(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】車両用フロアカーペットの製造方法及び車両用フロアカーペット
(51)【国際特許分類】
B60N 3/04 20060101AFI20241216BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20241216BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B60N3/04 C
B60R13/08
A47G27/02 102
(21)【出願番号】P 2021032130
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 典洋
(72)【発明者】
【氏名】小島 進
(72)【発明者】
【氏名】井出 智巳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 英介
(72)【発明者】
【氏名】新道 英貴
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-001403(JP,A)
【文献】実開昭61-115755(JP,U)
【文献】特開2005-145356(JP,A)
【文献】米国特許第04199634(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102004046201(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 3/00-99/00
B60R 13/01-13/04
B60R 13/08
A47G 27/00-27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁及び該底壁から立ち上がるように絞りによって成形された立壁を有して車両の床部に沿う立体形状に成形されたカーペットと、前記立壁の裏面側に貼着された遮音シートと、を備える車両用フロアカーペットの製造方法であって、
前記遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、
前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に延びており、
前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に沿って複数配置されており、
前記立壁の立上り方向に隣り合う前記脆弱部の間隔及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に隣り合う前記脆弱部の間隔が前記脆弱部の延在方向の長さよりも小さく、
成形型により前記遮音シートと加熱状態の前記カーペットとを加圧することで、前記カーペットを立体形状に成形するとともに、前記遮音シートと前記カーペットとを一体成形することを特徴とする車両用フロアカーペットの製造方法。
【請求項2】
前記遮音シートの前記カーペットに貼着される側の表面に繊維層が貼着されている請求項1に記載の車両用フロアカーペットの製造方法。
【請求項3】
前記脆弱部は、スリットにより構成されている請求項1
又は2に記載の車両用フロアカーペットの製造方法。
【請求項4】
底壁及び該底壁から立ち上がる立壁を有して車両の床部に沿う立体形状に成形されたカーペットと、前記カーペットの裏面側に貼着された遮音シートと、を備える車両用フロアカーペットであって、
前記遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、
前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に延びており、
前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に沿って複数配置されており、
前記立壁の立上り方向に隣り合う前記脆弱部の間隔及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向に隣り合う前記脆弱部の間隔が前記脆弱部の延在方向の長さよりも小さく、
前記遮音シートは、前記カーペットと一体成形されていることを特徴とする車両用フロアカーペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロアカーペットの製造方法及び車両用フロアカーペットに関し、さらに詳しくは、カーペットの裏面側に遮音シートが貼着された車両用フロアカーペットの製造方法及び車両用フロアカーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用フロアカーペットとして、底壁及び該底壁から立ち上がる立壁を有して車両の床部に沿う立体形状に成形されたカーペットと、カーペットの裏面側に貼着された遮音シート(例えば、EPDM製の遮音シート)と、を備えるものが一般に知られている。この遮音シートは、車両の床部に設けられたトンネルからのノイズを遮断するためにカーペットの立壁に後張りで貼着されることが多い。しかしながら、遮音シートの後張りでは、追加工程で発生する部品コストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-023275号公報
