(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】車両用プレス部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20241216BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B21D22/26 D
B21D22/26 C
B21D5/01 D
(21)【出願番号】P 2021079934
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2023-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 洋
(72)【発明者】
【氏名】梶原 和義
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
(72)【発明者】
【氏名】村上 圭一
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-190588(JP,A)
【文献】特開2016-055299(JP,A)
【文献】特表2020-514059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部とフランジ部とを側壁部によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で前記天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法であって、
前記側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と前記天板部の長手方向の長さが前記製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、
前記中間品における前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備え
、
前記中間品には、前記側壁部が前記製品形状より板外側へ拡幅して形成された側壁拡幅部を備え、
前記絞り成形工程と前記圧縮成形工程との間に設けた曲げ成形工程にて、前記側壁拡幅部を曲げ加工して前記製品形状へ復元させることを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記側壁拡張部は、前記圧縮成形工程のプレス方向に対して末広がりで形成され、前記側壁拡張部と前記天板拡張部との交差角が鈍角となるように形成されていることを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記製品形状には、前記天板部が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域と、前記天板部が長手方向で略直線状に形成された直線領域とを備え、
前記湾曲領域の略全範囲に前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを有することを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記天板拡張部は、前記製品形状の前記天板部と略平行に形成され、長手方向の長さを前記湾曲領域における長手方向の両端部近傍にて前記製品形状の長さより拡大するように形成されていることを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記圧縮成形工程では、前記直線領域の前記天板部を保持した状態で、前記湾曲領域の前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させることを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【請求項6】
天板部とフランジ部とを側壁部によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で前記天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法であって、
前記側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と前記天板部の長手方向の長さが前記製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、
前記中間品における前記側壁拡張部を曲げ加工して、前記側壁拡張部の基端側を前記製品形状へ復元させる曲げ成形工程と、
前記中間品における前記側壁拡張部の先端側と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備えたことを特徴とする車両用プレス部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用プレス部品の製造方法に関し、詳しくは、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディを構成するプレス部品、特にキャビン周りに配置された補強用のプレス部品では、燃費向上と衝突時の乗員保護の観点から、軽量化と高強度化とを両立させる必要があり、鋼板の高ハイテン化が進められている。例えば、BピラーアウターR/F(リィーンフォースメント)は、フロントドアとリアドア(スライドドア)の開口部の間で、フロア部材とルーフ部材とを上下に連結するBピラーアウターを板内側から補強する部材であるので、室内空間と乗降性を確保しつつボディ側面からの衝突荷重に耐え得る強度が必要であり、より一層の高強度化が求められている。
【0003】
近年、BピラーアウターR/Fのように高強度化が必要な部品に対して、所謂、超ハイテン材(例えば、引張強さ:1180Mpa以上)の素材(鋼板)を、加熱して成形した後、熱処理加工するホットスタンプ等によって製造する方法も採用されているが、生産性が低く加工費が嵩むことから、高速化、低コスト化が可能な冷間プレスでの製造方法が検討されている。
【0004】
しかし、BピラーアウターR/Fのように、天板部とフランジ部とを側壁部によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で大きな曲率半径で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状のプレス部品では、短手方向で側壁部にスプリングバックや反り等が生じ易いと共に、長手方向で天板部にもスプリングバック(「キャンバーバック」とも言う)が生じ易い。この点、スプリングバック等の精度不良分を考慮して曲げ型等で見込み成形する製造方法が、従来から一般的に用いられてきた。ところが、特に超ハイテン材の鋼板では、スプリングバック等の量が大きく、正確な見込み量の設定が困難であること、鋼板における材料特性(例えば、降伏点応力:Yp)のバラツキによって量産時に安定した精度確保が困難であること等の問題があった。
【0005】
このスプリングバック等を低減させ得るプレス部品の製造方法(形状凍結性に優れる多段プレス成形方法)が、例えば、特許文献1に開示されている。すなわち、特許文献1には、
図15、
