IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7604586三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置
<>
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図1
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図2
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図3
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図4
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図5
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図6
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図7
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図8
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図9
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図10
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図11
  • 特許-三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法及び三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20241216BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20241216BHJP
【FI】
B29C64/106
B29C64/393
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023153957
(22)【出願日】2023-09-20
(62)【分割の表示】P 2018211542の分割
【原出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2023164670
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2017235599
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 尚存
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-122501(JP,A)
【文献】特開平10-156951(JP,A)
【文献】特開平10-119136(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103025506(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1849207(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1046613(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101309766(CN,A)
【文献】特開2018-047556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/106
B29C 64/386
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を固化させて三次元造形物を製造する製造方法であって、
前記材料の第1層において、第1の領域で前記材料を硬化させることにより、第1の硬化部を形成し、前記第1層において、前記第1の硬化部に隣接する領域に第1の未硬化部を画成し、前記第1層において、前記第1の領域と隣接する第2の領域で第1の部分を画成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記材料の第2層において、前記第1の硬化部に隣接する第3の領域で前記材料を硬化させることにより第2の硬化部を形成し、前記第2層において、前記第2の硬化部に隣接する領域に第2の未硬化部を画成し、前記第2層において、前記第3の領域に隣接する第4の領域で第2の部分を画成する第2工程と、
前記第1工程及び前記第2工程の後、前記第1の部分及び前記第2の部分を硬化させることにより、第3の硬化部を形成する第3工程と、
前記第3工程の後、前記第1の未硬化部及び前記第2の未硬化部が未硬化のままで、前記材料の第3層において、前記第2の硬化部及び/又は前記3の硬化部に隣接する領域で前記材料を硬化させることにより、第4の硬化部を形成する第4工程と、を備えている、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第1の部分が、前記第1の硬化部に囲まれることにより画成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第4の硬化部が、前記第2の硬化部及び前記第3の硬化部に隣接する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記材料は、液状の光硬化性樹脂であり、
前記第1工程は、第1の強度を有する光を用いて前記第1の領域で前記材料を硬化させることにより、前記第1の硬化部を形成することを含み、
前記第2工程は、第2の強度を有する光を用いて前記第3の領域で前記材料を硬化させることにより、前記第2の硬化部を形成することを含み、
前記第3工程は、第3の強度を有する光を用いて前記第1の部分および前記第2の部分を硬化させることにより前記第3の硬化部を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第3の強度は、前記第1の強度よりも強い、
