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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】帯電緩和用構造体
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20241216BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20241216BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H01L21/68 P
C04B35/117
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022559121
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2021039288
(87)【国際公開番号】W WO2022092023
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020180714
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 茂伸
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-12757(JP,A)
【文献】特開2019-67941(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139673(WO,A1)
【文献】特開2017-200872(JP,A)
【文献】特開2004-276131(JP,A)
【文献】特開2010-109106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 35/117
C04B 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着体を吸着および保持するための吸着面を有する帯電緩和用構造体と、該帯電緩和用構造体を囲繞して支持するセラミックス緻密体を含む支持部と、を備え、
前記帯電緩和用構造体は、
第1面と該第1面の反対に位置する第2面とを有する基板状であり、厚み方向に連通する気孔を有するセラミックス多孔体と、
前記第2面上に位置し、酸化物を主成分として含み、マクロ孔を有し、かつ半導電性を有する多孔質膜とを含み、
前記支持部は、前記吸着面を囲繞する環状面を含み、
前記多孔質膜は、前記第2面に対向する第3面と該第3面の反対に位置する第4面を有し、かつ前記環状面を被覆しており、
少なくとも前記第4面が黒色を呈し、かつ前記第4面が前記吸着面を含み
前記支持部の外周面の延長上に位置する前記多孔質膜の厚みは、前記セラミックス多孔体に支持される前記多孔質膜の厚みよりも大きい、
吸着装置
【請求項2】
前記第4面は、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が35以下であり、クロマティクネス指数a*が-1以上1以下およびクロマティクネス指数b*が-5以上5以下である、請求項1に記載の吸着装置
【請求項3】
前記多孔質膜が、酸化アルミニウムを主成分とし、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を含む、請求項1または2に記載の吸着装置
【請求項4】
前記多孔質膜は、チタン酸アルミニウムの割合が1質量%以下である、請求項3に記載の吸着装置
【請求項5】
前記多孔質膜の前記第4面側の通気抵抗が、前記セラミックス多孔体の前記第1面側の通気抵抗の2倍以下である、請求項1~4のいずれかに記載の吸着装置
【請求項6】
前記第4面は、上側に向かって開口する凹部を複数有し、該凹部の平均深さの平均値が2.5μm以下(但し、0μmを除く。)である、請求項1~5のいずれかに記載の吸着装置
【請求項7】
該凹部の平均深さの変動係数が0.6以下(但し、0を除く)である、請求項6に記載の吸着装置
【請求項8】
前記第4面の粗さ曲線における2乗平均平方根傾斜(RΔq)の平均値が0.3以上1.5以下である、請求項1~7のいずれかに記載の吸着装置
【請求項9】
