(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】供試魚経口投与具
(51)【国際特許分類】
A01K 61/80 20170101AFI20241216BHJP
【FI】
A01K61/80
(21)【出願番号】P 2022050315
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤原 尚美
(72)【発明者】
【氏名】豊久 志朗
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-156721(JP,U)
【文献】国際公開第2019/142757(WO,A1)
【文献】Naomi Fujiwara,Improvement of a fish holding device for oral administration to zebrafish,Fundamental Toxicological Sciences,2021年09月09日,Vol.8 No.6,Page.183-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/80
A23K 10/00-50/90
A61D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験物質を封入するシリンジと、当該シリンジから供給された被験物質を先端から流出させる細管部と、を備え、前記細管部
が供試魚の口腔内に挿入される挿管状態において前記細管部の先端から流出させた被験物質を前記供試魚に直接経口投与するための供試魚経口投与具であって、
前記細管部が、前記シリンジに接続された剛性の針状部材と、当該針状部材の先端側に対して基端側が連接された可撓性のチューブ部材とからなり、
前記チューブ部材の基端側が前記針状部材の先端側に対して外嵌合されて接続されて
、前記チューブ部材の基端側と前記針状部材の先端側との嵌合部分が前記チューブ部材の基端側に前記針状部材の先端側を内挿する状態で設けられており、
前記
嵌合部分の基端が、前記挿管状態において前記供試魚の口先付近に位置決めされる挿管深さ指標に設定されて
、前記チューブ部材の基端側と前記針状部材の先端側との嵌合部分が、前記挿管状態において前記供試魚の口腔内で保持され、
前記供試魚が、ゼブラフィッシュであると共に、
前記チューブ部材の基端側と前記針状部材の先端側との嵌合部分の長さが1mm~5mmの範囲内に設定されている供試魚経口投与具。
【請求項2】
前記チューブ部材が、別のチューブ部材と交換可能なように前記針状部材に対して着脱自在に構成されている請求項
1に記載の供試魚経口投与具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質を供試魚に直接経口投与するための供試魚経口投与具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゼブラフィッシュが実験対象動物として非常に注目されている。ゼブラフィッシュは体長40mmほどの小型の魚である。ゼブラフィッシュのような小型の供試魚に対して被験物質を直接経口投与するために用いられる供試魚経口投与具としては一般的にシリンジが用いられている。即ち、このような供試魚経口投与具は、被験物質を封入するシリンジと、当該シリンジから供給された被験物質を先端の開口部から流出させる細管部と、を備える。そして、細管部を供試魚の口腔内に挿入する挿管状態において細管部の先端から流出させた被験物質が供試魚に直接経口投与される。尚、本願において、細管部を供試魚の口腔内に挿入することを単に「挿管」と呼ぶ場合がある。
また、シリンジに取り付けられる上記細管部としては、一般的に、剛性の金属などからなる針状部材や、可撓性の経口ゾンデと呼ばれるチューブ部材などが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記細管部として剛性の針状部材をシリンジに取り付けてなる供試魚経口投与具を用いて、当該針状部材を供試魚の口腔内に挿管する挿管状態で供試魚に対して経口投与を行う場合、針状部材が剛性であることから、供試魚の胃や腸を傷つけやすくなる。また、それを恐れて供試魚の口腔内に対する針状部材の挿管深さを浅くしすぎると、針状部材の先端から流出された被験物質が供試魚の胃や腸に届かずに鰓から体外へ漏れ出ることが問題となる。
一方、上記細管部として可能性のチューブ部材をシリンジに取り付けてなる供試魚経口投与具を用いて、チューブ部材を供試魚の口腔内に挿入する挿管状態で供試魚に対して経口投与を行う場合、チューブ部材が可撓性であることから、鰓からの流出を軽減すべく挿管深さを比較的深くした場合でも供試魚の胃や腸への負担が軽減される。しかしながら、挿管を行う利用者は、供試魚に対してチューブ部材をどの程度の深さまで挿管したかを把握することが困難であることから、挿管深さを適切なものとすることが困難であり、供試魚の胃や腸の損傷や鰓からの被験物質の流出が生じる恐れがある。また、細管部を可撓性のチューブ部材で構成する場合には、当該チューブ部材の形状が不安定であることから、供試魚の口腔内に対する挿管が難しくなり、更には当該チューブ部材が供試魚の口腔付近で屈曲して被験物質の通流が阻害される場合がある。
