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特許7604704ポリスチレン系プラスチック分解菌、それを用いた懸濁液および発酵培養液ならびにプラスチック分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-13
(45)【発行日】2024-12-23
(54)【発明の名称】ポリスチレン系プラスチック分解菌、それを用いた懸濁液および発酵培養液ならびにプラスチック分解方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241216BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/20 F
【請求項の数】 8
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079899
(22)【出願日】2024-05-16
【審査請求日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】202310784776.6
(32)【優先日】2023-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】GDMCC  GDMCC 63428
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522025488
【氏名又は名称】広東省科学院微生物研究所(広東省微生物分析検測中心)
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】許 ▲メイ▼英
(72)【発明者】
【氏名】甘 翠芬
(72)【発明者】
【氏名】周 少鋒
(72)【発明者】
【氏名】梁 銀秀
(72)【発明者】
【氏名】黄 友達
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/285738(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第113717898(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
B09B 1/00 - 5/00
C12P 1/00 - 41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄託番号GDMCC No:63428である、バチルス・アリャバタイRed22。
【請求項2】
請求項1に記載のバチルス・アリャバタイRed22を有効成分として含有する、ことを特徴とするポリスチレン系プラスチックを分解するための懸濁液または発酵培養液
【請求項3】
ポリスチレン系プラスチック分解における、請求項1に記載のバチルス・アリャバタイRed22または請求項2に記載の懸濁液もしくは発酵培養液の使用。
【請求項4】
前記分解は、ポリスチレン系プラスチックを唯一の炭素源として増殖し、プラスチック表面に定着し、プラスチックを徐々に分解することによって行われる、ことを特徴とする請求項3に記載の使用。
【請求項5】
請求項1に記載のバチルス・アリャバタイRed22をポリスチレン系プラスチックと共培養する、ことを特徴とするポリスチレン系プラスチックを分解する方法。
【請求項6】
前記ポリスチレン系プラスチックは、ポリスチレンの粒子、または薄膜、または粉末である、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バチルス・アリャバタイRed22がポリスチレン系プラスチックを含有する液体に接種され、OD600が1.0~1.8であるバチルス・アリャバタイRed22発酵培養液を得る、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記共培養は、その培養条件が、温度:25℃~37℃、振盪培養回転数:150~220rpmである、ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物応用の技術分野に関し、具体的には、ポリスチレン系プラスチック分解菌およびそれを用いたプラスチック分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な工業生産と農業生産の急速な発展及び人間生活の必要性に伴い、プラスチック製品の生産量は年々増加しているが、毎年約10%しかリサイクルできず、残りは焼却または埋設され、風化分解されて微小な破片となって拡散・移動し、土壌や河川・海洋に広く分布している。プラスチックの大きさが5mm以下になるとマイクロプラスチックとなり、生物の免疫反応を阻害し、不妊症、肥満、がんなどの病気のリスクを高める難分解性汚染物質として食物連鎖を通じて蓄積される。
【0003】
