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特許7604668室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/62 20180101AFI20241216BHJP
   F24F 11/46 20180101ALI20241216BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20241216BHJP
   F24F 120/12 20180101ALN20241216BHJP
   F24F 120/10 20180101ALN20241216BHJP
   F24F 140/60 20180101ALN20241216BHJP
【FI】
F24F11/62
F24F11/46
F24F11/64
F24F120:12
F24F120:10
F24F140:60
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023545968
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2022051264
(87)【国際公開番号】W WO2022161856
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】21154350.9
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,ヘルマン ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ツェヒリン,オリヴァー
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-206779(JP,A)
【文献】特開2010-096430(JP,A)
【文献】特開2021-006946(JP,A)
【文献】特開2015-164844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0054023(US,A1)
【文献】特開2004-144348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/62
F24F 11/46
F24F 11/64
F24F 120/12
F24F 120/10
F24F 140/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部屋(R)の室内環境を室内利用者の環境嗜好(T1、T2)に調整するためのコンピュータによる実施方法であって
a) 前記室内利用者の前記環境嗜好(T1、T2)が読み込まれ、
b) 前記室内環境に対する物理的な影響因子(EF、WD)が検出され、
c) 検出された前記影響因子(EF、WD)が、前記室内環境をシミュレートするシミュレータ(SIM)に供給され、
d) 検出された前記影響因子(EF、WD)に応じて、前記シミュレータ(SIM)を用いて、前記部屋(R)内の前記室内利用者の異なる分布(D1、...、DN)に対して、それぞれ、前記環境嗜好(T1、T2)に対して前記室内環境を適応させるためのエネルギー消費(E1、...、EN)が、シミュレートされ、
e) ミュレートされた前記エネルギー消費(E1、...、EN)に応じて、前記室内利用者のエネルギー節約的な分布(D2)が算出され、
f) 前記エネルギー節約的な分布(D2)に従って、前記室内利用者に対する位置割当データ(POS)が出力される、
方法。
【請求項2】
前記室内環境が、前記エネルギー節約的な分布(D2)に従って分布された前記室内利用者の前記環境嗜好(T1,T2)に、近づけられること、
を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記影響因子(EF、WD)として、
- 前記部屋の、温度、湿度、換気、明るさ、遮光、又は、その他の室内環境データ、
- 実際の、過去の、又は、予測される、気象データ(WD)、
- 室内利用行動、及び/又は、
- 窓の位置、扉の位置、又は、遮光設備の位置、
が、好適にはセンサで、検出されること、
を特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記部屋(R)に対してデジタル建造物モデル(BIM)が読み込まれること、及び、
前記エネルギー消費(E1、...、EN)が前記デジタル建造物モデル(BIM)に基づいてシミュレートされること、