【文献】WO2015/181901号公報
【文献】特開2008-044459号公報
【文献】特開平5-069772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、上記の問題を解決する車両用フロアカーペットの製造方法として、遮音シートを予め成形型にセットしておき、成形型により遮音シートと加熱状態のカーペットとを加圧することで、カーペットを立体形状に成形するとともに、遮音シートとカーペットとを一体成形する技術が提案されている。
【0005】
しかし、上記の提案技術では、遮音シートとカーペットとの材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が大きいため、成形後にカーペットが車室内側へ反ってしまう。
具体的に、一体成形後に遮音シート103とカーペット102は、温度が低くなることで収縮Qする(
図10(a)参照)。このとき、遮音シート103よりもカーペット102のほうが収縮し易い。よって、遮音シート103の収縮が終わってもカーペット102の収縮が残っているため、遮音シート103がカーペット102に引っ張られないように応力Rが発生する(
図10(b)参照)。その結果、遮音シート103の応力Rが大きくなることでカーペット102に反りが発生する(
図10(c)参照)。
【0006】
なお、特許文献1には、曲げ状態を維持するため、必要な部分に配したマットが開示されている。また、特許文献2には、フロアマットの樹脂層の密度や無機充填剤の含有率が熱成形後のカールに影響することが開示されている。また、特許文献3には、表皮基材の裏面に通気孔を備えた合成樹脂製膜を積層した吸音マットが開示されている。さらに、特許文献4には、加熱して熱変形を解消したフェルト(吸音材)を、カーペットに裏打ち及び別のフェルトと一体的に加熱成形する方法が開示されている。
しかし、特許文献1~4には、成形後の製品形状の変形を抑制しつつ、カーペットの裏面側に遮音シートが貼着された車両用フロアカーペットを得る技術について全く開示されていない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、成形後の製品形状の変形を抑制することができる車両用フロアカーペットの製造方法及び車両用フロアカーペットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、底壁及び該底壁から立ち上がるように絞りによって成形された立壁を有して車両の床部に沿う立体形状に成形されたカーペットと、前記立壁の裏面側に貼着された遮音シートと、を備える車両用フロアカーペットの製造方法であって、前記遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、成形型により前記遮音シートと加熱状態の前記カーペットとを加圧することで、前記カーペットを立体形状に成形するとともに、前記遮音シートと前記カーペットとを一体成形することを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向の一方もしくは両方に延びていることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記脆弱部は、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向の一方もしくは両方に沿って複数配置されていることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記脆弱部は、スリットにより構成されていることを要旨とする。
上記問題を解決するために、請求項5に記載の発明は、底壁及び該底壁から立ち上がる立壁を有して車両の床部に沿う立体形状に成形されたカーペットと、前記カーペットの裏面側に貼着された遮音シートと、を備える車両用フロアカーペットであって、前記遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、前記遮音シートは、前記カーペットと一体成形されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用フロアカーペットの製造方法によると、遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、成形型により遮音シートと加熱状態のカーペットとを加圧することで、カーペットを立体形状に成形するとともに、遮音シートとカーペットとを一体成形する。これにより、一体成形によるカーペットの伸縮に追従して脆弱部が変形することで、遮音シートとカーペットの材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が吸収される。よって、成形後の製品形状の変形を抑制でき、狙い通りの製品形状を実現することができる。さらに、カーペットの裏面側に所望の大きさの遮音シートを一体成形により貼着できるので、NV(Noise Vibration )性能を確保しつつ、従来のような遮音シートの後張りによる追加工程で発生する部品コストを抑えることができる。
