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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】血糖トラッキングシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/145 20060101AFI20241216BHJP
   A61B 5/1495 20060101ALI20241216BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20241216BHJP
   G16Y 40/20 20200101ALI20241216BHJP
【FI】
A61B5/145
A61B5/1495
G01N22/00 S
G16Y40/20
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020551393
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 US2018051411
(87)【国際公開番号】W WO2019182638
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】62/646,510
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519397541
【氏名又は名称】チェイス,アーノルド
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェイス,アーノルド
【合議体】
【審判長】樋口 宗彦
【審判官】瓦井 秀憲
【審判官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-169396(JP,A)
【文献】特表2014-500081(JP,A)
【文献】米国特許第7613488(US,B1)
【文献】国際公開第2017/111623(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0095303(US,A1)
【文献】特表2010-524589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0317060(US,A1)
【文献】国際公開第2017/141024(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0156645(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145, 5/1495, G01N 22/00, G16Y 40/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血糖測定装置であって、
アンテナを備えるアンテナアセンブリを有し、測定対象の血管を含む所望のターゲット領域に近接する患者の皮膚の上またはその近傍に配置されるように構成されたアンテナハウジングと、
前記アンテナに動作可能に接続されて、前記アンテナを介して前記ターゲット領域の血管中にマイクロ波エネルギーを送信する送信機と、を備え、
前記アンテナアセンブリは、ターゲット領域内に送信されたマイクロ波エネルギーを受信する受信要素を使用せずに、前記ターゲット領域内の血管中で吸収された前記マイクロ波エネルギーを決定し、前記患者の血糖値に相関させることができる吸収マイクロ波エネルギー測定値を決定する、
血糖測定装置。
【請求項2】
前記吸収マイクロ波エネルギー測定値と較正値とを比較して、それらの値の差を識別して、次いで、前記差に基づいて血糖値を決定するコントローラをさらに備える、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項3】
前記所望のターゲット領域内の血管は、皮下血管である、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項4】
前記所望のターゲット領域に近接する前記患者の腕の上に配置されるように構成される、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項5】
前記患者の手首の上に配置されるように構成される、
請求項4に記載の血糖測定装置。
【請求項6】
前記アンテナハウジングが取り付けられるストラップをさらに備え、前記ストラップは、前記患者の腕に巻かれるように構成される、
請求項4に記載の血糖測定装置。
【請求項7】
