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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】原子層堆積装置および原子層堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/455 20060101AFI20241216BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20241216BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C23C16/455
H01L21/316 X
H01L21/31 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020199542
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087554
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520472664
【氏名又は名称】明電ナノプロセス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】亀田 直人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 崇之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 綾香
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/170482(WO,A1)
【文献】特開2008-244142(JP,A)
【文献】特開2015-073020(JP,A)
【文献】特開2008-038200(JP,A)
【文献】特開2013-076113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/455
H01L 21/316
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成膜対象物を出し入れ自在に収容可能なチャンバと、
チャンバに収容された被成膜対象物の被成膜面に対向して設けられているシャワーヘッドと、
チャンバ内にシャワーヘッドを介してガスを供給するガス供給部と、
チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出し、当該チャンバ内の減圧状態を維持するガス排出部と、
を備えた原子層堆積装置を用い、当該原子層堆積装置のチャンバ内における被成膜対象物の被成膜面に酸化膜を形成する方法であって、
前記原子層堆積装置において、シャワーヘッドは、
被成膜面に対向しているガス供給面と、
ガス供給面において同心円状に位置する複数個の円形状仮想線上のうち、それぞれ異なる円形状仮想線上に設けられている原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔と、
を備え、
原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線と、酸化剤ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線とは、前記各円形状仮想線の中心点から外周側に向かって順に交互に配列されており、
原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔の各噴出孔は、それぞれの円形状仮想線上において周方向に沿って所定ピッチで複数個設けられ、
各円形状仮想線上に設けられる噴出孔の個数は、各円形状仮想線の中心点から外周側に近づくに連れて増加し、
ガス供給部は、
シャワーヘッドを介して、原料ガスをチャンバ内に供給する原料ガス供給ラインと、
シャワーヘッドを介して、少なくともオゾンガスを酸化剤ガスとしてチャンバ内に供給する酸化剤供給ラインと、
を備えており、
酸化膜を構成する元素を含む原料ガスをチャンバ内に供給して当該原料ガスを封止し、被成膜面に当該原料ガスの吸着層を形成する原料ガス供給工程と、
原料ガス供給工程で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面に吸着することで生じたガスと、を当該被成膜面から除去する原料ガスパージ工程と、
ゾンガスをチャンバ内に供給して当該オゾンガスを封止し、被成膜面に形成された吸着層を酸化する酸化剤供給工程と、
酸化剤供給工程で供されたオゾンガスの余剰ガスと、原料ガスの吸着層を酸化することで生じたガスと、を被成膜面から除去する酸化剤パージ工程と、
を有することを特徴とする原子層堆積方法。
【請求項2】
被成膜対象物を出し入れ自在に収容可能なチャンバと、
チャンバに収容された被成膜対象物の被成膜面に対向して設けられているシャワーヘッドと、
チャンバ内にシャワーヘッドを介してガスを供給するガス供給部と、
チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出し、当該チャンバ内の減圧状態を維持するガス排出部と、
を備えた原子層堆積装置を用い、当該原子層堆積装置のチャンバ内における被成膜対象物の被成膜面に酸化膜を形成する方法であって、
前記原子層堆積装置において、シャワーヘッドは、
被成膜面に対向しているガス供給面と、
ガス供給面において同心円状に位置する複数個の円形状仮想線上のうち、それぞれ異なる円形状仮想線上に設けられている原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔と、
を備え、
原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線と、酸化剤ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線とは、前記各円形状仮想線の中心点から外周側に向かって順に交互に配列されており、
原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔の各噴出孔は、それぞれの円形状仮想線上において周方向に沿って所定ピッチで複数個設けられ、
各円形状仮想線上に設けられる噴出孔の個数は、各円形状仮想線の中心点から外周側に近づくに連れて増加し、
ガス供給部は、
シャワーヘッドを介して、原料ガスをチャンバ内に供給する原料ガス供給ラインと、
シャワーヘッドを介して、少なくともオゾンガスを酸化剤ガスとしてチャンバ内に供給する酸化剤供給ラインと、
を備えており、
前記原子層堆積装置の酸化剤ガス噴出孔は、オゾンガス噴出孔と不飽和炭化水素ガス噴出孔とを含み、
オゾンガス噴出孔および不飽和炭化水素ガス噴出孔は、それぞれ隣接する異なる円形状仮想線上に設けられており、
酸化剤供給ラインは、
シャワーヘッドを介してオゾンガスをチャンバ内に供給するオゾンガス供給ラインと、
シャワーヘッドを介して不飽和炭化水素ガスをチャンバ内に供給する不飽和炭化水素ガス供給ラインと、
を備えており、
酸化膜を構成する元素を含む原料ガスをチャンバ内に供給して当該原料ガスを封止し、被成膜面に当該原料ガスの吸着層を形成する原料ガス供給工程と、
原料ガス供給工程で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面に吸着することで生じたガスと、を当該被成膜面から除去する原料ガスパージ工程と、
オゾンガスと不飽和炭化水素ガスをチャンバ内に供給して当該オゾンガスと当該不飽和炭化水素ガスを封止し、被成膜面に形成された吸着層を酸化する酸化剤供給工程と、
酸化剤供給工程で供されたオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスの余剰ガスと、原料ガスの吸着層を酸化することで生じたガスと、を被成膜面から除去する酸化剤パージ工程と、
を有することを特徴とする原子層堆積方法。
【請求項3】
酸化剤供給工程によりチャンバ内に供給するオゾンガスの濃度は、80体積%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の原子層堆積方法。
【請求項4】
各噴出孔は、
前記中心点から外周側に向かって延在する放射状仮想線を基準にして、それぞれの円形状仮想線の周方向に対して互いに偏倚した位置に設けられていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項5】
各円形状仮想線における前記ピッチは、それぞれ隣接する他の円形状仮想線上の噴出孔との最短距離の1/2以上2倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項6】
各円形状仮想線における前記ピッチは、被成膜面とガス供給面との間の距離以下に設定されていることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項7】
