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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20241216BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B60W30/10
G08G1/16 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021138580
(22)【出願日】2021-08-27
(65)【公開番号】P2023032446
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 瞬
(72)【発明者】
【氏名】新穂 那奈
(72)【発明者】
【氏名】平松 直人
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-045903(JP,A)
【文献】特開2020-163868(JP,A)
【文献】特開2021-088289(JP,A)
【文献】特開2017-159801(JP,A)
【文献】特開2019-130997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B62D 6/00 - 6/10
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周囲の状況を検出する車載検出器と、
前記車載検出器により検出された周囲の状況に基づいて、自車両の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に対する信頼度を算出する信頼度算出部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータを制御する走行制御部と、を備え、
前記走行制御部は、前記信頼度算出部により算出された信頼度が所定値以下であるとき、自車両が所定の減速度で前記認識部により認識された前記対象物に対して接近走行するように前記アクチュエータを制御する一方、前記信頼度が前記所定値より大きいとき、自車両が自車両と前記対象物との位置に基づいて前記接近走行するように前記アクチュエータを制御し、
前記走行制御部はさらに、前記信頼度算出部により算出された信頼度が前記所定値より大きく、かつ、自車両と前記対象物との車幅方向における距離が第1閾値未満であるとき、前記距離が大きくなる方向に自車両の走行位置を移動して前記接近走行するように前記アクチュエータを制御する一方、前記信頼度が前記所定値より大きく、かつ、自車両と前記対象物との車幅方向における距離が前記第1閾値以上でありかつ第2閾値以下であるとき、自車両が前記所定の減速度で接近走行するように走行制御を行うことを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行制御装置において、
自車両から第1距離離れた位置における車幅方向の領域の長さよりも、前記第1距離より長い第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さの方が短くなるように、前記所定領域を設定する領域設定部、をさらに備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の走行制御装置において、
前記所定領域は第1領域であり、
前記領域設定部は、前記認識部により対象物が認識されるまでは、前記第1領域を前記所定領域として設定する一方、前記認識部により対象物が認識されると、自車両から前記第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さが前記第1領域よりも長い第2領域を前記所定領域として設定することを特徴とする走行制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の走行制御装置において
前記領域設定部は、前記信頼度算出部により算出された信頼度が所定の閾値未満であるとき、前記第1領域を前記所定領域として設定する一方、前記信頼度が前記閾値以上になると、前記第2領域を前記所定領域として設定することを特徴とする走行制御装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の走行制御装置において、
前記領域設定部は、前記認識部により対象物が認識された後に自車両の走行経路が変化したとき、自車両の走行経路の車幅方向の移動量に基づいて前記第2領域の車幅方向の位置を補正することを特徴とする走行制御装置。
【請求項6】
自車両の周囲の状況を検出する車載検出器と、
前記車載検出器により検出された周囲の状況に基づいて、自車両の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に対する信頼度を算出する信頼度算出部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータを制御する走行制御部と、
自車両から第1距離離れた位置における車幅方向の領域の長さよりも、前記第1距離より長い第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さの方が短くなるように、前記所定領域を設定する領域設定部と、を備え、
前記所定領域は第1領域であり、
前記領域設定部は、前記認識部により対象物が認識されるまでは、前記第1領域を前記所定領域として設定する一方、前記認識部により対象物が認識されると、自車両から前記第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さが前記第1領域よりも長い第2領域を前記所定領域として設定し、
前記領域設定部はさらに、前記信頼度算出部により算出された信頼度が所定の閾値未満であるとき、前記第1領域を前記所定領域として設定する一方、前記信頼度が前記閾値以上になると、前記第2領域を前記所定領域として設定し、
前記走行制御部は、前記信頼度算出部により算出された信頼度が所定値以下であるとき、自車両が所定の減速度で前記認識部により認識された前記対象物に対して接近走行するように前記アクチュエータを制御する一方、前記信頼度が前記所定値より大きいとき、自車両が自車両と前記対象物との位置に基づいて前記接近走行するように前記アクチュエータを制御することを特徴とする走行制御装置。
【請求項7】
自車両の周囲の状況を検出する車載検出器と、
前記車載検出器により検出された周囲の状況に基づいて、自車両の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に対する信頼度を算出する信頼度算出部と、
前記認識部による前記対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータを制御する走行制御部と、
自車両から第1距離離れた位置における車幅方向の領域の長さよりも、前記第1距離より長い第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さの方が短くなるように、前記所定領域を設定する領域設定部と、を備え、