前記第4面の粗さ曲線における平均長さ(Rsm)の平均値が12μm以上である、請求項1~8いずれかに記載の吸着装置
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の吸着装置を備える、加工装置。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載の吸着装置を備える、検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電緩和用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレー、半導体ウェハなどの基板を、加工装置の取り付け台から取り外す際に、放電が発生しやすい。このような放電の発生を抑制するために、特許文献1には、多孔質部材と、多孔質部材の上面を覆う導電性を有する被膜とを備え、被膜上に基板を吸着保持する真空吸着部材が記載されている。特許文献1には、多孔質部材がアルミナからなり、被膜がシリコンあるいはTiNからなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-12757号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示に係る帯電緩和用構造体は、第1面と該第1面の反対に位置する第2面とを有する基板状であり、厚み方向に連通する気孔を有するセラミックス多孔体と、第2面上に位置し、酸化物を主成分として含み、マクロ孔を有し、かつ半導電性を有する多孔質膜とを含む。多孔質膜は、第2面に対向する第3面と該第3面の反対に位置する第4面を有し、少なくとも前記第4面が黒色を呈している。
【0005】
本開示に係る吸着用部材は、上記の帯電緩和用構造体を備え、多孔質膜の第4面が被吸着体を吸着および保持するための吸着面である。
【0006】
本開示に係る吸着装置は、上記の吸着用部材と、吸着用部材を囲繞して支持するセラミックス緻密体を含む支持部とを備える。支持部が吸着面に連通する吸引路を有する。本開示に係る加工装置および検査装置は、上記の吸着装置を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態に係る帯電緩和用構造体を示す斜視図である。
図2】プラズマ溶射装置の模式図である。
図3】本開示の一実施形態に係る吸着装置を示す斜視図である。
図4A図3に示す吸着装置の平面図である。
図4B図4Aに示すAA’線における断面図である。
図5図3図4Aおよび図4Bに示す吸着装置を備えた本開示の一実施形態に係る検査装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特許文献1に記載のように、真空吸着部材の多孔質部材がアルミナからなり、被膜がシリコンからなる場合、自然酸化によってSiOの膜が形成される。このSiOの膜は、膜厚に応じて膜の表面と多孔質部材との境界面で反射する白色系の干渉色を呈する。一方、被膜がTiNからなる場合、被膜自体が金色を呈する。
【0009】
被膜が白色または金色を呈していると、基板などの被吸着体の外周側で、基板も多孔質部材を支持する支持部も白く見える。そのため、被吸着体の輪郭がぼやけてしまい、輪郭の誤認識を発生させることがある。
【0010】
したがって、被吸着体の輪郭とのコントラストを明確にして、被吸着体の輪郭の誤認識を低減することができる帯電緩和用構造体が求められている。
【0011】
本開示に係る帯電緩和用構造体は、多孔質膜の少なくとも第4面が黒色を呈している。したがって、本開示に係る帯電緩和用構造体によれば、被吸着体の輪郭とのコントラストを明確にして、被吸着体の輪郭の誤認識を低減することができる。
【0012】
本開示の一実施形態に係る帯電緩和用構造体を、図1に基づいて説明する。図1に示す一実施形態に係る帯電緩和用構造体1は、多孔質膜2とセラミックス多孔体3とを含む。
【0013】
帯電緩和用構造体1に含まれる多孔質膜2はマクロ孔を有する。本明細書において「マクロ孔」とは、50nm以上の直径を有する細孔を意味する。多孔質膜2は、さらに半導電性を有している。本明細書において「半導電性」とは、表面抵抗値が10~1011Ωであることを意味する。多孔質膜2は、例えば、30μm以上60μm以下程度の厚みを有する。
