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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】異物高さの測定方法及び荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/00 20060101AFI20241216BHJP
   G01B 15/04 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
G01B15/00 K
G01B15/04 K
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023576309
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002804
(87)【国際公開番号】W WO2023144909
(87)【国際公開日】2023-08-03
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】孫 偉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直正
(72)【発明者】
【氏名】岡井 信裕
(72)【発明者】
【氏名】人見 敬一郎
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/166076(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/157860(WO,A1)
【文献】特開2007-129059(JP,A)
【文献】特開2004-214060(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075213(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/180760(WO,A1)
【文献】特開昭61-097510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00 - 15/08
G01B 11/00 - 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージを傾斜させた状態で荷電粒子線を前記試料に照射することにより取得した荷電粒子画像から前記試料上の異物の高さを測定する異物高さ測定方法において、
前記荷電粒子画像から抽出される異物の像である異物像から算出される当該異物の高さの算出値の、当該異物の向きに対する依存性を示す依存性データをあらかじめ記憶しており、
前記荷電粒子画像から測定対象異物の像である測定対象異物像を抽出し、
前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たさないと判定される場合には、前記測定対象異物の高さの測定値を信頼性についての警告とともに出力する、または前記試料ステージを回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定し、
前記異物の向きは、前記異物像の輪郭と前記試料ステージの傾斜方向に伸びる平行な二直線である傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分と前記傾斜方向線と垂直な基準線とのなす角で定義されることを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記依存性データとして、前記異物の向きが0であるときの当該異物の高さの算出値に対して、前記異物の向きが所定値であるときの当該異物の高さの算出値の比を記憶しており、
前記測定対象異物の高さの測定値として、前記測定対象異物像から算出される前記測定対象異物像の高さの算出値を、検出された前記測定対象異物の向き及び前記依存性データにより、前記測定対象異物の向きが0であるときの前記測定対象異物の高さの算出値に換算した値を出力することを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記測定対象異物像の輪郭と前記傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分と、前記線分の端点である接点のそれぞれから前記試料ステージの傾斜方向に伸びる前記測定対象異物像の輪郭を近似する近似線分に基づき決定した前記測定対象異物の頂点または上面との距離と、前記試料の表面と前記荷電粒子線の光軸とがなす角である傾斜角度とに基づき、前記測定対象異物の高さの算出値を求めることを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記測定対象異物像を楕円近似して得られる近似楕円の2つの軸について、前記基準線と鋭角に交差する軸を第1軸とし、他方の軸を第2軸とするとき、
