(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】ベンゾチアゾール化合物の薬学的塩、多形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 417/04 20060101AFI20241216BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20241216BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241216BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
C07D417/04
A61K31/4439
A61P25/28
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021557547
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 IB2020052931
(87)【国際公開番号】W WO2020194260
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-23
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520116713
【氏名又は名称】ファースト・バイオセラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】1ST BIOTHERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジンファ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スヨン
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-525970(JP,A)
【文献】特表2012-512881(JP,A)
【文献】特表2012-512885(JP,A)
【文献】特開2018-108981(JP,A)
【文献】特表2008-513471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 417/04
A61K 31/00
A61P 25/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド
(化合物I)又はその薬学的に許容し得る塩の結晶であって、
該結晶は、下記:
9.8±0.2、11.6±0.2、13.2±0.2、14.0±0.2、16.7±0.2、17.6±0.2、20.6±0.2、22.9±0.2、26.2±0.2、29.3±0.2、30.7±0.2、31.6±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iの遊離塩基の結晶、
6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iの塩酸塩の結晶、
8.7±0.2、10.9±0.2、12.9±0.2、15.4±0.2、16.4±0.2、18.9±0.2、20.3±0.2、22.1±0.2、22.7±0.2、24.9±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iの硫酸塩の結晶、
9.4±0.2、10.1±0.2、14.8±0.2、18.0±0.2、23.0±0.2、25.4±0.2、29.2±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iのマレイン酸塩の結晶、
5.3±0.2、10.6±0.2、17.2±0.2、19.8±0.2、26.5±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iのフマル酸塩の結晶、
5.1±0.2、10.2±0.2、15.2±0.2、18.6±0.2、20.5±0.2、21.9±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iのメシル酸塩の結晶、及び
6.6±0.2、13.9±0.2、15.9±0.2、22.0±0.2、23.8±0.2、24.6±0.2、26.8±0.2の回折角(2θ)にピークを有する
、化合物Iの二塩酸塩の結晶
からなる群より選択される、結晶。
【請求項2】
該結晶が、9.8±0.2、11.6±0.2、13.2±0.2、14.0±0.2、16.7±0.2、17.6±0.2、20.6±0.2、22.9±0.2、26.2±0.2、29.3±0.2、30.7±0.2、31.6±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの遊離塩基の結晶であり、
該結晶が、267℃の開始融点及び268℃のピーク温度を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項3】
該結晶が、6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する、化合物Iの塩酸塩の結晶であり、
該結晶が、240℃の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項4】
該結晶が、8.7±0.2、10.9±0.2、12.9±0.2、15.4±0.2、16.4±0.2、18.9±0.2、20.3±0.2、22.1±0.2、22.7±0.2、24.9±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの硫酸塩の結晶であり、
該結晶が、212℃の第1の融点及び229℃の第2の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項5】
該結晶が、9.4±0.2、10.1±0.2、14.8±0.2、18.0±0.2、23.0±0.2、25.4±0.2、29.2±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iのマレイン酸塩の結晶であり、
該結晶が、174℃の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項6】
該結晶が、5.3±0.2、10.6±0.2、17.2±0.2、19.8±0.2、26.5±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iのフマル酸塩の結晶であり、
該結晶が、227℃の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項7】
該結晶が、5.1±0.2、10.2±0.2、15.2±0.2、18.6±0.2、20.5±0.2、21.9±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iのメシル酸塩の結晶であり、
該結晶が、194℃の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項8】
該結晶が、6.6±0.2、13.9±0.2、15.9±0.2、22.0±0.2、23.8±0.2、24.6±0.2、26.8±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの二塩酸塩の結晶であり、
該結晶が、168℃の融点を有する、請求項1記載の結晶。
【請求項9】
請求項1記載の結晶と、少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体とを含む、組成物。
【請求項10】
該結晶が、6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの塩酸塩の結晶であり、
該結晶が、240℃の融点を有する、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
神経変性疾患を処置するための医薬組成物であって、治療上有効量の請求項1記載の結晶を含む医薬組成物。
【請求項12】
該結晶が、6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの塩酸塩の結晶であり、
