(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】ポリマー添加剤、潤滑油組成物及び冷凍機用作動流体組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20241216BHJP
C10M 105/32 20060101ALI20241216BHJP
C10M 153/02 20060101ALI20241216BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20241216BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241216BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20241216BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/32
C10M153/02
C10M145/14
C10N30:06
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2021048737
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】田川 一生
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057378(JP,A)
【文献】特開2007-204568(JP,A)
【文献】特開2015-183123(JP,A)
【文献】特開2017-171882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル系基油を含む潤滑油用の
ポリマー添加剤であって、
下記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレート
と、下記式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートと、をモノマー単位として含
み、
前記リン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量が、前記ポリマー添加剤の全質量を基準として、5~55質量%であり、
前記アルキル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量が、前記ポリマー添加剤の全質量を基準として、45~95質量%である、ポリマー添加剤(ただし、下記式(3)で表される化合物をモノマー単位として含む場合を除く。)。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の炭化水素基を表し、
R
1
及びR
2
の少なくとも一方はフェニル基であり、Xは
炭素数が2~4のアルキレン基を表す。]
【化2】
[式(2)中、R
3
は、炭素数が1~36のアルキル基を表し、R
4
は、水素原子又はメチル基を表す。]
【化3】
[式(3)中、R
5
は水素原子又はメチル基を表し、-Y-は-O-又は-NH-を表し、R
6
は炭素数2~4の直鎖又は分岐アルキレン基を表し、R
7
は炭素数32~44の分岐アルキル基を表し、pは0~20の整数である。pが2以上の場合、複数のR
6
は同一でも異なっていてもよい。(R
6
O)p部分はランダム結合でもブロック結合でもよい。]
【請求項2】
重量平均分子量が3,000~20,000である、請求項1に記載のポリマー添加剤。
【請求項3】
エステル系基油と、請求項1又は2に記載のポリマー添加剤と、を含有する、潤滑油組成物。
【請求項4】
前記ポリマー添加剤の含有量が、前記潤滑油組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%である、請求項
3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
リンの含有量が、前記潤滑油組成物の全質量を基準として、150質量ppm以上である、請求項
3又は
4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
冷凍機油として用いられる、請求項
3~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
冷媒と、請求項
3~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー添加剤、潤滑油組成物及び冷凍機用作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機械、圧縮機械、タービン、歯車要素、軸受等の機械要素を有する産業機械には、部材間の潤滑性を向上させるために潤滑油が使用されている。例えば、冷蔵庫、空調等の冷凍機における圧縮機には、摺動部材を潤滑するために冷凍機用潤滑油(冷凍機油)が充填される。
【0003】
一般的に、潤滑油は、所望の特性に応じて配合される基油及び添加剤を含有する。基油としては、鉱油又は合成油が用いられている。近年、低蒸発性、高極性、伝熱性等に優れる観点から、冷凍機油等の特殊環境で使用される潤滑油用の基油として、エステル系基油が注目されている。例えば、下記特許文献1には、所定のエステル系基油と、各種添加剤とを含む冷凍機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エステル系基油は鉱油に比べて極性が高いことから、鉱油を用いる場合と比較して、添加剤の効果が得られ難く、特に、従来使用されているトリクレジルホスフェート(TCP)等のリン系添加剤による耐摩耗性の向上効果が得られ難い傾向がある。
【0006】
そこで、本発明は、エステル系基油を含む潤滑油に対する耐摩耗性の向上効果に優れる、潤滑油用の添加剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、添加剤をポリマー化することで、当該添加剤が金属表面に吸着しやすくなること、及び、当該添加剤とエステル系基油とが相溶しやすくなることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の一側面は、エステル系基油を含む潤滑油用の添加剤であって、下記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートをモノマー単位として含む、ポリマー添加剤に関する。
【化1】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の炭化水素基を表し、Xは2価の炭化水素基を表す。]
【0009】
上記側面のポリマー添加剤によれば、少量であってもエステル系基油を含む潤滑油の耐摩耗性を向上させることができる。また、TCP等のリン系添加剤を耐摩耗性の向上効果を発現させるために多量に使用すると熱安定性が低下するといった弊害が生じやすいのに対し、上記側面のポリマー添加剤は、多量に使用する必要がないため、TCP等のリン系添加剤を用いる場合と比較して優れた熱安定性が得られる傾向がある。そのため、例えば、上記側面のポリマー添加剤を冷凍機油に用いた場合、スラッジを生じ難いという利点も得られる。
【0010】