前記所定領域は第1領域であり、
前記領域設定部は、前記認識部により対象物が認識されるまでは、前記第1領域を前記所定領域として設定する一方、前記認識部により対象物が認識されると、自車両から前記第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さが前記第1領域よりも長い第2領域を前記所定領域として設定し、
前記領域設定部はさらに、前記認識部により対象物が認識された後に自車両の走行経路が変化したとき、自車両の走行経路の車幅方向の移動量に基づいて前記第2領域の車幅方向の位置を補正し、
前記走行制御部は、前記信頼度算出部により算出された信頼度が所定値以下であるとき、自車両が所定の減速度で前記認識部により認識された前記対象物に対して接近走行するように前記アクチュエータを制御する一方、前記信頼度が前記所定値より大きいとき、自車両が自車両と前記対象物との位置に基づいて前記接近走行するように前記アクチュエータを制御することを特徴とする走行制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の走行制御装置において、
前記信頼度算出部は、前記対象物との相対距離が長いほど、前記信頼度を低く算出することを特徴とする走行制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の走行制御装置において、
前記信頼度算出部は、前記車載検出器の種類および個数に基づいて、前記対象物との相対距離に応じて算出する前記信頼度を変化させることを特徴とする走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の走行を制御する走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、従来、自車両の前方を走行する先行車両の側方を通過するとき、先行車両との車幅方向の間隔が先行車両との相対速度に対応した距離分保たれるように目標走行経路を補正するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-142303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置では、先行車両を認識するとその認識精度によらずに即座に目標走行経路を補正するため、目標走行経路が正しく設定されず適切な走行ができないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である走行制御装置は、自車両の周囲の状況を検出する車載検出器と、車載検出器により検出された周囲の状況に基づいて、自車両の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部と、認識部による対象物の認識結果に対する信頼度を算出する信頼度算出部と、認識部による対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータを制御する走行制御部と、を備える。走行制御部は、信頼度算出部により算出された信頼度が所定値以下であるとき、自車両が所定の減速度で認識部により認識された対象物に対して接近走行するようにアクチュエータを制御する一方、信頼度が所定値より大きいとき、自車両が自車両と対象物との位置に基づいて接近走行するようにアクチュエータを制御する。走行制御部はさらに、信頼度算出部により算出された信頼度が所定値より大きく、かつ、自車両と対象物との車幅方向における距離が第1閾値未満であるとき、距離が大きくなる方向に自車両の走行位置を移動して接近走行するようにアクチュエータを制御する一方、信頼度が所定値より大きく、かつ、自車両と対象物との車幅方向における距離が第1閾値以上でありかつ第2閾値以下であるとき、自車両が所定の減速度で接近走行するように走行制御を行う。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両の前方に他車両が存在するときの走行制御を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る走行制御装置を有する車両制御システムの全体構成を概略的に示すブロック図。
図2】本実施形態に係る走行制御装置が適用される走行シーンの一例を示す図。
図3】本発明の実施形態に係る走行制御装置の要部構成を示すブロック図。
図4A】捕捉領域を説明するための図。
図4B】捕捉領域を説明するための図。
図5】予め定められたプログラムに従い図3のコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャート。
図6】本実施形態に係る走行制御装置の動作の一例を説明するための図。
図7】本実施形態に係る走行制御装置の動作の他の例を説明するための図。
図8】本実施形態に係る走行制御装置の動作の他の例を説明するための図。
図9】本実施形態に係る走行制御装置の動作の他の例を説明するための図。
図10】本実施形態に係る走行制御装置の動作の他の例を説明するための図。
図11】捕捉領域のオフセットを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図11を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る走行制御装置は、自動運転機能を有する車両、すなわち自動運転車両に適用することができる。なお、本実施形態に係る走行制御装置が適用される車両を、他車両と区別して自車両と呼ぶことがある。自車両は、内燃機関(エンジン)を走行駆動源として有するエンジン車両、走行モータを走行駆動源として有する電気自動車、エンジンと走行モータとを走行駆動源として有するハイブリッド車両のいずれであってもよい。自車両は、ドライバによる運転操作が不要な自動運転モードでの走行だけでなく、ドライバの運転操作による手動運転モードでの走行も可能である。
【0009】
まず、自動運転に係る概略構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る走行制御装置を有する車両制御システム100の全体構成を概略的に示すブロック図である。図1に示すように、車両制御システム100は、コントローラ10と、コントローラ10にそれぞれ通信可能に接続された外部センサ群1と、内部センサ群2と、入出力装置3と、測位ユニット4と、地図データベース5と、ナビゲーション装置6と、通信ユニット7と、走行用のアクチュエータACとを主に有する。
【0010】
外部センサ群1は、自車両の周辺情報である外部状況を検出する複数のセンサ(外部センサ)の総称である。例えば外部センサ群1には、自車両の全方位の照射光に対する散乱光を測定して自車両から周辺の障害物までの距離を測定するライダ、電磁波を照射し反射波を検出することで自車両の周辺の他車両や障害物等を検出するレーダ、自車両に搭載され、CCDやCMOS等の撮像素子を有して自車両の周辺(前方、後方および側方)を撮像するカメラなどが含まれる。
