IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7604565インクジェット記録装置およびインクタンク
<>
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図1
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図2
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図3
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図4
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図5
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図6
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図7
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図8
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図9
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図10
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図11
  • 特許-インクジェット記録装置およびインクタンク 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置およびインクタンク
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/175 20060101AFI20241216BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B41J2/175 131
B41J2/175 169
B41J2/175 141
B41J2/01 305
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023106364
(22)【出願日】2023-06-28
(62)【分割の表示】P 2019071351の分割
【原出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2023115276
(43)【公開日】2023-08-18
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】荒木 裕太
(72)【発明者】
【氏名】梅原 康佑
(72)【発明者】
【氏名】島田 皓樹
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0201761(US,A1)
【文献】特開2017-222152(JP,A)
【文献】特開2003-237069(JP,A)
【文献】特開2016-190335(JP,A)
【文献】特開2017-065085(JP,A)
【文献】特開2004-142442(JP,A)
【文献】特開2005-349786(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0141210(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドへ供給されるインクを収容しインクボトルからインクが注入されるインクタンクと、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記インクタンクの外部に向けて開口する第1上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第1下端部とによって規定される第1流路と、
前記インクタンクの外部に向けて開口し前記第1上端部より上方へ突出する第2上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第2下端部とによって規定される第2流路と、を有する注入補助部材をさらに備え
前記第1上端部と前記第2上端部を含む注入口を封止可能なタンクキャップは、前記インクタンクまたは装置本体に回動可能に軸支されたレバー部によって支持されることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
インクを吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドへ供給されるインクを収容しインクボトルからインクが注入される1色の前記インクを収容するインクタンクと、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記インクタンクの外部に向けて開口する第1上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第1下端部とによって規定される第1流路と、
