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  • 特許-盛土の復旧工事の施工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】盛土の復旧工事の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
E02D17/18 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021208572
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2023093136
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 慶太
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】笠原 康平
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武斗
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169451(JP,A)
【文献】特開2010-077639(JP,A)
【文献】特開2006-225926(JP,A)
【文献】特開2015-183364(JP,A)
【文献】特開2007-277910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面が崩壊した盛土を復旧する工事の施工方法であって、
応急工事を行った後、本復旧工事を行い、
前記応急工事は、
崩壊した前記斜面を階段状に整形する工程と、
整形された階段状の面に沿って面状補強材を敷設する工程と、
前記面状補強材の上に土のうを設置する工程と、を含み、
前記本復旧工事は、
前記土のうを撤去する工程と、
前記土のうを撤去した位置の前記面状補強材の上から前記斜面に向けて棒状補強材を挿入する工程と、
前記土のうを撤去する工程と前記棒状補強材を挿入する工程とをこの順で繰り返し行う工程と、
前記土のうを全て撤去した後の、階段状に敷設された前記面状補強材の各段の上に盛土補強材を敷設する工程と、
前記盛土補強材の上から本復旧材を施工する工程と、を含むことを特徴とする、盛土の復旧工事の施工方法。
【請求項2】
前記本復旧工事は、前記盛土の内部の水を前記盛土の外部へ排水する排水管を設ける工程を含むことを特徴とする、請求項に記載の盛土の復旧工事の施工方法。
【請求項3】
前記面状補強材は、ジオテキスタイルであることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の盛土の復旧工事の施工方法。
【請求項4】
前記棒状補強材は、基端に前記面状補強材への定着部を有する鉄筋であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の盛土の復旧工事の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然災害等で斜面が崩壊した盛土の復旧工事の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震や豪雨などの大規模自然災害により、鉄道用あるいは道路用に形成された盛土の斜面が崩壊した際には、交通機能を早急に回復させるために、迅速な復旧が要求される。通常、迅速な復旧を行うために、安価で手に入りやすく施工性がよい大型土のうが用いられることが多いが、大型土のうはあくまでも仮設材であり、恒久構造物としては使用できない。大型土のうを残置したまま覆土し盛土を再構築すると、大型土のうが土中で破損したり、応急工事の際に生じる大型土のう同士の隙間に水みちが生じることで盛土が沈下する等、不安定になることがある。また、固化させる際に固化材を浸透させるのが困難であるという問題がある。さらに、地震時に大型土のうが境界面となり盛土が不安定になることがある。したがって、本復旧工事を行う際には、大型土のうを撤去して恒久的な復旧工事を行う必要がある。
【0003】
ところが、盛土の斜面が崩壊した状態で、仮設材である大型土のうを撤去すると、鉄道を走行する列車荷重に対して十分な安定が保てないため、列車運行時間外の限られた時間で撤去から本復旧までを行わなければならない。
【0004】
非特許文献1には、大型土のうとジオテキスタイルを組み合わせて、大型土のうを本復旧時に残置させて構造物として適用することにより、作業時間を短縮できる盛土復旧方法が開示されている。
【0005】
一方、大型土のうで応急復旧し、本復旧時に列車等を運行しながら大型土のうを撤去する場合、従来、杭や鋼矢板による仮土留めを施工することがある。非特許文献2には、仮土留め構造として鋼矢板を打設する復旧方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】森芳徳、宮武裕昭、久保哲也、井上玄己:大規模土砂災害に対応した新しい災害復旧技術に関する研究、土木学会第71回年次学術講演会、2016
【文献】遠藤大輔、滝田正樹:田沢湖線8.9降雨の被災概況と竜川橋梁の復旧、土木学会第69回年次学術講演会、2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示されている方法は、大型土のうの短期的な耐久性は確認されているものの、長期的な耐久性は確認されていない。また、非特許文献2に開示されているように杭や鋼矢板による仮土留めを行う方法は、クレーン等の大規模な機材が必要であり、多くのコストや工期を要するという問題点がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、斜面が崩壊した盛土の復旧において、仮土留め工事を省略しても、列車等の運行時にも安定を保つことができ、本復旧までを迅速に行うことができる盛土の復旧工事の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明は、斜面が崩壊した盛土を復旧する工事の施工方法であって、応急工事を行った後、本復旧工事を行い、前記応急工事は、崩壊した前記斜面を階段状に整形する工程と、整形された階段状の面に沿って面状補強材を敷設する工程と、前記面状補強材の上に土のうを設置する工程と、を含み、前記本復旧工事は、前記土のうを撤去する工程と、前記土のうを撤去した位置の前記面状補強材の上から前記斜面に向けて棒状補強材を挿入する工程と、前記土のうを撤去する工程と前記棒状補強材を挿入する工程とをこの順で繰り返し行う工程と、前記土のうを全て撤去した後の、階段状に敷設された前記面状補強材の各段の上に盛土補強材を敷設する工程と、前記盛土補強材の上から本復旧材を施工する工程と、を含むことを特徴としている。
