(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/097 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
G03G9/097 371
G03G9/097 365
G03G9/097 374
(21)【出願番号】P 2020199143
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】平松 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 智久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和之
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-173668(JP,A)
【文献】特開平10-213921(JP,A)
【文献】特開2017-040845(JP,A)
【文献】特開2017-207680(JP,A)
【文献】特開2015-227929(JP,A)
【文献】特開2005-263619(JP,A)
【文献】特開2007-015991(JP,A)
【文献】特開2011-020910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0238043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、離型剤、および着色剤を含有するトナー粒子と、前記トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子とを含有するトナーであって、
前記酸化鉄粒子は、下記式(1)で表される構造を有する化合物を表面に有
し、
前記酸化鉄粒子の前記トナー粒子への固着率が50%以上80%以下であり、
前記トナーの全量に対する前記酸化鉄粒子の含有割合が0.50質量%以上5.00質量%以下であることを特徴とするトナー。
R-SiO
3/2 (1)
(式(1)中、Rは炭素数1以上の炭化水素
基を示す。)
【請求項2】
Fedors法により算出される前記結着樹脂のSP値((cal/cm
3)
1/2)と前記離型剤のSP値((cal/cm
3)
1/2)との差が1.50以上である請求項
1に記載のトナー。
【請求項3】
Fedors法により算出される前記離型剤のSP値((cal/cm
3)
1/2)と、前記式(1)で表される構造を有する化合物のSP値((cal/cm
3)
1/2)との差が1.20以下である請求項1
または2に記載のトナー。
【請求項4】
示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度および降温速度をいずれも100℃/minとして測定したときの吸熱曲線において、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅が4.0℃以上8.0℃以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項5】
50mLのメタノール/水混合溶媒中に、0.1gの前記酸化鉄粒子を懸濁させ、780nmの波長の光の透過率を測定し、前記透過率が50%となるときのメタノール濃度の値を、前記酸化鉄粒子の濡れ性としたとき、前記濡れ性が40体積%以上80体積%以下である請求項1~
4のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項6】
前記酸化鉄粒子のトルエンで抽出される成分のFT-IRスペクトルにおいて、990cm
-1~1040cm
-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度[Si-O-Si]と1240cm
-1~1280cm
-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度[Si-C]との比[Si-O-Si]/[Si-C]が1.4以上1.7以下である請求項1~
5のいずれか1項に記載のトナー。
【請求項7】
前記酸化鉄粒子について、軟X線を用いた全電子収量法(TEY)による測定により吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)を観測したとき、得られたSiの吸収スペクトルが、1844.4~1844.8eVの範囲内にあるピークAと、1846.1~1846.6eVの範囲内にあるピークBとを有し、
ピークAの面積をIA、ピークBの面積をIB、前記酸化鉄粒子1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をMSiとしたとき、IA/(IA+IB)/MSiが、40g/mol以上55g/mol以下である請求項1~
6のいずれか1項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法などを利用した記録方法に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンター等の画像形成装置は、使用目的および使用環境の多様化が進むと共に、さらなる高速化、高画質化、高安定化が求められている。また、同時に複写機やプリンターにおいては、装置の小型化や省エネ化が進んでおり、これらの点で有利な磁性トナーを用いた磁性一成分現像方式が好ましく用いられる。
【0003】
電子写真法においては、静電潜像担持体(以下、感光体と呼ぶ)を帯電手段により帯電する帯電工程、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光工程、前記静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像工程を経る。次いで、トナー像を、中間転写体を介して、または介さずに記録材へ転写する転写工程、トナー像を担持する記録材を加圧部材と、回転可能な像加熱部材とで形成されるニップ部を通過させることにより加熱加圧定着する定着工程を経て画像として出力される。特に磁性一成分現像方式では、内部にマグネットロール等の磁界発生手段を設けたトナー担持体(以下、スリーブと呼ぶ)を用いて磁性トナーを保持し、現像領域に搬送して現像する。
【0004】
近年の高画質化、さらに省エネ化に対応するためには、各工程の最適化が重要となる。画質に対しては従来から静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像工程、および感光体上から記録材へトナー像を転写する転写工程の最適化が重要である。また、省エネ化に対しては、低温で十分な定着を行うことが重要となる。
【0005】
転写工程に関する課題について着目すると、転写に不具合がある場合に顕在化してくる画像不良の一つとして転写抜けが挙げられる。転写工程では、感光体上のトナーが転写バイアスを受けて、静電的引力によって記録媒体上に転写される。その際、転写されずにトナーが感光体上に残ったり、転写時にトナー層が乱れたりして、画像上に抜けやムラが生じることがある。これを転写抜けと呼んでいる。
【0006】
これまで、転写性を改善するために、トナーの流動性の低下を抑制しつつ、トナーの製造において酸化鉄粒子を外添することで対策する試みがなされている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-214625号公報
【文献】特開2005-37744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1および2について、転写性と定着性との両立に関してはまだ検討の余地がある。
具体的には、特許文献1および2に記載のトナーにおいては、十分な離型性能が得られず、定着工程において加圧部材や像加熱部材等に部材汚染が生じ、画像不良が引き起こされる場合があった。
また、消しゴムで画像中に書いた字を消すような、定着画像に摺擦圧力がかかる状態では、定着画像のトナーが紙からはがれる場合があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明の目的は、定着工程での離型性が向上し、部材汚染を抑制することが可能であり、さらに、画像からのトナー剥がれが少ない、擦り定着性に優れたトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下の本発明に係るトナーにより上記課題を解決可能であることを見いだした。
すなわち、本発明に係るトナーは、結着樹脂、離型剤、および着色剤を含有するトナー粒子と、前記トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子とを含有するトナーであって、前記酸化鉄粒子は、下記式(1)で表される構造を有する化合物を表面に有することを特徴とする。
R-SiO3/2 (1)
(式(1)中、Rは炭素数1以上の炭化水素を示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、定着工程での離型性が向上し、部材汚染を抑制することが可能であり、さらに、画像からのトナー剥がれが少ない、擦り定着性に優れたトナーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】疎水化処理をした酸化鉄粒子について観測した吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)におけるSiの吸収スペクトルの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、これらに限定されるわけではない。
本発明に係るトナーは、結着樹脂、離型剤、および着色剤を含有するトナー粒子と、前記トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子とを含有するトナーであって、前記酸化鉄粒子は、下記式(1)で表される構造を有する化合物を表面に有することを特徴とする。
R-SiO3/2 (1)
(式(1)中、Rは炭素数1以上の炭化水素を示す。)
【0014】
転写工程において感光体と記録媒体との間では、トナーは正または負極性に帯電しており、記録媒体裏面の転写材には逆極性のバイアスが掛けられている。帯電したトナー粒子は何層かに堆積しているため、転写工程ではトナー粒子の表面を伝った沿面放電が起きていると考えられる。
【0015】
強い沿面放電が起きた場合、トナーは帯電が乱れることで反転成分になりやすく、記録媒体上のトナーが感光体上に戻る「再転写」を生じる場合がある。例えば、ベタ黒画像を出力する際に再転写が頻繁に起こると、転写抜けが顕著となり、不均一な画像が形成される。
すなわち、転写抜けを抑制するためには、トナーの表面を伝った沿面放電を抑える必要がある。
【0016】
ここで放電に関して考えると、感光体と、記録媒体裏面の転写材とを電極板とする
図1のようなコンデンサーモデルが考えられる。電極11間の誘電体12がトナーであるとしたとき、その静電容量をCとすると、Cは下記式で表される。
C=εS/d
(上記式中、Sは1つの電極板の面積、dは電極板間の距離、εは電極板間の誘電体の誘電率をそれぞれ示す。)
【0017】
放電は、電極11間に印加される電界が大きく、かつ
図1の誘電体12の静電容量Cが小さい場合に発生する。
【0018】
上記式によれば、静電容量Cは誘電体であるトナーの誘電率εに比例する。したがって、誘電率εの高いトナーであれば放電の頻度を下げる効果が期待される。この考えの基に、高誘電率の物質という観点で本発明者らが鋭意検討した結果、トナーの表面に酸化鉄粒子を存在させた場合に顕著な効果が得られることがわかった。この理由としては、高誘電率の酸化鉄粒子が表面に存在することで、トナー粒子の表面を伝った沿面放電が起きにくくなったためと考えられる。
【0019】
一方で、酸化鉄粒子がトナーの表面に存在する場合、定着工程において加圧部材や像加熱部材等に部材汚染が生じ、画像不良が引き起こされる場合があることを本発明者らはつきとめた。これは以下のような理由によるものと推察される。
【0020】
