(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】記録装置および記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20241216BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20241216BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
B41J2/01 451
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2020179125
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】西岡 真吾
(72)【発明者】
【氏名】今野 裕司
(72)【発明者】
【氏名】神田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 肇
(72)【発明者】
【氏名】栗山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 慧
(72)【発明者】
【氏名】吉川 世玲菜
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-271313(JP,A)
【文献】特開2009-023259(JP,A)
【文献】特開2003-205615(JP,A)
【文献】特開平05-084899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に配列されたインクを吐出するための複数の吐出口と、前記複数の吐出口に各々対応するように設けられた前記複数の吐出口からインクを吐出させるために用いられる複数の記録素子と、前記複数の吐出口にインクを供給するための共通の液室と、を有する記録ヘッドと、前記複数の記録素子のうち前記所定方向に連続して配置された複数の記録素子を複数のブロックに分割し、隣接する記録素子が連続的に駆動されるようにブロック毎に記録素子の駆動を行う駆動手段と、を備え、前記所定方向と交差する方向に前記記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させて記録を行う記録装置において、前記駆動手段を用いて複数のブロックに分割された前記複数の記録素子を、隣接する記録素子を連続的に駆動するようにして記録媒体に記録を行うモードとして、第1記録モードと、第1の記録モードより前記記録素子の駆動周期が長い第2記録モードと、を実行可能であり、
前記第1記録モードと比較して前記第2記録モードの方が、駆動周期に対する、前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間と次の前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間との間に設けられた前記複数の記録素子に対して駆動信号を設定しない非駆動期間の比率が高いことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
所定方向に配列されたインクを吐出するための複数の吐出口と、前記複数の吐出口に各々対応するように設けられた前記複数の吐出口からインクを吐出させるために用いられる複数の記録素子と、前記複数の吐出口にインクを供給するための共通の液室と、を有する記録ヘッドと、前記複数の記録素子のうち前記所定方向に連続して配置された複数の記録素子を複数のブロックに分割し、隣接する記録素子が連続的に駆動されるようにブロック毎に記録素子の駆動を行う駆動手段と、を備え、前記所定方向と交差する方向に前記記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させて記録を行う記録装置において、前記複数の吐出口のインクのメニスカスが吐出方向に凸となる状態で前記記録素子の駆動を行う手段を有する
ことをモードとして、第1記録モードと、第1の記録モードより前記記録素子の駆動周期が長い第2記録モードと、を実行可能であり、
前記第1記録モードと比較して前記第2記録モードの方が、駆動周期に対する、前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間と次の前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間との間に設けられた前記複数の記録素子に対して駆動信号を設定しない非駆動期間の比率が高いことを特徴とする記録装置。
【請求項3】
前記吐出口と記録媒体との距離に関する距離情報を取得する取得手段を更に有し、前記取得手段が取得した距離情報に基づいて前記非駆動期間を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは複数の色のインクを用いて記録を行い、各色のインクに夫々対応する複数の記録素子について、インクの種類に応じて前記非駆動期間を設定することを特徴とする、請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記複数の記録素子を複数のブロックに分割し、ブロックに分割された連続配置される複数のノズルは、一端のノズルから逆側の端のノズルに向かって並ぶ順に対応する記録素子が駆動されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記第1の記録モードは前記第
