個数N(水洗後)を算出する。その後、移行率は以下の式によって求めることができる。
移行率(個数%)={N(水洗前)-N(水洗後)}/N(水洗前)
【0073】
また、移行率を重量%で求めたい時は、以下の方法で求めることができる。得られた水洗後のサンプルを蛍光X線でケイ素の量を測定する。水洗後のトナーと水洗前トナーの測定対象の元素量比から移行率(重量%)を計算する。
【0074】
各元素の蛍光X線の測定は、JIS K 0119-1969に準ずるが、具体的には以下の通りである。
測定装置としては、波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(PANalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQ ver.4.0F」(PANalytical社製)を用いる。なお、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は10mm、測定時間10秒とする。また、軽元素を測定する場合にはプロポーショナルカウンタ(PC)、重元素を測定する場合にはシンチレーションカウンタ(SC)で検出する。
測定サンプルとしては、専用のプレス用アルミリング直径10mmの中に水洗後のトナーと水洗前トナーを約1g入れて平らにならす。次に、錠剤成型圧縮機「BRE-32」(前川試験機製作所社製)を用いて、20MPaで60秒間加圧し、厚さ約2mmに成型したペレットを用いる。
上記条件で測定を行い、得られたX線のピーク位置をもとに元素を同定し、単位時間あたりのX線光子の数である計数率(単位:cps)からその濃度を算出する。
【0075】
トナー中の定量方法としては、例えばケイ素量はトナー粒子100質量部に対して、例えば、シリカ(SiO2)微粉末を0.5質量部となるように添加し、コーヒーミルを用いて充分混合する。同様にして、シリカ微粉末を2.0質量部、5.0質量部となるようにトナー粒子とそれぞれ混合し、これらを検量線用の試料とする。
それぞれの試料について、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにして検量線用の試料のペレットを作製し、PETを分光結晶に用いた際に回折角(2θ)=109.08°に観測されるSi-Kα線の計数率(単位:cps)を測定する。この際、X線発生装置の加速電圧、電流値はそれぞれ、24kV、100mAとする。得られたX線の計数率を縦軸に、各検量線用試料中のSiO2添加量を横軸として、一次関数の検量線を得る。
【0076】
次に、分析対象のトナーを、錠剤成型圧縮機を用いて上記のようにしてペレットとし、そのSi-Kα線の計数率を測定する。そして、上記の検量線からトナー中の有機ケイ素重合体の含有量を求める。上記方法により算出した初期のトナーの元素量に対して、水洗後のトナーの元素量の比率を求め移行率(重量%)とする。
【0077】
<水中に移行した凸部の個数平均粒径D1とD2の測定方法>
個数平均一次粒径は、動的光散乱法粒度分布測定装置(Nanotrac WaveII UZ152:マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて行う。測定は、前述の水洗法手順にて遠心分離機でトナーと水溶液を分離した際の水溶液側に含まれる粒子の粒径を測定する。これをセルに適切な濃度に調整して投入し、気泡の影響を無くすために1分待ったところで測定する。測定条件は試料粒子屈折率を1.59、分散媒屈折率を1.33、測定時間を600秒とし、取り扱い説明書に記載された手順に従って測定した。得られたチャンネルごとの粒径を個数基準で小さい方から累積し、累積50%になったところを個数平均一次粒径とする。この測定を3回行ってその平均値を求める。
【0078】
<凸部Xのフロー式画像解析による、アスペクト比と平均円形度の測定>
測定装置として、フロー式粒子像分析装置「FPIA-3000」(シスメックス(株)製)及び「FPIA-3000用 試料自動分散機能搭載オートサンプラ」(シスメックス(株)製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は付属の専用ソフトを用いる。
