(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】内燃機関の失火判定装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
(21)【出願番号】P 2022157337
(22)【出願日】2022-09-30
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】浅野 暢一
(72)【発明者】
【氏名】飯田 潤
(72)【発明者】
【氏名】小塚 悟史
(72)【発明者】
【氏名】宮内 淳宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隼人
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-033717(JP,A)
【文献】特開2022-077768(JP,A)
【文献】特開2007-030710(JP,A)
【文献】特開2006-220134(JP,A)
【文献】特開2009-108690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有する内燃機関の出力軸の回転速度を検出する速度検出部と、
前記速度検出部により検出された回転速度に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータであり、回転速度の増加量が大きいほど増加するような失火パラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部により算出された前記失火パラメータが第1閾値未満であるか否かを判定する第1判定部と、前記失火パラメータが前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満であるか否かを判定する第2判定部と、を有し、前記第1判定部および前記第2判定部の判定結果に応じて前記内燃機関の失火の有無を判定する失火判定部と、を備え、
前記パラメータ算出部は、前記複数の気筒のそれぞれの圧縮上死点で検出される回転速度を基準とした相対回転速度に基づいて前記失火パラメータを算出し、
前記失火判定部は、
前記複数の気筒のうちの燃焼行程中の気筒である対象気筒を特定するとともに、前記第1判定部により前記失火パラメータが前記第1閾値未満であると判定されると、前記複数の気筒のうちの単一の
前記対象気筒での失火である単気筒失火が発生していると判定し、前記第2判定部により前記失火パラメータが
前記第1閾値以上かつ前記第2閾値未満であると判定されると
、前記複数の気筒のうちの
前記対象気筒を含む二以上の気筒での失火である多気筒失火が発生していると判定することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記複数の気筒は、前記対象気筒と、前記対象気筒と異なる参照気筒とを含み、
前記パラメータ算出部は、前記速度検出部により検出された回転速度に基づいて、前記対象気筒の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有し、前記失火パラメータに相当する第1失火パラメータと、前記対象気筒の燃焼行程を起点として前記内燃機関の燃焼の1サイクル分だけ遡った範囲内での前記参照気筒の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する第2失火パラメータと、を算出するとともに、前記第1失火パラメータと前記第2失火パラメータとの和である合算失火パラメータを算出し、
前記失火判定部は、
前記パラメータ算出部により算出された前記合算失火パラメータが第3閾値未満であるか否かを判定する第3判定部をさらに有し、前記第1判定部により前記第1失火パラメータが前記第1閾値以上であると判定され、かつ、前記第3判定部により前記合算失火パラメータが前記第3閾値以上であると判定されると、前記第2判定部により前記第1失火パラメータが前記第2閾値未満であると判定されても、前記対象気筒を含む二以上の気筒で前記多気筒失火が発生していないと判定することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記失火判定部は、前記第3判定部により前記合算失火パラメータが前記第3閾値未満であると判定されると、前記第1判定部により前記第1失火パラメータが前記第1閾値未満であると判定されても、前記対象気筒を含む二以上の気筒で前記多気筒失火が発生していると判定することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記第1閾値は、予め、前記複数の気筒のそれぞれが前記単気筒失火するときの前記失火パラメータの変化に対応付けて設定されることを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記第2閾値は、予め、前記複数の気筒の全ての組合せからなる二以上の気筒が前記多気筒失火するときの前記第1失火パラメータの変化に対応付けて設定されることを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記第3閾値は、予め、前記複数の気筒の全ての組合せからなる二以上の気筒が前記多気筒失火するときの前記合算失火パラメータの変化に対応付けて設定されることを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記内燃機関は5以上の気筒を有し、
前記パラメータ算出部は、前記対象気筒で燃焼行程が開始してから他の気筒で燃焼行程が開始するまでに、前記速度検出部により検出された回転速度に基づいて、前記対象気筒についての前記失火パラメータを算出することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載の内燃機関の失火判定装置において、
前記パラメータ算出部は、前記内燃機関の所定クランク角毎に、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼行程における回転速度から、前記燃焼行程の直前の前記圧縮上死点で検出された回転速度を減算して前記相対回転速度を算出し、前記所定クランク角毎の前記相対回転速度を、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼行程にわたって積分し、積分値を前記失火パラメータとして算出することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【請求項9】
複数の気筒を有する内燃機関の出力軸の回転速度を検出する速度検出部と、
