(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】複数のグループ化されたECG信号の統計的特性を使用した一貫性のない信号の検出
(51)【国際特許分類】
A61B 5/367 20210101AFI20241216BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20241216BHJP
A61B 5/279 20210101ALI20241216BHJP
【FI】
A61B5/367
A61B5/33 100
A61B5/279
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020184233
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-09-20
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】バディム・グリナー
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0261927(US,A1)
【文献】特表2016-530008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0368713(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信するように構成された信号取得回路機構と、
プロセッサと、を備え、前記プロセッサは、
前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
前記心内信号のグループを選択することと、
前記グループ内で、所定の量の偏差を超えて前記グループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することと、
前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、前記アノテーション値をユーザに対して可視化することと、を行うように構成されて
おり、
前記プロセッサは、前記心臓内で互いから所定の距離以内に位置する空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号にわたって前記アノテーション値の偏差を計算するように構成されている、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記偏差の前記量を前記アノテーション値の標準スコアに換算して規定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記偏差の前記量を前記アノテーション値の1つ以上のパーセンタイルに換算して規定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記グループ内の所与の電極によって取得された、所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を、前記グループ内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するために、補正するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記アノテーション値は、局所活性化時間(LAT)を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記心臓のモデル上に、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して前記アノテーション値をオーバーレイすることによって、前記アノテーション値を可視化するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
医療システムの作動方法であって、
プロセッサが、患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信することと、
前記プロセッサが、前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
前記プロセッサが、前記心内信号のグループを選択することと、
前記プロセッサが、前記グループ内で、所定の量の偏差を超えて前記グループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することと、
前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、前記アノテーション値をユーザに対して可視化することと、を含
み、
前記プロセッサが、前記グループ内で、所定の量の偏差を超えて前記グループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することは、前記プロセッサが、前記心臓内で互いから所定の距離以内に位置する空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号にわたって前記アノテーション値の偏差を計算することを含む、方法。
【請求項8】
前記偏差の前記量は、前記アノテーション値の標準スコアに換算して規定される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記偏差の前記量は、前記アノテーション値の1つ以上のパーセンタイルに換算して規定される、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記プロセッサが、前記グループ内の所与の電極によって取得された、所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を、前記グループ内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するために、補正することを含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
