(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】可変容量型油圧ポンプの較正システム
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20241216BHJP
F04B 51/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
F04B49/06 321Z
F04B51/00
(21)【出願番号】P 2020186949
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】澤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 和麻
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-128733(JP,A)
【文献】特開2008-303813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
F04B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型油圧ポンプと、入力される指令電流に応じて前記ポンプの容量を調整するレギュレータと、前記レギュレータに指令電流を出力するコントローラとを備える可変容量型油圧ポンプの較正システムであって、
前記コントローラは、
前記ポンプの吐出圧力が第1の圧力である場合における前記レギュレータへの指令電流と前記ポンプの容量との関係を示す第1の基準テーブルを求めるステップと、
前記ポンプの吐出圧力が第2の圧力である場合における前記レギュレータへの指令電流と前記ポンプの容量との関係を示す第2の基準テーブルを求めるステップと、
前記第1の基準テーブルと前記第2の基準テーブルとに基づいて、前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す複数の補正テーブルを求めるステップとを実行
し、
前記コントローラは前記第2の基準テーブルを求めるステップにおいて、
前記ポンプの第1の容量および第2の容量を算出し、
前記ポンプの容量が前記第1の容量となる第1の指令電流を求め、
前記ポンプの容量が前記第2の容量となる第2の指令電流を求め、
前記第1の容量、前記第2の容量、前記第1の指令電流および前記第2の指令電流に基づいて前記第2の基準テーブルを求め、
前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、
前記第1の基準テーブルを用いて、前記第1の指令電流に対応する第3の容量を算出すると共に、前記第3の容量と前記第1の容量との差分に対応する第1の電流差分を算出し、
前記第1の圧力、前記第2の圧力、前記第1の指令電流および前記第1の電流差分に基づいて、前記ポンプの容量が前記第3の容量で一定となる前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す第1の補正テーブルを求める可変容量型油圧ポンプの較正システム。
【請求項2】
前記コントローラは前記第1の基準テーブルを求めるステップにおいて、
前記ポンプの最大容量および最小容量を算出し、
前記ポンプの容量が前記最大容量となる最大指令電流を求め、
前記ポンプの容量が前記最小容量となる最小指令電流を求め、
前記最大容量、前記最小容量、前記最大指令電流および前記最小指令電流に基づいて前記第1の基準テーブルを求める、請求項1に記載の可変容量型油圧ポンプの較正システム。
【請求項3】
前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、
前記第1の基準テーブルを用いて、前記第2の指令電流に対応する第4の容量を算出すると共に、前記第4の容量と前記第2の容量との差分に対応する第2の電流差分を算出し、
前記第1の圧力、前記第2の圧力、前記第2の指令電流および前記第2の電流差分に基づいて、前記ポンプの容量が前記第4の容量で一定となる前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す第2の補正テーブルを求める、請求項
1に記載の可変容量型油圧ポンプの較正システム。
【請求項4】
前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、
前記第1の補正テーブルと前記第2の補正テーブルとに基づいて、前記第1の補正テーブルおよび前記第2の補正テーブル以外の他の補正テーブルを線形補間により算出する、請求項
