IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

特許7604345気象レーダ装置およびコンピュータプログラム
<>
  • 特許-気象レーダ装置およびコンピュータプログラム 図1
  • 特許-気象レーダ装置およびコンピュータプログラム 図2
  • 特許-気象レーダ装置およびコンピュータプログラム 図3
  • 特許-気象レーダ装置およびコンピュータプログラム 図4
  • 特許-気象レーダ装置およびコンピュータプログラム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】気象レーダ装置およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
G01S13/95
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021152828
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023044787
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】末澤 卓
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文彦
(72)【発明者】
【氏名】木田 智史
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-106471(JP,A)
【文献】特開2016-050787(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3128344(EP,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2796892(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
G01W 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測覆域に向けて送信したパルス信号の反射エコーに基づいて、気象を観測する気象レーダ装置において、
前記観測覆域のうち、クラッタを低減するクラッタ低減処理の要否の検証対象となる位置の情報を取得する位置取得部と、
前記位置取得部が情報を取得した位置の近傍について、観測結果に基づき降水の有無を判定する降水判定部と、
前記降水判定部が降水無しと判定した場合に、前記検証対象の位置の観測結果に対して、降水有りと判定した場合よりも相対的に強い前記クラッタ低減処理を施す低減処理部と、
を具備する気象レーダ装置。
【請求項2】
前記位置取得部は、オペレータからの指示に基づいて、前記位置の情報を取得する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項3】
前記位置取得部は、過去の観測結果に基づいて、前記位置の情報を取得する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項4】
前記位置取得部は、過去の観測結果に基づいて、予め設定した閾値以上のドップラ速度成分が継続的に観測される位置の情報を取得する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項5】
前記降水判定部は、前記位置の近傍の観測結果と予め設定した閾値との比較に応じて、降水の有無を判定する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項6】
前記降水判定部は、前記位置の外周が全体にわたって降水がある場合に、降水有りと判定する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項7】
前記降水判定部は、前記位置の外周の少なくとも一部に降水がある場合に、降水有りと判定する、請求項1に記載の気象レーダ装置。
【請求項8】
観測覆域に向けて送信したパルス信号の反射エコーに基づいて、気象を観測する気象レーダ装置で用いられるコンピュータのプログラムであって、
コンピュータを、
前記観測覆域のうち、クラッタを低減するクラッタ低減処理の要否の検証対象となる位置の情報を取得する位置取得部と、
前記位置取得部が情報を取得した位置の近傍について、観測結果に基づき降水の有無を判定する降水判定部と、
前記降水判定部が降水無しと判定した場合に、前記検証対象の位置の観測結果に対して、降水有りと判定した場合よりも相対的に強い前記クラッタ低減処理を施す低減処理部と、
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、気象レーダ装置およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーの需要増大に伴って、風力発電機(風車)が各地に設置されている。一方、気象レーダは、観測範囲を広げるために見通しのよい場所に設置されるため、風通しのよい場所に設置される風車が観測覆域内に設置されることがある。
【0003】
気象レーダ装置は、動いている目標をドップラ情報に基づいて検出するが、地上や洋上に設置された風力発電設備が備えるロータブレードなどの回転構造物を検出してしまい、例えば、表示装置の表示で混乱を来し得る。
【0004】