前記アノテーション値は、局所活性化時間(LAT)を含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項12】
前記プロセッサが、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、前記アノテーション値をユーザに対して可視化することは、
前記プロセッサが、前記心臓のモデル上に、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して前記アノテーション値をオーバーレイすることを含む、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、同日付で出願された、代理人整理番号BIO6197USNP1の「Optimizing Mapping of ECG Signals Retrospectively by Detecting Inconsistency」と題する米国特許出願に関し、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、概して、体内の医療処置及び医療器具に関し、具体的には、体内の心臓の心電図(electrocardiogram、ECG)検知に関する。
【背景技術】
【0003】
多数の電極によって生成される心内心電図(internal-electrocardiogram、iECG)信号を測定及びアノテートするとき、埋め込まれたノイズを低減するために、信号を(例えば、コンピュータによって)処理することが望ましい場合がある。
【0004】
このようなiECG信号処理のための様々な方法が存在する。例えば、米国特許出願第2009/0089048号は、心室チャネル、マッピングチャネル、及び複数の基準チャネルを含む、4つ以上のマルチチャネル心電図信号の局所活性化時間(local activation time、LAT)を判定する自動方法について記載している。
【0005】
別の例は、Yanらによる、「A 13μA Analog Signal Processing IC for Accurate Recognition of Multiple Intra-Cardiac Signals」、IEEE Transactions On Biomedical Circuits And Systems、Vol.7、No.6、2013年12月、であり、これは、心電図の低電力消費及び高速診断のためのアナログQRS特徴抽出器を各々が含む、3つの同一であるが独立したECG内読み出しチャネルを特徴とする、低電力心拍分析用のアナログ信号処理ICについて記載している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載された本発明の一実施形態は、信号取得回路機構及びプロセッサを含むシステムを提供する。信号取得回路機構は、患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信するように構成されている。プロセッサは、心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、心内信号のグループを選択することと、グループ内で、所定の量の偏差を超えてグループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することと、統計的に逸脱しているアノテーション値を除外してアノテーション値をユーザに対して可視化することと、を行うように構成されている。
【0007】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、偏差の量をアノテーション値の標準スコアに換算して規定するように構成されている。他の実施形態では、プロセッサは、偏差の量をアノテーション値の1つ以上のパーセンタイルに換算して規定するように構成されている。
【0008】
一実施形態では、プロセッサは、心臓内で互いから所定の距離以内に位置する空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号にわたってアノテーション値の偏差を計算するように構成されている。別の実施形態では、プロセッサは、アノテーション値の偏差を計算する際に、所定の時間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって心内信号を平均するように構成されている。
【0009】
開示された一実施形態では、プロセッサは、グループ内の所与の電極によって取得された、所与の心内信号内のアノテーション値のうちの1つ以上を、グループ内のその他の電極に対する所与の電極の変位を補償するために、補正するように構成されている。いくつかの実施形態では、アノテーション値は、局所活性化時間(LAT)を含む。例示的な一実施形態では、プロセッサは、心臓のモデル上に、統計的に逸脱しているアノテーション値を除外してアノテーション値をオーバーレイすることによって、アノテーション値を可視化するように構成されている。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信することを含む方法が追加的に提供される。心内信号から複数のアノテーション値が抽出される。心内信号のグループが選択される。グループ内で、所定の量の偏差を超えてグループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値が、識別される。アノテーション値は、統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、ユーザに対して可視化される。
