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特許7604437電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
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  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 図1
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20241216BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G03G5/05 101
G03G5/06 312
G03G5/06 370
G03G5/05 104A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022175831
(22)【出願日】2022-11-01
(65)【公開番号】P2024066320
(43)【公開日】2024-05-15
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】山合 達也
(72)【発明者】
【氏名】中村 延博
(72)【発明者】
【氏名】西田 孟
(72)【発明者】
【氏名】三浦 大祐
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-121751(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073176(WO,A1)
【文献】特開2020-079915(JP,A)
【文献】特開2017-146548(JP,A)
【文献】特開2020-181011(JP,A)
【文献】特開2007-233351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05
G03G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に形成された電荷発生層及び該電荷発生層上に形成された電荷輸送層を有し、表面層が該電荷輸送層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、
下記式(1)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂及び
下記式(HTM1)で示される電荷輸送性化合物を含有する
ことを特徴とする電子写真感光体。
【化1】
[Xは、下記式(1A)、式(1B)、式(1C)、式(1D)、又は式(1E)で示される二価の基を示す。]
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項2】
前記電荷輸送層における前記電荷輸送性化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂の含有量に対して、60質量%以上120質量%以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記式(1)で示される構造単位が、前記ポリエステル樹脂の全構造単位に対して、50%以上100%以下の質量比で含まれる請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記電荷発生層における電荷発生物質が、チタニルフタロシアニンである請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂中における前記式(1)で示される構造単位におけるXが、前記式(1A)、前記式(1B)、前記式(1C)又は前記式(1D)である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記電荷輸送層が、フィラー粒子としてシリカ粒子を含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、該電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置又はプロセスカートリッジに搭載される電子写真感光体としては、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とを有する機能分離型積層感光体が一般的である。
また、電子写真プロセスにおいて、近年、大量印刷及び印刷速度向上の要望がより高まっており、電子写真感光体の表面層となることが多い電荷輸送層においては優れた機械強度と電気特性の両立を目指した開発が進められている。
【0003】
電子写真感光体の電荷輸送層用の結着樹脂として、従来、ポリカーボネート樹脂がよく使用されてきたが、特許文献1では、ポリカーボネート樹脂よりも機械的強度が高いポリアリレート樹脂を使用することで、電子写真感光体の耐久性を更に向上させる提案がなされている。ポリアリレート樹脂は、芳香族ジカルボン酸ポリエステル樹脂の1種である。更に、特許文献2及び3に開示の電荷輸送物質とポリアリレート樹脂とを感光層中に含有させることにより、耐久性又は電気特性を向上させた感光体の提案もなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-039521号公報
【文献】特開2007-72277号公報
【文献】特開2020-181012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上、近年急速に進む電子写真プロセスの長寿命化、高速化に対して、電子写真感光体の電荷輸送層にポリアリレート樹脂を用いることによる様々な改善が試みられている。
しかしながら、本発明者らの検討によれば電子写真プロセスの高速化に伴い、ポリアリレート樹脂を電荷輸送層に用いると、ポリカーボネート樹脂を用いた場合に比べて感度の不足が課題として生じることが分かった。
【0006】
したがって本発明の目的は、高耐久性と高感度化を高いレベルで両立する電子写真感光体、該電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
即ち、本発明にかかる電子写真感光体は、該支持体上に形成された電荷発生層及び該電荷発生層上に形成された電荷輸送層を有し、表面層が該電荷輸送層である電子写真感光体であって、
該電荷輸送層が、
下記式(1)で示される構造を有するポリエステル樹脂及び
下記式(HTM1)で示される電荷輸送性化合物を含有する
ことを特徴とする。
【化1】
は、式(1A)、式(1B)、式(1C)、式(1D)、又は式(1E)で表される二価の基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0008】