また、前記脆弱部が、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向の一方もしくは両方に延びている場合は、脆弱部を立壁の立上り方向に変形し易く構成でき、立壁の伸縮への追従性が高められる。
さらに、前記脆弱部が、前記立壁の立上り方向及び前記立壁の立上り方向に対して交差する方向の一方もしくは両方に沿って複数配置されている場合は、複数の脆弱部の変形により所望の大きさの遮音シートとカーペットの収縮差が効果的に吸収される。
さらに、前記脆弱部が、スリットにより構成されている場合は、一体成形中のカーペットの伸長に追従してスリットが開口し、一体成形後のカーペットの収縮に追従してスリットが閉口する方向に変形することで、遮音シートとカーペットの収縮差が効果的に吸収される。特に、一体成形後のカーペットの収縮に追従してスリットが閉口する場合には、遮音性がより高められる。
【0010】
本発明の車両用フロアカーペットによると、遮音シートには、変形可能な脆弱部が設けられており、遮音シートは、カーペットと一体成形されている。これにより、一体成形によるカーペットの伸縮に追従して脆弱部が変形することで、遮音シートとカーペットの材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が吸収される。よって、成形後の製品形状の変形を抑制でき、狙い通りの製品形状を実現することができる。さらに、カーペットの裏面側に所望の大きさの遮音シートを一体成形により貼着できるので、NV(Noise Vibration )性能を確保しつつ、従来のような遮音シートの後張りによる追加工程で発生する部品コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例に係る車両用フロアカーペットの製造方法を説明するための説明図であり、(a)は配置工程を示し、(b)はプレス工程を示す。
【
図2】
図1の要部拡大図であり、(a)は
図1のA矢視部の拡大図を示し、(b)は
図1のB矢視部の拡大図を示す。
【
図4】上記遮音シートとカーペットとの一体成形における作用説明図であり、(a)は一体成形の直前の状態を示し、(b)は一体成形中に遮音シートとカーペットが伸長する状態を示し、(c)は一体成形後に遮音シートとカーペットが収縮し始めた状態を示し、(d)は一体成形後にカーペットが更に収縮した状態を示す。
【
図5】実施例に係る車両用フロアカーペットの斜視図である。
【
図7】
図6のVII矢視要部の外観画像処理図である。
【
図9】更なる他の形態に係る遮音シートを説明するための説明図であり、(a)は長穴を有する形態を示し、(b)は溝を有する形態を示し、(c)は薄肉部を有する形態を示す。
【
図10】提案技術での遮音シートとカーペットとの一体成形における作用説明図であり、(a)一体成形後に遮音シートとカーペットが収縮し始めた状態を示し、(b)は一体成形後にカーペットが更に収縮した状態を示し、(c)は一体成形後にカーペットが反った状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
<車両用フロアカーペットの製造方法>
本実施形態に係る車両用フロアカーペットの製造方法は、例えば、
図5及び
図6に示すように、底壁4及び該底壁4から立ち上がるように絞りによって成形された立壁5a、5bを有して車両の床部6に沿う立体形状に成形されたカーペット2と、立壁5a、5bの裏面側に貼着された遮音シート3と、を備える車両用フロアカーペット1の製造方法である。そして、例えば、
図1~
図3に示すように、遮音シート3には、変形可能な脆弱部(弱体部)20が設けられており、成形型15により遮音シート3と加熱状態のカーペット2とを加圧することで、カーペット2を立体形状に成形するとともに、遮音シート3とカーペット2とを一体成形する。
【0014】
カーペット2の構造、形状、材質等は特に問わない。このカーペット2を構成する立壁5aは、例えば、車両の床部6の車幅方向D2の中央に膨出して設けられるトンネル6aの側面に沿って配置されることができる(
図6参照)。この立壁5aは、通常、成形型15による絞りよって成形される。さらに、カーペット2を構成する立壁5bは、例えば、車両の床部6の車両前後方向D1の前側に設けられるダッシュパネルに沿って配置されることができる。この立壁5bは、通常、成形型15による絞りによって成形される。
【0015】
カーペット2は、例えば、単一の層(例えば、熱可塑性樹脂を含む樹脂層)のみを備えていてもよいが、意匠性、吸音性及び遮音性等の観点から、表皮層8と、表皮層8の裏面側に配置されるバッキング層9と、を備えていることが好ましい(
図2(a)参照)。これら表皮層3とバッキング層9の間には、1又は2以上の他の中間層(例えば、接着層、通気制御層等)が更に備えられていてもよい。
【0016】
表皮層8には、例えば、公知のニードルパンチカーペットやタフテッドカーペット等を用いることができる。この表皮層8には、耐久性を高めるために合成樹脂ラテックスがコーティングされていてもよい。
