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特許7604568注入器及びそれを用いた注入対象の細胞内への生体分子を含む溶液の注入方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】注入器及びそれを用いた注入対象の細胞内への生体分子を含む溶液の注入方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/30 20060101AFI20241216BHJP
   A61M 5/303 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
A61M5/30
A61M5/303
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023111304
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2020532482の分割
【原出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2023157019
(43)【公開日】2023-10-25
【審査請求日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2018139240
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018202114
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 透
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕子
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115867(WO,A1)
【文献】特開2012-65922(JP,A)
【文献】特表2004-511259(JP,A)
【文献】特表平11-513291(JP,A)
【文献】特表平11-501549(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3338836(EP,A1)
【文献】米国特許第6666843(US,B1)
【文献】米国特許第6537245(US,B1)
【文献】特開2004-170369(JP,A)
【文献】特開2009-274262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0035736(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106738734(CN,A)
【文献】米国特許第4165800(US,A)
【文献】特開2013-59424(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0304017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/30
A61M 5/303
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入器本体から生体分子を含む溶液を注入対象に対して注入する無針の注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位x[mm]と該溶液の先端の速度u(x)[m/s]との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、減衰係数kが1.59以上である、
注入器。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
【請求項2】
漸近速度uが0.01m/s以上である、請求項1に記載の注入器。
【請求項3】
注入器本体から生体分子を含む溶液を注入対象に対して注入する無針の注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位x[mm]と該溶液の先端の速度u(x)[m/s]との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、漸近速度uが0.01m/s以上である、
注入器。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の注入器を用いて、注入対象の細胞内に生体分子を含む溶液を注入する方法(ただし、前記注入対象をヒトとする方法を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出装置から対象物に対して射出された射出液の挙動を測定する測定システム、及びその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来においては、流体の流動挙動を直接観測する方法として、例えば多数の短い糸(タフト)のなびき具合から流れの方向を知るタフト法、物体表面に油と顔料の混合物を塗布して、流れによって現れるすじ模様から流れの状態、方向、速度を知る油膜法、流体中にその流体とともに運動する微粒子を混ぜて、その動きを追跡して流れを観測する方法であるトレーサ法、光学的方法として、密度の変化に基づく屈折率の変化を利用したシュリーレン法の他、ホログラフ法およびレーザスペックル法など、様々な方法が使用されている(例えば、特許文献1を参照)。更に、特許文献2では、トレーサ法を用いる場合の、撮像画像におけるトレーサ粒子の挙動解析を簡便に行う技術が開示されている。
【0003】
また、流体の流動挙動を観測する際に近赤外光が利用される。例えば、特許文献3では、近赤外光は生体透過性が良い一方で、血液に強く吸収される特性を利用して、静脈注射を容易にするための可視化装置として近赤外光を利用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-194379号公報
【文献】特開平10-221357号公報
【文献】特開2017-64094号公報
【文献】特開2004-358234号公報
【文献】米国特許出願公開第2005/0010168号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出装置から射出される液体は、その射出のために比較的高い圧力が掛けられている。そのため射出された直後の射出液の速度は比較的高く、その挙動を測定することは容易ではない。特に、射出液が対象物内に射出される場合において、撮像装置により光学的に射出液の挙動を撮像し測定しようとする場合、射出液自体が対象物内に存在することからその測定はより困難となる。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、射出装置から対象物に対して射出液を射出する場合の該射出液の挙動を、撮像装置により撮像して測定する好適な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、射出装置から対象物に対して射出された射出液の、該対象物内での挙動を測定する測定システムであって、前記射出液が収容される収容空間と、該収容空間と該射出液が外部に射出される射出口とを連通する流路と、を内部に含んで樹脂材料で形成されたコンテナ部と、前記射出口が前記対象物に対してその正面側から位置決めされた所定状態において、該対象物の背面側から、該射出口が配置され且つ該対象物に対して位置決めされた前記コンテナ部の先端面を、該対象物を挟んで撮像可能に配置された撮像装置と、前記先端面に対して、第1の近赤外光を照射する第1照射装置
と、を備える。
【0008】
上記測定システムは、射出装置においてコンテナ部の収容空間に収容されている射出液が流路を流れて射出口から対象物に向けて射出されるとき、その射出された射出液の挙動を測定する。ここで、射出装置は、当該コンテナ部を含むとともに、収容空間に収容されている射出液に対して、射出のためのエネルギーを付与する駆動部を含む。射出のためのエネルギー付与は、公知の加圧技術によるエネルギー付与の形態を採用できる。付与されるエネルギーの一例としては、化学的に生成されるエネルギー、例えば、火薬・爆薬等の酸化反応によって生じる燃焼エネルギーであってもよい。また別法として、当該加圧のためのエネルギーは、電気的に生成されてもよく、その一例としては、投入された電力により駆動される圧電素子や電磁アクチュエータに起因するエネルギーであってもよい。更に別法としては、当該加圧のためのエネルギーは、物理的に生成されてもよく、その一例としては、弾性体による弾性エネルギーや圧縮ガス等の圧縮物体が有する内部エネルギーであってもよい。すなわち、当該加圧のためのエネルギーは、射出装置において射出液の射出を可能とするエネルギーであれば何れのものであっても構わない。また、当該加圧のためのエネルギーは、これらの燃焼エネルギー、電力によるエネルギー、弾性エネルギー等の内部エネルギーを適宜組み合わせた複合型のエネルギーであっても構わない。
【0009】
また、射出液としては、射出装置からの射出目的に応じて適切な液体を採用できる。なお、射出液に所定物質が溶解した状態であってもよく、又は液体に溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、射出装置が注射器である場合には、その射出目的、すなわち所定の医療効果等の発揮が期待される物質を生体等の目的部位に送達する目的を考慮して、当該所定物質として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体の媒体に含まれることで射出液が形成される。
【0010】
