(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】光電変換装置、撮像システム、移動体
(51)【国際特許分類】
H04N 25/77 20230101AFI20241216BHJP
H01L 27/146 20060101ALI20241216BHJP
H04N 25/773 20230101ALI20241216BHJP
【FI】
H04N25/77
H01L27/146 A
H01L27/146 D
H04N25/773
(21)【出願番号】P 2020205112
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和男
【審査官】櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-099046(JP,A)
【文献】特開2018-157387(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0135776(US,A1)
【文献】特開2020-017943(JP,A)
【文献】国際公開第2017/119477(WO,A1)
【文献】特開2019-049531(JP,A)
【文献】特開2019-140537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/30-5/33、23/11
23/20-23/30、25/00
25/20-25/61、
25/615-25/79
H01L 27/14-27/148、
29/762-29/768
H10K 39/30-39/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を有し、前記複数の画素のそれぞれが、受光面の面積が互いに異なる第一のアバランシェフォトダイオードと第二のアバランシェフォトダイオードとを含む光電変換装置であって、
前記第一のアバランシェフォトダイオードは第一の波形整形回路と第一のスイッチとの間に接続され、前記第二のアバランシェフォトダイオードは第二の波形整形回路と第二のスイッチとの間に接続され、
前記第一のスイッチの制御ノードと前記第二のスイッチの制御ノードとの間にインバータ回路が接続されることを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記第一のスイッチと前記第二のスイッチとが、オン状態又はオフ状態のいずれか一方の状態をとるよう制御する制御部を有する請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記インバータ回路は前記第一のスイッチと前記制御部との間に接続されることを特徴とする請求項2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記第一のスイッチがオフ状態にあるとき前記第一のアバランシェフォトダイオードには降伏電圧以上の逆バイアス電圧が印加され、
前記第一のスイッチがオン状態にあるとき前記第一のアバランシェフォトダイオードには降伏電圧以上の逆バイアス電圧が印加されないことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項5】
前記第一のスイッチは前記第一のアバランシェフォトダイオードと基準電圧源との間に直列に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項6】
前記第一のスイッチと前記第二のスイッチとはオン状態又はオフ状態のいずれか一方の状態をとり、
前記第一のスイッチのとる状態と前記第二のスイッチのとる状態とが互いに異なることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項7】
前記複数の画素のそれぞれが前記インバータ回路を有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項8】
前記複数の画素に含まれる画素のいくつかが共通の前記インバータ回路に接続されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項9】
前記第一のアバランシェフォトダイオードで生じた電荷に基づく第一の信号と、前記第二のアバランシェフォトダイオードで生じた電荷に基づく第二の信号とをカウントするカウンタ回路を有することを特徴とする、請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項10】
前記第一の信号及び前記第二の信号は、それぞれ、アバランシェ増倍が生じることによる電圧の変化に応じたパルス信号であって、
前記第一の信号の変化及び前記第二の信号の変化の少なくとも一方に応じて、前記カウンタ回路から出力されるカウント数が変化することを特徴とする、請求項9に記載の光電変換装置。
【請求項11】
前記第一の信号又は前記第二の信号のいずれかを含むカウント数が閾値よりも大きい場合と、前記カウント数が前記閾値よりも小さい場合とで、降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加されている前記第一又は第二のアバランシェフォトダイオードが異なることを特徴とする、請求項9又は請求項10に記載の光電変換装置。
【請求項12】
前記カウント数が前記閾値に達すると、前記第一のアバランシェフォトダイオードへの降伏電圧以上の逆バイアス電圧の印加を停止する制御回路を有することを特徴とする請求項11に記載の光電変換装置。
【請求項13】
前記カウント数が前記閾値に達すると、前記第二のアバランシェフォトダイオードへの降伏電圧以上の逆バイアス電圧の印加を開始する制御回路を有することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の光電変換装置。
【請求項14】
マイクロレンズを有し、前記画素において前記第一のアバランシェフォトダイオードと前記第二のアバランシェフォトダイオードとは同一のマイクロレンズの下に配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項
13のいずれか一項に記載の光電変換装置。
【請求項15】
前記第一のアバランシェフォトダイオードは、前記マイクロレンズの中心部の下に配置されたアバランシェフォトダイオードであって、前記第二のアバランシェフォトダイオードは、前記マイクロレンズの外周部の下に配置されたアバランシェフォトダイオードであることを特徴とする請求項
14に記載の光電変換装置。
【請求項16】
複数の画素を有し、前記複数の画素のそれぞれが、受光面の面積が互いに異なる第一のアバランシェフォトダイオードと第二のアバランシェフォトダイオードとを含む光電変換装置であって、
前記第一のアバランシェフォトダイオードと前記第二のアバランシェフォトダイオードとの一方に降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加している場合、他方には降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加しない制御部を有し、
前記複数の画素のうち一部の画素では前記第一のアバランシェフォトダイオードに降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加し、他の一部の画素では前記第二のアバランシェフォトダイオードに降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加することを特徴とする光電変換装置。
【請求項17】
請求項1乃至請求項
16のいずれか一項に記載の光電変換装置と、
前記光電変換装置から出力された信号に対して処理を行う処理装置と、
を有することを特徴とする光電変換システム。
【請求項18】
請求項1乃至請求項
16のいずれか1項に記載の光電変換装置を備える移動体であって、
前記光電変換装置が出力する信号を用いて前記移動体の移動を制御する制御部を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置及び撮像システム、移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、単一光子レベルの微弱光を検出可能な半導体装置について、幅広い分野での応用が期待されている。特に、従来は連続値として扱ってきた入力光の輝度を光子数という離散値として計数する、いわゆるフォトンカウントが注目されている。
【0003】
半導体装置においてフォトンカウントを実現する光検出素子の一例として、アバランシェフォトダイオード(以下、「APD」とも表記する)が挙げられる。APDは、半導体のpn接合部に誘起された強電界により発生するアバランシェ増倍現象を用いることで、光子により励起された信号電荷量を数倍~百万倍程度に増幅することができる。このアバランシェ増倍現象の高ゲイン性を利用することで、APDは微弱光の信号を大きく増幅し、読み出し回路で生じる読み出しノイズに対するSN比を向上させることができ、単一光子レベルの輝度分解能を実現することができる。
【0004】