3に記載の可変容量型油圧ポンプの較正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量型油圧ポンプと、入力される指令電流に応じてポンプの容量を調整するレギュレータと、レギュレータに指令電流を出力するコントローラとを備える可変容量型油圧ポンプの較正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、コントローラから出力される指令電流に基づいて容量が制御される可変容量型油圧ポンプの較正システムが開示されている。このシステムは、コントローラから出力する指令電流を最小値から最大値まで多段階的に変化させながら各指令電流におけるポンプ圧を測定して各指令電流に対応する測定ポンプ圧のデータを取得する較正用データ取得手段と、予め設定される基準指令電流における仕様上のポンプ容量から求められるポンプ流量と較正用データ取得手段により求められた測定ポンプ圧とに基づいてポンプ圧とポンプ流量との関係を表す係数を求め、係数とポンプ圧との関係を示す第一テーブルを作成する第一テーブル作成手段と、較正用データ取得手段で取得したデータに基づいて各指令電流と測定ポンプ圧との関係を示す第二テーブルを作成する第二テーブル作成手段と、第一テーブルの係数を用いて第二テーブルの測定ポンプ圧をポンプ流量に変換し、ポンプ流量と指令電流との関係を示す第三テーブルを作成する第三テーブル作成手段と、ポンプ圧測定時のエンジン回転数と第三テーブルとからポンプ容量と指令電流との関係を示すポンプ制御テーブルを作成するポンプ制御テーブル作成手段とを具備し、ポンプ制御テーブル作成手段により作成されたポンプ制御テーブルを較正されたポンプ制御テーブルとして用いることを特徴としている。そして、このシステムによれば、指令電流の全域に亘って各指令電流に対するポンプ容量の値が較正されたポンプ制御テーブルを作成でき、ポンプ制御テーブルの較正を高精度に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術においては、吐出圧力によってポンプの斜板位置の変動が小さいものを前提としており、吐出圧力によってポンプの斜板位置が有意に変動する場合には、正確なキャリブレーションが困難であるという問題がある。
【0005】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、吐出圧力によってポンプの斜板位置が有意に変動する場合でも、ポンプの目標吐出量と、ポンプの実際の吐出量との間のずれを補正して、流量制御精度を向上させることができる可変容量型油圧ポンプの較正システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題を解決する以下の可変容量型油圧ポンプの較正システムが提供される。すなわち、可変容量型油圧ポンプと、入力される指令電流に応じて前記ポンプの容量を調整するレギュレータと、前記レギュレータに指令電流を出力するコントローラとを備える可変容量型油圧ポンプの較正システムであって、前記コントローラは、前記ポンプの吐出圧力が第1の圧力である場合における前記レギュレータへの指令電流と前記ポンプの容量との関係を示す第1の基準テーブルを求めるステップと、前記ポンプの吐出圧力が第2の圧力である場合における前記レギュレータへの指令電流と前記ポンプの容量との関係を示す第2の基準テーブルを求めるステップと、前記第1の基準テーブルと前記第2の基準テーブルとに基づいて、前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す複数の補正テーブルを求めるステップとを実行し、前記コントローラは前記第2の基準テーブルを求めるステップにおいて、前記ポンプの第1の容量および第2の容量を算出し、前記ポンプの容量が前記第1の容量となる第1の指令電流を求め、前記ポンプの容量が前記第2の容量となる第2の指令電流を求め、前記第1の容量、前記第2の容量、前記第1の指令電流および前記第2の指令電流に基づいて前記第2の基準テーブルを求め、前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、前記第1の基準テーブルを用いて、前記第1の指令電流に対応する第3の容量を算出すると共に、前記第3の容量と前記第1の容量との差分に対応する第1の電流差分を算出し、前記第1の圧力、前記第2の圧力、前記第1の指令電流および前記第1の電流差分に基づいて、前記ポンプの容量が前記第3の容量で一定となる前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す第1の補正テーブルを求める可変容量型油圧ポンプの較正システムが提供される。
【0007】
好ましくは、前記コントローラは前記第1の基準テーブルを求めるステップにおいて、前記ポンプの最大容量および最小容量を算出し、前記ポンプの容量が前記最大容量となる最大指令電流を求め、前記ポンプの容量が前記最小容量となる最小指令電流を求め、前記最大容量、前記最小容量、前記最大指令電流および前記最小指令電流に基づいて前記第1の基準テーブルを求める。
【0010】