【0011】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態による、心内ECG信号のマルチチャネル測定のための電気解剖学的システムの概略描写図である。
【
図2】本発明の一実施形態による、複数の心周期における複数の電極による信号の取得を概略的に例示する図である。
【
図3A】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第1の方法を概略的に例示するフローチャートである。
【
図3B】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第2の方法を概略的に例示するフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための改善された方法を概略的に例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
概論
心内プローブベース(例えば、カテーテルベース)の心臓診断及び治療システムは、侵襲的処置中に心電図(ECG)などの複数の心内信号を測定し得る。このようなシステムは、プローブの遠位端に取り付けられた電極(以後、「遠位電極」とも称される)を使用して、複数の心内信号を取得し得る。測定された信号を使用して、患者の心臓内の病理学的電気パターンの供給源の3Dマッピングなどの視覚的心臓情報を医師に提供し、アブレーションなどの矯正医療処置をサポートし得る。
【0014】
測定された信号は、通常、微弱であり、低信号対雑音比(Signal to Noise Ratio、SNR)を有する。更に、電極のうちのいくつかと組織とのガルバニック接続は、不十分であるか、又は存在しない場合がある。一方、多くの電極が使用され、それゆえ、システムが電極から受信するデータにはある程度の冗長性が存在し得る。
【0015】
本明細書に開示された本発明の実施形態は、収集されたデータの品質及び信頼性を改善するために、遠位電極が収集する信号の統計的特性を使用する心内プローブベースの電気解剖学的測定及び分析システム及び方法を提供する。
【0016】
以下の説明では、局所活性化時間(LAT)のアノテーション値に言及する。ただし、開示された手法は、LATに限定されず、本発明の様々な実施形態では、様々な他の好適な信号パラメータのアノテーション値が使用され得る。
【0017】
本発明によるいくつかの実施形態では、プロセッサは、信号のアノテーション値(例えば、LAT)を抽出し、次いで、電極の対応するグループ(電極のうちの全て又はいくつかを含み得る)によって取得された信号のグループのLAT値の統計的特性を計算する。一実施形態では、統計的特性は、信号のグループのLAT値の平均値(例えば、
【0018】
【数1】
)を含み、他の実施形態では、特性は、グループの標準偏差(例えば、
【0019】
【数2】
)を更に含む。次いで、プロセッサは、統計的方法を使用して、信号のグループの各々のものについて、信号のアノテーション値が、有効な値であるか、又は無視すべき値であるかを判定する。
【0020】
別の実施形態では、統計的特性は、LAT値のグループの四分位数を含む。プロセッサは、第一四分位数Q1及び第三四分位数Q3を計算し、次いで、Q1よりも低いか、又はQ3よりも高い全ての値を無視する(第一四分位数(Q1)は、データセットの最小数と中央値との間の中間数として規定され、第三四分位数(Q3)は、データセットの中央値と最高値との間の中間値である)。代替的に、プロセッサは、LAT値の偏差の量を、LAT値の任意の他の好適なパーセンタイル(又は複数のパーセンタイル)に換算して規定してもよい。更に代替的に、外れ値のLAT値を破棄する任意の他の好適な処理を使用することができる。
【0021】
以上に開示された手法は、ノイズ及び不整なガルバニック接続がなければ、グループの電極は、同様のアノテーション値を呈することを想定している。通常、互いから遠隔にある電極によって取得されるアノテーション値は、実質的に変動し得る。加えて、各電極からの信号は、各心拍(「心周期」)を用いて周期的にアノテートされてもよく、及び互いから時間的に遠隔にある心周期から導出されるアノテーション値は、変動し得る。一実施形態では、信号のグループは、相互に関連する。いくつかの実施形態では、追跡システムは、電極の幾何学的位置を測定し、グループは、隣接する電極(「空間的に関連する」、すなわち、互いから所定の距離以内に位置する電極)のみから導出されたアノテーション値を含む。他の実施形態では、グループは、隣接する心周期(「時間的に関連する」、すなわち、全てが所定の時間以内に発生する心周期)のみから導出されたアノテーション値を含み、一実施形態では、グループは、空間的に関連するとともに時間的に関連する値(「関連する値」と略称される)を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、関連するLAT値のグループの統計的特性を計算した後、グループ内で統計的に逸脱している、例えば、値のグループの平均値とは実質的に異なるLAT値を省略する(残りのLAT値のグループは、有効なLAT値のグループと称される)。したがって、不十分に接続された電極に対応するLAT値、又は極端なノイズを受ける電極に対応するLAT値は、有効なLAT値のグループから排除され得る。
【0023】