図16に示すように、「コの字型又はハット型の断面で、側壁101に挟まれた天井部面102を上としたときの高さ方向に湾曲した形状を有する金属製部材100を成形する方法であって、第一成形工程で、該金属製部材100の側壁101に挟まれた天井部面102内に、前記高さ方向に凸となるエンボス103を形成し、その長手方向の線長が、最終製品の長手方向における線長よりも長くなるように、設けた中間品100aを成形し、第二成形工程で、前記エンボス103が無くなるように押圧しつつ、製品形状へ成形する」プレス部品の製造方法が開示されている。このエンボス103は、中間品100aの長手方向に断続した複数の凸形状の突起からなるものでも、中間品100aの長手方向に連続した凸形状の突起からなるものでも良いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたプレス部品の製造方法によれば、「第一成形工程で、該金属製部材100の側壁101に挟まれた天井部面102内に、前記高さ方向に凸となるエンボス103を形成し、その長手方向の線長が、最終製品の長手方向における線長よりも長くなるように、設けた中間品100aを成形し、第二成形工程で、前記エンボス103が無くなるように押圧しつつ、製品形状へ成形する」方法であるので、天井部面102に対して圧縮応力を付加することができるが、側壁101に対して圧縮応力を付加することができず、短手方向で側壁101に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消させることが困難であった。
【0008】
また、天井部面102内に形成されたエンボス103が押圧されたとき、天井部面102の強度的に弱い個所が局部的に変形し易く、その場合は、天井部面102の引張応力を全体的に低減又は解消させることが困難であった。そのため、天井部面102の長手方向に生じるスプリングバック(キャンバーバック)を安定して低減又は解消させることが容易ではなかった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品において、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用プレス部品の製造方法は、次のような構成を有している。
(1)天板部とフランジ部とを側壁部によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で前記天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法であって、
前記側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と前記天板部の長手方向の長さが前記製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、
前記中間品における前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明においては、側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と天板部の長手方向の長さが製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、中間品における側壁拡張部と天板拡張部とを圧縮して、製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備えたので、絞り成形工程で側壁拡張部に生じた短手方向の引張応力と天板拡張部に生じた長手方向の引張応力とを、圧縮成形工程で付加された圧縮応力によって、それぞれ低減又は解消させることができる。そのため、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる。
【0012】
また、絞り成形工程で製造した中間品には、側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部を有するので、圧縮成形工程で側壁拡張部と天板拡張部とを圧縮するとき、側壁拡張部と天板拡張部とが交差する稜線部によって、天板拡張部の長手方向における局部的な座屈又は変形が回避され、天板拡張部における長手方向の引張応力を安定して低減又は解消させることができる。
【0013】
よって、本発明によれば、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品において、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品の製造方法を提供することができる。
【0014】
(2)(1)に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記側壁拡張部は、前記圧縮成形工程のプレス方向に対して末広がりで形成され、前記側壁拡張部と前記天板拡張部との交差角が鈍角となるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、側壁拡張部は、圧縮成形工程のプレス方向に対して末広がりで形成され、側壁拡張部と天板拡張部との交差角が鈍角となるように形成されているので、圧縮成形工程で側壁拡張部と天板拡張部とを圧縮する際、側壁拡張部の先端側が天板拡張部の短手方向中央側へ押し込まれて、天板拡張部に対する短手方向の圧縮応力を付加することができる。そのため、天板拡張部における短手方向の引張応力を低減又は解消させることができ、天板部の長手方向でのスプリングバックの低減に加えて、天板部の短手方向でのスプリングバックをも低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品の精度をより一層向上させることができる。
【0016】
(3)(1)又は(2)に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記製品形状には、前記天板部が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域と、前記天板部が長手方向で略直線状に形成された直線領域とを備え、
前記湾曲領域の略全範囲に前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明においては、製品形状には、天板部が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域と、天板部が長手方向で略直線状に形成された直線領域とを備え、湾曲領域の略全範囲に側壁拡張部と天板拡張部とを有するので、圧縮成形工程にて、湾曲領域における側壁拡張部と天板拡張部の略全範囲に対して圧縮応力を付加することができる。そのため、湾曲領域の天板部に生じる長手方向のスプリングバックをより効果的に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品の湾曲領域における曲率精度をより一層向上させことができる。
【0018】
