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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】加圧システムにおけるガスジェット偏向
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/24 20060101AFI20241216BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20241216BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20241216BHJP
   H05H 7/10 20060101ALI20241216BHJP
   H05H 7/14 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H01J49/24
H01J49/04 220
H01J49/26
H05H7/10
H05H7/14
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2022503514
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 US2020042307
(87)【国際公開番号】W WO2021016031
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】62/876,116
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518434245
【氏名又は名称】フェニックス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】コベルニク,アーネ,ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン,ブランドン,エイ
(72)【発明者】
【氏名】ボンデ,トーマス,シー.
(72)【発明者】
【氏名】グリッブ,タイ
(72)【発明者】
【氏名】ラデル,ロス,エフ.
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-166371(JP,A)
【文献】特表2015-507334(JP,A)
【文献】特開平04-015555(JP,A)
【文献】特表2017-527078(JP,A)
【文献】特表2002-517887(JP,A)
【文献】特開昭53-142294(JP,A)
【文献】特開平02-090451(JP,A)
【文献】米国特許第05270542(US,A)
【文献】特表2011-508885(JP,A)
【文献】米国特許第03778655(US,A)
【文献】英国特許出願公告第01012056(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0045007(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/00-15/00
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)加圧サブシステムであって、
i)より高圧の領域と、
ii)より低圧の領域と、
を含む加圧サブシステムと、
b)上面と、底面と、垂直軸に沿ってガス偏向板を通って延在するチャネルと、を備える前記ガス偏向板と、
を備えるシステムであって、
前記ガス偏向板は、
i)前記上面および前記底面に対して平行である、前記ガス偏向板を通って延在する縦軸および横軸と、
ii)前記縦軸および前記横軸に対して垂直である前記垂直軸と、
を有し、
前記ガス偏向板は、前記上面が前記より低圧の領域に面しかつ前記底面が前記より高圧の領域に面するように、前記より高圧の領域と前記より低圧の領域との間に配置されており、
前記チャネルは、
i)前記ガス偏向板の前記上面内の上開口部と、
ii)前記ガス偏向板の前記底面内の底開口部と、
を含み、
前記チャネルは、前記より高圧の領域から前記より低圧の領域へと前記チャネルを通って移動する噴流ガスが前記垂直軸からずれた角度で前記より低圧の領域に入るような形状および/または角度を有する、システム。
【請求項2】
c)第1の表面を備えるジェット偏向装置コンポーネントであって、前記より低圧の領域に入る前記噴流ガスが前記第1の表面に衝突して異なる方向に向きを変えるように、前記より低圧の領域内に配置されているジェット偏向装置コンポーネント、
をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ジェット偏向装置コンポーネントは、前記ガス偏向板の前記上面に取り付けられている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記加圧サブシステムは、ガス-ターゲット粒子加速器、質量分析計および窓無し吐出口からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記より高圧の領域は、粒子加速器のターゲットチャンバを含み、
前記より低圧の領域は、差動排気システムの一部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記チャネルから前記より低圧の領域内へと至る前記噴流ガスを遮る物理的コンポーネントがない、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記角度は、前記垂直軸から少なくとも15度ずれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記上開口部は、非対称の開口部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記非対称の開口部は、前記チャネルの第1の部分および第2の部分から形成されており、
前記第1の部分は、前記第2の部分に対して前記非対称の開口部をはさんだ向かい側にあり、
前記第2の部分は、前記第1の部分よりも前記垂直軸からの角度のずれが大きい、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記加圧サブシステムは、差動排気システムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記加圧サブシステムは、
i)イオン源と、
ii)イオン加速器と、
iii)差動排気システムと、
iv)ターゲットチャンバと、
を備える粒子加速器システムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記ガス偏向板は、前記ターゲットチャンバと前記差動排気システムとの間にあるように配置されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ターゲットチャンバは、前記より高圧の領域を含み、
前記差動排気システムは、前記より低圧の領域を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記加圧サブシステムは、質量分析計を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記質量分析計は、
i)サンプルチャンバと、
ii)差圧ステージと、
iii)イオン化チャンバと、
を含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記ガス偏向板は、前記サンプルチャンバと前記差圧ステージとの間にあるように配置されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記サンプルチャンバは、前記より高圧の領域を含み、
前記差圧ステージは、前記より低圧の領域を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記チャネルは、その長さの大部分または全部に沿って、2.5~9.0mmの直径を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記上開口部は、6~18mmの直径を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記ガス偏向板は、前記上面と前記底面との間の厚さが13~40mmである、請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
前記ガス偏向板は、円形または略円形の形状を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記ガス偏向板の大部分または全部は、金属からなる、請求項1に記載のシステム。
【請求項23】
前記金属は、銅、タングステンおよびステンレス鋼からなる群から選択される、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記ガス偏向板は、前記より高圧の領域および/または前記より低圧の領域への取り付けを可能にする1つ以上の開口部を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項25】