これに対して従来は、誤警報の原因となる構造物の方向に対して、強制的に観測値を無効値化する処理を適用していた。しかしながら、無効値化による単純な処理では、例えば、晴天時にのみ大きな影響があり降雨時には影響が小さくなるようなクラッタに対しても処理が施されるため、必要な降水エコーについても誤除去してしまうおそれがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kong, F., Y. Zhang, R. Palmer, "Wind Turbine Clutter Mitigation for Weather Radar by Adaptive Spectrum Processing," 2012 IEEE Radar Conference, Atlanta, GA, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、レーダ覆域に回転構造物が存在する場合でも、降水エコーの誤除去を抑制することが可能な気象レーダ装置およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の気象レーダ装置は、観測覆域に向けて送信したパルス信号の反射エコーに基づいて、気象を観測する。上記気象レーダ装置は、位置取得部と、降水判定部と、低減処理部とを備える。位置取得部は、観測覆域のうち、クラッタを低減するクラッタ低減処理の要否の検証対象となる位置の情報を取得する。降水判定部は、位置取得部が情報を取得した位置の近傍について、観測結果に基づき降水の有無を判定する。低減処理部は、降水判定部が降水無しと判定した場合に、検証対象の位置の観測結果に対して、降水有りと判定した場合よりも相対的に強いクラッタ低減処理を施す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】この発明に係わる気象レーダ装置の構成例を示す図。
図2図1に示した気象レーダ装置の解析処理のフローチャート。
図3】レーダ覆域内の要検証ビンと周辺ビンの位置関係を説明するための図。
図4図3に示した周辺ビンと降水エリアの位置関係を説明するための図。
図5】レーダ覆域内に林立する風車のエコーの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係わる気象レーダ装置10の構成を示すものである。
【0010】
この気象レーダ装置10は、レーダ覆域(観測覆域)内の気象状況の観測に用いられるものであって、アンテナから電磁波(パルス信号)を放射(送信)し、観測対象から反射して返ってくる電磁波(反射エコー)を受信して分析することで、雨や雪の位置や密度、風速や風向などを観測する。
【0011】
図1に示すように、気象レーダ装置10は、気象レーダ11、レーダ信号処理部12、通信インターフェイス(I/F)13、RAWデータ処理部14、RAWデータ格納部15、レーダデータ解析部16を少なくとも備える。
【0012】
気象レーダ11は、アンテナを使用して、所定の周期でレーダ覆域に向けて電磁波を放射し、例えば、大気中の雨や雪によって反射される電磁波(反射波信号)を受信する。なお、レーダ覆域内に、建造物、山、海や河川、風力発電設備の風車などが存在する場合には、これらからの反射波もクラッタとして受信することになる。
【0013】
レーダ信号処理部12は、気象レーダ11により受信された反射波信号に対して、増幅処理や復調処理、パルス圧縮処理などの信号処理を施し、さらにA/D変換して、レーダ信号を得る。
【0014】
通信I/F13は、レーダ信号処理部12によって得られたレーダ信号をRAWデータ処理部14に伝送する。すなわち、レーダ信号処理部12と、RAWデータ処理部14とが離れた位置に設けられ、通信I/F13によって情報伝送が行われる。
【0015】
RAWデータ処理部14は、レーダ信号処理部12からのレーダ信号に基づいて、レーダ覆域についての3次元観測データ(RAWデータ)を生成する。なお、この3次元観測データは、レーダ覆域を走査した1周期分の単位で生成される。
【0016】
RAWデータ格納部15は、RAWデータ処理部14により生成される3次元観測データを1周期分(例えば30秒間)毎に格納する。
【0017】
レーダデータ解析部16は、RAWデータ格納部15から3次元観測データを取り出して解析処理を施し、レーダ覆域についての気象データ100を得る。すなわち、レーダデータ解析部16は、位置取得部、降水判定部、低減処理部の一例である。なお、レーダデータ解析部16は、プロセッサ(コンピュータ)がメモリに記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行することにより実現できる。
【0018】
以上のようにして得られた気象データ100は、後段の表示装置(図示しない)に出力される。表示装置は、例えば、気象レーダ11を中心としたレーダ覆域内における降水の状況などを、2次元あるいは3次元で視覚的に示す。
【0019】
次に、図2を参照して、レーダデータ解析部16による解析処理について説明する。図2は、この解析処理を説明するためのフローチャートである。なお、以下の説明では、説明を簡明にするために、ビン単位で処理を行う場合を例に挙げて説明するが、例えば、ビン以下のサイズのメッシュにレーダ覆域を分割し、そのメッシュ単位で同様の処理を行うようにしてもよい。
【0020】
ステップS201においてレーダデータ解析部16は、RAWデータ格納部15から3次元観測データを読み出して解析し、レーダ覆域についてビン毎の観測値(受信電力レベルや位相差など)を計測して求め、ステップS202に移行する。
【0021】
具体的には、レーダデータ解析部16は、レーダ覆域をセクタ方向とレンジ方向でメッシュ化した観測ビン(観測メッシュ)を1つの観測領域として観測値を求める。なお、セクタ方向とは気象レーダ11を極座標の中心とした上記中心周りの回転方向であって、一方、レンジ方向とは上記中心からの距離方向である。
【0022】
すなわち、レーダデータ解析部16は、観測ビンの位置をセクタとレンジによって定義し、観測ビン毎に複数の周期の3次元観測データを平均化して用いて、それぞれの観測ビンにおける観測値を求める。
【0023】
