(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】高調波抑制装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241216BHJP
H02M 7/06 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/06 E
(21)【出願番号】P 2023530464
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2022024555
(87)【国際公開番号】W WO2022270470
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021105347
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 恭大
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】金森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 元紀
(72)【発明者】
【氏名】温品 治信
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-092813(JP,A)
【文献】特開2018-038220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と、
前記系統ラインに流れる負荷電流の高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流の目標値を求め、その目標値に前記系統ラインと前記電力変換器との間のインピーダンスに基づくゲインを乗算することにより、その目標値の補償電流を前記系統ラインに供給するために必要な補償電圧を求め、その補償電圧を前記電力変換器で生成し出力させる制御手段と、
を備え
、
前記制御手段は、
前記負荷電流を検出する第1検出手段と、
前記第1検出手段で検出される負荷電流の低周波数成分を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段で抽出される低周波数成分を前記第1検出手段で検出される負荷電流から減算することによりその負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、この高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流の目標値を算出する第1演算手段と、
前記第1演算手段で算出される目標値に、前記系統ラインと前記電力変換器との間のインピーダンス及びその目標値に対する時間微分項が含まれるゲインを乗算することにより、前記第1演算手段で算出される目標値の補償電流を前記系統ラインに供給するために必要な補償電圧の目標値を算出する第2演算手段と、
前記第2演算手段で算出される目標値に応じて前記電力変換器を駆動することにより、その目標値の補償電圧を前記電力変換器で生成し出力させる駆動手段と、
を含み、
前記ゲインは、
前記インピーダンスが連系リアクトルLacの場合には、連系リアクトルLacと前記目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”との積“Lac×(d/dt)”であり、
前記インピーダンスが連系リアクトルLacおよび抵抗Rの場合には、連系リアクトルLacと前記時間微分項“d/dt”との積に抵抗Rを加えた“Lac×(d/dt)+R”であり、
前記インピーダンスが連系リアクトルLacとフィルタコンデンサCf、フィルタリアクトルLfから構成されるLCLフィルタの場合には、連系リアクトルLacとフィルタリアクトルLfと前記時間微分項“d/dt”との積“(Lac+Lf)×(d/dt)”である、
高調波抑制装置。
【請求項2】
前記系統ラインと前記電力変換器との接続間に設けられた系統連係用のパッシブフィルタ、
をさらに備える、
請求項1に記載の高調波抑制装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記電力変換器から前記系統ラインに供給される補償電流を検出する第2検出手段と、
前記第1演算手段で算出される目標値と前記第2検出手段で検出される補償電流の値との偏差を求める第3演算手段と、
前記第3演算手段で求められる偏差が零となるよう、前記第2演算手段で算出される目標値に加えるべき補正値を、前記第3演算手段で求められる偏差を入力とする比例演算または比例・積分演算により求めるフィードバック制御手段と、
前記フィードバック制御手段で求められる補正値を前記第2演算手段で算出される目標値に加える加算手段と、
をさらに含む、
請求項
