(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】混合セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/02 20060101AFI20241216BHJP
C04B 7/153 20060101ALI20241216BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241216BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20241216BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C04B7/02
C04B7/153
C04B28/02
C04B18/14 A
C04B14/28
(21)【出願番号】P 2021045655
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2023-12-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第74回セメント技術大会 講演要旨 2020、発行日:2020年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】平野 燿子
(72)【発明者】
【氏名】桐野 裕介
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一郎
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104264(JP,A)
【文献】特開2016-064940(JP,A)
【文献】特開2007-169084(JP,A)
【文献】特開2015-010009(JP,A)
【文献】特開2018-002540(JP,A)
【文献】特開2013-047153(JP,A)
【文献】特開2013-103865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、石灰石粉末及び石膏を含む粉状の混合セメント組成物であって、
上記セメントクリンカ粉末、上記高炉スラグ微粉末、及び上記石灰石粉末の合計量100質量%中、上記セメントクリンカ粉末の割合が47~62質量%であり、上記高炉スラグ微粉末の割合が22~
34.6質量%であり、上記石灰石粉末の割合が12~23質量%であり、
上記セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na
2O+0.658K
2O)の割合が0.7~2.0質量%であり、
上記混合セメント組成物中の石膏の割合が、SO
3 換算で1.0~5.0質量%であることを特徴とする粉状の混合セメント組成物。
【請求項2】
上記セメントクリンカ粉末中、アルミネート相の割合が7~17質量%であり、エーライトの割合が51~63質量%である請求項1に記載の混合セメント組成物。
【請求項3】
上記セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na
2O+0.658K
2O)と上記セメントクリンカ粉末中のSO
3のモル比(全アルカリ/SO
3)が0.4~1.2である請求項1又は2に記載の混合セメント組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の混合セメント組成物、水、及び骨材を含む水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、温暖化対策によって、セメント製造業界においても、二酸化炭素の排出量の大幅な削減が求められている。セメント製造業界における二酸化炭素の排出量の多くは、セメントクリンカを製造する際に発生するものであり、二酸化炭素の排出量を削減するために、セメントクリンカの生産量を減らすことが求められている。
セメントクリンカの使用量を減らすことができるセメントとして、セメントクリンカ粉末の一部を高炉スラグ微粉末で置換してなる高炉セメントが知られている。
高炉スラグ微粉末を用いたセメント組成物として、特許文献1には、少なくとも下記(a)、(b)および(c)に示す成分を、下記の比率で含む、セメント組成物が記載されている。
(a) 水硬率(H.M.)が2.0~2.4、ケイ酸率(S.M.)が1.3~3.0、および、鉄率(I.M.)が1.5~3.0であるセメントクリンカの粉砕物と、石膏とを含むセメント類:20~50質量%
(b) ブレーン比表面積が5,000cm2/g以上の高炉スラグ粉末:30~70質量%
(c) 石灰石粉末:0質量%超~40質量%
【0003】
一方、近年、石炭火力発電の減少により、セメントクリンカ原料として使用されてきた石炭灰の生産量が低下している。そこで、石炭灰に代わるセメントクリンカ原料として、バイオマス灰が注目されている。また、従来から使用されているセメントクリンカ原料として、建設発生土、都市ゴミ焼却灰、及び下水汚泥等の廃棄物が挙げられる。
バイオマス灰や上記廃棄物には、石炭灰と比較して、アルカリを多く含むため、セメントクリンカ原料である石炭灰の代替物として、上記バイオマス灰等を使用した場合、製造されたセメントクリンカ中のアルカリ量が多くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高炉スラグ微粉末は、セメントに混合される材料として優れた品質を有するが、その生産量がそれほど多くないため、将来的には不足することが予想される。そのため、セメントクリンカ粉末の一部を、高炉スラグ微粉末以外の材料で置換することで、セメントクリンカ粉末の使用量を減らすことができるセメントが求められている。