【0011】
内部センサ群2は、自車両の走行状態を検出する複数のセンサ(内部センサ)の総称である。例えば内部センサ群2には、自車両の車速を検出する車速センサ、自車両の前後方向の加速度および左右方向の加速度(横加速度)をそれぞれ検出する加速度センサ、走行駆動源の回転数を検出する回転数センサ、自車両の重心の鉛直軸回りの回転角速度を検出するヨーレートセンサなどが含まれる。手動運転モードでのドライバの運転操作、例えばアクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作、ステアリングホイールの操作等を検出するセンサも内部センサ群2に含まれる。
【0012】
入出力装置3は、ドライバから指令が入力されたり、ドライバに対し情報が出力されたりする装置の総称である。例えば入出力装置3には、操作部材の操作によりドライバが各種指令を入力する各種スイッチ、ドライバが音声で指令を入力するマイク、ドライバに表示画像を介して情報を提供するディスプレイ、ドライバに音声で情報を提供するスピーカなどが含まれる。
【0013】
測位ユニット(GNSSユニット)4は、測位衛星から送信された測位用の信号を受信する測位センサを有する。測位衛星は、GPS衛星や準天頂衛星などの人工衛星である。測位ユニット4は、測位センサが受信した測位情報を利用して、自車両の現在位置(緯度、経度、高度)を測定する。
【0014】
地図データベース5は、ナビゲーション装置6に用いられる一般的な地図情報を記憶する装置であり、例えばハードディスクや半導体素子により構成される。地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、交差点や分岐点の位置情報、道路に設定された制限速度の情報が含まれる。なお、地図データベース5に記憶される地図情報は、コントローラ10の記憶部12に記憶される高精度な地図情報とは異なる。
【0015】
ナビゲーション装置6は、ドライバにより入力された目的地までの道路上の目標走行経路(以下、単に目標経路と呼ぶ。)を探索するとともに、目標経路に沿った案内を行う装置である。目的地の入力および目標経路に沿った案内は、入出力装置3を介して行われる。目標経路は、測位ユニット4により測定された自車両の現在位置と、地図データベース5に記憶された地図情報とに基づいて演算される。外部センサ群1の検出値を用いて自車両の現在位置を測定することもでき、この現在位置と記憶部12に記憶される高精度な地図情報とに基づいて目標経路を演算するようにしてもよい。
【0016】
通信ユニット7は、インターネット網や携帯電話網等に代表される無線通信網を含むネットワークを介して図示しない各種サーバと通信し、地図情報、走行履歴情報および交通情報などを定期的に、あるいは任意のタイミングでサーバから取得する。ネットワークには、公衆無線通信網だけでなく、所定の管理地域ごとに設けられた閉鎖的な通信網、例えば無線LAN、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)等も含まれる。取得した地図情報は、地図データベース5や記憶部12に出力され、地図情報が更新される。
【0017】
アクチュエータACは、自車両の走行を制御するための走行用アクチュエータである。走行駆動源がエンジンである場合、アクチュエータACには、エンジンのスロットルバルブの開度(スロットル開度)を調整するスロットル用アクチュエータが含まれる。走行駆動源が走行モータである場合、走行モータがアクチュエータACに含まれる。自車両の制動装置を作動するブレーキ用アクチュエータと転舵装置を駆動する転舵用アクチュエータもアクチュエータACに含まれる。
【0018】
コントローラ10は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。より具体的には、コントローラ10は、CPU(マイクロプロセッサ)等の演算部11と、ROM,RAM等の記憶部12と、I/Oインターフェース等の図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。なお、エンジン制御用ECU、走行モータ制御用ECU、制動装置用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、図1では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ10が示される。
【0019】
記憶部12には、高精度の詳細な地図情報(高精度地図情報と呼ぶ)が記憶される。高精度地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、道路の勾配の情報、交差点や分岐点の位置情報、車線数の情報、車線の幅員および車線毎の位置情報(車線の中央位置や車線位置の境界線の情報)、地図上の目印としてのランドマーク(信号機、標識、建物等)の位置情報、路面の凹凸などの路面プロファイルの情報が含まれる。記憶部12には、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報についての情報も記憶される。
【0020】
演算部11は、機能的構成として、自車位置認識部13と、外界認識部14と、行動計画生成部15と、走行制御部16と、地図生成部17とを有する。
【0021】
自車位置認識部13は、測位ユニット4で得られた自車両の位置情報および地図データベース5の地図情報に基づいて、地図上の自車両の位置(自車位置)を認識する。記憶部12に記憶された地図情報と、外部センサ群1が検出した自車両の周辺情報とを用いて自車位置を認識してもよく、これにより自車位置を高精度に認識することができる。なお、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサで自車位置を測定可能であるとき、そのセンサと通信ユニット7を介して通信することにより、自車位置を認識することもできる。
【0022】
外界認識部14は、ライダ、レーダ、カメラ等の外部センサ群1からの信号に基づいて自車両の周囲の外部状況を認識する。例えば自車両の周辺を走行する周辺車両(前方車両や後方車両)の位置や走行速度や加速度、自車両の周囲に停車または駐車している周辺車両の位置、および他の物体の位置や状態などを認識する。他の物体には、標識、信号機、道路の区画線や停止線等の標示(路面標示)、建物、ガードレール、電柱、看板、歩行者、自転車等が含まれる。他の物体の状態には、信号機の色(赤、青、黄)、歩行者や自転車の移動速度や向きなどが含まれる。
【0023】
行動計画生成部15は、例えばナビゲーション装置6で演算された目標経路と、自車位置認識部13で認識された自車位置と、外界認識部14で認識された外部状況とに基づいて、現時点から所定時間T先までの自車両の走行軌道(目標軌道)を生成する。目標経路上に目標軌道の候補となる複数の軌道が存在するときには、行動計画生成部15は、その中から法令を順守し、かつ効率よく安全に走行する等の基準を満たす最適な軌道を選択し、選択した軌道を目標軌道とする。そして、行動計画生成部15は、生成した目標軌道に応じた行動計画を生成する。行動計画生成部15は、先行車両を追い越すための追い越し走行、走行車線を変更する車線変更走行、先行車両に追従する追従走行、走行車線を逸脱しないように車線を維持するレーンキープ走行、減速走行または加速走行等の走行態様に対応した種々の行動計画を生成する。行動計画生成部15は、目標軌道を生成する際に、まず走行態様を決定し、走行態様に基づいて目標軌道を生成する。
