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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】砥粒内包型高強度研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24D 11/00 20060101AFI20241216BHJP
   B24D 3/28 20060101ALI20241216BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20241216BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20241216BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241216BHJP
【FI】
B24D11/00 A
B24D11/00 E
B24D11/00 Q
B24D3/28
B24D3/00 320A
B24B37/24 B
H01L21/304 622F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024041722
(22)【出願日】2024-03-15
【審査請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 駿太
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-011066(JP,A)
【文献】特開平05-277956(JP,A)
【文献】実開平04-097650(JP,U)
【文献】特開2004-181603(JP,A)
【文献】特開2005-246569(JP,A)
【文献】特開平11-156725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 11/00
B24D 3/28
B24D 3/00
B24B 37/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの一面をCMP法を用いて研磨するために用いられる砥粒内包型高強度研磨パッドであって、
樹脂製の中空球体と、
前記中空球体を結合する母材樹脂と、
前記中空球体間の連通空間に充填された研磨砥粒と、を備え
前記母材樹脂は親水性樹脂から構成され、前記中空球体は非親水性樹脂から構成されており、
前記親水性樹脂は、ポリエチレングリコール系アクリル樹脂であ
ことを特徴とする砥粒内包型高強度研磨パッド。
【請求項2】
前記母材樹脂の硬化前のポリエチレングリコール系アクリル樹脂のモノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートとジペンタエスリトールヘキサアクリレートとの組み合わせ樹脂である
ことを特徴とする請求項の砥粒内包型高強度研磨パッド。
【請求項3】
前記非親水性樹脂は、アクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂である
ことを特徴とする請求項の砥粒内包型高強度研磨パッド。
【請求項4】
前記研磨砥粒は、セリア、酸化マンガン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄のうちの少なくとも1つである
ことを特徴とする請求項1の砥粒内包型高強度研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板や半導体基板等のワークの一面を研磨するために用いられる砥粒内包型の研磨パッドに関し、高負荷な研磨加工を可能とする高強度研磨パッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
連通気孔を有する多孔質の母材樹脂と、母材樹脂内に形成された長手状の連通気孔に内包された多数の研磨砥粒と、を備えた砥粒内包型研磨パッドが知られている。このような砥粒内包型研磨パッドは、LHA(Loosely Held Abrasive)パッドとも称され、砥粒を含むスラリーを研磨液として用いないので、砥粒の消費が少なく環境負荷が軽減される。たとえば、特許文献1、特許文献2に記載された砥粒内包型研磨パッドがそれである。
【0003】