【0017】
バッキング層9は、例えば、熱可塑性樹脂を含んでいることができる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
遮音シート3の構造、形状、材質等は特に問わない。この遮音シート3は、通常、車両の床部6を介して車室内にノイズが進入することを遮断又は抑制するように、カーペット2の裏面側の部分的な領域に貼着される。
なお、車室内に浸入するノイズとしては、例えば、エンジン等の駆動源に起因するノイズ、運転時におけるロードノイズ等が挙げられる。
【0019】
遮音シート3の材質としては、例えば、ゴム、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等が挙げられる。ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等の合成ゴムが挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系(TPO)やスチレン系(TPS)のものなどが挙げられる。さらに、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
遮音シート3の厚さtは、特に問わないが、軽量性及び遮音性等の観点から、1~2mm(特に1mm)であることが好ましい(
図2(b)参照)。この遮音シート3の厚さtは、通常、遮音シート3とカーペット2の一体成形の前後で略変わらない。さらに、遮音シート3の平面形状は、例えば、カーペット2に設定される遮音領域等に応じて適宜選択される。
【0021】
遮音シート3には、例えば、カーペット2に貼着される側の表面に繊維層11が貼着されていることができる(
図2(b)参照)。この繊維層11には、例えば、不織布、フェルト、織布、編布等を用いることができる。さらに、カーペット2に対して複数の遮音シート3を貼着する形態では、取扱性等の観点から、繊維層11が各遮音シート3を連絡するように各遮音シート3の表面に貼着されていることが好ましい(例えば、
図1(a)参照)。
【0022】
繊維層11は、例えば、熱可塑性樹脂を含んでいることができる。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、繊維層11を構成する熱可塑性樹脂は、例えば、カーペット2を構成する熱可塑性樹脂と同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0023】
脆弱部20の構造、配置形態等は特に問わない。この脆弱部20は、通常、遮音シート3の他の部分よりも剛性が低い部分である。また、脆弱部20の構造としては、例えば、スリット21、長穴22、溝23、薄肉部24等が挙げられる(
図3及び
図9参照)。これらのうち、遮音性等の観点から、スリット21であることが好ましい。
【0024】
スリット21は、通常、直線状又は曲線状に延びている。このスリット21は、例えば、遮音シート3の厚さ方向に切り欠くように形成されていてもよいが、カーペット2の伸縮への追従性等の観点から、遮音シート3の厚さ方向に貫通して形成されていることが好ましい。さらに、スリット21は、その一端が遮音シート3の側縁から離間して形成されていることが好ましい。
【0025】
ここで、立壁5aは、例えば、
図5及び
図6に示すように、カーペット2において、車幅方向の中央に配置されて車両前後方向に延びているため、底壁4や立壁5bに比べて、成形型15により絞り加工されてその立上り方向Aに材料が大きく引き伸ばされる。この立壁5aの裏面側に遮音シート3を貼着する形態では、例えば、
図4に示すように、一体成形による立壁5aの立上り方向Aの伸縮に追従して脆弱部20が変形することで、遮音シート3と立壁5aの材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が吸収される。
なお、立壁5bや底壁4の裏面側に遮音シート3を貼着する形態であっても、一体成形による立壁5bや底壁4の伸縮に追従して脆弱部20が変形することで、遮音シート3と立壁5bや底壁4の材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が吸収される。
【0026】
遮音シート3を立壁5a、5bの裏面側に貼着する形態では、立壁5a、5bの伸縮への追従性等の観点から、脆弱部20が、立壁5a、5bの立上り方向A及び立壁5a、5bの立上り方向に対して交差(特に直交)する方向Bの一方もしくは両方に延びていることが好ましい(例えば、
図3参照)。この脆弱部20の長さLは、特に問わないが、立壁5a、5bの伸縮への追従性等の観点から、20~100mm(特に60~100mm)であることが好ましい。
なお、上記「直交」とは、略直交を意図し、立壁5a、5bの立上り方向Aに対して厳密に90度で直交する方向B以外にも許容範囲の誤差を含む角度(例えば、90±5度)で交差する方向Bであってもよい。この点は、以下の説明においても同様に適用される。
【0027】