前記インクタンクの外部に向けて開口し前記第1上端部より上方へ突出する第2上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第2下端部とによって規定される第2流路と、を有する注入補助部材をさらに備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクタンクが、1色の前記インクを収容するインクタンクであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第2下端部は、前記第1下端部よりも前記インクタンクの底面からの距離が小さいことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第2下端部は、前記第1下端部よりも下方へ突出することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第1上端部と前記第2上端部を含む注入口を封止可能なタンクキャップを備えることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記タンクキャップは、前記インクタンクまたは装置本体に回動可能に軸支されたレバー部によって支持されることを特徴とする請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記レバー部は、前記インクタンクに収容されるインクの色と対応する色に色分けされていることを特徴とする請求項1、3、7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドにより画像を記録された記録媒体を排出する排出部を備え、
前記レバー部が、前記排出部における前記記録媒体の排出方向の上流から下流に向けて上方に傾斜していることを特徴とする請求項1、3、7、8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項10】
前記レバー部を前記排出部における前記記録媒体の排出方向の上流から下流に向けて回動することで、前記第1上端部と前記第2上端部を含む注入口を封止することを特徴とする請求項9に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記第1流路は、前記第2流路よりも前記記録媒体の排出方向の下流に配置されていることを特徴とする請求項9または10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記インクタンクの上面を被覆するタンクカバーを有し、
前記タンクカバーは、前記インクタンクの上面を被覆する第1位置と、前記インクタンクの上面を被覆しない第2位置とに移動可能に構成されており、
前記タンクカバーが前記第1位置にある場合は、ユーザが前記タンクキャップにアクセスできないことを特徴とする請求項1、3、6から11のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項13】
前記インクジェット記録装置の上面を被覆するカバーを有し、
前記カバーは、前記インクジェット記録装置の上面を被覆する第1位置と、前記インクジェット記録装置の上面を被覆しない第2位置とに移動可能に構成されており、
前記カバーが前記第1位置にある場合は、ユーザが前記タンクカバーにアクセスできないことを特徴とする請求項12に記載のインクジェット記録装置。
【請求項14】
前記第1下端部における断面積は、前記第1上端部における断面積より大きいことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項15】
前記第1流路の断面積は前記第2流路の断面積より大きいことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項16】
前記インクタンクを複数備え、
前記記録ヘッドにより吐出される前記インクの色毎に、1つの前記インクタンクを備えることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項17】
前記記録ヘッドにより画像を記録された記録媒体を排出する排出部を備え、
前記インクタンクは、ブラックインクを収容するブラック用インクタンクとカラーインクを収容するカラー用インクタンクとを含み、
前記排出部は前記ブラック用インクタンクと前記カラー用インクタンクの間に設けられていることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項18】