1に記載の高調波抑制装置。
【請求項4】
前記フィードバック制御手段は、前記第3演算手段で求められる偏差を前記交流系統の交流電圧の周期ごとに保持および積分しながら積算し、この積算結果に所定の繰返しゲインを乗算し、この乗算結果を前記第3演算手段で求められる偏差に加算し、この加算結果を入力とする比例演算または比例・積分演算により、前記第3演算手段で求められる偏差が零となるよう、前記第2演算手段で算出される目標値に加えるべき補正値を求める、
請求項
3に記載の高調波抑制装置。
【請求項5】
前記フィードバック制御手段は、前記繰返しゲインの乗算結果に対し、前記比例演算または前記比例・積分演算による処理の遅れ時間を補償するための進み補償処理を加える、
請求項
4に記載の高調波抑制装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記第1演算手段で算出される目標値のうち所定の周波数帯域を除去する第1帯域除去手段、
をさらに含み、
前記第2演算手段は、前記第1帯域除去手段を経た目標値に、前記ゲインを乗算することにより、前記第1演算手段で算出される目標値の補償電流を前記系統ラインに供給するために必要な補償電圧の目標値を算出する、
請求項
1に記載の高調波抑制装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記第1演算手段で算出される目標値を前記交流系統の交流電圧の一周期において逐次に保持する保持手段、
をさらに含み、
前記第2演算手段は、前記保持手段で保持される目標値に、前記ゲインを乗算することにより、前記第1演算手段で算出される目標値の補償電流を前記系統ラインに供給するために必要な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwの目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´を算出する、
請求項
1に記載の高調波抑制装置。
【請求項8】
前記制御手段は、
前記第2検出手段で検出される補償電流Icu,Icv,Icwの値のうち所定の周波数帯域を除去する第2帯域除去手段、
を含み、
前記第3演算手段は、前記第1演算手段で算出される目標値Icu´,Icv´,Icw´と前記第2帯域除去手段の処理を経た補償電流Icu,Icv,Icwとの偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを求める、
請求項
3に記載の高調波抑制装置。
【請求項9】
前記負荷は、前記交流
系統の電圧を整流するダイオードブリッジの整流回路と、この整流回路の出力端に直流リアクトルを介して接続された直流コンデンサと、この直流コンデンサの電圧を所定周波数の交流電圧に変換するインバータと、を含む、
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載の高調波抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、高調波を抑制する高調波抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオード整流器など非線形な特性を持つ負荷を交流系統に接続した場合、負荷に流れる電流(負荷電流)に高調波成分が生じる。この高調波電流は交流系統を通して他の負荷へ悪影響を与えるため、それをいかに抑制するかが重要な課題となっている。
【0003】
対策として、高調波を抑制するために負荷電流に加えるべき補償電流を交流系統と負荷との間の系統ラインに供給する高調波抑制装置がある。この高調波抑制装置は、補償電流の目標値と実際に流れる補償電流との偏差を求め、補償電流の供給に必要な補償電圧をその偏差を入力とする比例・積分演算(フィードバック制御)により求め、その補償電圧を系統ラインに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-227630号公報
【文献】特許第5713044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高調波には高い周波数成分が含まれる。高い周波数成分にも追従した抑制を行うためには、比例・積分演算のゲインを上げる必要がある。しかしながら、ゲインを上げると、遅延や共振を生じるなど制御が不安定となる。結果として、むしろ高調波の増大を招いてしまう。
【0006】
