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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】光学素子及びそれを備える光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20241216BHJP
【FI】
G02B1/115
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020205576
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092709
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】内田 和枝
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151484(JP,A)
【文献】特開2017-134404(JP,A)
【文献】特開2005-292462(JP,A)
【文献】特開2020-166245(JP,A)
【文献】特開2019-070695(JP,A)
【文献】特開2011-237472(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0028005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる基板と反射防止膜とを有する光学素子であって、
前記反射防止膜は、前記基板の上に形成された誘電体層と、該誘電体層の上に形成された多孔質層とからなり、
前記誘電体層は、酸化ケイ素を含む第1の層と、酸化タンタルを含む第2の層とを有し、
前記多孔質層は、酸化ケイ素又はフッ化マグネシウムを含み、
前記第1の層は前記第2の層に隣接し、前記第2の層は前記多孔質層に隣接し、
前記第1の層は、重量比90%以上の酸化ケイ素及び重量比10%以下のアルミニウムを含むことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記多孔質層のd線における屈折率をn 10 とするとき、
1.15≦n 10 ≦1.35
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記第2の層は、酸化チタン、酸化ランタン、及び酸化ジルコニウムの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記多孔質層は、酸化ケイ素からなる複数の粒子と、該複数の粒子を互いに結合するバインダとを有することを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記複数の粒子の夫々は、球状の中空粒子であることを特徴とする請求項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記複数の粒子の夫々は中実粒子であり、該複数の粒子は互いに鎖状に結合していることを特徴とする請求項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記多孔質層は、1.0mg/cm以上2.8mg/cm以下のアルコールを含み、該アルコールは、エーテル結合とエステル結合の少なくとも一方を有し、炭素数が4から7であって、かつ分岐構造を持つアルコールであることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記樹脂材料のd線における平均屈折率をnd 200 とするとき、
1.48≦nd 200 ≦1.80
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記樹脂材料の線膨張係数をα(10-5/℃)とするとき、
1.5≦α≦30.0
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記基板と前記反射防止膜とで構成されていることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項11】
前記基板と、前記反射防止膜と、該反射防止膜の上に設けられた保護層とで構成されていることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の光学素子。
【請求項12】
請求項1乃至1の何れか一項に記載の光学素子と、該光学素子を保持する保持部材とを備えることを特徴とする光学装置。
【請求項13】
請求項1乃至1の何れか一項に記載の光学素子と、該光学素子からの光を受光する撮像素子とを備えることを特徴とする光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関し、例えばデジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、銀塩フィルム用カメラ、望遠鏡等の光学装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、酸化ケイ素層と酸化タンタル層とを含む多重層、フッ化マグネシウムから成る均質層、及び酸化ケイ素から成る均質層が順に積層されて成る反射防止膜が、樹脂材料からなる基板の上に設けられた光学素子が開示されている。特許文献1では、基板の上に設けられる多重層として加熱せずに形成可能な材料を採用することにより、熱による基板の変形を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-134404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に係るフッ化マグネシウムから成る均質層には強い引張応力が生じるため、温度などの環境の変化に応じて膜割れ(クラック)や膜剥がれが生じる可能性がある。また、特許文献1に係る反射防止膜では、フッ化マグネシウムから成る均質層の上にさらに酸化ケイ素から成る均質層が設けられているため、反射防止性能の向上が難しい。
