(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】対物レンズ及びそれを含む荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/12 20060101AFI20241216BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H01J37/12
H01J37/244
(21)【出願番号】P 2023199324
(22)【出願日】2023-11-24
【審査請求日】2023-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2023-0102420
(32)【優先日】2023-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】512328201
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】パク, イ ニョン
(72)【発明者】
【氏名】イ, チョン ウン
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-204181(JP,A)
【文献】特開2014-238962(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/12
H01J 37/244
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に荷電粒子線を集束し照射する荷電粒子線装置の対物レンズであって、
前記対物レンズは、
露出して試料に対向する第1電極と、
前記荷電粒子線を前記試料に集束させる第2電極と、
円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有する第3電極と、
前記第3電極の本体部に位置する第4電極と、を含み、
前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極及び前記第4電極のそれぞれが貫通孔を含み、電圧が供給されて前記荷電粒子線が前記貫通孔を介して前記試料へ照射さ
れ、
前記第3電極と前記第4電極との間には電位差がないか、或いは50V以下の電位差が形成される、対物レンズ。
【請求項2】
前記第1電極及び前記第2電極は、
前記円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、
前記第1電極内に前記第2電極が間隔を置いて位置し、
前記第2電極内に前記第3電極が間隔を置いて位置する、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
前記第4電極は、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されて形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出器が取り付けられ、
前記第4電極は、
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状及び位置を問わずに、二次電子及び後方散乱電子の検出効率が最も高い位置に配置される、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項4】
前記第3電極は、
前記第3電極の本体部から延びたフランジをさらに含み、
前記第1電極は、前記フランジに接続された第1電極絶縁体をさらに含み、
前記第2電極は、前記フランジに接続された第2電極絶縁体をさらに含む、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項5】
前記第2電極には、
前記第1電極と前記試料との距離及び前記荷電粒子線のエネルギーのうちのいずれか一つに相応する電圧が供給される、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項6】
前記第2電極に供給される電圧は、前記第3電極に供給される電圧とは独立している、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項7】
前記対物レンズは走査型電子顕微鏡(SEM)の対物レンズである、請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項8】
試料に荷電粒子線を集束し照射する荷電粒子線装置の対物レンズであって、
前記対物レンズは、
円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、露出して試料に対向する第1電極と、
円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体
部を有し、前記第1電極内に位置する第2電極と、
円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第2電極内に位置する第3電極と、
前記第3電極の本体部に位置する第4電極と、を含み、
前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極及び前記第4電極のそれぞれが貫通孔を含み、電圧が供給されて前記荷電粒子線が前記貫通孔を介して前記試料へ照射さ
れ、
前記第3電極と前記第4電極との間には電位差がないか、或いは50V以下の電位差が形成される、対物レンズ。
【請求項9】
前記第4電極は、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されて形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出器が取り付けられ、
前記第4電極は、
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状を問わずに、二次電子及び後方散乱電子の検出効率が最も高い位置に配置される、請求項
8に記載の対物レンズ。
【請求項10】
前記第1電極の先端部、前記第2電極の先端部及び前記第3電極の先端部のそれぞれは互いに平行な末端部を含み、