特許文献1には、半導体装置の一例として複数の画素を有し、複数の画素のそれぞれが複数の単一光子アバランシェダイオード(SPAD)を有する撮像装置が記載されている。特許文献1には、被写体の明るさに応じて、各画素が有するアバランシェダイオードのうちアクティブ状態に設定されるアバランシェダイオードの数を変更することで光電変換ゲインの設定の自由度を向上させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において各画素のアバランシェダイオードのそれぞれを独立制御する必要があり、必要な信号線によって回路面積が大きくなるという課題があった。また、信号線の数やカウンタのカウント総数が増えるためフォトンカウントに要する消費電力が大きくなるという課題があった。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、アバランシェダイオードを用いた光電変換装置の回路面積を低減させること及び消費電力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの側面は、複数の画素を有し、前記複数の画素のそれぞれが、受光面の面積が互いに異なる第一のアバランシェフォトダイオードと第二のアバランシェフォトダイオードとを含む光電変換装置であって、前記第一のアバランシェフォトダイオードは第一の波形整形回路と第一のスイッチとの間に接続され、前記第二のアバランシェフォトダイオードは第二の波形整形回路と第二のスイッチとの間に接続され、前記第一のスイッチの制御ノードと前記第二のスイッチの制御ノードとの間にインバータ回路を有することを特徴とする。
【0009】
本発明のその他の側面は、複数の画素を有し、前記複数の画素のそれぞれが、受光面の面積が互いに異なる第一のアバランシェフォトダイオードと第二のアバランシェフォトダイオードとを含む光電変換装置であって、前記第一のアバランシェフォトダイオードと前記第二のアバランシェフォトダイオードとの一方に降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加している場合、他方には降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加しない制御部を有し、
前記複数の画素のうち一部の画素では前記第一のアバランシェフォトダイオードに降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加し、他の一部の画素では前記第二のアバランシェフォトダイオードに降伏電圧以上の逆バイアス電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アバランシェフォトダイオードを用いた光電変換装置の回路面積及びフォトンカウントの消費電力を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態にかかる光電変換装置の概略図である。
【
図2】第1の実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【
図3】第1の実施形態にかかる光電変換装置の画素のAPDの構成例を示す平面模式図及び断面模式図である。
【
図4】APDの電流-電圧特性の一例を示すグラフである。
【
図5】入射フォトン数とカウントされるフォトン数との関係を示すグラフである。
【
図6】第1の実施形態にかかる光電変換装置の画素のAPDの構成例を示す平面図である。
【
図7】第2の実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【
図8】第3の実施形態にかかる光電変換装置の概略図である。
【
図9】第3の実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【
図10】第3の実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【
図11】実施形態にかかる撮像システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態にかかる撮像システム及び移動体の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施形態]
本発明の第1実施形態による光電変換装置及びその駆動方法について、
図1から
図6を用いて説明する。
【0013】
図1は、実施形態にかかる光電変換装置の概略図であり、
図2は、実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
図3は、実施形態にかかる光電変換装置の画素のAPDの構成例を模式的に示す平面図及び断面図である。
図4はAPDの電流-電圧特性の一例を示すグラフであり、
図5は実施形態にかかる入射フォトン数とカウントされるフォトン数との関係を示すグラフである。
図6は実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【0014】
(光電変換装置の全体構成)
本実施形態による光電変換装置1000は、
図1に示すように、画素領域100と、垂直走査回路20と、列読み出し回路30と、水平走査回路40と、制御回路50と、信号処理回路60とを有している。
【0015】
画素領域100には、複数行及び複数列に渡ってマトリクス状に配された複数の画素12が設けられている。画素領域100の画素アレイの各行には、行方向(
図1において横方向)に延在して、制御信号線14が配されている。制御信号線14は、行方向に並ぶ画素12にそれぞれ接続され、これら画素12に共通の信号線をなしている。また、画素領域100の画素アレイの各列には、列方向(
図1において縦方向)に延在して、垂直出力線16が配されている。垂直出力線16は、列方向に並ぶ画素12にそれぞれ接続され、これら画素12に共通の信号線をなしている。
図1においては1本の垂直出力線が描かれているが、出力される信号のbit数に応じ複数本の垂直出力線が接続されていてもよい。
【0016】
画素領域100を構成する画素12の数は、特に限定されるものではない。例えば、一般的なデジタルカメラのように数千行×数千列の画素12で画素領域100を構成してもよく、1行又は1列に並べた複数の画素12で画素領域100を構成してもよい。或いは、1つの画素12で画素領域100を構成してもよい。
【0017】
各行の制御信号線14は、垂直走査回路20に接続されている。垂直走査回路20は、画素12から画素信号を読み出す際に画素12内の読み出し回路を駆動するための制御信号を、制御信号線14を介して画素12に供給する回路部である。
【0018】
各列の垂直出力線16の一端は、列読み出し回路30に接続されている。画素12から読み出された画素信号は、垂直出力線16を介して列読み出し回路30に入力される。列読み出し回路30は、画素12から読み出された画素信号を保持するメモリ等を含み得る。
【0019】
水平走査回路40は、列読み出し回路30において保持された画素信号を列毎に順次、信号処理回路60に転送するための制御信号を、列読み出し回路30に供給する回路部である。制御回路50は、垂直走査回路20、列読み出し回路30及び水平走査回路40の動作やそのタイミングを制御する制御信号を供給するための回路部である。信号処理回路60は画素信号の処理を行う。
【0020】
(画素の構成)
本実施形態による画素12の構成と接続関係について説明する。
図2は、画素12の概略構成を示すブロック図ないし等価回路図である。それぞれの画素12は、
図2に示すように、光電変換部140と、カウンタ回路120と、カウンタ回路121と、選択回路130と、インバータ回路154と、インバータ回路155とを含む。
【0021】
光電変換部140はアバランシェフォトダイオード143(以下、「APD」とも表記する)と、APD144とを含む。APD143、APD144のアノードは、電圧VLを供給する電源に接続されている。APD143のカソードは、P型MOSトランジスタ141及びインバータ回路145の入力端子に接続され、APD144のカソードはP型MOSトランジスタ142及びインバータ回路146の入力端子に接続されている。P型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142は、電圧VLよりも電位の高い電圧VHを供給する電源に接続されている。NMOSトランジスタ152のゲートはインバータ回路154の出力に接続されている。NMOSトランジスタ152はさらに基準電圧源である接地電位とAPD143のカソードに接続されている。NMOSトランジスタ153のゲートはインバータ回路155の出力に接続されている。NMOSトランジスタ153はさらに接地電位とAPD144のカソードに接続されている。
【0022】
インバータ回路145、インバータ回路146の出力端子は、光電変換部140の出力ノードである。インバータ回路145、インバータ回路146の出力端子は、それぞれ、カウンタ回路120、カウンタ回路121に接続されている。カウンタ回路120の出力の一部は配線156を介してインバータ回路155に入力され、インバータ回路155の出力はインバータ回路154に入力される。カウンタ回路120、カウンタ回路121の出力は選択回路130を介して垂直出力線16に接続されている。
【0023】
なお、「接続」とは、各素子が直接接続されている場合に限られない。本明細書で「接続」と示した場合には、特段の説明が無い限り、当該「接続」の対象である各素子を結ぶ電気的経路の間に抵抗、容量など、他の素子や部材が設けられていても良い。つまり、各素子の電気的経路が繋がっていれば「接続」の範疇に含まれる。
【0024】
(画素の各要素の機能)
画素の各要素の機能について説明する。
【0025】