また、本発明は、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジである。
また、本発明は、上記電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子写真感光体として求められる高耐久性及び高感度を高いレベルで両立することができる電子写真感光体、並びに、該電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に関わる電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
図2】本発明に関わる電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
本発明の電子写真感光体は、支持体、支持体上に形成された電荷発生層及び電荷発生層上に形成された電荷輸送層を有し、表面層が電荷輸送層である電子写真感光体であって、該電荷輸送層が下記式(1)で示される構造を有するポリエステル樹脂及び下記式(HTM1)で示される電荷輸送性化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体である。
【化8】
は、式(1A)、式(1B)、式(1C)、式(1D)、又は式(1E)で表される二価の基を示す。
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0012】
本発明の電子写真感光体が、高耐久性及び高感度を高いレベルで両立することができる理由について、本発明者らは、以下のように推測している。
ポリエステル樹脂と電荷輸送性化合物が電荷輸送層中に存在すると、ポリエステル樹脂のエステル部位に対して電荷輸送性化合物のアミン部位が配位を行う。この際、式(1)の構造単位を有するポリエステル樹脂に対して、式(HTM1)の電荷輸送性化合物を用いると、立体障害の少ない方向から電荷輸送性化合物がポリエステル樹脂に配位する。その結果、電荷輸送層中における電荷輸送性化合物の分子の向きが揃うことによりホール輸送性が向上することで、感度が飛躍的に向上し、高耐久性と高感度を両立することができる。
【0013】
前記電荷輸送層における前記電荷輸送性化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂の含有量に対して、60質量%以上120質量%以下であることが好ましい。この範囲にすることで、本発明の電子写真感光体の耐摩耗性と感度の両立をより高レベルで達成できる。
【0014】
本発明の電子写真感光体の電荷輸送層に用いられるポリエステル樹脂は、上記式(1)で示される構造単位を有し、その含有比は任意であるが、感度向上の点から式(1)で示される構造単位が、ポリエステル樹脂中の全構造単位に対して、50%以上100%以下の質量比で含有されていることが好ましい。前記含有比は、プロトン核磁気共鳴分光計を用いてポリエステル樹脂の1H-NMRスペクトルを測定し、得られた1H-NMRスペクトルから算出することができる。
【0015】
また、本発明の電子写真感光体の電荷輸送層に用いられる上記式(1)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂は、上記式(1)で示される構造単位を有すれば、他の構成単位を有していてもよく、上記式(1)とは異なる他の2価のカルボン酸及び2価の有機残基からなる構造単位との共重合体であってもよい。
【0016】
ポリエステル樹脂の粘度平均分子量としては、10,000以上80,000以下であることが好ましく、40,000以上70,000以下であることがより好ましい。
【0017】
電荷輸送層中の上記式(HTM1)で示される電荷輸送性化合物と上記式(1)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、6:10~12:10がより好ましい。
【0018】
また、本発明の電荷輸送層はフィラー粒子としてシリカ粒子を含有することにより感度の低下を起こすことなく耐久性(以下、「耐摩耗性」とも呼ぶ。)を向上させることができる。フィラー粒子の個数平均一次粒子径は、5nm以上1000nm以下であることが好ましい。電子写真感光体の耐摩耗性を向上させるためには、フィラー粒子の個数平均一次粒径は、10nm以上150nm以下であることがより好ましい。
【0019】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、支持体、及び該支持体上に形成された感光層を有する。図1は、電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。図2中、101は支持体であり、102は下引き層であり、103は電荷発生層であり、104は電荷輸送層であり、105は感光層(積層型感光層)である。
【0020】
<支持体>
本発明において、支持体は、導電性を有する導電性支持体であることが好ましい。導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金などの金属又は合金で形成される支持体や、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ガラスなどの絶縁性支持体上に、アルミニウム、クロム、銀、金などの金属の薄膜;酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性材料の薄膜;銀ナノワイヤーを加えた導電性インクの薄膜を形成した支持体が挙げられる。
支持体の表面には、電気的特性の改善や干渉縞の抑制のため、陽極酸化などの電気化学的な処理や、湿式ホーニング処理、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。支持体の形状としては円筒状又はフィルム状などが挙げられる。
【0021】
<導電層>
本発明において、支持体の上に導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体のムラや欠陥の被覆、干渉縞の防止が可能となる。導電層の平均膜厚は5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0022】
導電層は、導電性粒子と、結着樹脂を含有することが好ましい。導電性粒子としては、カーボンブラック、金属粒子及び金属酸化物粒子などが挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。ドープする元素やその酸化物としては、リン、アルミニウム、ニオブ、タンタルなどが挙げられる。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズ、酸化チタンなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0023】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などを更に含有してもよい。