【0024】
走行制御部16は、自動運転モードにおいて、行動計画生成部15で生成された目標軌道に沿って自車両が走行するように各アクチュエータACを制御する。より具体的には、走行制御部16は、自動運転モードにおいて道路勾配などにより定まる走行抵抗を考慮して、行動計画生成部15で算出された単位時間毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。そして、例えば内部センサ群2により検出された実加速度が目標加速度となるようにアクチュエータACをフィードバック制御する。すなわち、自車両が目標車速および目標加速度で走行するようにアクチュエータACを制御する。なお、手動運転モードでは、走行制御部16は、内部センサ群2により取得されたドライバからの走行指令(ステアリング操作等)に応じて各アクチュエータACを制御する。
【0025】
地図生成部17は、手動運転モードで走行しながら、外部センサ群1により検出された検出値を用いて、3次元の点群データからなる環境地図を生成する。具体的には、カメラ1aにより取得された撮像画像から、画素ごとの輝度や色の情報に基づいて物体の輪郭を示すエッジを抽出するとともに、そのエッジ情報を用いて特徴点を抽出する。特徴点は例えばエッジの交点であり、建物の角や道路標識の角などに対応する。地図生成部17は、抽出された特徴点を順次、環境地図上にプロットし、これにより自車両が走行した道路周辺の環境地図が生成される。カメラに代えて、レーダやライダにより取得されたデータを用いて自車両の周囲の物体の特徴点を抽出し、環境地図を生成するようにしてもよい。
【0026】
自車位置認識部13は、地図生成部17による地図作成処理と並行して、自車両の位置推定処理を行う。すなわち、特徴点の時間経過に伴う位置の変化に基づいて、自車両の位置を推定して取得する。また、自車位置認識部13は、自車両の周囲のランドマークとの相対的な位置関係に基づいて自車位置を推定して取得する。地図作成処理と位置推定処理とは、例えばSLAMのアルゴリズムにしたがって同時に行われる。
【0027】
図2は、本実施形態に係る走行制御装置が適用される走行シーンの一例を示す図である。図2には、左側通行の片側2車線の道路が示されていて、自車両101が車線LN1を走行し、車線LN1に隣接する車線LN2を他車両102が走行している。なお、図2では図の簡略化のため、対向車線である車線LN3,LN4を省略している。
【0028】
図2に示す状況において、自車両101は、現時点(時点t1)からそのまま走行を継続すると、他車両102が車線LN2内を左側によって走行しているため、他車両102の側方を通過するときに他車両102と接近して、両車両の乗員に心理的圧迫を与えるおそれがある。そのため、自車両101は、時点t0の時点で前方の他車両102を認識すると、減速しながら経路変更(他車両102から離れる方向への経路変更)をして他車両102の側方を通過する。
【0029】
ところで、自車両101が他車両102を認識した時点t0における自車両101と他車両102との距離が長いほど、他車両102の認識精度は低くなる。したがって、他車両102が車線LN2の中央を走行しているにもかかわらず、自車両101は、車線LN1側に寄って走行していると誤認識して減速制御を開始する場合がある。その場合、他車両102にある程度近づいたときに初めて、自車両101は、他車両102が車線LN2内の中央を走行していると認識し、減速制御により低下した車速を元の速度に戻すように加速制御を開始する。このように、他車両102の車幅方向の位置を精度よく認識できないとき、自車両101の加減速に加えて経路変更もハンチングされ、乗員にふらふらする印象を与えるおそれがある。
【0030】
上述したような加減速や経路変更のハンチングは、乗員に心理的圧迫や不快感を与えるおそれがある。したがって、この点を考慮して、本実施形態は以下のように走行制御装置を構成する。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る走行制御装置50の要部構成を示すブロック図である。この走行制御装置50は、自車両101の走行動作を制御するものであり、より具体的には、自車両101が前方の対象物(他車両)に対して接近走行するように走行用のアクチュエータを制御するものであり、図1の車両制御システム100の一部を構成する。なお、前方の対象物との進行方向における相対距離が近くなるように走行する自車両101の動作を接近走行と呼ぶ。図3に示すように、走行制御装置50は、コントローラ10と、カメラ1aと、アクチュエータACを有する。
【0032】
カメラ1aは、CCDやCMOS等の撮像素子(イメージセンサ)を有する単眼カメラであり、図1の外部センサ群1の一部を構成する。カメラ1aはステレオカメラであってもよい。カメラ1aは、自車両の周囲を撮像する。カメラ1aは、例えば自車両の前部の所定位置に取り付けられ、自車両の前方空間を連続的に撮像し、対象物の画像データ(以下、撮像画像データまたは単に撮像画像と呼ぶ)を取得する。カメラ1aは、撮像画像をコントローラ10に出力する。
【0033】
コントローラ10は、演算部11(図1)が担う機能的構成として、認識部141と、領域設定部142と、走行制御部161とを有する。認識部141と領域設定部142とは、外界認識部14の一部を構成する。走行制御部161は、行動計画生成部15および走行制御部16の一部を構成し、図1の走行制御部16とは異なる制御を実行する。
【0034】
認識部141は、カメラ1aにより検出された周囲の状況に基づいて、自車両101の前方に設定された所定領域(以下、捕捉領域と呼ぶ。)内において対象物を認識する。図4Aおよび図4Bは、捕捉領域を説明するための図である。
【0035】
領域設定部142は、捕捉領域として領域AR1を自車両101の前方に設定する。図4Aに示すように、領域AR1は、自車両101の先端位置p1から進行方向に距離D1離れた位置p2より先(進行方向前方)の位置p21における幅(車幅方向の長さ)AW2が、位置p2より手前の位置p11における幅(車幅方向の長さ)AW1よりも短くなるように設定される。また、領域AR1は、幅AW1が車線幅LWよりも長くなるように設定される。さらに、位置p2より先の位置において幅AW2は徐々に短くなり、自車両101から進行方向に距離D2離れた位置p3において幅AW2は0となる。図中の線CLは、車線LN1の中心線を表す。自車両101が車線LN1の中央位置を走行しているときは、捕捉領域の中心線は車線LN1の中心線CLと重なる。一方、自車両101の走行位置が車線LN1の中心線CLからずれるときは、捕捉領域の中心線の位置は、車線LN1の中心線CLからオフセット制御目標値分ずれた位置になる。オフセット制御目標値は、自車両101の走行経路(目標走行経路)の車線LN1の中心線CLからの車幅方向のずれ量(オフセット量)である。なお、図4Aでは、位置p2より先の領域AR1の形状を説明するために、便宜上、位置p2から位置p3までの距離を距離D1より短く描いているが、位置p2から位置p3までの距離は、距離D1の数倍程度の長さであることが好ましい。