前記インクタンクは、複数に区画された空気を収容する空気収容室を有する請求項1から17のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置およびインクタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクタンクの開口を介してタンク内部に挿通する複数の流路がインクの流路及び空気の流路となり、インク補給容器とインクタンクの間で気液交換を行いながらインクの補給が可能な構成が開示されている。これにより、ユーザはインク補給容器を圧搾することなくインクタンクにインクを補給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-161887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、インクが流れる流路の開口面積が小さい場合にインクの注入に時間を要することがあり、ユーザビリティの低下を招く虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インクタンクへのインクの注入時間が短縮されたインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録装置は、インクを吐出して画像を記録する記録ヘッドと、前記記録ヘッドへ供給されるインクを収容しインクボトルからインクが注入されるインクタンクと、を備えるインクジェット記録装置であって、前記インクタンクの外部に向けて開口する第1上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第1下端部とによって規定される第1流路と、前記インクタンクの外部に向けて開口し前記第1上端部より上方へ突出する第2上端部と前記インクタンクの内部に向けて開口する第2下端部とによって規定される第2流路と、を有する注入補助部材をさらに備え、前記第1上端部と前記第2上端部を含む注入口を封止可能なタンクキャップは、前記インクタンクまたは装置本体に回動可能に軸支されたレバー部によって支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクタンクへのインクの注入時間が短縮されたインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係るインクジェット記録装置の外観斜視図である。
図2】第1実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成を示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係るタンクユニットの外観斜視図である。
図4】第1実施形態に係るインクタンクの斜視図である。
図5】第1実施形態に係るニードルの詳細を示す断面模式図である。
図6】インク注入動作を説明する模式図である。
図7】第1実施形態に係るニードルの特徴を説明する断面模式図である。
図8】ニードルの上端部に斜面を形成しない比較例を示す図である。
図9】第1実施形態に係るニードルの上端部を説明する模式図である。
図10】第2実施形態に係るニードルの詳細を示す断面図である。
図11】第2実施形態に係るニードルのテーパ形状を説明する模式図である。
図12】第2実施形態に係るニードルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。但し、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成要素の相対配置、形状等はあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
<装置構成>
図1(a)は、本実施形態におけるインクジェット記録装置(以下、記録装置)1を示す外観斜視図である。記録装置1は、筐体5と、記録媒体に記録動作を行う記録ヘッド3(図2参照)と、記録ヘッド3へ供給されるインクを収容するインク収容容器としてのインクタンク11と、を備える。本実施形態においてインクタンク11は、筐体5の前面に配され装置本体に固定されている。同じく筐体5の前面には、ユーザが記録装置1に対して指令入力などの操作が可能な操作部4を備える。本実施形態の操作部4は、記録装置1のエラーなどを表示可能な表示パネルも含む。
【0011】
筐体5の前面には、ユーザが筐体5に対して挿抜可能な給紙カセット6が設けられている。給紙カセット6には、内部に積載された記録媒体をユーザが視認できるように窓部6aが設けられている。窓部6aはガラスやプラスチックなどの透明な部材により構成されることが望ましい。
【0012】
筐体5の上部には、原稿の読み取り動作を行うスキャナユニット2が、筐体5に対して開閉可能に設けられている。図1(b)は、筐体5に対してスキャナユニット2が開いた状態を示す記録装置1の外観斜視図である。スキャナユニット2を開くと、インクタンク11の上面を被覆可能なタンクカバー12が露出する。図1(b)において、タンクカバー12は閉じた状態である。タンクカバー12の詳細は後述する。なお、スキャナユニット2を搭載しない本体カバーが筐体5に対して開閉可能な構成であってもよい。
【0013】
図2は、記録装置1の内部構成を示す斜視図である。記録装置1は、筐体5の前面に設けられた給紙カセット6、または背面に設けられた給紙トレイ7に積載された記録媒体を不図示の給送手段により給送する。給送手段により給送された記録媒体は、搬送ローラ(搬送手段)40によって、記録ヘッド3と対向する位置に配されたプラテン42上に搬送される。プラテン42は、記録ヘッド3により記録される記録媒体を案内支持するための部材である。記録ヘッド3による記録が完了した記録媒体は、排出ローラ(排出手段)41により排紙トレイ(排出部)43上へ排出される。排紙トレイ43は、給紙カセット6の上方に配される。