を特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記デジタル建造物モデル(BIM)として、セマンティック建造物モデルが読み込まれること、
前記セマンティック建造物モデル(BIM)の建造物要素タイプが、前記建造物要素タイプに固有のシミュレータ構成要素に、割り当てられること、及び、
前記建造物要素タイプに固有の前記シミュレータ構成要素が、この建造物要素タイプの建造物要素に関する前記セマンティック建造物モデル(BIM)のデータによって、初期化されること、
を特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記部屋(R)又は前記部屋(R)の建造設計図がスキャンされること、及び、
それに基づいて、前記デジタル建造物モデル(BIM)が生成されること、
を特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記部屋(R)の熱画像が撮像されること、及び、
前記シミュレータ(SIM)が前記熱画像によって較正されること、
を特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各エネルギー消費(E1、...、EN)のシミュレーションのために、
- シミュレートされた前記室内環境と、各分布(D1、...、DN)に従って分配された前記室内利用者の前記環境嗜好(T1,T2)との間の偏差が算出されること、及び、
- 前記偏差を低減又は最小化する前記室内環境の適応のための前記エネルギー消費(E1,...,EN)が算出されること、
を特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記環境嗜好及び/又は前記影響因子の変化に対する前記エネルギー消費がシミュレートされること、
前記室内利用者の前記分布(D1、...、DN)のために、それぞれ、前記環境嗜好及び/又は前記影響因子が変化する場合の前記エネルギー消費の変化を定量化する感度値(S1、...、SN)が算出されること、及び
前記エネルギー節約的な分布(D2)が、算出された前記感度値(S1、...、SN)に応じて、算出されること、
を特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記室内利用者による前記部屋(R)の占有に予想される変動に関する変動データが読み込まれること、及び、
前記エネルギー節約的な分布(D2)が、前記変動データに応じて算出されること、
を特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記室内利用者による前記部屋(R)の実際の占有が検出されること、
前記エネルギー節約的な分布(D2)がこの実際の占有に応じて算出されること、
を特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施するように設計された、前記部屋(R)の前記室内環境を前記室内利用者の前記環境嗜好に調整するための装置(A)。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実施するように設計された、コンピュータプログラム製品。
【請求項14】
請求項13に記載の記憶されたコンピュータプログラム製品を有するコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するための方法及び装置。
【背景技術】
【0002】
職場又は住居における個人的満足度の達成のために、暖房機器、空調設備、換気機器、又は、温度、湿度、又は、室内環境のその他のパラメータを制御するためのその他のシステム、の調整が、重要な役割を果たす。特に、多くの人員を収容する大空間オフィスでは、室内の全ての人々の希望を満たすような環境調整システムの最適な設定を見つけることは、往々にして困難である。この問題は、特に室内環境が中央制御される場合に発生する。しかしながら局所的な加熱要素、冷却システム、又は換気機器を個別に設定する場合でも、室内利用者の個々の要求は往々にして、完全には満たされ得ない、なぜなら、個別の設定も通常、室内全体の環境に影響を及ぼすからである。加えて空調制御システムは、往々にして緩慢に反応するので、その結果、調整の評価は往々にして困難である。
【0003】