前記速度検出部により検出された回転速度に基づいて、前記複数の気筒のそれぞれの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータであり、回転速度の増加量が大きいほど増加するような失火パラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部により算出された前記失火パラメータが第1閾値未満であるか否かを判定する第1判定部と、前記失火パラメータが前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満であるか否かを判定する第2判定部と、を有し、前記第1判定部および前記第2判定部の判定結果に応じて前記内燃機関の失火の有無を判定する失火判定部と、を備え、
前記失火判定部は、前記複数の気筒のうちの燃焼行程中の気筒である対象気筒を特定するとともに、前記第1判定部により前記失火パラメータが前記第1閾値未満であると判定されると、前記複数の気筒のうちの単一の前記対象気筒での失火である単気筒失火が発生していると判定し、前記第2判定部により前記失火パラメータが前記第1閾値以上かつ前記第2閾値未満であると判定されると、前記複数の気筒のうちの前記対象気筒を含む二以上の気筒での失火である多気筒失火が発生していると判定し、
前記複数の気筒は、前記対象気筒と、前記対象気筒と異なる参照気筒とを含み、
前記パラメータ算出部は、前記速度検出部により検出された回転速度に基づいて、前記対象気筒の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有し、前記失火パラメータに相当する第1失火パラメータと、前記対象気筒の燃焼行程を起点として前記内燃機関の燃焼の1サイクル分だけ遡った範囲内での前記参照気筒の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する第2失火パラメータと、を算出するとともに、前記第1失火パラメータと前記第2失火パラメータとの和である合算失火パラメータを算出し、
前記失火判定部は、前記パラメータ算出部により算出された前記合算失火パラメータが第3閾値未満であるか否かを判定する第3判定部をさらに有し、前記第1判定部により前記第1失火パラメータが前記第1閾値以上であると判定され、かつ、前記第3判定部により前記合算失火パラメータが前記第3閾値以上であると判定されると、前記第2判定部により前記第1失火パラメータが前記第2閾値未満であると判定されても、前記対象気筒を含む二以上の気筒で前記多気筒失火が発生していないと判定することを特徴とする内燃機関の失火判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の失火の有無を判定する内燃機関の失火判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気候変動の緩和または影響軽減を目的とした取り組みが継続され、この実現に向けてエミッション改善に関する研究開発が行われている。この点に関し、従来、排気管に触媒コンバータを備えたエンジンにおいて、所定クランク角毎に検出された内燃機関の回転速度と基準回転速度との差を、燃焼行程の全体にわたって積分して、失火判定パラメータを算出するとともに、失火判定パラメータが所定の閾値より小さいか否かを判定することにより、失火の有無を判定するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、複数の気筒を有する内燃機関において、複数の気筒が失火したときの回転速度の低下の割合は、単一の気筒が失火したときの低下の割合よりも小さい。このため、上記特許文献1記載の装置のように失火判定パラメータが所定の閾値より小さいか否かを判定するだけでは、複数の気筒が失火した場合に内燃機関の失火の有無を良好に判定できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である内燃機関の失火判定装置は、複数の気筒を有する内燃機関の出力軸の回転速度を検出する速度検出部と、速度検出部により検出された回転速度に基づいて、複数の気筒のそれぞれの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータであり、回転速度の増加量が大きいほど増加するような失火パラメータを算出するパラメータ算出部と、パラメータ算出部により算出された失火パラメータが第1閾値未満であるか否かを判定する第1判定部と、失火パラメータが第1閾値よりも大きい第2閾値未満であるか否かを判定する第2判定部と、を有し、第1判定部および第2判定部の判定結果に応じて内燃機関の失火の有無を判定する失火判定部と、を備える。パラメータ算出部は、複数の気筒のそれぞれの圧縮上死点で検出される回転速度を基準とした相対回転速度に基づいて失火パラメータを算出し、失火判定部は、複数の気筒のうちの燃焼行程中の気筒である対象気筒を特定するとともに、第1判定部により失火パラメータが第1閾値未満であると判定されると、複数の気筒のうちの単一の対象気筒での失火である単気筒失火が発生していると判定し、第2判定部により失火パラメータが第1閾値以上かつ第2閾値未満であると判定されると、複数の気筒のうちの対象気筒を含む二以上の気筒での失火である多気筒失火が発生していると判定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の気筒が失火した場合であっても内燃機関の失火の有無を良好に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る失火判定装置が適用されるエンジンの要部構成を概略的に示す図。
【
図2】
図1のエンジンの制御構成を示すブロック図。
【
図3A】エンジンの各気筒の圧縮上死点近傍で検出される回転速度を基準とした相対回転速度の変化を示す図。
【
図3B】
図3Aの相対回転速度に対応する失火パラメータを示す図。
【
図4】エンジンの複数の失火パターンごとに、失火パラメータの変化を示す図。
【
図5】本発明の実施形態に係る内燃機関の失火判定装置の要部構成を示すブロック図。
【
図6】正常サイクル失火パラメータと失火サイクルの失火パラメータの一例を並べて示す図。
【
図7】
図5のブロック図から出力されるフラグ信号と失火パターンとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図7を参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る内燃機関の失火判定装置は、複数の気筒を有する内燃機関の失火の有無を判定するように構成される。まず、本実施形態が適用される内燃機関としてのガソリンエンジンの構成について説明する。エンジンは車両に搭載され、走行駆動源として用いられる。車両は、エンジンのみを駆動源として走行するエンジン車およびエンジンとモータとを駆動源として走行するハイブリッド車両のいずれであってもよい。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る失火判定装置が適用されるエンジン1の要部構成を概略的に示す図である。エンジン1は、動作周期の間に吸気、膨張、圧縮および排気の4つの行程を経る4ストロークエンジンである。吸気行程の開始から排気行程の終了までを、エンジン1の燃焼の1サイクルまたは単に1サイクルと称する。膨張行程は、混合気が燃焼される行程であり、燃焼行程ともいう。エンジン1は、4つの気筒を有する4気筒エンジンである。なお、複数の気筒を有するのであれば、エンジン1の気筒数はこれに限らず、6気筒エンジンや8気筒エンジンであってもよい。