また、コンテナ部は樹脂材料で形成されるが、上記の通り、第1の近赤外光をコンテナ部の先端面で反射でき、第2の近赤外光をコンテナ部内部に入光できる材料であれば、適宜採用することができる。例えば、当該樹脂材料としては、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。また、これら樹脂材料にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0011】
ここで、射出システムにおいては、対象物に対して位置決めされたコンテナ部の先端面、特に、射出口を含む先端面が撮像装置によって撮像されることで、射出装置が作動して射出口から射出される射出液の挙動が測定されることになる。対象物に対するコンテナ部の位置決め、すなわち所定状態に関し、コンテナ部の先端面は対象物に接触した状態であってもよく、先端面と対象物との間に何らかの介在物が介する場合には、コンテナ部の先端面と介在物が接触し、且つ、介在物と対象物が接触するように位置決めされた状態であってもよい。なお、撮像装置は、コンテナ部の先端面を直接撮像してもよく、所定の光学装置(ミラー等)を介して撮像してもよい。このとき、コンテナ部の先端面は、対象物を挟んで対象物の背面側から撮像装置により撮像されるため、対象物の厚さは、射出口が把握できる程度に薄くなるよう所定の厚さに設定されるのが好ましい。そして、コンテナ部の先端面は、第1照射装置から第1の近赤外光が照射される。この結果、撮像装置は、対象物に射出された射出液をその撮像画像上に好適に捉えることができ、射出液の挙動測定が好適に実現されることになる。
【0012】
ここで、第1照射装置の一形態として、前記第1照射装置は、前記対象物の背面側から前記先端面に対して、前記第1の近赤外光を照射する装置であって、該第1の近赤外光の該先端面に対する照射角が、該先端面でのその反射光が前記撮像装置に向かうように設定されてもよい。この形態では、先端面での第1の近赤外光の反射光が撮像装置に向かうように、第1の近赤外光の照射角が設定されているため、撮像装置がコンテナ部の先端面を撮像しやすくなる状況が形成されることになる。この結果、上記の第1照射装置による第1の近赤外光の照射を利用することで、撮像装置は、対象物に射出された射出液をその撮像画像上に好適に捉えることができ、射出液の挙動測定が好適に実現されることになる。また、対象物に対して位置決めされたコンテナ部の先端面に対して第1の近赤外光を照射する形態であるため、コンテナ部の形状、特にコンテナ部に形成される流路近傍の部位の形状にかかわらず、射出液の挙動を測定することができる。
【0013】
上記形態において、更に好ましくは、前記所定状態に置かれている前記コンテナ部の前記先端面と前記対象物との間に、該対象物の背面側から照射された前記第1の近赤外光の一部を反射する先端側反射層が形成されてもよい。このように先端側反射層が、先端面と対象物との間に配置されることで、より多くの第1の近赤外光を撮像装置へと届けることができ、以てより好適な射出液の挙動測定が実現される。
【0014】
また、上記射出システムにおいて、前記第1照射装置は、前記撮像装置による撮像のための1フレームあたり、前記第1の近赤外光を所定の露光時間で明滅するパルス光として照射するように構成されてもよい。このようにパルス光として第1の近赤外光を照射することで、第1照射装置の発光素子への通電時間を短縮でき当該発光素子の発熱を抑制できる。換言すれば、通常の数倍の電圧を第1照射装置の発光素子に印加してパルス光を照射すれば、当該発光素子の動作を好適に維持しながら射出液の挙動を高輝度で測定することができる。
【0015】
ここで、上述までの測定システムにおいて、対象物の背面側から第1の近赤外光が照射されている状態でコンテナ部の周囲には大気が存在していることを考慮すると、撮像装置による撮像画像において、コンテナ部の先端面に対応する領域は、その周囲の領域(コンテナ部周囲の大気に対応する領域)と比べて光量が落ち暗く映る可能性がある。特に、前記所定状態において、対象物とコンテナ部との屈折率差が、対象物と大気との屈折率差より小さい場合には、コンテナ部の先端面での、第1の近赤外光の反射率が相対的に低くなるため、撮像画像における先端面に対応する領域は、より暗く映りやすい。このように先端面に対応する領域が暗くなると、撮像対象である射出液とのコントラストが小さくなり先端面の射出口から射出される射出液の挙動を把握しにくくなり得る。
【0016】
そこで、上記測定システムは、前記対象物の正面側から、前記所定状態において前記対象物とは接触していない前記コンテナ部の外周面に入光される第2の近赤外光を照射する第2照射装置であって、該第2の近赤外光の該外周面に対する入射角が、該コンテナ部に入光された該第2の近赤外光が該コンテナ部内を通って該先端面に向かうように設定された、第2照射装置を、更に備えてもよい。照射された第2の近赤外光はコンテナ部の外周面で比較的反射を起こしにくく、そして、第2の近赤外光の外周面への入射角が、第2の近赤外光がコンテナ部内を通って先端面に向かうように設定されることで、撮像装置による撮像画像において、コンテナ部の先端面に対応する領域の光量を増量させることができる。したがって、上記の第1照射装置による第1の近赤外光の照射と第2照射装置による第2の近赤外光の照射とを併せることで、更に撮像対象である射出液とのコントラストを大きくでき、撮像装置は、対象物に照射された射出液をその撮像画像上に好適に捉えることができ、射出液の挙動測定が好適に実現されることになる。なお、この第2照射装置は、第1照射装置と同様に、撮像装置による撮像のための1フレームあたり、前記第2の近赤外光を所定の露光時間で明滅するパルス光として照射するように構成されてもよい。ま
た、この場合、第1照射装置と第2照射装置のうち一方がパルス光を照射するように構成された装置であってもよく、又は、その両方がパルス光を照射するように構成された装置であってもよい。
【0017】
ここで、上記の測定システムにおいて、前記コンテナ部に、前記第2の近赤外光が入光された入光位置から前記先端面側の端部までの、前記外周面の少なくとも一部である所定領域において、該入光位置から該コンテナ部内を通って該所定領域に到達した該第2の近赤外光を該コンテナ部内に反射させる反射部材が設けられてもよい。このように反射部材がコンテナ部の外周面の所定領域に設けられることで、コンテナ部内を進む第2の近赤外光を反射させて、その先端面に向かわせることができる。このことは、コンテナ部がその設計の都合や第2照射装置の配置の都合により、第2の近赤外光の一部又は全部がコンテナ部内を入光位置から直接先端面に向かうことができない場合等に極めて有用である。すなわち、反射部材は、コンテナ部内を進む第2の近赤外光の一部又は全部が、所定領域でコンテナ部から大気側に出てしまうことを防ぐことができ、以て、コンテナ部の先端面により多くの光量を集め、撮像対象である射出液とのコントラストを大きくすることで先端面近傍での射出液の好適な撮像画像を得ることができる。
【0018】
また、第1照射装置の別の形態として、前記第1照射装置は、前記対象物の正面側から、前記所定状態において前記対象物とは接触していない前記コンテナ部の外周面に入光される前記第1の近赤外光を照射する装置であって、該第1の近赤外光の該外周面に対する入射角が、該コンテナ部に入光された該第1の近赤外光が該コンテナ部内を通って該先端面に向かわせて該先端面を照射するように設定されてもよい。更には、前記コンテナ部に、前記第1の近赤外光が入光された入光位置から前記先端面側の端部までの、前記外周面の少なくとも一部である所定領域において、該入光位置から該コンテナ部内を通って該所定領域に到達した該第1の近赤外光を該コンテナ部内に反射させる外周側反射部材が設けられてもよい。このような形態においても、前記第1の近赤外光を所定の露光時間で明滅するパルス光として照射するように構成されてもよい。
【0019】
また、本願発明を、射出装置から対象物に対して射出された射出液の、該対象物内での挙動を測定する測定方法の側面から捉えることができる。当該方法は、前記射出液が収容される収容空間と、該収容空間と該射出液が外部に射出される射出口とを連通する流路と、を内部に含んで樹脂材料で形成されたコンテナ部を装着した前記射出装置を準備し、前記射出口が前記対象物に対してその正面側から位置決めされた所定状態において、該対象物の背面側から、該射出口が配置され且つ該対象物に対して位置決めされた前記コンテナ部の先端面を、該対象物を挟んで撮像可能となるように撮像装置を配置し、第1照射装置から、前記先端面に対して第1の近赤外光を照射し、前記第1照射装置により前記第1の近赤外光を照射した状態で、前記撮像装置により前記射出装置から射出された前記射出液を撮像する。好ましくは、前記第1照射装置は、前記先端面に対する、前記第1の近赤外光の前記対象物の背面側からの照射角が、該先端面でのその反射光が前記撮像装置に向かうように設定されてもよい。そして、当該測定方法において、更に、前記所定状態において前記対象物とは接触していない前記コンテナ部の外周面に対する、第2の近赤外光の該対象物の正面側からの入射角が、該コンテナ部に入光された該第2の近赤外光が該コンテナ部内を通って該先端面に向かうように設定された第2照射装置から、該外周面に対して該第2の近赤外光を照射し、前記第1照射装置により前記第1の近赤外光を照射し、且つ、前記第2照射装置により前記第2の近赤外光を照射した状態で、前記撮像装置により前記射出装置から射出された前記射出液を撮像してもよい。
【0020】
また、別法として、前記第1照射装置は、前記対象物の正面側から、前記所定状態において前記対象物とは接触していない前記コンテナ部の外周面に入光される前記第1の近赤外光を照射する装置であって、該第1の近赤外光の該外周面に対する入射角が、該コンテ
ナ部に入光された該第1の近赤外光が該コンテナ部内を通って該先端面に向かわせて該先端面を照射するように設定されてもよい。
【0021】
