IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧

特許7604414アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具
<>
  • 特許-アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具 図1
  • 特許-アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具 図2
  • 特許-アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具 図3
  • 特許-アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具 図4
  • 特許-アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
G01N31/00 T
G01N31/00 U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022041804
(22)【出願日】2022-03-16
(65)【公開番号】P2023136279
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(72)【発明者】
【氏名】沖 充浩
(72)【発明者】
【氏名】盛本 さやか
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-257806(JP,A)
【文献】特開2000-317205(JP,A)
【文献】特開2004-122009(JP,A)
【文献】特開昭57-069249(JP,A)
【文献】特開2011-185730(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0054269(US,A1)
【文献】小山和也、外2,"硫酸-硫酸銅水溶液におけるアンチモンの酸化",千葉工業大学研究報告,2015年,Vol.62,p.19-22,
【文献】"銅及び銅合金中のアンチモン定量方法",日本産業規格,H 1072,1999年,p1-10
【文献】YAMAMOTO, T. et al.,Flow Chemiluminescence Determination of Antimony(III,V) Using a Rhodamine B-Cetyltrimethylammonium Chloride Reversed Micelle System Following Liquid-Liquid Extraction,ANALYTICAL SCIENCES,2013年,Vol.29,p.73-77,doi: 10.2116/analsci.29.73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1分析溶液又は第2分析溶液を用い、前記第1分析溶液は3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含み、前記第2分析溶液は第1の酸と前記第1分析溶液が混合された溶液であり、前記第1分析溶液又は前記第2分析溶液第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化され[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程と、
前記第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて前記第4分析溶液を得る工程と、
前記第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程と、
前記第5分析溶液の色から前記第1分析溶液中の前記5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程と、を含み、
前記第1分析溶液に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であり、
前記第1の酸に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であり、
前記第2の酸に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であり、
前記第4分析溶液を得る工程において、撹拌後の溶液を40℃以上70℃以下の温度で静置して相分離させるアンチモンイオンの分析方法。
【請求項2】
前記第1分析溶液のpHは、-1以上3以下であり、
前記第2分析溶液のpHは、-1以上3以下である請求項1に記載のアンチモンイオンの分析方法。
【請求項3】
前記第1の酸は、2mol/L以上12mol/L以下の塩酸及び/又は2mol/L以上18mol/L以下の硫酸を含む請求項1又は2に記載のアンチモンイオンの分析方法。
【請求項4】
前記第2の酸は、2mol/L以上12mol/L以下の塩酸を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンチモンイオンの分析方法。
【請求項5】
前記第1分析溶液又は前記第2分析溶液と第3の酸を混合して3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに酸化された第6分析溶液を得る工程と、
前記第6分析溶液と第4の酸を混合して前記第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオン及び前記第1分析溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンが酸化された5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbCl]イオンを含む第7分析溶液を得る工程と、
前記第7分析溶液と第2有機溶媒を混合して第2有機相である第8分析溶液と水相に相分離させて前記第8分析溶液を得る工程と、
前記第8分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第9分析溶液を得る工程と、
前記第9分析溶液の色から前記第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する工程と、
前記第5分析溶液の色と前記第9分析溶液の色を比較して前記第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン濃度を評価する工程と、を含み、
前記第3の酸は、硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群より選ばれる1種以上を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンチモンイオンの分析方法。
【請求項6】
前記第3の酸の硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.02mol/L以上1.0mol/L以下である請求項5に記載のアンチモンイオンの分析方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第1の酸を含む第1容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第2の酸を含む第2容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第1有機溶媒を含む第3容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記呈色液を含む第4容器と、
を含む5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第1の酸を含む第1容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第2の酸を含む第2容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記第1有機溶媒を含む第3容器と、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記呈色液を含む第4容器と、
請求項5又は6に記載の前記第3の酸を含む第5容器と、
請求項5又は6に記載の前記第4の酸を含む第6容器と、
請求項5又は6に記載の前記第2有機溶媒を含む第7容器と、
を含むアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アンチモンイオンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学物質の規制が厳しくなっており、電気電子機器等を製造する企業として、製品に用いる構成材料中の化学物質の管理は非常に重要となってくる。
【0003】
酸化アンチモンは、ガラスの清澄剤や樹脂の難燃剤などに使用されている。アンチモンは価数によって毒性が異なるため、アンチモンを価数別に分析を行える方法が求められている。
【0004】
蛍光X線分析によって、アンチモン濃度を求めることはできるが価数別な評価を行なうことができないため、価数別に濃度を評価したい場合に蛍光X線分析は適さない。
【0005】