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程は、第4の強度を有する光を用いて前記第2の領域で前記材料を硬化させることにより、前記第1の部分を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程において、前記第2の領域に照射される光の強度を、前記第1の領域に向かって段階的または連続的に増やす、
ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第2の領域に照射される光の強度を、前記第1層及び前記第2層を含む複数の層が積層される方向に段階的に増やす、
ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記第3工程において照射される光の方向は、前記第1工程において前記材料に照射される光の方向とは異なっている、
ことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記材料を収容する容器から、前記第1の硬化部、前記第2の硬化部、前記第3の硬化部及び前記第4の硬化部を含む対象物を取り出す工程を更に備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第1の硬化部は、前記第1の部分と前記第1の未硬化部との間に位置し、
前記第2の硬化部は、前記第2の部分と前記第2の未硬化部との間に位置する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第1の未硬化部及び前記第2の未硬化部を固化させること無く、前記材料を収容する容器から前記第1の硬化部、前記第2の硬化部及び前記第3の硬化部を含む対象物を取り出す工程を備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第4工程の後に、前記材料の第4層において、第5の領域で前記材料を硬化させることによって第5の硬化部を形成し、前記第4層において、前記第5の領域に隣接する第6の領域で第3の部分を画成する第5工程と、
前記第5工程の後に、前記材料の第5層において、前記第5の硬化部に隣接する第7の領域で前記材料を硬化させることにより第6の硬化部を形成し、前記第5層において、前記第7の領域に隣接する第8の領域で第4の部分を画成する第6工程と、
前記第5工程及び前記第6工程の後に、前記第3の部分及び前記第4の部分を硬化させることにより第7の硬化部を形成する第7工程と、を備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記第2の強度が前記第1の強度と等しい、
ことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項15】
前記第3の強度が前記第2の強度よりも強い、
ことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項16】
前記第4の強度が前記第1の強度よりも弱い、
ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項17】
前記第2工程は、第5の強度を有する光を用いて前記材料を硬化させることにより前記第2の部分を形成することを含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項18】
前記第3の強度が前記第5の強度よりも強い、
ことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記第4の強度が前記第5の強度よりも強い、
ことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
前記第4の強度が前記第5の強度よりも弱い、
ことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項21】
前記第3の強度は前記第1の強度よりも強く、前記第4の強度は前記第1の強度よりも弱く、前記第5の強度は前記第4の強度とは異なる、
ことを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【請求項22】
材料を用いて三次元造形物を形成する三次元造形装置であって、
制御手段と、
前記制御手段の制御に基づいて前記材料を硬化させる硬化手段と、を備え、
前記制御手段は、請求項1乃至21のいずれか1項に記載の製造方法を前記硬化手段に実行させるように前記硬化手段を制御するように構成されている、
ことを特徴とする三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物を製造する製造方法及び三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元造形装置は、造形速度及び造形精度の向上によって、試作品やモックアップモデルに限らず、自動車や鉄道車両の部品など一部の量産製品の製造にも使用されるようになってきている。積層方式の三次元造形では、一層分の造形材を硬化させた後、その層の表面に次の層の造形材を供給し、次の層の造形材を硬化させて、三次元造形物を製造する。
【0003】
一方、特許文献1には、ねじ山のような微細な形状を必要とする部分は、硬化深度を浅くして造形し、ねじの軸芯部にあたる中実の部分は、硬化深度を深くして、積層厚みを大きくすることが記載されている。この特許文献1には、その効果として、造形時間を短縮することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-119136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、三次元造形装置を用いて製造される三次元造形物においては、積層構造をとるため、互いに隣接する二つの層間には境界面が形成されることになる。したがって、層間の密着性が低く、境界面において剥離が生じやすくなっており、三次元造形物の強度が低いものであった。特許文献1に記載の方法においても、中実の部分の強度は高くなるものの、中実の部分と中実の部分との境界面において剥離が生じやすくなっているため、三次元造形物の強度は依然として低いものであった。
【0006】