(4)(3)に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記天板拡張部は、前記製品形状の前記天板部と略平行に形成され、長手方向の長さを前記湾曲領域における長手方向の両端部近傍にて前記製品形状の長さより拡大するように形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、天板拡張部は、製品形状の天板部と略平行に形成され、長手方向の長さを湾曲領域における長手方向の両端部近傍にて製品形状の長さより拡大するように形成されているので、圧縮成形工程にて天板拡張部を略平行に押圧しながら、天板拡張部の長手方向両端側から長手方向中央側に向けて面沿いに圧縮応力を付加することができる。そのため、天板拡張部の長手方向の引張応力を全体的に低減又は解消して、湾曲領域の天板部に生じる長手方向のスプリングバックをより均等に低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品の湾曲領域における曲率精度をより均一に向上させことができる。
【0020】
(5)(3)又は(4)に記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記圧縮成形工程では、前記直線領域の前記天板部を保持した状態で、前記湾曲領域の前記側壁拡張部と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、圧縮成形工程では、直線領域の天板部を保持した状態で、湾曲領域の側壁拡張部と天板拡張部とを圧縮して、製品形状へ復元させるので、湾曲領域の側壁拡張部と天板拡張部とに対して位置ズレなく正確に圧縮応力を付加することができる。そのため、天板部に生じる長手方向のスプリングバックをバラツキ無くより確実に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品の長手方向の曲率精度をより一層安定して向上させことができる。
【0022】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載された車両用プレス部品の製造方法において、
前記中間品には、前記側壁部が前記製品形状より板外側へ拡幅して形成された側壁拡幅部を備え、
前記絞り成形工程と前記圧縮成形工程との間に設けた曲げ成形工程にて、前記側壁拡幅部を曲げ加工して前記製品形状へ復元させることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、中間品には、側壁部が製品形状より板外側へ拡幅して形成された側壁拡幅部を備え、絞り成形工程と圧縮成形工程との間に設けた曲げ成形工程にて、側壁拡幅部を曲げ加工して製品形状へ復元させるので、側壁拡幅部に対して曲げ加工に伴う圧縮応力を付加することができる。そのため、絞り成形工程で側壁拡幅部に生じる引張応力を低減又は解消させ、側壁部の精度を向上させた上で、天板部の曲率精度を向上させることができる。その結果、車両用プレス部品のスプリングバックや反り等をより一層安定して低減又は解消させることができる。
【0024】
(7)天板部とフランジ部とを側壁部によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で前記天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法であって、
前記側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と前記天板部の長手方向の長さが前記製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、
前記中間品における前記側壁拡張部を曲げ加工して、前記側壁拡張部の基端側を前記製品形状へ復元させる曲げ成形工程と
前記中間品における前記側壁拡張部の先端側と前記天板拡張部とを圧縮して、前記製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備えたことを特徴とする。
【0025】
本発明においては、側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部と天板部の長手方向の長さが製品形状より長く形成された天板拡張部とを有する中間品を製造する絞り成形工程と、中間品における側壁拡張部を曲げ加工して、側壁拡張部の基端側を製品形状へ復元させる曲げ成形工程と、中間品における側壁拡張部の先端側と天板拡張部とを圧縮して、製品形状へ復元させる圧縮成形工程とを備えたので、絞り成形工程で側壁拡張部に生じた短手方向の引張応力を曲げ成形工程で付加された圧縮応力によって低減又は解消させた後に、絞り成形工程で側壁拡張部に生じた短手方向の引張応力と天板拡張部に生じた長手方向の引張応力とを圧縮成形工程で付加された圧縮応力によってそれぞれ低減又は解消させることができる。そのため、側壁拡張部に圧縮応力を2度付加することによって、圧縮応力を増加できるので、側壁部の精度をより一層向上しつつ、天板部の曲率精度を高めることができる。その結果、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる。
【0026】
また、絞り成形工程で製造した中間品には、側壁部の短手方向の長さが製品形状より長く形成された側壁拡張部を有するので、圧縮成形工程で側壁拡張部の先端側と天板拡張部とを圧縮するとき、側壁拡張部と天板拡張部とが交差する稜線部によって、天板拡張部の長手方向における局部的な座屈又は変形が回避され、天板拡張部における長手方向の引張応力を安定して低減又は解消させることができる。
【0027】
よって、本発明によれば、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品において、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品において、長手方向で天板部に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法によって形成する車両用プレス部品の車両側面側から見た外観図である。
【
図2】
図1に示す車両用プレス部品の車両正面側から見た外観図である。
【
図3】
図1に示す車両用プレス部品の絞り成形工程にて製造した中間品の斜視図である。
【
図7】
図3に示す中間品を絞り成形するプレス金型(絞り型)の下死点における短手方向での要部断面図である。
【
図8】
図3に示す中間品を圧縮成形するプレス金型(圧縮型)の断面図であって、側壁拡張部と天板拡張部の圧縮成形途中における短手方向での要部断面図である。
【
図9】
図3に示す中間品を圧縮成形するプレス金型(圧縮型)の断面図であって、天板拡張部の圧縮成形途中における長手方向での要部断面図である。
【
図10】
図3に示す中間品を曲げ成形するプレス金型(曲げ型)の下死点における短手方向での要部断面図である。
【
図11】
図1に示す車両用プレス部品の製造方法におけるフローチャート図である。
【
図12】
図11に示す工程におけるプレス品のCAE解析による応力分布図であって、(A)は絞り成形工程でのプレス品(中間品)の応力分布図を示し、(B)は圧縮成形工程でのプレス品の応力分布図を示す。
【
図13】
図11に示す工程におけるプレス品のCAE解析による面位置精度分布図であって、(A)は絞り成形工程でのプレス品(中間品)の面位置精度分布図を示し、(B)は圧縮成形工程でのプレス品の面位置精度分布図を示す。
【
図14】本実施形態の車両用プレス部品の製造方法における変形例の概念断面図であって、(A)は絞り成形工程での概念断面図を示し、(B)は曲げ成形工程での概念断面図を示し、(C)は圧縮成形工程での概念断面図を示す。
【