アンチモンを価数別に分析するには水素化物発生ICP質量分析法(HG-ICP/MS)などを用いる。しかし、このような装置は大がかりでありスクリーニング手法としては適しておらず、簡便な分析が行える価数別のスクリーニング手法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-185730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、簡便なアンチモンの分析方法、5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のアンチモンの分析方法は、第1分析溶液又は第2分析溶液を用い、第1分析溶液は3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含み、第2分析溶液は第1の酸と第1分析溶液が混合された溶液であり、第1分析溶液又は第2分析溶液第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化され[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程と、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて第4分析溶液を得る工程と、第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程と、第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程と、を含む。第1分析溶液に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下である。第1の酸に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下である。第2の酸に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下である。第4分析溶液を得る工程において、撹拌後の溶液を40℃以上70℃以下の温度で静置して相分離させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に関わるフローチャート。
図2】実施形態の5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具の模式図。
図3】実施形態のアンチモンの価数の評価に関わるスペクトル図。
図4】実施形態に関わるフローチャート。
図5】実施形態の検査用具及びアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、好適な一実施形態について詳細に説明する。実施形態において、特に条件が書かれていなければ25℃で大気圧(100[kPa])で実施される際の条件である。以下の工程において、各溶液は全量を用いてもよいし、一部の量を用いてもよい。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態の分析方法は、図1の実施形態に関わるフローチャートに示すように3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含む第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液と第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化され[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程(S01)と、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて第4分析溶液を得る工程(S02)と、第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程(S03)と、第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S04)と、を含む。
【0012】
第1実施形態の分析方法においては、第1の酸を含む第1容器1と、第2の酸を含む第2容器2と、第1有機溶媒を含む第3容器3と、呈色液を含む第4容器4と、を含む5価のアンチモンイオンの分析に用いられる検査用具100が用いられることが好ましい。図2に第1実施形態の検査用具100の模式図を示す。図2の模式図には検査用具100を用いた5価のアンチモンイオンの分析手順も簡略的に示している。図2において、第1の酸と第1分析溶液の混合が省略される場合があるため、第1容器1からの矢印は破線で示している。
【0013】
第1容器1、第2容器2、第3容器3及び第4容器4は、ガラス又は合成樹脂の容器であることが好ましい。各容器は、瓶形状を有していてもよいしチューブ形状を有していてもよい。各容器には、開口部が設けられている。開口部には、溶液の漏れを防ぐための弁が設けられていたり、蓋が設けられたりしている。各溶液は、ピペット、スポイト及びシリンジのいずれかを用いて別の溶液に移すことができる。
【0014】
3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含む第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液と第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程(S01)について説明する。この工程(S01)を言い換えると、第1分析溶液又は第2分析溶液を用い、第1分析溶液は3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含み、第2分析溶液は第1の酸と第1分析溶液が混合された溶液であり、第1分析溶液又は第2分析溶液を第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化され[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程となる。
【0015】
この工程では、分析対象である第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンがクロロ化される。3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含む第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液と第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程(S01)を第1工程と略記する場合がある。クロロ化されたアンチモンイオンとは、アンチモンイオンに塩化物イオンが配位した状態のものを表している。
【0016】
第1工程においては、第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させないで(実質的に酸化させないで)、第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオンがクロロ化された第3分析溶液が得られる。
【0017】
第1分析溶液は、3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含む溶液である。第1分析溶液は、樹脂や金属などの試料を溶解又は試料からアンチモンを抽出するなどして得られた溶液である。分析対象の試料中のアンチモンの評価を実施形態で行なうことができる。
【0018】
第1分析溶液には、アンチモンイオンと酸の他に水を含む。第1分析溶液には、アンチモンイオン、酸及び水の他に、他の金属イオンなどが含まれていてもよい。第1分析溶液には、アンチモンイオンの分析を阻害する可能性のある金、タリウム及びガリウムからなる群より選ばれる1種以上は、第1分析溶液のアンチモンイオン濃度[mol%]の1%以上含まれないことが好ましく、全く含まれないことがより好ましい。
【0019】
第1工程において、第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液を第2の酸と混合する。第2の酸と混合する対象は、第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液である。
【0020】
第1工程において溶液のpHが高いとアンチモンイオンのクロロ化が進まないため、第1分析溶液又は第2分析溶液はpHが低いことが好ましい。第1分析溶液のpHが高ければ第1の酸を第1分析溶液と混合することが好ましい。
【0021】
第1分析溶液のpHは、3以下であることが好ましい。第1分析溶液のpHの下限は特に限定されず、第1分析溶液のpHは-1(マイナス いち)以上3以下が好ましい。pHが3より高い第1分析溶液は、第2の酸と混合される。第1分析溶液のpHが3より高い場合は、第1の酸とpHが3より高い第1分析溶液を混合して、pHが3以下の第2分析溶液を得る。第2分析溶液のpHの下限は特に限定されず、第1分析溶液のpHは、-1以上3以下が好ましい。
【0022】
第1分析溶液中に硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群より選ばれる1種以上が含まれると、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに酸化される。本発明者らの実験によって、硝酸も3価のアンチモンの酸化剤であることがわかった。また、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)は既知の強力な酸化剤である。
【0023】
そこで、第1分析溶液の硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の全てが全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0024】
第1分析溶液の硝酸濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0025】
第1分析溶液の硝酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0026】
第1分析溶液の硫酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硫酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0027】