前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たすと判定される場合において、前記第1軸の長さに対する前記第2軸の長さが1を超える場合には、前記試料ステージを90°回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定することを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たさないと判定される場合において、前記測定対象異物像を楕円近似して得られる近似楕円の長軸と前記基準線とのなす角に応じて前記試料ステージを回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定することを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記試料上の異物の高さの測定結果を前記試料の測定位置と関係づけて表示することを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項7】
請求項1において、
異物の向きを変えて撮像した複数の前記荷電粒子画像と当該荷電粒子画像の異物の向きとを組とした教師データを用いてあらかじめ学習を実施した分類学習器を記憶し、
前記分類学習器を用いて、前記測定対象異物像から前記測定対象異物の向きを検出することを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項8】
請求項1において、
前記異物はエッチング残渣であることを特徴とする異物高さ測定方法。
【請求項9】
試料が載置され、回転及び傾斜可能な試料ステージと、
荷電粒子線を前記試料に照射する荷電粒子光学系と、
前記荷電粒子線が前記試料に照射されることにより発生する信号電子を検出する検出系と、
前記試料ステージ、前記荷電粒子光学系及び前記検出系を制御し、前記検出系が検出した信号電子に基づき荷電粒子画像を取得する制御部と、
前記荷電粒子画像から前記試料上の異物の高さを測定する画像処理部とを有し、
前記画像処理部は、前記荷電粒子画像から抽出される異物の像である異物像から算出される当該異物の高さの算出値の、当該異物の向きに対する依存性を示す依存性データをあらかじめ記憶しており、
前記画像処理部は、前記荷電粒子画像から測定対象異物の像である測定対象異物像を抽出し、前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たさないと判定される場合には、前記測定対象異物の高さの測定値を信頼性についての警告とともに出力する、または前記試料ステージを回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定し、
前記異物の向きは、前記異物像の輪郭と前記試料ステージの傾斜方向に伸びる平行な二直線である傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分と前記傾斜方向線と垂直な基準線とのなす角で定義されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記画像処理部は、前記依存性データとして、前記異物の向きが0であるときの当該異物の高さの算出値に対して、前記異物の向きが所定値であるときの当該異物の高さの算出値の比を記憶しており、
前記画像処理部は、前記測定対象異物の高さの測定値として、前記測定対象異物像から算出される前記測定対象異物像の高さの算出値を、検出された前記測定対象異物の向き及び前記依存性データにより、前記測定対象異物の向きが0であるときの前記測定対象異物の高さの算出値に換算した値を出力することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記画像処理部は、前記測定対象異物像の輪郭と前記傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分と、前記線分の端点である接点のそれぞれから前記試料ステージの傾斜方向に伸びる前記測定対象異物像の輪郭を近似する近似線分に基づき決定した前記測定対象異物の頂点または上面との距離と、前記試料の表面と前記荷電粒子線の光軸とがなす角である傾斜角度とに基づき、前記測定対象異物の高さの算出値を求めることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項9において、