光電変換部140はAPD143、APD144に入射した光を光電変換し、発生した電荷はアバランシェ増倍を発生させる。そのために、APD143、APD144のそれぞれには、逆方向降伏電圧を超える電圧が印加される。後述するクエンチング抵抗がAPD143、APD144のそれぞれに接続されているため、アバランシェ増倍の発生に起因してAPD143、APD144のカソードの電圧が変化する。
【0026】
図2の構成例において、APD143はAPD144よりも光電変換部の受光面の面積が大きく、光に対する感度が高い。なお、光電変換部上に入射光を受光部に導くためのマイクロレンズが設けられる場合、1つのマイクロレンズがAPD143、APD144の双方を覆うように配される。したがって、1つのマイクロレンズを受光面に射影した際に、当該マイクロレンズの射影がAPD143、APD144のそれぞれの受光面と少なくとも部分的に重なる。
【0027】
P型MOSトランジスタ141、142はAPDをガイガーモードで動作させる際のクエンチング抵抗として機能する。この抵抗が存在することによって、アバランシェ増倍の発生により、APD143、APD144のカソードの電圧が一時的に変化し、その後、元の電圧(典型的には、電圧VH)に戻る。電源ノードとカソードとの間に適当なインピーダンスが生じるためである。このように、クエンチング抵抗を接続することによって、入射した光子の数に対応した回数の電圧の変化が生じうる。
【0028】
インバータ回路145、インバータ回路146はAPD143、APD144から出力される信号が閾値を超えるか否かを判定し、入力される信号の閾値に対する大小関係を反転した信号を出力する。インバータ回路145の入力端子はAPD143のカソードに接続され、インバータ回路146の入力端子はAPD144のカソードに接続されるので、インバータ回路145、146の出力はそれぞれ各APDのカソードの電圧変化が整形されたパルス波となる。すなわち、インバータ回路はAPDから出力される連続的な信号をパルス状に整形して出力する、波形整形回路としての機能を担っている。
【0029】
上述のように、光子の入射のたびにAPDのカソードで電圧変化が生じる。そのため、入射した光子の数に対応した数のパルス波が、各インバータ回路から出力される。結果として、フォトンカウントが可能になる。
【0030】
カウンタ回路120、121はインバータ回路から出力されるパルスの数をカウントすることで、APDに入射したフォトンの数をカウントする。たとえば3bitのカウンタ回路であれば、10進数で2の3乗まで、例えば、0から7までのカウント値を得ることができる。カウント値がカウンタ回路の最大値に到達すると、カウンタがオーバーフローを起こし、カウンタ回路の最大値以上のカウント値を得ることができない。カウンタ回路は初期値から、あるいは不定値からカウントを再開するため、得られるカウント値と実際の入力フォトン数が一致しなくなる。また、カウンタ回路はリセットされると再び初期値からカウントが始まる。
【0031】
選択回路130は、制御信号線14を介して垂直走査回路20に接続され、制御回路50から供給される制御信号を受けてカウンタ回路120あるいはカウンタ回路121のカウント値の垂直出力線16への読み出しを選択する。選択された信号は画素領域100内の複数の画素12の中で信号を読みだされる画素の信号として垂直出力線16へと出力される。
【0032】
インバータ回路155は配線156を介してカウンタ回路120と接続され、インバータ回路155にはカウンタ回路120のカウント値の一部が入力される。インバータ回路155の出力端子はさらにインバータ回路154の入力端子に接続される。インバータ回路は入力される信号を反転した信号を出力するため、インバータ回路154の出力とインバータ回路155の出力とは排他的な信号関係を有する。インバータ回路154の出力はNMOSトランジスタ152のゲートに、インバータ回路155の出力はNMOSトランジスタ153のゲートに入力される。
【0033】
NMOSトランジスタ152はインバータ回路154の出力に基づきAPD143に逆バイアス電圧が印加されるか否かを決めるスイッチとして機能する。同様に、NMOSトランジスタ153はインバータ回路155の出力に基づきAPD144に逆バイアスが印加されるか否かを決めるスイッチとして機能する。インバータ回路154の出力とインバータ回路155の出力とは排他的な信号関係を有するため、NMOSトランジスタ152のオン・オフとNMOSトランジスタ153のオン・オフもまた排他的な関係を有する。
【0034】
制御信号線14は、リセット信号線RESと、選択信号線SELとを含む。リセット信号線RESは、対応する行に属する画素12のカウンタ回路120、カウンタ回路121にそれぞれ接続され、カウンタ回路のカウントをリセットするリセット信号を供給している。選択信号線SELは、対応する行に属する画素12の選択回路130に接続され、各画素から垂直出力線への信号の読み出しを制御する信号を選択回路130に供給する。
【0035】
(アバランシェフォトダイオードの構成)
図3を用いて、APD143およびAPD144の構造について説明する。本実施形態による光電変換装置は、一例では、APD143およびAPD144が設けられた第1基板と、他の構成要素が設けられた第2基板とを貼り合わせることにより構成することができる。他の構成要素は、APD143およびAPD144以外の画素12の構成要素のほか、垂直走査回路20、列読み出し回路30、水平走査回路40、制御回路50、信号処理回路60等の周辺回路も含み得る。
図3(b)は、これら2つの基板のうち、APDが設けられた基板の
図3(a)T-T‘断面での模式的な断面図を示したものである。なお、本実施形態による光電変換装置は
図3(b)に示す構成に限られず、例えば画素12の一部を第1基板に設け、他の一部を第2基板に設けた積層構造の画素でも良い。
【0036】
各画素12のAPD143、APD144は、いずれも半導体基板210に形成される。半導体基板210は、例えばn型のシリコン基板である。半導体基板210は、第1面212と、第1面212に対向する第2面214とを含む。例えば、第1面212は半導体基板210の表面であり、第2面214は半導体基板210の裏面である。
【0037】
半導体基板210には、n型半導体領域224が設けられている。n型半導体領域224は、p型半導体領域220からなる分離部によって、1つの画素12に対応する領域毎に分けられている。p型半導体領域220は、平面視においてそれぞれのn型半導体領域224を囲うように配されている。p型半導体領域220の第2面214側は、半導体基板210の第2面214に接して設けられたp型半導体領域222に接している。
【0038】
1つの画素12に含まれるAPD143、APD144を構成するp型半導体領域とn型半導体領域とのうち、n型半導体領域はp型半導体領域220及びp型半導体領域222に囲まれて構成される。n型半導体領域はp型半導体領域220によって分けられたn型半導体領域224の1つ、及び、当該n型半導体領域224に配されたn型半導体領域226、228を含む。
【0039】
なお、ここでは各画素12の複数のAPDが配されるn型半導体領域224を、pn接合分離によって分離する例を示しているが、他の素子分離方法によって分離するようにしてもよい。他の素子分離方法としては、例えば、STI(Shallow Trench Isolation)法、DTI(Deep Trench Isolation)法、LOCOS(LOCal Oxidation of Silicon)法等が挙げられる。
【0040】
p型半導体領域220を分離部として画定されたそれぞれのn型半導体領域224は、一の画素12に含まれる複数のAPD143、APD144を構成している。
図3(a)に示す、n型半導体領域224に配されたAPD143、APD144を分離する白抜き部は、
図3(b)のp型半導体領域230に対応している。
【0041】
APD143は、n型半導体領域224のうちp型半導体領域220、222に近接する領域をカソードとし、n型半導体領域224に接するp型半導体領域220、222をアノードとしている。また、n型半導体領域226はAPD143のカソードの一部である。APD144は、n型半導体領域224の中心部をカソード、p型半導体領域220、222をアノードとしている。n型半導体領域228はAPD144のカソードの一部である。n型半導体領域226、n型半導体領域228は、半導体基板210の第1面212に接して配されている。APD143、APD144はp型半導体領域220によって画素12の外の素子からは分離される。APD143、APD144は、共通のアノードとして、p型半導体領域220、222を含む。これに対して、APD143のカソードとAPD144のカソードとは、p型半導体領域230によって電気的に分離されている。p型半導体領域230は隣接するAPDのn型半導体領域228とn型半導体領域226の間に、半導体基板210の第1面212に接して配されている。
【0042】
APDが設けられた半導体基板210の第1面212の上には、絶縁膜234が設けられている。絶縁膜234の上には、コンタクトプラグ236を介してp型半導体領域220に接続された配線238が設けられている。さらに、コンタクトプラグ240を介してn型半導体領域226に接続された配線242と、コンタクトプラグ241を介してn型半導体領域228に接続された配線243とが設けられている。
【0043】
アノードであるp型半導体領域220には、配線238及びコンタクトプラグ236を介して、電圧VLが供給される。カソードであるn型半導体領域226は、コンタクトプラグ240及び配線242を介して、
図2に示すインバータ回路145に接続される。n型半導体領域228はコンタクトプラグ241及び配線243を介して、インバータ回路146に接続される。