各円形状仮想線において同一種類の噴出孔が設けられている円形状仮想線のうち、隣接する同士の直径差は、被成膜面とガス供給面との間の距離の2倍以下に設定されていることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項8】
原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線のうち、前記中心点から外周側に向かって延在する放射状仮想線の延在方向の最外周側に位置する円形状仮想線は、被成膜面の外周側よりも当該放射状仮想線の延在方向に偏倚して位置し、
当該最外周側の円形状仮想線に設けられている噴出孔から原料ガスが供給されることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項9】
原料ガス供給ラインは、
原料ガス供給ラインに設けられたバッファ部開閉弁の開閉により、当該原料ガス供給ライン内の原料ガスを蓄積して封止自在、かつ当該蓄積した原料ガスをチャンバ内に供給自在な原料ガスバッファ部と、
原料ガスバッファ部内のガス圧力を計測する原料ガスバッファ部圧力計と、
を備えていることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項10】
原料ガスバッファ部圧力計は、
原料ガスバッファ部の上流側に設けられている上流側圧力計と、
バッファ部開閉弁の下流側に設けられている下流側圧力計と、を有していることを特徴とする請求項記載の原子層堆積方法
【請求項11】
前記原子層堆積装置は、原料ガスバッファ部内に蓄積する原料ガス量を上流側圧力計および下流側圧力計の計測値の変化量に基づいて制御する原料ガス量制御部を、更に備えていることを特徴とする請求項10記載の原子層堆積方法
【請求項12】
原料ガス量制御部は、
バッファ部開閉弁が閉状態における上流側圧力計の計測値から当該閉状態の下流側圧力計の計測値を差し引いた差引値と、
前記閉状態のバッファ部開閉弁を開状態に移行した場合の上流側圧力計の計測値の変化量と、
前記開状態を保持している時間と、
原料ガスバッファ部の容積と
に基づいて原料ガス量を適宜制御することを特徴とする請求項11記載の原子層堆積方法
【請求項13】
原料ガス量制御部は、前記差引値を100Pa以下の範囲内とし、前記閉状態のバッファ部開閉弁を開状態に移行した場合の上流側圧力計の計測値の変化量が100Pa以内となるように、当該バッファ開閉弁を開閉制御することを特徴とする請求項12記載の原子層堆積方法
【請求項14】
原料ガス供給ラインにおける原料ガスバッファ部の下流側に、当該原料ガス供給ラインと連通状態または遮断状態に切り替え可能で当該原料ガスバッファ部の下流側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給ラインが備えられていることを特徴とする請求項13の何れかに記載の原子層堆積方法
【請求項15】
原料ガス供給工程、原料ガスパージ工程、酸化剤供給工程、酸化剤パージ工程の各工程によるサイクルを複数回行い、各原料ガス供給工程のうち少なくとも1工程と残りの工程とにおいて、それぞれ異なる種類の原料ガスを被成膜対象物に供給することを特徴とする請求項1~14の何れかに記載の原子層堆積方法。
【請求項16】
酸化膜は、Al、HfO、TiO、ZnO、Ta、Ga、MoO、RuO、SiO、ZrO、Yのいずれかの吸着層を含む、ことを特徴とする請求項15の何れかに記載の原子層堆積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積装置および原子層堆積方法に関するものであって、例えば半導体デバイス等に適用可能な薄膜を形成する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(例えば、CPUの回路)等の先端デバイスの薄膜を形成(以下、単に成膜と適宜称する)する手法としては、蒸着、スパッタリング、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)が代表的である。なかでも、ALDは、段差被覆性と緻密性に最も優れており、最先端デバイスの薄膜形成手段としては必須のものとなっている(例えば、特許文献1)。
【0003】
ALDでは、主に、被成膜対象物(例えば、シリコンウエハ)が備えられたチャンバ(真空容器等)全体を真空排気する工程、チャンバ内にALDの原料ガス(例えば、TMA(トリメチルアルミニウム))を導入する工程、チャンバから原料ガスを除去する工程、チャンバに原料ガスの酸化剤(例えば、水蒸気)を供給する工程、の4つの工程が繰り返し行われる。チャンバ内に原料ガスを導入し、当該チャンバ内に原料ガスを満たすことで、被成膜対象物の表面(被成膜面)に1分子層分の原料ガスが吸着し、当該被成膜対象物の被成膜面に原料ガスの分子層が形成される。
【0004】
そして、チャンバ内に原料ガスの酸化剤を供給することで、被成膜面に形成された原料ガスの分子層が酸化され、当該被成膜面に原料ガスの酸化膜(例えば、酸化アルミニウム)の分子層が形成される。前記4つの工程を繰り返し行うことで、繰り返し回数に応じた膜厚を有する薄膜が形成される。
【0005】
ALDによる成膜工程は、成膜温度が高くなってしまう傾向がある。例えば、TMAと水蒸気を十分に反応させるためには、被成膜対象物を比較的高温(例えば300℃~500℃)まで加熱する必要がある。また、最先端デバイスに用いられるGaN、ZnOのような化合物半導体の場合、被成膜面にヘテロエピタキシーやMBE(Molecular Beam Epitaxy)で組成の微妙に異なる薄膜半導体層が数層重ねて形成されることがある。これらの薄膜半導体層は、加熱により組成ずれが発生してしまうおそれがあるため、低温で成膜することが強く求められる。
【0006】
また、他の最先端デバイスでは、ALDによる成膜温度が、室温~100℃が好ましいという考えがある。よって、酸化剤をオゾン(O3)やプラズマ酸素に置き換え、当該酸化剤により発生するラジカルを利用したALDが検討されている。オゾンは熱分解で強力な酸化剤であるOラジカルを発生でき、低温化が可能であったが、それでも被成膜対象物を数百℃に加熱する必要があった。また、最初からOラジカルを供給可能であって最も低温化が可能とされているプラズマ酸素を用いた場合でも、100℃~150℃程度の低温化であり、さらなる低温化が求められている。
【0007】
また、従来のALDによる成膜工程は、成膜時間が長くなる等により成膜効率が低くなってしまう傾向がある。例えば、被成膜面に対し、ALDにより1分子層を成膜するためには、まず当該被成膜面に原料ガスを吸着させ、原料ガスを除去し、当該被成膜面に形成された原料ガス層(吸着層)を酸化する工程を行う必要がある。この工程は、通常数分を要する。例えば、酸化アルミニウムの場合は1分子層の厚みが約0.1nm程度なので、実用的な10nm程度の成膜には約100分子層が必要となり、1分子層あたり30秒としても50分程度もかかってしまう。例えば、CVD等の他の成膜方法であれば、10nm程度の成膜であれば1分以内で成膜可能なことから、他の成膜方法と比較して、ALDの成膜時間の長さは大きなデメリットになるおそれがあった。
【0008】
近年においては、原料ガスや酸化剤等の各種ガスをシャワーヘッドを介して効率良く供給し、ALDによる成膜工程を適宜実施して成膜する手法の検討も行われている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-057014号公報
【文献】特許6677356号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】ニュースリリース 2018年“世界初 ピュアオゾンを使用し常温で酸化膜を作る技術を確立しました”、[オンライン]、2019年7月31日、株式会社明電舎ホームページ、インターネット、〈https://www.meidensha.co.jp/news/news_03/news_03_01/1227605_2469.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
被成膜面に対する原料ガスの吹き付け分布や吹き付け時間等によって、当該原料ガスの吸着分布や吸着量が変化することとなる。そして、被成膜面に対する酸化膜の膜厚分布やALDの成膜分子層数は、前記吸着分布や吸着量によって定まることとなる。
【0012】
このため、例えば単なるシャワーヘッドを介してチャンバ内に原料ガスを供給すると、特に成膜温度がALDのウィンドウ温度(自己制御により分子吸着が1分子層で安定する温度)以下では、被成膜面に対する酸化膜の膜厚に偏りが生じることも考えられ、吸着量が少ない部分においては1分子層毎のALDによる成膜の実現が困難となるおそれがある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被成膜面に対する原料ガスの吸着量の向上や当該被成膜面に形成する酸化膜の膜厚均一度の向上に貢献する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る原子層堆積装置および原子層堆積方法は、前記の課題の解決に貢献できるものであり、原子層堆積装置の一態様としては、被成膜対象物を出し入れ自在に収容可能なチャンバと、チャンバに収容された被成膜対象物の被成膜面に対向して設けられているシャワーヘッドと、チャンバ内にシャワーヘッドを介してガスを供給するガス供給部と、チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバ外に排出し、当該チャンバ内の減圧状態を維持するガス排出部と、を備えている。