近年、携帯電話を利用して複数の室内利用者間の合意を得ることを容易にしたり、不在時の室内環境の能動的なコントロールを可能にしたりするアプリケーションが知られている。しかしこのようにして行われる調整は、多くの場合平均的な結果をもたらすにすぎず、それは全ての室内利用者が満足するものではない。加えて、人の集まりの変動に対して、多くの場合、不満足な反応しか得られないことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、室内環境を室内利用者の環境嗜好により効率的に合わせることを可能にする、方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの課題は、請求項1の特徴を有する方法、請求項12の特徴を有する装置、請求項13の特徴を有するコンピュータプログラム製品、並びに、請求項14の特徴を有するコンピュータ可読記憶媒体、によって解決される。
【0006】
室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するために、室内利用者の環境嗜好が読み込まれる。環境嗜好は、この場合、特に、部屋の温度、湿度、換気、明るさ、遮光、及び/又は、太陽光の入射、に関連し得る。さらに室内環境に関する物理的な影響因子が検出され、室内環境をシミュレートするシミュレータに供給される。シミュレータを用いて、検出された影響要因に応じて、室内における室内利用者の異なる分布に対して、それぞれ、室内環境を環境嗜好に適合させるためのエネルギー消費がシミュレートされる。シミュレートされたエネルギー消費に応じて、室内利用者のエネルギー節約的な分布が、算出される。さらにエネルギー節約的な分布にしたがって、室内利用者の位置割当データ(位置割当情報)が出力される。
【0007】
本発明による方法を実施するために、室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するための装置、コンピュータプログラム製品、及び、コンピュータ可読で、好ましくは不揮発性の、記憶媒体、が提供される。
【0008】
本発明による方法、本発明による装置、及び、本発明によるコンピュータプログラム製品は、特に1つ又は複数のコンピュータ、1つ又は複数のプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、クラウドインフラストラクチャ、及び/又は、いわゆるフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、によって実施することができる。
【0009】
環境嗜好に基づいた室内における室内利用者の分布によって、室内環境は、効率的かつエネルギー節約的に、室内利用者の環境嗜好に調整することができる。多くの場合、これにより利用者の快適性、したがって利用者の満足度、が著しく改善され得る。
【0010】
本発明の有利な実施形態及び発展形態は、従属請求項に記載されている。
【0011】
本発明の有利な実施形態によれば、室内環境は、エネルギー節約的な分配に従って分配された室内利用者の環境嗜好に、近づけることができる。これは、特に、暖房、空調設備、換気、及び/又は、遮光設備の動的制御によって、行うことができる。上記の空調システムの内在的な慣性により、室内利用者が実際にエネルギー節約的な分配に従って位置決めされている前に又は位置決めされる前に、それらを、好ましくは既に、作動させることができる。
【0012】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、影響因子として、室内の、温度、湿度、換気、明るさ、遮光、又は、他の室内環境データや、現在の、過去の、又は、予想の気象データや、室内利用状態、及び/又は、窓の位置、扉の位置、又は、遮光設備の位置、を、好ましくはセンサを使用して及び/又は位置固有で、検出することができる。代替的に又は追加的に、過去の室内環境データ及び/又は他の過去の影響因子、を検出して使用することもできる。上記の影響因子を考慮することにより、一般的に室内環境の比較的精密なシミュレーションが可能となる。
【0013】
本発明の特に有利な実施形態によれば、部屋のためのデジタル建造物モデルを入力することができる。次いで、デジタル建造物モデルに基づいて、エネルギー消費をシミュレートすることができる。部屋の幾何学的形状及び部屋の建造物要素の特性は、一般に、室内環境にかなりの影響を及ぼすので、シミュレーションは、デジタル建造物モデルの利用によって、往々にして著しく単純化又は改善され得る。
【0014】
デジタル建造物モデルとしては、特にはセマンティック建造物モデルを、入力することができる。この場合、セマンティック建造物モデルの建造物タイプは、建造物要素タイプ固有のシミュレータ構成要素に、割り当てることができ、これは、この建造物要素タイプの建造物要素に関するセマンティック建造物モデルのデータによって、初期化され得る。その結果シミュレータは、多くの場合効率的な方法でモジュール化することができ、これは一般的にシミュレータの構成又は初期化を簡素化する。