【0024】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましい。
導電層は、上記各材料及び溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0025】
<下引き層>
支持体と電荷発生層との間に、下引き層を設けてもよい。下引き層は、ポリアミド樹脂と、酸化チタン粒子を含有する。ポリアミド樹脂としては、アルコール系溶剤に可溶なポリアミド樹脂が好ましい。例えば、3元系(6-66-610)共重合ポリアミド、4元系(6-66-610-12)共重合ポリアミド、N-メトキシメチル化ナイロン、重合脂肪酸系ポリアミド、重合脂肪酸系ポリアミドブロック共重合体、ジアミン成分を有する共重合ポリアミドなどが好ましく用いられる。
酸化チタン粒子としては、電荷の蓄積の抑制という観点から、結晶構造がルチル型又はアナターゼ型であることが好まししい。酸化チタン粒子の平均一次粒径は、10nm以上100nm以下であることが好ましい。酸化チタン粒子はシランカップリング剤などで処理をしてもよい。
【0026】
本発明における下引き層は、上記ポリアミド樹脂や酸化チタン粒子以外にも、電子写真感光体の下引き層の成膜性を高めたりする目的で、有機物粒子やレベリング剤などの添加剤を含有してもよい。
下引き層の平均膜厚は、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。下引き層は、上記の各材料及び溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥及び/又は硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。下引き層用塗布液中で酸化チタン粒子を分散させるための分散方法としては、超音波分散、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0027】
<電荷発生層>
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
電荷発生層に用いられる電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニンとしては、例えば、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、及びクロロガリウムフタロシアニンが挙げられ、中でもチタニルフタロシアニンがより好ましい。
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、ウレタン樹脂、アガロース樹脂、セルロース樹脂、カゼイン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリロニトリル共重合体及びポリビニルベンザール樹脂などの樹脂(絶縁性樹脂)が挙げられる。また、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレンなどの有機光導電性ポリマーを用いることもできる。また、結着樹脂は、1種のみを使用してもよく、混合又は共重合体として2種以上を併用してもよい。
【0028】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、テトラリン、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、四塩化炭素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジオキサン、メチラール、テトラヒドロフラン、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、メトキシプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、溶剤は、単独又は混合して1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
電荷発生層は、電荷発生物質としてのフタロシアニン顔料、及び必要に応じて結着樹脂を溶剤に分散させて電荷発生層用塗布液を調製し、電荷発生層用塗布液の塗膜を形成し乾燥させることによって得られる。
電荷発生層用塗布液は、電荷発生物質だけを溶剤に加えて分散処理した後に結着樹脂を加えて調製してもよいし、電荷発生物質と結着樹脂を一緒に溶剤に加えて分散処理して調製してもよい。
上記分散の際には、サンドミルやボールミルなどのメディア型分散機や、液衝突型分散機や超音波分散機などの分散機を用いることができる。
【0030】
<電荷輸送層>
本発明の電子写真感光体は、表面層が電荷輸送層である。電荷輸送層は上記したポリエステル樹脂及び電荷輸送性化合物を有する。
電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましい。
電荷輸送層は、上記各材料及び溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0031】
<プロセスカートリッジ及び電子写真装置>
図2に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。図2において、1は円筒状(ドラム状)の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。
電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段3により、正又は負の所定電位に帯電される。次いで、帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。像露光光4は、例えば、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段から出力される、目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された光である。
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像(正規現像又は反転現像)され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写されていく。このとき、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。また、転写材7が紙である場合、転写材7は給紙部(不図示)から取り出されて、電子写真感光体1と転写手段6との間に電子写真感光体1の回転と同期して給送される。
【0032】