図1には、単一の気筒の構成を示す。各気筒の構成は互いに同一である。
【0010】
図1に示すように、エンジン1は、シリンダブロック101に形成されたシリンダ102と、シリンダ102の内部に摺動可能に配置されたピストン103と、ピストン103の冠面(ピストン冠面)103aとシリンダヘッド104との間に形成された燃焼室105と、を有する。ピストン冠面103aには、例えばシリンダ内のタンブル流に沿うように凹部103bが形成される。ピストン103は、コンロッド106を介してクランクシャフト107に連結され、シリンダ102の内壁に沿ってピストン103が往復動することにより、クランクシャフト107が回転する。クランクシャフト107は、エンジン1の出力軸に相当する。
【0011】
シリンダヘッド104には、吸気ポート111と排気ポート112とが設けられる。燃焼室105には、吸気ポート111を介して吸気通路113が連通する一方、排気ポート112を介して排気通路114が連通する。吸気ポート111は吸気バルブ115により開閉され、排気ポート112は排気バルブ116により開閉される。吸気バルブ115の上流側の吸気通路113には、スロットルバルブ119が設けられる。スロットルバルブ119は、例えばバタフライ弁により構成され、スロットルバルブ119により燃焼室105への吸入空気量が調整される。吸気バルブ115と排気バルブ116とは動弁機構120により開閉駆動される。
【0012】
シリンダヘッド104には、それぞれ燃焼室105に臨むように点火プラグ11およびインジェクタ12が装着される。点火プラグ11は、吸気ポート111と排気ポート112との間に配置され、電気エネルギーにより所定のタイミングで火花を発生し、燃焼室105内の燃料と空気との混合気を点火する。
【0013】
インジェクタ12は、吸気バルブ115の近傍に配置され、電気エネルギーにより駆動されて燃料を噴射する。より詳しくは、インジェクタ12には、燃料ポンプを介して燃料タンクから高圧の燃料が供給される。インジェクタ12は、燃料を高微粒子化して、燃焼室105内に所定のタイミングで斜め下方に向けて燃料を噴射する。なお、
図1では、インジェクタ12を筒内噴射型の燃料噴射弁としているが、インジェクタ12の配置はこれに限らず、例えば吸気ポート111に面してインジェクタ12を配置し、ポート噴射型の燃料噴射弁として構成してもよい。
【0014】
動弁機構120は、吸気カムシャフト121と排気カムシャフト122とを有する。吸気カムシャフト121は、各気筒(シリンダ102)にそれぞれ対応した吸気カム121aを一体に有し、排気カムシャフト122は、各気筒にそれぞれ対応した排気カム122aを一体に有する。吸気カムシャフト121と排気カムシャフト122とは、不図示のタイミングベルトを介してクランクシャフト107に連結され、クランクシャフト107が2回転する度にそれぞれ1回転する。
【0015】
吸気バルブ115は、吸気カムシャフト121の回転により、不図示の吸気ロッカーアームを介して、吸気カム121aのプロファイルに応じた所定のタイミングで開閉する。排気バルブ116は、排気カムシャフト122の回転により、不図示の排気ロッカーアームを介して、排気カム122aのプロファイルに応じた所定のタイミングで開閉する。
【0016】
排気通路114には、排気ガスを浄化するための触媒装置13が介装される。触媒装置13は、排ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化・還元作用によって除去・浄化する機能を有する三元触媒である。なお、排ガス中のCO、HCの酸化を行う酸化触媒等、他の触媒装置を用いることもできる。触媒装置13に含まれる触媒の温度が高くなると触媒が活性化し、触媒装置13による排ガスの浄化作用が高まる。このため、エンジン1の始動時等で触媒の温度が低いとき、混合気が後燃えされて、触媒の温度上昇が促進される。
【0017】
クランクシャフト107の近傍には、クランク角センサ21が設けられる。クランク角センサ21は、クランクシャフト107の回転に伴いパルス信号(クランク信号)を出力するように構成される。すなわち、クランクシャフト107が所定角度(例えば6°)回転する度に、クランク信号が出力される。さらにクランク角センサ21は、特定の気筒の所定クランク角位置で、エンジン1の気筒を判別するためのシリンダ信号を出力するとともに、いずれかの気筒において、ピストン103が上死点よりも若干、手前の所定クランク角位置であるときに上死点信号を出力する。
【0018】
図2は、エンジン1の制御構成を概略的に示すブロック図である。
図2に示すように、コントローラ20にはクランク角センサ21と、他のセンサ22(便宜上、センサ群と称する)からの信号が入力される。コントローラ20は、クランク角センサ21からの信号に基づいて、ピストン103の上死点TDCの位置を基準としたクランクシャフト107の回転角度(クランク角)を特定するとともに、エンジン回転数を算出する。センサ群22には、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ、エンジン1の吸入空気量を検出する吸気量センサ、排気ガスの空燃比を検出するAFセンサなどが含まれる。
【0019】
コントローラ20は、エンジン制御用の電子制御ユニット(ECU)であり、CPU等の演算部と、ROM,RAM等の記憶部と、その他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。コントローラ20は、クランク角センサ21とセンサ群22とからの信号に基づいて所定の処理を実行し、運転モードに応じて点火プラグ11とインジェクタ12とに制御信号を出力する。すなわち、触媒装置13の暖機を促進して触媒の早期活性化を実現する触媒暖機モード、燃費が最適となる均質向上モード、ノッキングの発生を抑制するノック抑制モード等の運転状態に応じたマップや特性に従い、点火プラグ11とインジェクタ12の作動を制御する。
【0020】
より具体的には、コントローラ20は、触媒暖機モードでは点火時期が最適点火時期MBTよりもリタードするように、触媒暖機完了後の均質向上モードでは点火時期が最適点火時期となるように、またはノッキングの発生を抑制するためにリタードするように、ノック抑制モードでは点火時期がリタードからMBT側に進角するように、点火プラグ11に制御信号を出力する。また、コントローラ20は、AFセンサにより検出された実空燃比が目標空燃比(例えば理論空燃比)となるようなフィードバック制御を行いながら、吸気量センサにより検出された吸入空気量に応じて1サイクル当たりの目標噴射量を算出する。そして、1サイクル当たりのインジェクタ12の噴射回数を考慮して1回当たりの目標噴射量(単位目標噴射量)を算出し、この単位目標噴射量をインジェクタ12が所定のタイミングで噴射するようにインジェクタ12に制御信号を出力する。
【0021】