前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、前記第1の基準テーブルを用いて、前記第2の指令電流に対応する第4の容量を算出すると共に、前記第4の容量と前記第2の容量との差分に対応する第2の電流差分を算出し、前記第1の圧力、前記第2の圧力、前記第2の指令電流および前記第2の電流差分に基づいて、前記ポンプの容量が前記第4の容量で一定となる前記ポンプの吐出圧力と前記レギュレータへの指令電流との関係を示す第2の補正テーブルを求めるのが望ましい。
【0011】
前記コントローラは前記複数の補正テーブルを求めるステップにおいて、前記第1の補正テーブルと前記第2の補正テーブルとに基づいて、前記第1の補正テーブルおよび前記第2の補正テーブル以外の他の補正テーブルを線形補間により算出するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポンプの吐出圧力とレギュレータへの指令電流との関係を示す複数の補正テーブルに従って指令電流を補正することにより、吐出圧力によってポンプの斜板位置が有意に変動する場合でも、ポンプの目標吐出量と、ポンプの実際の吐出量との間のずれを補正して、流量制御精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された可変容量型油圧ポンプの較正システムの回路図。
【
図2】
図1に示すコントローラが実行する較正方法のフローチャート。
【
図3】
図1に示すレギュレータへの指令電流と、
図1に示すポンプの容量との関係を示すグラフ。
【
図4】
図1に示すポンプの吐出圧力と、
図1に示すポンプの容量との関係を示すグラフ。
【
図5】
図1に示すコントローラが求めた複数の補正テーブルを示すグラフ。
【
図6】
図1に示すレギュレータへの指令電流と、
図5に示す複数の補正テーブルの傾きとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された可変容量型油圧ポンプの較正システムの実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1を参照して説明すると、全体を符号2で示す可変容量型油圧ポンプの較正システム(以下「システム2」という。)は、可変容量型油圧ポンプ4(以下「ポンプ4」という。)と、入力される指令電流に応じてポンプ4の容量を調整するレギュレータ6と、レギュレータ6に指令電流を出力するコントローラ8とを備える。システム2は、油圧ショベル等の建設機械に搭載され得る。
【0016】
図1に示すとおり、ポンプ4はエンジン10によって駆動され、エンジン10には回転数センサ12が付設されている。エンジン10および回転数センサ12はコントローラ8に電気的に接続されており、エンジン10の駆動はコントローラ8によって制御され、また、回転数センサ12によって検出されたエンジン10の回転数はコントローラ8に入力される。
【0017】
ポンプ4は、ポンプライン14によってコントロールバルブ16に接続されており、ポンプライン14を介してポンプ4から吐出された作動油がコントロールバルブ16に供給される。ポンプライン14には圧力センサ18が設けられており、圧力センサ18はコントローラ8に電気的に接続されている。圧力センサ18によって検出されたポンプ4の吐出圧力はコントローラ8に入力される。なお、図示の実施形態では、コントロールバルブ16に圧力センサ18が装着されているが、圧力センサ18はポンプライン14上に設置されていればよく、コントロールバルブ16に装着されていなくてもよい。
【0018】
コントロールバルブ16には、油圧シリンダや油圧モータ等の複数の油圧アクチュエータ(図示していない。)に供給される作動油を制御するための複数のスプール16a、16b、16c、16dが装着されている。図示の実施形態のコントロールバルブ16には、作動油タンク20に接続されたバイパスライン22が設けられていて、バイパスライン22には可変絞りスプール24が配置されている。
【0019】
可変絞りスプール24には、入力される駆動電流に応じて可変絞りスプール24の絞り開度(絞りの断面積)を調整するソレノイド24aが付設されている。ソレノイド24aはコントローラ8に電気的に接続されており、コントローラ8からソレノイド24aに駆動電流が入力される。なお、
図1中のコントロールバルブ16には、便宜上、スプール16a~16dおよび可変絞りスプール24が示されているが、スプール16a~16dおよび可変絞りスプール24以外のスプールやリリーフバルブ等の適宜の油圧部材が装着されていてもよい。
【0020】
レギュレータ6は、ポンプ4の斜板4aに連結されたピストンロッド26と、ピストンロッド26を作動させる電磁弁28とを含む。電磁弁28は、入力される指令電流に応じてピストンロッド26を作動させるソレノイド28aを有する。ソレノイド28aはコントローラ8に電気的に接続されており、コントローラ8からソレノイド28aに指令電流が入力される。
【0021】