【0005】
本発明は、良好な反射防止性能及び環境耐久性を実現可能な光学素子及びそれを備える光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための、本発明の一側面としての光学素子は、樹脂材料からなる基板と反射防止膜とを有する光学素子であって、前記反射防止膜は、前記基板の上に形成された誘電体層と、該誘電体層の上に形成された多孔質層とからなり、前記誘電体層は、酸化ケイ素を含む第1の層と、酸化タンタルを含む第2の層とを有し、前記多孔質層は、酸化ケイ素又はフッ化マグネシウムを含み、前記第1の層は前記第2の層に隣接し、前記第2の層は前記多孔質層に隣接し、前記第1の層は、重量比90%以上の酸化ケイ素及び重量比10%以下のアルミニウムを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な反射防止性能及び環境耐久性を実現可能な光学素子及びそれを備える光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る光学素子の模式図
図2】本発明の実施例1に係る光学素子の反射率特性を示す図
図3】本発明の実施例2に係る光学素子の反射率特性を示す図
図4】本発明の実施例3に係る光学素子の反射率特性を示す図
図5】本発明の実施例4に係る光学素子の反射率特性を示す図
図6】本発明の実施例5に係る光学素子の反射率特性を示す図
図7】本発明の実施例6に係る光学素子の反射率特性を示す図
図8】本発明の実施例7に係る光学素子の反射率特性を示す図
図9】本発明の実施例8に係る光学素子の反射率特性を示す図
図10】本発明の実施例9に係る光学素子の反射率特性を示す図
図11】本発明の実施例10に係る光学素子の反射率特性を示す図
図12】本発明の実施例11に係る光学素子の反射率特性を示す図
図13】本発明の実施例12に係る光学素子の反射率特性を示す図
図14】比較例1に係る光学素子の反射率特性を示す図
図15】比較例1に係る光学素子の反射率特性を示す図
図16】本発明の実施形態に係る光学系の模式図
図17】本発明の実施形態に係る光学装置の模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図面は、便宜的に実際とは異なる縮尺で描かれている場合がある。また、各図面において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る光学素子300の模式図(断面図)である。光学素子300は、樹脂材料からなる基板(樹脂基板)200と、基板200の上に形成された反射防止膜100とを有する。なお、本実施形態に係る樹脂材料は、樹脂(有機物)を主成分とする材料、すなわち樹脂の割合が最も大きい材料のことを示しており、複数の樹脂の混合物や、樹脂に無機材料の微粒子を分散させたもの(有機複合物)などを含む。
【0011】
反射防止膜100は、基板200の上に形成された複数の誘電体薄膜からなる誘電体層11と、誘電体層11の上に形成された多孔質層10から構成される。誘電体層11は、基板200の側から順に配置された層1,2,3,4,5,6で構成されており、そのうち何れかは酸化ケイ素を含む層(第1の層)であり、何れかは酸化タンタルを含む層(第2の層)である。
【0012】
なお、本実施形態においては誘電体層11を6層で構成したが、誘電体層11の層数はこれに限られるものではなく、誘電体層11が少なくとも酸化ケイ素を含む層及び酸化タンタルを含む層を有していれば何層であってもよい。また、図1(b)に示すように、反射防止膜100の上に、撥水層や撥油層、多孔質層10を保護するための保護層(保護膜)などの他の層を設けてもよい。このとき、反射防止膜100の上に複数の層を設けてもよい。反射防止膜100の上に設ける層としては、例えば、フッ素を含有した塗料や、酸化ケイ素を含有した塗料などが挙げられる。
【0013】
一般的に、樹脂材料は高温になると変形や変色が生じやすい。よって、基板200の上に反射防止膜100を形成する際に加熱蒸着や焼成を行う場合は、温度を200℃以下とすることが望ましく、好ましくは120℃以下、より好ましくは80℃以下とするのがよい。また、樹脂材料は、ガラスなどの無機材料と比較して線膨張係数が大きく、昇温に伴い膨張しやすい。そのため、樹脂材料の膨張方向に対して逆方向の引張応力を生ずる膜が基板200の上に形成された場合、膜割れや膜剥がれが生じるおそれがある。よって、反射防止膜100としては、無加熱もしくは80℃以下の低温加熱での蒸着が可能であり、かつ十分な膜強度と圧縮応力を有する材料を用いることが望ましい。
【0014】
そこで、本実施形態においては、この条件を満たす材料として酸化ケイ素及び酸化タンタルを採用している。具体的には、誘電体層11が酸化ケイ素を含む層(第1の層)及び酸化タンタルを含む層(第2の層)を有する構成を採っている。この構成によれば、低屈折率の酸化ケイ素と高屈折率の酸化タンタルを組み合わせることで良好な反射防止性能が得られるとともに、第1の層及び第2の層に圧縮応力を生じさせることで基板200の膨張による膜割れや膜剥がれを抑制することができる。