酸化鉄粒子の外添では、転写性が向上する一方で、酸化鉄粒子の表面が親水性であるため、トナー中の離型剤との親和性が低く、定着工程では、外添された酸化鉄粒子の周囲に離型剤が滲出しにくい。
【0021】
一般的に、定着工程においてシャープメルト性の高い離型剤が画像表面に滲出する。その際、離型剤と親和性の低い酸化鉄粒子がトナー表面に存在すると、離型剤をはじくため、画像表面の一部が離型剤で覆われていない領域ができる。このため、定着工程で離型効果が充分に発揮されず、部材汚染につながったと考えられる。
【0022】
上記の部材汚染に起因する画像不良は高速機において顕著に発生する。この理由はトナー層に与えられる熱量に関係していると推測される。画像形成が高速になるほど、定着器からの熱がトナーに伝達されにくく、溶融が不十分なトナーが多くなる傾向にある。すなわちトナーの内部からの離型剤の滲出量が充分ではないトナーの割合が多くなり、定着不良がより起きやすい状態となる。
【0023】
また、酸化鉄粒子をトナー粒子の表面に有するトナーを用いて定着画像を形成し、得られた定着画像を消しゴムで擦った場合、定着画像のトナーが紙からはがれやすくなる場合がある。これは、親水性表面を有する酸化鉄粒子周辺で離型剤がなじんでおらず、消しゴムの滑り性が悪くなり、消しゴムとトナーとの摺擦によって定着画像のトナーが紙からはがれたと推察される。特に、紙繊維間の紙の凹部では定着工程時のトナーへの加圧が十分でなく、トナーの表面のみが溶融した状態で定着され、トナー内部からの離型剤供給が充分でない。このため、消しゴムの滑り性が顕著に悪くなり、トナーが紙上からはがれやすい状態となる。
【0024】
本発明においては、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子が、上記式(1)で示される構造を有する化合物を有するように疎水化処理が施されている。すなわち、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子は、その表面に炭素数1以上の炭化水素基を有するシロキサン縮合物を結合させることで疎水化処理されている。これにより、本発明に係るトナーを用いた場合には、定着不良による部材汚染が抑制され、擦り定着性が改善される。
【0025】
本発明者らの検討により、酸化鉄粒子にシラン系表面処理を施すことで帯電性が向上し、良好なトナー特性を示すことがわかっている。本発明において、酸化鉄粒子に対してシロキサン縮合物により表面処理を施すことでも同様な帯電性向上効果が得られる。
【0026】
一方で、Si以外のチタネート系、アルミネート系等の無機カップリング剤縮合物を用いた場合では、シロキサン縮合物を用いた場合に比べて帯電性が劣る。このため、Si以外の無機カップリング剤縮合物を用いて表面処理した酸化鉄粒子がトナー粒子の表面に存在する場合、トナーの帯電が抑制され、帯電ムラによる沿面放電が起きやすくなり、その結果転写性を定着性と両立させることができない。
【0027】
また、R基を持たない無機化合物で表面処理を施した酸化鉄粒子を用いた場合では、疎水性が発現しないため離型性を向上させる効果が得られず、定着性は向上しない。
【0028】
また、上記式(1)のR基が炭化水素基でない場合、酸化鉄粒子表面に疎水性が得られないため、部材汚染や擦り定着性の改善に対し効果が得られない。
【0029】
さらに、酸化鉄粒子の表面の疎水化処理に用いるシロキサン化合物として、シリコーンオイルを用いた場合では、本発明の効果が得られない。これは酸化鉄粒子に対するシリコーンオイルの固定化率が低く、定着工程時にシリコーンオイルが酸化鉄粒子から剥がれて親水性の酸化鉄表面が剥き出しになるためであると推察している。
【0030】
上記式(1)中のR基が有する炭素数は1以上20以下であることが好ましく、より好ましくは2以上10以下であり、さらに好ましくは4以上6以下である。
上記式(1)中のR基が有する炭素数が少ないほど酸化鉄粒子表面と離型剤との親和性が低くなる。そのため、酸化鉄粒子付近に離型剤を呼び込む効果が低く、定着不良による部材汚染を抑制する効果も低くなる。
一方で、上記式(1)中のR基が有する炭素数が多いほど離型剤との親和性が高くなり、酸化鉄粒子付近に離型剤を呼び込む効果が高くなるが、炭素数が多すぎる場合、R基の立体障害により酸化鉄粒子表面へ均一に疎水化処理することができない。そのため、酸化鉄粒子の表面に疎水化処理されていない領域が生じ、親水性の表面が露出した状態になる。このため、定着不良による部材汚染や擦り定着性の改善への効果が低くなる。
【0031】
酸化鉄粒子はトナー表面に十分に解砕された状態で外添されていることが好ましい。トナー粒子の表面に被覆された酸化鉄粒子の二次凝集物が多い場合、定着工程において滲出した離型剤が酸化鉄粒子の凝集粒子体中に閉じ込められ、酸化鉄粒子周辺での離型効果が十分に得られない。酸化鉄粒子の解砕状態は走査型電子顕微鏡により、トナー表面の酸化鉄粒子の凝集粒径を測定することにより評価することができる。酸化鉄粒子の凝集粒径は、酸化鉄粒子の一次粒径に対して1.2倍以下であることが好ましい。
【0032】
酸化鉄粒子のトナー粒子への固着率は50%以上80%以下であることが好ましい。酸化鉄粒子の固着率が80%以下であれば、トナーの表面に酸化鉄粒子が埋め込まれておらず、離型剤の滲出が抑制されにくい。また、転写工程におけるトナーの表面における沿面放電を抑制する効果が高く得られ、転写抜けを効果的に抑制することができる。また、酸化鉄粒子の固着率が50%以上であれば、酸化鉄粒子が遊離しにくくなり、転写抜けを抑制する効果が失われることを抑制することができる。
酸化鉄粒子のトナー粒子への固着率は60%以上78%以下であることがより好ましい。
【0033】
トナーの全量に対する、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の含有割合は、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。トナーの全量に対する、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の含有割合が0.10質量%以上であれば、トナー層の表面を伝った沿面放電が大幅に抑制されて転写性が飛躍的に向上し、転写抜けを効果的に抑制することができる。加えて、疎水化処理された酸化鉄粒子により定着工程で滲出した離型剤を呼び込むことができるため、良好な離型性を得ることができる。また、トナーの全量に対する、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の含有割合が5.00質量%以下であれば、酸化鉄粒子が過剰とならず、遊離した酸化鉄粒子によって部材が摩耗することに起因する白スジの発生を抑制することができる。これにより、白スジの発生によるベタ黒画像の画像濃度の低下を抑制することができる。トナーの全量に対する、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の含有割合は、0.50質量%以上4.00質量%以下であることがより好ましく、1.00質量%以上2.50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
本発明においては、Fedors法により算出される結着樹脂のSP値と離型剤のSP値との差が1.50以上であることが好ましい。また、Fedors法により算出される離型剤のSP値と、上記式(1)で表される構造を有する化合物のSP値との差が1.20以下であることが好ましい。
【0035】
SP値は、溶解度パラメータともいい、ある物質がある物質にどのくらい溶解するかを示す溶解性や親和性の指標として用いられる数値である。SP値が近いもの同士は溶解性や親和性が高く、SP値が離れているもの同士は溶解性や親和性が低い。本発明において、SP値は一般的によく用いられているFedorsの方法[Poly.Eng.Sci.,14(2)147(1974)]に基づいて算出した値である。SP値の単位は(cal/cm3)1/2である。
【0036】
定着工程で加熱溶融されたトナーが離型効果を発現するためには、結着樹脂から離型剤が分離滲出してくる必要がある。また、滲出された離型剤はトナー表面の酸化鉄粒子周囲にも均一に行きわたる必要がある。
【0037】
結着樹脂、離型剤、および上記式(1)で表される構造を有する化合物のSP値が、それぞれ上記の関係を満たすことで、定着時に離型剤をトナー内部から滲出させ、トナー表面の酸化鉄粒子周囲に行きわたる状態を作り出すことができる。
【0038】
結着樹脂のSP値と、離型剤のSP値との差が1.50以上であれば、離型剤は結着樹脂と分離しやすくなり、トナー表面に滲出して離型効果を発揮しやすくなる。
また、離型剤のSP値と、上記式(1)で表される構造を有する化合物のSP値との差が1.20以下であれば、離型剤と、酸化鉄粒子の表面にある上記式(1)で表される構造を有する化合物とは高い親和性を有することになる。これにより、トナー表面に滲出した離型剤が、疎水化処理されていない酸化鉄粒子の周囲には滲出しにくいという問題を大きく改善することができる。そのため、高い離型効果を得ることができ、部材汚染による画像不良を抑制することができる。
結着樹脂のSP値と離型剤のSP値との差は2.00以上3.50以下であることがより好ましく、2.50以上3.00以下であることがさらに好ましい。また、離型剤のSP値と上記式(1)で表される構造を有する化合物のSP値との差は1.10以下であることがより好ましく、1.00以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明において、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度および降温速度をいずれも100℃/minとして測定したときの吸熱曲線において、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅が4.0℃以上8.0℃以下であることが好ましい。
本発明における吸熱ピークは、離型剤に由来する吸熱ピークを意味する。
一般的なDSCを用いた測定方法は、例えばJIS K 7121(国際規格はASTM D3418-82)に準拠する方法の場合、昇温速度を10℃/minとして測定する場合が多い。ここで、プリンターの印字速度に着目すると、トナーが定着器に付着しないためには、例えば、数ミリ秒から数十ミリ秒という非常に短い時間で、トナーが溶融し、離型剤が滲出して離型効果を発現する必要がある。そこで、本発明者らは、離型剤が結着樹脂から分離し滲出する能力に着目し検討を行ったところ、DSCを用いた測定における昇温速度および降温速度を一般的な10℃/minから100℃/minへ変更することが有効であることを見出した。
昇温速度および降温速度を10℃/minとして測定した場合、測定の速度は、離型剤の移動を考えると遅いと考えられる。すなわち、昇温速度および降温速度が10℃/minの測定条件で得られるパラメータでは、トナーが定着器から直接熱を受け取ることができる時間として数ミリ秒から数十ミリ秒を想定したプリンターの定着工程での離型性を説明できない。
【0040】
次に、1度目の昇温、降温、および2度目の昇温を全て100℃/minで行った場合について説明する。
離型剤と結着樹脂とが相溶しやすい組み合わせでは、100℃/minで1度目の昇温および冷却降温を行った場合、離型剤が結着樹脂と十分に分離する時間がなく、昇温後の溶融可塑状態を維持したまま、冷却が完了する。そして、可塑状態を維持した状態で、再度、100℃/minという高速昇温を行ったとき、結着樹脂と離型剤とが部分的に可塑した状態で昇温し、離型剤独自の吸熱ピークではなく、両者が混ざり合った状態の吸熱ピークが得られる。このとき、離型剤と結着樹脂とが相溶しやすいほど、半値幅がよりブロードになる。
【0041】
本発明においては、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅が4.0℃以上8.0℃以下であることが好ましく、これは2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅がある程度シャープであることを意味する。