また、セメントクリンカの原料に含まれているアルカリ量が多くなると、セメントクリンカを含むセメント中にアルカリ硫酸塩が生成されて、該セメントの流動性が低下するという問題がある。
本発明の目的は、セメントクリンカ粉末の使用量を少なくすることができ、強度発現性に優れ、かつ、セメントクリンカの原料の一部として廃棄物等を用いることによって、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合が大きいにも関わらず、流動性の低下の程度が小さい混合セメント組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量100質量%中、セメントクリンカ粉末の割合が47~62質量%であり、高炉スラグ微粉末の割合が22~46質量%であり、石灰石粉末の割合が4~23質量%であり、上記セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合が0.7~2.0質量%である混合セメント組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
[1] セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末を含む粉状の混合セメント組成物であって、上記セメントクリンカ粉末、上記高炉スラグ微粉末、及び上記石灰石粉末の合計量100質量%中、上記セメントクリンカ粉末の割合が47~62質量%であり、上記高炉スラグ微粉末の割合が22~46質量%であり、上記石灰石粉末の割合が4~23質量%であり、上記セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合が0.7~2.0質量%であることを特徴とする粉状の混合セメント組成物。
[2] 上記セメントクリンカ粉末中、アルミネート相の割合が7~17質量%であり、エーライトの割合が51~63質量%である前記[1]に記載の混合セメント組成物。
[3] 上記混合セメント組成物中の石膏の割合が、SO3換算で1.0~5.0質量%である前記[1]又は[2]に記載の混合セメント組成物。
[4] 上記セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)と上記セメントクリンカ粉末中のSO3のモル比(全アルカリ量/SO3)が0.4~1.2である前記[1]~[3]のいずれかに記載の混合セメント組成物。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の混合セメント組成物、水、及び骨材を含む水硬性組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の混合セメント組成物によれば、高炉スラグ微粉末及び石灰石粉末を使用することで、セメントクリンカ粉末の使用量を相対的に少なくすることができ、強度発現性に優れ、かつ、セメントクリンカの原料の一部として廃棄物等を用いることによって、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合が大きいにも関わらず、流動性の低下の程度が小さい混合セメント組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の混合セメント組成物は、セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末を含む粉状の混合セメント組成物であって、セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量100質量%中、セメントクリンカ粉末の割合が47~62質量%であり、高炉スラグ微粉末の割合が22~46質量%であり、石灰石粉末の割合が4~23質量%であり、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合が0.7~2.0質量%であるものである。
なお、本明細書中、「混合セメント組成物」とは、複数の種類の粉状の材料を混合してなる、セメントクリンカ粉末を含む組成物を意味する。
【0009】
セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量100質量%中、セメントクリンカ粉末の割合は、47~62質量%、好ましくは48~61質量%、より好ましくは49~60質量%、特に好ましくは49.5~59.5質量%である。上記割合が47質量%未満であると、強度発現性が低下する。上記割合が62質量%を超えると、混合セメント組成物中のセメントクリンカ粉末の量が多くなり、セメントクリンカ粉末の使用量を減らして、クリンカ製造に伴う二酸化炭素の排出量を低減させるという効果が小さくなる。
【0010】
セメントクリンカ粉末中のアルミネート相(3CaO・Al2O3)の割合は、好ましくは7~17質量%である。