【0015】
シャワーヘッドは、被成膜面に対向しているガス供給面と、ガス供給面において同心円状に位置する複数個の円形状仮想線上のうち、それぞれ異なる円形状仮想線上に設けられている原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔と、を備えている。
【0016】
そして、原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線と、酸化剤ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線とは、前記各円形状仮想線の中心点から外周側に向かって順に交互に配列されており、原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔の各噴出孔は、それぞれの円形状仮想線上において周方向に沿って所定ピッチで複数個設けられ、各円形状仮想線上に設けられる噴出孔の個数は、各円形状仮想線の中心点から外周側に近づくに連れて増加していることを特徴とする。
【0017】
また、各噴出孔は、前記中心点から外周側に向かって延在する放射状仮想線を基準にして、それぞれの円形状仮想線の周方向に対して互いに偏倚した位置に設けられていることを特徴としても良い。
【0018】
また、各円形状仮想線における前記ピッチは、それぞれ隣接する他の円形状仮想線上の噴出孔との最短距離の1/2以上2倍以下に設定されていることを特徴としても良い。
【0019】
また、各円形状仮想線における前記ピッチは、被成膜面とガス供給面との間の距離以下に設定されていることを特徴としても良い。
【0020】
また、各円形状仮想線において同一種類の噴出孔が設けられている円形状仮想線のうち、隣接する同士の直径差は、被成膜面とガス供給面との間の距離の2倍以下に設定されていることを特徴としても良い。
【0021】
また、原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線のうち、前記中心点から外周側に向かって延在する放射状仮想線の延在方向の最外周側に位置する円形状仮想線は、被成膜面の外周側よりも当該放射状仮想線の延在方向に偏倚して位置し、当該最外周側の円形状仮想線に設けられている噴出孔から原料ガスが供給されることを特徴としても良い。
【0022】
また、ガス供給部は、シャワーヘッドを介して、原料ガスをチャンバ内に供給する原料ガス供給ラインと、シャワーヘッドを介して、少なくともオゾンガスを酸化剤ガスとしてチャンバ内に供給する酸化剤供給ラインと、を備えていることを特徴としても良い。
【0023】
また、原料ガス供給ラインは、原料ガス供給ラインに設けられたバッファ部開閉弁の開閉により、当該原料ガス供給ライン内の原料ガスを蓄積して封止自在、かつ当該蓄積した原料ガスをチャンバ内に供給自在な原料ガスバッファ部と、原料ガスバッファ部内のガス圧力を計測する原料ガスバッファ部圧力計と、を備えていることを特徴としても良い。
【0024】
また、原料ガスバッファ部圧力計は、原料ガスバッファ部の上流側に設けられている上流側圧力計と、バッファ部開閉弁の下流側に設けられている下流側圧力計と、を有していることを特徴としても良い。
【0025】
また、原料ガスバッファ部内に蓄積する原料ガス量を上流側圧力計および下流側圧力計の計測値の変化量に基づいて制御する原料ガス量制御部を、更に備えていることを特徴としても良い。
【0026】
また、原料ガス量制御部は、バッファ部開閉弁が閉状態における上流側圧力計の計測値から当該閉状態の下流側圧力計の計測値を差し引いた差引値と、前記閉状態のバッファ部開閉弁を開状態に移行した場合の上流側圧力計の計測値の変化量と、前記開状態を保持している時間と、原料ガスバッファ部の容積と、に基づいて原料ガス量を適宜制御することを特徴としても良い。
【0027】
また、原料ガス量制御部は、前記差引値を100Pa以下の範囲内とし、前記閉状態のバッファ部開閉弁を開状態に移行した場合の上流側圧力計の計測値の変化量が100Pa以内となるように、当該バッファ開閉弁を開閉制御することを特徴としても良い。
【0028】
また、原料ガス供給ラインにおける原料ガスバッファ部の下流側に、当該原料ガス供給ラインと連通状態または遮断状態に切り替え可能で当該原料ガスバッファ部の下流側に不活性ガスを供給する不活性ガス供給ラインが備えられていることを特徴としても良い。
【0029】
原子層堆積方法の一態様は、前記原子層堆積装置を用い、当該原子層堆積装置のチャンバ内における被成膜対象物の被成膜面に酸化膜を形成する方法であって、前記原子層堆積装置の酸化剤ガス噴出孔は、オゾンガス噴出孔と不飽和炭化水素ガス噴出孔とを含み、オゾンガス噴出孔および不飽和炭化水素ガス噴出孔は、それぞれ隣接する異なる円形状仮想線上に設けられており、酸化剤供給ラインは、シャワーヘッドを介してオゾンガスをチャンバ内に供給するオゾンガス供給ラインと、シャワーヘッドを介して不飽和炭化水素ガスをチャンバ内に供給する不飽和炭化水素ガス供給ラインと、を備えている。
【0030】
そして、酸化膜を構成する元素を含む原料ガスをチャンバ内に供給して、被成膜面に当該原料ガスの吸着層を形成する原料ガス供給工程と、原料ガス供給工程で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面に吸着することで生じたガスと、を当該被成膜面から除去する原料ガスパージ工程と、オゾンガスと不飽和炭化水素ガスをチャンバ内に供給し、被成膜面に形成された吸着層を酸化する酸化剤供給工程と、酸化剤供給工程で供されたオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスの余剰ガスと、原料ガスの吸着層を酸化することで生じたガスと、を被成膜面から除去する酸化剤パージ工程と、を有することを特徴とする。
【0031】
また、原子層堆積方法の他の態様は、前記原子層堆積装置を用い、当該原子層堆積装置のチャンバ内における被成膜対象物の被成膜面に酸化膜を形成する方法であって、酸化膜を構成する元素を含む原料ガスをチャンバ内に供給して当該原料ガスを封止し、被成膜面に当該原料ガスの吸着層を形成する原料ガス供給工程と、原料ガス供給工程で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面に吸着することで生じたガスと、を当該被成膜面から除去する原料ガスパージ工程と、80体積%以上のオゾンガスをチャンバ内に供給して封止し、被成膜面に形成された吸着層を酸化する酸化剤供給工程と、酸化剤供給工程で供されたオゾンガスの余剰ガスと、原料ガスの吸着層を酸化することで生じたガスと、を被成膜面から除去する酸化剤パージ工程と、を有することを特徴とする。
【0032】
また、原料ガス供給工程、原料ガスパージ工程、酸化剤供給工程、酸化剤パージ工程の各工程によるサイクルを複数回行い、各原料ガス供給工程のうち少なくとも1工程と残りの工程とにおいて、それぞれ異なる種類の原料ガスを被成膜対象物に供給することを特徴としても良い。
【0033】
また、酸化膜は、Al23、HfO2、TiO2、ZnO、Ta23、Ga23、MoO3、RuO2、SiO2、ZrO2、Y23のいずれかの吸着層を含む、ことを特徴としても良い。
【発明の効果】
【0034】
以上示したように本発明によれば、被成膜面に対する原料ガスの吸着量の向上や当該被成膜面に形成する酸化膜の膜厚均一度の向上に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例におけるALD装置の主な構成の一例を説明するための概略構成図。
図2】シャワーヘッドHの一例を説明するための概略構成図(ガス供給面H1を臨んだ図)。
図3図2の一部(主に仮想線i22の部分)を示す拡大図。
図4】ALD装置の構成例を説明するための概略構成図。
図5】酸化膜21の形成に係る成膜工程図。
図6】実施例1による酸化膜21の形成例を示す反応模式図。
図7】実施例1による成膜サイクルの一例を説明するための経過時間に対する圧力変化特性図。
図8】実施例2による酸化膜21の形成例を示す反応模式図。
図9】実施例2による成膜サイクルの一例を説明するための経過時間に対する圧力変化特性図。
図10】実施例3による酸化膜21の断面観察結果を説明するための各種断面画像。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態の原子層堆積装置および原子層堆積方法(以下、ALD装置およびALD方法と適宜称する)は、例えば単なるシャワーヘッドを介してチャンバ内に原料ガスを供給する従来のALD方法(以下、単に従来ALD方法と適宜称する)とは、全く異なるものである。
【0037】