【0015】
基板200の大きな膨張にも対応するためには、強い圧縮応力を生じさせる材料を使用することが望ましい。そこで本願発明者は、鋭意検討の結果、酸化ケイ素に一定量のアルミニウム(Al)を含有させることで、酸化ケイ素の圧縮応力を増大させることができることを見出した。よって、第1の層としては、重量比90%以上の酸化ケイ素と、重量比10%以下のアルミニウムを含む材料を用いることが望ましい。なお、本願発明者は、アルミニウム含有量(添加量)が微量であっても環境耐久性の向上の効果が得られることを見出している。このとき、第1の層に含有させるアルミニウムの重量比は0.001%以上であることが好ましい。
【0016】
また、無加熱もしくは80℃以下の低温加熱で蒸着した場合にも十分な膜強度を得ることができる高屈折率材料としては、酸化タンタルの他に酸化チタン、酸化ランタン、酸化ジルコニウムが挙げられる。よって、第2の層としては、酸化タンタルに加えて、酸化チタン、酸化ランタン、及び酸化ジルコニウムの少なくとも一つを含む材料を採用してもよい。
【0017】
なお、環境耐久性をより向上させるためには、誘電体層11のうち最も基板200に近い位置に配置された層1を第1の層又は第2の層とすることが好ましい。さらに、誘電体層11を、交互に積層された第1の層及び第2の層で構成することが望ましい。すなわち、誘電体層11を、1以上の第1の層と2以上の第2の層、あるいは2以上の第1の層と1以上の第2の層で構成することが望ましい。このとき、誘電体層11を複数の第1の層と複数の第2の層で構成することがより好ましい。これらの構成によれば、基板200の変形や変色、あるいは誘電体層11膜割れや膜剥がれをより良好に抑制することができる。
【0018】
誘電体層11の成膜方法は特に限定されるものではなく、例えば蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理気相成長法を採用することができる。蒸着法における蒸着材料の加熱方法としては、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法、レーザー蒸着法などが挙げられる。電子ビーム蒸着法では、蒸着材料を直接加熱することができるため、基板200の昇温や汚染を抑制することができるという観点で好ましい。また、第1の層及び第2の層に十分な圧縮応力を生じさせるためには、イオンビームアシスト法を用いることも望ましい。イオンビームアシスト法では、独立したイオン源が蒸着を補助する役割を果たすため、吸収や散乱が少なく強度が高い膜を形成することができる。
【0019】
一般的に、反射防止膜における最上層(最も基板から遠い層)の材料の屈折率を低くすればするほど反射防止性能が向上することが知られている。そこで、本実施形態では、反射防止膜100における最上層を、内部に空隙を有する多孔質層10としている。これにより、最上層が内部に空隙を有さない層である場合と比較して、最上層の屈折率を大幅に低減することができる。さらに、本実施形態では、多孔質層10の材料として比較的低屈折率である酸化ケイ素又はフッ化マグネシウムを採用している。これにより、反射防止膜における最上層の屈折率を十分に低減することができ、良好な反射防止性能の実現が可能になる。
【0020】
ここで、多孔質層10のd線における屈折率をn 10 とするとき、以下の条件式(1)を満足することが望ましい。
【0021】
1.15≦n 10 ≦1.35 (1)
多孔質層10の屈折率nは、多孔質層10を構成する材料と空隙の割合、及びそれらの屈折率より求められる。すなわち、多孔質層10における空隙の割合が大きいほど屈折率n 10 は低くなる。条件式(1)を満足することで、多孔質層10の強度を十分に保ちつつ多孔質層10の屈折率を十分に低くすることができるため、環境耐久性と良好な反射防止性能を両立することができる。さらに、以下の条件式(1a)を満足することがより好ましい。
【0022】
1.20≦n 10 ≦1.31 (1a)
多孔質層10の成膜方法としては、例えばゾルゲル法が挙げられる。ゾルゲル法における塗工液の塗工方法は、特に限定されるものではなく、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法などを採用することができるが、この中でも比較的容易なスピンコート法を採用することが好ましい。ゾルゲル法は、熱処理工程を含むが、沸点の低い溶媒を使用することで低温での焼成が可能であるため、基板200の変形や変色を抑制することができるという観点で好ましい。そのため、多孔質層10の材料は、80℃以下の低温で硬化する材料であることが望ましい。
【0023】
また、多孔質層10の成膜に使用される溶媒は、エーテル結合とエステル結合の少なくとも一方を有し、炭素数が4から7であって、かつ分岐構造を持つ、1.0mg/cm以上2.8mg/cm以下のアルコールであることが望ましい。アルコールの例としては、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、2-イソプロポキシエタノール、3-メトキシ-1-ブタノールが挙げられる。あるいは、乳酸メチルや乳酸エチルを採用してもよい。溶媒として用いるアルコールは、1種類であっても2種以上であってもよい。溶媒として用いたアルコールは、多孔質層10の内部に残留し、空隙のサイズを制御する役割も担っている。
【0024】