前記第1電極の前記先端部の前記末端部の厚さは0超過3mm以下である、請求項
8に記載の対物レンズ。
【請求項11】
前記第1電極と前記第2電極との間隔は0超過4mm以下である、請求項
8に記載の対物レンズ。
【請求項12】
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に形成された前記貫通孔の直径は3mm以上である、請求項
8に記載の対物レンズ。
【請求項13】
前記対物レンズは走査型電子顕微鏡(SEM)の対物レンズである、請求項
8に記載の対物レンズ。
【請求項14】
荷電粒子線装置であって、
荷電粒子源と、
荷電粒子線を集束させる1つ以上のコンデンサレンズと、
前記荷電粒子線を試料に結像する対物レンズと、
試料から形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出部と、を含み、
前記対物レンズは、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、露出して前記試料に対向する第1電極と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第1電極内に位置する第2電極と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第2電極内に位置する第3電極と、前記第3電極の本体部に位置し、貫通孔が形成された第4電極と、を含
み、
前記第3電極と前記第4電極との間には電位差がないか、或いは50V以下の電位差が形成される、荷電粒子線装置。
【請求項15】
前記検出部は、
前記二次電子及び後方散乱電子を検出する第1検出部と、
前記第1検出部を通過した前記二次電子及び後方散乱電子を検出する第2検出部と、を含む、請求項
14に記載の荷電粒子線装置。
【請求項16】
前記第1検出部は、
前記第4電極に取り付けられ、
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状を問わずに、二次電子及び後方散乱電子の検出効率が最も高い位置に配置される、請求項
15に記載の荷電粒子線装置。
【請求項17】
前記第2電極には、
前記第1電極と前記試料との距離及び前記荷電粒子線のエネルギーのうちのいずれか一つに相応する電圧が供給される、請求項
14に記載の荷電粒子線装置。
【請求項18】
前記第2電極に供給される電圧は、
前記第3電極に供給される電圧とは独立している、請求項
17に記載の荷電粒子線装置。
【請求項19】
前記第1電極と前記第2電極との間隔は4mm以下であり、
前記第1電極の先端部の厚さは3mm以下であり、
前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に形成された前記貫通孔の直径は3mm以上である、請求項
14に記載の荷電粒子線装置。
【請求項20】
前記荷電粒子線装置は、走査型電子顕微鏡及び電子線のエネルギー分析を行う分光計を含む分析装置及び試料加工装置のうちのいずれか一つである、請求項
14に記載の荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、対物レンズ及びそれを含む荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置は、荷電粒子源から放出された荷電粒子を磁場又は電界を用いた荷電粒子光学系を介して試料の表面に結像及び照射して試料の特性を把握する装置である。荷電粒子線装置は、材料科学、ナノ科学、電子工学などの分野で広く使用されている。荷電粒子線装置を基にした顕微鏡は、優れた空間分解能を有するため、光学顕微鏡では観察できない基板上に成長した薄膜、ナノチューブ、プラズモン構造、試料の原子配列などの微細構造を観察することができる。また、荷電粒子線装置は、細胞などの生物試料の微細構造の観察、電子線回折像を介して試料の結晶構造なども把握することができる。
【0003】
荷電粒子線装置のうち、走査型電子顕微鏡(SEM、scan electron microscope)は、光学式顕微鏡の光源に該当する荷電粒子源(charged particle source)として電子源(electron source)を使用し、電子線を試料上に集束及び走査し、信号電子を検出して顕微鏡画像を形成する装置である。最近、走査型電子顕微鏡は、試料の表面から取得することが可能な情報を向上させ、試料の帯電や損傷を防止することができる低エネルギー電子線条件における観察のための研究に関心が集中している。
【0004】
低エネルギー電子線は、エネルギー幅による色収差、又は電子線の波長による回折収差が大きくなって荷電粒子線装置の分解能が問題になる可能性がある。これを改善するために、試料との焦点距離を減少させ、分解能を向上させることができる低い収差係数(aberration coefficient)を有する対物レンズ及びそれを含む走査型電子顕微鏡が開発されている。
【0005】
一方、走査型電子顕微鏡の試料は、一般に、1×10-3~10-4Pa内の高真空で排気された真空試料室に配置される。しかし、当該真空度では、試料室内に炭化水素化合物(hydrocarbon)のガスが含まれており、試料上に電子線を照射したときに炭化水素化合物ガスが分解して形成された炭化物が付着する汚染(Contamination)が多く発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
走査型電子顕微鏡対物レンズは、対物レンズの上部に検出器を配置し、対物レンズ内に引き込まれた二次電子や後方散乱電子などの信号を検出して顕微鏡画像を形成する。
【0007】
しかし、対物レンズ内に引き込まれた二次電子が電極と衝突して、所望しない二次電子を再生産してノイズを生成するので、画質が劣化し、ひいては電極と検出器を損傷及び汚染させるという難点がある。
【0008】