そこで、本発明は、三次元造形物の機械的な強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、材料を固化させて三次元造形物を製造する製造方法であって、前記材料の第1層において、第1の領域で前記材料を硬化させることにより、第1の硬化部を形成し、前記第1層において、前記第1の硬化部に隣接する領域に第1の未硬化部を画成し、前記第1層において、前記第1の領域と隣接する第2の領域で第1の部分を画成する第1工程と、前記第1工程の後に、前記材料の第2層において、前記第1の硬化部に隣接する第3の領域で前記材料を硬化させることにより第2の硬化部を形成し、前記第2層において、前記第2の硬化部に隣接する領域に第2の未硬化部を画成し、前記第2層において、前記第3の領域に隣接する第4の領域で第2の部分を画成する第2工程と、前記第1工程及び前記第2工程の後、前記第1の部分及び前記第2の部分を硬化させることにより、第3の硬化部を形成する第3工程と、前記第3工程の後、前記第1の未硬化部及び前記第2の未硬化部が未硬化のままで、前記材料の第3層において、前記第2の硬化部及び/又は前記第3の硬化部に隣接する領域で前記材料を硬化させることにより、第4の硬化部を形成する第4工程と、を備えている、ことを特徴とする製造方法である。
【0008】
本発明の一態様は、材料を用いて三次元造形物を形成する三次元造形装置であって、制御手段と、前記制御手段の制御に基づいて前記材料を硬化させる硬化手段と、を備え、前記制御手段は、上記製造方法を前記硬化手段に実行させるように前記硬化手段を制御するように構成されている、ことを特徴とする三次元造形装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、三次元造形物の機械的な強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る三次元造形装置を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係る製造方法により製造される三次元造形物の一例を示す断面図である。
図3】(a)~(c)は、第1実施形態に係る三次元造形物Wの製造方法を説明するための図である。
図4】(a)~(c)は、第1実施形態に係る三次元造形物Wの製造方法を説明するための図である。
図5】(a),(b)は、第1実施形態に係る三次元造形物Wの製造方法を説明するための図である。
図6】第1実施形態において光を照射する方向の説明図である。
図7】(a)は、第2実施形態における三次元造形物の製造方法の説明図である。(b)は、第3実施形態における三次元造形物の製造方法の説明図である。
図8】第4実施形態における三次元造形物の製造方法の説明図である。
図9】第5実施形態に係る三次元造形装置を示す模式図である。
図10】(a)は、実施例1において作製した試験片の斜視図、(b)は、試験片の平面図、(c)は、試験片の断面図である。
図11】実施例2において作製した試験片の一部を示す平面図である。
図12】(a)は、実施例3において作製した試験片の斜視図、(b)は、実施例3において作製した試験片の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で、三次元造形物は、完成品に限らず、全層のうち途中層まで積層した半完成品も指す。
【0012】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る三次元造形装置100を示す模式図である。三次元造形装置100は、光造形法により三次元造形物Wを製造する3Dプリンタである。三次元造形装置100は、造形材の一例である液状の光硬化性樹脂Rを貯留する容器101と、造形テーブル102と、造形テーブル102を駆動する駆動部103と、駆動部103を制御する駆動制御部104とを備えている。また、三次元造形装置100は、硬化手段の一例である露光ユニット105と、露光ユニット105を制御する露光制御部106と、を備えている。更に、三次元造形装置100は、装置全体を統括的に制御する装置制御部107を備えている。駆動制御部104、露光制御部106及び装置制御部107により、制御手段の一例である制御システム120が構成されている。本実施形態の三次元造形装置100は、造形テーブル102を下降させて造形物を造形する沈降方式を採用している。
【0013】
容器101に貯留される液状の光硬化性樹脂Rは、特定の波長域の光が照射されると硬化(固化)する液状の樹脂であり、本実施形態では、UV光(紫外光)により硬化する樹脂である。光硬化性樹脂Rの材質としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等、種々の樹脂材を用いることが可能であるが、アクリル系樹脂であるのが好ましい。
【0014】
装置制御部107は、CPU301、ROM302、RAM303及びI/O304等を有するコンピュータで構成される。CPU301は、予めROM302等に記憶された制御プログラムに従って駆動制御部104及び露光制御部106に指令やデータを送ることで、装置全体を制御する。また、本実施野形態において、上記ROM302は、複数の層を積み重ねて造形物を造形するための三次元造形装置に用いるデータが記載された非一過性の記録媒体となっている。
【0015】
造形テーブル102は、垂直方向(上下方向)であるZ方向に移動可能に容器101の内部に配置されている。駆動部103は、ステッピングモータ等のモータと、モータの回転運動を直線運動に変換する機構、例えば送りねじ機構とを有して構成され、造形テーブル102をZ方向に移動させる。駆動制御部104は、装置制御部107の指令に従って駆動部103を制御する。
【0016】
露光ユニット105は、光源111及びスポット光源112からなる光源部である光源ユニット110と、液晶パネル113と、スポット光源112の位置及び姿勢を調整可能なレール114と、を備えている。
【0017】
光源111は、UV光L1を広域に照射するものである。液晶パネル113は、Z方向に直交する水平方向の2方向であるXY方向にマトリックス状に配列された複数のセルを有し、複数のセルにUV光L1が照射されるよう、光源111と造形テーブル102との間に配置されている。なお、液晶パネル113を省略してもよく、液晶パネル113を省略した場合には、光源111にDLPのような露光素子を用いれば、選択的にUV光L1を照射することができる。スポット光源112は、UV光をスポット的に照射するものである。いずれの光源111,112も、照射するUV光の光強度を調整可能となっている。
【0018】
露光制御部106は、光源111及びスポット光源112を駆動して発光させ、液晶パネル113の各セルにおける光の透過量を制御することで、造形テーブル102上の光硬化性樹脂Rに所望のパターンのUV光L2を露光するよう制御する。