多孔質層10における空隙を形成するためには、多孔質層10が酸化ケイ素からなる複数の粒子と、該複数の粒子を互いに結合するバインダとを有することが望ましい。このとき、複数の粒子としては、球状の中実粒子又は中空粒子、環状又は鉤状の中実粒子などを採用することができる。ただし、多孔質層10における空気(空隙)の割合を大きくして多孔質層10の屈折率を小さくするためには、中空粒子か、環状又は鉤状の中実粒子を採用することが好ましい。中実粒子を採用した場合は、各粒子が互いに鎖状に結合(連結)することで鎖状構造(粒子)を形成するため、多くの空隙を形成しつつ十分な強度を確保することができる。
【0025】
基板200を構成する樹脂材料のd線における平均屈折率をnd 200 、線膨張係数をα(10-5/℃)とするとき、以下の条件式(2)及び(3)の少なくとも一方を満足することが望ましい。基板200として条件式(2)及び(3)の少なくとも一方を満足する樹脂材料を用いることで、光学素子300の設計自由度と基板200の製造容易性及び光学性能とを両立することができる。
【0026】
1.48≦nd 200 ≦1.80 (2)
1.5≦α≦30.0 (3)
以下、本実施形態の具体的な実施例を示す。ただし、各実施例は本実施形態の一例に過ぎず、本発明は各実施例の範囲に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
本発明の実施例1に係る光学素子300について説明する。本実施例に係る光学素子300の構成は、図1(a)に示した実施形態と同等である。
【0028】
本実施例に係る基板200の材料は、d線における屈折率が1.53のシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂である、日本ゼオン株式会社のZEONEXである。本実施例に係る誘電体層11の材料は酸化ケイ素としてのSiOと酸化タンタルとしてのTaである。本実施例に係る多孔質層10の材料はSiOから成る鎖状粒子(鎖状シリカ)である。
【0029】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表1に示す。
【0030】
【表1】
本実施例に係る反射防止膜100の形成方法について説明する。
【0031】
(a)誘電体層11の成膜方法
蒸着チャンバ(真空チャンバ)内の蒸着治具に基板200を設置し、蒸着材料である顆粒状のSiO及びTaをるつぼに設置した。蒸着チャンバ内において、2×10-3(Pa)近傍の高真空状態になるまで無加熱状態で排気した。蒸着チャンバ内が高真空状態になったのを確認してから、不活性ガスとしてのArをイオン銃に導入し、該イオン銃を放電させた。イオン銃が安定状態になってから、蒸着チャンバ内に酸素を導入し、真空圧が1×10-2(Pa)程度となった状態で酸素イオンによるイオンビームアシスト蒸着を行った。
【0032】
(b)多孔質層10の成膜方
【0033】
(b-1)鎖状シリカ塗工液とバインダ溶液の調整
まず、鎖状シリカ粒子と溶媒を含む分散液(鎖状シリカ分散液)を調整した。溶媒としては、2-プロパノール(IPA)である日産化学工業株式会社のIPA-ST-UP(平均粒径12nm・固形分濃度15質量%)し、エバポレーターを用いてこれを1-プロポキシ-2-プロパノールに置換した。鎖状シリカ分散液における溶媒の比率は、IPA:1-プロポキシ-2-プロパノール=7.5:92.5とした。
【0034】
次に、バインダを形成するために必要な成分を含有する溶液(バインダ溶液)を調整した。具体的には、東京化成工業株式会社のテトラエトキシシラン(TEOS)18.5gと、触媒水としての0.1wt%ホスフィン酸16.0g(TEOSに対して10当量)とを、20℃の水浴において60分間混合攪拌した。
【0035】
さらに、鎖状シリカ分散液251.3gにバインダ溶液を33.4g添加し、1-プロポキシ-2-プロパノールを174.5g、乳酸エチル546.5gを添加し、60分間攪拌して鎖状シリカ塗工液を作製した。
【0036】
(b-2)多孔質層10の塗工方法
鎖状シリカ塗工液を基板200上に成膜された誘電体層11に滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った。その後、25℃の熱風循環オーブンで10分間焼成することで多孔質層10を形成した。
【0037】
図2に、本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示す。図2では、入射光の光学素子300に対する入射角が0度、15度、30度、45度、及び60度の夫々である場合の反射率と、入射光の波長との関係を示している。図2に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0038】
[実施例2]
本発明の実施例2に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した実施例1と同等の構成については説明を省略する。
【0039】
基板200の材料は実施例1と同様のCOP樹脂である。誘電体層11の材料は重量比0.001%のAlを含むSiO、及びTaである。多孔質層10の材料は実施例1と同様の鎖状シリカである。本実施例に係る誘電体層11は実施例1とは異なり7層で構成されている。誘電体層11及び多孔質層10の成膜方法は実施例1と同様である。
【0040】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表2に示す。
【0041】
【表2】