すなわち、本実施形態のALD装置およびALD方法は、チャンバに収容された被成膜対象物の被成膜面に対向して設けられるシャワーヘッドにおいて、被成膜面に対向しているガス供給面と、当該ガス供給面において同心円状に位置する複数個の円形状仮想線上のうち、それぞれ異なる円形状仮想線上に設けられている原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔と、を備えているものとする。
【0038】
また、原料ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線と、酸化剤ガス噴出孔が設けられている円形状仮想線とは、各円形状仮想線の中心点から外周側に向かって順に交互に配列されているものとする。また、原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔の各噴出孔は、それぞれの円形状仮想線上において周方向に沿って所定ピッチで複数個設けられ、当該各円形状仮想線上に設けられる噴出孔の個数は、各円形状仮想線の中心点から外周側に近づくにつれて増加しているものとする。
【0039】
このようなシャワーヘッドによれば、被成膜面に対する原料ガスの吸着量を向上し易くなり、酸化膜の膜厚に偏りが生じないように抑制可能となる。そして、1分子層毎のALDによる成膜を所望通りに実現し易くなる。
【0040】
例えば、酸化剤ガスとしてオゾンガスと不飽和炭化水素ガスをチャンバに供給する場合には、シャワーヘッドの酸化剤ガス噴出孔は、オゾンガス噴出孔と不飽和炭化水素ガス噴出孔とを含んだ構成とする。そして、当該オゾンガス噴出孔および不飽和炭化水素ガス噴出孔の両者をそれぞれ隣接する異なる円形状仮想線上に設け、それら両者に隣接する円形状仮想線上に原料ガス噴出孔を設けるようにすることが挙げられる(例えば後述の図2に示すように、仮想線i11~i51の中心点i0から外周側に向かって、噴出孔h3~h1の順で当該噴出孔h3~h1をそれぞれ異なる仮想線上に設ける)。
【0041】
このようなシャワーヘッドを介してオゾンガスと不飽和炭化水素ガスの両者をチャンバに適宜供給することにより、当該両者の反応によりOH*(OHラジカル)が発生し、被成膜面に形成された原料ガス層(吸着層)を酸化することが可能となる。
【0042】
一方、酸化剤ガスとしてオゾンガスのみを用いる場合には、例えばシャワーヘッドの酸化剤ガス噴出孔は、オゾンガス噴出孔のみを有した構成としても良い。この場合、原料ガス噴出孔およびオゾンガス噴出孔の両者を、それぞれ隣接する異なる円形状仮想線上に設けるようにしても良い(例えば後述の図2に示す仮想線i11~i51の場合、中心点i0から外周側に向かって、各噴出孔h1,h3を交互にそれぞれ異なる仮想線上に設ける)。
【0043】
このようなシャワーヘッドを介して高濃度のオゾンガス(例えば80体積%以上のオゾンガス)をチャンバ内に供給(例えば供給したオゾンガスをチャンバ内に封止)することにより、前記のように酸化剤ガスにより発生するラジカルを利用しなくても、被成膜面に形成された原料ガス層を十分酸化することが可能となる。
【0044】
本実施形態のALD装置およびALD方法は、前述のようにガス供給面の同心円状の円形状仮想線上のうち、それぞれ異なる円形状仮想線上に設けられている原料ガス噴出孔および酸化剤ガス噴出孔が、それぞれの円形状仮想線上で周方向に沿って所定ピッチで複数個設けられ、各円形状仮想線の中心点から外周側に向かって延在する放射状仮想線を基準にして、それぞれの円形状仮想線の周方向に対して互いに偏倚した位置に設けられているものであれば良い。すなわち、種々の分野(例えば、ALD,CVD等による成膜分野,改質分野,チャンバ分野,オゾンガス分野,供給ライン分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として以下に示す実施例が挙げられる。
【0045】
なお、以下の実施例では、例えば互いに同様の内容について同一符号を引用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。
【0046】
≪実施例≫
<ALD装置1の主な構成例>
図1は、実施例によるALD装置1の概略を示すものである。このALD装置1は、被成膜対象物2を出し入れ自在に収容可能なチャンバ(反応容器)3と、そのチャンバ3内に収容された被成膜対象物2の被成膜面20に対向して設けられているシャワーヘッドHと、チャンバ3内にシャワーヘッドHを介して各種ガス(原料ガス,酸化剤ガス等)を供給するガス供給部4と、チャンバ3内のガスを吸気して当該チャンバ3外に排出するガス排出部5と、を主として備えている。
【0047】
チャンバ3内に収容した被成膜対象物2は、チャンバ3内の支持部31により適宜支持し、例えば当該被成膜対象物2の被成膜面20の中心点が後述の図2に示すような中心点h0と対向するように、位置調整する。
【0048】
ガス供給部4は、例えば後述の図4に示すような酸化剤供給ラインL(図4ではオゾンガス供給ラインL1,不飽和炭化水素ガス供給ラインL2),原料ガス供給ラインL3を備えており、それら酸化剤供給ラインL.原料ガス供給ラインL3からチャンバ3内に対し、シャワーヘッドHを介して酸化剤ガス(図4ではオゾンガス,不飽和炭化水素ガス),原料ガスを供給できるように構成されている。
【0049】
ガス排出部5は、例えばチャンバ3におけるシャワーヘッドHから距離を隔てた位置(図1ではチャンバ3の図示側方側の位置)に設けられる。このガス排出部5は、チャンバ3内のガスを吸気して当該チャンバ3外に排出し、当該チャンバ3内を減圧状態(例えばチャンバ3内が真空環境下となるような状態)に維持したり、当該チャンバ3内においてガスを封止することが可能な構成とする。ガス排出部5の具体例としては、排気管5aの他に、後述の図4に示すように開閉弁5b,真空ポンプ5c等を有した構成が挙げられる。
シャワーヘッドHは、例えば図1に示すように、チャンバ3の開口部を塞ぐ蓋6に備えられることが挙げられる。図1に示す蓋6の場合、後述の酸化剤供給ラインLの配管L11,L12と、後述の原料ガス供給ラインL3の配管L31と、が備えられている。
【0050】
図1に示すシャワーヘッドHの場合、当該シャワーヘッドHにおいて被成膜面20と対向しているガス供給面H1に、ガス供給部4から供給されるオゾンガス、不飽和炭化水素ガス、原料ガスを噴き出す噴出孔h1~h3を、備えている。
【0051】
また、蓋6には、ガス供給部4から供給されるオゾンガス、不飽和炭化水素ガス、原料ガス毎にガスバッファ空間6a~6cが形成されており、このガスバッファ空間6a~6cを通ることにより、シャワーヘッドHの各孔h1~h3から噴き出すガスの圧力や流量の均等化が図られるようになる。
【0052】
<シャワーヘッドH>
シャワーヘッドHにおいては、例えば図2に示すような平坦なガス供給面H1を有したものを適用し、当該図2図3および表1に示すように、酸化剤ガス噴出孔(オゾンガス噴出孔h1,不飽和炭化水素ガス噴出孔h2),原料ガス噴出孔h3を設けることが挙げられる。
【0053】
【表1】
【0054】
図2等に示すガス供給面H1の場合、当該ガス供給面H1において同心円状に位置し直径の異なる複数個の円形状の仮想線i11~i51(以下、必要に応じて纏めて単に仮想線iと適宜称する)が、描写されている。そして、噴出孔h1~h3においては、各仮想線i上のうち、それぞれ異なる仮想線i上に設けられている。
【0055】
噴出孔h1~h3それぞれが設けられている各仮想線iは、各仮想線iの中心点i0から外周側に向かってh3~h1の順で繰り返すように配列されている。そして、各仮想線i上それぞれに設けられる噴出孔h1~h3の個数は、各仮想線iの中心点i0から外周側に近づくに連れて増加するように設定されている。
【0056】
具体的に、表1に示す噴出孔個数nにおいては、表1に示す昇順で大きくなるように設定(n11<n12<n13<……<n42<n43<n51の関係を満たすように設定)することが挙げられる。また、表1に示す仮想線の直径φ,円周長Cにおいても、同様に表1に示す昇順で大きくなるように設定することが挙げられる。
【0057】
このようなシャワーヘッドHを適用することにより、ガス供給面の各噴出孔h1~h3から噴き出す各ガス(原料ガス,酸化剤ガス)を、被成膜面20に対して均一に分散して吹き付け易くなり、その被成膜面に対する原料ガスの吸着量も向上し易くなる等の作用効果を奏することとなる。
【0058】
このような作用効果をより発揮し易くする等の目的で、シャワーヘッドHを適宜設計変更しても良く、その一例として以下に示すような変更が挙げられる。
【0059】
例えば、各仮想線iそれぞれに設けられる噴出孔h1~h3は、各仮想線iの中心点h0から外周側に延在する放射状仮想線(図示省略)を基準にして、互いに仮想線iの周方向に偏倚した位置(同一の放射状仮想線上に一致しない位置)に設けるようにすることが好ましい。
【0060】
また、噴出孔h1~h3は、例えば図2図3図3では、代表して仮想線i22に係る内容のみを描写)に示すように各仮想線iの周方向(図3では円周長C方向)に沿って所定ピッチdで複数個設け、仮想線iの中心点h0から外周側に近づくに連れて当該噴出孔h1~h3の個数が増加するように設けることが挙げられる。