【0019】
三次元造形物Wの一層分のパターンのUV光L2が液状の光硬化性樹脂Rに照射されると、照射された部位の光硬化性樹脂Rが硬化し、造形テーブル102上に三次元造形物Wの一層分の硬化物が形成される。駆動部103が一層の厚み分、造形テーブル102を下降させて硬化物を順次積層していくことで三次元造形物Wを形成することができる。
【0020】
図2は、後述する製造方法により製造される三次元造形物Wの一例を示す断面図である。図2に示す三次元造形物Wは、例えばタワー型の先細り形状の造形物である。三次元造形物Wは、三次元造形装置100が沈降方式であるため、下から上に向かって硬化物が順次積層されて造形される。
【0021】
三次元造形物Wは、積層方向であるZ方向に一層ずつ硬化させて積層された硬化物からなる積層部430と、Z方向に連続する複数の層に跨って配置された、硬化物からなる複数のシームレス部431~436とで構成されている。具体的には、例えば、第n層は、任意の層を第n層とした時、第n層(nは2以上の自然数)の硬化部を形成する。それとともに、第n層の硬化部と接する領域であって造形材の未硬化部である第一部分433と、前記第n層の硬化部と接する領域であって造形材の未硬化部であり第n-1層の未硬化部と連通する第二部分432と、を形成する(第n層形成工程/第n層形成処理)。
【0022】
第n層形成工程の後、次の第n+1層は、造形材を硬化させて、第n層の未硬化部である第二部分432と接する領域に第n+1層の硬化部を形成する。それとともに、第n+1層の硬化部と接する領域であって造形材の未硬化部である第n層の未硬化部である第一部分433と連通した第三部分433を形成する(第n+1層形成工程/第n+1層形成処理)。
【0023】
これを繰り返すことで、硬化部である積層部430と、未硬化部であるシームレス部431~436が形成される。硬化部である積層部430と、未硬化部であるシームレス部431~436とは、同じ材料で形成されている。複数のシームレス部431~436を形成することで、各シームレス部431~436が楔として作用し、積層部430における層間の密着力を高めることができる。
【0024】
また、複数のシームレス部431~436のうち、二つのシームレス部432,433がZ方向にずれて配置され、かつ二つのシームレス部432,433の一部同士がZ方向で同じ位置に配置されている。シームレス部432の一部とシームレス部433の一部とをZ方向でオーバーラップさせることで、シームレス部432のZ方向の境界面を含む層と、これに隣接する層とが、楔として作用するシームレス部433により密着力を高めることができる。同様に、シームレス部433のZ方向の境界面を含む層と、これに隣接する層とが、楔として作用するシームレス部432により密着力を高めることができる。このように、二つのシームレス部432,433の一部同士がZ方向で同じ位置に形成されることで、楔としての相互作用により、積層部430における層間の密着力を高めることができ、三次元造形物Wの強度を高めることができる。
【0025】
同様に、二つのシームレス部433,434の一部同士がZ方向で同じ位置に形成されており、シームレス部434,435の一部同士がZ方向で同じ位置に形成されている。このため、同様に、楔としての相互作用により、積層部430における層間の密着力を高めることができ、三次元造形物Wの強度を高めることができる。具体的には、図2に示す、例えば、任意の層を第n層とした時、第n+1層と境界がない第一部分(433)と、第n-1層と境界がなく、第n+1層と境界のある第二部分(432)とを有する。
【0026】
なお、三次元造形物Wにおいて、図2に示すように、積層部430の各層の硬化物同士、及び積層部430とシームレス部431~436との間に境界面が形成される。境界面は造形物の断面を切り出し、その断面を観察することにより境界の有無を確認する。目視で確認することができない場合は、その断面を電子顕微鏡により観察し、各層の間に線が確認されれば、境界(境界面)があるものとする。境界面がない、即ち製造過程で境界面が消失することもある。三次元造形物Wにおいて境界面が消失している場合であっても、製造過程においては、積層部430は、一層ずつ積層して形成され、シームレス部431~436は、それぞれ一括して形成されるものである。
【0027】
以下、本実施形態に係る三次元造形物Wの製造方法について具体的に説明する。なお、装置制御部107が駆動制御部104に指令を送信し、指令を受信した駆動制御部104が指令に従って駆動部103を駆動し、駆動部103の駆動により造形テーブル102が上下方向(Z方向)に移動する。よって、制御システム120における装置制御部107が造形テーブル102を制御するものとして説明する。また、装置制御部107が露光制御部106に指令(後述するスライスデータを含む)を送信し、露光制御部106が指令に従って光源111、スポット光源112、液晶パネル113を駆動する。よって、制御システム120における装置制御部107が光源111、スポット光源112及び液晶パネル113を制御するものとして説明する。
【0028】
まず、装置制御部107は、予め入力された三次元造形物Wの三次元の形状データから、積層ピッチ(層厚)、例えば30[μm]の薄い層に分けた複数のデータ(スライスデータ)を作成する。複数のデータのそれぞれのデータは、薄い層に分けた、複数の層のそれぞれの硬化部分と未硬化部分とを示すように作成されている。装置制御部107は、各スライスデータに対応する領域を、硬化部分である第一領域と未硬化部分である第二領域とに分ける。具体的には、一層ずつ光硬化性樹脂Rを硬化させる硬化部分である第一領域と、積層方向であるZ方向に連続する複数の層に跨って一括で光硬化性樹脂Rを硬化させる部分(一層ずつ硬化させる際は硬化させない未硬化部分)である第二領域とに分ける。第一領域は、図2の積層部430に相当する。第二領域は、図2のシームレス部431~436に相当する。つまり、図2における複数の層の一つ一つがスライスデータによって光を照射させて硬化させて形成されたものであり、図2の下から上を見た時の位置が、光が照射される位置となる。具体的には、複数の層のうちの一つである第n層のスライスデータは、未硬化部分(光を照射させないあるいは硬化部分より弱い光を照射させる部分)を2か所(第一部分433、第二部分432)有している。第一部分は、第n+1層のスライスデータの未硬化部分と少なくとも一部が同じ位置にある。そして、第二部分は、第n-1層のスライスデータの未硬化部分と少なくとも一部が同じ位置にあり、かつ第n+1層のスライスデータの硬化部分と同じ位置にある。第一領域及び第二領域は、不図示の入力装置を用いて作業者によって設定される。