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、被験物質を供試魚に直接経口投与するための供試魚経口投与具において、供試魚の胃や腸の損傷を抑制しながら安定且つ正確に挿管を行って供試魚に対して適切に被験物質を経口投与可能な技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1特徴構成は、被験物質を封入するシリンジと、当該シリンジから供給された被験物質を先端から流出させる細管部と、を備え、前記細管部が前記供試魚の口腔内に挿入される挿管状態において前記細管部の先端から流出させた被験物質を前記供試魚に直接経口投与するための供試魚経口投与具であって、
前記細管部が、前記シリンジに接続された剛性の針状部材と、当該針状部材の先端側に対して基端側が連接された可撓性のチューブ部材とからなり、
前記チューブ部材の基端側が前記針状部材の先端側に対して外嵌合されて接続されており、前記チューブ部材の基端が前記挿管状態において前記供試魚の口先付近に位置決めされる挿管深さ指標に設定されている点にある。
【0005】
本構成によれば、チューブ部材の基端側の一部が針状部材の先端側の一部に外嵌された状態で、針状部材の先端側にチューブ部材が連接されている。すると、チューブ部材の基端は、針状部材の先端部分の外表面に位置して、外側から直径が変化する段部として視認可能な状態となる。そして、そのように視認可能なチューブ部材の基端が、細管部が供試魚の口腔内に挿入される挿管状態において、供試魚の下顎や上顎などの口先付近に位置決めされる挿管深さ指標に設定されている。
よって、利用者は、挿管深さ指標となるチューブ部材の基端を視認しながら、それが供試魚の口先付近に位置決めされるように、供試魚の口腔内に対して針状部材の先端側に基端側が接続されたチューブ部材を簡単且つ正確に挿管することができる。すると、チューブ部材の基端側と針状部材の先端側との嵌合部分は、剛性であることから供試魚の口腔内で安定した状態で保持されると共に、その嵌合部分の先端側に位置する可撓性のチューブ部材が、安定した状態で屈曲することなく供試魚の鰓を超えて胃や腸の損傷が抑制される適切な挿管深さで挿管されることになる。
従って、本発明により、被験物質を供試魚に直接経口投与するための供試魚経口投与具において、供試魚の胃や腸の損傷を抑制しながら安定且つ正確に挿管を行って供試魚に対して適切に被験物質を経口投与可能な技術を提供することができる。
【0006】
本発明の第2特徴構成は、前記供試魚が、ゼブラフィッシュであると共に、
前記チューブ部材の基端側と前記針状部材の先端側との嵌合部分の長さが1mm~5mmの範囲内に設定されている点にある。
【0007】
本構成によれば、体長50mmほどのゼブラフィッシュを供試魚として、その供試魚の口腔内に対して、針状部材の先端側に基端側が外嵌合されて連結されたチューブ部材を挿管する場合には、チューブ部材の基端側と針状部材の先端側との嵌合部分の長さを1mm~5mmの範囲内に設定することで、安定した状態で供試魚の損傷を抑制することができる。
即ち、上記嵌合部分が1mm未満である場合には、針状部材に対するチューブ部材の接合安定性が低下して、挿管時においてチューブ部材が不用意に針状部材から脱落するなどの問題が生じる。
一方、上記嵌合部分が5mm超である場合には、その嵌合部分の基端である挿管深さ指標を供試魚の口先付近に位置決めした挿管状態において、剛性の嵌合部分が供試魚の食道側に到達し傷つける恐れがある。
【0008】
本発明の第3特徴構成は、前記チューブ部材が、別のチューブ部材と交換可能なように前記針状部材に対して着脱自在に構成されている点にある。
【0009】
本構成によれば、チューブ部材が針状部材に対して着脱自在に構成されているので、当該チューブ部材を別の長さのものや別の新しいものに容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】供試魚経口投与具1の全体構成並びに供試魚Fに対する挿管状態を示す図
【
図2】供試魚経口投与具1における細管部10を拡大した片側断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、本実施形態の供試魚経口投与具(以下「本経口投与具」と呼ぶ。)1は、被験物質を封入するシリンジ2と、当該シリンジ2から供給された被験物質を先端の開口部から流出させる細管部10と、を備えており、
図1(b)に示すように、細管部10が供試魚Fの口腔内に挿入される挿管状態において細管部10の先端の開口部から流出させた被験物質を供試魚Fに直接経口投与するための器具として構成されている。
尚、
図1及び
図2に示す本経口投与具1の細管部10において、シリンジ2側(図面上で右側)を基端側と呼び、シリンジ2とは反対側(図面上で左側)を先端側と呼ぶ。
また、本経口投与具1では、体長40mmほどの小型のゼブラフィッシュを経口投与対象の供試魚Fとして、シリンジ2のサイズや細管部10の口径などの各種寸法等が設定されている。