2記録モードよりも前記相対移動の速度が高いことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記第1の記録モードは前記第2記録モードよりも記録解像度が高いことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と交差する方向に移動させながらインクを吐出して記録を行うことを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
所定方向に配列されたインクを吐出するための複数の吐出口と、前記複数の吐出口に各々対応するように設けられた前記複数の吐出口からインクを吐出させるために用いられる複数の記録素子と、前記複数の吐出口にインクを供給するための共通の液室と、を有する記録ヘッドと、前記複数の記録素子のうち前記所定方向に連続して配置された複数の記録素子を複数のブロックに分割し、隣接する記録素子が連続的に駆動されるようにブロック毎に記録素子の駆動を行う駆動手段と、を備え、前記所定方向と交差する方向に前記記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させて記録を行う記録装置における記録方法であって、第1の記録方法で記録を行う場合には、前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間と次の前記複数の記録素子の
前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間との間に設けられた前記複数の記録素子に対して駆動信号を設定しない非駆動期間を所定の期間とり、前記第1の記録方法より前記記録素子の駆動周期が長い第2記録方法で記録を行う場合には、前記第1の記録方法よりも前記記録素子の駆動周期に対する前記非駆動期間の比率が高いことを特徴とする記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、写真プリントやはがきプリントを主な用途としており、高速記録、高品位、低騒音、多様な媒体に記録できるといった特長を有する。インクジェット技術は多様な用途に拡大しつつあり、インクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドの更なる高性能化と技術革新が進んでいる。
【0003】
インクジェット方式として、主にサーマルインクジェット方式と圧電方式の二種類が知られている。サーマルインクジェット方式は、熱エネルギーをインクに与えることで、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出する方法である。また、圧電方式は、圧電素子両面の電極に電圧を印加することにより圧電素子を変形させ、その体積変化によって吐出口からインクを吐出する方法である。
【0004】
インクジェット記録装置は、上記方法を用いて、吐出口から吐出したインクを記録媒体上に着弾させて画像を形成する。近年、インクジェット記録装置について、より高精細な画像と高速記録を求める市場ニーズ及び産業用途への応用の期待に応えるため、従来よりも小さな液滴を安定に吐出する為の技術開発が進められている。また、主滴の後方に発生する主滴より更に小さな液滴であるサテライトを抑えるという課題解決の為の技術開発が進められている。
【0005】
サテライトは様々な問題の原因となっている。例えば、小粒径のインク滴ほど空気抵抗の影響を受けやすい為、主滴が空気中を通過することによって生じる空気の流れの影響を受け、その後に続くサテライトが予定していない箇所に着弾して画質を低下させる。
【0006】
特許文献1には、隣接するノズルの吐出によりインクメニスカスがノズル面に対して凸となる状態でインクを吐出させるとサテライトを低減させる技術が開示されている。この状態を実現するために、特許文献1では近接するノズル間の吐出時間間隔を既定の値とする方式を提示し、その手段として隣接ノズルを順番に駆動するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インクメニスカスが凸となる状態で吐出させることでサテライトの発生を低減させるためには、隣接ノズルの吐出に対して所定の時間間隔で吐出させることが望ましいが、それだけでは十分ではないと想定される。隣接ノズル間の吐出間隔は駆動周期により変化するため隣接ノズルを順番に吐出させるだけではサテライトの発生を十分に抑制することはできないこともあり得る。