前記測定対象異物像を楕円近似して得られる近似楕円の2つの軸について、前記基準線と鋭角に交差する軸を第1軸とし、他方の軸を第2軸とするとき、
前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たすと判定される場合において、前記第1軸の長さに対する前記第2軸の長さが1を超える場合には、前記画像処理部は、前記試料ステージを90°回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項9において、
前記測定対象異物像から検出される前記測定対象異物の向きが前記依存性データに基づき許容誤差範囲を満たさないと判定される場合において、前記画像処理部は、前記測定対象異物像を楕円近似して得られる近似楕円の長軸と前記基準線とのなす角に応じて前記試料ステージを回転させて前記測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から前記測定対象異物の高さを測定することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項9において、
前記画像処理部は、前記試料上の異物の高さの測定結果を前記試料の測定位置と関係づけて表示する荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項9において、
前記画像処理部は、異物の向きを変えて撮像した複数の前記荷電粒子画像と当該荷電粒子画像の異物の向きとを組とした教師データを用いてあらかじめ学習を実施した分類学習器を記憶し、
前記画像処理部は、前記分類学習器を用いて、前記測定対象異物像から前記測定対象異物の向きを検出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物高さの測定方法及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には異なる視点から撮影された2つのSEM(scanning electron microscopy)画像信号を組み合わせて立体(stereoscopic)SEM画像信号を作成し、ウェハ上の欠陥の深さを決定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第6353222号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体デバイスの製造工程において、エッチング工程は半導体ウェハ上にデバイスを構成する電極、配線やビアなどのパターンを形成するために適用される。エッチング工程後には、エッチング処理中に発生した様々な形状の異物(エッチング残渣)が半導体ウェハ上に残る。ここで、半導体ウェハ上に残る異物の高さや大きさなどが所定以上であると、製造される半導体デバイスの初期不良や寿命の劣化を起こし、歩留まり低下の要因となる。このため、量産工程におけるプロセス管理及び初期不良のスクリーニング検査にとって、半導体ウェハ上の異物高さの測定技術は重要である。
【0005】
特許文献1は、立体SEM画像から欠陥の高さまたは深さの計測を可能にする。しかしながら、立体SEM画像を得るために、複数の視点からSEM画像を取得して、画像処理を行う必要があり、スループットが低い。特に、量産工程において大量の異物の高さを測定するには、高スループットに半導体ウェハ上の異物高さを測定する技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施の態様である異物高さ測定方法は、試料を載置する試料ステージを傾斜させた状態で荷電粒子線を試料に照射することにより取得した荷電粒子画像から試料上の異物の高さを測定する異物高さ測定方法であって、
荷電粒子画像から抽出される異物の像である異物像から算出される当該異物の高さの算出値の、当該異物の向きに対する依存性を示す依存性データをあらかじめ記憶しており、
荷電粒子画像から測定対象異物の像である測定対象異物像を抽出し、測定対象異物像から検出される測定対象異物の向きが依存性データに基づき許容誤差範囲を満たさないと判定される場合には、測定対象異物の高さの測定値を信頼性についての警告とともに出力する、または試料ステージを回転させて測定対象異物の向きを変えて取得した荷電粒子画像から測定対象異物の高さを測定し、
異物の向きは、異物像の輪郭と試料ステージの傾斜方向に伸びる平行な二直線である傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分と傾斜方向線と垂直な基準線とのなす角で定義される。
【発明の効果】
【0007】