【0061】
また、各仮想線iに設けられる噴出孔h1~h3それぞれのピッチdは、隣接する他の仮想線i上の噴出孔との最短距離t(例えば図3の場合、仮想線i22上の噴出孔h2と、仮想線i23上の噴出孔h1と、の最短距離t)の1/2以上2倍以下に設定することが挙げられる。あるいは、各仮想線iにおけるピッチdにおいて、被成膜面20とガス供給面H1との間の距離(以下、単に被成膜面ギャップと適宜称する)以下となるように設定することが挙げられる。
【0062】
各仮想線iにおいては、当該各仮想線iの隣接する同士の直径差が10mm~20mmの範囲内に設定することが挙げられる。これにより、例えば噴出孔h1~h3のうち同一種類のものが設けられている仮想線(例えば噴出孔h3が設けられている仮想線i11,i21,i31,i41,i51)のうち、隣接する同士(例えば仮想線i11,i21)の直径差は、30~60mmの範囲内となる。したがって、隣接する同士の直径差は、例えば被成膜面ギャップが30mmとすると、当該被成膜面ギャップの2倍以下に設定できることとなる。
【0063】
また、各仮想線iのうち最外周側(図2では仮想線i51;以下、単に最外周側仮想線と適宜称する)には、噴出孔h3が設けられているようにする。この最外周側仮想線は、被成膜面20の外周側よりも前記放射状仮想線の延在方向に偏倚して位置するように設定することが挙げられる。具体的には、最外周側仮想線の直径を、被成膜面20の直径の同等以上に設定(例えば0~22mm大きく設定)することが挙げられる。この最外周側仮想線に設けられる噴出孔h3からは、原料ガスを供給することが望ましい。
【0064】
噴出孔h1~h3の形状等は、特に限定されるものではないが、例えば開口形状を円形状,楕円状,矩形状,スリット状にしたり、開口径を0.5~1mmの範囲内で適宜設定することが挙げられる。
【0065】
噴出孔h1~h3は、単にガス供給面H1の仮想線i上に形成するだけでなく、当該仮想線i以外の場所にも適宜設けても良い。その一例としては、中心点h0に噴出孔h1~h3の何れかを設けることが挙げられる。
【0066】
<ALD装置1の具体的な構成例>
図4は、ALD装置1の具体例な構成例を説明するものである。図4のALD装置1において、ガス供給部4は、シャワーヘッドHを介して少なくともオゾンガスを酸化剤ガスとしてチャンバ3内に供給する酸化剤供給ラインLと、当該シャワーヘッドHを介して原料ガスをチャンバ3内に供給する原料ガス供給ラインL3と、を備えている。
【0067】
図4の酸化剤供給ラインLの場合、オゾンガス発生装置G1のオゾンガス(例えば80体積%以上のオゾンガス)をシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給するオゾンガス供給ラインL1と、不飽和炭化水素ガス供給装置G2の不飽和炭化水素ガスをシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給する不飽和炭化水素ガス供給ラインL2と、を備えたものとなっている。
【0068】
<オゾンガス供給ラインL1,不飽和炭化水素ガス供給ラインL2>
オゾンガス供給ラインL1は、オゾンガス発生装置G1とシャワーヘッドHとの間を接続し、当該オゾンガス発生装置G1のオゾンガスを供給可能な配管L11を、備えている。この配管L11は、当該配管L11内のガス流を流通可能状態(開状態)または流通遮断状態(閉状態)に切り替え自在な開閉弁V1を、備えている。
【0069】
不飽和炭化水素ガス供給ラインL2は、不飽和炭化水素ガス供給装置G2とシャワーヘッドHとの間を接続し、当該不飽和炭化水素ガス供給装置G2の不飽和炭化水素ガスを供給可能な配管L21を、備えている。この配管L21は、当該配管L21内のガス流を流通可能状態(開状態)または流通遮断状態(閉状態)に切り替え自在な開閉弁V2を、備えている。
【0070】
<原料ガス供給ラインL3>
原料ガス供給ラインL3は、原料ガス供給装置G3とシャワーヘッドHとの間を接続し、当該原料ガス供給装置G3の原料ガスを供給可能な配管L31を、備えている。この配管L31は、当該配管L31内のガス流を流通可能状態(開状態)または流通遮断状態(閉状態)に切り替え自在な原料ガス開閉弁V2(図1中では後述の原料ガスバッファ部L32の下流側に位置するバッファ開閉弁V3aと、その開閉弁V3aの下流側に位置する開閉弁V3b)と、当該開閉弁V3の開閉により当該原料ガス供給ラインL2内の原料ガス(チャンバ3よりも上流側の位置の原料ガス)を蓄積して封止自在かつ当該蓄積した原料ガスをチャンバ3内に供給自在な原料ガスバッファ部L32と、を備えている。
【0071】
また、配管L31は、バッファ部L32の上流側に位置し当該バッファ部L32内のガス圧力を計測可能な上流側圧力計P3aと、バッファ部L32の下流側に位置し当該下流側のガス圧力を計測可能な下流側圧力計P3bと、を備えている。なお、図1の配管L21の場合、後述の不活性ガス供給ラインL4も備えている。
【0072】
<不活性ガス供給ラインL4>
不活性ガス供給ラインL4は、不活性ガス供給装置G4と原料ガス供給ラインL3におけるバッファ部L32の下流側との間を接続し、当該不活性ガス供給装置G3の不活性ガスを供給可能な不活性ガス配管L41を、備えている。この配管L41は、当該配管L41内のガス流を流通可能状態(開状態)または流通遮断状態(閉状態)に切り替え自在な開閉弁V4(図4中では後述のマスフローコントローラL42の下流側に位置する開閉弁V4)と、当該配管L41内のガス流量を制御可能なマスフローコントローラL42と、を備えている。
【0073】
このような不活性ガス供給ラインL4において、例えば開閉弁V4を適宜開閉動作し、不活性ガス供給装置G4からの不活性ガスの供給量をマスフローコントローラL42によって適宜制御することにより、当該不活性ガスを原料ガス供給ラインL3におけるバッファ部L32の下流側からチャンバ3内に供給できることとなる。これにより、前記不活性ガスを原料ガスのキャリアガスとして供給したり、各種パージ工程等におけるパージガスとして供給することが可能となる。
【0074】
<開閉弁V1~V4>
開閉弁V1~V4においては、種々の態様を適用することが可能であり、特に限定されるものではないが、例えば自動開閉構造,高速開閉構造,三方弁構造等を適宜適用することが挙げられる。図4の場合、原料ガス供給ラインL3の開閉弁V3aに三方弁構造のものが適用され、その開閉弁V3aを介して、不活性ガス供給ラインL4が原料ガス供給ラインL3におけるバッファ部L32の下流側に接続されている。図4の開閉弁V3aの場合、図中の「△」は不活性ガス供給ラインL4からの不活性ガスが常時流通可能状態であることを示し、図中「▲」印は開閉動作する箇所を示している。
【0075】
<バッファ部L32>
バッファ部L32は、配管L31を流通する原料ガスを受容して所定圧力で適宜蓄積でき、その所定圧力の原料ガスをチャンバ3内に適宜供給できる態様であれば良く、特に限定されるものではない。一例としては、バッファ部L32内の容積を、チャンバ3の容積の1/50以上程度(具体例としてはチャンバ3の容積が10000cc以下の場合にバッファ部L32の容積を1000cc以下、更なる具体例としてはチャンバ3の容積が7000ccの場合にバッファ部L32の容積を250cc)とし、当該バッファ部L32内のガス圧を1所定圧力で保持できる態様が挙げられる。
【0076】
バッファ部L32内に蓄積する原料ガス量(チャンバ3内に供給する原料ガス量)は、例えば図外の原料ガス量制御部(詳細を後述する)により、圧力計P3a,P3bの計測値の変化量等に基づいて制御することが可能である(具体的な制御例は後述する)。
【0077】
このような原料ガス供給ラインL3において、例えば開閉弁V3を適宜開閉動作し、バッファ部L32内のガス圧を圧力計P3a,P3bに基づいて適宜制御することにより、当該バッファ部L32内に所定圧力および所定濃度の原料ガスを蓄積し、その原料ガスをチャンバ3内に供給できることとなる。
【0078】
この原料ガスをチャンバ3内に供給した後、バッファ部L32内に残存した原料ガスは、次回の原料ガス蓄積動作時に、原料ガス供給装置G3からの新たな原料ガスと共に、当該バッファ部L32内に蓄積して利用可能(改めてチャンバ3内に供給可能)である。
【0079】
なお、バッファ部L32内に蓄積した原料ガスをチャンバ3内に供給する場合、当該バッファ部L32とチャンバ3との両者が連通状態となるが、当該両者間の圧力が平衡状態に到達するまでには、配管圧損次第で長い時間を要する可能性がある。
【0080】
このような場合には、バッファ部L32内のガス圧(例えば原料ガスとキャリアガスの混合ガス圧力)を高めたり、平衡状態到達前にチャンバ3へのガス供給を一旦停止して当該チャンバ3内の圧力を保持した状態で、被成膜面20に対する原料ガスの曝露を適宜継続しても構わない。
【0081】
また、原料ガス供給ラインL3においては、チャンバ3に対して複数個並列に設けても良いが、当該各原料ガス供給ラインL3における原料ガスの蒸気圧がそれぞれ異なる場合には、例えば図外の温度調整部(例えば熱電対や赤外線ヒータ等の加熱機構等を有した温度調整部等)により、当該各原料ガス供給ラインL3内をそれぞれ温度調整することが挙げられる。例えば、原料ガスとして後述のTMA,TDMATを供給する2つ原料ガス供給ラインL2がある場合、各配管L21内の温度をそれぞれ50℃,150℃に温度調整することが挙げられる。