このような特許文献1に記載された砥粒内包型研磨パッドでは、研磨パッドとワークとの間に研磨砥粒が自己供給されるので、CMP(化学的機械的研磨)法に用いられる場合は、高価な研磨砥粒を含有するスラリーを用いる必要がないので、使用済のスラリーの廃棄に伴う非経済性や環境負荷の増大が抑制される。
【0004】
特許文献2に記載された砥粒内包型研磨パッドでは、連通気孔を有する多孔質の母材樹脂と、母材樹脂内に形成された長手状の連通気孔に内包された多数の研磨砥粒と、母材樹脂により連通気孔間に形成され、連通気孔よりも断面積が大きい大径気孔とが備えられている。研磨加工に際して、圧力が加えられると、マイクロポンピング作用(加圧により研磨パッドが押しつけられて連通気孔内の研磨砥粒が大径気孔に向かって押し出される作用)により、連通気孔に内包された研磨砥粒が、連通気孔に連通する大径気孔内に移動して表層の大径気孔内に研磨砥粒が多数滞留し、ワークの下面に接触する作用砥粒が増加するため、研磨能率が高められる。このような作用は、セリア粒子等のいびつ(非球形)な形状で動きが困難である研磨砥粒の場合に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-025415号公報
【文献】特開2011-049256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び特許文献2に記載の砥粒内包型研磨パッドでは、研磨粒子を内包する長手状の連通気孔を形成するために母材樹脂は柱状(繊維状)であるため、研磨可能の能率を高めるためにワークの研磨圧力を高めると、母材樹脂の強度不足により研磨パッドが破損して研磨加工が困難となる場合があった。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、研磨能率を高めるためにワークの研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても、破損しない強度を有する砥粒内包型研磨パッドを提供することにある。
【0008】
本発明者は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、樹脂製の中空球体(マイクロバルーン)を砥粒内包型研磨パッド内に三次元的に配置し、それら中空球体を母材樹脂で結合し、それら中空球体間の連通空間に研磨砥粒を充填すると、母材樹脂で結合された中空球体が壁構造となるため、ワークの研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても、破損しない高強度を有する砥粒内包型研磨パッドが得られることを見出した。また、このような構造の砥粒内包型研磨パッドでは、研磨パッド内における中空球体は、その変形によりワークから受ける垂直方向の圧力を横方向の圧力に変換して研磨砥粒を研磨パッドの表層に押し出すことで、研磨面上の研磨砥粒を増加させ、研磨面に開口する中空球体内は、研磨砥粒が滞留して研磨パッドとワークとの間に研磨砥粒を供給する溜まり場となり、ワークに接触する作用砥粒が増加するため、研磨能率が高められることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、ワークの一面をCMP法を用いて研磨するために用いられる砥粒内包型高強度研磨パッドであって、樹脂製の中空球体と、前記中空球体を結合する母材樹脂と、前記中空球体間の連通空間に充填された研磨砥粒と、を備え、前記母材樹脂は親水性樹脂から構成され、前記中空球体は非親水性樹脂から構成されており、前記親水性樹脂は、ポリエチレングリコール系アクリル樹脂であることにある。
【0012】
発明の要旨とするところは、第発明において、前記母材樹脂の硬化前のポリエチレングリコール系アクリル樹脂のモノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートとジペンタエスリトールヘキサアクリレートとの組み合わせ樹脂であることにある。
【0013】
発明の要旨とするところは、第発明において、前記非親水性樹脂は、アクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂であることにある。
【0014】
発明の要旨とするところは、第1発明において、前記研磨砥粒は、セリア、酸化マンガン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄のうちの少なくとも1つであることにある。