吸熱ピークのシャープさは、離型剤の溶融と、その後の結着樹脂からの分離が、昇温過程でどの程度十分に進行するかを反映している。つまり、早い昇温速度に十分に追従して離型剤が溶融、さらに結着樹脂から分離した場合は、2度目の昇温過程における吸熱ピークがシャープになり、半値幅は小さい値となる。
【0042】
本発明において、上述の定着工程における部材汚れを解決するためには、数ミリ秒から数10ミリ秒という非常に短い時間でトナーを溶融し、離型剤を滲出させる必要がある。このため、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅を所定の範囲に制御することが重要である。
【0043】
本発明において、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅が4.0℃以上であれば、現像工程で結着樹脂と離型剤とが相分離してトナー表面に離型剤が滲出することで現像性が低下することを抑制できる。また、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅が8.0℃以下であれば、離型剤の溶融または結着樹脂との分離が、高速昇温に対して十分に追従することができ、定着工程における部材汚れを抑制することができる。
DSCを用い、昇温速度および降温速度をいずれも100℃/minとして測定したときの吸熱曲線において、2度目の昇温過程における吸熱ピークの半値幅は4.0℃以上6.0℃以下であることがより好ましい。
【0044】
本発明において、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の濡れ性は、40体積%以上80体積%以下であることが好ましい。トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の濡れ性は、以下のように定められる。50mLのメタノール/水混合溶媒中に、0.1gの、上記のトナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子を懸濁させ、780nmの波長の光の透過率を測定する。そして、透過率が50%となるときのメタノール濃度の値を、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の濡れ性とする。トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の濡れ性は、55体積%~60体積%であることがより好ましい。上記濡れ性が上記値の範囲内にあることにより、酸化鉄粒子の帯電性が上昇するとともに、離型剤との親和性が向上する。そのため、酸化鉄粒子周囲での十分な離型効果が得られ、部材汚染による画像不良を抑制することができる。上記濡れ性は、酸化鉄粒子の表面処理状態を変えることで制御することができる。上記濡れ性が40体積%以上であれば、酸化鉄粒子表面の疎水化処理の程度が高く、定着工程における離型効果を高く得ることができる。また、上記濡れ性が80体積%以下であれば、トナー粒子の表面における酸化鉄粒子の埋め込みを抑制でき、トナーの帯電不良による転写抜け、カブリ等の問題を抑制することができる。
水/メタノール濡れ性試験方法については後述する。
【0045】
本発明において、酸化鉄粒子がその表面に有する上記式(1)で表される構造を有する化合物は、高い縮合度を有する高縮合化合物であることが好ましい。
高縮合状態の高分子量体が存在する場合には、低縮合状態の低分子量体が存在する場合に比べ、疎水化処理剤が嵩高くなりやすい。このため、酸化鉄粒子表面の炭化水素鎖の密度が高くなり、定着工程でトナー内部から滲出してくる離型剤との親和性が向上しやすい。これにより、離型不良による部材汚染や擦り定着性の改善に対し顕著な効果が得られる。
【0046】
酸化鉄粒子がその表面に有する上記式(1)で表される構造を有する化合物について、縮合度を評価するための指標について以下に述べる。
本発明では、[Si-O-Si]/[Si-C]は1.4以上1.7以下であることが好ましい。ここで、[Si-O-Si]/[Si-C]は、次のように定義される。トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の、トルエンで抽出される成分について、赤外吸収スペクトル(FT-IRスペクトル)を取得する。得られたFT-IRスペクトルにおいて、990cm-1~1040cm-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度を[Si-O-Si]とする。また、1240cm-1~1280cm-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度を[Si-C]とする。このとき、[Si-O-Si]と[Si-C]の比が、[Si-O-Si]/[Si-C]である。
【0047】
疎水化処理を施した酸化鉄粒子には、酸化鉄粒子と結合していない処理剤の縮合物が一定量存在する。酸化鉄粒子100mgをトルエン50mLに浸漬し、5時間放置することで、トルエン中に処理剤の縮合物を抽出することができる。酸化鉄粒子を除去したのち、トルエンを揮発乾固して得られた抽出物のFT-IRスペクトルを測定することにより、疎水化処理剤の縮合状態を推定することができる。
【0048】
FT-IRスペクトルはATR法により測定する。ATR結晶としてGe、赤外光入射角として45°の条件で測定してFT-IRスペクトルを取得する。得られたFT-IRスペクトルにおいて、シロキサンのSi-O-Si由来と考えられる990cm-1以上1040cm-1以下の範囲内にある最大吸収ピーク強度を[Si-O-Si]とする。また、得られたFT-IRスペクトルにおいて、シロキサンのSi-C由来と考えられる1240cm-1以上1280cm-1以下の範囲の最大吸収ピーク強度を[Si-C]とする。
【0049】
シランカップリング処理剤を加水分解して得られるモノマーユニットについて上記のFT-IRスペクトルを取得した場合は、上記のピーク強度比[Si-O-Si]/[Si-C]は1.3である。
これに対し、シランカップリング処理剤の加水分解物を十分に縮合させて得られた多量体について上記のFT-IRスペクトルを取得した場合、上記のピーク強度比[Si-O-Si]/[Si-C]は1.7である。
【0050】
酸化鉄粒子のトルエン抽出物中のシランカップリング剤の縮合率が低い場合、抽出物中のモノマーユニットの割合が高いため、ピーク強度比[Si-O-Si]/[Si-C]は1.3に近い値となる。一方で、酸化鉄粒子のトルエン抽出物中のシランカップリング剤の縮合率が高い場合、抽出物中のモノマーユニットの割合が低く、ピーク強度比[Si-O-Si]/[Si-C]が1.7に近い値となる。
[Si-O-Si]/[Si-C]が1.4以上であれば、シランカップリング剤の縮合率が高く、定着工程における離型効果を高く得ることができる。
ATR法によるFT-IRスペクトルの測定については後述する。
【0051】
また、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子について、軟X線を用いた全電子収量法(TEY)による測定により吸収端近傍X線吸収微細構造(以下、NEXAFSともいう)を観測したとき、得られたSiの吸収スペクトルが、1844.4~1844.8eVの範囲内にあるピークAと、1846.1~1846.6eVの範囲内にあるピークBとを有し、ピークAの面積をIA、ピークBの面積をIB、上記酸化鉄粒子1g当たりに含まれるシラン化合物に由来するSiのモル数をMSiとしたとき、IA/(IA+IB)/MSiが、40g/mol以上55g/mol以下であることが好ましい。
【0052】
吸収端近傍X線吸収微細構造を観測することで、酸化鉄粒子の表面に結合しているシラン化合物のSi元素の結合状態についての情報を得ることができる。NEXAFSは、軟X線を用いた分光分析法のうち、試料から発生する電子のエネルギーを選別しない全電子収量法(TEY)により観測する。
【0053】
軟X線は、測定対象となる試料の表面から約50nmの深さまで侵入するが、試料の表面から抜け出せる光電子やオージェ電子などNEXAFSで検出対象となる電子は、深さ5nm程度までに限定される。そのため、酸化鉄粒子表面のシラン化合物の化学結合状態を非常に鋭敏に観察することができる。
【0054】
疎水化処理をした酸化鉄粒子について観測したNEXAFSにおけるSiの吸収スペクトルの一例を
図2に示す。Siの吸収スペクトルは、1840~1850eVの範囲内において、AおよびBの2つのピークを有している。ピークAは低エネルギー側に現れ、ピークBは高エネルギー側に現れる。具体的には、ピークAのピーク位置は1844.4~1844.8eVの範囲内に現れ、ピークBは1846.1~1846.6eVの範囲内に現れる。
【0055】
ここで、シラン化合物が有するSi原子とO原子との結合をSi-O-Xと表したとき、XがSiの場合の、Si原子とO原子との結合はピークAに対応し、XがFeの場合の、Si原子とO原子との結合はピークBに対応することが知られている。つまり、Siの吸収スペクトルにおけるピークAが大きいほど、酸化鉄粒子の表面と結合しているシラン化合物が少なく、ピークBが大きいほど、酸化鉄粒子の表面と結合しているシラン化合物が多いと判断できる。
【0056】
シラン化合物が酸化鉄粒子表面と化学的に結合している割合が少ないほど、シランカップリング剤同士が高度に縮合しており、酸化鉄粒子表面のシラン化合物は嵩高くなる。酸化鉄粒子表面のシラン化合物が嵩高いほど離型剤との親和性が高くなり、より酸化鉄粒子周囲での離型効果が向上する。
つまり、上述したNEXAFSにおけるSiの吸収スペクトルを測定することで、酸化鉄粒子とシランカップリング剤の結合の割合についての情報を得ることができ、これにより酸化鉄粒子表面のシラン化合物は嵩高さを評価することができる。
【0057】
IA/(IA+IB)/MSiが55g/mol以下であれば、シラン化合物と酸化鉄粒子との結合が強く、親水性の酸化鉄表面の露出が抑制される。IA/(IA+IB)/MSiが40g/mol以上であれば、シラン化合物の縮合度が高く、高い離型効果を得ることができる。IA/(IA+IB)/MSiは43g/mol以上48g/mol以下であることがより好ましい。
IA/(IA+IB)の値をMSiの値で除す理由は、規格化のためである。MSiは、例えば走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusII(株式会社リガク)を用いて測定される。
【0058】
本発明に係るトナーは、上記式(1)で示される構造を有する化合物を有するように疎水化処理された酸化鉄粒子をトナー粒子の表面に含有する。ここで、上記酸化鉄粒子はトナー粒子に対して外添することによりトナー粒子表面に含有させることができる。
上記酸化鉄粒子としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属或はこれらの金属とアルミニウム、銅、マグネシウム、スズ、亜鉛、ベリリウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウムのような金属の合金およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0059】
上記酸化鉄粒子の形状としては、8面体、6面体、球形、針状、および燐片状などがあり、任意のものを使用できるが、好ましくは4面体以上の多面体であり、より好ましくは8面体以上の多面体構造である。
【0060】
上記酸化鉄粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)は、0.50μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上0.30μm以下である。