上記側面のポリマー添加剤の重量平均分子量は3,000~20,000であってよい。この場合、耐摩耗性の向上効果により優れる傾向がある。
【0011】
上記側面のポリマー添加剤中の上記リン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、0.1~90質量%であってよい。この場合、耐摩耗性の向上効果により優れる傾向がある。
【0012】
上記側面のポリマー添加剤は、下記式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートをモノマー単位として更に含んでいてよい。この場合、耐摩耗性の向上効果により優れる傾向がある。
【化2】
[式(2)中、R
3は、炭素数が1~36のアルキル基を表し、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。]
【0013】
本発明の他の一側面は、エステル系基油と、上記側面のポリマー添加剤と、を含有する、潤滑油組成物に関する。
【0014】
上記側面の潤滑油組成物中のポリマー添加剤の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%であってよい。この場合、より優れた耐摩耗性及び優れた熱安定性が得られる傾向がある。
【0015】
上記側面の潤滑油組成物中のリンの含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、150質量ppm以上であってよい。この場合、より優れた耐摩耗性が得られる傾向がある。
【0016】
上記側面の潤滑油組成物は、冷凍機油として用いられてよい。
【0017】
本発明の他の一側面は、冷媒と、上記側面の潤滑油組成物と、を含有する、冷凍機用作動流体組成物に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エステル系基油を含む潤滑油に対する耐摩耗性の向上効果に優れる、潤滑油用の添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0020】
<ポリマー添加剤>
一実施形態のポリマー添加剤は、エステル系基油を含む潤滑油(例えば冷凍機油)用の添加剤である。ポリマー添加剤は、下記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートをモノマー単位として含む。換言すれば、ポリマー添加剤は、下記式(1a)で表されるモノマー単位を含む。
【化3】
[式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の炭化水素基を表し、Xは、2価の炭化水素基を表す。]
【化4】
[式(1a)中のR
1、R
2及びXは、それぞれ式(1)中のR
1、R
2及びXと同義である。式(1a)中の*は、他のモノマー単位への結合手を表す。]
【0021】
R1及びR2は、互いに同一でも異なっていてもよい。炭化水素基は、例えば、アルキル基又はアリール基である。アルキル基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよく、環状であってもよい。アルキル基の炭素数は、例えば、1~8であってよい。アリール基は、例えば、フェニル基である。耐摩耗性の向上効果をより高める観点では、R1及びR2の少なくとも一方がフェニル基であることが好ましく、両方がフェニル基であることがより好ましい。
【0022】
Xで表される炭化水素基は、直鎖状であってよく、分岐状であってもよく、環状構造を有していてもよい。炭化水素基の炭素数は、例えば、2~18であってよい。炭化水素基は、例えば、アルキレン基(アルカンジイル基)であってよい。アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。Xは、耐摩耗性の向上効果をより高める観点では、炭素数が2~4のアルキレン基であることが好ましい。
【0023】
上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートの具体例としては、モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ジフェニルホスフェート、ジ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)モノフェニルホスフェート、モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェート、モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ジ-t-ブチルホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、ポリマー添加剤がモノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ジフェニルホスフェートをモノマー単位として含む場合、耐摩耗性の向上効果により優れる傾向がある。
【0024】
ポリマー添加剤にモノマー単位として含まれる上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートは、1種であっても複数種であってもよい。
【0025】
上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量(上記式(1a)で表されるモノマー単位の含有量)は、耐摩耗性の向上効果とエステル基油への溶解性及び安定性が得られやすくなる観点から、ポリマー添加剤の全質量を基準として、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、15質量%以上が特に好ましい。上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量は、エステル系基油との相溶性を高めることで耐摩耗性の向上効果をより高める観点では、ポリマー添加剤の全質量を基準として、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、0.1~90質量%、1~80質量%、10~70質量%又は15~70質量%であってよい。上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、1~10質量%、10~15質量%、1~60質量%、5~55質量%又は10~50質量%であってもよい。
【0026】
ポリマー添加剤は、上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートと重合可能なモノマーをモノマー単位として更に含んでいてよい。すなわち、ポリマー添加剤は上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートと当該リン酸エステルメタクリレートと重合可能なモノマーとの共重合体であってよい。共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。
【0027】