該結晶が、240℃の融点を有する、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
神経変性疾患が、α-シヌクレイン症、パ-キンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項11又は12記載の医薬組成物。
【請求項14】
神経変性疾患を処置するための医薬の製造における、請求項1記載の結晶の使用。
【請求項15】
該結晶が、6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有
する化合物Iの塩酸塩の結晶であり、
該結晶が、240℃の融点を有する、請求項14記載の使用。
【請求項16】
神経変性疾患が、α-シヌクレイン症、パ-キンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)である、請求項14又は15記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年3月28日に出願された米国仮出願第62/825,102号の利益及びそれに対する優先権を主張する。この段落において特定された出願の開示全体は、参照により明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は一般に、酵素阻害活性を有する化合物の塩及び多形体、該化合物を製造するための方法並びに障害を処置するために化合物を使用する方法に関する。
【0003】
背景
α-シヌクレインは、β-及びγ-シヌクレイン及びシノレチンを含むタンパク質の大きなファミリーの一部である。α-シヌクレインは、シナプスに関連する正常状態で発現し、神経可塑性、学習及び記憶において役割を果たすと考えられる。幾つかの研究により、α-シヌクレインは、パーキンソン病の病因における中心的役割に関連付けられている。タンパク質のミスフォールディング及び凝集を増大させるα-シヌクレインタンパク質の分子変化は、疾患の病因に直接的な役割を果たす。α-シヌクレインの凝集は、パーキンソン病及びα-シヌクレイン症の病理学的特徴である、レビー小体及び神経突起の形成に寄与する。チロシンキナーゼc-ablの活性化は、α-シヌクレイン誘引神経変性に寄与する。
【0004】
チロシンキナーゼc-ablは、成長、生存及びストレス応答を含む広い範囲の細胞プロセスに関与する、厳密にレギュレーションされた非レセプタータンパク質チロシンキナーゼであり(Nat Rev Mol Cell Biol, 2004, 5:33-44)、c-ablは、幾つかの細胞プロセスのレギュレーションに関与し、神経発生を制御することにより中枢神経系の発達に関与している。さらに近年では、種々の実験モデル系からの証拠が増え、c-ablが、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ニーマン-ピックC型疾患及びタウオパシーにおいて活性化されることも明らかになっている(Human Molecular Genetics, 2014, Vol. 23, No.11)。
【0005】
ストレスシグナル伝達性の非レセプターチロシンキナーゼc-ablは、チロシンリン酸化を介して、散発型のパーキンソン病をパーキンと結び付けている。c-ablによるパーキンのチロシンリン酸化は、パーキン機能の喪失及び散発性パーキンソン病における疾患の進行をもたらす主な翻訳後修飾である。c-ablの阻害は、パーキンソン病の進行を阻止する新たな治療機会を提供する(The Journal of Neuroscience, 2011, 31(1):157-163)。筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、進行性の運動ニュ-ロン死を特徴とする致命的な神経変性疾患である。低分子干渉RNA(siRNA)によるc-ablのノックダウンによっても、ALS運動ニュ-ロン変性が救済された(Imamura et al., Sci. Transl. Med. 9, 2017)。多系統萎縮症(MSA)は、現在処置が一切存在しない、稀で急速に進行する神経変性疾患である。MSAでは、黒質、線条体、オリーブ橋小脳構造及び脊髄のニュ-ロン及びオリゴデンドロサイトにα-シヌクレインの蓄積が認められる(J Neural Transm Vienna Austria 1996. 2016;123(6))。
【0006】
トランスジェニック及びレンチウイルス遺伝子導入モデルにおいて、チロシンキナーゼ阻害剤であるニロチニブの投与により、c-abl活性が低下し、α-シヌクレインのオートファジークリアランスが改善される。マウス前脳におけるc-ablの活性化により、海馬及び線条体における神経変性が誘引される。したがって、リン酸化を介したc-abl活性の上昇は、パーキンソン病及び他の神経変性疾患において検出されるα-シヌクレイン病理に関連している可能性がある(Hum Mol Genet. 2013 Aug 15)。
【0007】
米国特許出願第16/148,265号には、α-シヌクレイン症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、レビー小体型認知症及びMSA等の疾患又は障害の処置に有用なc-abl阻害剤としてのベンゾチアゾール化合物が記載されている。本開示には、化合物の物理化学的特性及び溶解性を改善することができる、ベンゾチアゾール化合物の新規な塩及び多形体が記載されている。
【0008】
発明の概要
本開示は、式(I):
【化1】
で示される化合物及びその塩の結晶形並びに該化合物の製造方法を提供する。該化合物は、医薬開発及び工業プロセスに適している。
【0009】
一実施態様では、本開示は、式(I)で示される化合物の塩酸塩、硫酸塩、L-アスパラギン酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、L-(+)-酒石酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、L-リンゴ酸塩及びメタン硫酸塩(methane sulfate)並びにそれらの結晶形を提供する。
【0010】
別の実施態様では、本開示は、(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基を溶媒中で酸と反応させる工程を含む、式(I)で示される化合物の各種の結晶性塩を製造する方法を提供する。
【0011】
結晶形は、X線粉末回折パターン(XRPD)により決定される格子間面間隔により特徴付けることができる。XRPDの回折図は、典型的には、ピークの強度をピークの位置、すなわち、回折角2θ(2シータ)(度)に対してプロットした図で表わされる。強度は、多くの場合、下記略語で括弧内に与えられる:非常に強い=vst;強い=st;中程度=m;弱い=w;及び非常に弱い=vw。所定のXRPDの特徴的なピークは、この結晶構造と他のものとを都合よく区別するために、ピーク位置及びそれらの相対強度に従って選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、式(I)の結晶形の光学顕微鏡写真を示す。
【
図2】
図2は、式(I)のX線粉末回折(XRPD)パターンを示す。
【
図3】
図3は、式(I)の示差走査熱量計(DSC)及び熱重量測定(TGA)を示す。
【
図4】
図4は、種々の溶媒中での式(I)のパターンAのXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図5】
図5は、種々の溶媒中での式(I)の塩酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図6】
図6は、種々の溶媒中での式(I)の硫酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図7】
図7は、種々の溶媒中での式(I)のL-アスパラギン酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図8】
図8は、種々の溶媒中での式(I)のマレイン酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図9】
