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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】衣類
(51)【国際特許分類】
   A41D 27/10 20060101AFI20241216BHJP
   A41B 1/08 20060101ALI20241216BHJP
   A41D 13/05 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
A41D27/10 D
A41B1/08 E
A41D13/05 112
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023169434
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2024-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599083411
【氏名又は名称】株式会社 MTG
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸田 貴斗
【審査官】横山 綾子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/100721(WO,A1)
【文献】特開2011-058106(JP,A)
【文献】特開平11-061530(JP,A)
【文献】特開2005-023447(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102870(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 27/10
A41B 1/08
A41D 13/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と後身頃とを接合してなり、上部に袖ぐりを形成する身頃と、
前記袖ぐりに接合されるラグラン袖と、
を備え、
前記袖ぐりは、前記袖ぐりの下端から前側の部分である前袖ぐりと、前記袖ぐりの下端から後側の部分である後袖ぐりと、を有し、
前記後袖ぐりは下部において前記前袖ぐりよりも左右方向内側に配置され、且つ下端から正面視における前記前袖ぐりとの交点までの長さよりも前記交点から上端までの長さのほうが長く形成されている、衣類。
【請求項2】
前記前袖ぐりの上端は、襟ぐりの上端と下端との間の中間位置よりも下方に位置している、請求項1に記載の衣類。
【請求項3】
前記前袖ぐりは直線状をなし、
前記後袖ぐりは、少なくとも一部において左右方向内側に凸に湾曲した曲線状をなしている、請求項2に記載の衣類。
【請求項4】
前記後袖ぐりは、上部において左右方向外側に凸に湾曲した曲線状をなしている、請求項3に記載の衣類。
【請求項5】
前記後身頃の上部に配置されるパワーネットを備えている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の衣類。
【請求項6】
前記パワーネットは、前記後身頃における左右の前記後袖ぐりの間に配置されている、請求項5に記載の衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の衣類を開示している。この衣類は、袖ぐりを有する身頃と、袖ぐりに接合される袖と、を備えている。身頃は、前身頃と後身頃とを接合してなる。この衣類は、前後の身頃の上部において、後身頃の左右方向の最小幅が、前身頃の左右方向の最小幅よりも小さくなる部分を有している。これによって、特許文献1の衣類は、着用者が、腕が正面中央側にまわるように肩が前方に出てしまう姿勢をとることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-119677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の衣類の場合、着用者は、肩や腕の動きが制限されるような窮屈感等、姿勢を矯正する力が作用することによる着心地の悪さを感じてしまうことがあった。また、特許文献1の衣類は、いわゆるセットインスリーブ型である。セットインスリーブ型の衣類は、着用者の腕と肩の間に接合部である袖ぐりが位置するため、連動する肩と腕の動きが制限され易く、この点においても着心地の低下を招いてしまっていた。