高スループットに試料上の異物高さの測定を可能にする。
【0008】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】荷電粒子線装置の一構成例である。
図2】SEM画像から異物像を抽出する様子を示す図である。
図3】SEM画像を撮像するときの試料と電子線との位置関係を示す図である。
図4A】円錐形状の異物について、SEM画像を取得するときの異物の鳥瞰図とSEM画像から抽出された異物像とを示す図である。
図4B】先細り円柱形状の異物について、SEM画像を取得するときの異物の鳥瞰図とSEM画像から抽出された異物像とを示す図である。
図5】異物の向きの第1の定義を説明する図である。
図6】異物高さの算出値の異物の向きに対する依存性を示す図である。
図7】異物の高さの測定フローチャートである。
図8A】異物の向きが異なる例である。
図8B】異物の向きの第2の定義を説明する図である。
図9】異物の高さの測定フローチャートである。
図10】測定条件を設定するGUI画面の例である。
図11】測定データのデータ構造の例である。
図12】ウェハヒートマップの例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、半導体ウェハ上の異物の高さを測定する荷電粒子線装置の一構成例を示す。ここでは電子線を試料上で走査することにより試料表面から放出される信号電子に基づき画像を生成する走査電子顕微鏡を例に説明する。走査電子顕微鏡100は、その主要な構成として、電子光学系、ステージ機構系、検出系、制御系、信号処理系といった一般的な走査電子顕微鏡を構成する要素を備えている。図1では、走査電子顕微鏡100を構成する基本的な要素のみをピックアップして模式的に示している。
【0011】
電子光学系は、電子線102を微小なスポットにして、試料120上で走査させる機構であり、電子源、集束レンズ、絞り、対物レンズ、偏向器などを含んで構成される。ここでは電子源101で代表させて示している。
【0012】
ステージ機構系は、検査対象である試料120を安定に支持しつつ、試料120を水平方向や上下方向への移動、回転、傾斜させる機能を有している。ここでは、試料を載置する試料ステージ126と、電子線102が所定の入射角で試料120に入射されるよう、回転軸Tを中心に試料ステージ126を傾斜させる機能と、試料ステージ126の試料載置面と垂直な回転軸Rを中心に試料ステージ126を回転させる機能とを備えるステージ駆動部125とを示している。
【0013】
検出系は、試料120に電子線102が照射されることで発生する信号電子を検出する検出器を含む。ここでは、後方散乱電子(backscattered electron:BSE)103を検出するBSE検出器110a、二次電子104を検出する二次電子検出器110bを示している。本実施例では、検出された二次電子104に基づくSEM画像(荷電粒子画像)から異物の高さを測定する例を示すが、これに限定されるものではない。
【0014】
制御系は、これら電子光学系、ステージ機構系、検出系を制御して信号電子を検出してSEM画像を生成する。ここでは、電子光学系、ステージ機構系、検出系に含まれる個別の要素を制御する個別制御部とこれらの個別の要素を連携させて所望の動作を行わせるように個別の要素の動作を設定する全体制御部とを含めて制御部130として示している。
【0015】
信号処理系では制御系で生成されたSEM画像の画像処理を行うことにより異物の高さ測定を行う。画像処理部131がこのための画像処理を実行する。
【0016】
制御部130における全体制御部の機能、画像処理部131の機能は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、ディスプレイなどの出力装置を備える情報処理装置(コンピュータ)により実行される。単体の情報処理装置であってもよいが、ネットワークを介して、複数の情報処理装置、データストレージに接続することによって、情報処理装置の演算負荷を分散させてもよい。
【0017】
まず、半導体ウェハなどの試料120上の異物121の高さを測定する手法を説明する。試料120の直上から電子線を照射して得られるSEM画像には試料面に垂直な方向の情報は含まれない。このため、本実施例では、図1に示すように、ステージ駆動部125により試料ステージ126を所定のチルト角だけ傾けた状態で異物121の像を撮影する。続いて、図2に示すようにSEM画像201を画像処理することにより異物像202を抽出する。異物像202は、例えば、SEM画像201を二値化して輪郭線を抽出し、抽出された輪郭線から抽出できる。なお、この方法に限られず、SEM画像から画像処理により異物像を抽出する任意の既知の手法を適用すればよい。例えば、あらかじめ複数の異物の画像を登録しておき、マッチングにより抽出することもできる。試料120を傾斜させて異物121の像を撮像したことにより、異物像202には、異物121の底面と、頂点または上面の情報とが含まれている。そこで、異物121の高さを異物像202に含まれる底面と頂点または上面の情報を用いて算出する。