【発明の効果】
【0015】
第1発明の砥粒内包型高強度研磨パッドによれば、樹脂製の中空球体(マイクロバルーン)が砥粒内包型研磨パッド内に三次元的に配置され、それら中空球体が母材樹脂で結合され、それら中空球体間の連通空間に研磨砥粒が充填される。これにより、母材樹脂で結合された中空球体が壁構造となるため、ワークの研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても、破損しない高強度を有する砥粒内包型高強度研磨パッドが得られる。また、このような構造の砥粒内包型高強度研磨パッドでは、研磨パッド内における中空球体は、その変形によりワークから受ける垂直方向の圧力を横方向の圧力に変換して研磨砥粒を研磨パッドの表層に押し出すことで、研磨面上の研磨砥粒を増加させ、研磨面に開口する中空球体内は、研磨砥粒が滞留して研磨パッドとワークとの間に研磨砥粒を供給する溜まり場となるので、ワークに接触する作用砥粒が増加するため、研磨能率が高められる。
また、母材樹脂は親水性樹脂から構成され、中空球体は非親水性樹脂から構成されているので、水性の研磨液が用いられる研磨加工中において、母材樹脂は軟化するが、中空球体は軟化しないので、高強度研磨パッドの強度が維持される。
さらに、親水性樹脂は、ポリエチレングリコール系アクリル樹脂であるので、水性研磨液を用いた研磨において、母材樹脂の適度な弾性が得られるので、ワークによる押圧の繰り返しにより、表層へ研磨砥粒を押し出すマイクロポンピング効果が好適に得られる。
【0018】
発明の砥粒内包型高強度研磨パッドによれば、母材樹脂の硬化前のポリエチレングリコール系アクリル樹脂のモノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートとジペンタエスリトールヘキサアクリレートとの組み合わせ樹脂である。これにより、母材樹脂の適度の硬さが得られるので、研磨レート及び研磨面粗さが好適に得られる。
【0019】
発明の砥粒内包型高強度研磨パッドによれば、中空球体を構成する非親水性樹脂は、アクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂である。これにより、水性研磨液による研磨中に中空球体が軟化することがなく、高負荷の研磨を行なっても破損しない高強度を有する砥粒内包型高強度研磨パッドが得られる。
【0020】
発明の砥粒内包型高強度研磨パッドによれば、研磨粒子は、セリア、酸化マンガン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄のうちの少なくとも1つである。特に、セリア等のいびつ(非球形)な形状である研磨砥粒でも、中空球体の繰り返しの弾性変形によるマイクロポンピング作用により、連通空間内の研磨砥粒が大径気孔に向かって押し出される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施例の砥粒内包型の研磨パッドが適用された研磨加工装置の構成を概念的に示す斜視図である。
図2図1の研磨加工装置の貼付円板の自転気孔を模式的に説明する平面図である。
図3図1の研磨加工装置に用いられている中空球体を有する研磨パッドの構成を説明するために断面を撮像したSEM写真図である。
図4図1の中空球体を有する研磨パッドの構成を模式的に説明する断面図である。
図5図1の中空球体を有する研磨パッドのマイクロポンピング作用を説明する模式図である。
図6図1の中空球体を有する研磨パッドの構成割合を、特許文献2の大径気孔を有する研磨パッドと対比して示す図である。
図7図1の砥粒内包型の研磨パッドにおいて、母材樹脂を構成する親水性樹脂の基本化学構造を示す図である。
図8図1の砥粒内包型の研磨パッドにおいて、母材樹脂を構成する親水性樹脂を構成する材料であるジペンタエスリトールヘキサアクリレート(モノマー)の化学構造を示す図である。
図9図1の砥粒内包型の研磨パッドにおいて、母材樹脂を構成する親水性樹脂を構成する材料であるPEG400#ジアクリレート(n=9)の化学構造を示す図である。
図10図1の砥粒内包型の研磨パッドにおいて、母材樹脂を構成する親水性樹脂を構成する材料であるPEG600#ジアクリレート(n=14)の化学構造を示す図である。