【0010】
記本復旧工事は、前記盛土の内部の水を前記盛土の外部へ排水する排水管を設ける工程を含むことが好ましい。
【0011】
前記面状補強材は、ジオテキスタイルでもよい。また、前記棒状補強材は、基端に前記面状補強材への定着部を有する鉄筋でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応急復旧時に大型土のうの背面に面状補強材を敷設し、本復旧時に棒状補強材を用いて面状補強材を固定しながら大型土のうを段階的に撤去することで、大型土のうを撤去しても列車等の荷重に対して安定を保つことができる。したがって、大規模な機材等を要する仮土留め工事を省略することができ、迅速に復旧工事を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態にかかる応急工事の工程順を説明する断面図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる本復旧工事において、土のうを段階的に撤去する工程を示し、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図3】本発明の実施の形態にかかる本復旧工事において、土のうを撤去した位置に棒状補強材を挿入する工程を示し、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図4】本発明の実施の形態にかかる本復旧工事において、全ての土のうを撤去し、棒状補強材を挿入した状態を示し、(a)は断面図、(b)は側面図である。
図5】本発明の実施の形態にかかる本復旧工事において、土のうを全て撤去した後の面状補強材の上に本復旧材を施工した状態を示す断面図である。
図6】本発明の実施の形態にかかる本復旧工事において、図5とは異なる本復旧材を施工した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
図1図4は、本発明の実施形態にかかる盛土の復旧工事の施工方法の工程の例を示す。以下、本実施形態では、鉄道用盛土を例として復旧工事の施工手順について説明する。
【0016】
地震や豪雨などの自然災害により、図1(a)に示すように、鉄道用に形成された盛土10の斜面11が崩壊した際には、先ず応急的な復旧工事を行う。図1(b)~(e)は、応急工事の工程順を示す。先ず、崩壊した斜面11を階段状に整形し(図1(b))、整形した面に沿って階段状に、面状補強材21を敷設する(図1(c))。面状補強材21としては、一般的なジオテキスタイル等が用いられる。その後、面状補強材21の上に大型土のう22を積み上げていき(図1(d))、所定の高さまで積み上げたところで(図1(e))、応急工事が完了する。この状態で、盛土10上の列車31の運行が可能となる。
【0017】
応急工事が完了すると、その後、本復旧工事を行う。図2図4は、本復旧工事の工程順を示す。本復旧時には、先ず、図2に示すように、応急工事で積み上げた大型土のう22を段階的に撤去する。図2(a)は盛土10の断面図、図2(b)は斜面11を側方から見た図である。図2の例では高い位置から同じ高さの大型土のう22を適宜間隔で撤去しているが、各段について水平方向に適宜間隔で順次撤去してもよい。こうして面状補強材21が露出した部分に、面状補強材21の上から斜面11に向けて、図3に示すように棒状補強材23を挿入する。棒状補強材23は、手作業で斜面11に打ち込めるものが好ましく、例えば異形棒鋼やロックボルト等が用いられる。面状補強材21が網目状の場合には、網目の開口部分に棒状補強材23を差し込む。このとき、棒状補強材23全体が網目の中に入り込んでしまわないように、棒状補強材23の基端部に定着部材24を設け、定着部材24を面状補強材21の表面に定着させることが好ましい。
【0018】
図4(b)に示すように、棒状補強材23は、階段状に敷設された面状補強材21の各段で例えば千鳥配置となるように盛土10の長手方向において交互に配置し、面状補強材21の全面にわたって略均等に設けることが好ましい。棒状補強材23の径や本数等は、当該斜面11の状態や盛土10上を走行する列車31等によって求められる強度を満たすように設計する。
【0019】
大型土のう22の背面側に面状補強材21を敷設していることにより、大型土のう22を段階的に撤去しているときでも、面状補強材21の張力と周辺の大型土のう22の重量および棒状補強材23で、列車31の荷重に対する斜面11の安定を確保することができる。したがって、大型土のう22の撤去中にも、列車31の運行が可能である。また、図4に示すように大型土のう22による抑えがなくなったときでも、面状補強材21の張力と棒状補強材23により、徐行時の列車31の荷重であれば、十分に斜面11の安定を保つことができる。
【0020】
大型土のう22を全て撤去し、面状補強材21の全面にわたって棒状補強材23を挿入した後、図5に示すように、本復旧材25として、面状補強材21の上に補強盛土を施工して、本復旧工事が完了する。補強盛土を施工する際には、階段状に整形した斜面11の各段に、シート状の盛土補強材26を敷設することが好ましい。また、本復旧材25を含めた盛土10の内部で発生する水を盛土10の外部に排水するための排水管27を適宜間隔で設けることが好ましい。
【0021】
以上のように、本実施形態によれば、応急工事が完了した後、大型土のうを撤去する際に大規模な仮土留め工事を行わなくても、列車等の運行を止めることなく本復旧工事を行うことができる。したがって、盛土上を走行する車両や列車の通行を止める時間を最小限とし、迅速に、崩壊した盛土10の斜面11を復旧することができる。また、面状補強材21を斜面11に固定し、その上に本復旧材25で押さえつけているため、復旧後の盛土の耐震性を高めることができる。また、本復旧材25により、長期にわたる紫外線や降雨等から面状補強材21を保護し、耐久性を高めることができる。
【0022】
なお、本発明において、本復旧材25は補強盛土に限らない。例えば図6に示すように、金属や強化繊維等で形成されたかご枠25aを本復旧材とし、面状補強材21の上に設置してもよい。あるいは、面状補強材21にコンクリートを被覆してもよい。
【0023】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、大規模自然災害等により斜面が崩壊した盛土の復旧方法として有用である。
【符号の説明】
【0025】
10 盛土
11 斜面
21 面状補強材
22 土のう
23 棒状補強材
24 定着部材
25 本復旧材
26 盛土補強材
27 排水管
31 列車
図1
図2
図3
図4
図5
図6