図9は、種々の溶媒中での式(I)のリン酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図10】
図10は、種々の溶媒中での式(I)のL(+)-酒石酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図11】
図11は、種々の溶媒中での式(I)のフマル酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図12】
図12は、種々の溶媒中での式(I)のクエン酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図13】
図13は、種々の溶媒中での式(I)のL-リンゴ酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図14】
図14は、種々の溶媒中での式(I)のメタンスルホン酸との塩形成の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。1-アセトンから、2-酢酸エチルから、3-アセトニトリルから、4-イソプロパノール/水(95/5、v/v)から
【
図15】
図15は、式(I)の塩酸塩(パターンI)のXRPDパターンを示す。
【
図16】
図16は、式(I)の塩酸塩(パターンI)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図17】
図17は、式(I)の硫酸塩(パターンII)のXRPDパターンを示す。
【
図18】
図18は、式(I)の硫酸塩(パターンII)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図19】
図19は、式(I)のマレイン酸塩(パターンIII)のXRPDパターンを示す。
【
図20】
図20は、式(I)のマレイン酸塩(パターンIII)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図21】
図21は、式(I)のマレイン酸塩(パターンIII)の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図22】
図22は、式(I)のフマル酸塩(パターンIV)のXRPDパターンを示す。
【
図23】
図23は、式(I)のフマル酸塩(パターンIV)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図24】
図24は、式(I)のフマル酸塩(パターンIV)の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図25】
図25は、式(I)のメシル酸塩(パターンV)のXRPDパターンを示す。
【
図26】
図26は、式(I)のメシル酸塩(パターンV)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図27】
図27は、式(I)のメシル酸塩(パターンV)の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図28】
図28は、式(I)の一塩酸塩(パターンI)の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図29】
図29は、式(I)の一塩酸塩及び二塩酸塩の重ね合わせたXRPDパターンを示す。
【
図30】
図30は、式(I)の一塩酸塩(パターンI)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図31】
図31は、式(I)の二塩酸塩(パターンVI)の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図32】
図32は、式(I)の二塩酸塩(パターンVI)のXRPDパターンを示す。
【
図33】
図33は、式(I)の二塩酸塩(パターンVI)の重ね合わせたDSC及びTGAスペクトルを示す。
【
図34】
図34は、25℃でのスラリー実験から得られた固体(パートI)の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図35】
図35は、25℃でのスラリー実験から得られた固体(パートII)の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図36】
図36は、50℃でのスラリー実験から得られた固体(パートI)の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図37】
図37は、50℃でのスラリー実験から得られた固体(パートII)の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図38】
図38は、加熱-冷却実験から得られた固体の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図39】
図39は、低速蒸発実験から得られた固体の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図40】
図40は、貧溶媒実験から得られた固体の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【
図41】
図41は、乾式又は湿式粉砕から得られた固体の重ね合わせたXRPDスペクトルを示す。
【0013】
詳細な説明
以下の記載は、本質的に単なる例示であり、本開示、出願又は使用を制限することを意図するものではない。
【0014】
定義
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る担体」という用語は、薬学的に許容可能であり、本発明の化合物と共に投与される希釈剤、補助剤、賦形剤もしくは担体又は他の成分を指す。
【0015】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る塩」という用語は、所望の薬理活性を増強することができる塩を指す。薬学的に許容し得る塩の例は、無機酸又は有機酸と共に形成される酸付加塩、金属塩及びアミン塩を含む。無機酸と共に形成される酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸との塩を含む。有機酸と共に形成される酸付加塩の例は、例えば、酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、o-(4-ヒドロキシ-ベンゾイル)-安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタン-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-メチル-ビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、グルコ-ヘプトン酸、4,4’-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-ナフトエ)酸、3-フェニルプロピオン酸、トリメチル-酢酸、第三級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシ-ナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸及びムコン酸との塩を含む。金属塩の例は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄及び亜鉛イオンとの塩を含む。アミン塩の例は、アンモニア及びカルボン酸と塩を形成するのに十分な強さの有機窒素塩基との塩を含む。
【0016】
本明細書で使用する場合、「治療上有効量」という用語は、本発明の化合物に適用される場合、障害もしくは疾患状態、又は障害もしくは疾患の症状の進行を、改善し、緩和し、安定化し、逆転させ、遅らせ又は遅延させるのに十分な化合物の量を指すことを意図する。一実施態様において、本発明の方法は、化合物の組み合わせの投与を提供する。このような場合、「治療上有効量」は、意図される生物学的効果を引き起こすのに十分な、組み合わせ中の本発明の化合物の量である。
【0017】