【0029】
図3(a)、図3(b)、図3(c)、図4(a)、図4(b)、図4(c)、図5(a)及び図5(b)は、第1実施形態に係る三次元造形物Wの製造方法を説明するための図である。なお、以下の説明において、層とは、製造過程を説明するために便宜的に規定したものであり、実際に製造された三次元造形物Wが層状となっていなくてもよい。
【0030】
まず、図3(a)に示すように、装置制御部107は、容器101内において、造形テーブル102を液状の光硬化性樹脂Rの表面に対して一層の厚み分、沈降させておく。装置制御部107は、光源111を駆動して発光させ、積層部430(図2)の第一層に相当する第一領域のみUV光L2が透過するよう液晶パネル113を駆動して、光硬化性樹脂RにUV光L2を照射させる。本実施形態では、第一層のスライスデータに対応する全領域の光硬化性樹脂Rを硬化させるのではなく、第一領域のみUV光L2を照射して光硬化性樹脂Rを硬化させる。これにより、領域A1(図3(c))における第一層の部分領域A11を画成する、積層部430(図2)の一部となる硬化物H1が形成される。
【0031】
次に、図3(b)に示すように、装置制御部107は、造形テーブル102を一層の厚み分、更に沈降させる。造形テーブル102上に形成された硬化物H1上には、液状の光硬化性樹脂Rが周囲から流入する。装置制御部107は、光源111を駆動して発光させ、積層部430(図2)の第二層に相当する第一領域のみUV光L2が透過するよう液晶パネル113を駆動して、光硬化性樹脂RにUV光L2を照射させる。本実施形態では、第二層のスライスデータに対応する全領域の光硬化性樹脂Rを硬化させるのではなく、第一領域のみUV光L2を照射して光硬化性樹脂Rを硬化させる。これにより、領域A1(図3(c))における第二層の部分領域A12を画成する、積層部430(図2)の一部となる硬化物H2が形成される。
【0032】
以上の処理を複数層分行うことで、図3(c)に示すように、光硬化性樹脂Rを硬化させた複数層の硬化物H1~H6により、Z方向に連続する複数層に跨った、光硬化性樹脂Rの硬化が完了していない領域A1を画成する。領域A1は、この時点では上面が開放されており、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rに露光が可能となっている。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、装置制御部107は、スポット光源112を駆動して発光させ、領域A1に位置する光硬化性樹脂RにUV光L3を照射する。このとき、装置制御部107は、領域A1の形状に応じて、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rに照射するUV光L3の方向、即ちスポット光源112の位置姿勢を調整しておく。また、装置制御部107は、スポット光源112からのUV光L3が液晶パネル113を透過するよう液晶パネル113を駆動しておく。装置制御部107は、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rに、領域A1を画成するときに照射したUV光L2の強度よりも強い強度のUV光L3を照射することで、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rを、複数の層に相当する分、一括で硬化させる。これにより、領域A1には、硬化物H1~H6の複数の層に跨ったシームレス部431が形成される。
【0034】
更に、図4(b)に示すように、更に第七層~第十層の硬化物H7~H10を形成することで、シームレス部432に対応する領域A2全体が画成される。そして、図4(c)に示すように、装置制御部107は、スポット光源112の位置及び姿勢を調整し、スポット光源112を駆動して発光させ、領域A2に位置する光硬化性樹脂RにUV光L3を照射する。これにより、領域A2において、硬化物H7~H10の複数の層に跨ったシームレス部432が形成される。
【0035】
ここで図4(b)に示すように第九層及び第十層において、硬化物H9,H10により、シームレス部432に対応する領域A2の部分領域A23,A24のほか、シームレス部433に対応する領域A3(図5(a))の部分領域A31,A32も画成する。なお、図4(c)に示すように領域A2の光硬化性樹脂Rを硬化させるときには、装置制御部107は、部分領域A31,A32にスポット光源112の光が照射されないように液晶パネル113を駆動する。
【0036】
図5(a)に示すように、更に第十一層及び第十二層の硬化物H11,H12を形成することで、シームレス部433に対応する領域A3全体が画成される。そして、図5(b)に示すように、装置制御部107は、スポット光源112の位置及び姿勢を調整し、スポット光源112を駆動して発光させ、領域A3に位置する光硬化性樹脂RにUV光L3を照射する。これにより、領域A3において、複数の層に跨ったシームレス部433が形成される。
【0037】
以上、光硬化性樹脂RをZ方向に一層ずつ硬化させると共に、硬化物によりZ方向に連続する複数の層に跨った領域(図3(a)~図3(c)、図4(b)及び図5(a)の例では領域A1~A3)を複数画成する(S1:第一工程、第一処理)。なお、領域A1を画成するのは硬化物H1~H6であり、領域A2を画成するのは硬化物H7~H10であり、領域A3を画成するのは硬化物H9~H12ということになる。そして、工程S1により、二つの領域A2,A3がZ方向にずれて画成され、かつ二つの領域A2,A3の一部同士がZ方向で同じ位置(第九層、第十層)に画成されるよう、光硬化性樹脂Rを硬化させて、硬化物H9,H10を形成する。
【0038】
また、図4(a)、図4(c)及び図5(b)に示すように、各領域A1,A2,A3に位置する光硬化性樹脂Rを、一括で硬化させる(S2:第二工程、第二処理、硬化工程、硬化処理)。本実施形態では、工程S2において、各領域A1,A2,A3の画成が完了する度に、各領域A1~A3に位置する光硬化性樹脂Rを個別に硬化させる。各領域A1~A3が硬化物で封止される前に各領域A1~A3の光硬化性樹脂Rを硬化させておくことで、硬化物がUV光の透過性の低い材質であっても、内部に未硬化(又は半硬化)の樹脂を残すことなく三次元造形物Wを製造することが可能となる。別の言い方をすれば、本実施の形態においては、硬化工程において、第n+1層形成工程前(第n+1層形成処理前)に第二部分を硬化させ、第n+1層形成工程後に第一部分および第三部分を硬化させている。