図15】特許文献1に記載されたプレス部品の製造方法(形状凍結性に優れる多段プレス成形方法)によって形成した金属製部材の外観図である。
【
図16】
図15に示す金属製部材を製造する多段プレス成形方法において、第一成形後のエンボス(長手方向で断続的に形成した例)の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法によって形成した車両用プレス部品の構成を説明する。その後、本車両用プレス部品の製造方法の具体例について説明する。また、本車両用プレス部品の製造方法によって形成したプレス品の応力分布と面位置精度のCAE解析による評価結果を説明する。また、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法の変形例を説明する。
【0031】
<車両用プレス部品の構成>
まず、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法によって形成した車両用プレス部品の構成を、
図1、
図2を用いて説明する。
図1に、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法によって形成する車両用プレス部品の車両側面側から見た外観図を示す。
図2に、
図1に示す車両用プレス部品の車両正面側から見た外観図を示す。
【0032】
図1、
図2に示すように、本車両用プレス部品10は、天板部1とフランジ部2とを側壁部3(31、32)によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で天板部1が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品10である。本車両用プレス部品10は、均一な板厚の素材(例えば、引張強さ:1180Mpaの超ハイテン材)を冷間プレス加工することによって形成されている。
【0033】
ここでは、本車両用プレス部品10は、例えば、BピラーアウターR/Fの場合で説明する。BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)は、フロントドアとリアドア(スライドドア)の開口部の間で、フロア部材とルーフ部材とを上下に連結するBピラーアウタ(図示しない)を板内側から補強する部材であるので、室内空間と乗降性を確保しつつボディ側面からの衝突荷重に耐え得る強度が必要とされている。
【0034】
そのため、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)における車両上部では、天板部1と側壁部3(31、32)とを短手方向(車両前後及び車両内外方向)で極力小さく形成しつつ、天板部1を長手方向(車両上下方向)で板外側(車両外方)へ凸となるように大きな曲率半径Rで湾曲して形成している。一方、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)における車両下部では、天板部1と側壁部3とをフロア部材との連結強度を確保しドアロック部材等を設置し得る大きさの略矩形状断面に形成し、天板部1を略直線状に形成して車両外方への突出量を低減している。したがって、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)の製品形状SKには、天板部1が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域SK1と、天板部1が長手方向で略直線状に形成された直線領域SK2とを備えている。なお、湾曲領域SK1の天板部1には、剛性を高めるために長手方向に延びるビード形状を形成しても良い。
【0035】
また、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)の上端部には、ルーフ部材(図示しない)と連結する略T字状に形成されたルーフ連結部10Rを備えている。ルーフ連結部10Rのコーナ部では、側壁部3Rが板内側へ凹となるように湾曲状に形成され、伸びフランジ成形となる。また、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)の車両下方でフロントドアロック部材を装着する箇所では、側壁部3Fが板内側へ凹となるように形成され、伸びフランジ成形となる。
【0036】
<車両用プレス部品の製造方法>
次に、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法について、
図3~
図11を用いて詳細に説明する。
図3に、
図1に示す車両用プレス部品の絞り成形工程にて成形した中間品の斜視図を示す。
図4に、
図3に示すA-A断面図を示す。
図5に、
図3に示すB-B断面図を示す。
図6に、
図3に示すC-C断面図を示す。
図7に、
図3に示す中間品を絞り成形するプレス金型(絞り型)の下死点における短手方向での要部断面図を示す。
図8に、
図3に示す中間品を圧縮成形するプレス金型(圧縮型)の断面図であって、側壁拡張部と天板拡張部の圧縮成形途中における短手方向での要部断面図を示す。
図9に、
図3に示す中間品を圧縮成形するプレス金型(圧縮型)の断面図であって、天板拡張部の圧縮成形途中における長手方向での要部断面図を示す。
図10に、
図3に示す中間品を曲げ成形するプレス金型(曲げ型)の下死点における短手方向での要部断面図を示す。
図11に、
図1に示す車両用プレス部品の製造方法におけるフローチャート図を示す。
【0037】
図3~
図11に示すように、本車両用プレス部品10の製造方法は、天板部1とフランジ部2とを側壁部3(31、32)によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で天板部1が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品10の製造方法であって、側壁部3(31、32)の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)と天板部1の長手方向の長さが製品形状SKより長く形成された天板拡張部1aとを有する中間品10aを製造する絞り成形工程S1と、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させる圧縮成形工程S3とを備えている。ここでは、
図5に示すように、中間品10aにおけるフランジ部2は、製品形状SKのフランジ部2と略同一の形状に形成されている。また、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)は、フランジ部2と連結される基端側の形状が製品形状SKの側壁部3(31、32)と略同一の形状に形成され、天板拡張部1aと連結される先端側の形状が製品形状SKの側壁部3(31、32)に対して面沿いに拡張されて形成されている。
【0038】
これによって、絞り成形工程S1で側壁拡張部3a(31a、32a)に生じた短手方向の引張応力δ1と天板拡張部1aに生じた長手方向の引張応力δ2とを、圧縮成形工程S3で付加された圧縮応力γ1、γ2によって、それぞれ低減又は解消させることができる。そのため、本車両用プレス部品10の長手方向で天板部1に生じるスプリングバックを低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部3(31、32)に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる。