電子写真感光体1からトナー像が転写された転写材7は、電子写真感光体1の表面から分離された後、定着手段8へ搬送されて、トナー像の定着処理を受けることにより、画像形成物(プリント、コピー)として電子写真装置の外へプリントアウトされる。転写材7にトナー像を転写した後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段9により、トナー(転写残りトナー)などの付着物の除去を受けて清浄される。近年開発されているクリーナレスシステムにより、転写残りトナーを直接、現像器などで除去することもできる。更に、電子写真感光体1の表面は、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。尚、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光手段は必ずしも必要ではない。本発明においては、上述の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段9などの構成要素のうち、複数の構成要素を容器に納めて一体に支持してプロセスカートリッジを形成する。このプロセスカートリッジを電子写真装置本体に対して着脱自在に構成することができる。例えば、帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段9から選択される少なくとも1つを電子写真感光体1とともに一体に支持してカートリッジ化する。電子写真装置本体のレールなどの案内手段12を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ11とすることができる。露光光4は、電子写真装置が複写機やプリンタである場合には、原稿からの反射光や透過光であってもよい。又は、センサーで原稿を読み取り、信号化し、この信号に従って行われるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動若しくは液晶シャッターアレイの駆動などにより放射される光であってもよい。
本発明の電子写真感光体1は、レーザービームプリンタ、CRTプリンタ、LEDプリンタ、FAX、液晶プリンタ及びレーザー製版などの電子写真応用分野にも幅広く適用することができる。
【0033】
<実施例及び比較例で用いた材料>
感光体を製造するための材料として、以下の電荷発生物質、電荷輸送性化合物、及びバインダー樹脂、フィラー樹脂を準備した。
【0034】
[電荷発生物質]
チタニルフタロシアニンの結晶としては、CuKα特性X線回折において、ブラッグ角2θ±0.2°の27.2°に強いピークを有するY型チタニルフタロシアニン(CGM1)及び、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°及び28.1°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン(CGM2)を準備した。
【0035】
[電荷輸送性化合物]
前述した電荷輸送性化合物(HTM1)を準備した。更に、電荷輸送性化合物(HTM2)~(HTM6)も準備した。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【0036】
[バインダー樹脂]
本発明に用いられるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸エステルと水酸基を有する化合物とのエステル交換法によって合成されてもよく、或いはジカルボン酸ハライドなどの2価の酸ハロゲン化物とビスフェノールなどの水酸基を有する化合物との重合反応によって合成されてもよく、得られる生成物の分子量の制御性の点で、後者の合成方法によって合成することが好ましい。
【0037】
(ポリエステル樹脂(1-1))
以下に、合成例として、下記(1-1)で示されるポリエステル樹脂の合成方法を示す。
下記式(DC-1)で示される構造を有するジカルボン酸クロライドを、ジクロロメタンに溶解させ、酸クロライド溶液を調製した。
また、この酸クロライド溶液とは別に、下記式(BP-1)で示される構造を有するビスフェノールを10%水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、これに、重合触媒としてトリブチルベンジルアンモニウムクロライドを添加して攪拌し、ビスフェノール溶液を調製した。
次に、酸クロライド溶液をビスフェノール溶液に攪拌しながら加え、重合を開始した。重合は、反応温度を25℃以下に保ち、攪拌しながら、3時間行った。
その後、酢酸を添加して重合反応を停止させ、水層が中性になるまで水での洗浄を繰り返した。
洗浄後、攪拌下のメタノールに滴下して、重合物を沈殿させ、この重合物を真空乾燥させて、式(1-1)で示されるポリアリレート樹脂を得た。得られた式(1-1)の粘度平均分子量は46,500であった。
【化20】
【化21】
【化22】
【0038】
(ポリエステル樹脂(1-2)~(1-24))
以下に本発明に用いたポリエステル樹脂の構造を示す。また、表1にポリエステル樹脂の粘度平均分子量を示す。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0039】
【表1】
【0040】
(ポリカーボネート樹脂(2-1))
以下のポリカーボネート樹脂を準備した。
三菱瓦斯化学株式会社製 「ユーピロンZ400」(粘度平均分子量40,000)
【0041】
[フィラー粒子]
以下に示すフィラー粒子(フィラー粒子1)~(フィラー粒子3)を準備した。AEROSILは登録商標である。各フィラー粒子はHDMSヘキサメチルシラザンで表面処理されていた。
(フィラー粒子1)
日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RX300」
個数平均一次粒子径7nm
(フィラー粒子2)
日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RX200」
個数平均一次粒子径12nm
(フィラー粒子3)
日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RX50」
個数平均一次粒子径40nm
【0042】
<実施例>
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例の電子写真感光体の各層の膜厚は、電荷発生層を除き、渦電流式膜厚計(Fischerscope、フィッシャーインスツルメント製)を用いる方法、又は、単位面積当たりの質量から比重換算する方法で求めた。電荷発生層の膜厚は、感光体の表面に分光濃度計(商品名:X-Rite504/508、X-Rite製)を押し当てて測定したマクベス濃度値と断面SEM画像観察による膜厚測定値から予め取得した校正曲線を用いて、感光体のマクベス濃度値を換算することで測定した。