なお、上記測定システムに関連して開示した技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて上記測定方法に係る発明にも適用可能である。
【発明の効果】
【0022】
射出装置から対象物に対して射出液を射出する場合の該射出液の挙動を、撮像装置により撮像して測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】測定システムの概略構成を示す第1の図である。
図2】射出装置に取り付けられるコンテナ部の構成を示すとともに、コンテナ部への近赤外光の照射の第1形態を示す図である。
図3】射出装置に取り付けられるコンテナ部の構成を示すとともに、コンテナ部への近赤外光の照射の第2形態を示す図である。
図4図3に示す近赤外光の照射が行われたときの、コンテナ部の先端面側への近赤外光の進行状態を示す図である。
図5】高速度カメラにより対象物を挟んで背面側から撮像されたコンテナ部先端面の撮像画像である。
図6図5に示す撮像画像の対角線に沿って、当該撮像画像上の輝度を解析したグラフである。
図7】測定システムにおける射出液の挙動を測定する方法の流れを示すフローチャートである。
図8】射出装置による射出液の射出が行われたときの、高速度カメラにより時系列に撮像されたコンテナ部先端面及び対象物内に広がる薬液の撮像画像である。
図9】測定システムの概略構成を示す第2の図である。
図10図9に示す形態における、ノズル部先端の近傍領域の拡大図である。
図11図9に示す形態において高速度カメラにより対象物を挟んで背面側から撮像されたコンテナ部先端面の撮像画像である。
図12図11に示す撮像画像の対角線に沿って、当該撮像画像上の輝度を解析したグラフである。
図13】測定システムの概略構成を示す第3の図である。
図14】本発明の一実施態様に係る注入器の概略構成を示す図である。
図15-1】本発明の一実施態様に係る、注入対象内における生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を示すグラフである。
図15-2】本発明の一実施態様に係る、注入対象内における生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を示すグラフである。
図15-3】本発明の一実施態様に係る、注入対象内における生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を示すグラフである。
図16】本発明の一実施態様に係る、注入対象内における生体分子を含む溶液の先端の変位xと、該溶液の先端の速度u(x)を速度係数uで規格化した速度との関係を示すグラフである。
図17-1】本発明の一実施態様に係る、哺乳動物個体(生体)内の細胞核と哺乳動物個体(生体)内に注入されたDNAの分布を示す図である(図面代用写真)。
図17-2】本発明の一実施態様に係る、哺乳動物個体(生体)内の細胞核と哺乳動物個体(生体)内に注入されたDNAの分布を示す図である(図面代用写真)。
図17-3】本発明の比較例に係る、哺乳動物個体(生体)内の細胞核と哺乳動物個体(生体)内に注入されたDNAの分布を示す図である(図面代用写真)。
図17-4】本発明の一実施態様に係る、哺乳動物個体(生体)内における、DNA溶液の注入による組織の損傷を示す図である(図面代用写真)。
図17-5】本発明の一実施態様に係る、哺乳動物個体(生体)内における、DNA溶液の注入による組織の損傷を示す図である(図面代用写真)。
図17-6】本発明の一実施態様に係る、哺乳動物個体(生体)内における、DNA溶液の注入による組織の損傷を示す図である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1実施形態>
以下に、図面を参照して本実施形態に係る、射出装置から射出された射出液の挙動を測定する測定システム及びその測定方法について説明する。なお、本実施形態では、射出装置として、注射針を介することなく注射液(射出液)を対象物に射出する無針注射器(以下、単に「注射器」という)1を採用する。当該注射器1は、火薬の燃焼エネルギーを利用して注射液を対象物に射出する。なお、本実施形態において、注射器1の長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、注射器1の先端寄り、すなわち射出口31a寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち駆動部7側の方向を表している。また、以下の実施形態の構成は例示であり、測定システムの構成は、この実施形態の構成に限定されるものではない。
【0025】
<注射器1の構成>
ここで、図1は、注射器1の概略構成とともに測定システムの全体を示す図である。図1において、注射器1はその長手方向に沿った断面状態で図示されている。なお、測定システムで注射液の挙動を測定する場合、射出される注射液は、必ずしも実際に注射器1が使用される場合の注射液(例えば、対象物で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている液体)である必要は無く、撮像装置である高速度カメラ30で撮像しやすい、撮像用の液体であってもよい。本実施形態では、このような撮像用の液体も注射液の一形態として扱われる。
【0026】
注射器1は、注射器本体6の先端側にコンテナ部3が装着され、基端側に駆動部7が装着されて構成される。ここで、コンテナ部3は、その本体の中心軸に沿って形成され、注射液を収容可能な空間である収容空間34と、その収容空間34に連通し先端側で開口する流路31とを、内部に含んで樹脂で形成されている。より詳細には、コンテナ部3の先端側に、流路31を含むノズル部31bが形成され、ノズル部31bの先端側の端面が先端面32とされる(後述の図2図3を参照)。したがって、ノズル部31bは、収容空間34を含まない、コンテナ部3の一部である。そして、この流路31の開口部が射出口31aとなる。ノズル部31bを含むコンテナ部3を形成する樹脂材料としては、例えば、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。また、これら樹脂材料にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0027】
そして、コンテナ部3の収容空間34において、プランジャ4が流路31方向(先端側方向)に摺動可能となるように配置され、プランジャ4とコンテナ部3の本体との間に形成される収容空間34の一部又は全部が、注射液が実際に封入される空間となる。ここで、収容空間34内をプランジャ4が摺動することで、収容空間34に収容されている注射液が押圧されて流路31の先端側に設けられた射出口31aより射出されることになる。そのため、プランジャ4は、収容空間34内での摺動が円滑であり、且つ、注射液がプランジャ4側から漏出しないような材質で形成される。具体的なプランジャ4の材質として
は、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、プランジャ4の材質として採用することもできる。また、プランジャ4とコンテナ部3との間の摺動性を確保・調整する目的で、プランジャ4の表面やコンテナ部3の収容空間34の表面を各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0028】
ここで、プランジャ4の先端側の輪郭は、収容空間34と流路31との接続部位の内壁面の輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、注射液の射出時にプランジャ4が摺動し、収容空間34において最も奥に位置する最奥位置に到達したときに、プランジャ4と当該接続部位の内壁面との間に形成される隙間を可及的に小さくでき、注射液が収容空間34内に残り無駄となることを抑制することができる。
【0029】
ここで、コンテナ部3の説明に戻る。コンテナ部3の流路31の内径は、収容空間34の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された注射液が、流路31の射出口31aから外部に射出されることになる。また、コンテナ部3の基端側に位置する部分には、注射器本体6とコンテナ部3とを結合するためのネジ部が形成されている。
【0030】
更に、コンテナ部3内には、プランジャ4に隣接する位置にピストン5が配置されている。ピストン5は、駆動部7の点火器71で生成される燃焼生成物により加圧されて収容空間34内を摺動するように構成されている。また、ピストン5は金属製であり、その一部にピストン5が摺動する摺動面との密着性を高めるために、Oリング等が配置されてもよい。別法としてピストン5は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。ピストン5の基端側の端面は、注射器本体6の内部に形成された貫通孔側に露出している。当該貫通孔は、駆動部7の点火器71で生成される燃焼生成物が放出され、またはその燃焼生成物により燃焼されるガス発生剤80が配置される燃焼室である。したがって、ピストン5の基端側の端面が当該燃焼室から圧力を受け、それをプランジャ4を介して収容空間34に収容されている注射液に伝えて加圧する。
【0031】
次に、駆動部7について説明する。駆動部7は、その本体が筒状に形成され、その内部に、点火薬を燃焼させて射出のためのエネルギーを発生させる電気式点火器である点火器71を有し、点火器71による燃焼エネルギーをピストン5の基端側端面に伝えられるように、当該基端側端面に対して点火器71が対向するように注射器本体6に配置される。駆動部7の本体は、射出成形した樹脂を金属のカラーに固定したものであってもよい。当該射出成形については、公知の方法を使用することができる。駆動部7の本体の樹脂材料としては、コンテナ部3と同じ樹脂材料で形成されている。