本実施形態は、以上の課題に鑑みてなされたもので、サテライトを従来よりも抑制しながら記録を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、所定方向に配列されたインクを吐出するための複数の吐出口と、前記複数の吐出口に各々対応するように設けられた前記複数の吐出口からインクを吐出させるために用いられる複数の記録素子と、前記複数の吐出口にインクを供給するための共通の液室と、を有する記録ヘッドと、前記複数の記録素子のうち前記所定方向に連続して配置された複数の記録素子を複数のブロックに分割し、隣接する記録素子が連続的に駆動されるようにブロック毎に記録素子の駆動を行う駆動手段と、を備え、前記所定方向と交差する方向に前記記録ヘッドと記録媒体とを相対移動させて記録を行う記録装置において、前記駆動手段を用いて複数のブロックに分割された前記複数の記録素子を、隣接する記録素子を連続的に駆動するようにして記録媒体に記録を行うモードとして、第1記録モードと、第1の記録モードより前記記録素子の駆動周期が長い第2記録モードと、を実行可能であり、前記第1記録モードと比較して前記第2記録モードの方が、駆動周期に対する、前記複数の記録素子の前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間と次の前記複数の記録素子の前記ブロック内の最初の駆動から最後の駆動までの期間である駆動期間との間に設けられた前記複数の記録素子に対して駆動信号を設定しない非駆動期間の比率が高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上の構成によれば、サテライトの発生を抑制して記録を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】走査速度、記録解像度と駆動信号の関係を示す図
【
図7】隣接ノズルの駆動間隔とサテライトの個数を示す図
【
図8】走査速度と記録解像度に対する駆動信号の幅を示す図
【
図9】走査速度、記録解像と駆動信号の関係を示す図
【
図10】第一の実施形態でのブロックマージンとそのブロック長を示すテーブル
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照し、発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0014】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0015】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0016】
またさらに、「ノズル」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路を総括して言うものとする。
【0017】
図1は、本実施形態の代表的な実施形態であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0018】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置という)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行う記録ヘッド3を搭載している。記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2にキャリッジモータM1によって発生する駆動力を伝達機構4より伝え、キャリッジ2を主走査方向である矢印A方向に往復移動(往復走査)させる。例えば、記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において往復走査とともに記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行う。記録ヘッド3の走査と搬送方向(ここでは矢印A方向と交差する方向)への記録媒体の搬送を交互に行い、これを繰り返して記録を行う。記録媒体の同一領域に対して記録ヘッド3を複数回走査して記録を行うようにしてもよい。記録ヘッド3と記録媒体との相対移動はノズルの配列方向と交差する方向に行われることになるが、これは記録ヘッド3が走査する形態に限らない。静止している記録ヘッド3の下をノズル配列方向と交差する方向に移動して通過する記録媒体に対してインクを行って印字するようにしても良い。
【0019】
記録装置のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを収容するインクタンク6を装着する。これら記録ヘッド3とインクタンク6は、キャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0020】
図1に示した記録装置はカラー記録が可能であり、そのためキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクをそれぞれ収容した4つのインクタンクを搭載している。キャリッジ2と記録ヘッド3とは、両部材の接合面が適正に接触されて所要の電気的接続を達成維持できるようになっている。記録ヘッド3は、記録信号に応じてエネルギーを印加することにより、所定方向(ここでは矢印A方向と交差する方向)に配列された複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録する。記録ヘッド3には各色のインクに対応し、ヘッド内に供給されたインクの液室が設けられ、複数の吐出口には共通の液室から分岐する流路によってインクが供給される。特に、本実施形態の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用し、熱エネルギーを発生するための記録素子である電気熱変換体を備える。その電気熱変換体に印加される電気エネルギーが熱エネルギーへと変換され、その熱エネルギーをインクに与えることにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0021】