本発明の実施形態の目的は、高い周波数成分を含む高調波であってもそれを確実に抑制できる高調波抑制装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の高調波抑制装置は、交流系統と負荷との間の系統ラインに接続され、交流電圧を生成しそれを前記系統ラインへ出力する電力変換器と;前記系統ラインに流れる負荷電流の高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流の目標値を求め、その目標値に前記系統ラインと前記電力変換器との間のインピーダンスに基づくゲインを乗算することにより、その目標値の補償電流を前記系統ラインに供給されるために必要な補償電圧を求め、その補償電圧を前記電力変換器で生成し出力させる制御手段と;を備える。前記制御手段は、前記負荷電流を検出する第1検出手段と;前記第1検出手段で検出される負荷電流の低周波数成分を抽出する抽出手段と;前記抽出手段で抽出される低周波数成分を前記第1検出手段で検出される負荷電流から減算することによりその負荷電流に含まれる高調波成分を検出し、この高調波成分を抑制するために前記負荷電流に加えるべき補償電流の目標値を算出する第1演算手段と;前記第1演算手段で算出される目標値に、前記系統ラインと前記電力変換器との間のインピーダンス及びその目標値に対する時間微分項が含まれるゲインを乗算することにより、前記第1演算手段で算出される目標値の補償電流を前記系統ラインに供給するために必要な補償電圧の目標値を算出する第2演算手段と;前記第2演算手段で算出される目標値に応じて前記電力変換器を駆動することにより、その目標値の補償電圧を前記電力変換器で生成し出力させる駆動手段と;を含む。前記ゲインは、前記インピーダンスが連系リアクトルLacの場合には、連系リアクトルLacと前記目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”との積“Lac×(d/dt)”であり;前記インピーダンスが連系リアクトルLacおよび抵抗Rの場合には、連系リアクトルLacと前記時間微分項“d/dt”との積に抵抗Rを加えた“Lac×(d/dt)+R”であり;前記インピーダンスが連系リアクトルLacとフィルタコンデンサCf、フィルタリアクトルLfから構成されるLCLフィルタの場合には、連系リアクトルLacとフィルタリアクトルLfと前記時間微分項“d/dt”との積“(Lac+Lf)×(d/dt)”である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は第1実施形態の制御部の構成を示すブロック図。
【
図3】
図3は
図2におけるフィードバック制御部の構成を示すブロック図。
【
図5】
図5は第2実施形態の制御部の構成を示すブロック図。
【
図6】
図6は各実施形態における2相分の交流電圧、負荷電流、系統電流、補償電流の波形を示す図。
【
図7】
図7は
図6における系統電流の波形および補償電流のd軸成分・q軸成分の波形を示す図。
【
図8】
図8は従来における系統電流の波形および補償電流のd軸成分・q軸成分の波形を参考として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1]本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、3相交流系統(3相交流電源、電力系統、配電系統などを含む)1の系統ライン(電源ライン)Lu,Lv,Lwに系統インピーダンス2を介して負荷3が接続されている。
【0010】
負荷3は、非線形な特性を持つ負荷であるダイオード4a~4fのブリッジ接続により3相交流系統1の交流電圧(系統電圧)Eu,Ev,Ewを全波整流する3相整流回路4、この3相整流回路4の出力端に直流リアクトル5を介して接続された直流コンデンサ6、この直流コンデンサ6の両端に接続されたインバータ7などを含む。インバータ7は、直流コンデンサ6の電圧をスイッチングにより所定周波数の交流電圧に変換し、その交流電圧を例えば空気調和機の圧縮機モータ等の駆動電力として出力する。
【0011】
系統ラインLu,Lv,Lwにおける系統インピーダンス2と負荷3との間の位置に、本実施形態の高調波抑制装置10が接続されている。
【0012】
高調波抑制装置10は、系統連係用のパッシブフィルタ11、このパッシブフィルタ11を介して系統ラインLu,Lv,Lwに接続された電力変換器12、系統ラインLu,Lv,Lwにおけるパッシブフィルタ11の接続位置と負荷3との間に配置され3相交流系統1の交流電圧Eu,Ev,Ewおよび負荷3に流れる電流(負荷電流という)ILu,ILv,ILwを検出する検出器(第1検出手段)13、パッシブフィルタ11と電力変換器12との接続間に配置されその電力変換器12から系統ラインLu,Lv,Lwに供給される補償電流(出力電流ともいう)Icu,Icv,Icwを検出する検出器(第2検出手段)14、これら検出器13,14の検出結果に応じて電力変換器12を制御する制御部(制御手段)15を含む。
【0013】
パッシブフィルタ11は、例えば、系統ラインLu,Lv,Lwの相ごとに配置される連系リアクトル、あるいはインダクタとコンデンサを組み合わせて系統ラインLu,Lv,Lwの相ごとに配置されるLCLフィルタである。