【0015】
本発明のさらなる有利な実施形態によれば、部屋又は部屋の建造計画をスキャンし、それに応じてデジタル建造物モデルを生成することができる。
【0016】
さらに、室内の熱画像が撮影され得て、当該熱画像を用いてシミュレータは較正される。実際の熱データに基づくそのような較正によって、シミュレーション、特に温度又は流れシミュレーション、の精度を、概して改善することができる。代替的に又は追加的に、室内の実際の温度分布は、シミュレータの較正のために、温度センサによって、更なるシミュレーションを用いて、気象データに基づいて、デジタル建造物モデルのデータに基づいて、及び/又は、建造物管理システムのデータに基づいて、算出又は評価され得る。
【0017】
本発明のさらなる有利な実施形態に従って、それぞれのエネルギー消費のシミュレーションのために、シミュレートされた室内環境と、それぞれの分布に従って分散された室内利用者の環境嗜好との間の偏差が、算出され得る。したがって、この偏差を低減又は最小化する室内環境の適応のためのエネルギー消費を、算出することができる。特に、場合によっては最小のエネルギー消費が算出され得て、当該エネルギー消費においては、結果として生じる偏差は、予め設定された許容値を超えない。
【0018】
本発明の有利な発展形態によれば、環境嗜好及び/又は影響因子の変動に対するエネルギー消費をシミュレートすることができる。それに関して、室内利用者の分布に対して、その都度、感度値が算出され得て、当該感度値は、環境嗜好及び/又は影響因子が変動する場合の、エネルギー消費の変動を、定量化する。そしてエネルギー節約的な配分が、算出された感度値に応じて、算出され得る。より低い感度値は、その際、一般に、環境嗜好及び/又は影響因子に対するエネルギー消費のより低い依存性、を示す。影響因子又は環境嗜好が変化する場合、低い感度分布(英:sensitive distribution)は、一般により小さい適応を必要とし、この理由からより高い感度分布よりも好まれることが多い。
【0019】
さらに、室内利用者による部屋の占有の予期される変動についての変動データが入力され得る。そして、エネルギー節約的な分布が、変動データ指示に応じて、算出され得る。このような変動データに基づいて、シミュレーションは、多くの場合で、改善され得る。変動データは、特に1日、1週間、又は1年の間の、室内占有に関する履歴データ、を含むことができる。
【0020】
さらに、室内利用者による部屋の実際の占有が検出され得る。そして、エネルギー節約的な分布が、実際の占有に応じて、算出され得る。環境嗜好の分布が一般に実際の室内占有にも関係することに関連し、この情報を用いてシミュレーションは一般に改善され得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の実施例を、図面を参照して以下に詳細に説明する。図面はいずれも概略図である。
【0022】
図1図1は、室内環境を室内利用者の嗜好に調整するための本発明による装置を示す。
図2図2は、異なる環境嗜好を有する室内利用者の分布を示す。
図3図3は、環境嗜好の達成度とエネルギー消費との間の関係を説明するための第1のグラフを示す。
図4図4は、環境嗜好の達成度とエネルギー消費との低い感度関係を示すための第2のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、部屋Rの室内環境を室内利用者の環境嗜好に調整するための、本発明による装置Aの概略図を示す。装置Aは、コンピュータ制御されており、本発明による処理行程を実施するための1つ又は複数のプロセッサPROCと、装置Aによって処理されるデータを保存するための1つ又は複数のメモリMEMと、を有する。部屋Rは、例えば大部屋オフィス、工場フロア、居室又はその他の部屋といった、建物又は建築物の一部であり、その室内環境は室内利用者の環境嗜好に調整され得る。室内環境は、特には、部屋Rの、温度、湿度、換気、明るさ、遮光、及び/又は、日射を含むか、又はそれらに関連する。室内環境は、とりわけ位置に関連して考慮又は検出される。
【0024】
部屋Rは、室内環境を好ましくは部屋の場所に応じて調整するための閉ループ制御システム(英:closed-loop control system)H(以下、「調整システムH」とも称する)を有する。閉ループ制御システムHは、例えば暖房設備、空調設備、換気装置及び/又は遮光装置、を含み得る。