【0082】
前記温度調整部においては、単に原料ガス供給ラインL3を温度調整するだけでなく、他の構成要素を温度調整する構成であっても良い。例えば、図4に示すように、二点差線で囲んだ領域内の構成要素を温度調整できる構成が挙げられる。
【0083】
<原料ガス量制御部の構成例>
前記原料ガス量制御部は、例えば圧力計P3a,P3bの計測値の変化量や当該計測値の差(バッファ部L32と当該バッファ部L32の下流側との圧力差)等をモニタリングし、そのモニタリング結果に基づいて原料ガスの蒸気圧調整をしたり不活性ガス供給ラインL4からの不活性ガス量を調整して、当該計測値の差を適宜調整できるように制御可能な構成が挙げられる。
【0084】
例えば、図4に示すALD装置1の場合、まず、開閉弁V3aの「▲」箇所を閉状態にし、不活性ガス供給ラインL4からの不活性ガスをチャンバ3内に定常的に供給すると、圧力計P3aの計測値αから圧力計P3bの計測値βを差し引いた差引値α-βは、α-β>0を満たす状態となる。この状態から、開閉弁V3aの「▲」箇所を開状態に移行すると、圧力計P3aの計測値αが変化することとなる。
【0085】
したがって、原料ガス量制御部においては、前記のように開閉弁V3aを開状態に移行した際(以下、単に開状態体移行時と適宜称する)の圧力計P3aの計測値αの変化量と、当該開状態を保持している時間と、を積算し、その積算値とバッファ部L32の容積とに基づいて原料ガス量を適宜制御することが可能となる。
【0086】
例えば、チャンバ3の容積が10000cc以下,バッファ部L32の容積が1000cc以下であって、不活性ガスをキャリアガスとして原料ガスをチャンバ3内に供給する場合においては、原料ガス量制御部により、差引値α-βを100Pa以下の範囲内の状態で、開状態移行時の圧力計P3aの計測値αの変化量が100Pa以下の範囲内に収まるように、当該開状態移行時の開閉弁V3aを開状態に保持する時間を適宜設定することが挙げられる。
【0087】
具体的には、チャンバ3の容積を500cc、バッファ部L32の容積を100ccとした場合において、原料ガス量制御部により、差引値α-βが40Pa、開状態移行時の圧力計P3aの計測値αの変化量が10Pa、当該開状態移行時の開閉弁V3aを開状態で保持している時間が0.1秒となるように制御し、バッファ部L32に蓄積した原料ガス(例えば後述のTMA)をチャンバ3内に適宜供給してみたところ、当該原料ガス量が近似的に10-5ccであったことを確認できた。この際、チャンバ3内の圧力変化においても圧力計Pによって適宜計測したところ、その計測値の変化量は0.01Pa程度であった。
【0088】
なお、圧力計P3aの計測値αは、原料ガスの蒸気圧により調整し、濃度がほぼ100体積%の原料ガスに係る計測値となるように適宜設定(例えば濃度に応じて適宜減算)したものとする。また、圧力計P3a,P3bは、モニタリング可能な計測値の小数位を高めるために、圧力レンジを適宜選定したものとする。
【0089】
前記確認結果によれば、図4に示すようなALD装置1の原料ガス量制御部において、前記のように圧力計P3aの計測値αの変化量等に基づいて原料ガス量を適宜制御することにより、当該原料ガス量が微量(例えば1cc以下)であっても、精密に制御可能であることが判った。また、チャンバ3内の圧力変化を計測する圧力計Pの計測値は比較的小さいことから、当該圧力計Pによっては原料ガス量の制御が困難であることも確認できた。
【0090】
<被成膜対象物2の一例>
被成膜対象物2においては、ALD装置1を適宜稼動して被成膜面20に所望の酸化膜21を形成できるものであれば良く、その一例として固形状,基板状,粉体状(例えば多数の粒子状の被成膜対象物2の集合体),フィルム状,シート状,布状,繊維状等の種々のものが挙げられる。
【0091】
また、原料ガスと比較的高濃度(80体積%以上)のオゾンガスとを用いて酸化膜を形成する手法では、当該酸化膜を比較的低温で形成することが可能であるため、例えば基板またはフィルム等の場合、Si基板等の比較的耐熱性が高い基板等に限定されることはなく、耐熱性が比較的低い合成樹脂で形成された基板等に酸化膜を形成することもできる。
【0092】
被成膜対象物2が樹脂を用いてなる場合、当該樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂、オレフィン樹脂、ポリプロピレン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いたものが挙げられる。
【0093】
その他、PE(ポリエチレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、POM(ポリオキシメチレン、または、アセタール樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、PA(ポリアミド)、PFA(4フッ化エチレン、パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PI(ポリイミド)、PVD(ポリ二塩化ビニル)等を用いたものも挙げられる。
【0094】
被成膜対象物2の被成膜面20においては、単なる平坦状に形成されたものに限定されず、種々の態様であっても良い。例えば後述の図10に示す被成膜対象物2は、被成膜面20において、複数個のトレンチ溝22により凹凸状の段差等が形成されたものとなっている。
【0095】
また、被成膜対象物2は、例えば成膜性能の向上を図る目的で、図外の温度調整部によって加温や冷却する等により、適宜温度調整しても良い。具体例としては、被成膜面20の成膜温度が室温程度~100℃の範囲内となるように、必要に応じて温度調整することが挙げられる。
【0096】
<支持部31の一例>
チャンバ3内に収容した被成膜対象物2を支持する支持部31は、例えば被成膜面20に対する成膜を妨げないように支持できる態様であれば良く、特に限定されるものではない。
【0097】
<ガス排出部5の一例>
ガス排出部5による排気は、前記のようにチャンバ3内の減圧状態を維持できる態様であれば良く、特に限定されるものではない。
【0098】
図4のガス排出部5の場合、排気管5a,開閉弁5b,真空ポンプ5c等を有した構成となっているが、その他にオゾンキラー(オゾンを分解する除害筒等の除害設備;図示省略)等を適宜有した構成とすることも挙げられる。また、真空ポンプ5cは、オゾンに耐性のある構成(例えば、ドライポンプ)を適用することが好ましい。
【0099】
また、ガス排出部5において複数の排気ラインを設けておき、各工程S1~S4において当該各排気ラインを使い分けるようにしても良い。これにより、各工程S1~S4において排気するガスをそれぞれ専用の除害設備に振り分けて処理することが可能となる。
【0100】
<原料ガスの一例>
原料ガスは、酸化膜を形成する元素(例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、インジウム(In)、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、鉛(Pb)等;以下これらの元素を金属または金属元素という)を構成元素として含む態様が挙げられる。
【0101】
例えば、Si-O結合若しくはSi-C結合を有する有機シリコンまたは金属元素-酸素結合若しくは金属元素-炭素結合を有する有機金属を含有する原料ガスや、有機金属錯体またはケイ素や金属の水素化物等の原料ガスが挙げられる。
【0102】
より具体的には、原料ガスとして、シラン(ケイ化水素の総称)、TEOS(TetraEthyl OrthoSillicate)、TMS(TriMthoxySilane)、TES(TriEthoxySilane)、TMA(TriMethyl Alminium)、TEMAZ(Tetrakis(ethylmethylamino)zirconium)、3DAMAS(トリ・ジメチルアミノ・シラン;SiH[N(CH323)、TDMAT(テトラキス・ジメチルアミノ・チタニウム;Ti[N(CH324)、TDMAH(テトラキス・ジメチルアミノ・ハフニウム;Hf[N(CH324)等を用いたものが挙げられる。また、金属元素1種類だけでなく複数種類の金属元素を含む異種複核錯体(例えば、特開2016-210742等に記載の錯体)を用いたものも挙げられる。
【0103】
<オゾンガスの一例>
オゾンガスは、種々の濃度のものを適用することが可能であるが、オゾン濃度が高いほど好ましい。具体的には、高濃度のオゾンガスにおいて、オゾン濃度(体積%濃度)を80~100体積%とすること好ましい。このような高濃度のオゾンガスは、オゾン含有ガスから蒸気圧の差に基づいてオゾンのみを液化分離した後、再び液化したオゾンを気化させて得ることができる。
【0104】