【0014】
電力変換器12は、例えば3相2レベル変換器であり、複数の半導体スイッチ素子を有するスイッチング回路12a、このスイッチング回路12aの両端間に接続された直流コンデンサ12b、この直流コンデンサ12bの電圧Vcoを検出する電圧検出器12cを含み、スイッチング回路12aのスイッチングおよびそのスイッチングに伴う直流コンデンサ12bの通電により、制御部15からの指令(求め)に応じた3相電圧を生成しそれを系統ラインLu,Lv,Lwへ出力する。この3相電圧により生じる補償電流Icu,Icv,Icwを、この電力変換器12から系統ラインLu,Lv,Lwに供給することで負荷電流ILu,ILv,ILwに含まれる高調波成分を抑制する。
【0015】
制御部15は、検出器13で検出される負荷電流ILu,ILv,ILwに含まれる高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために負荷電流ILu,ILv,ILwに加えるべき補償電流Icu,Icv,Icwの目標値Icu´,Icv´,Icw´を求め、その目標値Icu´,Icv´,Icw´に系統ラインLu,Lv,Lwと電力変換器12との間のインピーダンスZに基づくゲインGを乗算することにより、その目標値Icu´,Icv´,Icw´の補償電流Icu,Icv,Icwを系統ラインLu,Lv,Lwに供給するために必要な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを求め、その補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを電力変換器12で生成し出力させる。
【0016】
高調波成分を抑制するために負荷電流ILu,ILv,ILwに加えるべき補償電流Icu,Icv,Icwとは、具体的には、負荷電流ILu,ILv,ILwをできるだけ交流電圧Eu,Ev,Ewと同期した正弦波に近づけるために、その負荷電流ILu,ILv,ILwに足し合わせるべき電流のことである。
【0017】
系統ラインLu,Lv,Lwと電力変換器12との間のインピーダンスZは、系統ラインLu,Lv,Lwと電力変換器10との間の電気回路における電圧と電流の比であって、系統ラインLu,Lv,Lwと電力変換器12との接続間に存するパッシブフィルタ11のインピーダンスにより定まる。パッシブフィルタ11のインピーダンスは、連系リアクトルLac、フィルタリアクトルLf、フィルタコンデンサCf、抵抗Rの1つまたはその複数の組み合わせからなることが一般的である。
【0018】
制御部15の具体的な構成を
図2に示す。
検出器13で検出される負荷電流ILu,ILv,ILwの値がローパスフィルタ(抽出手段)21および演算部(第1演算手段)22に供給される。ローパスフィルタ21は、検出器13で検出される負荷電流ILu,ILv,ILwの値の低周波数成分を抽出する。演算部22は、ローパスフィルタ21で抽出された低周波数成分を検出器13で検出された負荷電流ILu,ILv,ILwの値から減算することにより、負荷電流ILu,ILv,ILwに含まれる高調波成分を検出する。そして、演算部22は、検出した高調波成分を抑制するために負荷電流ILu,ILv,ILwに加えるべき補償電流Icu,Icv,Icwの目標値(指令値)Icu´,Icv´,Icw´を算出する。この算出結果が微分演算部(第2演算手段)23に供給される。
【0019】
微分演算部23は、系統ラインLu,Lv,Lwと電力変換器12との間のインピーダンスZが含まれる所定のゲインGを予め保持し、演算部22で算出される目標値Icu´,Icv´,Icw´にそのゲインを乗算することにより、目標値Icu´,Icv´,Icw´の補償電流Icu,Icv,Icwが系統ラインLu,Lv,Lwに供給されるために必要な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwの目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´を算出する。
【0020】
ゲインGは、インピーダンスZに基づき設定される。具体的にはインピーダンスZを含むとともに、目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”を含む。例えば、インピーダンスZが連系リアクトルLacであれば、連系リアクトルLacと目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”との積“Lac×(d/dt)”をゲインGとする。この場合、補償電圧Vcu,Vcv,Vcwの目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´として、Vcu´=[Lac×(dIcu´/dt)]、Vcu´=[Lac×(dIcv´/dt)]、Vcw´=[Lac×(dIcw´/dt)]が得られる。