前記第1の表面は、平坦な形状、凹形状、凸形状およびテクスチャ加工された形状の群から選択される形状を有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項26】
前記ジェット偏向装置コンポーネントは、第1の取り付けコンポーネントをさらに含み、
前記ガス偏向板は、第2の取り付けコンポーネントをさらに含み、
前記第1の取り付けコンポーネントおよび前記第2の取り付けコンポーネントは、前記ジェット偏向装置コンポーネントが前記ガス偏向板に取り付けられることを可能にする、請求項2に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年7月19日に出願された米国仮出願第62/876,116号の優先権を主張するものである。その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
差動排気を使用する低真空から超高真空のシステム(例えば、ガス-ターゲット粒子加速器、質量分析計、電子ビーム溶接および窓無し吐出口(windowless delivery port))において、ガス偏向板(gas-deflector plate)を採用する製品、システムおよび方法が、本明細書において提供される。特定の実施形態では、当該ガス偏向板は、加圧システム(pressurized system)内のより高圧の領域とより低圧の領域との間に配置されるように構成されており、当該ガス偏向板は、チャネルを通って移動する噴流ガス(jetting gas)が当該チャネルおよび/または当該ガス偏向板の垂直軸からずれた(オフセットした:offset)角度で当該より低圧の領域に入るような形状および/または角度の当該ガス偏向板を通る当該チャネルを有する。他の実施形態では、当該噴流ガスがジェット偏向装置コンポーネント(jet-deflector component)に衝突して別の方向に向きを変えるようなかかるジェット偏向装置コンポーネントが、採用される。
【背景技術】
【0003】
粒子加速器のターゲット設計は、固体、液体、またはガス/プラズマの形態をとり得る。ターゲットからの高圧ガスは、高真空が必要とされる加速器システムのより低圧の部分の方へ自然に流れるだろう。高エネルギー粒子が通過することを可能にしつつビームラインの高真空環境からターゲット材料を隔てるために、真空窓(Vacuum windows)が用いられ得る。高フラックスで連続的に運転される加速器の場合、窓上の熱応力は管理困難なものとなり、かかるアプローチは効果的ではない。
【0004】
代替的なアプローチは、狭い直径の開口を通じてターゲットチャンバ内へとビームを集束させることである。ターゲットから逃れるガスのこの自然の輸送に対処するために、追加的な複数の同軸開口によって隔てられた複数の排気ステージ(排気段)から構成される差動排気システムが採用される―ビームライン内において10を超える圧力比が可能となる。このアプローチでは、ターゲット開口を通って膨張する高圧ターゲットガスは、隣接する差動排気ステージ内へと通過する間に加速するだろう。すべての排気開口が同軸である線形ビームラインの場合、この現象の結果、噴流ガスのかなりの部分が、隣接する排気ステージを凝集して横切り得る。その結果、より高い圧力は、ビームラインのコース上流へさらに伝わるだろう。そして、当該より高い圧力は、電荷交換、散乱を増大させ、かつ/または、加速器の集束能力および全体的な有効性を低減させることにより、ビーム輸送を妨げ得る。
【発明の概要】
【0005】
差動排気を使用する低真空から超高真空のシステム(例えば、ガス-ターゲット粒子加速器、質量分析計、電子ビーム溶接および窓無し吐出口(windowless delivery port))において、非対称のノズルと組み合わされ得るガス偏向板(gas-deflector plate)を採用する製品、システムおよび方法が、本明細書において提供される。特定の実施形態では、当該ガス偏向板は、加圧システム内のより高圧の領域とより低圧の領域との間に配置されるように構成されており、当該ガス偏向板は、チャネルを通って移動する噴流ガス(jetting gas)が当該チャネルおよび/または当該ガス偏向板の垂直軸からずれた(オフセットした:offset)角度で当該より低圧の領域に入るような形状および/または角度の当該ガス偏向板を通る当該チャネルを有する。他の実施形態では、当該噴流ガスがジェット偏向装置コンポーネント(jet-deflector component)に衝突して別の方向に向きを変えるようなかかるジェット偏向装置コンポーネントが、採用される。
【0006】