【0036】
捕捉領域として領域AR1を設定することで、例えば、位置p2より先の区間において対象物が認識されたときでも、その対象物が捕捉されにくくなる。このように、対象物の認識精度が低くなると想定される区間(位置p2より先の区間)で対象物が捕捉されにくくすることで、上述したような誤認識による加減速のハンチングや急な経路変更および減速を抑制することができる。また、上述したように領域AR1をオフセット制御目標値に基づいてオフセットさせることで、例えば、自車両101が他車両102の側方を通過するときに他車両102との車幅方向の距離が十分に確保できることがわかっている場合、すなわち、乗員に両車両の接近(車幅方向の接近)による心理的圧迫を与える可能性が低い場合に、他車両102が不要に捕捉されることを抑制できる。その結果、後述する事前減速が不要に実行されることを抑制できる。
【0037】
また、領域AR1は、自車両101の先端位置p1から進行方向に距離D1離れた位置p4より手前の位置p41における幅AW3が、幅AW1よりも短くなるように設定される。幅AW1は、認識部141の認識誤差を考慮して、車幅に対してその誤差分を付加するように長めに設定される。一方で、自車両101の近傍になるほど認識部141の認識誤差は小さくなるので、幅AW3は、その誤差分を除くように幅AW1より短い長さに設定される。
【0038】
また、領域設定部142は、捕捉領域として領域AR1を設定しているときに認識部141により対象物が捕捉(捕捉領域内で認識)されると、捕捉領域として領域AR2を設定する。より詳細には、領域設定部142は、認識部141により対象物が領域AR1内で認識されると、その認識精度(認識結果に対する信頼度)を算出し、その信頼度が所定の閾値TH1以上であるとき捕捉領域として領域AR2を設定する。
【0039】
図4Aにおいて位置p2より先の位置で捕捉された対象物は、その車幅方向の位置が正確に認識されていなかったとしても、自車両101(自車線LN2)側に寄って走行している可能性が高い。したがって、一度捕捉された対象物が継続して捕捉されやすくなるように、対象物が捕捉されたときは、捕捉領域として領域AR2を設定して捕捉領域を拡大する。
【0040】
図4Bに示すように、領域AR2は、自車両101の後端位置p6から進行方向と反対の方向に距離D3離れた位置p5と、自車両101の先端位置p7から進行方向に距離D4離れた位置p8との間に幅AW1で設定される矩形領域である。このように、捕捉領域を拡大することで、一度捕捉された対象物が継続して捕捉されやすくなる。また、自車両の後方の位置p5まで捕捉領域を拡大することで、対象物の側方を通過した後もしばらく対象物を捕捉し続けることができる。なお、図4Bに示すように、距離D4は、距離D2と同じ長さに設定されてもよいし、捕捉された対象物(他車両102)が領域AR2内に含まれるように対象物の位置に基づいて動的に設定されてもよい。
【0041】
認識精度(信頼度)の算出は次のようにして行われる。まず、領域設定部142は、カメラ1aの撮像画像に基づいて、撮像画像に映る物体(自車両101の前方の物体)が対象物であるか否かを判定する。例えば、領域設定部142は、撮像画像と、予め記憶部42に保存された各種物体(車両や人物等)の画像(比較用画像)とで特徴点のマッチング(特徴点マッチング)を行って、撮像画像に映る物体の種別を認識する。
【0042】
次いで、領域設定部142は、その認識結果に対する信頼度を算出する。このとき、領域設定部142は、上記特徴点マッチングのマッチング結果(類似度)に基づいて、類似度が高いほど信頼度を高く算出する。また、対象物との相対距離が短いほど撮像画像から検出される対象物の位置(車幅方向の位置)の認識精度が高くなるので、領域設定部142は、対象物との相対距離が短いほど信頼度を高く算出する。信頼度は、例えばパーセンテージで記される。なお、信頼度の算出方法はこれに限定されない。
【0043】
走行制御部161は、認識部141により認識された対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータACを制御する。詳細には、走行制御部161は、認識部141による認識結果の信頼度と、対象物との相対距離および相対速度とに基づいて、自車両101の加減速を制御する加減速制御(加速制御と減速制御)および自車両101の走行経路を変更する経路変更制御を行う。
【0044】
図5は、予め定められたプログラムに従い図3のコントローラ10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。図5のフローチャートに示す処理は、例えば、自車両101が自動運転モードで走行中に所定周期(所定時間T)ごとに繰り返される。
【0045】
まず、ステップS1で、自車両101の前方に設定された捕捉領域において物体(対象物)を認識したか否かを判定する。なお、図5の処理の初回実行時には、捕捉領域として領域AR1が設定されているものとする。ステップS1で否定されると、ステップS10で、捕捉領域として領域AR1を自車両101の前方に設定し、処理を終了する。このとき、捕捉領域として領域AR1がすでに設定されているときには、ステップS10をスキップして処理を終了する。ステップS1で肯定されると、ステップS2で、捕捉領域として領域AR2を自車両101の前方に設定する。これにより、図5の処理が次回実行されるとき、領域AR2に基づいてステップS1の処理が行われる。
【0046】
次いで、ステップS3で、経路変更が必要であるか否かを判定する。例えば、ステップS1で捕捉された対象物が自車線側に寄って隣接車線を走行する他車両102であり、且つ、他車両102の側方を自車両101が通過する可能性があるとき、経路変更が必要であると判断する。詳細には、自車両101と他車両102の車幅方向の距離が所定の長さTW1未満であって、自車両101の他車両102に対する相対速度が所定速度以上であるとき、経路変更が必要であると判断する。なお、認識精度が閾値TH2(>TH1)以下であるときには、自車両101と他車両102との車幅方向の距離が正確に認識されていない可能性があるので、その距離が所定の長さTW1未満であっても経路変更が不要であると判断する。
【0047】
ステップS3で否定されると、ステップS8に移行する。ステップS3で肯定されると、ステップS4で、経路変更が可能であるか否かを判定する。例えば、図2の車線LN1の左側(路肩)に駐車車両が存在し、経路変更するとその駐車車両と接近または接触する可能性があるとき、経路変更が不可であると判定する。なお、自車両101と他車両102との前後方向における接近度合いが所定以上であるとき、具体的には自車両101と他車両102との相対距離が所定距離TL未満であるとき、他車両102を回避できないと判断して経路変更が不可であると判定してもよい。