図3は、実施例1(図2)と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図3に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0042】
[実施例3]
本発明の実施例3に係る光学素子300について説明する。本実施例に係る光学素子300の構成は、図1(b)に示した実施形態と同等である。
【0043】
基板200の材料は実施例1と同様のCOP樹脂である。誘電体層11の材料は重量比重量比3.0%のAlを含むSiO、及びTaとTiOの混合物である。多孔質層10の材料は鎖状シリカである。多孔質層10の上には、TEOSを主成分とする保護層20が設けられている。誘電体層11の成膜方法は実施例1と同様である。
【0044】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表3に示す。
【0045】
【表3】
本実施例に係る多孔質層10及び保護層20の成膜方法について説明する。
【0046】
(c)多孔質層10及び保護層20の成膜方
【0047】
(c-1)鎖状シリカ塗工液の調整
本実施例に係る鎖状シリカ塗工液は、実施例1(b-1)と同様の方法で作製した。
【0048】
(c-2)保護層用塗工液の調整
キシダ化学株式会社の1-エトキシ-2-プロパノール7.7gに、東京化成工業株式会社のTEOS26.0gと、触媒水としての0.01M希塩酸22.5g(TEOSに対して10当量)とを添加し、60分間混合攪拌した。さらに、この混合液を60℃のオイルバス中で40分間攪拌した。その後、シリカの固形分濃度が0.8wt%となるように、混合液に1-エトキシ2-プロパノールと2-エチルブタノールを加えることで、保護層用塗工液を作製した。ここでの1-エトキシ2-プロパノールと2-エチルブタノールの比率は3:7とした。
【0049】
(c-3)多孔質層10及び保護層20の塗工方法
基板200上に成膜された誘電体層11に鎖状シリカ塗工液を0.2ml滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った。続けて、鎖状シリカ塗工液が塗布された誘電体層11に保護層用塗工液を0.2ml滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った。その後、25℃の熱風循環オーブンで10分間焼成することで多孔質層10及び保護層20を形成した。
【0050】
図4は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図4に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で2.5%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0051】
[実施例4]
本発明の実施例4に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0052】
基板200の材料は実施例3と同様のCOP樹脂である。誘電体層11の材料は重量比重量10.0%のAlを含むSiO、及びTaとTiOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例3と同様の鎖状シリカである。保護層20の材料は実施例3と同様のTEOSを主成分とする材料である。本実施例に係る誘電体層11は実施例3とは異なり7層で構成されている。誘電体層11、多孔質層10、及び保護層20の成膜方法は実施例3と同様である。
【0053】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表4に示す。
【0054】
【表4】
図5は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図5に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で2.5%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0055】
[実施例5]
本発明の実施例5に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0056】
本実施例に係る基板200の材料は、d線における屈折率が1.64の特殊ポリカーボネート(PC)樹脂である、三井ガス化学株式会社のEP-5000である。誘電体層11の材料はSiO、及びTaとZrOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例1と同様の鎖状シリカである。誘電体層11及び多孔質層10の成膜方法は実施例1と同様である。
【0057】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表5に示す。
【0058】
【表5】
図6は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図6に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0059】
[実施例6]
本発明の実施例6に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0060】