いくつかの実施形態では、上面と、底面と、ガス偏向板を通って延在するチャネルと、を備える前記ガス偏向板を備える製品であって、前記ガス偏向板は、i)前記上面および前記底面に対して平行である、前記ガス偏向板を通って延在する縦軸および横軸と、ii)前記縦軸および前記横軸に対して垂直である垂直軸と、を有し、前記ガス偏向板は、前記上面がより低圧の領域に面しかつ前記底面がより高圧の領域に面するように、(例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される、米国特許第8,837,662号に記載されているような)加圧システム内の前記より高圧の領域と前記より低圧の領域との間に配置されるよう構成されており、前記チャネルは、i)前記ガス偏向板の前記上面内の上開口部(top opening)と、ii)前記ガス偏向板の前記底面内の底開口部(bottom opening)と、を含み、前記チャネルは、前記より高圧の領域から前記より低圧の領域へと前記チャネルを通って移動する噴流ガスが前記垂直軸からずれた角度で前記より低圧の領域に入るような形状および/または角度を有する製品が、本明細書において提供される。
【0007】
特定の実施形態では、a)本明細書に記載の複数の前記ガス偏向板のいずれかと、b)第1の表面を備えるジェット偏向装置コンポーネントであって、前記より低圧の領域に入る前記噴流ガスが前記第1の表面に衝突して異なる方向に向きを変えるように、前記より低圧の領域内に配置されるよう構成されているジェット偏向装置コンポーネントと、を備えるシステムが、本明細書において提供される。特定の実施形態では、前記第1の表面は、平坦な形状、凹形状、凸形状およびテクスチャ加工された(textured)形状の群から選択される形状を有する。他の実施形態では、前記ジェット偏向装置コンポーネントは、(例えば、スクリュー、ロッド、穴(holes)、ナット等の)第1の取り付けコンポーネントをさらに含み、前記ガス偏向板は、(例えば、スクリュー、ロッド、穴、ナット等の)第2の取り付けコンポーネントをさらに含み、前記第1および第2の取り付けコンポーネントは、前記ジェット偏向装置コンポーネントが前記ガス偏向板に(例えば、ボルトおよびボルトのための開口部を用いて)取り付けられることを可能にする。
【0008】
いくつかの実施形態では、a)加圧サブシステムであって、i)より高圧の領域と、ii)より低圧の領域と、を含む加圧サブシステムと、b)上面と、底面と、ガス偏向板を通って延在するチャネルと、を備える前記ガス偏向板と、を備えるシステムであって、前記ガス偏向板は、i)前記上面および前記底面に対して平行である、前記ガス偏向板を通って延在する縦軸および横軸と、ii)前記縦軸および前記横軸に対して垂直である垂直軸と、を有し、前記ガス偏向板は、前記上面が前記より低圧の領域に面しかつ前記底面が前記より高圧の領域に面するように、前記より高圧の領域と前記より低圧の領域との間に配置されており、前記チャネルは、i)前記ガス偏向板の前記上面内の上開口部と、ii)前記ガス偏向板の前記底面内の底開口部と、を含み、前記チャネルは、前記より高圧の領域から前記より低圧の領域へと前記チャネルを通って移動する噴流ガスが前記垂直軸からずれた角度で前記より低圧の領域に入るような形状および/または角度を有するシステムが、本明細書において提供される。特定の実施形態では、システムは、c)第1の表面を備えるジェット偏向装置コンポーネントであって、前記より低圧の領域に入る前記噴流ガスが前記第1の表面に衝突して異なる方向に向きを変えるように、前記より低圧の領域内に配置されているジェット偏向装置コンポーネントをさらに備える。
【0009】
他の実施形態では、a)加圧可能なサブシステムであって、i)第1の領域と、ii)第2の領域と、を含む加圧可能なサブシステムと、b)上面と、底面と、ガス偏向板を通って延在するチャネルと、を備える前記ガス偏向板と、を備えるシステムであって、前記ガス偏向板は、i)前記上面および前記底面に対して平行である、前記ガス偏向板を通って延在する縦軸および横軸と、ii)前記縦軸および前記横軸に対して垂直である垂直軸と、を有し、前記ガス偏向板は、前記上面が前記第2の領域に面しかつ前記底面が前記第1の領域に面するように、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配置されており、前記チャネルは、i)前記ガス偏向板の前記上面内の上開口部と、ii)前記ガス偏向板の前記底面内の底開口部と、を含み、前記チャネルは、前記第1の領域から前記第2の領域へと前記チャネルを通って移動する噴流ガスが前記垂直軸からずれた角度で前記第2の領域に入るような形状および/または角度を有するシステムが、本明細書において提供される。