上記割合は、廃棄物原単位を大きくする(クリンカの原料として廃棄物をより多く使用することで、セメント組成物中の廃棄物由来の原料の割合を大きくする)ことができ、かつ、初期強度発現性を向上させる観点からは、好ましくは7質量%以上、より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上、特に好ましくは12質量%以上である。
また、上記割合は、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性をより向上させる観点からは、好ましくは17質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは13質量%以下である。
【0011】
セメントクリンカ粉末中のエーライト(3CaO・SiO2)の割合は、好ましくは51~63質量%、より好ましくは51.5~62質量%、特に好ましくは52~61質量%ある。上記割合が51質量%以上であれば、初期強度発現性がより向上する。上記割合が63質量%以下であれば、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性がより向上する。
セメントクリンカ粉末中のビーライト(2CaO・SiO2)の割合は、強度発現性等の観点から、好ましくは10~22質量%、より好ましくは12~21質量%、特に好ましくは14~20質量%である。なお、上記割合が10質量%以上であれば、長期強度発現性がより向上する。
セメントクリンカ粉末中のフェライト相(4CaO・Al2O3・Fe2O3)の割合は、強度発現性等の観点から、好ましくは7~20質量%、より好ましくは8~15質量%、特に好ましくは9~12質量%である。
【0012】
なお、本明細書中、セメントクリンカ粉末中のアルミネート相、エーライト、ビーライト、フェライト相の各割合は、セメントクリンカ粉末の全量(100質量%)中の割合として、セメントクリンカ原料やセメントクリンカ(焼成物)の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式(1)~(4)を用いて算出される。
(1) エーライト(質量%)=(4.07×CaO(質量%))-(7.60×SiO2(質量%))-(6.72×Al2O3(質量%))-(1.43×Fe2O3(質量%))
(2) ビーライト(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))-(0.754×C3S(質量%))
(3) アルミネート相(質量%)=(2.65×Al2O3(質量%))-(1.69×Fe2O3(質量%))
(4) フェライト相(質量%)=3.04×Fe2O3(質量%)
【0013】
セメントクリンカの原料としては、セメントクリンカの製造に用いられる一般的な原料を用いることができる。具体的には、石灰石、生石灰、消石灰等のCaO原料、珪石、粘土等の珪素含有原料、粘土等のアルミニウム含有原料、鉄滓、鉄ケーキ等の鉄含有原料を使用することができる。
さらに、前記原料に加えて、産業廃棄物、一般廃棄物、及び建設発生土から選ばれる一種以上を原料の一部として使用することができる。なお、通常、これら廃棄物には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含む物質が含まれている。
ここで、産業廃棄物とは、事業活動に伴って生じた廃棄物をいう。
産業廃棄物の例としては、生コンスラッジ、各種汚泥(例えば、下水汚泥、浄水汚泥、製鉄汚泥等)、建築廃材、コンクリート廃材、各種焼却灰(例えば、石炭灰、鶏糞灰、家畜糞灰、バイオマス灰、汚泥焼却灰)、鋳物砂、ロックウール、廃ガラス、高炉2次灰、各種副産物、未利用資源(使用されずに残存した材料等)等が挙げられる。
一般廃棄物とは、産業廃棄物以外の廃棄物をいう。
一般廃棄物の例としては、下水汚泥乾粉、都市ごみ焼却灰、貝殻等が挙げられる。
【0014】
セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合は0.7~2.0質量%である。
上記割合は、セメントクリンカの原料である廃棄物の使用量をより多くすることができる観点からは、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは0.9質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、特に好ましくは1.3質量%以上である。また、上記割合は、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性をより向上させる観点からは、好ましくは1.9質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下、さらに好ましくは1.7質量%以下、特に好ましくは1.6質量%以下である。
また、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)とセメントクリンカ粉末中のSO3のモル比(全アルカリ/SO3)は、好ましくは0.4~1.2、より好ましくは0.6~1.1、さらに好ましくは0.7~1.0、特に好ましくは0.8~1.0である。上記モル比が0.4以上であれば、セメントクリンカの原料である廃棄物の使用量をより多くすることができる。上記モル比が1.2以下であれば、セメントクリンカに固溶するアルカリの量を少なくし、混合セメント組成物の初期強度の低下を防ぐことができる。
【0015】