このような点火プラグ11とインジェクタ2の制御に際し、コントローラ20は、エンジン1の失火の有無を判定する失火判定処理を実行する。失火判定処理では、燃焼行程(膨張行程)中である気筒毎に失火パラメータを算出し、失火パラメータを用いて気筒毎に失火の有無を判定する。失火パラメータは、クランク角センサ21からの信号に基づき以下のようにして算出される。なお、以下では、エンジン1の4つの気筒を、点火順に♯1気筒、♯2気筒、♯3気筒および♯4気筒と称する。失火は、燃焼トルクが小さい弱燃焼時に生じやすく、触媒暖機モードなどで点火時期をリタードさせたときにも生じやすい。
【0022】
図3Aは、エンジン1の1サイクルにおける各気筒の圧縮上死点近傍で検出される回転速度(基準回転速度RV0という)を基準とした相対回転速度RV1の変化を示す図である。相対回転速度RV1は、クランク信号の発生時間間隔に基づいて算出される回転速度RVから、基準回転速度RV0を減算することにより算出される。
図3Aでは、クランク角θが0からθ1(180°)までの範囲で気筒♯1が燃焼行程に、θ1からθ2(360°)までの範囲で気筒♯2が燃焼行程に、θ2からθ3の範囲で気筒♯3が燃焼行程に、θ3からθ4(720°)の範囲で気筒♯4が燃焼行程になる。
【0023】
図3Aの例では、♯1気筒、♯2気筒および♯4気筒の相対回転速度RV1は、♯3気筒の相対回転速度RV1よりも
大きい。圧縮上死点後の燃焼行程(膨張行程)において、相対回転速度RV1は、失火が発生すると、失火が発生しないときよりも小さくなる。このため、♯1気筒、♯2気筒および♯4気筒では燃焼が正常であり、♯3気筒で失火が発生していると推定される。
【0024】
コントローラ20のメモリには、直近の1サイクル分における、所定クランク角(6°)毎に出力されるクランク信号の発生時間間隔のデータ(クランク角データ)が格納される。そして、コントローラ20は、このクランク角データにより算出される所定クランク角毎の相対回転速度RV1を各気筒の燃焼行程にわたって積分し、その積分値を各気筒の失火パラメータαとして算出する。なお、コントローラ20は、相対回転速度RV1に、1サイクルの期間(720°)における線形変化分をキャンセルするようなフィルタ処理を施した後、フィルタ処理後の相対回転速度RV1を用いて失火パラメータαを算出するようにしてもよい。相対回転速度RV1に対して、エンジン1の可動部品の慣性力に起因する慣性力回転速度成分を補償するような補正を行った後、補正後の相対回転速度RV1を用いて失火パラメータαを算出するようにしてもよい。
【0025】
図3Bは、
図3Aの相対回転速度RV1に対応する失火パラメータαを示す図である。
図3Bに示すように、♯1気筒、♯2気筒および♯4気筒についての失火パラメータαは、♯3気筒についての失火パラメータαよりも
大きい。したがって、これらの失火パラメータαを区分するように閾値A1を設定し、失火パラメータαと閾値A1との大小を比較することで、各気筒の失火の有無を判定することができる。
【0026】
図3Bに示すように、単一の気筒♯3が失火している単気筒失火の場合には、その気筒(失火気筒と呼ぶ)♯3と正常に燃焼している気筒(正常気筒と呼ぶ)♯1,♯2,♯4との間の失火パラメータαの差は大きい。しかし、複数の気筒が失火している多気筒失火の場合、単気筒失火気筒の場合よりも、失火気筒についての相対回転速度RV1の減少量が小さい。このため、失火パラメータαと単一の閾値A1との大小を比較するだけでは、失火の有無を良好に判定することが難しい。特に、燃焼トルクが小さい弱燃焼時には、正常気筒についての失火パラメータαは小さくなり、失火気筒についての失火パラメータαとの差が減少するため、失火の有無を正確に判定することが一層難しい。この点についてさらに説明する。
【0027】
図4は、エンジン1の複数の失火のパターンごとに1サイクル(720°)分の失火パラメータαの変化を示す図である。以下では、便宜上、燃焼行程中ないし燃焼行程完了直後の気筒、すなわち最新の失火パラメータαが得られる気筒を、対象気筒aと呼び、その直前に燃焼行程であった気筒を第1参照気筒a1、第1参照気筒a1の直前に燃焼行程であった気筒を第2参照気筒a2、第2参照気筒a2の直前に燃焼行程であった気筒を第3参照気筒a3と呼ぶ。対象気筒aは、失火判定の有無の対象となる気筒であり、参照気筒a1~a3は対象気筒aと異なる気筒である。
【0028】
第1参照気筒a1は、対象気筒aの1つ前(ここではクランク角が180°だけ前)に燃焼行程であった気筒であり、第2参照気筒a2は、対象気筒aの2つ前(ここではクランク角が360°だけ前)に燃焼行程であった気筒であり、第3参照気筒a3は、対象気筒aの3つ前(ここではクランク角が540°だけ前)に燃焼行程であった気筒である。例えば♯1気筒が対象気筒aであるとき、♯4気筒が第1参照気筒a1、♯3気筒が第2参照気筒a2、♯2気筒が第3参照気筒a3となる。♯3気筒が対象気筒aであるとき、♯2気筒が第1参照気筒a1、♯1気筒が第2参照気筒a2、♯4気筒が第3参照気筒a3となる。対象気筒aは、クランク角が180°変化する度に順次切り換わる。
【0029】
図4の〇印は、全ての気筒a,a1~a3で失火が発生しない場合、つまり全ての気筒a,a1~a3が正常気筒である正常サイクルの場合の失火パラメータαの変化を示す。×印は、一部の気筒で失火が発生している場合、つまり失火気筒が含まれる失火サイクルの場合の失火パラメータαの変化を示す。なお、失火パラメータαは1サイクル毎に、ある程度、変動するが、〇印および×印は、その変動を考慮した失火パラメータαの平均値あるいは中央値である。
【0030】
失火のパターンには、対象気筒aのみで失火する単気筒失火と、対象気筒aと第1参照気筒a1、第2参照気筒a2および第3参照気筒a3のいずれかで失火する多気筒失火とが含まれる。多気筒失火は、対向失火と後連続失火と前連続失火とに区分される。対向失火では、対象気筒aと、燃焼行程の順序が対象気筒aに連続しない第2参照気筒a2とで失火する。後連続失火では、対象気筒aと、燃焼行程の順序が対象気筒aに連続し、対象気筒aの後に燃焼行程となる第3参照気筒a3とで失火する。前連続失火では、対象気筒と、燃焼行程の順序が対象気筒aに連続し、対象気筒aの前に燃焼行程となる第1参照気筒a1とで失火する。
【0031】
図4には、燃焼トルクが小さい気筒、すなわち弱燃焼の気筒がハッチングで示される。
図4の失火のパターンは定常的に繰り返される。このため、例えば後連続失火では、対象気筒aと対象気筒aの次の第3参照気筒a3とで、失火が発生する。仮に現時点での対象気筒が♯3気筒であり、後連続失火が生じるとき、エンジン1の燃焼のサイクルにおいて、♯3気筒と♯4気筒とで繰り返し失火が起きることになる。
図4では、対象気筒aが弱燃焼の気筒であり、いずれの失火パターンにおいても対象気筒aを含む弱燃焼の気筒(ハッチング領域)で失火が生じている。
【0032】
対象気筒aで失火が生じると、次に対象気筒となる第3参照気筒a3の失火パラメータを算出する際の基準回転速度RV0は小さくなる。このため、