上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートと重合可能なモノマーとしては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びこれに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
【0028】
ポリマー添加剤は、エステル系基油との相溶性を高めることで耐摩耗性の向上効果をより高める観点から、下記式(2)で表されるアルキル(メタ)アクリレートをモノマー単位として更に含むことが好ましい。
【化5】
[式(2)中、R
3は、炭素数が1~36のアルキル基を表し、R
4は、水素原子又はメチル基を表す。]
【0029】
R3で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、エステル系基油との相溶性を高める観点では直鎖状であることが好ましい。アルキル基が直鎖状である場合、アルキル基の炭素数は18以下であってよい。アルキル基の炭素数は、金属表面への吸着性が向上する観点から、1~10であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
【0030】
ポリマー添加剤は、モノマー単位として、アルキル(メタ)アクリレートを2種以上含んでいてよい。ポリマー添加剤にモノマー単位として含まれる2種以上のアルキル(メタ)アクリレートのうちの少なくとも一つは、エステル系基油中での金属表面への吸着性が向上する観点から、好ましくはメチル(メタ)アクリレートである。エステル系基油との相溶性が向上する観点では、ポリマー添加剤が、モノマー単位として、メチル(メタ)アクリレートと、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート及びn-ブチル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートとを含むことが好ましい。
【0031】
メチル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、エステル系基油への溶解性が向上する観点から、ポリマー添加剤の全質量を基準として、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。メチル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、耐摩耗性が向上する観点から、ポリマー添加剤の全質量を基準として、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、メチル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、5~95質量%、10~90質量%又は20~80質量%であってよい。
【0032】
アルキル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、エステル系基油との相溶性が向上する観点から、ポリマー添加剤の全質量を基準として、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。アルキル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、耐摩耗性が向上する観点から、ポリマー添加剤の全質量を基準として、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、アルキル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、40~99質量%、45~95質量%又は50~90質量%であってよい。アルキル(メタ)アクリレートのモノマー単位としての含有量は、ポリマー添加剤の全質量を基準として、10~99.9質量%、20~99質量%、30~90質量%、30~85質量%、90~99質量%又は85~90質量%であってもよい。
【0033】
ポリマー添加剤の粘度等の物性への影響を小さくしたい場合、ポリマー添加剤の重量平均分子量を小さくすることで対応可能であり、ポリマー添加剤の粘度温度特性を向上させたい場合は、ポリマー添加剤の重量平均分子量を大きくすることで対応可能である。ポリマー添加剤の重量平均分子量は、熱安定性が向上する観点から、好ましくは3,000以上であり、より好ましくは5,000以上であり、更に好ましくは7,000以上である。ポリマー添加剤の重量平均分子量は、粘度増加を抑制する観点から、好ましくは20,000以下であり、より好ましくは18,000以下であり、更に好ましくは15,000以下である。これらの観点から、ポリマー添加剤の重量平均分子量は、3,000~20,000、5,000~18,000又は7,000~15,000であってよい。ここで、ポリマー添加剤の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される、標準ポリスチレン換算値である。
【0034】
以上説明したポリマー添加剤は、例えば、上記式(1)で表されるリン酸エステルメタクリレートを単独で重合させる、又は、当該リン酸エステルメタクリレートと当該リン酸エステルメタクリレートと重合可能な化合物とを重合(共重合)させることで得ることができる。重合は、例えば、重合開始剤(例えばラジカル重合開始剤)の存在下、光又は熱を加えることにより行ってよい。すなわち、重合開始剤は、光重合開始剤であってよく、熱重合開始剤であってよい。モノマー成分の配合量や重合の条件は、目的とするポリマー添加剤の組成や物性(例えば重量平均分子量)の観点から設定してよい。
【0035】
<潤滑油組成物>
一実施形態の潤滑油組成物は、エステル系基油と、上記実施形態のポリマー添加剤とを含有する。
【0036】
ポリマー添加剤の含有量は、より優れた耐摩耗性が得られやすくなる観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が特に好ましい。ポリマー添加剤の含有量は、潤滑油組成物の物性への影響を少なくすることができ、優れた熱安定性が得られやすくなる観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下が更に好ましく、4質量%以下が特に好ましい。これらの観点から、ポリマー添加剤の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、0.1~10質量%、0.5~8質量%、0.8~6質量%又は1~4質量%であってよい。
【0037】
エステル系基油としては、モノエステル、ポリオールエステル、芳香族エステル、二塩基酸エステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル及びこれらの混合物等が例示される。中でも、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、或いはそれらの混合物などが好ましく用いられる。
【0038】