セメントクリンカを製造する方法としては、上述した各原料を、得られるセメントクリンカ中、アルミネート相、エーライト、ビーライト、及びフェライト相の割合が、各々、所望の数値となるように混合し、得られた混合物を、好ましくは1,200~1,600℃、より好ましくは1,350~1,500℃で焼成する方法が挙げられる。
焼成で得られた塊状のセメントクリンカは、ボールミル等の粉砕手段を用いて適宜粉砕されて、粉末状となる。
セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合を、所望の数値範囲内にする目的で、アルカリ金属含有物質(例えば、NaOH、KOH、Na2SO4、K2SO4等の試薬)を、塊状のセメントクリンカ又は粉末状のセメントクリンカに添加し、粉砕混合または混合することでセメントクリンカ粉末を調製してもよい。
具体的には、焼成で得られた塊状のセメントクリンカとアルカリ金属含有物質を同時に粉砕、混合する方法や、粉砕後の粉末状のセメントクリンカとアルカリ金属含有物質を混合する方法等が挙げられる。
【0016】
セメントクリンカ粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~6,000cm2/g、より好ましくは2,500~5,000cm2/g、さらに好ましくは2,800~4,000cm2/g、特に好ましくは3,000~3,500cm2/gである。上記ブレーン比表面積が、2,000cm2/g以上であれば、強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が、6,000cm2/g以下であれば、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性がより向上する。
【0017】
セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量100質量%中、高炉スラグ微粉末の割合は、22~46質量%、好ましくは23~45.5質量%、より好ましくは28~45質量%、特に好ましくは32~45質量%である。上記割合が22質量%未満であると、強度発現性が低下する。上記割合が46質量%を超えると、高炉スラグ微粉末の代わりに他の成分(石灰石粉末)を使用することで、高炉スラグ微粉末の使用量を低減するという効果が小さくなる。
【0018】
高炉スラグ微粉末の例としては、高炉で銑鉄を製造する際に副生する溶融状態のスラグを、水で急冷及び破砕して得られる水砕スラグの粉砕物等が挙げられる。
また、高炉スラグ微粉末の塩基度は、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.75以上、特に好ましくは1.8以上である。上記塩基度が1.7以上であれば、強度発現性がより向上する。
なお、塩基度は下記(5)式を用いて算出する。
塩基度=〔(CaO+MgO+Al2O3)/SiO2〕 ・・・(5)
(式中の化学式は、高炉スラグ微粉末中の、該化学式が表す化合物の含有率(%)を表す。)
【0019】
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~7,000cm2/g、より好ましくは3,500~6,000cm2/g、特に好ましくは4,000~5,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が、3,000cm2/g以上であれば、強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が、7,000cm2/g以下であれば、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性がより向上する。
【0020】
セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量100質量%中、石灰石粉末の割合は、4~23質量%、好ましくは5~21質量%、より好ましくは6~20質量%、さらに好ましくは8~18質量%、特に好ましくは12~16質量%である。上記割合が4質量%未満であると、高炉スラグ微粉末の代わりに他の成分(石灰石粉末)を使用することで、高炉スラグ微粉末の使用量を低減させるという効果が小さくなる。上記割合が23質量%を超えると、強度発現性が低下する。
【0021】
石灰石粉末中の炭酸カルシウムの含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。該含有率が90質量%以上であれば、強度発現性がより向上する。
石灰石粉末は、石灰石を粉砕したものでもよいが、生コンスラッジやコンクリートの粉末を炭酸化したものを用いてもよい。これら粉末によれば、本来は大気中に排出される二酸化炭素ガスを上記粉末に固定することができる。
【0022】
石灰石粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3,000~20,000cm2/g、より好ましくは3,500~18,000cm2/g、さらに好ましくは4,000~15,000cm2/g、さらに好ましくは4,200~10,000cm2/g、特に好ましくは4,500~9,500cm2/gである。上記ブレーン比表面積が、3,000cm2/g以上であれば、強度発現性がより向上する。上記ブレーン比表面積が、20,000cm2/g以下であれば、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性がより向上する。