そして、レギュレータ6においては、コントローラ8からの指令電流が増大するに従ってポンプ4の容量を増大させ、コントローラ8からの指令電流が減少するに従ってポンプ4の容量を減少させるように、ピストンロッド26を作動させてポンプ4の斜板4aの傾きを制御する。また、
図1に示すとおり、レギュレータ6と作動油タンク20との間にはオリフィス30が設けられており、ソレノイド28aが励磁されていない時には、レギュレータ6のスプリング室6aにポンプ4の吐出圧力が制御信号として入力され、ポンプ4の吐出圧力に応じてピストンロッド26が作動し、ポンプ4の斜板4aが制御される。一方、ソレノイド28aが励磁されると、
図1の左側に電磁弁28が作動してポート28bとポート28cとが連通する。そうすると、スプリング室6aを通過した作動油のほとんどがオリフィス30を通らずに作動油タンク20に戻ることになる。なお、ポンプ4には、斜板4aの傾きを所定範囲に制限する制限手段(図示していない。)が設けられている。
【0022】
コントローラ8は、制御プログラムに従って演算するプロセッサと、制御プログラムや演算結果等を記憶するメモリとを含むコンピュータから構成されており、システム2の作動を制御するようになっている。たとえば、コントローラ8は、レギュレータ6のソレノイド28aに出力する指令電流を増減することによって、ポンプ4の斜板4aの傾きを調整してポンプ4の容量を制御すると共に、可変絞りスプール24のソレノイド24aに出力する駆動電流を増減することによって、可変絞りスプール24の絞り開度を調整する。また、コントローラ8は、可変絞りスプール24の絞り開度を調整すると共にエンジン10の回転数を調整することによって、ポンプ4の吐出圧力を制御する。
【0023】
次に、上述したとおりのシステム2において、コントローラ8が実行するポンプ4の較正方法について説明する。
【0024】
図2に示すとおり、コントローラ8は、まず、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力である場合におけるレギュレータ6への指令電流とポンプ4の容量との関係を示す第1の基準テーブルを求めるステップS1を実行する。
【0025】
ステップS1においては、まず、エンジン10の回転数が比較的高い回転数Nhであり、可変絞りスプール24の絞りの断面積が比較的小さい断面積Alであり、ポンプ4の吐出圧力が比較的低い第1の圧力P1である場合のポンプ4の容量qaを下記式(1)および(2)を用いて算出する。なお、下記式(1)および(2)は、あらかじめコントローラ8に格納されている。
【0026】
【0027】
上記式(1)におけるQはポンプ4の吐出量、αは係数、Aは可変絞りスプール24の絞りの断面積、PPはポンプ4の吐出圧力(ポンプ圧)、PTは作動油タンク20における作動油の圧力(タンク圧)、ρは作動油の粘度である。また、上記式(2)におけるqはポンプ4の容量、Nはエンジン10の回転数である。
【0028】
係数αおよび作動油の粘度ρは固定値であり、あらかじめコントローラ8に格納された適宜の値を用いることができる。絞りの断面積Aについては、コントローラ8から可変絞りスプール24のソレノイド24aに出力される駆動電流と、絞りの断面積Aとの関係を示すテーブル(図示していないが、コントローラ8にあらかじめ格納されているテーブルである。)から求めたものを用いることができる。
【0029】
エンジン10の回転数Nについては、コントローラ8からの指令に基づく値を用いてもよく、あるいは、回転数センサ12によって検出された回転数を用いてもよい。ポンプ4の吐出圧力PPは圧力センサ18によって検出したものを用いる。タンク圧PTは、あらかじめコントローラ8に格納された固定値を用いてもよく、あるいはタンク圧を計測するタンク圧センサ(図示していない。)をシステム2に設け、タンク圧センサによって検出したタンク圧を用いてもよい。
【0030】
ポンプ4の容量qaを算出した後、エンジン10の回転数をNhに設定すると共に、可変絞りスプール24の絞りの断面積をAlに設定した上で、レギュレータ6の電磁弁28のソレノイド28aへの指令電流を変化させながら、ポンプ4の吐出圧力の推移を圧力センサ18によって計測し、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1となる指令電流Iaを求める。指令電流Iaは、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1、エンジン10の回転数がNh、可変絞りスプール24の絞りの断面積がAlである場合において、ポンプ4の容量がqaとなる指令電流である。
【0031】
ポンプ4の容量q
aおよび指令電流I
aを求める際は、ポンプ4の最大容量q
maxとなる最大指令電流I
maxを求めるのが好ましい(
図3参照。)。上記のとおり、ポンプ4には、斜板4aの傾きを所定範囲に制限する制限手段が設けられているので、ポンプ4の容量は最大容量q
maxとなるときに安定した値となるため、最大指令電流I
maxを精度よく求めることができる。
【0032】