実施形態では、LAT値が、信号のグループの平均LATから統計的に逸脱しているか否かを判定するために、プロセッサは、LAT値のグループの平均値から見積もられたアノテートされたLATの偏差を測定する。一実施形態では、偏差の量は、値の標準スコア(値と平均値との間の差が標準偏差で除算されたものとして規定される)であり、事前設定された限界値と比較される。例えば、平均値よりも標準偏差の3.5倍(標準スコア=3.5)超大きい、又は平均値よりも標準偏差の1.5倍(標準スコア=-1.5)超低い値は、統計的に逸脱していると見なされ、したがって省略され得る。別の実施形態では、プロセッサは、第一四分位数よりも低いか、又は第三四分位数よりも高い値を省略する。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサは、心臓内の心信号伝搬の異なる時間遅延に起因して、空間的に関連する電極のLAT値の変動を緩和し得る。実施形態によれば、プロセッサは、伝搬遅延の差を相殺するために、所与の電極によって取得されたLATアノテーションを、その他の電極に対する所与の電極の変位を補償することによって、補正し得る。
【0025】
要約すると、本発明の実施形態によれば、アノテーション値の統計的特性を計算し、アノテーション値をグループ平均値と比較し、及び平均値から遠隔にある値を有効な値のグループから省略することによって、空間的及び/又は時間的に関連する心内信号のアノテーション値のグループの品質及び信頼性を改善することができる。いくつかの実施形態では、統計的特性計算の前に、まずアノテーション値のグループを修正して、信号の伝搬遅延を補正し得る。
【0026】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、心内ECG信号のマルチチャネル測定のための電気解剖学的システム21の概略描写図である。いくつかの実施形態では、システム21は、心臓の電気解剖学的マッピングのために使用される。
【0027】
図1は、医師22が電気解剖学的カテーテル23を使用して患者25の心臓24の電気解剖学的マッピングを実施することを描示している。カテーテル23は、カテーテル23の遠位端に、機械的に可撓性であり得る1つ以上のアーム26を備え、それらアームの各々に1つ以上の遠位電極27が結合されている。理解されるように、
図1は、5つのアームを有するカテーテルを描示しているが、本発明による代替的な実施形態で他の種類のカテーテルが使用されてもよい。電極は、インターフェース32を介してプロセッサ34に結合されている。
【0028】
電気解剖学的マッピング処置中に、追跡システムを使用して、遠位電極27の心内位置を追跡し、それによって、取得された電気生理学的信号の各々を既知の心内位置と関連付け得る。追跡システムの一例は、活性電流位置(Active Current Location、ACL)であり、これは米国特許第8,456,182号に記載されている。ACLシステムでは、プロセッサが、遠位電極27の各々と、患者25の皮膚に結合された複数の表面電極28と、の間で測定されたインピーダンスに基づいて遠位電極のそれぞれの位置を推定する。(例示しやすいように、1本の表面電極のみを
図1に示す。)プロセッサは、次いで、遠位電極27から受信された任意の電気生理学的信号を、信号が取得された位置と関連付け得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、複数の遠位電極27は、心臓24の心室の組織から心内ECG信号を取得する。プロセッサは、インターフェース32から心内信号を受信するように結合された信号取得回路機構36と、データ及び/又は命令を記憶するためのメモリ38と、処理ユニット42(例えば、CPU又は他のプロセッサ)と、を含む。
【0030】
信号取得回路機構36は、心内信号をデジタル化することによって、複数のデジタル信号を生成する。取得回路機構は、次いで、デジタル化された信号を、プロセッサ28に含まれる処理ユニット42に伝達する。
【0031】
タスクの中でも特に、処理ユニット42は、信号からアノテーションパラメータを抽出し、類似している可能性が高い隣接する信号のグループについてのアノテートされたパラメータの平均値などの統計的特性を計算するように構成されている(本局面において、隣接する信号とは、互いに近接して位置する(「空間的に関連する」)電極からの信号、及び/又は時間が互いに近接する(「時間的に関連する」)心周期から抽出されたアノテーション値を指す)。
【0032】
処理ユニットは、統計的特性を計算した後、グループから無効である可能性が高いアノテーション値(ガルバニック接続が不十分であるか、又は強い一時的なノイズを受ける電極からのアノテーションなど)を捨てる(すなわち、省略する)ように、更に構成されている。残りのアノテーション値は、以下では「有効なアノテーション値」と称される。
【0033】
処理ユニットは、有効なアノテーション値、すなわち、省略された、統計的に逸脱しているアノテーション値を除外したアノテーション値を、ユーザに対して可視化する。いくつかの実施形態では、処理ユニット42は、例えば、心臓の電気解剖学的マップ50上に有効なアノテーション値をオーバーレイし、かつマップを画面52上で医師22に対して表示することによって、有効なアノテーション値を可視化する。代替的に、処理ユニット42は、任意の他の好適な方法で(無効なアノテーション値を省略した後に)有効なアノテーション値を可視化してもよい。
【0034】
図1に示す例示的な図は、純粋に概念を明確にする目的で選択されている。本発明の代替的な実施形態では、例えば、位置測定は、表面電極28の対の間に勾配を有する電圧を印加し、かつ結果として得られた電位を、遠位電極27を用いて(すなわち、カリフォルニア、アーバインのBiosense-Webster製のCARTO(登録商標)4の技術を使用して)測定することによっても行われ得る。したがって、本発明の実施形態は、任意の位置検知方法に適用される。