【0021】
インピーダンスZが連系リアクトルLacおよびリアクトルの抵抗Rであれば、連系リアクトルLacと目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”との積に抵抗Rを加えた“Lac×(d/dt)+R”をゲインGとする。この場合、補償電圧Vcu,Vcv,Vcwの目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´として、Vcu´=[Lac×(dIcu´/dt)+R]、Vcu´=[Lac×(dIcv´/dt)+R]、Vcw´=[Lac×(dIcw´/dt)+R]が得られる。
【0022】
他にも、パッシブフィルタが連系リアクトルLacとフィルタコンデンサCf、フィルタリアクトルLfから構成されるLCLフィルタであれば、連系リアクトルLacとフィルタリアクトルLfと目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する時間微分項“d/dt”と第3階微分項“d3/dt3”を用いて積“(Lac+Lf)×(d/dt)+Lac×Lf×Cf×(d3/dt3)”をゲインGとする。ただし、フィルタコンデンサCfはスイッチングリプル成分を除去する目的であるため、第3階微分項を無視することもできる。この場合、補償電圧Vcu,Vcv,Vcwの目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´として、Vcu´=[(Lac+Lf)×(dIcu´/dt)]、Vcu´=[(Lac+Lf)×(dIcv´/dt)]、Vcw´=[(Lac+Lf)×(dIcw´/dt)]が得られる。
【0023】
なお、微分計算をデジタル制御器に実装する場合は、計算時間を考慮して適当なLPFを組み合わせ、不完全微分として実装することが一般的である。
【0024】
算出された目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´は、加算部24を介してパルス幅変調回路(PWM;駆動手段)25に供給される。パルス幅変調回路25は、検出器13で検出される交流電圧Eu,Ev,Ewと同じ周波数の正弦波電圧を目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´でパルス幅変調することにより、電力変換器12のスイッチング回路12aに対する駆動用の複数のゲート信号(オン,オフ信号)を生成し出力する。
【0025】
これらゲート信号によって電力変換器12のスイッチング回路12aの各スイッチ素子がオン,オフ駆動されることにより、目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´の補償電圧Vcu,Vcv,Vcwが電力変換器12から出力される。この出力に伴い、目標値Icu´,Icv´,Icw´の補償電流Icu,Icv,Icwが電力変換器12から系統ラインLu,Lv,Lwに流れる。この補償電流Icu,Icv,Icwにより、負荷電流ILu,ILv,ILwに含まれる高調波成分が抑制される。
【0026】
3相交流系統1中の2相を抜き出した交流電圧Eu,Evの波形、負荷電流ILu,ILvの波形、3相交流系統1における系統電流Iu,Ivの波形、補償電流Icu,Icvの波形を
図6に示している。
【0027】
以上のように、負荷電流ILu,ILv,ILwに含まれる高調波成分を検出し、その高調波成分を抑制するために負荷電流ILu,ILv,ILwに加えるべき補償電流Icu,Icv,Icwの目標値Icu´,Icv´,Icw´を算出し、その目標値Icu´,Icv´,Icw´に対するゲインGを乗算することで、目標値Icu´,Icv´,Icw´の補償電流Icu,Icv,Icwが系統ラインLu,Lv,Lwに供給されるために必要な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを、目標値Icu´,Icv´,Icw´から直接的に求めることができる。したがって、比例・積分演算のゲインを上げなければならない従来装置のように遅延や共振などを生じることなく、高い周波数成分を含む高調波にも十分に対処し得る適切な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを得ることができる。
【0028】
すなわち、比例・積分演算によって補償電圧を得る従来の高調波抑制装置では、高い周波数成分を含む高調波にも対処しようとすると比例・積分演算のゲインを上げなければならず、そうすると遅延や共振を生じるなど制御が不安定となり、むしろ高調波の増大を招いてしまうが、補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを目標値Icu´,Icv´,Icw´から直接的に求めることで、高い周波数成分を含む高調波であっても、それを確実に抑制することができる。
