(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】スクリュー圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20241216BHJP
F04C 18/16 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
F04C29/02 321B
F04C29/02 361Z
F04C18/16 A
(21)【出願番号】P 2021092296
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 修平
(72)【発明者】
【氏名】頼金 茂幸
(72)【発明者】
【氏名】森田 謙次
(72)【発明者】
【氏名】梶江 雄太
(72)【発明者】
【氏名】千葉 紘太郎
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/000815(WO,A1)
【文献】特開2002-021758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/02
F04C 18/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、
前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、
動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、
前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、
前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記
回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、
前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、
前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路と
を備えることを特徴とするスクリュー圧縮機。
【請求項2】
前記軸封部材は、前記ケーシングに設けられた第1の空間内に配設され、
前記第1の軸受は、前記ケーシングに設けられた第2の空間内に配設され、
前記動力源の前記回転軸に一端側が連結された前記スクリューロータにおける歯が形成された歯形部は、前記ケーシングに設けられた第3の空間内に収納され、
前記第1及び第2の空間は、前記隔壁により隔離され、
前記第1の空間がバイパス連通路を介して前記第3の空間と連通され、
前記第1の空間に供給された前記潤滑液が前記バイパス
連通路を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項3】
前記第1の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項4】
前記第2の空間及び前記第3の空間を連通する連通空間を備え、
前記第1の軸受に給液された前記潤滑液が前記連通空間を介して前記第3の空間に排出される
ことを特徴とする請求項2に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項5】
前記第1及び第2のスクリューロータが水平となるように設置したときに、前記連通空間の最下端部が前記第1の軸受の外輪内径の下端位置よりも低くなるように前記連通空間が形成された
ことを特徴とする請求項4に記載のスクリュー圧縮機。
【請求項6】
前記第1のスクリューロータにおける前記動力源の前記回転軸が連結された前記一端側と同じ前記第2のスクリューロータの一端側を回転自在に支持する第2の軸受と、
前記ケーシングに設けられ、前記第2の軸受に前記潤滑液を給液するための第3の給液口とを備え、
前記第3の給液口は、
前記スクリューロータ側から前記第1の軸受に前記潤滑液を給液するよう前記ケーシングに形成された
ことを特徴とする請求項1に記載のスクリュー圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスクリュー圧縮機に関し、給液機構を備えるスクリュー圧縮機に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スクリュー圧縮機として、特許文献1に開示された油冷式のスクリュー圧縮機が開示されている。このスクリュー圧縮機は、吸込軸受及びメカニカルシールが格納されている空間に潤滑油が供給される給油穴を有し、スクリューロータと吸込側軸受の間の隔壁には第一の回収穴が形成され、さらに第一の回収穴をバイパスして第二の回収穴が形成され、これら第一及び第二の回収穴も圧縮空気吸込通路に開口した構造を有するものである。