ポリオールエステルは、多価アルコールと脂肪酸とのエステルである。脂肪酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。脂肪酸の炭素数は、4~20であることが好ましく、4~18であることがより好ましく、4~9であることが更に好ましく、5~9であることが特に好ましい。ポリオールエステルは、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに水酸基のまま残っている部分エステルであってもよく、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであってもよく、また部分エステルと完全エステルとの混合物であってもよい。ポリオールエステルの水酸基価は、好ましくは10mgKOH/g以下、より好ましくは5mgKOH/g以下、更に好ましくは3mgKOH/g以下である。なお、本発明における水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された水酸基価を意味する。
【0039】
ポリオールエステルを構成する脂肪酸のうち、炭素数4~20の脂肪酸の割合が20~100モル%であることが好ましく、50~100モル%であることがより好ましく、70~100モル%であることが更に好ましく、90~100モル%であることが特に好ましい。
【0040】
炭素数4~20の脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、オレイン酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。さらに具体的には、α位及び/又はβ位に分岐を有する脂肪酸が好ましく、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸、2-メチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2-エチルヘキサデカン酸などがより好ましく、中でも、2-メチルプロパン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が更に好ましい。炭素数4~20の脂肪酸は、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0041】
脂肪酸は、炭素数4~20の脂肪酸以外の脂肪酸を含んでいてもよい。炭素数4~20の脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、炭素数21~24の脂肪酸であってよい。具体的には、ヘンイコ酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸などが挙げられる。これらの脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0042】
ポリオールエスエルを構成する多価アルコールとしては、2~6個の水酸基を有する多価アルコールが好ましく用いられる。多価アルコールの炭素数としては、4~12が好ましく、5~10がより好ましい。具体的には、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコールが好ましい。潤滑油組成物が冷凍機油として用いられる場合には、冷媒との相溶性及び加水分解安定性に特に優れることから、ペンタエリスリトール、又はペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールとの混合エステルがより好ましい。
【0043】
コンプレックスエステルは、例えば以下の(a)又は(b)の方法で合成されるエステルである。
(a)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多塩基酸のカルボキシル基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存するカルボキシル基を一価アルコールでエステル化する方法
(b)多価アルコールと多塩基酸とのモル比を調整して、多価アルコールの水酸基の一部がエステル化されずに残存するエステル中間体を合成し、次いでその残存する水酸基を一塩基脂肪酸でエステル化する方法
【0044】
上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルは、冷凍機油としての使用時に加水分解すると比較的強い酸が生成しにくく、上記(b)の方法により得られるコンプレックスエステルに比べて安定性に優れる傾向にある。本実施形態におけるコンプレックスエステルとしては、安定性のより高い、上記(a)の方法により得られるコンプレックスエステルが好ましい。
【0045】
コンプレックスエステルは、好ましくは、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種と、炭素数6~12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種と、炭素数4~18の一価アルコール及び炭素数2~12の一塩基脂肪酸から選ばれる少なくとも1種とから合成されるエステルである。
【0046】
2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールとしては、コンプレックスエステルを基油として用いたときに好適な粘度を確保し、良好な低温特性が得られる観点から、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパンが好ましく、幅広く粘度調整のできる観点から、ネオペンチルグリコールがより好ましい。
【0047】
潤滑性に優れる観点から、コンプレックスエステルを構成する多価アルコールが、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールに加えて、ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールを更に含有することが好ましい。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。これらの中では、潤滑油基油の特性に優れる観点から、ブタンジオールが好ましい。ブタンジオールとしては、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールなどが挙げられる。これらの中では、良好な特性が得られる観点から、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオールがより好ましい。ネオペンチルグリコール以外の炭素数2~10の二価アルコールの量は、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、1.2モル以下であることが好ましく、0.8モル以下であることがより好ましく、0.4モル以下であることが更に好ましい。
【0048】
炭素数6~12の多塩基酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸などが挙げられる。これらの中でも、合成されたエステルの特性のバランスに優れ、入手が容易である観点から、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。炭素数6~12の多塩基酸の量は、2~4個のヒドロキシル基を有する多価アルコール1モルに対して、0.4モル~4モルであることが好ましく、0.5モル~3モルであることがより好ましく、0.6モル~2.5モルであることが更に好ましい。