【0005】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとることを抑制しつつも、良好な着心地を実現できる衣類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る衣類は、前身頃と後身頃とを接合してなり、上部に袖ぐりを形成する身頃と、前記袖ぐりに接合されるラグラン袖と、を備え、前記袖ぐりは、前記袖ぐりの下端から前側の部分である前袖ぐりと、前記袖ぐりの下端から後側の部分である後袖ぐりと、を有し、前記後袖ぐりの少なくとも一部は、前記前袖ぐりよりも左右方向内側に配置されている。
【0007】
本発明に係る衣類は、後袖ぐりの少なくとも一部を前袖ぐりよりも左右方向内側に配置している。このような構成により、本発明に係る衣類は、袖ぐりが形成される身頃の上部において、前身頃の左右幅よりも後身頃の左右幅のほうが狭い部分が形成される。このような衣類は、着用され、前後の身頃が同様の伸長量で伸長した場合に、左右幅の狭い後身頃のほうが前身頃よりも大きな張力を作用させる。この前後の身頃において発生する張力の差は、着用者に対し、胸を開かせ、肩を後方に引っ張るように作用する。このため、本発明に係る衣類は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとるのを抑制でき、肩が開いた姿勢を取らせ易くなる。また、本発明に係る衣類は、ラグラン袖を採用したことによって、セットインスリーブ型の衣類と比較して肩や腕の移動を阻害し難い。具体的には、一般的に、ラグラン袖は、身頃と切り替えが着用者の胸から肩の部分にかけて位置する。このため、ラグラン袖は、胸から肩にかけての身体部位を後方に引っ張るような張力を作用させ得る。これに対し、セットインスリーブの場合、身頃との切り替えが腕の付け根に位置し、腕のみが後方に引っ張られるような力が作用し得る。このようなセットインスリーブと比較して、ラグラン袖は、着用者に窮屈さを与えることなく、胸を張って肩を開く姿勢をとることを促す力を良好に作用させることができる。その結果、本発明に係る衣類は、肩が開いた姿勢を着用者に無理なく取らせることができ、良好な姿勢を維持させやすくできる。
【0008】
したがって、本発明に係る衣類は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとることを抑制しつつも、良好な着心地を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係る衣類であって、平らに広げられた状態を示す正面図である。
図2】実施例1に係る衣類であって、平らに広げられた状態を示す背面図である。
図3】実施例1に係る衣類であって、着用者に着用された状態を模式的に示す平面図である。
図4図1の要部を拡大した図である。
図5図2の要部を拡大した図である。
図6】実施例1に係るラグラン袖を展開した状態を模式的に示す図である。
図7】実施例1に係る衣類の各部の大きさを説明するための図である。
図8】実施例2に係る衣類であって、平らに広げられた状態を示す正面図である。
図9】実施例2に係る衣類であって、平らに広げられた状態を示す背面図である。
図10】実施例2に係る衣類の各部の大きさを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
本発明に係る衣類において、前記後袖ぐりの下部は、前記前袖ぐりよりも左右方向内側に配置され得る。この場合、衣類は、後身頃において後袖ぐりの下部が接続される部分の左右幅を抑えることができる。これにより、衣類は、左右の後袖ぐり下部の間の部分の後身頃において、前身頃側よりも大きな張力を作用させることができる。その結果、この衣類は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとるのを良好に抑制しつつも、肩の動きを阻害し難くできる。
【0011】
本発明に係る衣類において、前記前袖ぐりは直線状をなし、前記後袖ぐりは、少なくとも一部において左右方向内側に凸に湾曲した曲線状をなし得る。この場合、後袖ぐりの下部を前袖ぐりよりも左右方向内側に配置する構成を容易に実現できる。例えば、後袖ぐりが直線状である場合、その下部を前袖ぐりよりも内側に配置しようとすると、後袖ぐりにおける上下の起点を移動させる必要がある。これに対し、後袖ぐりに左右方向内側に凸に湾曲する部分を設けることによって、後袖ぐりの上下の起点を移動させることなく、後袖ぐりを前袖ぐりよりも左右方向内側に容易に配置することができる。
【0012】