【0003】
このような構造により、かかる特許文献1に開示されたスクリュー圧縮機においては、潤滑油の一部が第二の回収穴を介して回収されることとなり、吸込側軸受を通過する潤滑油の慮を潤滑に必要な最小限に抑えられ、吸込側軸受の攪拌ロスを低減させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、かかる特許文献1に開示されたスクリュー圧縮機では、吸込側軸受及びメカニカルシールが格納されている空間に溜まった潤滑油の一部が吸込側軸受を通過して第一の回収穴に回収される過程を通じて軸受の潤滑がなされる。
【0006】
このため、原理的に吸込側軸受は空間に溜まった潤滑油を攪拌すると共に吸込側軸受を通過する潤滑油を攪拌する構造となっていることから、特に空間に溜まった潤滑油を攪拌することによって発生する攪拌ロスが大きく、圧縮機としての性能低下の要因となっている問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、圧縮機としての性能低下を有効に防止し得る、信頼性が高く高効率なスクリュー圧縮機を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明においては、作動媒体を圧縮するスクリュー圧縮機において、前記作動媒体を吸い込み、圧縮して吐出する第1及び第2のスクリューロータと、動力源の回転軸に一端側が連結された前記第1のスクリューロータの当該一端側を回転自在に支持する第1の軸受と、前記第1のスクリューロータ及び前記第1の軸受が収納されたケーシングと、前記ケーシング内部における前記第1の軸受に対して前記第1のスクリューロータの歯形部の反対側に配置され、前記動力源の前記回転軸と連結された前記第1のスクリューロータの軸部が挿通する前記ケーシングの貫通孔をシールする軸封部材と、前記ケーシング内部において前記第1の軸受及び前記軸封部材間を隔離する隔壁と、前記ケーシングに設けられ、前記第1の軸受に潤滑液を給液するための第1の給液口、及び、前記軸封部材に前記潤滑液を供給するための第2の給液口を有する給液経路とを設けるようにした。
【0009】
この結果、軸封部材及び第1の軸受に対してそれぞれの適量の潤滑液を独立して供給することができる。これにより、第1の軸受に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の軸受での潤滑液の攪拌損失を抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信頼性が高く、高効率なスクリュー圧縮機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の構成を示す水平方向断面図である。
【
図2】第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の構成を示す垂直方向断面図である。
【
図3】第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の給液経路の構成を示す垂直方向断面図である。
【
図4】第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雌ロータ側の構成を示す垂直方向断面図である。
【
図5】第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機に注入される潤滑液の外部経路の説明に供する概念図である。
【
図6】第2の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の構成を示す垂直方向断面図である。
【
図7】第3の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の構成を示す垂直方向断面図である。
【
図8】第4の実施の形態によるスクリュー圧縮機における雄ロータ側の構成を示す垂直方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0013】
(1)第1の実施の形態
図1及び
図2は、第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機1を示す。
図1は
図2におけるC-C矢視図(水平断面図)であり、
図2は
図1におけるA-A矢視図(垂直断面図)である。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態のスクリュー圧縮機1は、一対のスクリューロータである雄ロータ2及び雌ロータ3と、雄ロータ2及び雌ロータ3を収納するケーシング4とを備えて構成される。
【0015】
雄ロータ2は、螺旋状に延在する複数の歯(ローブ)が形成された歯形部2Aと、歯形部2Aのロータ軸方向の一端側(