基板200の材料は実施例5と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比0.001%のAlを含むSiO、及びTaとZrOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例1と同様の鎖状シリカである。本実施例に係る誘電体層11は実施例5とは異なり5層で構成されている。誘電体層11及び多孔質層10の成膜方法は実施例1と同様である。
【0061】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表6に示す。
【0062】
【表6】
図7は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図7に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0063】
[実施例7]
本発明の実施例7に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0064】
基板200の材料は実施例5と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比0.03%のAlを含むSiO、及びTaである。多孔質層10の材料はSiOから成る中空粒子(中空シリカ)である。誘電体層11の成膜方法は実施例1と同様である。
【0065】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表7に示す。
【0066】
【表7】
本実施例に係る多孔質層10の成膜方法について説明する。
【0067】
(d)多孔質層10の成膜方
【0068】
(d-1)中空シリカ塗工液とバインダ溶液の調整
まず、中空シリカ粒子と溶媒を含む分散液(中空シリカ分散液)6.00gに1-メトキシ-2-プロパノール28.17gを加えて希釈し、中空シリカ塗工液(固形分濃度3.60質量%)を調製した。中空シリカ分散液としては、溶媒をIPAとした分散液である日揮触媒化成株式会社のスルーリア1110(平均粒径55nm、固形分濃度20.50質量%)を採用した。
【0069】
次に、中空シリカ用のバインダ溶液を調整した。具体的には、キシダ化学株式会社の1-エトキシ-2-プロパノール7.7gに、東京化成工業株式会社のTEOS26.0gと、触媒水としての0.01M希塩酸22.5g(TEOSに対して10当量)とを添加し、60分間混合攪拌した。さらに、この混合液を60℃のオイルバス中で40分間攪拌した。その後、シリカの固形分濃度が0.8wt%となるように1-エトキシ2-プロパノールと2-エチルブタノールを加えることで、バインダ溶液を作製した。ここでの1-エトキシ2-プロパノールと2-エチルブタノールの比率は3:7とした。
【0070】
(d-2)多孔質層10の塗工方法
基板200上に成膜された誘電体層11に中空シリカ塗工液を滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行うことで、中空シリカ微粒子からなる層を形成した。さらに、中空シリカ微粒子からなる層の上にバインダ溶液を滴下し、4500rpmで20秒間スピンコートを行った。その後、25℃の熱風循環オーブンで10分間焼成することで多孔質層10を形成した。
【0071】
図8は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図8に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.21%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0072】
[実施例8]
本発明の実施例8に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0073】
基板200の材料は実施例5と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比10.0%のAlを含むSiO、及びTaの混合物である。多孔質層10の材料は実施例7と同様の中空シリカである。本実施例に係る誘電体層11は実施例7とは異なり5層で構成されている。誘電体層11及び多孔質層10の成膜方法は実施例7と同様である。
【0074】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表8に示す。
【0075】
【表8】
図9は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図9に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.21%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0076】
[実施例9]
本発明の実施例9に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0077】
本実施例に係る基板200の材料は、d線における屈折率が1.67の特殊ポリカーボネート(PC)樹脂である、三井ガス化学株式会社のEP-9000である。誘電体層11の材料はSiO及びTaである。多孔質層10の材料は実施例7と同様の中空シリカである。多孔質層10の上には、TEOSを主成分とする保護層20が設けられている。誘電体層11の成膜方法は実施例1と同様である。
【0078】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表9に示す。
【0079】
【表9】
本実施例に係る多孔質層10及び保護層20の成膜方法について説明する。
【0080】
(e)多孔質層10及び保護層20の成膜方
