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特許7604309電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20241216BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G03G15/16
G03G15/00 552
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021064774
(22)【出願日】2021-04-06
(65)【公開番号】P2021177235
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2024-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2020081499
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】岡本 薫
(72)【発明者】
【氏名】堀 篤史
(72)【発明者】
【氏名】亀山 直人
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-312150(JP,A)
【文献】特開2018-101108(JP,A)
【文献】特開平10-39647(JP,A)
【文献】特開2004-45961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、該基層の上に設けられた弾性層と、該弾性層の上に設けられた表面層と、を有する電子写真用ベルトであって、
該表面層は、
バインダー樹脂と、
ポリテトラフルオロエチレン粒子と
を含み、
該ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有量は、該バインダー樹脂100質量部に対し、200質量部以上であり、
該ポリテトラフルオロエチレン粒子の個数平均粒子径が200nm以下である
ことを特徴とする電子写真用ベルト。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の個数平均粒子径が50nm以上である請求項1に記載の電子写真用ベルト。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有量が、前記バインダー樹脂100質量部に対し、250質量部以上である請求項1又は2に記載の電子写真用ベルト。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有量が、前記バインダー樹脂100質量部に対し、300質量部以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項5】
前記電子写真用ベルトがエンドレスベルト形状を有する請求項1~4のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項6】
前記基層がエンドレスベルト形状を有し、前記弾性層が該基層の外周面上に設けられており、前記表面層が該弾性層の外周面上に設けられている請求項5に記載の電子写真用ベルト。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、ウレタン樹脂またはウレタンアクリレート樹脂である請求項1~6のいずれか一項に記載の電子写真用ベルト。
【請求項8】
トナー像を担持する像担持体と、前記像担持体から1次転写されたトナー像を転写材に2次転写するために担持して搬送する中間転写ベルトと、を具備し、
該中間転写ベルトが、
基層と、該基層の上に設けられた弾性層と、該弾性層の上に設けられた表面層と、を有し、
該表面層は、
バインダー樹脂と、
ポリテトラフルオロエチレン粒子と
を含み、
該ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有量は、該バインダー樹脂100質量部に対し、200質量部以上であり、
該ポリテトラフルオロエチレン粒子の個数平均粒子径が200nm以下である、電子写真用ベルトで構成されている、ことを特徴とする電子写真画像形成装置。
【請求項9】
前記基層がエンドレスベルト形状を有し、前記弾性層が該基層の外周面上に設けられており、前記表面層が該弾性層の外周面上に設けられている、請求項8に記載の電子写真画像形成装置。
【請求項10】