オゾンガス発生装置G1としては、例えば、特開2001-304756号公報や特開2003-20209号公報の特許文献に開示されているものが挙げられる。このようなオゾンガス発生装置G1は、オゾンと他のガス(例えば、酸素)の蒸気圧の差に基づきオゾンのみを液化分離して高濃度のオゾン(オゾン濃度≒100体積%)を生成している。特に、オゾンのみを液化および気化させるチャンバを複数備えると、これらのチャンバを個別に温度制御することにより、連続的に高濃度のオゾンガスを供給することができる。
【0105】
なお、高濃度のオゾンガスを生成する市販の装置として、例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータ(MPOG-HM1A1)がある。
【0106】
<不飽和炭化水素ガスの一例>
不飽和炭化水素ガスは、エチレンに例示される2重結合を有する炭化水素(アルケン)やアセチレンに例示される3重結合を有する炭化水素(アルキン)が用いられる。不飽和炭化水素としては、エチレンやアセチレンの他に、プロピレン、ブチレン等の低分子量の不飽和炭化水素(例えば、炭素数nが4以下の不飽和炭化水素)が好ましく用いられる。これら不飽和炭化水素を含有する不飽和炭化水素ガスを原料ガスや高濃度のオゾンガスとの反応に供する際、不飽和炭化水素ガス中の水分量が少ない方が好ましい。これは、反応に供されるガス中に水分が多く含まれていると、水分と原料ガスとの反応により発塵するおそれがあるためである。例えば、JIS Z 8806に基づいて算出される大気圧露点(霜点)が-50℃以下(大気圧1013.25hPa)の不飽和炭化水素ガスを用いることが好ましい。同様に、後に詳細に説明するパージガスも大気圧露点(霜点)が-50℃以下のガスを用いることが好ましい。
【0107】
<不活性ガスの一例>
不活性ガスは、例えば後述の原料ガスパージ工程S2や酸化剤パージ工程S4において適用したり、原料ガスのキャリアガスとして適用可能なものであれば良い。その一例としては、N2,Ar,He等の不活性ガスが挙げられる。
【0108】
<実施例1;ALD装置1を用いる場合の成膜工程の一例>
ALD装置1の各種供給ラインL1~L4を適宜稼動し、図5に示す原料ガス供給工程S1,原料ガスパージ工程S2,酸化剤供給工程S3,酸化剤パージ工程S4を以下に示すように順次実行するALD方法により、チャンバ3内においては例えば図6の反応模式図に示すような反応が起こる。そして、当該反応により、当該チャンバ3内の被成膜対象物2の被成膜面20に所望の酸化膜21を形成することが可能となる。なお、本実施例1では、便宜上、始めに酸化剤供給工程S3,酸化剤パージ工程S4に基づいて説明し、その後に原料ガス供給工程S1,原料ガスパージ工程S2に基づいて説明する。
【0109】
まず、図6(a)においては、予め酸化剤供給工程S3(初回)を実施することにより、オゾンガス供給ラインL1,不飽和炭化水素ガス供給ラインL2より、オゾンガス発生装置G1のオゾンガス,不飽和炭化水素ガス供給装置G2の不飽和炭化水素ガスを、それぞれシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給する。これにより、オゾンとエチレンの反応により生じたOH*が被成膜面20に作用し、当該被成膜面20上に成膜のための結合場所(OH基)が均一に形成される。
【0110】
そして、酸化剤パージ工程S4により、チャンバ3内のガスをガス排出部5により吸気して排出する。これにより、前記酸化剤供給工程S3で供されたオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスの余剰ガスや反応ガス(OH*等)は、チャンバ3の外部に排気されることとなる。なお、酸化剤パージ工程S4において、被成膜対象物2の被成膜面20に例えば不純物等が付着している場合には、原料ガス供給工程S1の前段において被成膜面20を清浄(例えば、不活性ガス供給ラインL4により不活性ガス供給装置G3の不活性ガスをチャンバ3に供給してパージ)し、当該被成膜面20に対して原料ガスを吸着し易くしておくことが好ましい。
【0111】
次に、原料ガス供給工程S1では、原料ガス供給ラインL3により、原料ガス供給装置G3の原料ガス(目的とする酸化膜21を構成する元素を含む原料ガス)をシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給する。これにより、図6(b)に示すように、チャンバ3内の被成膜対象物2の被成膜面20に対して原料ガスが吸着し、当該原料ガスによる吸着層21aが形成される。図6(b)では、基板状の被成膜対象物2における被成膜面20に対し、1分子層のTMAガスが吸着されている状態を描写するものとなっている。
【0112】
原料ガス供給工程S1の後、原料ガスパージ工程S2では、チャンバ3内のガスをガス排出部5により吸気して排出する。これにより、前記原料ガス供給工程S1で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面20に吸着することで生じたガスは、チャンバ3の外部に排気されることとなる。
【0113】
そして、酸化剤供給工程S3(2回目)を実施し、前記酸化剤供給工程S3(初回)と同様にオゾンガス,不飽和炭化水素ガスをチャンバ3内に供給することにより、オゾンとエチレンの反応によりOH*が発生する。これにより、図6(c)に示すように、OH*が被成膜面20上(吸着層21a)のメチル基(CH3)を酸化し、当該被成膜面20上に次の成膜のための原料ガスの結合場所(OH基)が均一に形成される。この酸化反応は、室温(25℃)でも可能である。
【0114】
以上のような各工程S1~S4によるサイクル(以下、単に成膜サイクルと適宜称する)を適宜繰り返すことにより、被成膜面20に対して所望厚さの酸化膜21を形成することが可能となる。この成膜サイクルにおける各種成膜条件は、例えば目的とする酸化膜21に応じて、適宜設定することが可能である。
【0115】
また、前記成膜サイクルを複数回行う場合、例えば各原料ガス供給工程S1のうち少なくとも1工程と残りの工程とを、それぞれ異なる種類の原料ガスを被成膜対象物2に供給することにより、それぞれ異なる原料ガスの吸着層21aからなる多層構造の酸化膜21(すなわち、複数の吸着層21aが積層された酸化膜21)を、構成できることとなる。
【0116】
例えば、チャンバ3に対して複数個の原料ガス供給ラインL3が並列に設けられている場合には、当該各原料ガス供給ラインL3それぞれを異なる種類の原料ガスを供給できるようにし、成膜サイクル毎に当該各原料ガス供給ラインL3の何れかを選択的に稼動(原料ガスを供給)させることにより、所望の多層構造の酸化膜21を構成することが可能となる。
【0117】
<実施例1における成膜サイクルの具体例>
シャワーヘッドHを介してチャンバ3に供給する原料ガス,オゾンガス,不飽和炭化水素ガス,不活性ガスの供給量や、当該各ガスによる圧力(例えばチャンバ3内のオゾンガスによる圧力(分圧))等は、適宜制御して設定することが可能であり、その一例としてはチャンバ3内の被成膜対象物2の種類,形状,個数や、当該各ガスの種類,濃度等を考慮して設定することが挙げられる。
【0118】
具体例としては、図7に示すように各工程S1~S4による成膜サイクルを実施する場合において、成膜サイクルによるチャンバ3内のプロセス圧力が1000Pa以下の範囲内に収まるように、各ガスの供給量等を適宜設定することが挙げられる。より具体的には、1成膜サイクル(3~20秒)あたりのチャンバ3内の圧力は、図7に示すような圧力変動特性となるように適宜制御することが挙げられる。図7に示すチャンバ3内の圧力の場合、酸化剤供給工程S3(図6(a)(c)に示す状態)が1000Pa以下であり、原料ガス供給工程S1(図6(b)に示す状態)が図7の部分拡大図(図示右側の吹出し図)に示すように10Pa以下(および供給時間が1秒以下)に制御されている。また、1成膜サイクルあたりのオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスの供給時間は、0.1秒以上とすることが挙げられる。
【0119】
前記のような原料ガス供給工程S1の圧力変動や原料ガス供給時間を適宜制御することにより、被成膜対象物2の被成膜面20に対する原料ガスの吸着量を制御することができる。
【0120】
例えば不活性ガス供給ラインL4による不活性ガスの供給量は、例えば被成膜面20に対する原料ガスの吸着量を制御する目的で、成膜サイクルの途中で適宜変更しても良い。例えば、成膜サイクルにおいて、所定流量(例えば1SLM以下)の不活性ガスをキャリアガスとして供給する第1工程と、その第1工程によるキャリアガスの供給を停止(例えば数秒停止)してから当該第1工程よりも大きい流量(例えば1SLM超)で当該不活性ガスの供給を再開する第2工程と、を行うことが挙げられる。この第1,第2工程を適宜行う(例えば交互に繰り返して行う)ことにより、例えば被成膜面20に対して吸着している原料ガスの余剰分を、当該被成膜面20から取り除くことが可能となる。
【0121】
チャンバ3内のガス滞留時間を抑制する場合には、ガス排気部5からの排気を常時排気状態(チャンバ3内が減圧雰囲気の状態)とし、不活性ガス供給ラインL4による不活性ガスをパージガスとして断続的に供給(例えば1SLM以下で供給)することが挙げられる。