【0044】
APD143を例に挙げると、p型半導体領域220とn型半導体領域226の間に逆バイアスが印加されているため、p型半導体領域220及び222とn型半導体領域224とのPN接合面には空乏層が形成される。p型半導体領域222の第2面214から光が入射すると、入射部の半導体領域中で電子・正孔対が形成される。生成された電子はp型半導体領域222からn型半導体領域226へ向かう電界によって加速され、アバランシェ増倍が発生する。
【0045】
ここでn型半導体領域226の不純物濃度は、n型半導体領域224の不純物濃度よりも高い。さらにp型半導体領域230によるポテンシャル障壁がn型半導体領域226周辺に形成されることにより、アバランシェ増倍によって発生した電荷はその生成位置に対応するn型半導体領域226に集められる。
【0046】
APD144についても同様にアバランシェ増倍が起こり、生成された電荷はn型半導体領域228に集められる。n型半導体領域226、228の濃度を十分に高くすることでアバランシェ増倍の発生するPN接合部から段階的にポテンシャルの谷を形成し、n型半導体領域226、228に電荷を集めることができる。
【0047】
また、p型半導体領域220、222の不純物濃度は、p型半導体領域230の不純物濃度よりも高く、n型半導体領域224との間でアバランシェ増倍を起こすに十分な電界を形成している。なお、半導体基板210をp型のシリコン基板とし、
図3のn型半導体領域224部をp型半導体領域220、222よりも不純物濃度の薄いp型半導体領域224aとすることも可能である。この場合、p型半導体領域224aとn型半導体領域226の間に形成される電界によってアバランシェ増倍が発生する構成となる。このように、半導体領域224を、p型半導体領域220より低濃度のp型半導体領域224aに置換することによって、電界強度を高めることができ、結果として、より低電圧でのアバランシェ増倍を可能とする。このような構成では、n型半導体領域226端部にアバランシェ増倍の発生が集中することを防ぐガード領域を設けることがノイズの削減に有効である。
【0048】
図3に示す画素の構成例では、一の画素12に含まれるAPDのうち中央部に小面積で低感度のAPD143、外周部に大面積で高感度のAPD144を配置しているが、画素の構成例はこれに限られない。
【0049】
その他の構成例として、画素上に配置されるマイクロレンズの集光効率を利用することが考えられる。例えば一の画素12に含まれるAPDの面積が同一の時、マイクロレンズ中央部の下に配置されるAPDを高感度用、マイクロレンズ外周部の下に配置されるAPDを低感度用としても同様の効果が得られる。
【0050】
(APDの動作)
次に、ガイガーモードでのAPDの動作について説明する。
【0051】
電圧VH及び電圧VLは、APD143、APD144に、ガイガーモードで動作する例として、APDが、
図4に示すような電流-電圧特性を有している場合を想定する。
図4に示すAPDの逆方向降伏電圧(以下、単に降伏電圧とも呼ぶ)は、-50Vから-53.3Vの間の値である。すなわち、このAPDに、-50V程度までの逆バイアスが印加されてもアバランシェ増倍は起きないが、それより大きな、降伏電圧以上の逆バイアスが印加されるとアバランシェ増倍が起きる。また、-53.3V程度以上の逆バイアスが印加されると、アバランシェ増倍のゲインが非常に高い、いわゆるガイガーモードで動作する。
【0052】
本実施形態ではAPDをガイガーモードで動作する単一光子アバランシェダイオード(SPAD)として使用する。そのため、APDのアノードには電圧VLとして例えば-50Vを印加し、P型MOSトランジスタには電圧VHとして例えば+3.3Vを印加する。その結果、APD143、APD144には、それぞれ約53.3Vの逆バイアスが印加されている。
【0053】
クエンチング抵抗としてのP型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142のゲートには、通常、ソースに印加する電圧と同じ電圧を印加する。これによって、P型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142は、トランジスタの寸法で抵抗値が決まる抵抗素子として動作する。P型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142のゲートに印加する電圧をソースに印加する電圧よりも低く設定し、より抵抗値の大きな抵抗素子として利用することも可能である。P型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142のゲート電圧は、所望のクエンチング抵抗が得られるように適宜設定することができる。
【0054】
APDには、電圧VHと電圧VLとの間の電位差である53.3Vの逆バイアス電圧が印加されている。この逆バイアス電圧は降伏電圧よりも高い電圧でありアバランシェ増倍を起こすに十分である。しかし、種となるキャリアが存在しない状態ではアバランシェ増倍は起こらず、APDに電流は流れない。
【0055】
この状態で半導体基板210の第2面214側からフォトンが入射すると、n型半導体領域224でフォトンが吸収され、電子・ホール対が生成される。これらのうちホールは、p型半導体領域220、222、230を介して排出される。一方電子はn型半導体領域226、あるいはn型半導体領域228の電界で加速されてアバランシェ増倍を引き起こし、APDはガイガーモードで動作する。
【0056】
キャリアの動作に着目すると、アバランシェ増倍が起きてAPDに大電流が流れることで、APDのカソード側のノードの電位が降下し、アバランシェ増倍は停止する。カソード側のノードのキャリアは負荷として接続されたP型MOSトランジスタ141、142を介して排出され、カソード側のノードは再び初期電圧に戻る(クエンチング動作)。
【0057】
このように、APDのカソードの電位は、フォトンの入射に伴い、キャリア待機状態から、ガイガーモードで大電流が流れて電圧が降下した状態となり、その後再びキャリア待機状態に戻る。この電圧波形をインバータ回路145、インバータ回路146により成形することで、1フォトンの到来時刻を開始点とする信号パルスが生成される。この信号パルスの数を数えることで、いわゆるフォトンカウントを行うことができる。
【0058】
(パイルアップ現象)
このようなフォトンカウントにおいて、入射するフォトンの数が少ない場合には、APD143、APD144の入射フォトン数と、カウンタ回路120、カウンタ回路121のカウント数との間で、高い線形性が得られる。
【0059】
しかし、入射するフォトン数が多い場合には、まず、カウンタ回路120によるフォトンカウント数が実際に入射したフォトン数よりも少なくなることがある。極端に光が強く、入射するフォトンの数が著しく多い場合には、カウンタ回路120によるフォトンカウントができず、フォトンカウント数がほぼゼロになってしまうことがあるためである。
【0060】
一方で前述の通りAPD144はAPD143と比べ感度が低いため、カウンタ回路120によるフォトンカウントができなくなるような強い光が入射する場合も、カウンタ回路121では正確なフォトンカウントが可能である。
【0061】
このような現象が生じる原因について説明する。入射するフォトン数が比較的少ない場合、APD143、APD144共に、APD内でフォトンを検出するタイミングが時間的に重なる確率は非常に低い。インバータ回路145、146において信号パルスが立ち上がった後、次のフォトンが来るまでにパルスが立ち下がるので、APDに入射したフォトンの数に相当する数の信号パルスを出力することができる。
【0062】
一方、入射するフォトン数が多い場合、インバータ回路145において信号パルスが立ち上がった後、それが立ち下がる前に、APD143に再びフォトンが入射する確率が高くなる。新たなフォトンが入射することでアバランシェ電流が増加し、結果として、APD143のカソード、つまりインバータ回路145の入力ノードの電圧が戻りにくくなる。そのため、複数の信号パルスが繋がるパイルアップ現象が起こり、新しく入射したフォトンはカウントされない可能性がある。さらに、入射するフォトンの数が著しく多い場合には、インバータ回路の出力がハイレベルのまま変化しなくなる。この結果、カウンタ回路120において信号パルスをカウントすることができず、フォトンカウントの精度が下がる。
【0063】
このように、フォトンカウントでは、1つのフォトンを検出してから次のフォトンを検出できるようになるまでの期間(「デッドタイム」と呼ばれる)によって検出可能なフォトン到来頻度(=光の強さ)が決定される。デッドタイムの長さは、クエンチング抵抗(P型MOSトランジスタ141、142)のインピーダンスや、APD143、144のカソードの寄生容量に応じて変化する。
【0064】
月明かりや星明かりといった非常に暗い状況でもフォトンを検出できるような超高感度の光電変換装置を実現するためには、ある程度大きなサイズの画素12を設けることが考えられる。しかしながら、このように構成した光電変換装置では、日中の光の下のような明るい状況ではたとえ絞り機構で光量を落としたとしてもフォトン検出頻度が高くなりすぎ、フォトンカウント精度が低下する。
【0065】
(ダイナミックレンジの拡大)
本実施形態において、APD144はAPD143に対して面積が小さく感度が小さい。したがって比較的弱い光が入射する状況においてはAPD143のカウント数443に対して小さいカウント数を示す。比較的強い光が入射しAPD143に対応するカウント数の低下が起きている状態でも、APD144に入射するフォトンの頻度がデッドタイムに重ならない程度であればAPD144でのフォトンカウント数は入射フォトン数に対して線形に増加を続ける。