前記電子写真画像形成装置が、前記電子写真用ベルトの前記表面層の外周面に、少なくとも一部が接するように配置されているクリーニングブレードを更に有する請求項8又は9に記載の電子写真画像形成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複写機やプリンタなどの電子写真画像形成装置において、例えば、中間転写ベルトとして用い得る電子写真用ベルト及び電子写真画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置においては、YMCKの各色用の感光体上に形成された各色のトナー像を中間転写ベルト上に1次転写した後に、紙等の転写材(記録媒体)上に2次転写することで、フルカラー画像を得るタンデム方式が広く採用されている。
このような電子写真画像形成装置(以降、「画像形成装置」ともいう)において、電子写真画像のより一層の高画質化のために、弾性層を有する電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いる場合がある。このような電子写真用ベルトは、2次転写部においてトナーに作用する圧力を低くすることでき、所謂、中抜け現象と称される画像弊害の発生を抑制し得る。また、2次転写部における電子写真用ベルトと紙との密着性に優れるため、厚紙や凹凸を有する紙へのトナーの二次転写性の向上にも有効である。
【0003】
また、2次転写部におけるトナーの紙への転写効率をさらに高めるために電子写真用ベルトのトナー担持面(以降、外表面ともいう)を、トナー離型性に優れた表面層で構成することがある。特許文献1には(a)樹脂製の基材層、(b)ゴム弾性を有する樹脂を含む弾性層、及び(c)ウレタンゴム及び疎水性フィラーを含み、かつ、水接触角が90°以上である表面層をこの順に積層させてなる中間転写ベルトが開示されている。そして、該疎水性フィラーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が例示されている。さらに、該疎水性フィラーの平均粒子径としては0.1~2.0μmが好ましいこと、表面層中における疎水性フィラーの含有量として、該疎水性フィラーがフッ素樹脂フィラーである場合においては、40~100重量部が好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-203854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中間転写ベルトのトナー担持面(以降、「外表面」ともいう)を、クリーニングブレードを用いてクリーニングを行うときに、クリーニングブレードのめくれやビビリ音が発生することがある。このような、めくれやビビり音の発生を防ぐために、転写ベルトとクリーニングブレードとの摩擦係数を十分に低減させることが有効である。しかしながら、本発明者らの検討によれば、PTFE粒子を含む表面層の摩擦係数を十分に低くするためには、多量のPTFE粒子を含有させる必要があること、その一方で、PTFE粒子の含有量を増大させるにつれて、表面層が硬くなり、弾性層と表面層との硬度差が大きくなることによって中間転写ベルトを屈曲させて電子写真画像形成装置内に装着したときに表面層に割れや、弾性層と表面層との剥離が生じる場合があること、
を知見した。
本開示の一態様は、外表面のクリーニング性に優れるとともに、電子写真画像形成装置内に装着して電子写真画像の形成に供した場合にも表面層に割れや弾性層からの剥離が生じにくい電子写真用ベルトの提供に向けたものである。また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる電子写真画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、基層、該基層の上に設けられた弾性層、および該弾性層の上に設けられた表面層、を有する電子写真用ベルトであって、該表面層は、バインダー樹脂と、ポリテトラフルオロエチレン粒子とを含み、該ポリテトラフルオロエチレン粒子の含有量は、該バインダー樹脂100質量部に対し、200質量部以上であり、該ポリテトラフルオロエチレン粒子の個数平均粒子径が200nm以下である電子写真用ベルトが提供される。また、本開示の他の態様によれば、上記電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして具備する電子写真画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、外表面のクリーニング性に優れるとともに、屈曲させた場合にも表面層に割れや弾性層からの剥離が生じにくい電子写真用ベルトを得ることができる。また、本開示の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定して形成することができる電子写真画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一態様に係る、エンドレス形状を有する電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして具備した電子写真画像形成装置の断面図である。