本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」という用語は、本明細書で使用する場合、疾患もしくは障害の進行もしくは重症度を、改善し、もしくは逆転させること、又はこのような疾患もしくは障害の1つ以上の症状もしくは副作用を、改善し、もしくは逆転させることを意味する。本明細書で使用する場合、「処置」又は「処置する」は、疾患もしくは障害の系(system)、容態(condition)、もしくは状態(state)の進行を阻害し、もしくは阻止する(遅延、停止、抑制、妨害又は遮断することでそうなる(as in))ことをも意味する。本発明の目的で、「処置」又は「処置する」は、さらに、有益な又は所望の臨床結果を得るためのアプローチを意味する。この場合、「有益な又は所望の臨床結果」は、部分的であるか全体的であるかに関わらず、症状の軽減、障害又は疾患の程度の減少、安定化された(すなわち、悪化していない)疾患又は障害の状態、疾患又は障害の状態の遅延又は減速、疾患又は障害の状態の改善又は緩和、及び疾患又は障害の寛解を含むが、これらに限定されない。
【0018】
別の実施態様では、式(I)で示される化合物は、プロテインキナーゼc-ablの活性を調節するのに使用される。
【0019】
本明細書で使用する場合、「調節する」又は「調節」という用語は、プロテインキナーゼの触媒活性の変化を指す。特に、「調節する」は、プロテインキナーゼが曝露される化合物もしくは塩の濃度に応じた、プロテインキナーゼの触媒活性の賦活又は阻害、又は、より好ましくは、プロテインキナーゼの触媒活性の阻害を指す。本明細書で使用する場合、「触媒活性」という用語は、プロテインキナーゼの直接的又は間接的な影響下での、チロシン、セリン又はスレオニンのリン酸化の速度を指す。
【0020】
本明細書で使用する場合、「本開示の化合物」という語句は、式(I)で示される任意の化合物及びそのクラスレート、水和物、溶媒和物又は多形体を含む。また、「本開示の化合物」という用語が、その薬学的に許容し得る塩に言及していなくても、この用語は、その塩を含む。一実施態様では、本開示の化合物は、立体化学的に純粋な化合物、例えば、他の立体異性体を実質的に含まない(例えば、85%ee超、90%ee超、95%ee超、97%ee超又は99%ee超の)化合物を含む。すなわち、本開示の式(I)で示される化合物又はその塩が、互変異性体及び/又は立体異性体(例えば、幾何異性体及び立体配座異性体)である場合、このような単離された異性体及びそれらの混合物も、本開示の範囲に含まれる。本開示の化合物又はその塩が、それらの構造中に不斉炭素を有する場合、それらの活性光学異性体及びそれらのラセミ混合物も、本開示の範囲に含まれる。
【0021】
本明細書で使用する場合、「多形体」という用語は、本開示の化合物又はその錯体の固体結晶形を指す。同じ化合物の異なる多形体は、異なる物理的、化学的及び/又は分光学的特性を示す場合がある。異なる物理的特性は、安定性(例えば、熱又は光に対する)、圧縮率及び密度(製剤及び製品製造に重要)並びに溶解速度(生物学的利用能に影響を及ぼす場合がある)を含むが、それらに限定されない。安定性の違いは、化学反応性(例えば、酸化の差、その結果、剤形が、ある多形体から構成される場合の方が、別の多形体から構成される場合より急速に変色する)、又は機械的特性(例えば、動力学的に有利な多形体が熱力学的により安定な多形体に転換するため、貯蔵時に崩壊する錠剤)、又はその両方(例えば、ある多形体の錠剤が高湿度でより分解しやすい)の変化により生じうる。多形体の異なる物理的特性は、それらの加工に影響を及ぼす場合がある。例えば、ある多形体は、例えばその粒子の形状又はサイズ分布のために、別の多形体より、溶媒和物を形成する可能性が高い場合があり、又はろ過もしくは洗浄して不純物をなくすのが困難である場合がある。
【0022】
本明細書で使用する場合、「X線粉末回折パターン」又は「XRPDパターン」という用語は、実験的に観察された回折図又はそれから導かれるパラメータを指す。X線粉末回折パターンは、典型的には、ピーク位置(横座標)及びピーク強度(縦座標)により特徴付けられる。「ピーク強度」という用語は、所定のX線回折パターン内の相対シグナル強度を指す。相対ピーク強度に影響を及ぼしうる因子は、試料の厚み及び選択配向(preferred orientation)(すなわち、結晶粒子がランダムに分布していない)である。
【0023】
本明細書で使用する場合、「ピーク位置」という用語は、本明細書で使用する場合、X線粉末回折実験で測定され、観察されたX線反射位置を指す。ピーク位置は、単位胞の寸法に直接関係する。各ピーク位置により特定されたピークは、式(I)の塩の種々の多形体についての回折パターンから抽出された。
【0024】
本明細書で使用する場合、「2シータ値」という用語は、X線回折実験の実験設定に基づくピーク位置(度)を指し、回折パターンにおける共通の横座標単位である。一般に、入射ビームが特定の格子面に対して角度シータ(θ)をなす時に反射光が回折される場合、反射されたビームが角度2シータ(2θ)に記録されることが、実験設定において要求される。本明細書における特定の多形体についての特定の2θ値への言及は、本明細書に記載されたX線回折実験条件を使用して測定された2θ値(度)を意味することが意図されると理解されたい。
【0025】
本明細書で使用する場合、「非晶質」という用語は、(i)三次元での秩序を欠いているか、もしくは(ii)三次元未満での秩序を示すか、短距離(例えば、10Å未満)にわたってしか秩序を示さないか、又はその両方である、任意の固体物質を指す。このため、非晶質物質は、例えば、一次元又は二次元並進秩序(液晶)、配向無秩序(配向無秩序結晶)又は配座無秩序(配座無秩序結晶)を有する、部分結晶性材料及び結晶性中間相を含む。非晶質固体は、X線粉末回折(XRPD)結晶学、固体核磁気共鳴(ssNMR)分光法、示差走査熱量測定(DSC)又はこれらの技術の幾つかの組み合わせを含む、公知の技術により特徴付けることができる。非晶質固体は、典型的には、1つ又は2つの広いピーク(すなわち、ベース幅が2θで約5°以上であるピーク)から構成される拡散XRPDパターンを与える。
【0026】
本明細書で使用する場合、「結晶」という用語は、非晶質固体物質とは対照的に、鋭く規定されたピークを有する特徴的なXRPDパターンを与える三次元秩序を示す、任意の固体物質を指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「結晶純度」という用語は、試料中の結晶化合物の割合(前記試料は、同じ化合物の非晶質形態、その化合物の少なくとも1つの他の結晶形、又はそれらの混合物を含有していてもよい)を指す。
【0028】
本明細書で使用する場合、「相当の結晶純度」という用語は、少なくとも約95%の結晶純度、好ましくは、約97%の結晶純度、より好ましくは、約99%の結晶純度、最も好ましくは、約100%の結晶純度を指す。
【0029】
本明細書で使用する場合、「検出可能な量」という用語は、従来技術、例えば、X線粉末回折、示差走査熱量測定、HPLC、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、ラマン分光法等を使用して検出することができる量又は単位体積当たりの量を指す。
【0030】
本明細書で使用する場合、「試料」という用語は、任意の化合物及びそのクラスレート、水和物、溶媒和物、多形体又は中間体化合物を含む。
【0031】
本明細書で使用する場合、「溶媒」という用語は、別の物質、好ましくは、固体又は固体の混合物を、完全に溶解、部分的に溶解、分散又は部分的に分散可能な物質であって、好ましくは、液体、又は混和性、部分的に混和性又は非混和性の2種以上の液体の混合物である物質を指す。多くの溶媒及び貧溶媒は、不純物を含有するため、本発明の実施のための溶媒及び貧溶媒中の不純物のレベルは、不純物が存在する場合、それらが存在する溶媒の意図される使用を妨害しないように、十分に低い濃度であると理解されることが意図されている。
【0032】
本明細書で使用する場合、「溶媒和物」という用語は、非共有分子間力により結合した化学量論又は非化学量論量の溶媒をさらに含む、本開示の化合物又はその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性で、非毒性かつ/又は微量でのヒトへの投与が許容され得るものである。