【0014】
多孔質膜2は、セラミックス多孔体3に支持されている第3面と、該第3面の反対に位置する第4面を有している。すなわち、多孔質膜2は、セラミックス多孔体3上に位置している。多孔質膜2の第4面は、露出した露出面である(以下、第4面を露出面と記載する場合がある)。多孔質膜2は、少なくとも第4面(露出面)が黒色を呈している。多孔質膜2において、露出面が黒色を呈していると、セラミックス多孔体3の表面よりも可視光領域における反射率が低くなる。そのため、被吸着体の輪郭とのコントラストを明確にすることができ、被吸着体の輪郭の誤認識を低減することができる。
【0015】
露出面は、特に、CIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が35以下であり、クロマティクネス指数a*が-1以上1以下およびクロマティクネス指数b*が-5以上5以下であるとよい。明度指数L*、クロマティクネス指数a*およびクロマティクネス指数b*が上記範囲であると、可視光線領域全般に亘って黒色系の無彩色化の傾向が強くなるので、反射率をより低減することができる。さらに、無彩色化の傾向が強くなるため、色むらが抑制される。露出面の色差ΔE*abは1以下(但し、0を除く)であってもよい。色差ΔE*abが上記範囲であると、露出面の位置による色の相違が減少するので、反射率のばらつきがさらに抑制される。
【0016】
ここで、色差ΔE*abは、2つの色の間に知覚される色の相違を定量化した値であり、以下の式(1)で示される。
ΔE*ab=〔(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)2〕1/2・・・(1)
【0017】
(ΔL*は、露出面の中心に位置する第1測定対象点の明度指数L1*と露出面の外周に位置する第2測定対象点の明度指数L2*との差、Δa*は上記第1測定対象点のクロマティクネス指数a1*と上記第2測定対象点の明度指数a2*との差、Δb*は上記第1測定対象点のクロマティクネス指数b1*と上記第2測定対象点の明度指数b2*との差である。)
【0018】
第2測定対象点は露出面の円周方向に沿って、略等間隔に4か所設定して、明度指数L*およびクロマティクネス指数a*,b*を測定すればよい。明度指数L*およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722:2009に準拠して求めることができる。例えば、分光色差計(日本電色工業(株)製NF777またはその後継機種)を用い、測定条件としては、光源をCIE標準光源D65、視野角を2°に設定すればよい。
【0019】
多孔質膜2は、酸化物を主成分として含む。本明細書において「酸化物を主成分として含む」とは、多孔質膜2を構成する成分の合計を100質量%とした場合に、酸化物が合計で98質量%以上の割合で含まれることを意味する。酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ナトリウムなどの金属酸化物が挙げられる。
【0020】
これらの酸化物の中でも、酸化アルミニウムを主成分として、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を含んでいるものがよい。酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブは、熱処理の条件によって電気抵抗が変化する。その結果、多孔質膜2の表面抵抗値を所望の値に制御しやすくなる。
【0021】
酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物の含有量は、酸化アルミニウムの含有量よりも少なければ、限定されない。酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物は、多孔質膜2を構成する成分の合計を100質量%とした場合に、例えば、32質量%以上48質量%以下の割合で含まれるのがよい。このような割合で含まれていると、多孔質膜2の表面抵抗値を10~1010Ω程度にすることができる。その結果、帯電しにくく、かつ電荷を緩やかに拡散することができる。表面抵抗値は、二針電気抵抗計(PROSTAT社製、PRS-802)を用い、端子間距離を10mm、印加電圧を100Vとして求めればよい。