測定には高倍率撮像ユニット(対物レンズ「LUCPLFLN」(倍率20倍、開口数0.40))を用い、1.0μmポリスチレンラテックス粒子#5100A(DUKE SCIENTIFIC CORP.製)を用いて焦点調整を行ってから測定を行う。シース液にはパーティクルシース「PSE-900A」(シスメックス(株)製)を使用する。オートサンプラの条件は分散剤分注量0.5mL、パーティクルシース分注量10mL、揺動撹拌強度80%、揺動撹拌時間30秒、超音波照射強度80%、超音波照射時間300秒、プロペラ撹拌回転数500rpm、プロペラ撹拌時間300秒とする。サンプル10mlをオートサンプラ用ビーカーに秤取ってオートサンプラにセットする。測定条件設定は測定モードHPF、トータルカウント数2000として測定を行う。本発明の測定においては、付属の解析ソフトにより平均円形度とアスペクト比を解析する。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は何らこれに制約されるものではない。実施例中で使用する部は特に断りのない限り質量基準である。
まず、トナーの製造例について説明する。
【0080】
[トナー1の製造例]
(有機ケイ素化合物の加水分解工程)
撹拌機、温度計を備えた反応容器に、イオン交換水60.0部を秤量し、10質量%の塩酸を用いてpHを4.0に調整した。これを撹拌しながら加熱し、温度を40℃にした。その後、有機ケイ素化合物であるメチルトリエトキシシラン40.0部を添加して2時間以上撹拌して加水分解を行った。加水分解の終点は目視にて油水が分離せず1層になったことで確認を行い、冷却して有機ケイ素化合物の加水分解液を得た。
【0081】
(重合性単量体組成物の調製工程)
・スチレン :60.0部
・C.I.ピグメントブルー15:3 :6.5部
前記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社製)に投入し、更に直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5.0時間分散させて、顔料分散液を調製した。前記顔料分散液に下記材料を加えた。
・スチレン:20.0部
・n-ブチルアクリレート:20.0部
・架橋剤(ジビニルベンゼン):0.3部
・飽和ポリエステル樹脂:5.0部
(プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)とテレフタル酸との重縮合物(モル比10:12)、ガラス転移温度Tg=68℃、重量平均分子量Mw=10000、分子量分布Mw/Mn=5.12)
・フィッシャートロプシュワックス(融点78℃):7.0部
これを65℃に保温し、T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、500rpmにて均一に溶解、分散し、重合性単量体組成物を調製した。
【0082】
(水系媒体1の調製工程)
撹拌機、温度計、還流管を具備した反応容器中にイオン交換水650.0部に、リン酸ナトリウム(ラサ工業社製・12水和物)14.0部を投入し、窒素パージしながら65℃で1.0時間保温した。
T.K.ホモミクサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて、15000rpmにて攪拌しながら、イオン交換水10.0部に9.2部の塩化カルシウム(2水和物)を溶解した塩化カルシウム水溶液を一括投入し、分散安定剤を含む水系媒体を調製した。更に、水系媒体に10質量%塩酸を投入し、pHを5.0に調整し、水系媒体1を得た。
【0083】
(造粒工程)
水系媒体1の温度を70℃、T.K.ホモミクサーの回転数を15000rpmに保ちながら、水系媒体1中に重合性単量体組成物を投入し、重合開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート10.0部を添加した。そのまま該撹拌装置にて15000rpmを維持しつつ10分間造粒した。
【0084】
(重合・蒸留工程)
造粒工程の後、攪拌機をプロペラ撹拌羽根に換え150rpmで攪拌しながら70℃を保持して5.0時間重合を行い、85℃に昇温して2.0時間加熱することで重合反応を行った。
その後、スラリーを100℃に加熱して6時間蒸留することで未反応の重合性単量体を留去し、トナー母粒子分散液を得た。
【0085】
(凸部Xの形成工程)
得られたトナー母粒子分散液の温度を55℃に冷却したのち、「添加工程1」として有機ケイ素化合物の加水分解液を25.0部添加して有機ケイ素化合物の重合を開始した。そのまま15分保持した後に、3.0%炭酸水素ナトリウム水溶液で、pH=5.5に調整した。55℃で撹拌を継続したまま、「保持工程1」として60分間保持したのち、「pH調整1」として3.0%炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpHを9.5に調整して更に「保持工程2」として240分保持した。