【0049】
炭素数4~18の一価アルコールとしては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコールが挙げられる。これらの一価アルコールは、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数4~18の一価アルコールは、特性のバランスの点から、好ましくは炭素数6~10の一価アルコールであり、より好ましくは炭素数8~10の一価アルコールである。これらの中でも、合成されたコンプレックスエステルの低温特性が良好になる観点から、2-エチルヘキサノール、3,5,5-トリメチルヘキサノールが更に好ましい。
【0050】
炭素数2~12の一塩基脂肪酸としては、エタン酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸などが挙げられる。これらの一塩基脂肪酸は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数2~12の一塩基脂肪酸は、好ましくは炭素数8~10の一塩基脂肪酸であり、これらの中でも低温特性の観点から、より好ましくは2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸である。
【0051】
エステル系基油の溶解性パラメータ(SP値)は、通常、10.0以下である。エステル系基油のSP値は、8.5~10.0であってよく、9.0~9.8であってよい。なお、SP値は、Fedors法(PolymerEngineeringand Science,Feburuary,1974,Vol.14、No.2 P.147~154)に記載の方法で算出される値である。エステル系基油が複数のモノマー単位を含む場合、エステル系基油を構成する各モノマーのSP値を上記方法で算出し、各モノマーのSP値を、モノマー単位のモル分率に基づいて平均することで当該エステル系基油のSP値が求められる。
【0052】
エステル系基油の含有量は、冷凍機油用作動流体に適用しやすくなる観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。エステル系基油の含有量は、耐摩耗性が向上する観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、99.9質量%以下が好ましく、99.7質量%以下がより好ましく、99.5質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、エステル系基油の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、90~99.9質量%、93~99.7質量%又は95~99.5質量%であってよい。エステル系基油の含有量は、潤滑油組成物の全質量を基準として、99.2質量%以下又は99.0質量%以下であってもよい。
【0053】
潤滑油組成物は、上記成分以外の他の成分を更に含有してよい。潤滑油組成物は、例えば、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記エステル系基油以外の基油を更に含んでいてよい。このような基油としては、公知の鉱油又は合成油(上記エステル系基油を除く)が挙げられる。
【0054】
鉱油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油などが挙げられ、特にパラフィン系鉱油が好適に用いられる。なお、これらの鉱油は単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0055】
エステル系基油以外の合成油としては、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン、ポリシロキサン等が挙げられ、エーテル系基油を用いることが好ましい。エーテル系基油としては、例えば、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル及びこれらの混合物等が例示される。
【0056】
基油がエステル系基油以外の基油を含む場合、エステル系基油の含有量は、基油全量を基準として、例えば50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であってよい。エステル系基油の含有量は、基油全量を基準として、例えば100質量%未満であってよい。
【0057】
潤滑油組成物は、添加剤として、例えば、酸化防止剤、酸捕捉剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、上記ポリマー添加剤以外の耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等を更に含有してもよい。これらの添加剤の含有量の合計は、特に制限はないが、潤滑油組成物の全質量を基準として、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0058】
潤滑油組成物中のリンの含有量は、より優れた耐摩耗性が得られる観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは150質量ppm以上であり、より好ましくは170質量ppm以上であり、更に好ましくは200質量ppm以上である。潤滑油組成物中のリンの含有量は、熱安定性の観点から、潤滑油組成物の全質量を基準として、好ましくは2000質量ppm以下であり、より好ましくは1500質量ppm以下であり、更に好ましくは1000質量ppm以下である。これらの観点から、潤滑油組成物中のリンの含有量は、例えば、150~2000質量ppm、170~1500質量ppm又は170~1500質量ppmである。ここで、上記リンの含有量は、ICP元素分析法によって測定される元素換算値である。
【0059】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは3mm2/s以上、より好ましくは4mm2/s以上、更に好ましくは5mm2/s以上であってよい。潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは500mm2/s以下、より好ましくは400mm2/s以下、更に好ましくは300mm2/s以下であってよい。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは1mm2/s以上、より好ましくは2mm2/s以上であってよい。潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは50mm2/s以下であってよい。なお、本発明における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0060】
以上説明した潤滑油組成物は、冷凍機油として好適に用いられる。冷凍機油は、通常、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を有する冷媒循環システムを備える冷凍機において、冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在する。