【0033】
本明細書で使用する場合、「水和物」という用語は、非共有分子間力により結合した化学量論又は非化学量論量の水をさらに含む、本開示の化合物又はその塩を意味する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「相対湿度」という用語は、所定の温度での空気中の水蒸気の量の、その温度及び圧力で保持することができる水蒸気の最大量に対する比率を、%で表わしたものを指す。
【0035】
本明細書で使用する場合、「スラリー」という用語は、液体媒体、典型的には、水又は有機溶媒中に懸濁された固体物質を指す。
【0036】
本明細書で使用する場合、「真空下」という用語は、実験室用オイル又はオイルフリーダイヤフラム真空ポンプにより得ることができる典型的な圧力を指す。
【0037】
本明細書で使用する場合、「クラスレート」という用語は、ゲスト分子(例えば、溶媒又は水)が捕捉されている空間(例えば、チャネル)を含む、結晶格子の形態にある化合物又はその塩を意味する。
【0038】
本開示の化合物
一実施態様において、本開示は、式(I):
【化2】
で示される化合物の塩を提供する。
【0039】
ここで、該塩は、酸付加塩であり、該酸は、塩酸、硫酸、L-アスパラギン酸、マレイン酸、リン酸、L-(+)―酒石酸、フマル酸、クエン酸、L-リンゴ酸及びメタン硫酸(methane sulfate)からなる群より選択される。
【0040】
特定の実施態様では、該塩は、良好な溶解性を維持しつつ、所望の特性、例えば高い結晶性及び望ましい非吸湿性を有する、一塩酸塩である。
【0041】
他のある実施態様では、本開示は、該化合物の結晶形及びその製造方法を提供する。それらは、医薬開発及び工業プロセスに適している。
【0042】
特定の実施態様では、本開示は、結晶「パターンA」と命名された(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基結晶形を提供する。パターンAは、本明細書に記載されたXRPD、DSC、TGA及び溶解性試験により特徴付けられている。結晶パターンAは、XRPDにより、9.8±0.2、11.6±0.2、13.2±0.2、14.0±0.2、16.7±0.2、17.6±0.2、20.6±0.2、22.9±0.2、26.2±0.2、29.3±0.2、30.7±0.2、31.6±0.2の回折角(2θ)にピークを有すると特徴付けられ、DSCにより、約267℃の開始融点及び約268℃のピーク温度を有すると特徴付けられる。
【0043】
別の実施態様では、本開示は、XRPDにより、6.0±0.2、15.9±0.2、18.1±0.2、19.7±0.2、24.6±0.2、25.4±0.2、26.7±0.2の回折角(2θ)にピークを有すると特徴付けられ、DSCにより、約240℃の融点を有すると特徴付けられる、式(I)の塩酸塩を提供する。
【0044】
ある実施態様では、本開示は、(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基を溶媒中で酸と反応させる工程を含む、式(I)で示される化合物の各種の結晶性塩を製造する方法を提供する。
【0045】
塩酸(パターンI)、硫酸(パターンII)、マレイン酸(パターンIII)、フマル酸(パターンIV)及びメタンスルホン酸(パターンV)を含む5種類のカウンターイオンによる酸形成実験において、新たなXRPDパターンが見出された。一方、リン酸との塩形成後には非晶質固体を得ることができる。このことは、可能性のある塩の形成も示す。
【0046】
当業者であれば、同じ化合物の所定の結晶形についてのXRPDピーク位置及び/又は強度の測定値は、誤差の範囲内で変動するであろうことを認識している。角度2θの値は、適切な誤差を見込んでいる。典型的には、この誤差は、「±」で表わされる。例えば、約「8.7±0.3」の角度2θは、約8.7+0.3、すなわち約9.0から、約8.7±0.3、すなわち約8.4までの範囲を意味する。試料調製技術、機器に適用される校正技術、ヒトの操作変動等に応じて、当業者であれば、XRPDについての適切な誤差は、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1、±0.05以下でありうると認識している。本発明の特定の実施態様では、XRPDの誤差は、±0.2である。XRPD分析に使用される方法および機器の更なる詳細は、実施例セクションに記載されている。
【0047】
これらの可能性のある塩を全て、DSC及びTGAによりさらに特徴付けることができ、特に、有機塩を、塩の形成及び酸/塩基比の化学量論を確認するために、1H-NMRによって特徴付けることもできる。
【0048】
塩形成プロセスに対する塩酸の比の影響を調査するために、異なる酸比(1.1当量及び2.2当量)で塩形成実験を行うことができる。
【0049】
パターンIを有する(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩について、多形体スクリーニング研究をスラリー法、加熱-冷却法、低速蒸発法及び貧溶媒法により行うことができる。
【0050】
乾式粉砕及び湿式粉砕も、粉砕プロセスにおける一塩酸塩の物理的安定性を試験するのに行うことができる。XRPDの結果から、乾式粉砕後に残留固体の結晶化度が低下したが、結晶形は、乾式粉砕又は湿式造粒プロセス後に変化しなかったことが示された。
【0051】
さらに別の実施態様では、治療上有効量の式(I)で示される化合物、その薬学的に許容し得る塩又はその結晶形と、少なくとも1種の薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0052】
別の実施態様では、神経変性疾患又は障害を処置するための方法であって、同処置を必要とする対象に、治療上有効量の式(I)で示される化合物、その薬学的に許容し得る塩又はその結晶形を投与することを含む、方法が提供される。すなわち、式(I)、その薬学的に許容し得る塩又はその結晶形の医学的使用が提供される。ここで、式(I)、その薬学的に許容し得る塩又はその結晶形が活性成分として使用される。一実施態様では、医学的使用は、神経変性疾患又は障害、例えば、α-シヌクレイン症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病及び/又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療又は予防のためのものである。
【0053】
本開示の化合物を使用する医学的使用及び処置方法
本開示は、さらに、治療上有効量の上記された1つ以上の化合物を対象に投与することによる、神経変性疾患又は障害を有するか、又は有しやすい対象における、神経変性疾患又は障害を処置するための方法を提供する。一実施態様では、処置は、予防的処置である。別の実施態様では、処置は、緩和処置である。別の実施態様では、処置は、回復処置である。
【0054】
1.疾患又は状態
c-abl活性を阻害するための本開示の化合物は、神経変性疾患又は障害の治療又は予防に有用である。該化合物は、c-ablキナーゼ活性を阻害し又は妨害し、かつ神経変性疾患もしくは障害を処置し、又はこのような疾患の悪化を予防するのに使用することができる。このため、本開示は、細胞中のc-abl活性を阻害し又は妨害するための方法であって、細胞を有効量の本開示の化合物と接触させる、方法を提供する。一実施態様では、このような細胞は、対象(例えば、アルツハイマー患者)に存在する。別の実施態様では、本開示の化合物を使用して、対象における神経変性疾患又は障害を治療し又は予防するための医療的使用が提供される。本開示の方法は、治療上又は予防上有効量のc-abl阻害剤を含有する医薬組成物を、治療又は予防を必要とする対象に投与することを含む。神経変性疾患又は障害は、α-シヌクレイン症、パ-キンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(MSA)、アルツハイマー病又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含むが、これらに限定されない。
【0055】
2.対象