【0025】
さらに、部屋R及び/又はその周辺はセンサシステムSを有し、当該センサシステムSは、室内環境への物理的な影響因子EFを、好適には位置固有的に測定する又は別様に検出する。さらに、センサシステムSは、好ましくは室内利用者による部屋Rの実際の占有を検出する。影響因子EFとし、特には、温度、湿度、換気、輝度、遮光、日射、窓位置、扉位置、遮光設備の位置、室内利用状況、又は、部屋の他の室内環境データ、が、好ましくは位置固有的に、検出される。
【0026】
さらなる物理的な影響因子EFとして、予測された、実際の又は過去の気象データWDが、例えばインターネットINから、呼び出され得る。
【0027】
実際の室内環境データ、又は、例えば屋外温度のような周囲データ、は、好ましくはセンサシステムSによって検出されるのに対し、過去の室内環境データ又は室内環境への他の影響因子は、例えばデータベースDBから、読み込まれ得る。
【0028】
本実施例では、装置AによってデータベースDBから、特には、デジタルセマンティックな建造物モデルBIM、が読み込まれ、これによって部屋Rが建造物的に特定される。セマンティック建造物モデルBIMは、好ましくは、いわゆるBIMモデル(BIM:Building Information Model)又は他のCADモデルである。セマンティック建造物モデルBIMは、部屋Rの幾何学的形状と、その多数の建造物要素、例えば壁、天井、床、窓、又は扉など、とを、多数の建造物要素データを用いて、機械的に読取り可能な形態で記述する。部屋の幾何学的形状及び特定の建造物要素が、その室内環境に著しい影響を及ぼす場合は、セマンティック建造物モデルBIM又はその中に含まれるデータは、物理的影響因子として捉えられ得る。
【0029】
本発明に従い、装置Aにより、部屋Rの室内環境が、室内利用者の環境嗜好に調整されることが企図される。このために、装置Aにより、室内利用者の環境嗜好が利用者の携帯電話MTを介して問い合わされる、及び/又は、記憶された又は過去の環境嗜好が入力される。環境嗜好は、特に部屋Rの温度、空気湿度、換気、明るさ、遮光及び/又は日射に関連し得る。
【0030】
この実施例では、環境嗜好として概略表示のために室内利用者の2つの温度嗜好T1及びT2のみが考察される。この場合T1は、「どちらかと言うと涼しい」という温度嗜好を表すことができ、T2は、「どちらかとい言うと暖かい」という温度嗜好を表すことができる。環境嗜好T1及びT2は、例えば、温度間隔によって特定されていてもよい。
【0031】
部屋Rの室内環境をシミュレートするために、装置AはシミュレータSIMを使用する。このシミュレーションの目的のために、シミュレータSIMに、セマンティック建造物モデルBIM、物理的影響因子EF、気象データWD及び環境嗜好T1及びT2、が供給される。
【0032】
シミュレータSIMは、例えば温度のシミュレーション及び/又は流れのシミュレーションのための、特定のシミュレータ要素を含むことができる。場合によっては、シミュレータSIMの温度シミュレーションは、部屋Rの撮像された熱画像に基づいて、較正され得る。
【0033】
さらに、シミュレータSIMは、例えばセマンティック建造物モデルBIMの窓、扉又は壁のような、異なる建物要素タイプに対して、それぞれ、建造物要素タイプに固有のシミュレータ構成要素、を含んでいてもよい。これらの要素は、次いでセマンティック建造物モデルBIMのデータによって、各建造物要素タイプの具体的な建造物要素について、初期化され得る。たとえば、部屋Rのそれぞれの壁は、以下のようなシミュレータ構成要素、すなわち、壁を通る熱伝導を具体的にシミュレートし、セマンティック建造物モデルBIMからの壁の熱伝導率に関するデータに基づいて初期化されるようなシミュレータ構成要素、に関連付けられる。上記の方法では、シミュレータSIMのシミュレーションモデル又は他のシミュレータ構成要素の、構成又は初期化は、多くの場合、自動化又は簡略化することができる。
【0034】
装置Aは、さらに、部屋R内の室内利用者の分布D1、...、DNを形成するためのシミュレータSIMに接続されたジェネレータGEN、を有する。この場合、各分布D1、...、DNは、好ましくは、部屋R内の室内利用者の位置を示すデータ構造によって、表すことができる。
【0035】
ジェネレータGENには、環境嗜好、この場合T1及びT2、が、供給される。環境嗜好T1及びT2に基づいて、ジェネレータGENによって、好ましくは、同じ又は同様の環境嗜好を有する室内利用者が互いに隣り合って位置決めされている分布D1、...、DN、が生成される。生成された分布D1、...、DNは、ジェネレータGENからシミュレータSIMに伝送される。