【0039】
以上の処理を繰り返し実行させることにより、図2に示す三次元造形物Wが製造される。このように製造された三次元造形物Wは、各領域A1,A2,A3の位置に楔として作用するシームレス部431,432,433を備えることになる。
【0040】
以上、工程S2において、各領域A1~A3の光硬化性樹脂Rを一括で硬化させることにより、各領域A1~A3の内部に境界面が形成されるのが防止され、三次元造形物Wの強度を高めることができる。更に、画成される二つの領域A2,A3により、Z方向に一部重なった状態でZ方向にずれた二つのシームレス部432,433が形成されるので、三次元造形物Wの強度を高めることができる。
【0041】
ここで、図3(c)に示すように、領域A1は光硬化性樹脂Rを硬化させた硬化物H1~H6の内側に画成される。また、図4(b)に示すように、領域A2は光硬化性樹脂Rを硬化させた硬化物H7~H10の内側に画成される。また、図5(a)に示すように、領域A3は光硬化性樹脂Rを硬化させた硬化物H9~H12の内側に画成される。即ち、三次元造形物Wの外形を構成する部分が、硬化物H1~H12で高精度に形成される。そして、図3(c)、図4(b)及び図5(a)の段階では、領域A1,A2,A3内の光硬化性樹脂Rは、未硬化状態であるため、硬化物H1~H6、硬化物H7~H10又は硬化物H9~H12で保持されて流亡するのが防止される。
【0042】
また、例えば、複数の層に跨る領域A1のうち、隣接する二つの層が、Z方向から視て、面積比で25[%]以上100[%]以下の範囲で重なるよう領域A1を画成するのが好ましい。領域A2,A3においても同様である。この重なりにより、各シームレス部431,432,433において連続性が維持され、三次元造形物Wの強度を高めることができる。
【0043】
なお、図3(c)に示す工程S1の露光と、図4(a)に示す工程S2の露光とを別々に行う場合について説明したが、同時に行ってもよい。同様に、図4(b)に示す工程S1の露光と、図4(c)に示す工程S2の露光とを同時に行ってもよい。同様に、図5(a)に示す工程S1の露光と、図5(b)に示す工程S2の露光とを同時に行ってもよい。
【0044】
また三次元造形物Wの露光断面サイズが露光画素ピッチに近く、同一層でオーバーラップするよう複数のシームレス部をずらして形成するのが困難な部位においては、ずらさずにシームレス部を配置するか、又はシームレス部を配置しないようにしてもよい。例えば、図2に示す三次元造形物Wおいて、脚部のような断面積の小さい部位では、シームレス部431とシームレス部432とをZ方向に互い違いに配置するのが困難である。また、シームレス部435よりも上方は、先細り形状であるため、シームレス部435とシームレス部436とをZ方向に互い違いに配置するのが困難である。よって、このような部位については、各シームレス部を図2のように配置すればよい。
【0045】
また、図2に示すようなタワー型などの先細り形状の三次元造形物Wの場合には、上部ほど断面積が小さくなり、シームレス部を大きくとることが難しくなる。このような場合には、シームレス部のXY方向の断面積を小さくすればよいが、三次元造形物WにおいてXY方向に切断したときの断面積に対して、シームレス部の断面積を10[%]以上とするのが望ましい。
【0046】
また、三次元造形物Wは、上方に向かうに連れて断面積が小さくなるため、各シームレス部431~436は、三次元造形物Wの形状に合わせた形状に形成される。よって、各シームレス部431~436に対応する領域の形状に応じて、即ち各領域の形状に倣って、UV光L3の方向を調整すればよい。例えば傾斜して形成された領域A1にUV光L3を照射する場合には、領域A1の形状に倣って、UV光L3の方向が垂直方向に対して傾斜するように調整すればよい。
【0047】
図6は、第1実施形態においてUV光L3を照射する方向の説明図である。硬化物Hによって画成される領域Aは、各層でそのXY方向の位置が変化している。このような場合、直上からUV光L3を照射すると、硬化物Hの陰になってUV光L3が到達しない部分が生じる。したがって、図6に示すように、UV光L3の照射方向を調整することで、領域A全体にUV光L3を照射することができる。
【0048】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。上述の第1実施形態では、工程S1において、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rを未硬化状態とし、工程S2において一括で硬化させる場合について説明したが、これに限定するものではない。第2実施形態では、工程S1において、領域A1に位置する光硬化性樹脂Rを未硬化状態ではなく、半硬化状態にする。例えば工程S1において領域A1を画成するのに光硬化性樹脂Rを一層分硬化させる度に、同じ層の領域A1に位置する光硬化性樹脂Rに、領域A1を画成するときに硬化物H1~H6を形成するときの強度よりも弱い強度の光を照射すればよい。即ち、シームレス部431は、工程S2では複数の層に亘って一括して硬化させて形成されるが、特にUV硬化型の樹脂の場合、弱照射であっても暗反応が進み、徐々に硬化していくことがある。このため、工程S1において材料の特性に合わせて露光強度を制限して光を照射すればよい。なお、シームレス部431を例に説明したが、他のシームレス部432~436についても同様である。
【0049】
図7(a)は、第2実施形態における工程S1の説明図である。工程S1において、各層の硬化物Hを形成する度に、硬化物Hで画成される領域Aに位置する光硬化性樹脂Rに、例えば反応率10[%]程度となる光量のUV光LをXY方向に均一に照射する。
【0050】
領域Aにおける各層の光硬化性樹脂Rは、暗反応により徐々に硬化が進み半硬化状態となる。領域Aにおける光硬化性樹脂Rが流動性を保った状態で各層において同じ処理をすることで、継ぎ目のない連続的な半硬化部が得られる。このような半硬化部に対し、光硬化性樹脂Rの材料に応じたUV光透過率を考慮して、工程S2において適当な層数で一括硬化を行うと、連続的に形成されている半硬化部が一度に硬化される。UV光の到達しにくい下層部分は、暗反応によって上層部よりも硬化が進展しているため、全体を短時間で硬化することができる。
【0051】
