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  • 特許-積層体の解体方法およびそのための装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】積層体の解体方法およびそのための装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/40 20220101AFI20241216BHJP
   B09B 5/00 20060101ALN20241216BHJP
【FI】
B09B3/40
B09B5/00 A ZAB
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021000678
(22)【出願日】2021-01-06
(65)【公開番号】P2022106024
(43)【公開日】2022-07-19
【審査請求日】2023-10-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「製品ライフサイクル管理とそれを支える革新的解体技術開発による統合循環生産システムの構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】林 秀原
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
(72)【発明者】
【氏名】浦田 泰裕
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-180231(JP,A)
【文献】特開平10-241750(JP,A)
【文献】特開2017-136516(JP,A)
【文献】特開2010-137146(JP,A)
【文献】特開2013-233512(JP,A)
【文献】国際公開第1999/022900(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00- 3/80
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層体の解体方法であって、
(a)導体からなる薄膜と、その表面に結着された結着層とからなる積層体を用意する工程と、
(b)前記積層体に正電極及び負電極を接触させる工程と、そして
(c)前記電極間に高電圧パルスを印加する工程と
を含んでなり、
ここで、前記高電圧パルスが、前記薄膜と前記結着層との界面付近に存在する前記薄膜と前記結着層とを結着させている物質を分解・溶融させるのに十分なジュール熱を、前記薄膜において生じさせるものであり、かつ
前記高電圧パルスの印加によるパルスパワーにより、前記薄膜と、前記結着層とが分離され、前記積層体が前記薄膜と前記結着層とに解体されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記積層体が、リチウムイオン電池の正極である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薄膜が、アルミニウム薄膜である、請求項2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記積層体が、リチウムイオン電池の負極である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記薄膜が、銅薄膜である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記正電極及び負電極の少なくとも一方が、または面で前記積層体に接触するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記正電極及び負電極の双方が、または面で前記積層体に接触するものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記結着層が絶縁体からなり、前記正電極および/または負電極が前記結着層に物理的に接触し、前記薄膜には電気的に接触してない場合、前記高電圧パルスが、前記結着層を絶縁破壊し、かつ前記薄膜に至るのに十分なものである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって解体され得られた前記薄膜および/または前記結着層から、有用物質または元素を回収する工程を含んでなる、方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を実施するための装置であって、
前記積層体に接触可能な正電極と負電極とを備え、
前記正電極と前記負電極との間に、高電圧パルスを生じさせる電気パルス部と備えてなる、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の解体方法およびそのための装置に関し、詳細には、例えばリチウムイオン電池の電極を、それを構成する材料の回収、再利用が効率よく可能なように解体できる方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や通信端末機器などの電子機器から有用な資源を回収し、再利用することの重要性が近時増々高まっており、資源の回収、再利用には、効率の良い物品の分解・解体方法が欠かせない。例えば、リチウムイオン電池の正極材料にはコバルトなどの有用物質・元素が含まれており、リチウムイオン電池がバッテリーとして広く普及、利用されている現状から、その廃棄後に有用物質・元素の効率のよい回収、再利用の方法の確立が強く望まれている。