【0048】
ステップS4で肯定されると、ステップS5で、経路変更制御を開始して処理を終了する。このとき、経路変更制御がすでに開始されているときは、経路変更制御が継続して行われる。ステップS4で否定されると、ステップS6で、最大減速度(自車両101において安全性の観点から許容される最大減速度)未満の減速度で自車両101が対象物の手前で停止可能か否かを判定する。ステップS6で否定されると、ステップS7で、自車両101が最大減速度で減速して停止するように停止制御を開始して、処理を終了する。このとき、停止制御がすでに開始されているときは、停止制御が継続して行われる。ステップS6で肯定されると、ステップS8に移行する。
【0049】
ステップS8で、事前減速(乗員に気付かれない程度の微小な減速度による減速)が必要であるか否かを判定する。具体的には、自車両101と他車両の車幅方向の距離が所定の長さTW2(>TW1)未満であって相対速度が所定速度以上であるとき、事前減速が必要であると判定する。このように、経路変更の要否の判定に用いられる閾値TW1よりも値が大きい閾値TW2を用いて事前減速の要否を判定することで、事前減速が経路変更よりも先行して行われるようになる。これにより、対象物の車幅方向の位置を精度よく認識できないときに発生し得る、上述したような経路変更のハンチングを抑制することができる。なお、認識精度が閾値TH2以下であるときには、上述したように、自車両と他車両との車幅方向の距離が正確に認識されていない可能性があるので、その距離が所定の長さTW2以上であっても事前減速が必要であると判定する。
【0050】
ステップS8で否定されると、処理を終了する。ステップS8で肯定されると、ステップS9で、微小な減速度での減速制御(事前減速制御)を開始して、処理を終了する。このとき、事前減速制御がすでに開始されているときは、事前減速制御が継続して行われる。事前減速制御では、尾灯(ブレーキランプ)を点灯させない程度の減速度DRで自車両101が減速するようにアクチュエータACが制御される。また、事前減速制御では、自車両101を減速度DRで減速した結果、他車両との相対速度が所定速度に達すると、減速度が0になるように、すなわち自車両101が定速走行するようにアクチュエータACが制御される。
【0051】
本実施形態に係る走行制御装置50の動作をまとめると以下のようになる。図6図10は、走行制御装置50の動作を説明するための図である。図6には、車線LN1を走行中の自車両101が車線LN2を走行中の他車両102の側方を経路変更して通過するときの動作の一例が示されている。特性f60は、自車両101が他車両102の側方を通過するときの車速と位置の関係を示す。特性f61は、自車両101が他車両102の側方を通過できず他車両102の手前で停止するときの車速と位置の関係を示す。
【0052】
走行制御装置50は、自車両101が車速V1で定速走行中に、自車線LN1側に寄って隣接車線LN2を車速V2(<V1)で走行中の他車両102を捕捉領域(領域AR1)内で認識すると(時点t60、位置p60)、減速制御を開始する(S1~S3,S8,S9)。
【0053】
その後、自車両101が他車両102に近づくにつれて、他車両102の位置および車速がより正確に認識される。そして、経路変更可能であると判定されると(位置p61、時点t61)、走行制御装置50は、経路変更制御を開始する(S3,S4,S5)。経路変更制御により、自車両101は、自車両101と他車両102の車幅方向の距離が所定の長さ以上になるように経路変更しながら元の車速V1まで加速する。そして、走行制御装置50は、自車両101の先端位置が他車両102の先端位置を通り過ぎると(時点t62)、他車両102を対象物とした一連の処理を終了する。このとき、捕捉領域として領域AR1が再び設定される。なお、他車両102が自車線LN1側に寄り過ぎていて他車両102の側方を通過できないと判定されると(位置p62)、自車両101を他車両102の後端位置p64より所定距離手前の位置p63で停止させるように、停止制御が開始される(S4,S6,S7)。
【0054】
図7には、自車両101が他車両102の側方を通過するときに経路変更するためのスペースが確保できないときの動作の一例が示されている。特性f70は、自車両101が他車両102の側方を通過するときの車速と位置の関係を示す。特性f71は、自車両101が他車両102の側方を通過できず他車両102の手前で停止するときの車速と位置の関係を示す。走行制御装置50は、自車両101が車速V1で定速走行中に、自車線LN1側に寄って隣接車線LN2を車速V2で走行中の他車両102を捕捉領域(領域AR1)内で認識すると(位置p70、時点t70)、減速制御を開始する(S1~S3,S8,S9)。
【0055】
図7に示す例では、車線LN1の左側(図における上側)に工事区域CAが設けられているため、自車両101が経路変更を行うためのスペースがない。そのため、走行制御装置50は、経路変更制御を実行することなく(時点t71)、自車両101が減速しながら他車両102の側方を通過するように減速制御を実行する(S3,S4,S6,S8,S9)。そして、自車両101の先端位置が他車両102の先端位置を通り過ぎると(時点t72)、走行制御装置50は、他車両102を対象物とした一連の処理を終了する。このとき、捕捉領域として領域AR1が再び設定される。その後、自車両101は、加速制御を開始し、車速が速度V1に達すると定速走行を開始する。なお、他車両102が自車線LN1側に寄り過ぎていて他車両102の側方を通過できないと判定されると(位置p72)、自車両101を他車両102の後端位置p74より所定距離手前の位置p73で停止させるように、停止制御が開始される(S4,S6,S7)。
【0056】
図8には、交差点ISの手前で、車線LN1を走行中の自車両101が、車線LN2を走行中の他車両102の側方を通過するときの動作の一例が示されている。図8に示す例では、交差点ISに信号機SGが設置されていて、信号機SGは、停止線SLでの停止指示を示す停止信号(赤信号)を表示中である。
【0057】
走行制御装置50は、信号機SGの停止信号に従って自車両101を停止線SLで停止させる必要があると判定すると、自車両101が他車両102の側方を通過した後、自車両101が位置p82まで定速走行するように定速走行制御を維持する。このように、他車両102の側方を通過後に自車両101が停止することが明らかなときには、走行制御装置50は、通過後の加速制御を抑制する。特性f80は、通過後の加速制御の抑制が行われたときの自車両101の車速と位置の関係を示す。特性f81は、通過後の加速制御の抑制を行わないときの自車両101の車速と位置の関係を示す。特性f81に示すように、通過後の加速制御を抑制しない場合には、位置p80で加速制御が開始された後すぐに位置p81で、自車両101を停止線SLで停止させるための停止制御が開始される。このような不要な加減速は、乗員の乗り心地を悪化させるおそれがある。走行制御装置50は、このような乗員の乗り心地の悪化を防止するため、特性f80に示すように通過後の加速制御を抑制する。