第1実施形態では、第1分析溶液中に含まれる5価のアンチモンイオンの濃度を評価することから、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させる酸が第1分析溶液中に含まれることは好ましくない。3価のアンチモンイオンを5価に酸化させずに分析をすることで、第2実施形態において価数別のアンチモンの分析が可能になる。第1分析溶液に硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群から選ばれる1種以上が含まれていれば、一部の3価のアンチモンイオンは5価のアンチモンイオンに価数変化しており、価数別の分析が困難になる。
【0028】
第1の酸は、3価のアンチモンイオンを酸化させず(5価のアンチモンイオンに価数変化させず)に第1分析溶液のpHを下げることができる。第1の酸のpHが低いと第1分析溶液のpHを下げるために多くの第1の酸を用いることになり、5価のアンチモンイオンの濃度評価をする際に対象の溶液に含まれるアンチモンイオンの濃度が低くなってしまう。そこで、第1の酸のpHは、3以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0029】
第1の酸は、塩酸、硫酸、過酸化水素酸及び過塩素酸からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、塩酸又は硫酸であることがより好ましく、塩酸及び硫酸であることがさらにより好ましい。第1の酸は、2mol/L以上12mol/L以下の塩酸及び/又は2mol/L以上18mol/L以下の硫酸を含むことが好ましい。塩酸又は硫酸が含まれている場合、前述のモル濃度は塩酸単体、硫酸単体で満たしてもよいし、塩酸と硫酸のモル濃度の合計でもよい。
【0030】
前述の理由により第1の酸に含まれる硝酸濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0031】
前述の理由により第1の酸に含まれる硝酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0032】
前述の理由により第1の酸に含まれる硫酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硫酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0033】
第1分析溶液と第1の酸の混合体積比率([第1の酸の量]/[第1分析溶液の量])は、1以上100以下であることが好ましく、5以上20以下がより好ましい。
【0034】
第1の酸に複数種類の酸が含まれる場合、1種又は複数種の酸を別々に第1分析溶液と混合してもよい。例えば、第2の酸に塩酸と硫酸が含まれ、第1分析溶液と混合する場合、第1分析溶液と硫酸を混合してから、第1分析溶液と硫酸を混合した溶液と塩酸を混合してもよい。
【0035】
第1工程において、第1分析溶液と第1の酸を混合する際の第1分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0036】
第1工程において、第1分析溶液と第1の酸を混合する際の第1の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
第1工程において、第1分析溶液と第1の酸を混合した後の第2分析溶液の温度が10℃以上30℃以下になることが好ましい。第2分析溶液の温度が前述の範囲であれば、第1分析溶液の温度と第1の酸の温度は問わない。
【0037】
第1工程において、第1分析溶液と第1の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0038】
第2の酸を第1分析溶液又は第2分析溶液と混合して、第3分析溶液が得られる。第3分析溶液中のアンチモンイオンは、クロロ化されている。具体的には、第3分析溶液中の3価のアンチモンイオンは、Sb3-として存在し、5価のアンチモンイオンは、[SbClとして存在する。
【0039】
第2の酸は、少なくとも塩酸を含むことが好ましい。第2の酸に塩酸が含まれることで、第3分析溶液のpHを低くし又は低いpHを維持し、過剰な塩化物イオンを第1分析溶液又は第2分析溶液に供給することができる。pHが低く、アンチモンイオンに対して過剰な塩化物イオンが存在している溶液中で3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンのクロロ化は進行し安定する。
【0040】
なお、第1分析溶液及び第2分析溶液中のアンチモンイオンも一部クロロ化されている場合がある。第2の酸を第1分析溶液又は第2分析溶液と混合することで、溶液中の塩酸(塩化物イオン)が確実に過剰になり、アンチモンイオンのクロロ化が促進されて第3分析溶液中でSb3-と[SbClは安定して存在している。
【0041】
第2の酸には、塩酸の他に硫酸、過酸化水素酸及び過塩素酸からなる群より選ばれる1種以上の酸が含まれることが好ましい。
【0042】
第2の酸は、2mol/L以上12mol/L以下の塩酸を含むことが好ましい。
【0043】
第2の酸に含まれる酸のうち塩酸の濃度(mol/L)は塩酸以外の酸の総濃度(mol/L)以上であることが好ましく、塩酸以外の酸の総濃度(mol/L)の2倍以上であることがより好ましく、塩酸以外の酸の総濃度(mol/L)の5倍以上であることがさらにより好ましい。
【0044】
第2の酸中に硝酸、硝酸セリウム及び硫酸セリウムからなる群より選ばれる1種以上が含まれると、第1工程において、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに酸化される。第1実施形態では、第1分析溶液中に含まれる5価のアンチモンイオンの濃度を評価することから、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させる酸が第2の酸中に含まれることは好ましくない。
【0045】
前述の理由により第2の酸に含まれる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0046】
前述の理由により第2の酸に含まれる硝酸濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0047】
前述の理由により第2の酸に含まれる硝酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硝酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0048】
前述の理由により第2の酸に含まれる硫酸セリウム(IV)濃度は、0.00mol/L以上0.1mol/L以下であることが好ましく、0.00mol/L以上0.02mol/L以下であることがより好ましく、硫酸セリウム(IV)が全く含まれない(0.00mol/L)ことがさらにより好ましい。
【0049】
第2の酸に複数種類の酸が含まれる場合、1種又は複数種の酸を別々に第1分析溶液又は第2分析溶液と混合してもよい。例えば、第2の酸に塩酸と硫酸が含まれ、第2の酸を第1分析溶液と混合する場合、第1分析溶液と硫酸を混合してから、第1分析溶液と硫酸を混合した溶液と塩酸を混合してもよい。
【0050】
第1分析溶液と第2の酸の混合体積比率([第2の酸の量]/[第1分析溶液の量])は、1以上100_以下であることが好ましく、5以上20以下がより好ましい。第1分析溶液中のアンチモンイオン濃度が未知であっても上記範囲の第2の酸を用いることで十分な塩化物イオンを第1分析溶液に供給することができる。
【0051】
第2分析溶液と第2の酸の混合体積比率([第2の酸の量]/[第2分析溶液の量])は、1以上100以下であることが好ましく、5以上20以下がより好ましい。第2分析溶液中のアンチモンイオン濃度が未知であっても上記範囲の第2の酸を用いることで十分な塩化物イオンを第2分析溶液に供給することができる。
【0052】
第1工程において、第1分析溶液と第2の酸を混合する際の第1分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0053】
第1工程において、第1分析溶液と第2の酸を混合する際の第2の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0054】
第1工程において、第1分析溶液と第2の酸を混合した後の第3分析溶液の温度が10℃以上30℃以下になることが好ましい。第3分析溶液の温度が前述の範囲であれば、第1分析溶液の温度と第2の酸の温度は問わない。
【0055】
第1工程において、第1分析溶液と第2の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0056】
第1工程において、第2分析溶液と第2の酸を混合する際の第2分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0057】
第1工程において、第2分析溶液と第2の酸を混合する際の第2の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0058】
第1工程において、第2分析溶液と第2の酸を混合した後の第3分析溶液の温度が10℃以上30℃以下になることが好ましい。第3分析溶液の温度が前述の範囲であれば、第2分析溶液の温度と第2の酸の温度は問わない。
【0059】
第1工程において、第2分析溶液と第2の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0060】
第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して相分離させた第1有機相である第4分析溶液を得る工程(S02)について説明する。この工程では、第3分析溶液に第1有機溶媒を混合して混合された溶液を有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて第4分析溶液を得る。第3分析溶液に第1有機溶媒を混合して混合された溶液を有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて第4分析溶液を得る工程(S02)を第2工程と略記する場合がある。