【0018】
図3にSEM画像を撮像するときの試料120と電子線(光軸)102との位置関係を示す。試料120がY方向に伸びる回転軸Tを中心に傾斜させられた状態で、電子線102が走査範囲200を走査されることにより、SEM画像が取得される。SEM画像を取得するときのY方向からみた電子線(光軸)102と試料120の表面とのなす角(図3における電子線(光軸)102の光軸とX軸とのなす角)を傾斜角度αと呼ぶ(α<90°)。
【0019】
エッチング工程で発生する針状残渣を模した円錐形状の異物、先細り円柱形状の異物についての高さ算出方法について、図4A~Bを用いて説明する。
【0020】
図4Aは、円錐形状の異物について、SEM画像を取得するときの異物の鳥瞰図とSEM画像から抽出された異物像とを示している。異物の高さはHとする。異物像において試料の傾斜方向に伸びる傾斜方向線210として、平行な2直線を定義する。この例では、SEM画像を取得したとき異物はX方向に傾斜しているので、傾斜方向線210もX方向に伸びる直線である。異物像上の傾斜方向線210は、試料ステージ126の傾斜方向と電子光学系による電子線102の走査方向とに基づき、決定することができる。次に、傾斜方向線210と異物像の輪郭とが接する線分221を抽出する。鳥瞰図に示すように、線分221は異物底面の中心を通りY方向に伸びる線分である。次に、線分221の両端点から輪郭を近似する線分222a及び線分222bを抽出し、その交点223を求める。交点223と線分221との距離をhとする。ここで、近似する線分を抽出する輪郭は、線分221に対してX+方向に位置する輪郭である。異物の頂点は、鳥瞰図に示されるように、線分221よりもX+側にあるためである。線分221、線分222a、線分222b及び交点223とは鳥瞰図に示される関係にあるため、異物の高さHは、
H=h/sinα
として求められる。
【0021】
図4Bは、先細り円柱形状の異物について、SEM画像を取得するときの異物の鳥瞰図とSEM画像から抽出された異物像とを示している。異物の高さはHとする。同様に、傾斜方向線210と異物像の輪郭とが接する線分231を抽出する。鳥瞰図に示すように、線分231は異物底面の中心を通りY方向に伸びる線分である。次に、線分231の両端点から輪郭を近似する線分232a及び線分232bを抽出し、線分232a及び線分232bと交わり、線分231と平行であって、線分231から最も離れた位置にある線分233を求める。線分233と線分231との距離をhとする。ここでも、近似する線分を抽出する輪郭は、線分231に対してX+方向に位置する輪郭である。異物上面の中心を通りY軸方向に伸びる線分は、鳥瞰図に示されるように、線分231よりもX+側にあるためである。線分231、線分232a、線分232b及び線分233とは鳥瞰図に示される関係にあるため、異物の高さHは、
H=h/sinα
として求められる。
【0022】
なお、図4A~Bで例示した異物の形状は比較的単純な形状であるが、異物が複雑な形状である場合には、異物像の輪郭と接する傾斜方向線が複数通り存在する可能性がある。この場合には、傾斜方向線との接点を結んだ線分のうち最も長い線分を底面位置を示す線分として抽出する。
【0023】
異物高さ算出手法を説明するために図4A~Bで例示した異物形状は、どちらも軸対称形状であるため、側面からみた形状はどの方向から見ても変化しない。この場合は、試料をどの方向に傾けても同じ異物像が得られるため、異物高さの算出精度は変化しない。しかしながら、エッチング工程で発生する異物には例えば、底面が歪んでいる(楕円など)、あるいは側面が傾斜している、といったように軸対称ではない場合も多い。この場合、異物の形状と試料を傾ける向きによって、得られる異物像が変化し、算出精度が変化することになる。
【0024】
そこで、異物の向きを前述した傾斜方向線に基づいて定義する(第1の定義)。図5を用いて、異物の向きの第1の定義を説明する。エッチング工程で発生する残渣は、基本的には先細りする円錐形状、円柱形状をしている。このため、異物像はX+方向に伸びた形状になる。傾斜方向線210と異物像の輪郭との接点同士を結ぶ最長の線分241が異物の底面を横断する線分であるから、線分241に相対する向きを異物の正面とする。ここでは、傾斜方向線210と直交する基準線240を定義し、線分241と基準線240とのなす角βを異物の向きと定義する(第1の定義)。異物が軸対称形状の場合は常に向きβ=0であるが、そうでない場合には、向きβはさまざまな値をとり、向きβに応じて算出される高さHの値が変動する。