本開示に従って処置されるのに適した対象は、ほ乳類対象を含む。本開示のほ乳類は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ブタ、齧歯類、ウサギ、霊長類等を含むが、これらに限定されず、子宮内のほ乳類を包含する。対象は、両性別及び発達の任意の段階のものでもよい。一実施態様では、本開示に従って処置されるのに適した対象は、ヒトである。
【0056】
3.投与及び用量
本開示の化合物は、一般に、治療上有効量で投与される。本開示の化合物は、任意の適切な経路により、このような経路に適合した医薬組成物の形態で、かつ意図される処置に有効な用量で投与することができる。有効用量は、典型的には、単回又は分割用量で、約0.001~約100mg/kg 体重/日、好ましくは、約0.01~約50mg/kg/日の範囲にある。年齢、種及び処置される疾患又は状態に応じて、この範囲の下限未満の用量レベルが適切である場合がある。他の場合には、有害な副作用なしに、さらに多い用量を使用することができる。また、より多い用量を少量ずつ数回に分けて、1日中投与する場合もある。適切な用量を決定するための方法は、本開示が属する技術分野において周知である。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000を使用することができる。
【0057】
医薬組成物、剤形及び投与経路
先に言及された疾患又は状態の処置のために、本明細書に記載された化合物又はその薬学的に許容し得る塩を以下のように投与することができる。
【0058】
経口投与
本開示の化合物を、該化合物が胃腸管に入るように経口的に投与(嚥下によるものを含む)してもよく、又は口から直接血流に吸収させてもよい(例えば、頬側投与又は舌下投与)。
【0059】
経口投与に適した組成物は、固体、液体、ゲル又は粉末製剤を含み、錠剤、ロゼンジ剤、カプセル剤、顆粒剤又は散剤等の剤形を有する。
【0060】
経口投与のための組成物を、即時放出又は調節放出(遅延放出又は持続放出を含む)として、場合により腸溶コーティングして製剤化することができる。
【0061】
液体製剤は、液剤、シロップ剤及び懸濁剤を含むことができ、これらは軟カプセル剤又は硬カプセル剤に使用することができる。このような製剤は、薬学的に許容し得る担体、例えば、水、エタノール、ポリエチレングリコール、セルロース又は油を含みうる。また、該製剤は、1種以上の乳化剤及び/又は懸濁剤をも含みうる。
【0062】
錠剤の剤形において、存在する薬剤の量は、剤形の約0.05重量%~約95重量%、より典型的には、約2重量%~約50重量%でありうる。加えて、錠剤は、剤形の約0.5重量%~約35重量%、より典型的には、約2重量%~約25重量%を占める崩壊剤を含有しうる。崩壊剤の例は、ラクトース、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、マルトデキストリン又はそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0063】
錠剤に使用するのに適した滑沢剤は、約0.1重量%~約5重量%の量で存在していてよく、タルク、二酸化ケイ素、ステアリン酸、ステアリン酸のカルシウム、亜鉛又はマグネシウム塩、ナトリウムステアリルフマラート等を含むが、これらに限定されない。
【0064】
錠剤に使用するのに適した結合剤は、ゼラチン、ポリエチレングリコール、糖、ガム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を含むが、これらに限定されない。錠剤に使用するのに適した希釈剤は、マンニトール、キシリトール、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、微結晶セルロース及びデンプンを含むが、これらに限定されない。
【0065】
錠剤に使用するのに適した可溶化剤は、約0.1重量%~約3重量%の量で存在していてよく、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、炭酸プロピレン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソソルビド、ポリエチレングリコール、(天然又は水添)ヒマシ油、HCOR(商標)(Nikkol)、オレイルエステル、Gelucire(商標)、カプリル酸/カプリル酸モノ/ジグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル及びSolutol HS(商標)を含むが、これらに限定されない。
【0066】
非経口投与
本開示の化合物を、血流、筋肉又は内臓に直接投与することができる。非経口投与に適した手段は、静脈内、筋肉内、皮下、動脈内、腹腔内、髄腔内、頭蓋内等を含む。非経口投与に適した装置は、注射器(針及び無針注射器を含む)及び注入法を含む。
【0067】
非経口投与のための組成物を、即時放出又は調節放出(遅延放出又は持続放出を含む)として製剤化することができる。ほとんどの非経口製剤は、塩、緩衝剤及び等張剤を含む賦形剤を含有する水溶液である。また、非経口製剤を脱水形態(例えば、凍結乾燥により)で又は滅菌非水溶液として調製することもできる。これらの製剤は、適切な媒体、例えば、滅菌水と共に使用することができる。溶解性増強剤も、非経口液剤の調製に使用することができる。
【0068】
経皮投与
本開示の化合物を、皮膚に対して局所的に、又は経皮的に投与することができる。この局所投与のための製剤は、ローション剤、液剤、クリーム剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、軟膏剤、泡剤、インプラント、パッチ等を含みうる。局所投与製剤のための薬学的に許容し得る担体は、水、アルコール、鉱油、グリセリン、ポリエチレングリコール等を含みうる。また、局所又は経皮投与をエレクトロポレーション、イオントフォレーシス、超音波導入等により行うこともできる。
【0069】
局所投与のための組成物を、即時放出又は調節放出(遅延放出又は持続放出を含む)として製剤化することができる。
【0070】
併用療法
本開示の医薬組成物は、例えば、効力を向上させるか又は副作用を低減するために、1種以上の追加の治療剤を含有していてもよい。したがって、ある実施態様では、医薬組成物は、c-ablキナーゼにより直接的又は間接的に媒介される疾患を治療し又は阻害するのに有用な有効成分から選択される1種以上の追加の治療剤をさらに含有する。このような有効成分の例は、神経変性疾患又は障害を処置するための薬剤であるが、これらに限定されない。
【0071】
医薬組成物を調製するための参考文献
疾患又は状態を治療し又は予防するための医薬組成物を調製するための方法は、本開示が属する技術分野において周知である。例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients(7 th ed.)、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(20th ed.)、Encyclopedia of Pharmaceutical Technology(3rd ed.)又はSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems(1978)に基づいて、薬学的に許容し得る賦形剤、担体、添加剤等を選択し、ついで、医薬組成物を調製するために、本開示の化合物と混合することができる。
【0072】
本開示は、例えばc-abl活性を阻害することにより、種々の薬理学的効果を有する化合物、該化合物を有効成分として有する医薬組成物、特に神経変性疾患又は障害を処置するための、該化合物の医学的使用、並びにこのような治療又は予防を必要とする対象に該化合物を投与することを含む治療方法又は予防方法を提供する。本開示の化合物、その薬学的に許容し得る塩及び/又はその結晶形は、良好な安全性及びc-ablに対する高い選択性を有するため、薬剤として優れた特性を示す。
【0073】
実施例
以下の実施例により、式(I)の別個の塩多形体(polymorphic salt forms)の調製及び特徴付けをさらに例証するが、本明細書に記載され又は本明細書に特許請求された本発明の範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、全ての温度は、摂氏で示され、全ての部及び%は重量による。
【0074】