指令電流Iaを求めた後、エンジン10の回転数がNhよりも低い回転数Nl(Nl<Nh)であり、可変絞りスプール24の絞りの断面積がAlよりも大きい断面積Ah(Ah>Al)であり、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1である場合のポンプ4の容量qbを上記式(1)および(2)を用いて算出する。
【0033】
ポンプ4の容量qbを算出した後、エンジン10の回転数をNlに設定すると共に、可変絞りスプール24の絞りの断面積をAhに設定した上で、レギュレータ6への指令電流を変化させながら、ポンプ4の吐出圧力の推移を圧力センサ18によって計測し、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1となる指令電流Ibを求める。指令電流Ibは、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1、エンジン10の回転数がNl、可変絞りスプール24の絞りの断面積がAhである場合において、ポンプ4の容量がqbとなる指令電流である。
【0034】
ポンプ4の容量q
bおよび指令電流I
bを求める際は、ポンプ4の最小容量q
minとなる最小指令電流I
minを求めるのが好適である(
図3参照。)。上記のとおり、ポンプ4には、斜板4aの傾きを所定範囲に制限する制限手段が設けられているので、ポンプ4の容量は最小容量q
minとなるときにも安定した値となるため、最小指令電流I
minを精度よく求めることができる。
【0035】
指令電流Ibを求めた後、容量qa、qbおよび指令電流Ia、Ibに基づいて第1の基準テーブルを求める。図示の実施形態では、最大容量qmax、最小容量qmin、最大指令電流Imaxおよび最小指令電流Iminに基づいて第1の基準テーブルを求める例について説明する。
【0036】
図3に示すとおり、レギュレータ6への指令電流Iを横軸とし、ポンプ4の容量qを縦軸として、最大指令電流I
maxおよび最大容量q
maxによって特定される点Aと、最小指令電流I
minおよび最小容量q
minによって特定される点Bとを1次関数的に結ぶ。これによって、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P
1である場合におけるレギュレータ6への指令電流Iとポンプ4の容量qとの関係を示す第1の基準テーブルT
P1を求めることができる。
【0037】
なお、図示の実施形態のステップS1においては、まず、容量qa(qmax)を算出し、次いで指令電流Ia(Imax)を求め、次いで容量qb(qmin)を算出した後、指令電流Ib(Imin)を求めているが、容量の算出や指令電流を求める順番は任意でよい。
【0038】
第1の基準テーブルT
P1を求めるステップS1を実行した後、
図2に示すとおり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力である場合におけるレギュレータ6への指令電流とポンプ4の容量との関係を示す第2の基準テーブルを求めるステップS2を実行する。
【0039】
ステップS2においては、まず、エンジン10の回転数がN
lであり、可変絞りスプール24の絞りの断面積がA
lであり、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P
1よりも高い第2の圧力P
2(P
2>P
1)である場合のポンプ4の容量(第1の容量q
1)を上記式(1)および(2)を用いて算出する。
図3に示すとおり、第1の容量q
1は、最小容量q
minと最大容量q
maxとの間の容量である(q
min<q
1<q
max)。
【0040】
第1の容量q
1を算出した後、エンジン10の回転数をN
lに設定すると共に、可変絞りスプール24の絞りの断面積をA
lに設定した上で、レギュレータ6への指令電流を変化させながら、ポンプ4の吐出圧力の推移を圧力センサ18によって計測し、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2となる第1の指令電流I
1を求める。第1の指令電流I
1は、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2、エンジン10の回転数がN
l、可変絞りスプール24の絞りの断面積がA
lである場合において、ポンプ4の容量が第1の容量q
1となる指令電流である。
図3に示すとおり、第1の指令電流I
1は、最小指令電流I
minと最大指令電流I
maxとの間の電流値である(I
min<I
1<I
max)。
【0041】
第1の指令電流I
1を求めた後、エンジン10の回転数がN
hであり、可変絞りスプール24の絞りの断面積がA
hであり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合のポンプ4の容量(第2の容量q
2)を上記式(1)および(2)を用いて算出する。