【0014】
なお、搬送ローラ40により記録媒体が搬送される方向(図2に示すY方向)を搬送方向と称する。すなわち、搬送方向の上流側は筐体5の背面側と対応し、搬送方向の下流側は筐体5の前面側と対応する。
【0015】
記録ヘッド3は、搬送方向と交差する主走査方向(図2に示すX方向)に往復移動するキャリッジ31に搭載される。本実施形態において、搬送方向と主走査方向は直交する。
【0016】
記録ヘッド3は、キャリッジ31とともに主走査方向に移動しながらインク滴を吐出して、記録媒体に対して1バンド分の画像を記録する(記録動作)。1バンド分の画像が記録されると、記録媒体は搬送ローラ40によって所定量だけ搬送方向に搬送される(間欠搬送動作)。この1バンド分の記録動作と間欠搬送動作を繰り返すことによって、画像データに基づいて記録媒体の全体に画像が記録される。
【0017】
記録装置1には、キャリッジ31の走査領域内であって、記録ヘッド3により記録動作が行われる記録領域の外側にメンテナンスユニットが設けられている。メンテナンスユニットは、記録ヘッド3の吐出性能を維持するためのメンテナンス処理を行うユニットであり、インクの吐出口が配列された吐出口面と対向可能な位置に配される。図2に示す記録ヘッド3は、メンテナンスユニットによるメンテナンス処理が可能な位置(ホームポジション)に位置する。メンテナンスユニットは、吐出口面をキャッピング可能なキャップや、キャッピングした状態で強制的にインクを吸引して吐出口内の残留気泡や増粘したインクを除去するための吸引動作を行う吸引回復機構などを備えている。
【0018】
なお、本実施形態では記録ヘッド3がキャリッジ31に搭載されたシリアルヘッドの例を示すが、本発明はこれに限らず、記録媒体の幅に相当する領域に複数の吐出口が配列されたラインヘッドにも適用可能である。
【0019】
インクタンク11は、記録ヘッド3により吐出されるインクの色毎に記録装置1に設けられている。本実施形態では、ブラック用インクタンク11K、シアン用インクタンク11C、マゼンタ用インクタンク11M、イエロー用インクタンク11Yの4つのインクタンクを備え、これらをまとめてインクタンク11と称する。なお、シアン、マゼンタ、イエローはあくまでカラーインクの一例であり、これに限られない。
【0020】
図2に示すように、ブラック用インクタンク11Kは記録装置1の正面から見て排紙トレイ43及び給紙カセット6の左側に配される。一方、シアン用インクタンク11Cとマゼンタ用インクタンク11Mとイエロー用インクタンク11Yは、記録装置1の正面から見て排紙トレイ43及び給紙カセット6の右側に配される。すなわち、排紙トレイ43及び給紙カセット6は、ブラック用インクタンク11Kとカラー用インクタンクとの間に設けられている。各インクタンク11は、記録ヘッド3へインクを供給するための供給流路を構成する可撓性のチューブ8によって記録ヘッド3と接続される。
【0021】
また、記録装置1には、ブラック用タンクカバー12Bkとカラー用タンクカバー12Clが設けられている。ブラック用タンクカバー12Bkは、ブラック用インクタンク11Kの上面を覆う。一方カラー用タンクカバー12Clは、シアン用インクタンク11Cとマゼンタ用インクタンク11Mとイエロー用インクタンク11Yの上面を一体的に覆う。以降で、ブラック用タンクカバー12Bkとカラー用タンクカバー12Clをまとめてタンクカバー12と称する。
【0022】
<インク注入動作>
図3(a)~(d)は、インクタンク11とその周辺構成を含むタンクユニット10の外観斜視図である。タンクユニット10の基本構成は各インク色で共通のため、ブラック用タンクユニットを例に説明する。
【0023】
図3(a)はタンクカバー12が閉じた状態を示し、図3(b)はタンクカバー12が開いた状態を示す。ユーザは、タンクカバー12をS1方向へ開くことでタンクキャップ13へアクセス可能となる。
【0024】
インクタンク11の上面には、インクを注入するための注入口14が設けられており、注入口14はタンクキャップ13によって封止可能となっている。タンクキャップ13は、注入口14を封止するためのキャップ部13aと、キャップ部13aを支持しユーザが操作可能なレバー部13bによって構成されており、レバー部13bは記録装置1の本体に対して回動可能に軸支されている。ユーザは、レバー部13bを図3(b)に示すS2方向へ回動しながらキャップ部13aを注入口14から取り外すことで、インクの注入が可能となる(図3(c)参照)。なお、レバー部13bは、インクタンク11又はタンクカバー12に対して回動可能に軸支される構成であってもよい。
【0025】