図2】本開示の一態様に係る、エンドレス形状を有する電子写真用ベルトの周方向に直交する方向の断面図である。
図3】クリーニングブレードのめくれを説明するための図である。
図4】所定量のPTFE粒子の含む表面層の、当該PTFE粒子の個数平均粒子径と表面層のマルテンス硬度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の少なくとも一つの実施態様に係る、エンドレスベルト形状を有する電子写真用ベルトについて詳細に説明する。なお、本開示の技術的範囲は以下の説明に限定されるものではない。
該電子写真用ベルトは、例えば図1に示す電子写真画像形成装置内において中間転写ベルト7として用いられる。該電子写真用ベルトの周方向に直交する方向の断面を図2に示す。該電子写真用ベルトは、少なくとも基層21、弾性層22、及び表面層23が積層されてなる構造を有する。表面層23は、該電子写真用ベルトを中間転写ベルトとして用いる場合においては、トナー像の担持面を構成する。なお、本開示に係る電子写真用ベルトは、これらの3層の積層構造に限定されるものではなく、各層の間に密着性向上のためのプライマー層や、表面層23の割れを抑制するための応力緩和層やブリード物を抑制するための中間層を有していてもよい。
【0010】
(基層)
基層21はエンドレスベルト形状を有する。
基層21に適する材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン等。
【0011】
なお、基層21用の樹脂には金属粉末、導電性酸化物粉末、導電性カーボン、リチウム塩、イオン液体等の導電性化合物を添加して導電性を付与しておいても良い。下記の実施例においては、優れた生産性及び導電性を得ることができるという観点からポリアルキレングリコールとリチウム塩を添加したポリフッ化ビニリデンを使用したが、例示した他の樹脂と導電剤との組み合わせを使用しても良い。基層21の膜厚は、10μm以上500μm以下が好ましい。10μm未満であると、機械的強度が著しく低下してしまい、500μmより大きいと、剛性が強くなりすぎるため中間転写体としての使用が困難になってしまう。
【0012】
(弾性層)
基層21の外周面上に設けられてなる弾性層22は、記録媒体の表面形状に追従するため、適度な柔軟性を有することが必要である。このような弾性層に適する材料としては、以下のものが挙げられる。シリコーンゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム等のゴム材料、オレフィンエラストマー、スチレンエラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー等のエラストマー材料。
【0013】
なお、弾性層22には金属粉末、導電性酸化物粉末、導電性カーボン、リチウム塩、イオン液体等の導電性化合物を添加して導電性を付与しておいても良い。下記の実施例においては、優れた生産性を得ることができるという観点から熱可塑性エラストマーであるポリアルキレングリコールとリチウム塩を添加したポリウレタンエラストマーを使用したが、例示した他の樹脂と導電剤との組み合わせを使用しても良い。
【0014】
弾性層22の膜厚は100μm~1000μmが好ましく、200μm~500μmがさらに好ましい。また、弾性層22のJIS-A硬度は80度以下が好ましい。弾性層22に対する導電剤の配合量は、ウレタンゴム100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。これにより中間転写ベルトに適した安定した導電性が弾性層22に付与される。
【0015】
また、弾性層22には、他にも充填剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの添加剤を含んでいてもよい。例えば、中間転写ベルトに対しては、転写部で通電するため難燃性が求められる場合がある。難燃剤の例としては、吸熱作用を利用する水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、熱分解を抑制する白金化合物やフェノール系化合物、酸素遮断効果を有するイントメッセント系化合物、リン酸エステル縮合系化合物がある。
【0016】
また、充填剤としては、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、湿式シリカ、ヒュームド酸化チタン、セルロースナノファイバーなどの補強性充填剤が挙げられる。
さらに、基層21と弾性層22との間には必要に応じて接着性向上のためにプライマー層(不図示)を設けても良い。プライマー層の厚みはプライマー層内の凝集破壊を低減する観点から、0.1μm以上、2μm以下が好ましい。
【0017】
(表面層)