図1及び
図2の左側であり、以下、同じ。)に形成された吸込側軸部2Bと、歯形部2Aのロータ軸方向の他端側(
図1及び
図2の右側であり、以下、同じ。)に形成された吐出側軸部2Cとを備えて構成される。雄ロータ2の吸込側軸部2Bは吸込側軸受(以下、これを第1の吸込側軸受と呼ぶ)5により回転自在に支持され、雄ロータ2の吐出側軸部2Cは吐出側軸受(以下、これを第1の吐出側軸受と呼ぶ)6により回転自在に支持されている。
【0016】
同様に、雌ロータ3は、雄ロータ2の歯と噛み合う複数の歯が形成された歯形部3Aと、歯形部3Aのロータ軸方向の一端側に形成された吸込側軸部3Bと、歯形部3Aのロータ軸方向の他端側に形成された吐出側軸部3Cとを備えて構成される。雌ロータ3の吸込側軸部3Bは吸込側軸受(以下、これを第2の吸込側軸受と呼ぶ)7により回転自在に支持され、雌ロータ3の吐出側軸部3Cは吐出側軸受(以下、これを第2の吐出側軸受と呼ぶ)8により回転自在に支持されている。
【0017】
雄ロータ2の吸込側軸部2Bは、ケーシング4を貫通して図示しないモータの回転軸に連結されている。これによりモータを駆動させることによって雄ロータ2をモータの回転軸と一体に回転駆動させることができ、これに伴って雌ロータ3も雄ロータ2と一体に回転駆動させることができるようになされている。
【0018】
ケーシング4は、メインケーシング4Aと、メインケーシング4Aのロータ軸方向の他端側に連結された吐出側ケーシング4Bと、メインケーシング4Aのロータ軸方向の一端側に吸込側隔壁4Cを介して連結された吸込側ケーシング4Dとから構成される。
【0019】
吐出側ケーシング4Bには、互いに独立して設けられた第1の吐出側軸受収容空間9A及び第2の吐出側軸受収容空間9Bが設けられており、第1の吐出側軸受収容空間9A内に第1の吐出側軸受6が収容され、第2の吐出側軸受収容空間9B内に第2の吐出側軸受8が収容されている。また吐出側ケーシング4Bには、雄ロータ2や雌ロータ3の歯形部2A,3Aよりもロータ径方向の外側(
図2の下側)に位置する吐出口10と、吐出口10及び後述のボア12間を接続する吐出経路11とが形成される。
【0020】
メインケーシング4Aには、雄ロータ2の歯形部2A及び雌ロータ3の歯形部3Aを収納するボア12が形成される。ボア12は、雄ロータ2の歯形部2A及び雌ロータ3の歯形部3Aを歯が噛み合った状態で収納するための、2つの円筒状の穴が部分的に重なった形状を有する空間である。
【0021】
ボア12の内壁面と、雄ロータ2の歯溝及び雌ロータ3の歯溝とにより作動室が形成される。作動室は、ロータ軸方向の一端側から他端側に行くに従って容積が徐々に減少するよう形成される。これにより吸込口13から吸い込まれた空気等の作動媒体が作動室において徐々に圧縮されて吐出経路11を介して吐出口10から吐出される。
【0022】
吸込口13は、メインケーシング4Aにおける雄ロータ2の歯形部2A及び雌ロータ3の歯形部3Aよりもロータ径方向の外側(
図2の上側)に形成される。吸込口13は、吸込空間14を介して作動室と連通しており、吸込口13から吸い込まれた作動媒体が吸込空間14を経由して作動室に供給される。
【0023】
メインケーシング4Aのロータ軸方向の一端側の端面には、円筒状の第1の吸込側軸受収容空間15と、円筒状の第2の吸込側軸受収容空間16とが形成されている。そして第1の吸込側軸受収容空間15内に第1の吸込側軸受5が嵌め込まれるように収容され、第2の吸込側軸受収容空間16内に第2の吸込側軸受7が嵌め込まれるように収容されている。
【0024】
またメインケーシング4Aには、第1の吸込側軸受収容空間15よりも僅かに径が小さく、第1の吸込側軸受収容空間15及び吸込空間14間を連通する第1の軸受連通空間17と、第2の吸込側軸受収容空間16よりも僅かに径が小さく、第2の吸込側軸受収容空間16及び吸込空間14間を連通する第2の軸受連通空間18とが形成されている。
【0025】
さらにメインケーシング4Aのロータ軸方向の一端側の端面には吸込側隔壁4Cが固定され、この吸込側隔壁4Cのロータ軸方向の端部に吸込側ケーシング4Dが固定されている。そして吸込側ケーシング4Dには、雄ロータ2の吸込側軸部2Bが挿通する貫通孔19と連通する軸封空間20が吸込側隔壁4Cとの対向面に形成されており、この軸封空間20内に貫通孔19を封止する軸封部材21が配設されている。
【0026】
加えて、本スクリュー圧縮機1のケーシング4には、ボア12内の作動室と連通する第1の作動室給液口22が設けられており、この第1の作動室給液口22を介して作動室内に液体を注入し得るようになされている。またケーシング4の吸込口13側には第1の吸込側給液口23が設けられると共に、ケーシング4の吐出口10側には第1の吐出側給液口24が設けられており、第1の吸込側給液口23を介して軸封空間20内及び第1の吸込側軸受収容空間15内にそれぞれ液体を注入することができ、第1の吐出側給液口24を介して第1の吐出側軸受収容空間9A内に液体を注入することができるようになされている。