タンクキャップ13のキャップ部13aはゴム弾性を有する部材で構成され、レバー部13bはプラスチック等で構成される。本実施形態のレバー部13bは、インクタンク11に収容されるインクの色と対応する色に色分けされている。すなわち、ブラックインク用のレバー部13bはブラック又はグレー、シアンインク用のレバー部13bはシアン、マゼンタインク用のレバー部13bはマゼンタ、イエローインク用のレバー部13bはイエローに色分けされている。これにより、ユーザがインクタンク11にインクを注入する際に、誤った色のインクを注入することを抑制することができる。なお、レバー部13bのみならず、キャップ部13aも色分けされる形態であってもよい。
【0026】
図3(d)は、タンクキャップ13を取り外した状態で、インク補充容器であるインクボトル15を注入口14に挿入してインクを注入している様子を示す。本実施形態では、インクボトル15のインクがインクタンク11内の空気と気液交換されることによって、インクタンク11へ注入される。
【0027】
<インクタンクの構成>
図4は、インクタンク11の斜視図である。インクタンク11は、インクを収容するインク収容室16と、インク収容室16のインクを記録ヘッド3へ供給するためのインク供給口17と、空気を収容する空気収容室18と、空気収容室18を大気と連通させる大気連通口19を備える。インク収容室16はインクタンク11の上部に配され、第1側面側に開口するように設けられている。図4(a)はインクタンク11を第1側面側から見た斜視図である。インク供給口17は一端がインク収容室16と接続され、他端はチューブ8(図2参照)と接続される。インク収容室16は第1側面側の開口を不図示の可撓性フィルムで塞がれることで、インクの収容が可能となる。
【0028】
空気収容室18は、インク収容室16の下に配され、第1側面と対向する第2側面側に開口するように設けられている。図4(b)はインクタンク11を第2側面側から見た斜視図である。空気収容室18は、第2側面側が複数の部屋に区画されており、各部屋は第1側面側に配された連通流路18aにより連通する。空気収容室18の開口する第2側面側も、不図示の可撓性フィルムによって塞がれる。空気収容室18の各部屋は、第2側面側においては連通せず、第1側面側に配された連通流路18aを介して連通する。
【0029】
空気収容室18とインク収容室16は、インク収容室16の下面から下方に延びる接続路20によって接続され、接続路20の下端がインクと空気の気液交換部となる。接続路20はインクタンク11の第1側面側に配される。なお、接続路20の気液交換部はインクのメニスカスが維持される程度の断面積を有する。空気収容室18の上部には大気と連通する大気連通口19が設けられ、大気連通口19と接続路20は離れて配置される。
【0030】
通常使用時は、記録ヘッド3からのインクの吐出に伴いインク収容室16から記録ヘッド3へインクが供給され、供給されたインクと同じ体積の空気が気液交換部を介して空気収容室18からインク収容室16へ供給される。しかしながら、気温や気圧の変動等によってインク収容室16の空気が膨張し気液交換部のメニスカスが破壊された場合は、インク収容室16のインクが水頭差によって空気収容室18に落下する。そのため、空気収容室18はインク収容室16に満タンに収容されたインクを収容可能な容積を有する。このように、空気収容室18は大気連通口19からインクが装置内へ漏れるのを抑制するバッファ室としての役割も担う。
【0031】
また、空気収容室18にインクが収容された状態で記録装置1が通常使用時とは異なる姿勢にされた場合であっても、大気連通口19と接続路20が離れて配置されることで、大気連通口19からインクが漏れることが抑制される。また、接続路20と大気連通口19の間には、空気収容室18が複数の部屋に区画されているため、インクの流れが妨げられてさらにインクの漏れを抑制する効果がある。さらに、区画された空気収容室18の開口する側面と連通流路18aが設けられる側面が異なることで、隣り合う区画された部屋をインクが行き来しにくい構成となっており、大気連通口19からのインクの漏れを防止する。
【0032】
<ニードルの構成>
インクタンク11にはさらに、インクの注入を補助する注入補助部材としてのニードル22が設けられている。図5は、本実施形態のニードル22の詳細を示す断面模式図である。ニードル22は、第1流路24aと、第1流路24aより短い第2流路24bによって構成され、インクタンク11の内部と外部を連通させる。本実施形態において、第1流路24aの断面積は第2流路24bの断面積よりも大きく構成される。
【0033】
第1流路24aは、注入口14の上端より上方へ露出しインクタンク11の外部に向けて開口する第1上端部23aと、インクタンク11(インク収容室16)の内部に向けて開口する第1下端部25aとによって規定される。また、第2流路24bは、注入口14から露出しインクタンク11の外部に向けて開口する第2上端部23bと、インクタンク11(インク収容室16)の内部に向けて開口する第2下端部25bとによって規定される。
【0034】
第1流路24aの第1上端部23aは、第2流路24bの第2上端部23bよりも上方へ突出するように、重力方向において高く形成されている。また、第1上端部23aと第2上端部23bのいずれも、流路の延びる方向に対して斜めに開口しており、互いに接する中心部に向かって高い斜面となっている。さらに、第1下端部25aは、第2下端部25bよりも下方へ突出するように、重力方向において低く形成されている。