【0023】
本発明の粉状の混合セメント組成物の全量(100質量%)中のセメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の合計量の割合は、特に限定されないが、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
セメントクリンカ粉末、高炉スラグ微粉末、及び石灰石粉末の以外の材料(他の材料)の例としては、後述の石膏や、シリカフューム等が挙げられる。
混合セメント組成物は、凝結時間を調整して、作業性を向上させる目的で、石膏を含んでいてもよい。
混合セメント組成物中の石膏の割合は、強度発現性や、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性の観点から、SO3換算値で、好ましくは1.0~5.0質量%、より好ましくは1.3~4.0質量%、特に好ましくは1.5~3.0質量%である。
また、セメントクリンカ粉末100質量部に対する石膏の割合は、強度発現性や、混合セメント組成物を含むモルタル等の流動性及び作業性の観点から、SO3換算値で、好ましくは1.5~6.0質量部、より好ましくは2.0~5.5質量部、特に好ましくは2.5~5.0質量部である。
石膏の例としては、天然二水石膏、排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏、フッ酸石膏、精錬石膏、半水石膏、および、無水石膏等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の混合セメント組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、(i)クリンカと高炉スラグと石灰石と石膏を同時に粉砕しながら混合する方法、(ii)予め粉砕してなるセメント(クリンカ粉末と石膏の混合物)と、予め粉砕してなる高炉スラグ微粉末と、予め粉砕してなる石灰石粉末を混合する方法等が挙げられる。
また、(ii)の方法において、予め粉砕してなる高炉スラグ微粉末として、石膏を含むもの(予め高炉スラグと石膏を同時に粉砕しながら混合したもの)を用いてもよい。
また、混合セメント組成物の製造において、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(Na2O+0.658K2O)の割合を、所望の数値範囲内にする目的で、混合セメント組成物の各材料を混合する際に、または、各材料を混合した後に、アルカリ金属含有物質(例えば、NaOH、KOH、Na2SO4、K2SO4等の試薬)を、添加し混合してもよい。
この場合、添加されたアルカリ金属含有物質は、セメントクリンカ粉末に含まれるものとする。
【0025】
本発明の混合セメント組成物と水を混合して、水硬性組成物を調製することができる。該水硬性組成物は、骨材(細骨材、粗骨材)、及び必要に応じて配合される他の材料を含んでいてもよい。必要に応じて配合される他の材料としては、減水剤、消泡剤、収縮低減剤等の各種添加剤等が挙げられる。
本明細書中、水硬性組成物とは、セメント組成物と水を含む硬化性組成物であって、水硬性組成物の硬化前の形態および硬化後の形態を包含するものである。水硬性組成物の例としては、ペースト、モルタル、及びコンクリートが挙げられる。
本発明の混合セメント組成物の、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載された方法によって測定される材齢7日の圧縮強さは、好ましくは33MPa以上、より好ましくは34MPa以上、特に好ましくは35MPa以上である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)高炉スラグ微粉末;ブレーン比表面積:4,230cm2/g、密度:2.92g/cm3、塩基度:1.80、「JIS A 6206:2013(コンクリート用高炉スラグ微粉末)」に規定されている高炉スラグ微粉末4000に該当するもの
(2)石灰石粉末;ブレーン比表面積:5,130cm2/g、炭酸カルシウムの含有率:95質量%以上、密度:2.72g/cm3
[高炉スラグ混合物の製造]
上記高炉スラグ微粉末と二水石膏(排煙脱硫石膏)を混合して、石膏の含有率が2.0質量%(SO3換算)である高炉スラグ混合物(高炉スラグ微粉末と石膏の混合物)を製造した。
【0027】
[実施例1~6、比較例1~9]
[セメントクリンカ粉末A~Eの製造]
各種試薬(SiO2、Al2O3、Fe2O3、CaCO3、MgO、CaSO4・2H2O、Na2CO3、K2CO3、TiO2、CaHPO4・2H2O)を原料として、テスト用のキルンを用いて、セメントクリンカ(廃棄物を用いた、全アルカリ量が多いセメントクリンカを模したもの)を焼成した後、ミルを用いて上記セメントクリンカを粉砕することで、表1に示す鉱物組成、ブレーン比表面積であるセメントクリンカ粉末A~E(表1中、「クリンカA~E」と示す。)を調製した。
また、セメントクリンカ粉末A~Eの全アルカリ量、及び、全アルカリ量とSO3のモル比を表1に示す。
【0028】
【0029】
表2に示す種類のセメントクリンカ粉末と石膏粉末(半水化率:0%)を混合してなるセメントと、高炉スラグ混合物と、石灰石粉末を、表2に示す量で混合して、混合セメント組成物を得た。