【0010】
他の実施形態では、a)加圧可能なシステムの第1の領域と第2の領域との間にガス偏向板を配置する工程、ここで、前記ガス偏向板は、上面と、底面と、前記ガス偏向板を通って延在するチャネルと、を備え、前記ガス偏向板は、i)前記上面および前記底面に対して平行である、前記ガス偏向板を通って延在する縦軸および横軸と、ii)前記縦軸および前記横軸に対して垂直である垂直軸と、を有し、前記ガス偏向板は、前記上面が前記第2の領域に面しかつ前記底面が前記第1の領域に面するように、前記第1の領域と前記第2の領域との間に配置されており、前記チャネルは、i)前記ガス偏向板の前記上面内の上開口部と、ii)前記ガス偏向板の前記底面内の底開口部と、を含む、ならびに、b)前記加圧可能なサブシステムが加圧状態になり、かつ、前記第1の領域が前記第2の領域よりも高圧になるように、前記加圧可能なシステムを作動させる工程であって、それにより、噴流ガスが、前記第1の領域から前記第2の領域へと前記チャネルを通って移動し、前記垂直軸からずれた角度で前記第2の領域に入るようにする工程、のうちの1つ以上を含む方法が、本明細書において提供される。
【0011】
特定の実施形態では、前記チャネルから前記低圧のエリア内へと至る前記噴流ガスを遮る物理的コンポーネントは無い。特定の実施形態では、前記噴流ガスの前記角度は、前記垂直軸から少なくとも5度または少なくとも10度ずれている(オフセットしている)(例えば、少なくとも5度...10度...15度...25度...35度...45度...55度...65度...75度...または85度)。いくつかの実施形態では、前記チャネルの前記角度は、前記垂直軸から少なくとも5度または少なくとも10度ずれている(例えば、少なくとも5度...10度...15度...25度...35度...45度...55度...65度...75度...または85度)。他の実施形態では、前記上開口部は、非対称の開口部を含む。さらなる実施形態では、前記非対称の開口部は、前記チャネルの第1および第2の部分から形成されており、前記第1の部分は、前記第2の部分に対して前記非対称の開口部をはさんだ向かい側にあり、前記第2の部分は、前記第1の部分よりも前記垂直軸からの角度のずれが大きい。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記加圧システムは、差動排気システムを含む。特定の実施形態では、前記加圧システムは、i)イオン源と、ii)イオン加速器と、iii)差動排気システムと、iv)ターゲットチャンバと、を備える粒子加速器システムを含む。いくつかの実施形態では、前記粒子加速器システムは、米国特許第8,837,662号に見られるシステムのコンポーネントのうちのいくつかまたはすべてを含み、その全体が参照により本明細書に援用される。さらなる実施形態では、前記ガス偏向板は、前記ターゲットチャンバと前記差動排気システムとの間に配置されるように構成されている。他の実施形態では、前記ターゲットチャンバは、前記より高圧の領域を含み、前記差動排気システムは、前記より低圧の領域を含む。さらなる実施形態では、前記加圧システムは、質量分析計を含む。他の実施形態では、前記質量分析計は、i)サンプルチャンバと、ii)差圧ステージと、iii)イオン化チャンバと、を含む。いくつかの実施形態では、前記ガス偏向板は、前記サンプルチャンバと前記差動排気ステージとの間に配置されるように構成されている。他の実施形態では、前記サンプルチャンバは、前記より高圧の領域を含み、前記差圧ステージは、前記より低圧の領域を含む。
特定の実施形態では、前記チャネルは、その長さの大部分または全部に沿って、約2.5~9.0mm(例えば、3.5mm...4.5mm...5.0mm...5.5mm...6.5mm...7.9mm...9.0mm)の直径を有する。特定の実施形態では、前記チャネルの前記長さは、前記チャネルの前記直径の約4~6倍である。特定の実施形態では、前記チャネルの前記長さは、約15~35mm(例えば、15mm...20mm...25mm...または35mm)である。他の実施形態では、前記上開口部は、前記チャネルの前記直径の約2倍の直径、または、約6~18mm(例えば、7mm...10mm...15mm...17mm)の直径を有する。さらなる実施形態では、前記ガス偏向板は、前記上面と前記底面との間の厚さが約13~40mm(例えば、13mm...25mm...34mm...または40mm)である。他の実施形態では、前記ガス偏向板は、円形もしくは略円形の形状、または、正方形もしくは略正方形の形状を有する。他の実施形態では、前記ガス偏向板の大部分または全部は、金属からなる。さらなる実施形態では、前記金属は、銅、タングステンおよびステンレス鋼からなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記ガス偏向板は、前記より高圧の領域および/または前記より低圧の領域への取り付けを可能にする1つ以上の開口部を含む。