前記吸収マイクロ波エネルギー測定値に対応する測定データを表示するための視覚ディスプレイをさらに備える、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項8】
測定データの表示および保存のうちの少なくとも一方のために、前記測定データを外部機器に送信するための第2の送信機をさらに備える、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項9】
前記マイクロ波エネルギーは、マイクロ波パルスの形態である、
請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項10】
前記アンテナアセンブリは、前記ターゲット領域内の血管に供給された実際のエネルギー電力レベルを測定する、請求項1に記載の血糖測定装置。
【請求項11】
患者の血糖を測定するための方法であって、
既知の血糖値に関連して、前記患者の所望のターゲット領域内の血管中のマイクロ波吸収のための較正値を確立するステップと、
マイクロ波エネルギーを前記ターゲット領域の血管中に送信するステップと、
ターゲット領域内に送信されたマイクロ波エネルギーを受信する受信要素を使用せずに、前記ターゲット領域内の血管で吸収された前記マイクロ波エネルギーの送信量を決定して、測定値を決定するステップと、
前記測定値と前記較正値とを比較して、計算された電力差分値を生成するステップと、
前記計算された電力差分値を表す血糖値を決定するステップと、を含む、方法。
【請求項12】
前記血糖値は、前記ターゲット領域内の血管で吸収された、測定された電力レベルからの値を外挿することで決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
既知のグルコース値と関連付けられた電力値を使用して、前記患者のさらなる血糖測定のための較正値が生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記患者の状態に関連する追加の感知値に基づいて、計算された前記血糖値を調整するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記追加の感知値は、前記患者の脈拍数、皮膚温度、ガルバニック皮膚反応および水分レベルのうちの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
計算された前記血糖値を表示するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
計算された前記血糖値およびそれに関連付けられた計算された前記電力差分値を保存するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記マイクロ波エネルギーの送信周波数を所定の周波数範囲で変動させるステップをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記所望のターゲット領域内の血管は、皮下血管である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記所望のターゲット領域に近接する前記患者の皮膚の上またはその近傍の測定装置の位置を特定するステップをさらに含み、前記測定装置は、アンテナおよび前記アンテナに動作可能に接続されて前記アンテナを介して前記ターゲット領域の血管中に前記マイクロ波エネルギーを送信する送信機を有するアンテナハウジングを備える、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記測定装置は、前記所望のターゲット領域に近接する前記患者の腕の上に配置される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記測定装置は、前記患者の手首の上に配置される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記所望のターゲット領域の大きさ、形状および位置に相関する無線周波数マスクを作製し、前記測定装置の位置を特定する前に、前記無線周波数マスクを前記所望のターゲット領域に近接する前記患者の皮膚の上に配置するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、非侵襲的なインビボ(in vivo)血糖測定システムに関し、より詳細には、血糖値の瞬間的なリアルタイム読み取りのためのパーソナライズされた皮下血糖測定およびトラッキングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