図4に示すように、いずれの失火パターンにおいても第3参照気筒a3の失火パラメータαは、対象気筒aの失火パラメータαよりも大きくなる。また、対象気筒aで失火が生じたときの失火パラメータα(×印)は、対象気筒aについての正常燃焼時の失火パラメータα(〇印)よりも小さい。但し、多気筒失火においては、対象気筒aの失火パラメータαは他の気筒a1~a3の失火の影響を受けるため、単気筒失火時よりも失火パラメータαの減少量が小さい。特に、前連続失火の場合には、直前の第1参照気筒a1での失火の影響を強く受けて、対象気筒aにおける燃焼行程開始時の基準回転速度RV0は小さくなるため、相対回転速度RV1は大きくなり、対象気筒aの失火パラメータαは大きくなりやすい。
【0033】
正常サイクルにおける対象気筒aの失火パラメータαと失火サイクルにおける対象気筒aの失火パラメータαとの差Δαに着目すると、失火のパターンによって差Δαの大きさが異なり、前連続失火では差Δαが最も小さい。その結果、失火パラメータαと閾値A1(
図3B)との大小を比較するだけでは、失火を精度よく判定できないおそれがある。つまり、閾値A1を小さく設定しすぎると、失火が発生しているのに誤って正常燃焼であると判定し、閾値A1を大きく設定しすぎると、正常燃焼であるのに誤って失火が発生していると判定するおそれがある。そこで、弱燃焼時等であっても失火の有無を正確に判定することができるよう、本実施形態は以下のように失火判定装置を構成する。
【0034】
図5は、本実施形態に係る失火判定装置10の要部構成を示すブロック図である。
図5に示すように、失火判定装置10は、クランク角センサ21と、記憶部30と、パラメータ算出部40と、判定部50と、を有する。記憶部30とパラメータ算出部40と判定部50とは、コントローラ20の機能的構成である。したがって、失火判定装置10は、ハード的には、クランク角センサ21とコントローラ20とにより構成される。
【0035】
記憶部30は、クランク角センサ21からのクランク信号を一時的に記憶するバッファメモリである。記憶部30には、現在のクランク角から少なくとも1サイクル分(720°)だけ遡ったクランク角までの範囲におけるクランク信号の発生時間間隔のデータ、すなわち1サイクル分の最新のクランク角データが記憶される。換言すると、
図4に示すような対象気筒aと第1参照気筒a1と第2参照気筒a2と第3参照気筒a3のそれぞれについての失火パラメータαを算出することが可能となるようなクランク角データが記憶される。
【0036】
パラメータ算出部40は、基準パラメータ算出部41と合算パラメータ算出部42とを有する。基準パラメータ算出部41は、記憶部30に記憶されたクランク角データに基づき、上述したように、エンジン1の燃焼行程における各気筒の相対回転速度RV1を算出するとともに、相対回転速度RV1を各気筒の燃焼行程(膨張行程)にわたって積分して各気筒の失火パラメータαを算出する。すなわち、対象気筒a、第1参照気筒a1、第2参照気筒a2および第3参照気筒a3の失火パラメータαをそれぞれ算出する。
図5では、対象気筒a、第1参照気筒a1、第2参照気筒a2および第3参照気筒a3の失火パラメータαを、それぞれα0、α1、α2およびα3で表す。
【0037】
なお、基準パラメータ算出部41で対象気筒aの失火パラメータα0を算出する度に、失火パラメータα0を記憶部30に記憶し、燃焼行程の気筒が移動する度に、失火パラメータα0、α1、α2をそれぞれα1、α2、α3へ変化させるようにしてもよい。これにより、対象気筒aの失火パラメータαを算出する時点で、第1参照気筒a1、第2参照気筒a2および第3参照気筒a3の失火パラメータαは既に記憶部30に記憶されているため、基準パラメータ算出部41は対象気筒aの失火パラメータα0のみを算出すればよく、処理負荷が容易である。
【0038】
合算パラメータ算出部42は、失火パラメータαの加算処理を行う加算回路43~45を有する。加算回路43は、対象気筒aの失火パラメータα0と第1参照気筒a1の失火パラメータα1とを加算して合算パラメータα11を算出する。加算回路44は、対象気筒aの失火パラメータα0と第2参照気筒a2の失火パラメータα2とを加算して合算パラメータα12を算出する。加算回路45は、対象気筒aの失火パラメータα0と第3参照気筒a3の失火パラメータα3とを加算して合算パラメータα13を算出する。
【0039】
判定部50は、失火パラメータαと閾値A1~A4とを比較する比較回路51~55と、OR回路56と、AND回路57とを有する。なお、
図5には、パラメータ算出部40と判定部50との間に、複数の気筒a,a1,a2,a3のうち、失火判定の対象となる気筒がハッチングで示される。比較回路51は、対象気筒aの失火パラメータα0と予め定められた閾値A1との大小を判定する。閾値A1(
図3B)は、単気筒失火時の失火パラメータαの減少量を考慮して設定される。すなわち、複数の気筒のそれぞれが単気筒失火するときの失火パラメータαの変化に対応付けて設定される。
【0040】
図6は、正常サイクルの失火パラメータα(〇印)と失火サイクルの失火パラメータα(×印)の一例を並べて示す図である。
図6に示すように、失火サイクルにおいて単気筒失火時の失火パラメータαは多気筒失火時の失火パラメータαよりも小さい。閾値A1は、弱燃焼による単気筒失火時に想定される失火パラメータαの減少量および多気筒失火時に想定される失火パラメータαの減少量を考慮し、単気筒失火時に想定される失火パラメータαよりも大きく、かつ、多気筒失火時に想定される失火パラメータαよりも小さい値に設定される。
図5の比較回路51で、対象気筒aの失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定されると、対象気筒aで単気筒失火が生じている可能性がある。この場合、比較回路51は、単気筒失火の可能性を示すフラグ信号f0を出力する。
【0041】
比較回路55は、対象気筒aの失火パラメータα0と予め定められた閾値A2との大小を判定する。閾値A2は、弱燃焼による多気筒失火時に想定される失火パラメータα0の減少量を考慮して設定される。すなわち、複数の気筒のうちの対象気筒aと他の気筒a1~a3との全ての組み合わせ(a,a1)、(a,a2)、(a,a3)でそれらそれぞれが失火(多気筒失火)するときの対象気筒aの失火パラメータα0の変化に対応付けて設定される。
図6に示すように、閾値A2は、閾値A1よりも大きい値に設定される。より詳しくは、多気筒失火時に想定される失火パラメータαの減少量および正常燃焼時に想定される失火パラメータαの変動量を考慮し、多気筒失火時に想定される失火パラメータα0よりも大きく、かつ、正常燃焼時に想定される失火パラメータαよりも小さい値に設定される。
【0042】
図5の比較回路55で、失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定されると、対象気筒aで単気筒失火が生じている(α<A1<A2)、または対象気筒aと他の気筒a1~a3とで多気筒失火が生じている可能性がある(A1<α<A2)。この場合、比較回路55は、単気筒失火または多気筒失火の可能性があることを示すフラグ信号f4を出力する。このように、対象気筒aで失火していると判定される条件は、少なくともフラグ信号f4が出力されることであり、フラグ信号f4が出力されないとき、対象気筒aで失火していないと判定される。