【0014】
特定の実施形態では、前記ジェット偏向装置コンポーネントは、前記ガス偏向板の前記上面に取り付けられている。他の実施形態では、前記加圧サブシステムは、ガス-ターゲット粒子加速器、質量分析計および窓無し吐出口からなる群から選択される。他の実施形態では、前記より高圧の領域は、粒子加速器のターゲットチャンバを含み、前記より低圧の領域は、差動排気システムの一部を含む。特定の実施形態では、前記ガス偏向板は、耐熱材料で構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】異なる圧力を有するコンポーネント間にある一対のガス偏向板(30)を有する、ガス-ターゲット粒子加速器を示す。
図1B】板(50)を真っ直ぐに貫通し、圧力が低減しない一様なチャネル(1)を有する板を示す。
図2】一様かつ直線的なチャネル(1)を有する3ステージ差動排気構成の例示的な概略図を示す。
図3A】噴流ガス(矢印;8)をガス偏向板の垂直軸から偏向させる非対称の開口(7)を有するチャネル(70)を有する例示的なガス偏向板(30)を示す。
図3B】縦軸(40)および横軸(41)を示す点線を伴う図3Aの例示的なガス偏向板(30)を示す。
図4】噴流ガス(矢印;8)を下方に偏向させる非対称の開口(7)を有する3ステージ(3段)差動排気構成の例示的な概略図を示す。特定の実施形態では、開口内のこの非対称性は、噴流ガスが上方、左方または右方へ向けられるように、異なるように配置される。
図5A】噴流ガス(矢印;8)を垂直軸から偏向させる非対称の開口(7)を有する例示的なガス偏向板を示す。噴流ガスがジェット偏向装置(10)に当たると、当該噴流ガスは別の方向へ偏向する(矢印;12)。
図5B】垂直軸(42)を示す点線を伴う図5Aの例示的なガス偏向板(30)を示す。
図6】非対称の開口と、異なる方向(矢印;12)に噴流ガスを移動させるジェット偏向装置(10)と、を有する3ステージ(3段)差動排気構成の例示的な概略図を示す。
図7】粒子加速器の用途における、ガスジェット偏向のための非対称の開口(7)を有するチャネル(70)の使用を示す。粒子ビームは点線(14)として示されている。
図8】質量分析計における、ガスジェット偏向のための非対称の開口を有するチャネルの使用を示す。
図9】ボルト(95)を用いてガス偏向板(30)にボルトで固定された例示的なジェット偏向装置(10)を示す。
図10】2つの部分(外部ハウジングおよび内部交換可能「パック(puck)」)から構成される例示的なガス偏向板(30)を示す。特定の実施形態では、これらの部材は、高圧領域と低圧領域との間の漏れ経路が最小化されるように、他のコンポーネントによって所定の位置に保持されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
差動排気を使用する低真空から超高真空のシステム(例えば、ガス-ターゲット粒子加速器、質量分析計および窓無し吐出口(windowless delivery port))において、ガス偏向板(gas-deflector plate)を採用する製品、システムおよび方法が、本明細書において提供される。特定の実施形態では、当該ガス偏向板は、加圧システム内のより高圧の領域とより低圧の領域との間に配置されるように構成されており、当該ガス偏向板は、前記より高圧の領域から前記より低圧の領域へとチャネルを通って移動する噴流ガス(jetting gas)が当該ガス偏向板の垂直軸からずれた(オフセットした:offset)角度で当該より低圧の領域に入るような形状および/または角度の当該ガス偏向板を通る当該チャネルを有する。他の実施形態では、当該噴流ガスがジェット偏向装置コンポーネント(jet-deflector component)に衝突して別の方向に向きを変えるようなかかるジェット偏向装置コンポーネントが、採用される。
【0017】
特定の実施形態において、本開示は、差動排気の用途における、超音速噴流を偏向させる(反らす)ためのガス偏向技術を提供する。いくつかの実施形態では、偏向装置は、非対称の開口(aperture)を有するチャネルを有するガス偏向板である。高圧ガスがチャネルおよび非対称の開口を通って膨張したとき、得られるガスジェット(例えば、超音速ガスジェット)は、非対称方向における軸外(off-axis)速度成分を得る。特定の実施形態では、チャネルの形状および/または角度は、差動排気システムにおけるガスジェットの方向を転じ、より低圧のセクションへの質量輸送を低減する一方、所与のステージ(段:stage)圧力を維持するための排気要求を低減する。特定の実施形態では、ガスジェットの偏向は、開口の非対称方向に配置されたジェット偏向装置コンポーネントの追加により、さらに改善される。