本発明に係る衣類において、前記後袖ぐりは、上部において左右方向外側に凸に湾曲した曲線状をなし得る。この場合、後袖ぐりの上部における後身頃の左右幅を、後袖ぐりの下部における後身頃の左右幅に関わらず、自在に設定することができる。また、後袖ぐりの上部において左右方向外側に凸に湾曲した曲線状の部分を設けると、後身頃上部における生地のだぶ付きを抑制できる。例えば、後袖ぐりにおいて内側に凸に湾曲する部分を設けると、袖の上部(襟ぐり周辺)の生地も後身頃側に引っ張られ、生地が後身頃側に寄ってだぶ付きが生じ得る。この場合、後袖ぐりの上部において左右方向外側に凸に湾曲する部分を設けることによって、だぶ付きの生じ易い部分が前身頃側に引っ張られ、だぶ付きを有効に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る衣類は、前記後身頃の上部に配置されるパワーネットを備え得る。この場合、衣類は、パワーネットによって、後身頃の上部における張力が前身頃側において作用する張力よりも大きくなる構成を容易に実現することができる。
【0014】
本発明に係る衣類において、前記パワーネットは、前記後身頃における左右の前記後袖ぐりの間に配置され得る。この場合、衣類は、パワーネットによって、左右のラグラン袖の間における張力を有効に作用させることができる。その結果、この衣類は、肩が前方に出る姿勢を着用者がとろうとするのを有効に抑制できる。
【0015】
なお、本発明に係る衣類における各方向は、起立状態において衣類を正規に着用した着用者から見た方向を基準としている。各図に示すX軸、Y軸、及びZ軸は、それぞれ前後方向、左右方向、及び上下方向を表す。各図に示すX軸、Y軸、及びZ軸において、各軸の正方向は、それぞれ前方、左方、及び上方である。また、衣類における表側、裏側とは、衣類を正規に着用した際の着用者側が裏側、その反対側が表側である。
【0016】
<実施例1>
次に、本発明を具体化した実施例1の衣類について、図面を参照しつつ説明する。実施例1に係る衣類1は、裁断した複数の生地を縫製によって接合してなる。衣類1はいわゆるインナーウェアとして着用され得るものであり、伸縮性、柔軟性を有する。衣類1は、着用者に正規に着用されることによって、着用者の上半身を覆い得る。衣類1は、着用することによって各部が伸長した状態になり得る。この状態において、衣類1は、着用者の身体部位のうちの少なくとも腕部、肩部、胸部等の部位を圧縮するような張力を作用させ得る。
【0017】
図1から図3に示すように、衣類1は、身頃10と、ラグラン袖40と、パワーネット60と、襟70と、を備えている。衣類1は、半袖、Vネック形状の衣類である。衣類1は、左右方向において略対称な形状をなしている。身頃10は、前身頃20と後身頃30とを左右の脇線11において接合してなる。本実施例において、左右の脇線11は、それぞれ背面側に位置している。詳細には、左右の脇線11は、衣類1を平らに広げた状態における左右の両端から、図2に示す背面側に回り込んでいる。左右の脇線11同士の間隔は、下方に向かうにつれて拡がっている。
【0018】
図1から図3に示すように、身頃10は、上部の左右端部に袖ぐり12を形成している。袖ぐり12は、前身頃20において最も上端に位置する頂点T20から、後身頃30において最も上端に位置する頂点T30まで、下方に凸状をなして形成されている。袖ぐり12は、前後の頂点T20,T30の間において上方に開放されている。
【0019】
袖ぐり12は、前袖ぐりF12及び後袖ぐりR12を有している。前袖ぐりF12は、袖ぐり12における下端B12から前側の部分である。換言すると、前袖ぐりF12は、袖ぐり12における下端B12から頂点T20までの範囲である。後袖ぐりR12は、袖ぐり12における下端B12から後側の部分である。換言すると、後袖ぐりR12は、袖ぐり12における下端B12から後身頃30側の頂点T30までの範囲である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施例の場合、袖ぐり12の下端B12は、前身頃20と後身頃30の接合部である脇線11の上端T11よりも前身頃20側に位置している。上述のように、身頃10において、脇線11は後身頃30側に回り込んでいる。このような身頃10において、袖ぐり12の下端B12は、前身頃20側に位置している。本実施例の場合、前袖ぐりF12は、前身頃20のみに形成され、後袖ぐりR12は、前身頃20の一部と後身頃30に形成されている。なお、本発明に係る袖ぐりの下端は、前身頃と後身頃の接合部の上端と重なっていてもよい。この場合、前袖ぐりは前身頃のみに形成され、後袖ぐりは後身頃のみに形成される。