本実施形態で解決しようとする課題の一つは、上述した従来技術の難点を解消することである。本実施形態で解決しようとする課題の一つは、対物レンズ内に引き込まれた二次電子が電極と衝突して、所望しない二次電子を再生産することを防ぐことができる荷電粒子線装置用対物レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態は、試料に荷電粒子線を集束し照射する荷電粒子線装置の対物レンズであって、前記対物レンズは、露出して試料に対向する第1電極と、前記荷電粒子線を前記試料に集束させる第2電極と、円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有する第3電極と、前記第3電極の本体部に位置する第4電極と、を含み、前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極及び前記第4電極のそれぞれが貫通孔を含み、電圧が供給されて前記荷電粒子線が前記貫通孔を介して前記試料へ照射される。
【0010】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1電極及び前記第2電極は、前記円錐状の先端部と該先端部から延びた本体部とを有し、前記第1電極内に前記第2電極が間隔を置いて位置し、前記第2電極内に前記第3電極が間隔を置いて位置する。
【0011】
本実施形態のいずれかの態様によれば、第4電極は、前記荷電粒子線が前記試料に照射されて形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出器が取り付けられ、第4電極は、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状及び位置を問わずに、検出効率が最も高い位置に配置される。
【0012】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第3電極は、前記第3電極の本体部から延びたフランジをさらに含み、前記第1電極は、前記フランジに接続された第1電極絶縁体をさらに含み、前記第2電極は、前記フランジに接続された第2電極絶縁体をさらに含む。
【0013】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第2電極には、前記第1電極と前記試料との距離及び前記荷電粒子線のエネルギーのうちのいずれかに相応する電圧が供給される。
【0014】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第3電極と前記第4電極との間には50V以下の電圧差が形成される。
【0015】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第2電極に供給される電圧は、前記第3電極に供給される電圧とは独立している。
【0016】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記対物レンズは走査型電子顕微鏡(SEM)の対物レンズである。
【0017】
他の実施形態は、試料に荷電粒子線を集束し照射する荷電粒子線装置の対物レンズであって、前記対物レンズは、円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、露出して試料に対向する第1電極と、円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第1電極内に位置する第2電極と、円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第2電極内に位置する第3電極と、前記第3電極の本体部に位置する第4電極と、を含み、前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極及び前記第4電極のそれぞれが貫通孔を含み、電圧が供給されて前記荷電粒子線が前記貫通孔を介して前記試料へ照射される。
【0018】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第4電極は、前記荷電粒子線が前記試料に照射されて形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出器が取り付けられ、第4電極は、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状及び位置を問わずに、検出効率が最も高い位置に配置される。
【0019】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1電極の先端部、前記第2電極の先端部及び前記第3電極の先端部のそれぞれは互いに平行な末端部を含み、前記第1電極の前記先端部の前記末端部の厚さは0超過3mm以下である。
【0020】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1電極と前記第2電極との間隔は0超過4mm以下である。
【0021】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に形成された前記貫通孔の直径は3mm以上である。
【0022】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記対物レンズは走査型電子顕微鏡(SEM)の対物レンズである。
【0023】
別の実施形態は、荷電粒子線装置であって、荷電粒子源と、荷電粒子線を集束させる1つ以上のコンデンサレンズと、前記荷電粒子線を試料に照射する対物レンズと、試料から形成された二次電子及び後方散乱電子を検出する検出部と、を含み、前記対物レンズは、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、露出して前記試料に対向する第1電極と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第1電極内に位置する第2電極と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、前記第2電極内に位置する第3電極と、前記第3電極の本体部に位置し、貫通孔が形成された第4電極と、を含む。
【0024】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記検出部は、前記二次電子及び後方散乱電子を検出する第1検出部と、前記第1検出部を通過した前記二次電子及び後方散乱電子を検出する第2検出部と、を含む。