粉末X線回折パターンにおけるピーク高さは変化する場合があり、温度、結晶サイズ、晶癖、試料調製又はScintag×2 Diffraction Pattern Systemの分析ウェルにおける試料高さ等の変数により決まるであろうと理解されることが意図されている。
【0075】
また、ピーク位置は、異なる放射線源で測定された場合に変化する場合があると理解されることが意図されている。例えば、それぞれ1.54060Å、0.7107Å、1.7902Å及び1.9373Åの波長を有するCu-Kα1、Mo-Kα、Co-Kα及びFe-Kα放射線により、Cu-Kα放射線で測定されたものとは異なるピーク位置が与えられる場合がある。
【0076】
粉末X線回折装置からのデジタル出力を、ピーク位置を小数第二位及び小数第三位まで示すように設定することができるが、回折装置は、小数第一位を超える正確な実験的決定を行うことができない。したがって、本明細書で報告されるピーク位置は、小数第一位に丸められる。
【0077】
分析機器及び方法
(1)X線粉末回折装置(XRPD)
試料を、以下の方法を使用してXRPDで試験した(run)。
-チューブ:Cu:K-アルファ(λ=1.54179Å)
-発電機:電圧:40kV、電流:40mA
-スキャン範囲:3~40度
-試料回転数:15rpm
【0078】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
試験に使用されたDSC法の詳細を以下に示す。
-試料(約1mg)を、ピンホールを有する密封アルミニウムパンを使用して試験し、10℃/分の速度で25℃から300℃まで加熱した。
【0079】
(3)熱重量分析(TGA)
試験に使用されたTGA法の詳細を以下に示す。
-試料(3~5mg)を開放プラチナパンに入れ、25mL/分のN2下、10℃/分の速度で30℃から300℃まで、又は質量%が80%未満になるまで加熱した。
【0080】
(4)偏光顕微鏡(PLM)
試験に使用された偏光顕微鏡法の詳細を以下に示す。
-5メガピクセルのCCDを備えるNikon LV100POL
-物理レンズ:10×/20×
【0081】
(5)動的蒸気収着(DVS)
試料(約10mg)をDVS装置に移し、下記パラメータを使用して、25℃での周囲湿度についての重量変化を記録した。
-平衡:dm/dt:0.01%/分(最短:10分及び最長:180分)
-乾燥:0% RH、120分間
-測定工程におけるRH(%):10%
-測定工程におけるRH(%)範囲:0~90~0%
【0082】
(6)プロトン核磁気共鳴(1H NMR)
DMSO-d6又はMeOH-d4溶媒で、400MHz Bruker
温度:27℃
【0083】
実施例1.式(I)の物理的特性
物理的特性
(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基の外観は、淡黄色の粉末である。続けて、遊離塩基の物理的及び熱的特性の特徴付けを行った。それぞれの結果を表1にまとめ、また
図1~3に列記した。(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミドの遊離塩基は、偏光顕微鏡写真(
図1)によれば、複屈折及び立方晶様形状を示した。一方、XRPDの結果(
図2)によれば、出発遊離塩基は、高い結晶化度を示した。DSCスキャン(
図3)は、265.94℃の開始時に単一の吸熱を示した。一方、TGAスキャンは、23.5℃から240.0℃までに約1.07%の質量減少を示した。この遊離塩基形態をパターンAと命名した。
【0084】
【0085】
溶媒への遊離塩基の溶解度試験
約4mg (1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミドを2.0mLのガラスバイアル内に量り取り、ついで、全ての固体が溶解するまで、選択された溶媒をバイアルに段階的に加えた。実験は、目視観察と組み合わせた手作業での希釈により、25℃及び50℃で行った。加えられた溶媒の総量を記録した。
【0086】
結果を表2に列記する。(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミドは、ほとんどの一般的に使用される溶媒への比較的低い溶解度を示し、DMF及びDMSOへの比較的高い溶解度を示した。
【0087】
【0088】
バイオ関連培地及びバッファーへの遊離塩基の溶解度試験
約5mgの出発遊離塩基を、2mLのバイアル中に量り取った。ついで、1.0mLのバイオ関連培地(SGF、FaSSIF及びFeSSIF)及びバッファーをこのバイアルに加えた。全てのバイアルをサーモミキサーに置き、37℃(700r/分)で維持した。37℃で24時間振とうした後、ろ過により得られた母液をそのまま、又はACN/水で20~40倍に希釈した後、HPLCにより分析した。溶解度の結果を表3にまとめた。溶解度の結果によれば、遊離塩基は、SGF及びpH 2.0のバッファーへの中程度の溶解度(2.0~2.5mg/mL)を示した。
【0089】
【0090】
実施例2.予備的な塩スクリーニング実験
(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基の計算pKa値5.53、-0.74及び-8.39に基づいて、最初に、10種の酸を塩スクリーニング研究のためのカウンターイオンとして選択した。一方、アセトン、EtOAc、ACN及びIPA/水(95/5、v/v)を塩スクリーニング溶媒として選択した。塩スクリーニングの手順の詳細を以下に列記した。
【0091】
固体カウンターイオンについては、50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基及び1.1当量のカウンターイオンを個々に、2mLのバイアルに量り取り、ついで、溶媒1.0mLをバイアルに加えた。液体カウンターイオンについては、50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基を2mLのバイアルに量り取り、続けて、溶媒850μLをバイアルに加えた。ついで、1.1当量のカウンターイオンの対応溶媒溶液(濃度:0.1g/mL)をバイアルに加えた。同時に、同じ溶媒 1.0mL中でスラリー化した(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基を対照として使用した。全てのバイアルをサーモミキサーに置き、50℃に加熱した。50℃で14時間保持した後、ついで、バイアルを2時間で25℃に冷却した。25℃で5時間保持した後、懸濁液中の固体を遠心分離により単離し、真空オーブン中において、30℃で3日間乾燥させた。ついで、得られた乾燥固体を、XRPDにより特徴付けした。塩スクリーニングの結果を表4及び
図4~14に列記する。
【0092】
本研究において、出発遊離塩基のXRPDパターンを最初にパターンAと命名した。塩酸(パターンI)、硫酸(パターンII)、マレイン酸(パターンIII)、フマル酸(パターンIV)及びメタンスルホン酸(パターンV)を含む5種類の異なるカウンターイオンを使用した塩形成実験において、全部で5つの新たなXRPDパターンが見出された。リン酸を使用した塩形成後には、非晶質固体を得た。このことも、可能性のある塩の形成を示した。
【0093】
【0094】
5つの新たな塩形態をXRPD、DSC及びTGAによりさらに特徴付けし、特に、塩の形成及び酸/塩基比の化学量論を確認するために、有機塩を
1H-NMRによっても特徴付けした。特徴付けの結果を表5及び
図15~27に列記する。
【0095】
特徴付けの結果によれば、得られた硫酸塩は、低い結晶化度及び不良な熱特性を示した。
【0096】
【0097】
実施例3.一塩酸塩及び二塩酸塩の比較試験
塩形成プロセスに及ぼす塩酸対化合物の比の影響を調査するために、異なる酸比(1.1当量及び2.2当量)での塩形成実験を行った。操作手順の詳細を以下に記載した。
【0098】
1)一塩酸塩形成実験の手順は、下記工程を含む。
1. 1.00gの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド遊離塩基を、アセトン15.0mLに50℃で懸濁させる。
2. 50℃で1時間保持する(懸濁液)。
3. 1.1当量の塩酸のアセトン溶液(6.72mL、0.5mmol/mL)を懸濁液に滴加する(懸濁液)。