【0061】
クロロ化したアンチモンイオンは、親油性であるため第1有機溶媒を用いることでアンチモンイオンを分離させることができる。第1有機溶媒を用いて第3分析溶液を相分離させると有機相(第1有機相)である第4分析溶液と水相である第1水相に分離する。
【0062】
クロロ化したアンチモンイオンは加水分解し易いため、[SbClをHSbCl分子として第1有機相に抽出することが分析精度を高める観点から好ましい。
【0063】
第1有機溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、1-オクタノール、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン及びヘキサンからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル及びジブチルエーテルからなる群より選ばれる1種がより好ましく、ジイソプロピルエーテルがさらにより好ましい。これらの有機溶媒を用いることで、HSbCl分子としてアンチモンイオンを第1有機相に抽出することができる。
【0064】
第1水相には、第1分析溶液、第1の酸、第2の酸に含まれていた酸などが含まれる。第1水相は、第1実施形態の分析対象の溶液ではないため、第1有機相と第1水相を別の容器に分けるか、第1水相を除去することが好ましい。第1水相にアンチモンイオン以外の分析対象物が含まれる場合は、第1水相を他の分析に用いることが出来る。
【0065】
第2工程において、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合する際の第3分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0066】
第2工程において、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合する際の第1有機溶媒の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0067】
第2工程において、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合した後の第4分析溶液の温度が10℃以上30℃以下になることが好ましい。第4分析溶液の温度が前述の範囲であれば、第3分析溶液の温度と第1有機溶媒の温度は問わない。
【0068】
第2工程において、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。第2工程においては、激しく撹拌することが好ましい。そこで、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して撹拌する際の第3分析溶液と第1有機溶媒を混合した溶液の流速は、0.1m/s以上1m/s以下が好ましい。この流速で第3分析溶液と第1有機溶媒を混合した溶液(溶液A)を収容した容器の壁面に向かって溶液Aが当たる様に上下左右方向に複数回、具体的には、10回以上50回以下撹拌することが好ましい。撹拌時間は、0.5分以上3分以下が好ましい。第2工程において、第3分析溶液と第1有機溶媒を撹拌する際の溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0069】
第2工程において、撹拌後の溶液を40℃以上70℃以下の温度で0.5分以上3分以下静置して溶液を相分離させることが好ましい。
【0070】
クロロ化したアンチモンイオンの加水分解を抑制する観点から、第1工程から第2工程に移行する際に、第3分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましく、この温度で10分以内に第2工程を行なうことが好ましい。また、同観点から、第1工程から第2工程に至る過程において、第3分析溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリ性溶液及び塩素ガス及び等を添加することは好ましくない。また、同観点から、第1工程を終えてから、10℃以上30℃以下であり、かつ、0分以上10分以内に不可避的な混入を除き何も第3分析溶液に添加しないで第2工程を行なうことが好ましい。
【0071】
第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程(S03)について説明する。この工程では、第4分析溶液と呈色液を混合する。第1分析溶液に5価のアンチモンイオンが含まれると、第5分析溶液の溶液の色が変化する。第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程(S03)を第3工程と略記する場合がある。
【0072】
呈色液は、例えば、0.01g以上1g以下のローダミンBを1mL以上100mL以下の硫酸(0.1mol/L以上2mol/L)に溶解させた硫酸酸性溶液である。
【0073】
第4分析溶液を呈色液と混合させると、HSbCl分子とローダミンBが錯体を形成して第5分析溶液が赤色に発色する。5価のアンチモンイオン濃度が高ければ濃い赤色に発色し、5価のアンチモンイオン濃度が低ければ薄い赤色に発色する。第1分析溶液に5価のアンチモンイオンが含まれなければ赤色に発色しない。3価のアンチモンイオンに由来するSb3+はローダミンBと混合しても赤色に発色しない。呈色液の550nm付近の吸光度が高いと次工程で5価のアンチモンイオン濃度の評価がし難くなる。そこで、呈色液の530nm以上570nm以下の波長の光の吸光度は、0.01以上3以下であることが好ましい。
【0074】
第3工程において、第4分析溶液と呈色液を混合する際の第4分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0075】
第3工程において、第4分析溶液と呈色液を混合する際の呈色液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
第3工程において、第4分析溶液と呈色液を混合した後の第5分析溶液の温度が10℃以上30℃以下になることが好ましい。第5分析溶液の温度が前述の範囲であれば、第4分析溶液の温度と呈色液の温度は問わない。
【0076】
第3工程において、第4分析溶液と呈色液を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。第3工程の撹拌は、第2工程の撹拌と同様に激しく振り混ぜることが好ましい。
【0077】
第3工程において、撹拌中の第5分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0078】
第2工程から第3工程に移行する際に、第4分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましく、この温度で10分以内に第3工程を行なうことが好ましい。また、意図しない3価のアンチモンイオンの酸化を防ぐなどの観点から、第2工程から第3工程に至る過程において、第4分析溶液に塩素ガス等を添加することは好ましくない。また、同観点から、第2工程を終えてから、10℃以上30℃以下であり、かつ、0分以上10分以内に不可避的な混入を除き何も第3分析溶液に添加しないで第3工程を行なうことが好ましい。
【0079】
第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S04)について説明する。この工程では、第5分析溶液の色から5価のアンチモンイオン濃度を評価する。第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S04)を第4工程と略記する場合がある。
【0080】
第3工程で呈色液を加えると、第1分析溶液に5価のアンチモンイオンが含まれる場合には溶液が赤く変化する。そこで、第5分析溶液の色から5価のアンチモンイオン濃度を評価する。評価手法としては、カラーチャートと第5分析溶液の色を比較する手法、又は、吸光度計を用いた手法が含まれる。
【0081】
カラーチャートと第5分析溶液の色を比較する手法は、簡易的ではあるが測定機器を使用しないためスクリーニング手法として好適である。カラーチャートを用いた場合でも波長が550nm付近の吸光度を赤色の濃さで評価することができる。
【0082】
吸光度計を用いた手法は、第5分析溶液の550nmの波長の吸光度を評価する。測定波長は550nmが好ましいが、530nm以上570nm以下のいずれかの波長でもよく、540nm以上560nm以下のいずれかの波長であることが好ましい。吸光度計を用いる場合は、予め、アンチモン標準液を用いて、検量線を作成して、第5分析溶液の5価のアンチモンイオン濃度を評価する。カラーチャートを用いる場合は、第1分析溶液が第5分析溶液で何倍に薄まっているかを考慮した評価を行なうことが好ましい。
【0083】
ローダミンBを用いたアンチモンイオンの分析は、分析対象の溶液に硫酸セリウム(IV)等を加えて3価のアンチモンイオンを5価に価数変化させてから評価していた。この評価では、硝酸、塩酸、硫酸、硫酸セリウム(IV)などの複数種類の強酸が溶液の調整等の際に添加されており、どの段階でアンチモンイオンの価数変化が生じているのかにつて比較検討した結果がこれまで報告がなかった。硫酸セリウム(IV)と硝酸セリウム(IV)は強力な酸化剤であるため、硫酸セリウム(IV)と硝酸セリウム(IV)が3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させる酸化剤であることが予想されるが、これらの他の酸も3価のアンチモンイオンの酸化剤として働くのか不明であったし、着目されていなかった。そこで、どのような酸が3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させるのかについて、硫酸セリウム(IV)の処理の有無による評価を行なった。