【0025】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1検出部は、前記第4電極に取り付けられ、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極の形状と位置を問わずに、二次電子及び後方散乱電子の検出効率が最も高い位置に配置される。
【0026】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第2電極には、前記第1電極と前記試料との距離及び前記荷電粒子線のエネルギーのうちのいずれか一つに相応する電圧が供給される。
【0027】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第2電極に供給される電圧は、前記第3電極に供給される電圧とは独立している。
【0028】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第3電極と前記第4電極との間には50V以下の電圧差が形成される。
【0029】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記第1電極と前記第2電極との間隔は4mm以下であり、前記第1電極の先端部の厚さは3mm以下であり、前記第1電極、前記第2電極及び前記第3電極に形成された前記貫通孔の直径は3mm以上である。
【0030】
本実施形態のいずれかの態様によれば、前記荷電粒子線装置は、走査型電子顕微鏡及び電子線のエネルギー分析を行う分光計を含む分析装置及び試料加工装置のうちのいずれか一つである。
【発明の効果】
【0031】
本実施形態によれば、検出器の表面に発生する二次電子が電位の高い電極に衝突して発生する汚染を抑制し、対物レンズの性能劣化を軽減して長期間安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本実施形態による対物レンズを含む荷電粒子線装置の概要を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態による荷電粒子線装置の動作に要求される駆動電力を供給する駆動電源部との接続関係を例示する図である。
【
図4】本実施形態の荷電粒子線装置における静電型対物レンズ部分の一次電子線の軌道(Trajectory)及び軸上ポテンシャル(Axial Potential)の計算例を示す図である。
【
図5】本実施形態による第1電極、第2電極及び第3電極、及び電極のパラメータを示す概要図である。
【
図6】第1電極、第2電極及び第3電極の正規化されたパラメータ値による対物レンズの球面収差(Cs、spherical aberration)を示す図である。
【
図7】第1電極、第2電極及び第3電極の正規化されたパラメータ値による対物レンズの色収差(Cc、chromatic aberration)を示す図である。
【
図8】(a)は従来の荷電粒子線装置の対物レンズ部において、試料の表面に発生した二次電子の軌道を計算した結果の一例を示し、(b)は本実施形態の対物レンズ部において、試料の表面に発生した二次電子の軌道を計算した結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照して本実施形態を説明する。
図1は、本実施形態による対物レンズを含む荷電粒子線装置10の概要を示すブロック図である。
図1を参照すると、本実施形態による荷電粒子線装置10は、荷電粒子源110と、荷電粒子線を集束させる1つ以上のコンデンサレンズ310、320と、荷電粒子線を試料に照射する対物レンズ500と、試料から生成された後方散乱電子を検出する検出部610、620と、を含む。対物レンズ500は、貫通孔が形成された円錐状の先端部(tip)及び該先端部から延びた本体部(body)を有し、露出して試料に対向する第1電極510と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有し、第1電極内に位置する第2電極520と、貫通孔が形成された円錐状の先端部及び該先端部(tip)から延びた本体部を有し、第2電極520内に位置する第3電極530と、第3電極530の本体部に位置し、貫通孔が形成された第4電極540と、を含む。
【0034】
図1に例示された荷電粒子線装置10は、走査型電子顕微鏡(SEM、scanning electron microscope)であって、スペクトロメータ910と下部検出器920をさらに含むことができる。試料から発生した二次電子及び後方散乱電子は、スペクトロメータ910に入射し、エネルギーが分析されて試料表面の元素、化学結合状態、バンド間遷移、フォノン(phonon)又は分子振動状態を検出することができる。試料から生成された二次電子及び後方散乱電子の一部は、下部検出器920によって検出される。
【0035】
図示されていない他の荷電粒子線装置の実施形態は、集束イオンビーム光学系(FIB optics)及び下部検出器を含むことができる。集束イオンビーム光学系は、試料が配置されたステージに対して傾斜した状態とステージに対して垂直な状態に配置状態が切り替えられることができる。集束イオンビームは、試料をエッチングするか、或いは試料に膜蒸着が可能であり、マイクロメータスケールの関心領域(Region of interest、RoI)で試料を加工することができる。集束イオンビームで試料を加工するときは、試料の表面が、集束イオンビーム光学系が試料に対して垂直となるように配置されることができる。このような実施形態によれば、荷電粒子線装置は、試料加工装置として機能することができ、静電型対物レンズを有する走査型電子顕微鏡によってイオンビームで加工を行う領域を、試料の移動なしにも高倍率で観察することができる。
図1に例示された荷電粒子線装置は、走査型電子顕微鏡及び電子線のエネルギー分析を行う分光計を含む分析装置及び集束イオンビーム光学系を含む試料加工装置のうちのいずれか一つであってもよい。
【0036】