何十年にもわたって、血流中のグルコース値(血糖値)を「リアルタイム」に直接読み取り、非侵襲的に測定するためのシステムの開発が試みられてきた。しかしながら、主に血液中に容易に溶解するグルコース自体の固有の性質と、人体の血流の封じ込め性とにより、血流中に存在するグルコースを直接非侵襲的に測定することが非常に困難であるため、今日までこれらの試みは成功していない。
【0003】
歴史的に、可視光や赤外線を利用して、または血液中のグルコース値のばらつきによる偏光の変化を検出することを利用して血糖値を測定する試みでは、光学的手段が好まれてきた。これらの試みは、血糖値を直接非侵襲的に測定するその他の試みと同様に、成果がないことが繰り返し証明されてきた。
【0004】
現在利用可能な連続血糖監視システムは、実際には、血糖値を直接測定するのではなく、間質液のグルコース値を測定する。その結果、このような「血糖」システムや計測器は、「リアルタイム」な血糖読み取り値を提供することができない。また、このようなシステムは、血糖読み取り値に対する間質液の測定値の相関関係により、一般に20分程度の実質的なタイムラグに本質的に悩まされる。
【0005】
制御された実験室条件下でインビトロ(in vitro)のマイクロ波手段を介して、血糖値を比較的正確に測定することができることが一般に認識されている。しかしながら、従来技術の測定機器は、インビボでこれらの測定を行う能力を欠いていた。このような固定された実験室条件下において臨床的に有用な測定が可能であるかもしれないが、これらの単純な実験室測定装置を個人差や互いに異なる特性を示す実際の生物との日常的な使用に適したシステムに発展させるために必要な自動較正機構、および実際の「現場」での非侵襲的な血糖読み取りを可能にする機構や実施形態は、これまで存在していなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を鑑みて、実際には「間質液」測定装置である従来技術の「血糖」計測器に一般的に関連する血糖測定値を決定するための固有の測定値のばらつきおよびタイムラグを示すことなく、非侵襲的であり、インビボで使用することができる実際の(直接読み取り)血糖測定システムが必要とされている。したがって、本発明の一般的な目的は、非侵襲的であり、血糖を直接測定し、測定値のばらつきやタイムラグを示すことなくインビボで行うことができる、血糖の測定、トラッキングおよび監視のための新規で最適化された効率的なアプローチを提供する、新規な血糖トラッキングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
血糖トラッキングシステムおよび方法に関する本発明は、従来技術の「血糖」計測器および非侵襲的な測定装置の従来の試みとは異なる動作をする。本発明は、制御された実験室の条件下で溶液中のグルコース値を測定するために必要な専門的で最適化された機器を複製することなく、定義され固定されたターゲット領域内の、放射されたマイクロ波エネルギー全体の送信量およびその後の血管で受容される量を測定して、次いで、この瞬間的な測定値と以前の較正値とを比較することで、血流から直接上記グルコース値の正確な計算を得ることができる。瞬間的な電力読み取り測定値と以前の較正電力読み取り測定値との差を分析および計算して、結果として得られる血糖値を決定することができる。これは、患者個人に対する様々な生物学的または周囲の要因や変化を補償する追加の感知値を介してさらに順応させることができる。さらに、決定された血糖値は、読み取りのために表示および/または将来参考にできる記録のために送信および保存され得る。
【0008】
現在利用可能なすべての(実際には上述したように血糖を直接測定するのではなく、間質液を測定する)連続「血糖」計測器とは異なり、本発明による血糖トラッキングシステムは、実際には、血流中の瞬間的なグルコース濃度を読み取る。また、間質液を読み取る従来技術の計測器とは異なり、本システムは、測定と実際の血糖読み取りとの間にタイムラグを生じさせることなく、リアルタイムで血糖値を読み取って提供する。さらに、そのようなリアルタイム測定によって、好ましくはインビボでの使用のために個人が着用することができるコンパクトな測定ユニットを利用して、インビボで血糖値を測定および監視することができる。
【0009】