【0061】
<冷凍機用作動流体組成物>
一実施形態の冷凍機用作動流体組成物は、冷媒と、冷凍機油と、を含む。冷凍機油は、上記実施形態の潤滑油組成物である。
【0062】
冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、1~500質量部、又は2~400質量部であってよい。
【0063】
冷媒としては、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。
【0064】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは1~2の飽和フッ化炭化水素である。飽和フッ化炭化水素冷媒はとしては、具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、および1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0065】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択される。飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;R32/R125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;R125/R143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などである。飽和フッ化炭化水素冷媒は、さらに具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などであってよい。
【0066】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくは炭素数2~3の不飽和フッ化炭化水素、より好ましくはフルオロプロペン、更に好ましくはフッ素数が3~5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、冷媒物性の観点からは、好ましくは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、フルオロエチレンであってもよく、好ましくは1,1,2,3-トリフルオロエチレンである。
【0067】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~5の炭化水素、より好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。炭化水素冷媒は、これらの中でも好ましくは、25℃、1気圧で気体の炭化水素冷媒であり、より好ましくは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物である。
【0068】
潤滑油組成物が冷凍機油として用いられる場合、本実施形態に係る潤滑油組成物及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、開放型又は密閉型のカーエアコン、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機、遠心式の圧縮機を有する冷凍機等に好適に用いられる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
<合成例1~3:ポリマー添加剤含有液の調製>
溶剤としてエステル系基油であるEster-1(アルコールがペンタエリスリトールであり、脂肪酸がイソブタン酸及びイソノナン酸(イソブタン酸:イソノナン酸=40:60[質量比])であるエステル系基油、SP値=9.1)を用い、メチルメタクリレート(MMA)と、n-ブチルメタクリレート(n-BuMA)と、下記式(A)で表される化合物(モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ジフェニルホスフェート、HEMDPP)とを、ランダム共重合することにより重合させ、ポリマー添加剤Aを含有するポリマー添加剤含有液A(ポリマー添加剤濃度:37.8質量%)、ポリマー添加剤Bを含有するポリマー添加剤含有液B(ポリマー添加剤濃度:38.2質量%)及びポリマー添加剤Cを含有するポリマー添加剤含有液C(ポリマー添加剤濃度:40.4質量%)をそれぞれ得た。なお、各モノマー成分は、ポリマー添加剤におけるモノマー単位としての含有量が表1に示す量となるように配合した。表1に示す量は、ポリマー添加剤の全質量を基準とする量である。
【化6】
【0071】
【0072】
ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて、得られたポリマー添加剤A~Cの重量平均分子量を測定した。ポリマー添加剤Aの重量平均分子量は5400であり、ポリマー添加剤Bの重量平均分子量は9980であり、ポリマー添加剤Cの重量平均分子量は18900であった。いずれの重量平均分子量も標準ポリスチレン換算値である。
【0073】
<実施例1~3及び比較例1~2>
(潤滑油組成物の調製)
エステル系基油であるEster-1と、上記で作製したポリマー添加剤含有液A~C又はトリクレジルホスフェート(東京化成工業社製、リン酸トリクレジル)とを表2に示す量で混合し、実施例1~3及び比較例1~2の潤滑油組成物を得た。なお、表2に示す量は潤滑油組成物の全質量(配合成分の合計量)を基準とする。
【0074】
(動粘度及び粘度指数の測定)
JIS K2283:2000に準拠し、各潤滑油組成物の40℃及び100℃における動粘度並びに粘度指数を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
(リン含有量測定)
ICP元素分析法によって、潤滑油組成物中のリン含有量を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
(耐摩耗性評価試験)
耐摩耗性は、ASTM D4172-94に準拠する高速四球試験により評価した。剛球としてSUJ2を用い、試験油量20mL、試験温度80℃、回転数1200rpm、負荷荷重294N、試験時間30分間の条件で試験を行い、固定球の摩耗痕径(mm)を測定した。結果を表2に示す。摩耗痕径の値が小さいほど、耐摩耗性に優れていることを意味する。
【0077】
(耐スラッジ性評価試験)
耐スラッジ性を、JIS K2211 附属書2に準拠する試験法により評価した。冷媒には安定性の高いHFC-134aを使用し、触媒には、鉄、銅及びアルミを使用した。冷媒と潤滑油組成物は1gずつ使用した。試験は、冷媒、潤滑油組成物及び触媒をガラスチューブに封入して200℃の恒温槽で10日間保温することにより行った。評価は、試験後のガラスチューブの底に発生する不溶分(スラッジ)の有無で行った。結果を表2に示す。スラッジが発生しなかった場合に熱安定性が高いと判断した。
【0078】
<比較例3>
実施例1と同様にして、エステル系基油であるEster-1の40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数及びリン含有量を測定するとともに、耐摩耗性評価試験を実施した。結果を表2に示す。
【0079】