図1を参照すると、電子源(electron source)110は、フィラメント111、サプレッサ電極113、エクストラクタ電極115、及び電子源用真空ポンプ119を含む。電子源用真空ポンプ119は、電子源110の内部を所望の真空度に形成する。
【0037】
フィラメント111は、荷電粒子(charged particle)を生成する。一実施形態として、フィラメント111は、加熱されて電子を放出する熱電子放出(thermionic)素子であり得る。フィラメント111に電流が印加されることにより、フィラメント111は、加熱され、電子を放出する。一例として、フィラメントは、六ホウ化ランタン(LaB6)単結晶、六ホウ化セリウム(CeB)単結晶、ジルコニアでコーティングされたタングステン(ZrO-W)及びタングステンのうちのいずれか一つの材質からなることができる。
【0038】
サプレッサ電極(suppressor electrode)113は、生成された荷電粒子が任意の方向に放出されるのを防ぎ、エクストラクタ電極115は、所望の方向に荷電粒子を引き出す。
【0039】
一実施形態として、荷電粒子線装置10は、電子源110から放出される荷電粒子線Bのエネルギーを決定するビーム電極210をさらに含むことができる。ビーム電極210は、荷電粒子線Bが進行する経路を形成するビームチューブ200に接続されることができる。一実施形態として、ビームチューブ200の内部は、第3領域ポンプ142及び第2領域ポンプ144によって所望の真空度に形成されることができる。
【0040】
図示の実施形態において、荷電粒子線装置10は、第1コンデンサレンズ310と第2コンデンサレンズ320を含み、第1コンデンサレンズ310は、ギャップを有するヨーク312内にコイル314が巻線されて形成される。コイル314によって形成された磁束は、ヨーク312に形成されたギャップを介して流出し、このことから荷電粒子線Bを集束するレンズとして作用する。荷電粒子線Bは、第1コンデンサレンズ310と絞り330によってビーム径が制限され、荷電粒子線の電流が決定される。一実施形態として、第1コンデンサレンズ310は、荷電粒子線を第1コンデンサレンズ310の光軸に一致する様に制御する光軸アライナ316をさらに含むことができる。
【0041】
第2コンデンサレンズ320は、ギャップを有するヨーク322内にコイル324が巻線されて形成される。コイル324によって形成された磁束は、ヨーク322に形成されたギャップを介して流出し、このことから荷電粒子線Bを集束するレンズとして作用する。第2コンデンサレンズ320は、荷電粒子線Bが試料に集束される集束角(Convergent Angle)を制御する。一実施形態として、第2コンデンサレンズ320は、荷電粒子線を第2コンデンサレンズ320の光軸に一致する様に調節する光軸アライナ326をさらに含むことができる。
【0042】
検出器カバー410と第2上部検出器620に形成された開口を通過した荷電粒子線Bは、スティグメータ(stigmator)710によって非点収差の補正が行われ、サブスキャン810によって低倍率の走査が行われる。後述するように、荷電粒子線Bは、メインスキャン820で高倍率で走査(scan)されて試料(sample)に照射される。
【0043】
図2は、対物レンズ500の概要を示す図である。
図1及び
図2を参照すると、対物レンズ500は、第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540を含み、対物レンズ500に入射した荷電粒子線Bは、第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540に印加された電圧で形成された電場によって試料に集束及び照射される。
【0044】
第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540は、間隔を置いて重畳して配置され、それぞれの絶縁体でそれぞれ電気的に絶縁される。第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540は、伝導性を有する材質で形成できる。一実施形態として、第1電極510、第2電極520及び第3電極530は、円筒状本体(body)と、本体(body)に接続された円錐(cone)形の先端部(tip)と、を含む。先端部のそれぞれには厚さをもって互いに平行に形成された末端部が位置し、先端部には、試料(sample)に向かって荷電粒子線Bを照射することが可能な貫通孔Hが形成される。
【0045】
図示されていない実施形態として、第1電極、第2電極及び第3電極は、多角形断面の本体と、本体に接続された多角形の角錐(pyramid)端部とを含み、端部には、試料に向かって荷電粒子線を照射することが可能な貫通孔が形成される。
【0046】
第3電極530は、ビームチューブ200に接続される。また、第3電極530は、ビームチューブ200を介してビーム電極210と電気的に接続されることができる。
【0047】
第3電極530は、第3電極の本体から延びたフランジFをさらに含むことができる。第1電極510の本体は、第1電極絶縁体512を介してフランジFに接続されることができ、互いに電気的絶縁が維持される。第2電極520の本体は、第2電極絶縁体522を介してフランジFに接続されることができ、互いに電気的絶縁が維持される。また、フランジFは、第3電極絶縁体532で荷電粒子線装置10の隔壁に固定されることができる。
【0048】
第3電極530の本体内には第4電極540が配置されることができる。第4電極540は、第4電極絶縁体542で絶縁されて第3電極530の本体内に配置されることができる。図示の実施形態のように、第4電極絶縁体542に接続された第4電極540の上面形状は、ビームチューブ200の断面形状及び/又は第3電極530の断面形状に相応することができる。第4電極540は、開口と、開口が荷電粒子線Bのビーム経路に沿って延びた突出構造をさらに含むことができ、突出構造の周囲には、第1上部検出器610が位置することができる。一実施形態として、第4電極540と第1上部検出器610は、互いに結合された状態であり得る。一実施形態として、開口部の直径は2mm以下であり得る。
【0049】