【0058】
図9には、車線LN1を走行中の自車両101が車線LN2を走行中の他車両102,103の側方を通過するときの動作の一例が示されている。特性f90,f91は、自車両101が他車両102,103を通過するときの自車両101の車速と位置の関係を示す。
【0059】
走行制御装置50は、他車両102の前方に他車両103が存在するときには、特性f90に示すように、他車両102の側方を通過した後に加速制御を行うことなく、位置p92まで定速走行を維持する。このように、自車両101が他車両102の側方を通過した後に再度減速することが明らかなときには、通過後の加速制御を抑制する。特性f91は、通過後の加速制御の抑制を行わないときの自車両101の車速と位置の関係を示す。特性f91に示すように、位置p90で通過後の加速制御が開始された後すぐに、位置p91で他車両103の側方を通過するための減速制御が開始される。そのため、通過後の加速制御を抑制しない場合、不要な加減速が発生し、乗員の乗り心地を悪化させるおそれがある。走行制御装置50は、このような乗員の乗り心地の悪化を防止するため、特性f90に示すように通過後の加速制御を抑制する。
【0060】
図10は、対象物が捕捉領域から外れたときの自車両の走行の動作の一例が示されている。図10に示す例では、自車両101が位置p101に到達する時点t101よりも前の時点t100で、他車両102が捕捉領域(領域AR1)内で捕捉され、減速制御が開始されている(S1~S3,S8,S9)。なお、他車両102は、時点t100おいて捕捉領域内に含まれていないが、認識部141の認識誤差により実際の位置よりも車線LN1側で認識され捕捉されているものとする。
【0061】
自車両101が他車両102に近づくことで他車両102の認識精度が向上し、他車両102が車線LN2の中央を走行していることが明らかになると(位置p101)、走行制御装置50は、減速制御を停止する。このとき、走行制御装置50は、自車両101の車速を減速制御開始前の速度に戻すように加速制御を即座に開始する。特性f101は、このときの自車両101の車速と位置の関係を示す。しかしながら、このように他車両102が車線LN2の中央を走行していることが明らかになった時点で減速制御から加速制御に即座に切り換えると、乗員の乗り心地を悪化させるおそれがある。そこで、このような乗り心地の悪化を防止するように、他車両102の認識精度が向上して減速制御不要と判定されたときでも、走行制御装置50は、即座に加速制御を開始せずに、定速走行制御を所定時間または所定距離実行してから加速制御を開始する。特性f100は、このときの自車両101の車速と位置の関係を示す。特性f100では、位置p101から位置p102までの区間において定速走行制御が行われている。
【0062】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)走行制御装置50は、自車両101の周囲の状況を検出(撮像)するカメラ1aと、カメラ1aにより検出された周囲の状況に基づいて、自車両101の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部141と、認識部141による対象物の認識結果に対する信頼度を算出する領域設定部142と、認識部141による対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータACを制御する走行制御部161と、を備える。走行制御部161は、領域設定部142により算出された信頼度が所定値(閾値TH2)以下であるとき、自車両101が所定の減速度(乗員に気付かれない程度の微小な減速度による減速)で減速しながら、すなわち事前減速しながら認識部141により認識された対象物に対して接近走行するようにアクチュエータACを制御する一方、領域設定部142により算出された信頼度が閾値TH2より大きいとき、自車両101が自車両101と対象物との位置に基づいて経路変更しながら接近走行するようにアクチュエータACを制御する。これにより、カメラ1aのセンサ誤差により前方車両の車幅方向の位置が正確に認識できないときには、微小な減速度での減速走行が経路変更よりも優先して実行される。そして、前方車両の車幅方向の位置が正確に認識されて、前方車両が確実に自車線側に寄って走行していると判断されると、経路変更が実行される。このような走行制御により、自車両の前方に他車両が認識されたときに発生し得る、加減速や経路変更のハンチングなど、乗員に心理的圧迫や不快感を与える可能性がある走行動作を抑制することができる。
【0063】
(2)走行制御部161は、領域設定部142により算出された信頼度が閾値TH2より大きく、かつ、自車両101と対象物との車幅方向における距離が第1閾値(閾値TW1)未満であるとき、自車両101と対象物との車幅方向における距離が大きくなる方向に自車両101の走行位置を移動して接近走行するようにアクチュエータACを制御する。また、走行制御部161は、信頼度が第2閾値(閾値TH2)より大きく、かつ、自車両101と対象物との車幅方向における距離が閾値TW1以上であり閾値TW2以下であるとき、自車両101が所定の減速度で接近走行するようにアクチュエータACを制御する。これにより、経路変更が必要であると確定されたタイミングで経路変更が実行されるようになり、経路変更のハンチングの発生をさらに抑制できる。
【0064】
(3)走行制御装置50は、自車両101の周囲の状況を検出(撮像)するカメラ1aと、カメラ1aにより検出された周囲の状況に基づいて、自車両101の前方に設定された所定領域内において対象物を認識する認識部141と、認識部141による対象物の認識結果に基づいて、走行用のアクチュエータを制御する走行制御部161と、自車両101から第1距離離れた位置(例えば、図4Aの位置p11)における車幅方向の領域の長さ(例えば、図4Aの位置p11における幅AW1)よりも、第1距離より長い第2距離離れた位置(例えば、図4Aの位置p21)における車幅方向の領域の長さ(例えば、図4Aの位置p21における幅AW2)の方が短くなるように、所定領域を設定する領域設定部142と、を備える。これにより、自車両101から遠方の対象物の位置の誤認識、特に車幅方向の位置の誤認識により発生する加減速や経路変更のハンチングなど、乗員に心理的圧迫や不快感を与える可能性がある走行動作を抑制することができる。したがって、より安全な走行が可能となるとともに、乗員の乗り心地を向上させることができる。また、加減速や経路変更のハンチングが抑制されることで効率的な走行動作が行われるようになり、CO2の排出量削減など、環境への負荷が軽減される。
【0065】
(4)所定領域は第1領域(領域AR1)である。領域設定部142は、認識部141により対象物が認識されるまでは、領域AR1を所定領域として設定する一方、対象物が認識されると、自車両101から第2距離離れた位置における車幅方向の領域の長さが領域AR1よりも長い第2領域(領域AR2)を所定領域として設定する。これにより、一度捕捉された対象物がその後も継続して捕捉されやすくなるので、より安全な走行が可能となる。