【0039】
具体的には、絞り成形工程S1では、
図7に示すように、略ハット断面形状に形成された下型ポンチ51と、下型ポンチ51と対向して配置されプレス方向に上下動する上型ダイ52と、下型ポンチ51の外縁に配置され上型ダイ52の外縁部との間で素材外縁部W1を挟持して上下動する下型クッション53とを有するプレス金型50(絞り型)を備えている。また、プレス金型50(絞り型)の下型ポンチ51と上型ダイ52には、
図4、
図5に示すように、側壁部3の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)と天板部1の長手方向の長さが製品形状SKより長く形成された天板拡張部1aとを形成する成形面51S、52Sを備えている。
【0040】
したがって、本プレス金型50(絞り型)によれば、例えば、引張強さ≒1180Mpaの超ハイテン材を素材(鋼板)Wとして、上昇した下型クッション53と上型ダイ52とが素材外縁部W1を挟持して、素材Wに張力を掛けながら上型ダイ52が下降して下型ポンチ51に素材Wを押圧することによって、
図3~
図6に示す中間品10aを製造することができる。この中間品10aの側壁拡張部3a(31a、32a)には、素材Wが上型ダイ52のダイR部521、522によって短手方向で扱かれて成形されることによって、短手方向の引張応力δ1が生じる。また、中間品10aの天板拡張部1aには、素材Wが長手方向に湾曲して成形されることによって、長手方向の引張応力δ2が生じる。上記引張応力δ1、δ2によって素材Wが伸長されるが、素材Wは超ハイテン材であり降伏点応力が高いので、完全な塑性域には到達し得ない。そのため、この中間品10aの側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aには、大きなスプリングバック等が生じることになる。
【0041】
また、圧縮成形工程S3では、
図8、
図9に示すように、略ハット断面形状に形成された下型ポンチ61と、下型ポンチ61と対向して配置されプレス方向に上下動する上型ダイ62と、下型ポンチ61に載置された中間品10aの天板部1を押圧して保持する上型パッド63とを有するプレス金型60(圧縮型)を備えている。また、下型ポンチ61と上型ダイ62には、
図1、
図2、
図4、
図5に示す車両用プレス部品10の側壁部3(31、32)及び天板部1と略同一の形状に形成された成形面61S、62Sを備えている。
【0042】
したがって、本プレス金型60(圧縮型)によれば、
図8、
図9に示すように、上型パッド63と下型ポンチ61とが中間品10aの天板部1を保持して、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを、上型ダイ62と下型ポンチ61とが圧縮して、製品形状SKへ復元させる際、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとに対して圧縮応力γ1、γ2を付加することができる。この圧縮応力γ1、γ2によって、中間品10aの側壁拡張部3a(31a、32a)に生じた短手方向の引張応力δ1と天板拡張部1aに生じた長手方向の引張応力δ2とを、それぞれ低減又は解消させることができる。そのため、長手方向で天板部1に生じるスプリングバックを低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部3に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる。
【0043】
また、
図5に示すように、絞り成形工程S1で製造した中間品10aには、側壁部3(31、32)の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)を有するので、
図8、
図9に示すように、圧縮成形工程S3で側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮するとき、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとが交差する位置で長手方向に延びる稜線部4aによって、天板拡張部1aの長手方向における局部的な座屈又は変形が回避され、天板拡張部1aにおける長手方向の引張応力δ2を安定して低減又は解消させることができる。
【0044】
よって、本車両用プレス部品10の製造方法によれば、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部1が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品10において、長手方向で天板部1に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部3(31、32)に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品10の製造方法を提供することができる。
【0045】
また、
図5、
図8に示すように、側壁拡張部3a(31a、32a)は、圧縮成形工程S3のプレス方向に対して末広がりで形成され、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとの交差角θ(θ1、θ2)が鈍角となるように形成されていることが好ましい。ここでは、一方(車両前側)の側壁拡張部31aは、プレス金型60(圧縮型)のプレス方向に対して開き角α1で傾斜して形成され、他方(車両後側)の側壁拡張部32aは、同プレス方向に対して開き角α2(<α1)で傾斜して形成されている。また、天板拡張部1aは、圧縮成形工程S3のプレス方向に対して面直状に形成されている。
【0046】
したがって、圧縮成形工程S3で側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮する際、側壁拡張部3a(31a、32a)の先端側3A1が湾曲しながら天板拡張部1aの短手方向中央側1Aへ押し込まれて、天板拡張部1aに対して短手方向の圧縮応力γ3を付加することができる。そのため、天板拡張部1aにおける短手方向の引張応力δ3を低減又は解消させることができ、天板部1の長手方向でのスプリングバックの低減に加えて、天板部1の短手方向でのスプリングバックをも低減又は解消させることができる。
【0047】
また、上記の場合には、圧縮成形工程S3で側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮する際、側壁拡張部3a(31a、32a)の基端側3A2は、それぞれ略S字状に湾曲されてから下型ポンチ61と上型ダイ62との間で狭圧されて短手方向で圧縮されるので、側壁拡張部3a(31a、32a)に対して短手方向の圧縮応力γ1をより一層多く付加させることができる。そのため、側壁拡張部3a(31a、32a)における短手方向の引張応力δ1をより一層低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品10の精度をより一層向上させることができる。
【0048】
また、
図1、