従来技術によれば、検出器は、最も内側に位置する電極に配置されており、電極の形状と第1上部検出器の位置との間に相関関係があった。すなわち、走査型電子顕微鏡が高い空間分解能を有するために一次電子線が試料に照射されるビーム径を最小化する電極の形状と、高い検出性能が得られる検出器の装着位置との間に相関関係があった。これから、空間分解能と第1上部検出器の高い検出性能との間にトレードオフ(trade-off)関係があり、2つの性能を両立させることが困難であった。
【0050】
しかし、本実施形態によれば、第4電極540を備え、第1上部検出器610及び/又は第4電極540の位置は、第1電極510、第2電極520及び第3電極530の形状及び位置に対して独立して配置されることができる。したがって、第4電極540及び/又は第1上部検出器610が配置された位置は、第1電極510、第2電極520及び第3電極530の形状を問わずに、最も高い検出効率を有する位置であり得る。
【0051】
第1上部検出器610は、荷電粒子線Bが試料に照射されて広がった軌道を有する二次電子及び後方散乱電子を検出することができ、他の電極の形状と配置を問わずに、検出効率が最適となる位置に配置することができる。第2上部検出器620は、第4電極の開口を通過した二次電子及び後方散乱電子を検出する。
【0052】
第1電極510の外周表面にはメインスキャン820が配置されることができる。上述したように、メインスキャン820は、対物レンズ500を介して集束された荷電粒子線Bに対して高倍率のビーム走査を行う。したがって、ビームチューブ200において荷電粒子線Bの経路に沿って配置されたサブスキャン810と高倍率のビーム走査を行うメインスキャン820によって荷電粒子線Bの高精度走査を行うことができる。
【0053】
試料は、対物レンズ500と共に、第1真空度が維持される第1領域V1に配置され、ステージ(stage)上に配置されることができる。一実施形態として、ステージは、試料のXYZ位置、回転、傾斜を制御することが可能な5軸ステージであってもよく、ステージにおける試料配置部分は、絶縁体で形成されて試料との電気的接続が遮断されることができる。
【0054】
一実施形態として、荷電粒子線装置10は、第1真空度に維持される第1領域V1と、第2真空度に維持される第2領域V2と、第3真空度に維持される第3領域V3と、第4真空度に維持される第4領域V4とに分けられ、互いに異なる真空度で排気される。
【0055】
図示の実施形態において、第4領域V4は、電子源110の内部領域であってもよく、開口を有するオリフィスOによって第3領域と区別できる。第4領域V4は、電子源110に含まれた電子源用真空ポンプ119によって1×10-8オーダーの真空度Paに維持されることができる。
【0056】
第3領域V3は、検出器カバー410によって第2領域V2と区別されて差動排気されることができる。第3領域V3は、第3領域ポンプ142で排気されて1×10-7オーダーの真空度Paに維持されることができる。
【0057】
第2領域V2は、第4電極540の開口によって第1領域V1から区分されて差動排気されることができ、第2領域V2は、第2領域ポンプ144で排気されて1×10-6オーダーの真空度Paに維持されることができる。また、試料が配置される第1領域V1は、第1ポンプ146で排気されて1×10-3~1×10-4の真空度Paに維持されることができる。上述したように、各領域は、各領域に位置するポンプによって差動排気されて所望の真空度に維持されることができる。
【0058】
図3は、本実施形態による荷電粒子線装置10の動作に要求される駆動電力を供給する駆動電源部1000との接続関係を例示する図である。
図1及び
図3を参照すると、駆動電源部1000は、電子源110に駆動電力を供給する電子源駆動電源部1010と、対物レンズに含まれた電極及び試料に電圧を供給する対物レンズ駆動電源部1020と、を含むことができる。ユーザは、ユーザ端末1030を介して駆動電源部1000を制御して荷電粒子線装置10を制御することができる。荷電粒子線装置10が検出した二次電子、後方散乱電子に関連するデータは、演算装置に供給されて演算及び処理でき、画像化されてユーザ端末1030を介してユーザに表示できる。
【0059】
一実施形態として、電子源駆動電源部1010は、フィラメント111を加熱するための電流を供給するフィラメント電流供給部Ifil、サプレッサ電極113に抑制電圧Vsupを供給する抑制電圧供給部Vsup、及びエクストラクタ電極115に荷電粒子を引き出すための引き出し電圧Vextを供給する引き出し電圧供給部Vextを含むことができる。フィラメント電流Ifil、抑制電圧Vsup及び引き出し電圧Vextは、荷電粒子線Bの初期エネルギーを決定する加速電圧VACCに重畳して供給される。
【0060】
一実施形態として、対物レンズ駆動電源部1020は、第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540にそれぞれ接続されて電圧を供給する第1電極駆動電源部V1、第2電極駆動電源部V2、第3電極駆動電源部V3、第4電極駆動電源部V4と、試料に電圧を供給する試料駆動電源部V0と、を含むことができる。
【0061】
荷電粒子線Bは、第1電極駆動電源部V1、第2電極駆動電源部V2、第3電極駆動電源部V3、第4電極駆動電源部V4がそれぞれ第1電極510、第2電極520、第3電極530及び第4電極540に印加した電圧で形成された電界によって試料に集束されて供給される。
【0062】
ユーザは、ユーザ端末1030を介して試料に照射される荷電粒子線エネルギーを制御することができる。一実施形態として、試料に照射される荷電粒子線のエネルギーを制御することができる。一例として、ユーザは、ユーザ端末1030を介して第3電極駆動電源部V3を制御して第3電極530に第3電極駆動電圧V3を供給し、第1電極510に供給される第1電極駆動電圧V1を第3電極駆動電圧V3よりも低い電圧で供給するように制御する。
【0063】
このように、第1電極510に供給される第1電極駆動電圧V1と第3電極530に供給される第3電極駆動電圧V3との大小関係を制御することにより、荷電粒子線が試料に照射されるエネルギーを制御することができる。
【0064】