【0032】
ここで、点火器71において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が注射液を対象物に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火
薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な注射液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0033】
また、注射器1では、ピストン5を介して注射液にかける圧力推移を調整するために、上記点火薬に加えて、点火器71での火薬燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤80が、注射器本体6の貫通孔内に配置されている。その配置場所は、点火器71からの燃焼生成物に晒され得る場所である。また、別法としてガス発生剤80を、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように、点火器71内に配置してもよい。ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。注射器本体6の貫通孔64内に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これにより、注射液に掛ける圧力推移を調整し、その射出圧を所望の推移とすることができる。
【0034】
このように構成される注射器1の駆動部7に対して電源装置40から直流電力が供給されると、点火器71が作動して燃焼生成物を放出するとともに、その燃焼生成物によってガス発生剤80が燃焼する。この結果、ピストン5が押圧されてプランジャ4を介して注射液の加圧が行われる。加圧された注射液は、ノズル部31bの射出口31aから射出される。なお、図1は、注射液が射出される対象物51に対して、射出口31aが形成されているノズル部31bの先端面32が接触し位置決めされている状態であり、駆動部7が作動すると対象物51への射出が可能な状態となっている。ここで、対象物51は、本実施形態の測定システムによって挙動が測定される、注射液が射出される対象物体である。例えば、対象物51は、ラットの摘出皮膚とすることができる。本実施形態では、注射液の対象物51での挙動を測定するために、対象物51は比較的薄く形成される。また、図1に示す状態では、対象物51は無色透明なアクリル板52上に配置された状態で、その上にノズル部31bの先端面32を位置決めして注射器1が配置される。このように対象物51を基準としたときに注射器1が配置されている側を、対象物51の正面側とする。
【0035】
また、測定システムには、対象物51の背面側(すなわち、注射器1が配置されている正面側とは反対側)から、対象物51を挟んでノズル部31bの先端面32を撮像可能となる位置に、撮像装置である高速度カメラ30が配置されている。高速度カメラ30は、極めて短時間で生じる事象を、1秒間に数千~1万フレーム程度の高速度で撮像できるカメラである。例えば、1000フレーム毎秒以上、好ましくは5000フレーム毎秒以上、更に好ましくは10000フレーム毎秒以上の速度で撮像できるのが好ましい。注射器1から射出される注射液は極短時間で対象物51内を拡散していくため、このような高速度カメラ30が有用である。なお、高速度カメラ30は、先端面32を直接撮像してもよく、又は、図1に示すようにミラー23等の光学装置を介して先端面32を撮像するように配置されてもよい。更に、測定システムには、コンピュータである制御装置20が配置されており、制御装置20は電源装置40や高速度カメラ30を制御するとともに、高速度カメラ30で撮像された画像データを収集し、所定の制御プログラムが実行されることで、収集された画像データの画像処理等を介して注射液の挙動測定を実現する。
【0036】
ここで、測定システムでは、高速度カメラ30が臨む視野においてノズル部31bの先
端面32に撮像に必要な光量を供給するために、所定波長の近赤外光を照射する背面側照射装置21(この場合、本願の第1照射装置に相当する。)が対象物51の背面側に配置される。背面側照射装置21は、例えば、850nmの近赤外光を照射可能なレーザ照射装置である。そして、背面側照射装置21はその近赤外光を先端面32に対して照射し、先端面32でのその反射光がミラー23を介して高速度カメラ30に向かうように、背面側照射装置21からの先端面32に対する照射角が設定されている。なお、照射角とは、先端面32の法線方向と当該近赤外光の照射方向とが為す角度である。このように背面側照射装置21から近赤外光が照射されることで、高速度カメラ30が対象物51を挟んで先端面32に臨んでいる状態で、注射器1が作動したときに対象物51内での注射液の挙動(例えば、注射液が対象物51内でどのように拡散していくか等)を撮像していくことが可能となる。
【0037】
しかしながら、図1に示す注射器1の配置状態では、ノズル部31bの先端面32が対象物51に接触しているが、そのノズル部31bの側方は大気が存在している。そのため、高速度カメラ30からの視野において、先端面32に対応する領域が、その周囲の大気に対応する領域よりも相対的に暗く映る傾向がある。これは、対象物51の屈折率が、大気の屈折率よりもノズル部31bを含むコンテナ部3の屈折率の方に相対的に近いため、対象物51とコンテナ部3との屈折率差が、対象物51とコンテナ部3の周囲の大気との屈折率差よりも小さいことに起因する。その結果、背面側照射装置21によって近赤外光を照射していても、先端面32で十分に反射されず対象物51から先端面32を介してコンテナ部3内に抜けてしまう近赤外光量が多くなり、以て、注射液の挙動を高速度で撮像するには十分な光量の反射光を得ることが困難となる。
【0038】
そこで、本実施形態の測定システムでは、背面側照射装置21に加えて、正面側照射装置22(この場合、本願の第2照射装置に相当する。)を配置する。正面側照射装置22も、所定波長(例えば、850nm)の近赤外光を照射可能なレーザ照射装置である。ただし、正面側照射装置22は、背面側照射装置21とは異なり対象物51の正面側に配置されて、その近赤外光は、コンテナ部3の外周面に照射される。ここで、図2に基づいて、正面側照射装置22による近赤外光の第1の照射形態について説明する。なお、図2に示すコンテナ部3においては、プランジャ4、ピストン5、注射液の記載は省略されている。
【0039】
図2に示すように、コンテナ部3は、その先端側にはノズル部31bが位置しその先端側に先端面32が形成され、そこに射出口31aが配置されている。そして、その射出口31aから、ノズル部31bの中心軸に沿って流路31が形成され、さらにそれに収容空間34が繋がっている。ここで、コンテナ部3の外周面のうち対象物51に接触している先端面32を除く外周面は、コンテナ部3の側方の外周面であって、図2に示すように、先端側から第1外周面33a、第2外周面33b、第3外周面33cとなっている。第1外周面33aは、先端面32と隣接する外周面であり最もコンテナ部3の先端面32近くに位置し、一方で、第3外周面33cは、コンテナ部3の先端面32から最も離れて位置する外周面であり注射器本体6に隣接している。また第3外周面33cに対応するコンテナ部3の直径D3は、第1外周面33aに対応するコンテナ部3の直径D1よりも大きくなっている。そのため、第1外周面33aと第3外周面33cとを繋ぐ第2外周面33bは、図2に示す断面において、コンテナ部3の中心軸に対して傾斜した状態となる。
【0040】
ここで、正面側照射装置22からの近赤外光は、先端面32を基準としたときにコンテナ部3の軸方向に距離L1離れた、第3外周面33c上の点P1に入光される。このときの正面側照射装置22からの近赤外光の入射角θ1は、図2に示すように、点P1で入光された近赤外光が屈折角θ2で屈折してコンテナ部3内を進み、ノズル部31bの先端面32にそのまま到達するように設定されている。すなわち、第1外周面33aに対応する
コンテナ部3の直径(先端面32の直径)D1、第3外周面33cに対応するコンテナ部3の直径D3、及び入光地点P1の先端面からの距離L1等の、コンテナ部3の幾何学的条件と、大気からコンテナ部3に入光される近赤外光の屈折とを考慮して、当該近赤外光が先端面32に到達するように入射角θ1が設定されている。なお、コンテナ部3のノズル部31bには流路31が形成されているが、その流路径は極めて小さいため近赤外光のコンテナ部3内での進行を妨げるものではない。
【0041】
このように正面側照射装置22の設定が行われることで、正面側照射装置22から照射された近赤外光は、入光地点P1で屈折してコンテナ部3の部材内を進んでいく。ここで、コンテナ部3においては、収容空間34の内壁面と第1外周面33a~第3外周面33cとの間には、比較的大きな肉厚が確保されている。そのため、その近赤外光はその肉厚を有する部材内を進み、先端面32に直接到達することができる。この結果、高速度カメラ30からの視野において、大気に対応する領域よりも相対的に暗く映る傾向がある、先端面32に対応する領域に対して、高速度カメラ30による撮像のために好ましい光量を供給することができる。上述の背面側照射装置21からの近赤外光の照射と併せることで、高速度カメラ30が対象物51を挟んで先端面32を臨んでいる状態で、射出された注射液の対象物51内での挙動(例えば、注射液が対象物51内でどのように拡散していくか等)を好適に撮像していくことが可能となる。
【0042】