【0021】
前袖ぐりF12は、袖ぐり12における下端B12から頂点T20まで、略直線状に斜め上方に延びている。前袖ぐりF12の上端である頂点T20の位置は、Vネック状に形成された襟ぐりの上端と下端との間の中間位置よりもやや下方に位置している。直線状をなす前袖ぐりF12の水平に対する傾斜角度は、一般的なラグラン袖における前袖ぐりと比較して小さい。本実施例の場合、前袖ぐりF12の水平に対する傾斜角度は、後述するようにS字状に湾曲する後袖ぐりR12において下端B12と頂点T30とを直線状に結んだ仮想線V(図5参照)を想定した場合、この仮想線Vの水平に対する傾斜角度よりも小さい。
【0022】
図1及び図2に示すように、後袖ぐりR12は、袖ぐり12における下端B12から頂点T30まで、斜め上方に延びている。袖ぐり12において、後袖ぐりR12の少なくとも一部は、前袖ぐりF12よりも左右方向内側に配置されている。本実施例の場合、前袖ぐりF12よりも左右方向内側に配置される部分は、後袖ぐりR12の下部である。このような形態は、後袖ぐりR12を、S字状に湾曲させたことにより実現している。具体的には、後袖ぐりR12は、下部において左右方向内側に凸に湾曲し、上部において左右方向外側に湾曲するS字状をなしている。これにより、衣類1は、後袖ぐりR12の下部における左右方向の幅を、前袖ぐりF12の下部における左右方向の幅よりも狭くする構成を実現している。
【0023】
本実施例においては、後袖ぐりR12は、上端である頂点T30から下端B12までの長さ範囲のうち、下端B12から後袖ぐりR12の全長の約1/3程度の長さの部分において、前袖ぐりF12よりも左右方向内側に配置されている。なお、本発明に係る後袖ぐりは、その少なくとも一部が前袖ぐりよりも内側にあればよく、その全部が前袖ぐりよりも内側にあってもよい。
【0024】
本実施例の場合、袖ぐり12の上部については、図1及び図2に示すように、後袖ぐりR12の上端である後身頃30の頂点T30と、前袖ぐりF12の上端である前身頃20の頂点T20とは、左右方向において略同等の位置に配置されている。更に、後袖ぐりR12の上端である頂点T30は、前袖ぐりF12の上端である頂点T20よりも上方に配置されている。
【0025】
図5に示すように、後袖ぐりR12は、左右方向内側に凸に湾曲した内側凸部R121と、左右方向外側に凸に湾曲した外側凸部R122と、を有している。内側凸部R121は、後袖ぐりR12における下部に配置されている。外側凸部R122は、後袖ぐりR12における上部に配置されている。後袖ぐりR12は、内側凸部R121と外側凸部R122とが滑らかに連続する略S字状の曲線をなしている。なお、本発明に係る「後袖ぐりの下部、上部」とは、後袖ぐりの上端から下端までの高さ範囲における中心位置よりも下側を下部、上側を上部と定義する。本発明に係る「後袖ぐりの下部、上部」は、後袖ぐりの上端から下端までの長さ範囲における中心位置よりも下端側を下部、上端側を上部としてもよい。
【0026】
図1から図3に示すように、前身頃20は前襟ぐり21を形成している。前襟ぐり21は、前身頃20における左右の頂点T20の間において、下方に窪んだ凹状をなしている。本実施例の場合、前襟ぐり21はV字状をなしている。前身頃20において、前襟ぐり21と前袖ぐりF12とは、頂点T20において交わっている。
【0027】
図1から図3に示すように、後身頃30は後襟ぐり31を形成している。後襟ぐり31は、後身頃30における左右の頂点T30の間において、下方に窪んだ凹状をなしている。本実施例の場合、後襟ぐり31は、円弧状をなしている。後襟ぐり31の左右端である頂点T30と、前襟ぐり21の左右端である頂点T20との間は、ラグラン袖40によって形成される後述する横襟ぐり41によって接続される。衣類1において、前襟ぐり21、後襟ぐり31、及び左右の横襟ぐり41は、連続する環状の襟ぐりを形成している。これら前襟ぐり21、後襟ぐり31、及び左右の横襟ぐり41によって形成される襟ぐりは、襟70によってパイピング処理が施されている。
【0028】
ラグラン袖40は袖ぐり12に接続される。図1から図3に示すように、ラグラン袖40は左右一対設けられている。図6は、左袖に相当するラグラン袖40を展開した状態を示している。図6に示すように、各ラグラン袖40は、1枚の部材からなる。各ラグラン袖40は、袖ぐり12における前袖ぐりF12に接続される前接続部F40と、袖ぐり12における後袖ぐりR12に接続される後接続部R40と、横襟ぐり41と、袖下42と、袖口43とを有している。