【0043】
比較回路52は、合算パラメータα11と予め定められた閾値A3との大小を判定する。比較回路53は、合算パラメータα12と予め定められた閾値A4との大小を判定する。比較回路54は、合算パラメータα13と予め定められた閾値A3との大小を判定する。閾値A3は、連続失火に対応して設定され、閾値A4は、対向失火に対応して設定される。
【0044】
より詳しくは、閾値A3は、弱燃焼による連続失火時に想定される複数の失火パラメータαの減少量を考慮して設定される。すなわち、閾値A3は、複数の気筒のうちの対象気筒aと第1参照気筒a1との組み合わせ(a,a1)、および対象気筒aと第3参照気筒a3との組み合わせ(a,a3)で多気筒失火するときに想定される、失火パラメータα0とα1またはα0とα3を合算した合算パラメータα11、α13の変化に対応付けて設定される。閾値A4は、弱燃焼による対向失火時に想定される複数の失火パラメータαの減少量を考慮して設定される。すなわち、閾値A4は、複数の気筒のうちの対象気筒aと第2参照気筒a2との組み合わせ(a,a2)で多気筒失火するときに想定される、失火パラメータα0とα2を合算した合算パラメータα12の変化に対応付けて設定される。
【0045】
より具体的には、合算パラメータα11,α12,α13に対応する正常サイクルにおける気筒の失火パラメータα(
図4の〇印)を加算した値を、正常サイクルにおける合算パラメータとすると、閾値A3,A4は、失火サイクルにおける合算パラメータα11,α12,α13よりも大きく、かつ、正常サイクルにおける合算パラメータよりも小さい値に設定される。なお、正常サイクルにおける合算パラメータとして、弱燃焼時に想定される正常サイクルの失火パラメータα(対象気筒aにおける失火パラメータα)を2倍した値を用いてもよい。閾値A3と閾値A4とを同一の値に設定してもよい。前連続失火と後連続失火とで、閾値A3を別々の値に設定してもよい。
【0046】
失火サイクルにおける合算パラメータα11,α12,α13と正常サイクルにおける合算パラメータとの差は、失火サイクルにおける失火パラメータα0と正常サイクルにおける失火パラメータαとの差Δα(
図4)よりも大きくなる。これにより、失火サイクルにおける合算パラメータα11,α12,α13よりも大きく、かつ、正常サイクルにおける合算パラメータよりも小さいという条件を満たすような閾値A3,A4の設定が容易である。比較回路52は、合算パラメータα11が閾値A3未満であると判定すると、前連続失火が生じている可能性を示すフラグ信号f1を出力する。比較回路53は、合算パラメータα12が閾値A4未満であると判定すると、対向失火が生じている可能性を示すフラグ信号f2を出力する。比較回路54は、合算パラメータα13が閾値A3未満であると判定すると、後連続失火が生じている可能性を示すフラグ信号f3を出力する。
【0047】
OR回路56は、フラグ信号f0~f3のいずれかが入力されると、当該フラグ信号f0~f3を出力する。フラグ信号f0~f3のいずれも入力されないときには、オフ信号を出力する。
【0048】
AND回路57は、エンジン1の失火の有無を判定する判定回路としての機能を有する。AND回路57は、OR回路56からフラグ信号f0~f3が出力され、かつ、比較回路55からフラグ信号f4が出力されると、エンジン1に失火が生じている、つまりエンジン1が失火サイクルで運転していると判定する。一方、OR回路56からオフ信号が出力され、または、比較回路55からフラグ信号f4が出力されないとき、AND回路57は、エンジン1に失火が生じていない、つまりエンジン1が正常サイクルで運転していると判定する。
【0049】
AND回路57は、エンジン1が失火サイクルで運転していると判定すると、さらにフラグ信号f0~f3に応じて失火パターンを特定する。すなわち、AND回路57は、フラグ信号f0が出力され、フラグ信号f1~f3のいずれも出力されないとき、対象気筒aで単気筒失火が生じていると判定する。フラグ信号f1が出力され、フラグ信号f0が出力されないとき、対象気筒aと第1参照気筒a1とで多気筒失火(前連続失火)が生じていると判定する。フラグ信号f2が出力され、フラグ信号f0が出力されないとき、対象気筒aと第2参照気筒a2とで多気筒失火(対向失火)が生じていると判定する。フラグ信号f3が出力され、フラグ信号f0が出力されないとき、対象気筒aと第3参照気筒a3とで多気筒失火(後連続失火)が生じていると判定する。フラグ信号f0が出力され、かつ、フラグ信号f1~f3のいずれかが出力されると、対象気筒aで単気筒失火が生じている、または対象気筒を含む複数の気筒で多気筒失火が生じていると判定する。
【0050】
AND回路57で、エンジン1に失火が生じていると判定されると、コントローラ20(
図2)は、失火を抑えるような処理を実行する。例えば、点火時期をリタードさせているとき、点火時期を進角補正するように点火プラグ11に制御信号を出力する。あるいは、噴射パターンや噴射タイミングを変更するようにインジェクタ12に制御信号を出力する。
【0051】
図7は、フラグ信号f0~f4と失火パターンとの関係を示す図である。
図7では、フラグ信号f0~f4が出力されたときを〇印で、出力されないときを×印で示す。なお、フラグ信号f1~f3についてはまとめて、フラグ信号f1~f3のいずれかが出力されるときを〇印で、いずれも出力されないときを×印で示す。フラグ信号f0~f4が出力されるときは、少なくとも対象気筒aで失火しているときであり、対象気筒aで正常に燃焼し、他の気筒で失火が生じている場合については、ここでは想定しない。
【0052】
図7に示すように、フラグ信号f0とフラグ信号f4とが出力され、フラグ信号f1~f3が出力されないとき、失火パラメータα0が閾値A1(
図6)未満であり、対象気筒aで単気筒失火が生じていると判断される。フラグ信号f0~f4のいずれも出力されないとき、エンジン1は正常サイクルで燃焼していると判断される。
【0053】
フラグ信号f4が出力され、フラグ信号f0~f3が出力されないときも、エンジン1は正常サイクルで燃焼していると判断される。この場合、対象気筒aで失火していないにも拘わらず、弱燃焼により失火パラメータα0が閾値A2よりも小さくなったことにより、フラグ信号f4が出力されたものと考えられる。すなわち、閾値A2は閾値A1よりも大きいため、失火が生じていないにも拘わらず、失火パラメータα0が閾値A2より小さくなることがある。但し、本実施形態では、フラグ信号f4が出力されることだけでなく、フラグ信号f1~f3のいずれかが出力されることを多気筒失火の条件としているので、α0<A2が満たされる場合であっても、正常燃焼と区別して多気筒失火の発生を確実に判断できる。
【0054】
フラグ信号f0とフラグ信号f4とが出力され、さらにフラグ信号f1~f3のいずれかが出力されるとき、対象気筒aで単気筒失火が生じている、または対象気筒aを含む複数の気筒で多気筒失火が生じていると判断される。フラグ信号f1~f3のいずれかが出力され、フラグ信号f0,f4がいずれも出力されないとき、対象気筒aで失火が生じていないにも拘わらず、弱燃焼により合算パラメータα11~α13のいずれかが閾値A3,A4よりも小さくなったことにより、フラグ信号f1~f3のいずれかが出力されたものと考えられる。このため、エンジン1は正常サイクルで燃焼していると判断される。