図11】本発明者等が行なった、ジペンタエスリトールヘキサアクリレートと、PEG400#ジアクリレート(n=9)又はPEG600#ジアクリレート(n=14)との組み合わせ割合と、研磨パッドの研磨可否評価結果とを示す図表である。
図12】研磨パッドの製造工程を説明する工程図である。
図13】本発明者等が行なった研磨荷重の異なる研磨試験で得られた研磨パッドの研磨試験中の研磨レートの変化を、特許文献2の研磨パッドと対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0023】
図1は、本発明の一実施例の砥粒内包型高強度研磨パッド(以下、研磨パッドという)18が適用された平面研磨装置10の要部を、ガイドローラ固定台28を取り外して観念的に示している。図1において、平面研磨装置10には、研磨定盤12が垂直な回転軸線C1まわりに回転可能に支持された状態で設けられており、その研磨定盤12は、定盤駆動モータ14により、図1に矢印で示す1回転方向へ一定の速度で回転駆動されるようになっている。この研磨定盤12の上面すなわちワーク(ガラス板や半導体基板)16の一面が押しつけられる面には、たとえば300mmφ程度の径を有する研磨パッド18が貼り着けられている。
【0024】
貼付円盤20の下面すなわち上記研磨パッド18と対向する面には、ワーク16が保持され、貼付円盤20によりワーク16が所定の荷重で研磨パッド18に押圧されるようになっている。また、平面研磨装置10の貼付円盤20の近傍には、滴下ノズル22が設けられており、研磨液供給装置24から送出された、砥粒を含まない研磨液(ルブリカント)26が上記研磨定盤12上に供給されるようになっている。ワーク16がガラス板である場合は、研磨液26には水が用いられる。
【0025】
なお、平面研磨装置10には、研磨定盤12の回転軸線C1に平行な回転軸線C1まわりに回転可能、かつ、その回転軸線C1の方向および研磨定盤12の径方向に移動可能に配置された図示しない調整工具保持部材と、その調整工具保持部材の下面すなわち研磨パッド18と対向する面に取り付けられた図示しないダイヤモンドホイールのような研磨体調整工具(ドレッサ又はコンディショナー)とが必要に応じて設けられている。この調整工具保持部材およびそれに取り付けられた研磨体調整工具は、図示しない調整工具駆動モータにより回転駆動された状態で研磨パッド18に押しつけられ、且つ研磨定盤12の径方向に往復移動させられることにより、研磨パッド18の研磨面の調整がおこなわれてその研磨パッド18の表面状態が研磨加工に適した状態に常時維持されるようになっている。
【0026】
図2に示されるように、研磨定盤12上の回転軸線C1から偏心した位置には、被研磨体であるワーク16を吸着、接着或いは保持枠等を用いて下面において保持する短円柱状の貼付円盤20の外周面が、図示しないフレームに固定された位置固定のガイドローラ固定台28に設けられた一対の遊転ガイドローラ30および駆動ガイドローラ32に受けられて、貼付円盤20が自転軸線C2まわりに自転可能とされている。貼付円盤20は研磨定盤12あるいは研磨パッド18の周速差に基づく回転力を受けて自転軸線C2まわりに自転させられつつ、たとえば錘(ウエイト)34による荷重で貼付円盤20が研磨定盤12上の研磨パッド18に押しつけられることで、ワーク16の研磨が行なわれるようになっている。
【0027】
平面研磨装置10による研磨加工に際しては、以下の研磨加工方法が適用される。すなわち、研磨定盤12およびそれに貼り着けられた研磨パッド18と、貼付円盤20およびその下面に保持されたワーク(シリコンウエーハ)16とが、定盤駆動モータ14および駆動ガイドローラ32によりそれぞれの回転軸線C1および自転軸線C2まわりに回転駆動された状態で、上記滴下ノズル22および図示しないスプレーノズルから、研磨砥粒を含まない研磨液26が研磨パッド18の表面上に供給されつつ、貼付円盤20に保持されたワーク16がその研磨パッド18に押しつけられる。これにより、ワーク16の被研磨面すなわち研磨パッド18に対向する面が、研磨パッド18内に内包されてその研磨パッド18内から自己供給された研磨砥粒36による機械的研磨作用によって、平坦に研磨される。ワーク16がガラス板である場合は、研磨砥粒36にはセリアが用いられる。
【0028】