【0029】
図6に示す展開状態のラグラン袖40において、中心線Cは、ラグラン袖40の上端の稜線に相当する線である。図6の場合、ラグラン袖40は、中心線Cよりも左側が衣類1における正面側に位置し、右側が背面側に位置する。中心線Cは、衣類1が着用者に着用された状態において、平面視における着用者の肩及び腕の中心に位置する。
【0030】
ラグラン袖40は、中心線Cから直交方向に離れた正面側及び背面側の各袖下42において縫い合わせられることによって筒状をなす。図6において、符号P1は、身頃10における袖ぐり12の下端B12に接続される点である。ラグラン袖40は、点P1から先端の袖口43までの範囲AR1は、中心線Cに対して略線対称をなしている。したがって、範囲AR1は、中心線Cから外縁(袖下42を示す線)までの距離が正面側及び背面側で同等である。
【0031】
これに対し、点P1から点P2までの範囲AR2については、中心線Cから背面側の外縁である後接続部R40までの距離のほうが、正面側である前接続部F40までの距離よりも長い。したがって、範囲AR2における左右の外縁間の中心は、中心線Cよりも背面側にずれている。この範囲AR2の中心が背面側にずれていると、範囲AR2から袖の先端側である範囲AR1にかけての部分が、着用状態において背面側に流れ、肩の開きを促すように作用する。
【0032】
図1及び図2に示すように、パワーネット60は、後身頃30の上部に配置されている。具体的には、パワーネット60は、後身頃30における左右の後袖ぐりR12の間に配置されている。パワーネット60は、ラグラン袖40の縫製と併せて、後身頃30に縫製によって取り付けられている。パワーネット60は、左右方向及び上下方向の2方向において伸縮性を有している。パワーネット60は、前身頃20、後身頃30、ラグラン袖40等の衣類1を構成する他の部分の生地と比較して、伸長状態において発生する張力の大きさが大きい。これにより、例えば衣類1が着用者に着用され、後身頃30におけるパワーネット60が配置された部位と、この部位の前方に対応する前身頃20の部位と、の両方が同様に伸長した状態では、後身頃30側においてより大きな張力が作用する。
【0033】
本実施例に係るパワーネット60を構成する生地は、張力の生じていない自然状態において幅50mm長さ100mmの大きさの生地を長さ方向に約25mm引き伸ばす試験を行うと、幅方向の1mm当たり約5Nの張力を示す生地を採用している。なお、本発明に係るパワーネットは、パワーネットを備えない場合と比較して、着用者の肩が前に出るのをより抑制して肩の開きをより促すように作用すればよく、その張力の大きさは特に限定されない。例えば、本発明に係るパワーネットは、前身頃、後身頃、ラグラン袖等、衣類を構成する他の部分の生地と同等の張力を生じ得る生地によって構成されていてもよいし、衣類を構成する他の部分の生地よりも小さな張力を生じ得る生地によって構成されていてもよい。すなわち、本発明に係る衣類は、適切な張力を生じ得る種々の生地をパワーネットに代えて採用し得る。
【0034】
上記構成の衣類1は、いわゆるメンズ用であり、SサイズからLLサイズまで4種類の異なる大きさで製造される。各サイズの衣類1において、図7に示すS1からS11の各部の寸法を以下の表1に例示する。S1からS10の各部の寸法は、身丈、着丈、身幅、ウエスト幅、裾幅、袖幅、袖口幅、天幅、襟深さ(前下がり)に相当する。寸法S11については、襟の後縁下端から80mm下方の位置における左右の後袖ぐり間の水平距離である。また、表1中の寸法S12は、前袖ぐりF12の上端である左右の頂点T20間の距離、寸法S13は、後袖ぐりR12の上端である左右の頂点T30間の距離をそれぞれ示している。各寸法は、衣類1を平らに広げた状態の規格寸法である。なお、本発明に係る衣類における各部の寸法はこれに限定されるものではない。
【0035】
【表1】
【0036】
次に、本実施例に係る衣類1の作用及び効果について説明する。
衣類1は、身頃10及びラグラン袖40を備える。身頃10は、前身頃20と後身頃30とを接合してなる。身頃10は、上部に袖ぐり12を形成する。ラグラン袖40は、身頃10における袖ぐり12に接合される。袖ぐり12は、前袖ぐりF12と後袖ぐりR12とを有する。前袖ぐりF12は、袖ぐり12の下端B12から前側の部分である。後袖ぐりR12は、袖ぐり12の下端B12から後側の部分である。そして、後袖ぐりR12の少なくとも一部は、前袖ぐりF12よりも左右方向の内側に配置される。