次に、図3に基づいて、正面側照射装置22による近赤外光の第2の照射形態について説明する。図3に示すコンテナ部3には、その第1外周面33aに反射部材35が設けられている。具体的には、反射部材35は、いわゆるアルミ箔であり第1外周面33aを密着して覆うようにその表面上に設けられている。そして、第2の照射形態では、正面側照射装置22から射出された近赤外光は地点P1でコンテナ部3に入光しそこで屈折すると(入射角θ1’に対して屈折角θ2’で屈折する)、先端面32には直接到達せずに、第1外周面33aに到達する。しかし、第1外周面33aには反射部材35が配置されているため、第1外周面33aに到達した近赤外光はコンテナ部3の外部には漏れ出ずに、反射部材35によって反射され、その結果、先端面32に到達することができる。正面側照射装置22からの近赤外光がこのような光路をたどる場合の入射角θ1’も、「コンテナ部3に入光された近赤外光がコンテナ部3内を通って先端面32に向かうように設定された」入射角ということができる。
【0043】
ここで、先端面32の前方に対象物51を配置しない状態で注射器1を固定し且つコンテナ部3に対して図3に示すように正面側照射装置22から近赤外光を照射した場合において、反射部材35を取り付けた状態(すなわち図3に示す状態)と反射部材35を取り外した状態のそれぞれの、先端面32の状況を図4に示す。具体的には、図4の上段(a)に、反射部材35を図3に示すように取り付けた状態で正面側照射装置22による近赤外光の照射を行った場合の先端面32の状況を示し、下段(b)に、反射部材35を取り外した状態で正面側照射装置22による近赤外光の照射を行った場合の先端面32の状況を示す。
【0044】
上段(a)を見ると理解できるように、反射部材35による近赤外光の反射の結果、先端面32の前方領域321が明るくなっている。一方で、その反射部材35が取り外されると、下段(b)に示すように、先端面32の前方領域321の明るさが、上段(a)と比べて暗くなっている。更に、前方領域321より外れた場所に、比較的明るくなっている場所322が現れているのが分かる。これは、図3に示すようにコンテナ部3への入光時に屈折した近赤外光が第1外周面33aに到達したときに、反射部材35による反射が行われないためそのままコンテナ部3の外に出てしまった状態を表している。このように反射部材35を設けることで、ノズル部31bの先端面32の前方領域321を効果的に明るくすることができることが理解できる。
【0045】
<撮像結果>
ここで、図5及び図6に基づいて、高速度カメラ30による撮像結果について説明する。図5の(a)~(c)のそれぞれは、注射器1で注射液の射出が行われていない状態で、以下に示す条件1~条件3に対応した高速度カメラ30による撮像画像である。
条件1:背面側照射装置21のみによる近赤外光の照射
条件2:正面側照射装置22のみによる近赤外光の照射
条件3:背面側照射装置21及び正面側照射装置22の両方による近赤外光の照射
また、図6は、図5のそれぞれの撮像画像における同一場所(撮像画像中の白色の同一対角線上の場所)での、画像ピクセルの輝度を表している。図6における線L1は図5の(a)に対応し、線L2は図5の(b)に対応し、線L3は図5の(c)に対応する。
【0046】
また、高速度カメラ30による注射液の挙動測定は、図7に示す測定方法のフローに従って実現される。先ず、S101で射出装置である注射器1が図1に示す状態になるようにセッティングを行う。このとき、注射器1のノズル部31bの先端面32が対象物51に接触し、注射器1が作動したときに生じる衝撃等で注射器1が変位しないようにその固定は丁寧に行うのが好ましい。続いて、S102では、高速度カメラ30がノズル部31bの先端面32がその視野に収まるように、図1に示すように高速度カメラ30を対象物51の背面側に配置する。このとき、高速度カメラ30と先端面32との間に、ミラー23等の光学装置を配置してもよく、当該光学装置を除いても構わない。
【0047】
そして、S103で、上述したように背面側照射装置21を対象物51の背面側に配置して、そこから先端面32に向けて近赤外光を照射し、更に、S104で、図2図3に示すように正面側照射装置22を対象物51の正面側に配置して近赤外光の照射を行い、その近赤外光をコンテナ部3に入光させて先端面32までコンテナ部3の内部を進ませる。このような背面側照射装置21及び正面側照射装置22による近赤外光の照射が行われている状態で、S105の処理が行われる。S105では、先ず、制御装置20から高速度カメラ30に対して撮像待ちの指示が出される。当該指示を受けた高速度カメラ30は、外部からトリガー信号が来ると直ちに撮像できるようにスタンバイ状態となる。そして、その状態において、ユーザが電源装置40を操作すると、注射器1の駆動部7に駆動電力が供給されるとともに、電源装置40から高速度カメラ30に撮像実行のトリガー信号が送信される。当該トリガー信号を受け取った高速度カメラ30は、撮像を開始し、その撮像結果は制御装置20のモニタに映し出される。また、高速度カメラ30による撮像結果は、制御装置20内の記録装置に記録される。なお、S102~S104の各処理は、順序を入れ替えてもよく、また同時に行ってもよい。
【0048】
このような測定方法によって取得された撮像画像が、上記の条件3に従って撮像された画像になる。なお、上記の条件1及び条件2に従った撮像を行う場合、条件3と相違する照射装置による近赤外光の照射以外は、図7に示す測定方法のフローと同じである。
【0049】
ここで、図5、特に(a)と(c)において明確に分かる円形状の輪郭は、ノズル部31bの先端面32の外郭に相当する。条件1の場合、図5の(a)に示すように、先端面32に対応する領域は非常に暗くなっている。このことは図6の線L1からも理解できる。これは上述したように背面側照射装置21のみで近赤外光を照射した場合、対象物51とノズル部31b(コンテナ部3)との屈折率差が相対的に小さいため、その近赤外光による反射光を十分に発生させることが容易でないことによる。ただし、このことは条件1に従った撮像形態が、本願発明の範疇から除かれることを意味するものではなく、この点については後述の第2の実施形態において説明する。
【0050】
一方で、条件3の場合、図5の(c)に示すように、先端面32に対応する領域は条件
1の場合と比べて明るくなっており、このことは図6の線L3からも理解できる。これは上述したように、背面側照射装置21に加えて正面側照射装置22からも近赤外光を照射することで、コンテナ部3の内部から先端面32に近赤外光を到達させることができるからである。したがって、仮に射出口31aから注射液が射出されると、注射液とのコントラストを比較的大きくできるため注射液の存在を確実に捉えることができる。なお、条件2では、正面側照射装置22のみから近赤外光を照射しているが、図6の線L2を見ると、180近傍となる位置を中心にして輝度推移の盛り上がりを認識できるものの、その輝度が比較的緩やかに推移するため射出された注射液の外郭(最も外側の位置)を識別しにくい。しかし、条件2に従った撮像形態であっても、線L2で示すように中心近傍での輝度の盛り上がりが見出せるのであるから、当該形態も本願発明の範疇に含まれる。なお、条件2に従った撮像形態については、後述の第3の実施形態において説明する。
【0051】
次に、上記の条件3に従って注射液の挙動を測定した場合の注射液の拡散の推移を、高速度カメラ30によって順次、撮像して得られた画像を図8に示す。図8の各図には、注射器1が作動してからの経過時間が記載されている。具体的には、経過時間が0msec、1msec、1.2msec、3msec、4.9msec、10msecの場合の、高速度カメラ30による撮像画像である。各図において、白い実線で示すのがノズル部31bの先端面32の外郭線である。そして、経過時間が0msec以外の各図において、白い破線で示すのが射出されて対象物51内で拡散している注射液の外郭線である。このように本実施形態の測定システムによれば、極めて短時間で生じる、射出された注射液の挙動を好適に測定することができる。特に、注射器1を作動して間もないタイミングでも、注射液の存在を好適に捉えることができているのが理解できる。
【0052】
<第2実施形態>
次に、図9に基づいて、測定システムの第2の実施形態について説明する。図9に示す測定システムには、照射装置として、図1に示す測定システムの構成のうち正面側照射装置22が含まれておらず、背面側照射装置21のみが含まれており、それ以外の構成は基本的に同一である。この場合、当該背面側照射装置21が、本願の第1照射装置に相当する。このような構成であっても、ノズル部31bの先端面32からの反射光が十分量得られる場合には、射出口31aから射出された注射液の挙動を、高速度カメラ30にて十分に捉えることが可能となる。例えば、ノズル部31bを含むコンテナ部3と対象物との屈折率差が比較的大きくなるように、コンテナ部3を形成する材料を適宜選択することで、先端面32からの反射光量を増加させることが可能である。
【0053】
また、このように構成される測定システムでは、先端面32からの反射光が得られれば射出された注射液の挙動の撮像は可能である。したがって、ノズル部31bやコンテナ部3の形状にかかわらず、注射液の挙動を的確に把握することができる。この点については、上記の第1実施形態で示した測定システムについても同様である。
【0054】
更に本実施形態の変形例として、図10に示すように、ノズル部31bの先端面32と対象物51との間に、背面側照射装置21からの近赤外光の一部を反射する反射層38が形成されてもよい。具体的には、この反射層38は、先端面32に白色塗料(アクリル絵具)が所定の厚さ塗布されることで形成される。このような構成では、ノズル部31bの先端面32が対象物51に対して、反射層38を挟んで位置決めされた状態となる。また、別法として、対象物51の表面(先端面32が接触する表面)の上に白色塗料が塗布されることで、反射層38が形成されてもよい。すなわち、反射層38は、ノズル部31bの先端面32と、対象物51の表面とに挟まれて配置されていればよい。
【0055】
<撮像結果>