【0066】
したがって、入射するフォトンの数が少なくAPD144とAPD143との両方の出力が線形性を維持できる場合は、APD143により高感度での光検出を行う。一方、入射するフォトンの数が多くAPD143の出力の線形性が低下しうる場合は、出力の線形性を維持することができるAPD144による光検出を行うことができる。このように光の強さによって光検出に用いるAPDを使い分けることで、画素全体のダイナミックレンジの拡大が可能である。
【0067】
しかし、このように光の強さによって光検出に用いるAPDを使い分けるために画素内の複数のAPDの各々でフォトンカウントを行うには、APDの各々の動作を制御する回路が必要となり、回路面積が増大する。また、消費電力も大きくなる。
【0068】
(動作例)
以下に本実施形態による課題解決の方法を説明する。
【0069】
本実施形態において、例えばAPD143とAPD144の感度比がn倍であるとする。領域A内の同一光量においてAPD143に対応するカウント数はAPD144に対応するカウント数のn倍とする。
【0070】
図5は実施形態にかかる入射フォトン数とカウントされるフォトンカウント数との関係を示すグラフである。横軸に単位時間・単位面積あたりに入射するフォトン数、縦軸にカウンタ回路におけるフォトンカウント数を示している。
図5におけるプロット443は
図2におけるAPD143に対応するフォトンカウント数、
図5におけるプロット444はAPD144に対応するフォトンカウント数を示している。
図5に示すように、入射するフォトンの数が少ないとき(領域A)には、APD143はその数をカウンタ回路120で正確にカウントすることができる。APD144は領域Aではカウントを停止しているため、フォトンカウント数であるプロット444は領域Aでは増加しない。
【0071】
プロット445は
図2におけるAPD144に対応するフォトンカウント数にnを乗じ、閾値aを加算した値を示している。本実施形態における画像処理後の単位時間・単位面積当たりの入射フォトン数と演算処理後のフォトンカウント数の関係をプロットしたものとなる。
【0072】
APD143、APD144に光が入射すると、各APDでアバランシェ増倍が発生し、APD143の出力はインバータ回路145で、APD144の出力はインバータ回路146で、それぞれパルス波に整形される。インバータ回路145から出力されたパルス波はカウンタ回路120に、インバータ回路146から出力されたパルス波はカウンタ回路121に入力される。これにより、カウンタ回路120ではAPD143で検出されたフォトンの総数がカウントされ、カウンタ回路121ではAPD144で検出されたフォトンの総数がカウントされることになる。
【0073】
カウンタ回路120の出力の一部は配線156に入力され、配線156はインバータ回路155の入力端子に接続されている。インバータ回路155の出力端子はさらにインバータ回路154の入力端子に接続される。
【0074】
インバータ回路155、インバータ回路154によって、NMOSトランジスタ152のゲートに入力される信号と、NMOSトランジスタ153のゲートに入力される信号とは互いに排他的な信号値を有する。
【0075】
例えば、本実施形態において、入射されるフォトン数が小さくカウンタ回路120の出力がLoレベルである場合、インバータ回路155の入力レベルもLoである。したがってインバータ回路155の出力及びNMOSトランジスタ153のゲート電圧はHiレベルとなり、NMOSトランジスタ153はオン状態となる。一方インバータ回路154の出力及びNMOSトランジスタ152のゲート電圧はLoレベルとなり、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。
【0076】
NMOSトランジスタ153は接地電位に接続されているので、NMOSトランジスタ153がオン状態になるとAPD144のカソード(ノードN)の電位は0Vとなり、APD144に印加される逆バイアス電圧は、降伏電圧以下の電圧となる。この状態では、たとえフォトンの入射により電子が発生したとしても、その電子はアバランシェ増倍を引き起こすことなく、P型MOSトランジスタ142を介して排出される。素電荷による電流は非常に小さく、P型MOSトランジスタ142による電圧の降下は非常に小さいため、インバータ回路146のスレッショルドを超えて信号パルスが出力されることはない。つまりNMOSトランジスタ153はAPD144のアバランシェ増倍を停止するスイッチとして機能する。
【0077】
一方でNMOSトランジスタ152のゲートレベルはLoであるため、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。APD143は先に述べたようにガイガーモードで動作し、フォトンカウントを行う。
【0078】
カウンタ回路120の出力が所定の値aに達すると、配線156のレベルがLoからHiになる。インバータ回路155の出力と接続されているNMOSトランジスタ153のゲート電圧はLoレベルとなり、NMOSトランジスタ153はオフ状態となる。一方、インバータ回路154の出力と接続されているNMOSトランジスタ152のゲート電圧はHiレベルとなり、NMOSトランジスタ152はオン状態となる。
【0079】
つまり、カウンタ回路120の出力が所定の値aに達すると、APD143のアバランシェ増倍は停止し、カウント数443はフォトンカウント数がaに達した時点で一定となる。一方APD144はガイガーモードでの動作をはじめ、カウント数444のカウントが始まる。
【0080】
カウント数443が閾値aを超えない場合(入射光量が領域Aの範囲の場合)ではAPD143だけがアバランシェ増倍する。この間APD144はアバランシェ増倍をおこさず、フォトンカウントもなされない。一方カウント数443が閾値aを超える場合(入射光量が領域Bの範囲の場合)ではAPD143のアバランシェ増倍は停止し、フォトンカウントもなされない。APD144だけがアバランシェ増倍し、フォトンカウントがなされる。このように、インバータ回路を用いる場合、少ない信号線で複数のAPDを排他的に動作させることができ、回路面積の増大を防ぐことができる。また、各画素でAPDの数に応じたカウンタを並行して動作させる場合と比べ一度に動作するカウンタの数が減少し、消費電力の削減が可能となる。
【0081】
本実施形態では、領域A、領域Bのそれぞれで選択回路130に入力されるパルス信号はAPD143、APD144のいずれか一方に対応する信号のみとなる。
【0082】
カウンタ回路120及びカウンタ回路121の出力は選択回路130に入力され、選択回路130の出力はSELから供給される制御信号によって垂直出力線16へ読み出される。読み出されたカウント数443、カウント数444は信号処理回路60によって演算処理される。具体的にはカウント数443が閾値a以下の場合(入射光量が領域Aの範囲の場合)はカウント数443をフォトン数として使用する。カウント数443がa以上の場合(入射光量が領域Bの範囲の場合)は、カウント数444をxとしたときnx+aをフォトン数として用い、この演算処理によってフォトンカウント数の線形性を保っている。
【0083】
ここで閾値aは、例えばカウンタ回路120がカウント可能な最大の値である。しかし、閾値aには、カウンタ回路120のカウント可能な範囲で、任意の値を用いることができる。また、カウント数444に乗じる値は、APD143とAPD144との感度比に応じた値であることが好ましい。しかし、正確な感度比を用いなくてもよいし、乗算に代えて定数を加算するなどの演算をしてもよい。
【0084】
本動作例ではAPD143が先にガイガーモードで動作するよう接続されていたが、先にAPD144が動作するよう接続してもかまわない。先にAPD144を動作させ、一定時間経過後にAPD144のフォトンカウント数の多寡に応じて動作するAPDをAPD143に切り替えることでもダイナミックレンジは拡大可能である。その場合も、一時に動作するAPDはAPD143、APD144のいずれか一方であり、動作するカウンタ回路も1つであることが望ましい。
【0085】
図6は実施形態にかかる光電変換装置の画素のAPDの構成例を模式的に示す平面図である。
図6の610はAPDであり、各APD610のカソードであるn型半導体領域は半導体基板上で互いに分離されている。
図6では配線642を用いて8つのAPDのカソードを電気的に接続し、APD610を8つ繋いだものを
図3のAPD143に相当する1つのAPDとしている。
【0086】
つまり、
図3においてAPD144を囲む輪のように形成されたn型半導体領域226が8つに分割され、8つのn型半導体領域226がp型半導体領域からなる分離部あるいはその他の素子分離方法によって互いに分離された構成が
図6に示す構成例である。
【0087】
このように複数のAPDを接続して相対的に高感度なフォトダイオードを形成してもよい。
【0088】
また、
図3、
図6に示したAPDはいずれも一例であり、本発明に適用可能なAPDの構造は平面、断面ともに、
図3、
図6のいずれかに示すものに限定されるものではない。
【0089】
[第2の実施形態]
本実施形態について
図7を用いて説明する。本実施形態においては各画素におけるカウンタ回路の数をAPDの数よりも少なくすることで、画素を小型化したうえでフォトンカウントに係る消費電力を軽減させることができる。
【0090】