【0037】
上記構成の衣類1は、身頃10の上部において、前身頃20の左右幅よりも後身頃30の左右幅のほうが狭い部分が形成される。このような衣類1は、着用され、前後の身頃20,30が同様の伸長量で伸長した場合に、左右幅の狭い部分を有する後身頃30のほうが前身頃20よりも大きな張力を作用させる。この前後の身頃20,30において発生する張力の差は、着用者に対し、胸を開かせ、肩を後方に引っ張るように作用する。このため、衣類1は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとるのを抑制でき、肩が開いた姿勢を取らせ易くなる。
【0038】
また、衣類1は、ラグラン袖40を採用したことによって、肩の動きとこれに連動する腕の動きを阻害し難い。例えば、セットインスリーブ型の衣類の場合、袖と身頃との接続部は、腕の付け根当たりに位置する。この場合、腕と肩は、接続部を境に袖と身頃とに分かれるため、肩と腕との連動が阻害され易い。これに対し、ラグラン袖40は、前身頃20との接続部である前接続部F40は着用者の肩から胸にかけて位置する。すなわち、衣類1を着用した着用者の肩と腕は、共通のラグラン袖40側に位置し、その間に接続部は存在しない。このため、衣類1の着用者は、肩の動きとこれに連動する腕の動きが阻害され難い。更に、ラグラン袖40を備えた衣類1は、セットインスリーブ型の衣類と比較して、袖の通し易さ(着易さ)、抜き易さ等、衣類の着脱性にも優れる。
【0039】
したがって、本実施例に係る衣類1は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとることを抑制しつつも、良好な着心地を実現できる。
【0040】
ラグラン袖40は、前身頃20との接続部である前接続部F40が着用者の胸から肩の部分にかけて位置することにより、胸から肩にかけての身体部位を後方に引っ張るような張力を作用させる。これに対し、セットインスリーブの場合、身頃との切り替えが腕の付け根に位置し、腕のみが後方に引っ張られるような力が作用し得る。このようなセットインスリーブと比較して、ラグラン袖40は、着用者に窮屈さを与えることなく、胸を張って肩を開く姿勢をとることを促す力を良好に作用させることができる。
【0041】
また、衣類1において、前袖ぐりF12よりも左右方向内側に配置される後袖ぐりR12の部位は、後袖ぐりR12における下部である。このため、衣類1は、後身頃30において後袖ぐりR12の下部が接続される部分の左右幅を前身頃20側よりも抑えることができる。これにより、衣類1は、左右の後袖ぐりR12下部の間の部分の後身頃30において、前身頃20側よりも大きな張力を作用させることができる。その結果、衣類1は、肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとるのを良好に抑制しつつも、肩の動きを阻害し難くできる。
【0042】
また、衣類1において、後袖ぐりR12は、上部において左右方向外側に凸に湾曲した曲線状をなしている。このため、衣類1は、後袖ぐりR12の上部に対応する後身頃30の左右幅を、後袖ぐりR12の下部に対応する後身頃30の左右幅に関わらず、自在に設定することができる。また、後袖ぐりR12の上部に左右方向外側に凸に湾曲した曲線状の外側凸部R122を設けたことによって、衣類1は、後身頃30の上部における生地のだぶ付きを抑制できる。例えば、後袖ぐりに設けた内側に凸に湾曲する曲線状の内側凸部R121は、袖の生地を後身頃側に引っ張るように作用する。このような作用を有する部分を後袖ぐりR12の上部にも適用すると、袖の上部(襟ぐり周辺)の生地も後身頃30側に引っ張られ、生地が後身頃30側に寄ってだぶ付きが生じ得る。これに対し、後袖ぐりR12の上部は左右方向外側に凸に湾曲する曲線状に設けることによって、だぶ付きの生じ易い部分が前身頃20側に引っ張られ、だぶ付きを有効に抑制することができる。
【0043】
衣類1は、後袖ぐりが前袖ぐりと同様に直線状に形成された衣類と比較して、後身頃30における左右幅を容易に設定することができる。例えば、後袖ぐりが直線状である場合、後身頃の左右幅は後袖ぐりの上下の起点の位置に依存する。この場合、後身頃の左右幅を所望の幅に設定しようとすると、後袖ぐりの上下の起点の位置を移動させる必要がある。これに対し、衣類1のように後袖ぐりR12の少なくとも一部が左右方向内側に凸に湾曲した曲線状をなす場合、後袖ぐりR12の上下の起点を移動させることなく、後袖ぐりR12における曲線状の部分の曲率を変更することによって、後身頃30において所望の左右幅を自在に設定することができる。すなわち、衣類1は、後袖ぐりR12の上下の起点である袖ぐり12の下端B12及び後身頃30の頂点T30の各位置と、後身頃30の左右幅と、の両方を、所望の位置及び左右幅で設定することができる。