【0022】
酸化チタンを選択した場合、その組成式は、TiO2-xとして表され、Xは、例えば、0.017以上である。
【0023】
多孔質膜2は、製造する過程でチタン酸アルミニウムが発生する場合がある。例えば、酸化アルミニウムを主成分として、酸化チタン、酸化亜鉛および酸化ニオブからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を原料とする場合、1200℃以上で溶射すると、チタン酸アルミニウムが発生する可能性がある。多孔質膜2中に、このチタン酸アルミニウムは少ない方がよい。
【0024】
チタン酸アルミニウムは、熱膨張の異方性が大きい。そのため、チタン酸アルミニウムが多孔質膜2中に多く含まれていると、昇温および降温の繰り返しによって、クラックが発生しやすくなる。したがって、チタン酸アルミニウムの割合は、例えば1質量%以下であるのがよい。チタン酸アルミニウムの割合が1質量%以下であれば、昇温および降温が繰り返されても、クラックが発生しにくい。
【0025】
チタン酸アルミニウムは、CuKα線を用いたX線回折装置によって同定することができ、リートベルト法によってその割合を求めることができる。チタン酸アルミニウムの同定については、PDF(登録商標)Number:00-041-0258で示されるカードと照合すればよい。
【0026】
帯電緩和用構造体1に含まれるセラミックス多孔体3は、第1面(以下、第1面を裏面と記載する場合がある)と該第1面の反対に位置する第2面(以下、第2面を表面と記載する場合がある)とを有する基板状であり、第2面上で多孔質膜2を支持する部材である。セラミックス多孔体3に多孔質膜2を支持する方法は限定されない。セラミックス多孔体3は、多孔質膜2を支持し得る大きさであれば、特に限定されない。
【0027】
セラミックス多孔体3は、セラミックスで形成されていれば限定されない。セラミックス多孔体3を形成しているセラミックスは、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムで形成されている。本開示におけるセラミックス多孔体3とは、後述する水銀圧入法で求められる気孔率が20体積%以上のセラミックスをいう。
【0028】
多孔質膜2およびセラミックス多孔体3は、厚み方向に連通する気孔を有している。多孔質膜2に含まれる気孔およびセラミックス多孔体3に含まれる気孔の気孔率は、例えば、28体積%以上38体積%以下であるのがよい。気孔率が28体積%以上であれば、通気抵抗をより低くすることができる。気孔率が38体積%以下であれば、機械的強度をより高めることができ、温度が上昇した被吸着体を多孔質膜2の露出面に載置しても、速やかに放熱することができる。
【0029】
多孔質膜2に含まれる気孔およびセラミックス多孔体3に含まれる気孔の平均気孔径は、例えば、20μm以上40μm以下であるのがよい。平均気孔径が20μm以上であれば、通気抵抗をより低くすることができる。平均気孔径が40μm以下であれば、被吸着体の表面の平面度が維持しやすくなるので、研磨などの加工を被吸着体に施す場合、加工が容易になる。
【0030】
上記気孔率および上記平均気孔径を求めるには、まず、帯電緩和用構造体1から多孔質膜2およびセラミックス多孔体3の双方を含むように切り出して測定用試料(以下、測定用試料を試料と記載する)とする。試料の質量は2g以上3g以下とする。但し、1個の試料で上記質量の範囲で切り出せない場合には、複数個の試料を切り出し上記質量の範囲に入るようにすればよい。次に、水銀圧入型ポロシメータを用いて、試料の気孔に水銀を圧入(水銀圧入法)し、気孔率および平均気孔径を求めればよい。
【0031】
多孔質膜2の露出面側の通気抵抗は、セラミックス多孔体3の裏面側の通気抵抗の2倍以下であるのがよい。2倍以下であれば、セラミックス多孔体3の反対側から帯電緩和用構造体1を逆洗しても、多孔質膜2の剥離を低減することができる。多孔質膜2の露出面における通気抵抗を測定するには、真空ポンプに接続する吸引管の先端に取り付けられたゴムパッドを多孔質膜2の露出面に設置する。吸引管の途中には真空計が装着されており、通気抵抗を表す減圧値を読み取ることができる。減圧値は、マイナスの値で表示され、その絶対値が大きいほど、通気抵抗が大きいことを示す。ゴムパッドは、設置側が開口するラッパ状の吸着口を有しており、その開口径は50mmである。ゴムパッドを多孔質膜2の露出面に設置した後、真空ポンプを作動させて、真空計が示す減圧値を読み取ればよい。