図1に示されているように、キャリッジ2はキャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝達機構4の駆動ベルト7の一部に連結されており、ガイドシャフト13に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されるようになっている。したがって、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の正転及び逆転によってガイドシャフト13に沿って往復走査する。また、キャリッジ2の主走査方向(矢印A方向)に沿ってキャリッジ2の位置を示すためのスケール8が備えられている。
【0022】
また、記録装置には、記録ヘッド3の吐出口(不図示)が形成された吐出口面に対向してプラテン(不図示)が設けられており、キャリッジモータM1の駆動力によって記録ヘッド3を搭載したキャリッジ2が往復走査される。これと同時に、記録ヘッド3に記録信号を与えてインクを吐出することによって、プラテン上に搬送された記録媒体Pの全幅にわたって記録が行われる。
【0023】
図2は、
図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
図2に示すように、記録装置のコントローラ600は、MPU601、所要のテーブル、その他の固定データを格納したROM602を有する。また、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する特殊用途集積回路(ASIC)603を有する。また、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等を設けたRAM604、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行うシステムバス605を有する。さらに、位置センサ631、温度センサ632等の記録装置のセンサ群630から入力されたアナログ信号をデジタル信号にA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給するA/D変換器606を有する。また、コントローラ600は、予備吐出時および記録時において、所定の時間間隔となるように記録ヘッド3の複数の記録素子を駆動する。また、610は画像データの供給源となるコンピュータ等でありホストと総称される。ホスト610と記録装置との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。さらに、640はキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。また、記録装置には電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623等のスイッチ群620を備えている。
【0024】
図3(a)は本実施形態の記録ヘッド部を示す外観斜視図である。記録ヘッド3にはインクタンク6が着脱可能であり、不図示のインク供給路を介して記録ヘッド3に供給される。
図3(b)に示すようにキャリッジ2に搭載されたときに、キャリッジ2側から供給される電気信号を受け取るための電極301が設けられており、この電気信号によって記録ヘッド3が駆動されて、吐出口列302の各吐出口から選択的にインクが吐出される。
【0025】
上記インクジェット記録装置における記録ヘッド3の駆動方法として、複数の吐出口を複数のブロックに分けて、ブロック毎に吐出口を同時駆動するブロック分割駆動方法がとられている。各々のブロックを駆動する信号を設定可能な時間幅は等しく設定され、その時間幅をブロック長と呼び、本件においてはtbとする。
【0026】
本実施形態では、列状に配列されたノズルを16ブロックに分割して時分割駆動する記録ヘッドを使用している。ここで、この記録ヘッドのうち記録時における隣接する16ノズルについての駆動図を
図4に示す。401は隣接する16個のノズル(図中黒丸)を示しており、各々のノズルに対応した駆動信号が、図中の左から右へと予め定められた順序で入力されている。そして、402で示されるような駆動波形をとる駆動信号のON状態に応じて各々の吐出口からの吐出動作を開始する。
【0027】
各ノズルに対応した駆動信号を設定するブロック長の取り得る幅は記録ヘッドの走査速度と記録解像度の関係によって制限される。
【0028】
図5(a)には本実施形態におけるこれらの関係を図示している。隣接するノズル401(図中黒丸)と駆動信号の波形との対応については