弾性層の外周面上に設けられてなる表面層23は、バインダー樹脂23-1と、ポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE粒子)23-2とを含む。表面層23の膜厚は0.5μm~20μmが好ましい。PTFE粒子23-2は、表面層23の弾性層22と対向する側とは反対側の表面(以降、「外表面」ともいう)23-5に、優れたトナー離型性や優れたクリーニング性を付与する。なお、表面層の外表面23-5は、電子写真用ベルト7のトナー担持面を構成する。
バインダー樹脂としては、耐摩耗性、耐屈曲性が良いという理由からウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂が好ましい。
ウレタン樹脂を含む表面層の形成方法としては表面層形成用塗料をスプレー塗布やディップ塗布で塗布し、加熱により硬化する方法や電子線・紫外線といった光照射により硬化する方法がある。
【0018】
表面層中のPTFE粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して200質量部以上である。より好ましくは、バインダー樹脂100質量部に対して、250質量部以上300質量部以下である。表面層中のPTFE粒子の含有量をこのような範囲内に調整することにより、電子写真用ベルトの外表面とクリーニングブレードとの摩擦を低減し、クリーニングブレードのめくれを防止し得る。その結果、電子写真用ベルトの外表面を安定してクリーニングできるようになる。なお、クリーニングブレードは、電子写真用ベルトの表面層の外周面に、少なくとも一部が接するように配置されている。
表面層中のPTFE粒子の個数平均粒子径は、200nm以下である。
すなわち、上記したように表面層中のバインダー樹脂100質量部に対するPTFE粒子の含有量を200質量部から増加させていったときに、PTFE粒子の個数平均粒径が200nm超の場合、図4に示すように、表面層のマルテンス硬度が急激に上昇した。マルテンス硬度の過度な上昇は、電子写真用ベルトの屈曲させたときに表面層にクラックを生じさせ、また、弾性層からの剥離を招来する。
一方、PTFE粒子の個数平均粒径が200nm以下であると、表面層中のPTFE粒子の含有量を200質量部から増加させていった場合でも、表面層のマルテンス硬度の過度な上昇が観察されなかった。
このように、外表面のクリーニング性に優れるとともに、耐屈曲性に優れる電子写真用ベルトを得るうえでは、表面層中のPTFE粒子の含有量をバインダー樹脂100質量部に対して200質量部以上とすると共に、PTFE粒子として個数平均粒径が200nm以下とすることが有効である。
個数平均粒子径が200nm以下のPTFE粒子は、例えば、市販品を用いることができる。市販品としては、「アルゴフロンL100」(商品名、ソルベイ社製、一次粒子の個数平均粒子径50nm)、「ルブロンL-5」(商品名、ダイキン工業社製、一次粒子の個数平均粒子径200nm)が挙げられる。PTFE粒子の個数平均粒径は50nm以上であることが好ましい。
【0019】
(画像形成装置)
図1を用いて本態様に係る電子写真用ベルトを用いた画像形成装置の例について説明する。図1に示す電子写真画像形成装置100は、カラー電子写真画像形成装置(カラーレーザープリンタ)である。
この画像形成装置には、本態様に係る電子写真用ベルトである中間転写ベルト7の平坦部分に沿って、その移動方向に順にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像形成ユニットPy、Pm、Pc、Pkが配設されている。ここで、1Y、1M、1C、1Kはそれぞれ電子写真感光体、2Y、2M、2C、2Kはそれぞれ帯電ローラ、3Y、3M、3C、3Kはそれぞれレーザー露光装置、4Y、4M、4C、4Kはそれぞれ現像器、5Y、5M、5C、5Kはそれぞれ1次転写ローラを示す。各画像形成ユニットの基本的な構成は同一であるので、画像形成ユニットの詳細については、イエロー画像形成ユニットPyについてのみ説明する。
【0020】
イエロー画像形成ユニットPyは、像担持体としてドラム型の電子写真感光体(以下、「感光ドラム」又は「第1の画像担持体」とも称する)1Yを有する。感光ドラム1Yは、アルミニウム製のシリンダを基体として、その上に電荷発生層、電荷輸送層及び表面保護層を順に積層して形成したものである。また、イエロー画像形成ユニットPyは、帯電手段としての帯電ローラ2Yを備えている。帯電ローラ2Yに帯電バイアスを印加することで、感光ドラム1Yの表面は一様に帯電される。
【0021】