【0032】
セラミックス多孔体3の裏面における通気抵抗を測定するには、上記ゴムパッドをセラミックス多孔体3の裏面に設置する。その後の手順は、上述した手順と同様である。このような方法で測定した多孔質膜2の露出面の減圧値は、例えば、-5.4kPa~-6.7kPaである。セラミックス多孔体3の裏面の減圧値は、例えば、-3.1kPa~-3.4kPaである。
【0033】
露出面は、上側に向かって開口する凹部を複数有し、凹部の平均深さの平均値が0.1μm以上2.5μm以下であるのがよい。開口する凹部とは、形状解析レーザ顕微鏡((株)キーエンス製、VK-X1100またはその後継機種)に搭載されたアプリケーションの機能である「体積面積計測」を用いて解析された、露出面の凹凸が平均化された仮想平面からの微小な凹みである。
【0034】
凹部の平均深さとは、個々の凹部の深さの相加平均であり、凹部の平均深さの平均値とは、個々の凹部の平均深さの相加平均である。凹部の平均深さの平均値が0.1μm以上であると、露出面における通気抵抗をさらに抑制することができる。凹部の平均深さの平均値が2.5μm以下であると、浮遊する大きな粒子が凹部内に固着するおそれが低減するので、露出面上に板状の被吸着体などを吸着した後、研磨などの加工を施しても精度よく加工することができる。
【0035】
凹部の平均深さの平均値は、外径が、例えば、102mm~300mmの円状の露出面を測定の対象とする場合、上記形状解析レーザ顕微鏡の設定条件を以下のようにして求めることができる。
照明方式:同軸落射
測定倍率:240倍
測定箇所:露出面の内周部2カ所および外周部8カ所(45°間隔)の合計8カ所
面形状補正:うねり除去、補正の強さ5
高さしきい値の設定:微小領域(103.34μm)を無視
【0036】
露出面の内周部とは、露出面の中心を起点として、露出面の半径の70%以内の領域であり、外周部とは内周部を除く領域である。
【0037】
凹部の平均深さの変動係数が0.6以下(但し、0を除く)であるのがよい。凹部の平均深さの変動係数がこの範囲であると、露出面の位置による凹部の深さのばらつきが抑制されるため、露出面上に板状の被吸着体を吸着しても位置による吸着力の差が抑制されるので、被吸着体を精度よく加工することができる。
【0038】
露出面の粗さ曲線における2乗平均平方根傾斜(RΔq)の平均値が0.3以上1.5以下であるのがよい。粗さ曲線における2乗平均平方根傾斜(RΔq)とは、JIS B 0601:2001に準拠して測定される、粗さ曲線の基準長さlにおける局部傾斜dZ/dxの2乗平均平方根であり、以下の式(2)によって規定されるものである。
【0039】
【数1】
【0040】
2乗平均平方根傾斜(RΔq)の平均値が0.3以上であると、純水や超純水に対する接触角が小さくなるため、親水性となる。露出面が親水性になると、露出面を純水や超純水で洗浄した後、研削液、研磨液などの残渣が残りにくくなる。一方、2乗平均平方根傾斜(RΔq)の1.5以下であると、露出面の凹部の体積が減少するため、凹部内から生じる粒子による加工への悪影響を低減することができる。
【0041】
露出面の粗さ曲線における平均長さ(Rsm)の平均値が12μm以上であるのがよい。平均長さ(RSm)とは、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均を表したものである。輪郭曲線要素の長さとは、基準長さ方向において連なる1組の凹部と凸部において、凹部の入口(始点)から凸部の出口(終点)までの長さのことである。平均長さ(RSm)の平均値が大きいということは、露出面において凸部の間隔が広いということである。
【0042】
平均長さ(Rsm)の平均値が12μm以上であると、乱反射が抑制されるので、被吸着体の輪郭の誤認識をさらに低減することができる。被吸着体を吸着する場合、適度な摩擦力が被吸着体にかかるため、被吸着体のスリップを低減することができる。平均長さ(Rsm)の平均値は35μm以下であるとよい。
【0043】