遮音シート3を立壁5a、5bの裏面側に貼着する形態では、立壁5a、5bの伸縮への追従性等の観点から、脆弱部20が、立壁5a、5bの立上り方向A及び立壁5a、5bの立上り方向Aに対して交差(特に直交)する方向Bの一方もしくは両方に沿って複数配置されていることが好ましい(例えば、
図3及び
図8参照)。
立壁5a、5bの立上り方向Aに隣り合う脆弱部20の間隔S1は、例えば、脆弱部20の長さLよりも小さい値に設定されていることができる。また、間隔S1としては、例えば、15~25mm(特に15~20mm)が挙げられる。
立壁5a、5bの立上り方向Aと交差する方向Bに隣り合う脆弱部20の間隔S2は、例えば、脆弱部20の長さLよりも小さい値に設定されていることができる。また、間隔S2としては、例えば、15~25mm(特に15~20mm)が挙げられる。
立壁5aの立上り方向Aに隣り合う脆弱部20の一端は、例えば、立壁5a、5bの立上り方向Aと交差(特に直交)する方向Bで位置がずれていてもよいし(
図3参照)、方向Bで位置が一致していてもよい(
図8参照)。
【0028】
成形型15は、通常、互いに近接離間可能な一対の型15a、15bを備える。この成形型15のプレス条件(例えば、加圧力、加圧時間等)は、フロアカーペット1を成形し得る限り、特に問わない。さらに、成形型15を用いるプレス工程では、例えば、成形型15の加熱機構によりカーペット2を加熱するようにしてもいが、成形性等の観点から、成形型15に予め加熱されたカーペット2を配置することが好ましい。このカーペットの加熱は、例えば、加熱炉、熱板、温風等により実施できる。
【0029】
成形型15を用いるプレス工程では、例えば、繊維層11を有する遮音シート3と熱可塑性樹脂が軟化状態のカーペット2とを加圧することができる。これにより、例えば、カーペット2の軟化状態の熱可塑性樹脂が繊維層11内に入り込むことで(好ましくはカーペット2及び繊維層11を構成する熱可塑性樹脂同士が溶融して混ざることで)、遮音シート3とカーペット2を強固に一体化することができる。
【0030】
成形型15によるプレス工程では、脆弱部20としてスリット21を採用する場合、例えば、
図4に示すように、一体成形中のカーペット2の伸長に追従してスリット21が開口し、一体成形後のカーペット2の収縮に追従してスリット21が閉口する方向に変形することができる。このスリット21は、遮蔽性等の観点から、一体成形後に閉口することが好ましい。
また、脆弱部20として長穴22又は溝23を採用する場合では、例えば、一体成形中のカーペット2の伸長に追従して開口が拡大する方向に長穴22又は溝23が変形し、一体成形後のカーペット2の収縮に追従して拡大された開口が縮小する方向に長穴22又は溝23が変形することができる。
さらに、脆弱部20として薄肉部24を採用する場合では、例えば、一体成形中のカーペット2の伸長に追従して薄肉部24が拡大し、一体成形後のカーペット2の収縮に追従して拡大された薄肉部24が縮小することができる。
【0031】
なお、プレス工程後のカーペット2は、例えば、成形型15内で冷却されてもよいし、成形型15から取り出されて冷却されてもよい。この冷却は、自然冷却であってもよいし、冷却機構による積極的な冷却であってもよい。さらに、プレス工程後のカーペット2は、通常、必要に応じてトリミング加工が施される。
【0032】
本実施形態に係る車両用フロアカーペット1の製造方法としては、例えば、
図1に示すように、遮音シート3と加熱状態のカーペット2とを成形型15に配置する配置工程と、上記の成形型15を用いるプレス工程と、を備える形態が挙げられる。
【0033】
配置工程では、例えば、成形型15を構成する一方の型15bの成形面17の立壁状の部分17aに遮音シート3を配置するとともに、成形型15を構成する一対の型15a、15bの間に加熱状態のカーペット2を配置することができる。特に、複数の遮音シート3が繊維層11で連結されている場合、繊維層11の遮音シート3に貼着されていない部分を一方の型15bに対して位置決めして複数の遮音シート3を配置することが好ましい。これは、立壁5aの裏面側に対して複数の遮音シート3を正確な位置に貼着できるためである。
なお、配置工程では、通常、シート状のカーペット2を配置する。このシート状のカーペット2は、例えば、原反ロールから切断して得ることができる。
【0034】
<車両用フロアカーペット>
本実施形態に係る車両用フロアカーペットは、例えば、
図5及び
図6に示すように、底壁4及び該底壁4から立ち上がる立壁5a、5bを有して車両の床部6に沿う立体形状に成形されたカーペット2と、カーペット2の裏面側に貼着された遮音シート3と、を備える車両用フロアカーペット1である。そして、例えば、
図1~
図3に示すように、遮音シート3には、変形可能な脆弱部20が設けられており、遮音シート3は、カーペット2と一体成形されている。
【0035】
本実施形態に係る車両用フロアカーペットの各構成(例えば、カーペット2、遮音シート3及び脆弱部20等)としては、例えば、上記の実施形態に係る車両用フロアカーペットの製造方法で説明した各構成を適用することができる。
【0036】
なお、上記実施形態で記載した各構成の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例】