感光ドラム1Yの上方には、画像露光手段としてのレーザー露光装置3Yが配設されている。レーザー露光装置3Yは、一様に帯電された感光ドラム1Yの表面を画像情報に応じて走査露光して、イエロー色成分の静電潜像をその感光ドラム1Yの表面に形成する。感光ドラム1Yに形成された静電潜像は、現像手段としての現像器4Yによって現像剤であるトナーによって現像される。現像器4Yは、現像剤担持体である現像ローラ4Ya、現像剤量規制部材である規制ブレード4Ybを備えており、また現像剤であるイエロートナーを収容している。イエロートナーが供給された現像ローラ4Yaは、現像部において感光ドラム1Yと軽圧接されており、感光ドラム1Yと順方向に速度差を持って回転される。現像ローラ4Yaによって現像部に搬送されたイエロートナーは、現像ローラ4Yaに現像バイアスを印加することで、感光ドラム1Yに形成された静電潜像に付着する。これにより、感光ドラム1Yに可視像(イエロートナー画像)が形成される。
【0022】
中間転写ベルト7は、駆動ローラ71、テンションローラ72、従動ローラ73に張架されており、感光ドラム1Yと接触して図中矢印の方向に移動(回転駆動)される。
1次転写部Tyに到達した感光ドラム上(第1の画像担持体上)に形成されたイエロートナー画像は、中間転写ベルト7を介して感光ドラム1Yに対向して配置されている1次転写体(1次転写ローラ5Y)によって中間転写ベルト7上に1次転写される。
【0023】
同様に、以上の作像動作を、中間転写ベルト7の移動に伴ってマゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各ユニットPm、Pc、Pkにおいて行い、中間転写ベルト7上にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー画像を積層する。4色のトナー層は中間転写ベルト7の移動に従って搬送され、2次転写部T’において、2次転写手段としての2次転写ローラ8により、所定のタイミングで搬送されてくる転写材S(以下、「第2の画像担持体」とも称する)上に一括転写される。このような2次転写においては通常十分な転写率を確保するために数kVの転写電圧を印加する。
【0024】
転写材Sは、転写材Sが収納されているカセット12から、ピックアップローラ13によって搬送路に供給される。搬送路に供給された転写材Sは、搬送ローラ対14及びレジストローラ対15によって中間転写ベルト7に転写された4色のトナー画像と同期をとられて2次転写部T’まで搬送される。転写材Sに転写されたトナー画像は、定着器9によって定着されて、例えばフルカラーの画像となる。定着器9は、加熱手段を備えた定着ローラ91と加圧ローラ92とを有し、転写材S上の未定着トナー画像を加熱、加圧することで定着する。その後、転写材Sは搬送ローラ対16、排出ローラ対17などによって機外に排出される。
【0025】
中間転写ベルト7のクリーニングユニット11が、中間転写ベルト7の駆動方向の2次転写部T’の下流に配設されており、2次転写部T’において転写材Sに転写されずに中間転写ベルト7に残った転写残トナーを除去する。以上説明したように感光体から中間転写ベルト、中間転写ベルトから転写材へトナー画像の電気的転写プロセスが繰り返し行われる。また、多数の転写材へ記録を繰り返すことで電気的転写プロセスがさらに繰り返し行われることになる。
【実施例
【0026】
<実施例1>
(基層用ペレットの作製)
下記の材料を、2軸混練機(商品名:PCM30、(株)池貝製)を用いて混練し、これらのペレット体を得た。
・ポリフッ化ビニリデン(商品名:Solef9007、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン(株)製) 95質量部
・過塩素酸リチウム(無水98%、関東化学(株)製) 0.7質量部
・エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(Pluronic F-127、BASF社製) 4.3質量部

なお、「Pluronic F-127」は、下記構造式で示される非イオン性界面活性剤である。また、下記構造式中、a及びcは各々独立に60~70の範囲内の整数を表し、bは90~100の範囲内の整数を表す。
HO-(CHCHO)a-(CH(CH(CH)O)b-(CHCHO)c-H
【0027】
(弾性層用ペレットの作製)
下記の材料を、2軸混練機(商品名:PCM30、(株)池貝製)を用いて混練し、これらのペレット体を得た。
・熱可塑性ポリウレタン(商品名:エラストラン1175A10W、BASFジャパン(株)製) 98質量部
・過塩素酸リチウム(無水98%、関東化学(株)製) 0.2質量部
・エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体(Pluronic F-127、BASF社製) 1.8質量部
【0028】
(基層と弾性層とからなる2層ベルトの作製)
上記で作製した基層用ペレットと弾性層用ペレットとを用いて2層構成のベルトを共押出により作製した。