【0029】
図7は、本実施形態における系統電流Iu,Ivの波形を時間的に拡大して示すとともに、本実施形態における1つの補償電流Icuをd軸成分の波形とそのd軸成分に対して電気的に位相が90度ずれたq軸成分の波形とに分けて示している。本実施形態によれば、このd軸成分およびq軸成分をそれぞれ目標値に適切に追従させることができる。
【0030】
一方、比例・積分演算によって補償電圧を得る従来装置の場合、
図8に示すように、補償電流が目標値に適切に追従せず、それが系統電流Iu,Ivの波形に大きな高調波ノイズとなって現われてしまう。本実施形態ではそのような不具合を解消することができる。
【0031】
なお、
図2に示すように交流電圧Eu,Ev,Ewの不要な変動に対処するため、検出器13で検出される交流電圧Eu,Ev,Ewの値が加算部24に供給され、その交流電圧Eu,Ev,Ewの値が加算部24において目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´に加えられる。この加算部24を経た目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´がパルス幅変調回路25に供給される。これにより、交流電圧Eu,Ev,Ewの不要な変動が補償電圧Vcu,Vcv,Vcwに重畳する不具合を解消することができる。
【0032】
また、補償電流Icu,Icv,Icwに対する予期せぬ外乱や想定したインピーダンスZの誤差に対処できるよう、さらには電力変換器12における直流コンデンサ12bの電圧Vcoを標準値の一定に維持できるよう、
図2に示すように、制御部15に演算部(第3演算手段)26、演算部(第4演算手段)27、電圧制御部28およびフィードバック制御部30が加えられている。
【0033】
演算部26は、演算部22で算出された目標値Icu´,Icv´,Icw´と検出器14で検出される実際の補償電流Icu,Icv,Icwの値との偏差(Icu´-Icu),(Icv´-Icv),(Icw´-Icw)を求める。演算部27は、電力変換器12におけるコンデンサ12bの電圧Vcoに対し予め定められている標準値Vcosと電力変換器12の電圧検出器12cで検出されるコンデンサ12bの実際の電圧Vcoとの偏差ΔVcoを求める。
【0034】
電圧制御部28は、演算部27で求められた偏差ΔVcoに所定の電圧制御ゲインを乗算することにより、コンデンサ12bの電圧Vcoを標準値Vcos一定に維持するために上記求めた偏差(Icu´-Icu),(Icv´-Icv),(Icw´-Icw)に加えるべき補正値ΔIcoを求める。演算部26は、この補正値ΔIcoを上記求めた偏差に加えることで得られる偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを出力する。
【0035】
フィードバック制御部30は、演算部26で得られた偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwが零となるよう、微分演算部23で算出される目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´に加えるべき補正値ΔVcu´,ΔVcv´,ΔVcw´を、演算部26から出力される偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを入力とする比例演算または比例・積分演算により求める。求められた補正値ΔVcu´,ΔVcv´,ΔVcw´は、加算部24において目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´に加えられる。これにより、補償電流Icu,Icv,Icwに対する予期せぬ外乱や想定したインピーダンスZの誤差に大きな影響を受けることなく、しかも電力変換器12におけるコンデンサ12bの電圧Vcoを標準値一定に維持し得る安定かつ適切な補償電圧Vcu,Vcv,Vcwを得ることができる。
【0036】
このフィードバック制御部30は、例えば