【0044】
衣類1において、前袖ぐりF12の水平に対する傾斜角度は、S字状に湾曲する後袖ぐりR12において下端B12と頂点T30とを直線状に結んだ仮想線Vの水平に対する傾斜角度よりも小さく設定されている。このように、衣類1は、前袖ぐりF12を相対的により下方に位置させたことにより、前袖ぐりF12とラグラン袖40の前接続部F40との接合部が肩の動きを阻害するのをより抑制することができる。その結果、衣類1は、着用者に窮屈さを与えることなく、胸を張って肩を開く姿勢をとることを促す力を一層良好に作用させることができる。
【0045】
衣類1は、後身頃30の上部に配置されるパワーネット60を備える。このため、衣類1は、後身頃30の上部における張力が前身頃20側において作用する張力よりも大きくなる構成を容易に実現することができる。
【0046】
衣類1において、パワーネット60は、後身頃30における左右の後袖ぐりR12の間に配置される。このため、衣類1は、パワーネット60によって、左右のラグラン袖40の間における張力を有効に作用させることができる。その結果、衣類1は、肩が前方に出る姿勢を着用者がとろうとするのを有効に抑制できる。
【0047】
<実施例2>
図8から図10を参照し、実施例2に係る衣類201を説明する。衣類201はいわゆるレディース用である。衣類201は、襟ぐりの形状がいわゆるラウンドネックである点、及び各部の詳細な寸法等が異なる以外は、実施例1の衣類1と同様の構成であり、実施例1と同様の作用及び効果を奏するものである。衣類201は、衣類1と同様に、SサイズからLLサイズまで4種類の異なる大きさで製造される。各サイズの衣類201において、図10に示すS1からS11、及びS12からS13の各部の規格寸法を以下の表2に例示する。S1からS13の各部は、実施例1において説明した各部と同等の部位である。なお、本発明に係る衣類における各部の寸法はこれに限定されるものではない。
【0048】
【表2】
【0049】
本発明は上記記述及び図面によって説明した各実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記各実施例においては、半袖の衣類を例示したが、本発明に係る衣類はこれに限定されない。本発明に係る衣類は、ラグラン袖を備える限り、その袖の長さ等は特に問わない。
(2)上記各実施例においては、襟の形状がVネック形状及びラウンドネック形状の衣類をそれぞれ例示したが、本発明に係る衣類において、襟の形状は特に限定されない。
(3)本発明に係る衣類において、パワーネットを備えることは必須ではない。パワーネットを備える場合、その配置は、上記各実施例に限定されず、例えば、後身頃の上部であって左右の後袖ぐり下部の間のみに配置されたり、後身頃の上部から下部に亘って配置されたり等であってもよい。
(4)本発明に係る衣類において、後袖ぐりが湾曲した曲線状をなすことは必須ではない。後袖ぐりは、例えば、直線のみで構成されていてもよいし、直線と曲線の組み合わせによって構成されていてもよい。後袖ぐりが曲線状に形成される場合、その形態は上記各実施例のようなS字状に限定されず、例えば、左右方向内側にのみ凸に湾曲した形状であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,201…衣類
10…身頃
12…袖ぐり
20…前身頃
30…後身頃
40…ラグラン袖
60…パワーネット
B12…袖ぐりの下端
F12…前袖ぐり
R12…後袖ぐり
【要約】
【課題】肩が前方に出てしまう姿勢を着用者がとることを抑制しつつも、良好な着心地を実現できる衣類を提供する。
【解決手段】衣類1は、身頃10及びラグラン袖40を備える。身頃10は、前身頃20と後身頃30とを接合してなる。身頃10は、上部に袖ぐり12を形成する。ラグラン袖40は、身頃10における袖ぐり12に接合される。袖ぐり12は、前袖ぐりF12と後袖ぐりR12とを有する。前袖ぐりF12は、袖ぐり12の下端B12から前側の部分である。後袖ぐりR12は、袖ぐり12の下端B12から後側の部分である。そして、後袖ぐりR12の少なくとも一部は、前袖ぐりF12よりも左右方向の内側に配置される。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10