一実施形態として、第1電極510に供給される第1電極電圧V1は、試料に供給される試料電圧V0と同じであり得る。他の実施形態として、第1電極電圧V1は、試料電圧(V0)-50V乃至試料電圧(V0)+50Vの電位に設定されることができる。
【0065】
第2電極は、荷電粒子線Bを試料に集束させる。一実施形態として、ユーザは、ユーザ端末1030で第2電極駆動電源部V2を制御して、第2電極520に印加される電圧V2を調整することにより、対物レンズ500と試料の作動距離(ワーキングディスタンス、working distance)WD又は電子線のエネルギーに相応するように試料に荷電粒子線Bを集束させることができる。
【0066】
荷電粒子線Bが試料に照射されて形成された二次電子及び後方散乱電子の大部分は、対物レンズ500の内部に引き込まれて第1上部検出器610で検出される。第4電極540は、第1上部検出器610が装着され、試料の方向に突出する円筒部を有し、その中心に開口部が設置されている。この円筒部によって一次電子ビームの検出器に対する立体角を減少させ、絶縁である検出器表面の帯電による一次電子ビームの異常な軌道偏向を減少させる。第4電極540の開口部を通過した二次電子及び後方散乱電子は、ビームチューブの上方に進行及び発散して第2上部検出器によって検出される。
【0067】
図4は、本実施形態の荷電粒子線装置における静電型対物レンズ部分の一次電子線の軌道(Trajectory)及び軸上ポテンシャル(Axial Potential)の計算例を示す。
【0068】
対物レンズの第1乃至第4電極に印加されるV1~V4電位はそれぞれ1000V、8155V、4000V、4000Vであり、試料電位V0は1000Vであり、これらは電子源110を0V基準とする相対値である。例示されているように、第3電極と第4電極には同じ電位が印加される。これにより、後述するように電極及び検出器の汚染および損傷を防ぐことができ、検出性能を向上させることができるという利点が提供される。
【0069】
図4に例示されているように、対物レンズ500の内部領域に相応するz軸-150~-50mmの範囲で、軸上電位は第3電極及び第4電極の電位によって決定され、4000Vである。第2電極520には8155Vが印加され、荷電粒子線Bが試料に集束されるように調整される。第1電極510の電圧V
1は、試料電圧のV
0と同じ電位の1000Vに設定される。
【0070】
一次電子線の軌道は、コンデンサレンズ310、320によって-150mmの位置で光軸上に収束した後、対物レンズ500に入射し、Z=0mmの位置にある試料の表面に集束されなければならない。
【0071】
対物レンズ500において、第3電極530と第2電極520との間の加速作用によって電子線は発散し、第2電極520と第1電極510との境界付近の減速作用によって収束して試料に集束される。
【0072】
本実施形態の静電型対物レンズ500では、第2電極520に印加される第2電極電圧V2を調整して試料上に電子線を集束させることができ、対物レンズ500と試料との間の作動距離(ワーキングディスタンス)WD、電子線のエネルギーが変更される場合の集束条件を制御することができる。また、第2電極520に供給される第2電極電圧V2は、第3電極530に供給される第3電極電圧V3及びビームチューブ200の電位とは独立して設定することができる。第2電極電圧V2を変更して集束を調整する場合にも、検出効率に影響を与える第3電極電圧V3と第4電極電圧V4は一定に保つことができるので、電子線の信号検出効率は一定に保つことができる。
【0073】
例示された軸上ポテンシャル(Axial potential)を実現するために2つの電圧を印加する方法が可能である。第1の方法として、試料を接地(0V)し、カラム内部のビームチューブ200を正電位とした場合、V0=0V、V1=0V、V2=+7155V、V3=+3000V、V4=+3000Vの電圧を印加する。電子源110に印加される加速電圧VACC=-1000Vに設定することができる。
【0074】
第2の方法として試料を負電位とし、カラム内部のビームチューブ200を接地(0V)とした場合、V0=-3000V、V1=-3000V、V2=+4155V、V3=0V、V4=0Vの電圧を印加する。電子源に印加される加速電圧VACC=-4000Vに設定する。走査型電子顕微鏡のみを単独で使用する場合、2つの電圧適用方法がすべて可能である。
【0075】
上述した電子線のエネルギー分析を行うスペクトロメータの試料側は、接地されている場合が多いため、走査型電子顕微鏡とスペクトロメータを同時に動作させるためには第1の方法が好ましい。
【0076】
図5は、本実施形態による第1電極、第2電極及び第3電極、及び電極のパラメータ(寸法変数)を示す概要図である。
図6は、第1電極、第2電極及び第3電極の正規化されたパラメータ値による対物レンズ500の球面収差(Cs、spherical aberration)を示す図であり、
図7は、第1電極、第2電極及び第3電極の正規化されたパラメータ値による対物レンズ500の色収差(Cc、chromatic aberration)を示す図である。
【0077】
図5~
図7を参照すると、第1電極510、第2電極520及び第3電極530の端部は円錐形状を有することができる。円錐の角度はθ
OLである。第1電極510、第2電極520及び第3電極530がなす円錐の末端部は互いに平行に切断され、直径Dの開口を形成することができる。
【0078】
第1電極510の末端部の厚さはt1であり、第2電極520の末端部の厚さはt2であり、第3電極530の末端部の厚さはt3である。図示の実施形態において、電極の末端部の厚さと残り部分の厚さは互いに異なる表示がされたが、これは例示された実施形態であって、電極の末端部の厚さと残り部分の厚さは互いに等しくてもよい。また、第1電極510と第2電極520との間の間隔はg1であり、第2電極520と第3電極530との間の間隔はg2である。
【0079】
図6及び
図7の横軸は正規化されたパラメータ値(寸法値)であり、縦軸は収差の計算値である。正規化は、(該当値-最小値)/(最大値-最小値)の式を使用した。縦軸の収差の値が小さいほど対物レンズの性能に優れることを意味する。各幾何寸法値に対して、グラフの傾き値が大きいほど、対象となる幾何寸法が重要であることを示している。