【0035】
Lasso(登録商標)Catheter(Biosense-Webster製)、又はバスケットカテーテルなどの他の種類のカテーテルが、同等に使用されてもよい。電気解剖学的カテーテル23の遠位端に接触センサが取り付けられてもよい。アブレーションに使用されるもののような他の種類の電極を遠位電極27上で同様に利用して、心内の電気生理学的信号を取得してもよい。
【0036】
図1は、本発明の実施形態に関連する部分を主に示す。外部ECG記録電極及びそれらの接続などの他のシステム要素は省略されている。様々なECG記録システム要素が、フィルタリング、デジタル化、保護回路機構、及びその他の要素などとともに、省略されている。
【0037】
任意の実施形態では、心内ECG信号を測定するために、読み出し特定用途向け集積回路(application-specific integrated circuit、ASIC)が使用される。信号取得回路機構36をルーティングする様々な要素は、例えば、1つ以上の個別の構成要素、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)又はASICなどを使用してハードウェアに実装されてもよい。いくつかの実施形態では、信号取得回路機構36及び/又は処理ユニット42のいくつかの要素は、ソフトウェア内に実装されてもよく、又はソフトウェア及びハードウェア要素の組み合わせを使用して実装されてもよい。
【0038】
処理ユニット42は、通常、本明細書に記載された機能を実行するようにプログラムされたソフトウェアを用いる汎用プロセッサを含む。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して、電子形態でダウンロードされ得るか、又はソフトウェアは、代替的に、又は付加的に、磁気メモリ、光学メモリ、又は電子メモリなどの、非一時的な有形媒体上に提供及び/又は記憶され得る。
【0039】
関連するアノテーション値
関連するアノテーション値は、空間的に関連する電極(例えば、互いに幾何学的に近接する、すなわち、互いから所定の距離以内に位置する電極)から、及び/又は時間的に関連する信号(例えば、互いに近接する、すなわち、所定の時間以内に発生する心周期から抽出された値)から、導出される。より正確には、関連するアノテーション値は、電極間の幾何学的距離及び心周期間の時間的距離を含む、組み合わされた距離が、いくつかの所定の閾値を下回る、アノテーション値である。
【0040】
図2は、複数の心周期における複数の電極による信号の取得を概略的に例示する
図200である。水平軸202は、心周期(各垂直線は1つの心周期である)を示し、垂直軸204は、基準点からの電極の距離を示す(1つの空間次元のみが示されており、理解されるように、実際には2つ又は3つの次元が使用され得るが、分かりやすくするために示されていない)。
図2に例示する例示的な実施形態によれば、全ての水平線に電極が存在し、LATアノテーション値は、水平線と垂直線との全ての交点に対して位置合わせされている(以下では、各交点がLAT点と称される)。
【0041】
曲線206は、指示されたLAT値の位置を示す等LAT線であり、電極は、対応する心周期において、隣接する等LAT曲線から補間された値を測定する可能性が高い。例えば、LAT点208の予想される位置合わせ値(等LAT線714と等LAT線716との間で垂直に中間にある)は、715であるのに対し、LAT点210の予想される位置合わせ値は、708.5である。
【0042】
分かるように、隣接する垂直線及び隣接する水平線のLAT値は、類似している。円212は、幾何学的(垂直)距離及び時間的(水平)距離に関して互いに近接する、関連するLAT値214のグループを表す。
【0043】
図2に示す例示的な図は、純粋に概念を明確にする目的で単純化されて示されている。代替的な実施形態では、例えば、電極間の距離は、均一ではなく、関連する信号のグループは、円でなくてもよい。
【0044】
図3Aは、本発明の実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第1の方法を概略的に例示するフローチャート300である。フローは、処理ユニット42(
図1)によって実行される。フローは、信号を記録するステップ302で開始し、処理ユニットは、電極27によって監視され、かつ取得回路機構36によって取得されたECG信号を記録する(
図1)。次に、アノテーション値を抽出するステップ304において、処理ユニットは、各電極及び各心周期に対するアノテーション値を計算する。
【0045】
処理ユニットは、次いで、電極位置を取得するステップ306に移行し、電極の位置が(例えば、ACL手法を使用して)取得され、各電極の空間位置が位置合わせされ、次いで、グループを選択するステップ308に移行する。
【0046】
ステップ308では、処理ユニットは、関連するアノテーション値のグループを選択する。以上に記載したように、グループは、空間的及び/又は時間的に関連する信号と類似している可能性が高いアノテーション値を含む。
【0047】
次に、平均値及びSDを計算するステップ310では、処理ユニットは、グループの全てのアノテーション値の平均値及び標準偏差を計算する。本局面では、算術平均、幾何平均、中央値、二乗平均平方根(Root Mean Square、RMS)値、質量中心、又は任意の他のものなどの、任意の好適な種類の平均値を使用することができる。
【0048】