更に、「pH調整2」として1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpH=12.0に調整した。次に、「添加工程2」として55℃で攪拌を継続したまま、メチルトリエトキシシランを8.0部添加して更に「保持工程3」として180分保持して凸部Xを形成させた。
その後冷却して、トナー粒子分散液を得た。
【0086】
(洗浄、乾燥工程)
重合工程終了後、トナー粒子分散液を冷却し、トナー粒子分散液に塩酸を加えpH=1.5以下に調整して1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離し、トナーケーキを得た。これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキを40℃の恒温槽にて72時間かけて乾燥し、更に分級してトナー粒子1を得た。本実施例においては、得られたトナー粒子1を外添せずにそのままトナー1として用いた。表1にトナー1の製造条件を示す。
得られたトナーについて、前述した方法で各種物性の測定を行った。表2に製造したトナー1の物性測定結果を示す。
【0087】
[トナー2~21、比較用トナー3~7の製造例]
トナー1の製造例の凸部Xの形成工程における製造条件を表1の通りに変えた。それ以外はトナー1の製造例と同様の方法でトナーを作製した。
【0088】
[比較用トナー1の製造例]
トナー1の製造例において、凸部Xの形成工程を行わなかった。それ以外はトナー1の製造例と同様の方法でトナーを作製した。比較用トナー1はトナー母粒子表面に有機ケイ素重合体の凸部Xを有さないトナーである。
【0089】
[比較用トナー2の製造例]
トナー1の製造例の凸部Xの形成工程において、保持工程1の時間を1440分として、その後のpH調整工程1以降は行わずに冷却してトナー粒子分散液を得た。それ以外はトナー1の製造例と同様の方法でトナーを作製した。比較用トナー2はトナー母粒子の表面に有機ケイ素重合体を有するが、凸部Xを有さないトナーである。
【0090】
【0091】
【0092】
<実施例1>
トナー1について、下記評価を行った。評価結果は、表3に示す。
評価は、市販のキヤノン製レーザービームプリンタLBP7600Cの改造機を用いた。改造点は、評価機本体及びソフトウェアを変更することにより、現像ローラーの回転速度を1.8倍の周速で回転して耐久劣化しやすい条件に設定した。具体的には、改造前の現像ローラーの回転速度は周速200mm/secであるのを、改造後の回転速度は360mm/secとした。また、転写バイアスを任意に調整できるようにした。
LBP7600Cのトナーカートリッジに、トナー1を40g装填した。そして、そのトナーカートリッジを常温常湿NN(25℃/50%RH)の環境下で24時間放置した。当該環境下で24時間放置後のトナーカートリッジを上記LBP7600Cに取り付けた。
【0093】
<転写性の評価(転写効率)>
転写性の評価は、転写効率を求めることにより行った。
転写効率とは、感光ドラム上に現像されたトナーがどの程度中間転写ベルト上に転写されたかを示す転写性の指標である。
転写性は、NN環境で、35.0%の印字率画像をA4用紙横方向で4,000枚までプリントアウトする前後で行って耐久前後での転写性の変化を評価した。
転写性の評価はベタ画像を出力し、ベタ画像形成時の感光体上の転写残トナーを、透明なポリエステル製の粘着テープを用いてテーピングしてはぎ取った。はぎ取った粘着テープを紙上に貼ったものの濃度から、粘着テープのみを紙上に貼ったものの濃度を差し引いた濃度差を算出した。そして、その濃度差の値から、以下のようにして判定した。なお、濃度はX-Riteカラー反射濃度計(X-rite社製、X-rite 500Series)で測定した。C以上を良好と判断した。
(評価基準)
A:濃度差が0.05未満
B:濃度差が0.05以上0.10未満
C:濃度差が0.10以上0.240未満
D:濃度差が0.240以上
【0094】
<実施例2~19、比較例1~7>
実施例1においてトナーを2~19及び比較用トナー1~7に変更した以外は同様にして評価を実施した。評価結果を表3に示した。
【0095】
【0096】
評価の結果、耐久を通じて、本発明のトナーは表3の通り転写バイアスが低くても優れた転写性を維持することができた。
【符号の説明】
【0097】
1 STEM画像、2 トナー母粒子、3 トナー母粒子の表面、
4 有機ケイ素重合体を含む凸部X、 5 凸高さが40nm以上である凸部Y、
6 凸幅w、7 凸高さH