なお、観測値の計測に先立って、レーダデータ解析部16は、MTI(Moving Target Indicator)処理、パルス圧縮処理、パルスドップラ処理、CFAR(Constant False Alarm Rate)検出処理などを適宜実施する。
【0024】
ステップS202においてレーダデータ解析部16は、例えば、観測値が予め設定した閾値よりも高い、あるいは、所定時間以上にわたって閾値以上の観測値が発生する(閾値以上のドップラ速度成分が所定時間以上にわたって観測される)など、風車の存在が疑われる観測ビン(以下、要検証ビンと称する)の位置を検出し、ステップS203に移行する。
【0025】
なお、この例では、風車の存在が疑われる観測ビンをレーダデータ解析部16が観測値に基づいて検出する場合を例に挙げて説明するが、図示しないヒューマンインタフェースを通じて、オペレータが風車の存在が疑われる観測ビン(あるいは、その位置)を指定(教示)するようにしてもよい。または、風車の位置を示したマップデータに基づいて、対応する観測ビンを検出するようにしてもよい。
【0026】
ステップS203においてレーダデータ解析部16は、ステップS202で検出した要検証ビンに隣接する周辺の観測ビン(以下、周辺ビンと称する)を検出し、この周辺ビンについて複数の周期の3次元観測データに基づく観測値を算出し、ステップS204に移行する。
【0027】
ここで、図3を参照して、要検証ビンと周辺ビンの具体的な位置関係について説明する。図3は、レーダ覆域Rを示すものであって、この中心には気象レーダ11のアンテナが存在する。また領域Aは要検証ビンを示し、ハッチングされた領域Bは周辺ビンを示す。ステップS203においてレーダデータ解析部16は、周辺ビン、すなわち、領域Bについて複数の周期の3次元観測データに基づく観測値(例えば、平均の観測値)を算出する。
【0028】
ステップS204においてレーダデータ解析部16は、ステップS203で算出した観測値と、予め設定した閾値とを比較することにより、周辺ビンにおける降水の有無を判定する。すなわち、上記閾値は、降水エコーの有無を判定するための値が設定される。
【0029】
具体的には、レーダデータ解析部16は、図3における領域Bの観測値を降水エコーであるか否かを判定するための閾値と比較し、降水エコーの有無を判定する。ここで、上記観測値が閾値以上の場合には、降水エコーである(降水あり)とみなしてステップS205に移行し、一方、上記観測値が閾値未満の場合には、降水エコーがない(降水なし)とみなしてステップS206に移行する。
【0030】
また降水の有無の判定は、領域Aの外周が全体(全周)にわたって降水があるか否かを判定してもよい。すなわち例えば、領域Aの外周の少なくとも一部に降水がある場合に、降水があると判定してもよい。
【0031】
ステップS205においてレーダデータ解析部16は、要検証ビンの周囲の周辺ビンから降水エコーが検出されなかったことより、図4(a)に示すように、周辺ビンが降水エリアP内にはないと見なされ、要検証ビンの観測値に対して風車クラッタ低減処理を施し、当該処理を終了する。
【0032】
なお、風車クラッタ低減処理の一例としては、ドップラ速度成分が0となるように値を置き換える処理などによって、要検証ビンの観測値を強制的に無効値化してクラッタを除去する。
【0033】
一方、ステップS206においてレーダデータ解析部16は、要検証ビンの周囲の周辺ビンから降水エコーが検出されたことより、図4(b)に示すように、周辺ビンの一部が降水エリアP内にあったり、あるいは、図4(c)に示すように、周辺ビンの全部が降水エリアP内にあると見なされ、要検証ビンの観測値に対して風車クラッタ低減処理を施すことなく(あるいは、低い強度の風車クラッタ低減処理を施し)、当該処理を終了する。
【0034】
すなわち、ステップS206では、ステップS205と比べて、相対的に弱い風車クラッタ低減処理を施していると解釈することも可能である。
【0035】
以上のように、上記構成の気象レーダ装置では、風車の存在が疑われる要検証ビンの周辺ビンについて、降水エコーの有無を判定する。そして、降水エコーが検出されない場合には、要検証ビンの観測値に対して風車クラッタ低減処理を施し、降水エコーが検出された場合には、降水エコーが検出されない場合に比べて相対的に低い強度の風車クラッタ低減処理を施すようにしている。
【0036】
したがって、上記構成の気象レーダ装置によれば、気象観測のために用いられるレーダ解析データのうち、回転構造物が存在が強く疑われる観測ビンに対してのみ観測値を低減させることができ、降水エコーの誤除去を抑制することができる。
【0037】
例えば、図5に示すように、海岸線などに多数の風車が林立していると、風車クラッタの影響が表示装置の表示に表れて非常に見にくいものとなるが(図5中の矢印で指す部分)、降水エコーが検出されない場合には、風車クラッタ低減処理を施して、降水と混同するような表示を抑制できる。降水エコーが検出される場合には、誤除去を抑制することができる。
【0038】
また例えば、気象レーダ11の近くに大きなタワーやビルディングが存在することで、、鏡像エコーが発生することがある。このような場合でも、降雨がない場合にはクラッタ低減処理が施されるので、鏡像エコーを低減することができる。
【0039】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって種々の発明を形成できる。また例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除した構成も考えられる。さらに、異なる実施形態に記載した構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10…気象レーダ装置、11…気象レーダ、12…レーダ信号処理部、13…通信インターフェイス、14…RAWデータ処理部、15…RAWデータ格納部、16…レーダデータ解析部、100…気象データ。
図1
図2
図3
図4
図5