本発明のシステムおよび方法とその他の従来技術のシステムおよび方法とでは、主に、本発明が、直接吸収型測定システムに関するものである点と、皮膚の層および/または体の他の部位を介して送信要素から受信要素に送信された送信エネルギーを測定することに特に依存しないという点で、本質的に異なる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、血糖測定のシステムおよび方法は、好ましくは無線周波数エネルギーを送信する、デューティサイクルが短い、インパルス力が高い、且つ平均電力が非常に低いマイクロ波エネルギー源を利用する。血液組成は、全体として平均で約92%の水を含んでいる。グルコースを含む水がグルコースを含まない水よりも大きいマイクロ波エネルギーを吸収することは周知の事実である。この現象を利用することで、最終的に血流中の瞬間的なグルコース値をインビボで非侵襲的に検出および測定することができる実用的な方法が存在する。好ましい実施形態によれば、エネルギー源からのマイクロ波エネルギーは、適切な皮下血管、すなわち皮膚の表面に最も近い血管に向けてそのエネルギーを集中させて送信するように設計されたアンテナアセンブリに供給される。さらに好ましい実施形態において、エネルギー源およびアンテナアセンブリは、所望のターゲット領域で測定されるように、患者の皮下血管に近接する体の一部に取り付け可能なハウジング内に設けられ、より好ましくは患者の腕に取り付け可能なハウジング内に設けられ、さらにより好ましくは患者の手首に取り付け可能な例えばブレスレットや腕時計の一部として設けられる。
【0011】
本発明による血糖測定のシステムおよび方法の独特且つ重要な事項は、各ターゲット患者およびその個人の所望のターゲット領域に対して個別に調整された無線周波数(RF)マスクが使用されることである。このようなRFマスクによって、送信されたマイクロ波エネルギーが、例えば皮膚表面近くの血管の特定の部位のようなターゲット領域にのみ正確に到達することができる。また、アンテナ放射ローブパターン、選択された送信周波数、および使用された電力レベルを最適化することで、マイクロ波エネルギーは、「皮膚表面に近い」血管を含む具体的に定義された領域に適合する位置および深さに封じ込められ、成形され、排他的に向けられてもよい。また、RFエネルギーが向けられて送信され得る領域を制限する当該RFマスクは、所望のターゲット領域の外側で吸収され得るエネルギーの測定を本質的に制限する。これにより、本発明のシステムおよび方法を用いた読み取りの精度が大幅に向上する。
【0012】
本発明の一態様において、マイクロ波エネルギーは、皮下血管を含む特定の領域に適合する深さに封じ込められ、成形され、所望のターゲット領域に排他的に向けられる。好ましくは、アンテナアセンブリは、所望のターゲット領域に隣接する位置に配置される。当該実施形態において、アンテナ放射ローブパターン、送信周波数および電力レベルは、特定の患者およびその患者のターゲット領域に対して変動させることができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、ターゲット皮下血管に到達するために必要な電力レベルは、レーダー送信機で使用されるものと同様のパルス型電波放射を使用することで達成される。
【0014】
本発明の実施形態によれば、各較正について、既知のグルコース値およびそれに対応する供給された電力値をメモリバッファに入れることができる。対象者のグルコース値が変化すると、システムを介して血流に受容される平均電力レベルは、最後の較正値に関連付けられた電力値に対して上昇または下降する。測定ユニットは、後続の定期的なマイクロ波放射ごとに、すべての新しいデータを記録し、瞬間的な電力レベルと以前の較正値との間の供給/受容された電力レベルの変化の外挿に基づいて、血糖値を計算する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照して例示された実施形態の説明およびそれらの特徴から明らかになるであろう。
図1】非侵襲的なインビボ血糖測定のための本発明による血糖トラッキングシステムの模式的な実施形態を示す図である。
図2】腕時計に組み込まれた、本発明による血糖トラッキングシステムの別の実施形態を示す図である。
図3】アンテナを含む補助ハウジングが、理想的には手首に装着される無線送信機を収容する腕時計またはブレスレットに接続されている、本発明による血糖トラッキングシステムのさらに別の実施形態を示す図である。
図4】決定された血糖値に関連するデータを、必要に応じてコンピュータ、ディスプレイまたはメモリバッファに供給する、血糖トラッキングシステムの模式的な実施形態を示す図である。
図5】2つの送信機に関連する血糖トラッキングシステムの別の模式的な実施形態を示す図である。
図6】本発明による測定装置から送信されるエネルギーを受容することができる領域を制限するために、患者に使用されるマスクを示す図である。