食品業界やリフォーム業界で広く使用されているポリスチレン(PS)は、化学的に安定で自然環境からの除去が困難なため、世界的に見ても汚染度の高いプラスチックのひとつである。焼却や熱分解などの処理方法と比較して、微生物によるその場分解法は、温和な条件、簡便さ、環境への優しさから、ポリスチレン系プラスチックの汚染問題を解決する重要な手段となる。PSは微生物によって分解され得るが、PSを分解する機能性細菌株の資源はほとんど同定されておらず、関連する機能性菌株の発見を増やし、PSの新規微生物処理法を確立することが急務である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック分解機能性細菌株の資源が少なく、ガバナンス方法が欠如している現状に鑑み、本発明の目的は、ポリスチレン系プラスチック汚染問題を解決するための細菌株資源及び技術手段を提供するための、ポリスチレン系プラスチック分解菌およびそれを用いたプラスチック分解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリスチレン系プラスチック分解菌は、2023年5月8日に広東省微生物菌株寄託センター(GDMCC、住所:広東省広州市越秀区先烈中路100号大院59号ビル、郵便番号:510070)に寄託された、寄託番号GDMCC No:63428のバチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)Red22である。
【0006】
本発明の第2目的は、上記バチルス・アリャバタイRed22を有効成分として含有する、ポリスチレン系プラスチックを分解するバクテリオファージを提供することである。
【0007】
本発明の第3目的は、ポリスチレン系プラスチック分解における、上記バチルス・アリャバタイRed22の用途を提供することである。
【0008】
好ましくは、前記分解は、ポリスチレン系プラスチックを唯一の炭素源として増殖し、プラスチック表面に定着し、プラスチックを徐々に分解することによって行われる。
【0009】
本発明の第4目的は、上記バチルス・アリャバタイRed22をポリスチレン系プラスチックと共培養する、ポリスチレン系プラスチックを分解する方法を提供することである。
【0010】
好ましくは、前記分解されるプラスチックは、ポリスチレンの粒子、または薄膜、または粉末である。
【0011】
好ましくは、前記ポリスチレン系プラスチックは異なる水域でバチルス・アリャバタイRed22によって分解される。
【0012】
好ましくは、前記バチルス・アリャバタイRed22は、バチルス・アリャバタイRed22発酵液であり、そのOD600は1.0~1.8であり、ポリスチレン系プラスチックを含有する液体に接種される場合、その接種量は1%~10%v/vである。
【0013】
好ましくは、前記共培養は、その培養条件が、温度:25℃~37℃、振盪培養回転数:150~220rpmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、環境土壌に埋設されたプラスチック廃棄物からポリスチレン系プラスチック分解菌を篩い分け、単離し、これをプラスチックの分解に利用するものである。微生物は土壌中に広く存在し、培養が簡単で、活性が高く、環境に優しいという特徴を有し、ポリスチレン系プラスチックを分解する際にプラスチック表面に定着し、徐々に分解することができる。一定時間分解培養後、Red22によるポリスチレン系プラスチックの重量減少率が7.3%に達し、さらに、走査型電子顕微鏡、フーリエ変換赤外分光法および接触角測定などの分析の結果から分かるように、分解されたポリスチレン系プラスチック表面に明らかな溝とピットが観察され、分解されたポリスチレン系プラスチックの化学構造が変化し、親水基が増加し、分子量が減少し、この細菌の分解効果が明らかであることが証明された。本発明によって提供されるポリスチレン系プラスチック分解菌Red22は異なる環境の実際の水域でも明らかな分解能力を有するため、Red22菌が良好な環境適応性を有し、ポリスチレン系プラスチックの生物分解に新しい資源を提供し、比較的良好な応用が見込まれる。
【0015】
Priestia aryabhattai Red22は、2023年5月8日に広東省微生物菌株寄託センター(GDMCC、住所:広東省広州市越秀区先烈中路100号大院59号ビル、郵便番号:510070、)に寄託され、寄託番号GDMCC No:63428である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例3に記載のRed22菌がポリスチレン系プラスチックシートを45日間分解した後ポリスチレン系プラスチックシート表面上の増殖状況のレーザ共焦点顕微鏡の比較図である。左図は対照群であり、右図はRed22菌の処理群である。
図2】本発明の実施例3に記載のポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって45日間分解された後の質量減少図である。
図3】本発明の実施例3に記載のポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって45日間分解された後のSEM比較図である。左図は対照群であり、右図はRed22菌の処理群である。