なお、混合セメント組成物に含まれる、セメントクリンカ粉末(表2中、「クリンカ」と示す。)と、高炉スラグ微粉末(表2中、「高炉スラグ」と示す。)と、石灰石粉末(表2中、「石灰石」と示す。)の合計量100質量%中の、セメントクリンカ粉末等の割合、及び、クリンカ粉末100質量部に対する、石膏の量(SO3換算値)は、表2に示すとおりである。
【0030】
混合セメント組成物について、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載された方法に準拠して、材齢3日、7日、28日の圧縮強さを測定した。
各混合セメント組成物について、下記(i)~(v)の手順でモルタルを調製して、該モルタルのモルタルフロー値を求め、得られたモルタルフロー値を用いてロス率を算出した。
(i)「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」8.1(2)に規定されている機械練り用練混ぜ機の練り鉢に、水20gと、セメント強さ試験用標準砂(一般社団法人セメント協会 販売)1,350gを投入した後、パドルを用いて低速で1分間撹拌した。
(ii)撹拌を停止して、混合セメント組成物675g投入した後、パドルを用いて低速で30秒間撹拌した。
(iii)再度、撹拌を停止して、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤(BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウムSP8N」)4.4gと、消泡剤(日華化学社製、商品名「ニコフレックス800」の10倍希釈液)6.7gを内割りで含む水216.3gを投入し、パドルを用いて低速で1分間撹拌した後、さらに3分間高速で撹拌してモルタルを調製した。
(iv)調製直後のモルタルを用いて、「JIS A 1171:2016(ポリマーセメントモルタルの試験方法)」6.3のスランプ試験に準拠して、調製直後のモルタルフロー値(表3中、フロー値の欄の「直後」と示す。)を測定した。
(v)前記(i)の作業を開始時点から30分経過した後、モルタルを改めで練り混ぜ機に投入し、パドルを用いて高速で1分間撹拌した後、前記(iv)と同様にして、作業開始30分後のモルタルフロー値(表3中、フロー値の欄の「30分後」と示す。)を測定した。
【0031】
また、実施例1~3及び比較例1~2に関して、比較例1のモルタルフロー値を基準として、以下の式(6)を用いて、対象となる実施例又は比較例の調製直後及び作業開始30分後の各時点におけるモルタルフロー値の低減率を算出した。
低減率(%)={(基準となるモルタルフロー値-対象となる実施例又は比較例のモルタルフロー値)/(基準となるモルタルフロー値)}×100 ・・・(6)
同様に、実施例4~6及び比較例3~4に関しては、比較例3のモルタルフロー値を基準とし、比較例5~9に関しては、比較例8のモルタルフロー値を基準として、上記式(6)を用いて、対象となる実施例又は比較例の調製直後及び作業開始30分後の各時点におけるモルタルフロー値の低減率を算出した。
また、得られたモルタルフロー値を用いて、以下の式(7)を用いて、ロス率を算出した。
ロス率(%)=〔(調製直後のモルタルフロー値-作業開始30分後のモルタルフロー値)/(調製直後のモルタルフロー値-100)〕×100 ・・・(7)
結果を表3に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
表3から、比較例5~9(石灰石粉末の含有率:2.7質量%)のモルタルフロー値を見ると、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値が低下する傾向があることがわかる。
また、比較例5~9(石灰石粉末の含有率:2.7質量%)における、比較例5~7のモルタルフロー値の低減率は、調製直後では48.5~69.1%であり、混練開始後30分後では51.4~64.9%であることがわかる。
一方、実施例1~3及び比較例1~2(石灰石粉末の含有率:10.6質量%)における、実施例1~3のモルタルフロー値の低減率は、調製直後では4.4~38.0%であり、混練開始後30分後では-14.8~7.2%であることがわかる。
これらのことから、比較例5~9(石灰石粉末の含有率:2.7質量%)では、基準となる比較例8(セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が0.1質量%)に対して、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(比較例5:0.8質量%、比較例6;1.2質量%、比較例7:1.5質量%、比較例9:0.6質量%)が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値の低減率が非常に大きくなる(すなわち、全アルカリ量が大きくなるにしたがって、流動性が低下する程度が大きくなる)のに対して、実施例1~3及び比較例1~2(石灰石粉末の含有率:10.6質量%)では、基準となる比較例1(セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が0.1質量%)に対して、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(実施例1:0.8質量%、実施例2:1.2質量%、実施例3:1.5質量%、比較例2:0.6質量%)が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値の低減率は大きくなるものの、その程度は比較例5~9(石灰石粉末の含有率:2.7質量%)よりも小さくなる、または、低減率がマイナスになる(基準となる比較例1のモルタルフロー値よりも大きくなる)ことがわかる。同様の傾向は、実施例4~6及び比較例3~4(石灰石粉末の含有率:17.9質量%)でも見られた。