【0012】
本経口投与具1は、シリンジ2に取り付けられた細管部10を供試魚Fの口腔内に挿管した挿管状態において、供試魚Fの胃や腸の損傷を抑制しながら安定且つ正確に挿管を行って供試魚Fに対して適切に被験物質を経口投与可能な構成を採用しており、その詳細について以下に説明を加える。
【0013】
即ち、
図2にも示すように、本経口投与具1が備える細管部10は、シリンジ2に接続された剛性の金属からなる針状部材11と、当該針状部材11の先端11a側に対して基端12b側が連接された可撓性の経口ゾンデと呼ばれるチューブ部材12とからなる。
更に、チューブ部材12の基端12b側が針状部材11の先端11a側に対して外嵌合されて接続されている。このことで、チューブ部材12の基端12b側と針状部材11の先端11a側との嵌合部分20が設けられる。この嵌合部分20は、内挿された針状部材11により保形された剛性のものとなる。
更に、嵌合部分20の基端となるチューブ部材12の基端12bは、針状部材11の先端11a部分の外表面において、径が変化する段部として視認可能に露出された状態になる。そして、このように外部から視認可能となるチューブ部材12の基端12bが、
図1(b)及び
図2に示すような挿管状態において、供試魚Fの下顎などの口先Fa付近に位置決めされる挿管深さ指標Aに設定されている。また、図示は省略するが、チューブ部材12自身やその基端12bを着色するなどして、針状部材11の外表面に対する挿管深さ指標A(基端12b)の視認性を向上させることができる。
尚、本実施形態では、挿管深さ指標Aの位置決め対象となる口先Faを供試魚Fの下顎としているが、供試魚Fの上顎や別の口先付近であっても構わない。
【0014】
以上のように構成された本経口投与具1を用いて供試魚Fに被験物質の経口投与を行う利用者は、挿管深さ指標Aとなるチューブ部材12の基端12bを視認しながら、
図1(b)及び
図2に示すように、それが供試魚Fの口先Fa付近に位置決めされるように、供試魚Fの口腔内に対して針状部材11の先端11a側に基端12b側が接続されたチューブ部材12を簡単且つ正確に挿管することができる。
このような挿管状態では、剛性の嵌合部分20が、供試魚Fの口腔内で安定した状態で保持されている。そして、嵌合部分20の先端側に位置する可撓性のチューブ部材12が、安定した状態で屈曲することなく供試魚Fの鰓を超えて胃や腸の損傷が抑制される適切な挿管深さで挿管されることになる。
【0015】
図2を参照して、嵌合部分20の長さL20は、供試魚Fが体長40mmほどの小型のゼブラフィッシュであることを想定して、安定した状態で供試魚Fの損傷を抑制する目的から、1mm~5mmの範囲内に設定されている。
即ち、上記嵌合部分20の長さL20が1mm未満である場合には、針状部材11に対するチューブ部材12の接合安定性が低下して、挿管時においてチューブ部材12が不用意に針状部材11から脱落するなどの問題が生じる。
一方、上記嵌合部分20の長さL20が5mm超である場合には、その嵌合部分20の基端である挿管深さ指標Aを供試魚Fの口先Fa付近に位置決めした挿管状態において、剛性の嵌合部分20が供試魚Fの食道側に到達し傷つける恐れがある。
【0016】
更に、チューブ部材12は、別のチューブ部材と交換可能なように針状部材11に対して着脱自在に構成されている。このことで、チューブ部材12を別の長さのものや別の新しいものに容易に交換することができる。
チューブ部材12の長さ(全長)L12については、供試魚Fに対して胃や腸の損傷を防止しながら適切に被験物質の経口投与を行う目的から、供試魚Fが体長40mmほどのゼブラフィッシュの成魚である場合には10mm程度とすることが望ましく、供試魚Fが体長30mmほどのゼブラフィッシュの稚魚である場合には7.5mm程度とすることが望ましい。
【0017】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0018】
(1)上記実施形態では、針状部材11を、金属製としたが、剛性であればよく、例えば樹脂製としても構わない。また、上記実施形態では、チューブ部材12を市販の経口ゾンデと呼ばれるもので構成したが、可撓性のものであればよい。
【0019】
(2)上記実施形態では、供試魚Fをゼブラフィッシュとしているが、本供試魚経口投与具1を別の供試魚に対して適用することもできる。その場合には、嵌合部分20の長さL20やチューブ部材12の長さL12については、その供試魚Fの体長や消化器官の長さ等に合わせて適宜設定することができる。
【0020】
(3)上記実施形態では、チューブ部材12を針状部材11に対して着脱自在としたが、例えば着脱できないようにチューブ部材12と針状部材11とを嵌合部分20において接着するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0021】
1 供試魚経口投与具
2 シリンジ
10 細管部
11 針状部材
11a 先端
12 チューブ部材
12b 基端
20 嵌合部分
A 挿管深さ指標
F 供試魚
Fa 口先