そして、図11及び図12に基づいて、本実施形態における高速度カメラ30による撮
像結果について説明する。図11の(a)、(b)のそれぞれは、注射器1で注射液の射出が行われていない状態で、以下に示す条件11~条件12に対応した高速度カメラ30による撮像画像である。
条件11:背面側照射装置21のみによる近赤外光の照射であって反射層38が形成
条件12:背面側照射装置21のみによる近赤外光の照射であって反射層38が無し
また、図12は、図11のそれぞれの撮像画像における同一場所(撮像画像中の直線上の場所)での、画像ピクセルの輝度を表している。図12における線L11は図11の(a)に対応し、線L12は図11の(b)に対応する。なお、高速度カメラ30による注射液の挙動測定は、上記の図7に示す測定方法のフローに従って行われる。
【0056】
条件11の場合、図11の(a)に示すように、先端面32に対応する領域は条件12の場合と比べて明るくなっており、このことは図12の線L11と線L12との比較からも理解できる。これは、背面側照射装置21からの近赤外光が反射層38によってより多く反射され、ノズル部31でのコントラストが改善されるからであり、この結果、注射液の存在を確実に捉えることができる。
【0057】
<第3実施形態>
次に、図13に基づいて、測定システムの第3の実施形態について説明する。図13に示す測定システムには、照射装置として、図1に示す測定システムの構成のうち背面側照射装置21が含まれておらず、正面側照射装置22のみが含まれており、それ以外の構成は基本的に同一である。この場合、当該正面側照射装置22が、本願の第1照射装置に相当する。
【0058】
このような構成であっても、正面側照射装置22から照射された近赤外光であってコンテナ部3を透過しノズル部31bの先端面32に到達した近赤外光の光量が十分量得られる場合には、射出口31aから射出された注射液の挙動を、高速度カメラ30にて十分に捉えることが可能となる。そして、好ましくは、上記の図3に示したようにコンテナ部3の第1外周面33aに反射部材35を設けることで、先端面32に到達する近赤外光の光量を、注射液の挙動測定に適した程度に増加させることができる。
【0059】
<その他の実施形態>
上述した各実施形態において、背面側照射装置21は、近赤外光を高速度カメラ30の1フレームあたり所定の露光時間で明滅するパルス光として照射するように構成されてもよい。所定の露光時間としては、例えば、高速度カメラ30の撮影速度が10000fps(フレーム毎秒)であるときに10μsecとしてもよい。このように背面側照射装置21がパルス光として近赤外光を照射することで、背面側照射装置21の発光素子への通電時間を短縮でき当該発光素子の発熱を抑制できる。換言すれば、背面側照射装置21の発光素子への通電量を一時的に増やしてパルスON時にその発光量を増大させても、当該発光素子が好適に動作し得る状態を維持することができる。その結果、効果的に先端面32からの反射光量を増やすことができ、以て、射出液の挙動をより高輝度で測定することができる。
【0060】
次に、本願は、以下に示す注入器及びそれを用いた注入対象の細胞内への生体分子を含む溶液の注入方法に関する発明も開示する。
【0061】
生体等に薬液を注入する注入器として、注射針を介して注射を行う有針注射器、注射針を介することなく注射を行う無針注射器のほか、薬液を注入対象に輸送するために注射針や駆動源を備えたカテーテルなどが存在する。
このうち無針注射器では、加圧ガスやバネ、電磁力により注射液が収容された収容室に対して圧力を加えることで注射成分を射出する構成が採られることがある。例えば、注射
器本体の内部に複数のノズル孔が形成されるとともに、各ノズル孔に対応して射出時に駆動されるピストンを配置させる構成が採用されている。この構成により、複数のノズル孔から注射液を同時に噴射させて対象への均一な注射を実現しようとしている。そして、ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドをラットに注射し、高効率に細胞移入できている。
また、無針注射器での注射液の射出動力源として、加圧ガスを利用する形態がある。例えば、射出初期に瞬間的に大きな加圧を行った後、40~50msecかけて加圧力を徐々に低減させていく加圧形態が例示されている。
【0062】
一方で、従来の注入器を用いた場合には、注入対象の注入口付近における組織が損傷することがあった。また、注入器により、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液を直接注入できることは報告されていない。
すなわち、注入対象の注入口付近における組織の損傷をできるだけ小さくするために必要な注入器の特性はなされていない。また、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液が直接注入されるために必要な注入器の特性に着目した報告はなされていない。
【0063】
そこで、本願は、注入対象の注入口付近における組織の損傷をできるだけ小さくできる注射器の提供を解決課題とし、好ましくは、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液を直接注入できる注射器の提供を解決課題とする発明も開示する。
【0064】
以上を踏まえて、本発明者らは、鋭意検討した結果、生体分子を含む溶液を収容した注入器において、注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたときの、減衰定数と定義するk及び漸近速度と定義するuに着目した結果、該k又はuが所定の数値範囲にあることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
【0065】
本発明は以下に示すとおりである。
〔1〕注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、減衰係数kが1.59以上である、
注入器。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
〔2〕漸近速度uが0.01以上である、〔1〕に記載の注入器。
〔3〕注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、漸近速度uが0.01以上である、
注入器。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の注入器を用いて、注入対象の細胞内に生体分子を含む溶液を注入する方法。
【0066】
本発明によれば、注入対象の注入口付近における組織の損傷をできるだけ小さくできる注射器が提供できる。好ましくは、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液を直接注入できる注射器が提供できる。
【0067】
上述したように、本発明は、注入器の発明、及び、前記注入器を用いて注入対象の細胞内に生体分子を含む溶液を注入する方法の発明を含むものであり、以下にその詳細について説明する。
【0068】
<注入器の発明>
本願の注入器の一態様は、注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)とを、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、減衰係数kが1.59以上である、
注入器である。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
【0069】
本願の注入器では、注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、上記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、減衰係数kが1.59以上であることにより、注入対象の注入口付近における組織の損傷をできるだけ小さくすることができる。
減衰係数kの下限は、次第に好ましくなる順に、1.6以上、1.8以上、2.0以上である。また、減衰係数kの上限は、特に制限されないが通常、10.0以下である。
詳細には、減衰係数kが1.59以上であり、減数係数kが大きいほど、注入対象の注入口付近における組織の損傷を小さくできると推測される。これは、下記によると考えられる。すなわち、該溶液の先端の速度u(0)(換言すれば、射出直後の前記溶液の先端の速度)が大きいことは、該溶液が生体組織に注入される際に生体組織に孔を形成するために必要である。一方で、該溶液が速い速度で注入方向に注入され、さらに注入方向を軸としてその周辺にも広がることにより、該周辺の細胞間質も広げられ、生体組織に損傷を与えることになる。そのため、該溶液の先端の速度u(0)は大きい方が好ましいものの
、前記式(1)の第1項であるuexp(-kx)は、xが大きくなるにつれて鋭く小さくなることが好ましい。すなわち、減衰係数kは大きい方が好ましい。
【0070】
本願の注入器では、注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、上記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、漸近速度uが、好ましくは0.01以上であると、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液を直接注入することができる。また、本明細書における細胞内とは、好ましくは、細胞核内である。
漸近速度uは、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、一方で好ましくは0.04以下である。また、漸近速度uの上限は、特に制限されないが、通常0.1以下である。尚、速度u(x)は、組織内の注入対象内における抵抗を受ける。そのため、有限時間内で0となり、また、注入口から有限変位内で0となる。