【0081】
(e-1)中空シリカ塗工液とバインダ溶液の調整
本実施例に係る中空シリカ塗工液とバインダ溶液は、実施例7(d-1)と同様の方法で調整した。
【0082】
(e-2)保護層用塗工液の調整
本実施例に係る保護層用塗工液は、実施例3(c-1)と同様の方法で調整した。なお、実施例3における保護層用塗工液と実施例7におけるバインダ溶液は同じである。
【0083】
(e-3)多孔質層10及び保護層20の塗工方法
基板200上に成膜された誘電体層11に中空シリカ塗工液を0.2ml滴下し、3000rpmで20秒間スピンコートを行った。続けて、中空シリカ塗工液が塗布された誘電体層11にバインダ溶液を0.2ml滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った。その後、25℃の熱風循環オーブンで10分間焼成することで多孔質層10を形成した。さらに、保護層用塗工液を多孔質層10に0.2ml滴下し、4000rpmで20秒間スピンコートを行った後、25℃の熱風循環オーブンで10分間焼成することで保護層20を形成した。
【0084】
図10は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図10に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0085】
[実施例10]
本発明の実施例10に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0086】
基板200の材料は実施例9と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比0.001%のAlを含むSiO、及びTaとTiOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例7と同様の中空シリカである。保護層20の材料は実施例9と同様のTEOSを主成分とする材料である。本実施例に係る誘電体層11は実施例9とは異なり5層で構成されている。誘電体層11及び多孔質層10の成膜方法は実施例7と同様である。
【0087】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表10に示す。
【0088】
【表10】
図11は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図11に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっており、良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0089】
[実施例11]
本発明の実施例11に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0090】
基板200の材料は実施例9と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比3.0%のAlを含むSiO、及びTaとZrOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例7と同様の中空シリカである。保護層20の材料は実施例9と同様のTEOSを主成分とする材料である。誘電体層11、多孔質層10、及び保護層20の成膜方法は実施例9と同様である。
【0091】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表11に示す。
【0092】
【表11】
図12は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図12に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で2.5%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0093】
[実施例12]
本発明の実施例12に係る光学素子300について説明する。本実施例について、上述した各実施例と同等の構成については説明を省略する。
【0094】
基板200の材料は実施例9と同様の特殊PC樹脂である。誘電体層11の材料は重量比10.0%のAlを含むSiO、及びTaとZrOの混合物である。多孔質層10の材料は実施例7と同様の中空シリカである。保護層20の材料は実施例9と同様のTEOSを主成分とする材料である。誘電体層11、多孔質層10、及び保護層20の成膜方法は実施例9と同様である。
【0095】
本実施例に係る光学素子300の詳細な構成を表12に示す。
【0096】
【表12】
図13は、実施例1と同様に本実施例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図13に示すとおり、入射角が60度である場合の反射率が、可視域である波長420~700nmの範囲で2.5%以下となっており、入射角が大きい場合においても良好な反射防止性能が得られていることがわかる。
【0097】
[比較例1]
本発明の効果を説明するための比較例1に係る光学素子300について説明する。本比較例に係る光学素子300は、最上層が多孔質層ではなく誘電体層11としてのフッ化マグネシウム(MgF)であるという点で実施例1とは異なる。
【0098】
基板200の材料は実施例1と同様のCOP樹脂である。誘電体層11の材料は、実施例1と同様のSiO及びTaに加え、最上層としてのMgFを採用している。誘電体層11の成膜方法は実施例1と同様である。