【0036】
シミュレータSIMは、影響因子EFに応じて、伝送された分布D1、...、DNに対して、それぞれ1つのエネルギー消費E1、...、又はENを、D1、...、又はDNに従って分布された環境嗜好、ここではT1及びT2、への適応のために、シミュレートする。この場合、それぞれのエネルギー消費E1,...又はEN、を算出するために、その都度、異なるシミュレートされた室内環境と、D1、...又はDNに従って分配された室内利用者の環境嗜好と、の間の偏差が算出される。その偏差に基づいて、それぞれの分布D1、...又はDNに対して、偏差が低減される又は最小化されるエネルギー消費E1、...又はEN、が算出される。好ましくは、この場合、偏差に対して許容値を予め設定することができる。それに関連して、場合によっては最小のエネルギー消費E1、...又はENを算出してもよく、当該最小のエネルギー消費E1、...又はENでは、結果として生じる偏差が、予め設定された許容値を超えない。
【0037】
上記のエネルギー消費E1、...、ENは、この実施例では、追加的に、環境嗜好、ここではT1及びT2の、及び/又は、影響因子EFの、複数の変化に対して、シミュレートされる。この場合、それぞれの分布D1、...又はDNに対して、それぞれのエネルギー消費E1、・・・又はENが、環境嗜好T1、T2及び/又は影響因子EFの変化において、どれほど強く変化するかが、その都度算出される。それぞれのエネルギー消費E1、...又はENの結果的に生じる変化は、分布に固有の感度値S1、...又はSNによって定量化される。この場合、より低い感度値S1、...又はSNは、エネルギー消費E1、...又はENの、環境嗜好T1、T2及び/又は影響因子EFへの、より低い依存性を示す。したがって、より低い感度値を有する分布は、環境嗜好及び/又は影響因子の変動に対して、よりロバストである。影響因子又は環境嗜好が変化する場合、ロバストな分布は、一般に、より小さい適応を必要とし、この理由のため、ロバストの少ない分布よりも好まれることが多い。
【0038】
分布D1、...、DN、算出されたエネルギー消費E1、...、EN、並びに、算出された感度値S1、...、SNは、シミュレータSIMから、このシミュレータSIMに接続された選択モジュールSELに、送られる。
【0039】
さらに場合によっては、センサシステムSによって実際に測定された室内占有及び/又は室内占有の予想される変動に関する変動データが、選択モジュールSELに送信される。変動データは、その際、データベースDBから読み取られ、特に、1日、1週間、又は1年間の室内占有率に関する履歴データ、を含むことができる。
【0040】
選択モジュールSELは、エネルギー消費E1、...、EN及び感度値S1、....、SNに応じて、室内利用者のエネルギー節約的な分配を算出及び選択するために、使用される。この場合、比較的低いエネルギー需要と比較的低い感度値を持つ分布が、選択される。場合によっては、各エネルギー消費E1、...又はENと、割り当てられた各感度値S1、...又はSNとの、加重和が形成され得る。この場合、最も小さい加重和を有する分布を、エネルギー節約的な分布として、選択することができる。
【0041】
エネルギー消費E1、...、EN及び感度値S1、...、SNに加えて、エネルギー節約的な分布の選択においては、室内占有及び/又は変動データもまた、考慮され得る。特には、変動データは、感度値S1、...、SNと比較され得る。それに応じて、それらの感度値に従って予想される変動に過度に過敏に反応する分布は、選択を放棄され得る。
【0042】
本実施例では、分布D2が感度の低いエネルギー節約的な分布の上述の基準を最も満たしており、それゆえ選択されるものと、仮定する。
【0043】
選択されたエネルギー節約的な分布D2は、選択モジュールSELからこれに接続された位置割当装置POEに送られる。位置割当装置POEは、分布D2に示されたそれぞれの室内利用者に対して、当該室内利用者のそこに示される部屋Rにおける個々の指定位置、を算出し、これを室内利用者個有の位置割当データPOS、に加える。各位置割当データPOSは、位置割当装置POEから、各部屋利用者のために、当該利用者の携帯電話MTへ、個別に送信される。各位置割当データPOSにより、各室内利用者に、例えば大部屋オフィスにおける、個別に最適化された位置が、割り当てられる。
【0044】