【0018】
いくつかの実施形態では、多段差圧(staged differential pressure)の用途における、超音速および亜音速ガス噴流の影響を緩和するジェット偏向技術を提供するシステム、装置および方法が、本明細書に提供される。特定の実施形態では、(例えば、非対称の開口により)角度をつけられかつ/または形作られたガス偏向板であって、噴流ガスを板の軸外に向けるジェット偏向装置コンポーネントと組み合わされた当該ガス偏向板が、本明細書において提供される。特定の実施形態では、かかるガス偏向板は、複数の差動排気ステージ間の質量輸送を低減し、その結果、排気要求を低減し、かつ/または、所与の構成に対するより低い基準圧力を可能にする。
【0019】
特定の実施形態では、差動的に排気されたシステムにおける効率を改善するシステム、装置および方法が、本明細書において提供される。すなわち、本明細書におけるシステム、装置および方法を使用することにより、例えば、すべてのものが等しい場合にはより大きな圧力差が可能になるか、または、より小さなポンプおよび/もしくはより少数のポンプを使用して同じ差圧が可能になるか、または、より大きな開口が高圧領域と低圧領域との間に存在することが可能になる。特定の実施形態では、本明細書におけるシステム、装置および方法は、所与の排気構成に対して使用される、より大きな開口直径を可能にする。
【0020】
以下に、図面に示された特定の例示的な実施形態の説明を提供する。本発明の適用は、かかる例示的な実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。さらに、特定の実施形態では、以下に記載のガス偏向板およびジェット偏向装置コンポーネントは、米国特許第8,837,662号に記載されたもののような加速器システムにおいて使用される。米国特許第8,837,662号は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0021】
図1Aは、異なる圧力を有するコンポーネント間にある一対のガス偏向板(30)を有する、ガス-ターゲット粒子加速器(25)を示す。イオン源(26)は、加速器(27)に接続されており、当該加速器(27)は、2ステージ(2段:two stages)(28)を有する2つの差動排気システムに接続されている。各ステージ(段)は、真空ポンプ(29)に接続されている。ターゲットチャンバ(32)は、その周りにイオン閉じ込め磁石(ion confinement magnet)(31)を有し、ガス偏向板(30)を挟んで差動排気システムに接続されている。ガス偏向板の横軸(40)は、点線で示されている。
【0022】
図1Bは、板(50)を真っ直ぐに貫通する一様な(uniform)チャネル(1)を有する板を示す。図2は、より高圧のステージ(2)とより低圧のステージ(3)との間に配置されたかかる一様なチャネル(1)の使用を示す。一様なチャネル(1)を使用することの結果として、より高圧のステージからより低圧のステージへのガスジェット(4)は、ずれるのではなく、より低圧のステージ(3)内へと真っ直ぐに至る。ステージ(2)がステージ(3)よりも高圧である異なる圧力の2つのステージの間に開口1が配置されたとき、当該2つのステージの間の圧力差はステージ間にガス流をもたらし、当該2つのステージ内の圧力を一様にする傾向にある。この質量流を相殺する(counteract)ポンプが採用され得る。当該ポンプは、より低圧のステージ内に排出されたガスをより高圧のステージ内に戻し、圧力差を維持することにより、この質量流を相殺する。最終的には、複数の接続された領域の間で維持され得る圧力差は、各領域の排気能力、および、2つの領域間の開口のサイズに依存する。同軸差動排気システムの効率を低減する、一般に観察される現象は、領域間のガスジェットの形成である。圧力が任意の2つのステージ間で十分に異なる場合、より高圧の領域から出てくるガスは、より低圧の領域に入るときに、ジェットを形成するだろう。当該ジェットは、連続的で、凝集的で、方向性のあるガスの流れであり、所与の圧力領域を横切り得、その次の排気ステージ内に大部分無傷で(影響を受けずに)現れ得る。当該ジェットは、所与の排気ステージを効果的に「迂回し(bypass)」、その結果、差動排気システムの効率を著しく低下させる。