【0035】
図6は、本実施形態の気液交換を利用したインク注入動作を説明する模式図である。図6(a)は、インクタンク11が空の状態を示す。ニードル22を形成する第1流路24aと第2流路24bは、インク注入動作において一方がインクの流路として機能し、他方が空気の流路として機能する。インクボトル15は不図示の封止部材によって開口が塞がれており、図6(a)に示すように開口を下に向けてもインクは垂れないように構成される。
【0036】
図6(b)に示すように、インクボトル15をインクタンク11に挿入すると、ニードル22によってインクボトル15の封止部材が開放される。これに伴い、インクボトル15のインクが第1流路24aを通ってインクタンク11へ流入し、インクタンク11内の空気が第2流路24bを通ってインクボトル15へ流入する。すなわち、第1流路24aはインクの流路として機能し、第2流路24bは空気の流路として機能する。このように、インクタンク11とインクボトル15の間でインクと空気が行き来する気液交換を利用して、インクタンク11へインクが注入される。
【0037】
図6(c)に示すように、空気の流路として機能する第2流路24bの第2下端部25bまでインク液面Lが到達すると、第2下端部25bからインクボトル15へ空気が流出できなくなるため、気液交換が停止する。すなわち、インクボトル15をインクタンク11に挿入したときの第2下端部25bの位置に基づいて、インクボトル15からインクタンク11へのインクの注入が停止する。以上が、気液交換を利用したインク注入動作の原理である。
【0038】
続いて、図7を用いて本実施形態のニードル22の特徴を詳しく説明する。図7は、ユーザがインク注入動作を開始したときの断面模式図である。図7(a)は、インクボトル15を注入口14に挿入した直後の様子を示す。ニードル22がインクボトル15の内部へ挿入される際、第1流路24aの第1上端部23aが第2流路24bの第2上端部23bに比べて上方へ突出しているため、第1流路24aが先にインクボトル15に収容されたインクと接触する。これにより、本実施形態のニードル22は、第1流路24aがインクの流路として確定されやすい構成となっている。
【0039】
図7(b)は、インクボトル15からインクタンク11(インク収容室16)へのインク注入が開始した後の様子を示す。気液交換を利用したインクの注入は、インクタンク11からインクボトル15へ空気が流入した分、インクボトル15からインクタンク11へインクが流入する構成となっている。そのため、空気が気泡となってニードル22から離れてやすい構成であるほど、インクの流入もスムーズに行われる。
【0040】
上述したように、第1上端部23a及び第2上端部23bは斜面を有する構成であり、この斜面によって空気がニードル22から離れやすくなり、空気の流入を促進している。詳細を図8及び図9を用いて説明する。
【0041】
図8は、第1上端部23a及び第2上端部23bに斜面を形成しない構成を示す比較例であり、図9は本実施形態のように、斜面を有する第1上端部23a及び第2上端部23bを示す模式図である。第2上端部23bからインクボトル15のインク内に空気が流入する際は、図8(a)~図8(d)及び図9(a)~図9(d)に示すように、空気の気泡が形成されて第2上端部23bから気泡が離れる必要がある。
【0042】
このとき、図8に示す比較例のように斜面が形成されていない場合、図8(b)から図8(c)へ遷移する際に、第2上端部23bの開口面全体から気泡が離れる必要があり、時間がかかってしまう。すなわち、気泡が第2上端部23bに対して面接触しており、接触面積が大きいため気泡が離れにくい。
【0043】
一方、本実施形態のように斜面が形成されていると、図9(b)から図9(c)へ遷移する際に、第2上端部23bの頂部23bbから気泡が離れるため、気泡が容易に形成される。すなわち、気泡が頂部23bbに対して線接触しており、図8の場合と比較して接触面積が小さいため気泡が離れやすい。したがって、インクタンク11からインクボトル15への空気の流入がスムーズに行われるため、インクボトル15からインクタンク11へのインクの流入速度も向上する。さらに、斜面は第1上端部23aと第2上端部23bが互いに接する部分に向けて高く形成されており、これにより、気泡が第1上端部23aの側面と接触しながら上昇するため、さらに離れやすい構成となっている(図9(c)参照)。
【0044】
また、図7(a)を用いて第1流路24aがインクの流路として機能しやすい構成を説明したが、実際はインクが第1流路24aを流れない場合もある。その場合は第1上端部23aから気泡が流入する構成となるため、本実施形態においては第1上端部23aにも斜面を形成している。
【0045】
続いて、図7(c)は、インクタンク11のインク液面Lが第1流路24aの第1下端部25aに到達した様子を示す。第1下端部25aとインク収容室16の底面との距離は、第2下端部25bとインク収容室16の底面との距離より小さい。インク液面Lが第1下端部25aに到達すると、第1下端部25aはインクによって塞がれるため、第1下端部25aから空気の流入は不可能になる。これにより、仮に第1流路24aを空気が流れ、第2流路24bをインクが流れていたとしても、第1流路24aはインクの流路として機能し、第2流路24bが空気の流路として機能することが確定される。このように、インクの流路として機能する第1流路24aの第1下端部25aとインク収容室16の底面との距離をできるだけ小さくすることで、第1流路24aと第2流路24bのどちらをインクが流れるかが早く確定される。これにより、インク注入に要する時間をより短縮することができる。