【0003】
本発明者らの一部は、先にリチウムイオン電池の正極材料からのコバルトの分離、回収の方法を提案している。例えば、加熱と粉砕の組み合わせによってコバルトを回収する方法(特開2016-89209号公報(特許文献1))、低温加熱と物理選別の組み合わせによってコバルトとアルミニウムを分離する方法(特開2017-37807号公報(特許文献2)を提案している。これら方法は、効率よくコバルトの回収を図れるものであるが、より低環境負荷で、かつより高効率である手法が依然として求められているといえる。とりわけ、解体対象である有用物質・元素を含む部品について、分離精度の高い機械的な解体技術が求められているといえる。
【0004】
一方で、物の分解・破壊を、高電圧パルスを印加して行うことが種々提案されている。特開2020-69454号公報(特許文献3)は、電極間にパルス状の高電圧を印加しアーク放電により対象物を絶縁体と導体に分離・解体方法及び細線爆発による解体方法を開示している。しかしこの文献には、薄膜への高電圧パルスの印加によるジュール熱の利用の開示または示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-89209号公報
【文献】特開2017-37807号公報
【文献】特開2020-69454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、導体からなる薄膜とこの薄膜の表面に結着された層からなる積層体に高電圧パルスを印加することで瞬間的に発生するジュール熱とパルスパワーとを利用することにより、薄膜とこの薄膜の表面に結着された層とを、互いの混入を極力抑えながら分離することができるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明は、薄膜とこの薄膜の表面に結着された層とからなる積層体を、薄膜と層とに相互の混入を抑制しながら分離できる、積層体の解体方法の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による積層体の解体方法は、
(a)導体からなる薄膜と、その表面に結着された結着層とからなる積層体を用意する工程と、
(b)前記積層体に正電極及び負電極を接触させる工程と、そして
(c)前記電極間に高電圧パルスを印加する工程と
を含んでなり、
ここで、前記高電圧パルスが、前記薄膜と前記層との界面付近に存在する前記薄膜と前記層とを結着させている物質を分解・溶融させるのに十分なジュール熱を、前記薄膜において生じさせるものであり、かつ
前記高電圧パルスの印加によるパルスパワーにより、前記薄膜と、前記層とが分離され、前記積層体が前記薄膜と前記結着層とに解体されることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】積層体に正電極及び負電極を面で接触させた一つの態様の模式図である。
図2図1の模式図の上面図である。
図3】積層体に正電極及び負電極を点で接触させた一つの態様の模式図である。
図4】実施例1において分解により正極活物質層が剥離されたアルミニウム薄膜の状態の写真(図4上)および分解され粉体となった正極活物質の状態の写真(図4下)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
積層体とその解体
本発明による方法の解体対象となる積層体は、基本的な構成として、導体からなる薄膜と、その表面に結着された結着層とを備える。そして、両者の結着は特定の物質の介在によりなされ、本発明の一つの態様にあっては、結着層は薄膜に接着剤としての作用を有する物質により接着されてなる構成であり、このような構成の積層体に対して、本発明による分解方法は好ましく適用される。この態様において、接着剤は、薄膜と結着層とを積極的に接着させるものであるものに限られず、薄膜と結着層とを接着させると同時に、例えば結着層を層として形状を維持させるために含有された物質であり、それが結着層の薄膜の界面付近において、結着層を薄膜に結着させるものとして存在する態様であってもよい。
【0011】
本発明による方法によれば、このような積層体について、薄膜と、結着層とを、その界面において、相互の混入を抑制しながら分離することができる。この分離の際に、薄膜を構成する材料と、結着層を構成するする材料との間で、相互の混入を抑制できるとの効果は、積層体の薄膜または結着層の材料成分を効率よく回収し、再利用することを可能にするから極めて有利な効果である。本発明による方法により分離された、積層体を構成する薄膜および結着された層の双方とも回収対象とされてよい。一つの態様によれば、この接着剤は有機物である。
【0012】
本発明において上記のような分離が可能となるのは、次のような機序によるものと考えられる。すなわち、高電圧パルスを積層体に印加すると、薄膜においてジュール熱が発生する。このジュール熱により、結着層と薄膜との界面付近に存在して両者を結着させている物質、例えば上記した接着剤、が分解または融解される。その結果、薄膜と結着層の結着力が緩む。さらに、高電圧パルスの印加により引き起こされる、いわゆるパルスパワーによる瞬間的かつ爆発的な物理力が、結着力が緩んだ薄膜と結着層とをきれいに剥離させる。これにより、薄膜の材料と、結着層の材料とが、相互に混入することなく、積層体が解体されることになると考えられる。ここで、パルスパワーによる物理力とは、高電圧によって生成するプラズマに起因する高温化物質の急激な体積膨張やそれに伴う衝撃波等の複合的な力を意味する。