処理ユニットは、次いで、グループの各アノテーション値に対して繰り返し、ステップ312、314とステップ316又はステップ318のいずれかとに、順次移行する。標準スコアを計算するステップ312では、処理ユニットは、アノテーション値の標準スコアを(例えば、アノテーション値と平均値との間の差を標準偏差によって除算することによって)計算する。標準スコアを比較するステップ314では、処理ユニットは、ステップ312において計算された標準スコアを事前設定された限界値と比較する。標準スコアが事前設定された限界値を超える場合に移行する、値を捨てるステップ316では、処理ユニットは、統計的に逸脱しているアノテーション値を捨て、標準スコアが事前設定された限界値内にある場合に移行する、値を追加するステップ318において、処理ユニットは、アノテーション値を有効なアノテーション値のグループに追加する。
【0049】
プロセッサは、グループの全てのアノテーション値について、ステップ312、314とステップ316又はステップ318のいずれかとのシーケンスを、繰り返す。フローチャートは、次いで、関連する電極の他のグループについて、(ステップ308から)繰り返し得る。
【0050】
フローが終了すると、(例えば、ガルバニック接続が不十分な電極からの)極端な値が省略されるため、有効なアノテーション値のグループは、より良好な信頼性で、元のグループと置き換わる。
【0051】
図3Bは、本発明の実施形態による、アノテーション値の信頼性を高めるための第2の方法を概略的に例示するフローチャート350である。
図3Bに例示する方法は、統計的特性と省略される値の選択とにおいてのみ、
図3Aに例示する方法とは異なる。それゆえ、
図3Aに例示するステップ302~318は、
図3Aのステップ310、314とは異なっており以下に記載するステップ360及び364を除いて、それぞれ
図3Bのステップ352~368と同一である。
【0052】
四分位数を計算するステップ362では、処理ユニット42(
図1)は、LAT値のグループの第一四分位数及び第三四分位数(Q1及びQ3)を計算する(Q1は、LAT値のグループの最小数と中央値との間の中間数として規定され、Q3は、LAT値のグループの中央値と最高値との間の中間値である)。
【0053】
アノテーション値を比較するステップ364では、処理ユニットは、アノテートされたLAT値をQ1及びQ3と比較する。値がQ1よりも小さいか、又はQ3よりも高い場合、処理ユニットは、アノテーション値を捨てるステップ366に移行することとなり、値がQ1~Q3である場合、値を追加するステップ368に移行することとなる。
【0054】
図3A及び
図3Bに示す例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確にする目的で選択されている。代替的な実施形態では、例えば、(信号が記録された後ではなく)信号が取得されたときに、アノテーション値が抽出されてもよい。一実施形態では、グループの信号の選択は、医師によって行われてもよく、他の実施形態では、処理ユニットは、医師が指示する領域及び/又は時間範囲に従って、グループを選択するようになっている。
【0055】
いくつかの実施形態では、ステップ318(
図3Bの368)は、必要ではなく、処理ユニットは、ステップ316(366)において、グループから極端な値を捨て、フローが完了したときに、良好な値のみが残るようになっている。他の実施形態では、全てのアノテーション値は、最初に無効としてマークされ、ステップ316(366)は、必要ではない。
【0056】
いくつかの実施形態では、使用される他の統計的特性は、上述の統計的特性とは異なり、例えば、一実施形態では、四分位数ではなく八分位数を使用してもよく、処理ユニットは、第一八分位数よりも低い値、又は最後の八分位数よりも高い値を省略してもよい。更に代替的に、任意の他の好適なパーセンタイルを使用することができる。
【0057】
極端な値を検出及び省略するための任意の他の好適な統計的方法を、代替的な実施形態で使用してもよい。
【0058】
伝搬遅延補償
いくつかの実施形態では、上述の手法は、電極の異なる空間位置に起因する値の予想される変化について、統計的特性計算の前に、抽出されたLAT値を補正することによって、改善され得る。例えば、心臓を通る波動は、所与の速度(例えば、1m/秒)で進行すると想定することができる。信号を取得する電極の既知の位置を使用して、LATの理論的な差を、平均値を計算するときに適用することができる。
【0059】
図4は、本発明の実施形態によるアノテーション値の信頼性を高めるための改善された方法を概略的に例示するフローチャート400である。フローは、処理ユニット42(
図1)によって実行される。フローは、信号を記録するステップ402で開始し、その後に、アノテーション値を計算するステップ404、電極位置を取得するステップ406、及びグループを選択するステップ408が続き、それぞれステップ302、304、306、及び308(
図3)と同一であり得る。
【0060】
次に、処理ユニットは、LAT値を補正するステップ410に移行し、グループの各LAT値に対して、処理ユニットは、電極の空間位置及び想定される波動進行速度に従って、推定される補正値を計算及び適用する。ステップ410の後、フローは、平均値及びSDを計算するステップ310で、
図3に戻る。
【0061】
したがって、伝搬遅延によって生じる偏差の推定値をグループから除去し、アノテーション信号の信頼性を更に高めることができる。
【0062】
図4に示す例示的なフローチャートは、純粋に概念を明確にする目的で選択されている。代替的な実施形態では、例えば、予測される信号遅延のための補正を、平均値及びSDを計算するステップに統合することができる。他の実施形態では、補正は、グループが選択される前に行われる(したがって、グループは、より多数の関連するLAT値を含み得る)。