【0027】
このような作動室や、軸封空間20、第1の吸込側軸受収容空間15及び第1の吐出側軸受収容空間9Aへの液体の注入は、機構部品及び圧縮空気の冷却や、第1の吸込側軸受5及び第1の吐出側軸受6の潤滑、並びに、軸封部材21によるシール性の向上を目的としており、このとき注入される液体としては油や水が適用される。以下においては、この液体を潤滑液と呼ぶものとする。
【0028】
第1の吸込側給液口23に注入された潤滑液は、ケーシング4の内部を通って第1の給液口25を介して軸封空間20内に放出されると共に、第2の給液口26を介して第1の吸込側軸受収容空間15内に放出される。
【0029】
図3は、第1の吸込側軸受5及び軸封部材21に供給される潤滑液のケーシング4内部での流通経路を示す。図中の矢印は、潤滑液の給液方向を示している。この
図3に示すように、ケーシング4内部には、第1の吸込側給液口23と、第1及び第2の給液口25,26とを連通する第1の給液経路27が設けられている。また第1の給液経路27は、途中で第1及び第2の分岐路27A,27Bに分岐し、第1の分岐路27Aが第1の給液口25と連通し、第2の分岐路27Bが第2の給液口26と連通するよう形成されている。
【0030】
この場合、第1の給液口25は、軸封空間20内に配置された軸封部材21に向かって開口しており、これにより第1の吸込側給液口23からケーシング4内に注入されて第1の分岐路27Aに流れ込んだ潤滑液が第1の給液口25から放出されて軸封部材21に供給される。また軸封空間20は、バイパス連通路28を介して吸込空間14と連通しており、これにより軸封空間20に注入された潤滑液はバイパス連通路28を介して吸込空間14に排出される。
【0031】
一方、第2の給液口26は、第1の吸込側軸受収容空間15内に収容された第1の吸込側軸受5に向けて開口しており、これにより第1の吸込側給液口23からケーシング4内に注入されて第2の分岐路27Bに流れ込んだ潤滑液が第2の給液口26から放出されて雄ロータ2側から第1の吸込側軸受5に供給される。
【0032】
この場合、第1の吸込側軸受5は、メインケーシング4Aの第1の軸受連通空間17を介して部分的に吸込空間14に露出しているため、第2の給液口26から第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液は第1の軸受連通空間17を介して吸込空間14へと流出する。この潤滑液は、この後、バイパス連通路28を介して吸込空間14に流入してきた潤滑液と合流し、吸込口13から吸込空間14に流入してきた作動媒体と共に作動室へと搬送される。
【0033】
ここで、第1の吸込側軸受5における潤滑液の攪拌損失について考える。本実施の形態においては、第1の吸込側軸受5としてころ軸受を想定しているが、これに限定されるものではなく、第1の吸込側軸受5が玉軸受などの他の転がり軸受であってもよい。
【0034】
一般的に、転がり軸受が潤滑液中で回転する場合、その転がり軸受内の転動体は、潤滑液を押しのけながら転動するため流体抵抗を受ける。また本実施の形態においては、第1の吸込側軸受5に供給される潤滑液が常に交換される構造となっているため、かかる転動体は新規に流入した潤滑液を加速させる仕事を行う必要がある。これらを合わせたものが攪拌損失となる。
【0035】
本実施の形態においては、
図3からも明らかなように、第1の吸込側軸受5が配置されている箇所が吸込空間14の最下端部よりも高い位置にあり、潤滑液が溜まり難い構造となっている。また
図3のように本スクリュー圧縮機1を雄ロータ2及び雌ロータ3が水平となるように設置したときに、第1の軸受連通空間17の最下端部が第1の吸込側軸受5の外輪内径の最下端部の高さ位置よりも低くなるよう第1の軸受連通空間17が形成されているため、第1の吸込側軸受5の転動体軌道部内の潤滑液を吸込空間14に排出し易い構造となっている。
【0036】
さらに、例えば第2の給液口26を吸込側隔壁4C側に形成した場合、この第2の給液口26を介して第1の吸込側軸受5に供給した潤滑液が吸込空間14側に流出するためには、この潤滑液が回転運動する第1の吸込側軸受5の転動体軌道部内を通過する必要があるため、その分攪拌損失が大きくなる。これに対して、本実施の形態においては、第1の吸込側軸受5に対して雄ロータ2側から潤滑液を給液し得るように第2の給液口26が形成されているため、第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液のすべてが、回転運動する第1の吸込側軸受5の転動体軌道部を通過する必要がない。よって、本スクリュー圧縮機1は、第1の吸込側軸受5の転動体軌道部における潤滑液の攪拌損失が小さい構造であるということができる。
【0037】