詳細には、漸近速度uが0.01以上であると、減衰係数kの寄与により上記式(1)の第1項がゼロに漸近した後も注入方向を軸としてその周辺に溶液が広がり、注入対象における広範囲の細胞内に生体分子を含む溶液を直接注入できる一方、0.04以下であると、細胞間や組織間における結合の弱い箇所への該溶液の過度な注入が抑えられ、細胞内への注入率を大きくできると推測される。
【0071】
本願における、注入対象の細胞内に注入される生体分子とは、注入対象の細胞内に注入された際に該注入対象の細胞内、好ましくは細胞核内において機能するものであれば特に制限されない。また、該生体分子は天然物であってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。例えば、核酸又はその誘導体;ヌクレオシド、ヌクレオチド、又はそれらの誘導体;アミノ酸、ペプチド、タンパク質、又はそれらの誘導体;脂質又はその誘導体;金属イオン;低分子化合物、又はその誘導体;抗生物質;ビタミン又はその誘導体等が挙げられる。核酸であれば、DNAでもRNAでもよく、それらは遺伝子を含んでもよい。後述の実施例では、生体分子として、遊離のCy3標識プラスミドDNAを用いている。
注入対象の細胞内に注入される生体分子は、生体分子が安定して存在し、また、注入される注入対象や注入対象の細胞を破壊するなどの悪影響がなければ、遊離の形態でもナノ粒子等の担体に固定されている形態でもよく、修飾されていてもよく、溶媒を含め、その態様は特に限定されない。
DNAが遺伝子を含む場合には、発現カセットや発現ベクターに該遺伝子が含まれた形態で設計されること等が挙げられる。さらに、例えば、DNAが注入される注入対象の種類および注入部位に適したプロモーターの制御下に遺伝子が配置されていてもよい。すなわち、いずれの態様においても公知の遺伝子工学的手法を用いることができる。
【0072】
本願の注入器において、「先端側」とは、注入器から生体分子を含む溶液が射出される射出口が配置されている側を意味し、「基端側」とは、注入器において先端側とは反対の側を意味するものであり、これらの文言は、特定の箇所や位置を限定的に指すものではない。
【0073】
本願の注入器は、注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入するものである。本発明の第一の発明に係る注入器は、例えば、注入器本体から注入対象までの距離が大きい場合等に、生体分子を含む溶液を注入器本体から注入対象まで誘導するもの、例えば、カテーテル等のような所定の構造物を含んでもよい。したがって、本発明の第一の発明に係る注入器とは、そのような所定の構造物を含んでも含まなくてもよいが、所定の構造物を含む場合には、該所定の構造物が注入対象内に挿入された状態で生体分子を含む溶液が該注入対象に注入されるものではない。
【0074】
本願の注入器において、生体分子を含む溶液を加圧するための駆動部は特に制限されない。加圧は、例えば、圧縮ガスの圧力が解放される際に生じる圧力によってもよいし、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力によってもよい。また、電磁力を用いた加圧、例えば、リニア電磁アクチュエータによる加圧によってもよい。好ましくは、少なくとも、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力を用いる態様であり、さらには、上記他の2つの加圧態様のいずれか、または両者と併用してもよい。
加圧として、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力を用いる態様を採用する場合、火薬としては、例えば、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬であってもよい。これらの火薬の特徴としては、その燃焼生成物が高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、点火後燃焼生成物が直ちに凝縮を行う。
また、ガス発生剤の発生エネルギーを射出エネルギーとして利用する場合、ガス発生剤としては、シングルベース無煙火薬や、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。
【0075】
本願の注入器では、充填室には当初から生体分子を含む溶液が収容されているのではなく、射出口を有するノズルを介して生体分子を含む溶液を充填室内に吸引することにより収容する。このように、充填室への充填操作を必要とする構成を採用することで、必要とする任意の生体分子を含む溶液を注入対象に注入することが可能となる。そのため、本発明の第一の発明に係る注入器では、シリンジ部は着脱可能に構成されている。
【0076】
以下に、図面を参照して本発明の第一の発明における一実施形態に係る注入器の例として、注射器1(無針注射器)について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明の発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。なお、注射器101の長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器101の先端寄り、すなわち射出口131a寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち駆動部107側の方向を表している。また、本例示は、点火装置によって点火される火薬の燃焼エネルギーを射出エネルギーとして、また、DNA溶液を、生体分子を含む溶液として用いる例示であるが、本発明の発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
(注射器101の構成)
図14は、注射器101の概略構成を示す図であり、注射器101のその長手方向に沿った断面図でもある。注射器101は、シリンジ部103とプランジャ104とで構成されるサブ組立体と、注射器本体106とピストン105と駆動部107とで構成されるサブ組立体とが一体に組み立てられた注射器組立体110が、ハウジング(注射器ハウジング)102に取り付けられることで構成される。
【0078】
上記の通り、注射器組立体110は、ハウジング102に対して脱着自在となるように構成されている。注射器組立体110に含まれるシリンジ部103とプランジャ104との間に形成される充填室132にはDNA溶液が充填され、そして、当該注射器組立体110は、DNA溶液の射出を行う度に使い捨てられるユニットである。一方で、ハウジング102側には、注射器組立体110の駆動部107に含まれる点火器171に電力供給するバッテリ109が含まれている。バッテリ109からの電力供給は、ユーザがハウジ
ング102に設けられたボタン108を押下する操作を行うことで、配線を介してハウジング102側の電極と、注射器組立体110の駆動部107側の電極との間で行われることになる。なお、ハウジング102側の電極と注射器組立体110の駆動部107側の電極とは、注射器組立体110がハウジング102に取り付けられると、自動的に接触するように両電極の形状および位置が設計されている。またハウジング102は、バッテリ109に駆動部107に供給し得る電力が残っている限りにおいて、繰り返し使用することができるユニットである。なお、ハウジング102においては、バッテリ109の電力が無くなった場合には、バッテリ109のみを交換しハウジング102は引き続き使用してもよい。
【0079】
また、図14に示す注射器本体106内には、特に追加的な火薬成分は配置されていないが、ピストン105を介してDNA溶液にかける圧力推移を調整するために、点火器171での火薬燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤等を、点火器171内や注射器本体106の貫通孔内に配置することもできる。点火器171内にガス発生剤を配置する構成は、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように既に公知の技術である。また、ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。貫通孔内に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これにより、DNA溶液にかける圧力推移を所望の推移、すなわち注入対象にDNA溶液が適切に注入され得る推移とすることができる。本発明では、必要に応じて使用されるガス発生剤なども駆動部107に含まれるものとする。
【0080】
(注入対象)
本願における注入対象は、例えば、細胞、細胞シート内の細胞、組織内の細胞、器官(臓器)内の細胞、器官系内の細胞、個体(生体)内の細胞等のいずれであってもよく制限はない。好ましい注入対象としては、哺乳動物由来の前記注入対象が挙げられる。より好ましくは、哺乳動物個体(生体)内の細胞であり、さらに好ましくは皮膚内の細胞であり、よりさらに好ましくは、皮内、皮下及び皮筋からなる群から選択される一以上の組織内の細胞である。この場合、注入器から哺乳動物個体(生体)の皮膚表面に生体分子を含む溶液を射出し、該皮膚表面から該皮膚内の皮内、皮下及び皮筋からなる群から選択される一以上の組織内の細胞に注入する方法を採用できる。
また、注入器から注入対象に生体分子を含む溶液を注入する場合の系としては、in vitro系、in vivo系、ex vivo系をはじめ、いずれであってもよい。
また、哺乳動物としては特に制限されないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、イヌ、ネコ等が挙げられる。また、注入対象によっては、哺乳動物としてヒトを除く態様も挙げられる。