また、工程S1において、光硬化性樹脂Rを半硬化させる場合、硬化物Hで画成される領域Aは、硬化物Hの内側に限定するものではなく、硬化物Hの外側、つまり外部に露出するように画成されてもよい。そして、工程S2において、領域内の半硬化部を一括で硬化させればよい。
【0052】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。上述の第2実施形態では、工程S1において、領域Aに位置する光硬化性樹脂Rを半硬化させる場合に、光硬化性樹脂Rに照射するUV光Lの強度を、XY方向で均一とする場合について説明した。第3実施形態では、工程S1において、領域Aに位置する光硬化性樹脂Rに照射するUV光の強度を、XY方向に領域Aの境界に近づくに連れて、段階的(又は連続的)に強くするよう調整する。
【0053】
図7(b)は、第3実施形態における工程S1の説明図である。硬化物Hで画成された領域Aにおいて、XY方向に硬化物Hに近づくに連れて、例えば硬化反応率5[%]、10[%]、15[%]というように、段階的(又は連続的)に露光量を増加させて、半硬化樹脂RA,RB,RCを形成してもよい。これにより、硬化物Hと領域Aとの境界をブロードにすることができ、工程S2において一括硬化を行うことにより、更に造形物の機械強度を高めることができる。
【0054】
なお、UV光の強度を、XY方向に領域Aの境界に近づくに連れて、段階的(又は連続的)に強くするよう調整する場合を例に説明したが、XY方向ではなく、Z方向(積層方向)であってもよい。この場合であっても、造形物の機械強度を高めることができる。
【0055】
[第4実施形態]
以下、第4実施形態について説明する。上述の第1~第3実施形態では、工程S1において、複数の層に跨る領域A1~A3を画成する度に、工程S2において、各領域A1~A3に位置する光硬化性樹脂Rを個別に硬化させる場合について説明したが、これに限定するものではない。
【0056】
図8は、第4実施形態における工程S2の説明図である。第4実施形態において、工程S1では、光硬化性樹脂Rを硬化させて硬化物からなる積層部430全体を形成することで、未硬化又は半硬化の光硬化性樹脂Rを保持する複数の領域全てを画成しておく。そして、工程S2において、複数の領域に位置する未硬化又は半硬化の光硬化性樹脂Rを一括で硬化させて、複数のシームレス部を一括で形成する。
【0057】
この場合、硬化物H全体を容器101内の液状の光硬化性樹脂R(プール)から引き上げた状態で、一括に硬化させる必要があるため、各領域に位置する光硬化性樹脂Rは、各領域から脱落しないようにしておく必要がある。図8の例では、硬化物Hの内側に各領域が形成されるようにしているので、容器101から積層部430を引き上げた状態でも、各領域に位置する光硬化性樹脂Rは脱落しない。また、領域に位置する光硬化性樹脂Rを半硬化状態としておけば、領域が外表面を構成する場合であっても、領域から光硬化性樹脂Rは脱落しない。そして、各領域に位置する光硬化性樹脂Rを一括に硬化させることで、三次元造形物Wの製造に要する時間を短縮することができる。本実施の形態では、硬化工程において、第n+1層形成工程後(第n+1層形成処理後)に第一部分、第二部分、および第三部分を硬化させる。
【0058】
複数の領域の光硬化性樹脂Rを一括で硬化させる方法としては、積層部430を形成する場合よりも光量を増大させて、即ち光強度を強くして、光を全体に照射するようにしてもよい。また、光硬化性樹脂Rが加熱によっても硬化する場合には、積層部430及びこれに保持された光硬化性樹脂Rの全体を加熱するようにしてもよい。この場合、硬化手段として、スポット光源112の代わりに熱源を備えておけばよい。
【0059】
[第5実施形態]
以下、第5実施形態について説明する。上述の第1~第4実施形態では、三次元造形装置100が造形テーブル102を下降させて造形物を造形する沈降方式の場合について説明したが、これに限定するものではない。図9は、第5実施形態に係る三次元造形装置100Aを示す模式図である。第5実施形態の三次元造形装置100Aは、造形テーブル102を上昇させて造形物を造形する吊り下げ方式のものである。なお、図9において、図1に示す三次元造形装置100と同様の構成については、同一符号を付しており、詳細な説明は省略する。
【0060】
三次元造形装置100Aは、吊り下げ方式であるため、容器101の下部に、UV光が透過する透過窓101Aが設けられ、容器101の下方に、露光ユニット105が配置されている。一層分の造形を行う際には、造形テーブル102を一層の厚み分、透過窓101Aに対して上昇させる。これにより、造形テーブル102に吊り下げられた形で三次元造形物が造形される。このような吊り下げ方式の三次元造形装置100Aにおいても、上述の第1~第4実施形態の方法により、三次元造形物を製造することができる。
【0061】
[実施例]
以下、図面を用いて実施例1~3について説明する。
【0062】
[実施例1]
図10(a)は、実施例1において作製した試験片WAの斜視図、図10(b)は、試験片WAの平面図、図10(c)は、試験片WAの断面図である。試験片WAの引張強度を計測するために、試験片WAを薄い板状とした。試験片WAの造形材には、武藤工業製の光硬化性樹脂であるMR-FG12を用いた。試験片WAは、図8に示す三次元造形装置100Aを用いて作製した。
【0063】
工程S1において、光源111が発するUV光の波長を405[nm]、UV光の強度を10[mW/cm]に設定し、下方から1[sec]照射して、順次引き上げながら積層し、積層部430Aを形成した。積層部430Aの一層の厚さは30[μm]とし、一層ごとに造形テーブル102を30[μm]引き上げて造形を行った。工程S1において、シームレス部431Aを形成する前の液状の光硬化性樹脂には、照射強度10[%]、即ち1[mW/cm]のUV光を照射して半硬化状態とした。
【0064】
工程S2において、スポット光源112にて半硬化状態の光硬化性樹脂に照射するUV光の強度を200[%]、即ち20[mW/cm]とし、6層分(180[μm])を一括して硬化させ、シームレス部431Aを形成した。また、実施例1では、各シームレス部431Aを個別に形成した。
【0065】
図10(c)に示すように、どの断面をみても、シームレス部431Aが2か所以上存在するように、シームレス部431Aを積層方向(Z方向)に互い違いになるように配置した。即ち、断面C1では2か所にシームレス部431Aが存在し、断面C2では4か所にシームレス部431Aが存在し、断面C3では2か所にシームレス部431Aが存在するように試験片WAを形成した。