露出面の粗さ曲線における2乗平均平方根傾斜(RΔq)および平均長さ(Rsm)は、JIS B 0601:2001に準拠し、上記形状解析レーザ顕微鏡を用いて測定することができる。測定条件としては、例えば、倍率を240倍、カットオフ値λsを無し、カットオフ値λcを0.08mm、カットオフ値λfを無し、測定対象とする面から1か所当たりの測定範囲が1428μm×1071μmに設定し、測定範囲毎に長手方向に沿って、略等間隔となるように測定対象とする線を4本引いて、それぞれの線に対して線粗さ計測を行えばよい。計測の対象とする線の長さは、例えば、1本当たり1280μmである。そして、線粗さ計測によって求められた2乗平均平方根傾斜(RΔq)の平均値および平均長さ(Rsm)の平均値を算出すればよい。
【0044】
一実施形態に係る帯電緩和用構造体1を製造する方法は限定されず、例えば次のような手順で製造される。まず、セラミックス多孔体3の製造方法の一実施形態について説明する。セラミックス多孔体3を形成しているセラミックスの主成分が酸化アルミニウムである場合、酸化珪素が16質量%以上22質量%以下、酸化チタンが2質量%以上3.4質量%以下、水酸化マグネシウムが1質量%以上1.6質量%以下、炭酸カルシウムが0.7質量%以上1.1質量%以下、残部が酸化アルミニウムからなる粉末100質量部を調合する。調合した原料のうち、不純物が合計3質量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0045】
次に、この調合した原料と溶媒とを、バレルミル、回転ミル、振動ミル、ビーズミルまたはアトライターなどに入れて湿式で混合・粉砕してスラリーとし、調合した原料100質量部に対して気孔形成材である球状樹脂を30質量部以上70重量部の割合で添加してもよい。球状樹脂は、粉末ポリエチレン、酢酸ビニール、セルロース、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂などであり、後述する焼成工程で焼失して、気孔を形成する。
【0046】
次に、噴霧乾燥装置を用いてスラリーを噴霧乾燥させることにより造粒した顆粒を得る。この顆粒を例えば圧力を80MPaとしてCIP法により成形した後、必要に応じて切削加工を施して円板状の成形体を得ることができる。ここで、球状樹脂の平均粒径は、例えば、25μm以上40μm以下とし、後述する焼成によって、平均気孔径が20μm以上40μm以下であるセラミック多孔体3を得ることができる。
【0047】
得られた成形体を大気雰囲気中で1600℃以上1700℃以下の温度、好適には1680℃にて焼成することにより、気孔率が28体積%以上38体積%以下である円板形状のセラミックス多孔体3が得られる。
【0048】
次に、多孔質膜の製造方法の一実施形態について説明する。図2は、プラズマ溶射装置の模式図である。プラズマ溶射装置20は、外装部21と、陽極22aを含む内装部22と、陽極22aと離れて内装部22に装着された陰極23とを備えている。冷却水28が外装部21と内装部と22の間に供給および排出されて、陽極22aおよび陰極23の過剰な温度上昇を抑制している。
【0049】
多孔質膜を形成するには、まず、プラズマジェット27の射出方向にセラミックス多孔体3を設置する。陽極22aと陰極23との間に電圧をかけて、直流アークを発生させる。後方の陰極23側に設置された供給口からアルゴンなどの作動ガス24を供給し、作動ガス24の分子を電離させて、プラズマジェット25を発生させる。溶射粉末26はプラズマジェット25中にアルゴンガスなどを用いて供給される。プラズマジェット25中に供給された溶射粉末26は、セラミックス多孔体3の表面に溶射されて多孔質膜2が形成され、帯電緩和用構造体1が得られる。
【0050】
溶射粉末26は、例えば、酸化アルミニウム/酸化チタン=68/32~52/48の質量比で含む粉末である。酸化アルミニウムと酸化チタンを含む溶射粉末26は、各粉末を混合して用いてもよいが、酸化アルミニウムと酸化チタンを混合溶融させた粉末を用いる方が、均一性に優れた多孔質膜2が得られる。溶射粉末26の平均粒径は、100μm以下、特に、50μm以下であるとよい。
【0051】
酸化チタンは、酸化亜鉛あるいは酸化ニオブに代えてもよく、この場合、酸化アルミニウムとの質量比は、上記質量比と同じでよい。溶射によって形成された多孔質膜2は、必要に応じてダイヤモンド砥粒を用いて研磨してもよい。