図7】本発明の好ましい実施形態による試験シーケンスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、非侵襲的なインビボ血糖測定のための本発明による血糖トラッキングシステムの模式的な実施形態が示されている。システムは、一般に、同軸ケーブルまたは導波管を介してアンテナアセンブリ16に動作可能に接続されたマイクロ波エネルギー源(例えば送信機12)を有する測定ユニット10を備え、アンテナアセンブリは、アンテナ14を備える。送信機12およびアンテナ14は、図に示すように共通のアンテナハウジング18内に配置されてもよく、互いに動作可能に接続されていれば個別のユニットに配置されてもよい。また、アンテナアセンブリは、好ましくはアンテナ14を介して供給された電力/エネルギーの量を測定するために使用されるコントローラ/プロセッサ24を備える。また、送信機12は、コントローラ24と動作可能に通信してもよい。
【0017】
送信機12は、好ましくは無線周波数エネルギーを送信する、より好ましくはレーダー送信機で使用されるものと同様のパルス型電波放射を放射する、デューティサイクルが短い、インパルス力が高い、且つ平均電力が非常に低いマイクロ波エネルギー源を有する。
送信機12は、患者の所望のターゲット領域50における適切な皮下血管20に向けてマイクロ波エネルギーを集中させて送信するためのアンテナ14に供給する。使用時には、測定装置10は、近傍の血管20に吸収されたマイクロ波エネルギーを測定して、ターゲット領域50内の血糖値の決定を補助する。より詳細には、コントローラ24は、送信機12によって生成されたエネルギーがアンテナ14によってどの程度出力されるかを決定して、血管20に供給された電力を測定する。図1に示すように、アンテナハウジング18は、患者の手首などの、測定される皮下血管20に近接する患者の皮膚Sの上またはその近傍に配置される。
【0018】
図7に示す模式図を参照すると、本システムは、ターゲット領域50における皮下血管、すなわち「皮膚表面に近い」血管20に送信および好ましくは吸収によって受容される放射されたマイクロ波エネルギー全体の量を測定することで、定義され固定されたターゲット領域50における患者の血糖値を正確に計算することができる。血流から直接得られる瞬間的なリアルタイム測定値は、所定の較正値と比較され得る。測定値と較正値との間の差、すなわち「デルタ」値は、分析および計算を介して、結果として得られる血糖値を提供することができる。好ましい実施形態において、結果として得られる血糖値を決定するために、電力エネルギー値を血糖値に相関させるアルゴリズムが使用される。このようなアルゴリズムは、好ましくはコントローラ24内に保存される。較正値は、コントローラ24の一部として設けられたメモリバッファ22内に保存され得る。
【0019】
本発明に従って皮下血管20を正確に測定する位置は、一般に個人の手首の近傍が望ましい。ただし、本発明のシステムは、本発明の精神および趣旨から逸脱することなく、体の他の部位で使用され得る。したがって、アンテナ14は、好ましくは所望のターゲット領域50に近接する皮膚表面Sの上にアンテナハウジング18を配置することで、好ましくは所望のターゲット領域に隣接して配置される。本発明のシステムの独特且つ重要な事項は、全体として図6に示す、各ターゲット患者および所望のターゲット位置50のために個別に調整されたRFマスク52が使用されることである。これにより、アンテナ14によって供給されたマイクロ波エネルギーが、例えば皮膚表面近くの血管20の特定の部位のようなターゲット領域にのみ正確に到達することができる。アンテナ放射ローブパターン、選択された送信周波数および使用された電力レベルをさらに最適化することで、マイクロ波エネルギーは、「皮膚表面に近い」血管20を含む特定の領域に適合する深さにさらに封じ込められ、成形され、排他的に向けられる。これらの領域の皮膚Sは非常に薄いため、血管の位置が実際に確認しやすくなり、また、これらの領域において、アンテナ14とターゲット血管20との間の経路に送信経路を過度に減衰または干渉するものがほとんどないことにも留意されたい。
【0020】
本発明のシステムおよび方法とその他の従来技術のシステムおよび方法とでは、本発明が直接吸収型測定システムである点と、皮膚の層および/または体の他の部位を介して送信要素から受信要素に送信された送信エネルギーを測定することに特に依存しないという点で、本質的に異なる。
【0021】
全体として図6に示すように、使用時には、RFマスク52は、個々の患者のために作製され、次いで、所望のターゲット領域50の上で患者の皮膚Sに敷かれて一時的に貼り付けられ、次いで、血糖の測定およびトラッキングのための本明細書に記載する測定ユニット10と共に使用される。また、RFエネルギーが送信され得る領域を制限する当該RFマスク52は、ターゲット領域50の外側で吸収され得るエネルギーの測定を本質的に制限する。これにより、読み取りの精度が大幅に向上する。個々に調整されたRFマスク52を作製するための好ましい方法は、以下でより詳細に説明する。