上記酸化鉄粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)が、0.05μm以上0.30μm以下であれば、外添工程においてトナー粒子の表面に一次粒子の状態で均一に付着しやすく、カブリを低減する効果が得られる。上記酸化鉄粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)は、0.10μm以上0.30μm以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、上記酸化鉄粒子の79.6kA/m印加時の磁気特性として、抗磁力(Hc)が1.6kA/m以上25.0kA/m以下であると、現像性が高まる傾向であり、好ましい。より好ましくは抗磁力(Hc)は15.0kA/m以上25.0kA/m以下である。また、磁化の強さ(σs)は30Am2/kg以上90Am2/kg以下であることが好ましく、より好ましくは40Am2/kg以上80Am2/kg以下である。また、残留磁化(σr)は1.0Am2/kg以上10.0Am2/kg以下であることが好ましく、より好ましくは1.5Am2/kg以上8.0Am2/kg以下である。
【0062】
上記酸化鉄粒子は、例えば以下の方法で製造することができる。
第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量または当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、酸化鉄粉体の芯となる種晶をまず生成する。
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5~10に維持しながら空気を吹き込みつつ水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして酸化鉄粉体を成長させる。この時、任意のpHおよび反応温度、撹拌条件を選択することにより、酸化鉄粒子の形状および磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5未満にしない方が好ましい。このようにして得られた酸化鉄粒子を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより酸化鉄粒子を得ることができる。
また、乾式にて表面処理をする場合、洗浄、ろ過、および乾燥した酸化鉄粒子にカップリング剤処理を行う。湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、または酸化反応終了後、洗浄および濾過して得られた酸化鉄粒子を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、カップリング処理を行う。本発明においては、乾式法および湿式法どちらも適宜選択できる。
【0063】
酸化鉄粒子の表面処理において使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。より好ましく用いられるのは、一般式(2)で示される構造を有するシランカップリング剤である。
R-SiXnYm (2)
[式中、XおよびYはいずれもアルコキシ基を示し、nおよびmはそれぞれ独立に0以上3以下の整数であり、n+m=3である。Rはアルキル基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、または(メタ)アクリル基を示す。]
【0064】
一般式(2)で示されるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、n-ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-オクタデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
本発明においては、一般式(2)中のRがアルキル基であるものを好ましく用いることができる。中でも好ましいのは、炭素数3以上6以下のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数3または4のアルキル基である。
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理する、または複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのカップリング剤で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
処理に用いるカップリング剤の総量は、酸化鉄粒子100質量部に対して0.9質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、酸化鉄粒子の表面積、カップリング剤の反応性等に応じて処理剤の量を調整することが重要である。
【0065】
本発明において、トナーの結着樹脂としては、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、特に限定されず従来公知の樹脂を用いることができる。
具体的には、ポリスチレン、スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸オクチル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル等を用いることができ、これらは単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレン系共重合体およびポリエステル樹脂が現像特性、定着性等の点で好ましい。
トナーのガラス転移温度(Tg)は40℃以上70℃以下であることが好ましい。トナーのガラス転移温度が40℃以上70℃以下であれば、良好な定着性を維持しつつ保存安定性、そして耐久性を向上できる。
【0066】
本発明に係るトナーには、荷電制御剤が添加されていることが好ましい。負帯電用の荷電制御剤としては、有機金属錯化合物およびキレート化合物が有効であり、具体的には、モノアゾ金属錯化合物;アセチルアセトン金属錯化合物;芳香族ハイドロキシカルボン酸または芳香族ダイカルボン酸の金属錯化合物等が挙げられる。負帯電用の荷電制御剤の、市販品の具体例としては、Spilon Black TRH、T-77、T-95(保土谷化学工業社製)、BONTRON(登録商標)S-34、S-44、S-54、E-84、E-88、E-89(オリエント化学社製)が挙げられる。
また、正帯電性の荷電制御剤としては、ニグロシンおよび脂肪酸金属塩等による変性物;トリブチルベンジルアンモニウム-1-ヒドロキシ-4-ナフトスルホン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートの如き四級アンモニウム塩、およびこれらの類似体であるホスホニウム塩等のオニウム塩、およびこれらのレーキ顔料;トリフェニルメタン染料およびこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、リンタングステン酸、リンモリブテン酸、リンタングステンモリブテン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン酸、フェロシアン化合物など);高級脂肪酸の金属塩;ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ジシクロヘキシルスズオキサイドの如きジオルガノスズオキサイド;ジブチルスズボレート、ジオクチルスズボレート、ジシクロヘキシルスズボレートの如きオルガノスズボレートが挙げられる。正帯電性の荷電制御剤の、市販品の具体例として、TP-302、TP-415(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)N-01、N-04、N-07、P-51(オリエント化学社)、コピーブルーPR(クラリアント社)が挙げられる。
これらの荷電制御剤は単独、或いは二種以上を組み合わせて用いることが可能である。これらの荷電制御剤の使用量は、トナーの帯電量の点から、結着樹脂100質量部当たり0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上5.0質量部以下である。
【0067】
トナー粒子は離型剤を含有する。トナー粒子が離型剤を含有することで、定着性が向上する。
離型剤としては公知の全ての離型剤を用いることができる。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックスおよびその誘導体、モンタンワックスおよびその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックスおよびその誘導体、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィンワックスおよびその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックス等天然ワックスおよびその誘導体、エステルワックスなどである。ここで、誘導体とは酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。また、エステルワックスとしては1官能エステルワックス、2官能エステルワックスをはじめ、4官能や6官能等の多官能エステルワックスを用いることができる。
トナー粒子中の離型剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。離型剤の含有割合が上記範囲であれば、定着性が向上するとともに、トナーの保存安定性が損なわれない。
また、離型剤は、結着樹脂を製造する時に、樹脂を溶剤に溶解し、樹脂溶液温度を上げ、撹拌しながら添加混合する方法や、トナー製造中の溶融混練時に添加する方法などにより結着樹脂に配合することができる。
【0068】
離型剤の示差走査熱量計(DSC)で測定される最大吸熱ピークのピーク温度(以下、融点ともいう)は、60℃以上140℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以上130℃以下である。最大吸熱ピークのピーク温度(融点)が、60℃以上140℃以下であると定着時にトナーが可塑化しやすく、定着性が良化する。また、長期間保存しても離型剤の染み出し等も生じ難く、好ましい。
【0069】
離型剤の最大吸熱ピークのピーク温度は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定することができる。この場合、装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、測定試料約10mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30~200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。なお、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて10℃/minで30℃まで降温し、その後に再度、10℃/minで昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30~200℃の範囲におけるDSC曲線から離型剤の最大吸熱ピークのピーク温度を求める。
【0070】
トナー粒子が含有する着色剤としては、有機顔料、有機染料、および、無機顔料等が挙げられるが、特に限定されず従来公知の着色剤を用いることができる。
【0071】
シアン系着色剤としては、銅フタロシアニン化合物およびその誘導体、アントラキノン化合物、および、塩基染料レーキ化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントブルー1、C.I.ピグメントブルー7、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントブルー62、および、C.I.ピグメントブルー66。
【0072】