【0080】
図6に例示した球面収差Csでは、第1電極510の先端部の厚さt1、電極の開口部の直径Dが結果値に及ぼす影響が他のパラメータに比べて大きいことが分かり、
図7に例示された色収差Ccでは、これらと共に、第1電極と第2電極との間の間隔g1も、他のパラメータの値に比べて結果値に及ぼす影響が大きいパラメータであることが分かる。
【0081】
所望の収差係数を設定し、
図6及び
図7のグラフを参照して、基準値以下となる高性能の静電レンズを実現するための幾何寸法を決定することができる。具体的には、球面収差Csが40mm以下、色収差Ccが6mm以下となるようにするためには、各電極の開口部の直径Dを3mm以上、第1電極先端部の厚さt1を3mm以下、第1電極と第2電極との間隔g1を4mm以下にする必要がある。異なるビームエネルギー、作業距離(WD)条件でも同様の計算を行い、収差を小さくして高性能の対物レンズを実現することができる。
【0082】
また、
図6及び
図7は、重要な設計条件である静電型対物レンズの円錐角度θ
OLに対しても計算を行った。依存性は小さいが、円錐角が大きい条件がより収差係数が小さく、性能が良いレンズとなることが分かる。
図6及び
図7を用いて、走査型電子顕微鏡の静電型対物レンズとスペクトロメータの対物レンズの両方とも仕様を満たす円錐角を決定することができる。
【0083】
図8(a)は、従来の荷電粒子線装置の対物レンズ部において、試料の表面に発生した二次電子の軌道を計算した結果の一例を示す。静電レンズの等電位面が赤線、二次電子の軌道が青線で表示されている。図示の如く、検出器と電極との間には等電位面が形成され、これは、電位差が形成されていることを示す。したがって、試料から発生した二次電子が電極と検出器との電位差によって加速され、電極と衝突して、所望しない二次電子を生成し、これらが検出器で検出され、所望しないノイズとして作用する。また、検出器の表面に発生した二次電子が電位の高い電極に衝突し、これにより電極の内壁が汚染されるので、電界が不均衡になり、最終的に対物レンズとしての性能が低下する。
【0084】
従来技術の検出器は、一定期間使用した後、定期的な交換の際に検出器及び電極を取り外して対物レンズを分解する必要がある。そのため、再び検出器及び電極を組み立てるとき、中心位置を他の電極と精密に整列させて組み立てる必要があるから、不便で非効率的である。
【0085】
図8(b)は、本実施形態の対物レンズ部において、試料の表面に発生した二次電子の軌道を計算した結果の例を示す。
図8(b)を参照すると、試料から生成された二次電子が端部と衝突せずにその内部に引き込まれ、従来技術に比べて検出器の位置がより上部に位置するため、開口部を通過する二次電子の量が増加して検出効率が向上したことを示す。
【0086】
また、従来技術では、検出器及び電極との間に電位差が形成されて多数の等電位線を確認することができるが、本実施形態では、第3電極と第4電極との間には電位差がないか、或いは50V未満の電位差が形成される。すなわち、このため、試料から発生した二次電子が電極と衝突しないため、電極の汚染を防ぐことができ、静電レンズの性能劣化を防止し、長期的な安定動作を可能にする。さらに、第4電極と第3電極との電位差を+50V以下に設定すると、検出器で発生した二次電子が完全に上部検出器の方向に回帰するので、より効果的に電極汚染を防止することができる。一実施形態として、第2電極と第3電極との電位差は4000V以上であるため、第4電極と第3電極との電位差が50V程度であれば、電位差を無視できるレベルであることが分かる。
【0087】
また、本実施形態において、第1上部検出器610を交換するとき、第4電極540を取り外しても、主なレンズ作用を発生させる第2電極及び第3電極を取り外す必要なく、第1上部検出器610を容易に交換することができるため、その保守が容易である。本発明に対する理解を助けるために、図面に示された実施形態を参照して説明されたが、これは実施のための実施形態であって、例示的なものに過ぎず、当技術分野における通常の知識を有する者であれば、これから様々な変形及び均等な他の実施形態が可能であることを理解するであろう。したがって、本発明の真正な技術的保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって定められるべきである。
【符号の説明】
【0088】
10 荷電粒子線装置
110 電子源
111 フィラメント
113 サプレッサ電極
115 エクストラクタ電極
119 電子源用真空ポンプ
142 第3領域ポンプ
144 第4領域ポンプ
146 第1領域ポンプ
200 ビームチューブ
210 ビーム電極
310 第1コンデンサレンズ
312 ヨーク
314 コイル
316 光軸アライナ
320 第2コンデンサレンズ
322 ヨーク
324 コイル
326 光軸アライナ
330 絞り
410 検出器カバー
500 対物レンズ
510 第1電極
512 第1電極絶縁体
520 第2電極
522 第2電極絶縁体
530 第3電極
532 第3電極絶縁体
540 第4電極
542 第4電極絶縁体
610 第1上部検出器
620 第2上部検出器
710 スティグメータ
810 サブスキャン
820 メインスキャン
910 スペクトロメータ
920 下部検出器
1000 駆動電源部
1010 電子源駆動電源部
1020 対物レンズ駆動電源部
1030 ユーザ端末
【要約】
【課題】対物レンズ及びそれを含む荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】本実施形態は、試料に荷電粒子線を集束し照射する荷電粒子線装置の対物レンズであって、前記対物レンズは、露出して試料に対向する第1電極と、前記荷電粒子線を試料に集束させる第2電極と、円錐状の先端部及び該先端部から延びた本体部を有する第3電極と、前記第3電極の本体部に位置する第4電極と、を含み、前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極及び前記第4電極のそれぞれが貫通孔を含み、電圧が供給されて前記荷電粒子線が前記貫通孔を介して前記試料へ照射される。
【選択図】
図1