図3に示すように、演算部26から供給される偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを加算部31,保持部32,積分部(LPF)33のループ構成により交流電圧Eu,Ev,Ewの周期ごとに保持および積分しながら積算し、この積算結果に乗算部34で繰返し制御用の所定の繰返しゲインKrcを乗算するとともに、続く加算部35においてこの乗算結果を演算部26から供給される偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwに加算する。そして、フィードバック制御部30は、加算部35を経た偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwに対し、比例演算部36で比例ゲインKpを乗算するとともに並行して積分演算部37で積分ゲインKi/sを乗算し、これら乗算結果を加算部38で加算することにより、演算部26で得られる偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwが零となるよう、微分演算部23で算出される目標値Vcu´,Vcv´,Vcw´に加えるべき補正値ΔVcu´,ΔVcv´,ΔVcw´を求める。
【0037】
偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを交流電圧Eu,Ev,Ewの周期ごとに保持および積分しながら積算し、その積算結果に繰返しゲインKrcを乗算することで、偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwにおける周期的な誤差を低減するようにしている。
【0038】
フィードバック制御部30については、
図4に示すように、加算部31,保持部32,積分部(LPF)33のループ構成による積算結果に乗算部34で繰返しゲインKrcを乗算した後、この乗算結果に対し、進み補償器41および加算部42のループ構成による進み補償処理を加える構成としてもよい。進み補償処理を加えることで、比例演算部36および積分演算部37の比例・積分演算による処理の遅れ時間を補償することができる。
【0039】
[2]本発明の第2実施形態における制御部15の構成を
図5に示す。
目標値Icu´,Icv´,Icw´を算出する演算部22から目標値Icu´,Icv´,Icw´を算出する微分演算部23にかけての信号路に、帯域除去フィルタ(第1帯域除去手段)51および保持部52が順次に配置される。さらに、補償電流Icu,Icv,Icwの値を検出する検出器14から偏差ΔIcu,ΔIcv,ΔIcwを求める演算部26にかけての信号路に、帯域除去フィルタ(第2帯域除去手段)52が配置される。
【0040】
帯域除去フィルタ51は、電力変換器12の出力側のパッシブフィルタ11がLCLフィルタである場合にそのLCLフィルタにおける共振を回避するべく、演算部22で算出される目標値Icu´,Icv´,Icw´のうち所定の周波数帯域を除去する。LCLフィルタにおける共振が生じると、電力変換器12から出力される補償電流Icu,Icv,Icwに意図しない高調波成分が重畳される可能性があるので、その共振を目標値Icu´,Icv´,Icw´に対する帯域除去処理によって回避するようにしている。
【0041】
保持部52は、制御の遅れや検出の遅れに起因する目標値Icu´,Icv´,Icw´と実際の補償電流Icu,Icv,Icwとのずれを補うべく、帯域除去フィルタ51を経た目標値Icu´,Icv´,Icw´を交流電圧Eu,Ev,Ewの一周期において逐次に保持する。
【0042】
帯域除去フィルタ52は、例えばノッチフィルタであり、検出器14で検出される補償電流Icu,Icv,Icwにフィードバック制御部30の採用に起因する高調波成分が重畳される不具合を解消するべく、かつその高調波成分がフィードバック制御部30のゲインによって増幅される不具合を解消するべく、検出器14で検出される補償電流Icu,Icv,Icwのうち所定の周波数帯域を除去する。
【0043】
[3]変形例
上記各実施形態では、電力変換器12として3相2レベル変換器を用いたが、それに限らずマルチレベル変換器を用いてもよい。
【0044】
制御部15の制御については、交流電圧Eu,Ev,Ewの位相に基づく回転座標変換により、交流電圧Eu,Ev,Ewの位相と同位相のd軸成分の制御とそのd軸成分に対して電気的に位相が90度ずれたq軸成分の制御とに分けて行う構成としてもよい。これにより、電力変換器12における各相の相互間やd軸とq軸との間の干渉項を取り除くことができる。負荷電流ILu,ILv,ILwを回転座標変換すれば、高調波成分を含む負荷電流ILu,ILv,ILwから直流量のみを抽出し、それを元の負荷電流ILu,ILv,ILwから減算することで、負荷電流ILu,ILv,ILwの目標値Icu´,Icv´,Icw´を求めることができる。
【0045】
その他、上記各実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1…系統電源、2…負荷、Lu,Lv,Lw…系統ライン、10…高調波抑制装置、11…パッシブフィルタ、12…電力変換器、12a…スイッチング回路、12b…コンデンサ、12c…電圧検出器、13,14…検出器、15…制御部、21…ローパスフィルタ(抽出手段)、22…演算部(第1演算手段)、23…微分演算部(第2演算手段)、25…パルス幅変調回路(駆動手段)