具体的には基層用ペレットと弾性層用ペレットとのそれぞれに対し単軸押出機(商品名:GT40、(株)プラスチック工学研究所製)を用意した。続いて、2つの単軸押出機を共押出用の円筒ダイに接続し円筒押出成形して、エンドレスベルト形状を有する2層ベルトを作製した。
具体的には、単軸押出機から吐出されたそれぞれの熔融樹脂は、共押出用円筒ダイで内層がポリフッ化ビニリデン、外層が熱可塑性ポリウレタンとなるようにした。また、円筒引取機の引き取り速度と基層用ペレットと弾性層用ペレットのフィーダー速度の相対比率によりそれぞれの層の厚みを115μm、及び250μmとした。引き取り過程において、円筒ダイと円筒引取機との間に設けられた冷却マンドレルと接触することで冷却・固化し、固化した樹脂が、円筒引取機の下部に設置された円筒切断機にて、幅460mmとなるように切断し、2層ベルトを得た。
弾性層の硬度をJIS Aゴム硬度計で測定したところ75度であった。
【0029】
(弾性層の表面改質)
弾性層と表面層との接着性を向上させるため、弾性層の表面層を形成する表面に、エキシマUV照射ユニットとして172nmの単一波長を発するエキシマランプ((株)エム・ディ・コム製)を用いてUV光を照射した。具体的には、基層と弾性層とからなる2層ベルトを円柱状中子に嵌め、該エキシマランプの表面から1mmの距離に存在する中子を5rpmの回転速度で回転させながら、窒素ガスを流入させた空間内で30分間照射を行った。
【0030】
(表面層の作製)
下記の材料を混合して表面層形成用塗料を調製した。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が300質量部となる量であるように調整されているものである。
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドランWLS-201、DIC(株)製固形分比率35%)
100質量部
・PTFE粒子
(商品名:アルゴフロンL100;ソルベイ社製、一次粒子の個数平均粒子径50nm)
105質量部

上記で作製した2層ベルトを中子に嵌め、90rpmで回転させながら、スプレーガン(商品名:W-101、アネスト岩田(株)製)を用いて弾性層の外表面に表面層形成用塗料を塗布した。表面層形成用塗料の吐出量は、表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜厚が1μmとなるように設定した。表面層形成用塗料の塗膜が形成された2層ベルトを加熱炉中で、温度130℃で30分間加熱し、その後、加熱炉から取出して、電子写真用ベルトB1を得た。
【0031】
<実施例2>
表面層形成用塗料の材料を下記のように変更した点以外は実施例1と同様にして電子写真用ベルトB2を得た。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が300質量部となる量であるように調整されているものである。
(表面層の調製)
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドラン201、DIC(株)製固形分比率35%) 100質量部
・PTFE粒子
(商品名:ルブロンL-5;ダイキン工業(株)製、一次粒子の個数平均粒子径200nm) 105質量部
【0032】
<実施例3>
表面層形成用塗料の材料を下記のように変更した点以外は実施例1と同様にして電子写真用ベルトB3を得た。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が200質量部となる量であるように調整されているものである。
(表面層の調製)
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドラン201、DIC(株)製固形分比率35%) 100質量部
・PTFE粒子
(商品名:アルゴフロンL100;ソルベイ社製、一次粒子の個数平均粒子径50nm)
70質量部
【0033】
<実施例4>
表面層形成用塗料の材料を下記のように変更した点以外は実施例1と同様にして電子写真用ベルトB4を得た。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が200質量部となる量であるように調整されているものである。
(表面層の調製)
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドラン201、DIC(株)製固形分比率35%) 100質量部
・PTFE粒子
(商品名:ルブロンL-5;ダイキン工業(株)製、一次粒子の個数平均粒子径200nm) 70質量部
【0034】
<比較例1>
表面層形成用塗料の材料を下記のように変更した点以外は実施例1と同様にして電子写真用ベルトB11を得た。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が200質量部となる量であるように調整されているものである。