図4】本発明の実施例3に記載のポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって45日間分解された後のFTIR変化図である。
図5】本発明の実施例3に記載のポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって45日間分解された後の接触角変化図である。
図6】本発明の実施例3に記載のポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって45日間分解された後の分子量変化図である。
図7】本発明の実施例4に記載のポリスチレン系プラスチックが異なる実際の水域でRed22菌によって50日間分解された後の質量減少図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例に関連して本発明をさらに説明する。実施例は、本発明を例示的に説明するために使用され、本発明を何ら限定するものではない。
【0018】
実施例1
1、ポリスチレン系プラスチック分解株の単離精製と同定:
(1)ポリスチレン系プラスチック分解株の単離精製:土壌に埋設されたプラスチック廃棄物を減菌水で軽く洗浄した後、小片に切断し、減菌三角フラスコに入れ、生理食塩水とガラスビーズを加え、30℃のシェーカーに置いて200rpm回転数で6時間振盪培養し、菌懸濁液を調製した。菌懸濁液を体積比10%の接種量で紫外線減菌したポリスチレン粉末(2g/L)を含有するカーボンフリーミネラル塩培地に移し、18%のグリセロールを加え、30℃のシェーカー180rpm回転数で15日間振盪培養し、定期的にサンプリングしてOD600値を測定し、培養系が濁った後、カーボンフリーのポリスチレン粉末(2g/L)を含有するミネラル塩培地に移し、培養を3回繰り返した。増殖の速い培養系を選択して勾配希釈(10-3~10-6)を行い、希釈コートプレート法(LBプレート)により菌株を単離し、数回スクライビング・精製して黄白色の純粋な菌株を単離し、red22と命名した。単離した菌株をスラント培地とグリセロールチューブを用いて保存した。
【0019】
前記単離でスクリーニングされたカーボンフリーミネラル塩培地は、NaHPO:0.52g、KHPO・3HO:0.50g、NHCl:1.5g、CaCl:0.03g、MgSO・7HO:0.8g、FeSO・7HO:0.01g、ZnSO・7HO:0.02g、CuSO・5HO:0.02g、MnSO・HO:0.006gを1Lの水に溶解し、均一に混合し、減菌して得た。
【0020】
(2)ポリスチレン系プラスチック分解株の同定:単離したRed22菌株のDNAを抽出し、上海生工生物工程股▲ふん▼有限公司にDNA塩基配列決定を委託した。16S rRNA増幅はブロードスペクトラムプライマー27F:AGAGTTTGATCCTGGCTCAG、および1492R:TACGGYTACCTTGTTAYGACTTを採用した。同定結果から分かるように、Red22菌株はバチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)であり、バチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)Red22と命名された。本発明で使用されるポリスチレン系プラスチック分解株は本発明で使用される野外単離株に限定されるものではない。
【0021】
バチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)Red22は、2023年5月8日に広東省微生物菌株寄託センター(GDMCC、住所:広州市先烈中路100号大院59号ビル5楼、広東省科学院微生物研究所、郵便番号:510070)に寄託され、寄託番号:GDMCC No:63428である。
【0022】
この菌株16S rRNA遺伝子配列は以下に示される:
GTACCTTGACGGTACCTAACCAGAAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTATCCGGAATTATTGGGCGTAAAGCGCGCGCAGGCGGTTTCTTAAGTCTGATGTGAAAGCCCACGGCTCAACCGTGGAGGGTCATTGGAAACTGGGGAACTTGAGTGCAGAAGAGAAAAGCGGAATTCCACGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGAGATGTGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGGCTTTTTGGTCTGTAACTGACGCTGAGGCGCGAAAGCGTGGGGAGCAAACAGGATTAGATACCCTGGTAGTCCACGCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTAGAGGGTTTCCGCCCTTTAGTGCTGCAGCTAACGCATTAAGCACTCCGCCTGGGGAGTACGGTCGCAAGACTGAAACTCAAAGGAATTGACGGGGGCCCGCACAAGCGGTGGAGCATGTGGTTTAATTCGAAGCAACGCGAAGAACCTTACCAGGTCTTGACATCCTCTGACAACTCTAGAGATAGAGCGTTCCCCTTCGGGGGACAGAGTGACAGGTGGTGCATGGTTGTCGTCAGCTCGTGTCGTGAGATGTTGGGTTAAGTCCCGCAACGAGCGCAACCCTTGATCTTAGTTGCCAGCATTTAGTTGGGCACTCTAAGGTGACTGCCGGTGACAAACCGGAGGAAGGTGGGGATGACGTCAAATCATCATGCCCCTTATGACCTGGGCTACACACGTGCTACAATGGATGGTACAAAGGGCTGCAAGACCGCGAGGTCAAGCCAATCCCATAAAACCATTCTCAGTTCGGATTGTAGGCTGCAACTCGCCTACATGAAGCTGGAATCGCTAGTAATCGCGGATCAGCATGCCGCGGTGAATACGTTCCCGGGCCTTGTACACACCGCCCGTCACACCACGAGAGTTTGTAACACCCGAAGTCGGTGGAGTAACCGTAAGGAGCTAGCCGCCTAAGGTGGGACAGATGATTGGGGTGAAGTCGTAACAAGGTAGCCGTATCGGAAGGTGCGGCTGGATCACCT
【0023】
実施例2
1、ポリスチレン系プラスチック分解菌Red22によるポリスチレン系プラスチックシートの分解は、以下のステップを含む:
(1)ポリスチレン系プラスチックシートの調製:プラスチックの特徴評価を容易にし、回収後の秤量を精度よくするために、本実験ではポリスチレン系プラスチックシートを用いて分解実験を行った。購入した純粋なポリスチレン粉末をキシレンに加え(3g/mL)、機械攪拌した後一晩放置して溶解させ、均一に攪拌した後5mL透明液体を90mmのガラスシャーレに平らに広げて36時間硬化させ、その後成膜したポリスチレン薄膜を0.5×0.5mmの小片に切断し、それぞれ75%エタノールと減菌水で洗浄して自然乾燥した。
【0024】
(2)菌株の活性化:ポリスチレン系プラスチック分解菌-バチルス・アリャバタイRed22をLB寒天プレートに接種し、30℃で24時間培養し、コロニーを成熟させた。
【0025】
(3)シード培養:活性化後のバチルス・アリャバタイRed22のシングルコロニーを10mLのLB液体培地に接種して恒温振盪培養し、30℃、180rpm下で16時間、恒温振盪培養してシード液を得た。
【0026】
(4)発酵培養:シード培養液を体積比2%の接種量でLB液体培地に接種して恒温振盪培養し、30℃、180rpm下で16時間、恒温振盪培養した。発酵培養後で得られた菌懸濁液を6000×gの遠心力で5分間遠心し、菌体沈殿を収集し、PBS緩衝液で2回洗浄した。沈殿をカーボンフリーミネラル塩培地に再懸濁し、再懸濁菌液OD600値を1.5に調整した。
【0027】
(5)バチルス・アリャバタイRed22によるポリスチレンの分解:0.5×0.5mmのポリスチレン系プラスチックシートを秤量した後、ウルトラクリーンベンチ内で75%エタノールに1時間浸漬して減菌し、取り出してウルトラクリーンベンチ中の減菌気流で表面液体を揮発させた。大きい試験管に15mLのカーボンフリーミネラル塩培地と表面減菌後のポリスチレン系プラスチックシート(約0.01g/mL)を加え、10%(v/v)の接種量で上記収集したバチルス・アリャバタイRed22再懸濁液を接種した。非接種処理を対照群とし、各処理について6つの並行サンプルを設定した。上記試験管を30℃、180rpmの恒温振盪インキュベーターに入れて培養し、定期的にサンプリングしてポリスチレン系プラスチックシートの質量減少、表面形態変化、官能基変化およびその表面の疎水性変化などを分析した。
【0028】
実施例3
バチルス・アリャバタイRed22によるポリスチレン系プラスチックシートの分解効果:
(1)ポリスチレン系プラスチック表面におけるバチルス・アリャバタイRed22の増殖状況:バチルス・アリャバタイRed22でポリスチレン系プラスチックシートを45日間分解した後、3枚のポリスチレン系プラスチックシートを取り出した直後PBS緩衝液で軽く1回洗浄し、その後細菌を死活プローブ色素で染色し、レーザ共焦点顕微鏡でポリスチレン系プラスチックシート表面のRed22菌株の増殖状況を撮影した。図1から分かるように、バチルス・アリャバタイRed22はポリスチレン系プラスチックシート表面に均一に定着して生物膜を形成した。45日間培養分解した後でもバチルス・アリャバタイRed22の活性は比較的良好で、ほとんどの細胞が生きていた。これは、菌株Red22が、ポリスチレン系プラスチックが作り出す生存環境に適応し、正常に増殖できることを示す。バチルス・アリャバタイRed22はポリスチレン系プラスチック表面に付着し、それを炭素源として増殖する同時にポリスチレンを分解することができる。
【0029】