図3に示すとおり、第2の容量q
2は、第1の容量q
1と最大容量q
maxとの間の容量である(q
1<q
2<q
max)。
【0042】
第2の容量q
2を算出した後、エンジン10の回転数をN
hに設定すると共に、可変絞りスプール24の絞りの断面積をA
hに設定した上で、レギュレータ6への指令電流を変化させながら、ポンプ4の吐出圧力の推移を圧力センサ18によって計測し、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2となる第2の指令電流I
2を求める。第2の指令電流I
2は、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2、エンジン10の回転数がN
h、可変絞りスプール24の絞りの断面積がA
hである場合において、ポンプ4の容量が第2の容量q
2となる指令電流である。
図3に示すとおり、第2の指令電流I
2は、第1の指令電流I
1と最大指令電流I
maxとの間の電流値である(I
1<I
2<I
max)。
【0043】
第2の指令電流I
2を求めた後、第1の容量q
1、第2の容量q
2、第1の指令電流I
1および第2の指令電流I
2に基づいて第2の基準テーブルを求める。具体的には、
図3に示すとおり、レギュレータ6への指令電流Iを横軸とし、ポンプ4の容量qを縦軸として、第1の指令電流I
1および第1の容量q
1によって特定される点Cと、第2の指令電流I
2および第2の容量q
2によって特定される点Dとを1次関数的に結ぶ。これによって、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合におけるレギュレータ6への指令電流Iとポンプ4の容量qとの関係を示す第2の基準テーブルT
P2を求めることができる。
【0044】
なお、図示の実施形態のステップS2においては、まず、第1の容量q1を算出し、次いで第1の指令電流I1を求め、次いで第2の容量q2を算出した後、第2の指令電流I2を求めているが、容量の算出や指令電流を求める順番は任意でよい。
【0045】
第2の基準テーブルT
P2を求めるステップS2を実行した後、
図2に示すとおり、第1の基準テーブルT
P1と第2の基準テーブルT
P2とに基づいて、ポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示す複数の補正テーブルを求めるステップS3を実行する。
【0046】
ステップS3においては、まず、
図3に示す第1の基準テーブルT
P1を用いて、第1の指令電流I
1に対応する第3の容量q
3を算出する。
図3を参照することによって理解されるとおり、第3の容量q
3は、点Eに係るポンプ4の容量であり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合に第1の指令電流I
1がレギュレータ6に入力されたときの第1の容量q
1よりも大きい(q
3>q
1)。
【0047】
図4には、ポンプ4の吐出圧力Pを横軸とし、ポンプ4の容量qを縦軸として、第1の圧力P
1および第3の容量q
3によって特定される点E’(
図3中の点Eに対応する点)と、第2の圧力P
2および第1の容量q
1によって特定される点C’(
図3中の点Cに対応する点)とを1次関数的に結んだテーブルT
I1が示されている。テーブルT
I1は、レギュレータ6への指令電流が第1の指令電流I
1で一定の場合におけるポンプ4の吐出圧力Pとポンプ4の容量qとの関係を示している。
【0048】
テーブルTI1を参照することによって理解されるとおり、システム2においては、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1の場合にレギュレータ6への指令電流を第1の指令電流I1としたときのポンプ4の容量(第3の容量q3)と、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P2の場合にレギュレータ6への指令電流を第1の指令電流I1としたときのポンプ4の容量(第1の容量q1)とは異なる。
【0049】
すなわち、システム2においては、レギュレータ6への指令電流が第1の指令電流I1で同一あっても、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1から第2の圧力P2に増大すると、ポンプ4の容量が第3の容量q3から第1の容量q1に低減することになり、ポンプ4の吐出圧力が増大するに従ってパワーダウンしてしまうことになる。したがって、システム2においては、ポンプ4の吐出圧力が異なると、同一の指令電流であってもポンプ4の容量が異なることから、補正をしなければ、ポンプ4の吐出圧力によっては、ポンプ4の目標吐出量と、ポンプ4の実際の吐出量との間にずれが生じることになる。
【0050】
図3を参照して説明を続けると、第3の容量q
3を算出した後、第1の基準テーブルT
P1を用いて、第3の容量q
3と第1の容量q