【0081】
(注入対象の細胞核内に生体分子を含む溶液が直接注入されたことを確認する方法)
注入対象の細胞核内に生体分子を含む溶液が直接注入されたことを確認する方法は、特に制限されず、公知の生物学的手法を用いることができる。例えば、生体分子を予め蛍光標識しておき、注入対象の細胞核内に注入した後に蛍光顕微観察する方法などが挙げられる。後述の実施例では、哺乳動物個体(生体)内の細胞の細胞核に直接注入されるDNAとしてCy3標識プラスミドV7905(Mirus社製)を用い、核染色色素としてDAPIを用いている。サンプルは、例えば、DNAを注入後に直ちに組織を取得し、切片化して調製することができる。このとき、DAPI染色を同時に行ってもよい。Cy3標識プラスミドV7905が注入された位置では赤色の蛍光を発し、細胞核の位置ではDAPIにより青色の蛍光を発することから、蛍光顕微観察により、青紫色の蛍光を発する位
置が、細胞核内に直接注入されたCy3標識プラスミドV7905の位置であると同定できる。
【0082】
本願の注入器の他の態様は、注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記注入対象内における前記生体分子を含む溶液の先端の変位xと該溶液の先端の速度u(x)との関係を、下記式(1)で表されるフィッティング関数により、最小二乗法を用いてフィッティングしたとき、漸近速度uが0.01以上である、
注入器である。
u(x)=uexp(-kx)+u ・・・(1)
(式(1)中、uは速度係数(m/s)を示し、kは減衰係数(1/mm)を示し、uは漸近速度(m/s)を示す。)
【0083】
本態様の説明には、これまでに説明した本願の開示を援用する。すなわち、生体分子を含む溶液の挙動(流れ)を測定するために、図1図13に基づいて説明した測定システムや測定方法を適用することができる。
【0084】
<注入器を用いて注入対象の細胞内に生体分子を含む溶液を注入する方法の発明(以下、単に「注入方法の発明」ともいう。)>
本発明は、上記の注入器を用いて、注入対象の細胞内に生体分子を含む溶液を注入する方法である。
注入方法の発明における注入器、注入対象、生体分子を含む溶液については、上記した注入器の発明の説明を援用する。
【実施例
【0085】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(皮内拡散速度の評価)
[実施例1-1]
ラットから摘出した皮膚組織を準備した。図14に示す注入器(ノズル径:直径0.1mm)に100μLの墨汁を充填し、点火薬の燃焼により生じる圧力により皮膚組織内に墨汁を注入した。皮膚組織内において広がる墨汁の先端の変位xと該墨汁の先端の速度u(x)を測定した。当該測定において、図1図13に基づいて説明した測定システムや測定方法が有用である。また、火薬として、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)を35mg用い、ガス発生剤として、シングルベース無煙火薬を40mg用いた。測定には、高速カメラ(Photoron社製、FASTCAM SA-Z)を用いた。
[実施例1-2]
ZPPを55mg用いたこと以外は、実施例1-1と同様にした。
[比較例1-1]
無針注射器としてBiojector 2000(登録商標、バイオジェクトメディカルテクノロジーズ社製、ノズル径:0.12mm)を用い、100μLの墨汁を充填して、取扱説明書に従って行った。測定は、実施例1-1と同様にした。
【0087】
図15-1と表1-1は、それぞれ、実施例1-1における、皮膚組織内における墨汁
の先端の変位xと該墨汁の先端の速度u(x)との関係を示すグラフと表である。
尚、表1-1においては、ある時刻の墨汁の先端の速度の測定値(a)は、その1つ前に
記載した時刻の墨汁の変位と、その1つ後に記載した時刻の墨汁の変位との差をその時間で除したものである。例えば、表1-1において、時刻0.9ミリ秒欄の測定値は、時刻0.8ミリ秒における墨汁の変位と時刻1.0ミリ秒における墨汁の変位との差をその時間0.2ミリ秒間で除したものである。尚、計算値(b)はフィッティングに用いた数値で
ある。
また、表1-1の時刻は0.8ミリ秒から記載しているが、注入対象内における墨汁の移動が観察されたのが0.8ミリ秒以降であっただけであり、0.8ミリ秒自体に意味があるわけではない。
【0088】
【表1-1】
【0089】
図15-2と表1-2は、それぞれ、実施例1-2における、注入対象内における墨汁の先端の変位xと該墨汁の先端の速度u(x)との関係を示すグラフと表である。表1-2に数値については、既に記載した表1-1の説明と同様である。
【0090】
【表1-2】
【0091】
図15-3と表1-3は、それぞれ、比較例1-1における、注入対象内における墨汁の先端の変位xと該墨汁の先端の速度u(x)との関係を示すグラフと表である。表1-3に数値については、既に記載した表1-1の説明と同様である。
【0092】
【表1-3】
【0093】
実施例1-1、実施例1-2、比較例1-1で得られた結果を、速度係数uで規格化することにより、図16のグラフを得た。
結果を整理すると、
実施例1-1では、u=3.97、k=2.89、u=0.02であった。
実施例1-2では、u=5.11、k=2.26、u=0.04であった。
比較例1-1では、u=7.54、k=1.58、u=0.00であった。
【0094】
(哺乳動物個体(生体)内の細胞の細胞核内へのDNA溶液の注入試験)
[実施例2-1]
上記実施例1-1で用いた注入器に、火薬として、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)を35mg、ガス発生剤として、シングルベース無煙火薬を40mg用い、Cy3標識プラスミドV7905を含む溶液30μL(溶媒:エンドトキシンフリーTEバッファ)、終濃度:0.1mg/mL)を充填し、雌性SDラット(10週齢)の腰背部の皮膚に注入した。
【0095】
注入後直ちに採皮し、OCTコンパウンド(凍結組織切片作製用包埋剤(ティシュー・テックO.C.T.コンパウンド)、サクラファインテックジャパン社製)中でドライアイスにより凍結した。クライオスタット(ライカ社製)を用いて注入部断面を6μmの厚さで薄切しDAPI入り封入剤で封入した。作成した試料をオールインワン蛍光顕微鏡(Z-X700、キーエンス社製)で蛍光観察し、Cy3の赤色蛍光画像とDAPIの青色蛍光画像を0.1~0.4μm厚みで取得した。注入領域での注入分布を得るために複数の視野での画像を取得した。その結果を図17-1に示す。尚、「1mm」、「2mm」との文言が付された、破線で描いた同心円は、注入口を中心とする同心円である。白色の矢印は注入口を示す。
DNAが直接注入された細胞数の割合を、ハイブリッドセルカウント機能を用いて次のように算出した。すなわち、各解析対象領域(図17-1における白色の破線で囲われた各領域)内の各細胞について、細胞の面積に対して、青色蛍光と赤色蛍光とが重なった紫色蛍光の面積が50%以上である細胞を、DNAが直接注入された細胞と定義し、その細胞数を数えた(これを細胞数Aとする。)。一方で、各解析対象領域内の全細胞数を細胞核の個数を指標にして数えた(これを細胞数Bとする。)。図17-1の各解析対象領域に記載した数値は、細胞数Bに対する細胞数Aの割合である。尚、Cy3の赤色蛍光がほとんど観察されない表皮と毛包については解析対象から除外した。
【0096】
また、図17-4は注入口付近の画像であり、DNA溶液が注入されたことによる注入口付近の組織の損傷度合を評価するための画像である。損傷部分は各図において白線で囲んだ部分である。
【0097】
[実施例2-2]
ZPPを55mg用いたこと以外は、実施例2-1と同様にした。結果を図17-2に示す。また、注入口付近の画像を図17-5に示した。
【0098】
[比較例2-1]
上記比較例1-1で用いたBiojector 2000を用い、Cy3標識プラスミドV7905を含む溶液70μLに変更して、取扱説明書に従って行ったこと以外は、実施例2-1と同様にした。結果を図17-3に示す。また、注入口付近の画像を図17-6に示した。
【0099】
図17-1、図17-2、図17-3より、実施例2-1、実施例2-2においては、比較例2-1に比べて、注射口から広範囲の細胞の細胞核に直接注入されるDNAの割合が顕著に大きかった。
また、図17-4、図17-5、図17-6より、実施例2-1、実施例2-2においては、比較例2-1に比べて、注射口付近の組織の損傷が顕著に小さかった。詳細には、損傷部分の面積は、実施例2-1では1.3×10μmであり、実施例2-2では5.2×10μmであった一方、比較例1-1では2.7×10μmであった。
【符号の説明】
【0100】
1 :注射器
3 :コンテナ部
20 :制御装置
21 :第1照射装置
22 :第2照射装置
30 :高速度カメラ
31 :流路
31a :射出口
31b :ノズル部
32 :先端面
33a :第1外周面
33b :第2外周面
33c :第3外周面
34 :収容空間
35 :反射部材
38 :反射層
40 :電源装置
51 :対象物
101 :注射器
102 :ハウジング
103 :シリンジ部
104 :プランジャ
105 :ピストン
106 :注射器本体
107 :駆動部
108 :ボタン
109 :バッテリ
110 :注射器組立体
131 :ノズル部
131a :射出口
132 :充填室
171 :点火器
図1
図2
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図15-1】
図15-2】
図15-3】
図16
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図17-4】
図17-5】
図17-6】