【0052】
一実施形態に係る帯電緩和用構造体1は、例えば、吸着用部材として使用される。帯電緩和用構造体1を吸着用部材として使用する場合、多孔質膜2の露出面が、被吸着体を吸着および保持するための吸着面として作用する。
【0053】
このような吸着用部材は、吸着装置の一部材として採用される。吸着装置は、例えば、この吸着用部材と、吸着用部材を囲繞して支持するセラミックス緻密体を含む支持部とを備える。支持部に含まれるセラミックス緻密体は、セラミックスで形成されていれば限定されない。このようなセラミックス緻密体は、例えば、酸化アルミニウム、酸化マンガン、酸化コバルトなどを含むセラミックスで形成されている。
【0054】
支持部は、吸着面に連通する吸引路を有する。吸引路には、吸着面と反対側に真空ポンプなどの吸引手段が接続されている。この吸引手段よって空気が吸引され、吸着面に被吸着体が吸い付けられる。
【0055】
本開示におけるセラミックス緻密体の相対密度は98%以上である。この相対密度は、セラミックスの理論密度に対する支持部の見掛密度の百分率である。
【0056】
セラミックスの理論密度を求めるには、まず、支持部の一部を粉砕し、得られた粉体を塩酸などの溶液に溶解した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置(例えば、(株)島津製作所製(ICPS-8100))によって金属成分の含有量を求める。支持部を構成する各成分はCuKα線を用いたX線回折装置によって同定する。同定された成分が、Alであれば、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置により求めたAlの含有量の値を用いてAlに換算する。同定された成分が、MnOおよびCoであれば、同じ方法で、それぞれMnO、Coに換算すればよい。支持部の見掛密度は、JIS R 1634-1998に準拠して求めればよい。
【0057】
セラミックスを構成する主成分が酸化アルミニウムであり、主成分以外の成分が酸化マンガンおよび酸化コバルトである場合、含有量がそれぞれa質量%、b質量%およびc質量%であるとすると、各成分の理論密度の値(酸化アルミニウム=3.99g/cm、酸化マンガン=5.03g/cmおよび酸化コバルト=6.11g/cm)を用いて、以下の式(3)によりセラミックスの理論密度(T.D)を求めることができる。
T.D=1/(0.01×(a/3.99+b/5.03+c/6.11))・・・(3)
【0058】
例えば、セラミックスを構成する成分の含有量が、酸化アルミニウムが94.7質量%であり、酸化マンガンが4質量%、酸化コバルト1.3質量%であるときには、式(3)を用いて計算すると、セラミックスの理論密度(T.D)は、4.04g/cmとなる。JIS R 1634-1998に準拠して求めたセラミックスの見掛密度を、この理論密度(T.D)4.04g/cmで除すことにより相対密度を求めることができる。
【0059】
以下、図3図4Aおよび図4Bを用いて本開示の一実施形態に係る吸着装置を詳細に説明する。図3図4Aおよび図4Bに示す吸着装置10は、半導体ウェハやガラス基板などの被吸着体Wを吸着して保持する装置である。吸着装置10は、被吸着体Wを吸着、保持するための吸着面2aを有する吸着用部材1と、吸着面2aを囲繞する環状面4aを有する支持部4とを備える。吸着用部材1は帯電緩和用構造体からなり、支持部4はセラミックス緻密質体からなる。
【0060】
支持部4は、底面側に円周方向に帯状部4bを備え、帯状部4bには円周方向に沿って等間隔に取り付け穴4cが設置され、ボルト(図示しない)などを介して、固定ベース(図示しない)に連結、固定される。支持部4は、厚み方向に位置する通気路4dと、通気路4dが吸着用部材1側に同心円状や格子状などに開口する吸引溝4eとを備えており、真空ポンプなどの吸引手段(図示しない)を通気路4dに接続、吸引することにより、吸着面2aに載置した被吸着体Wを吸着して保持する。環状面4aは、吸着面2aと面一とされ、環状面4aの内周側に、例えば、直径が102~300mmの被吸着体(例えば、シリコンウェハ、SiCウェハ、GaNウェハなど)Wの外周部が当接する。
【0061】