図4で説明したものと同様である。501に示されるように、記録ヘッドの走査速度をV[inch/秒]、記録解像度をR[dot/inch]とすると、ノズルごとの駆動周期は1/(V・R)[秒/dot]となる。各記録走査において16ブロックに分割されたノズルの駆動信号をこの駆動周期に収めるためには、16tb ≦ 1/(V・R)を満たすように各ノズルにおけるブロック長を決定することになる。ブロックの最初の記録素子の駆動から1/(V・R)の時間が経過すると、次のカラムの記録のための時間(1/(V・R))となるからである。ノズルから吐出されるインク量はインクごとの吐出特性や記録ヘッドのリアルタイムな温度変化により変動するが、これらの変動を吸収するためには各々の条件に合わせて駆動信号を変調させる必要があり、この自由度を高く保つためには各ノズルに割り当てられたブロック長tbをできるだけ大きい値とするのが好ましい。しかしながら、最大の値であるtb = 1/(16・V・R)とすると記録ヘッドの走査速度に変動が生じた際に全ての駆動信号を駆動周期内に収めることができなくなるため、
図5(b)の502に示すように一定のマージンtm(以下ブロックマージンと呼ぶ)を設定し、tb ={1/(V・R)-tm}/16とし、tmは装置構成上問題ない範囲で小さく設定することで、前述の要請は達成される。このブロックマージンは配列された記録素子のブロックの駆動期間と次の駆動期間との間との間の非駆動期間である。
【0029】
記録素子を駆動する順序については適宜設定可能であり、
図4に示したように離散的に設定することにより隣接する記録素子を駆動する間隔を広げて吐出させることができる。また逆に
図6(a)に示すように隣接するノズルを連続して駆動する順序とすることで隣接する記録素子を駆動する間隔を狭めることができる。この時どのノズルにおいても、隣接するノズルが駆動される時間との駆動時間の間隔はブロック長と同じでtbとなる。
図6(b)に示す駆動順は、隣接するノズルに対応する記録素子に対して一つ別のノズルに対応する記録素子を駆動するが、結果として隣接する記録素子を連続的に記録するような順序である。
図4に示すような離散的な駆動の順序と比較して隣接するノズルに対応する記録素子の駆動間隔を狭めることができる。この場合、隣接するノズルに対応する記録素子の駆動間隔は2tbとなる。但し、601に示されるノズルは、図中上方向の一つ隣りのノズルに対応する記録素子との駆動間隔は2tbより大きい。
【0030】
ここで、隣接するノズルに対応する記録素子の駆動順を連続的な順序とすることでサテライトが減少することが知られている。通常、インク滴が吐出する際には主滴とこれに続く尾引きとに分かれ、尾引きは分裂および合体をし、サテライトと呼ばれる小液滴になる。インクメニスカスが吐出方向に凸となる状態で吐出を行うとインク先端が速く切れる傾向にあり、尾引きは相対的に短くなる。駆動順を連続とし、メニスカスを振動させることで上記のような状態を実現し、結果としてサテライトの発生が抑制される。
【0031】
本実施形態の記録ヘッド3は、5plの吐出量の記録ヘッドである。吐出開始してから50マイクロ秒におけるサテライトの個数と隣接する記録素子を駆動する時間間隔との関係を
図7に示す。隣接する記録素子を駆動する時間間隔を横軸とし、サテライト個数を縦軸とした。
図7において、隣接する記録素子を駆動する時間間隔を変化させることで、サテライト個数が変化していることがわかる。図中の点線は
図4で示した駆動方法によるサテライト個数を示している。隣接する記録素子を駆動する時間間隔が5.0マイクロ秒以下において、サテライト個数は大幅に少なくなっていることがわかる。このように、駆動順を連続的な順序とし、隣接するノズル間の駆動する時間間隔を短くすることで、サテライトの個数を低減させ画質の向上を図ることができる。
【0032】
しかしながら、連続的な順序とすることでブロック長とブロック間隔を調整しても、記録ヘッド3の走査速度、記録解像度によってはサテライトが十分に少なくならないこともある。
図8に本実施形態で使用する記録ヘッド3の走査速度、記録解像度ごとのブロック長の値を示す。ここではブロックマージンを1/(V・R)の10%とし、小数点第二位以下を切り捨てている。この表から明らかなように、上述したように、サテライトの個数を抑えるにはブロック間隔tbを5.0マイクロ秒とすることが望ましいが、
図8の斜線部の条件ではこの値を超えてしまっている。
【0033】
この点を鑑み、本実施形態では、実行可能な記録モードのうち、記録ヘッドの走査速度、記録解像度から決定されるノズルに対応する記録素子間の駆動周期が長い記録モードで、駆動周期が短い記録モードと比較してブロックマージンの値を大きく設定する構成を取る。
図9に、走査速度、記録解像度が異なる2つのモードの駆動図を示す。(a)~(c)の各図におけるノズルと駆動波形との対応関係は
図4で説明したものと同様である。
図9(a)は記録ヘッドの走査速度が30[inch/秒]、記録解像度を600[dot/inch]とした本実施形態に係る第1記録モードの場合の駆動図であり、駆動周期は55.56マイクロ秒となる。このとき隣接ノズルに対応する素子間の駆動間隔(ブロック間隔)は3.1マイクロ秒となりサテライト低減の効果が十分得られるに対して、記録解像度を300[dot/inch]とした記録モード(