1との差分に対応する第1の電流差分ΔI
1を算出する。第1の電流差分ΔI
1を第1の指令電流I
1に加えた値I
1+ΔI
1は、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合に、ポンプ4の容量が第3の容量q
3となる指令電流である。
【0051】
第1の電流差分ΔI1を算出した後、第1の圧力P1、第2の圧力P2、第1の指令電流I1および第1の電流差分ΔI1に基づいて、ポンプ4の容量が第3の容量q3で一定となるポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示す第1の補正テーブルを求める。
【0052】
具体的には、
図5に示すとおり、ポンプ4の吐出圧力Pを横軸とし、レギュレータ6への指令電流Iを縦軸として、第1の圧力P
1および第1の指令電流I
1によって特定される点E”(
図3中の点Eおよび
図4中の点E’に対応する点)と、第1の指令電流I
1に第1の電流差分ΔI
1を加えた値I
1+ΔI
1および第2の圧力P
2によって特定される補正点C
Cとを1次関数的に結ぶことによって、第1の補正テーブルT
q3を求めることができる。
【0053】
そして、第1の指令電流I
1をレギュレータ6に出力する際には、ポンプ4の吐出圧力に応じて、第1の指令電流I
1に加える第1の電流差分ΔI
1を第1の補正テーブルT
q3に従って調整することにより、レギュレータ6への指令電流を補正する。これによって、ポンプ4の吐出圧力によらず、ポンプ4の容量を第3の容量q
3とすることができ、ポンプ4の吐出圧力が増大してもパワーダウンが生じることがない。なお、
図5を参照することによって理解されるとおり、第1の圧力P
1においてはΔI
1=0であり、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P
1よりも低くなるとΔI
1は負の値となり、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P
1よりも高くなるとΔI
1は正の値となる。
【0054】
第1の補正テーブルT
q3を求めた後、
図3に示す第1の基準テーブルT
P1を用いて、第2の指令電流I
2に対応する第4の容量q
4を算出する。
図3に示すとおり、第4の容量q
4は、点Fに係るポンプ4の容量であり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合に第2の指令電流I
2がレギュレータ6に入力されたときの第2の容量q
2よりも大きい(q
4>q
2)。
【0055】
図4には、第1の圧力P
1および第4の容量q
4によって特定される点F’(
図3中の点Fに対応する点)と、第2の圧力P
2および第2の容量q
2によって特定される点D’(
図3中の点Dに対応する点)とを1次関数的に結んだテーブルT
I2も示されている。テーブルT
I2は、レギュレータ6への指令電流が第2の指令電流I
2で一定の場合におけるポンプ4の吐出圧力Pとポンプ4の容量との関係を示している。
【0056】
テーブルTI2を参照することによって理解されるとおり、システム2においては、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1の場合にレギュレータ6への指令電流を第2の指令電流I2としたときのポンプ4の容量(第4の容量q4)と、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P2の場合にレギュレータ6への指令電流を第2の指令電流I2としたときのポンプ4の容量(第2の容量q2)とは異なる。これについては、テーブルTI1を参照して既に説明したのと同様であるが、システム2においては、レギュレータ6への指令電流が第2の指令電流I2で同一あっても、ポンプ4の吐出圧力が第1の圧力P1から第2の圧力P2に増大すると、ポンプ4の容量が第4の容量q4から第2の容量q2に低減することになる。
【0057】
図3を参照して説明を続けると、第4の容量q
4を算出した後、第1の基準テーブルT
P1を用いて、第4の容量q
4と第2の容量q
2との差分に対応する第2の電流差分ΔI
2を算出する。第2の電流差分ΔI
2を第2の指令電流I
2に加えた値I
2+ΔI
2は、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2である場合に、ポンプ4の容量が第4の容量q
4となる指令電流である。
【0058】
第2の電流差分ΔI2を算出した後、第1の圧力P1、第2の圧力P2、第2の指令電流I2および第2の電流差分ΔI2に基づいて、ポンプ4の容量が第4の容量q4で一定となるポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示す第2の補正テーブルを求める。
【0059】
具体的には、
図5に示すとおり、第1の圧力P
1および第2の指令電流I