次に、軸封部材21及び第1の吸込側軸受5への潤滑液の給液量について説明する。上述した特許文献1にも記載されているように、一般的に第1の吸込側軸受5における潤滑液の必要量は、メカニカルシールなどの軸封部材21における必要量よりも少ない。
【0038】
この点について、本実施の形態のスクリュー圧縮機1では、第1の吸込側軸受5が収容されている第1の吸込側軸受収容空間15と、軸封部材21が配設されている軸封空間20とが吸込側隔壁4Cによって隔離されており、軸封部材21に潤滑液を給液する第1の給液口25と、第1の吸込側軸受5に潤滑液を給液する第2の給液口26とが独立して設けられているため、軸封部材21及び第1の吸込側軸受5にそれぞれ適した量の潤滑液の供給を行うことができる。
【0039】
軸封部材21及び第1の吸込側軸受5に対する潤滑液の給液量の配分については、第1の給液経路27の圧力損失によって定めることができ、具体的には、第1及び第2の分岐路27A,27Bの長さや、水力直径、並びに、第1及び第2の給液口25,26の直径などにより定めることができる。本実施の形態においては、上述のように軸封部材21に対して要求される潤滑液の供給量が、第1の吸込側軸受5に対して要求される潤滑液の供給量よりも多いため、第1の吸込側給液口23から第1の給液口25までの圧力損失が、第1の吸込側給液口23から第2の給液口26までの圧力損失よりも小さくなるよう、第1及び第2の分岐路27A,27Bの長さや水力直径と、第1及び第2の給液口25,26の直径とが選定されている。
【0040】
図4は、
図1におけるB-B矢視図(垂直断面図)である。メインケーシング4Aには、ボア12内の作動室に連通する第2の作動室給液口30が設けられており、スクリュー圧縮機1の外部から第2の作動室給液口30を介して潤滑液を作動室に供給し得るようになされている。
【0041】
加えて、吐出側ケーシング4Bには第2の吐出側給液口31が形成されており、この第2の吐出側給液口31を介して、第2の吐出側軸受収容空間9B内に配設された第2の吐出側軸受8に対して潤滑液を供給できるようになされている。
【0042】
また吸込側ケーシング4Dにおけるロータ径方向の外側には第2の吸込側給液口32が形成されると共に、メインケーシング4Aには第2の吸込側軸受収容空間16内に収容された第2の吸込側軸受7に向けて第3の給液口33が設けられており、第3の給液口33がケーシング4内部に形成された第2の給液経路34を介して第2の吸込側給液口32と連通されている。これにより第2の吸込側給液口32を介してスクリュー圧縮機1内に潤滑液を注入することによって、この潤滑液を第2の給液経路34を経由して第3の給液口33から第2の吸込側軸受7に供給できるようになされている。
【0043】
この場合において、第2の吸込側軸受7は、メインケーシング4Aの第2の軸受連通空間18を介して部分的に吸込空間14に露出しているため、第2の吸込側給液口32から第2の給液経路34を介して第2の吸込側軸受7に供給された潤滑液は、第2の軸受連通空間18を介して吸込空間14へと流出し、この後、吸込口13から吸込空間14に流入してきた作動媒体と共に作動室へと搬送される。
【0044】
このように第2の給液経路34を構成することによって、第1の吸込側軸受5における潤滑液の攪拌損失と同様のメカニズムにより、第2の吸込側軸受7における潤滑液の攪拌損失を小さく抑えることができる。
【0045】
なお第2の作動室給液口30、第2の吸込側給液口32及び第2の吐出側給液口31は、それぞれ
図2について上述した第1の作動室給液口22、第1の吸込側給液口23及び第1の吐出側給液口24のうちの対応するものとは別個に形成されていても良いし、同一箇所に設けられていても、つまり第1及び第2の作動室給液口22,30、第1及び第2の吸込側給液口23,32、第1及び第2の吐出側給液口24,31がそれぞれも同じものであっても良い。
【0046】
図5は、本実施の形態のスクリュー圧縮機1に注入される潤滑液の外部経路を示す。スクリュー圧縮機1に注入された潤滑液は、スクリュー圧縮機1により圧縮された作動媒体に混入した状態で吐出口10(
図2、
図4)から吐出される。そして、この潤滑液は、オイルセパレータ40により圧縮された作動媒体と分離され、冷却器41により冷却された後に、オイルフィルタ(及び逆止弁)42を経由して第1及び第2の作動室給液口22,30(
図2、
図4)に与えられ、これら第1及び第2の作動室給液口22,30をそれぞれ介して作動室内に注入される。
【0047】
また潤滑液は、オイルフィルタ42を通過後に分岐されて、第1及び第2の吸込側給液口23,32(
図2、
図4)や第1及び第2の吐出側給液口24,31(
図2、
図4)にも与えられ、第1の吸込側給液口23を介して軸封空間20(
図2)内の軸封部材21(
図2)や、第1の吸込側軸受収容空間15(