【0066】
(5)領域設定部142は、対象物の認識結果に対する信頼度を算出し、信頼度が所定の閾値TH1未満であるとき、領域AR1を所定領域として設定する一方、信頼度が閾値TH1以上になると、領域AR2を所定領域として設定する。これにより、対象物の認識精度を考慮した捕捉領域の設定が行われるようになり、遠方の対象物が誤って捕捉される頻度を減少させることができる。したがって、遠方の対象物の位置の誤認識により発生する加減速や経路変更のハンチングをさらに抑制することができる。
【0067】
(6)領域設定部142は、対象物との相対距離が長いほど、信頼度を低く算出する。これにより、自車両との相対距離が長い対象物ほど捕捉されづらくなり、遠方の対象物の位置の誤認識により発生する加減速や経路変更のハンチングをさらに抑制することができる。
【0068】
上記実施形態は、種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、カメラ1aにより自車両の周囲の状況を検出するようにしたが、自車両の周囲の状況を検出するのであれば、車載検出器の構成はいかなるものでもよい。例えば、車載検出器は、レーダやライダであってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、認識部141は、対象物として車両を認識し、走行制御部161が、自車両が認識部141により認識された車両の側方を通過するようにアクチュエータACを制御するようにした。しかしながら、認識部は、対象物として車両以外の物体を認識し、走行制御部は、自車両がその物体の側方を通過するように走行用のアクチュエータを制御してもよい。例えば、認識部は、対象物として、工事区間や、工事区間に設置されたロードコーンや車両誘導用の人型ロボット、道路上の落下物などを認識してもよい。また、上記実施形態では、領域設定部142が信頼度算出部としてカメラ1aの撮像画像に基づいて認識精度(信頼度)を算出するようにしたが、信頼度算出部の構成はこれに限定されず、領域設定部142とは別に信頼度算出部が設けられていてもよい。また、信頼度算出部は、レーダやライダにより取得されたデータに基づいて信頼度を算出してもよい。さらに、信頼度算出部は、車載検出器の種類(カメラ、レーダ、ライダ)やその個数に基づいて、対象物との相対距離に応じて算出する信頼度を変化させてもよい。例えば、カメラのみを車載検出器として使用した場合よりもカメラ、レーダおよびライダを車載検出器として使用した場合に算出される信頼度を高く算出してもよい。また、カメラを1台のみ使用した場合よりもカメラを複数台使用した場合に算出される信頼度を高く算出してもよい。信頼度を変化させる方法としては、カメラやレーダ、ライダの性能等に基づき予め定めた係数を信頼度に乗算してもよいし、その他の方法が用いられてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、自車両101が走行する道路が直線道路である場合を例にしたが、走行制御装置50は、自車両101が他の形状(カーブなど)の道路を走行している場合も同様に、図5の処理を実行して自車両101の走行動作を制御する。この場合、捕捉領域(領域AR1,AR2)は、図4A,4Bに示す例と同様に車線の中心線に沿って設定される。これにより、道路の形状に合わせた捕捉領域が設定される。また、上記実施形態では、自車両101が片側2車線の道路を走行している場合を例にしたが、走行制御装置50は、自車両101が片側3車線以上の道路を走行している場合も同様に、図5の処理を実行して自車両101の走行動作を制御する。この場合、自車両101が走行する車線の両側に隣接車線が存在するとき、例えば、自車両101が片側3車線の道路の中央の車線を走行しているときには、安全性を考慮して、ステップS4で常に経路変更不可と判定してもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、対象物が捕捉されると、領域設定部142が、捕捉領域を領域AR1から領域AR2に切り換えることで領域を拡大するようにした。しかしながら、領域設定部の構成はこれに限定されない。
【0072】
例えば、領域設定部は、経路変更制御が行われて自車両101の走行経路が変更されたときに、経路変更制御による走行経路の車幅方向の移動量を考慮して、領域AR2の位置(車幅方向の位置)を補正(オフセット)してもよい。具体的には、経路変更制御により走行経路が対象物から車幅方向に離れる方向に移動したとき、領域設定部は、その移動量(オフセット量)分だけ領域AR2が車幅方向に移動するように、領域AR2の位置を設定してもよい。図11は、捕捉領域(領域AR2)のオフセットを説明するための図である。図11には、図4Bに示すような状況において、自車両101が位置p111から位置p112までの範囲において他車両102から離れるように右側(図4Bの下側)に経路変更する様子が示されている。実線TRは自車両101の走行経路(目標走行経路)を表す。また、破線で示す領域OFは、自車両101の走行経路TRに沿ってオフセットされた領域AR2を模式的に表す。図11に示すように、自車両101が経路変更するとき、領域設定部は、領域AR2の中心位置が走行経路TRに重なるように、領域Aの位置を補正(オフセット)する。これにより、自車両101が経路変更するときにも捕捉領域が適切な位置に設定されるので、より安全な走行動作を行うことができる。
【0073】
また例えば、領域設定部は、認識部により対象物の側方を経路変更および減速せずに通過する他車両(自車線の前方を走行する先行車両)が認識されたときには、捕捉領域を車幅方向に狭めるように縮小してもよい。これにより、対象物の側方を通過する際に不要な経路変更および減速が行われることを抑制でき、乗員の乗り心地を向上させるとともに、CO2の排出量削減など、環境への負荷を軽減できる。なお、領域設定部が捕捉領域を縮小する代わりに、走行制御部が経路変更制御および減速制御を実行しないようにしてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、走行制御装置50を自動運転車両に適用したが、走行制御装置50は、自動運転車両以外の車両にも適用可能である。例えば、ADAS(Advanced driver-assistance systems)を備える手動運転車両にも走行制御装置50を適用することができる。さらに、走行制御装置50をバスやタクシーなどに適用することで、バスやタクシーが他車両の側方をスムーズに通過することが可能となり、公共交通機関の利便性を向上させることができる。また、バスやタクシーの乗員の乗り心地を向上させることができる。
【0075】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1a カメラ、10 コントローラ、50 走行制御装置、141 認識部、142 領域設定部、161 走行制御部、AC アクチュエータ、100 車両制御システム
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11