(2)ポリスチレン系プラスチックシートの質量減少試験:バチルス・アリャバタイRed22でポリスチレンを45日間分解した後、試験管内のすべてのポリスチレン系プラスチックシートを濾過して収集し、まず2%のSDS洗浄液で1時間超音波洗浄した後、75%無水エタノールで20分間超音波洗浄し、ポリスチレン系プラスチックシート表面の生物膜を除去した後、減菌水で2回洗浄し、最後に洗浄したポリスチレン系プラスチックシートを50℃の真空オーブンに入れて12時間乾燥させた。乾燥後のポリスチレン系プラスチックシートを秤量し、その重量減少率を計算した。ポリスチレン系プラスチックシートの重量減少率(%)=(ポリスチレンの初期質量-分解後質量)÷初期質量×100%である。図2の重量減少率データから分かるように、菌株Red22でポリスチレン系プラスチックシートを45日間分解した後、プラスチックシートの重量減少率が7.3%に達した。非接種の対照群の重量減少率は2.2%にとどまり、これは、バチルス・アリャバタイRed22がポリスチレン系プラスチックシートを炭素源としてポリスチレン系プラスチックシートを分解することを示す。
【0030】
(3)バチルス・アリャバタイRed22によるポリスチレン分解後の表面形態変化:分解されたポリスチレン系プラスチックシートを洗浄および乾燥した後、走査型電子顕微鏡(SEM)でその表面形態を観察した結果が図3に示されている。Red22菌によって45日間分解された後のポリスチレン系プラスチックシートの表面に明らかな不規則な溝やビットが見られたが、非接種の対照群のポリスチレン系プラスチックシートの表面は比較的平滑であった。表面で増殖中、菌株Red22はポリスチレンを唯一の炭素源として、プラスチックシートを侵食し、その表面構造を破壊し、ポリスチレン系プラスチックシートに明らかな分解作用をもたらすことができる。
【0031】
(4)ポリスチレン分解後の表面官能基変化:フーリエ変換赤外分光法(FTIR)で菌株Red22によるポリスチレン系プラスチックシート分解前後の表面官能基変化を測定した。スペクトル測定範囲は400~4000cm-1である。結果が図4に示され、分解前のポリスチレン系プラスチックシートと比較すると、バチルス・アリャバタイRed22によって分解されたポリスチレン系プラスチックシートでは3400~3700cm-1に新しい特徴ピークが現れ、これはO-H結合の伸縮振動ピークである。分解されたポリスチレン系プラスチックシートでは1750cm-1に新しい特徴ピークが現れ、これはC=O結合の伸縮振動ピークである。ポリスチレン系プラスチックシートがRed22菌によって分解・酸化され、水酸基やカルボニル基などの活性官能基が生成されたものと考えられ、ポリスチレン系プラスチックシートがRed22によって処理された後、表面が明らかに分解し、いくつかの高分子が部分的に解重合または鎖切断などを起こし、新しい酸化生成物を生成した。
【0032】
(5)ポリスチレン分解後の表面疎水性変化:バチルス・アリャバタイRed22によって分解されたポリスチレン系プラスチックシートを洗浄・乾燥した後、光学接触角計でポリスチレン系プラスチックシート表面の水滴の接触角を測定した。測定する際に、両面テープでポリスチレン系プラスチックシートをスライドに平らに貼り付け、マイクロシリンジで10μL滴下し、各試料について3点ずつ試験し、平均値をとった。接触角試験結果は図5に示され、分解前のポリスチレン系プラスチックシートの接触角は89.62°±1.51°であり、バチルス・アリャバタイRed22によって分解されたポリスチレン系プラスチックシートの水接触角が77.84°±1.13°に減少した。これは、分解後のポリスチレン系プラスチックシートの表面疎水性が顕著に低下したことを示し、FTIRの結果と併せて、分解されたポリスチレン系プラスチックシート表面に親水性の官能基が生成し、さらに、バチルス・アリャバタイRed22はポリスチレンに対して高い分解能力を有することが示された。
【0033】
(6)ポリスチレン分解前後の分子量変化:ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)でバチルス・アリャバタイRed22によるポリスチレン系プラスチック分解前後の分子量変化を測定した結果が図6に示されている。Red22菌によって分解されたポリスチレン系プラスチックの質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、分解前よりも低く、分解された分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は分解前よりも高かった。PDI値が高いほど、ポリマーの分子量分布が広く、解重合度が高いので、バチルス・アリャバタイRed22がポリスチレンに対して高い分解能力を有し、ポリスチレンの長鎖を炭素鎖の短い生成物に分解することができることが示された。
【0034】
実施例4
バチルス・アリャバタイRed22が異なる実際の水域でポリスチレン系プラスチックを分解する効果:
(1)バチルス・アリャバタイRed22が異なる実際の水域でポリスチレン系プラスチックを分解するステップ:0.5×0.5mmのポリスチレン系プラスチックシートを秤量した後ウルトラクリーンベンチ内で75%エタノールに1時間浸漬減菌し、取り出してウルトラクリーンベンチ内の減菌気流で表面液体を揮発させた。大きい試験管に15mLの異なるタイプの実際の水域(浄水場の上流水と汚れた河川の湧水)と表面減菌後のポリスチレン系プラスチックシート(約0.01g/mL)を加え、10%(v/v)の接種量で実施例2のバチルス・アリャバタイRed22発酵培養液を接種した。Red22菌を接種しない処理を対照群とし、各処理について6つの並行サンプルを設定した。上記試験管を30℃、180rpmの恒温振盪インキュベーターに入れて培養し、定期的にサンプリングしてポリスチレン系プラスチックシートの質量減少、表面形態変化およびその表面の疎水性変化などを分析した。
【0035】
(2)ポリスチレン系プラスチックシートが異なる水域でバチルス・アリャバタイRed22によって分解された後の質量減少試験:バチルス・アリャバタイRed22が異なる実際の水域でポリスチレンを50日間分解した後、試験管中のすべてのポリスチレン系プラスチックシートを濾過して収集し、まず2%のSDS洗浄液で1時間超音波洗浄した後、75%無水エタノールで20分間、超音波洗浄し、ポリスチレン系プラスチックシート表面の生物膜を除去した後、減菌水で2回洗浄し、最後に洗浄したポリスチレン系プラスチックシートを50℃の真空オーブンに入れて12時間乾燥させた。乾燥後のポリスチレン系プラスチックシートを秤量し、その重量減少率を計算した。ポリスチレン系プラスチックシートの重量減少率(%)=(ポリスチレンの初期質量-分解後質量)÷初期質量×100%である。図6の重量減少率データから分かるように、バチルス・アリャバタイRed22がきれいな浄水場の上流水においてポリスチレン系プラスチックシートを50日間分解した後では、プラスチックシートの重量減少率が4.1%に達したのに対し、非接種の対照群の重量減少率は1.7%にとどまった。バチルス・アリャバタイRed22が汚れた河川の湧水においてポリスチレン系プラスチックシートを50日間分解した後では、プラスチックシートの重量減少率が4.7%に達したのに対し、非接種の対照群の重量減少率が1.9%にとどまった。これにより、菌株Red22が比較的きれいな水でも汚れた水でもポリスチレン系プラスチックを分解できたことが証明され、さらに、菌株Red22が良好な環境適応性を有し、異なる実際な環境でポリスチレン系プラスチックを分解できることが示された。
【0036】
(付記)
(付記1)
寄託番号GDMCC No:63428である、バチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)Red22。
【0037】
(付記2)
付記1に記載のバチルス・アリャバタイRed22を有効成分として含有する、ことを特徴とするポリスチレン系プラスチックを分解するバクテリオファージ。
【0038】
(付記3)
ポリスチレン系プラスチック分解における、付記1に記載のバチルス・アリャバタイRed22または付記2に記載のバクテリオファージの用途。
【0039】
(付記4)
前記分解は、ポリスチレン系プラスチックを唯一の炭素源として増殖し、プラスチック表面に定着し、プラスチックを徐々に分解することによって行われる、ことを特徴とする付記3に記載の用途。
【0040】
(付記5)
付記1に記載のバチルス・アリャバタイRed22をポリスチレン系プラスチックと共培養する、ことを特徴とするポリスチレン系プラスチックを分解する方法。
【0041】
(付記6)
前記ポリスチレン系プラスチックは、ポリスチレンの粒子、または薄膜、または粉末である、ことを特徴とする付記5に記載の方法。
【0042】
(付記7)
前記ポリスチレン系プラスチックは異なる水域でバチルス・アリャバタイRed22によって分解される、ことを特徴とする付記5に記載の方法。
【0043】
(付記8)
前記バチルス・アリャバタイRed22は、バチルス・アリャバタイRed22発酵液であり、そのOD600は1.0~1.8であり、ポリスチレン系プラスチックを含有する液体に接種される場合、その接種量は1%~10%v/vである、ことを特徴とする付記5に記載の方法。
【0044】
(付記9)
前記共培養は、その培養条件が、温度:25℃~37℃、振盪培養回転数:150~220rpmである、ことを特徴とする付記5に記載の方法。
【要約】      (修正有)
【課題】ポリスチレン系プラスチック分解菌およびそれを用いたプラスチック分解方法を提供する。
【解決手段】バチルス・アリャバタイ(Priestia aryabhattai)Red22は、2023年5月8日に広東省微生物菌株寄託センターに寄託されており、寄託番号GDMCC No:63428である。本発明によって提供されるポリスチレン系プラスチック分解菌-バチルス・アリャバタイRed22は、異なる環境の実際の水域でも明らかな分解能力を有するため、Red22菌が良好な環境適応性を有し、ポリスチレン系プラスチックの生物分解に新しい資源を提供し、比較的良好な応用が見込まれる。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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