図9(b)参照)では隣接ノズル間の駆動間隔が6.2マイクロ秒となる。そこで、
図9の(c)に示す本実施形態に係る第2記録モードのようにサテライト低減の効果が得られるようにブロックマージンを駆動周期の10%である11.11マイクロ秒から、30%となる33.33マイクロ秒へ増加させる。これにより駆動間隔(ブロック間隔)は4.8マイクロ秒となりサテライト低減の効果が得られる。このように、サテライト低減が得られるブロック間隔をtdとすると、ブロックマージンはtm > 1/(V・R)-16tdを満たすように設定すればよい。前述したように、駆動間隔は吐出信号の自由度の確保からできるだけ長く設定可能となるようにブロックマージン短くすることが望ましいが、記録モードの特性、用途、あるいは吐出信号の自由度を鑑みて、駆動間隔、ブロックマージンを設定することで画質の最適化を図ることが可能である。
【0034】
図10はサテライト低減の効果が得られるようにブロックマージン、ブロック長を設定したテーブルである。
図10(a)は走査速度、記録解像度が相対的に低い300dpiの記録モード、すなわち相対的に駆動周期が長い記録モードは、記録解像度が600dpiの記録モードより駆動周期に対するブロックマージンの比率が高くなるように設定している。これにより
図10(b)に示すようにブロック間隔がサテライト抑制の効果が得られるtd以下の値とすることができる。
【0035】
図11は本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は主としてコントローラ600で行われる。
【0036】
まず、ホストコンピュータから画像データを受信すると、ステップS1110では受信した画像データの記録モードを取得する。受信した画像データに記録モードのパラメータも含まれているので、モード情報を取得する。なお、受信した画像データに記録モードのパラメータが含まれていないときには、記録装置の操作部で設定された記録モードを取得する、あるいはユーザに記録モードを設定するようにホストコンピュータまたは記録装置に操作部に表示する。次に、S1120では、S1110において取得した記録モードに紐づく記録ヘッドの走査速度、記録解像度を取得し、続くS1130において走査速度、記録解像度の条件に適合するブロックマージンを設定する。次に、S1140では、S1120、1130において設定されたパラメータに従って、画像の記録を行う。
【0037】
以上のように、記録ヘッドの走査速度、記録解像度から決定されるノズルごとの駆動周期が長い記録モードほど、ブロックマージンの比率を大きく設定することでサテライトの発生を抑制し、高画質な記録画像を得ることが可能となる。
【0038】
(第2の実施形態)
第1の実施形態は記録ヘッドの走査速度、記録解像度が異なるモード間においてそれらの値から決定されるノズルごとの駆動周期が長い記録モードほど、ブロックマージンの比率を大きく設定する形態であった。本実施形態は記録ヘッドと記録媒体の距離に応じてブロックマージンの比率を異ならせる形態である。
【0039】
ノズルからインクが吐出される際、主滴の後方に発生するサテライトにより画質が劣化するため、サテライトの発生を抑制し画質を向上させる構成について説明したが発生したサテライトが画質を劣化させる程度は、記録ヘッドと記録媒体の距離に強く依存する。サテライトは主滴と比較して体積が小さいため、空気抵抗の影響を強く受けやすく主滴とは異なる位置に着弾することで画質が劣化するが、記録ヘッドと記録媒体の距離が小さければ飛翔時間が短くなることにより主滴の着弾位置とのずれ量は小さくなる。従って、記録位置において、十分に記録ヘッド3と記録媒体Pとの距離が小さければサテライトによる画質への影響は小さい。第1の実施形態の説明で述べたようにブロックマージンの比率を大きく設定することでサテライトを抑制できる一方、ブロック長を長く設定すると濃度変動への対応がしやすい。記録ヘッドと記録媒体の距離がある程度小さいときには後者を選択することが望ましい。本実施形態では、記録ヘッドと記録媒体との距離情報として、あらかじめ記録ヘッドとプラテン間の距離と、装置が対応する記録媒体の厚みをROM602に保存しておく。記録モードと共に設定された記録媒体の種類から記録ヘッドと記録媒体の距離を算出し、あらかじめ設定した値と記録媒体の距離を比較することによりブロックマージンの比率を大きくするテーブルを選択するか否かを決定する。
【0040】
図12は本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は主としてコントローラ600で行われる。
【0041】
ステップS1210、ステップS1220についてはそれぞれ第1の実施形態のステップS1110、ステップS1120と同様である。続くステップS1230において印刷を行う記録媒体の種類とその厚みを取得し、記録ヘッドと記録媒体の距離を算出する。次にS1240にて算出した距離をあらかじめ設定した所定の値と比較する。所定の値より大きい場合にはS1250にてブロック間隔tbがtdより小さな値となるブロックマージンが設定されるテーブルを用い、走査速度、記録解像度の条件に適合するブロックマージンを設定する。所定の値以下である場合にはS1260にて構成上必要な所定のマージンとなるようにブロックマージンを設定する。同一解像度、同一走査速度である場合、ステップS1260で設定されるブロックマージンはステップS1250で設定されるブロックマージンよりも長い。次に、S1270では、設定されたパラメータに従って、画像の記録を行う。