【0084】
硫酸セリウム(IV)処理による評価には以下の溶液を用いた。
試料A:10μg/mL アンチモン(3価)溶液(金属アンチモン換算で10μgの三酸化アンチモン(Sb(III))を10mLの塩酸に溶解した溶液)
試料B:10μg/mL アンチモン(5価)溶液(金属アンチモン換算で10μgのピロアンチモン酸カリウム(Sb(V))を10mLの純水に溶解した溶液)
試料C:10μg/mL アンチモン(3価+5価)溶液(金属アンチモン換算で5μgの三酸化アンチモン(Sb(III))及び金属アンチモン換算で5μgのピロアンチモン酸カリウム(Sb(V))を10mLの純水に溶解した溶液)
塩酸:8mol/L
硫酸:9mol/L
硝酸:16mol/L
硫酸セリウム(IV)溶液:30g/L(硫酸セリウム(IV)四水和物3.6gを硫酸6mL及び水に溶かして100mL)にしたもの
ローダミンB溶液:ローダミンB 0.02gを6mol/Lの硫酸6mLに溶かし、水を加えて100mLとしたもの
【0085】
試験1
3mLの試料A、5mLの硝酸、5mLの硫酸、10mLの塩酸、7mLの水を混合した(処理1)。混合した溶液に溶液の色が黄色になるまで硫酸セリウム(IV)溶液を滴下し、さらに0.5mLの硫酸セリウム(IV)溶液を処理1の溶液に滴下し、滴下後、5分間室温で静置した(処理2)。次に、20mLの塩酸と1mLの硫酸セリウム(IV)溶液を処理2の溶液に添加した(処理3)。次に処理3の溶液に30mLのジイソプロピルエーテルを加え、約2分間溶液を激しく振り混ぜ、静置し溶液を有機相と水相に相分離させ、水相を取り除いた(処理4)。有機相に5mLのローダミンB溶液を加え、1分間激しく振り混ぜて静置した(処理5)。試験1において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0086】
試験2
3mLの試料Bを3mLの試料Aの代わりに用いたこと以外は試験1と同様である。試験2において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0087】
試験3
3mLの試料Cを3mLの試料Aの代わりに用いたこと以外は試験1と同様である。試験3において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0088】
試験1から3では、いずれも呈色反応が認められた。処理5でローダミンB溶液を添加する溶液にHSbClが存在している場合に呈色反応が認められることから、試験1で呈色反応をしていることで、3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化していることがわかった。つまり、処理1において価数変化が起きていることがわかった。
【0089】
試験4
処理2を省略したこと以外は試験1と同様である。試験4において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0090】
試験5
処理2を省略したこと以外は試験2と同様である。試験5において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0091】
試験6
処理2を省略したこと以外は試験3と同様である。試験6において、処理6によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0092】
試験4から6では、いずれも呈色反応が認められた。処理5でローダミンB溶液を添加する溶液にHSbClが存在している場合に呈色反応が認められることから、処理2の酸化工程を行なわなくても、3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化していることがわかった。つまり、処理1において価数変化が起きていることがわかった。
【0093】
試験7
処理2を省略し、処理3において塩酸を添加しなかったこと以外は試験1と同様である。試験7において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0094】
試験8
処理2を省略し、処理3において塩酸を添加しなかったこと以外は試験2と同様である。試験8において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0095】
試験9
処理2を省略し、処理3において塩酸を添加しなかったこと以外は試験3と同様である。試験9において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0096】
試験7から9では、いずれも呈色反応が認められた。処理5でローダミンB溶液を添加する溶液にHSbClが存在している場合に呈色反応が認められることから、処理2の酸化工程を行なわなくても、3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化していることがわかった。つまり、処理1において価数変化が起きていることがわかった。さらに、処理3の塩酸添加によってアンチモンイオンがクロロ化されていると考えていたが、この塩酸がなくても呈色反応が起きていることから、処理1で価数変化とクロロ化が同時に進行したことが予想される。
【0097】
試験10
処理2及び処理3を省略したこと以外は試験1と同様である。試験1において、処理10によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0098】
試験11
処理2及び処理3を省略したこと以外は試験2と同様である。試験11において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0099】
試験12
処理2及び処理3を省略したこと以外は試験3と同様である。試験12において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化(呈色)したことが認められた。
【0100】
試験10から12では、いずれも呈色反応が認められた。処理5でローダミンB溶液を添加する溶液にHSbClが存在している場合に呈色反応が認められることから、処理2の酸化工程を行なわなくても、3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化していることがわかった。つまり、処理1において価数変化が起きていることがわかった。さらに、処理3の塩酸添加によってアンチモンイオンがクロロ化されていると考えていたが、この塩酸がなくても呈色反応が起きていることから、処理1で価数変化とクロロ化が同時に進行したことが予想される。
【0101】
試験13
処理1において硝酸を添加せず、処理2及び処理3を省略したこと以外は試験1と同様である。試験13において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化しなかった。
【0102】
試験14
処理1において硝酸を添加せず、処理2及び処理3を省略したこと以外は試験2と同様である。試験14において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化しなかった。
【0103】
試験15
処理1において硝酸を添加せず、処理2及び処理3を省略したこと以外は試験3と同様である。試験15において、処理5によって透明な溶液が赤色に変化しなかった。
【0104】
試験13から試験15では、いずれも呈色反応が認められなかった。溶液の色の変化が確認できなかったことから硝酸を添加しない処理1では少なくともクロロ化が進行していないと予想される。また、試験13から試験15でいずれも呈色反応が認められなかったため、硝酸の有無が3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化する要因かどうかについて、試験13から試験15からは判断ができなかった。
【0105】
次に、処理1で3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに価数変化している可能性があることが試験1から試験15からわかったことから、特定元素の価数情報が得られるX線吸収微細構造解析(X-ray Absorption Fine Structure:XAFS)による評価を行なった。処理1で用いる酸を変えた場合に、どの酸を用いた場合にアンチモンイオンの価数変化が起きるか(起きないか)を評価した。
【0106】
試験16
3価のアンチモンイオンを含む水溶液をXAFSで評価した。30425eVから30525eVの間のXAFSスペクトル(点線)を図3に示す。試験16の3価のアンチモンイオンを含む水溶液には、金属アンチモン換算で1μg/mLのSb3+が含まれる。試験16のXAFSスペクトルにおいて、3価のアンチモンに由来する30474eV付近にピークが確認された。
【0107】
試験17
5価のアンチモンイオンを含む水溶液をXAFSで評価した。試験17の5価のアンチモンイオンを含む水溶液には、金属アンチモン換算で1μg/mLのSb5+が含まれる。30425eVから30525eVの間のXAFSスペクトル(破線)を図3に示す。試験17のXAFSスペクトルにおいて、5価のアンチモンに由来する30480eV付近にピークが確認された。
【0108】
試験18から21は、試験16と試験17の結果と比較してアンチモンイオンの価数変化が起こったか起こっていないかを評価した。これらの試験結果が試験16のXAFSスペクトルと似た結果が得られれば価数変化が生じておらず、試験17のXAFSスペクトルと似た結果が得られれば価数変化が生じており、その中間の結果であれば一部価数変化が生じていると仮定して評価した。
【0109】
試験18