さらに、選択されたエネルギー節約的な分布D2及び関連するエネルギー消費E2は、選択モジュールSELからそれに接続された制御装置CTLに送られる。制御装置CTLは、選択されたエネルギー節約的な分布D2及び検出されたエネルギー消費E2に応じて、調整システムHを作動及び設定するために使用される。この目的のために、制御装置CTLから、対応する制御データCDが調整システムHに送信される。そのような環境調整システムの応答がしばしば遅い場合には、調整システムHは、好ましくは、室内利用者が選択された分配D2に対応して分配されている前に又は分配される前に、すでに作動させることができる。
【0045】
部屋における室内利用者の環境嗜好に基づく分布並びに調整システムHの能動的な制御により、室内環境は、効率的かつエネルギー節約的な方法で、室内利用者の環境嗜好に、適合され得る。多くの場合、それにより利用者の快適性、したがって利用者の満足度を大幅に改善することができる。
【0046】
図2は、部屋R内の室内利用者の異なる分布D1、...、D6を示し、当該室内利用者は当該室内利用者の異なる環境嗜好、ここではT1及びT2、に従ってグループ化されている。分布D1、...、D6は、この場合、前述の分布D1、...、DNからの例示的に選択したものである。部屋R内の室内利用者の可能な滞在位置は、図2では、小さな長方形によって示されている。
【0047】
室内利用者をその環境嗜好T1及びT2に従ってグループ化することによって、部屋Rは、各分布D1、...、D6のために、異なる室内環境ゾーンTZ1及びTZ2に、区分される。この場合、室内環境ゾーンTZ1は、それぞれ、環境嗜好T1を有する室内利用者が存在している部屋Rの領域、である。これに対応して、室内環境ゾーンTZ2は、それぞれ、環境嗜好T2を有する室内利用者が存在している部屋Rの領域、である。室内環境ゾーンTZ1及びTZ2は、図2では、それぞれ点線で示されている。この実施例では、室内環境ゾーンTZ1及びTZ2は温度ゾーンである。
【0048】
すでに上述したように、シミュレータSIMは、各分布D1、...、D6に対して、その都度、それぞれの室内環境ゾーンTZ1及びTZ2内に対応する室内環境を形成するために必要とされるエネルギー消費E1、...、E6、をシミュレートする。
【0049】
均一的な分布D4及びD5は、上記の意味において、明らかにロバスト性が低い。分布D4及びD5は、全ての室内利用者が同じ環境嗜好を有する場合にのみ、全ての室内利用者にとって快適である。しかし経験上これは、少数の室内利用者分布の場合にのみ当てはまる。
【0050】
図3及び図4は、それぞれ、エネルギー消費Eと、その結果生じる室内利用者の環境嗜好の満足度との間の関係、を例示する。エネルギー消費Eは、この場合、特に暖房出力であり得る。図示された概略的なグラフでは、それぞれ、シミュレートされた室内環境と室内利用者の環境嗜好との間の偏差DELが、エネルギー消費Eに対して、プロットされている。室内利用者の満足度は偏差DELが増加するにつれて減少するので、満足度を最適化するためには、偏差DELをできるだけ小さくする必要がある。
【0051】
図3に示される第1のグラフは、より高い感度値を有する室内利用者分布、すなわちロバスト性がより低い室内利用者分布、についての偏差DELの経過、を示す。ここでは分布D4、D5、及びD6が強調されている。図示された分布のより低いロバスト性は、図3において、特に、偏差DELの最小値が比較的狭いということによって、明らかになる。すなわち、満足度を最適化する分布D6からの比較的わずかな変動が、満足度を著しく低下させる。
【0052】
これとは対照的に、図4に示される第2のグラフは、より低い感度値を有する室内利用者分布、すなわちよりロバストである室内利用者分布、についての偏差DELの経過、を示す。ここでは分布D1、D2及びD3が強調されている。図示された分布のより大きなロバスト性は、図4において、特に、偏差DELの最小値の幅が比較的広いということによって、明らかになる。すなわち、満足度を最適化する分布D2からの変動は、満足度を比較的僅かにか減少させない。
【0053】
影響因子の変化の際に又は別の環境嗜好を有する室内利用者が新たに加わった場合に、満足度が、著しく減少しないように、又は、過度に高いエネルギー消費を必要としないように、本実施例では、ロバストでありかつエネルギー節約的な分布D2が選択される。この場合、室内利用者は、選択された分布D2に従って、上述のように、個々の位置割当データPOSによって、部屋R内に分布される。
【符号の説明】
【0054】
A 装置
R 部屋
T1,T2 環境嗜好
EF,WD 影響因子
SIM シミュレータ
D1、...、DN 分布
E1、...、EN エネルギー消費
BIM デジタル建造物モデル
S1、...、SN 感度値
図1
図2
図3
図4