【0013】
本発明にあっては、積層体を構成する薄膜は、導体であり、かつ、高電圧パルスの印加によって積層体の解体に必要なジュール熱を発生させる程度の薄い膜厚であることが必要である。薄膜の具体的な膜厚は、印加される高電圧パルスエネルギーおよび薄膜の材質(比熱)、面積の条件にも依存し、一般的な積層体の結着力を失活させる温度に高めるには、10μm乃至30μm程度の厚さであることが好ましい。
【0014】
本発明による方法の解体対象となる積層体の具体例としては、例えば、リチウムイオン電池の正極または負極等が挙げられる。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、本発明による方法は、リチウムイオン電池の正極に好ましく適用される。リチウムイオン電池の正極は、一般的には、アルミニウムの薄膜の両面に正極活物質層を有する層構造として構成されている。正極活物質層は、コバルト系化合物などを含み、具体的には、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウムの一部をニッケルとマンガンで置換した三元系と呼ばれる活性物質、さらに導電助剤としてカーボンを含む。そしてさらに、この正極活物質層は、これら化合物等を層の形態とし、またアルミニウム薄膜に結着させるためのバインダーを含み、このバインダーは通常は有機物であり、ポリフッ化ビニリデンが多用されている。
【0016】
本発明による方法にあっては、上記したリチウムイオン電池の正極を解体対象とした場合、ポリフッ化ビニリデンなどのバインダーがジュール熱によって爆発的に分解され、アルミニウム薄膜と正極活物質層とが、その界面において、相互に混入することなく分離される。ここで、本発明の好ましい態様によれば、印加される高電圧パルスを適宜制御することで、アルミニウム層は薄膜としての形状を維持した状態で、すなわち薄膜の形状を維持したまま分離され、その小破片などが正極活物質層に混入することが抑制される。正極活物質層はアルミニウム層と界面だけでなく、その内部にもバインダーを含むことから、この内部のバインダーがジュール熱により爆発的に分解され、正極活物質層は層としての形状を維持せずそれを失い、粒体または粉体の形状とされることが通常である。そして、解体し得られた正極活性物から、コバルト他の有用金属資源を効率よく回収することができる。
【0017】
また、本発明による方法は、リチウムイオン電池の正極のように、薄膜の両面に結着層が設けられている積層体も解体の対象となる。
【0018】
本発明の別の態様によれば、リチウムイオン電池の負極も、正極と同様、解体の対象となり得る。リチウムイオン電池の負極は、一般的には、銅の薄膜に、活性物質と導電助剤であるカーボンとバインダーであるスチレンブタジエンゴム等を混合した層を有する層構造として構成されている。正極の場合と同様に、このような構造に対し高電圧パルスを印加すると、銅の薄膜においてジュール熱の瞬間的な発生により、バインダーであるスチレンブタジエンゴムが爆発的に分解され、生じた衝撃波などの衝撃力が銅の薄膜から活性物質の層を、相互の混入なく分離することができる。
【0019】
解体方法
本発明による解体方法は、以下の工程(a)乃至(c)を少なくとも含んでなる。
【0020】
工程(a)
導体からなる薄膜と、その表面に結着された結着層とからなる積層体を用意する工程、すなわち既に説明した積層体を用意する工程である。
【0021】
本発明の分解の対象となる積層体は、通常は、装置、電子機器などに装着されている部品を構成する部材である。したがって、後記する工程(b)において電極を接触させることが可能な程度に、装置、機器、その部品から、積層体を取り出す作業を予め行う必要がある。そうして得られた積層体を、以下の工程(b)に付す。
【0022】
工程(b)
工程(a)で用意された積層体に、正電極及び負電極を接触させる工程である。本発明において、電極の形状、接触の態様は、積層体に高電圧パルスを印加できる限りにおいて特に限定されないが、本発明の好ましい態様によれば、正電極及び負電極の少なくとも一方が、または面で積層体に接触するものであり、より好ましくは正電極および負電極の双方が、または面で積層体に接触するものである。分解の対象となる積層体における薄膜と結着層との広範な界面でパルスパワーによる分解を生じさせるには、または面で積層体に接触することが有利となる。
【0023】
図1は、積層体に正電極および負電極を接触させた態様の模式図である。図中において、積層体1は、薄膜11と、その表裏面に結着・担持された結着層12とからなる、この積層体1の端部を電極20a、20b、21a、および21bにより挟み込んで、これら電極を積層体1に接触させる。図2は、電極が積層体1を挟み込んで接触している状態の上面模式図である。この図1および2の態様において、正電極および負電極の双方とも面で積層体に接触している。これら電極は、耐高電圧のケーブル31および32を介して高電圧パルス発生装置30に接続される。
【0024】
図3は、積層体に点で接触する電極を用いた態様の模式図である。図3において、電極22および23は積層体1に「点」で接触している。この図にあって、積層体1は固定具40a、40b、41a、および41bにより挟み込んで固定されている。
【0025】