図2に示すように、車両用プレス部品10の製品形状SKには、天板部1が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域SK1と、天板部1が長手方向で略直線状に形成された直線領域SK2とを備え、
図3~
図5に示すように、湾曲領域SK1の略全範囲に側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを有することが好ましい。この場合、
図8、
図9に示すように、圧縮成形工程S3にて、プレス金型60(圧縮型)の下型ポンチ61と上型ダイ62とが湾曲領域SK1における側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aの略全範囲に対して圧縮応力γ1、γ2、γ3を付加することができる。そのため、湾曲領域SK2の天板部1に生じる長手方向のスプリングバック(キャンバーバック)をより効果的に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品10の湾曲領域SK2における曲率精度をより一層向上させことができる。
【0049】
また、
図3~
図5に示すように、湾曲領域SK1の略全範囲に側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを形成した場合において、天板拡張部1aは、製品形状SKの天板部1と略平行に形成され、長手方向の長さを湾曲領域SK1における長手方向の両端部11a、12a近傍にて製品形状SKの長さより拡大するように形成されていることが好ましい。ここでは、
図4、
図5に示すように、天板拡張部1aは、製品形状SKの天板部1と長手方向と短手方向において略平行に形成されている。また、
図4に示すように、天板拡張部1aは、湾曲領域SK1と直線領域SK2との境界部近傍の所定範囲(P1~P2)と、湾曲領域SK1とルーフ連結部10Rとの境界部近傍の所定範囲(P3~P4)において、製品形状SKの長さに対して、長手方向の両端部11a、12a近傍での拡大分(L1-L2、L3-L4)だけ長く形成されている。また、天板拡張部1aは、上記両端部11a、12a近傍以外の範囲(P2~P3)では、製品形状SKより所定の距離d1だけ車両外方へ平行移動した形状に形成されている。
【0050】
したがって、
図9に示すように、圧縮成形工程S3にて、プレス金型60(圧縮型)の下型ポンチ61と上型ダイ62とが天板拡張部1aを略平行に押圧しながら、天板拡張部1aの長手方向両端側から長手方向中央側1Bに向けて面沿いに圧縮応力γ2を付加することができる。そのため、天板拡張部1aの長手方向の引張応力δ2を全体的に低減又は解消して、湾曲領域SK1の天板部1に生じる長手方向のスプリングバック(キャンバーバック)をより均等に低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品10の湾曲領域SK1における曲率精度をより均一に向上させことができる。
【0051】
また、
図9に示すように、圧縮成形工程S3では、プレス金型60(圧縮型)の上型パッド63が直線領域SK2の天板部1を下型ポンチ61に押圧することによって、直線領域SK2の天板部1を保持した状態で、湾曲領域SK1の側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させることが好ましい。この場合、湾曲領域SK1の側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとに対して位置ズレなく正確に圧縮応力γ1、γ2、γ3を付加することができる。そのため、天板部1に生じる長手方向のスプリングバック(キャンバーバック)をバラツキ無くより確実に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品10の長手方向の曲率精度をより一層安定して向上させことができる。
【0052】
また、
図3、
図6、
図10、
図11に示すように、中間品10aには、側壁部3(31、32)が製品形状SKより板外側へ拡幅して形成された側壁拡幅部3b(31b、32b)を備え、絞り成形工程S1と圧縮成形工程S3との間に設けた曲げ成形工程S2にて、側壁拡幅部3b(31b、32b)を曲げ加工して製品形状SKへ復元させることが好ましい。ここでは、
図6に示すように、中間品10aにおける天板部1は、製品形状SKの天板部1と略同一の形状に形成されている。また、中間品10aにおけるフランジ部2は、製品形状SKのフランジ部2と略同一の形状で、互いの離間距離が拡張するように形成されている。そして、側壁拡幅部3b(31b、32b)は、天板部1とフランジ部2との間で、天板部1と連結する先端側から徐々に拡幅量が増加し、中央部での拡幅量が最大化するように湾曲状に形成されている。
【0053】
また、曲げ成形工程S2では、
図10に示すように、略ハット断面形状に形成された下型ポンチ71と、下型ポンチ71と対向して配置されプレス方向に上下動する上型ダイ72と、下型ポンチ71に載置された中間品10aの天板部1aを押圧して保持する上型パッド73とを有するプレス金型70(曲げ型)を備えている。また、下型ポンチ71と上型ダイ72には、
図1、
図2、
図6に示す車両用プレス部品10の製品形状SKの側壁部3(31、32)と略同一の形状に形成された成形面71S、72Sを備えている。
【0054】
したがって、本プレス金型70(曲げ型)によれば、
図10に示すように、上型パッド73と下型ポンチ71とが中間品10aの天板部1を保持した状態で、上型ダイ72が下降して側壁拡幅部3b(31b、32b)を曲げ加工することよって、側壁拡幅部3b(31b、32b)に対して曲げ加工に伴う圧縮応力γ4を付加することができる。そのため、絞り成形工程S1で側壁拡幅部3b(31b、32b)に生じる引張応力δ4を低減又は解消させ、側壁部3(31、32)の精度を向上させることができる。その結果、車両用プレス部品10のスプリングバックや反り等をより一層安定して低減又は解消させることができる。
【0055】
なお、側壁拡幅部3b(31b、32b)は、側壁部3が板内側へ凹となるように形成され、伸びフランジ成形となる箇所に設けることが好ましい。例えば、
図1、
図3に示すように、BピラーアウターR/F(車両用プレス部品10)の場合、車両下方でフロントドアロック部材を装着するため、側壁部3Fが板内側へ凹となるように湾曲状に形成され伸びフランジ成形となる箇所や、ルーフ連結部10Rのコーナ部で側壁部3Rが板内側へ凹となるように湾曲状に形成され伸びフランジ成形となる箇所等に、側壁拡幅部3b(31b、32b)を設けることが好ましい。
【0056】
また、本車両用プレス部品の製造方法には、
図11に示すように、圧縮成形工程S3の後に、外形抜又は外形穴抜工程S4を備えている。外形抜又は外形穴抜工程S4は、最終的に本車両用プレス部品を製品形状SKに形成する工程であるが、従来の外形抜又は外形穴抜工程と同一であるので、詳細な説明は割愛する。なお、外形抜又は外形穴抜工程S4における穴抜き方法は、プレス方向に穴抜きする方法とプレス方向に対して所定の傾斜方向でカム機構を用いてカム穴抜きする方法とが含まれる。また、カム穴抜きする場合には、外形抜又は外形穴抜工程S4を2つの工程に分割する場合がある。
【0057】
<プレス品の応力分布と面位置精度>
次に、本車両用プレス部品の製造方法によって形成したプレス品の応力分布と面位置精度のCAE解析による評価結果を、