研磨定盤12上に貼り着けられた研磨パッド18は、図3のSEM写真及び図4の模式図に示すように、研磨パッド18内に三次元的に配置された中空球体38を結合する母材樹脂40と、それら中空球体38間に母材樹脂40により形成された連通空間42内に充填された研磨砥粒36と、を備えている。中空球体(マイクロバルーン)38は、たとえばアクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂等の非親水性樹脂から中空に構成されている。中空球体38の粒径は、たとえば20μmφ~60μmφであり、研磨砥粒36の粒径は、たとえば6nmφ~1720nmφである。また、研磨砥粒36は、セリア、酸化マンガン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、のうちの少なくとも1つから選択される。図3において、38sは中空球体38の殻を示している。
【0029】
このように構成された中空球体38を有する研磨パッド18では、中空球体38が相互に近接した状態で結合されて比較的剛性の高い壁構造となるため、強度が高められている。このように、母材樹脂40で結合された中空球体38が壁構造となるため、ワーク16の研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても、破損しない高強度を有する研磨パッド18が得られる。また、図5に示すように、研磨パッド18内における中空球体38は、その弾性変形によりワーク16から受ける垂直方向の圧力を横方向の圧力に変換して研磨砥粒36を研磨パッド18の表層に押し出すことで、研磨面上の研磨砥粒36を増加させ、研磨面に開口する中空球体38内は、研磨砥粒36が滞留して研磨パッド18とワーク16との間に研磨砥粒36を供給する溜まり場となるので、ワーク16の下面に接触する作用砥粒が増加するため、高研磨能率に寄与する。
【0030】
母材樹脂40は、親水性樹脂たとえばポリエチレングリコール系アクリル樹脂から構成され、中空球体38は、非親水性樹脂たとえばアクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂から構成されている。水性の研磨液26が用いられる研磨加工中において、母材樹脂40は軟化するが、中空球体38は軟化しないので、高強度研磨パッドの強度が維持される。これにより、母材樹脂40の適度な軟化が得られるので、図5に示すように、研磨パッド18がワーク16から繰り返し押圧されると、中空球体38が横長形状に弾性変形して母材樹脂40の連通空間42に内包されていた研磨砥粒36が研磨パッド18の表層へ押し出されるマイクロポンピング効果が好適に得られる。
【0031】
本実施例の研磨パッド18は、たとえば図6に示す容積割合を備えている。図6は、特許文献2に記載の従来構造(連通気孔を有する多孔質の母材樹脂と、母材樹脂内に形成された長手状の連通気孔に内包された多数の研磨砥粒と、母材樹脂により連通気孔間に形成され、連通気孔よりも断面積が大きい大径気孔とを備える)の研磨パッドと対比して示している。本実施例の研磨パッド18は、特許文献2の大径気孔を有する研磨パッドと比較して、砥粒の容積はそれほどの差はないが、母材樹脂(PEG400#ジアクリレート(n=9)を使用)40の容積は特許文献2の研磨パッドの母材樹脂(PES樹脂)の容積に対して倍以上に大きく、中空球体38の容積は特許文献2の研磨パッドの大径気孔の容積に対して1.2倍程度にやや大きく、連通空間42の容積は特許文献2の研磨パッドの連通気孔の容積よりも1/3以下に小さく、デュロメータ硬度計で測定した研磨パッド18の硬度は特許文献2の研磨パッドの硬度よりもが1.5倍程度高い。
【0032】
母材樹脂40は、たとえば図7の化学構造を基本的に有するポリエチレングリコール系アクリル樹脂から構成されている。このポリエチレングリコール系アクリル樹脂のモノマーは、図8に示すジペンタエスリトールヘキサアクリレート(モノマー)と図9に示すPEG400#ジアクリレート(n=9)又は図10に示すPEG600#ジアクリレート(n=14)との組み合わせ樹脂である。本発明者による試験によれば、これらの組み合わせは、好適には、図11に示すように、ジペンタエスリトールヘキサアクリレートの割合が10vol%乃至20vol%が、好適である。ジペンタエスリトールヘキサアクリレートの割合が0vol%であると、母材樹脂40が膨潤し、ジペンタエスリトールヘキサアクリレートの割合が100vol%であると、母材樹脂40が硬くなり、いずれも研磨に適さない。
【0033】