【0099】
本比較例に係る光学素子300の詳細な構成を表13に示す。
【0100】
【表13】
図14は、実施例1と同様に本比較例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図14に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率は、可視域である波長420~700nmの範囲で0.15%以下となっている。しかし、実施例1に係る光学素子300の反射率特性(図2)と比較すると、反射率が十分に低くなる波長帯域が狭く、入射角が大きい場合の反射率が増大していることがわかる。
【0101】
[比較例2]
本発明の効果を説明するための比較例2に係る光学素子300について説明する。本比較例に係る光学素子300は、誘電体層11における最上層がフッ化マグネシウムではなくSiOであるという点で比較例1とは異なる。
【0102】
基板200の材料は実施例1と同様のCOP樹脂である。誘電体層11の材料は、実施例1と同様のSiO及びTaである。誘電体層11の成膜方法は実施例1と同様である。
【0103】
本比較例に係る光学素子300の詳細な構成を表14に示す。
【0104】
【表14】
図15は、実施例1と同様に本比較例に係る光学素子300の反射率特性を示したものである。図15に示すとおり、入射角が0度である場合の反射率は、可視域である波長420~700nmの範囲で0.5%程度となっており、実施例1に係る光学素子300の反射率特性(図2)と比較すると反射率が増大していることがわかる。
【0105】
次に、各実施例及び各比較例に係る反射防止膜100の様々な条件下での耐久性を確認するために行った耐久試験の方法について説明する。
【0106】
(高温高湿放置試験)
作製した光学素子300のサンプルを温度60℃、湿度90%に設定された恒温槽に1000時間放置した後、反射防止膜100の外観を目視で観察した。
【0107】
(低温放置試験)
作製した光学素子300のサンプルを温度-30℃に設定された恒温槽に1000時間放置した後、反射防止膜100の外観を目視で観察した。
【0108】
(高温放置試験)
作製した光学素子300のサンプルを温度70℃に設定された恒温槽に12時間放置した後、反射防止膜100の外観を目視で観察した。
【0109】
各実施例及び各比較例に係る反射防止膜100の反射防止性能と、上記耐久試験の結果とをまとめたものを表15に示す。
【0110】
【表15】
表15に示すように、各実施例では、何れの耐久試験においても膜割れや膜剥がれが生じておらず、良好な反射防止性能と高い環境耐久性とを両立できていることが確認できた。一方、比較例1では、最上層として引張応力が大きいMgFを採用しているため、各耐久試験において膜割れや膜剥がれが生じてしまうことが確認できた。また、比較例2については、膜割れや膜剥がれは生じていないものの、上述したとおり良好な反射防止性能が得られないことが確認できた。
【0111】
[光学系及び光学装置]
次に、本発明の実施形態としての光学系400及び光学装置500について説明する。
【0112】
図16に、本実施形態に係る光学系400の光軸(一点鎖線)を含む断面の模式図を示す。光学系400は、複数の光学素子(レンズ)G401~G411と絞り402を有しており、物体の像を像面403に形成する結像光学系である。各光学素子G401~G411のうち少なくとも一つの光学素子の入射面及び出射面の少なくとも一方には、上述した実施形態に係る反射防止膜100が設けられている。なお、光学系400の全系で良好な反射防止性能を得るためには、すべての光学素子に反射防止膜100が設けられていることが望ましく、さらに各光学素子の入射面及び出射面の両方に反射防止膜100が設けられていることがより好ましい。なお、光学素子としてプリズムやフィルタなどを採用する場合にも、それらに反射防止膜100を設けることが望ましい。
【0113】
図17に、本実施形態に係る光学装置としての撮像装置(デジタルカメラ)500の模式図を示す。撮像装置500は、光学系400を備えるレンズ部501と、撮像素子503を備える本体部502とを有する。光学系400を構成する各光学素子は、レンズ部501における保持部材(鏡筒)により保持されている。撮像素子503は、光学系400からの光を受光することで物体の撮像を行う素子であり、例えばCCDセンサやCMOSセンサなどの光電変換素子を採用することができる。撮像素子503は、その撮像面(受光面)が光学系400の像面403と一致するように配置されている。
【0114】
レンズ部501は、本体部502と一体化されていてもよく、本体部502に対して着脱可能に構成されていてもよい。レンズ部501と本体部502とを互いに着脱可能にする場合は、レンズ部501を一つの光学装置(レンズ装置)と捉え、かつ本体部502を一つの光学装置(撮像装置)と捉えることができる。なお、各実施例に係る光学素子は、上述した撮像装置に用に限らず、双眼鏡、プロジェクタ、望遠鏡等の種々の光学装置に適用することができる。
【0115】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の組合せ、変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0116】
10 多孔質層
11 誘電体層
100 反射防止膜
200 基板
300 光学素子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17