4. 50℃で3時間保持する(懸濁液)。
5. 25℃に冷却し、25℃で17時間保持する(懸濁液)。
6. 湿った固体のXRPDを測定する。
7. 25℃で5時間スラリー化し続ける。
8. 懸濁液を漏斗によりろ過し、湿ったケーキを溶媒3.0mLで洗浄する。
9. 湿ったケーキを真空中、35℃で16時間乾燥させる。
10. 合計1.00g 乾燥固体を得た。
【0099】
2)二塩酸塩形成実験の手順は、下記工程を含む。
1. 1.00gのAPIを、アセトン15.0mLに50℃で懸濁させる。
2. 50℃で1時間保持する(懸濁液)。
3. 2.2当量の塩酸のアセトン溶液(6.72mL、1.0mmol/mL)を懸濁液に滴下する。系を凍結させた。スラリーは、あまり良好ではなかった。もう5.0mLのアセトンを系に加える(懸濁液)。
4. 50℃で3時間保持する(懸濁液)。
5. 25℃に冷却し、25℃で17時間保持する(懸濁液)。
6. 湿った固体のXRPDを測定する。
7. 25℃で5時間スラリー化し続ける。
8. 懸濁液を漏斗によりろ過し、湿ったケーキを溶媒3.0mLで洗浄する。
9. 湿ったケーキを真空中、35℃で16時間乾燥させる。
10. 合計1.13gの乾燥固体を得た。
【0100】
一塩酸塩型と二塩酸塩型との間の比較結果を表6に列記し、
図28~33に示されたように、
1H-NMR、XRPD、DSC及びTGAにより特徴付けした。XRPDの結果によれば、二塩酸塩は、パターンVIのように低い結晶化度を示した。
【0101】
【0102】
3)バイオ関連培地への溶解度試験
バイオ関連培地への一塩酸塩型及び二塩酸塩型の溶解度を、37℃で試験した。手順の詳細を以下に列記した。
【0103】
約15mgの得られた塩をそれぞれ、2mLのバイアル中に量り取った。ついで、バイオ関連培地(SGF、FaSSIF及びFeSSIF)1.0mLをこのバイアルに加えた。全てのバイアルをサーモミキサーに置き、37℃(700r/分)で維持した。37℃で17時間振とうした後、遠心分離により得られた透明な溶液を、ACN/水(1v/1v)で10~50倍に希釈した後、HPLCにより分析した。また、全ての系のpH値を測定した。溶解度の結果を表7にまとめる。
【0104】
【0105】
実施例4.(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩の多形スクリーニング研究
パターンIを有する一塩酸塩の多形スクリーニング研究を、スラリー法、加熱-冷却法、低速蒸発法及び貧溶媒法により行った。これらの方法では、新たなXRPDパターンは見出されなかった。乾式粉砕及び湿式粉砕を行って、粉砕プロセスにおける一塩酸塩の物理的安定性を試験した。XRPDの結果から、残留固体の結晶化度が乾式粉砕後に低下したが、結晶形は、乾式粉砕又は湿式造粒プロセス後に変化しなかったことが示された。
【0106】
一塩酸塩の1つの多形(パターンI)が、多形スクリーニング実験において観察された。
【0107】
1)スラリー法
約50mg (1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を、2.0mLのガラスバイアル中の選択された純粋又は二成分溶媒 1.0mLに懸濁させた。この懸濁液を、25℃及び50℃で700r/分の速度のサーモミキサーに置いた。4日後、スラリー及び懸濁液を遠心分離し(8,000r/分、5分)、残留固体を真空オーブン中、35℃で4時間乾燥させた。ついで、得られた乾燥固体をXRPDにより特徴付けし、結果を表8にまとめる。
【0108】
図34~37において、25℃及び50℃で4日間スラリー化した後に得られた固体のXRPD結果により示されるように、全ての固体は、依然としてパターンIであり、新たなXRPDパターンは見出されなかった。
【0109】
【0110】
加熱-冷却法
約50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を、2.0mLのガラスバイアル中の選択された純粋又は二成分溶媒1.0mL中に、50℃で500r/分の速度で撹拌しながら懸濁させた。ついで、この懸濁液を、0.45μmフィルターを通して清浄な2.0mLガラスバイアル中にろ過し、ホットプレート上に置き、50℃で500r/分で撹拌した。50℃で1.5時間撹拌した後、この系を25℃に冷却した。25℃で16時間攪拌した後、幾らかの固体が、MeOH、EtOH/H
2O(5/1、v/v)及びアセトン/H
2O(5/1、v/v)系から生じたが、EtOH系からは、ほとんど固体が生じなかった。ついで、MeOH、EtOH/H
2O(5/1、v/v)及びアセトン/H
2O(5/1、v/v)系を10000r/分で5分間遠心分離し、残留固体を真空オーブン中、35℃で3時間乾燥させた。ついで、得られた乾燥固体をXRPDにより特徴付けした。分析結果を表8及び
図38にまとめる。得られた固体は全て、パターンIであり、加熱-冷却法では新たなXRPDパターンは得られなかった。
【0111】
【0112】
低速蒸発法
約30mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を2.0mLのガラスバイアル中に量り取り、ついで、MeOH1.5mLを加えた。ついで、この溶液を、0.45μmフィルターを通して清浄な4.0mLのガラスバイアル中にろ過した。このバイアルを、ピンホールを有するアルミニウムフィルムで覆い、ドラフトに入れた。4日間の蒸発後、得られた固体を真空オーブン中、35℃で4時間乾燥させ、ついで、XRPDにより特徴付けした。
図39における得られた固体のXRPD結果により示されるように、蒸発法ではMeOH系から非晶質固体が得られた。
【0113】
貧溶媒法
(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩の溶解度結果に基づいて、MeOH、DMF、DMSO及び水を、この化合物を溶解させるための良溶媒として選択した。これは、(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩が、これらの溶媒への比較的高い溶解度を示したためである。一方、MtBE、IPA及びアセトンを貧溶媒として選択した。
【0114】
約50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を8.0mLのガラスバイアル中に量り取り、ついで、選択された良溶媒0.5~2.0mLを加えた。全てのバイアルをホットプレート上に置き、50℃で500r/分の速度で撹拌した。50℃で30分間撹拌した後、全ての系は透明であった。ついで、選択された貧溶媒を、固体が生じるまで、又は貧溶媒/良溶媒の体積比が10:1に達するまで、段階的に加えた。全ての系を50℃で1時間保持し、ついで、25℃に冷却した。25℃で16時間又は3日間保持した後、懸濁液を遠心分離した。ついで、湿った固体を真空オーブン中で乾燥させ、得られた乾燥固体をXRPDによりさらに特徴付けした。結果を表10及び
図40にまとめる。得られた固体は全て、パターンIであり、貧溶媒法では新たなXRPDパターンは見出されなかった。
【0115】
【0116】
粉砕法
(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩の粉砕プロセスにおける物理的安定性を試験するために、乾式粉砕及び湿式造粒を行った。
【0117】
乾式粉砕実験については、約50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を乳鉢に加え、乳棒で約5分間粉砕した。ついで、残留固体をXRPDにより特徴付けした。
【0118】
湿式造粒実験については、約50mgの(1S,2S)-2-フルオロ-N-(6-(4-メチルピリジン-3-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)シクロプロパン-1-カルボキサミド一塩酸塩を乳鉢に加え、ついで、固体が完全に湿るまで、数滴の溶媒EtOHを加えた。湿った固体を手作業で約5分間乳棒により粉砕し、ついで、残留固体をXRPDで特徴付けした。
【0119】
図41における粉砕後に得られた固体のXRPD結果により示されるように、残留固体の結晶化度は、乾式粉砕後に低下したが、結晶形は、乾式粉砕及び湿式粉砕プロセス後に変化しなかった。