【0022】
上述したように、ターゲット皮下血管20に到達するために必要な電力レベルは、レーダー送信機で使用されるものと同様のパルス型電波放射を使用することで達成される。「ピーク」電力レベルは(必要な深さまで皮膚に浸透するために)比較的高い場合があるが、これらの放射のデューティサイクルは非常に低い。そのため、「平均」電力レベルが非常に低くなる。これにより、そのような無線送信機12のエネルギー効率が非常に高くなり、また、上記のような放射は、実験機器で一般的に使用されている連続波放射とは対照的に、上記システムを着用している個人によって知覚可能な温度上昇をもたらさない。
【0023】
吸収されたエネルギー量を決定する外挿プロセス(例えば電力読み取り測定)は、単独で、または組み合わせて、以下のプロセスのうちの1つまたは複数を利用してもよい。
【0024】
第1のアプローチでは、アンテナアセンブリは、特定の時間枠にわたって特定の無線周波数において供給された前方放射ピーク電力レベルおよび/または平均電力レベルのうちの1つを測定する。より具体的には、マイクロ波パルスがアンテナ14から放射されると、そのピーク送信電力レベルおよび/または平均電力レベルは、コントローラ24によって測定される。次いで、測定された送信エネルギーの電力レベルと最後の較正読み取り/測定の際に記録された較正値とを比較することで、「デルタ」値が決定される。システムは、アルゴリズムを介して、測定されたエネルギー電力レベルに対応する新たに計算された血糖読み取り値を識別する。より詳細には、アルゴリズムは、特定の血糖値をエネルギー吸収データに相関させる。計算された/決定された血糖読み取り値は、必要に応じてディスプレイおよび/またはメモリバッファに提供され得る。
【0025】
第2のアプローチでは、システムは、ターゲット血管20によって実際に供給および/または受容された前方電力レベルを読み取る代わりに、所望のターゲット領域50の血管20中の反射エネルギー電力レベルを測定して、較正値と比較して「デルタ」値を決定する。この場合、反射電力の読み取り値が低いほど、ターゲット領域50内で受容されるエネルギーが大きくなることが示される。これは、グルコース値が高いことを表す。血液中のグルコース値が高いほど、血液がエネルギーを吸収しようとする力が高くなり、反射電力が低下する。第1のアプローチでの計算された「デルタ」値と同様に、システムは、アルゴリズムを介して、新たに計算された血糖読み取り値を識別する。計算された/決定された血糖読み取り値は、必要に応じてディスプレイおよび/またはメモリバッファに提供され得る。
【0026】
第3のアプローチでは、システムは、特定の無線周波数で送信機12からの定在波比(SWR)読み取り値を測定し、そのような測定値から、較正読み取り値に関連する「デルタ」値を計算する。この場合、SWR読み取り値は、一般に血糖値をトラッキングする。SWR読み取り値は、血糖値が低いと上昇し、血糖値が高いと低下する。アルゴリズムを介して、計算された「デルタ」値が再び使用されて、適切な血糖読み取り値が決定される。これは、必要に応じてディスプレイおよび/またはメモリバッファに提供され得る。
【0027】
上述した様々なプロセスでは、すべての電力測定が固定周波数で行われる。第4のアプローチによれば、送信機12は、所定の周波数範囲内で、周波数ステップが低から高へ、または高から低へと繰り返されるように、所定の方法で送信周波数を順次変動させるように命令される。利用される個別に送信された無線周波数からのそれぞれのエネルギー受容量は、供給されたピーク電力または平均電力について測定され、次いで、同じ測定サイクルにおいて他の周波数と比較される。周波数間の吸収率のシフトは、変化するグルコース値をトラッキングして、1つまたは複数の外挿法を用いて血糖値に外挿される。本方法で使用できる一実施形態は、最大のエネルギー吸収を受容した周波数の位置を動的に分析する。これは、その後、「中心」または「指標」周波数になる。この「指標」周波数が最後の較正「指標」周波数と比較されて、オフセット値が生成される。このオフセット値は、スケーリングアルゴリズムに適用されて、計算された血糖値が決定される。これは、その後、必要に応じてディスプレイおよび/またはメモリバッファに提供され得る。
【0028】