マゼンタ系着色剤としては、以下のものが挙げられる。縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、および、ペリレン化合物。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントレッド23、C.I.ピグメントレッド48:2、C.I.ピグメントレッド48:3、C.I.ピグメントレッド48:4、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド81:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド150、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド169、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ピグメントレッド185、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド206、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド221、および、C.I.ピグメントレッド254。
【0073】
イエロー系着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、および、アリルアミド化合物が挙げられる。具体的には、以下のものが挙げられる。C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー62、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー109、C.I.ピグメントイエロー110、C.I.ピグメントイエロー111、C.I.ピグメントイエロー120、C.I.ピグメントイエロー127、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー129、C.I.ピグメントイエロー147、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー168、C.I.ピグメントイエロー174、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー176、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー191、および、C.I.ピグメントイエロー194。
【0074】
黒色着色剤としては、カーボンブラック、並びに、上記イエロー系着色剤、マゼンタ系着色剤、シアン系着色剤、および磁性体を用いて黒色に調色されたものなどが挙げられる。
【0075】
これらの着色剤は、単独または混合し、さらには固溶体の状態で用いることができる。着色剤は、色相角、彩度、明度、耐光性、OHP透明性、および、トナー粒子中の分散性の点から選択される。
【0076】
着色剤として磁性体を用いる場合、磁性体は、四三酸化鉄やγ-酸化鉄などの磁性酸化鉄を主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、珪素などの元素を含んでもよい。これら磁性体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2m2/g以上30m2/g以下であることが好ましく、3m2/g以上28m2/g以下であることがより好ましい。また、モース硬度が5以上7以下のものが好ましい。磁性体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、および鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、および球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
【0077】
トナー粒子中の着色剤の含有割合は、結着樹脂または結着樹脂を構成する重合性単量体100質量部に対し、好ましくは1質量部以上20質量部以下である。着色剤として磁性粉体を用いる場合、トナー粒子中の磁性粉体の含有割合は、結着樹脂または結着樹脂を構成する重合性単量体100質量部に対し、好ましくは20質量部以上200質量部以下、より好ましくは40質量部以上150質量部以下である。
【0078】
本発明に係るトナーには、必要により酸化鉄粒子に加え、その他の外添剤などが混合により表面に付着されていてもよい。
その他の外添剤としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、チタン酸ストロンチウム微粒子、酸化セリウム微粒子および炭酸カルシウム微粒子の金属酸化物微粒子(無機微粒子)を挙げることができる。また、2種類以上の金属を用いた複合酸化物微粒子を用いてもよく、これらの微粒子群の中から任意の組み合わせで選択される2種以上を用いてもよい。
また、樹脂微粒子や、樹脂微粒子と無機微粒子の有機無機複合微粒子をその他の外添剤として用いてもよい。
その他の外添剤は、シリカ微粒子および有機無機複合微粒子からなる群から選択される少なくとも一種を有することがより好ましい。
シリカ微粒子としては、ゾルゲル法で作製されるゾルゲルシリカ微粒子、水性コロイダルシリカ微粒子、アルコール性シリカ微粒子、気相法により得られるフュームドシリカ微粒子、溶融シリカ微粒子などが挙げられる。
樹脂微粒子としては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂のような樹脂粒子が挙げられる。
【0079】
有機無機複合微粒子としては、樹脂微粒子と無機微粒子で構成された有機無機複合微粒子が挙げられる。
有機無機複合微粒子であれば、無機微粒子としての良好な耐久性および帯電性を維持しつつ、定着時においては、熱容量の低い樹脂材料の成分により、トナー粒子の合一を阻害しにくく、定着阻害を生じにくい。そのため、耐久性と定着性の両立を図りやすい。
有機無機複合微粒子は、好ましくは、樹脂成分である樹脂微粒子(好ましくはビニル系樹脂微粒子)の表面に埋め込まれた無機微粒子で構成された凸部を有する複合微粒子である。より好ましくは、ビニル系樹脂粒子の表面に無機微粒子が露出している構造を有する複合微粒子である。さらに好ましくは、該ビニル系樹脂微粒子の表面に、該無機微粒子に由来する凸部を有する構造を有する複合微粒子である。
有機無機複合微粒子を構成する無機微粒子としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、チタン酸ストロンチウム微粒子、酸化セリウム微粒子および炭酸カルシウム微粒子などの微粒子を挙げることができる。
【0080】
トナー中のその他の外添剤の含有割合は、トナー粒子100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0081】
その他の外添剤は、疎水化処理剤により疎水化処理がされていてもよい。
疎水化処理剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、t-ブチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのクロロシラン類;
テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシラン類;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザンなどのシラザン類;
ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、および、末端反応性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル;
ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどのシロキサン類;
脂肪酸およびその金属塩として、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ヘプタデシル酸、アラキン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの長鎖脂肪酸、前記脂肪酸と亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウムなどの金属との塩が挙げられる。
これらの中でも、アルコキシシラン類、シラザン類、シリコーンオイルは、疎水化処理を実施しやすいため、好ましく用いられる。これらの疎水化処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0082】
トナーは、トナーの流動性や帯電性を向上させるために、複数種のその他の外添剤を含んでいてもよい。
その他の外添剤の一次粒子の個数平均粒径は、0.030μm以上0.30μm以下であることが好ましい。
【0083】
本発明に係るトナーには、実質的な悪影響を与えない範囲内でさらに他の添加剤、例えばフッ素樹脂粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末;酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末などの研磨剤;例えば酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末などの流動性付与剤;ケーキング防止剤;または逆極性の有機微粒子および無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。さらに、これらの添加剤の表面を疎水化処理して用いることも可能である。
【0084】
トナー粒子の重量平均粒径(D4)は3.0μm以上12.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは4.0μm以上10.0μm以下である。トナー粒子の重量平均粒径(D4)が3.0μm以上12.0μm以下であれば、良好な流動性が得られ、潜像に忠実に現像することができる。
【0085】
トナーの製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の製造方法を採用することができる。トナーの製造方法としては粉砕法、重合法、例えば分散重合法、会合凝集法、溶解懸濁法、懸濁重合法、乳化凝集法などが挙げられる。
【0086】
以下、溶融混練工程および粉砕工程を経てトナーを製造する粉砕法を具体的に例示するがこれに限定されるものではない。
例えば、結着樹脂、着色剤、および離型剤、並びに、必要に応じて電荷制御剤およびその他の添加剤などを、ヘンシェルミキサー、ボールミルのような混合機により充分混合する(混合工程)。得られた混合物を二軸混練押出機、加熱ロール、ニーダー、およびエクストルーダーのような熱混練機を用いて溶融混練する(溶融混練工程)。
得られた溶融混練物を冷却固化した後、粉砕機を用いて粉砕(粉砕工程)し、分級機を用いて分級(分級工程)を行い、トナー粒子を得る。さらに必要に応じて、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサーのような混合機により混合し、トナーを得る。
【0087】
混合機としては、以下のものが挙げられる。FMミキサー(日本コークス工業株式会社);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)。
熱混練機としては、以下のものが挙げられる。KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ブス・コ・ニーダー(Bus/秒社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);M秒式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)。
【0088】
粉砕機としては、以下のものが挙げられる。カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);ID/秒型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボ工業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング社製)。
【0089】