【0023】
3ステージ以上のシステムの場合、ジェットのかなりの部分は、第1の差動排気ステージ(3)を横切り得、このステージの効率を低減させる一方、ステージ(5)およびステージ(6)における上流圧力および排気要求を増大させる。
【0024】
かかるガスジェット迂回の問題は、本明細書に記載の装置、システムおよび方法によって対処される。これらの装置、システムおよび方法の機能は、ガスジェット(ガスのジェット)を軸外に偏向させ、その凝集性を減少または破壊し、その結果、任意の所与のステージにおけるポンプが当該ガスに作用し得るようにすることである。例えば、(例えば、非対称の開口により)チャネルが角度をつけられるか、または形作られた本明細書のガス偏向板は、結果として、開口軸および/またはガス偏向板の軸外方向の速度成分を有するガスジェットを生じる。この速度のオフセット(ずれ)は、例えば、図3の矢印(8)により示される非対称の方向である。この偏向は、次の差動排気ステージ内に直接注入されるガスを制限する。いくつかの実施形態では、この非対称の開口の複数の構成が排気ステージ間に直列に配置され、この効果を増す(図1Aを参照)。
【0025】
図3Aは、噴流ガス(矢印;8)をガス偏向板の垂直軸(ビーム軸)から偏向させる非対称の開口(7)を有するチャネル(70)を有する例示的なガス偏向板(30)を示す。図3Bは、縦軸(40)および横軸(41)を示す点線を伴う図3Aの例示的なガス偏向板(30)を示す。縦軸および横軸は、垂直軸(ビーム軸)に対して垂直である。
【0026】
図4は、噴流ガス(矢印;8)を垂直軸(ビーム軸)から離れて下方に偏向させる非対称の開口(7)を有する3ステージ(3段)差動排気構成の例示的な概略図を示す。ボックス(3)、ボックス(5)およびボックス(6)は、差動排気ステージを示す。ステージ(2)は、ステージ(3)、ステージ(5)およびステージ(6)よりも高圧のステージである。
【0027】
図5Aは、噴流ガス(矢印;8)を垂直軸(ビーム軸)から偏向させる非対称の開口(7)を有するチャネル(70)を有する例示的なガス偏向板を示す。噴流ガスがジェット偏向装置コンポーネント(10)に当たると、当該噴流ガスは別の方向へ偏向する(矢印;12)。図5Bは、垂直軸(42)(別称「ビーム軸」)を示す点線を伴う図5Aの例示的なガス偏向板(30)を示す。
【0028】
図6は、非対称の開口と、垂直軸(ビーム軸)からずれた(オフセットした)異なる方向(矢印;12)に噴流ガスを移動させるジェット偏向装置コンポーネント(10)と、を有する3ステージ(3段)差動排気構成の例示的な概略図を示す。ボックス(3)、ボックス(5)およびボックス(6)は、差動排気ステージを示す。ステージ(2)は、ステージ(3)、ステージ(5)およびステージ(6)よりも高圧のステージである。ジェット偏向装置コンポーネントの追加は、矢印(12)により示されるガスジェットの追加的な偏向を提供する。
【0029】
図7は、粒子加速器の用途における、ガスジェット偏向のための非対称の開口を有するチャネル(70)の使用を示す。粒子ビームは点線(14)として示されている。この図に示されるような粒子加速器を用いて、粒子は、矢印(14)により示される粒子ビームを減速するのに十分な長さの高圧ガス(またはプラズマ)ターゲット(13)内へと加速される。ターゲット内の圧力は、差動排気ステージ(15)、差動排気ステージ(16)および差動排気ステージ(17)よりも高い。ターゲットと隣接する差動排気ステージとの間に非対称の開口を有するチャネル(70)の組み込みは、結果として、ステージ(15)、ステージ(16)およびステージ(17)における、排気要求の低減およびより低い基準圧力をもたらす。ジェット偏向装置コンポーネントを組み込むことにより、ターゲットと、接続された複数の差動ステージとの間のガス輸送がさらに低減する。
【0030】
図8は、質量分析計における、ガスジェット偏向のための非対称の開口を有するチャネル(70)の使用を示す。質量分析計は、差動排気ステージ(21)および差動排気ステージ(22)によりイオン化チャンバ(電離箱)(20)から隔てられた、サンプルチャンバ(19)から構成される。ステージ(19)とステージ(21)との間に位置する非対称の開口は、ガスを偏向させ、サンプルチャンバが高圧で動作することを可能にし、イオン化チャンバが高真空レベルで動作することを可能にし、そして、ステージ(20)、ステージ(21)およびステージ(22)の間に通常生じるであろうガス噴流現象を全般的に除去する。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10