図12は、研磨パッド18の製造工程を説明する工程図である。図12において、樹脂調合工程P1では、ジペンタエスリトールヘキサアクリレートの割合が10vol%乃至20vol%となるように、母材樹脂40の材料であるジペンタエスリトールヘキサアクリレートとPEG400#ジアクリレート(n=9)とが調合され、且つ混合される。次いで、重合開始剤混合工程P2では、重合開始剤AIBNが調合された樹脂に混合され、続く樹脂攪拌工程P3において、重合開始剤AIBNと調合樹脂とが攪拌される。次に、砥粒混合工程P4では、研磨砥粒(セリア)36が投入されて攪拌された後、中空球体混合工程P5において、中空球体38が投入されて攪拌され、スラリーの状態とされる。次に、成形工程P6では、鋳込み成形方式又はドクターブレード方式を用いて所定厚みの板状に成形される。そして、硬化工程P7では、加熱により樹脂の重合を促進し、所定厚みに成形されたスラリーの硬化が行なわれる。
【0034】
(実験例)
以下において、本発明者が研磨パッド18を用いて研磨試験条件下で行なった、研磨パッド18に対するワーク16の押圧荷重をパラメータとした、研磨パッド18の研磨レートPR(μm/min)の経時変化を測定する研磨試験を説明する。
【0035】
(研磨試験条件)
装置:380mmφ片面研磨機
ワーク:合成石英(100mmφ×1mmt)〔1枚〕
定盤回転数:60rpm
ワーク回転数:60rpm
試験時間:300min
研磨液:水(市水)(10ml/min)
ドレッサ:ダイヤペレット(#400)研磨試験前に2分間実施
研磨パッド:砥粒内包型高強度研磨パッド(砥粒:平均一次粒子径27nmφ〔レーザー式粒度分布測定器測定値 粒子径D10=6nmφ、D50=0.78nmφ、D90=1.72nmφ〕 セリア17.9vol%、中空球体:平均粒子外径40μmφ アクリル樹脂 34.2vol%、母材樹脂:ポリエチレングリコール系アクリル樹脂 36.4vol%、硬度:60.5(デュロメータ硬度Type-D))
【0036】
図12は、特許文献2に記載の従来構造の砥粒内包型研磨パッド、及び本実施例の砥粒内包型高強度研磨パッド(研磨パッド18)を用いて、上記研磨条件下において、それぞれ2種類の研磨荷重(20kPa、40kPa)で研磨した場合に得られた研磨レートPR(μm/min)の経時的に測定した値をそれぞれ示している。図12では、特許文献2に記載の従来構造の砥粒内包型研磨パッドを研磨荷重が20kPa及び40kPaで用いた場合の研磨レートPRが△印及び▲印で示されている。また、本実施例の砥粒内包型高強度研磨パッドを研磨荷重が20kPa及び40kPaで用いた場合の研磨レートPRが○印及び●印で示されている。図12によれば、研磨荷重が20kPaである場合は、従来構造の砥粒内包型研磨パッドの研磨レートPRと本実施例の砥粒内包型高強度研磨パッドの研磨レートPRとの間には、それほどの差異がなかった。しかし、研磨荷重が40kPaである場合は、従来構造の砥粒内包型研磨パッドの研磨レートPRは、研磨荷重が20kPaである場合よりも高い値が得られたものの、研磨時間が30minで研磨パッドが破損した。これに対して、本実施例の砥粒内包型高強度研磨パッドでは、研磨荷重が20kPaである場合に比較して1.8倍程度の研磨レートPRが研磨時間300minを経過するまで得られた。すなわち、本実施例の砥粒内包型高強度研磨パッドによれば、高負荷、高能率の研磨が可能となった。
【0037】
上述のように、本実施例の研磨パッド18によれば、樹脂製の中空球体(マイクロバルーン)38が研磨パッド18内に三次元的に配置され、それら中空球体38は母材樹脂40で結合され、それら中空球体38間の連通空間42内に研磨砥粒36が充填されている。これにより、母材樹脂40で結合された中空球体38が壁構造となるため、ワーク16の研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても破損しない高強度を有する砥粒内包型高強度研磨パッド18が得られる。また、このような構造の砥粒内包型高強度研磨パッド18では、研磨パッド18内における中空球体38は、その変形によりワーク16から受ける垂直方向の圧力を横方向の圧力に変換して研磨砥粒36を研磨パッド18の表層に押し出すことで、研磨面上の研磨砥粒36を増加させ、研磨面に開口する中空球体38内は、研磨砥粒36が滞留して研磨パッド18とワーク16との間に研磨砥粒36を供給する溜まり場となるので、ワーク16に接触する作用砥粒36aが増加し、研磨レートPRが高められる。