図12、
図13を用いて説明する。
図12に、
図11に示す工程におけるプレス品のCAE解析による応力分布図であって、(A)は絞り成形工程でのプレス品(中間品)の応力分布図を示し、(B)は圧縮成形工程でのプレス品の応力分布図を示す。
図13に、
図11に示す工程におけるプレス品のCAE解析による面位置精度分布図であって、(A)は絞り成形工程でのプレス品(中間品)の面位置精度分布図を示し、(B)は圧縮成形工程でのプレス品の面位置精度分布図を示す。ここで、CAE解析の対象は、引張強さ≒1180Mpaの超ハイテン材を素材としてプレス成形した車両用プレス部品10(BピラーアウターR/F)である。なお、応力は、ドットの密度でその分布を表し、ドット密度が高い(+)側が引張応力で、ドット密度が低い(-)側が圧縮応力である。応力の単位は、kg/mm
2である。また、面位置精度は、製品形状SKに対するプレス品の変位量を表し、(+)が板外側への変位を示し、(-)が板内側への変位を示す。面位置精度の単位は、ミリメートル(mm)である。
【0058】
(プレス品の応力分布)
図12(A)に示すように、絞り成形工程S1でのプレス品(中間品10a)では、湾曲領域SK1の天板拡張部1aにおいて、引張応力の高い領域X1が長手方向で広範囲に発生している。この引張応力の高い領域X1は、湾曲領域SK1の側壁拡張部3a(31a、32a)にも分布している。これに対して、直線領域SK2の天板部1においては、引張応力と圧縮応力とが分散して発生し、集中的に引張応力が高い領域は存在しない。一方、直線領域SK2の伸びフランジ成形となる側壁拡幅部3b(31b、32b)においては、引張応力が高い領域X2が存在する。
【0059】
また、
図12(B)に示すように、圧縮成形工程S3でのプレス品では、湾曲領域SK1の天板拡張部1aにおいて、圧縮応力の高い領域Y1が長手方向で広範囲に発生している。この圧縮応力の高い領域Y1は、湾曲領域SK1の側壁拡張部3a(31a、32a)にも分布している。これに対して、直線領域SK2の天板部1においては、引張応力と圧縮応力とが分散して発生し、集中的に引張応力が高い領域は存在しない。これは、絞り成形工程S1でのプレス品(中間品)と略同様である。一方、直線領域SK2の伸びフランジ成形となる側壁拡幅部3b(31b、32b)においては、引張応力が高い領域X2が縮小されている。
【0060】
(プレス品の面位置精度分布)
図13(A)に示すように、絞り成形工程S1でのプレス品(中間品10a)では、湾曲領域SK1の天板拡張部1aにおいて、車両下方の面位置は正寸より僅かに低いが、車両上方へ行くに従って面位置が大幅に高くなる。したがって、湾曲領域SK1の天板拡張部1aにおいては、長手方向のスプリングバック(キャンバーバック)量が相当大きいことが分かる。これに対して、
図13(B)に示すように、圧縮成形工程S3でのプレス品では、湾曲領域SK1の天板拡張部1aにおいて、車両上方で正寸より低くなっており、長手方向のスプリングバック量が大幅に低減できたと評価できる。また、
図13(A)に示すように、絞り成形工程S1でのプレス品(中間品10a)では、直線領域SK2の短手方向のフランジ先端部の面位置が、大きく上昇しているのに対して、
図13(B)に示すように、圧縮成形工程S3でのプレス品では、直線領域SK2の短手方向のフランジ先端部の面位置が、正寸に近くなっている。
【0061】
以上のCAE解析結果から、圧縮成形工程S3にて上型ダイ62と下型ポンチ61とが、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させる際、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとに対して圧縮応力γ1、γ2を付加することができ、この圧縮応力γ1、γ2によって、中間品10aの側壁拡張部3a(31a、32a)に生じた短手方向の引張応力δ1と天板拡張部1aに生じた長手方向の引張応力δ2とを、それぞれ低減又は解消させることができ、その結果として、湾曲領域SK1の天板部1においては、長手方向のスプリングバック(キャンバーバック)を大幅に改善できたものと推定できる。また、直線領域SK2の伸びフランジ成形となる側壁拡幅部3b(31b、32b)においては、引張応力が高い領域X2が、曲げ成形工程S2にて付加された圧縮応力γ4によって縮小でき、側壁部3(31、32)の短手方向でのスプリングバックを相当程度改善できたものと推定できる。
【0062】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る車両用プレス部品の製造方法によれば、側壁部3(31、32)の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)と天板部1の長手方向の長さが製品形状SKより長く形成された天板拡張部1aとを有する中間品10aを製造する絞り成形工程S1と、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させる圧縮成形工程S3とを備えたので、絞り成形工程S1で側壁拡張部3a(31a、32a)に生じた短手方向の引張応力δ1と天板拡張部1aに生じた長手方向の引張応力δ2とを、圧縮成形工程S3で付加された圧縮応力γ1、γ2によって、それぞれ低減又は解消させることができる。そのため、長手方向で天板部1に生じるスプリングバック(キャンバーバック)を低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部3に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる。
【0063】
また、絞り成形工程S1で製造した中間品10aには、側壁部3(31、32)の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)を有するので、圧縮成形工程S3で側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮するとき、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとが交差する稜線部4aによって、天板拡張部1aの長手方向における局部的な座屈又は変形が回避され、天板拡張部1aにおける長手方向の引張応力δ2を安定して低減又は解消させることができる。
【0064】