(表面層の調製)
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドラン201、DIC(株)製固形分比率35%) 100質量部
・PTFE粒子
(商品名:ルブロンL-2;ダイキン工業(株)製、一次粒子の個数平均粒子径250nm) 70質量部
【0035】
<比較例2>
表面層形成用塗料の材料を下記のように変更した点以外は実施例1と同様にして電子写真用ベルトB12を得た。なお、ここで調製した表面層形成用塗料中のPTFE粒子の量は、該表面層形成用塗料の塗膜の乾燥膜中のポリウレタン100質量部に対して、PTFE粒子の含有量が150質量部となる量であるように調整されているものである。
(表面層の調製)
・ポリウレタン樹脂水溶液
(商品名:ハイドラン201、DIC(株)製固形分比率35%) 100質量部
・PTFE粒子
(商品名:ルブロンL-5;ダイキン工業(株)製、一次粒子の個数平均粒子径200nm) 52.5質量部
【0036】
[評価方法]
上記各実施例及び各比較例に係る電子写真用ベルトを、図1に示した電子写真画像形成装置(商品名:imageRUNNER ADVANCE C7580;キヤノン社製)に装着し、高温高湿環境(温度30℃/相対湿度80%)において100時間静置した。
その後、前記高温高湿環境下において、下記の条件で連続して30万枚の電子写真画像をプリントした。
使用した紙:日本産業規格(JIS)A3サイズ普通紙(商品名:CS068;キヤノン社製);
印刷画像:画像デューティー5%のテストチャート。
【0037】
[<評価1>クリーニングユニット部からの異音の発生、及びクリーニングブレードのめくれの発生の有無の評価]
前記の30万枚のプリント中の、クリーニングユニット部からの異音(以降、「ビビリ音」)、及びクリーニングブレードのめくれ(以降、「めくれ」)の発生の有無を観察し、以下の基準で評価した。
ランクA:「めくれ」も「ビビリ音」も発生しなかった。
ランクB:「ビビリ音」は発生したが、「めくれ」は発生しなかった。
ランクC:「ビビリ音」及び「めくれ」が発生した。
【0038】
なお、「めくれ」に関して、図3に示すように、ブレード保持部材31はクリーニングブレード32の上側面32aを保持する。通常は、クリーニングブレード32の上側面32aとは反対側の下側面32bの先端付近が電子写真用ベルト33の外表面に接触し、電子写真用ベルト33が矢印34の方向に進行している間、電子写真用ベルト33の表面をクリーニングしている。クリーニングブレード32の上側面32aの先端付近が電子写真用ベルト33に接触する状態となったとき「めくれ」が発生したと判断した。
【0039】
[<評価2>表面層の割れ・剥がれ、画像不良]
30万枚のプリント後に電子写真用ベルトを電子写真画像形成装置から取り出し、対物レンズ20倍の光学顕微鏡によって電子写真用ベルトの外表面を観察し、表面層の割れ・弾性層からの剥離の有無を評価した。観察後に再び電子写真用ベルトを電子写真画像形成装置に装着し、A3サイズの普通紙に、画像デューティー100%、すなわち全印刷領域にBk(ブラック)の中間階調を電子写真用ベルト1周分以上に相当する3枚連続でプリントした。上記中間階調は「256階調中、濃度が薄い側の16階調」を意味する。そして、得られた3枚の画像を目視で観察し、表面層の割れや、弾性層からの剥離に起因する画像の欠けやムラの有無を評価した。評価結果を下記の基準でランク付けした。
【0040】
ランクA:表面層の割れ、剥がれが認められない。また、転写ムラに起因する画像不良の発生も認められない。
ランクB:表面層の割れは僅かに視認できる。しかし、転写ムラに起因する画像不良の発生は認められない。
ランクC:表面層の割れ、剥がれが発生した。また、転写ムラに起因する画像不良も発生した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1は各実施例および各比較例において作製した弾性中間転写ベルトの評価結果である。実施例1~4の弾性中間転写ベルトはポリテトラフルオロエチレンの平均粒子径が50nm~200nmであり、比較例1において使用したポリテトラフルオロエチレンの平均粒子径よりも小さい。このため、表面層の機械強度が大きく、耐久を通して表面層の剥がれや、表面層の割れに起因する転写ムラによる画像不良が発生することがなかった。
また、実施例1~4の弾性中間転写ベルトは、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が比較例2に比べて大きいため、クリーニングブレードとの摩擦力をより低減する効果がある。このため、耐久を通してブレードめくれやビビリが発生することがなかった。

図1
図2
図3
図4