【0038】
本実施例の研磨パッド18によれば、母材樹脂40は親水性樹脂から構成され、中空球体38は非親水性樹脂から構成されている。このため、水性の研磨液26が用いられる研磨加工中において、母材樹脂40は軟化するが、中空球体38は軟化しないので、研磨パッド18の強度が維持される。
【0039】
本実施例の研磨パッド18によれば、母材樹脂40は、ポリエチレングリコール系アクリル樹脂であるので、水性の研磨液26を用いた研磨において、母材樹脂40の適度な弾性が得られるので、ワーク16による押圧の繰り返しにより、表層へ研磨砥粒36を押し出すマイクロポンピング効果が好適に得られる。
【0040】
本実施例の研磨パッド18によれば、母材樹脂40の硬化前のポリエチレングリコール系アクリル樹脂のモノマーは、ポリエチレングリコールジアクリレートとジペンタエスリトールヘキサアクリレートとの組み合わせ樹脂である。これにより、母材樹脂40の適度の硬さが得られるので、研磨レートPR及び研磨面粗さが好適に得られる。
【0041】
本実施例の研磨パッド18によれば、中空球体38を構成する非親水性樹脂は、アクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂である。これにより、水性の研磨液26による研磨中に中空球体38が軟化することがなく、高負荷の研磨を行なっても破損しない高強度を有する研磨パッド18が得られる。
【0042】
本実施例の研磨パッド18によれば、研磨砥粒36は、セリア、酸化マンガン、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化鉄のうちの少なくとも1つである。特に、セリア粒子等のいびつ(非球形)な形状である研磨砥粒36でも、中空球体38の繰り返しの弾性変形によるマイクロポンピング作用により、連通空間42内の研磨砥粒36が大径気孔に向かって押し出される。
【0043】
以上、本発明の一実施例を説明したが、本発明は他の態様においても適用される。
【0044】
たとえば、前述の実施例の平面研磨装置10では、研磨液26は水性であったが、有機アミンと水、又は、有機アミン及びアルカリ剤と水から成る研磨液であっても差し支えない。
【0045】
また、母材樹脂40には、ポリエチレングリコール系アクリル樹脂が用いられていたが、他の親水性樹脂、たとえば親水基を有するPES樹脂、硬質発泡ポリウレタン樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール(分子量1000以上)、ポリエステル、ポリオレフィン系樹脂、無発泡ポリウレタン、PVAであっても差し支えない。
【0046】
また、中空球体38には、アクリル樹脂又は塩化ビニリデン樹脂が用いられていたが、他の非親水性樹脂であっても差し支えない。
【0047】
その他一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて用いられるものである。
【符号の説明】
【0048】
16:ワーク、18:研磨パッド(砥粒内包型高強度研磨パッド)、36:研磨砥粒、38:中空球体、40:母材樹脂、42:連通空間
【要約】
【課題】研磨能率を高めるためにワークの研磨圧力を高めて研磨を行なっても、破損しない強度を有する研磨パッドを提供する。
【解決手段】樹脂製の中空球体38が研磨パッド18内に三次元的に配置され、それら中空球体38は母材樹脂40で結合され、それら中空球体38間の連通空間42内に研磨砥粒36が充填されている。これにより、母材樹脂40で結合された中空球体38が壁構造となるため、ワーク16の研磨圧力を高めて高負荷の研磨を行なっても破損しない強度を有する研磨パッド18が得られる。また、この研磨パッド18では、研磨パッド18内における中空球体38は、その変形によりワーク16から受ける垂直方向の圧力を横方向の圧力に変換して研磨砥粒36を研磨パッド18の表層に押し出すことで、研磨面上の研磨砥粒36を増加させるので、ワーク16に接触する作用砥粒36aが増加し、研磨レートPRが高められる。
【選択図】図3
図1
図2
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図10
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図12
図13