分級機としては、以下のものが挙げられる。クラッシール、マイクロンクラッシファイアー、スペディッククラシファイアー(セイシン企業社製);ターボクラッシファイアー(日清エンジニアリング社製);ミクロンセパレータ、ターボプレックス(ATP)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)、ディスパージョンセパレータ(日本ニューマチック工業社製);YMマイクロカット(安川商事社製)。
【0090】
また、粗粒子をふるい分けるために、以下の篩い装置を用いてもよい。ウルトラソニック(晃栄産業社製);レゾナシーブ、ジャイロシフター(徳寿工作所社);バイブラソニックシステム(ダルトン社製);ソニクリーン(新東工業社製);ターボスクリーナー(ターボ工業社製);ミクロシフター(槙野産業社製);円形振動篩い。
外添工程における混合時間は、外添剤の分散性の観点から、0.5分以上10.0分以下の範囲に調整することが好ましく、1.0分以上5.0分以下の範囲に調整することがより好ましい。
【0091】
次に、各物性の測定方法に関して記載する。
<酸化鉄粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)の測定方法>
まず、酸化鉄粒子の透過電子顕微鏡観察を行う。観察には、例えば透過電子顕微鏡JEM2800(日本電子社)を用い、撮影された明視野像から粒子径を算出することができる。JEM2800の画像撮影条件は以下の通りである。
エポキシ樹脂中へ観察すべき酸化鉄粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ硬化物を得る。得られた硬化物をウルトラミクロトーム(Leica社製)により薄片状のサンプルとする。
JEM2800を用い、加速電圧:200kV、倍率:10万倍、サイズ1024×1024ピクセルの条件で透過像を取得する。
得られた透過像について、画像解析ソフトImage-Pro Plus ver.5.0を用いて、透過像を2値化処理し、100個の酸化鉄粒子(凝集粒子は除く)についてその長径を測定して、算術平均値を一次粒子の個数平均粒径とする。
【0092】
<トナーの表面における酸化鉄粒子の個数平均凝集粒径の測定方法>
トナーの表面の走査電子顕微鏡観察を行い、酸化鉄粒子の個数平均凝集粒径を測定する。これによりトナーの表面に外添された酸化鉄粒子の解砕状態を確認することができる。
観察には、走査電子顕微鏡S-4800(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、撮影された反射電子像から粒子径を算出する。S-4800の画像撮影条件は以下の通りである。
【0093】
(1)S-4800観察条件
まず、S-4800による観察条件としてそれぞれ以下のように設定する。加速電圧:1.0kV、エミッション電流:20μA、プローブ電流:Normal、焦点モード:UHR、WD:3.0mm。
検出器:U+BSEモード、L.A.100を選択し、最大20万倍に拡大した視野において、反射電子像を観察する。
自動明るさ調整を行い、サイズ1280×960ピクセルの画像を保存する。複数の画像を撮影し、少なくとも酸化鉄の凝集粒子を100個解析できる量の画像を得る。
【0094】
(2)画像解析
画像解析ソフトImage-Pro Plus ver.5.0を用いて、透過像を2値化処理し、100個の酸化鉄粒子(凝集粒子)についてその長径を測定して、算術平均値を酸化鉄粒子の個数平均凝集粒径とする。
【0095】
<トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の定量方法>
トナー粒子から酸化鉄粒子を含む外添剤成分を分離し、さらに分離された外添剤成分から酸化鉄粒子を単離し、回収することで、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子を定量することができる。具体的な方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)トナー5gをサンプル瓶に入れ、そこへメタノールを200mL加える。さらに「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を数滴加える。
(2)超音波洗浄機で5分間試料を分散させて外添剤成分を分離させる。
(3)吸引ろ過(10μmメンブランフィルター)してトナー粒子と外添剤とを分離する。
(4)上記(2)、(3)を計3回行う。
上記操作により、外添剤成分はトナー粒子から分離される。この回収された液を遠心分離器にかけることで、酸化鉄粒子を単離し、回収する。次いで、溶媒を除去し真空乾燥機で十分に乾燥させ質量を測定することで、トナー5g中の酸化鉄粒子の含有量を決定する。これにより、トナー中の、トナー粒子の表面に存在する酸化鉄粒子の含有割合を決定することができる。
【0096】
<酸化鉄粒子の固着率の測定方法>
50mL容量のバイアルに「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液)20gを秤量し、トナー1gと混合する。
「KM Shaker」(model: V.SX、いわき産業社製)にセットし、speedを50に設定して30秒間振とうする。これにより、固着していない酸化鉄粒子は、トナー粒子の表面から分散液側へ移行する。
その後、遠心分離機(商品名:H-9R、株式会社コクサン社製)により、16.67s-1にて5分間の条件で、トナー粒子と上澄み液に移行した酸化鉄粒子を分離する。分離したトナーを真空乾燥(40℃/24時間)することで乾固させて、サンプルとする。
【0097】
トナーを下記プレス成型によりペレット化してサンプルとする。上記処理を施す前後のトナーのサンプルに関して、以下に示す波長分散型蛍光X線分析(XRF)により、分析対象の酸化鉄粒子固有のFe元素の定量を行う。そして、上記処理によって上澄み側へ移行せずにトナー粒子の表面に残る酸化鉄粒子の量を下記式(A)から求め、固着率とする。固着率の値は、サンプル100個について得た値の相加平均値を採用する。
(i)サンプル調製
サンプルの調製は、試料プレス成型機MAEKAWA Testing Machine(MFG Co,LTD社製)を使用する。アルミリング(型番:3481E1)にトナー0.5gを入れて5.0トンの荷重に設定し1minプレスし、ペレット化させる。
(ii)使用装置の例
蛍光X線分析装置3080(理学電気社製)
(iii)測定条件
測定径:10Φ
測定電位、電圧 50kV、50~70mA
2θ角度 25.12°
結晶板 LiF
測定時間 60秒
(iv)酸化鉄粒子の固着率の算出方法
酸化鉄粒子の固着率(%)=(処理後トナーの酸化鉄粒子由来元素強度/処理前トナーの酸化鉄粒子由来元素強度)×100 (B)
【0098】
<SP値の算出方法>
溶解度パラメータ(SP値)は、下記式(B)で示されるFedorsの式を用いて求める。
δi=(Ev/V)1/2=(Δei/Δvi)1/2 (B)
Ev:蒸発エネルギー
V:モル体積
Δei:i成分の原子または原子団の蒸発エネルギー
Δvi:i成分の原子または原子団のモル体積
Δei、および、Δviの値は、「コーティングの基礎科学、54~57頁、1986年(槇書店)の表3-9に記載された、原子および原子団の蒸発エネルギーとモル体積(25℃)」を参考にする。
式(B)において、「δi」はi成分の原子または原子団のSP値であり、対象物質のSP値は、対象物質が有する原子または原子団のSP値δiの総和として得られる。
なお、本発明において、式(1)で表される構造を有する化合物のSP値とは、式(1)で表される構造を有する化合物を酸化鉄粒子の表面に形成するために用いた疎水化処理剤が有する構造を基に、式(B)を用いて算出されたSP値である。
また、SP値の単位は、(cal/cm3)1/2であるが、1(cal/cm3)1/2=2.046×103(J/m3)1/2によって(J/m3)1/2の単位に換算することができる。
【0099】
<酸化鉄粒子の濡れ性の測定方法>
水/メタノール混合溶媒を用いた酸化鉄粒子の濡れ性試験では、粉体濡れ性試験機(商品名:WET-100P、レスカ社製)を用い、以下の条件および手順で測定して得られるメタノール滴下透過率曲線を利用する。
先ず、水を50mL、フラスコに入れて透過率を測定する。このときの透過率を100%、全く光が透過しない状態を透過率0%とする。そして、水にメタノールを連続的に添加してメタノール濃度を上昇させつつ、透過率の測定を行う。測定時の透過光強度が、水を透過させた時の透過光強度の半分になった際のメタノール濃度(質量%)を、酸化鉄粒子の濡れ性とする。
【0100】
具体的には、透過率の測定は以下の様にして行う。
水を50mL入れたビーカーに、マグネティックスターラーをいれる。そして、目開き100μmのメッシュでふるった酸化鉄粒子0.1gを精秤し、それを上記フラスコに入れる。
次に、撹拌速度300rpm(5回転/秒)でマグネティックスターラーによって撹拌を開始し、この測定用サンプル液中に、ガラス管によって1.3mL/minの添加速度でメタノールを連続的に添加する。また、同時に波長780nmの光の透過率を測定し、メタノール滴下透過率曲線を作成する。この際に、メタノールを滴定溶媒とするのは、酸化鉄粒子に表面処理される疎水化処理剤の溶出の影響が少なく、酸化鉄粒子の表面性をより正確に評価できるためである。
なお、この測定において、例えば、ビーカーとしては、直径5cmのガラス製のものを用い、マグネティックスターラーとしては、長さ25mm、最大径8mmの紡錘形でありテフロン(登録商標)コーティングを施されたものを用いてもよい。
【0101】
<トナー粒子の重量平均粒径(D4)および個数平均粒径(D1)の測定>
トナー粒子の重量平均粒径(D4)および個数平均粒径(D1)は、以下の装置および測定条件設定および測定データ解析をするための付属の専用ソフトを用い、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行って算出する。
・装置:100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)
・専用ソフト:「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
なお、測定および解析を行う前に、以下のように上記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0102】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに上記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)の水槽内に所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2mL添加する。
(4)上記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)上記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー(粒子)約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した上記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー粒子を分散した上記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。また、専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
【0103】
<トナーの吸熱ピークの半値幅の測定方法>
トナーの吸熱ピークの半値幅は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いて次のように測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
測定試料として、トナー3.0mgを精密に秤量し、アルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを用いる。
20℃で1分間保持した後、一度目の昇温過程では、測定試料を30℃から200℃まで100℃/minで昇温しながら測定を行う。
次いで、200℃で1分間保持した後、200℃から30℃まで-100℃/minで降温しながら測定を行う。