よって、本実施形態によれば、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部1が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品10において、長手方向で天板部1に生じるスプリングバックを安定して低減又は解消させると共に、短手方向で側壁部3(31、32)に生じるスプリングバックや反りを低減又は解消できる車両用プレス部品10の製造方法を提供することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、側壁拡張部3a(31a、32a)は、圧縮成形工程S3のプレス方向に対して末広がりで形成され、側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとの交差角θ(θ1、θ2)が鈍角となるように形成されているので、圧縮成形工程S3で側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮する際、側壁拡張部3a(31a、32a)の先端側3A1が天板拡張部1aの短手方向中央側1Aへ押し込まれて、天板拡張部1aに対する短手方向の圧縮応力γ3を付加することができる。そのため、天板拡張部1aにおける短手方向の引張応力δ3を低減又は解消させることができ、天板部1の長手方向でのスプリングバック(キャンバーバック)の低減に加えて、天板部1の短手方向でのスプリングバックをも低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品10の精度をより一層向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、製品形状SKには、天板部1が長手方向で板外側へ凸となるように湾曲状に形成された湾曲領域SK1と、天板部1が長手方向で略直線状に形成された直線領域SK2とを備え、湾曲領域SK1の略全範囲に側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを有するので、圧縮成形工程S3にて、湾曲領域SK1における側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aの略全範囲に対して圧縮応力γ1、γ2、γ3を付加することができる。そのため、湾曲領域SK1の天板部1に生じる長手方向のスプリングバックをより効果的に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品10の湾曲領域SK2における曲率精度をより一層向上させことができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、天板拡張部1aは、製品形状SKの天板部1と略平行に形成され、長手方向の長さを湾曲領域SK1における長手方向の両端部11a、12a近傍にて製品形状SKの長さより拡大するように形成されているので、圧縮成形工程S3にて天板拡張部1aを略平行に押圧しながら、天板拡張部1aの長手方向両端側から長手方向中央側に向けて面沿いに圧縮応力γ2を付加することができる。そのため、天板拡張部1aの長手方向の引張応力δ2を全体的に低減又は解消して、湾曲領域SK2の天板部1に生じる長手方向のスプリングバックをより均等に低減又は解消させることができる。その結果、車両用プレス部品10の湾曲領域SK2における曲率精度をより均一に向上させことができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、圧縮成形工程S3では、直線領域SK1の天板部1を保持した状態で、湾曲領域SK2の側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させるので、湾曲領域SK2の側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとに対して位置ズレなく正確に圧縮応力γ1、γ2、γ3を付加することができる。そのため、天板部1に生じる長手方向のスプリングバックをバラツキ無くより確実に低減又は解消させることができ、車両用プレス部品10の長手方向の曲率精度をより一層安定して向上させことができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、中間品1aには、側壁部3が製品形状SKより板外側へ拡幅して形成された側壁拡幅部3b(31b、32b)を備え、絞り成形工程S1と圧縮成形工程S3との間に設けた曲げ成形工程S2にて、側壁拡幅部3b(31b、32b)を曲げ加工して製品形状SKへ復元させるので、側壁拡幅部3b(31b、32b)に対して曲げ加工に伴う圧縮応力γ4を付加することができる。そのため、絞り成形工程S1で側壁拡幅部3b(31b、32b)に生じる引張応力δ4を低減又は解消させ、側壁部3の精度を向上させた上で、天板部1の曲率精度を向上させることができる。その結果、車両用プレス部品10のスプリングバックや反り等をより一層安定して低減又は解消させることができる。
【0070】
<変形例>
上述した実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜変更することができる。例えば、本実施形態によれば、本車両用プレス部品10の製造方法は、天板部1とフランジ部2とを側壁部3(31、32)によって連結する略ハット断面形状を有し長手方向で天板部1が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品10の製造方法であって、側壁部3(31、32)の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成された側壁拡張部3a(31a、32a)と天板部1の長手方向の長さが製品形状SKより長く形成された天板拡張部1aとを有する中間品10aを製造する絞り成形工程S1と、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)と天板拡張部1aとを圧縮して、製品形状SKへ復元させる圧縮成形工程S3とを備えている。また、
図5に示すように、中間品10aにおけるフランジ部2は、製品形状SKのフランジ部2と略同一の形状に形成されている。また、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)は、フランジ部2と連結される基端側の形状が製品形状SKの側壁部3(31、32)と略同一の形状に形成され、天板拡張部1aと連結される先端側の形状が製品形状SKの側壁部3(31、32)に対して面沿いに拡張されて形成されている。しかし、中間品10aにおける側壁拡張部3a(31a、32a)は、必ずしも上記形状に限らなくても良い。
【0071】
例えば、
図14(A)に示すように、絞り成形工程S1にて、側壁部3の短手方向の長さが製品形状SKより長く形成され板外側へ拡幅された側壁拡張部3cと、天板部1の長手方向の長さが製品形状SKより長く形成された天板拡張部1cとを有する中間品10cを製造し、
図14(B)に示すように、曲げ成形工程S2にて、側壁拡張部3cを曲げ加工して側壁拡張部3cの基端側3A2を製品形状SKへ復元させ、
図14(C)に示すように、圧縮成形工程S3にて、側壁拡張部3cの先端側3A1と天板拡張部1cとを圧縮して、製品形状SKへ復元させる車両用プレス部品の製造方法でも良い。上記製造方法によれば、側壁拡張部3cに付加する圧縮応力を増加できるので、側壁部3の精度を更に向上しつつ、天板部1の曲率精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、略ハット断面形状を有し長手方向で天板部が板外側へ凸となるように湾曲する長尺状の車両用プレス部品の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 天板部
1a 天板拡張部
2 フランジ部
3 側壁部
3a 側壁拡張部
3b 側壁拡幅部
3A1 先端側
3A2 基端側
10 車両用プレス部品
10a 中間品
11a、12a 端部
31a、32a 側壁拡張部
31b、32b 側壁拡幅部
S1 絞り成形工程
S2 曲げ成形工程
S3 圧縮成形工程
SK 製品形状
SK1 湾曲領域
SK2 直線領域
θ、θ1、θ2 交差角