同様のアプローチでは、第4のアプローチの周波数ホッピング方式を利用することができる。ただし、このアプローチでは、「中心」または「指標」周波数を解決して分析するのではなく、様々な送信周波数のすべてのエネルギー変化を分析して、所定のしきい値を超えたマイクロ波エネルギー吸収活動を示した周波数の「広がり」または帯域幅を特定し、次いで、しきい値を超えるその周波数の瞬間的な広がりと、最後の較正で得られた読み取り値の広がりとを比較する。アルゴリズムがこの広がりの増減を分析して差分値を導き出す。この値は、アルゴリズムに適用されて、血糖読み取り値が計算される。これは、その後、必要に応じてディスプレイおよび/またはメモリバッファに提供され得る。
【0029】
測定ユニット10は、後続の定期的なマイクロ波放射ごとに、すべての新しいデータを記録し、瞬間的な電力レベルと以前の較正値との間の供給/受容された電力レベルの変化の外挿に基づいて、血糖値を決定する。例えば、(システムが1:1アルゴリズムを使用していると仮定して)較正エントリーの結果、直接血糖読み取り値が100であり、その血糖値での血液が送信機12から100ミリワットの電力を受容した場合、ターゲット領域50に供給された電力が10%(すなわち110ミリワットに)上昇することを示す新しい試験読み取り値は、110mg/dlの血糖値を示すことになる。
【0030】
本発明による血糖トラッキングシステムおよび方法は、ベース送信機12およびアンテナアセンブリを介した電力感知に加えて、追加の任意選択の補償手段を利用することができる。これにより、血糖読み取りの精度を向上させることができる。その手段の中には、以下のものが含まれる:
(A)血管20を通る血流の速度の変化を補償するために組み込まれた脈拍センサ。血流が速くなったり遅くなったりすると、エネルギー受容率が変化して、計算結果を有害に歪める可能性がある。これを補償するために、脈拍センサが任意に組み込まれて、その変動を動的に補償する。
(B)所望のターゲット領域50に近接する皮膚温度センサによって、温度補償が適用されて、体幹の温度のばらつきによる血管径の変化(例えば血管拡張、血管収縮)を最適化する。
(C)ガルバニック皮膚反応を測定することで、好ましくは皮膚温度監視と共に、マイクロ波吸収率を歪める可能性がある測定ユニット10の領域における発汗レベルを決定することができる。その結果、システムは、ガルバニック皮膚データの測定に基づいて、発汗を補償することができる。
(D)血液は一般に平均92%の水であるが、患者の水分レベルが大きく異なる場合がある。(グルコースに対してより共振する周波数とは対照的に)水に対してより共振する周波数での定期的なマイクロ波エネルギー測定を使用することで、患者の水分レベルの変動を考慮して、測定ユニット10を連続的に較正することができる。デュアルバンドマイクロ波送信機、または広い周波数変動で動作可能な広帯域シングルバンド送信機のいずれかを使用することで、上述したように、周波数または送信機の一方を水レベルの監視専用にし、他方をグルコース検出のために最適化することができる。
【0031】
測定ユニット10と共に、追加の測定および表示手段が設けられ得る。例えば、図2および図4に示すように、アンテナハウジング18の上にディスプレイ画面26が設けられ得る。また、測定ユニット10は、手首に巻かれるブレスレットや腕時計28の一部またはその形態であり得、例えば接着剤によって皮膚Sに取り付けられる局所的なユニットを備えることができる。図5に模式的に示すように、測定ユニット10からコンピュータ、タブレット端末またはスマートフォンなどの別のユニット32にデータを送信するために、追加の送信機手段30をさらに含むことができる。これにより、測定ユニット10によって得られた血糖測定値を表示および/または記録することができる。例えば、ブレスレットや腕時計28の形態の測定ユニット10は、測定されたデータを保存して、次いで、コンピュータ32と同期して、患者の血糖測定値をさらに保存、監視および分析することができる。
【0032】
上述したように、および図1に示すように、本発明による血糖トラッキングシステムは、別個の「スタンドアローン」システムであってもよく、(腕時計やアクセサリー(jewelry)のような)手首に着用される無関係の物品に組み込まれてもよい。これにより、手首の皮膚表面に近い血管20を目立たずに利用することができる。送信機12とそれに関連付けられた制御要素を含む腕時計28の場合、小型導波管34の固定されたまたは柔軟な小さい部分が腕時計28の本体に取り付けられ、他方の端部は、測定のために所望のターゲット領域の上に配置された取り外し可能な補助的な「サイドカー」アンテナハウジング36に接続される。アンテナ14とそれに関連付けられた制御要素24を含むこのような補助アンテナハウジング36は、測定の際に腕時計28に取り付けられ、不要な場合は取り外される。ハウジング18および36が取り付けられると、アンテナ14は、腕時計28のバンドを通る導波管または同軸ケーブル34を介して、送信機12に接続され得る。本システムによる血糖トラッキングシステムが一体的に組み込まれた腕時計または図2に示すような「スマートウォッチ」の場合、腕時計28の既存のデジタル読み出し部26が瞬間的な血糖読み取り値を表示するために使用され得る。