【0046】
仮に、第1下端部25aが第2下端部25bと同じ高さで形成されている場合、インク液面Lが第1下端部25aになかなか到達しないため、第1流路24aがインクの流路として確定するまでに時間を要する。さらに、流路の確定までの間、第1流路24a及び第2流路24bにおいてインクと空気が混在することで圧力の均衡が生じた場合に、インクが満タンまで注入されるよりも前にインクの流入が停止することがある。これに対して、本実施形態のように第1下端部25aをインク収容室16の底面近傍まで延在させることで、流路を早く確定させて、インク収容室16が満タンになるまでインクを注入することができる。
【0047】
ここで、インクの流抵抗は空気の流抵抗より大きいため、第1流路24aの断面積を第2流路24bの断面積より大きく形成している。これにより、単位時間あたりのインクの流入量を増やすことができる。例えば、第1流路24aの断面積は9.6mm、第2流路の断面積は5.4mmである。
【0048】
以上のように、本実施形態のニードル22は、高さの異なる上端部を有する2つの流路から構成されることで、インクボトル15から流出するインクの流路を確定しやすくしている。さらに、上端部に斜面を形成することで、インクボトル15への空気の流入をスムーズにしている。また、第1流路24aの下端部とインク収容室16の底面の距離を小さくすることで、インクの流路をより確定しやすくしている。インクの流路として確定される第1流路24aは、空気の流路として確定される第2流路24bより断面積が大きいことで、単位時間あたりのインク注入量を増加させる。これらの構成により、インクの注入に必要な時間を短縮することができ、ユーザの使用感を向上させることができる。
【0049】
なお、本実施形態においてはインクタンク11が記録装置1に固定され、チューブ8によってインクが供給される形態を示すが、これに限らず、インクタンクが記録ヘッド3と共にキャリッジ31に搭載される、いわゆるオンキャリッジの形態にも適用可能である。すなわち、キャリッジ31に搭載されるインクタンクに注入口とニードルが設けられており、ユーザがインクボトルからインクを注入する形態であってもよい。
【0050】
〔第2実施形態〕
以下、図面を参照して本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、以下では特徴的な構成についてのみ説明する。
【0051】
図10は、第2実施形態におけるニードル22を示す断面図である。図10(a)は、第2実施形態のニードル22を用いてインクボトル15からインクが注入される様子を示し、図10(b)は第2実施形態のニードル22の詳細構成を示す。第1実施形態と異なり、第1流路24aの断面積が第1下端部25aに向けて大きくなるようにテーパ形状を有している。また、第1流路24aの内部は凹凸がない平滑な面で構成される。このように、第1上端部23aから第1下端部25aに向けて断面積が拡大する滑らかな流路形状にすることで、第1実施形態よりもさらにインクの流速を向上させることができる。
【0052】
図11を用いて、テーパ形状の効果を説明する。図11(a)は、第2実施形態の第1流路24aの構成を示す模式図であり、図11(b)は流路の断面積が急拡大する比較例を示す模式図である。図11(a)と図11(b)において、インクはS3方向に流れる。
【0053】
図11(b)に示すように断面積が急拡大する場合、拡大した部分において渦Vが発生して圧力損失が生じる。これにより、インクの注入速度は低下してしまう。これに対して、図11(a)に示すように断面積が緩やかに拡大する場合は圧力損失が発生しないため、インクの流速が低減しない。このように、第1流路24aを緩やかに拡大するテーパ形状に構成することで、インクの流速を向上し、インクの注入時間をより短縮することができる。
【0054】
図12は、第2実施形態の変形例におけるニードル22を示す模式図である。インクは第1流路24aをS4方向へ流れる。図12に示すように、第1流路24aの断面積を曲線的に拡大するラッパ形状に構成しても、テーパ形状のものと同様の効果を得ることができる。このように、インクが流れる流路の断面積を、第1下端部25aへ向けて滑らかに拡大する構成とすることで、インク注入に必要な時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 インクジェット記録装置(記録装置)
3 記録ヘッド
11 インクタンク
22 ニードル(注入補助部材)
23a 第1上端部
23b 第2上端部
24a 第1流路
24b 第2流路
25a 第1下端部
25b 第2下端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12