【0066】
試験片WAの全体の外形は、Y方向の厚さを2[mm]、X方向の幅を18[mm]、Z方向の長さを35[mm]の直方体形状とした。シームレス部431AのY方向の厚さを0.5[mm]とした。比較のため、図示は省略するが、シームレス部のない同様の外形の試験片も三次元造形装置100Aで作製した。
【0067】
作製した実施例1の試験片WAと比較例の不図示の試験片に関し、Z方向に引張試験を行った。試験機にはINSTRON社製の電気機械式万能試験機5582を用い、0.2[mm/sec]の速度で試験を行った。
【0068】
シームレス部のない比較例の不図示の試験片の破断強度は、5.53[MPa]であった。これに対し、実施例1の試験片WAの破断強度は、6.41[MPa]であった。この実験結果から、実施例1の試験片WAにおけるZ方向の破断強度が、比較例に対して約16[%]向上することが確認された。
【0069】
[実施例2]
図11は、実施例2において作製した試験片WBの一部を示す平面図である。実施例2として、外形形状とシームレス部431Bの位置関係は実施例1と同様として、シームレス部431Bの露光方法を変化させて試験片WBを作製した。
【0070】
図11中、左側に示されるシームレス部431Bに着目して説明する。工程S1において、m層目の積層部430Bを形成させた後に(m+1)層目の積層部430Bを形成する。積層部430Bを形成する際に照射するUV光の強度を10[mW/cm]とした。このとき、積層部430Bで画成された領域の光硬化性樹脂に50[%]、即ち5[mW/cm]の強度のUV光を照射して半硬化状態とした。続く(m+2)層目は、3[mW/cm]の強度でUV光を照射し、続く(m+3)、(m+4)層目は、1[mW/cm]の強度でUV光を照射し、半硬化状態とした。(m+5)層目は、再び強度を上げて(m+2)層と同様に3[mW/cm]の強度でUV光を照射し、(m+6)層目は、(m+1)層目と同様に5[mW/cm]の強度でUV光を照射し、半硬化状態とした。
【0071】
工程S2において、スポット光源112にて半硬化状態の光硬化性樹脂に照射するUV光の強度を200[%]、即ち20[mW/cm]とし、6層分(180[μm])を一括して硬化させ、シームレス部431Bを形成した。
【0072】
実施例1と同様の引張試験を行ったところ、試験片WBの破断強度は6.47[MPa]であった。この実験結果から、実施例2の試験片WBにおけるZ方向の破断強度が、比較例に対して約17[%]向上することが確認された。そして、実施例1よりも破断強度が向上することが確認された。このように露光強度を変化させることで、シームレス部431Bにおいて積層部430Bに向かって半硬化させるときの光強度を段階的に変化させたことで、全体を一体化することができ、より造形物の強度が向上することが確認された。
【0073】
なお、以上の実験では、積層部430Bの各層と同じ層厚で段階的にUV光の照射強度を変更したが、光硬化性樹脂を段階的に半硬化させる層厚は、任意に設定することができる。例えば層厚30[μm]の半分の15[μm]毎に段階的にUV光の照射強度を変更してもよい。また、Z方向に段階的に変更する場合について実験を行ったが、Z方向に連続的にUV光の照射強度を変更してもよい。段階的又は連続的にUV光の強度を変更するいずれの場合であっても、造形物の強度が向上する。
【0074】
[実施例3]
図12(a)は、実施例3において作製した試験片WCの斜視図、図12(b)は、実施例3において作製した試験片WCの断面図である。
【0075】
実施例1および実施例2では、積層部430A,430Bの引き上げ中に、各シームレス部に対応する箇所に保持された光硬化性樹脂を個別に硬化させて、各シームレス部431A,431Bを個別に形成した。実施例3では、積層部430Cの引き上げ完了後に一括してまとめて硬化させて複数のシームレス部431Cを形成する場合を想定して実験を行った。
【0076】
試験片WCの外形は、X方向の幅を10[mm]、Y方向の厚さを2[mm]、Z方向の長さを20[mm]の直方体形状とした。試験片WCにおいて、シームレス部431Cを一つとし、各層ごとに2[mW/cm]で露光して半硬化状態とした。そして、引き上げ完了後に試験片WC全体に20[mW/cm]の強度でUV光を60[sec]照射して半硬化状態の光硬化性樹脂を硬化させた。シームレス部431Cは、実施例1,2と同様、表面が露出した形態であるが、図12(b)に示すように、シームレス部431Cの厚さを増して、Y方向の厚さを1[mm]、X方向の幅を5[mm]とした。弱強度の光照射であっても暗反応で樹脂の硬化が進むことと、試験片WCの外形形状を維持できるだけの反応率を考慮して、シームレス部431Cを形成するのに必要な露光量を決定した。
【0077】
実施例1と同様の引張試験を行ったところ、試験片WCの破断強度は、7.96[MPa]であった。つまり、積層部430Cを液状の光硬化性樹脂が貯留された容器から引き上げた後に硬化させても、シームレス部431Cを形成でき、造形物の強度を確保できることが確認された。なお、実施例1と比較した比較例の試験片と比べると、破断強度が約44[%]向上することが確認された。
【0078】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載されたものに限定されない。
【0079】
硬化手段として、光源111、スポット光源112、液晶パネル113を有する露光ユニット105について説明したが、これに限定するものではない。例えば、露光ユニットにおいて1つの光源111で構成できるのであれば、スポット光源112を省略してもよい。また、硬化手段として、例えばレーザ光源、レンズ、スキャナ等を有する露光ユニットであってもよい。レーザ光をスライスデータに基づく露光パターンに沿って造形テーブル102上の光硬化性樹脂Rを走査することで、光硬化性樹脂Rを硬化させることができる。また、硬化手段として、例えばDMD素子及び光源を有する露光ユニットを用いてもよい。
【0080】
また、本発明に係る三次元造形物の造形は、光硬化性樹脂を用いた光造形法が好適であるが、粉末積層法、FDM法などにも適用することもできる。
【符号の説明】
【0081】
100…三次元造形装置、102…造形テーブル、105…露光ユニット(硬化手段)、120…制御システム(制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12