2によって特定される点F”(
図3中の点Fおよび
図4中の点F’に対応する点)と、第2の指令電流I
2に第2の電流差分ΔI
2を加えた値I
2+ΔI
2および第2の圧力P
2によって特定される補正点D
Cとを1次関数的に結ぶことによって、第2の補正テーブルT
q4を求めることができる。
【0060】
そして、第2の指令電流I
2をレギュレータ6に出力する際には、ポンプ4の吐出圧力に応じて、第2の指令電流I
2に加える第2の電流差分ΔI
2を第2の補正テーブルT
q4に従って調整することにより、レギュレータ6への指令電流を補正する。これによって、ポンプ4の吐出圧力によらず、ポンプ4の容量を第4の容量q
4とすることができ、ポンプ4の吐出圧力が増大してもパワーダウンが生じることがない。なお、
図5を参照することによって理解されるとおり、第2の圧力P
2においてはΔI
2=0であり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2よりも低くなるとΔI
2は負の値となり、ポンプ4の吐出圧力が第2の圧力P
2よりも高くなるとΔI
2は正の値となる。
【0061】
第2の補正テーブルTq4を求めた後、第1の補正テーブルTq3と第2の補正テーブルTq4とに基づいて、第1の補正テーブルTq3および第2の補正テーブルTq4以外の他の補正テーブルを線形補間により算出する。
【0062】
図6を参照して説明すると、レギュレータ6への指令電流Iを横軸とし、
図5に示す補正テーブルの傾きgを縦軸として、第1の指令電流I
1および第1の補正テーブルT
q3の傾きg
1によって特定される点Hと、第2の指令電流I
2および第2の補正テーブルT
q4の傾きg
2によって特定される点Jとを1次関数的に結び、レギュレータ6への指令電流Iと補正テーブルの傾きgとの関係を示す傾きテーブルT
gを求める。そして、傾きテーブルT
gから求まる傾きgを用いて、第1の補正テーブルT
q3および第2の補正テーブルT
q4以外の他の補正テーブルを算出する。
【0063】
たとえば、
図6に示す傾きテーブルT
gによれば、レギュレータ6への指令電流が第1の指令電流I
1よりも小さい任意の指令電流I
mの場合には、補正テーブルの傾きが第1の補正テーブルT
q3の傾きg
1よりも小さい傾きg
m(g
m<g
1)となり、この傾きg
mを用いて、
図5に示す補正テーブルT
qmを算出することができる。補正テーブルT
qmは、ポンプ4の容量が容量q
mで一定となるポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示すテーブルである。
【0064】
また、
図6に示す傾きテーブルT
gによれば、レギュレータ6への指令電流が第2の指令電流I
2よりも大きい任意の指令電流I
nの場合には、補正テーブルの傾きが第2の補正テーブルT
q4の傾きg
2よりも大きい傾きg
n(g
n>g
2)となり、この傾きg
nを用いて、
図5に示す補正テーブルT
qnを求めることができる。補正テーブルT
qnは、ポンプ4の容量が容量q
nで一定となるポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示すテーブルである。
【0065】
このようにして、
図6に示す傾きテーブルT
gを用いて、レギュレータ6への指令電流が第1・第2の指令電流I
1、I
2以外の指令電流の場合における傾きを複数算出することにより、第1・第2の補正テーブルT
q3、T
q4以外の他の補正テーブルを複数算出することができる。
【0066】
以上のとおりであり、図示の実施形態のシステム2によれば、ポンプ4の吐出圧力とレギュレータ6への指令電流との関係を示す複数の補正テーブルに従って指令電流を補正することにより、吐出圧力によってポンプ4の斜板位置が有意に変動(すなわち、ポンプ4の容量が有意に変動)する場合でも、ポンプ4の目標吐出量と、ポンプ4の実際の吐出量との間のずれを補正して、流量制御精度を向上させることができる。また、システム2においては、第1の基準テーブルTP1と第2の基準テーブルTP2とに基づいて複数の補正テーブルを求めることができるので、ポンプ4の吐出圧力や指令電流等を求める回数が少なくて済み、短時間で較正を実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
2:可変容量型油圧ポンプの較正システム
4:可変容量型油圧ポンプ
6:レギュレータ
8:コントローラ
P1:第1の圧力
P2:第2の圧力
TP1:第1の基準テーブル
TP2:第2の基準テーブル
Tq3:第1の補正テーブル
Tq4:第2の補正テーブル
Tqm:他の補正テーブル
Tqn:他の補正テーブル
qmax:最大容量
qmin:最小容量
q1:第1の容量
q2:第2の容量
q3:第3の容量
q4:第4の容量
Imax:最大指令電流
Imin:最小指令電流
I1:第1の指令電流
I2:第2の指令電流
ΔI1:第1の電流差分
ΔI2:第2の電流差分