【0025】
図6に異物高さHの算出値の異物の向きに対する依存性を示す。横軸は向きβ(deg)であり、縦軸は向きβ=0である場合の高さHの算出値に対する、向きβが所定の値であったときの高さHの算出値の比を示している。図6は異物が所定の形状である場合の実測値に基づくグラフである。異物の形状によってグラフの値は変わってくるが、算出値の比は、向きβ=0で最小値をとり、向きβ=0からの乖離が大きくなるほど、算出値の比が大きくなる傾向には変わりがない。図6のグラフから分かるように、向きβ=0の近傍では算出される異物高さHのずれは比較的小さく抑えられる。そこで、本実施例における異物高さの測定においては、ユーザが高さHの算出にあたって許容できる誤差を設定可能としておく。許容誤差を超える場合には、傾斜の向きを変えて、具体的には、ステージ駆動部125により試料ステージ126を回転させて再計測する、または許容誤差を超えることをアラームとしてユーザに通知するようにする。前述のように、図6のグラフは異物の形状に依存する。そのため、画像処理部131は、あらかじめ想定される異物の形状の典型例について、異物高さHの算出値の異物の向きβに対する依存性データを実測、あるいはシミュレーションにより作成して、記憶しておく。画像処理部131は、記憶された依存性データに基づき、異物の形状に応じて許容されるβの大きさ(±εdeg以下)を判定したり、距離hと傾斜角度αにより算出した異物高さHを、異物の向きβの大きさに応じて補正、具体的には向きβ=0の場合の推定値に換算して測定値として出力したりできる。
【0026】
図7に異物の高さの測定フローチャートを示す。本フローチャートの全体は、制御部130により実行される。最初に、異物の高さの測定許容誤差を設定する(S01)。後述するように、ユーザはGUI画面にて許容誤差を設定することができる。次に、所定の回転、傾斜角度で異物の荷電粒子画像を取得する(S02)。試料ステージ126の初期回転角、チルト角は任意にユーザが設定する。荷電粒子画像から異物像を抽出し(S03)、図5において説明したように、異物像の輪郭における横方向端点を結ぶ線分と基準線との角度βを算出する(S04)。なお、以下では傾斜方向線210の伸びる方向を縦方向、傾斜方向線210と直交する方向を横方向として呼ぶ場合もある。
【0027】
異物の向きβが許容誤差範囲を満たすものであるかどうかを判定する(S05)。画像処理部131は、図6に示されるように、異物の依存性データ及び設定された許容誤差から、許容される向きの範囲(0±ε[deg])をあらかじめ求めておき、ステップS04で得られた向きβと許容される向きεとの大きさを比較することで、異物の向きβが許容誤差範囲を満たすものであるかどうかを判定することができる。
【0028】
異物の向きβが許容誤差範囲を満たすものである場合には、異物像の底面と頂点または上面との距離hを測定し(S06)、距離h、傾斜角度αとに基づき異物高さHを算出する(S07)。このとき、異物の向きβが0でない場合には、異物高さHの異物の向きに対する依存性データ(図6参照)を用いて、β=0の場合の値に換算して異物高さの測定値とするとよい。一方、異物の向きβが許容誤差範囲を満たさない場合には、再測定するかを判定し(S08)、再測定する場合には、試料ステージ126の回転角を変更し(S09)、再度荷電粒子画像を取得する(S02)。再測定を行わない場合には、同様に、異物高さHを算出し(S06,S07)、高さHの測定結果及び測定の信頼性を出力する(S10)。測定の信頼性情報としては、許容誤差を超えた状態で異物高さを算出した旨を警告するといったことが考えられる。これにより、ユーザは測定結果をその信頼性を含めて評価することが可能になる。
【0029】
ここで、異物の向きβが許容誤差範囲を満たしておらず、試料ステージ126の回転角を変更する際(S09)、画像処理部131が望ましい回転角を算出することが望ましい。さらに、異物の向きβが許容誤差範囲を満たすものであったとしても、異物の形状によっては測定誤差が小さくなる向きが別に存在する場合がある。例えば、異物の底面が楕円形上であったとする。この場合、図8Aに示すように底面250が傾斜方向線210に対して、縦長(case A)に位置する場合、横長(case B)に位置する場合があり、それぞれの場合において異物の向きβに基づく許容誤差範囲を満たす向きをとりうる。しかしながら、発明者らの検討によれば、横長(case B)の状態で算出した異物高さHの方が、縦長(case A)の状態で算出した異物高さHよりも高い精度が期待できる。