最後に、30℃で1分間保持した後、30℃から200℃まで100℃/minで昇温しながら二度目の昇温過程の測定を行う。
この二度目の昇温過程で、温度40℃~200℃の範囲において比熱変化が得られ、離型剤の融解に由来する吸熱ピークが得られる。二度目の昇温過程での離型剤の融点Tm(℃)は、該比熱変化曲線における最大吸熱ピークのピーク温度、吸熱ピーク半値幅は最大吸熱ピークのピーク温度における熱量とベースラインとの中点での温度幅とする。
【0104】
<IRの測定および[Si-O-Si]/[Si-C]値の算出方法>
FT-IRスペクトルは、以下の装置を用いてATR法で測定する。
・ユニバーサルATR測定アクセサリー(Universal ATR Sampling Accessory)を装着したフーリエ変換赤外分光分析装置(Spectrum One:PerkinElmer社製)
具体的な測定手順は以下の通りである。
赤外光(λ=5μm)の入射角は45°に設定する。ATR結晶としては、GeのATR結晶(屈折率:4.0)を用いる。その他の条件は以下の通りである。
Range
Start:4000cm-1
End:600cm-1
Duration
Scan number:16
Resolution:4.00cm-1
【0105】
[炭化水素系ワックス指数(Ge)の算出方法]
(1)GeのATR結晶を装置に装着する。
(2)酸化鉄粒子のトルエン抽出物をATR結晶の上に、0.01g精秤する。
(3)圧力アームでサンプルを加圧し測定する。(Force Gaugeは90)
(4)得られたFT-IRスペクトルを、Automatic Correctionでベースライン補正をする。
(5)990cm-1~1040cm-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度[Si-O-Si]と1240cm-1~1280cm-1の範囲内にある最大吸収ピーク強度[Si-C]との比[Si-O-Si]/[Si-C]を算出する。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を製造例および実施例によりさらに具体的に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。なお、以下の配合における部数は全て質量部を示す。
以下の記載において、実施例26、29~35はいずれも参考例である。
【0107】
<酸化鉄粒子C1の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、およびSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化鉄を含むスラリー液を得た。
濾過および洗浄を行った後、この含水スラリー液を一旦取り出した。この時、含水サンプルを少量採取し、含水量を計っておいた。
次に、この含水サンプルを乾燥せずに別の水系媒体中に投入し、撹拌すると共に、スラリーを循環させながらピンミルにて再分散させ、再分散液のpHを約9.0に調整した。そして、撹拌しながらiso-ブチルトリメトキシシランカップリング剤を酸化鉄粒子100質量部に対し1.4質量部(酸化鉄粒子の量は含水サンプルから含水量を引いた値として計算した)添加し、液温45℃で加水分解を行った。その後、撹拌を十分行い表面処理を行った。
生成した疎水化処理後の酸化鉄粒子をフィルタープレスにてろ過し、多量の水で洗浄した後に120℃で2時間乾燥し、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.26μmの酸化鉄粒子C1を得た。
【0108】
<酸化鉄粒子C2~C8の製造例>
酸化鉄粒子C1の製造例において、スラリーの再分散液の初期pHを表1に示すpH(A)とし、表1に示す疎水化処理剤を添加して加水分解した後、pHを表1に示すpH(B)に変更して表面処理を行った。それ以外は酸化鉄粒子C1の製造と同じ装置および同じ条件で製造し、酸化鉄粒子C2~C8を得た。
【0109】
<酸化鉄粒子C9の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、およびSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応の終期にpHを6に調整し、水洗および乾燥を行った。得られた粒子を解砕処理し、個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子を得た。
疎水化処理剤として、iso-ブチルトリメトキシシラン30質量部をイオン交換水70質量部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうしてシラン化合物を含有する水溶液を得た。
酸化鉄粒子の100質量部をハイスピードミキサー(商品名:LFS-2型、深江パウテック社製)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物を含有する水溶液8.0質量部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合および撹拌した。次いで、シラン化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して酸化鉄粒子C9を得た。
【0110】
<酸化鉄粒子C10~C16の製造例>
酸化鉄粒子C9の製造例において、用いる疎水化処理剤の種類を表1に示すものに変更した。それ以外は酸化鉄粒子C9の製造と同じ装置および同じ条件で製造し、酸化鉄粒子C10~C16を得た。
【0111】
<酸化鉄粒子C17の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、および鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量のSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応の終期にpHを6に調整した。その後、水洗および乾燥を行い、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子を得た。
酸化鉄粒子をヘンシェルミキサー(日本コークス工業社製)に入れた後、回転速度34.5m/sで未処理酸化鉄粒子を分散させた状態で、ジメチルシリコーンオイル3.8質量部を噴霧させながら加えたのち、そのまま10分間分散させた。その後、目開き100μmの篩を通過させた酸化鉄粒子を酸化鉄粒子C17として得た。
【0112】
<酸化鉄粒子C18の製造例>
酸化鉄粒子C17の製造例において、疎水化処理剤の種類および使用量を変性シリコーンオイルKF-415(信越シリコーン社製)の3.8質量部に変更した以外は、酸化鉄粒子C17の製造例と同じ装置および同じ条件製造を行い、酸化鉄粒子C18を得た。
【0113】
<酸化鉄粒子C19の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、およびSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応の終期にpHを6に調整した。その後、水洗および乾燥を行い、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子を得た。
疎水化処理剤として、iso-プロピルトリイソステアロイルチタネート30質量部をイオン交換水70質量部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうしてチタネート化合物を含有する水溶液を得た。
酸化鉄粒子の100質量部をハイスピードミキサー(商品名:LFS-2型、深江パウテック社製)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、チタネート化合物を含有する水溶液8.0質量部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合および撹拌を行った。次いで、チタネート化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、チタネート化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して酸化鉄粒子C19を得た。
【0114】
<酸化鉄粒子C20の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、およびSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応の終期にpHを6に調整した。その後、水洗および乾燥を行い、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子を得た。
次いで希硫酸溶液に前記酸化鉄粒子を加え、pHを4に調整した。次に硫酸アルミニウム水溶液を徐々に加えて十分混合させた。さらに攪拌を続けながら水酸化ナトリウム溶液を徐々に加えて懸濁液のpHを6に調整したのち、熟成させた。その後、水洗および乾燥を行い、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子C20を得た。
【0115】
<酸化鉄粒子C21の製造例>
酸化鉄粒子C9の製造例において、疎水化処理剤の種類をテトラメトキシシランに変更した。それ以外は、酸化鉄粒子C9の製造例と同じ装置および同じ条件で製造を行い、酸化鉄粒子C21を得た。
【0116】
<酸化鉄粒子C22の製造例>
酸化鉄粒子C17の製造例において、疎水化処理剤の種類および使用量をヘキサメチルジシラザンの3.8質量部に変更した。それ以外は酸化鉄粒子C17の製造例と同じ装置および同じ条件で製造を行い、酸化鉄粒子C22を得た。
【0117】
<酸化鉄粒子C23の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、苛性ソーダ溶液、P2O5、およびSiO2をそれぞれ以下に示す量で用いて混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。
苛性ソーダ溶液:鉄元素に対して1.00から1.10当量
P2O5:鉄元素に対しリン元素換算で0.15質量%となる量
SiO2:鉄元素に対して珪素元素換算で0.50質量%となる量
水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応をすすめ、酸化反応の終期にpHを6に調整した。その後、水洗および乾燥を行い、得られた粒子を解砕処理して個数平均粒径(D1)が0.23μmの酸化鉄粒子C23を得た。酸化鉄粒子C23は、表面処理を行っていない酸化鉄粒子である。
【0118】
【0119】
上記により製造した酸化鉄粒子C1~C23について、先に述べた方法により決定した各物性値を表2に示す。
【表2】
【0120】
<磁性体(着色剤)の製造例>
Fe2+濃度が1.79mo1/Lの硫酸第一鉄水溶液92Lに、3.74mo1/Lの水酸化ナトリウム水溶液88Lを加え、20L/minで空気を吹き込みながら、温度89℃、pH9~12を維持するよう混合撹拌した。30分混合撹拌した後、スラリーを濾過し、洗浄、乾燥させて、磁性体の粒子を得た。
【0121】
<トナー粒子A1の製造例>
以下の原材料を用意した。
・非晶性ポリエステル樹脂(PES)(ビスフェノールAのエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる非晶性ポリエステル樹脂;Mw=9500、Tg=58℃) 100質量部
・磁性体(着色剤) 95質量部
(個数平均粒径(D1)0.20μm、磁気特性σs:65.9Am2/kg、σr:7.3Am2/kg、表面処理なし)
・離型剤B1(ベヘン酸べへニル、融点75℃) 5.0質量部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T-77保土ヶ谷化学社製) 2.0質量部
これらの原材料をヘンシェルミキサーFM10C(三井三池化工機社製)で予備混合した。その後、回転数250rpmに設定した二軸混練押し出し機(商品名:PCM-30、池貝鉄工所社製)により、混練物の出口付近における直接温度が145℃となるように設定温度を調節し、混練した。