アンチモンイオンを含む溶液をXAFSで評価した。試験18のアンチモンイオンを含む水溶液には、金属アンチモン換算で1μg/mL(濃度は水及び酸と混合後の値)のSb3+を含む溶液に、水、塩酸、硫酸及び硝酸が混合されている。試験18のアンチモンイオンを含む溶液の塩酸濃度は、1.5mol/L、硫酸濃度は1.5mol/L、硝酸濃度は2.7mol/Lである。試験18の30425eVから30525eVの間のXAFSスペクトル(実線)を図3に示す。試験18のXAFSスペクトルにおいて、3価のアンチモンに由来する30474eVと5価のアンチモンに由来する30480eVの間にピークが確認された。3価のアンチモンに由来する30474eVと5価のアンチモンに由来する30480eVの間にピークが確認されたことから、試験18のアンチモンイオンを含む水溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンの一部が5価のアンチモンイオンに価数変化したと考えられる。
【0110】
試験19
アンチモンイオンを含む溶液をXAFSで評価した。試験19のアンチモンイオンを含む水溶液には硝酸が含まれていないこと(硝酸の代わりに水を増量)以外は試験19のアンチモンイオンを含む水溶液と試験18のアンチモンイオンを含む水溶液は同様である。試験19のXAFSスペクトルにおいて、3価のアンチモンに由来する30474eV付近にピークが確認された。試験19のXAFSスペクトルは、試験16のXAFSスペクトルと概ね重なっていた。試験19のXAFSスペクトルは、試験16のXAFSスペクトルと概ね重なっていたことから、硝酸が3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させる酸化剤として働いたと考えられる。
【0111】
試験20
アンチモンイオンを含む溶液をXAFSで評価した。試験20のアンチモンイオンを含む水溶液には硫酸が含まれていないこと(硫酸の代わりに水を増量)以外は試験20のアンチモンイオンを含む水溶液と試験18のアンチモンイオンを含む水溶液は同様である。試験20のXAFSスペクトルにおいて、3価のアンチモンに由来する30474eVと5価のアンチモンに由来する30480eVの間にピークが確認された。試験20のXAFSスペクトルは、試験18のXAFSスペクトルと概ね重なっていた。試験20のXAFSスペクトルは、試験18のXAFSスペクトルと概ね重なっていたことから、硝酸が3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させる酸化剤として働いたと考えられる。
【0112】
試験21
アンチモンイオンを含む溶液をXAFSで評価した。試験21のアンチモンイオンを含む水溶液には塩酸が含まれていないこと(塩酸の代わりに水を増量)以外は試験21のアンチモンイオンを含む水溶液と試験18のアンチモンイオンを含む水溶液は同様である。試験21のXAFSスペクトルにおいて、3価のアンチモンに由来する30474eVと5価のアンチモンに由来する30480eVの間にピークが確認された。試験21のXAFSスペクトルは、試験18のXAFSスペクトル及び試験20のXAFSスペクトルと概ね重なっていた。試験20のXAFSスペクトルは、試験18のXAFSスペクトル及び試験20のXAFSスペクトルと概ね重なっていたことから、硝酸が3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させる酸化剤として働いたと考えられる。
【0113】
試験18から試験21の結果から、硝酸の有無でXAFSスペクトルに違いが生じた。塩酸、硫酸の有無によってXAFSスペクトルに違いが生じていることは確認されなかった。そこで、これらの結果から3価のアンチモンイオンが含まれる水溶液に硝酸を添加すると5価のアンチモンイオンに価数変化することがわかった。そこで、第1実施形態では、全工程で硝酸、硝酸アンモニウムセリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)が含まれない条件で実施することが好ましい。
第1実施形態の分析方法は、3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンを含む第1分析溶液又は第1の酸と第1分析溶液が混合された第2分析溶液と第2の酸を混合して5価のアンチモンイオンがクロロ化され[SbClイオンを含む第3分析溶液を得る工程(S01)と、第3分析溶液と第1有機溶媒を混合して有機相である第4分析溶液と水相に相分離させて第4分析溶液を得る工程(S02)と、第4分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第5分析溶液を得る工程(S03)と、第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S04)と、を含む。この分析方法を行うことで、溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を簡便に測定することができる。
【0114】
(第2実施形態)
第2実施形態のアンチモンの分析方法は、図4の実施形態に関わるフローチャートに示すように第1分析溶液又は第2分析溶液と第3の酸を混合して3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに酸化された第6分析溶液を得る工程(S05)と、第6分析溶液と第4の酸を混合して第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオン及び第1分析溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンが酸化された5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbCl]イオンを含む第7分析溶液を得る工程(S06)と、第7分析溶液と第2有機溶媒を混合して第2有機相である第8分析溶液と水相に相分離させて第8分析溶液を得る工程(S07)と、第8分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第9分析溶液を得る工程(S08)と、第9分析溶液の色から第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する工程(S09)と、第5分析溶液の色と第9分析溶液の色を比較して第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S10)と、を有する。
【0115】
第2実施形態の有する分析工程では、3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させて3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する。そして、第1実施形態の第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度の評価結果を用いて、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン濃度を評価する。
【0116】
第2実施形態のアンチモンの分析方法は、第1実施形態の分析工程と第2実施形態の分析工程(S05-S10)の両方を実施する。第2実施形態のアンチモンの分析方法において、第1実施形態の分析工程と第2実施形態の分析工程を並行に実施してもよいし、第1実施形態の分析工程を先に実施して第2実施形態の分析工程を後に実施してもよいし、第2実施形態の分析工程を先に実施して第1実施形態の分析工程を後に実施してもよい。第2実施形態の分析工程を先に実施して第1実施形態の分析工程を後に実施する場合、第5分析溶液の色と第9分析溶液の色を比較して第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S10)は、第1実施形態の第5分析溶液の色から第1分析溶液中の5価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S04)及び第2実施形態の第9分析溶液の色から第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する工程(S09)を実施してから行なう。
【0117】
第2実施形態の分析方法においては、第1の酸を含む第1容器1と、第2の酸を含む第2容器2と、第1有機溶媒を含む第3容器3と、呈色液を含む第4容器4と、第3の酸を含む第5容器5と、第4の酸を含む第6容器6と、第2有機溶媒を含む第7容器7と、を含むアンチモンイオンの価数別分析に用いられる検査用具200が用いられることが好ましい。図5に第2実施形態の検査用具200の模式図を示す。図5の模式図には検査用具100を用いた5価のアンチモンイオンの分析手順も簡略的に示している。図5において、第1の酸と第1分析溶液の混合が省略される場合があるため、第1容器1からの矢印は破線で示している。
【0118】
第2の酸と第4の酸が同じ溶液である場合は、第2容器2と第6容器6は共通する。第2容器2と第6容器6が共通する場合、第2容器2又は第6容器6を省略することができる。
【0119】
第1有機溶媒と第2有機溶媒が同じ溶液である場合は、第3容器3と第7容器7は共通する。第3容器3と第7容器7が共通する場合、第3容器3又は第7容器7を省略することができる。
【0120】
第1容器1、第2容器2、第3容器3、第4容器4、第5容器5、第6容器6及び第7容器7は、ガラス又は合成樹脂の容器であることが好ましい。各容器は、瓶形状を有していてもよいしチューブ形状を有していてもよい。各容器には、開口部が設けられている。開口部には、溶液の漏れを防ぐための弁が設けられていたり、蓋が設けられたりしている。各溶液は、ピペット、スポイト及びシリンジのいずれかを用いて別の溶液に移すことができる。
【0121】
第1実施形態と第2実施形態で共通する内容についてはその説明を以下省略している。第1実施形態と第2実施形態において第1分析溶液又は第2分析溶液が使用される。
【0122】