【0055】
フラグ信号f1~f3のいずれかとフラグ信号f4とが出力され、フラグ信号f0が出力されないとき、対象気筒aを含む複数の気筒で多気筒失火が生じていると判断される。仮に、フラグ信号f0が出力されずにフラグ信号f4が出力されたことを、多気筒失火判定の条件にすると、エンジン1が正常燃焼しているにも拘わらず、誤って失火していると判断されるおそれがある。これに対し、フラグ信号f1~f3のいずれかが出力されたことを、多気筒失火判定の条件に加えることで、多気筒失火の発生の有無を確実に判断できる。
【0056】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)内燃機関の失火判定装置10は、複数の気筒を有するエンジン1のクランクシャフト107の回転速度を検出するクランク角センサ21と、クランク角センサ21により検出された回転速度に基づいて、複数の気筒のそれぞれの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータα、すなわち、回転速度の増加量が大きいほど増加するような失火パラメータαを算出するパラメータ算出部40と、パラメータ算出部40(基準パラメータ算出部41)により算出された失火パラメータα0が閾値A1(第1閾値)未満であるか否かを判定する比較回路51と、失火パラメータα0が閾値A1よりも大きい閾値A2(第2閾値)未満であるか否かを判定する比較回路55と、を有し、比較回路51,55の判定結果に応じてエンジン1の失火の有無を判定する判定部50と、を備える(
図5)。判定部50は、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定されると、複数の気筒のうちの単一の気筒での失火である単気筒失火が発生していると判定し、比較回路55により失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定されると、単気筒失火または複数の気筒のうちの二以上の気筒での失火である多気筒失火が発生していると判定する(
図5)。
【0057】
この構成により、エンジン1の多気筒失火の有無を良好に判定することができる。すなわち、単気筒失火と多気筒失火とでは、失火パラメータα0の減少量が異なるため、失火パラメータα0と単一の閾値A1またはA2とを比較するだけでは、失火の有無を精度よく判定することが困難であるが、失火パラメータα0と異なる2つの閾値A1,A2と比較することで、単気筒失火および多気筒失火の有無を精度よく判定することができる。
【0058】
(2)判定部50は、複数の気筒のうちの燃焼行程中または燃焼行程完了直後の気筒である対象気筒aを特定するとともに、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定されると、対象気筒aで単気筒失火が発生していると判定し、失火パラメータα0が閾値A1以上かつ閾値A2未満であると判定されると、対象気筒aを含む二つの気筒で多気筒失火が発生していると判定する(
図6)。これにより、失火が生じている気筒を特定するとともに、単気筒失火と多気筒失火とを区別して判定することができる。
【0059】
(3)パラメータ算出部40は、クランク角センサ21により検出された回転速度に基づいて、対象気筒aの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータα0と、対象気筒aの燃焼行程を起点としてエンジン1の1サイクル分だけ遡ったクランク角の範囲内での参照気筒a1~a3の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータα1~α3と、を算出するとともに、失火パラメータα0と失火パラメータα1~α3のいずれかとの和である合算パラメータ(合算失火パラメータ)α11~α13を算出する(
図5)。判定部50は、パラメータ算出部40により算出された合算パラメータα11~α13が閾値A3,A4(第3閾値)未満であるか否かを判定する比較回路52~54をさらに有する(
図5)。そして判定部50は、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定され、およびまたは、比較回路52~54により合算パラメータα11~α13が閾値A3,A4未満であると判定され、かつ、比較回路55により失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定されると、対象気筒aで失火が発生していると判定し、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1以上であると判定され、かつ、比較回路52~54により合算パラメータα11~α13が閾値A3,A4以上であると判定されると、比較回路55により失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定されても、対象気筒aで失火が発生していないと判定する(
図5,
図7)。多気筒失火時の失火パラメータαの特性は、合算パラメータα11~α13によって良好に反映することができる。このため、合算パラメータα11~α13を用いることで、多気筒失火の有無を正確に判定することができる。
【0060】
(4)判定部50は、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定され、かつ、比較回路52~54により合算パラメータα11~α13が閾値A3,A4以上であると判定されると、対象気筒aで単気筒失火が発生していると判定する。すなわち、失火パラメータα0が閾値A1未満であるときには、失火パラメータα0が閾値A2未満であるという条件を満たすので、判定部50は、失火パラメータα0と閾値A2との大小を比較することなく、対象気筒aで単気筒失火が発生していると判定する(
図5)。これにより単気筒失火の発生の有無を、正確に判定することができる。
【0061】
(5)判定部50は、比較回路51により失火パラメータα0が閾値A1以上であると判定され、かつ、比較回路55により失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定され、かつ、比較回路52~54により合算パラメータα11~α13が閾値A3,A4未満であると判定されると、対象気筒aを含む二つの気筒で多気筒失火が発生していると判定する。これにより多気筒失火の発生の有無を、正確に判定することができる。
【0062】
(6)閾値A1は、予め、複数の気筒のそれぞれが単気筒失火するときの失火パラメータα0の変化に対応付けて設定される(
図6)。このように閾値A1を設定することで、単気筒失火と多気筒失火とを明確に区別することができ、単気筒失火の発生を精度よく検出できる。
【0063】