図7は、実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。
【0091】
図7における各番号は
図2と同一のものには同一符号を付してあるため説明を省略し、主として第一の実施形態と異なる部分を説明する。
【0092】
図7の画素12は、
図7に示すように、光電変換部140と、カウンタ回路120と、選択回路130と、選択回路150と、飽和検知回路151と、インバータ回路154と、インバータ回路155を含む。
【0093】
選択回路150は、端子SのレベルがLoの時は0端子の入力をOUT端子から出力し、端子SがHiレベルの時は1端子の入力をOUT端子から出力する。
【0094】
選択回路150の0端子には高感度のAPD143の出力がインバータ回路145を介して接続され、選択回路150の1端子には低感度のAPD144の出力がインバータ回路146を介して接続されている。選択回路150の出力はカウンタ回路120に入力されている。また、選択回路のS端子には飽和検知回路151が接続されており、飽和検知回路151の出力は飽和検知回路151に入力されるカウンタ回路120のカウント値が一定の閾値を超えるとLoからHiに切り替わる。
【0095】
飽和検知回路151はカウンタ回路120の出力の一部のLo信号、Hi信号のレベルを保持する。飽和検知回路151は選択回路130に接続されていて、保持された信号のレベルはカウント結果とともに垂直出力線16へと読み出される。
【0096】
上述の通り、光に対する感度が異なるAPDを用いてダイナミックレンジの拡大が図られている。しかし、複数のAPDでフォトンカウントを行うために各APDに対応する数のカウンタ回路を配置すると、画素の面積や構成の自由度が制限される。
【0097】
以下に本実施形態による課題解決の方法を説明する。
【0098】
本実施形態における単位時間・単位面積あたりの入射フォトン数とカウントされるフォトンカウント数との関係を示すグラフは
図5と同様である。
図5は横軸に単位時間・単位面積あたりに入射するフォトン数、縦軸にカウンタ回路でのフォトンカウント数を示している。
図5におけるプロット443は
図7におけるAPD143に対応するフォトンカウント数を示している。プロット444は
図7におけるAPD144対応するフォトンカウント数を示している。プロット445は本実施形態における画像処理後の単位時間・単位面積当たりの入射フォトン数と演算処理後のフォトンカウント数の関係をプロットしたものである。
【0099】
本実施形態においても、例えばAPD143とAPD144の感度比がn倍であるとし、同一光量が入射する状況においてAPD143に対応するカウント数はAPD144に対応するカウント数のn倍とする。
【0100】
まず、入射されるフォトン数が小さい場合(領域A)を考える。カウンタ回路120に選択回路150の0端子の出力が入力され、カウンタ回路120の出力の一部がLoレベルとしてインバータ回路155に入力される。インバータ回路155の出力及びNMOSトランジスタ153のゲート電圧はHiレベルとなり、NMOSトランジスタ153はオン状態となる。一方インバータ回路154の出力及びNMOSトランジスタ152のゲート電圧はLoレベルとなり、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。
【0101】
NMOSトランジスタ153のソースは接地電位に接続されているので、NMOSトランジスタ153がオン状態になるとAPD144のカソード(ノードN)の電位は0Vとなり、APD144に印加される逆バイアス電圧は、降伏電圧以下の電圧となる。この状態では、たとえフォトンの入射により電子が発生したとしても、その電子はアバランシェ増倍を引き起こすことなく、P型MOSトランジスタ142を介して排出される。素電荷による電流は非常に小さく、P型MOSトランジスタ142による電圧の降下は非常に小さいため、インバータ回路146のスレッショルドを超えて信号パルスが出力されることはない。つまりNMOSトランジスタ153はAPD144のアバランシェ増倍を停止するスイッチとして機能する。
【0102】
一方でNMOSトランジスタ152のゲートレベルはLoであるため、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。APD143は先に述べたようにガイガーモードで動作し、フォトンカウントを行う。
【0103】
カウンタ回路120の出力が所定の値aに達すると、配線156のレベルがLoからHiになる。インバータ回路155の出力と接続されているNMOSトランジスタ153のゲート電圧はLoレベルとなり、NMOSトランジスタ153はオフ状態となる。一方、インバータ回路154の出力と接続されているNMOSトランジスタ152のゲート電圧はHiレベルとなり、NMOSトランジスタ152はオン状態となる。
【0104】
つまり、カウンタ回路120の出力が所定の値aに達すると、APD143のアバランシェ増倍は停止し、カウント数443はフォトンカウント数がaに達した時点で一定となる。一方APD144はガイガーモードでの動作をはじめ、カウント数444の増加が始まる。
【0105】
また、選択回路150のS端子への入力がHiになり、選択回路150からは1端子の入力が出力される。
【0106】
このように、入射するフォトンの数が少なく、光に対する感度の高いAPD143で線形性を保ったフォトンカウントが可能である場合(領域A)はAPD143のみがガイガーモードで動作する。入射するフォトンの量が多く、APD143でパイルアップが発生する場合(領域B)はAPD144のみをガイガーモードで動作させる。
【0107】
カウンタ回路に入力される信号はAPD143、APD144のいずれか一方に対応したものとなるため、2つのAPDに対して1つのカウンタ回路でフォトンカウントが可能である。
【0108】
このように飽和検知回路151で検知した閾値とカウント値との大小関係を用いてカウント処理を変えることで、
図4に示すような演算処理後の切れ目の無い直線的な信号を得ることができる。
【0109】
本実施例では、各画素のカウンタ回路をAPDよりも少なくすることができるため、第一の実施例に示す光電変換装置以上に画素の小型化や狭ピッチ化を行うことが可能となる。また第一実施形態と同様にカウンタ回路のカウンタ数を削減することもできるため、消費電力を低減することも可能となる。
【0110】
以下にカウンタ数の削減に関して詳細に説明する。
【0111】
まずAPD143のみでフォトンカウントを行う場合を考える。例えば16bitのカウンタを用いて10進数で2の16乗のカウント値を得たい場合、65536回のカウントをする必要があり、カウント数分の電力が消費される。
【0112】
これに対し、本実施形態において、APD143とAPD144を切り替えてフォトンカウントを行う場合を考える。例えばAPD143とAPD144の感度比nを16、閾値aを4096とする。フォトンカウント数が閾値に到達するまではAPD143の信号のカウントを行い、フォトンカウント数が閾値を超えた場合はAPD144のカウント数を16倍して4096を足した値をフォトンカウント数とする。この場合、フォトンカウント数が65536に達するまでに、APD144の信号に対応じたカウントの回数は65336/16=4096回でよく、カウント数が65536に達するまでの総カウント回数は4096+4096=8192回となる。つまりカウントの総回数を削減することができ、消費電力の低減が可能となる。
【0113】
なお、この時APD144の信号を使用する範囲においてはAPD143の信号を使用した場合と比べ分解能が1/nに低下することになるが、この範囲では十分に光量があるため光ショットノイズの影響が大きく、分解能の低下が与える影響はわずかである。
【0114】
さらに、本実施形態ではAPD143、APD144双方の信号を光電変換部140から出力する必要がなく、信号処理回路60に読み出しが必要な信号はカウンタ回路120のカウント結果と飽和信号のみとなるため、読み出しの高速化が可能となる。
【0115】
本動作例では選択回路150は先にAPD143の出力を選択してカウンタ回路120に接続されていたが、先にAPD144を接続してもかまわない。先にAPD144を接続し、一定時間経過後にAPD144のフォトンカウント数の多寡に応じて出力を切り替えることでもダイナミックレンジは拡大可能である。その場合も、一時に動作するAPDはAPD143、APD144のいずれか一方であり、動作するカウンタ回路も1つである。
【0116】
[第3実施形態]
本実施形態について
図8、
図9を用いて説明する。本実施形態においては、画素毎に光検出に使用する光電変換部を設定することでフォトンカウントに係る消費電力を軽減させることができる。
【0117】
図8は実施形態に係る光電変換装置の概略図であり、
図9は、実施形態にかかる光電変換装置の画素回路の構成例である。第一及び第二の実施形態と重複する部分については説明を省略し、主として第一及び第二の実施形態と異なる部分を説明する。
【0118】
(光電変換装置の全体構成)
本実施形態による光電変換装置1000は、
図8に示すように、画素領域100と、ダイナミックレンジ制御回路10と、垂直走査回路20と、列読み出し回路30と、水平走査回路40と、制御回路50と、信号処理回路60とを有している。
【0119】
画素領域100には、複数行及び複数列に渡ってマトリクス状に配された複数の画素12と、ダイナミックレンジ制御部201とが設けられている。画素領域100の画素アレイの各行には、行方向(