【0122】
<実施例2;ALD装置1を用いる場合の成膜工程の他例>
実施例1の酸化剤供給工程S3においてチャンバ3内に供給する酸化剤ガスには、オゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスの両方が適用されているが、当該不飽和炭化水素ガスの適用を省略し、オゾンガスのみを適用するようにしても良い。具体的には、図5に示した各工程S1~S4を以下に示すように順次実行するALD方法により、チャンバ3内においては例えば図8の反応模式図に示すような反応が起こり、当該チャンバ3内の被成膜対象物2の被成膜面20に所望の酸化膜21を形成することが可能となる。
【0123】
まず、原料ガス供給工程S1では、原料ガス供給ラインL3により、原料ガス供給装置G3の原料ガス(目的とする酸化膜21を構成する元素を含む原料ガス)をシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給する。これにより、図8(a)の反応模式図のように、チャンバ3内の被成膜対象物2の被成膜面20に対して原料ガスが吸着し、当該原料ガスによる吸着層21aが形成される。この図8(a)では、基板状の被成膜対象物2における被成膜面20に対し、1分子層のTMAガスが吸着されている状態を描写するものとなっている。
【0124】
原料ガス供給工程S1の後、原料ガスパージ工程S2では、不活性ガス供給ラインL4により不活性ガス供給装置G4の不活性ガスをシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給したり、当該チャンバ3内のガスをガス排出部5により吸気して排出する。これにより、前記原料ガス供給工程S1で供された原料ガスの余剰ガスと、当該原料ガスが被成膜面20に吸着することで生じたガスと、を当該被成膜面20から除去する。
【0125】
次に、酸化剤供給工程S3では、オゾンガス供給ラインL1により、オゾンガス発生装置G1のオゾンガスをシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給する。これにより、図8(b)の反応模式図のように、被成膜面20に形成されている吸着層21aが酸化(図8ではメチル基(CH3)が酸化)され、当該被成膜面20における次の成膜のための吸着可能領域20aが形成されることとなる。この図8(b)の反応模式図に示すような酸化反応は、室温(25℃)でも可能である。
【0126】
そして、酸化剤パージ工程S4では、原料ガスパージ工程S2と同様に、不活性ガス供給ラインL4により不活性ガス供給装置G4の不活性ガスをシャワーヘッドHを介してチャンバ3内に供給したり、当該チャンバ3内のガスをガス排出部5により吸気して排出する。これにより、前記酸化剤供給工程S3で供されたオゾンガスの余剰ガスと、前記原料ガスの吸着層21aを酸化することで生じたガスと、を被成膜面20から除去する。
【0127】
以上のような各工程S1~S4による成膜サイクルを適宜繰り返すことにより、実施例1と同様に、被成膜面20に対して所望厚さの酸化膜21を形成することが可能となる。この成膜サイクルにおける各種成膜条件は、例えば目的とする酸化膜21に応じて、適宜設定することが可能である。
【0128】
また、前記成膜サイクルを複数回行う場合、例えば各原料ガス供給工程S1のうち少なくとも1工程と残りの工程とを、それぞれ異なる種類の原料ガスを被成膜対象物2に供給することにより、それぞれ異なる原料ガスの吸着層21aからなる多層構造の酸化膜21(すなわち、複数の吸着層21aが積層された酸化膜21)を、構成できることとなる。
【0129】
例えば、チャンバ3に対して複数個の原料ガス供給ラインL2が並列に設けられている場合には、当該各原料ガス供給ラインL2それぞれを異なる種類の原料ガスを供給できるようにし、成膜サイクル毎に当該各原料ガス供給ラインL2の何れかを選択的に稼動(原料ガスを供給)させることにより、所望の多層構造の酸化膜21を構成することが可能となる。
【0130】
<実施例2における成膜サイクルの具体例>
実施例2における成膜サイクルの具体例としては、図9に示すような一例を以下に示す項目[1]~[8]に従って行うことが挙げられる。
・項目[1];チャンバ3内を真空排気(チャンバ3内のガスをガス排出部5により吸気して真空引き)
・項目[2];酸化剤供給工程S3の実施(チャンバ3内に酸化剤ガスとしてオゾンガスのみ供給して封止)
・項目[3];酸化剤パージ工程S4の実施(チャンバ3内に不活性ガスを供給、および真空排気)
・項目[4];チャンバ3内を真空排気
・項目[5];原料ガス供給工程S1の実施(チャンバ3内に原料ガスを供給して封止)
・項目[6];チャンバ3内を真空排気
・項目[7];原料ガスパージ工程S2の実施(チャンバ3内に不活性ガスを供給、および真空排気)
・項目[8];チャンバ3内を真空排気(次サイクルの項目[1]に相当)。
【0131】
なお、バッファ部L32による原料ガスの蓄積は、項目[1]~[8]のうち、項目[5]以外で行うことが好ましい。ただし、不活性ガス供給ラインL4により、原料ガス供給ラインL3に不活性ガスを供給し、その不活性ガスを原料ガスのキャリアガスとして適用する場合には、項目[3],[5],[7]以外で行うことが好ましい。
【0132】
また、項目[3],[7]それぞれは、成膜サイクルにおいて単に1回ずつ実施しても良く、複数回実施(サイクルパージ)しても良い。このように項目[3],[7]をそれぞれ複数回実施することにより、オゾンガスと原料ガスとの気相混合をより抑制し易くなる可能性がある。
【0133】
<実施例3;ALD装置11による成膜例>
以上示したALD装置1において、実施例1(酸化剤ガスとしてオゾンガスおよび不飽和炭化水素ガスを用いた場合),実施例2(酸化剤ガスとしてオゾンガスのみを用いた場合)に基づいて成膜サイクルを実施し、トレンチ溝22の開口縁面22a,底面22bそれぞれに形成される酸化膜21の膜厚(nm)を断面観察し、その観察結果を図10に示した。
【0134】
なお、観察条件において、被成膜面ギャップは30mmとし、各仮想線iの隣接する同士の直径差は16mm~20mmの範囲内とし、最外周側仮想線の直径は208mmとした。また、噴出孔h1~h3において、隣接する他の仮想線i上の噴出孔との最短距離tは18.8~27.5mmの範囲内とし、当該噴出孔h1~h3の開口径は0.5~1mmの範囲内とした。
【0135】
また、チャンバ3の容積は7000ccとし、バッファ部L32の容積は250ccとし、差引値α-βは40Paとし、開閉弁V3aの開状態移行時における圧力計P3aの計測値αの変化量は14Paとし、当該開状態移行時の開閉弁V3aを開状態で保持している時間は0.1秒とした。また、原料ガス,不飽和炭化水素ガス,不活性ガスにはTMA,エチレン,Arをそれぞれ適用し、被成膜対象物2においては被成膜面20に深さ140μm,開口幅3.5μmのトレンチ溝22が形成されている直径200mmのSi基板を適用した。
【0136】
図10を観ると、実施例1,2の各成膜サイクルによって開口縁面22a,底面22bそれぞれに十分な厚さの酸化膜21が形成されていることを確認できる。特に、実施例2の成膜サイクルにより開口縁面22a,底面22bに形成された各酸化膜21の膜厚は、それぞれ119nm,78nmとなり、実施例1の成膜サイクルによる酸化膜21と比較して厚く、アスペクト比(底面22bの酸化膜21の膜厚/開口縁面22aの酸化膜21の膜厚)が高くなっていることが読み取れる。
【0137】
すなわち、実施例2の成膜サイクルによれば、例えば項目[2]においてオゾンガス濃度を高くすることにより、トレンチ溝22の奥部まで届くオゾン分子が多くなり、当該トレンチ溝22の底面22bに対する酸化膜21の成膜を十分に促進できることが判った。特に、一旦液化過程を経て得られる高濃度(80~100体積%)のオゾンガスは、例えば重金属の汚不純物が少ないことから、酸化膜21中の不純物を低減できるだけでなく、トレンチ溝22に対する酸化膜21において被覆性の改善効果を期待できることも判った。
【0138】
以上、具体的な実施形態を示して本発明のALD方法およびALD装置にいて説明したが、本発明のALD方法およびALD装置は、実施形態に限定されるものではなく、その特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、設計変更されたものも、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0139】
1…ALD装置
2…被成膜対象物、20…被成膜面、20a…吸着可能領域、21…酸化膜,21a…吸着層,22…トレンチ溝
3…チャンバ
4…ガス供給部
5…ガス排出部
H…シャワーヘッド
h1~h3…噴出孔
L…酸化剤供給ライン
L1…オゾンガス供給ライン
L2…不飽和炭化水素ガス供給ライン
L3…原料ガス供給ライン
L4…不活性ガス供給ライン
G1…オゾンガス発生装置、G2…不飽和炭化水素ガス供給装置、G3…原料ガス供給装置、G4…不活性ガス供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10