図2)内の第1の吸込側軸受5、第2の吸込側軸受収容空間15内の第2の吸込側軸受7、第1の吐出側軸受収容空間9A(
図1)内に収容された第1の吐出側軸受6(
図1)、並びに、第2の吐出側軸受収容空間9B(
図1)内に収容された第2の吐出側軸受8(
図1)にもそれぞれ供給される。なお潤滑液の分岐は、
図5のようにスクリュー圧縮機1の外部に限られるものではなく、スクリュー圧縮機1のケーシング4内部において分岐するようにしてもよい。
【0048】
以上の構成のように本実施の形態のスクリュー圧縮機1では、第1の吸込側軸受5が収容されている第1の吸込側軸受収容空間15と、軸封部材21が配設されている軸封空間20とが吸込側隔壁4Cによって隔離され、軸封部材21に潤滑液を給液する第1の給液口25と、第1の吸込側軸受5に潤滑液を給液する第2の給液口26とが独立して設けられているため、軸封部材21及び第1の吸込側軸受5にそれぞれ適した量の潤滑液の供給を独立して行うことができる。従って、本スクリュー圧縮機1によれば、第1の吸込側軸受5に過多の潤滑液が給液されることに起因する第1の吸込側軸受5での潤滑液の攪拌損失を抑制することができるため、信頼性が高く、高効率なスクリュー圧縮機を実現できる。
【0049】
また本スクリュー圧縮機1では、第1の吸込側軸受5に対して雄ロータ2側から潤滑液を給液し得るように第2の給液口26が形成されているため、第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液のすべてが、回転運動する第1の吸込側軸受5の転動体軌道部を通過する必要がない。よって、本スクリュー圧縮機1によれば、第1の吸込側軸受5における潤滑液の攪拌損失が小さく、より高効率なスクリュー圧縮機を実現することができる。
【0050】
(2)第2の実施の形態
図2との対応部分に同一符号を付して示す
図6は、第2の実施の形態によるスクリュー圧縮機50の垂直断面を示す。本スクリュー圧縮機50は、バイパス連通路52が軸封空間20及びボア12間を連通するようにケーシング51(吸込側ケーシング50D、吸込側隔壁50C及びメインケーシング50A)内に構成されている点が第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と相違する。
【0051】
このため本スクリュー圧縮機50では、メインケーシング50Aに第1の作動室給液口22(
図2)と、当該第1の作動室給液口22及びボア12間を連通する経路とが設けられておらず、軸封空間20内の軸封部材21に供給された潤滑液がバイパス連通路52を介してボア12内に排出される。
【0052】
以上の構成を有する本実施の形態のスクリュー圧縮機50によれば、第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と同様に、第1及び第2の吸込側軸受5,7や軸封部材21に対して必要十分な潤滑液を供給しつつ、第1及び第2の吸込側軸受5,7における攪拌損失を低く抑えることができる。よって、本実施の形態によっても、信頼性が高く高効率なスクリュー圧縮機を提供することができる。
【0053】
(3)第3の実施の形態
図2との対応部分に同一符号を付して示す
図7は、第3の実施の形態によるスクリュー圧縮機60の垂直断面を示す。本スクリュー圧縮機60は、第2の給液口62の位置が異なる点を除いて第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と同様に構成されている。
【0054】
実際上、本実施のスクリュー圧縮機60では、第1の吸込側軸受5に対して吸込側隔壁60C側から潤滑液を給液できるよう第2の給液口62が吸込側隔壁60Cに設けられており、この第1の給液口62及び第1の吸込側給液口23間を連通するように吸込側ケーシング60D及び吸込側隔壁60C内に第1の給液経路63の第2の分岐路63Bが設けられている。
【0055】
このため本スクリュー圧縮機60では、第2の給液口62から第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液が、回転運動する第1の吸込側軸受5の転動体軌道部を通過することとなり、第1の実施の形態によるスクリュー圧縮機1と比べて第1の吸込側軸受5における攪拌損失が大きくなる。
【0056】
しかしながら、本スクリュー圧縮機60では、第1の吸込側軸受5に対して吸込側隔壁60C側に第1の給液口62を設けるため、第1の吸込側軸受5に対向させて第1の給液口を設けるための部位をメインケーシング4Aに設ける必要がなく、その分第1の軸受連通空間17の開口面積を大きくとることができるため、第1の吸込側軸受5の転動体軌道部に潤滑液が滞留し難く、第1の吸込側軸受5における攪拌損失を低く抑えることができる。
【0057】