得られた溶融混練物を冷却し、冷却された溶融混練物をカッターミルで粗粉砕した。その後、得られた粗粉砕物を、ターボミルT-250(ターボ工業社製)を用いて、フィード量を25kg/hrとし、排気温度が38℃になるようエアー温度を調整して微粉砕し、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級した。これにより、重量平均粒径(D4)が8.4μmのトナー粒子A1を得た。
【0122】
<トナー粒子A2~A4の製造例>
トナー粒子A1の製造例において、用いる離型剤の種類を表3に示すものに変更した。それ以外はトナー粒子A1の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー粒子A2~A4を得た。
【0123】
<トナー粒子A5の製造例>
以下の原材料を用意した。
・スチレン/n-ブチルアクリレート共重合体1(StAc)(スチレンおよびn-ブチルアクリレートの質量比が78:22のスチレンアクリル樹脂;Mw=8500、Tg=58℃) 100.0質量部
・磁性体(個数平均粒径(D1)0.20μm、磁気特性σs:65.9Am2/kg、σr:7.3Am2/kg、表面処理なし) 95.0質量部
・離型剤B1(ベヘン酸べへニル、融点75℃) 5.0質量部
・モノアゾ染料の鉄錯体(商品名:T-77、保土ヶ谷化学社製) 2.0質量部
これらの原材料を、トナー粒子A1の製造例と同じ装置および同じ条件で処理することにより、トナー粒子A5を得た。
【0124】
<トナー粒子A6~A8の製造>
トナー粒子A5の製造例において、用いる離型剤を表3に示すものに変更した。それ以外はトナー粒子A5の製造例と同じ装置および同じ条件で処理し、トナー粒子A6~A8を得た。
【0125】
<トナー粒子A9の製造例>
以下の手順に従い、乳化凝集法によってトナー粒子A9を製造した。
スチレン89.5部、アクリル酸ブチル9.2部、アクリル酸1.3部、およびn-ラウリルメルカプタン3.2部を混合し溶解した。ネオゲンRK(第一工業製薬社製)1.5部をイオン交換水150部に混合した水溶液を用意し、上記で調製した混合溶液に添加し、分散した。
過硫酸カリウム0.3部をイオン交換水10部に混合した過硫酸カリウム水溶液を用意した。上記の混合溶液をさらに10分間ゆっくりと撹拌しながら、過硫酸カリウム水溶液を添加した。
窒素置換をした後、70℃で6時間乳化重合を行った。重合終了後、反応液を室温まで冷却し、イオン交換水を添加することで固形分濃度が12.5質量%、体積基準のメジアン径が0.2μmの結着樹脂粒子分散液を得た。
離型剤(フィッシャートロプシュワックス、融点:77℃)100部およびネオゲンRK15部をイオン交換水385部に混合させ、湿式ジェットミルJN100(常光社製)を用いて約1時間分散して離型剤分散液を得た。離型剤分散液の固形分濃度は20質量%であった。
磁性酸化鉄粒子100部およびネオゲンSC10.0部をイオン交換水890部に混合させ、湿式ジェットミルJN100を用いて約1時間分散して磁性酸化鉄分散液を得た。
結着樹脂粒子分散液265部、離型剤分散液10部および磁性酸化鉄分散液65部を容器に入れ、ホモジナイザー(商品名:ウルトラタラックスT50、IKA社製)を用いて分散した。
撹拌しながら容器内の温度を30℃に調整して、1mol/Lの塩酸を加えてpH=5.0に調整した。3分間放置した後に昇温を開始し、50℃まで昇温し、凝集粒子の生成を行った。その状態で、「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)にて凝集粒子の粒径を測定した。凝集粒子の重量平均粒径が6.2μmになった時点で、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH=8.0に調整して粒子成長を停止させた。
その後、95℃まで昇温して凝集粒子の融着と球形化を行った。平均円形度が0.980に到達した時点で降温を開始し、30℃まで降温してトナー粒子分散液を得た。
得られたトナー粒子分散液に塩酸を添加してpH=1.5以下に調整し、1時間撹拌放置してから加圧ろ過器で固液分離してトナーケーキを得た。
これをイオン交換水でリスラリーして再び分散液とした後に、前述のろ過器で固液分離した。リスラリーと固液分離とを、ろ液の電気伝導度が5.0μS/cm以下となるまで繰り返した後に、最終的に固液分離してトナーケーキを得た。
得られたトナーケーキは気流乾燥機フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業社製)にて乾燥を行った。乾燥の条件は吹き込み温度90℃、乾燥機出口温度40℃、トナーケーキの供給速度はトナーケーキの含水率に応じて出口温度が40℃から外れない速度に調整した。
さらにコアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて微粗粉をカットし、トナー粒子A9を得た。トナー粒子A9の重量平均粒径(D4)は8.4μm、平均円形度は0.980、ガラス転移温度(Tg)は57℃であった。
【0126】
<トナー粒子A10~A12の製造例>
トナー粒子A5の製造例において、用いる離型剤の種類および使用量を表3に示す通りに変更した。それ以外はトナー粒子A5の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー粒子A10~A12を得た。
【0127】
<トナー粒子A13の製造例>
トナー粒子A4の製造例において、離型剤の使用量を表3に示すとおりに変更した。それ以外はトナー粒子A4の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー粒子A13を得た。
【0128】
トナー粒子A1~A13の製造に用いた離型剤の種類および先に述べた方法により決定した各物性値を表3に示す。トナー粒子A1~A13について、製造条件および先に述べた方法により決定した各物性値を表4に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
<トナー1の製造例>
FMミキサー(商品名:FM-10B、日本コークス工業社製)を用いて、回転速度3500rpmの条件で、トナー粒子A1の100部と、疎水性シリカ粒子1部とを5分間混合した。なお、疎水性シリカ粒子の調製においては、3-アミノプロピルトリエトキシシランおよびジメチルシリコーンオイルを疎水化処理剤として使用した。
次にFMミキサー中に酸化鉄粒子C1を2.0部投入し、回転速度3000rpmの条件で5分間混合してトナー混合物を得た。
その後、300メッシュ(目開き48μm)の篩を用いて粗大粒子を除去し、トナー1を得た。
【0132】
<トナー2~16の製造例>
トナー1の製造例において、用いる酸化鉄粒子の種類を表5に示す通りに変更した。それ以外はトナー1の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー2~16を得た。
【0133】
<トナー17~23の製造例>
トナー1の製造例において、用いるトナー粒子および酸化鉄粒子の種類を表5に示す通りに変更した。それ以外はトナー1の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー17~23を得た。
【0134】
<トナー24~29の製造例>
トナー1の製造例において、用いるトナー粒子の種類をトナー粒子A5に、用いる酸化鉄粒子の種類を酸化鉄粒子C13に変更し、酸化鉄粒子の使用量を表5に示す通りに変更した。それ以外はトナー1の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー24~29を得た。
【0135】
<トナー30の製造例>
FMミキサー(商品名:FM-10B、日本コークス工業社製)を用いて、回転速度3500rpmの条件で、トナー粒子A5の100部と、疎水性シリカ粒子と1部を5分間混合した。なお、疎水性シリカ粒子の調製には、3-アミノプロピルトリエトキシシランおよびジメチルシリコーンオイルを疎水化処理剤として使用した。
次にFMミキサー中に酸化鉄粒子C5を0.1部投入し、回転速度3200rpmの条件で3分間混合してトナー混合物を得た。
その後、300メッシュ(目開き48μm)の篩を用いて粗大粒子を除去し、トナー30を得た。
【0136】
<トナー31~34の製造例>
トナー30の製造例において、酸化鉄粒子を外添処理する際の条件を表5に示す通りに変更した。それ以外はトナー30の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー31~34を得た。
【0137】
<トナー35の製造例>
トナー34の製造例において、用いるトナー粒子の種類をトナー粒子A9に変更した。それ以外はトナー34の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー35を得た。
【0138】
<比較例>
<トナー36~42の製造例>
トナー1の製造例において、用いるトナー粒子および酸化鉄粒子の種類を、それぞれ表5に示す通りに変更した。それ以外はトナー1の製造例と同じ装置および同じ条件で製造し、トナー36~42を得た。
【0139】
【0140】
上記で製造した各トナーについて、先に述べた方法により決定した各物性値を表6に示す。
【0141】
【0142】
<評価>
HP LaserJet Enterprise M609dnを、高速機での定着性評価を考慮して、プロセススピードを500mm/secに改造して使用した。また、外部電源を接続して転写バイアスを変えられるように改造し、以下のようにして定着フィルム汚れ、擦り定着性および転写抜けの評価を行った。
【0143】
<評価1:定着フィルム汚れの評価>
定着フィルム汚れの評価は、常温常湿環境においてベタ黒画像を連続で50枚画出しした直後にベタ白画像を3枚画出しし、ベタ白画像の汚れ具合で判断した。
ベタ黒画像のような高印字の画像を定着すると、定着フィルムと離型しきらないトナーが一部、定着フィルムに付着したままとなる。その直後にベタ白画像を印字すると、定着フィルム上のトナーが紙に移行して紙上に汚れとして顕在化する。
上記の通りにして得たベタ白画像を光学顕微鏡で確認し、以下の基準で評価した。評価結果を表6に示す。
A:汚れがない。
B:汚れがあるが点状のもののみ。
C:汚れがあるが軽微なものが2か所以上ある。
D:汚れがあり、軽微なものが全面にある、またはすぐに分かる明確な汚れが見られる。
【0144】
<評価2:擦り定着性の評価>
擦り定着性は、常温常湿環境においてベタ黒画像を出力し、消しゴム摺擦前後での濃度低下率を測定することにより評価した。
定着画像に対し、消しゴム(製品名:MONO、トンボ鉛筆社製)を用いて300gの荷重で摺擦耐性を試験した。消しゴムで10往復摺擦した前後でのベタ画像の濃度低下率を測定し、以下の基準で擦り定着性を評価した。低下率が低い値であるほど、擦り定着性が良好であることを示している。評価結果を表6に示す。
A:濃度低下率が0%以上3.0%以下
B:濃度低下率が3.1%以上10.0%以下
C:濃度低下率が10.1%以上15.0%以下
D:濃度低下率が15.1%以上
【0145】
<評価3:転写抜けの評価>
通常、転写バイアスが高いと放電が起きやすく、転写抜けを厳しく評価できる。
また、一般に高湿度環境下、かつ同環境で放置した厚紙を使用した場合、転写性は厳しい。
厚紙(キヤノン社製、95g/m2)を用い、高温高湿環境下(32.5℃/80%RH)にて、通常の転写バイアス(0.5kV)で印字率が2%の横線を1枚間欠モードで1500枚画出しした。1500枚の画出し後、ベタ黒画像を1枚画出しした。その後、転写バイアスを1.5kVに設定し、ベタ黒画像を出力した。
転写抜けは、転写バイアスを1.5kVに変更して出力したベタ黒画像を目視で観察して以下の基準により評価した。評価結果を表6に示す。
A:転写抜けが確認されない
B:濃度のムラが一部ある
C:濃度のムラが全面に見られる
D:ベタ黒画像上に白く抜けた部分が見られる
【0146】
【符号の説明】
【0147】
11 電極
12 誘電体