図1において横方向)に延在して、制御信号線14が配されている。制御信号線14は、行方向に並ぶ画素12とダイナミックレンジ制御部201とにそれぞれ接続され、これら画素12とダイナミックレンジ制御部201に共通の信号線をなしている。また、画素領域100の画素アレイの各列には、列方向(
図1において縦方向)に延在して、垂直出力線16が配されている。垂直出力線16は、列方向に並ぶ画素12にそれぞれ接続され、これら画素12に共通の信号線をなしている。さらに、画素領域100の画素アレイの各列には、列方向(
図1において縦方向)に延在して、制御信号線17が配されている。
【0120】
各行の制御信号線14は、垂直走査回路20に接続されている。垂直走査回路20は、画素12から画素信号を読み出す際に画素12内の読み出し回路を駆動するための制御信号を、制御信号線14を介して画素12に供給する回路部である。
【0121】
各行の制御信号線15は、垂直走査回路20に接続されている。垂直走査回路20は制御信号線15を介してダイナミックレンジ制御部201に制御信号を供給する。
【0122】
各列の垂直出力線16の一端は、列読み出し回路30に接続されている。画素12から読み出された画素信号は、垂直出力線16を介して列読み出し回路30に入力される。列読み出し回路30は、画素12から読み出された画素信号を保持するメモリ等を含み得る。
【0123】
各列の制御信号線17の一端は、ダイナミックレンジ制御回路10に接続されている。ダイナミックレンジ制御回路10は、ダイナミックレンジ制御信号を、制御信号線17を介してダイナミックレンジ制御部201に供給する回路部である。
【0124】
水平走査回路40は、列読み出し回路30において保持された画素信号を列毎に順次、信号処理回路60に転送するための制御信号を、列読み出し回路30に供給する回路部である。制御回路50は、垂直走査回路20、列読み出し回路30及び水平走査回路40の動作やそのタイミングを制御する制御信号を供給するための回路部である。信号処理回路60は画素信号の処理を行う。
【0125】
(画素の構成)
本実施形態による画素12とダイナミックレンジ制御部201との構成と接続関係について説明する。
図9は、画素12とダイナミックレンジ制御部201との概略構成を示すブロック図ないし等価回路図である。それぞれの画素12は、
図2に示すように、光電変換部140と、カウンタ回路120と、選択回路130と、選択回路150と、インバータ回路154と、インバータ回路155とを含む。
【0126】
光電変換部140はAPD143と、APD144とを含む。APD143、APD144のアノードは、電圧VLを供給する電源に接続されている。APD143のカソードは、P型MOSトランジスタ141及びインバータ回路145の入力端子に直列に接続され、APD144のカソードはP型MOSトランジスタ142及びインバータ回路146の入力端子に直列に接続されている。P型MOSトランジスタ141、P型MOSトランジスタ142は、電圧VLよりも電位の高い電圧VHを供給する電源に接続されている。NMOSトランジスタ152のゲートはインバータ回路154の出力に接続されている。NMOSトランジスタ152はさらに接地電位とAPD143のアノードに直列に接続されている。NMOSトランジスタ153のゲートはインバータ回路155の出力に接続されている。つまり光電変換部140はNMOSトランジスタ152の制御ノードとNMOSトランジスタ153の制御ノードとの間にインバータ回路154を有する。NMOSトランジスタ153はさらに接地電位とAPD144のアノードに直列に接続されている。
【0127】
インバータ回路155の出力はNMOSトランジスタ153のゲートとインバータ回路154の入力に接続され、インバータ回路154の出力はNMOSトランジスタ152のゲートに接続される。インバータ回路155の入力端子にはPD選択線PDSELを介してダイナミックレンジ制御部201が接続されている。
【0128】
インバータ回路145、インバータ回路146の出力端子は、光電変換部140の出力ノードである。インバータ回路145、インバータ回路146の出力端子は、選択回路150に接続されている。
【0129】
選択回路150の出力はカウンタ回路120に入力され、カウンタ回路120の出力は選択回路130を介して垂直出力線16に接続されている。
【0130】
選択回路150は、端子SのレベルがLoの時は0端子の入力をOUT端子から出力し、端子SがHiレベルの時は1端子の入力をOUT端子から出力する。選択回路150の0端子には高感度のAPD143の出力がインバータ回路145を介して接続され、選択回路150の1端子には低感度のAPD144の出力がインバータ回路146を介して接続されている。選択回路150の出力はカウンタ回路120に入力されている。また、選択回路のS端子にはインバータ回路154の出力が接続されており、インバータ回路154の出力はインバータ回路155に入力されるダイナミックレンジ制御部201の出力信号に応じてLoとHiが切り替わる。
【0131】
ダイナミックレンジ制御部201には制御信号線15(DrangeSEL_V)を介して制御信号が入力され、制御信号線17(DrangeSEL_H)を介してダイナミックレンジ制御回路10の出力が入力される。
【0132】
上述の通り、光に対する感度が異なるAPDを用いてダイナミックレンジの拡大が図られている。しかし、光の強さによって光検出に用いるAPDを使い分けるために画素内の複数のAPDの各々でフォトンカウントを行うには、APDの各々の動作を制御する回路が必要となり、回路面積が増大する。また、消費電力も大きくなる。
【0133】
(動作例)
以下に本実施形態による課題解決の方法を説明する。
【0134】
本実施例では、ダイナミックレンジ制御回路10から出力されるダイナミックレンジ制御信号によって各画素で光検出に用いられるAPDが決まっている。
【0135】
まず、APD143を光検出に用いる場合を考える。このとき、ダイナミックレンジ制御部201の出力はLoである。インバータ回路155の出力及びNMOSトランジスタ153の入力はHiである。一方インバータ回路154の出力及びNMOSトランジスタ152の入力はLoである。インバータ回路154の出力Loは選択回路150のS端子にも入力される。選択回路150は、端子SのレベルがLoの時は0端子の入力、すなわちインバータ回路154の出力をOUT端子から出力する。
【0136】
NMOSトランジスタ153のゲート電圧がHiレベルになると、NMOSトランジスタ153はオン状態となる。一方インバータ回路154の出力及びNMOSトランジスタ152のゲート電圧はLoレベルとなり、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。
【0137】
NMOSトランジスタ153は接地電位に接続されているので、NMOSトランジスタ153がオン状態になるとAPD144のカソードの電位は0Vとなり、APD144に印加される逆バイアス電圧は、降伏電圧以下の電圧となる。この状態では、たとえフォトンの入射により電子が発生したとしても、その電子はアバランシェ増倍を引き起こすことなく、P型MOSトランジスタ142を介して排出される。素電荷による電流は非常に小さく、P型MOSトランジスタ142による電圧の降下は非常に小さいため、インバータ回路146のスレッショルドを超えて信号パルスが出力されることはない。つまりNMOSトランジスタ153はAPD144のアバランシェ増倍を停止するスイッチとして機能する。
【0138】
一方でNMOSトランジスタ152のゲートレベルはLoであるため、NMOSトランジスタ152はオフ状態となる。APD143は先に述べたようにガイガーモードで動作し、フォトンカウントを行う。APD143の出力はインバータ回路145でパルス波に整形され、インバータ回路145から出力されたパルス波は選択回路150の0端子を介してカウンタ回路120に入力される。カウンタ回路120ではAPD143で検出されたフォトンの総数がカウントされる。
【0139】
このように、APD143を光検出に用いる場合にはAPD143だけがアバランシェ増倍する。この間APD144はアバランシェ増倍をおこさず、フォトンカウントもなされない。一方APD144を光検出に用いる場合はAPD143のアバランシェ増倍は停止し、フォトンカウントもなされない。APD144だけがアバランシェ増倍し、フォトンカウントがなされる。このように、インバータ回路を用いることで回路面積を著しく増大させることなく一方のAPDが動作する時他方のAPDは動作しない構成をとることができる。また、各画素で大小のAPDとAPDに対応するカウンタを動作させる場合と比べて一度に動作するAPDが減少し、消費電力の削減が可能となる。
【0140】
なお、本実施形態では画素領域100上の画素のすべてが画素12の構造を有する場合を示したが、一部の画素のみが画素12の構造を有する構成としてもかまわない。この場合も画素12の構造を有する画素の割合に応じて回路面積の縮小及び消費電力の効果が得られる。
【0141】
また、本実施形態ではNMOSトランジスタ152、153をアバランシェ増倍を停止するスイッチとして使用したが、例えば
図10に示すようにP型MOSトランジスタ141、142を同様のスイッチとして使用してもかまわない。このような構成ではNMOSトランジスタ152、153がなくとも複数のAPDを排他的に動作させられるため、回路面積の更なる縮小が可能である。
【0142】