【0063】
上記の実施形態は例として挙げたものであり、本発明は上記に具体的に示し記載したものに限定されない点が理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上で説明される様々な特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、従来技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの組み込まれる文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部と見なすものとする。
【0064】
〔実施の態様〕
(1) システムであって、
患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信するように構成された信号取得回路機構と、
プロセッサと、を備え、前記プロセッサは、
前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
前記心内信号のグループを選択することと、
前記グループ内で、所定の量の偏差を超えて前記グループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することと、
前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、前記アノテーション値をユーザに対して可視化することと、を行うように構成されている、システム。
(2) 前記プロセッサは、前記偏差の前記量を前記アノテーション値の標準スコアに換算して規定するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(3) 前記プロセッサは、前記偏差の前記量を前記アノテーション値の1つ以上のパーセンタイルに換算して規定するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(4) 前記プロセッサは、前記心臓内で互いから所定の距離以内に位置する空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号にわたって前記アノテーション値の偏差を計算するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(5) 前記プロセッサは、前記アノテーション値の偏差を計算する際に、所定の時間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって前記心内信号を平均するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
【0065】
(6) 前記プロセッサは、前記グループ内の所与の電極によって取得された、所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を、前記グループ内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するために、補正するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(7) 前記アノテーション値は、局所活性化時間(LAT)を含む、実施態様1に記載のシステム。
(8) 前記プロセッサは、前記心臓のモデル上に、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して前記アノテーション値をオーバーレイすることによって、前記アノテーション値を可視化するように構成されている、実施態様1に記載のシステム。
(9) 方法であって、
患者の心臓内で心内プローブの複数の電極によって取得された複数の心内信号を受信することと、
前記心内信号から複数のアノテーション値を抽出することと、
前記心内信号のグループを選択することと、
前記グループ内で、所定の量の偏差を超えて前記グループ内で統計的に逸脱している1つ以上のアノテーション値を識別することと、
前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して、前記アノテーション値をユーザに対して可視化することと、を含む、方法。
(10) 前記偏差の前記量は、前記アノテーション値の標準スコアに換算して規定される、実施態様9に記載の方法。
【0066】
(11) 前記偏差の前記量は、前記アノテーション値の1つ以上のパーセンタイルに換算して規定される、実施態様9に記載の方法。
(12) 前記統計的に逸脱しているアノテーション値を識別することは、前記心臓内で互いから所定の距離以内に位置する空間的に関連する電極の選択されたサブセットによって取得された心内信号にわたって前記アノテーション値の偏差を計算することを含む、実施態様9に記載の方法。
(13) 前記統計的に逸脱しているアノテーション値を識別することは、所定の時間内に発生する複数の時間的に関連する心周期にわたって前記心内信号を平均することを含めて、前記アノテーション値の偏差を計算することを含む、実施態様9に記載の方法。
(14) 前記グループ内の所与の電極によって取得された、所与の心内信号内の前記アノテーション値のうちの1つ以上を、前記グループ内のその他の電極に対する前記所与の電極の変位を補償するために、補正することを含む、実施態様9に記載の方法。
(15) 前記アノテーション値は、局所活性化時間(LAT)を含む、実施態様9に記載の方法。
【0067】
(16) 前記アノテーション値を可視化することは、前記心臓のモデル上に、前記統計的に逸脱しているアノテーション値を除外して前記アノテーション値をオーバーレイすることを含む、実施態様9に記載の方法。