【0042】
なお、本実施形態ではあらかじめ記録媒体の厚みをROMに保存するとしたが、記録ヘッドと記録媒体との距離を検出するセンサを設け、その値により制御を決定するとしても良い。また、算出した距離を所定の値と比較するとしたが、所定の値はインク、ヘッド等の構成や記録モード毎に適切に設定されることが望ましい。
【0043】
以上のように、記録ヘッドと記録媒体の距離に応じてブロックマージンの比率を異ならせることで、サテライトの発生による画質への影響を適切に抑制し、高画質な記録画像を得ることが可能となる。
【0044】
(第3の実施形態)
第3の実施形態ではインク色に応じてブロックマージンの比率を異ならせる例について述べる。
【0045】
先に述べたようにサテライトの発生は画質を劣化させるが、サテライトの発生量はインクの特性によって異なる。多くのサテライトを発生させるインクはサテライトを抑制することが画質向上に寄与するが、サテライトが発生しにくいインクはサテライトを抑制する制御を行ったとしても画質向上に寄与しない。従って、インクに応じて先に述べたブロックマージンの比率を異ならせることで画質の最適化を図ることができる。
【0046】
図13は本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は主としてコントローラ600で行われる。
【0047】
ステップS1310、ステップS1320についてはそれぞれ第1の実施形態のステップS1110、ステップS1120と同様である。続くS1330においてインクごとにブロックに関する設定の判定を行う。あらかじめインクごとにサテライト低減の制御を実施するか否かを決定しておき、サテライト低減の対象とするインクの場合はS1340にてブロック間隔tbがtdより小さな値となるブロックマージンが設定されるテーブルを用い、走査速度、記録解像度の条件に適合するブロックマージンを設定する。サテライト低減の対象としないインクの場合にはS1350にて構成上必要な所定のマージンとなるようにブロックマージンを設定する。S1360ではすべてのインクの設定が終了したかを判定し、終了していない場合にはS1330に戻り設定を続ける。終了している場合にはS1370にて設定されたパラメータに従って、画像の記録を行う。
【0048】
以上のように、インクの特性に合わせてブロックマージンの比率を異ならせることでサテライトの発生による画質劣化を適切に抑制し、高画質な記録画像を得ることが可能となる。
【0049】
(その他の実施形態)
第2の実施形態、第3の実施形態において記録条件や用いるインクに応じてブロックマージンを設定し、必要に応じてサテライトの抑制を図る形態を示したが、同様にサテライト抑制を図るか否かに係る条件としては次のようなものが考えられる。画像を完成させるための記録パス数が異なる記録モード間において、記録パス数が多いモードでは同時吐出ノズル数が少ないため隣接ノズルが連続して駆動される確率が相対的に低くなり、インクメニスカス振動によるサテライト低減効果は小さくなる。従ってブロック長を長く設定することにより濃度変動抑制効果を優先することが望ましい。また、形成される画像が自然画像を多く含むのか、線や文字を多く含むのかといった属性に応じて制御を異ならせることも考えられる。線や文字を多く含む場合にはサテライトが多く発生すると線の乱れや文字の潰れといった画質劣化が目立ちやすいが、自然画像ではそれらの劣化が比較的目立ちにくい一方で、連続した階調をもった画像では濃度変動によるムラが目立ちやすい。従って画像の特性に応じてブロックマージンを制御することが望ましい。画像の特性についてはプリンタが判定する手段を持つとしてもよいし、ユーザがあらかじめ設定するとしてもよい。
【0050】
以上、実施形態の説明を行ったが、上述したようなブロックマージンを駆動周期の後方に位置するように設定する形態のみならず、前方と後方に分けて配置するような形態をとってもよい。また、連続配置されブロックに分割されたノズルのうち、一端のノズルに対応する記録素子から逆側の端に向かう順に駆動される順次駆動を説明した。しかし、必ずしもこのような完全順次の駆動順である必要はない。一部の隣接ノズル間において駆動順が連続しない駆動の仕方においても、上述したブロックマージンの調整によって一部の連続駆動される隣接ノズルが駆動間隔を調整することでサテライト抑制を図ることができる。またさらに、上記各実施形態においては、隣接するノズルの駆動時間間隔を制御したが、インクメニスカスの振動は隣接するノズルだけでなく、さらに隣の近接するノズルに及ぶ場合も考えられる。そのため、上述の実施形態に基づき、両隣の隣接ノズルに限らず、その影響が及ぶと考えられる離散した位置のノズル、つまり近接するノズルの駆動時間間隔を制御するようにしてもよい。