【0043】
[実施例1]
<下引き層>
表面処理された酸化チタン(数平均一次粒子径10nm)を準備した。アルミナとシリカとを用いて酸化チタンを表面処理し、表面処理された酸化チタンを湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いて更に表面処理した。次いで、表面処理された酸化チタン2質量部と、ポリアミド樹脂(東レ株式会社製「アミラン CM8000」、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66及びポリアミド610の四元共重合ポリアミド樹脂)1質量部と、メタノール10質量部と、ブタノール1質量部と、トルエン1質量部とを、ビーズミルを用いて5時間混合して、下引き層用塗布液を得た。その後、得られた下引き層用塗布液を用いて導電性支持体に浸漬塗布して塗膜を形成し、130℃で30分間熱乾燥することにより、膜厚が1.5μmの下引き層を形成した。導電性支持体としては、アルミニウム製の円筒状支持体を用いた。
【0044】
<電荷発生層>
電荷発生物質としてのY型チタニルフタロシアニン(CGM1)(1.5質量部)と、ポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBX-5」)(1質量部)とを、プロピレングリコールモノメチルエーテル(40質量部)及びテトラヒドロフラン(40質量部)を含む溶剤に添加した。ビーズミルを用いて、これらの材料及び溶剤を12時間混合し、溶剤中に材料を分散させて、電荷発生層用塗布液を作製した。得られた電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を温度100℃で10分間加熱乾燥することにより、膜厚が0.25μmの電荷発生層を形成した。
【0045】
<電荷輸送層>
電荷輸送性化合物として、(HTM1)10質量部及びバインダー樹脂としてポリエステル樹脂(1-1)10質量部を、テトロヒドロフラン150質量部及びトルエン50質量部を含む溶剤とを混合して電荷輸送層用塗布液を作製した。得られた電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、塗膜を温度120℃で30分間加熱乾燥することにより、膜厚が30μmの電荷輸送層を形成した。
【0046】
[実施例2~20、比較例1~24]
電荷発生層中の電荷発生物質の種類、電荷輸送層中の電荷輸送性化合物の種類、バインダー樹脂の種類、フィラー粒子の種類、及びバインダー樹脂の含有量に対する電荷輸送性化合物の含有量、を下記の表2の記載となるように、上記[実施例1]からそれぞれ変更して電子写真感光体を作製した。また、電荷輸送層中におけるフィラーの含有量はバインダー樹脂の全質量に対して5%の質量比となるように作製した。
【0047】
<評価>
上記で作製した電子写真感光体を用いて、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
[耐摩耗性の評価]
耐摩耗性の評価に使用した評価機は、カラー複写機(Samsung製「X4300LX」)であった。温度15℃及び相対湿度10%RHの環境下で、評価機を用いて、画像出力を10,000枚行い、繰り返し画像出力前後の感光体膜厚の差から、電荷輸送層の摩耗量を求めた。
[電気特性の評価]
感光体の初期感度を、次の方法で評価した。温度25℃及び相対湿度50%RHの環境下で、ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、感光体の表面を-600Vに帯電させた。次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光(波長780nm、電子写真感光体の表面での光量0.35μJ/cm)を取り出し、感光体の表面に照射した。照射開始から50ミリ秒経過した時の感光体の表面電位を測定した。
【0048】
【表2】
【0049】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
[構成1]
支持体、該支持体上に形成された電荷発生層及び該電荷発生層上に形成された電荷輸送層を有し、表面層が電荷輸送層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、
下記式(1)で示される構造単位を有するポリエステル樹脂及び
下記式(HTM1)で示される電荷輸送性化合物を含有する
ことを特徴とする電子写真感光体。
【化46】
は、式(1A)、式(1B)、式(1C)、式(1D)、又は式(1E)で表される二価の基を示す。
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
【化52】
[構成2]
前記電荷輸送層における前記電荷輸送化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂の含有量に対して、60質量%以上120質量%以下である構成1に記載の電子写真感光体。
[構成3]
前記式(1)で示される構造単位が、前記ポリエステル樹脂の全構造単位に対して、50%以上100%以下の質量比で含まれる構成1又は2に記載の電子写真感光体。
[構成4]
前記電荷発生層における電荷発生物質が、チタニルフタロシアニンである構成1~3のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体。
[構成5]
前記ポリエステル樹脂中における式(1)で示される構造単位におけるXが、前記式(1A)、前記式(1B)、前記式(1C)、又は前記式(1D)である構成1~4のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体。
[構成6]
前記電荷輸送層が、フィラー粒子としてシリカ粒子を含有する構成1~4のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体。
[構成7]
構成1~6のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段と、を一体に支持し、電子写真装置の本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
[構成8]
構成1~6のいずれか1の構成に記載の電子写真感光体、並びに、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置。
【符号の説明】
【0050】
101:導電性基体
102:下引き層
103:電荷発生層
104:電荷輸送層
105:感光層
1:電子写真感光体
2:軸
3:帯電手段
4:像露光光
5:現像手段
6:転写手段
7:転写材
8:像定着手段
9:クリーニング手段
10:前露光光
11:プロセスカートリッジ
12:案内手段
図1
図2