【0035】
また、実施例1~3の各材齢における圧縮強さ(3日:33.0~35.0MPa、7日:43.5~43.9MPa、28日:63.6~64.0MPa)は、比較例1~2の各材齢における圧縮強さ(3日:29.9~31.8MPa、7日:41.9~43.1MPa、28日:63.2MPa)よりも大きいことがわかる。同様の傾向は、実施例4~6と比較例3~4でも見られた。
【0036】
[実施例7~12、比較例10~18]
[セメントクリンカ粉末F~Jの製造]
上述したセメントクリンカ粉末A~Eと同様にして、表4に示す鉱物組成、ブレーン比表面積であるセメントクリンカ粉末F~J(表4中、「クリンカF~J」と示す。)を調製した。
また、セメントクリンカ粉末F~Jの全アルカリ量、及び、全アルカリ量とSO3のモル比を表4に示す。
【0037】
【0038】
表5に示す種類のセメントクリンカ粉末と石膏粉末を混合してなるセメントと、高炉スラグ混合物と、石灰石粉末を、表5に示す量で混合して、混合セメント組成物を得た。
なお、上記石膏の半水化率は0%であった。
混合セメント組成物について、実施例1~6及び比較例1~9と同様にして、材齢3日、7日、28日の圧縮強さ、及び、モルタルフロー値を測定した。また、得られたモルタルフロー値を用いて、上記式(7)を用いて、ロス率を算出した。
さらに、実施例7~8及び比較例10~11に関して、比較例10のモルタルフロー値を基準として、上記式(6)を用いて、対象となる実施例又は比較例の調製直後及び作業開始30分後の各時点におけるモルタルフロー値の低減率を算出した。
同様に、実施例10~12及び比較例12~13に関して、比較例12のモルタルフロー値を基準とし、比較例14~18に関しては、比較例17のモルタルフロー値を基準として、上記式(6)に従って、対象となる実施例又は比較例の調製直後及び作業開始30分後の各時点におけるモルタルフロー値の低減率を算出した。
結果を表6に示す。
【0039】
【0040】
【0041】
表6から、比較例14~18(石灰石粉末の含有率:2.6質量%)のモルタルフロー値を見ると、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値が低下する傾向があることがわかる。
また、比較例14~18における、比較例14~16のモルタルフロー値の低減率は、調製直後では41.5~69.3%であり、混練開始後30分後では45.6~64.5%であることがわかる。
一方、実施例7~9及び比較例10~11(石灰石粉末の含有率:5.3質量%)における、実施例7~9のモルタルフロー値の低減率は、調製直後では14.1~16.2%であり、混練開始後30分後では1.0~8.0%であることがわかる。
また、実施例10~12及び比較例12~13(石灰石粉末の含有率:15.5質量%)における、実施例10~12のモルタルフロー値の低減率は、調製直後では18.0~25.2%であり、混練開始後30分後では9.3~13.3%であることがわかる。
これらのことから、比較例14~18(石灰石粉末の含有率:2.6質量%)では、基準となる比較例17(セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が0.1質量%)に対して、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(比較例14:0.8質量%、比較例15;1.2質量%、比較例16:1.5質量%、比較例18:0.6質量%)が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値の低減率が非常に大きくなる(すなわち、全アルカリ量が大きくなるにしたがって、流動性が低下する程度が大きくなる)のに対して、実施例7~9及び比較例10~11(石灰石粉末の含有率:5.3質量%)では、基準となる比較例10(セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量が0.1質量%)に対して、調製直後では、セメントクリンカ粉末中の全アルカリ量(実施例7:0.8質量%、実施例8:1.2質量%、実施例9:1.5質量%、比較例11:0.6質量%)が大きくなるにしたがって、モルタルフロー値の低減率は大きくなるものの、その程度は比較例14~18(石灰石粉末の含有率:2.6質量%)よりも小さくなり、混練開始後30分後では、全アルカリ量が大きくなると、モルタルフロー値の低減率が小さくなることがわかる。同様の傾向は、実施例10~12でも見られた。
【0042】
また、実施例7~9の、材齢3日、及び7日における圧縮強さ(3日:26.3~29.8MPa、7日:40.1~41.6MPa)は、比較例10~11の各材齢における圧縮強さ(3日:25.8~25.9MPa、7日:38.8~39.0MPa)よりも大きく、材齢28日における圧縮強さ(64.5~64.8MPa)は、比較例10~11の材齢28日における圧縮強さ(64.0~65.7MPa)と同程度であることがわかる。同様の傾向は、実施例10~12と比較例12~13でも見られた。