以上の構成を有する本実施の形態のスクリュー圧縮機60によれば、第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と同様に、第1の吸込側軸受5や軸封部材21に対して必要十分な潤滑液を供給しつつ、第1の吸込側軸受5における攪拌損失を低く抑えることができる。よって、本実施の形態によっても、信頼性が高く高効率なスクリュー圧縮機を提供することができる。
【0058】
(4)第4の実施の形態
図3との対応部分に同一符号を付して示す
図8は、第4の実施の形態によるスクリュー圧縮機70の一部構成の垂直断面を示す。本スクリュー圧縮機70は、第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1に比べて吸込側隔壁71に形成された雄ロータ2の吸込側軸部2Bを挿通させるための貫通孔72が大きく形成されている点を除いて第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と同様に構成されている。
【0059】
このため本実施の形態のスクリュー圧縮機70では、第2の給液口26を介して第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液の多くが吸込空間14に流出する一方、残りの一部が第1の吸込側軸受5を通過し貫通孔72を通って軸封空間20に流入し、その後、第1の給液口25を介して軸封空間20に供給された潤滑液と合流してバイパス連通路28を経由して吸込空間14に排出される。
【0060】
このように本スクリュー圧縮機70では、第2の給液口26から第1の吸込側軸受5に供給された潤滑液の一部が、回転運動する第1の吸込側軸受5の転動体軌道部を通過することとなるが、第1の吸込側軸受5の転動体軌道部を通過する潤滑液は速やかに貫通孔72を介して軸封空間20に流れ込むため第1の吸込側軸受5の転動体軌道部に潤滑液が滞留し難く、その分、第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1に比べて第1の吸込側軸受5における攪拌損失を低く抑えることができる。
【0061】
以上の構成を有する本実施の形態のスクリュー圧縮機70によれば、第の吸込側軸受5や軸封部材21に対して必要十分な潤滑液を供給しつつ、第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1と比べて第1の吸込側軸受5における攪拌損失を低く抑えることができる。よって、本実施の形態によれば、信頼性が高くより高効率なスクリュー圧縮機を提供することができる。
【0062】
(5)他の実施の形態
なお上述の第1~第4の実施の形態においては、雄ロータ2の吸込側軸部のみが動力源としてのモータの回転軸と接続されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、雄ロータ2に代えて又は加えて雌ロータ3の吸込側軸受が動力源の回転軸と接続された形態のスクリュー圧縮機についても本発明を適用することができる。
【0063】
また上述の第1~第4の実施の形態においては、第1の給液口と連通する給液経路(第1の分岐路)と、第2の給液口と連通する給液経路(第2の分岐路)とがケーシング内部において分岐するように構成されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これらの給液経路が元々別々に形成(外部からの給液口が別々に形成)されていてもよい。
【0064】
さらに上述の第3の実施の形態においては、第1の吸込側軸受5に対して吸込側隔壁60C側から潤滑液を給液できるよう第2の給液口62を吸込側隔壁60Cに設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第2の吸込側軸受7についても吸込側隔壁60C側から潤滑液を給液できるよう
図6について上述した第3の給液口26を吸込側隔壁60Cに設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、作動媒体を圧縮する種々の構成のスクリュー圧縮機に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,50,60,70……スクリュー圧縮機、2……雄ロータ、2A,3A……歯形部、2B,3B……吸込側軸部、2C,3C……吐出側軸部、3……雌ロータ、4,51……ケーシング、5,7……吸込側軸受、6,8……吐出側軸受、9A,9B……吐出側軸受収容空間、10……吐出口、12……ボア、13……吸込口、14……吸込空間、15,16……吸込側軸受収容空間、17,18,72……軸受連通空間、19……貫通孔、20……軸封空間、21……軸封部材、22,30……作動室給液口、23,32……吸込側給液口、24,31……吐出側給液口、25,26,33,62……給液口、27,34,63……給液経路、27A,27B,63A,63B……分岐路、28,52……バイパス連通路。