本発明において、電極の接触は結着層にされても、導体でありジュール熱を発生させる薄膜に直接されてもよい。ここで、結着層が絶縁体からなり、正電極および負電極が結着層に物理的に接触し、薄膜には電気的に接触してない場合であっても、高電圧パルスを結着層を絶縁破壊し、かつ薄膜に至るのに十分なものとすることでパルスの印加は可能である。
【0026】
工程(c)
積層体に接触させた両電極間に高電圧パルスを印加する工程である。本発明において、この工程で印加される高電圧パルスは、薄膜と結着層との界面付近に存在する、薄膜と結着層とを結着させている物質を分解・溶融させるのに十分なジュール熱を薄膜において生じさせる程度のものである。さらに高電圧パルスの印加により生じるパルスパワーにより、薄膜と結着層とが分離され、積層体が薄膜と結着層とに相互の混入が抑制されて、きれいに解体される。
【0027】
このようなジュール熱の発生およびパルスパワーを生じさせるのに必要な高電圧パルスの電圧および電流は、分解対象となる積層体の構造、材料、とくに有機物の種類、その融点等を勘案して決定されてよいが、本発明の一つの態様において、一般的なリチウムイオン電池の正極を解体するにはコンデンサー容量に応じて4kV乃至30kVの範囲の電圧で、電流は15kA乃至40kAをパルスとして印加する。
【0028】
高電圧パルス発生装置は公知または周知であり、本発明にあっては、積層体を解体するのに必要な高電圧パルスを発生させ得る装置であればよい。
【0029】
本発明による方法において、高電圧パルスの印加は、空気中で行われてもよく、またその衝撃力を有効に利用するため水中で行なわれてもよい。
【0030】
有用物質・元素の回収・再利用
積層体を構成する薄膜および結着層からの有用物質・元素の回収、再利用は、回収しようとする材料、物質に適した回収、再利用の方法により実施されてよい。
【0031】
本発明による方法によれば、リチウムイオン電池の正極を分解した場合、薄膜を構成していたアルミニウム薄膜と、正極活物質層を形成していたコバルト系化合物とが相互の混入を抑制しながら回収できる。その結果、例えばコバルトの回収にあたり、単純に正極を粉砕分解した場合、コバルト系化合物とアルミニウムの小片または細片を分離しなければならないが、本発明による方法にあっては、アルミニウムの薄膜は、薄膜の形状を保ったまま解体することがでるため、コバルト系化合物への混入が極めて少なく、コバルトの分離効率は極めて高いものとなる。
【実施例
【0032】
以下において、本発明を下記の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
リチウムイオン電池の正極材の用意
分解の対象となる積層体として、ハイブリッド車搭載用のリチウムイオン電池の正極材を30mm×80mmの大きさにカットして、正極材サンプルを用意した。この正極材は、アルミニウムの薄膜の両面に正極活物質の層が設けられた構造であり、アルミニウムの薄膜は約20μmの厚さであり、正極活物質層の厚さは、両面ともにそれぞれ30μmであった。
【0034】
実験例1:面接触電極による分解
図1に準じた態様で、高電圧パルス発生装置に接続された電極で、上で用意した正極材サンプルを挟み、電極に20~45kvの高電圧パルスを印加した。25kVの場合の充電エネルギーは760Jとなる。その結果、アルミニウム薄膜はほぼそのままの薄膜の形状で、正極活物質層は粉体となり正極サンプルを分解することができた。
【0035】
実験例2:点接触電極による分解
図3に準じた態様で、高電圧パルス発生装置に接続された電極で、上で用意した正極材サンプルを挟み、電極に20~45kVの高電圧パルスを印加した。この場合の充電エネルギーは1090Jとなる。その結果、アルミニウム薄膜はほぼそのままの薄膜の形状で、正極活物質層は粉体となり正極サンプルを分解することができた。
【0036】
回収された正極活物質層からのコバルトの回収率及び不純物としてのアルミの含有率
実施例1及び2で得られた正極活物質層の粉体について、蛍光X線分析(XRF)により、含有するコバルト、ニッケル、マンガン、そしてアルミニウム含有量(wt%)を測定した。その結果は、以下の表に示されるとおりであった。表1は、実施例1について25kVの場合、実施例2について30kVの結果を示す。また、表には分離前の正極材全体におけるこれら元素の含有率を併せて記載した。
【表1】
【0037】
さらに、コバルトの回収率(=剥離した粒子中のコバルト重量/剥離前の正極活物質層中のコバルト重量)を算出すると、実施例1では94%、実施例2では84%であった。
【0038】
アルミニウム薄膜の状態
図4として、実施例1において分解により正極活物質層が剥離されたアルミニウム薄膜の状態の写真(図4上)および分解され粉体となった正極活物質の状態の写真(図4下)を示す。写真から、アルミニウム薄膜が薄膜形状を大きく損なわずに正極活物質と分離されていることが分かる。アルミニウム薄膜の形状が維持されていることは、分離された正極活物質への混入が少ないことを意味する。さらに、このような一定形状のアルミニウム薄膜は、アルミニウムの回収、再利用にも有利である。
【符号の説明】
【0039】
1・・分解の対象となる積層体、11・・薄膜、12・・結着層、20a、20b、21a、21b・・積層体に面で接触する電極、22、23・・積層体に点で接触する電極、30・・高電圧パルス発生装置、31、32・・耐高電圧ケーブル、40a、40b、41a、および41b・・積層体の固定具
図1
図2
図3
図4