【0033】
また、例えば隣接する所望のターゲット領域50に向けてアンテナのエネルギーを制限するために金属シールドを組み込むことで、または腕時計のバンド部分内に配置されたRF送信機12または他の機器に電力を供給するためにバッテリーを組み込むことで、本発明の精神および趣旨から逸脱することなく、他の多くの創造的な物理的実施形態を利用することができる。
【0034】
また、システムは、(上述したようにサンプリング送信機12に加えて)別個のデータ送信機30を組み込んでもよい。これにより、生データまたは計算されたデータの出力を、コンピュータ、タブレット端末またはスマートフォンなどの個別のディスプレイ32または記憶装置38に、またはインスリンポンプ40などの装置に中継することができる。これらの装置の製造元またはモデルに応じて、データ出力は、上述したように、表示および/または保存のために適切な専有フォーマットで送信される。
【0035】
本発明によるシステムおよび方法は、血糖値が既知である「制御」読み取り値と、血糖値が知られておらず決定する必要がある瞬間的な読み取り値との間の差を比較することで、瞬間的な血糖読み取り値を導き出す。「制御」読み取り値は、較正値であり得、システムを利用してそのような較正測定を行うたびに調整することができる(例えば、新しい制御測定値が次の測定のための較正値となる)。受容されたマイクロ波エネルギーのレベルで瞬間的なグルコース読み取り値を正確に外挿するために、従来の「フィンガースティック」による血糖測定法または実際の血糖値を正確に決定する他の手段を含む適切な測定方法を用いて実行される定期的な較正が行われる。このデータは、測定ユニット10に標準的な基準測定値を提供する。この測定値は、その後、個人の特定の体および体のターゲット位置(手首の特定の血管など)における後続の読み取り値と比較するために使用される。これにより、後続の血糖読み取り値を提供およびトラッキングすることができる。
【0036】
図6に示すような個々に調整された独自のRFアンテナマスク52を作製するために、マスク作製における2つの好ましい方法を利用することができる。最初の「手動」の方法では、個人の手首または所望のターゲット領域50に関連付けられた他の部位に一時的に巻かれて所定の位置に保持されるマイラー(Mylar)またはその他の柔軟な透明材料の薄片が利用される。対象者の腕または体の他の部位の幅に沿って、アンテナ14の正確なターゲット領域50の外郭を描くためにマーキングペンが利用される。これにより、後続の位置決め基準ガイダンスを提供することができる。取り外した後に、柔軟なシートがアンテナマスクブランクの上に敷かれて、その敷かれたシートを使用してマスク開口部の切断を補助することができる。RFマスク52が作製されると、所望のターゲット領域50において患者の皮膚Sの上に敷いて一時的に貼り付けることができ、血糖値の測定およびトラッキングのために本明細書に記載した測定ユニット10と共に使用される。
【0037】
2つ目の好ましいRFマスク作製方法は、「自動」の方法である。ここで、所望のターゲット領域50は、可視および/または熱赤外線スペクトルで撮影またはスキャンされる。熱データをさらに使用して、最適な感知領域を確立することができる。また、所望のターゲット領域50を取り囲む一般的な領域の物理的な測定も行われる。測定値に基づいて切断情報をスケーリングして、最適化されたターゲット領域に対応するようにマスクされていない領域を自動的に選択して輪郭を描くレーザー切断機またはCNC機械に、結果として得られた写真データが送られる。切断機は、非RF透過性材料のシートの上に直接マスク開口部を形成することができる。この自動選択プロセスは、収集された可視情報または収集された熱赤外線情報のいずれかまたは両方の結果として行われてもよい。
【0038】
以上、本発明の実施形態を例示および詳述する目的で説明した。上記の説明は、本発明を網羅するものでも記載された形態に限定するものでもない。上述した記載に基づいて、明らかな変形例およびバリエーションが可能である。本明細書に記載された実施形態は、本発明の原理および応用方法を最もよく説明するために選択され、当業者は、特定の用途に適した様々な実施形態および様々な変形例において本発明を利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7