ここまでの説明では、画素のそれぞれがインバータ回路154、155を有していた。このような構成では画素1つ1つについて使用するAPDを選択することが可能である。しかし、例えば複数の画素でインバータ回路を共有する構成をとる場合にも本発明を適用することが可能である。このとき、選択されるAPDはインバータ回路を共有する画素間で素子の接続状態に応じて固定されるが、必要な回路の総数を減らすことができ、回路面積及び消費電力の更なる低減が可能である。
【0143】
本実施例の実施に際し、画素アレイの中心部と外縁部で使用するAPDを異ならせるなど場所によってAPDを使い分けてもよいし、画素アレイ全体でAPD143、APD144のどちらか片方だけを使って光検出を行ってもかまわない。
【0144】
前者のように画素アレイ内で場所によって使用するAPDを異ならせることで、ダイナミックレンジの拡大やシェーディングの軽減が期待される。より具体的には、画素アレイ外縁部ではシェーディングが起こりやすいため画素面積が大きいAPD143を使用し、高角光の少ない画素アレイ中心部ではAPD144を用いる、あるいはAPD143とAPD144とを選択的に使用することが考えられる。
【0145】
また、後者のように画素アレイ全体で一方のAPDだけを使用する場合、感度の面内均一性を向上させることができる。
【0146】
なお、各画素でどのAPDを使用するかは例えばユーザによるモード選択で決定してもよいし、輝度情報を入手するためのAEセンサを配し、AEセンサからの出力信号に応じて決定してもよい。あるフレームで撮像した画素信号に応じて次のフレームで各画素が使用するAPDを選択する構成をとってもよい。
【0147】
[第4実施形態]
本実施形態による光電変換システムについて、
図11を用いて説明する。
図11は、本実施形態による光電変換システムの概略構成を示すブロック図である。
【0148】
上記第1~第3実施形態で述べた光電変換装置は、種々の光電変換システムに適用可能である。適用可能な光電変換システムの例としては、デジタルスチルカメラ、デジタルカムコーダ、監視カメラ、複写機、ファックス、携帯電話、車載カメラ、観測衛星などが挙げられる。また、レンズなどの光学系と撮像装置とを備えるカメラモジュールも、光電変換システムに含まれる。
図11には、これらのうちの一例として、デジタルスチルカメラのブロック図を例示している。
【0149】
図11に例示した光電変換システムは、光電変換装置の一例である撮像装置1004、被写体の光学像を撮像装置1004に結像させるレンズ1002を有する。さらに、レンズ1002を通過する光量を可変にするための絞り1003、レンズ1002の保護のためのバリア1001を有する。レンズ1002及び絞り1003は、撮像装置1004に光を集光する光学系である。撮像装置1004は、上記のいずれかの実施形態の光電変換装置であって、レンズ1002により結像された光学像を電気信号に変換する。
【0150】
光電変換システムは、また、撮像装置1004より出力される出力信号の処理を行うことで画像を生成する画像生成部である信号処理部1007を有する。信号処理部1007は、必要に応じて各種の補正、圧縮を行って画像データを出力する動作を行う。信号処理部1007は、撮像装置1004が設けられた半導体基板に形成されていてもよいし、撮像装置1004とは別の半導体基板に形成されていてもよい。
【0151】
光電変換システムは、更に、画像データを一時的に記憶するためのメモリ部1010、外部コンピュータ等と通信するための外部インターフェース部(外部I/F部)1013を有する。更に光電変換システムは、撮像データの記録又は読み出しを行うための半導体メモリ等の記録媒体1012、記録媒体1012に記録又は読み出しを行うための記録媒体制御インターフェース部(記録媒体制御I/F部)1011を有する。なお、記録媒体1012は、光電変換システムに内蔵されていてもよく、着脱可能であってもよい。
【0152】
更に光電変換システムは、各種演算とデジタルスチルカメラ全体を制御する全体制御・演算部1009、撮像装置1004と信号処理部1007に各種タイミング信号を出力するタイミング発生部1008を有する。ここで、タイミング信号などは外部から入力されてもよく、光電変換システムは少なくとも撮像装置1004と、撮像装置1004から出力された出力信号を処理する信号処理部1007とを有すればよい。
【0153】
撮像装置1004は、撮像信号を信号処理部1007に出力する。信号処理部1007は、撮像装置1004から出力される撮像信号に対して所定の信号処理を実施し、画像データを出力する。信号処理部1007は、撮像信号を用いて、画像を生成する。
【0154】
このように、本実施形態によれば、上記のいずれかの実施形態の光電変換装置(撮像装置)を適用した光電変換システムを実現することができる。
【0155】
[第5実施形態]
本実施形態の光電変換システム及び移動体について、
図12を用いて説明する。
図12は、本実施形態の光電変換システム及び移動体の構成を示す図である。
【0156】
図12(a)は、車載カメラに関する光電変換システムの一例を示したものである。光電変換システム300は、撮像装置310を有する。撮像装置310は、上記のいずれかの実施形態に記載の光電変換装置(撮像装置)である。光電変換システム300は、撮像装置310により取得された複数の画像データに対し、画像処理を行う画像処理部312と、光電変換システム300により取得された複数の画像データから視差(視差画像の位相差)の算出を行う視差取得部314を有する。また、光電変換システム300は、算出された視差に基づいて対象物までの距離を算出する距離取得部316と、算出された距離に基づいて衝突可能性があるか否かを判定する衝突判定部318と、を有する。ここで、視差取得部314や距離取得部316は、対象物までの距離情報を取得する距離情報取得手段の一例である。すなわち、距離情報とは、視差、デフォーカス量、対象物までの距離等に関する情報である。衝突判定部318はこれらの距離情報のいずれかを用いて、衝突可能性を判定してもよい。距離情報取得手段は、専用に設計されたハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアモジュールによって実現されてもよい。また、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって実現されてもよいし、これらの組合せによって実現されてもよい。
【0157】
光電変換システム300は車両情報取得装置320と接続されており、車速、ヨーレート、舵角などの車両情報を取得することができる。また、光電変換システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、車両に対して制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置である制御ECU330が接続されている。また、光電変換システム300は、衝突判定部318での判定結果に基づいて、ドライバーへ警報を発する警報装置340とも接続されている。例えば、衝突判定部318の判定結果として衝突可能性が高い場合、制御ECU330はブレーキをかける、アクセルを戻す、エンジン出力を抑制するなどして衝突を回避、被害を軽減する車両制御を行う。警報装置340は音等の警報を鳴らす、カーナビゲーションシステムなどの画面に警報情報を表示する、シートベルトやステアリングに振動を与えるなどしてユーザに警告を行う。
【0158】
本実施形態では、車両の周囲、例えば前方又は後方を光電変換システム300で撮像する。
図12(b)に、車両前方(撮像範囲350)を撮像する場合の光電変換システムを示した。車両情報取得装置320が、光電変換システム300ないしは撮像装置310に指示を送る。このような構成により、測距の精度をより向上させることができる。
【0159】
上記では、他の車両と衝突しないように制御する例を説明したが、他の車両に追従して自動運転する制御や、車線からはみ出さないように自動運転する制御などにも適用可能である。更に、光電変換システムは、自車両等の車両に限らず、例えば、船舶、航空機あるいは産業用ロボットなどの移動体(移動装置)に適用することができる。加えて、移動体に限らず、高度道路交通システム(ITS)等、広く物体認識を利用する機器に適用することができる。
【0160】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0161】
例えば、いずれかの実施形態の一部の構成を他の実施形態に追加した例や、他の実施形態の一部の構成と置換した例も、本発明の実施形態である。
【0162】
本実施形態ではAPDを高感度用と低感度用の2種類としたが例えば3種類以上のAPDを用い、そのうち1つのAPDがガイガーモードで動作する構成としてもよい。APDの種類を増やすことによって、より広範なダイナミックレンジの実現が可能である。
【0163】
また、上記実施形態では、1つの画素の複数のAPDを、1つのn型半導体領域224内に配置しているが、APD毎に別々のn型半導体領域224内に配置してもよい。APD毎に別々のn型半導体領域224内に配置することにより基板上での配置の自由度の向上が見込まれる。
【0164】
また、上記第4実施形態、第5実施形態に示した光電変換システムは、光電変換装置を適用しうる光電変換システム例を示したものであって、本発明の光電変換装置を適用可能な光電変換システムは
図11及び
図12に示した構成に限定されるものではない。
【0165】
なお、上記実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0166】
100 光電変換装置
143、144 アバランシェフォトダイオード
120、121 カウンタ回路