第1実施形態と第2実施形態では、S05に示されるような3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化させる酸化の有無を除き共通する処理が行なわれる。第1実施形態と第2実施形態に記載された処理において、共通する処理については、用いる溶液の種類、量、温度、時間、撹拌方法などを同じ条件にすることで、第2実施形態における3価のアンチモンイオン濃度の評価の信頼性が向上する。
【0123】
第1分析溶液又は第2分析溶液と第3の酸を混合して3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンに酸化された第6分析溶液を得る工程(S05)について説明する。この工程では、分析対象である第1分析溶液又は第2分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに価数変化(酸化)させる。第1分析溶液又は第2分析溶液と第3の酸を混合して3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化された第6分析溶液を得る工程(S05)を第5工程と略記する場合がある。
【0124】
第1分析溶液と第1の酸を混合した第2分析溶液を用いる場合、第1実施形態の第1工程で用いる第1の酸と第2実施形態の第5分析工程で用いる第1の酸は同じ酸で同じ量であることが好ましい。
【0125】
第2実施形態では、第1分析溶液中に含まれる3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する。3価のアンチモンイオンはローダミンBと呈色反応をしない。第2実施形態で3価のアンチモンイオンを含めたアンチモンイオン濃度を測定するために第5工程において3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させる。
【0126】
第5工程において、第1分析溶液又は第2分析溶液中の3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させる第3の酸を第1分析溶液又は第2分析溶液と混合する。第3の酸は、硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群より選ばれる1種以上が含まれることが好ましい。第3の酸には硫酸セリウム(IV)が含まれることがより好ましい。第3の酸には、塩酸、硫酸、過酸化水素酸及び過塩素酸からなる群より選ばれる1種以上がさらに含まれていてもよい。
【0127】
硝酸セリウム(IV)は、例えば、硝酸セリウム(IV)を硝酸に溶解させた溶液として用いる。また、硫酸セリウム(IV)は、例えば、硫酸セリウム(IV)6水和物を硫酸に溶解させた溶液として用いる。第3の酸の硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)の総濃度は、0.02mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以上0.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0128】
第3の酸に硝酸が含まれる場合、第3の酸中の硝酸濃度は、0.02mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以上0.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0129】
第3の酸に硝酸セリウム(IV)が含まれる場合、第3の酸中の硝酸セリウム(IV)濃度は、0.02mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以上0.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0130】
第3の酸に硫酸セリウムが含まれる場合、第3の酸中の硫酸セリウム(IV)濃度は、0.02mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以上0.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0131】
第3の酸のpHは、3以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0132】
第1分析溶液と第3の酸の混合体積比率([第3の酸の量]/[第1分析溶液の量])は、1以上100以下であることが好ましく、2以上50以下がより好ましい。第1分析溶液の量(容量)に対する第3の酸の量(容量)が少なすぎると3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンへ価数変化する酸化が不十分になり適切な分析を行なうことができない場合がある。
【0133】
第2分析溶液と第3の酸の混合体積比率([第3の酸の量]/[第2分析溶液の量])は、1以上100以下であることが好ましく、2以上50以下がより好ましい。第2分析溶液の量(容量)に対する第3の酸の量(容量)が少なすぎると3価のアンチモンイオンが5価のアンチモンイオンへ価数変化する酸化が不十分になり適切な分析を行なうことができない場合がある。
【0134】
第3の酸に複数種類の酸が含まれる場合、1種又は複数種の酸を別々に第1分析溶液又は第2分析溶液と混合してもよい。例えば、第3の酸に硝酸と硫酸が含まれ、第1分析溶液と混合する場合、第1分析溶液と硫酸を混合してから、第1分析溶液と硫酸を混合した溶液と硝酸を混合してもよい。
【0135】
第3の酸に硫酸セリウム(IV)を用いる場合、第1分析溶液又は第2分析溶液に硫酸セリウム(IV)溶液を溶液の色が黄色になるまで加える。そして、黄色になった溶液にさらに0.1mL以上1.0mL以下の硫酸セリウム(IV)溶液を黄色になった溶液に加えることが好ましい。
【0136】
第5工程において、第1分析溶液と第3の酸を混合する際の第1分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0137】
第5工程において、第1分析溶液と第3の酸を混合する際の第3の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0138】
第5工程において、第1分析溶液と第3の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0139】
第5工程において、第2分析溶液と第3の酸を混合する際の第1分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0140】
第5工程において、第2分析溶液と第3の酸を混合する際の第3の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0141】
第5工程において、第2分析溶液と第3の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0142】
第5工程において、第1分析溶液又は第2分析溶液と第3の酸を混合してから1分以上経過してから第6工程を行なうことが好ましい。第3の酸を加えてからすぐに第6工程を行なうと、3価のアンチモンイオンの価数変化が十分に進行しない可能性がある。第3の酸を添加すると比較的速やかに酸化反応が進行するため、第1分析溶液又は第2分析溶液と第3の酸を混合してから1分以上経過してから第6工程を行なうことが好ましい。上限は特にないが、1分以上10分以下経過してから第6工程を行なうことが好まく、1分以上5分以下経過してから第6工程を行なうことがより好ましい。
【0143】
第6分析溶液と第4の酸を混合して第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオン及び第1分析溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンが酸化された5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbCl]イオンを含む第7分析溶液を得る工程(S06)について説明する。この工程では、分析対象である第1分析溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンが価数変化した5価のアンチモンイオン及び第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオンがクロロ化される。第6分析溶液と第4の酸を混合して第1分析溶液に含まれていた5価のアンチモンイオン及び第1分析溶液に含まれていた3価のアンチモンイオンが酸化された5価のアンチモンイオンがクロロ化された[SbCl]イオンを含む第7分析溶液を得る工程(S06)を第6工程と略記する場合がある。
【0144】
第6工程においては、第1分析溶液(又は第2分析溶液)に含まれていた3価のアンチモンイオンが5価に酸化された5価のアンチモンイオン及び第1分析溶液(又は第2分析溶液)に含まれていた5価のアンチモンイオンの両方をクロロ化させた[SbCl]が含まれる第7分析溶液が得られる。
【0145】
第4の酸と第2の酸で共通する内容についてはその説明を省略する。第4の酸として、第2の酸を用いることができる。第4の酸に、第2の酸と異なる酸溶液を用いることができる。
【0146】
第4の酸を第6分析溶液と混合して、第7分析溶液が得られる。第7分析溶液中のアンチモンイオンは、クロロ化している。具体的には、第7分析溶液中の5価のアンチモンイオンは、[SbClとして存在する。
【0147】
第4の酸は、少なくとも塩酸を含むことが好ましい。第4の酸に塩酸が含まれることで、第6分析溶液のpHを低くし又は低いpHを維持し、過剰な塩化物イオンを第3分析溶液に供給することができる。3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンのクロロ化は、pHが低く、アンチモンイオンに対して過剰な塩化物イオンが存在していることが好ましい。