多孔質膜2は、支持部4の少なくとも環状面4aを被覆していてもよい。多孔質膜2が環状面4aを被覆していると、被吸着体Wの外周部が支持部4の内周側に搭載されていても、被吸着体Wの輪郭とのコントラストを明確にすることができ、被吸着体Wの輪郭の誤認識を低減することができる。
【0062】
多孔質膜2が環状面4aを被覆している場合、環状面4aを被覆する多孔質膜2の露出面と吸着面2aとは面一になる。支持部4の外周面の延長上に位置する多孔質膜2の厚みは、セラミックス多孔体3に支持される多孔質膜2の厚みよりも大きくてもよい。このような構成であると、多孔質膜2の外周面の表面積が増えるので、吸着面(多孔質膜2の露出面)2aにおける通気抵抗をさらに抑制することができる。
【0063】
支持部4の外周面の延長上に位置する多孔質膜2の厚みは、例えば、0.4mm以上1mm以下であり、支持部4の環状面と外周面とを接続する平面状あるいは曲面状の傾斜面を形成することによって得ることができる。傾斜面とセラミックス多孔体3の中心軸とのなす角度は、例えば、40°以上50°以下である。
【0064】
このような吸着装置は種々の産業用装置に採用される。このような産業用装置としては、例えば、切断装置、研磨装置、加工装置、検査装置などが挙げられる。
【0065】
図5は、図3図4Aおよび図4Bに示す吸着装置を備えた本開示の一実施形態に係る検査装置を示す模式図である。検査装置30は、吸着装置10と、吸引手段としての真空ポンプ31と、光照射手段としての照射部32と、撮像手段としてのCCDカメラ33とを備えている。
【0066】
照射部32は、真空ポンプ31の吸引によって吸着面2aに吸着、保持された被吸着体Wの外縁部表面および環状面4aに反射ミラー34を介して光を照射する。CCDカメラ33は、被吸着体Wの外縁部表面および環状面4aから正反射された光を受光し、その光をもとに画像を撮像して、画像処理部35に出力する。CCDカメラ33は、外縁部表面および環状面4aから拡散反射された光を受光しにくい位置に設けられている。
【0067】
画像処理部35はCCDカメラ33から入力した画像に所定のしきい値で2値化処理を施して、2値画像を得る。この2値画像から被吸着体Wの輪郭を抽出して、被吸着体Wの中心位置を抽出する。画像処理部35は、抽出した被吸着体Wの中心位置を制御部36に出力することにより、様々な制御を施されるようにされている。
【0068】
本開示の加工装置(図示しない)は、例えば、検査装置30を備えた、被吸着体Wを格子状に切断する切断装置、あるいは、被吸着体Wの表面を研磨する研磨装置である。切断装置は、検査装置と、被吸着体を格子状に切断する切断ブレードと、この切断ブレードを回転駆動させる駆動手段とを備えている。研磨装置は、検査装置と、被吸着体の表面を研磨する研磨板と、この研磨板と被吸着体Wとを相対的に摺動させる回転駆動させる駆動手段とを備えている。
【0069】
このような加工装置は、被吸着体Wの輪郭の誤認識を防止することができる本開示の吸着装置を用いているので、被吸着体Wを精度よく加工することができる。
【0070】
本開示に係る帯電緩和用構造体は、上述の一実施形態に限定されない。例えば、上述の帯電緩和用構造体1は、上面視した場合に、多孔質膜2もセラミックス多孔体3も円形状を有している。しかし、多孔質膜およびセラミックス多孔体は円形状に限定されず、例えば、所望の用途などに応じて、上面視した場合に、楕円形状であってもよく、三角形状、四角形状、五角形状、六角形状などの多角形状を有していてもよい。
【0071】
さらに、上述の帯電緩和用構造体1は、上面視した場合に、多孔質膜2およびセラミックス多孔体3は同一の形状を有している。しかし、多孔質膜およびセラミックス多孔体は、上面視した場合に、同一の形状である必要はない。セラミックス多孔体は多孔質膜を支持し得る形状であれば、セラミックス多孔体の形状は限定されない。
【符号の説明】
【0072】
1 帯電緩和用構造体
2 多孔質膜
3 セラミックス多孔体
4 支持部
10 吸着装置
20 プラズマ溶射装置
21 外装部
22 内装部
22a陽極
23 陰極
24 作動ガス
25 プラズマジェット
26 溶射粉末
30 検査装置
31 真空ポンプ
32 照射部
33 CCDカメラ
34 反射ミラー
35 画像処理部
36 制御部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5