【0037】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
【0038】
本実施例に係る車両用フロアカーペット1は、
図5及
図6に示すように、底壁4及び該底壁4から立ち上がる立壁5a、5bを有して車両の床部6に沿う立体形状に成形されたカーペット2と、カーペット2の裏面側(すなわち、車室外側を向く面側)に貼着された遮音シート3と、を備えている。
【0039】
立壁5aは、車両の床部6の車幅方向D2の中央に膨出して設けられるトンネル6aの側面に沿って配置される(
図6参照)。また、立壁5bは、車両の床部6の車両前後方向D1の前側に設けられるダッシュパネル(図示省略)に沿って配置される。さらに、遮音シート3は、トンネル6aを介して車室内にノイズが進入することを遮断又は抑制するように、立壁5aの裏面側に貼着されている。
【0040】
カーペット2は、表皮層8と、表皮層8の裏面側に配置されるバッキング層9と、を備えている(
図2(a)参照)。このバッキング層9は、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を含んでいる。また、遮音シート3は、EPDM等のゴムにより形成されている。また、遮音シート3の厚さtは、約1~2mmとされている(
図2(b)参照)。さらに、遮音シート3には、カーペット2に貼着される側の表面に繊維層11が貼着されている。この繊維層11は、不織布により形成されている。さらに、繊維層11は、複数(図中で左右2枚)の遮音シート3を連絡するように各遮音シート3の表面に貼着されている(
図1(a)参照)。
【0041】
遮音シート3には、
図3及び
図7に示すように、該遮音シート3の表面方向に変形可能な脆弱部20が設けられている。この脆弱部20は、スリット21により構成されている。このスリット21は、立壁5aの立上り方向A及び立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bに沿って複数配置されている。
【0042】
各スリット21は、遮音シート3及び繊維層11の厚さ方向に貫通して形成されている。また、各スリット21は、立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bに直線状に延びている。また、各スリット21の長さLは、約20~100mmとされている。また、立壁5aの立上り方向Aに隣り合うスリット21の間隔S1は、約15~25mmとされている。また、立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bに沿って隣り合うスリット21の間隔S2は、約15~25mmとされている。
【0043】
次に、上記構成の車両用フロアカーペット1の製造方法について説明する。
本フロアカーペット1の製造方法は、
図1に示すように、遮音シート3と加熱されたカーペット2とを成形型15に配置する配置工程(
図1(a)参照)と、成形型15の型締めにより遮音シート3と加熱状態のカーペット2とを加圧することで、カーペット2を立体形状に成形するとともに、遮音シート3とカーペット2とを一体成形するプレス工程(
図1(b)参照)と、を備えている。
【0044】
成形型15は、互いに近接離間可能な上型15a(可動型)及び下型15b(固定型)を備えている。この上型15aは、立壁5a、5bを形成するための凹状の成形面16を有している。また、下型15bは、立壁5a、5bを形成するための凸状の成形面17を有している。
なお、本実施例では、可動型である上型15aと固定型である下型15bとを例示するが、これに限定されず、例えば、上型15a及び下型15bのうちの少なくとも一方の型が可動型であればよい。
【0045】
配置工程では、下型15bの成形面17の立壁状の部分17aに遮音シート3を配置するとともに、上型15a及び下型15bの間に加熱されたシート状のカーペット2を配置する。具体的に、繊維層11を位置決めピン18で位置決めして繊維層11を外向きとして下型15bに遮音シート3を配置するとともに、バッキング層9を下向きとして上型15a及び下型15bの間にカーペット2を配置する。
【0046】
プレス工程では、カーペット2を構成する熱可塑性樹脂の軟化状態で遮音シート3とカーペット2を加圧する。この加圧によって、カーペット2の軟化した熱可塑性樹脂が遮音シート3の繊維層11内に入り込むことで、遮音シート3と立壁5aが強固に一体化される。さらに、プレス工程では、絞りによって立壁5aが成形されるとともに、遮音シート3と立壁5aとが一体成形される。
【0047】
また、プレス工程では、
図4に示すように、一体成形中のカーペット2の伸長に追従してスリット21が開口し、一体成形後のカーペット2の収縮に追従してスリット21が長手方向及び深さ方向にわたって閉口する。
【0048】
具体的に、遮音シート3とカーペット2が一体成形される直前の状態では、スリット21は閉口している(
図4(a)参照)。次に、遮音シート3及びカーペット2は伸長Pしながら一体成形される(
図4(b)参照)。このとき、遮音シート3は、スリット21があることで口開きしながら伸びる。次いで、一体成形後に遮音シート3及びカーペット2は温度が低くなることで収縮Qし始める(