【0148】
第6工程において用いられる第4の酸には、硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群から選ばれる1種以上が含まれていてもよい。第6分析溶液には、3価のアンチモンイオンを5価のアンチモンイオンに酸化させる硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群から選ばれる1種以上が含まれているため、第4の酸に硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群から選ばれる1種以上が含まれていても悪影響はない。
【0149】
第4の酸には、塩酸の他に硝酸、硝酸セリウム(IV)及び硫酸セリウム(IV)からなる群より選ばれる1種以上の酸が含まれることが好ましい。
【0150】
第6分析溶液と第4の酸の混合体積比率([第4の酸の量]/[第6分析溶液の量])は、1以上100以下であることが好ましく、5以上20以下がより好ましい。第6分析溶液の量(容量)に対する第4の酸の量(容量)が少なすぎると、より具体的には塩酸が少なすぎるとクロロ化が不十分になり適切な分析を行なうことができない場合がある。
【0151】
第6工程において、第6分析溶液と第4の酸を混合する際の第6分析溶液の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0152】
第6工程において、第6分析溶液と第4の酸を混合する際の第4の酸の温度は、10℃以上30℃以下が好ましい。
【0153】
第6工程において、第6分析溶液と第4の酸を混合する際には、溶液を振り混ぜるなどして撹拌することが好ましい。
【0154】
第7分析溶液と第2有機溶媒を混合して第2有機相である第8分析溶液と水相に相分離させて第8分析溶液を得る工程(S07)について説明する。この工程では、第7分析溶液と第2有機溶媒を混合して第2有機相である第8分析溶液と水相に相分離させて第8分析溶液を得る。第7分析溶液と第2有機溶媒を混合して第2有機相である第8分析溶液と水相に相分離させて第8分析溶液を得る工程(S07)を第7工程と略記する場合がある。
【0155】
第7工程は、第2工程と類似する。第7工程と第2工程で共通する内容についてはその説明を省略する。
【0156】
クロロ化したアンチモンイオンは、親油性であるため第2有機溶媒を用いることでアンチモンイオンを分離させることができる。第1有機溶媒を用いて第7分析溶液を相分離させると有機相(第2有機相)である第8分析溶液と水相である第2水相に分離する。
【0157】
第2有機溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、1-オクタノール、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン及びヘキサンからなる群より選ばれる1種以上が好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル及びジブチルエーテルからなる群より選ばれる1種がより好ましく、ジイソプロピルエーテルがさらにより好ましい。これらの有機溶媒を用いることで、HSbCl分子としてアンチモンイオンを第2有機相に抽出することができる。第2有機溶媒には、第1有機溶媒と同じ有機溶媒を用いることが好ましい。第1実施形態と第2実施形態で同じ有機溶媒を用いることで、分析条件が同様になり濃度評価の信頼性が向上する。
【0158】
第7工程で用いた第2有機溶媒の量(容量)は、第2工程で用いた第1有機溶媒の量(容量)の0.5倍以上1.5倍以下が好ましい。第4工程及び第9工程でカラーチャートによる評価を行なう場合、評価対象の液が有機溶媒で同程度に希釈されていると色の違いによる評価が容易となる。
【0159】
第2水相には、第1分析溶液、第3の酸及び第4の酸に含まれていた酸などが含まれる。第2水相は、第2実施形態の分析対象の溶液ではないため、第2有機相と第2水相を別の容器に分けるか、第2水相を除去することが好ましい。第2水相にアンチモンイオン以外の分析対象物が含まれる場合は、第2水相を他の分析に用いることが出来る。
【0160】
第8分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第9分析溶液を得る工程(S08)について説明する。この工程では、第8分析溶液と呈色液を混合する。第1分析溶液に3価のアンチモンイオン又は/及び5価のアンチモンイオンが含まれると、第9分析溶液の溶液の色が変化する。第8分析溶液とローダミンBを含む呈色液を混合させて第9分析溶液を得る工程(S08)を第8工程と略記する場合がある。
【0161】
第8工程は、第3工程と類似する。第8工程と第3工程で共通する内容についてはその記載を省略する。
【0162】
第8分析溶液を呈色液と混合させると、HSbCl分子とローダミンBによって第9分析溶液が赤色に発色する。第8工程で用いる呈色液は、第3工程で用いた呈色液と同じであることが好ましい。同じ呈色液を用いることで、アンチモンイオン濃度の評価の信頼性が向上する。
【0163】
第9分析溶液の色から第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する工程(S09)について説明する。この工程では、第9分析溶液の色から5価のアンチモンイオン濃度を評価する。第9分析溶液の色から第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する工程(S09)を第9工程と略記する場合がある。
【0164】
第9工程は、第4工程と類似する。第9工程と第4工程で共通する内容についてはその記載を省略する。
【0165】
第8工程で呈色液を加えると、第1分析溶液に3価のアンチモンイオン又は/及び5価のアンチモンイオンが含まれる場合には溶液が赤く変化する。アンチモンイオン濃度が高ければ赤色が濃くなり、アンチモンイオン濃度が低ければ赤色が薄くなる。そこで、第9分析溶液の色から第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度を評価する。評価手法としては、カラーチャートと第9分析溶液の色を比較する手法、又は、吸光度計を用いた手法が含まれる。
【0166】
第5分析溶液の色と第9分析溶液の色を比較して第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S10)について説明する。この工程では、第9分析溶液の色と第5分析対象の色を比較して、色の違いの差から第1分析溶液中に含まれていた3価のアンチモンイオン濃度を評価する。第5分析溶液の色と第9分析溶液の色を比較して第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオン濃度を評価する工程(S10)を第10工程と略記する場合がある。
【0167】
第1実施形態の第4工程で5価のアンチモンイオンの濃度(第5分析溶液の色)を評価し、第2実施形態の第9工程で3価のアンチモンイオン及び5価のアンチモンイオンの総濃度(第9分析溶液の色)を評価した。この2つの評価結果を比較して、第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン濃度を評価する。第5分析溶液と第9分析溶液のアンチモンイオンが同程度に希釈されている場合、2つの溶液の色の濃さの差が第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン濃度を表している。
【0168】
第4工程及び第9工程でカラーチャートを用いて比較する場合、まず、第5分析溶液及び第9分析溶液の希釈率を考慮する。第1有機溶媒及び第2有機溶媒の量を考慮して2つの溶液の色の違いを評価する。第9分析溶液の色は、第1分析溶液に含まれる3価のアンチモンイオンと5価のアンチモンイオンの総濃度に比例して濃くなる。また、第5分析溶液の色は、第1分析溶液の3価のアンチモンイオン濃度に比例して濃くなる。「希釈率を考慮した第9分析溶液の色」と「希釈率を考慮した第5分析溶液の色」の濃さ差が第1分析溶液中の3価のアンチモンイオン濃度を表している。「希釈率を考慮した第9分析溶液の色」と「希釈率を考慮した第4分析溶液の色」の濃さ差が閾値以上であれば、水素化物発生ICP質量分析法(HG-ICP/MS)などの精密な方法で価数別にアンチモンイオン濃度を測定することが好ましい。
【0169】
第4工程及び第9工程で吸光度計を用いて比較する場合、第5分析溶液と第9分析溶液を同様の方法で測定する。第4工程で第1分析溶液の5価のアンチモンイオン濃度が評価される(濃度が求められる)。第9工程では、第1分析溶液の3価のアンチモンイオンと5価のアンチモンイオンの総濃度が評価される(濃度が求められる)。「第1分析溶液の3価のアンチモンイオンと5価のアンチモンイオンの総濃度」と「第1分析溶液の5価のアンチモンイオン濃度」の差から3価のアンチモンイオン濃度を求める。求められた3価のアンチモンイオン濃度が閾値以上であれば、水素化物発生ICP質量分析法(HG-ICP/MS)などの精密な方法で価数別にアンチモンイオン濃度を測定することが好ましい。
【0170】
上記に説明した方法によれば高価な機器を用いずに簡便な方法でアンチモンイオン濃度の価数別の評価を行なうことができる。高価で操作が煩雑な水素化物発生ICP質量分析法(HG-ICP/MS)などで高精度な価数別のイオン濃度の評価を行なうことができるが分析が容易ではないため3価のアンチモンが含まれている可能性が低い試料に対して行なうことは経済的な観点と、迅速な分析を行えないという観点から適していない。実施形態の方法であれば簡便かつ短時間で試料中の3価のアンチモンの評価を行えるため3価のアンチモンのスクリーニング手法として適している。また、実施形態の分析方法は低コストで実施できるため経済性の観点からも優れた分析方法である。
【0171】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5