【0030】
そこで、異物像の全体形状に基づく異物の向きを定義する(第2の定義)。この場合は、異物高さを高い精度で算出することが期待できる向きを異物の正面とする。図8Bを用いて、異物の向きの第2の定義を説明する。異物像を楕円近似し、近似楕円260の第1軸261,第2軸262を求める。ここで、第1軸261は基準線240と鋭角に交わる軸であり、第2軸262は基準線240と鈍角に交わる軸である。異物の向きの第2の定義では、近似楕円260の長軸と基準線240とのなす角γを異物の向きと定義する。この例では、図8Bに示すように、第1軸261と基準線240とのなす角になる。
【0031】
また、近似楕円260を用いて異物像の縦横比を定義する。図に示すように第1軸261の長さをa、第2軸262の長さをbとする。近似楕円に基づき定義される(b/a)を異物像の縦横比とする。この例では、第1軸261が楕円の長軸、第2軸262が楕円の短軸であるから、異物像の縦横比(b/a)<1となり図8Aにおける横長(case B)の状態に相当する。これに対して、異物像の縦横比(b/a)>1となる場合には、図8Aにおける縦長(case A)の状態に相当する。
【0032】
図9に異物の高さの測定フローチャートを示す。本フローチャートではさまざまな異物の形状に対応するよう、異物の向きを判定し、再測定を行うフローを含んでいる。本フローチャートの全体は、制御部130により実行される。図7の測定フローチャートと等しい手順については同じ符号を付して、重複する説明は省略するものとする。
【0033】
ステップS01~S05は図7の測定フローチャートと同じである。なお、ステップS05は、異物の向きβに基づき許容誤差範囲を満たすものであるかどうかを判定するものであるので、フローチャートでは第1の定義による異物の向きの判定であることを明示している。
【0034】
図8Bに示したように、異物像を楕円近似し、近似楕円の第1軸の長さa、第2軸の長さbを求めておき(S11)、第1の定義による異物の向きの判定が許容誤差範囲内である場合には、異物像の縦横比(b/a)について判定する(S12)。異物像の縦横比(b/a)が1以下である場合、異物が横長であり、本実施例の測定方法により高い精度による異物高さHの算出が見込める状態である。この場合は、そのまま異物の高さHを算出し(S06,S07)、異物高さの測定結果を出力する(S13)。
【0035】
これに対して、異物像の縦横比(b/a)が1より大きい場合、異物が縦長であり、本実施例の測定方法で算出される異物高さHは精度が劣るおそれがある。そこで、この場合には、試料ステージ126を90°回転させて(S19)、再度荷電粒子画像を取得し(S02)、再度取得した荷電粒子画像に基づき、異物高さHを算出する。なお、試料ステージ126を90°回転させて再撮像を行ったにもかかわらず、得られた異物像の縦横比(b/a)が1より大きいと判定されてしまう場合には、回転前後の異物像のそれぞれから算出される異物高さHの精度はほぼ同等であると考えられる。したがって、回転前後の異物像のそれぞれから異物高さHを算出し、その平均値に基づいて異物高さHの測定結果を求めるとよい(S20)。
【0036】
一方、第1の定義による異物の向きの判定において許容誤差範囲を満たさないと判定された場合には、図8Bに示したように、近似楕円の長軸と基準線とのなす角γを算出する(S14)。その後、第2の定義による異物の向きγが許容誤差範囲を満たすものであるかどうかを判定する(S15)。画像処理部131は、図6に示されるように、異物の依存性データ及び設定された許容誤差から許容される向きの範囲(0±ε[deg])をあらかじめ求めておき、ステップS14で得られた向きγと許容される向きεとの大きさを比較することで、異物の向きγが許容誤差範囲を満たすものであるかどうかを判定することができる。第2の定義による異物の向きγが許容誤差範囲を満たすものであれば、試料ステージ126を回転させて異物の向きを変えてみても異物高さHを算出精度が向上する可能性は低いと考えられる。そのため、再測定することなく異物高さHを算出し(S06,S07)、高さHの測定結果を出力する(S10)。
【0037】
これに対して、第2の定義による異物の向きγが許容誤差範囲を満たさない場合には、再測定するかを判定し(S16)、再測定する場合には、試料ステージ126を-γ°回転させて(S17)、再度荷電粒子画像を取得する(S02)。これにより、第2の定義による異物の正面が基準線と対向する状態で荷電粒子画像を取得することができるので、より精度の高い異物の高さの算出値が得られる。再測定を行わない場合には、そのまま異物高さHを算出する(S06,S07)。
【0038】