(7)閾値A2は、予め、複数の気筒の全ての組合せからなる二つの気筒が多気筒失火するときの失火パラメータα0の変化に対応付けて設定される(
図6)。このように閾値A2を設定することで、単気筒失火と多気筒失火とを明確に区別することができ、多気筒失火の発生を精度よく検出できる。
【0064】
(8)閾値A3,A4は、予め、複数の気筒の全ての組合せからなる二つの気筒が多気筒失火するときの合算パラメータα13~α14の変化に対応付けて設定される。このように閾値A3,A4を設定することで、多気筒失火と正常燃焼とを明確に区別することができ、多気筒失火の発生を精度よく検出できる。
【0065】
上記実施形態では、エンジン1が4つの気筒を有するものとして説明したが、複数の気筒を有するのであれば、気筒数の数は4つに限らず、5以上であってもよい。気筒数が例えば6気筒のエンジン1の場合には、クランク角θが120°変化するたびに、異なる気筒で順次燃焼行程が開始される。この場合には、パラメータ算出部40は、対象気筒aで燃焼行程が開始してから、次の気筒(他の気筒)で燃焼行程が開始するまで(クランク角θが120°変化するまで)に、クランク角センサ21により検出されたクランク角データに基づいて、対象気筒aについての失火パラメータαを算出すればよい。これにより、気筒数が5以上であっても、エンジン1の失火の有無を精度よく判定することができる。
【0066】
上記実施形態では、エンジン1の動力によって走行するエンジン車両に失火判定装置10を適用するようにしたが、エンジン1と走行モータとを有するハイブリッド車両に失火判定装置を適用することもできる。この場合、失火判定装置10は、走行モータの回転数を検出するレゾルバなどの回転数検出器をさらに備え、パラメータ算出部40は、クランク角センサ21(第1速度検出部)により検出されたクランク角データと、回転数検出器(第2速度検出部)により検出された走行モータの回転速度とに基づいて失火パラメータαを算出すればよい。これにより、走行モータの回転によるエンジン1の回転速度に対する影響を除外して、エンジン1の失火の有無を精度よく判定することができる。なお、エンジン1の動力によって回転駆動される電動機器は、走行モータではなく発電機等、他の電動機器であってもよく、回転数検出器が発電機等の回転速度を検出するようにしてもよい。電動機器に作用する負荷を検出するセンサを設け、パラメータ算出部40が、このセンサにより検出された負荷とクランク角データとに基づいて失火パラメータαを算出するようにしてもよい。
【0067】
上記実施形態では、内燃機関としてのエンジン1の複数の気筒のうち、エンジン1の燃焼の1サイクルで2つの気筒が失火する場合を多気筒失火の例として説明したが、多気筒失火時の失火する気筒数は2つに限らず3以上であってもよい。上記実施形態では、クランク角センサ21によりエンジン1のクランクシャフト(出力軸)107の回転速度を検出するようにしたが、速度検出部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、パラメータ算出部40が記憶部30に記憶されたクランク角データに基づいてエンジン1の1サイクルにわたって複数の気筒のそれぞれの燃焼行程についての失火パラメータαを算出するようにした。すなわち、パラメータ算出部40が、クランク角データに基づいて、対象気筒aの燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータα0(第1失火パラメータ)と、対象気筒aの燃焼行程を起点として1サイクル分だけ遡ったクランク角の範囲内での参照気筒a1~a3の燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有する失火パラメータα1~α3(第2失火パラメータ)と、を算出するとともに、失火パラメータα0と失火パラメータα1~α3との和である合算パラメータα11~α13を算出するようにしたが、燃焼行程における回転速度の変化量と相関関係を有するとともに、回転速度の増加量が大きいほど増加するような値を失火パラメータとして算出するのであれば、パラメータ算出部の構成はいかなるものでもよい。
【0068】
上記実施形態では、第1判定部としての比較回路51でα0<A1であるか否かを判定し、第2判定部としての比較回路55でα0<A2であるか否かを判定し、さらに第3判定部としての比較回路52~54でα11<A3,α12<A4,α13<A3であるか否かを判定し、判定結果に応じてエンジン1の失火の有無を判定するようにしたが、失火判定部の構成はこれに限らない。例えば失火判定部から第3判定部を除外し、
図5のAND回路57を介さずに、第1判定部と第2判定部との判定結果に応じて、対象気筒aの失火の有無を判定するようにしてもよい。上記実施形態では、予め記憶部30に各種の閾値A1(第1閾値)、閾値A2(第2閾値)、閾値A3,A4(第3閾値)を記憶するようにした。この点に関し、失火パラメータに対応して、単気筒失火が発生しているか否かを判定し得る値に設定されるのであれば、閾値A1の値はいかなるものでもよい。失火パラメータに対応して、単気筒失火または多気筒失火が発生しているか否かを判定し得る値に設定されるのであれば、閾値A2の値はいかなるものでもよい。合算パラメータに対応して、多気筒失火が発生しているか否かを判定し得る値に設定されるのであれば、閾値A3,A4の設定はいかなるものでもよい。なお、閾値A1~A4は,エンジン1の運転条件によって変化する。このため、運転条件に応じて閾値A1~A4を、予めマップなどによりメモリに記憶するようにしてもよい。
【0069】
上記実施形態では、対象気筒aの失火パラメータα0が閾値A1未満であるとき、単気筒失火が発生していると判定したが、多気筒失火の場合にも失火パラメータα0が閾値A1未満となることがある。例えば、エンジンの限られた状況下で、失火発生時にパワープラントに共振が発生し、エンジンと車軸との間のトルク伝達経路に設けられたトランスミッションからの反作用によって、対向失火および後連続失火が生じたとき(前連続失火でないとき)に、失火パラメータα0が閾値A1未満となることがある。この点を考慮し、失火判定部は、第1判定部により失火パラメータα0が閾値A1未満であると判定されると、対象気筒aでの失火である単気筒失火が発生している、または対象気筒aを含み、かつ、対象気筒aの直前に燃焼行程となった気筒(第1参照気筒a1)を含まない二以上の気筒(a,a2)または(a,a3)での失火である多気筒失火(これを第1多気筒失火と呼ぶ)が発生していると判定し、第2判定部により失火パラメータα0が閾値A2未満であると判定されると、単気筒失火が発生している、または対象気筒aを含む二以上の気筒(a,a1)、(a,a2)または(a,a3)での失火である多気筒失火(これを第2多気筒失火と呼ぶ)が発生していると判定するようにしてもよい。
【0070】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン、21 クランク角センサ、40 パラメータ算出部、50 判定部、51~55 比較回路、56 OR回路、57 AND回路、α0~α4 失火パラメータ、α11~α13 合算パラメータ、A1~A4 閾値