図4(c)参照)。この遮音シート3が収縮する時、材料自体の収縮分とスリット21の口開き分も戻る。その後、カーペット2が更に収縮するが、カーペット2の収縮量がスリット21の口開き分減ることで、遮音シート3を引っ張る量が減り、遮音シート3の応力(反力)Rが減る(
図4(d)参照)。その結果、成形後の製品形状の変形が抑制される。
【0049】
以上より、本実施例での車両用フロアカーペット1の製造方法によると、遮音シート3には、変形可能な脆弱部20が設けられており、成形型15により遮音シート3と加熱状態のカーペット2とを加圧することで、カーペット2を立体形状に成形するとともに、遮音シート3とカーペット2とを一体成形する。これにより、一体成形によるカーペット2の伸縮(すなわち、一体成形中のカーペット2の伸長及び一体成形後のカーペット2の収縮)に追従して脆弱部20が変形することで、遮音シート3とカーペット2の材料違いによる熱収縮(成形収縮)の差が吸収される。よって、成形後の製品形状の変形を抑制でき、狙い通りの製品形状を実現することができる。さらに、カーペット2の裏面側に所望の大きさの遮音シート3を一体成形により貼着できるので、NV(Noise Vibration )性能を確保しつつ、従来のような遮音シートの後張りによる追加工程で発生する部品コストを抑えることができる。
【0050】
また、本実施例では、脆弱部20は、スリット21により構成されている。これにより、一体成形中の立壁5aの伸長に追従してスリット21が開口し、一体成形後の立壁5aの収縮に追従してスリット21が閉口することで、遮音シート3と立壁5aの収縮差が効果的に吸収されるとともに、スリット21の閉口によって遮音性が高められる。
【0051】
また、本実施例では、遮音シート3は、立壁5aの裏面側に貼着されており、立壁5aは、絞り加工によって成形される。これにより、一体成形による立壁5aの立上り方向への伸縮に追従して脆弱部20が変形することで、遮音シート3と立壁5aの収縮差が効果的に吸収される。
【0052】
また、本実施例では、脆弱部20は、立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bに延びている。これにより、脆弱部20を立壁5aの立上り方向Aに変形し易く構成でき、立壁5aの伸縮への追従性が高められる。
【0053】
さらに、本実施例では、脆弱部20は、立壁5aの立上り方向A及び立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bに沿って複数配置されている。これにより、複数の脆弱部20の変形により所望の大きさの遮音シート3とカーペット2の収縮差が効果的に吸収される。
【0054】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例では、複数のスリット21が千鳥状に配置される形態(
図3参照)を例示したが、これに限定されず、例えば、
図8に示すように、複数のスリット21が整列状に配置される形態としてもよい。この形態では、立壁5aの立上り方向Aに隣り合うスリット21の一端は、立壁5aの立上り方向Aと直交する方向Bの位置が一致している。
【0055】
また、上記実施例では、脆弱部20としてスリット21を例示したが、これに限定されず、例えば、脆弱部20としては、長穴22(
図9(a)参照)、断面略V字状又は略U字状の溝23(
図9(b)参照)、薄肉部24(
図9(c)参照)等を採用することができる。
【0056】
また、上記実施例では、一体成形後に長手方向にわたって閉口するスリット21を例示したが、これに限定されず、例えば、一体成形後に長手方向において部分的に閉口するスリット21としてもよい。さらに、例えば、一体成形後に長手方向にわたって閉口しないスリット21としてもよい。
【0057】
また、上記実施例では、遮音シート3を立壁5aの裏面側に貼着する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、
図5中に仮想線で示すように、遮音シート3を立壁5bの裏面側に貼着したり、遮音シート3を底壁4の裏面側に貼着したりしてもよい。さらに、例えば、遮音シート3を立壁5a(又は立壁5b)と底壁4の裏面側にわたって貼着してもよい。
【0058】
さらに、上記実施例では、繊維層11を有する遮音シート3を例示したが、これに限定されず、例えば、繊維層11を有さず、その表面がカーペット2の裏面側に直接貼着される遮音シート3としてもよい。
【0059】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0060】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、自動車、産業車両、鉄道車両等で用いられる車両用フロアカーペットに関する技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0062】
1;車両用フロアカーペット、2;カーペット、3;遮音シート、4;底壁、5a,5b;立壁、15;成形型、20;脆弱部、21;スリット、A;立壁の立上り方向、B;立壁の立上り方向に直交する方向。