なお、第2の定義による判定(S15)を行うことなく、常に再測定を行うようにしてもよい。また、ステップS13では異物高さの測定結果のみならず、測定の信頼性についても図7の測定フローチャートと同様に出力することが望ましい。
【0039】
図10に走査電子顕微鏡100の測定条件を設定するGUI画面の例を示す。GUI画面は情報処理装置が備える出力装置に表示される。測定条件設定画面300は、走査電子顕微鏡100の測定条件を設定する装置条件設定部310、測定内容を設定する測定内容設定部320、測定許容誤差を設定する許容誤差設定部330、再測定要否を設定する再測定要否設定部340を含む。装置条件設定部310は、試料ステージ126のチルト角を設定するチルト角設定部311、試料ステージ126の初期回転角を設定する回転角設定部312を含む。これらで設定されたチルト角や初期回転角で異物の荷電粒子画像を取得する。測定内容設定部320では試料について測定する内容を決定する。異物高さH以外についても測定することができる。許容誤差設定部330で設定された値に基づき、異物の向きが許容誤差範囲を満たすかどうかが判定される。再測定要否設定部340がyesに設定されている場合には、異物の向きが許容誤差範囲を満たさない場合には再測定が実行され、再測定要否設定部340がnoに設定されている場合には、試料ステージ126を回転させての荷電粒子線画像の再撮像は行われない。測定条件設定画面300で設定された測定条件は、決定ボタン350を押下することにより確定される。
【0040】
図11は、走査電子顕微鏡100の測定結果を示す測定データのデータ構造の例である。測定データは情報処理装置の記憶装置に記憶される。測定データ400の各レコードは、撮像した荷電粒子画像(SEM画像)から抽出された異物についての測定結果が示されている。画像リスト欄401にはSEM画像を特定するファイル名が登録されている。この例では、異物の高さ、向き、面積といった3つの測定項目欄を含む。高さ欄402には距離hと傾斜角度αに基づき算出した異物の高さH(算出値)、向き欄403は高さの算出に使用した異物の向き、面積欄404は異物の面積(近似楕円の面積でもよい)が登録されている。測定信頼性欄405には、異物の向きが許容誤差範囲を満たすかどうかで判定された測定信頼性が登録されている。異物の向きが許容誤差範囲を満たしていた場合には測定信頼性は高、異物の向きが許容誤差範囲を満たしていなかった場合には測定信頼性は低、として登録される。推定値欄406には、依存性データに基づき補正された異物の高さが登録される。推定値欄406の値が測定値として扱われる。備考欄407には、測定時に生じた特記事項等が登録される。
【0041】
走査電子顕微鏡100の測定結果をユーザに表示するには、図11の測定データをテーブルとして表示してもよいし、図12に示すようなウェハヒートマップとして異常の発生と異常が検知された位置とを対応付けて表示することが、異常の把握に役立つ。例えば、ウェハ501を複数の区画502に分けて、区画ごとに所定の高さ以上の異物の発生頻度が基準値以上か、否かといった情報を表示する。
【0042】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。例えば、異物の向きの検出のため、画像処理部131は、異物の向きを変えて撮像した複数の荷電粒子画像と当該荷電粒子画像の異物の向きとを組とした教師データを用いてあらかじめ学習を実施した分類学習器を記憶しておき、分類学習器を用いて、異物像から異物の向きを検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
100:走査電子顕微鏡、101:電子源、102:電子線、103:後方散乱電子、104:二次電子、110a:BSE検出器、110b:二次電子検出器、120:試料、121:異物、125:ステージ駆動部、126:試料ステージ、130:制御部、131:画像処理部、200:走査範囲、201:SEM画像、202:異物像、210:傾斜方向線、221,222a,222b:線分、223:交点、231,232a,232b,233:線分、240:基準線、241:線分、250:底面、260:近似楕円、261:第1軸、262:第2軸、300:測定条件設定画面、310:装置条件設定部、311:チルト角設定部、312:回転角設定部、320:測定内容設定部、330:許容誤差設定部、340:再測定要否設定部、350:決定ボタン、400:測定データ、401:画像リスト欄、402:高さ欄、403:向き欄、404:面積欄、405:測定信頼性欄、406:推定値欄、407:備考欄、500:ウェハヒートマップ、501:ウェハ、502:区画。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12